(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027472
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】乗員保護装置
(51)【国際特許分類】
B60R 21/18 20060101AFI20240222BHJP
B60R 21/207 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
B60R21/18
B60R21/207
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022130292
(22)【出願日】2022-08-17
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(72)【発明者】
【氏名】松崎 雄士
(72)【発明者】
【氏名】安田 陽
(72)【発明者】
【氏名】野田 雄斗
(72)【発明者】
【氏名】楠村 拓也
【テーマコード(参考)】
3D054
【Fターム(参考)】
3D054AA02
3D054AA03
3D054AA04
3D054AA07
3D054AA25
3D054CC15
3D054CC34
3D054DD14
3D054FF16
(57)【要約】
【課題】乗員の胸部をソフトに受け止めることが可能な乗員保護装置を提供すること。
【解決手段】シート1に着座した乗員MPを保護するための乗員保護装置Sであって、エアバッグ25と、折り畳まれたエアバッグを収納させて保持する保持体10と、エアバッグに膨張用ガスを供給するインフレーター17と、を備える。エアバッグが、内部に膨張用ガスを流入させて保持体から突出し、乗員の前方を覆うように膨張する構成とされるとともに、膨張完了時に乗員側に配置されて乗員の上半身MUを拘束可能とされる乗員側壁部37を、備える。乗員側壁部が、膨張完了時に上下方向側の中間部位に配置されて乗員の胸部MBを拘束可能とされる胸部拘束領域47bを、胸部拘束領域を間にして上下両側に配設される上側部位47a及び下側部位47cと比較して、左右方向側で狭幅とするように、構成されている。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートに着座した乗員を保護するための乗員保護装置であって、
可撓性を有したシート体から形成される袋状として、折り畳まれて収納されるエアバッグと、
折り畳まれた前記エアバッグを収納させて保持するとともに、前記シートに着座した前記乗員の腰部の前方に配置される保持体と、
前記エアバッグに膨張用ガスを供給するインフレーターと、
を備える構成とされて、
前記エアバッグが、内部に膨張用ガスを流入させて前記保持体から突出し、前記乗員の前方を覆うように膨張する構成とされるとともに、膨張完了時に前記乗員側に配置されて前記乗員の上半身を拘束可能とされる乗員側壁部を、備える構成とされ、
前記乗員側壁部が、膨張完了時に上下方向側の中間部位に配置されて前記乗員の胸部を拘束可能とされる胸部拘束領域を、該胸部拘束領域を間にして上下両側に配設される上側部位及び下側部位と比較して、左右方向側で狭幅とするように、構成されていることを特徴とする乗員保護装置。
【請求項2】
前記乗員側壁部が、前記胸部拘束領域に、屈曲部を配設させて、膨張完了時に、前記上側部位を、前記下側部位に対して、乗員側に突出させるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の乗員保護装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートに着座した乗員を保護するための乗員保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、乗員保護装置としては、シートに着座した乗員の腰部の前方に、保持体に保持させるようにして、折り畳まれたエアバッグを配置させ、このエアバッグを、内部に膨張用ガスを流入させて、保持体から突出させ、乗員の前方を覆うように膨張させる構成のものがあった(例えば、特許文献1参照)。