(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002746
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】重荷重用タイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/00 20060101AFI20231228BHJP
【FI】
B60C11/00 B
B60C11/00 D
B60C11/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022102137
(22)【出願日】2022-06-24
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100174023
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 怜愛
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 章史
(72)【発明者】
【氏名】椙田 大智
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131BA05
3D131BB04
3D131BC33
3D131BC39
3D131EA03U
3D131EA10U
(57)【要約】
【課題】耐摩耗性及び耐発熱性をより高い次元で両立できる、重荷重用タイヤを提供する。
【解決手段】重荷重用タイヤ1は、トレッドゴム7が、キャップ層7cと、キャップ層よりもタイヤ内周側に配置された、ベース層7bと、を有し、キャップ層は、キャップ表層7c1と、キャップ中間層7c2と、を備え、キャップ表層は、室温24℃、2%振幅、及び50Hzの条件での引張試験におけるtanδが、キャップ中間層よりも大きく、キャップ表層の、室温24℃、2%振幅、及び50Hzの条件での引張試験におけるtanδと、キャップ中間層の、室温24℃、2%振幅、及び50Hzの条件での引張試験におけるtanδとの差が、0.03以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッドゴムが、
キャップ層と、
前記キャップ層よりもタイヤ内周側に配置された、ベース層と、
を有し、
前記キャップ層は、
キャップ表層と、
キャップ中間層と、
を備え、
前記キャップ表層は、室温24℃、2%振幅、及び50Hzの条件での引張試験におけるtanδが、前記キャップ中間層よりも大きく、
前記キャップ表層の、室温24℃、2%振幅、及び50Hzの条件での引張試験におけるtanδと、前記キャップ中間層の、室温24℃、2%振幅、及び50Hzの条件での引張試験におけるtanδとの差が、0.03以上である、重荷重用タイヤ。
【請求項2】
前記ベース層は、室温24℃、2%振幅、及び50Hzの条件での引張試験におけるtanδが、前記キャップ中間層よりも0.03以上低い、請求項1に記載の重荷重用タイヤ。
【請求項3】
前記キャップ層のうち、一対の接地端のタイヤ幅方向位置どうしの間の部分における、前記キャップ層の厚みに対する前記キャップ表層の厚みの割合の平均値が、75%以下である、請求項1に記載の重荷重用タイヤ。
【請求項4】
前記キャップ層のうち、一対の接地端のタイヤ幅方向位置どうしの間の部分における、前記キャップ層の厚みに対する前記キャップ表層の厚みの割合の平均値が、30%以上である、請求項1に記載の重荷重用タイヤ。
【請求項5】
前記キャップ層のうち、一対の接地端のタイヤ幅方向位置どうしの間の部分における、前記キャップ層の厚みに対する前記キャップ表層の厚みの割合の平均値が、30~75%である、請求項1に記載の重荷重用タイヤ。
【請求項6】
前記キャップ層のうち、タイヤ赤道面から接地幅の1/4倍だけ離れた一対の1/4点どうしの間の部分における、前記キャップ層の厚みに対する前記キャップ表層の厚みの割合の平均値が、30~60%であり、
前記キャップ層のうち、前記一対の1/4点と一対の接地端のタイヤ幅方向位置との間の一対の部分における、前記キャップ層の厚みに対する前記キャップ表層の厚みの割合の平均値が、50~75%である、請求項1に記載の重荷重用タイヤ。
