(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002743
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】農作物の生産方法および土壌の生産方法
(51)【国際特許分類】
A01G 7/06 20060101AFI20231228BHJP
C09K 17/14 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
A01G7/06 A
C09K17/14 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022102134
(22)【出願日】2022-06-24
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100087723
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206357
【弁理士】
【氏名又は名称】角谷 智広
(72)【発明者】
【氏名】堀 勝
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 博司
(72)【発明者】
【氏名】水野 正明
【テーマコード(参考)】
2B022
4H026
【Fターム(参考)】
2B022EA01
4H026AA07
(57)【要約】
【課題】 農作物を生育する上で好ましい土壌を利用しつつ農作物を生産することが可能な農作物の生産方法および土壌の生産方法を提供することである。
【解決手段】 この農作物の生産方法は、乳酸ナトリウム水溶液に大気圧プラズマを照射してプラズマ活性化乳酸ナトリウム水溶液を製造し、プラズマ活性化乳酸ナトリウム水溶液を土壌に供給し、土壌の細菌数を増加させながら土壌で農作物を生長させる。また、この農作物の生産方法においては、農作物を生長させながら前記土壌の可給態リン酸を増加させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸ナトリウム水溶液に大気圧プラズマを照射してプラズマ活性化乳酸ナトリウム水溶液を製造し、
前記プラズマ活性化乳酸ナトリウム水溶液を土壌に供給し、
前記土壌の細菌数を増加させながら前記土壌で農作物を生長させること
を含む農作物の生産方法。
【請求項2】
請求項1に記載の農作物の生産方法において、
前記農作物を生長させながら前記土壌の可給態リン酸を増加させること
を含む農作物の生産方法。
【請求項3】
土壌から生長する途中の農作物に大気圧プラズマを照射し、
前記土壌の細菌数を増加させながら前記土壌で前記農作物を生長させること
を含む農作物の生産方法。
【請求項4】
乳酸ナトリウム水溶液に大気圧プラズマを照射してプラズマ活性化乳酸ナトリウム水溶液を製造し、
前記プラズマ活性化乳酸ナトリウム水溶液を土壌に供給し、
前記土壌で農作物を生長させながら前記土壌の細菌数を増加させること
を含む土壌の生産方法。
【請求項5】
乳酸ナトリウム水溶液を土壌に供給し、
前記土壌で農作物を生長させながら前記土壌の細菌数を増加させること
を含む土壌の生産方法。
【請求項6】
土壌から生長する途中の農作物に大気圧プラズマを照射し、
前記土壌で前記農作物を生長させながら前記土壌の細菌数を増加させること
を含む土壌の生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書の技術分野は、プラズマを用いる農作物の生産方法および土壌の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ技術は、電気、化学、材料の各分野に応用されている。プラズマの内部では、電子やイオン等の荷電粒子の他に、紫外線やラジカルが発生する。これらには、生体組織の殺菌をはじめとして、生体組織に対する種々の効果があることが分かってきている。
【0003】
また、プラズマが農作物の育成にも効果を奏することが明らかになってきている。例えば、特許文献1には、イネに大気圧プラズマを照射することによりイネの生長を促進する技術が開示されている。また、特許文献2には、乳酸にキトサンを溶解させ、pHを3.0~7.0に調整された植物生育促進剤の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-18278号公報