この従来の乗員保護装置では、膨張完了時のエアバッグにおいて、乗員の腹部から頭部にかけての前方を覆うように上下方向に略沿って配置される後面側の領域によって、乗員を保護する構成であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2019/299899号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この従来の乗員保護装置では、膨張完了時のエアバッグにおいて乗員を拘束する後面は、上下方向に略沿って配置される構成であることから、膨張完了時に、頭部よりも先に胸部が、この膨張完了時の後面によって、直ちに受け止められることとなる。しかしながら、従来の乗員保護装置におけるエアバッグが、膨張完了時の後面を広く平面状としていることから、胸部を必要以上に押圧してしまい、ソフトに保護する点に、改善の余地があった。
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するものであり、乗員の胸部をソフトに受け止めることが可能な乗員保護装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る乗員保護装置は、シートに着座した乗員を保護するための乗員保護装置であって、
可撓性を有したシート体から形成される袋状として、折り畳まれて収納されるエアバッグと、
折り畳まれたエアバッグを収納させて保持するとともに、シートに着座した乗員の腰部の前方に配置される保持体と、
エアバッグに膨張用ガスを供給するインフレーターと、
を備える構成とされて、
エアバッグが、内部に膨張用ガスを流入させて保持体から突出し、乗員の前方を覆うように膨張する構成とされるとともに、膨張完了時に乗員側に配置されて乗員の上半身を拘束可能とされる乗員側壁部を、備える構成とされ、
乗員側壁部が、膨張完了時に上下方向側の中間部位に配置されて乗員の胸部を拘束可能とされる胸部拘束領域を、胸部拘束領域を間にして上下両側に配設される上側部位及び下側部位と比較して、左右方向側で狭幅とするように、構成されていることを特徴とする。
【0007】
本発明の乗員保護装置では、エアバッグの膨張完了時に乗員の上半身を拘束する乗員側壁部が、乗員の胸部を拘束可能とされる胸部拘束領域を、上下両側に配置される上側部位及び下側部位と比較して、左右に狭幅に構成されている。換言すれば、本発明の乗員保護装置では、エアバッグの膨張完了状態において、胸部拘束領域の左右方向に沿った断面における膜長が、各上側部位,下側部位の左右方向に沿った断面における膜長よりも、短く設定されることから、エアバッグの膨張完了時に、胸部拘束領域が、上側部位,下側部位に対して部分的に凹むように配置されるような態様となる。そのため、上下の略全域にわたって略同径とするように膨張するエアバッグと比較して、膨張完了時のエアバッグの胸部との接触面積を低減できることから、膨張したエアバッグによって胸部を必要以上に押圧することを抑制できる。
【0008】
したがって、本発明の乗員保護装置では、乗員の胸部をソフトに受け止めることができる。
【0009】
また、本発明の乗員保護装置において、乗員側壁部を、胸部拘束領域に、屈曲部を配設させて、膨張完了時に、上側部位を下側部位に対して乗員側に突出させるような構成とすれば、膨張したエアバッグにおける上側部位が、まず、頭部や肩部と接触することとなり、膨張したエアバッグによって、胸部を押圧することを一層抑制することが可能となって、好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態である乗員保護装置を搭載させたシートの斜視図である。
【
図3】
図1のシートの正面図であり、シートベルトが装着された状態を示す。
【
図4】実施形態の乗員保護装置において使用されるエアバッグを、単体で膨張させた状態を示す概略斜視図である。
【
図7】
図4のエアバッグを構成する基材を並べた平面図である。
【
図8】
図4のエアバッグにおいて、タック部を形成する過程を説明する概略図である。
