IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 干野 隆芳の特許一覧

<>
  • 特開-粘弾性測定方法 図1
  • 特開-粘弾性測定方法 図2
  • 特開-粘弾性測定方法 図3
  • 特開-粘弾性測定方法 図4
  • 特開-粘弾性測定方法 図5
  • 特開-粘弾性測定方法 図6
  • 特開-粘弾性測定方法 図7
  • 特開-粘弾性測定方法 図8
  • 特開-粘弾性測定方法 図9
  • 特開-粘弾性測定方法 図10
  • 特開-粘弾性測定方法 図11
  • 特開-粘弾性測定方法 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027502
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】粘弾性測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 11/12 20060101AFI20240222BHJP
【FI】
G01N11/12
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022130357
(22)【出願日】2022-08-18
(71)【出願人】
【識別番号】522329168
【氏名又は名称】干野 隆芳
(74)【代理人】
【識別番号】100091719
【弁理士】
【氏名又は名称】忰熊 嗣久
(72)【発明者】
【氏名】干野 隆芳
(57)【要約】
【課題】
SBE法により弾性率を測定する粘弾性測定方法を提供することを提供する。
【解決手段】
試料の弾性率を測定するSBC測定手順において、プランジャーを押し込み、プランジャーを停止させた後その停止状態を保持された間(ステップ1-C又は2-C)、流体はプランジャーの側面を上向きに流れる。本発明では、このときの設定状態を「ばね」と「ダッシュポット」の単純なマックスウェル(Maxwell)モデルに当てはめて、弾性率Gを求めるのである。
【選択図】 図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハーシェルバルクレイ(HB)流体の試料の弾性率を測定する方法であって、
(A)内周半径Rを有する円筒状容器に入れられた試料に、前記円筒状容器より小径の外周半径Rを有するプランジャーを前記円筒状容器と同軸状に初期深さLだけ浸漬させて静止させる工程と、
(B)前記プランジャーを前記円筒状容器と同軸状に第1相対移動速度vp1で第1相対移動距離ΔLだけ前記試料に更に浸漬させ、当該更なる浸漬動作中及び当該更なる浸漬動作後に停止された状態で前記プランジャーが前記試料から受ける力を時間の経過に応じて測定する工程と、
(C)前記プランジャーの第1相対移動速度vp1に基づく相対移動に起因する前記力の測定値に基づいて、前記プランジャーが前記試料から受ける力の第1ピーク値FT1および第1収束値FTe1を求める工程と、
(D)前記プランジャーを前記円筒状容器と同軸状に前記初期深さLまで戻して静止させる工程と、
(E)前記プランジャーを前記円筒状容器と同軸状に第2相対移動速度vp2で第2相対移動距離ΔLだけ前記試料に更に浸漬させ、当該更なる浸漬動作中及び当該更なる浸漬動作後に停止された状態で前記プランジャーが前記試料から受ける力を時間の経過に応じて測定する工程と、
(F)前記プランジャーの第2相対移動速度vp2に基づく相対移動に起因する前記力の測定値に基づいて、前記プランジャーが前記試料から受ける力の第2ピーク値FT2および第2収束値FTe2を求める工程と、
(G)第1相対移動速度vp1における第1相対移動距離ΔLと第1ピーク値FT1と第1収束値FTe1と、第2相対移動速度vp2における第2相対移動距離ΔLと第2ピーク値FT2と第2収束値FTe2と、プランジャー比κ=R/Rと、前記試料の流動性指数nと、の間に成り立つ所定の関係に基づいて、前記流動性指数nを求める工程と、
(H)第1相対移動速度vp1、第1相対移動距離ΔL、第1ピーク値FT1、第1収束値FTe1と、第2相対移動速度vp2、第2相対移動距離ΔL、第2ピーク値FT2、第2収束値FTe2と、前記プランジャー比κと、前記流動性指数nと、前記試料の密度ρと、重力加速度gに基づいて、前記試料の粘度μaを求める工程と、
(G)マックスウェルモデルによる応力変化を表す下記の関数に、当該更なる浸漬動作後に停止された状態で前記プランジャーが前記試料から受ける力の測定値を外挿することにより求めた応力緩和時間τMと、前記試料の粘度μaに基づいて、前記試料の弾性率Gを求める工程と
を備えたことを特徴とする粘弾性測定方法。
【数2】
【請求項2】
前記求めたピーク値FT1と収束値FTE1のいずれか1つ又は全部を所定の範囲で微少に動かして、又は、前記求めたピーク値FT2と収束値FTE2のいずれか1つ又は全部を所定の範囲で微少に動かして
前記流動性指数nを求める工程と、前記流動性指数nを求める工程と、前記試料の弾性率Gを求める工程とを繰り返す工程と、
