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特開2024-2749マイクロ流路チップ及びマイクロ流路チップの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002749
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】マイクロ流路チップ及びマイクロ流路チップの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 35/08 20060101AFI20231228BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20231228BHJP
   B81B 1/00 20060101ALI20231228BHJP
   B81C 1/00 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
G01N35/08 A
G01N37/00 101
B81B1/00
B81C1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022102142
(22)【出願日】2022-06-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】長谷 妃奈
(72)【発明者】
【氏名】福上 典仁
【テーマコード(参考)】
2G058
3C081
【Fターム(参考)】
2G058CC05
2G058GA01
3C081AA01
3C081AA17
3C081BA03
3C081BA23
3C081BA30
3C081CA02
3C081CA23
3C081CA31
3C081CA32
3C081CA40
3C081CA43
3C081DA06
3C081DA10
3C081EA27
(57)【要約】
【課題】壁部と蓋材とを接合する際の圧力による部材の破損を抑制し、通液時の液漏れが発生しないマイクロ流路チップ、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】マイクロ流路チップ1は、基板10と、樹脂材料で構成され、前記基板上に設けられて流路部13を形成する隔壁層11と、隔壁層11の基板10とは反対側の面に設けられて流路を覆うカバー層12と、を備え、流路部13は、隔壁層11において開口幅が2000μm以下の開口部として形成され、隔壁層11は、開口面積率が60%以下である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
樹脂材料で構成され、前記基板上に設けられて流路を形成する隔壁部と、
前記隔壁部の前記基板とは反対側の面に設けられて流路を覆うカバー部と、を備え、
前記流路は、前記隔壁部において開口幅が2000μm以下の開口部として形成され、
前記隔壁部は、開口面積率が60%以下である
ことを特徴とするマイクロ流路チップ。
【請求項2】
前記隔壁部と前記カバー部とが熱圧着により貼合され、
前記隔壁部は、開口面積率が20%以上60%以下である
ことを特徴とする請求項1に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項3】
前記隔壁部には、複数の前記流路が形成されている
ことを特徴とする請求項2に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項4】
前記隔壁部は、少なくとも一つの前記流路が形成されている流路領域と、前記流路が形成されていない非流路領域とを有する
ことを特徴とする請求項3に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項5】
前記隔壁部と前記基板との間に密着層が設けられている
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項6】
前記隔壁部を形成する樹脂材料は、紫外光領域である190nm以上400nm以下の波長の光に対して感光性を有する感光性樹脂である、
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のマイクロ流路チップ。
【請求項7】
基板上に、樹脂を塗工する工程と、
塗工した前記樹脂を露光する工程と、
露光した前記樹脂を現像及び洗浄し、前記基板上において流路を画定する隔壁部を形成する工程と、
前記隔壁部をポストベーク処理する工程と、
前記隔壁部の前記基板とは反対側の面にカバー部を接合する工程と、を含み、
前記現像により前記基板上の余分な樹脂を除去することで、前記流路となる開口幅が2000μm以下の開口部を前記隔壁部に形成し、前記隔壁部の開口面積率を60%以下とする
ことを特徴とするマイクロ流路チップの製造方法。
【請求項8】
前記隔壁部の前記基板とは反対側の面に前記カバー部を接合する工程において、前記隔壁部と前記カバー部との隙間を狭めるように圧力を加えて前記隔壁部と前記カバー部とを隙間なく接合する
ことを特徴とする請求項7に記載のマイクロ流路チップの製造方法。
【請求項9】
前記現像により、前記隔壁部の開口面積率を20%以上60%以下とし、
前記隔壁部の前記基板とは反対側の面に前記カバー部を接合する工程において、熱圧着により前記隔壁部と前記カバー部とを接合する
ことを特徴とする請求項8に記載のマイクロ流路チップの製造方法。
【請求項10】
前記樹脂を露光する工程において、感光性樹脂を、紫外光領域のうち190nm以上400nm以下の波長の光に感光させる
ことを特徴とする請求項7から9のいずれか1項に記載のマイクロ流路チップの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、マイクロ流路チップ及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、リソプロセスや厚膜プロセス技術を応用して、微細な反応場を形成し、数μLから数nL単位での検査を可能とする技術が提案されている。このような微細な反応場を利用した技術をμ-TAS(Micro Total Analysis system)という。
【0003】
μ-TASは、遺伝子検査、染色体検査、細胞検査、医薬品開発などの領域や、バイオ技術、環境中の微量な物質検査、農作物等の飼育環境の調査、農作物の遺伝子検査などに応用される。μ-TAS技術の導入により、自動化、高速化、高精度化、低コスト、迅速性、環境インパクトの低減など、大きな効果を得られる。
【0004】
μ-TASでは、多くの場合、基板上に形成されたマイクロメートルサイズの流路(マイクロ流路、マイクロチャンネル)が利用され、このような基板はチップ、マイクロチップ、マイクロ流路チップなどと呼ばれる。
【0005】
従来、こうしたマイクロ流路チップは、射出成形、モールド成形、切削加工、エッチングなどの技術を用いて作製されていた。またマイクロ流路チップの基板としては、製造が容易であり、光学的な検出も可能であることから、主にガラス基板が用いられている。一方で、軽量でありながらガラス基板に比べて破損しにくく、且つ、安価な樹脂材料を用いたマイクロ流路チップの開発も進められている。樹脂材料を用いたマイクロ流路チップの製造方法としては、主にフォトリソグラフィーにより流路用樹脂パターンを成形し、そこに蓋材を接合してマイクロ流路チップを作製する方法がある。この方法によれば、従来技術では困難な側面もあった微細な流路パターンの形成も可能である。
【0006】
こうしたマイクロ流路チップは、複数の部材同士を接合させて作製される。例えば、特許文献1には、接着剤を介して接合する方法からなるマイクロ流路チップについて開示されている。また、例えば特許文献2に記載のように、大気圧またはその近傍下においてプロセスガスをプラズマ化し、基板表面を改質し、接着剤を使うことなく部材同士を接合する方法も提案されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007-240461号公報
【特許文献2】特開2011-104886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
マイクロ流路チップの作製時には、複数の部材同士を接合するため、当該部材に接合方法に応じた圧力を加える必要がある。例えば、流路が形成される壁部(隔壁部)と蓋材との接合時には、接合方法に応じてこれらの部材が加圧される。近年、流路パターン構造の複雑化に伴ってマイクロ流路チップにおいて流路部分(壁部の開口領域)の表面積が増えているが、壁部の開口面積や開口幅が増大すると、壁部と蓋材とを接合する際の安定性が低減して部材(基板、壁部、カバー層等)が破損してしまうおそれがある。また部材同士の接合時に部材が破損すると、マイクロ流路チップに通液した際に、液漏れが起きる場合がある。
【0009】