【
図9】実施形態の乗員保護装置において、エアバッグが膨張を完了させた状態のシートの正面図である。
【
図10】実施形態の乗員保護装置において、エアバッグが膨張を完了させた状態のシートの側面図である。
【
図11】実施形態の乗員保護装置において、膨張を完了させたエアバッグによって、乗員を拘束する状態を示すシートの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。実施形態の乗員保護装置Sは、
図1~3に示すように、車両のシート1に搭載されるもので、エアバッグ25を保持する保持体を構成するシートベルト7と、エアバッグ25と、エアバッグ25に膨張用ガスを供給するインフレーター17と、を備える構成とされている。シート1は、背もたれ部2と座部3とを備えている。なお、実施形態では、前後上下左右の方向は、特に断らない限り、シート1の前後上下左右の方向と一致している。
【0012】
シートベルト7は、実施形態の場合、シート1に搭載されるもので、シート1に着座した乗員MPを拘束するためのベルト本体8と、ベルト本体8に取り付けられるタングプレート12と、タングプレート12を連結させるためのバックル13と、を備える構成とされている。ベルト本体8は、背もたれ部2内に配置される図示しないリトラクタの巻取軸に一端を係止させ、他端側を、シート1における座部3の後端3b左方に配置されるアンカ部材14(
図1,2参照)に係止されている。詳細には、ベルト本体8は、背もたれ部2の上端左縁側から外部に露出されるように配置されるもので、実施形態の場合、乗員MPの非着座状態においては、
図1,2に示すように、エアバッグ25を保持させている保持体としてのラップベルト10を、背もたれ部2の前面に露出されるように、構成されている。詳細には、ラップベルト10は、乗員MPの非着座状態において、
図1に示すように、背もたれ部2の左縁2a側において、上下方向に略沿うようにして、背もたれ部2の前面に露出されている。ベルト本体8は、ラップベルト10と、背もたれ部2内に収納されるショルダーベルト9と、を有し、乗員着座時においてタングプレート12をバックル13に連結させた状態で、アンカ部材14とバックル13との間において左右方向に略沿うように配置されるラップベルト10によって乗員MPの下半身MD(腰部MW)を拘束し、背もたれ部2の上端左縁側から延びつつバックル13にかけて斜めに配置されるショルダーベルト9によって乗員MPの上半身MU(肩部MSから胸部MBにかけて)を拘束する構成とされている(
図3参照)。そして、実施形態の場合、乗員着座時に、シート1に着座した乗員MPの腰部MWの前方に配置されるラップベルト10と、後述するカバー22と、が、折り畳まれたエアバッグ25を収納させて保持する保持体を、構成している。シートベルト7において、背もたれ部2内に配置されている図示しないリトラクタは、プリテンショナー機構を有している。
【0013】
インフレーター17は、シート1に搭載されるもので、詳細には、実施形態の場合、シート1における座面3aよりも下方となる位置に、配設されている。実施形態の場合、インフレーター17は、
図2に示すように、外形形状を略円柱状としたインフレーター本体18(詳細な図示を省略)と、インフレーター本体18から延びてエアバッグ25に膨張用ガスを供給するパイプ部19と、を備えている。パイプ部19は、インフレーター本体18から延びて、先端を、シート1の左方において、座部3と背もたれ部2との境界部位付近に位置させるように、配設されるもので、この先端を、クランプ20を利用して、エアバッグ25における後述する導管部50と接続させる構成とされている(
図10参照)。実施形態の場合、インフレーター17(インフレーター本体18)は、エアバッグ25の膨張に伴うシートベルト7のベルト本体8の引き出しを規制するために、作動開始を、シートベルト7のプリテンショナー機構よりも遅らせるように、設定されている。具体的には、インフレーター17は、シートベルト7のプリテンショナー機構の作動から5ms後に作動するように、設定されている。
【0014】