【特許文献2】特開平2-49704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、農作物を生育する上で、土壌中の細菌は農作物によい影響を与えることが多い。特許文献1、2の技術においては、農作物を生育する土壌がどのような状態であるか不明である。
【0006】
本明細書の技術が解決しようとする課題は、農作物を生育する上で好ましい土壌を利用しつつ農作物を生産することが可能な農作物の生産方法および土壌の生産方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の態様における農作物の生産方法は、乳酸ナトリウム水溶液に大気圧プラズマを照射してプラズマ活性化乳酸ナトリウム水溶液を製造し、プラズマ活性化乳酸ナトリウム水溶液を土壌に供給し、土壌の細菌数を増加させながら土壌で農作物を生長させる。
【0008】
この農作物の生産方法においては、農作物を生産する上で重要な土壌中の細菌数を増加させる。これにより、農作物の生長が促進され、農作物の果実等が大きく生長する。
【発明の効果】
【0009】
本明細書では、農作物を生育する上で好ましい土壌を利用しつつ農作物を生産することが可能な農作物の生産方法および土壌の生産方法が提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1.Aは第1のプラズマ発生装置の構成を示す断面図であり、
図1.Bは電極の形状を示す図である。
【
図2】
図2.Aは第2のプラズマ発生装置の構成を示す断面図であり、
図2.Bは電極の形状を示す図である。
【
図3】各土壌における成分を示す表(その1)である。
【
図4】各土壌における成分を示す表(その2)である。
【
図5】実験Bに用いた7種類の水溶液を示す表である。
【
図7】各水溶液を混合したLB培地中で培養した細菌の数を示す表である。
【
図8】各水溶液を混合した土壌中で生長させた細菌総数を示す表である。
【
図9】各水溶液を供給した土壌で小松菜を栽培した後の土壌の成分を示す表である。
【
図10】ブラシッカ・ラパの生長率を示すグラフである。
【
図11】ホウレンソウの生長率を示すグラフである。
【
図15】ホウレンソウの生長の度合いを比較する写真である。
【
図16】トウガラシの果実の生長の度合いを比較する写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、具体的な実施形態について、農作物の生産方法を例に挙げて図を参照しつつ説明する。なお、プラズマ発生装置の寸法等は例示であり、例示されている数値範囲以外の数値を用いてもよい。
【0012】
(第1の実施形態)
第1の実施形態について説明する。第1の実施形態の農作物の生方法産においては、農作物に大気圧プラズマを直接照射する。そのため、まず、プラズマを照射するプラズマ照射装置について説明する。
【0013】
1.プラズマ装置
1-1.第1のプラズマ発生装置
図1.Aはプラズマ発生装置P10の概略構成を示す断面図である。ここで、プラズマ発生装置P10は、プラズマを点状に噴出する第1のプラズマ発生装置である。
図1.Bは、
図1.Aのプラズマ発生装置P10の電極2a、2bの形状の詳細を示す図である。
【0014】
プラズマ発生装置P10は、筐体部10と、電極2a、2bと、電圧印加部3と、を有している。筐体部10は、アルミナ(Al2 O3 )を原料とする焼結体から成るものである。そして、筐体部10の形状は、筒形状である。筐体部10の内径は2mm以上3mm以下である。筐体部10の厚みは0.2mm以上0.3mm以下である。筐体部10の長さは10cm以上30cm以下である。筐体部10の両端には、ガス導入口10iと、ガス噴出口10oとが形成されている。ガス導入口10iは、プラズマを発生させるためのガスを導入するためのものである。ガス噴出口10oは、プラズマを筐体部10の外部に照射するための照射部である。なお、ガスの移動する向きは、図中の矢印の向きである。
【0015】
電極2a、2bは、対向して配置されている対向電極対である。電極2a、2bの対向面方向の長さは、筐体部10の内径より小さい。例えば1mm程度である。電極2a、2bには、
図1.Bに示すように、対向面のそれぞれに多数の凹部(ホロー)Hが形成されている。そのため、電極2a、2bの対向面は、微細な凹凸形状となっている。なお、この凹部Hの深さは、0.5mm程度である。
【0016】
