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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027485
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】剥落防止構造
(51)【国際特許分類】
   E21D 11/00 20060101AFI20240222BHJP
   E04G 21/30 20060101ALI20240222BHJP
   E04G 21/24 20060101ALI20240222BHJP
   E21D 11/15 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
E21D11/00 Z
E04G21/30 A
E04G21/24 A
E21D11/15
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022130308
(22)【出願日】2022-08-17
(71)【出願人】
【識別番号】000129758
【氏名又は名称】株式会社ケー・エフ・シー
(74)【代理人】
【識別番号】100109243
【弁理士】
【氏名又は名称】元井 成幸
(72)【発明者】
【氏名】大久保 教典
【テーマコード(参考)】
2D155
【Fターム(参考)】
2D155AA02
2D155BA05
2D155BB02
2D155GB12
2D155HA04
2D155KB11
2D155LA06
(57)【要約】
【課題】 落防止シートを取り付ける押さえ金具と拡径アンカーがコンクリート構造物から脱落することを防止できる。
【解決手段】剥落防止シート2がコンクリート構造物100の取付面101に略沿うように敷設され、正面板11と背面板12を有する押さえ金具1が、背面板12を取付面101側にして落防止シート2の幅方向の両端縁付近を挟み込むように設けられ、且つ落防止シート2の幅方向の端縁の縦保形材221のそれぞれが正面板11の張出段差部14に収容され、正面貫通穴16と背面貫通穴17を通して拡径アンカー3がコンクリート構造物100に打設され、拡径アンカー3に螺合されたナット4で押さえ金具1が取付面101側に押圧され、この押さえ金具1で縦保形材221が取付面101側に押圧されて剥落防止シート2が取り付けられている剥落防止構造。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正面板から折返部で折り返されて背面板が設けられ、前記正面板の折返部に隣接して張出段差部が形成され、拡径状態の拡径アンカーが抜け出し不能な前記正面板の正面貫通穴と前記背面板の背面貫通穴が対応する位置に設けられている押さえ金具と、
網状のメッシュシートに格子状の保形体が重ねられて固定され、幅方向の両端縁に沿って前記保形体の縦保形材がそれぞれ設けられている剥落防止シートとを備え、
前記剥落防止シートがコンクリート構造物の取付面に略沿うように敷設され、
前記押さえ金具が、前記背面板を前記取付面側にして前記&#21085;落防止シートの幅方向の両端縁付近を挟み込むように設けられ、且つ幅方向の端縁の縦保形材のそれぞれが前記張出段差部に収容され、
前記押さえ金具の前記正面貫通穴と前記背面貫通穴を通して前記拡径アンカーが前記コンクリート構造物に打設され、
前記拡径アンカーに螺合されたナットで前記押さえ金具が前記取付面側に押圧され、前記押さえ金具で前記端縁の縦保形材が前記取付面側に押圧されて前記剥落防止シートが取り付けられていることを特徴とする剥落防止構造。
【請求項2】
前記押さえ金具の前記折返部と逆側の前記正面板の端部周辺に別の張出段差部が形成され、
前記&#21085;落防止シートの前記端縁の縦保形材の内側に所定間隔を開けて別の縦保形材が設けられ、
前記別の縦保形材が前記別の張出段差部に押圧されて収容されることを特徴とする請求項1記載の&#21085;落防止構造。
【請求項3】
前記押さえ金具の前記正面貫通穴が丸穴、前記背面貫通穴が前記&#21085;落防止シートの幅方向に長い長穴であり、
前記正面貫通穴の径と、前記背面貫通穴の短径とが、前記拡径アンカーの拡径時の外径よりも小さく形成されていることを特徴とする請求項1記載の&#21085;落防止構造。
【請求項4】
前記&#21085;落防止シートの前記保形体が前記メッシュシートの両面の対応位置に配置されて固定され、
前記両面に設けられた前記端縁の縦保形材が押圧状態で収容される高さで前記張出段差部が形成されていることを特徴とする請求項1~3の何れかに記載の&#21085;落防止構造。
【請求項5】
網状のメッシュシートに格子状の保形体が重ねられて固定され、幅方向の両端縁に沿って前記保形体の縦保形材がそれぞれ設けられている剥落防止シートが、コンクリート構造物の取付面に略沿うように敷設される&#21085;落防止構造で、前記&#21085;落防止シートの幅方向の両端縁付近を挟み込むように設けられて前記&#21085;落防止シートの取り付けに用いられる押さえ金具であって、
正面板から折返部で折り返されて前記取付面側に配置される背面板が設けられ、
前記&#21085;落防止シートの幅方向の端縁の縦保形材を押圧状態で収容する張出段差部が前記正面板の折返部に隣接して形成され、
前記&#21085;落防止シートの前記端縁の縦保形材の内側に所定間隔を開けて設けられる別の縦保形材を押圧状態で収容する別の張出段差部が前記折返部と逆側の前記正面板の端部に形成され、
前記正面板の正面貫通穴と前記背面板の背面貫通穴が対応する位置に設けられ、
前記正面貫通穴が丸穴、前記背面貫通穴が前記&#21085;落防止シートの幅方向に長い長穴であり、
前記正面貫通穴の径と、前記背面貫通穴の短径とが、前記正面貫通穴と前記背面貫通穴を通してコンクリート構造物に打設される拡径アンカーの拡径時の外径よりも小さく形成されていることを特徴とする押さえ金具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物から剥離した剥片の落下を防止する剥落防止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート構造物の経年劣化した老朽化コンクリートの表面から剥離した剥片の落下を防止する構造として特許文献1の&#21085;落防止構造がある。この&#21085;落防止構造は、網状のメッシュシートの一方の面に重ねられて格子状の保形体が固着されている剥落防止シートのメッシュシートをコンクリート構造物の取付面側に配置して取付面に略沿うように敷設し、プレートに挿通したアンカーをコンクリート構造物に打設し、アンカーに螺合したナットで平板状のプレートを取付面側に押圧し、押圧されたプレートで&#21085;落防止シートの保形体を取付面側に押圧するようにして剥落防止シートを取り付けるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-111954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、コンクリート構造物の剥落を防止する&#21085;落防止構造は、老朽化して劣化したコンクリートに設置されることが通常であるため、特許文献1の&#21085;落防止構造のように、劣化したコンクリートに打設したアンカーとナットで平板状のプレートを&#21085;落防止シートに押さえ付ける構成では、場合によっては、打設したアンカーが劣化コンクリートから抜け出てしまい、平板状のプレートがアンカーと供に脱落してしまう危険性がある。