【請求項7】
前記キャップ層のうち、タイヤ赤道面から接地幅の1/4倍だけ離れた一対の1/4点どうしの間の部分における、前記キャップ層の厚みに対する前記キャップ表層の厚みの割合の平均値は、前記キャップ層のうち、前記一対の1/4点と一対の接地端のタイヤ幅方向位置との間の一対の部分における、前記キャップ層の厚みに対する前記キャップ表層の厚みの割合の平均値よりも、低い、請求項1に記載の重荷重用タイヤ。
【請求項8】
前記キャップ表層、前記キャップ中間層、及び前記ベース層は、それぞれ、一対の接地端のタイヤ幅方向位置どうしの間のタイヤ幅方向領域の全体にわたって存在している、請求項1~7のいずれか一項に記載の重荷重用タイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重荷重用タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、トレッドゴムがキャップ層及びベース層を備えた、重荷重用タイヤがある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、重荷重用タイヤにおいては、耐摩耗性及び耐発熱性(ひいては耐久性)の2つの性能が主に求められるが、これらの性能は、二律背反の関係にあり、両立が容易ではない。
従来の重荷重用タイヤにおいては、耐摩耗性及び耐発熱性の両立に関し、向上の余地があった。
【0005】
本発明は、耐摩耗性及び耐発熱性をより高い次元で両立できる、重荷重用タイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は、以下の手段により解決される。
【0007】
〔1〕トレッドゴムが、
キャップ層と、
前記キャップ層よりもタイヤ内周側に配置された、ベース層と、
を有し、
前記キャップ層は、
キャップ表層と、
キャップ中間層と、
を備え、
前記キャップ表層は、室温24℃、2%振幅、及び50Hzの条件での引張試験におけるtanδが、前記キャップ中間層よりも大きく、
前記キャップ表層の、室温24℃、2%振幅、及び50Hzの条件での引張試験におけるtanδと、前記キャップ中間層の、室温24℃、2%振幅、及び50Hzの条件での引張試験におけるtanδとの差が、0.03以上である、重荷重用タイヤ。
これにより、耐摩耗性及び耐発熱性をより高い次元で両立できる。
【0008】
〔2〕前記ベース層は、室温24℃、2%振幅、及び50Hzの条件での引張試験におけるtanδが、前記キャップ中間層よりも0.03以上低い、〔1〕に記載の重荷重用タイヤ。
これにより、耐摩耗性及び耐発熱性をより高い次元で両立できる。
【0009】
〔3〕前記キャップ層のうち、一対の接地端のタイヤ幅方向位置どうしの間の部分における、前記キャップ層の厚みに対する前記キャップ表層の厚みの割合の平均値が、75%以下である、〔1〕又は〔2〕に記載の重荷重用タイヤ。
これにより、耐摩耗性及び耐発熱性をより高い次元で両立できる。
【0010】
〔4〕前記キャップ層のうち、一対の接地端のタイヤ幅方向位置どうしの間の部分における、前記キャップ層の厚みに対する前記キャップ表層の厚みの割合の平均値が、30%以上である、〔1〕~〔3〕のいずれか一つに記載の重荷重用タイヤ。
これにより、耐摩耗性及び耐発熱性をより高い次元で両立できる。
【0011】
〔5〕前記キャップ層のうち、一対の接地端のタイヤ幅方向位置どうしの間の部分における、前記キャップ層の厚みに対する前記キャップ表層の厚みの割合の平均値が、30~75%である、〔1〕~〔4〕のいずれか一つに記載の重荷重用タイヤ。
これにより、耐摩耗性及び耐発熱性をより高い次元で両立できる。
【0012】
〔6〕前記キャップ層のうち、タイヤ赤道面から接地幅の1/4倍だけ離れた一対の1/4点どうしの間の部分における、前記キャップ層の厚みに対する前記キャップ表層の厚みの割合の平均値が、30~60%であり、
前記キャップ層のうち、前記一対の1/4点と一対の接地端のタイヤ幅方向位置との間の一対の部分における、前記キャップ層の厚みに対する前記キャップ表層の厚みの割合の平均値が、50~75%である、〔1〕~〔5〕のいずれか一つに記載の重荷重用タイヤ。