そこで、本開示は上記課題に鑑み、壁部と蓋材とを接合する際の圧力による部材の破損を抑制し、通液時の液漏れが発生しないマイクロ流路チップ、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係るマイクロ流路チップは、基板と、樹脂材料で構成され、前記基板上に設けられて流路を形成する隔壁部と、前記隔壁部の前記基板とは反対側の面に設けられて流路を覆うカバー部と、を備え、前記流路は、前記隔壁部において開口幅が2000μm以下の開口部として形成され、前記隔壁部は、開口面積率が60%以下であることを特徴とする。
【0011】
また、本開示の一態様に係るマイクロ流路チップの製造方法は、基板上に、樹脂を塗工する工程と、塗工した前記樹脂を露光する工程と、露光した前記樹脂を現像及び洗浄し、前記基板上において流路を画定する隔壁部を形成する工程と、前記隔壁部をポストベーク処理する工程と、前記隔壁部の前記基板とは反対側の面にカバー部を接合する工程と、を含み、前記現像により前記基板上の余分な樹脂を除去することで、前記流路となる開口幅が2000μm以下の開口部を前記隔壁部に形成し、前記隔壁部の開口面積率を60%以下とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本開示の態様によれば壁部と蓋材とを接合する際の圧力による部材の破損を抑制し、通液時の液漏れが発生しないマイクロ流路チップを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本開示の第一実施形態に係るマイクロ流路チップの一構成例を示す平面模式図である。
図2】は本開示の第一実施形態に係るマイクロ流路チップの一構成例を示す断面模式図である。
図3】(a)は、本開示の第一実施形態に係るマイクロ流路チップの隔壁部および流路部の一構成例を示す平面模式図であり、(b)は、図3(a)に示す流路部の構成を拡大して示す図である。
図4】本開示の第一実施形態に係るマイクロ流路チップの製造方法の一例を示すフローチャートである。
図5】(a)は本開示の第一実施形態の一の変形例に係るマイクロ流路チップにおける流路部の一配置例を示す平面模式図であり、(b)は本開示の第一実施形態の他の変形例に係るマイクロ流路チップにおける流路部の一配置例を示す平面模式図である。
図6】本開示の第二実施形態に係るマイクロ流路チップの一構成例を示す平面模式図である。
図7】本開示の第二実施形態に係るマイクロ流路チップの一構成例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施形態を通じて本開示を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。また、図面は特許請求の範囲にかかる発明を模式的に示すものであり、各部の幅、厚さ等の寸法は現実のものとは異なり、これらの比率も現実のものとは異なる。
【0015】
本開示の第一実施形態に係るマイクロ流路チップについて説明する。なお、以下の説明では、マイクロ流路チップの基板側を「下」、マイクロ流路チップの基板側と反対側(蓋材側)を「上」として説明する場合がある。
【0016】
本発明者らは、鋭意検討の結果、マイクロ流路チップにおいて、壁部の開口面積率および壁部に形成された開口部の寸法(例えば、流路の開口幅)が特定条件を満たすように制御することにより、複数部材(ここでは、壁部および蓋材)を接合する際の接合安定性が向上することを見出した。これにより、本発明者らは、壁部と蓋材とを接合する際の圧力による部材(基板、壁部、蓋材)の破損を抑制し、通液時に液漏れが発生しないマイクロ流路チップ及びその製造方法を発明するに至った。なお壁部の開口面積率についての詳細は、後述する。
以下、図面を参照して本開示の各実施形態の各態様について説明する。
【0017】
1.第一実施形態
(1.1)マイクロ流路チップの基本構成
図1及び図2は、本開示の第一実施形態(以下、「本実施形態」という)に係るマイクロ流路チップ1の一構成例を説明するための概略図である。具体的には、図1は本実施形態のマイクロ流路チップ1の平面概略図である。また、図2は、図1に示すA-A線でマイクロ流路チップ1を切断した断面を示す概略断面図である。
【0018】
図1に示すように、マイクロ流路チップ1は、流体(例えば液体)を導入するための入力部4と、基板10上に形成されて入力部4から導入された流体が流れる流路部13と、流路部13から流体を排出するための出力部5とを備えている。出力部5は流体の排出(排出部)する構成に限られず、流体と薬液とを接触する構成(薬剤固定部)であってもよい。以下、流体の排出部または薬液固定部のうち少なくとも一方として機能する構成を総称して「出力部」と称する。
基板10上には流路部13を確定する隔壁層(隔壁部の一例)11が形成されており、流路部13は表面11a側に開口した開口部である。マイクロ流路チップ1において、流路部13は、蓋材であるカバー層(カバー部の一例)12に覆われており、入力部4および出力部5は、カバー層12に設けられた貫通孔である。各構成の詳細は後述する。
図1では、透明性を有するカバー層12を介して視認される基板10、隔壁層11および流路部13を図示している。
【0019】
マイクロ流路チップ1において、入力部4及び出力部5は、少なくとも1つ以上設けられていればよく、それぞれ複数個設けられていてもよい。またマイクロ流路チップ1において、流路部13は、一つ以上であればよく、複数設けられてもよいし、入力部4から導入された流体の合流や分離が可能な設計であってもよい。具体的には、一つの流路部13に対して入力部4が複数でもよいし、複数の流路部13に対して入力部4が一つであってもよい。また同様に、一つの流路部13に対して出力部5が複数であってもよいし、複数の流路部13に対して出力部5が一つであってもよい。
図1および図2に示すマイクロ流路チップ1は、一例として3つの流路部13(流路部13a,13b,13c)を有する流路群130を備えている。
【0020】
ここで、マイクロ流路チップ1において、流路部13(流路部13a~13c)を構成する部材(基板10、隔壁層11、カバー層12)の詳細について説明する。
図2に示すように、マイクロ流路チップ1は、2つの基材(第一基材、第二基材)に挟まれた壁部である隔壁層11によって流体が流れる流路である流路部13が画定されている。本例では、隔壁層11の上面側に設けられて流路部13の上部を覆うカバー層(カバー部の一例)12が第一基材に相当し、隔壁層11の底面側に設けられて流路部13の底部を形成する基板10が第二基材に相当する。つまり、マイクロ流路チップ1は、基板10上に設けられた流路部13と、流路部13の蓋となるカバー層12と、基板10と、カバー層12と基板10との間に配置されて基板10上に流路部13を形成する一対の隔壁層11と、を備えている。より具体的には、マイクロ流路チップ1は、基板10と、基板10上に設けられて流路を形成する隔壁層11と、隔壁層11の基板10とは反対側の面に設けられて流路部13を覆うカバー層12と、を備えている。
【0021】
入力部4から導入された流体が流れる流路部13は、基板10と隔壁層11とカバー層12とに囲まれた領域である。流路部13は、基板10上に対向して設けられた隔壁層11によって画定され、基板10とは反対側を蓋材となるカバー層12に覆われている。上述のように、流路部13には、カバー層12に設けられた入力部4から流体が導入され、流路部13を流れた流体は出力部5から排出される。
【0022】
(1.1.1)基板
基板10は、マイクロ流路チップ1の基礎となる部材であり、基板10上に設けられた隔壁層11によって流路部13が構成される。つまり、基板10および隔壁層11は、マイクロ流路チップ1の本体部といえる。
基板10は、透光性材料又は非透光性材料のいずれかによって形成することができる。例えば、流路部13内の状態(流体の状態)を光によって検出、観察する場合は、該光に対して透明性に優れる材料を用いることができる。これにより、例えば基板10側から流路部13内の状態を観察することができる。透光性材料としては、樹脂又はガラス等を用いることができる。基板10を形成する透光性材料に用いる樹脂としては、マイクロ流路チップ1の本体部の形成に適しているという観点から、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリプロピレン、ポリカーボネート樹脂、シクロオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられる。
【0023】
また例えば、流路部13内の状態(流体の状態)を光によって検出、観察する必要がない場合は、非透光性材料を用いてもよい。非透光性材料としては、シリコンウエハ、銅板等が挙げられる。基板10の厚みは特に限定されないが、流路形成工程においてはある程度の剛性は必要となることから、10μm(0.01mm)以上10mm以下の範囲内が好ましい。
【0024】
(1.1.2)隔壁層