【0005】
本発明は上記課題に鑑み提案するものであって、コンクリート構造物に略沿うように敷設される&#21085;落防止シートを取り付ける押さえ金具と拡径アンカーがコンクリート構造物から脱落することを防止することができる剥落防止構造、及び&#21085;落防止構造に用いられる押さえ金具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の&#21085;落防止構造は、正面板から折返部で折り返されて背面板が設けられ、前記正面板の折返部に隣接して張出段差部が形成され、拡径状態の拡径アンカーが抜け出し不能な前記正面板の正面貫通穴と前記背面板の背面貫通穴が対応する位置に設けられている押さえ金具と、網状のメッシュシートに格子状の保形体が重ねられて固定され、幅方向の両端縁に沿って前記保形体の縦保形材がそれぞれ設けられている剥落防止シートとを備え、前記剥落防止シートがコンクリート構造物の取付面に略沿うように敷設され、前記押さえ金具が、前記背面板を前記取付面側にして前記&#21085;落防止シートの幅方向の両端縁付近を挟み込むように設けられ、且つ幅方向の端縁の縦保形材のそれぞれが前記張出段差部に収容され、前記押さえ金具の前記正面貫通穴と前記背面貫通穴を通して前記拡径アンカーが前記コンクリート構造物に打設され、前記拡径アンカーに螺合されたナットで前記押さえ金具が前記取付面側に押圧され、前記押さえ金具で前記端縁の縦保形材が前記取付面側に押圧されて前記剥落防止シートが取り付けられていることを特徴とする。
これによれば、コンクリート構造物に打設された拡径状態の拡径アンカーが押さえ金具から抜け出し不能になっていると共に、押さえ金具を&#21085;落防止シートの幅方向の端縁付近に略コ字状に挟み込むように設けることにより、コンクリート構造物から拡径状態の拡径アンカーが抜け出して押さえ金具と供に落下することを防止できる。即ち、コンクリート構造物に略沿うように敷設される&#21085;落防止シートを取り付ける押さえ金具と拡径アンカーがコンクリート構造物から脱落することを防止することができる。また、押さえ金具の張出段差部で&#21085;落防止シートの端縁の縦保形材を略コ字状に包み込んだ状態とし、取付面側に押圧することにより、コンクリート構造物の取付面に&#21085;落防止シートを簡単に取り付けることができると共に、&#21085;落防止シートの取付状態をより安定化することができる。
【0007】
本発明の&#21085;落防止構造は、前記押さえ金具の前記折返部と逆側の前記正面板の端部周辺に別の張出段差部が形成され、前記&#21085;落防止シートの前記端縁の縦保形材の内側に所定間隔を開けて別の縦保形材が設けられ、前記別の縦保形材が前記別の張出段差部に押圧されて収容されることを特徴とする。
これによれば、押さえ金具の正面板の端部周辺の別の張出段差部で&#21085;落防止シートの内寄りの別の縦保形材を押圧することにより、&#21085;落防止シートの取付状態をより一層安定化することができる。
【0008】
本発明の&#21085;落防止構造は、前記押さえ金具の前記正面貫通穴が丸穴、前記背面貫通穴が前記&#21085;落防止シートの幅方向に長い長穴であり、前記正面貫通穴の径と、前記背面貫通穴の短径とが、前記拡径アンカーの拡径時の外径よりも小さく形成されていることを特徴とする。
これによれば、拡径アンカーを押さえ金具に挿通する際に、正面側から視認できない&#21085;落防止シートの後側に位置する背面貫通穴の位置ズレの許容範囲を高め、拡径アンカーの正面貫通穴と背面貫通穴への挿入作業を容易化することができる。また、背面貫通穴を長穴とし、その短径を拡径アンカーの拡径時の外径よりも小さく形成することにより、背面板の拡径状態の拡径アンカーの抜け出し不能な構成を確保することができる。
【0009】
本発明の&#21085;落防止構造は、前記&#21085;落防止シートの前記保形体が前記メッシュシートの両面の対応位置に配置されて固定され、前記両面に設けられた前記端縁の縦保形材が押圧状態で収容される高さで前記張出段差部が形成されていることを特徴とする。
これによれば、保形体をメッシュシートの両面の対応位置に配置することにより、&#21085;落防止シートの剛性をより適切な程度に高めて良好な保形性を発揮させ、施工時の取り扱いを容易化することができる。
【0010】
本発明の押さえ金具は、網状のメッシュシートに格子状の保形体が重ねられて固定され、幅方向の両端縁に沿って前記保形体の縦保形材がそれぞれ設けられている剥落防止シートが、コンクリート構造物の取付面に略沿うように敷設される&#21085;落防止構造で、前記&#21085;落防止シートの幅方向の両端縁付近を挟み込むように設けられて前記&#21085;落防止シートの取り付けに用いられる押さえ金具であって、正面板から折返部で折り返されて前記取付面側に配置される背面板が設けられ、前記&#21085;落防止シートの幅方向の端縁の縦保形材を押圧状態で収容する張出段差部が前記正面板の折返部に隣接して形成され、前記&#21085;落防止シートの前記端縁の縦保形材の内側に所定間隔を開けて設けられる別の縦保形材を押圧状態で収容する別の張出段差部が前記折返部と逆側の前記正面板の端部に形成され、前記正面板の正面貫通穴と前記背面板の背面貫通穴が対応する位置に設けられ、前記正面貫通穴が丸穴、前記背面貫通穴が前記&#21085;落防止シートの幅方向に長い長穴であり、前記正面貫通穴の径と、前記背面貫通穴の短径とが、前記正面貫通穴と前記背面貫通穴を通してコンクリート構造物に打設される拡径アンカーの拡径時の外径よりも小さく形成されていることを特徴とする。