エアバッグ25は、シートベルト7のラップベルト10を保持体として、ラップベルト10に保持されつつ、長尺状に折り畳まれて、周囲をカバー22に覆われて配置されるもので、具体的には、シートベルト7の装着時におけるラップベルト10の上面側に重ねられるようにして、周囲をカバー22に覆われて、ラップベルト10の領域に配置されている(
図3参照)。換言すれば、実施形態では、エアバッグ25は、ラップベルト10とカバー22との間の隙間に、折り畳まれて収納される構成である。また、
図1に示すような非装着状態においては、エアバッグ25は、背もたれ部2の前面に露出しているラップベルト10の背面側(背もたれ部2側)に、配置されている。カバー22は、可撓性を有したシート体から構成されて、エアバッグ25の展開膨張時に所定箇所を破断されて、エアバッグ25におけるバッグ本体26を突出可能に、構成されている。
【0015】
エアバッグ25は、可撓性を有したシート体から形成される袋状とされるもので、
図4~6に示すように、バッグ本体26と、インフレーター17と接続されてバッグ本体26内に膨張用ガスを流入させる導管部50と、を備えている。
【0016】
バッグ本体26は、実施形態の場合、膨張完了時の外形形状を、
図4,6,10に示すように、軸方向を左右方向に略沿わせるとともに、下端側にかけて前後で幅広とした略三角柱形状としている。また、実施形態では、バッグ本体26は、膨張完了時の上端26a側の部位を、乗員MP側となる後方に向けるように、上下の中間部位で屈曲されるような形状とされている。さらに、実施形態では、バッグ本体26は、前後方向側から見た状態での膨張完了形状を、
図5,9に示すように、上下の中央より下方となる部位を、最も幅広とし、この下側の幅広の部位の上側の領域(上下の中央よりやや下方付近)を、大きくくびれさせるようにして狭幅とし、上端側の部位を、この狭幅の部位よりも幅広とするように、構成されている。すなわち、バッグ本体26は、上下の中央よりやや下方に配置される狭幅部28を間にして、狭幅部28の上下両側に、上側幅広部29と下側幅広部30とを配置させるような構成とされている。狭幅部28は、乗員MPの胸部MBに対応した位置に配置されている(
図9,10参照)。膨張したバッグ本体26の外形形状を詳細に説明すれば、前後方向側から見た状態で、狭幅部28が、下側幅広部30の上側に隣接され、下側幅広部30は、下端(バッグ本体26の前下端26b,後下端26c)側にかけて左右方向の幅寸法を漸減させるような構成とされ、狭幅部28から上端26a側に配置される上側幅広部29にかけては、左右方向側の幅寸法を漸増させるように、構成されている(
図5,9参照)。
【0017】
詳細には、バッグ本体26は、膨張完了時に乗員MP側(後側)に配置される乗員側壁部37と、乗員側壁部37と前後方向側で対向して配置される前壁部32と、膨張完了時の下端側に配置される下壁部33と、膨張完了時に左右方向側で対向して配置される左壁部34,右壁部35と、を有し、乗員側壁部37の上下の中間部位に屈曲部40を配置させて、膨張完了時の上端37a側を乗員MP側(後方)に突出させるように、左右の側方から見て上下の中間部位で屈曲させるように、構成されている。この屈曲部40は、
図5,9に示すように、バッグ本体26における狭幅部28の領域に、形成されている。また、左壁部34と右壁部35とには、内部に流入した余剰の膨張用ガスを排気可能なベントホール42が、形成されている。詳細には、ベントホール42は、左壁部34,右壁部35における上下の中央より下方であって、前縁側となる位置に、形成されている。
【0018】
実施形態のバッグ本体26では、下壁部33の下面33aは、膨張完了時のバッグ本体26により乗員MPの上半身MUを受け止めた際に、乗員MPの大腿部MTと当接して大腿部MTに支持される被支持面45を、構成している(
図10,11参照)。バッグ本体26は、膨張完了時における後下端26c側の部位(下壁部33の後端側の部位)で、連通孔43を介して、導管部50と連通される構成であり、被支持面45は、下壁部33における導管部50よりも前側の領域から、構成されている。下壁部33(被支持面45)は、膨張完了時のバッグ本体26における乗員受止前の状態では、前下がりに傾斜して配置されることとなる(