電極2aは、筐体部10の内部であってガス導入口10iの近傍に配置されている。電極2bは、筐体部10の内部であってガス噴出口10oの近傍に配置されている。そのため、プラズマ発生装置P10では、電極2aの対向面の反対側からガスを導入するとともに、電極2bの対向面の反対側にガスを噴出するようになっている。そして、電極2a、2b間の距離は、例えば24cmである。電極2a、2b間の距離は、これより小さい距離であってもよい。
【0017】
電圧印加部3は、電極2a、2b間に交流電圧を印加するためのものである。電圧印加部3は、商用交流電圧である、60Hz、100Vを用いて9kVに昇圧するとともに、電極2a、2b間に電圧を印加する。
【0018】
ガス導入口10iからアルゴン等の希ガスを導入するとともに、電圧印加部3により、電極2a、2b間に電圧を印加すると、筐体部10の内部にプラズマが発生する。
図1.Aの斜線で示すように、プラズマが発生する領域をプラズマ発生領域Pとする。プラズマ発生領域Pは、筐体部10に覆われている。
【0019】
1-2.第2のプラズマ発生装置
図2.Aはプラズマ発生装置P20の概略構成を示す断面図である。ここで、プラズマ発生装置P20は、プラズマを線状に噴出する第2のプラズマ発生装置である。
図2.Bは、
図2.Aのプラズマ発生装置P20のプラズマ発生領域Pの長手方向に垂直な断面における部分断面図である。
【0020】
プラズマ発生装置P20は、筐体部11と、電極2a、2bと、電圧印加部3と、を有している。筐体部11は、アルミナ(Al2 O3 )を原料とする焼結体から成るものである。筐体部11の両端には、ガス導入口11iと、多数のガス噴出口11oとが形成されている。ガス導入口11iは、
図2.Aの左右方向を長手方向とするスリット形状をしている。ガス導入口11iからプラズマ発生領域Pの直上までのスリット幅(
図2.Bの左右方向の幅)は、例えば1mmである。
【0021】
ガス噴出口11oは、プラズマを筐体部11の外部に照射するための照射部である。ガス噴出口11oは、円筒形状もしくはスリット形状である。円筒形状の場合のガス噴出口11oは、プラズマ発生領域の長手方向に沿って一直線状に形成されている。ガス噴出口11oの内径は1mm以上2mm以下の範囲内である。また、スリット形状の場合には、ガス噴出口11oのスリット幅を1mm以下とすることが好ましい。これにより、安定したプラズマが形成される。また、ガス導入口11iは、電極2aと電極2bとを結ぶ線と交差する向きにガスを導入するようになっている。
【0022】
電極2a、2bおよび電圧印加部3については、
図1に示したプラズマ発生装置P10と同じものである。そして、同様に、商用交流電圧を用いて、電極2a、2b間に電圧を印加する。これにより、プラズマを一直線状に噴出することができる。
【0023】
また、この一直線状にプラズマを噴出するプラズマ発生装置P20を
図2.Bの左右方向に列状に並べて配置すれば、プラズマをある長方形の領域にわたって平面的に噴出することができる。
【0024】
2.プラズマ発生装置により発生されるプラズマ
プラズマ発生装置P10、P20により発生されるプラズマは、非平衡大気圧プラズマである。ここで、大気圧プラズマとは、0.5気圧以上2.0気圧以下の範囲内の圧力であるプラズマをいう。
【0025】
本実施の形態では、プラズマ発生ガスとして、主にArガスを用いる。プラズマ発生装置P10、P20により発生されるプラズマの内部では、もちろん、電子と、Arイオンとが生成されている。そして、Arイオンは、紫外線を発生させる。また、このプラズマは大気中に放出されているため、酸素ラジカルや窒素ラジカル等を発生させる。
【0026】
このプラズマのプラズマ密度は、1×1014cm-3以上1×1017cm-3以下の範囲内である。なお、誘電体バリア放電により発生されるプラズマにおけるプラズマ密度は、1×1011cm-3以上1×1013cm-3以下の程度である。したがって、プラズマ発生装置P10、P20により発生されるプラズマのプラズマ密度は、誘電体バリア放電により発生されるプラズマのプラズマ密度に比べて、3桁程度大きい。したがって、このプラズマの内部では、より多くのArイオンが生成する。そのため、ラジカルや、紫外線の発生量も多い。なお、このプラズマ密度は、プラズマ内部の電子密度にほぼ等しい。
【0027】
そして、このプラズマ発生時におけるプラズマ温度は、およそ1000K以上2500K以下の範囲内である。また、このプラズマにおける電子温度は、ガスの温度に比べて大きい。しかも、電子の密度が1×1014cm-3以上1×1017cm-3以下の範囲内の程度であるにもかかわらず、ガスの温度はおよそ1000K以上2500K以下の範囲内である。このプラズマの温度は、プラズマの発生しているプラズマ発生領域Pでの温度である。したがって、プラズマの条件や、ガス噴出口から対象物までの距離を異なる条件とすることにより、対象物の位置でのプラズマ温度を室温程度とすることができる。