これにより、耐摩耗性及び耐発熱性をより高い次元で両立できる。
【0013】
〔7〕前記キャップ層のうち、タイヤ赤道面から接地幅の1/4倍だけ離れた一対の1/4点どうしの間の部分における、前記キャップ層の厚みに対する前記キャップ表層の厚みの割合の平均値は、前記キャップ層のうち、前記一対の1/4点と一対の接地端のタイヤ幅方向位置との間の一対の部分における、前記キャップ層の厚みに対する前記キャップ表層の厚みの割合の平均値よりも、低い、〔1〕~〔6〕のいずれか一つに記載の重荷重用タイヤ。
これにより、耐摩耗性及び耐発熱性をより高い次元で両立できる。
【0014】
〔8〕前記キャップ表層、前記キャップ中間層、及び前記ベース層は、それぞれ、一対の接地端のタイヤ幅方向位置どうしの間のタイヤ幅方向領域の全体にわたって存在している、〔1〕~〔7〕のいずれか一つに記載の重荷重用タイヤ。
これにより、耐摩耗性及び耐発熱性をより高い次元で両立できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、耐摩耗性及び耐発熱性をより高い次元で両立できる、重荷重用タイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る重荷重用タイヤを概略的に示す、タイヤ幅方向断面図である。
【
図2】
図1の重荷重用タイヤの一部を拡大して示す、拡大図である。
【
図3】複数のタイヤモデルについての解析結果を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る重荷重用タイヤは、任意の種類の重荷重用タイヤに好適に利用でき、特に建築・鉱山車両用タイヤ(オフザロードタイヤ)に好適に利用できる。
【0018】
以下、本発明に係る重荷重用タイヤの実施形態について、図面を参照しつつ例示説明する。
各図において共通する部材・部位には同一の符号を付している。
本明細書では、便宜のため、重荷重用タイヤ等を、単に「タイヤ」ともいう。本明細書において、タイヤは、空気入りタイヤである。
【0019】
図1~
図2は、本発明の一実施形態に係る重荷重用タイヤ1を説明するための図面である。
図1は、本発明の一実施形態に係る重荷重用タイヤ1を概略的に示す、タイヤ幅方向断面図である。
図2は、
図1のタイヤ1の一部を拡大して示す、拡大図である。
図1~
図2の実施形態の重荷重用タイヤ1は、建築・鉱山車両用タイヤ(オフザロードタイヤ)として構成されている。ただし、重荷重用タイヤ1は、任意の種類の重荷重用タイヤとして構成されてよい。
【0020】
以下、特に断りのない限り、各要素の位置関係や寸法等は、タイヤ1を適用リムに装着し、規定内圧を充填し、無負荷とした、基準状態で測定されるものとする。
また、タイヤ1を適用リムに装着し、タイヤ1に規定内圧を充填し、最大荷重を負荷した状態で、路面と接する接地面のタイヤ幅方向の幅を、「接地幅(TW)」といい、当該接地面のタイヤ幅方向の端部を「接地端(TE)」という。
【0021】
本明細書において、「適用リム」とは、空気入りタイヤが生産され、使用される地域に有効な産業規格であって、日本ではJATMA(日本自動車タイヤ協会)のJATMA YEAR BOOK、欧州ではETRTO(The European Tyre and Rim Technical Organisation)のSTANDARDS MANUAL、米国ではTRA(The Tire and Rim Association,Inc.)のYEAR BOOK等に記載されているまたは将来的に記載される、適用サイズにおける標準リム(ETRTOのSTANDARDS MANUALではMeasuring Rim、TRAのYEAR BOOKではDesign Rim)を指すが、これらの産業規格に記載のないサイズの場合は、空気入りタイヤのビード幅に対応した幅のリムをいう。「適用リム」には、現行サイズに加えて将来的に前述の産業規格に記載されるサイズも含まれる。「将来的に記載されるサイズ」の例として、ETRTO 2013年度版において「FUTURE DEVELOPMENTS」として記載されているサイズが挙げられ得る。
【0022】
