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特開2024-27461抗ウイルス性樹脂組成物、抗ウイルス用成形品及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027461
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】抗ウイルス性樹脂組成物、抗ウイルス用成形品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20240222BHJP
   C08K 3/015 20180101ALI20240222BHJP
【FI】
C08L69/00
C08K3/015
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022130262
(22)【出願日】2022-08-17
(71)【出願人】
【識別番号】396001175
【氏名又は名称】住化ポリカーボネート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】弁理士法人小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長尾 厚史
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AA00X
4J002BC03X
4J002BC06X
4J002BG06X
4J002BG10X
4J002BN13X
4J002BN15X
4J002BN16X
4J002CF00X
4J002CG01W
4J002CG03W
4J002CH07X
4J002DA076
4J002DD076
4J002DM006
4J002ED058
4J002EH078
4J002EH098
4J002EH148
4J002EJ018
4J002EJ028
4J002EJ038
4J002EJ048
4J002EL098
4J002EN108
4J002EQ028
4J002EU188
4J002EV078
4J002EW067
4J002EW128
4J002FB076
4J002FD078
4J002FD137
4J002FD206
(57)【要約】
【課題】本発明の抗ウイルス性樹脂組成物は、耐熱性、熱安定性、機械的強度、良外観、抗ウイルス性をバランス良く兼備する樹脂組成物を提供する。
【解決手段】芳香族ポリカーボネート樹脂を必須の樹脂成分(A)とする抗ウイルス性樹脂組成物であって、樹脂成分(A)100重量部に対し、金属系抗ウイルス剤(B)を0.4~10重量部、および酸化防止剤(C)を5重量部まで含有することを特徴とする、抗ウイルス性樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリカーボネート樹脂を必須の樹脂成分(A)とする抗ウイルス性樹脂組成物であって、樹脂成分(A)100重量部に対し、金属系抗ウイルス剤(B)を0.4~10重量部、および酸化防止剤(C)を5重量部まで含有することを特徴とする、抗ウイルス性樹脂組成物。
【請求項2】
前記樹脂組成物中のAgの濃度が2000ppm以上である、請求項1記載の抗ウイルス性樹脂組成物。
【請求項3】
前記樹脂組成物中のリン元素Pの含有量が100ppm以上である、請求項1記載の抗ウイルス性樹脂組成物。
【請求項4】
前記樹脂成分(A)が、芳香族ポリカーボネート樹脂(A1)40~100重量%および芳香族ポリカーボネート樹脂(A1)以外の熱可塑性樹脂(A2)0~60重量%からなる、請求項1記載の抗ウイルス性樹脂組成物。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂(A2)が、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、ポリスチレン樹脂、メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・アクリレート共重合体、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、およびポリエステル樹脂から選ばれる少なくとも1種である、請求項1記載の抗ウイルス性樹脂組成物。
【請求項6】
前記金属系抗ウイルス剤(B)が、Ag化合物、Mo化合物、Cu化合物、W化合物、およびTi化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1記載の抗ウイルス性樹脂組成物。
【請求項7】
酸化防止剤(C)が、リン系酸化防止剤および/またはフェノール系酸化防止剤である、請求項1記載の抗ウイルス性樹脂組成物。
【請求項8】
前記リン系酸化防止剤が、下記亜リン酸エステル構造を有する亜リン酸エステル化合物および/またはリン酸を含有する、請求項7記載の抗ウイルス性樹脂組成物。
【化1】
【請求項9】
請求項1記載の抗ウイルス性樹脂組成物からなる抗ウイルス用成形品。
【請求項10】
前記成形品が、射出成形品または押出成形品である、請求項9記載の抗ウイルス用成形品。
【請求項11】
