(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027495
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】超音波検査装置
(51)【国際特許分類】
G01N 29/24 20060101AFI20240222BHJP
G01N 29/32 20060101ALI20240222BHJP
G01N 29/07 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
G01N29/24
G01N29/32
G01N29/07
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022130336
(22)【出願日】2022-08-18
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小山 友宏
(72)【発明者】
【氏名】井原 郁夫
(72)【発明者】
【氏名】和田 眞治
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA06
2G047BA03
2G047BC02
2G047BC19
2G047CA01
2G047CB01
2G047CB02
2G047GB29
2G047GG30
(57)【要約】
【課題】横波超音波を利用しつつ、高温の検査対象を検査可能な検査装置を提供する。
【解決手段】超音波検査装置は、縦波超音波の発信と受信とを行う縦波超音波センサと、多面体形状を有する金属製の超音波変換部であって、検査対象に対面して配置される出力面、前記縦波超音波センサが配置される入力面、前記出力面の面方向に対して予め定められた角度で傾斜する変換面であって、前記入力面から入力された縦波超音波を横波超音波に変換して前記出力面に向かって反射させる変換面を有する超音波変換部と、を備える。前記超音波変換部の熱伝導率は、前記検査対象の熱伝導率よりも低い。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波検査装置であって、
縦波超音波の発信と受信とを行う縦波超音波センサと、
多面体形状を有する金属製の超音波変換部であって、
検査対象に対面して配置される出力面と、
前記縦波超音波センサが配置される入力面と、
前記出力面の面方向に対して予め定められた角度で傾斜する変換面であって、前記入力面から入力された縦波超音波を横波超音波に変換して前記出力面に向かって反射させる変換面と、を有する超音波変換部と、を備え、
前記超音波変換部の熱伝導率は、前記検査対象の熱伝導率よりも低い、
超音波検査装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波検査装置であって、
前記超音波変換部は、
物体の密度と音速との乗算により得られる物性値を音響インピーダンスとしたとき、前記検査対象の音響インピーダンスと、前記超音波変換部の音響インピーダンスとの比率が、0.5±10%、または2.0±10%である、
超音波検査装置。
【請求項3】
請求項1に記載の超音波検査装置であって、
さらに、前記超音波変換部の熱膨張係数は、前記検査対象の熱膨張係数よりも小さい、
超音波検査装置。
【請求項4】
請求項1に記載の超音波検査装置であって、
前記超音波変換部は、Ti-6Al-4V合金製である、
超音波検査装置。
【請求項5】
請求項1に記載の超音波検査装置であって、
前記検査対象は、成形品を形成するための内部空間を有する金型と、前記内部空間に流入される成形材料とを含む、
超音波検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、超音波検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
横波超音波が溶湯の未凝固部分を透過しないことを利用して、溶融金属の凝固の状態を検出する検査装置が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
横波超音波を発信する超音波センサは、縦波超音波を発信する超音波センサに比べて耐熱性が低いことがある。そのため、横波超音波を利用しつつ、高温の検査対象を検査可能な検査装置が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