隔壁層11は、基板10上に設けられて、流路部13を形成する構成である。具体的には、隔壁層11の対向する側面11bによって流路部13が画定される。図2に示すように、本実施形態において隔壁層11には、流路群130、すなわち複数の流路部13(流路部13a,13b,13c)が形成されている。マイクロ流路チップ1は、複数の流路部13を有することで、同時に複数の検査を行うことや、異なる種類の流体を用いた検査を行うこと等が可能となり、マイクロ流路チップをより幅広く活用することができる。複数の流路部13のそれぞれは、独立していてもよいし、一部が交差していてもよい。
隔壁層11は、樹脂材料で形成することができる。隔壁層11の樹脂材料としては、例えば感光性樹脂を用いることができる。
【0025】
隔壁層11を形成する感光性樹脂は、紫外光領域である190nm以上400nm以下の波長の光に対して感光性を有することが望ましい。当該感光性樹脂としては、液体レジスト又はドライフィルムレジスト等のフォトレジストを用いることができる。これらの感光性樹脂は、感光領域が溶解するポジ型、又は感光領域が不溶化するネガ型のいずれであってもよい。マイクロ流路チップ1における隔壁層11の形成に適する感光性樹脂組成物としては、アルカリ可溶性高分子と付加重合性モノマーと光重合開始剤とを含むラジカルネガ型の感光性樹脂を挙げることができる。例えば、感光性樹脂材料としては、アクリル系樹脂、アクリルウレタン系樹脂(ウレタンアクリレート系樹脂)、エポキシ系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ノルボルネン系樹脂、フェノールノボラック系樹脂、その他の感光性を有する樹脂を単独で又は複数混合あるいは共重合して用いることができる。
【0026】
なお本実施形態においては、隔壁層11の樹脂材料は感光性樹脂に限定されるものではなく、例えば、シリコーンゴム(PDMS:ポリジメチルシロキサン)や、合成樹脂を用いてもよい。合成樹脂としては、例えばポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン樹脂(PS)、ポリプロピレン(PP)、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)などを用いることができる。隔壁層11の樹脂材料は、用途に応じて適宜選択されることが望ましい。
【0027】
(1.1.3)カバー層
本実施形態に係るマイクロ流路チップ1において、カバー層12は、隔壁層11の基板10とは反対側の面に設けられており、図1に示すように流路部13を覆う蓋材である。上述のように、カバー層12は、隔壁層11の基板10とは反対側の面に設けられており、隔壁層11を挟んで基板10と対向している。より具体的には、図2に示すように、断面視においてカバー層12は、隔壁層11に支持されており、流路部13が形成された隔壁層11の開口部において基板10と対向し、基板10との対向面が流路部13の上部を画定している。
【0028】
カバー層12は、透光性材料又は非透光性材料のいずれかによって形成することができる。例えば、流路内の状態を光によって検出、観察する場合は、該光に対して透明性に優れる材料を用いることができる。透光性材料としては、特に限定されないが、樹脂又はガラス等を用いることができる。カバー層12を形成する樹脂としては、マイクロ流路チップ1の本体部の形成に適しているという観点から、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリプロピレン、ポリカーボネート樹脂、シクロオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられる。カバー層12の厚みは特に限定されないが、カバー層12に対して入力部4および出力部5それぞれに該当する貫通孔を設けることを鑑みると、10μm以上10mm以下の範囲内が好ましい。またカバー層12には、隔壁層11との接合前に、流体(液体)を導入する入力部4、流体を排出する出力部5のそれぞれに相当する孔を予め開けておくことが望ましい。
【0029】
(1.1.4)流路の構成
ここで、本実施形態に係るマイクロ流路チップ1における流路部13の構成について、図1から図3を用いて詳細に説明する。
以下では、マイクロ流路チップ1における流路部13の寸法および流路部13を形成した隔壁層11における開口面積率について説明する。
上述のように、マイクロ流路チップは、流路パターン構造が複雑化しており壁部における開口領域が増大傾向にある。この開口領域の増大によって壁部と蓋材とを接合する際の接合安定性が低減する場合がある。接合安定性が低減すると、例えばマイクロ流路チップ1の作製時において蓋材と壁部とを接合する際等に、接合対象のマイクロ流路チップ1を構成する各部材(本例では、基板、壁部、蓋材)の破損等の不具合が生じ得る。
【0030】
例えば、壁部の開口領域が増大して接合安定性が低減すると、加圧に対する壁部の耐性が低減し、壁部と蓋材とを接合する際に壁部が破損し、さらに蓋材、基板にも破損が及ぶ場合がある。また基板、壁部および蓋材といった部材に破損が生じると、マイクロ流路チップの通液時において、液漏れが発生する場合がある。したがって、マイクロ流路チップでは、壁部と蓋材との接合時において接合安定性を向上することが求められる。本実施形態に係るマイクロ流路チップ1は、以下に示すように、流路部13の寸法および隔壁層11の開口面積率が特定の条件を満たす構成となっている。これにより、加圧に対する壁部の耐性を向上し、加圧による部材(基板、壁部、蓋材)の破損を抑制して通液時の液漏れが発生しないマイクロ流路チップを提供することができる。
【0031】
図3(a)は、図1に示すマイクロ流路チップ1において隔壁層11に形成された流路部13を示す平面概略図であり、図3(b)は、図3(a)に示す流路部13(流路部13a)を拡大して示す図である。図3(a)、図3(b)では、理解を容易にするため、カバー層12の図示を省略している。
【0032】
マイクロ流路チップ1において流路部13は、開口部として隔壁層11に形成される。図3(a)に示すように、隔壁層11の表面11aに形成された開口部である流路部13において、流路部13の底部を構成する基板10が露出している。なお本開示の構成はこれに限られず、流路部13の底部において基板10が露出しない構成(例えば、流路部13の底部が隔壁層11や別部材に覆われている構成)であってもよい。また流路部13は、入力部40と、出力部50との間に形成される。入力部40は、隔壁層11に形成された開口部であって、カバー層12の入力部4を介して導入された流体を受け付けて、流路部13に導入するための構成である。また、出力部50は、隔壁層11に形成された開口部であって、流路部13を通過した流体を受け付けてカバー層12の出力部5へ排出するため構成である。出力部50は流体の排出(排出部)するための構成に限られず、流体と薬液とを接触させるための構成(薬剤固定部)であってもよい。例えば、予め出力部50に薬液を入れておくことで、出力部50に向かって流路部13を送液された流体と薬液とを接触させることができる。以下、流体の排出部または薬液固定部として機能する構成を総称して「出力部」と称する。
マイクロ流路チップ1において、隔壁層11の入力部40はカバー層12の入力部4と対向する位置に設けられ、隔壁層11の出力部50はカバー層12の出力部5と対向する位置に設けられている。
【0033】
本実施形態において、複数の流路部13を有する流路群は、入力部40および出力部50と、流路部13とを含めた構成としてもよい。これにより、流路群は流体を導入・排出する領域も含めた構成とすることができる。
流路部13が形成された隔壁層11に対してカバー層12が接合されることで、流路部13は基板10、隔壁層11およびカバー層12で囲まれ、液漏れを発生させずに流体を送液可能な構成となる。
【0034】
隔壁層11に形成される流路部13の寸法について説明する。図2および図3(b)に示すように、流路部13の幅Wは、対向する隔壁層11間(具体的には、側面11b間)の幅であって、隔壁層11に形成された開口部の開口端の幅(開口幅)を示す。
【0035】
本実施形態に係るマイクロ流路チップ1における流路部13は、隔壁層11において開口幅が2000μm(2mm)以下の開口部として形成される。つまり本実施形態において、である。流路部13の幅Wを2000μm以下とすることにより、蓋材であるカバー層12を隔壁層11に接合する際に、隔壁層11における流路部13の近傍領域にかかる圧力が、隔壁層11の他の領域に比べて増大することを抑制できる。つまり、隔壁層11とカバー層12とを接合する際の接合安定性を向上することができる。
なお、マイクロ流路チップ1において、流路部13は、入力部40と出力部50との間において開口幅(幅W)が増減する構成であってもよい。したがって、マイクロ流路チップ1における流路部13は、開口幅が最も広い領域(隔壁層11の側面11b間の幅が最も広い領域)において、幅Wが2000μm以下であればよい。
【0036】