図10参照)。導管部50とバッグ本体26とを連通させる連通孔43は、実施形態の場合、円形に開口して、左右方向側で2個並設されている(
図4,7参照)。
【0019】
また、実施形態のバッグ本体26において、膨張完了時に乗員MP側に配置される乗員側壁部37は、膨張完了時に乗員MPの上半身MUを拘束可能な上半身拘束領域47を、構成している(
図10参照)。上半身拘束領域47は、バッグ本体26の膨張完了時において上下方向側の中間部位(具体的には、上下の中央より下方となる位置)に、乗員MPの胸部MBを拘束可能な胸部拘束領域47bを配設させ、この胸部拘束領域47bの上側に、乗員MPの頭部MHを拘束する上側部位としての頭部拘束領域47aを配設させ、胸部拘束領域47bの下側に、乗員MPの腹部MAを拘束する下側部位としての腹部拘束領域47cを配設させるように、構成されている(
図5参照)。上半身拘束領域47において、胸部拘束領域47bは、バッグ本体26における狭幅部28に対応した領域から構成され、頭部拘束領域47a及び腹部拘束領域47cは、それぞれ、バッグ本体26における上側幅広部29,下側幅広部30に対応した領域から構成されている(
図5,10参照)。すなわち、上半身拘束領域47は、胸部拘束領域47bを間にして、胸部拘束領域47bの上下両側に、頭部拘束領域47a(上側部位)と腹部拘束領域47c(下側部位)とを配置させるような構成とされ、胸部拘束領域47bは、胸部拘束領域47bを間にして上下両側に配設される頭部拘束領域47a(上側部位)及び腹部拘束領域47c(下側部位)と比較して、左右方向側で狭幅とするように、構成されている。また、上半身拘束領域47(乗員側壁部37)は、前後方向側から見た状態の外形形状を、膨張完了時のバッグ本体26を前後方向側から見た状態の外形形状と略一致させて構成されており、狭幅の胸部拘束領域47bを、幅広の腹部拘束領域47c(下側部位)の上側に隣接させ、腹部拘束領域47c(下側部位)を、下端側にかけて左右方向の幅寸法を漸減させるような構成とし、胸部拘束領域47bから、上端側に配置される幅広の頭部拘束領域47a(上側部位)にかけて、左右方向側の幅寸法を漸増させるように、構成されている(
図5参照)。
【0020】
また、実施形態のバッグ本体26では、上述したごとく、狭幅部28の領域、すなわち、上半身拘束領域47における胸部拘束領域47bに、屈曲部40が、配設され、この屈曲部40によって、バッグ本体26の膨張完了時に、上半身拘束領域47において、頭部拘束領域47a(上側部位,上側幅広部29)が、腹部拘束領域47c(下側部位,下側幅広部30)に対して乗員MP側(後側)に突出するように、配置されることとなる(
図6参照)。屈曲部40は、実施形態の場合、乗員側壁部37を上下方向側で離隔した部位でつまんで相互に結合させるようにして形成されるタック部41の部位から、構成されている。
【0021】
タック部41は、具体的には、乗員側壁部37を構成する後述する乗員側パネル60の上側部位61を平らに展開した状態において、左右方向に略沿った略長円状のタック形成予定部61dの部位(
図7参照)に形成されるもので、
図8に示すように、上側部位61を部分的につまんで二つ折りするようにして、タック形成予定部61dを縫着(結合)させて上側部位61(乗員側壁部37)を相互に結合させることにより、形成されている。タック形成予定部61dは、上側部位61における狭幅部を構成する領域に、配設されている。実施形態の場合、タック部41は、乗員側壁部37の前方(バッグ本体26の内側)に突出するように、形成されるもので(
図6参照)、上述したごとく、膨張完了時のバッグ本体26における狭幅部28の領域であって、上半身拘束領域47における胸部拘束領域47b(乗員MPの胸部MBの前方となる位置)に、配置されることとなる(
図9,10参照)。また、実施形態の場合、タック部41(タック形成予定部61d)は、左右方向側の幅寸法W1を、乗員側壁部37(乗員側パネル60における上側部位61)を平らに展開した状態での狭幅部28(胸部拘束領域47b)を構成する領域の左右方向側の幅寸法W2の1/2程度に、設定されている(