本明細書において、「規定内圧」とは、前述したJATMA YEAR BOOK等の産業規格に記載されている、適用サイズ・プライレーティングにおける単輪の最大負荷能力に対応する空気圧(最高空気圧)をいい、前述した産業規格に記載のないサイズの場合は、タイヤを装着する車両ごとに規定される最大負荷能力に対応する空気圧(最高空気圧)をいうものとする。また、本明細書において、「最大荷重」とは、前述した産業規格に記載されている適用サイズのタイヤにおける最大負荷能力に対応する荷重、又は、前述した産業規格に記載のないサイズの場合には、タイヤを装着する車両ごとに規定される最大負荷能力に対応する荷重を意味する。
【0023】
まず、タイヤ1の全体構造について説明する。
図1に示すように、タイヤ1は、トレッド部1aと、このトレッド部1aのタイヤ幅方向の両端部からタイヤ径方向内側に延びる一対のサイドウォール部1bと、各サイドウォール部1bのタイヤ径方向内側の端部に設けられた一対のビード部1cと、を備えている。ビード部1cは、タイヤ1をリムに装着したときに、タイヤ径方向内側及びタイヤ幅方向外側においてリムに接するように構成される。
また、タイヤ1は、一対のビードコア4aと、一対のビードフィラー4bと、カーカス5と、ベルト6と、トレッドゴム7と、サイドゴム8と、インナーライナー9と、を備えている。
【0024】
各ビードコア4aは、それぞれ、対応するビード部1cに埋設されている。ビードコア4aは、周囲をゴムにより被覆されている複数のビードワイヤを備えている。ビードワイヤは、金属(例えばスチール)から構成されると好適である。ビードワイヤは、例えば、モノフィラメント又は撚り線からなるものとすることができる。
【0025】
各ビードフィラー4bは、それぞれ、対応するビードコア4aに対してタイヤ径方向外側に位置する。ビードフィラー4bは、タイヤ径方向外側に向かって先細状に延びている。ビードフィラー4bは、ゴムから構成される。
一般的に、ビードフィラーは、「スティフナー」と呼ばれることがある。
【0026】
カーカス5は、一対のビードコア4a間に跨っており、トロイダル状に延在している。カーカス5は、1枚以上(
図1の例では、1枚)のカーカスプライ5aから構成されている。各カーカスプライ5aは、1本又は複数本のカーカスコードと、カーカスコードを被覆する被覆ゴムと、を含んでいる。カーカスコードは、モノフィラメント又は撚り線で形成することができる。
カーカス5は、ラジアル構造であると好適であるが、バイアス構造でもよい。
【0027】
ベルト6は、カーカス5のクラウン部に対してタイヤ径方向外側に配置されている。ベルト6は、1層以上(
図1の例では、6層)のベルト層6aを備えている。各ベルト層6aは、1本又は複数本のベルトコードと、ベルトコードを被覆する被覆ゴムと、を含んでいる。ベルトコードは、モノフィラメント又は撚り線で形成することができる。ベルトコードは、金属(例えばスチール)から構成されると好適であるが、ポリエステル、ナイロン、レーヨン、アラミドなどからなる有機繊維から構成されてもよい。
【0028】
トレッドゴム7は、トレッド部1aにおいて、ベルト6のタイヤ径方向外側に位置している。トレッドゴム7は、トレッド部1aのタイヤ径方向外側の面であるトレッド踏面2を構成している。トレッド踏面2には、溝及び/又はサイプによって、トレッドパターンが形成されている。ただし、
図1では、簡単のため、トレッド踏面2に設けられる溝及び/又はサイプの図示を省略している。
図2では、参考のために、トレッド踏面2に設けられ得る溝gの一例を破線により示している。
トレッドゴム7のさらなる詳細については、後に説明する。
【0029】
サイドゴム8は、サイドウォール部1bに位置している。サイドゴム8は、サイドウォール部1bのタイヤ幅方向外側の外表面を構成している。サイドゴム8は、カーカス5よりもタイヤ幅方向外側に位置している。サイドゴム8は、ビードフィラー4bよりもタイヤ幅方向外側に位置している。サイドゴム8は、トレッドゴム7と一体で形成されている。
【0030】
インナーライナー9は、カーカス5のタイヤ内側に配置され、例えば、カーカス5のタイヤ内側に積層されてもよい。インナーライナー9は、例えば、空気透過性の低いブチル系ゴムで構成される。ブチル系ゴムには、例えばブチルゴム、及びその誘導体であるハロゲン化ブチルゴムが含まれる。インナーライナー9は、ブチル系ゴムに限られず、他のゴム組成物、樹脂、又はエラストマーで構成することができる。