(1)本開示の一形態によれば、超音波検査装置が提供される。この超音波検査装置は、縦波超音波の発信と受信とを行う縦波超音波センサと、多面体形状を有する金属製の超音波変換部であって、検査対象に対面して配置される出力面、前記縦波超音波センサが配置される入力面、前記出力面の面方向に対して予め定められた角度で傾斜する変換面であって、前記入力面から入力された縦波超音波を横波超音波に変換して前記出力面に向かって反射させる変換面を有する超音波変換部と、を備える。前記超音波変換部の熱伝導率は、前記検査対象の熱伝導率よりも低い。
この形態の本実施形態の超音波検査装置によれば、超音波変換部の熱伝導率を検査対象の熱伝導率よりも低くすることにより、検査対象から超音波変換部を介した伝熱を抑制または防止することができる。したがって、横波超音波を利用しつつ、高温の検査対象を検査可能な検査装置を得ることができる。
(2)上記形態の超音波検査装置であって、前記超音波変換部は、物体の密度と音速との乗算により得られる物性値を音響インピーダンスとしたとき、前記検査対象の音響インピーダンスと、前記超音波変換部の音響インピーダンスとの比率が、0.5±10%、または2.0±10%であってよい。
この形態の超音波検査装置によれば、検査対象と超音波変換部との界面での横波超音波の透過と反射とのバランスを良好にして、超音波検査装置による反射波の検出精度を高くすることができる。
(3)上記形態の超音波検査装置であって、さらに、前記超音波変換部の熱膨張係数は、前記検査対象の熱膨張係数よりも小さくてもよい。
この形態の超音波検査装置によれば、検査対象からの伝熱による超音波変換部の変形を抑制または防止することができる。
(4)上記形態の超音波検査装置であって、前記超音波変換部は、Ti-6Al-4V合金製であってよい。
この形態の超音波検査装置によれば、公知の材料を用いた簡易な方法により超音波変換部を得ることができる。
(5)上記形態の超音波検査装置であって、前記検査対象は、成形品を形成するための内部空間を有する金型と、前記内部空間に流入される成形材料とを含んでよい。
この形態の超音波検査装置によれば、成形機など用いられる金型内の成形材料に関する情報を取得することできる超音波検査装置を得ることできる。
本開示は、超音波検査装置以外の種々の形態で実現することも可能である。例えば、超音波検査方法、成形品の製造方法、成形機、超音波検査装置や成形機の制御方法、その制御方法を実現するコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した一時的でない記録媒体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図3】超音波変換部の作製に参照した物性値の例を示す説明図。
【
図4】超音波検査装置により得られた第一の実験結果を示す説明図。
【
図5】超音波検査装置により得られた第二の実験結果を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.第1実施形態:
図1は、超音波検査システム100の構成を示す説明図である。超音波検査システム100は、本開示の第1実施形態としての超音波検査装置80と、制御装置90とを備えている。超音波検査システム100は、例えばダイカストマシンなどの成形機に備えられる金型50に超音波検査装置80を装着して用いられる。「成形機」とは、成形材料54を金型50の内部に射出して凝固させることにより、成形品を製造する装置である。「成形材料」とは、例えば、液状または固液共存状態である凝固前の金属材料である。凝固前の金属材料は、「溶湯」とも呼ばれる。金属材料には、例えば、アルミニウムやアルミニウム合金、亜鉛合金やマグネシウム合金、銅合金などの種々の材料が含まれる。本実施形態では、金属材料としてアルミニウムを使用し、溶湯の温度は約700℃である。なお、成形機は、ダイカストマシンのほかに、例えば、樹脂材料を成形材料とする射出成形機などの種々の成形機が含まれ得る。
【0009】