請求項1記載の抗ウイルス性樹脂組成物を成形することを含む、抗ウイルス用成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウイルス性樹脂組成物、抗ウイルス用成形品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ウイルス等の病原体を媒介とした感染症が短時間で急激に広がり、地理的に広い範囲の世界的流行、非常に多くの数の感染者や患者を発生する流行、いわゆるパンデミック(感染爆発)が問題になっており、重症呼吸器感染症(SARS)ウイルス、鳥インフルエンザウイルス、口蹄疫ウイルス、新型インフルエンザウイルス等のウイルス病がヒトに対して感染する恐れがあり社会的問題となっている。現在では、全世界的な新型コロナウイルスが蔓延しており、それをベースに変異した強毒株の出現によるパンデミックも問題となりつつある。このため、こうしたパンデミックへの対策を講じるためにも、日常生活に必要な抗ウイルス性を示す材料や、抗ウイルス性を付与できる材料の開発が望まれている。
【0003】
実際、様々なウイルスに対して抗ウイルス活性を発揮する日用品に加え、様々な抗ウイルス製品の開発が急ピッチで活発に行われており、抗ウイルス活性を有する金属化合物や有機化合物からなる抗ウイルス剤を含む樹脂等の開発が進められている。
【0004】
例えば、特許文献1は、バインダー樹脂中に無機系金属化合物である亜酸化銅が分散された抗ウイルスコーティング剤組成物を基剤にコートした抗ウイルス性部材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2014/132606号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の樹脂組成物は、気温変化に影響を受け熱安定性や機械的強度等が不足する課題が有った。このため、市場では気温変化にも耐えられるよう熱安定性に優れ、機械的強度等の特性が損なわれることがなく、しかも、良外観で高い抗ウイルス活性を備える樹脂組成物が求められている。
【0007】
本発明は、熱安定性に優れ、機械的強度等の特性が損なわれることがなく、良外観で高い抗ウイルス性を備える樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、かかる課題を解決するために鋭意検討を行った結果、芳香族ポリカーボネート樹脂を必須の樹脂成分(A)とする抗ウイルス性樹脂組成物であって、樹脂成分(A)100重量部に対し、金属系抗ウイルス剤(B)を0.4~10重量部、および酸化防止剤(C)を5重量部まで含有することを特徴とする、抗ウイルス性樹脂組成物が、耐熱性、機械的強度、抗ウイルス性及び良い外観をバランス良く兼備することを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、芳香族ポリカーボネート樹脂を必須とする樹脂成分(A)に対し、金属系抗ウイルス剤(B)を0.4~10重量部、および酸化防止剤を5重量部まで配合してなることを特徴とする、抗ウイルス性樹脂組成物、及びそれを成形してなる抗ウイルス用成形品及びその製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の抗ウイルス性樹脂組成物は、耐熱性、熱安定性、機械的強度、良外観、抗ウイルス性をバランス良く兼備し、工業的利用価値が極めて高い。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、実施の形態を詳細に説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
【0012】
なお、発明者らは当業者が本発明を充分に理解するために以下の説明を提供するのであって、これらによって請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。
【0013】
本発明の実施形態の樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂を必須の樹脂成分(A)100重量部に対し、金属系抗ウイルス剤(B)を0.4~10重量部、および酸化防止剤(C)を3重量部まで含有することを特徴とする。
【0014】
本発明にて使用される樹脂成分(A)は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A1)を必須とするものである。芳香族ポリカーボネート樹脂(A1)は、種々のジヒドロキシジアリール化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン法、またはジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネートなどの炭酸エステルとを反応させるエステル交換法によって得られる重合体であり、代表的なものとしては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)から製造された芳香族ポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【0015】