これによれば、押さえ金具の正面貫通穴の径と背面貫通穴の短径を打設される拡径アンカーの拡径時の外径よりも小さく形成することにより、コンクリート構造物に打設された拡径状態の拡径アンカーが押さえ金具から抜け出すことを防止できる。更に、押さえ金具を&#21085;落防止シートの幅方向の端縁付近に略コ字状に挟み込むように設け、&#21085;落防止シートの幅方向の端縁の縦保形材を張出段差部で押圧する構成により、コンクリート構造物から拡径状態の拡径アンカーが抜け出して押さえ金具と供に落下することを防止できる。即ち、コンクリート構造物に略沿うように敷設される&#21085;落防止シートを取り付ける押さえ金具と拡径アンカーがコンクリート構造物から脱落することを防止することができる。また、押さえ金具の張出段差部で&#21085;落防止シートの端縁の縦保形材を略コ字状に包み込んだ状態とし、取付面側に押圧するように設置することで、コンクリート構造物の取付面に&#21085;落防止シートを簡単に取り付けることができると共に、&#21085;落防止シートの取付状態をより安定化することができる。また、押さえ金具の正面板の端部の別の張出段差部で&#21085;落防止シートの内寄りの別の縦保形材を押圧することにより、&#21085;落防止シートの取付状態をより一層安定化することができる。また、拡径アンカーを押さえ金具に挿通する際に、正面側から視認できない&#21085;落防止シートの後側に位置する背面貫通穴の位置ズレの許容範囲を高め、拡径アンカーの正面貫通穴と背面貫通穴への挿入作業を容易化することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、コンクリート構造物に略沿うように敷設される&#21085;落防止シートを取り付ける押さえ金具と拡径アンカーがコンクリート構造物から脱落することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明による実施形態の&#21085;落防止構造が設置されたトンネルの斜視図。
図2】(a)は実施形態の&#21085;落防止構造の断面図、(b)は同図(a)の部分拡大図。
図3】実施形態の&#21085;落防止構造で取り付けられた押さえ金具の周辺を示す部分斜視図。
図4】実施形態の&#21085;落防止構造の正面図。
図5】実施形態の&#21085;落防止構造における剥落防止シートへの押さえ金具の取り付けと押さえ金具への拡径アンカーの挿入を説明する斜視説明図。
図6】(a)は実施形態の&#21085;落防止構造における押さえ金具の正面図、(b)はその断面図、(c)はその背面図。
図7】(a)は実施形態の&#21085;落防止構造で用いられるナットの平面図、(b)は同図(a)のナットの正面図、(c)は実施形態の&#21085;落防止構造で用いられる拡径アンカーの正面図、(d)は同図(c)の拡径アンカーの底面図、(e)は同図(a)のナットの断面図、(f)は同図(c)の拡径アンカーの断面図。
図8】(a)、(b)は実施形態の&#21085;落防止構造で用いられる拡径アンカーの拡径を説明する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔実施形態の&#21085;落防止構造〕
本発明による実施形態の&#21085;落防止構造は、例えばトンネルTの劣化した覆工コンクリートのようにコンクリート構造物100の劣化したコンクリート等に設置されるものであり、図1図4に示すように、ステンレス等の金属材で形成されたクリップ形状の押さえ金具1と、&#21085;落防止シート2と、拡径アンカー3と、ナット4を備える。
【0014】
押さえ金具1は、図1図6のように、幅方向の両側端部周辺に段差部を有する正面板11と平板状の背面板12を備え、正面板11から断面視弧状で弾性変形可能に湾曲した折返部13で折り返されるようにして背面板12が設けられている。正面板11には、折返部13に隣接して張出段差部14が形成されていると共に、折返部13と逆側の正面板11の端部周辺に別の張出段差部15が形成されており、正面板11は断面視で縁を有する皿状に形成されている。換言すれば、正面板11の平板状の基部111の幅方向両側に、背面板12と逆側に浮き上がるようにして張出段差部14と別の張出段差部15が形成されている。張出段差部14、15は、それぞれ正面板11の長さ方向に全長に亘って形成され、又、張出段差部14と別の張出段差部15との間隔は、後述する端縁の縦保形材221と別の縦保形材222との間隔に略対応する間隔になっている。
【0015】
押さえ金具1における正面板11の平板状の基部111の略中央と背面板12の略中央には、拡径アンカー3が挿通される正面貫通穴16と背面貫通穴17とが対応する位置に設けられている。本実施形態の押さえ金具1では、正面貫通穴16が丸穴で形成され、丸穴の正面貫通穴16の径が拡径アンカー3の拡径時の外径よりも小さく形成されており、背面貫通穴17が&#21085;落防止シート2の幅方向に長い長穴で形成され、長穴の背面貫通穴17の短径が拡径アンカー3の拡径時の外径よりも小さく形成されている。即ち、正面板11の正面貫通穴16と背面板12の背面貫通穴17は、それぞれ拡径状態の拡径アンカーが抜け出し不能に形成されている。丸穴の正面貫通穴16の直径、長穴の背面貫通穴17の短径は、例えばそれぞれ9mmで形成される。
【0016】
&#21085;落防止シート2は、網状のメッシュシート21と、メッシュシート21に重ねられて固定された格子状の保形体22とから構成され、保形体22は、メッシュシート21の両面の対応位置にそれぞれ配置されて固着されている。メッシュシート21、保形体22の材質、構造は適用可能な範囲で適宜であり、例えばメッシュシート21には、高強度アラミド繊維を基布とし、高強度アラミド繊維の基糸の表面にアクリル樹脂被膜を被覆し、緯糸挿入ラッセル編みしたものを用いると好適であり、又、保形体22には、ガラス繊維に耐アルカリ性を有する熱硬化合成樹脂を含浸させたGFRPで形成したものを用いると好適である。
【0017】
剥落防止シート2は、例えば幅330mmの長方形で形成され、幅方向の両端縁に沿って保形体22の縦保形材221がそれぞれ設けられており、端縁の縦保形材221の内側に所定間隔を開けて別の縦保形材222が設けられている。本実施形態における&#21085;落防止シート2では、端縁の縦保形材221・221がメッシュシート21の両面の対応位置に配置されて固着され、別の縦保形材222がメッシュシート21の両面の対応位置に配置されて固着されている。
【0018】
本実施形態の&#21085;落防止構造における押さえ金具1の取付状態では、両面に設けられた端縁の縦保形材221・221及びメッシュシート21が張出段差部14と背面板12との間に配置され、両面に設けられた別の縦保形材222・222及びメッシュシート21が張出段差部15と背面板12との間に配置される。即ち、両面に設けられた端縁の縦保形材221・221及びメッシュシート21が収容される高さで張出段差部14が形成され、両面に設けられた別の縦保形材222・222及びメッシュシート21が収容される高さで別の張出段差部15が形成されている。
【0019】
本実施形態における拡径アンカー3は、芯棒打込み式アンカーであり、図7に示すように、スリーブ状のアンカー本体31と、アンカー本体31に内挿される芯棒32とから構成される。アンカー本体31には、先端から軸方向に複数のスリット311が切り込まれており、周方向に離間するスリット311で分割された拡張片312が設けられている。拡張片312の内側には傾斜した段差部313が形成されており、芯棒32が打ち込まれて弾頭形の先端部321が段差部313より先端側に入り込むことにより、拡張片312が拡張するようになっている。