【0028】
3.プラズマ活性化水溶液の製造方法
3-1.水溶液準備工程
まず、第1の水溶液を準備する。第1の水溶液とは、プラズマを照射する前の水溶液のことをいう。第1の水溶液は、L-乳酸ナトリウムと、塩化ナトリウムと、塩化カリウムと、塩化カルシウムと、を含有する。
【0029】
3-2.プラズマ照射工程
次に、プラズマ活性化水溶液製造装置PMによりプラズマ発生領域に発生させた大気圧プラズマを第1の水溶液に照射する。プラズマを照射する際における液面とプラズマ噴出口との間の距離は、例えば、3mmである。また、この距離は、例えば、0.1cm以上3cm以下の範囲内で変えてもよい。プラズマ発生領域におけるプラズマ密度は、1×1014cm-3以上1×1017cm-3以下の範囲内である。そして、このプラズマにおけるプラズマ温度は、およそ1000K以上2500K以下の範囲内である。ただし、このプラズマ温度は、液面では、室温程度(300K程度)まで下げることもできる。これらのプラズマ条件を表1に示す。これらの条件は、あくまで一例である。
【0030】
[表1]
条件 数値範囲
液面-噴出口距離 0.1cm以上 3cm以下
プラズマ密度 1×1014cm-3以上 1×1017cm-3以下
プラズマ温度 1000K以上 2500K以下
【0031】
このように、第1の水溶液に大気圧プラズマを照射することにより、第1の水溶液を第2の水溶液にする。大気圧プラズマの照射により、第1の水溶液の成分とプラズマに由来するラジカル等とが反応すると考えられる。また、水溶液中に亜硝酸イオンや硝酸イオンが増加する。第1の水溶液の成分は、これらのイオン等とも反応すると考えられる。この第2の水溶液は、プラズマ活性化水溶液である。
【0032】
大気圧プラズマのプラズマ密度は、例えば、2×1016cm-3である。大気圧プラズマの照射時間は、例えば、30秒以上600秒以下である。大気圧プラズマを照射する際の第1の水溶液の体積は、例えば、10ml以上1000ml以下である。
【0033】
この場合には、第2の水溶液における単位体積当たりのプラズマ密度時間積は、6×1014sec・cm-3・ml-1以上1.2×1018sec・cm-3・ml-1以下である。ここで、単位体積当たりのプラズマ密度時間積とは、(プラズマ密度)×(照射時間)/(第1の水溶液の体積)である。つまり、単位体積当たりのプラズマ密度時間積は、単位体積当たりの第1の水溶液に照射されるプラズマ生成物の量である。
【0034】
4.プラズマ活性化水溶液の効果
第1の実施形態のプラズマ活性化水溶液は、L-乳酸ナトリウムを含有する水溶液にプラズマを照射したものである。より具体的には、L-乳酸ナトリウムと、塩化ナトリウムと、塩化カリウムと、塩化カルシウムと、を含有する第1の水溶液に大気圧プラズマを照射したものである。このプラズマ活性化水溶液は、農作物を育成する土壌中の細菌の数を増加させる。土壌が活性化するため、その土壌で育成される農作物の品質は高い。例えば、栄養価が高い。
【0035】
5.プラズマ活性化水溶液を用いた農作物の生産方法
第1の実施形態の農作物の生産方法は、L-乳酸ナトリウムを含有する第1の水溶液を準備する水溶液準備工程と、第1の水溶液に大気圧プラズマを照射して第2の水溶液とするプラズマ照射工程と、農作物を生育する土壌に第2の水溶液を供給する水溶液供給工程と、を有する。
【0036】
5-1.水溶液準備工程
水溶液準備工程では、L-乳酸ナトリウムと、塩化ナトリウムと、塩化カリウムと、塩化カルシウムと、を含有する第1の水溶液を準備する。
【0037】
5-2.プラズマ照射工程
次に、プラズマ照射工程を実施する。この工程では、第1の水溶液に大気圧プラズマを照射して第2の水溶液とする。
【0038】
5-3.水溶液供給工程
次に、水溶液供給工程を実施する。この工程では、第2の水溶液を農作物の土壌に供給する。このとき、全体の体積に対して第2の水溶液を5倍以上100倍以下の濃度で添加する。土壌に供給する水溶液における単位体積当たりのプラズマ密度時間積は6×1011sec・cm-3・ml-1以上2.4×1017sec・cm-3・ml-1以下とする。この第2の水溶液の希釈率は、好ましくは、12.5倍以上50倍以下である。また、もちろん、農作物の土壌に肥料や水等を別途供給する。