上記ジヒドロキシジアリール化合物としては、ビスフェノールAの他に、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル-3-メチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-tert-ブチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-ブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3、5-ジブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジクロロフェニル)プロパンのようなビス(ヒドロキシアリール)アルカン類、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンのようなビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類、4,4′-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4′-ジヒドロキシ-3,3′-ジメチルジフェニルエーテルのようなジヒドロキシジアリールエーテル類、4,4′-ジヒドロキシジフェニルスルフィドのようなジヒドロキシジアリールスルフィド類、4,4′-ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4′-ジヒドロキシ-3,3′-ジメチルジフェニルスルホキシドのようなジヒドロキシジアリールスルホキシド類、4,4′-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4′-ジヒドロキシ-3,3′-ジメチルジフェニルスルホンのようなジヒドロキシジアリールスルホン類等が挙げられる。
【0016】
これらは、単独または2種類以上混合して使用されるが、ハロゲンで置換されていない方が燃焼時に懸念される当該ハロゲンを含むガスの環境への排出防止の面から好ましい。これらの他に、ピペラジン、ジピペリジルハイドロキノン、レゾルシン、4,4′-ジヒドロキシジフェニル等を混合して使用してもよい。
【0017】
さらに、上記のジヒドロキシアリール化合物と以下に示すような3価以上のフェノール化合物を混合使用してもよい。3価以上のフェノールとしてはフロログルシン、4,6-ジメチル-2,4,6-トリ-(4-ヒドロキシフェニル)-ヘプテン、2,4,6-ジメチル-2,4,6-トリ-(4-ヒドロキシフェニル)-ヘプタン、1,3,5-トリ-(4-ヒドロキシフェニル)-ベンゾール、1,1,1-トリ-(4-ヒドロキシフェニル)-エタンおよび2,2-ビス-[4,4-(4,4′-ジヒドロキシジフェニル)-シクロヘキシル]-プロパンなどが挙げられる。
【0018】
ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量には特に制限はないが、成形加工性、強度の面より通常10000~100000、より好ましくは15000~30000、さらに好ましくは17000~26000の範囲である。また、かかるポリカーボネート樹脂を製造するに際し、分子量調整剤、触媒等を必要に応じて使用することができる。上記粘度平均分子量は、ポリカーボネート樹脂を塩化メチレンを溶媒として0.5重量%の溶液とし、キャノンフェンスケ型粘度管を用い温度20℃で比粘度(ηsp)を測定し、濃度換算により極限粘度〔η〕を求め下記のSCHNELLの式から算出した。
〔η〕=1.23×10-40.83
【0019】
本発明にて使用される芳香族ポリカーボネート樹脂(A1)以外の他の熱可塑性樹脂(A2)は、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS)、ポリスチレン樹脂、メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン共重合体(MBS)、アクリルニトリル・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・アクリレート共重合体(ASA)、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂(PMMA)、およびポリエステル樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種である。これらの中では、ABS樹脂が好ましい。ABS樹脂の例としては、ゴム質重合体の存在下に芳香族ビニル単量体、シアン化ビニル単量体成分がグラフト共重合したグラフト共重合体を含むものが挙げられ、さらに好ましくは塊状重合によって作られるABS樹脂が挙げられる。
【0020】
他の熱可塑性樹脂(A2)の配合量は、ポリカーボネート樹脂(A1)40~100質量部に対して、0~60質量部であることが好ましい。他の熱可塑性樹脂(A2)の配合量が60質量部を超える場合、耐熱性が低下する可能性があるため好ましくない。
【0021】
本発明の実施形態における金属系抗ウイルス剤(B)は、樹脂マトリクス成分に添加されて射出成形又は押出成形等されるため、その分解温度は樹脂成分の溶融温度よりも高いことが求められる。金属系抗ウイルス剤(B)としては、樹脂マトリクス成分の溶融温度(例えば、200℃から350℃)よりも高い分解温度(例えば400℃以上)を有する金属系化合物を含む剤が挙げられる。なかでもインフルエンザウイルスなどのエンベローブ型ウイルス、ネコカリシウイルスなどの非エンベローブウイルスの両方に対して抗ウイルス活性を有するAg化合物(Silver compound)、W化合物(Tungsten compound)、Ti化合物(Titanium compound)、Cu化合物(Copper compound)、Mo化合物(Molybdenum compound)からなる群から選択される1種以上の金属系化合物を含む剤等が挙げられる。これらの金属系化合物を適宜併用してもよい。これらの内、Cu化合物としては、例えば、ヨウ化銅の一価のCu化合物の微粒子としての市販のヨウ化銅(I)粉末と、無機化合物の微粒子を、適量のメタノールに分散後ミルにて解砕・分散した無機化合物で被覆させたヨウ化銅粒子が挙げられる。また、Cu化合物とAg(Agとは銀Ag、銀イオンAg、銀化合物をいう)を含む剤も好ましい。Mo化合物とAgを含む剤も多量のAgを含み得るため好ましい。