【0020】
アンカー本体31の後部の外周面には雄ねじ314が形成されており、又、芯棒32の後端寄りの外周面にはセレーション加工による鋸歯部322が形成されている。拡径アンカー3の拡径後には、鋸歯部322とアンカー本体31の内周面との摩擦接触により、アンカー本体31からの芯棒32の抜け出しが防止される。
【0021】
本実施形態におけるナット4は、図7に示すように、座付きの緩み止めナットである。ナット4には、雌ねじ穴41の座部42と逆側に板バネ43が嵌着されており、図示例では2枚の板バネ43が嵌め込まれている。雌ねじ穴41は、アンカー本体31の雄ねじ314に螺合可能な大きさとピッチで形成され、ナット4は、押さえ金具1が外挿されたアンカー本体31の雄ねじ314に、押さえ金具1の正面板11の後側に位置して螺合される。
【0022】
本実施形態の剥落防止構造を構築する際には、図1のように、例えばトンネルTの覆工コンクリート102の打継目部位103を覆うようにして、コンクリート構造物100の取付面101に剥落防止シート2を配置して敷設する。剥落防止シート2はコンクリート構造物100の取付面101に略沿うように敷設され、図1の例ではトンネルTの覆工コンクリート102の内周面に略沿うように敷設される。&#21085;落防止シート2の配置後には、剥落防止シート2のメッシュシート21を貫通するようにして、コンクリート構造物100の取付面101の所定位置にドリルで穿孔104を形成する(図2参照)。
【0023】
次いで、押さえ金具1を、背面板12を取付面101側にして、&#21085;落防止シート2の幅方向の両端縁付近を略コ字状に挟み込むように設ける(図2図5参照)。この際、押さえ金具1を、正面貫通穴16と背面貫通穴17が穿孔104に対応する位置になるように配置すると共に、押さえ金具1の張出段差部14に、&#21085;落防止シート2の幅方向の端縁の縦保形材221・221が収容されるように配置し、押さえ金具1の張出段差部15に、&#21085;落防止シート2の内寄りの別の縦保形材222・222が収容されるように配置する。また、押さえ金具1は、&#21085;落防止シート2の長さ方向に所定間隔を開けて各端縁に複数個設ける。
【0024】
そして、拡径アンカー3を、それぞれの押さえ金具1の正面貫通穴16と背面貫通穴17を連通させて穿孔104内に挿入し、芯棒32をハンマー5で打ち込んで拡張片312を拡張させ、拡径アンカー3をコンクリート構造物100に打設する(図2図3図8参照)。この剥落防止シート2を貫通する拡径アンカー3を拡径状態にした打設により、押さえ金具1及び剥落防止シート2が取付面101に対して仮固定される。
【0025】
その後、図2図3に示すように、拡径アンカー3の雄ねじ314にナット4を螺合して締め付け、ナット4で押さえ金具1を取付面101側に押圧し、押圧された押さえ金具1で保形体22を取付面101側に押圧するようにして、剥落防止シート2をコンクリート構造物100に取り付ける。換言すれば、押さえ金具1の張出段差部14と背面板12とで端縁の縦保形材221・221及びメッシュシート21を挟み込むように押圧し、押さえ金具1の張出段差部15と背面板12とで別の縦保形材222・222及びメッシュシート21を挟み込むように押圧し、この状態で&#21085;落防止シート2がコンクリート構造物100に取り付けられ、剥落防止構造が構築される。
【0026】
本実施形態の&#21085;落防止構造によれば、コンクリート構造物100に打設された拡径状態の拡径アンカー3が押さえ金具1から抜け出し不能になっていると共に、押さえ金具1を&#21085;落防止シート2の幅方向の端縁付近に略コ字状に挟み込むように設けることにより、コンクリート構造物100から拡径状態の拡径アンカー3が抜け出して押さえ金具1と供に落下することを防止できる。即ち、コンクリート構造物100に略沿うように敷設される&#21085;落防止シート2を取り付ける押さえ金具1と拡径アンカー3がコンクリート構造物100から脱落することを防止することができる。
【0027】
また、押さえ金具1の張出段差部14で&#21085;落防止シート2の端縁の縦保形材221・221を略コ字状に包み込んだ状態とし、取付面101側に押圧することにより、コンクリート構造物100の取付面101に&#21085;落防止シート2を簡単に取り付けることができると共に、&#21085;落防止シート2の取付状態をより安定化することができる。更に、押さえ金具1の正面板11の端部周辺の別の張出段差部15で&#21085;落防止シート2の内寄りの別の縦保形材222・222を押圧することにより、&#21085;落防止シート2の取付状態をより一層安定化することができる。
【0028】
また、押さえ金具1の正面貫通穴16を丸穴、背面貫通穴17を&#21085;落防止シート2の幅方向に長い長穴とし、正面貫通穴16の径と背面貫通穴17の短径とを拡径アンカー3の拡径時の外径よりも小さく形成することにより、拡径アンカー3を押さえ金具1に挿通する際に、正面側から視認できない&#21085;落防止シート2の後側に位置する背面貫通穴17の位置ズレの許容範囲を高め、拡径アンカー3の正面貫通穴16と背面貫通穴17への挿入作業を容易化することができる。また、背面貫通穴17を長穴とし、その短径を拡径アンカー3の拡径時の外径よりも小さく形成することにより、背面板12の拡径状態の拡径アンカー3の抜け出し不能な構成を確保することができる。
【0029】
また、端縁の縦保形材221・221や、別の縦保形材222・222のように、保形体22をメッシュシート21の両面の対応位置に配置することにより、&#21085;落防止シート1の剛性をより適切な程度に高めて良好な保形性を発揮させ、施工時の取り扱いを容易化することができる。
【0030】
〔本明細書開示発明の包含範囲〕
本明細書開示の発明は、発明として列記した各発明、実施形態の他に、適用可能な範囲で、これらの部分的な内容を本明細書開示の他の内容に変更して特定したもの、或いはこれらの内容に本明細書開示の他の内容を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な内容を部分的な作用効果が得られる限度で削除して上位概念化して特定したものを包含する。そして、本明細書開示の発明には下記内容や変形例も含まれる。
【0031】
例えば上記実施形態の&#21085;落防止構造では、芯棒打込み式アンカーの拡径アンカー3を用いたが、本発明における拡径アンカーには、例えばウェッジ式アンカー等のように適用可能な範囲で適宜のものを用いることが可能である。好適には、本発明における拡径アンカーは、アンカー本体の外周面に雄ねじが形成され、アンカー本体の外径と雄ねじのねじ径(呼び径)がほぼ一致しているものが施工性の観点からよい。