【0039】
このように、乳酸ナトリウム水溶液に大気圧プラズマを照射してプラズマ活性化乳酸ナトリウム水溶液を製造し、プラズマ活性化乳酸ナトリウム水溶液を土壌に供給し、土壌の細菌数を増加させながら土壌で農作物を生長させる。これにより、農作物を生長させながら土壌の可給態リン酸を増加させることができる。
【0040】
6.変形例
6-1.プラズマ活性化乳酸ナトリウム水溶液
第1の水溶液は、L-乳酸ナトリウムを含有する乳酸ナトリウム水溶液であるとよい。第1の水溶液は、塩化ナトリウム等を含有しなくてもよい。プラズマ活性化乳酸ナトリウム水溶液は、L-乳酸ナトリウムを含有する乳酸ナトリウム水溶液に大気圧プラズマを照射したものである。土壌には、プラズマ活性化乳酸ナトリウム水溶液を供給する。
【0041】
6-2.プラズマ未照射の乳酸ナトリウム水溶液
土壌に、プラズマを照射していない乳酸ナトリウム水溶液を供給してもよい。この場合には、乳酸ナトリウム水溶液を土壌に供給し、土壌の細菌数を増加させながら土壌で農作物を生長させる。
【0042】
6-3.土壌の生産方法
第1の実施形態の農作物の生産方法では、土壌中の細菌総数が増加する。このため、第1の実施形態の技術を土壌の生産方法に用いることができる。農作物を生産した後であっても、土壌中の細菌総数は多く、土壌中の栄養素も多いため、この土壌を他の農作物の生産に再利用することができる。
【0043】
6-4.小型化したプラズマ発生装置
プラズマ発生装置P10、P20等をさらに小型化してもよい。十分に小型化することにより、ペン型のプラズマ発生装置を製造することができる。その場合であっても、プラズマ発生装置P10、P20と同等のプラズマ密度が得られる。
【0044】
6-5.冷凍工程
また、第2の水溶液を保存するために冷凍工程を実施してもよい。冷凍工程は、プラズマ照射工程の後であって水溶液供給工程の前に実施する。冷凍工程では、第2の水溶液を-196℃以上0℃以下の範囲内で冷凍する。具体的には、冷凍庫に保存する。冷凍庫として例えば、生物実験用冷蔵庫(例えば、日本フリーザー株式会社製のバイオフリーザーGS-5203KHC)を用いることができる。
【0045】
この冷凍庫で冷凍した第2の水溶液の保存温度は、-28℃以上-14℃以下の範囲内である。また、第2の水溶液の保存温度は、この範囲に限らない。通常の冷凍温度であればよい。例えば、-196℃以上0℃以下の範囲内である。好ましくは、-196℃以上-10°以下である。より好ましくは、-150℃以上-20℃以下である。さらに好ましくは、-80℃以上―30℃以下である。
【0046】
この冷凍工程をすることにより、プラズマ活性化水溶液を保存することができる。そのため、農作物の土壌に供給する前に冷凍状態のプラズマ活性化水溶液を解凍すればよい。
【0047】
6-6.組み合わせ
上記の変形例を適宜組み合わせてもよい。
【0048】
(第2の実施形態)
第2の実施形態について説明する。第2の実施形態においては、第1の実施形態のプラズマ活性化水溶液を用いない。その代わりに、第2の実施形態においては、大気圧プラズマを農作物に直接照射する。大気圧プラズマ装置は、第1の実施形態と共通のものを用いることができる。そのため、第1の実施形態と異なる点について説明する。
【0049】
1.農作物の生産方法
1-1.プラズマ照射工程
このプラズマ照射工程においては、農作物の生長点を含む領域に大気圧プラズマを直接照射する。ここで、生長点とは、植物の茎の先端部付近に位置するとともに細胞分裂が活発に行われている箇所である。プラズマの照射口と農作物の生長点との間の距離は、例えば、0cm以上10cm以下である。また、プラズマの照射口は農作物の生長点を向いているとよい。
【0050】
プラズマ密度は、第1の実施形態と同様である。プラズマを照射する時間は例えば30秒以上600秒以下である。例えば、大気圧プラズマのプラズマ密度を2×1016cm-3とすると、大気圧プラズマのプラズマ密度と照射時間との積であるプラズマ密度時間積は、6×1017sec・cm-3以上1.2×1019sec・cm-3以下である。
【0051】
このように、土壌から生長する途中の農作物に大気圧プラズマを照射し、土壌の細菌数を増加させながら土壌で農作物を生長させる。
【0052】
2.プラズマを農作物に直接照射する効果
農作物の生長点を含む領域に大気圧プラズマを照射することにより、後述するように、農作物に含まれるポリフェノール類の量が増加する。より具体的には、増加するポリフェノール類は、アントシアニンである。そのため、この農作物を食べた人はより健康になる。