前記繰り返しの度に、粘弾性流体のHB流動を示した下記の構成方程式を求めて、測定値との残差から統計学上の決定係数Rを求め、1に近い最大値であるかどうか評価する工程と、
を備え、
決定係数Rが最大値のときの前記試料の粘度μaと前記試料の弾性率Gとを結果として得ることを特徴とする請求項1の粘弾性測定方法。
【数6】
ここにおいて、応力σ、初期応力σ、粘性定数K、ずり速度dγ/dt、流動性指数nである。
【請求項3】
前記試料の弾性率Gを求める工程において、前記外挿に使用する測定値は、当該更なる浸漬動作後にプランジャーを停止させた直後から所定の時間経過した後に測定された、前記プランジャーが前記試料から受ける力の測定値であることを特徴とする請求項1の粘弾性測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘弾性測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
物質の力学的特性は液体的性質である粘性と固体的性質である弾性として表される。食品はこれら両方の特性をあわせもつ粘弾性体が多く、粘性及び弾性を同時に測定することができれば、食感を可視化することが可能となる。
【0003】
ところが、粘性と弾性は同時に測定することは難しい。粘度測定は,決まった量の流動条件においてその抵抗をほんの短い時間で検出することが可能である。一般的な粘度測定では回転型が多く使われており,ニュートン流体は測定しやすいが、非ニュートン流体である指数則流体や、降伏流動や時間依存性流動を示すハーシェルバルクレイ流体(以下、「HB流体」と称する)の測定は難しい。弾性率測定においては、決まった変形程度について長時間測定された応力の変化で解析することが必要であり,応力緩和やクリープ回復試験が行われている。そして、これら粘度測定と弾性率測定は同時に行うことはできない。
【0004】
そして、非特許文献1においては、動的測定では粘弾性係数が得られるが,動的弾性は静的弾性と異なり、コックスメルツ則に従うものを除いて動的粘性も静的粘性とも異なると報告している。
【0005】
静的弾性率を測定するものとして、非特許文献2では、寒天ゲルを用い並行平板ヴィスコエラストメーターとレオロメーターを使って60 分のクリープと応力緩和テストで多要素解析を行ったことを報告している。また、非特許文献3では、協同流動理論をもとにハイドロゲルを用いて18時間の応力緩和試験を行ったことを報告している。これらの二つの研究は構造的な差を解析しようとするものである。
【0006】
応力緩和試験は食品科学領域においては,小麦粉ドウ (非特許文献4)、オーツグラウト(非特許文献5)、オーツフレイク (非特許文献6) 、 キャッサバドウ(非特許文献7)、 小麦カーネル(非特許文献8) の特徴把握に使用されている。また、ポリマーサイエンス領域においては、固形領域でポリウレタン(非特許文献9、非特許文献10)を使用している。これらの研究は、固体領域で多要素モデルを使いながら構造差を分析するために使用されている。
【0007】
流動状態のおいては,非特許文献11において、非回転二重円筒法(NRCC )法を用いた粘弾性特性の研究が報告されている。NRCC法は,試料容器とプランジャーの間のサンプルが流動する直前の力を弾性と粘性に分離し、弾性率と粘性率を得る方法である。しかしながら、NRCC法は非ニュートン流体であるにもかかわらず,流動開始時のニュートン流体のずり速度のみが得られるだけである。しかも,サンプルの粘度が増すとその分離は不正確になる。同様な事は応力緩和やクリープ粘弾性測定でも発生し、ニュートン流体の高粘度のものでも高い弾性率を示してしまう。
【0008】
ところで、ニュートン流体、非ニュートン流体(指数則流体およびHB流体)は、以下のように定義される。
ニュートン流体:ニュートン流体とは、粘度が「ずり速度」に依存しない流体である。
非ニュートン流体:非ニュートン流体とは、粘度が「ずり速度」に依存する流体である。そして、非ニュートン流体の粘度は、「ずり応力」を「ずり速度」で除した見かけ粘度で表される。
指数則流体:指数則流体とは、流動を開始させるのに必要なずり応力の最小値(降伏値という)がゼロである非ニュートン流体である。
HB流体(ハーシェルバルクレイ流体):HB流体とは、降伏値がゼロより大きい非ニュートン流体である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第5989537号公報
【特許文献2】特許第5596244号公報
【特許文献3】特許第6087481号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Cox WP, Merz EH (1958) Correlation of dynamic and steady flow viscosities. J Polym Sci 28(118): 619-622.https://doi.org/10.1002/pol.1958.1202811812