【0031】
以下、トレッドゴム7について、さらに詳しく説明する。
図1~
図2に示すように、トレッドゴム7は、キャップ層7cと、ベース層7bと、を有している。ベース層7bは、キャップ層7cよりもタイヤ内周側に配置されている。
キャップ層7cは、キャップ表層7c1と、キャップ中間層7c2と、の2層を備えており、本実施形態では、これらの2層からなる。キャップ中間層7c2は、キャップ表層7c1よりもタイヤ内周側に配置されている。キャップ表層7c1のタイヤ外周側の表面は、トレッド踏面2を構成している。
トレッドゴム7は、キャップ表層7c1と、キャップ中間層7c2と、ベース層7bとの、3層からなる。
【0032】
キャップ表層7c1、キャップ中間層7c2、及びベース層7bは、それぞれ、一対の接地端TEのタイヤ幅方向位置Dどうしの間のタイヤ幅方向領域の全体にわたって存在している。
【0033】
キャップ表層7c1は、室温24℃、2%振幅、及び50Hzの条件での引張試験におけるtanδが、キャップ中間層7c2よりも大きく、キャップ表層7c1の、室温24℃、2%振幅、及び50Hzの条件での引張試験におけるtanδと、キャップ中間層7c2の、室温24℃、2%振幅、及び50Hzの条件での引張試験におけるtanδとの差は、0.03以上である。これにより、キャップ表層7c1は、キャップ中間層7c2よりも、高い耐摩耗性を有しており、
また、キャップ中間層7c2は、キャップ表層7c1よりも高い耐発熱性を有している。
【0034】
上述のように、タイヤ1は、トレッドゴム7のキャップ層7cが、キャップ表層7c1と、キャップ中間層7c2と、の2層を備えており、キャップ表層7c1は、室温24℃、2%振幅、及び50Hzの条件での引張試験におけるtanδが、キャップ中間層7c2よりも大きく、キャップ表層7c1の、室温24℃、2%振幅、及び50Hzの条件での引張試験におけるtanδと、キャップ中間層7c2の、室温24℃、2%振幅、及び50Hzの条件での引張試験におけるtanδとの差は、0.03以上である。
本発明の発明者らは、種々の検討及び解析等を重ねることにより、このようなタイヤ1の構成によって、耐発熱性(ひいては耐久性)を確保しつつ、従来よりも高い耐摩耗性を有することが可能になることを、新たに見出した。また、この構成によれば、タイヤ1の摩耗が進んで、キャップ中間層7c2が露出した状態になっても、キャップ中間層7c2はそれなりの耐摩耗性を有しているため、摩耗が急に進むことを抑制できる。
このように、このタイヤ1によれば、耐摩耗性及び耐発熱性をより高い次元で両立できる。
【0035】
なお、ベース層7bは、室温24℃、2%振幅、及び50Hzの条件での引張試験におけるtanδが、キャップ中間層7c2よりも0.03以上低いと、好適である。これにより、耐摩耗性及び耐発熱性をより高い次元で両立できる。
【0036】
図3は、4種類のタイヤモデル1~4について行ったFEM解析の結果を示している。
図3に記載しているように、タイヤモデル1~4は、それぞれ、タイヤサイズが互いに異なる。タイヤモデル1~4は、いずれも、
図1~
図2の例のように、トレッドゴム7が、キャップ層7c及びベース層7bを有しており、キャップ層7cが、キャップ表層7c1と、キャップ中間層7c2と、から構成されている(ただし、キャップ層7cの厚みt7cに対するキャップ表層7c1の厚みt7c1の割合が0%又は100%である場合を除く)。キャップ表層7c1は、FEM計算で用いた物性値として、室温24℃、2%振幅、及び50Hzの条件での引張試験におけるtanδが0.25であり、総フィラー量(カーボンとシリカを足した総量)が65部であるゴムからなるものである。キャップ中間層7c2は、FEM計算で用いた物性値として、室温24℃、2%振幅、及び50Hzの条件での引張試験におけるtanδが0.19であり、総フィラー量(カーボンとシリカを足した総量)が55部であるゴムからなるものである。タイヤモデル1~4は、いずれも、キャップ層7cの厚みt7c(
図2)に対するキャップ表層7c1の厚みt7c1(
図2)の割合が、一対の接地端TEのタイヤ幅方向位置Dどうしの間のタイヤ幅方向領域の全体にわたってほぼ一定である。