また後述する隔壁層11の厚み(流路部13の高さ)と同様に、解析・検査対象の物質よりは流路部13の幅を大きくする必要から、隔壁層11によって画定される流路部13の幅Wは、5μm以上であることが好ましい。つまり、流路部13の幅Wは、5μm以上2000μm以下の範囲内が好ましい。これにより、隔壁層11とカバー層12とを接合する際の接合安定性を向上し、且つ流路部13内において解析・検査対象の物質を含む流体の送液性を向上することができる。
【0037】
また、図3(b)に示すように、流路部13の流路長Lは、隔壁層11に開口部として形成された流路部13の長さ、すなわち入力部4と出力部5との間の開口端の長さを示す。つまり流路長Lは、入力部4から導入された流体が出力部5から排出されるまでの送液区間の長さである。本実施形態において、流路部13の流路長Lは、10mm以上100mm以下の範囲内が好ましく、30mm以上70mm以下の範囲内がより好ましく、40mm以上60mm以下の範囲内がさらに好ましい。流路長Lを10mm以上100mm以下の範囲内とすることで、反応溶液の十分な反応時間を確保することができる。
【0038】
また、図2に示す流路部13の高さ、すなわち基板10上における隔壁層11の厚みTは特に限定されないが、流路部13に導入される流体に含まれる解析・検査対象の物質(例えば、薬剤、菌、細胞、赤血球、白血球等)よりは流路部13の高さ(隔壁層11の厚みT)を大きくする必要がある。このため、流路部13の高さ(隔壁層11の厚みT)は、5μm以上500μm以下の範囲内が好ましい。なお、隔壁層11の厚みはこれに限定されない。
【0039】
次に、隔壁層11における開口面積率について説明する。隔壁層11の開口面積率(Ar)とは、マイクロ流路チップ1において、平面視で隔壁層11を形成した基板10とカバー層12とが重なり合う領域全体の面積(重畳面積SA)に対する、隔壁層11の開口領域の面積(開口面積OA)の割合である(Ar(%)=開口面積OA/重畳面積SA)。
なお図1に示すように、カバー層12には貫通孔として入力部4、出力部5が設けられている。このため、重畳面積SAには、入力部4、出力部5と基板10とが重なり合う領域の面積は含まれない。また同様に、隔壁層11において、カバー層12の入力部4、出力部5に対向する位置に形成された入力部40および出力部50も開口面積OAには含まれない。
【0040】
例えば、図1および図2に示すマイクロ流路チップ1の場合、基板10の表面10a全体にカバー層12が重なっている。このため、本例における重畳面積SAは、基板10の上面の面積から入力部4,出力部5の面積を除いた値となる(重畳面積SA=基板10の表面10aの面積-入力部4,出力部5の面積)。
また、本例のマイクロ流路チップ1では、隔壁層11に複数の流路部13(流路群130)が形成されている。このため、本例における開口面積A2は、流路群130(流路部13a~13c)の開口面積(=流路部13a~13cの幅W×流路長L)の合計である。このため、図1および図2に示すマイクロ流路チップ1の開口面積率Arは、以下のようにして算出される。
開口面積率Ar(%)=(流路部13a~13cの開口面積の合計/重畳面積SA)
なおカバー層12はマイクロ流路チップ1の蓋材として機能すればよく、用途に合わせて種々の形状に設計することができる。カバー層12は、少なくとも流路部13が形成された基板10の一部、すなわち流路領域31を覆うように設計されていればよく、例えば平面視において隔壁層11が形成された基板10全体を覆うように設計することができる。
【0041】
本実施形態に係るマイクロ流路チップ1の隔壁層11は、開口面積率Arが60%以下である。すなわち、マイクロ流路チップ1には、隔壁層11において開口面積率Arが60%以下となるように、一又は複数の流路部13が形成されている。隔壁層11の開口面積率Arを60%以下にすることにより、蓋材であるカバー層12を隔壁層11に接合する際に、隔壁層11における流路部13の近傍領域にかかる圧力が、隔壁層11の他の領域に比べて増大することを抑制できる。つまり、隔壁層11の加圧への耐性の向上により、隔壁層11とカバー層12とを接合する際の接合安定性を向上することができる。
また、マイクロ流路チップ1は、隔壁層11は、開口面積率Arが60%以下であるという条件に加えて、上述したように流路部13の幅W(開口幅)が2000μm以下であるという条件を満たすことにより、隔壁層11とカバー層12との接合安定性がさらに向上し、隔壁層11およびカバー層12の破損を抑制することができる。
【0042】
つまり、マイクロ流路チップ1において、流路部13は隔壁層11において開口幅が2000μm以下の開口部として形成され、隔壁層11は、開口面積率が60%以下である。これにより、接合安定性(例えば隔壁層11における加圧への耐性)が向上してマイクロ流路チップ1の作製時における加圧による部材(基板10、隔壁層11およびカバー層12)の破損を抑制し、通液時の液漏れが発生しないマイクロ流路チップを提供することができる。
本実施形態に係るマイクロ流路チップ1は、隔壁層11において開口部として形成される流路部13の開口幅が2000μm以下であり、且つ隔壁層11の開口面積率が60%以下であるという条件を満たしていればよく、隔壁層11に一又は複数の流路部13を形成することができる。
【0043】
また、マイクロ流路チップ1において、隔壁層11の開口領域以外の面積、すなわち隔壁層11において樹脂が残存している領域の面積(樹脂面積RA)は、重畳面積SAと開口面積OAとの差分として算出される(樹脂面積RA=重畳面積SA-開口面積OA)。したがって、重畳面積SAに対する開口面積OAの割合の残余が樹脂面積率RAr(%)となるため、開口面積率が60%のとき樹脂面積率RArは40%である。つまり、隔壁層11の加圧への耐性を向上して隔壁層11とカバー層12とを接合する際の接合安定性を向上するためには、隔壁層11における樹脂面積率RArは、40%以上であればよい。
【0044】
また詳しくは後述するが、隔壁層11とカバー層12との接合方法として、熱圧着が好適に用いられる。熱圧着により隔壁層11とカバー層12とを接合する場合、熱膨張係数による隔壁層11の変形によりカバー層12と隔壁層11との接合に不具合が生じることを回避することが必要となる。
そこで、マイクロ流路チップ1において、隔壁層11とカバー層12とが熱圧着により接合(貼合)される場合、隔壁層11における開口面積率Arは、20%以上60%以下の範囲内であることが好ましい。隔壁層11において、開口面積率を当該範囲内とすることにより、熱膨張係数による隔壁層11の変形を抑制し、当該変形によってカバー層12と隔壁層11との接合に不具合が生じること(接合不良)を回避することができる。言い換えれば、マイクロ流路チップ1において隔壁層11における樹脂面積率RArは、40%以上80%以下の範囲内であることが好ましい。
【0045】
(1.2)マイクロ流路チップの製造方法
次に、本実施形態に係るマイクロ流路チップ1の製造方法について説明する。図4は、本実施形態に係るマイクロ流路チップ1の製造方法の一例を示すフローチャートである。
ここでは、隔壁層11を感光性樹脂で形成する場合を例にとって説明する。
【0046】
(ステップS1)
本実施形態に係るマイクロ流路チップ1の製造方法では、まず基板10上へ樹脂を塗工する工程を行う。これにより、基板10上に隔壁層11を形成するための樹脂層を設ける。本実施形態に係るマイクロ流路チップ1の製造方法では、例えば基板10上に感光性樹脂による樹脂層(感光性樹脂層)を形成する。
【0047】
基板10上への感光性樹脂層の形成方法は、例えば、基板10への感光性樹脂の塗工により行われる。塗工は、例えば、スピンコーティング、スプレーコーティング、バーコーティングなどにより行われることができ、中でも膜厚制御性の観点からはスピンコーティングが好ましい。基板10上には、例えば液状、固体状、ゲル状、フィルム状など種々の形態の感光性樹脂を塗工することができる。中でも、液体レジストによって感光性樹脂層を形成することが好ましい。
また、基板10上には、樹脂層(例えば、感光性樹脂層)の厚み、すなわち隔壁層11の厚みが5μm以上500μm以下の範囲内となるように樹脂(例えば、感光性樹脂)を塗工することが好ましい。なお、隔壁層11の厚みはこれに限定されない。
【0048】
(ステップS2)
基板10上に感光性樹脂を形成すると、次に、基板10上に塗工した樹脂(例えば、感光性樹脂)内に含まれる溶媒(溶剤)を除去する目的で加熱処理(プリベーク処理)する工程を行う。なお、本実施形態に係るマイクロ流路チップ1の製造方法において、プリベーク処理は必須の工程ではなく、適宜、樹脂の特性に合わせて最適な温度、時間で実施すればよい。例えば、基板10上の樹脂層が感光性樹脂である場合は、プリベーク温度、時間は感光性樹脂の特性に応じて、適宜、最適な条件で行う。
【0049】
(ステップS3)