金型50は、例えば、合金工具鋼を用いて形成することができる。本実施形態では、金型50は、SKD61(日本工業規格JIS G 4404:2015 合金工具鋼鋼材)を用いて形成されている。金型50は、超音波検査システム100の超音波検査装置80を装着するための外壁E1と、内部空間CVを規定する内壁E2とを備えている。金型50の内壁E2には、離型剤52が塗布されている。金型50は、図示しない型締装置により開閉可能である。型締装置の型締めによって閉じられた金型50内には、成形品と略同一形状の内部空間CVが形成される。内部空間CVは、キャビティとも呼ばれる。金型50の内部空間CVには、図示しない射出装置によって凝固前の金属材料が射出され充填される。内部空間CVに充填された凝固前の成形材料54は、金型50に熱を奪われること等によって冷却され、凝固する。この結果、成形品が形成される。
【0010】
本実施形態では、検査対象には、金型50と、金型50の内部空間CVに存在する成形材料54と、金型50の内部空間CVに存在する離型剤52とが含まれる。超音波検査装置80は、例えば、金型と成形材料に用いられる例には限定されず、例えば、シリンダブロックの内部のオイルの状態や燃料の状態、これらの温度等の情報など、任意の構造体と当該構造体の内部の状態に関する情報を取得するために用いられてもよい。
【0011】
超音波検査装置80は、接着層81と、超音波変換部82と、縦波超音波センサ84と、高速AD変換器86とを備えている。接着層81は、金型50と、超音波検査装置80とを接着させる。接着層81としては、銀ペーストや金属薄膜を適用することができる。金型50は、接着層81に代えて、またはそれとともに、ボルト等によって超音波検査装置80に固定されてもよい。超音波変換部82と、超音波検査装置80との間には、超音波変換部82と縦波超音波センサ84の接触面での超音波透過性を向上させるための接触媒質が塗布されてもよい。接触媒質としては、例えば、銀ペーストあるいは金などの金属薄膜を適用することができ、超音波変換部82と縦波超音波センサ84の接触面の温度が充分に低い場合には、水やグリセリン等を適用することができる。
【0012】
縦波超音波センサ84は、圧電素子を利用した探触子であり、縦波超音波を発信および受信する。「縦波超音波」とは、伝播方向と同じ方向に媒体が振動する超音波であり、「横波超音波」とは、伝播方向と垂直方向に媒体が振動する超音波である。縦波超音波センサ84は、金型50などの高温の検査対象の検査に用いる観点から、耐熱性が高いことが好ましい。本実施形態では、縦波超音波センサ84の耐熱温度は、500℃程度であり、溶湯の温度よりも低い。なお、横波超音波を発信するための横波超音波センサは、例えば、120℃程度であり、一般的には縦波超音波センサの耐熱温度よりも低い。
【0013】
超音波変換部82は、後述するように、多面体形状を有する金属製の構造体である。超音波変換部82には縦波超音波センサ84が取り付けられる。超音波変換部82は、縦波超音波センサ84から発信された縦波超音波を横波超音波に変換し、変換した横波超音波を検査対象に出力する。また、超音波変換部82は、縦波超音波センサ84が検査対象に直接的に取り付けられることを回避し、縦波超音波センサ84が検査対象から直接的に伝熱されることを抑制または防止している。
【0014】
超音波変換部82は、入力面S1と、出力面S2と、変換面S3との3つの面を備えている。入力面S1は、縦波超音波センサ84が取り付けられる面であり、縦波超音波センサ84から縦波超音波が入力される。縦波超音波センサ84が高温環境に曝されることを抑制する観点から、縦波超音波センサ84は、成形材料54や金型50から離間した位置に取り付けられることが好ましい。
【0015】
出力面S2は、金型50に対面して配置される面である。「金型50に対面して配置される」とは、金型50に接触した状態で対面している状態と、例えば接着層81などの媒体を介して金型50に接触した状態で対面している状態とを含む。変換面S3は、入力面S1から入力された縦波超音波を横波超音波に変換して出力面S2に向かって反射させる。入力面S1と、出力面S2と、変換面S3との3つの面は、各機能を有することを前提に、平面に限らず曲面とされてもよい。ただし、物体間の界面において超音波を円滑に伝播させる観点から平面であることが好ましい。
【0016】