図7参照)。
【0022】
実施形態のバッグ本体26では、単体で膨張させた状態における前後方向に略沿った縦断面において、頭部拘束領域47aと腹部拘束領域47cとの接線相互の交差角度αは、130°程度に、設定されている(
図6参照)。また、バッグ本体26を単体で膨張させた状態での下壁部33(被支持面45)と腹部拘束領域47cとの接線相互の交差角度βは、130°程度に、設定されている(
図6参照)。また、実施形態では、バッグ本体26は、膨張完了時の下端側の前後方向側の幅寸法を、下壁部33の前端(バッグ本体26における前下端26b)を乗員MPの膝MKよりもわずかに後方に位置させるような寸法に設定され、膨張完了時の後端側の上下方向側の幅寸法を、上端26a(乗員側壁部37の上端37aであって、頭部拘束領域47a)を乗員MPの頭部MHの前方に位置させるような寸法に、設定されている(
図10参照)。また、バッグ本体26は、膨張完了時の左右方向側の幅寸法を、シート1の背もたれ部2より小さく、かつ、乗員MPの上半身MUを安定して保護可能に、幅広の領域(上側幅広部29や下側幅広部30)を、上半身MUと略同等とするように、構成されている(
図9参照)。実施形態の場合、バッグ本体26の膨張完了時において、上側幅広部29(頭部拘束領域47a)と下側幅広部30(腹部拘束領域47c)とは、左右方向側の幅寸法を略同等とするように、構成され、狭幅部28(胸部拘束領域47b)は、左右方向側の幅寸法を、上側幅広部29(頭部拘束領域47a)及び下側幅広部30(腹部拘束領域47c)の3/5程度に、設定されている(
図5,9参照)。
【0023】
導管部50は、バッグ本体26から左方に延びるように構成されるもので、先端側を開口させた略筒状として、インフレーター17のパイプ部19と接続される構成とされている。この導管部50は、エアバッグ25の膨張完了時に、ラップベルト10に略沿うように左右方向に略沿って配置されるもので、バッグ本体26の下面側に配置される元部側部位51を、バッグ本体26の左方に配置されてインフレーター17と接続される先端側部位52よりも、幅広として構成されている。導管部50は、元部側部位51において、連通孔43によって、バッグ本体26と連通されている。実施形態のエアバッグ25は、この導管部50における元部側部位51を、直接、ラップベルト10に縫着させることにより、ラップベルト10に取り付けられている(
図6参照)。また、導管部50は、上下方向側で対向して配置される上壁部54,下壁部55を、備える構成であり、具体的には、下壁部55の元部側の領域(元部側部位51を構成している領域)を、縫合糸を用いて、ラップベルト10に縫着されている。実施形態の場合、ラップベルト10と導管部50とを縫着させる縫合部位57は、ラップベルト10の長さ方向に略沿った二重線状に、形成されている(
図4,7参照)。
【0024】
実施形態のエアバッグ25は、所定形状の基布の周縁相互を結合させて構成されるもので、実施形態の場合、
図7に示すように、バッグ本体26を構成する乗員側パネル60及び前側パネル65と、導管部50を構成する2枚の導管部用パネル67,68と、から構成されている。これらの乗員側パネル60,前側パネル65,導管部用パネル67,68は、それぞれ、ポリエステル糸やポリアミド糸等からなる可撓性を有した織布から形成されている。
【0025】
乗員側パネル60は、膨張完了時に乗員MP側に配置されて、主に乗員側壁部37から下壁部33にかけての部位を、構成している。具体的には、乗員側パネル60は、主に乗員側壁部37を構成する上側部位61と、主に下壁部33を構成する下側部位62と、を備えており、上側部位61と下側部位62とをバッグ本体26の後下端26c側を構成する部位で連結させたような外形形状とされている。上側部位61は、乗員側壁部37と、左壁部34,右壁部35における後側の領域と、を構成している。この上側部位61は、平らに展開した状態において、下端61f付近を最も幅広とし、この幅広の部位の直上の領域を狭幅として、上端61e側にかけて幅寸法を僅かに漸増させるように、構成されている。具体的には、平らに展開した状態での上側部位61における上端61e側の部位(膨張完了時のバッグ本体26における上側幅広部29(頭部拘束領域47a)を構成する部位)の左右方向側の幅寸法W3は、