Mo化合物とAgを含む剤の市販品の例としては、例えば、ネオシントールAV-18F(住化エンバイロメンタルサイエンス(株))が挙げられる。担体に銀イオンを含有させてなる抗ウイルス剤として、興亜硝子社製PG711も挙げられる。また、本発明にて使用される樹脂成分100重量部に対し、金属系抗ウイルス剤(B)を10重量部まで含有し、樹脂組成物に含まれるAgの濃度が2000ppm以上である樹脂組成物が、インフルエンザウイルスなどのエンベローブ型ウイルス、ネコカリシウイルスなどの非エンベローブウイルスの両方に対して抗ウイルス活性を発現することを発明者らは知得している。金属系抗ウイルス剤(B)が、樹脂成分100重量部に対し0.4重量部未満の場合、抗ウイルス性が十分に発現しないため好ましくない。また、金属系抗ウイルス剤(B)が、樹脂成分100重量部に対し10重量部を超えると、造粒時にポリカーボネート樹脂の分子量低下を引き起こし、安定生産に支障をきたしたり、得られた成形品の外観が悪化したりするので好ましくない。
【0022】
本発明にて使用される酸化防止剤(C)としては、リン系酸化防止剤および/またはフェノール系酸化防止剤である。これらの中でリン系酸化防止剤としては、下記亜リン酸エステル構造を有する亜リン酸エステル化合物及び/又はリン酸が好ましい。亜リン酸エステル化合物としては、例えば、下記一般式(1)、(2)、(3)及び(4)で表わされる化合物のうち1種または2種以上を用いることができる。
【化1】
【0023】
一般式(1):
【化2】
(式中、Rは、炭素数1~20のアルキル基を示し、aは、0~3の整数を示す)
【0024】
式(1)において、Rは、炭素数1~20のアルキル基であるが、さらには、炭素数1~10のアルキル基であることが好ましい。
【0025】
一般式(1)で表される化合物としては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト等が挙げられる。これらの中でも、特にトリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイトが好適であり、例えば、BASF社製のイルガフォス168(「イルガフォス」はビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピアの登録商標)として商業的に入手可能である。
【0026】
一般式(2):
【化3】
(式中、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、炭素数5~8のシクロアルキル基、炭素数6~12のアルキルシクロアルキル基、炭素数7~12のアラルキル基又はフェニル基を示す。Rは、水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を示す。Xは、単結合、硫黄原子又は式:-CHR-(ここで、Rは、水素原子、炭素数1~8のアルキル基又は炭素数5~8のシクロアルキル基を示す)で表される基を示す。Aは、炭素数1~8のアルキレン基又は式:*-COR-(ここで、Rは、単結合又は炭素数1~8のアルキレン基を示し、*は、酸素側の結合手であることを示す)で表される基を示す。Y及びZは、いずれか一方がヒドロキシル基、炭素数1~8のアルコキシ基又は炭素数7~12のアラルキルオキシ基を示し、もう一方が水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を示す。)
【0027】
一般式(2)において、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、炭素数5~8のシクロアルキル基、炭素数6~12のアルキルシクロアルキル基、炭素数7~12のアラルキル基又はフェニル基を示す。
【0028】
ここで、炭素数1~8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、t-ペンチル基、i-オクチル基、t-オクチル基、2-エチルヘキシル基等が挙げられる。炭素数5~8のシクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が挙げられる。炭素数6~12のアルキルシクロアルキル基としては、例えば、1-メチルシクロペンチル基、1-メチルシクロヘキシル基、1-メチル-4-i-プロピルシクロヘキシル基等が挙げられる。炭素数7~12のアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、α-メチルベンジル基、α,α-ジメチルベンジル基等が挙げられる。
【0029】
、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1~8のアルキル基、炭素数5~8のシクロアルキル基又は炭素数6~12のアルキルシクロアルキル基であることが好ましい。特に、R及びRは、それぞれ独立して、t-ブチル基、t-ペンチル基、t-オクチル基等のt-アルキル基、シクロヘキシル基又は1-メチルシクロヘキシル基であることが好ましい。特に、Rは、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、t-ペンチル基等の炭素数1~5のアルキル基であることが好ましく、メチル基、t-ブチル基又はt-ペンチル基であることがさらに好ましい。
【0030】
は、水素原子、炭素数1~8のアルキル基又は炭素数5~8のシクロアルキル基であることが好ましく、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、t-ペンチル基等の炭素数1~5のアルキル基であることがさらに好ましい。