【0032】
また、上記実施形態の&#21085;落防止構造では、保形体22をメッシュシート21の両面に固着する構成としたが、保形体がメッシュシートの片面だけに固着されている&#21085;落防止シートを用いて本発明の&#21085;落防止構造を構築することも可能である。
【0033】
また、本発明の&#21085;落防止構造は、脆くなりがちなトンネルTの覆工コンクリート102の打継目部位103を覆うように&#21085;落防止シートを敷設して構築すると特に好適であるが、覆工コンクリート102の打継目部位103でない領域など、コンクリート構造物の適宜の領域に&#21085;落防止シートを敷設して構築することが可能である。また、トンネルTの延長方向等に&#21085;落防止シート2を並べて敷設して本発明の&#21085;落防止構造を構築することも可能である
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、トンネル、橋、塔等の剥片が落下するおそれがある各種のコンクリート構造物、或いは柱、梁、桁、壁、スラブ下面等の剥片が落下するおそれがある各種のコンクリート構造物の一部に設置して利用することができる。
【符号の説明】
【0035】
1…押さえ金具 11…正面板 111…基部 12…背面板 13…折返部 14…張出段差部 15…別の張出段差部 16…正面貫通穴 17…背面貫通穴 2…&#21085;落防止シート 21…メッシュシート 22…保形体 221…端縁の縦保形材 222…別の縦保形材 3…拡径アンカー 31…アンカー本体 311…スリット 312…拡張片 313…段差部 314…雄ねじ 32…芯棒 321…先端部 322…鋸歯部 4…ナット 41…雌ねじ穴 42…座部 43…板バネ 5…ハンマー 100…コンクリート構造物 101…取付面 102…覆工コンクリート 103…打継目部位 104…穿孔 T…トンネル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【手続補正書】
【提出日】2022-08-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正面板から折返部で折り返されて背面板が設けられ、前記正面板の折返部に隣接して張出段差部が形成され、拡径状態の拡径アンカーが抜け出し不能な前記正面板の正面貫通穴と前記背面板の背面貫通穴が対応する位置に設けられている押さえ金具と、
網状のメッシュシートに格子状の保形体が重ねられて固定され、幅方向の両端縁に沿って前記保形体の縦保形材がそれぞれ設けられている剥落防止シートとを備え、
前記剥落防止シートがコンクリート構造物の取付面に略沿うように敷設され、
前記押さえ金具が、前記背面板を前記取付面側にして前記落防止シートの幅方向の両端縁付近を挟み込むように設けられ、且つ幅方向の端縁の縦保形材のそれぞれが前記張出段差部に収容され、
前記押さえ金具の前記正面貫通穴と前記背面貫通穴を通して前記拡径アンカーが前記コンクリート構造物に打設され、
前記拡径アンカーに螺合されたナットで前記押さえ金具が前記取付面側に押圧され、前記押さえ金具で前記端縁の縦保形材が前記取付面側に押圧されて前記剥落防止シートが取り付けられていることを特徴とする剥落防止構造。
【請求項2】
前記押さえ金具の前記折返部と逆側の前記正面板の端部周辺に別の張出段差部が形成され、
前記落防止シートの前記端縁の縦保形材の内側に所定間隔を開けて別の縦保形材が設けられ、
前記別の縦保形材が前記別の張出段差部に押圧されて収容されることを特徴とする請求項1記載の落防止構造。
【請求項3】
前記押さえ金具の前記正面貫通穴が丸穴、前記背面貫通穴が前記落防止シートの幅方向に長い長穴であり、
前記正面貫通穴の径と、前記背面貫通穴の短径とが、前記拡径アンカーの拡径時の外径よりも小さく形成されていることを特徴とする請求項1記載の落防止構造。
【請求項4】
前記落防止シートの前記保形体が前記メッシュシートの両面の対応位置に配置されて固定され、
前記両面に設けられた前記端縁の縦保形材が押圧状態で収容される高さで前記張出段差部が形成されていることを特徴とする請求項1~3の何れかに記載の落防止構造。
【請求項5】
網状のメッシュシートに格子状の保形体が重ねられて固定され、幅方向の両端縁に沿って前記保形体の縦保形材がそれぞれ設けられている剥落防止シートが、コンクリート構造物の取付面に略沿うように敷設される剥落防止構造で、前記落防止シートの幅方向の両端縁付近を挟み込むように設けられて前記落防止シートの取り付けに用いられる押さえ金具であって、
正面板から折返部で折り返されて前記取付面側に配置される背面板が設けられ、
前記落防止シートの幅方向の端縁の縦保形材を押圧状態で収容する張出段差部が前記正面板の折返部に隣接して形成され、
前記落防止シートの前記端縁の縦保形材の内側に所定間隔を開けて設けられる別の縦保形材を押圧状態で収容する別の張出段差部が前記折返部と逆側の前記正面板の端部に形成され、
前記正面板の正面貫通穴と前記背面板の背面貫通穴が対応する位置に設けられ、
前記正面貫通穴が丸穴、前記背面貫通穴が前記落防止シートの幅方向に長い長穴であり、
前記正面貫通穴の径と、前記背面貫通穴の短径とが、前記正面貫通穴と前記背面貫通穴を通してコンクリート構造物に打設される拡径アンカーの拡径時の外径よりも小さく形成されていることを特徴とする押さえ金具。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物から剥離した剥片の落下を防止する剥落防止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート構造物の経年劣化した老朽化コンクリートの表面から剥離した剥片の落下を防止する構造として特許文献1の落防止構造がある。この落防止構造は、網状のメッシュシートの一方の面に重ねられて格子状の保形体が固着されている剥落防止シートのメッシュシートをコンクリート構造物の取付面側に配置して取付面に略沿うように敷設し、プレートに挿通したアンカーをコンクリート構造物に打設し、アンカーに螺合したナットで平板状のプレートを取付面側に押圧し、押圧されたプレートで落防止シートの保形体を取付面側に押圧するようにして剥落防止シートを取り付けるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-111954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、コンクリート構造物の剥落を防止する落防止構造は、老朽化して劣化したコンクリートに設置されることが通常であるため、特許文献1の落防止構造のように、劣化したコンクリートに打設したアンカーとナットで平板状のプレートを落防止シートに押さえ付ける構成では、場合によっては、打設したアンカーが劣化コンクリートから抜け出てしまい、平板状のプレートがアンカーと供に脱落してしまう危険性がある。