【非特許文献2】Isozaki H, Akabane H, Nakahama N (1976) Viscoelasticity of hydrogels of agar-agar analysis of creep and stress relaxation. Nippon Nogeikagaku Kaishi 50(6): 265-272.https://doi.org/10.1271/nogeikagaku1924.50.6_265
【非特許文献3】Miura M, Yamauchi F (1984) Stress relaxation analysis of food gels according to the cooperative flow theory. Nippon Shokuhin Kogyo Gakkaishi 31(12): 783-789.https://doi.org/10.3136/nskkk1962.31.12_783
【非特許文献4】Rao VK, Mulvaney SJ, Dexter JE (2000) Rheological characterization of long- and short-mixing flours based on stress relaxation. J Cereal Sci 31(2): 159-171.https://doi.org/10.1006/jcrs.1999.0295
【非特許文献5】Gates FK, Dobraszczyk BJ, Stoddard FL, Sontag-Strohm T, Salovaara H (2008) Interaction of heatmoisture conditions and physical properties in oat processing: I. Mechanical properties of steamed oat groats. J Cereal Sci 47(2008): 239-244. https://doi.org/10.1016/j.jcs.2007.04.003
【非特許文献6】Ozturk OK, Takhar PS (2017) Stress relaxation behavior of oat flakes. J Cereal Sci 77:84-89.https://doi.org/10.1016/j.jcs.2017.08.005
【非特許文献7】Rodriguez-Sandoval E, Fernandez-Quintero A, Cuvelier G (2009) Stress relaxation of reconstituted cassava dough. LWT Food Sci Technol 42(1):202-206.https://doi.org/10.1016/j.lwt.2008.03.007
【非特許文献8】Figueroa JDC, Hernandez ZJE, Veles MJJ, Rayas‐Duarte P, Martinez‐Flores HE, Ponce‐Garcia N(2011) Evaluation of degree of elasticity and other mechanical properties of wheat kernels.Cereal Chem 88(1): 12-18.https://doi.org/10.1094/CCHEM-04-10-0065
【非特許文献9】Xia H, Song M, Zhang Z, Richardson M (2007) Microphase separation, stress relaxation, and creep behavior of polyurethane nanocomposites. J Appl Polym Sci 103(5):2992-3002.https://doi.org/10.1002/app.25462
【非特許文献10】Obaid N, Kortschot MT, Sain M (2017) Understanding the stress relaxation behavior of polymers reinforced with short elastic fibers. Materials 10(5): 472.https://doi.org/10.3390/ma10050472
【非特許文献11】Suzuki K. (1999). A novel method for evaluating viscosity and viscoelasticity of liquid foods by a non?rotational concentric cylinder setup. Nippon Shokuhin Kagaku Kogaku Kaishi, 46(10):657-663. https://doi.org/10.3136/nskkk.46.657