【0031】
一般式(2)において、Rは、水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を示す。炭素数1~8のアルキル基としては、例えば、前記R、R、R及びRの説明にて例示したアルキル基が挙げられる。特に、Rは、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基であることが好ましく、水素原子又はメチル基であることがさらに好ましい。
【0032】
一般式(2)において、Xは、単結合、硫黄原子又は式:-CHR-で表される基を示す。ここで、式:-CHR-中のRは、水素原子、炭素数1~8のアルキル基又は炭素数5~8のシクロアルキル基を示す。炭素数1~8のアルキル基及び炭素数5~8のシクロアルキル基としては、例えば、それぞれ前記R、R、R及びRの説明にて例示したアルキル基及びシクロアルキル基が挙げられる。特に、Xは、単結合、メチレン基、又はメチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基等で置換されたメチレン基であることが好ましく、単結合であることがさらに好ましい。
【0033】
一般式(2)において、Aは、炭素数1~8のアルキレン基又は式:*-COR-で表される基を示す。炭素数1~8のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基、2,2-ジメチル-1,3-プロピレン基等が挙げられ、好ましくはプロピレン基である。また、式:*-COR-におけるRは、単結合又は炭素数1~8のアルキレン基を示す。Rを示す炭素数1~8のアルキレン基としては、例えば、前記Aの説明にて例示したアルキレン基が挙げられる。Rは、単結合又はエチレン基であることが好ましい。また、式:*-COR-における*は、酸素側の結合手であり、カルボニル基がフォスファイト基の酸素原子と結合していることを示す。
【0034】
一般式(2)において、Y及びZは、いずれか一方がヒドロキシル基、炭素数1~8のアルコキシ基又は炭素数7~12のアラルキルオキシ基を示し、もう一方が水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を示す。炭素数1~8のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、t-ブトキシ基、ペンチルオキシ基等が挙げられる。炭素数7~12のアラルキルオキシ基としては、例えば、ベンジルオキシ基、α-メチルベンジルオキシ基、α,α-ジメチルベンジルオキシ基等が挙げられる。炭素数1~8のアルキル基としては、例えば、前記R、R、R及びRの説明にて例示したアルキル基が挙げられる。
【0035】
一般式(2)で表される化合物としては、例えば、2,4,8,10-テトラ-t-ブチル-6-〔3-(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)プロポキシ〕ジベンゾ〔d,f〕〔1,3,2〕ジオキサホスフェピン、6-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロポキシ]-2,4,8,10-テトラ-t-ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン、6-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロポキシ]-4,8-ジ-t-ブチル-2,10-ジメチル-12H-ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン、6-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]-4,8-ジ-t-ブチル-2,10-ジメチル-12H-ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン等が挙げられる。これらの中でも、特に光学特性が求められる分野に、ポリカーボネート樹脂組成物を用いる場合には、2,4,8,10-テトラ-t-ブチル-6-〔3-(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)プロポキシ〕ジベンゾ〔d,f〕〔1,3,2〕ジオキサホスフェピンが好適であり、例えば、住友化学(株)製のスミライザーGP(「スミライザー」は登録商標)として商業的に入手可能である。
【0036】
一般式(3):
【化4】
(式中、R及びR10は、それぞれ独立して、炭素数1~20のアルキル基又はアルキル基で置換されていてもよいアリール基を示し、b及びcは、それぞれ独立して、0~3の整数を示す。)
【0037】
一般式(3)で表される化合物としては、例えば、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、フェニルビスフェノールAペンタエリスリトールジフォスファイト等が挙げられる。ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイトは、ADEKA社製、商品名「アデカスタブPEP-24G」として商業的に入手可能である。(株)ADEKA製のアデカスタブPEP-36(「アデカスタブ」は登録商標)が商業的に入手可能である。
【0038】
一般式(4):
【化5】
【0039】