図1に矢印LW1で示すように、縦波超音波センサ84から入力面S1を介して超音波変換部82に発信された縦波超音波は、変換面S3に向かって伝播する。矢印SW1で示すように、縦波超音波は、変換面S3で反射すると、横波超音波に変換され、出力面S2に向かって伝播する。出力面S2に向かって伝播した横波超音波の一部は、外壁E1で反射されて、変換面S3に向かって伝播する。矢印LW2で示すように、外壁E1で反射した横波超音波は、変換面S3で反射して縦波超音波に変換され、縦波超音波センサ84によって受信される。矢印SW2で示すように、外壁E1で反射せず金型50に入力された横波超音波は、内壁E2、離型剤52、あるいは成形材料54によって反射される。内壁E2等によって反射された横波超音波は、金型50を伝播して超音波変換部82に入力され、変換面S3に向かって伝播する。矢印LW2で示すように、変換面S3で反射された横波超音波は、縦波超音波に変換されて、縦波超音波センサ84によって受信される。このように、超音波検査装置80は、超音波変換部82を介して縦波超音波を横波超音波に変換することができ、縦波超音波センサ84を用いて横波超音波を利用した検査を実行することができる。
【0017】
高速AD変換器86には、縦波超音波センサ84から出力された縦波超音波の波形に対応するアナログ電圧信号が入力される。高速AD変換器86は、入力されたアナログ電圧信号をデジタル信号へと変換し、制御装置90に出力する。高速AD変換器86は、縦波超音波センサ84、あるいは制御装置90に備えられてもよい。
【0018】
制御装置90は、論理演算を実行するマイクロプロセッサと、ROM、RAM等のメモリとを備えるマイクロコンピュータである。マイクロプロセッサは、メモリに予め格納されるプログラムを実行することにより、本実施形態で提供される各部の機能を実行することができる。本実施形態では、マイクロプロセッサがメモリに格納されたプログラムを実行することによって、伝播時間演算部92および情報取得部94として機能する。制御装置90は、さらに、金型50などのダイカストマシンの各部の動作を制御してもよい。伝播時間演算部92および情報取得部94などの各部の機能の一部又は全部は、ハードウェア回路で実現されてもよい。伝播時間演算部92および情報取得部94は、高速AD変換器86に備えられてもよい。
【0019】
伝播時間演算部92は、縦波超音波センサ84が縦波超音波を発信してから反射波としての縦波超音波を検出するまでの伝播時間を算出する。情報取得部94は、伝播時間演算部92により取得される超音波の伝播時間を用いて、検査対象に関する情報を取得する。情報取得部94は、例えば、超音波の伝播時間と、検査対象の熱伝導率などを含む検査対象に関する物性値とを用いて、理論式に基づき検査対象の温度分布を取得する。温度分布を算出するための理論式としては、例えば、特開2008-70340号公報に公開されている理論式を用いることができる。情報取得部94は、理論式に代えて、超音波の伝播時間と、検査対象の温度との関係を示すデータテーブルを用いてもよい。情報取得部94が取得する情報は、検査対象の温度分布には限定されず、検査対象の内部の材料の凝固の進行状況、金型50の内壁E2に接触する物体の有無、および金型50内でのライデンフロスト現象の発生の有無などが含まれてもよい。ライデンフロスト現象とは、液滴が、その飽和温度以上の固体面上で蒸発する現象を意味する。
【0020】
図2および
図3を用いて、超音波変換部82の作製方法について説明する。
図2は、超音波変換部82の概略構成を示す説明図である。
図2の例では、超音波変換部82は、出力面S2と、変換面S3との間の角度θが設定された直角三角形の上面STおよび底面SBを有する略三角柱の外観形状を有している。超音波変換部82は、例えば金型を利用した金属材料の成形、金属材料の切削等により形成することができる。本実施形態では、幅WDを50.0ミリメートル、奥行きLGを47.4ミリメートル、高さHTを24.0ミリメートルで設定した。ただし、各辺の寸法は、これに限らず、任意に設定されてもよい。なお、入力面S1と、出力面S2と、変換面S3とは、互いに接続されていなくてもよい。超音波変換部82の形状は、三角柱に限らず、入力面S1と、出力面S2と、変換面S3との3つの面を備える任意の多面体形状を有していてよい。
【0021】