次に、基板10上に塗工した樹脂(例えば感光性樹脂)を露光する工程を行う。具体的には、基板10上に塗工した感光性樹脂には、露光により流路パターンが描画される。露光は、例えば、紫外線を光源とした露光装置、レーザー描画装置により行うことができる。中でも、紫外線を光源としたプロキシミティ露光やコンタクト露光装置を用いた露光が好ましい。プロキシミティ露光装置の場合、マイクロ流路チップ1における流路パターン配列を有するフォトマスクを介して露光が行われる。フォトマスクはクロム及び酸化クロムの二層構造を遮光膜とするフォトマスクなどを使用すればよい。
また上述のように、隔壁層11には、紫外光領域である190nm以上400nm以下の波長の光に対して感光性を有する感光性樹脂が用いられる。したがって、本工程(露光工程)では、基板10上に塗工される感光性樹脂を、190nm以上400nm以下の波長の光に感光させればよい。
【0050】
なお、基板10上における樹脂層の形成に化学増幅型レジストなどを用いる場合には、露光により発生した酸の触媒反応を促すために、露光後にさらに加熱処理(ポストエクスポージャーベーク:PEB)を行うとよい。
【0051】
(ステップS4)
次に、露光した感光性樹脂に対して現像を行い、流路パターンを形成する工程を行う。
現像は、例えば、スプレー、ディップ、パドル形式などの現像装置にて感光性樹脂と現像液の反応により行われる。現像液は、例えば炭酸ナトリウム水溶液、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化カリウム、有機溶剤などを用いることができる。現像液は感光性樹脂の特性に応じた最適なものを適宜使用すればよく、これらに限定されるものではない。また、濃度や現像処理時間は、感光性樹脂の特性に合わせて適宜最適な条件に調整することができる。
【0052】
(ステップS5)
次に、洗浄により基板10上の樹脂層(感光性樹脂層)から現像に用いた現像液を完全に除去する工程を行う。洗浄は、例えば、スプレー、シャワー、浸漬形式などの洗浄装置によって行うことができる。洗浄水としては、例えば純水、イソプロピルアルコールなどから、現像処理に用いた現像液を除去するために最適な洗浄水を適宜使用すればよい。洗浄後はスピンドライヤ、IPAベーパドライヤ、自然乾燥などにより乾燥を行う。
【0053】
(ステップS6)
次に、流路パターン、すなわち流路部13を形成する隔壁層11に対して加熱処理(ポストベーク)する工程を行う。このポストベーク処理により、現像や洗浄時の残留水分を除去する。ポストベーク処理は、例えば、ホットプレート、オーブン、などを用いて行われる。上記ステップS5の洗浄工程での乾燥が不十分な場合、現像液や洗浄時の水分が隔壁層11に残留している場合がある。また、プリベーク処理において除去されなかった溶剤も隔壁層11に残留している場合がある。ポストベーク処理を行うことで、それらを除去することができる。
【0054】
(ステップS7)
次に、ポストベーク処理後の隔壁層11にカバー層12を接合する工程を行う。本工程では、図1に示すように、隔壁層11の基板10とは反対側の面にカバー層12を接合する。これにより、流路部13がカバー層12に覆われ、図1に示すマイクロ流路チップ1が形成される。本工程では、隔壁層11とカバー層12との隙間を狭めるように圧力を加えて隔壁層11とカバー層12とを隙間なく接合する。なお、「隙間なく接合」された隔壁層11とカバー層12とにおいて、マイクロ流路チップ1の通液時において液漏れが発生しない程度のごく微小の隙間は許容される。
【0055】
隔壁層11とカバー層12との接合方法としては、熱圧着による方法や、接着剤を用いる方法、隔壁層11とカバー層12との接合面の表面改質処理により接路接合する方法を実施してもよい。
上記熱圧着による方法では、例えば隔壁層11とカバー層12との接合面に表面改質処理を施した上で熱圧着を行う。当該表面改質処理は、例えばポストベーク処理後に、隔壁層11、及び隔壁層11との接合前のカバー層12(蓋材)に対して表面改質処理する工程を実施すればよい。表面改質処理の一例としては、例えばプラズマ処理がある。
【0056】
部材同士(本例では、隔壁層11とカバー層12)を熱圧着で接合させる場合、例えば表面改質処理を行った後に熱プレス機や熱ロール機を用いた熱圧着を行うことが好ましい。接着剤を用いずに熱圧着により、隔壁層11上にカバー層12を設けることにより、接着剤成分の流路内への溶出を防いで流路内の溶液の反応阻害を抑制することができる。
カバー層12には、隔壁層11との接合前に、予め流体の入力部4、出力部5(図1参照)に相当する孔をおくことが望ましい。これにより、隔壁層11との接合後に孔を開ける場合よりも、ゴミやコンタミネーションの問題が生じることを抑制することができる。
カバー層12の厚みは、貫通孔を設けることを鑑みると、10μm以上10mm以下の範囲内で形成することが好ましい。また、カバー層12の材料は透光性材料又は非透光性材料のいずれかを用いて形成することができ、透光性材料として樹脂又はガラス等を用いることが好ましい。なお、本発明においてカバー層12の厚みおよび材料は上述の構成に限定されない。
【0057】
また、隔壁層11とカバー層12との接合方法として接着剤を用いて接合する場合、接着剤は隔壁層11およびカバー層12を構成する材料との親和性などに基づいて決定することができる。接着剤は、隔壁層11とカバー層12とを接合できるものであれば、特に限定されない。例えば、本実施形態における接着剤としては、アクリル樹脂系接着剤や、ウレタン樹脂系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤等を用いることができる。
【0058】
また、表面改質処理によって接合する方法としては、プラズマ処理、コロナ放電処理、エキシマレーザー処理などがある。この場合、隔壁層11の表面の反応性を向上させ、隔壁層11とカバー層12との親和性及び接着の相性に応じて、適宜最適な処理方法を選択すればよい。
【0059】
このように、本実施形態に係るマイクロ流路チップ1の製造方法では、フォトリソグラフィーを用いて基板10上に流路部13を構成する隔壁層11を形成することができる。
例えば基板10上に塗工された感光性樹脂がポジ型レジストの場合、露光領域が現像時に溶解されて流路部13となり、未露光領域に残存する感光性樹脂が隔壁層11となる。また、基板10上に塗工された感光性樹脂がネガ型レジストの場合、露光領域に残存する感光性樹脂が隔壁層11となり、未露光領域が現像時に溶解されて流路部13となる。
【0060】
以上説明したように、本実施形態に係るマイクロ流路チップ1の製造方法は、基板10上に、樹脂を塗工する工程(上記ステップS1)と、塗工した樹脂を露光する工程(上記ステップS3)と、露光した樹脂を現像及び洗浄し基板10上に流路部13を画定する隔壁層11を形成する工程(上記ステップS4および上記ステップS5)と、隔壁層11をポストベーク処理する工程(上記ステップS6)と、隔壁層11の基板10とは反対側の面にカバー層12を接合する工程(上記ステップS8)と、を含んでいる。さらに、現像工程(上記ステップS4)により基板10上の余分な樹脂(感光性樹脂層)を除去することで、流路部13となる開口幅が2000μm以下の開口部(流路パターン)を隔壁層11に形成し、隔壁層11の開口面積率を60%以下とする。
これにより、接合安定性(例えば隔壁層11における加圧への耐性)が向上して隔壁層11とカバー層12との接合時の加圧による部材(基板10、隔壁層11およびカバー層12)の破損が抑制され、通液時の液漏れが発生しないマイクロ流路チップ1を作製することができる。
【0061】
また、マイクロ流路チップ1の作製時には、カバー層12において平面視で流路部13に重ならない領域、すなわち流路部13と対向していない領域において、シールの貼付やインクジェットプリンタによる所定情報(例えばマイクロ流路チップの識別番号等)の印字が行われる場合がある。マイクロ流路チップ1では、上述のように接合安定性が向上されているため、隔壁層11に接合後のカバー層12へのシールの貼付や印字の際の加圧による隔壁層11およびカバー層12の破損も抑制することができる。
【0062】
さらに、本実施形態に係るマイクロ流路チップ1の製造方法では、隔壁層11とカバー層12との接合工程(上記ステップS8)において、隔壁層11とカバー層12との隙間を狭めるように圧力を加えて隔壁層11とカバー層12とを隙間なく接合する。上述のように、本実施形態に係るマイクロ流路チップ1の製造方法では、隔壁層11に形成される流路部13は開口幅が2000μm以下であり、隔壁層11の開口面積率は60%以下である。このため、隔壁層11の加圧への耐性が向上し、マイクロ流路チップ1の作製時において複数部材(本例では、隔壁層11およびカバー層12)の接合工程における接合安定性(壁部における加圧への耐性)が向上する。このため、接合時の加圧による部材(基板10、隔壁層11およびカバー層12)の破損を抑制し、通液時の液漏れが発生しないマイクロ流路チップを提供することができる。また、接合安定性の向上により、マイクロ流路チップ1の作製時には圧力による部材の破損を防ぐために低圧力での接合を行う必要がなく、低圧力での接合に起因して部材同士の接合が不十分となるような不具合(接合不良)の発生を抑制することができる。