(式中、R11~R18は、それぞれ独立に、炭素数1~3のアルキル基またはアルケニル基を示す。R11とR12、R13とR14、R15とR16、R17とR18とは、互いに結合して環を形成していても良い。R19~R22は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~20のアルキル基を示す。d~gは、それぞれ独立して、0~5の整数である。X~Xは、それぞれ独立に、単結合または炭素原子を示す。X~Xが単結合である場合、R11~R22のうち、当該単結合に繋がった官能基は一般式(4)から除外される)
【0040】
一般式(4)で表される化合物の具体例としては、例えばビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイトが挙げられる。これは、Dover Chemical社製、商品名「Doverphos(登録商標) S-9228」、ADEKA社製、商品名「アデカスタブPEP-45」(ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト)として商業的に入手可能である。
【0041】
また、上記一般式(1)~(4)で表される化合物に代えて、あるいは、上記一般式(1)~(4)で表される何れかの化合物に加えて、下記一般式(5)で表される化合物を使用しても良い。
【0042】
一般式(5):
【化6】
(式中、R23~R26は炭素数1~20のアルキル基、またはアルキル基で置換されてもよいアリール基を示す。)
【0043】
一般式(5)で表される化合物の具体例としては、例えば、[1,1´-ビフェニル]-4,4-ジイルビス[ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェノキシ)フォスフィン]等が挙げられ、例えば、BASF社製のイルガフォスP-EPQ(商品名)、クラリアントジャパン(株)製のサンドスタブP-EPQ(商品名)が商業的に入手可能である。
【0044】
他のリン系酸化防止剤としては、亜リン酸エステル化合物に代えて、あるいは、亜リン酸エステル化合物に加えてリン酸を使用してもよい。リン酸は、不揮発性の弱酸であり、市販品を使用することができ、特に限定されないが、ナカライテスク社製のリン酸、和光純薬製のリン酸などが挙げられる。リン酸は、樹脂成分に対して最大5重量部まで含めることが出来る。好ましくは、3重量部までである。本発明者らは、リン酸を加えると、金属系抗ウイルス剤の配合量を比較的少量とした場合でも、インフルエンザウイルスなどのエンベローブ型ウイルス、ネコカリシウイルスなどの非エンベローブウイルスの両方に対して抗ウイルス活性を発現できることを見出している。
【0045】
リン系酸化防止剤の配合量は、樹脂成分(A)100質量部に対して、5重量部までであることが好ましい。リン系酸化防止剤の配合量がこの範囲を外れる場合、衝撃強度が低下する可能性があるため好ましくない。リン系酸化防止剤の配合量は、好ましくは、0.02~3質量部の範囲である。さらに好ましくは0.05~2質量部である。
【0046】
亜リン酸エステル化合物とリン酸を併用する場合は、亜リン酸エステル化合物0.02~0.8重量部、及びリン酸0.05~2重量部に設定するのが好ましく、この場合、金属系抗ウイルス剤の配合量を少量としつつ、しかも耐熱性、熱安定性、機械的強度、良外観、抗ウイルス性をバランス良く兼備することができる。
【0047】
また、本発明に係る樹脂組成物には、リン系酸化防止剤に代えて、あるいは、リン系酸化防止剤に加えて、フェノール系酸化防止剤を配合しても良い。
【0048】
フェノール系酸化防止剤としては、下記式(6)で表される化合物を挙げることができる。
【0049】
一般式(6):
【化7】
(式中、R27は炭素数1~20のアルキル基、又はアルキル基で置換されてもよいアリール基を示す。)
【0050】
その他のフェノール系酸化防止剤としては、α-トコフェロール、ブチルヒドロキシトルエン、シナピルアルコール、ビタミンE、2-tert-ブチル-6-(3’-tert-ブチル-5’-メチル-2’-ヒドロキシベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート、2,6-ジ-tert-ブチル-4-(N,N-ジメチルアミノメチル)フェノール、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホネートジエチルエステル、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-シクロヘキシルフェノール)、2,2’-ジメチレン-ビス(6-α-メチル-ベンジル-p-クレゾール)2,2’-エチリデン-ビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、2,2’-ブチリデン-ビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、トリエチレングリコール-N-ビス-3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート、1,6-へキサンジオールビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ビス[2-tert-ブチル-4-メチル6-(3-tert-ブチル-5-メチル-2-ヒドロキシベンジル)フェニル]テレフタレート、3,9-ビス{2-[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]-1,1,-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