【0005】
本発明は上記課題に鑑み提案するものであって、コンクリート構造物に略沿うように敷設される落防止シートを取り付ける押さえ金具と拡径アンカーがコンクリート構造物から脱落することを防止することができる剥落防止構造、及び落防止構造に用いられる押さえ金具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の落防止構造は、正面板から折返部で折り返されて背面板が設けられ、前記正面板の折返部に隣接して張出段差部が形成され、拡径状態の拡径アンカーが抜け出し不能な前記正面板の正面貫通穴と前記背面板の背面貫通穴が対応する位置に設けられている押さえ金具と、網状のメッシュシートに格子状の保形体が重ねられて固定され、幅方向の両端縁に沿って前記保形体の縦保形材がそれぞれ設けられている剥落防止シートとを備え、前記剥落防止シートがコンクリート構造物の取付面に略沿うように敷設され、前記押さえ金具が、前記背面板を前記取付面側にして前記落防止シートの幅方向の両端縁付近を挟み込むように設けられ、且つ幅方向の端縁の縦保形材のそれぞれが前記張出段差部に収容され、前記押さえ金具の前記正面貫通穴と前記背面貫通穴を通して前記拡径アンカーが前記コンクリート構造物に打設され、前記拡径アンカーに螺合されたナットで前記押さえ金具が前記取付面側に押圧され、前記押さえ金具で前記端縁の縦保形材が前記取付面側に押圧されて前記剥落防止シートが取り付けられていることを特徴とする。
これによれば、コンクリート構造物に打設された拡径状態の拡径アンカーが押さえ金具から抜け出し不能になっていると共に、押さえ金具を落防止シートの幅方向の端縁付近に略コ字状に挟み込むように設けることにより、コンクリート構造物から拡径状態の拡径アンカーが抜け出して押さえ金具と供に落下することを防止できる。即ち、コンクリート構造物に略沿うように敷設される落防止シートを取り付ける押さえ金具と拡径アンカーがコンクリート構造物から脱落することを防止することができる。また、押さえ金具の張出段差部で落防止シートの端縁の縦保形材を略コ字状に包み込んだ状態とし、取付面側に押圧することにより、コンクリート構造物の取付面に落防止シートを簡単に取り付けることができると共に、落防止シートの取付状態をより安定化することができる。
【0007】
本発明の落防止構造は、前記押さえ金具の前記折返部と逆側の前記正面板の端部周辺に別の張出段差部が形成され、前記落防止シートの前記端縁の縦保形材の内側に所定間隔を開けて別の縦保形材が設けられ、前記別の縦保形材が前記別の張出段差部に押圧されて収容されることを特徴とする。
これによれば、押さえ金具の正面板の端部周辺の別の張出段差部で落防止シートの内寄りの別の縦保形材を押圧することにより、落防止シートの取付状態をより一層安定化することができる。
【0008】
本発明の落防止構造は、前記押さえ金具の前記正面貫通穴が丸穴、前記背面貫通穴が前記落防止シートの幅方向に長い長穴であり、前記正面貫通穴の径と、前記背面貫通穴の短径とが、前記拡径アンカーの拡径時の外径よりも小さく形成されていることを特徴とする。
これによれば、拡径アンカーを押さえ金具に挿通する際に、正面側から視認できない落防止シートの後側に位置する背面貫通穴の位置ズレの許容範囲を高め、拡径アンカーの正面貫通穴と背面貫通穴への挿入作業を容易化することができる。また、背面貫通穴を長穴とし、その短径を拡径アンカーの拡径時の外径よりも小さく形成することにより、背面板の拡径状態の拡径アンカーの抜け出し不能な構成を確保することができる。
【0009】
本発明の落防止構造は、前記落防止シートの前記保形体が前記メッシュシートの両面の対応位置に配置されて固定され、前記両面に設けられた前記端縁の縦保形材が押圧状態で収容される高さで前記張出段差部が形成されていることを特徴とする。
これによれば、保形体をメッシュシートの両面の対応位置に配置することにより、落防止シートの剛性をより適切な程度に高めて良好な保形性を発揮させ、施工時の取り扱いを容易化することができる。
【0010】
本発明の押さえ金具は、網状のメッシュシートに格子状の保形体が重ねられて固定され、幅方向の両端縁に沿って前記保形体の縦保形材がそれぞれ設けられている剥落防止シートが、コンクリート構造物の取付面に略沿うように敷設される落防止構造で、前記落防止シートの幅方向の両端縁付近を挟み込むように設けられて前記落防止シートの取り付けに用いられる押さえ金具であって、正面板から折返部で折り返されて前記取付面側に配置される背面板が設けられ、前記落防止シートの幅方向の端縁の縦保形材を押圧状態で収容する張出段差部が前記正面板の折返部に隣接して形成され、前記落防止シートの前記端縁の縦保形材の内側に所定間隔を開けて設けられる別の縦保形材を押圧状態で収容する別の張出段差部が前記折返部と逆側の前記正面板の端部に形成され、前記正面板の正面貫通穴と前記背面板の背面貫通穴が対応する位置に設けられ、前記正面貫通穴が丸穴、前記背面貫通穴が前記落防止シートの幅方向に長い長穴であり、前記正面貫通穴の径と、前記背面貫通穴の短径とが、前記正面貫通穴と前記背面貫通穴を通してコンクリート構造物に打設される拡径アンカーの拡径時の外径よりも小さく形成されていることを特徴とする。
これによれば、押さえ金具の正面貫通穴の径と背面貫通穴の短径を打設される拡径アンカーの拡径時の外径よりも小さく形成することにより、コンクリート構造物に打設された拡径状態の拡径アンカーが押さえ金具から抜け出すことを防止できる。更に、押さえ金具を落防止シートの幅方向の端縁付近に略コ字状に挟み込むように設け、落防止シートの幅方向の端縁の縦保形材を張出段差部で押圧する構成により、コンクリート構造物から拡径状態の拡径アンカーが抜け出して押さえ金具と供に落下することを防止できる。即ち、コンクリート構造物に略沿うように敷設される落防止シートを取り付ける押さえ金具と拡径アンカーがコンクリート構造物から脱落することを防止することができる。また、押さえ金具の張出段差部で落防止シートの端縁の縦保形材を略コ字状に包み込んだ状態とし、取付面側に押圧するように設置することで、コンクリート構造物の取付面に落防止シートを簡単に取り付けることができると共に、落防止シートの取付状態をより安定化することができる。また、押さえ金具の正面板の端部の別の張出段差部で落防止シートの内寄りの別の縦保形材を押圧することにより、落防止シートの取付状態をより一層安定化することができる。また、拡径アンカーを押さえ金具に挿通する際に、正面側から視認できない落防止シートの後側に位置する背面貫通穴の位置ズレの許容範囲を高め、拡径アンカーの正面貫通穴と背面貫通穴への挿入作業を容易化することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、コンクリート構造物に略沿うように敷設される落防止シートを取り付ける押さえ金具と拡径アンカーがコンクリート構造物から脱落することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明による実施形態の落防止構造が設置されたトンネルの斜視図。