【0053】
このように、農作物の生長点を含む領域に大気圧プラズマを直接照射することにより、窒素原子または酸素原子に由来する原子・分子、イオン、ラジカル等が農作物の生長点に供給される。その結果、農作物は、このような外的刺激に対して抗酸化作用を自発的に強化していると予測される。この結果、果物の果実にポリフェノール類といった抗酸化物質が多く生成されると考えられる。
【0054】
3.変形例
第1の実施形態の変形例を組み合わせてよい場合がある。
【実施例0055】
(実験A)
1.イチゴの生育および土壌
種々の条件でイチゴを生育し、土壌の成分を調べた。表2に土壌の生育条件を示す。土壌1は肥料を加えた土壌でイチゴを生育させた後の土壌である。土壌2は肥料を加えた土壌でイチゴを生育させるとともにプラズマをイチゴの生長点に照射した土壌である。土壌3は肥料および蒸留水を加えた土壌でイチゴを生育させた後の土壌である。土壌4は肥料およびラクテック(登録商標)を加えた土壌でイチゴを生育させた後の土壌である。土壌5は肥料およびPALを加えた土壌でイチゴを生育させた後の土壌である。土壌6はもとの土壌であり、肥料も加えられておらず、イチゴの生育にも用いられていない。
【0056】
ラクテック(登録商標)は、L-乳酸ナトリウムと、塩化ナトリウムと、塩化カリウムと、塩化カルシウムとを含有する乳酸リンゲル液である。PALはラクテック(登録商標)にプラズマを照射したものである。
【0057】
プラズマの直接照射およびPALの供給は、週に3回の頻度で行った。直接照射する際のプラズマの照射時間は120秒であった。PALを製造する際のプラズマの照射時間は300秒であった。プラズマを直接照射する際のプラズマ照射装置およびPALを製造する際のプラズマ照射装置のプラズマ密度は、2×1016cm-3であった。
【0058】
[表2]
土壌1 対照区 肥料 イチゴ
土壌2 直接照射処理区 肥料+プラズマ照射 イチゴ
土壌3 蒸留水処理区 肥料+蒸留水 イチゴ
土壌4 ラクテック処理区 肥料+ラクテック イチゴ
土壌5 PAL処理区 肥料+PAL イチゴ
土壌6 もとの土壌 なし なし
【0059】
2.土壌の成分
図3は、各土壌における成分を示す表(その1)である。なお、推奨値の条件を満たすものの欄を濃く表している。
【0060】
図3に示すように、プラズマを直接照射した土壌2の細菌総数は21.1億個/gであり、土壌2の細菌総数は土壌6の細菌総数の3.8倍程度であった。PALを供給した土壌5の細菌総数は19.6億個/gであり、土壌5の細菌総数は土壌6の細菌総数の3.6倍程度であった。土壌2の細菌総数は対照区の土壌1の細菌総数の1.35倍程度であり、土壌5の細菌総数は土壌1の細菌総数の1.26倍程度であった。土壌2、5のようにプラズマを用いた場合には、細菌総数が非常に多くなる。
【0061】
一方、蒸留水を添加した土壌3およびラクテック(登録商標)を添加した土壌4の細菌総数はそれぞれ、8.6億個/g、8.5億個/gであった。これらの土壌においては、細菌総数の増加はそれほど大きくなかった。
【0062】
リン循環活性評価値においては、プラズマを直接照射した土壌2が最も好ましい。全炭素数については、土壌3および土壌5が多く含有している。全リンにおいては、土壌3が最も含有している。全カリウムにおいては、土壌5が最も好ましく、推奨値の基準を満たしている。
【0063】
図4は、各土壌における成分を示す表(その2)である。
【0064】
図4に示すように、可給態リン酸においては、PALを供給した土壌5が1145mg/kgと非常に多く含有している。土壌1-4、6においては、可給態リン酸がもとの土壌より減少している。その他の成分については、それほど大きな差はなかった。
【0065】
3.実験のまとめ
このように、プラズマを直接照射した土壌2およびPALを供給した土壌5は非常に多くの細菌を含む。このため、土壌2および土壌5は生育させる農作物にとって好ましい。細菌は農作物の生長にとって重要な役割を果たすためである。このように、細菌総数が劇的に増加することは稀である。したがって、イチゴの苗と土壌の細菌とが何らかの相互作用をしている可能性が示唆されている。
【0066】
(実験B)
1.実験方法
蒸留水と、乳酸ナトリウム水溶液(non-PAW)と、プラズマ活性化乳酸ナトリウム水溶液(PAW)と、を製造し、これらの水溶液を土壌に供給し、植物を育成した。乳酸ナトリウム水溶液(non-PAW)およびプラズマ活性化乳酸ナトリウム水溶液(PAW)については、それぞれ、12.5倍、25倍、50倍に希釈した3種類の水溶液を製造した。プラズマ照射装置は実験Aで用いたものと同じである。プラズマの照射時間は300秒であった。これらの水溶液を1日おきに土壌に供給した。