図3のグラフにおいて、横軸は、それぞれのタイヤモデルのキャップ層7cの厚みt7cに対するキャップ表層7c1の厚みt7c1の割合(%)である。
図3のグラフにおいて、縦軸は、それぞれのタイヤモデルに所定の動作をさせた際に、それぞれのタイヤモデルの解析対象部X(
図2)に生じた、所定の基準温度に対する相対温度(℃)である。解析対象部Xは、
図2に示すように、ベルト6における最もタイヤ外周側のベルト層6aから約3.5mmだけタイヤ外周側、かつ、タイヤ幅方向におけるタイヤ赤道面CLの近傍に位置する部分である。上記所定の基準温度は、従来と同様に、キャップ層が、1層のみからなるとともに、FEM計算で用いた物性値として、室温24℃、2%振幅、及び50Hzの条件での引張試験におけるtanδが0.19であり、総フィラー量(カーボンとシリカを足した総量)が55部であるゴムからなるような、所定のタイヤに上記所定の動作をさせた際に、当該タイヤの解析対象部Xに相当する部分に生じた温度(℃)である。
上記所定の基準温度は、従来のタイヤの耐発熱性の指標として捉えることができる。また、タイヤモデルの解析対象部Xの相対温度は、当該タイヤモデルの耐発熱性の指標として捉えることができる。解析対象部Xの相対温度が0℃である場合、当該タイヤモデルの耐発熱性は従来のタイヤと同等であるといえ、また、解析対象部Xの相対温度が低いほど、当該タイヤモデルの耐発熱性が高いといえる。
図3の解析結果からわかるように、キャップ層7cの厚みt7cに対するキャップ表層7c1の厚みt7c1の割合、ひいては、キャップ表層7c1の厚みt7c1とキャップ中間層7c2の厚みt7c2との比を調整することにより、タイヤ1の耐発熱性及び耐摩耗性の程度を調整することが可能である。
【0037】
本明細書において、「キャップ層7cの厚みt7c」、「キャップ表層7c1の厚みt7c1」「キャップ中間層7c2の厚みt7c2」は、それぞれ、
図2に示すように、タイヤ径方向に平行に測るものとする。
【0038】
キャップ層7cの厚みt7cに対するキャップ表層7c1の厚みt7c1の割合、ひいては、キャップ表層7c1の厚みt7c1とキャップ中間層7c2の厚みt7c2との比は、一対の接地端TEのタイヤ幅方向位置Dどうしの間において、タイヤ幅方向に沿って一定であってもよいし、タイヤ幅方向に沿って変化してもよい。
【0039】
タイヤ1は、キャップ層7cうち、一対の接地端TEのタイヤ幅方向位置Dどうしの間の部分(すなわち、一方の接地端TEのタイヤ幅方向位置Dから他方の接地端TEのタイヤ幅方向位置Dまでの部分)における、キャップ層7cの厚みt7cに対するキャップ表層7c1の厚みt7c1の割合の平均値が、75%以下であると好適であり、70%以下であるとより好適であり、60%以下であるとさらに好適である。
図3に示す解析結果からもわかるように、これにより、キャップ中間層7c2の厚みt7c2を確保し、ひいては、従来とほぼ同程度の耐発熱性を確保しやすくなる。よって、耐摩耗性及び耐発熱性をより高い次元で両立できる。
【0040】
タイヤ1は、キャップ層7cうち、一対の接地端TEのタイヤ幅方向位置Dどうしの間の部分(すなわち、一方の接地端TEのタイヤ幅方向位置Dから他方の接地端TEのタイヤ幅方向位置Dまでの部分)における、キャップ層7cの厚みt7cに対するキャップ表層7c1の厚みt7c1の割合の平均値が、30%以上であると好適であり、40%以上であるとより好適であり、50%以上であるとさらに好適である。
これにより、キャップ表層7c1の厚みt7c1を確保し、ひいては、耐摩耗性を向上できる。よって、耐摩耗性及び耐発熱性をより高い次元で両立できる。
【0041】
本明細書においては、
図1に示すように、タイヤ赤道面CLから接地幅TWの1/8倍だけ離れた一対のタイヤ幅方向位置Aを、それぞれ「1/8点(A)」と呼び、タイヤ赤道面CLから接地幅TWの1/4倍だけ離れた一対のタイヤ幅方向位置Bを、それぞれ「1/4点(B)」と呼び、タイヤ赤道面CLから接地幅TWの3/8倍だけ離れた一対のタイヤ幅方向位置Cを、それぞれ「3/8点(C)」と呼ぶ。
なお、接地端TEのタイヤ幅方向位置Dは、タイヤ赤道面CLから接地幅TWの1/2倍だけ離れた「1/2点」と呼ぶこともできる。