図2】(a)は実施形態の落防止構造の断面図、(b)は同図(a)の部分拡大図。
図3】実施形態の落防止構造で取り付けられた押さえ金具の周辺を示す部分斜視図。
図4】実施形態の落防止構造の正面図。
図5】実施形態の落防止構造における剥落防止シートへの押さえ金具の取り付けと押さえ金具への拡径アンカーの挿入を説明する斜視説明図。
図6】(a)は実施形態の落防止構造における押さえ金具の正面図、(b)はその断面図、(c)はその背面図。
図7】(a)は実施形態の落防止構造で用いられるナットの平面図、(b)は同図(a)のナットの正面図、(c)は実施形態の落防止構造で用いられる拡径アンカーの正面図、(d)は同図(c)の拡径アンカーの底面図、(e)は同図(a)のナットの断面図、(f)は同図(c)の拡径アンカーの断面図。
図8】(a)、(b)は実施形態の落防止構造で用いられる拡径アンカーの拡径を説明する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔実施形態の落防止構造〕
本発明による実施形態の落防止構造は、例えばトンネルTの劣化した覆工コンクリートのようにコンクリート構造物100の劣化したコンクリート等に設置されるものであり、図1図4に示すように、ステンレス等の金属材で形成されたクリップ形状の押さえ金具1と、落防止シート2と、拡径アンカー3と、ナット4を備える。
【0014】
押さえ金具1は、図1図6のように、幅方向の両側端部周辺に段差部を有する正面板11と平板状の背面板12を備え、正面板11から断面視弧状で弾性変形可能に湾曲した折返部13で折り返されるようにして背面板12が設けられている。正面板11には、折返部13に隣接して張出段差部14が形成されていると共に、折返部13と逆側の正面板11の端部周辺に別の張出段差部15が形成されており、正面板11は断面視で縁を有する皿状に形成されている。換言すれば、正面板11の平板状の基部111の幅方向両側に、背面板12と逆側に浮き上がるようにして張出段差部14と別の張出段差部15が形成されている。張出段差部14、15は、それぞれ正面板11の長さ方向に全長に亘って形成され、又、張出段差部14と別の張出段差部15との間隔は、後述する端縁の縦保形材221と別の縦保形材222との間隔に略対応する間隔になっている。
【0015】
押さえ金具1における正面板11の平板状の基部111の略中央と背面板12の略中央には、拡径アンカー3が挿通される正面貫通穴16と背面貫通穴17とが対応する位置に設けられている。本実施形態の押さえ金具1では、正面貫通穴16が丸穴で形成され、丸穴の正面貫通穴16の径が拡径アンカー3の拡径時の外径よりも小さく形成されており、背面貫通穴17が落防止シート2の幅方向に長い長穴で形成され、長穴の背面貫通穴17の短径が拡径アンカー3の拡径時の外径よりも小さく形成されている。即ち、正面板11の正面貫通穴16と背面板12の背面貫通穴17は、それぞれ拡径状態の拡径アンカーが抜け出し不能に形成されている。丸穴の正面貫通穴16の直径、長穴の背面貫通穴17の短径は、例えばそれぞれ9mmで形成される。
【0016】
落防止シート2は、網状のメッシュシート21と、メッシュシート21に重ねられて固定された格子状の保形体22とから構成され、保形体22は、メッシュシート21の両面の対応位置にそれぞれ配置されて固着されている。メッシュシート21、保形体22の材質、構造は適用可能な範囲で適宜であり、例えばメッシュシート21には、高強度アラミド繊維を基布とし、高強度アラミド繊維の基糸の表面にアクリル樹脂被膜を被覆し、緯糸挿入ラッセル編みしたものを用いると好適であり、又、保形体22には、ガラス繊維に耐アルカリ性を有する熱硬化合成樹脂を含浸させたGFRPで形成したものを用いると好適である。
【0017】
剥落防止シート2は、例えば幅330mmの長方形で形成され、幅方向の両端縁に沿って保形体22の縦保形材221がそれぞれ設けられており、端縁の縦保形材221の内側に所定間隔を開けて別の縦保形材222が設けられている。本実施形態における落防止シート2では、端縁の縦保形材221・221がメッシュシート21の両面の対応位置に配置されて固着され、別の縦保形材222がメッシュシート21の両面の対応位置に配置されて固着されている。
【0018】
本実施形態の落防止構造における押さえ金具1の取付状態では、両面に設けられた端縁の縦保形材221・221及びメッシュシート21が張出段差部14と背面板12との間に配置され、両面に設けられた別の縦保形材222・222及びメッシュシート21が張出段差部15と背面板12との間に配置される。即ち、両面に設けられた端縁の縦保形材221・221及びメッシュシート21が収容される高さで張出段差部14が形成され、両面に設けられた別の縦保形材222・222及びメッシュシート21が収容される高さで別の張出段差部15が形成されている。
【0019】
本実施形態における拡径アンカー3は、芯棒打込み式アンカーであり、図7に示すように、スリーブ状のアンカー本体31と、アンカー本体31に内挿される芯棒32とから構成される。アンカー本体31には、先端から軸方向に複数のスリット311が切り込まれており、周方向に離間するスリット311で分割された拡張片312が設けられている。拡張片312の内側には傾斜した段差部313が形成されており、芯棒32が打ち込まれて弾頭形の先端部321が段差部313より先端側に入り込むことにより、拡張片312が拡張するようになっている。
【0020】
アンカー本体31の後部の外周面には雄ねじ314が形成されており、又、芯棒32の後端寄りの外周面にはセレーション加工による鋸歯部322が形成されている。拡径アンカー3の拡径後には、鋸歯部322とアンカー本体31の内周面との摩擦接触により、アンカー本体31からの芯棒32の抜け出しが防止される。
【0021】
本実施形態におけるナット4は、図7に示すように、座付きの緩み止めナットである。ナット4には、雌ねじ穴41の座部42と逆側に板バネ43が嵌着されており、図示例では2枚の板バネ43が嵌め込まれている。雌ねじ穴41は、アンカー本体31の雄ねじ314に螺合可能な大きさとピッチで形成され、ナット4は、押さえ金具1が外挿されたアンカー本体31の雄ねじ314に、押さえ金具1の正面板11の後側に位置して螺合される。
【0022】
本実施形態の剥落防止構造を構築する際には、図1のように、例えばトンネルTの覆工コンクリート102の打継目部位103を覆うようにして、コンクリート構造物100の取付面101に剥落防止シート2を配置して敷設する。剥落防止シート2はコンクリート構造物100の取付面101に略沿うように敷設され、図1の例ではトンネルTの覆工コンクリート102の内周面に略沿うように敷設される。落防止シート2の配置後には、剥落防止シート2のメッシュシート21を貫通するようにして、コンクリート構造物100の取付面101の所定位置にドリルで穿孔104を形成する(図2参照)。