【0067】
図5は、実験Bに用いた7種類の水溶液を示す表である。
図5に示すように、「C」は蒸留水でありコントロール群である。「T-1」は27mMの乳酸ナトリウム水溶液を12.5倍に希釈したものである。「T-2」は27mMの乳酸ナトリウム水溶液を25倍に希釈したものである。「T-3は27mMの乳酸ナトリウム水溶液を50倍に希釈したものである。
【0068】
「T-4」は27mMの乳酸ナトリウム水溶液に大気圧プラズマを照射したものを12.5倍に希釈したプラズマ活性化乳酸ナトリウム水溶液(PAW)である。「T-5」は27mMの乳酸ナトリウム水溶液に大気圧プラズマを照射したものを25倍に希釈したプラズマ活性化乳酸ナトリウム水溶液(PAW)である。「T-6」は27mMの乳酸ナトリウム水溶液に大気圧プラズマを照射したものを50倍に希釈したプラズマ活性化乳酸ナトリウム水溶液(PAW)である。
【0069】
2.実験結果
2-1.水溶液の性質および成分
図6は、各水溶液の性質および成分を示す表である。
図6に示すように、水溶液を希釈するほど、pHは7に近づく傾向にある。水溶液を希釈するほど電気伝導度(EC)は小さくなる。水溶液を希釈するほど全有機体炭素(TOC)は少なくなり、全炭素(TC)も少なくなる。
【0070】
2-2.培地中の細菌の生長
図7は、各水溶液を混合したLB培地中で培養した細菌の数を示す表である。「T-4」を混合したLB培地中において、枯草菌および大腸菌の数が最も多かった。プラズマ活性化乳酸ナトリウム水溶液(PAW)の生長促進効果は、乳酸ナトリウム水溶液(non-PAW)の生長促進効果よりも高い傾向にある。また、希釈率が高いほど、生長促進効果が小さくなる傾向にある。
【0071】
2-3.土壌中の細菌の生長
図8は、各水溶液を混合した土壌中で生長させた細菌総数を示す表である。
図8には、初期状態、1週間後、2週間後の細菌総数が示されている。
図8に示すように、乳酸ナトリウム水溶液(non-PAW)を用いた場合には細菌総数は初期状態から減少する傾向にある。一方、プラズマ活性化乳酸ナトリウム水溶液(PAW)を用いた場合には細菌総数は初期状態から増加する。T-4からT-6までにおいては、細菌総数の増加の割合は同程度である。その中でもT-4を用いた場合には、細菌総数の増加の割合が最も大きかった。
【0072】
2-4.栽培後の土壌の成分
図9は、各水溶液を供給した土壌で小松菜を栽培した後の土壌の成分を示す表である。プラズマ活性化乳酸ナトリウム水溶液(PAW)の土壌における各成分の量は、乳酸ナトリウム水溶液(non-PAW)の土壌における各成分の量よりも多い傾向にある。また、希釈率が低いほど、各成分の量が多い傾向にある。なお、T-4の土壌が最も多くの成分量を含んでいる。
【0073】
2-5.各水溶液と農作物の生長率
2-5-1.ブラシッカ・ラパ
図10は、ブラシッカ・ラパの生長率を示すグラフである。
図10の横軸は土壌に供給する水溶液の種類である。
図10の縦軸はブラシッカ・ラパの生体重である。縦軸は蒸留水を用いた場合を100%として規格化されている。T-4(163%)、T-5(155%)、T-6(153%)、T-1(152%)、T-2(148%)、T-3(140%)の順で生体重が重かった。
【0074】
プラズマ活性化乳酸ナトリウム水溶液(PAW)を供給した土壌で生長させたブラシッカ・ラパの生体重は、蒸留水を供給した土壌で生長させたブラシッカ・ラパの生体重に対して150%以上重かった。
【0075】
プラズマ活性化乳酸ナトリウム水溶液(PAW)を供給した土壌で生長させたブラシッカ・ラパの生体重は、乳酸ナトリウム水溶液(non-PAW)を供給した土壌で生長させたブラシッカ・ラパの生体重よりも重かった。
【0076】
また、乳酸ナトリウム水溶液(non-PAW)を供給した土壌で生長させたブラシッカ・ラパの生体重は、蒸留水を供給した土壌で生長させたブラシッカ・ラパの生体重よりも重かった。
【0077】
2-5-2.ホウレンソウ
図11は、ホウレンソウの生長率を示すグラフである。
図11の横軸は土壌に供給する水溶液の種類である。
図11の縦軸はホウレンソウの生体重である。縦軸は蒸留水を用いた場合を100%として規格化されている。T-4(129%)、T-5(122%)、T-1(122%)、T-2(112%)、T-6(108%)、T-3(104%)の順で生体重が重かった。