図7に示すように、最も狭幅とされている狭幅部28(胸部拘束領域47b)を構成する部位の左右方向側の幅寸法W2の9/8程度に設定されるとともに、下端61f側の部位(膨張完了時のバッグ本体26における下側幅広部30(腹部拘束領域47c)を構成する部位)の左右方向の幅寸法W4よりも小さく設定されている。上側部位61における下端61f側の部位の左右方向側の幅寸法W4は、狭幅部28(胸部拘束領域47b)を構成する部位の左右方向側の幅寸法W2の3/2程度に設定されている。下側部位62は、下壁部33と、左壁部34,右壁部35における下側の領域と、を構成している。下側部位62は、平らに展開した状態での外形形状を、上側部位61側を、左右方向側の幅寸法を上側部位61の下端61f側の左右方向側の幅寸法と略一致させるように、最も幅広として、前縁62cにかけて幅寸法を漸減させるような略台形状とされている。
【0026】
前側パネル65は、膨張完了時のバッグ本体26において主に前壁部32の部位(具体的には、前壁部32と、左壁部34,右壁部35における前側の領域)を構成するもので、平らに展開した状態の外形形状を、乗員側パネル60において上側部位61と下側部位62とを連結させている連結部位60aの左右に配置される下左縁61a,後左縁62a相互、下右縁61b,後右縁62b相互を、それぞれ結合させた残りの縁部(上縁61c,前縁62c)相互を離隔させるように開いた状態の下側部位62及び上側部位61と、略一致させるように、構成されている。
【0027】
前側パネル65と乗員側パネル60とは、それぞれ、左右対称形とされている。そして、実施形態のバッグ本体26は、前側パネル65の外周縁65aと、上述したごとく下左縁61a,後左縁62a相互、下右縁61b,後右縁62b相互をそれぞれ結合させた状態の乗員側パネル60における上縁61c,前縁62cと、を結合させることにより、袋状とされている。
【0028】
2枚の導管部用パネル67,68は、外形形状を同一とされるもので、導管部50における上壁部54と下壁部55とを、それぞれ構成している。
【0029】
実施形態の乗員保護装置Sでは、車両に搭載されたシート1にシートベルト7を装着しつつ乗員MPが着座した状態で、インフレーター17が作動すれば、インフレーター17から吐出される膨張用ガスが、導管部50を経てバッグ本体26内に流入することとなり、エアバッグ25におけるバッグ本体26が、カバー22を破断させるようにして、ラップベルト10から前上方に突出しつつ、
図3の二点鎖線及び
図9,10に示すように、膨張を完了させることとなる。
【0030】
そして、実施形態の乗員保護装置Sでは、エアバッグ25の膨張完了時に乗員MPの上半身MUを拘束する乗員側壁部37が、乗員MPの胸部MBを拘束可能とされる胸部拘束領域47bを、上下両側に配置される上側部位としての頭部拘束領域47a及び下側部位としての腹部拘束領域47cと比較して、左右に狭幅に構成されている(
図9参照)。換言すれば、実施形態の乗員保護装置Sでは、エアバッグ25(バッグ本体26)の膨張完了状態において、胸部拘束領域47bの左右方向に沿った断面における膜長が、各頭部拘束領域47a,腹部拘束領域47cの左右方向に沿った断面における膜長よりも、短く設定されることから、エアバッグ25の膨張完了時に、胸部拘束領域47bが、頭部拘束領域47a,腹部拘束領域47cに対して部分的に凹むように配置されるような態様となる。そのため、上下の略全域にわたって略同径とするように膨張するエアバッグと比較して、膨張完了時のエアバッグ25の胸部MBとの接触面積を低減できることから、膨張したエアバッグ25によって胸部MBを必要以上に押圧することを抑制できる。
【0031】
したがって、実施形態の乗員保護装置Sでは、乗員MPの胸部MBをソフトに受け止めることができる。