【0063】
また、上記ステップS8において熱圧着により隔壁層11とカバー層12とを接合する場合は、隔壁層11を形成する際の現像工程(ステップS4)において、開口面積率Arが20%以上60%以下となるように、隔壁層11に流路パターン、すなわち流路部13を形成することが好ましい。
すなわち、本実施形態に係るマイクロ流路チップ1の製造方法は、上記の現像工程において、隔壁層11の開口面積率Arを20%以上60%以下とし、隔壁層11とカバー層12とを接合する工程において、熱圧着により隔壁層11とカバー層12とを接合することが好ましい。これにより、隔壁層11における加圧への耐性低減および加熱時の熱膨張係数による隔壁層11およびカバー層12の変形が抑制され、当該変形によってカバー層12と隔壁層11との接合に不具合が生じること(接合不良)を回避して接合安定性が向上する。また、隔壁層11とカバー層12との接合時の加圧および加熱によって部材(基板10、隔壁層11およびカバー層12)に破損および反りが発生することが抑制され、通液時の液漏れが発生しないマイクロ流路チップ1を作製することができる。
【0064】
(1.3)変形例
以下、本実施形態の変形例に係るマイクロ流路チップについて、図5を用いて説明する。 図5(a)は、本実施形態の変形例に係るマイクロ流路チップ101の一構成例を説明するための平面概略図である。
マイクロ流路チップ101は、マイクロ流路チップ1と同様に、基板10と、基板10上に複数の流路部13(流路部13a~13c)を有する流路群130を形成する隔壁層11と、カバー層12と、を備えている。なお、図5(a)では、理解を容易にするため、透過した状態のカバー層12を一点鎖線で図示している。
【0065】
図5(a)に示すように、マイクロ流路チップ101は、隔壁層11に流路領域31と支持領域(非流路領域の一例)32とが形成されている点で、マイクロ流路チップ1と相違している。
隔壁層11における流路領域31は、流路部13が形成される領域である。流路領域31には、少なくとも一つの流路部13が形成されていればよい。本例では、流路領域31には、3つの流路部13a,13b,13cが設けられている。これに対し、隔壁層11における支持領域32は、流路部13が設けられていない領域である。
【0066】
隔壁層11において支持領域32には、流路部13が形成されないため流路領域31に比べて多くの樹脂が残存している。このため、隔壁層11の支持領域32は、マイクロ流路チップ101の蓋材であるカバー層12を支持する支持部材、すなわち蓋材支持部として用いることができる。つまり、マイクロ流路チップ101は、隔壁層11に流路領域31および、蓋材支持部として機能する支持領域32が形成されることにより、隔壁層11とカバー層12との接合安定性がさらに向上する。このため、隔壁層11とカバー層12とを接合する際の圧力による部材の破損がさらに抑制され、液漏れが発生しないマイクロ流路チップを確実に提供することができる。
【0067】
また、隔壁層11が支持領域32を有することにより、マイクロ流路チップ1自体の剛性が向上し、保管時や使用時において圧力が加わった際の部材の破損も抑制することができる。
なお、カバー層12との接合安定性を向上するため、隔壁層11において流路領域31と支持領域32とでは、隔壁層11の厚みは同等である。
【0068】
また、流路部13が設けられていない支持領域32の一部には、残存する樹脂材料を利用した機能を付与することができる。例えばインクジェットプリンタによる印字や、樹脂の一部に対する型抜き加工により所定情報(例えば識別番号や製品名等)を示す文字列の刻印を施すことができる。これにより、支持領域32は、情報表示部として機能する。これに限られず、隔壁層11における支持領域32は、マイクロ流路チップの用途等に応じて多種多様な目的に使用することができ、種々の機能を付与することができる。
図5(a)では、一例として平面視で流路領域31が隔壁層11の左領域に配置され、支持領域32が隔壁層11の右領域に配置されている。なお本開示はこれに限られず、隔壁層11において流路領域31が右領域に配置され、支持領域32が左領域に配置されてもよい。
【0069】
また、図5(b)に示すマイクロ流路チップ102のように、隔壁層11に複数の流路部13が形成される場合において、流路領域31が複数形成されていてもよい。この場合、複数の流路領域31の間に支持領域32を配置してもよい。図5(b)では、流路領域31を2つの領域(流路領域31a,31b)に分割し、流路領域31a,31bの間に支持領域32を設けている。本例では、流路領域31aには、複数の流路部13のうち一つの流路部13aが設けられ、流路領域31bには、残余の流路部13(流路部13b,13c)が設けられている。隔壁層11において流路部13が複数であり、且つ流路領域31が複数形成される場合には、各流路領域31(本例では、流路領域31a,31b)には、複数の流路部13のうち少なくとも一つの流路部13が形成されていればよい。
なお、図5(a)および図5(b)は、隔壁層11に流路領域31と支持領域32とを設けたマイクロ流路チップの構成例であって、本変形例によるマイクロ流路チップ101,102に限られず、用途に合わせて種々の態様とすることができる。例えば、マイクロ流路チップにおいて、隔壁層11には支持領域32が複数設けられていてもよい。
【0070】
このように、マイクロ流路チップ(マイクロ流路チップ101,102)において、隔壁層11は、少なくとも一つの前記流路が形成されている流路領域31と流路が形成されていない支持領域32とを有していてもよい。これによりマイクロ流路チップ1において隔壁層11とカバー層12との接合安定性がより向上して隔壁層11とカバー層12とを接合する際の圧力による部材の破損がさらに抑制され、液漏れが発生しないマイクロ流路チップを確実に提供することができる。
【0071】
2.第二実施形態
(2.1)マイクロ流路チップの概要
以下、本開示の第二実施形態に係るマイクロ流路チップ2について、図6および図7を用いて説明する。図6は、本開示の第二実施形態に係るマイクロ流路チップ2の一構成例を説明する平面概略図であり、図7は、本開示の第二実施形態に係るマイクロ流路チップ2の一構成例を説明するための断面図であって、図6に示すB-B線でマイクロ流路チップ2を切断した断面を示す概略断面図である。
図6および図7に示すように、マイクロ流路チップ2は、基板10と、基板10上に配置された密着層15と、基板10上に複数の流路部13a~13cを有する流路群130を形成する隔壁層11と、カバー層12と、を備えている。具体的には、マイクロ流路チップ2は、隔壁層11と基板10との間に密着層15を備えている。密着層15を備える点で、マイクロ流路チップ2は、上記第一実施形態に係るマイクロ流路チップ1と相違する。
【0072】
(2.2)密着層の構成
以下、密着層15について説明する。なお、密着層15以外の各構成(基板10、隔壁層11、カバー層12及び流路部13)については、マイクロ流路チップ1と同様の構成であるため、同一の符号を付し、説明を省略する。
【0073】
マイクロ流路チップ2には、基板10と樹脂層(例えば感光性樹脂層)、すなわち隔壁層11との密着性を向上する目的で、基板10上に疎水化表面処理(HMDS処理)を施したり、薄膜の樹脂をコートしてもよい。特に基板10にガラスを用いる場合などは、図5に示すように基板10と隔壁層11(感光性樹脂層)との間に薄膜による密着層15を設けてもよい。この場合、流路部13を流れる流体(例えば液体)は、基板10ではなく密着層15と接することになる。このため、密着層15は、流路部13に導入される流体への耐性を有していればよい。基板10上に密着層15を設けることで、感光性樹脂による流路パターンの解像性向上などへも寄与することができる。
上述のように、密着層15は基板10上に形成される。このため図6図7に示すように、本実施形態に係るマイクロ流路チップ2においては、流路部13の底部は密着層15で形成され、流路部13において、流路部13の底部を構成する密着層15(具体的には、密着層15の表面15a)が露出している。
【0074】
<実施例>
以下に本開示の実施例について具体的に説明するが、本開示はこれに限定されるものではない。
【0075】
[マイクロ流路チップの作製]
(第1実施例)
<実施例1-1>
本発明者は、図1および図2に示した通り、基板上に隔壁層を形成し、隔壁層とカバー層とを接合してマイクロ流路チップを製造した。
【0076】
第1実施例における実施例1-1に係るマイクロ流路チップ1の製造方法について説明する。まず基板としてガラスを用いた。
【0077】