【0078】
プラズマ活性化乳酸ナトリウム水溶液(PAW)を供給した土壌で生長させたホウレンソウの生体重は、蒸留水を供給した土壌で生長させたホウレンソウの生体重に対して108%以上重かった。
【0079】
プラズマ活性化乳酸ナトリウム水溶液(PAW)を供給した土壌で生長させたホウレンソウの生体重は、乳酸ナトリウム水溶液(non-PAW)を供給した土壌で生長させたホウレンソウの生体重よりも重い傾向にある。
【0080】
また、乳酸ナトリウム水溶液(non-PAW)を供給した土壌で生長させたホウレンソウの生体重は、蒸留水を供給した土壌で生長させたホウレンソウの生体重よりも重かった。
【0081】
2-5-3.トウガラシ
図12は、トウガラシの生長率を示すグラフである。
図12の横軸は土壌に供給する水溶液の種類である。
図12の縦軸はトウガラシの生体重である。縦軸は蒸留水を用いた場合を100%として規格化されている。T-4(134.5%)、T-5(131%)、T-1(119%)、T-2(118%)、T-6(108%)、T-3(101%)の順で生体重が重かった。
【0082】
プラズマ活性化乳酸ナトリウム水溶液(PAW)を供給した土壌で生長させたトウガラシの生体重は、蒸留水を供給した土壌で生長させたトウガラシの生体重に対して108%以上重かった。
【0083】
プラズマ活性化乳酸ナトリウム水溶液(PAW)を供給した土壌で生長させたトウガラシの生体重は、乳酸ナトリウム水溶液(non-PAW)を供給した土壌で生長させたトウガラシの生体重よりも重い傾向にある。
【0084】
また、乳酸ナトリウム水溶液(non-PAW)を供給した土壌で生長させたトウガラシの生体重は、蒸留水を供給した土壌で生長させたトウガラシの生体重よりも重かった。
【0085】
図13は、トウガラシの果実重を示す表である。T-1、T-4の場合には、果実の数は3個であり、その他の場合には2個であった。
【0086】
図14は、トウガラシの果実重を示すグラフである。
図14の横軸は土壌に供給する水溶液の種類である。
図14の縦軸はトウガラシの平均の果実重である。
【0087】
図13および
図14に示すように、T-4の場合に、トウガラシの平均の果実重が他の場合に比べて非常に重かった。T-5の場合には果実の数は2個であり、T-1の場合には果実の数は3個であったが、T-5の果実の総重量はT-1の果実の総重量よりも重かった。
【0088】
2-6.写真
2-6-1.ホウレンソウ
図15は、ホウレンソウの生長の度合いを比較する写真である。T-4、T-1、Cの順にホウレンソウの葉が大きい。
【0089】
2-6-2.トウガラシ
図16は、トウガラシの果実の生長の度合いを比較する写真である。
図16の左側には、乳酸ナトリウム水溶液(non-PAW)を供給した土壌で生長させたトウガラシの果実が示されている。
図16の右側には、プラズマ活性化乳酸ナトリウム水溶液(PAW)を供給した土壌で生長させたトウガラシの果実が示されている。
【0090】
3.実験のまとめ
プラズマ活性化乳酸ナトリウム水溶液(PAW)を供給した土壌で生長させた農作物は、著しく生長する。乳酸ナトリウム水溶液(non-PAW)を供給した土壌で生長させた農作物も、通常より大きく生長する。
【0091】
(付記)
第1の態様における農作物の生産方法は、乳酸ナトリウム水溶液に大気圧プラズマを照射してプラズマ活性化乳酸ナトリウム水溶液を製造し、プラズマ活性化乳酸ナトリウム水溶液を土壌に供給し、土壌の細菌数を増加させながら土壌で農作物を生長させる。
【0092】
第2の態様における農作物の生産方法は、農作物を生長させながら前記土壌の可給態リン酸を増加させる。
【0093】
第3の態様における農作物の生産方法は、土壌から生長する途中の農作物に大気圧プラズマを照射し、土壌の細菌数を増加させながら土壌で農作物を生長させる。
【0094】
第4の態様における土壌の生産方法は、乳酸ナトリウム水溶液に大気圧プラズマを照射してプラズマ活性化乳酸ナトリウム水溶液を製造し、プラズマ活性化乳酸ナトリウム水溶液を土壌に供給し、土壌で農作物を生長させながら土壌の細菌数を増加させる。
【0095】
第5の態様における土壌の生産方法は、乳酸ナトリウム水溶液を土壌に供給し、土壌で農作物を生長させながら土壌の細菌数を増加させる。
【0096】
第6の態様における土壌の生産方法は、土壌から生長する途中の農作物に大気圧プラズマを照射し、土壌で農作物を生長させながら土壌の細菌数を増加させる。