、4,4’-チオビス(6-tert-ブチル-m-クレゾール)、4,4’-チオビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,2’-チオビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、ビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)スルフィド、4,4’-ジ-チオビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、4,4’-トリ-チオビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、2,2-チオジエチレンビス-[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,4-ビス(n-オクチルチオ)-6-(4-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-ブチルアニリノ)-1,3,5-トリアジン、N,N’-ヘキサメチレンビス-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシヒドロシンナミド)、N,N’-ビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ブタン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)イソシアヌレート、トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5-トリス(4-tert-ブチル-3-ヒドロキシ-2,6-ジメチルベンジル)イソシアヌレート、1,3,5-トリス2[3(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エチルイソシアヌレート、及びテトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンなどが例示される。これらはいずれも入手容易である。上記フェノール系酸化防止剤は、単独で又は2種以上を組合せて使用することができる。
【0051】
中でも、上記式(6)で表される化合物であるn-オクタデシル-3-(3',5'-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好適であり、例えば、ADEKA社製、商品名「アデカスタブAO-50」として商業的に入手可能である。
【0052】
フェノール系酸化防止剤の量は、樹脂成分100重量部に対して、0.5重量部までであることが好ましい。
【0053】
本発明の樹脂組成物は、後述する分析手法にて検出できるリン元素Pの総含有量が3ppm以上であることが好ましく、100ppm以上であることがより好ましい。リン元素は、製造原料の不純物や、離型剤の製造触媒、重合時の酸性雰囲気を中和するためのリン酸化合物、リン系触媒としてのリン系化合物に由来するもの等もあるが、安定剤、酸化防止剤等の各種添加剤に含まれるリン系化合物に由来するもの、またはこれらリン系触媒や安定剤の中に不純物として含まれ得るリン系化合物、あるいは製造設備を洗浄する洗浄剤としてのリン系化合物等に由来するもの、金属系抗ウイルス剤の配合量を少なくする効果のあるもの等がある。リン元素Pの総含有量は、多すぎる必要はなく、一定量を超えて添加しても効果は飽和するため、5000ppmまでとするのが好ましい。
【0054】
これらリン元素Pの主たる起源となるリン系化合物の例としては、リン酸化合物、亜リン酸化合物あるいはそのエステルホスホン酸化合物、ホスフィン酸化合物、亜ホスホン酸化合物、亜ホスフィン酸化合物、リン酸など公知のものが該当する。
【0055】
本発明の抗ウイルス性樹脂組成物においては、上述のとおり、樹脂組成物中のリン元素Pの含有量が3~5000ppmであることが好ましく、このような範囲の含有量である場合、総じて樹脂組成物の加水分解が抑制された材料とすることができ、ひいては熱安定性に優れ、機械的強度等の特性が損なわれることがなく、良外観で高い抗ウイルス性を備える樹脂組成物を確実に得ることが出来る。
【0056】
尚、本発明の成形材料中のリン元素Pの含有量は、蛍光X線分析やICP発光分光分析法を用いて測定することができる。
【0057】
本発明にて使用される各種配合成分(A)~(C)の配合方法は特に制限はなく、任意の混合機、例えばタンブラー、リボンブレンダー、高速ミキサー等によりこれらを混合し、通常の一軸または二軸押出機で容易に溶融混練することができる。また、これらの配合順序についても特に制限はない。
【0058】
さらに、実施の形態に係る芳香族ポリカーボネート樹脂組成物には、本発明における効果を損なわない範囲で、例えば、他の熱安定剤、他の酸化防止剤、着色剤、離型剤、軟化剤、帯電防止剤、衝撃性改良剤等の各種添加剤等が適宜配合されていてもよい。
【実施例0059】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。なお、特にことわりがない限り、「部」及び「%」はそれぞれ重量基準である。
【0060】
原料として以下のものを使用した。
1.ポリカーボネート樹脂(A1):
ビスフェノールAとホスゲンから合成されたポリカーボネート樹脂
(住化ポリカーボネート社製 SDポリカ200-13、以下「PC」と略記)
2.他の熱可塑性樹脂(A2):
塊状重合法ABS樹脂
(日本エイアンドエル社製 サンタックAT-05、以下「ABS」と略記)