ガラス基板上へ透明体の感光性樹脂を塗工して、感光性樹脂層を形成した。感光性樹脂にアクリル系感光性樹脂を使用した。感光性樹脂は、スピンコーターにて回転数1100rpm、30秒でガラス基板上に塗工した。膜厚は50μmになるように回転数、時間を調整した。次に、ホットプレート上にて感光性樹脂内に含まれる残留溶媒を除去する目的で加熱処理(プリベーク)を行った。プリベークは、温度90℃で20分実施した。
次に、ガラス基板上の感光性樹脂層を露光して流路パターンを描画した。具体的には、マイクロ流路のパターン配列を有するフォトマスクを介して、感光性樹脂へパターン露光した。フォトマスクはクロム及び酸化クロムの二層構造を遮光膜とするフォトマスクを使用した。また、露光にはプロキシミティ露光装置を用いた。露光装置は高圧水銀灯を光源とし、i線フィルタのカットフィルタを入れて露光した。露光量は170mJ/cmとした。
【0078】
次に、露光した感光性樹脂層に対して現像を行い、流路パターンを形成する隔壁層とした。具体的には、アルカリ現像液(TMAH2.38%)を用いて感光性樹脂層を60秒間現像することにより、未露光部分を溶解し、流路構造をパターニングした。
続いて、超純水によるシャワー洗浄を行い、基板上の感光性樹脂層から現像液を除去し、スピンドライヤにて乾燥を行った。
次に、流路パターンをオーブンで100℃、10分、加熱処理(ポストベーク)した。
上記現像工程では、ポストベーク(残存水分の除去)後の隔壁層において、流路部の開口幅(流路幅)が10μm、流路長がとなり、隔壁層の開口面積率Arが10%となるように流路構造を形成(パターンニング)した。すなわち、現像における、開口幅が10μmの流路部を有し、隔壁層の開口面積率Arが10%となる隔壁層を形成した。
【0079】
次に、流路部を形成した隔壁層と別途作製したカバー層との接合面に対して表面改質処理を施した上で、隔壁層とカバー層とを以下の条件で圧着(室温圧着)により接合した。
〔圧着条件〕
接着剤:アクリル系接着剤(3M社製、型番9969)
使用装置:ゴムローラー
圧力:3N/cm
温度:25℃(室温)
プレス時間:3秒
また、カバー層は予め流路の入出口の孔を開けた厚さが5mmのポリカーボネートを使用した。
これにより、本実施例によるマイクロ流路チップを得た。
【0080】
<実施例1-2>
ガラス基板上に形成した隔壁層に、現像により、流路部の開口幅が500μmとなるように流路構造を形成した。それ以外は実施例1-1と同様にして、実施例1-2に係るマイクロ流路チップを得た。
<実施例1-3>
ガラス基板上に形成した隔壁層に、現像により、流路部の開口幅が2000μmとなるように流路構造を形成した。それ以外は実施例1-1と同様にして、実施例1-3に係るマイクロ流路チップを得た。
<実施例1-4>
現像により、ガラス基板上に形成した隔壁層において開口面積率が30%となるように流路構造を形成した。それ以外は実施例1-1と同様にして実施例1-4に係るマイクロ流路チップを得た。
<実施例1-5>
ガラス基板上に形成した隔壁層に、現像により、流路部の開口幅が500μmとなるように流路構造を形成した。それ以外は実施例1-4と同様にして、実施例1-5に係るマイクロ流路チップを得た。
<実施例1-6>
ガラス基板上に形成した隔壁層に、現像により、流路部の開口幅が2000μmとなるように流路構造を形成した。それ以外は実施例1-4と同様にして、実施例1-6に係るマイクロ流路チップを得た。
<実施例1-7>
現像により、ガラス基板上に形成した隔壁層において開口面積率が60%となるように流路構造を形成した。それ以外は実施例1-1と同様にして実施例1-7に係るマイクロ流路チップを得た。
<実施例1-8>
ガラス基板上に形成した隔壁層に、現像により、流路部の開口幅が500μmとなるように流路構造を形成した。それ以外は実施例1-7と同様にして、実施例1-8に係るマイクロ流路チップを得た。
<実施例1-9>
ガラス基板上に形成した隔壁層に、現像により、流路部の開口幅が2000μmとなるように流路構造を形成した。それ以外は実施例7と同様にして、実施例1-9に係るマイクロ流路チップを得た。
【0081】
<比較例1-1>
現像により、ガラス基板上に形成した隔壁層において開口面積率が70%となるように流路構造を形成した。それ以外は実施例1-1と同様にして比較例1-1に係るマイクロ流路チップを得た。
<比較例1-2>
ガラス基板上に形成した隔壁層に、現像により、流路部の開口幅が500μmとなるように流路構造を形成した。それ以外は比較例1-1と同様にして、比較例1-2に係るマイクロ流路チップを得た。
<比較例1-3>
ガラス基板上に形成した隔壁層に、現像により、流路部の開口幅が2000μmとなるように流路構造を形成した。それ以外は比較例1-1と同様にして、比較例1-3に係るマイクロ流路チップを得た。
<比較例1-4>
ガラス基板上に形成した隔壁層に、現像により、流路部の開口幅が3000μmとなり、隔壁層の開口面積率が30%となるように流路構造を形成した。それ以外は実施例1-1と同様にして、比較例1-4に係るマイクロ流路チップを得た。
<比較例1-5>
現像により、ガラス基板上に形成した隔壁層において、流路部の開口幅が3000μmとなり、隔壁層の開口面積率が70%となるように流路構造を形成した。それ以外は実施例1-1と同様にして比較例1-5に係るマイクロ流路チップを得た。
【0082】
[評価方法]
実施例1-1から実施例1-9および比較例1-1から比較例1-5に記載のマイクロ流路チップにおいて、カバー層の接合後に以下の方法により、接合時の破損、液漏れの有無の評価を行った。
【0083】
(破損の有無)
実施例1-1から実施例1-9および比較例1-1から比較例1-5のマイクロ流路チップに対し、目視で破損の有無を確認した。目視で破損が確認されない場合を「〇(合格)」、目視で破損が確認された場合を「×(不合格)」とした。
【0084】
(液漏れの有無)
実施例1-1から実施例1-9および比較例1-1から比較例1-5のマイクロ流路チップに対し、着色した反応溶液10μLの量をピペットにて採取し、カバー層の入力口流路により導入し、その送液の様子を顕微鏡にて観察した。
観察結果に基づいて、以下の基準により「〇」、「×」の2段階でマイクロ流路チップの液漏れ状態について評価した。
<評価基準>
〇:隔壁層とカバー層との接合箇所において流路内からの液漏れが観察されなかった
×:隔壁層とカバー層との接合箇所において流路内からの液漏れが観察された
【0085】
第1実施例における各実施例および各比較例の評価結果を、マイクロ流路チップの隔壁層における開口面積率、流路の開口幅、流路長、圧着温度とともに表1に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
実施例1-1から実施例1-9のマイクロ流路チップは、接合後に破損しておらず、通液後の液漏れがないことを確認した。一方、比較例1-1から比較例1-5のマイクロ流路チップは、接合後に破損が生じており、さらに通液後に液漏れを確認した。
【0088】
以上の結果から、本実施例のマイクロ流路チップは、壁部の開口面積率および壁部に形成された開口部の寸法(例えば、流路の開口幅)が特定条件を満たすように制御することにより、複数部材(ここでは、壁部および蓋材)を接合する際の接合安定性が向上して、隔壁層とカバー層とを接合する際の圧力による部材(基板、壁部および蓋材)の破損が抑制され、通液時に液漏れが発生しないことが確認できた。
具体的には、実施例1-1から実施例1-9に係るマイクロ流路チップのように、隔壁層において流路部を開口幅が2000μm以下の開口部として形成し、隔壁層の開口面積率が60%以下であることにより、隔壁層とカバー層とを接合する際の圧力による部材の破損を抑制し、通液時の液漏れが発生しないことが確認された。
(第2実施例)
<実施例2-1>
現像により、流路部の開口幅が10μmであり、ガラス基板上に形成した隔壁層において開口面積率が20%となるように流路構造を形成した。
さらに、流路部を形成した隔壁層と別途作製したカバー層との接合面に対して表面改質処理を施した上で、隔壁層とカバー層とを以下の条件で圧着(熱圧着)により接合した。
〔圧着条件〕
使用装置:熱プレス機
圧力:2MPa
温度:50℃
プレス時間:5min
それ以外は実施例1-1と同様の方法で、実施例2-1のマイクロ流路チップを作製した。
【0089】
<実施例2-2>
ガラス基板上に形成した隔壁層に、現像により、流路部の開口幅が500μmとなるように流路構造を形成した。それ以外は実施例2-1と同様にして、実施例2-2に係るマイクロ流路チップを得た。
<実施例2-3>
ガラス基板上に形成した隔壁層に、現像により、流路部の開口幅が2000μmとなるように流路構造を形成した。それ以外は実施例2-1と同様にして、実施例2-3に係るマイクロ流路チップを得た。
<実施例2-4>
現像により、ガラス基板上に形成した隔壁層において開口面積率が30%となるように流路構造を形成した。それ以外は実施例2-1と同様にして実施例2-4に係るマイクロ流路チップを得た。
<実施例2-5>
ガラス基板上に形成した隔壁層に、現像により、流路部の開口幅が500μmとなるように流路構造を形成した。それ以外は実施例2-4と同様にして、実施例2-5に係るマイクロ流路チップを得た。