入力面S1の一部の領域SAには、縦波超音波センサ84が取り付けられる。縦波超音波センサ84による縦波超音波の伝播方向は、入力面S1の面方向に対して垂直になるように設定されている。
【0022】
図2に示す角度θは、入力面S1と変換面S3とによって規定される。角度θは、入力された縦波超音波を横波超音波に変換することができ、かつ、変換された横波超音波の伝播方向がS3の面方向に対して垂直になるように設定されている。本実施形態では、以下の式(1)によって算出した。
【0023】
【0024】
上記式(1)に用いる縦波音速および横波音速は、材料の個体差の影響を抑制するために、超音波変換部82の加工前の材料による実測値を用いた。本実施形態では、超音波変換部82の材料には、後述するように、Ti-6Al-4V(JIS 60種)が用いられており、縦波音速の実測値は、6277.7m/sであり、横波音速の実測値は、3175.5m/sであった。角度θは、これら実測値および式(1)から導出された26.832度で設定した。縦波音速および横波音速は、実測値に代えて、公知の物性値などの他の値を用いてもよい。
【0025】
図3は、超音波変換部82の作製に参照した物性値の例を示す説明図である。
図3に示す表には、金属材料の種類と、各金属材料の物性値とが示されている。各金属材料の物性値は、公知の値であり、本実施形態では、日本機械学会(編)『機械工学便覧 合本β.デザイン編』を参照した。なお、各物性値は、常温時の物性値を示すが、これに限らず、使用環境の温度を用いてもよい。
図3には、技術の理解を容易にするために、以下の説明で着目する数値に下線を付してある。
【0026】
金属材料の種類において、左端には、比較用として、検査対象である金型50の材料であるSKD61が示されている。それよりも右側には、超音波変換部82の候補として選定した金属材料の例が示されている。超音波変換部82の材料の選定には、以下の条件を考慮した。
(1)検査対象から縦波超音波センサ84への伝熱を抑制または防止できること。
(2)検査対象からの伝熱による超音波変換部82の変形を抑制または防止できること。
(3)検査対象と超音波変換部82との界面での横波超音波の透過と反射とのバランスが良い材料であること。
【0027】
上記(1)の条件を満たすためには、低い熱伝導率を有する材料であることが好ましい。本実施形態では、検査対象の材料(本実施形態において、SKD61)の熱伝導率よりも低い熱伝導率を有する材料を選定した。
図3の例において、SKD61よりも熱伝導率が低い材料は、ステンレス鋼(SUS304)およびTi-6Al-4Vである。「Ti-6Al-4V」とは、α+β型のチタン合金であり、質量分率でチタンにアルミニウムを6%、バナジウムを4%添加したチタン合金である。本開示では、Ti-6Al-4Vを、「64チタン」とも呼ぶ。ただし、超音波変換部82の熱伝導率は、検査対象の熱伝導率よりも低い場合のみには限定されず、例えば、検査対象から縦波超音波センサ84への伝熱が抑制されることを前提に100(W/m・K)以下とされてもよい。また、超音波変換部82の熱伝導率は、検査対象から縦波超音波センサ84への伝熱を充分に抑制する観点から、50(W/m・K)以下とされることがより好ましい。超音波変換部82の熱伝導率は、炭素鋼、クロム鋼、マンガン鋼などの一般的な金属の熱伝導率よりも低く設定されてもよい。
【0028】
上記(2)の条件を満たすためには、小さい熱膨張係数を有する材料であることが好ましい。本実施形態では、SKD61の熱膨張係数よりも小さい熱膨張係数を有する材料を選定した。
図3の例では、SKD61よりも熱膨張係数が小さい材料は、64チタンのみである。ただし、超音波変換部82の変形による縦波超音波センサ84の検出精度への影響が小さい場合などには、超音波変換部82の熱膨張係数は、20(x10
-6/K)以下とされてもよい。また、超音波変換部82の熱膨張係数は、超音波変換部82の変形による縦波超音波センサ84の検出精度への影響をより小さくする観点から、12(x10
-6/K)以下とされることがより好ましい。超音波変換部82の熱膨張係数は、炭素鋼、クロム鋼、マンガン鋼などの一般的な金属の熱伝導率よりも低く設定されてもよい。
【0029】