【0023】
次いで、押さえ金具1を、背面板12を取付面101側にして、落防止シート2の幅方向の両端縁付近を略コ字状に挟み込むように設ける(図2図5参照)。この際、押さえ金具1を、正面貫通穴16と背面貫通穴17が穿孔104に対応する位置になるように配置すると共に、押さえ金具1の張出段差部14に、落防止シート2の幅方向の端縁の縦保形材221・221が収容されるように配置し、押さえ金具1の張出段差部15に、落防止シート2の内寄りの別の縦保形材222・222が収容されるように配置する。また、押さえ金具1は、落防止シート2の長さ方向に所定間隔を開けて各端縁に複数個設ける。
【0024】
そして、拡径アンカー3を、それぞれの押さえ金具1の正面貫通穴16と背面貫通穴17を連通させて穿孔104内に挿入し、芯棒32をハンマー5で打ち込んで拡張片312を拡張させ、拡径アンカー3をコンクリート構造物100に打設する(図2図3図8参照)。この剥落防止シート2を貫通する拡径アンカー3を拡径状態にした打設により、押さえ金具1及び剥落防止シート2が取付面101に対して仮固定される。
【0025】
その後、図2図3に示すように、拡径アンカー3の雄ねじ314にナット4を螺合して締め付け、ナット4で押さえ金具1を取付面101側に押圧し、押圧された押さえ金具1で保形体22を取付面101側に押圧するようにして、剥落防止シート2をコンクリート構造物100に取り付ける。換言すれば、押さえ金具1の張出段差部14と背面板12とで端縁の縦保形材221・221及びメッシュシート21を挟み込むように押圧し、押さえ金具1の張出段差部15と背面板12とで別の縦保形材222・222及びメッシュシート21を挟み込むように押圧し、この状態で落防止シート2がコンクリート構造物100に取り付けられ、剥落防止構造が構築される。
【0026】
本実施形態の落防止構造によれば、コンクリート構造物100に打設された拡径状態の拡径アンカー3が押さえ金具1から抜け出し不能になっていると共に、押さえ金具1を落防止シート2の幅方向の端縁付近に略コ字状に挟み込むように設けることにより、コンクリート構造物100から拡径状態の拡径アンカー3が抜け出して押さえ金具1と供に落下することを防止できる。即ち、コンクリート構造物100に略沿うように敷設される落防止シート2を取り付ける押さえ金具1と拡径アンカー3がコンクリート構造物100から脱落することを防止することができる。
【0027】
また、押さえ金具1の張出段差部14で落防止シート2の端縁の縦保形材221・221を略コ字状に包み込んだ状態とし、取付面101側に押圧することにより、コンクリート構造物100の取付面101に落防止シート2を簡単に取り付けることができると共に、落防止シート2の取付状態をより安定化することができる。更に、押さえ金具1の正面板11の端部周辺の別の張出段差部15で落防止シート2の内寄りの別の縦保形材222・222を押圧することにより、落防止シート2の取付状態をより一層安定化することができる。
【0028】
また、押さえ金具1の正面貫通穴16を丸穴、背面貫通穴17を落防止シート2の幅方向に長い長穴とし、正面貫通穴16の径と背面貫通穴17の短径とを拡径アンカー3の拡径時の外径よりも小さく形成することにより、拡径アンカー3を押さえ金具1に挿通する際に、正面側から視認できない落防止シート2の後側に位置する背面貫通穴17の位置ズレの許容範囲を高め、拡径アンカー3の正面貫通穴16と背面貫通穴17への挿入作業を容易化することができる。また、背面貫通穴17を長穴とし、その短径を拡径アンカー3の拡径時の外径よりも小さく形成することにより、背面板12の拡径状態の拡径アンカー3の抜け出し不能な構成を確保することができる。
【0029】
また、端縁の縦保形材221・221や、別の縦保形材222・222のように、保形体22をメッシュシート21の両面の対応位置に配置することにより、落防止シート1の剛性をより適切な程度に高めて良好な保形性を発揮させ、施工時の取り扱いを容易化することができる。
【0030】
〔本明細書開示発明の包含範囲〕
本明細書開示の発明は、発明として列記した各発明、実施形態の他に、適用可能な範囲で、これらの部分的な内容を本明細書開示の他の内容に変更して特定したもの、或いはこれらの内容に本明細書開示の他の内容を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な内容を部分的な作用効果が得られる限度で削除して上位概念化して特定したものを包含する。そして、本明細書開示の発明には下記内容や変形例も含まれる。
【0031】
例えば上記実施形態の落防止構造では、芯棒打込み式アンカーの拡径アンカー3を用いたが、本発明における拡径アンカーには、例えばウェッジ式アンカー等のように適用可能な範囲で適宜のものを用いることが可能である。好適には、本発明における拡径アンカーは、アンカー本体の外周面に雄ねじが形成され、アンカー本体の外径と雄ねじのねじ径(呼び径)がほぼ一致しているものが施工性の観点からよい。
【0032】
また、上記実施形態の落防止構造では、保形体22をメッシュシート21の両面に固着する構成としたが、保形体がメッシュシートの片面だけに固着されている剥落防止シートを用いて本発明の落防止構造を構築することも可能である。
【0033】
また、本発明の落防止構造は、脆くなりがちなトンネルTの覆工コンクリート102の打継目部位103を覆うように落防止シートを敷設して構築すると特に好適であるが、覆工コンクリート102の打継目部位103でない領域など、コンクリート構造物の適宜の領域に落防止シートを敷設して構築することが可能である。また、トンネルTの延長方向等に落防止シート2を並べて敷設して本発明の落防止構造を構築することも可能である
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、トンネル、橋、塔等の剥片が落下するおそれがある各種のコンクリート構造物、或いは柱、梁、桁、壁、スラブ下面等の剥片が落下するおそれがある各種のコンクリート構造物の一部に設置して利用することができる。
【符号の説明】
【0035】
1…押さえ金具 11…正面板 111…基部 12…背面板 13…折返部 14…張出段差部 15…別の張出段差部 16…正面貫通穴 17…背面貫通穴 2…落防止シート 21…メッシュシート 22…保形体 221…端縁の縦保形材 222…別の縦保形材 3…拡径アンカー 31…アンカー本体 311…スリット 312…拡張片 313…段差部 314…雄ねじ 32…芯棒 321…先端部 322…鋸歯部 4…ナット 41…雌ねじ穴 42…座部 43…板バネ 5…ハンマー 100…コンクリート構造物 101…取付面 102…覆工コンクリート 103…打継目部位 104…穿孔 T…トンネル