<実施例2-6>
ガラス基板上に形成した隔壁層に、現像により、流路部の開口幅が2000μmとなるように流路構造を形成した。それ以外は実施例2-4と同様にして、実施例2-6に係るマイクロ流路チップを得た。
<実施例2-7>
現像により、ガラス基板上に形成した隔壁層において開口面積率が60%となるように流路構造を形成した。それ以外は実施例2-1と同様にして実施例2-7に係るマイクロ流路チップを得た。
<実施例2-8>
ガラス基板上に形成した隔壁層に、現像により、流路部の開口幅が500μmとなるように流路構造を形成した。それ以外は実施例2-7と同様にして、実施例2-8に係るマイクロ流路チップを得た。
<実施例2-9>
ガラス基板上に形成した隔壁層に、現像により、流路部の開口幅が2000μmとなるように流路構造を形成した。それ以外は実施例2-7と同様にして、実施例2-9に係るマイクロ流路チップを得た。
【0090】
<比較例2-1>
現像により、ガラス基板上に形成した隔壁層において開口面積率が70%となるように流路構造を形成した。それ以外は実施例2-1と同様にして比較例2-1に係るマイクロ流路チップを得た。
<比較例2-2>
ガラス基板上に形成した隔壁層に、現像により、流路部の開口幅が500μmとなるように流路構造を形成した。それ以外は比較例2-1と同様にして、比較例2-2に係るマイクロ流路チップを得た。
<比較例2-3>
ガラス基板上に形成した隔壁層に、現像により、流路部の開口幅が2000μmとなるように流路構造を形成した。それ以外は比較例2-1と同様にして、比較例2-3に係るマイクロ流路チップを得た。
<比較例2-4>
ガラス基板上に形成した隔壁層に、現像により、流路部の開口幅が3000μmとなり、隔壁層の開口面積率が30%となるように流路構造を形成した。それ以外は実施例2-1と同様にして、比較例2-4に係るマイクロ流路チップを得た。
<比較例2-5>
現像により、ガラス基板上に形成した隔壁層において、流路部の開口幅が3000μmとなり、隔壁層の開口面積率が70%となるように流路構造を形成した。それ以外は実施例2-1と同様にして比較例2-5に係るマイクロ流路チップを得た。
【0091】
[評価方法]
実施例2-1から実施例2-9および比較例2-1から比較例2-5に記載のマイクロ流路チップにおいて、カバー層の接合後に以下の方法により、接合時の破損および反りの発生有無、液漏れの有無の評価を行った。
【0092】
(破損および反りの有無)
実施例2-1から実施例2-9および比較例2-1から比較例2-5のマイクロ流路チップに対し、目視で破損および反りの有無を確認した。目視で破損および反りがいずれも確認されない場合を「〇(合格)」、目視で破損又は反りの少なくとも一方が確認された場合を「×(不合格)」とした。
【0093】
(液漏れの有無)
実施例2-1から実施例2-9および比較例2-1から比較例2-5のマイクロ流路チップに対し、着色した反応溶液10μLの量をピペットにて採取し、カバー層の入力口流路により導入し、その送液の様子を顕微鏡にて観察した。
観察結果に基づいて、以下の基準により「〇」、「×」の2段階でマイクロ流路チップの液漏れ状態について評価した。
<評価基準>
〇:隔壁層とカバー層との接合箇所において流路内からの液漏れが観察されなかった
×:隔壁層とカバー層との接合箇所において流路内からの液漏れが観察された
なお、マイクロ流路チップの破損により通液が実施できないものは「-」で表記した。
【0094】
第2実施例における各実施例および各比較例の評価結果を、マイクロ流路チップの隔壁層における開口面積率、流路の開口幅、流路長、圧着温度とともに表2に示す。
【0095】
【表2】
【0096】
実施例2-1から実施例2-9のマイクロ流路チップは、接合後に破損および反りがいずれも生じておらず、通液後の液漏れがないことを確認した。一方、比較例2-1から比較例2-5のマイクロ流路チップは、接合後に破損または反りが生じており、さらに通液後に液漏れを確認した。
【0097】
以上の結果から、本実施例のマイクロ流路チップは、隔壁層が流路部および蓋材支持部を形成し、隔壁層の開口面積率および隔壁層に形成された開口部の寸法(例えば、流路の開口幅、蓋材支持部間の間隙)が特定条件を満たすように制御することにより、複数部材(ここでは、壁部および蓋材)を接合する際の接合安定性が向上して、隔壁層とカバー層とを接合する際の圧力および加熱による部材(基板、壁部および蓋材)の破損が抑制されることに加えて反りも抑制され、通液時に液漏れが発生しないことが確認できた。
具体的には、実施例2-1から実施例2-9に係るマイクロ流路チップのように、隔壁層において流路部を開口幅が2000μm以下の開口部として形成し、隔壁層の開口面積率が20%以上60%以下であることにより、隔壁層とカバー層とを接合する際の圧力および加熱によって部材に破損および反りが発生する事抑制し、通液時の液漏れが発生しないことが確認された。
【0098】
なお、本開示のマイクロ流路チップ及びマイクロ流路チップの製造方法は、上記の実施形態及び実施例に限定されるものではなく、発明の特徴を損なわない範囲において種々の変更が可能である。
【0099】
また、例えば、本開示は以下のような構成を取ることができる。
(1)
基板と、
樹脂材料で構成され、前記基板上に設けられて流路を形成する隔壁部と、
前記隔壁部の前記基板とは反対側の面に設けられて流路を覆うカバー部と、を備え、
前記流路は、前記隔壁部において開口幅が2000μm以下の開口部として形成され、
前記隔壁部は、開口面積率が60%以下である
ことを特徴とするマイクロ流路チップ。
(2)
前記隔壁部と前記カバー部とが熱圧着により貼合され、
前記隔壁部は、開口面積率が20%以上60%以下である
ことを特徴とする上記(1)に記載のマイクロ流路チップ。
(3)
前記隔壁部には、複数の前記流路が形成されている
ことを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のマイクロ流路チップ。
(4)
前記隔壁部は、少なくとも一つの前記流路が形成されている流路領域と、前記流路が形成されていない非流路領域とを有する
ことを特徴とする上記(1)から(3)のいずれか1項に記載のマイクロ流路チップ。
(5)
前記隔壁部と前記基板との間に密着層が設けられている
ことを特徴とする上記(1)から(4)のいずれか1項に記載のマイクロ流路チップ。
(6)
前記隔壁部を形成する樹脂材料は、紫外光領域である190nm以上400nm以下の波長の光に対して感光性を有する感光性樹脂である、
ことを特徴とする上記(1)から(5)のいずれか1項に記載のマイクロ流路チップ。
(7)
基板上に、樹脂を塗工する工程と、
塗工した前記樹脂を露光する工程と、
露光した前記樹脂を現像及び洗浄し、前記基板上において流路を画定する隔壁部を形成する工程と、
前記隔壁部をポストベーク処理する工程と、
前記隔壁部の前記基板とは反対側の面にカバー部を接合する工程と、を含み、
前記現像により前記基板上の余分な樹脂を除去することで、前記流路となる開口幅が2000μm以下の開口部を前記隔壁部に形成し、前記隔壁部の開口面積率を60%以下とする
ことを特徴とするマイクロ流路チップの製造方法。
(8)
前記隔壁部の前記基板とは反対側の面に前記カバー部を接合する工程において、前記隔壁部と前記カバー部との隙間を狭めるように圧力を加えて前記隔壁部と前記カバー部とを隙間なく接合する
ことを特徴とする上記(7)に記載のマイクロ流路チップの製造方法。
(9)
前記現像により、前記隔壁部の開口面積率を20%以上60%以下とし、
前記隔壁部の前記基板とは反対側の面に前記カバー部を接合する工程において、熱圧着により前記隔壁部と前記カバー部とを接合する
ことを特徴とする上記(7)または(8)に記載のマイクロ流路チップの製造方法。
(10)
前記樹脂を露光する工程において、感光性樹脂を、紫外光領域のうち190nm以上400nm以下の波長の光に感光させる
ことを特徴とする上記(7)から(9)のいずれか1項に記載のマイクロ流路チップの製造方法。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本開示は、研究用途、診断用途、検査、分析、培養などを目的としたマイクロ流路チップにおいて、複雑な製造工程が必要なく上蓋を形成できるマイクロ流路チップ及びその製造方法として好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0101】
1、2、101、102 … マイクロ流路チップ
4、40 … 入力部
5、50 … 出力部
10 … 基板
11 … 隔壁層
12 … カバー層
13、13a、13b、13c … 流路部
15 … 密着層
31、31a、31b … 流路領域
32 … 支持領域
110 … 側面
130 … 流路群
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7