上記(3)の条件を満たすためには、検査対象の材料(SKD61)の横波音響インピーダンスと、超音波変換部82の材料の横波音響インピーダンスとに好適な差があることが好ましい。「音響インピーダンス」とは、物体の密度と音速との乗算により得られる物性値を意味する。検査対象と超音波変換部82との横波音響インピーダンスの差が大きい場合には、検査対象の表面(
図1の例において、外壁E1)で超音波が反射されやすくなり透過しにくくなり得る。横波音響インピーダンスの差が小さい場合には、検査対象へ透過されやすくなるが反射されにくくなり得る。本実施形態では、シミュレーションにより、横波音響インピーダンスの比率が0.5あるいは2.0程度である場合に、横波超音波の反射と透過との良好なバランスを得られることが実験的に得られている。横波音響インピーダンスの比率は、材料ごとの物性値のばらつきや測定誤差を許容するために、0.5±10%、あるいは2.0±10%で設定することができる。
図3の例では、横波音響インピーダンスの比率が2.0±10%に含まれる材料は、64チタンのみである。以上のように、本実施形態では、超音波変換部82には、上記(1)-(3)をすべて満たす材料として、64チタンを選択した。
【0030】
図4および
図5を用いて、作製した超音波変換部82の特性について説明する。
図4は、作製した超音波変換部82を用いた超音波検査装置80により得られた第一の実験結果を示す説明図である。
図4の横軸は、縦波超音波が発信された時点からの経過時間(単位:マイクロ秒)を示し、縦軸は反射波(任意単位)を示している。
図4に示す反射波W1は、金型50と超音波変換部82との界面、すなわち外壁E1で反射された超音波を示している(
図1の例において、矢印SW1で示される超音波)。反射波W2は、金型50に透過し、内壁E2で反射された超音波を示している(
図1の例において、矢印SW2で示される超音波)。
【0031】
横波超音波の伝播時間や金型50の温度分布など、情報取得部94が検査対象に関する情報を取得するためには、反射波W1と反射波W2とが充分な振幅あるいは強度を有していることが好ましい。
図4に示す検出結果によれば、反射波W1と反射波W2とが充分な振幅を有していることが理解できる。なお、反射波W3は、超音波変換部82内を二往復したあとに金型50に透過し、内壁E2で反射された超音波を示している。反射波W4は、超音波変換部82内で横波超音波に変換された後に、金型50内を二往復した超音波を示している。
【0032】
図5は、作製した超音波変換部82を用いた超音波検査装置80により得られた第二の実験結果を示す説明図である。横軸は時間軸であり、グラフの右側の縦軸は、縦波超音波の伝播時間と、横波超音波の伝播時間とを示している。なお、「横波超音波の伝播時間」とは、便宜上の表現であり、超音波変換部82を用いた変換前後の超音波の伝播時間を意味する。グラフの左側の縦軸は、熱電対による外壁E1の表面温度を示している。本実験では、
図1に示す金型50および超音波検査システム100を用いるとともに、縦波超音波センサ84と同様の縦波超音波センサを比較用に用いて実験した。比較用の縦波超音波センサ84は、超音波変換部82を用いることなく金型50の外壁E1上に直接的に取り付けた。本実験では、比較用の縦波超音波センサの故障を防止するために耐熱温度以下である約150℃の溶融金属を用いて行った。なお、本実施形態では、金型50の表面温度を取得するための熱電対が外壁E1に配置されている。
【0033】
制御装置90は、例えば100秒などの所定の期間において、縦波超音波センサ84および比較用の縦波超音波センサを制御して、定常的に縦波超音波を発信させる。縦波超音波センサ84および比較用の縦波超音波センサは、内壁E2からの反射波を繰り返し検出し、制御装置90は、各反射波の伝播時間を取得する。実験開始後の約30秒後の時間T1では、溶融金属が金型50の内部空間CVに投入される。
【0034】