3.無機系抗ウイルス剤(B):
金属化合物(以下、「化合物B」と略記
ネオシントールAV-18F(住化エンバイロメンタルサイエンス社製)
4.リン系酸化防止剤(C):
4-1.亜リンエステル化合物
以下の式で表される、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイト
【化8】
[BASF社製のイルガフォス(登録商標)168(商品名)、以下「AO1」と略記]
4-2.リン酸
ナカライテスク社製リン酸(HPO)、以下「AO2」と略記
【0061】
(実施例1~8及び比較例1、2)
ペレットの作成方法及び各種評価項目の測定方法等は、以下のとおりである。
【0062】
(樹脂組成物ペレットの作成)
表1に示す配合成分および配合比率にて、所定量の鉱酸を含め各種配合成分をタンブラーで混合し、37mm径の二軸押出機(芝浦機械社製TEM37SS)を用いて、シリンダー温度240度にて溶融混練し、各種ペレットを得た。表1における各成分の配合量の単位は、「重量部」である。
【0063】
(樹脂組成物平板試験片の作成)
得られたペレットをそれぞれ120℃×4時間の条件にて乾燥を行った後、射出成形機(日本製鋼所製J100E2P)を用い、シリンダー設定温度240℃の条件にて縦80mm、横50mm、厚み2mmの平板試験片を作成した。
【0064】
(抗ウイルス性能)
抗ウイルス性試験はISO21702:2019に準じて実施した。具体的には射出成形加工にて得られた平板試験片を50mm×50mmのサイズに切削した後、その試験片を滅菌シャーレ内に置き、0.4mLのウイルス懸濁液を試料上に接種した。供試ウイルスには、エンベローブウイルスとしてインフルエンザウイルスを、非エンベローブウイルスとしてネコカリシウイルスを使用した。その後、試料上に40mm四方のポリエチレンフィルムにより被覆し、このシャーレを恒温恒湿器に所定時間保管し、SCDLP培地により洗い出し、この洗い出し液をEMEM培地により段階希釈を行い、これら希釈液のウイルス感染価V(y)をプラーク測定法にて測定した。なお、評価の基準は、本発明の無機系抗ウイルス剤(C)を含まない樹脂組成物からなる平板試験片1cm当たりのウイルス感染価(PFU/cm)をV(x)とし、以下の式で求められる抗ウイルス活性値が2.0以上であるものを抗ウイルス効果ありと判定した。さらにエンベロープウイルスおよび非エンベロープウイルス両方に効果有りと判定したものを優良(◎)、いずれかのウイルスに効果ありと判定したものを良好(○)、いずれのウイルスにも効果なしと判定したものを不合格(×)とした。
抗ウイルス活性値=log(V(x))-log(V(y))
【0065】
(蛍光X線分析)
射出成形加工で得られた平板試験片を試料室(測定径:20mm)に3枚重ねて入れて蛍光X線分析装置(株式会社リガク製NEX CG)内の測定位置にセットし、測定雰囲気を減圧下(10Pa)、X線出力を50kVとし、FP法にて測定した結果から、装置に付属のソフトウェアで自動計算することによってAg濃度およびリン元素Pの含有量を求めた。
【0066】
(外観の評価)
樹脂組成物の熱安定性を成形品の外観により評価した。具体的に、射出成形加工で得られた平板試験片について、それぞれ外観を目視にて観察した。平板試験片の外観は、次の判断基準で評価した。
優良:◎・・・・成形品表面に発泡、筋状のマーク、色むらが無い。
良好:○・・・・成形品表面に発泡、筋状のマーク、色むらが少し発生。
劣る:×・・・・成形品表面に発泡、筋状のマーク、色むらが著しく発生。
外観(熱安定性)は、上記の優良(◎)および良好(○)を合格とした。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
実施例1~8の樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A1)およびその他の熱可塑性樹脂(A2)からなる樹脂成分100重量部に対し、無機系抗ウイルス剤(B)、および酸化防止剤(C)を特定の割合で含有する。
【0070】
そして、このような芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形した成形品は、抗ウイルス性及び熱安定性に優れる。
【0071】
これに対して、比較例1および2の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形した成形品は、抗ウイルス性及び熱安定性(外観評価)の少なくともいずれかが劣っていた。
【0072】
以上のように本発明における技術の例示として実施の形態を説明した。そのために詳細な説明を提供した。
【0073】
したがって、詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、上記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須ではない構成要素が詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
【0074】
また、上述の実施の形態は、本発明における技術を例示するためのものであるから、特許請求の範囲またはその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略などを行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の抗ウイルス性樹脂組成物は、耐熱性、熱安定性、機械的強度、良外観、抗ウイルス性をバランス良く兼備し、工業的利用価値が極めて高い。