【0032】
特に、実施形態の乗員保護装置Sでは、膨張完了時のバッグ本体26において、胸部拘束領域47bに対応する部位が、狭幅部28として、頭部拘束領域47a(上側部位)に対応する部位である上側幅広部29、及び、腹部拘束領域47c(下側部位)に対応する部位である下側幅広部30よりも狭幅に構成されている。すなわち、実施形態の乗員保護装置Sでは、膨張を完了させたバッグ本体26自体が、上下で部分的に幅寸法を異ならせるように、構成されている。さらに、実施形態の乗員保護装置Sでは、このようなバッグ本体26自体の膨張完了時の凹凸形状を、乗員側パネル60を構成する上側部位61と、前側パネル65と、の対応する縁部(上縁61c,外周縁65c)に凹凸を設け、乗員側パネル60と前側パネル65との対応する縁部(上縁61c,前縁62c,外周縁65c)を平面的に結合させることにより、構成されている。そのため、膨張を完了させたバッグ本体26において、胸部拘束領域47bの頭部拘束領域47a,腹部拘束領域47cに対する狭幅の状態(狭幅部28の上側幅広部29,下側幅広部30に対する左右方向側で凹んだ状態)を、安定して確保することができる。
【0033】
また、実施形態の乗員保護装置Sでは、乗員側壁部37が、胸部拘束領域47bに、屈曲部40を配設させて、膨張完了時に、上側部位としての頭部拘束領域47aを、下側部位としての腹部拘束領域47cに対して乗員MP側に突出させるように、構成されている(
図10参照)。そのため、エアバッグ25の膨張完了時に、
図11に示すように、膨張したバッグ本体26における頭部拘束領域47a(上側部位)が、まず、頭部MHや肩部MS(実施形態の場合、頭部MH)と接触することとなり、膨張したエアバッグ25によって、胸部MBを押圧することを一層抑制することができる。具体的には、実施形態の乗員保護装置Sでは、胸部拘束領域47bにタック部41を設けることにより、乗員側壁部37を屈曲させ、頭部拘束領域47aを、腹部拘束領域47cに対して乗員MP側に突出させる構成とされている。なお、このような点を考慮しなければ、乗員側壁部を屈曲させず、上側部位(頭部拘束領域)を下側部位(腹部拘束領域)に対して突出させないような構成としてもよい。
【0034】
なお、実施形態の乗員保護装置Sでは、エアバッグ25を保持させる保持体として、シートベルト7のラップベルト10を利用しているが、エアバッグを保持させる保持体は、ラップベルトに限定されるものではなく、例えば、シートベルトとは別体の保持体を設け、この保持体に、エアバッグを保持させる構成としてもよい。実施形態の乗員保護装置Sでは、シートベルト7のラップベルト10にエアバッグ25を保持させる構成であるものの、インフレーター17が、シートベルト7のプリテンショナー機構の作動よりも遅れて(5ms程度)作動することから、シートベルト7により乗員MPのシート1に対する着座状態を、安定して維持させた状態で、エアバッグ25を膨張させることができ、エアバッグ25とシートベルト7とにより、乗員MPを安定して保護することができる。
【0035】
また、実施形態の乗員保護装置Sでは、シートベルト7とインフレーター17とが、シート1に搭載される構成とされている。そのため、シート1を前後で大きくスライドさせたり回転させたりして、車両に対して移動させた状態で使用する場合にも、シート1に着座した乗員MPを、エアバッグ25によって的確に保護することができる。もちろん、本発明の乗員保護装置は、このような構成のシート1に限定されるものではなく、リトラクタを車体側に設けたシートベルトにより乗員を拘束するタイプのシートに搭載することもできる。また、インフレーターも、車両のボディ側に取り付ける構成としてもよい。
【符号の説明】
【0036】
1…シート、7…シートベルト、10…ラップベルト(保持体)、17…インフレーター、25…エアバッグ、26…バッグ本体、37…乗員側壁部、40…屈曲部、47…上半身拘束領域、47a…頭部拘束領域(上側部位)、47b…胸部拘束領域、47c…腹部拘束領域(下側部位)、MP…乗員、MU…上半身、MB…胸部、S…乗員保護装置。