【0042】
図2の例のように、キャップ層7cのうち、センター側(タイヤ赤道面CLに近い側)の部分における、キャップ層7cの厚みt7cに対するキャップ表層7c1の厚みt7c1の割合の平均値は、ショルダー側(タイヤ赤道面CLから遠い側)の部分における、キャップ層7cの厚みt7cに対するキャップ表層7c1の厚みt7c1の割合の平均値よりも、低くてもよい。より具体的に、キャップ層7cのうち、一対の1/4点Bどうしの間の部分(すなわち、一方の1/4点Bから他方の1/4点Bまでの部分)における、キャップ層7cの厚みt7cに対するキャップ表層7c1の厚みt7c1の割合の平均値は、キャップ層7cのうち、一対の1/4点Bと一対の接地端TEのタイヤ幅方向位置Dとの間の一対の部分(すなわち、タイヤ赤道面CLに対する両側において、1/4点Bから接地端TEのタイヤ幅方向位置Dまでの部分)における、キャップ層7cの厚みt7cに対するキャップ表層7c1の厚みt7c1の割合の平均値よりも、低くてもよい。
例えば、キャップ層7cのうち、一対の1/4点Bどうしの間の部分(すなわち、一方の1/4点Bから他方の1/4点Bまでの部分)における、キャップ層7cの厚みt7cに対するキャップ表層7c1の厚みt7c1の割合の平均値が、40~55%であり、また、キャップ層7cのうち、一対の1/4点Bと一対の接地端TEのタイヤ幅方向位置Dとの間の一対の部分(すなわち、タイヤ赤道面CLに対する両側において、1/4点Bから接地端TEのタイヤ幅方向位置Dまでの部分)における、キャップ層7cの厚みt7cに対するキャップ表層7c1の厚みt7c1の割合の平均値が、65~75%であってもよい。
一般的に、タイヤの転動中における発熱量は、ショルダー側よりもセンター側のほうが大きい傾向がある。したがって、上記のようにした場合、キャップ中間層7c2の厚みt7c2の割合をショルダー側よりもセンター側において高くするので、より発熱量が大きい部分に比較的耐発熱性の良いキャップ中間層7c2の割合を多くし、ひいては、耐発熱性を効率的に向上できるとともに、ショルダー側においては、耐摩耗性の良いキャップ表層7c1の割合を多くすることで、耐摩耗性を効率的に向上できる。これにより、耐摩耗性及び耐発熱性をより高い次元で両立できる。
また、キャップ層7cのうち、一対の1/4点Bどうしの間の部分(すなわち、一方の1/4点Bから他方の1/4点Bまでの部分)における、キャップ層7cの厚みt7cに対するキャップ表層7c1の厚みt7c1の割合の平均値が、30~60%であり、また、キャップ層7cのうち、一対の1/4点Bと一対の接地端TEのタイヤ幅方向位置Dとの間の一対の部分(すなわち、タイヤ赤道面CLに対する両側において、1/4点Bから接地端TEのタイヤ幅方向位置Dまでの部分)における、キャップ層7cの厚みt7cに対するキャップ表層7c1の厚みt7c1の割合の平均値が、50~75%であってもよい。
【0043】
なお、トレッドゴム7に設けられる各溝g(
図2)のうち最も溝深さが深い溝gの溝底(溝gのタイヤ径方向最内端)は、
図2に示すように、キャップ層7c内に位置していると好適であり、キャップ中間層7c2内に位置しているとより好適である。サイプについても同様である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明に係る重荷重用タイヤは、任意の種類の重荷重用タイヤに好適に利用でき、特に建築・鉱山車両用タイヤ(オフザロードタイヤ)に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0045】
1:重荷重用タイヤ(タイヤ)、
1a:トレッド部、 1b:サイドウォール部、 1c:ビード部、
2:トレッド踏面、
4a:ビードコア、 4b:ビードフィラー、
5:カーカス、 5a:カーカスプライ、
6:ベルト、 6a:ベルト層、
7:トレッドゴム、 7c:キャップ層、 7c1:キャップ表層、 7c2:キャップ中間層、 7b:ベース層、
8:サイドゴム、
9:インナーライナー、
CL:タイヤ赤道面、 TW:接地幅、 TE:接地端、
A:1/8点、 B:1/4点、 C:3/8点、 D:接地端のタイヤ幅方向位置、
X:解析対象部、
g:溝