図5には、熱電対による外壁E1の表面温度の変化を示すグラフGTと、比較用の縦波超音波センサを用いて取得された縦波超音波の伝播時間の変化を示すグラフGLと、本実施形態の超音波検査装置80を用いて取得される超音波の伝播時間を示すグラフGSとが示されている。グラフGLおよびグラフGSが示すように、各超音波の伝播時間は、溶融金属が投入された時間T1から上昇する。ここで、グラフGLで示される比較用の縦波超音波では、矢印P1で示すように、伝播時間が不連続な値を含む大きな変化(ノイズ)を有している。これに対して、グラフGSで示される本実施形態の超音波検査装置80を用いて取得される超音波では、伝播時間に大きなノイズは発生せず安定して変化していることが分かる。これは、本実施形態の超音波検査装置80を用いて取得される超音波が、高温の溶融金属が金型50の内壁E2に接触することによる温度変化やライデンフロスト現象等による影響をあまり受けず、安定していることを示している。換言すれば、本実施形態の超音波検査装置80を用いて取得される超音波が横波超音波と同程度の性能を有していることを示している。
【0035】
以上、説明したように、本実施形態の超音波検査装置80は、検査対象に対面して配置される出力面S2と、縦波超音波センサ84が配置される入力面S1と、出力面S2の面方向に対して予め定められた角度で傾斜することにより入力面S1から入力された縦波超音波を出力面S2に向かって反射させて横波超音波に変換する変換面S3とを有する超音波変換部82を備えている。横波超音波センサよりも耐熱性が高い縦波超音波センサ84を適用することができ、横波超音波を利用する検査装置の耐熱性を高くすることができる。縦波超音波センサ84が検査対象との間に超音波変換部82を介して配置されるので、超音波変換部82を検査対象から離間させることができ、縦波超音波センサ84に対する伝熱を抑制または防止することができる。本実施形態の超音波検査装置80によれば、超音波変換部82の熱伝導率を、検査対象の熱伝導率よりも低くすることにより、検査対象から超音波変換部82を介した伝熱を抑制または防止することができる。
【0036】
本実施形態の超音波検査装置80によれば、超音波変換部82は、金型50の音響インピーダンスと、超音波変換部82の音響インピーダンスとの比率が2.0±10%である。金型50の材料(SKD61)の横波音響インピーダンスと、超音波変換部82の材料の横波音響インピーダンスとに好適な差を設けることにより、金型50と超音波変換部82との界面での横波超音波の透過と反射とのバランスを良好にでき、超音波検査装置80による反射波の検出精度を高くすることができる。
【0037】
本実施形態の超音波検査装置80によれば、超音波変換部82の熱膨張係数は、金型50の熱膨張係数よりも小さくされている。したがって、金型50からの伝熱による超音波変換部82の変形を抑制または防止することができ、超音波検査装置80による反射波の検出精度を高くすることができる。
【0038】
本実施形態の超音波検査装置80によれば、超音波変換部82は、Ti-6Al-4V合金製である。公知の材料を用いた簡易な方法により超音波変換部82を作製することができる。
【0039】
本実施形態の超音波検査装置80によれば、検査対象は、成形品を形成するための内部空間CVを有する金型50と、内部空間CVに流入される成形材料54とを含む。したがって、ダイカストマシンや射出成形機などの成形機に用いられる金型50内の成形材料54に関する情報を取得することできる超音波検査装置80を得ることできる。
【0040】
B.他の実施形態:
(B1)上記第1実施形態では、(1)熱伝導率、(2)熱膨張係数、(3)検査対象と超音波変換部82との界面での横波超音波の透過と反射とのバランス、のすべての条件を満たす材料として64チタンを超音波変換部82の材料として選定する例を示した。これに対して、すべての条件を満たす材料には限らず、少なくとも(1)熱伝導率が検査対象などよりも低い材料であればよい。
図3の例では、例えば、SKD61よりも熱伝導率が低いSUS304が選定されてもよい。また、上記(1)から(3)の条件に加えて、(4)超音波変換部82における超音波の伝播特性が良好であることが考慮されてもよい。超音波の伝播特性が良好な材料としては、例えば、超音波の減衰率が引く材料を用いることができる。
【0041】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0042】
50…金型、52…離型剤、54…成形材料、80…超音波検査装置、81…接着層、82…超音波変換部、84…縦波超音波センサ、86…高速AD変換器、90…制御装置、92…伝播時間演算部、94…情報取得部、100…超音波検査システム、CV…内部空間、E1…外壁、E2…内壁、S1…入力面、S2…出力面、S3…変換面、SB…底面、ST…上面