【非特許文献12】干野隆芳,川井清司,羽倉義雄,「高粘度ニュートン流体の連続粘度測定を目的としたショートバックエクストルージョン法の提案」日本食品科学工学会誌,Vol.60,No.2,pp.100~109(2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本件発明者は、非特許文献12、特許文献1、2及び3により、ショートバックエクストルージョン(SBE)法(以下、SBE法と称する)を開示している。SBE法は、円筒状容器に入れられた試料に、円柱状のプランジャーを予め所定の深さだけ浸漬させておき、その位置から僅かな距離だけプランジャーを更に押し込み、環状部において定常流動を起こし、プランジャーに加わる応力の時間曲線から流体の粘度を測定する方法である。これら特許文献1、2及び3のSBE法により、ニュートン流体、指数則流体およびハーシェルバルクレイ流体の粘度測定方法が提案されたが、これらの文献においては、SBE法による弾性率の測定についての開示はない。
【0012】
本発明の目的は、SBE法により静的弾性率を測定する粘弾性測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明による、粘弾性測定方法は、ハーシェルバルクレイ(HB)流体の試料の弾性率を測定する方法であって、
(A)内周半径Rを有する円筒状容器に入れられた試料に、前記円筒状容器より小径の外周半径Rを有するプランジャーを前記円筒状容器と同軸状に初期深さLだけ浸漬させて静止させる工程と、
(B)前記プランジャーを前記円筒状容器と同軸状に第1相対移動速度vp1で第1相対移動距離ΔLだけ前記試料に更に浸漬させ、当該更なる浸漬動作中及び当該更なる浸漬動作後に前記プランジャーが前記試料から受ける力を時間の経過に応じて測定する工程と、
(C)前記プランジャーの第1相対移動速度vp1に基づく相対移動に起因する前記力の測定値に基づいて、前記プランジャーが前記試料から受ける力の第1ピーク値FT1および第1収束値FTe1を求める工程と、
(D)前記プランジャーを前記円筒状容器と同軸状に前記初期深さLまで戻して静止させる工程と、
(E)前記プランジャーを前記円筒状容器と同軸状に第2相対移動速度vp2で第2相対移動距離ΔLだけ前記試料に更に浸漬させ、当該更なる浸漬動作中及び当該更なる浸漬動作後に前記プランジャーが前記試料から受ける力を時間の経過に応じて測定する工程と、
(F)前記プランジャーの第2相対移動速度vp2に基づく相対移動に起因する前記力の測定値に基づいて、前記プランジャーが前記試料から受ける力の第2ピーク値FT2および第2収束値FTe2を求める工程と、
(G)第1相対移動速度vp1における第1相対移動距離ΔLと第1ピーク値FT1と第1収束値FTe1と、第2相対移動速度vp2における第2相対移動距離ΔLと第2ピーク値FT2と第2収束値FTe2と、プランジャー比κ=R/Rと、前記試料の流動性指数nと、の間に成り立つ所定の関係に基づいて、前記流動性指数nを求める工程と、
(H)第1相対移動速度vp1、第1相対移動距離ΔL、第1ピーク値FT1、第1収束値FTe1と、第2相対移動速度vp2、第2相対移動距離ΔL、第2ピーク値FT2、第2収束値FTe2と、前記プランジャー比κと、前記流動性指数nと、前記試料の密度ρと、重力加速度gに基づいて、前記試料の粘度μaを求める工程と、
(G)マックスウェルモデルによる応力変化を表す下記の関数に、当該更なる浸漬動作後に前記プランジャーが前記試料から受ける力の測定値を外挿することにより求めた応力緩和時間τMと、前記試料の粘度μaに基づいて、前記試料の弾性率Gを求める工程と
を備えたことを特徴とする粘弾性測定方法。
【数2】
【発明の効果】
【0014】
本発明の粘弾性測定方法では、SBE法における応力緩和セクションで弾性率Gを測定することにより、粘度に応じた弾性率の変化を測定することができるようになった。SBE法では、そもそも測定の相対移動速度vpを変化させながら粘度を測定しており、これに弾性率Gも同時に測定できるようにしたのである。従来のクリープ回復試験、応力緩和試験においては、その変形速度や変形率は一回の試験で、一つの速度、一つの変形率のみしか得ることができず、しかも長時間の測定が必要であったことに対して、本発明の粘弾性測定方法では一回の流動で粘性と弾性率の両方を測定できるために,テクスチャーの変化やゲル化などを観察することができる。また、応力緩和時間の直後の測定値を除くことにより、より正確に弾性率を求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】SBE法の手順を説明する図である。
図2】粘度測定装置の動作を説明するためのフロー図である。
図3】マックスウェルモデルを説明するための図である。
図4】応力時間変化を示すグラフである。
図5】実験例の結果を示す図である。
図6】応用例1を示すグラフである。
図7】応力例2を示すグラフである。
図8図2のフロー図の一部の詳細を示した図である。
図9図2のフロー図の一部の詳細を示した図である。
図10図2のフロー図の一部の詳細を示した図である。
図11図2のフロー図の一部の詳細を示した図である。
図12図2のフロー図の一部の詳細を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に従った発明を実施するための形態を説明する。
図1Aは、SBC法による測定手順(SBC測定手順)を実行する粘弾性測定装置10の概略図である。粘弾性測定装置10は、所定の内周半径ROを有し、試料が入れられる円筒状容器11と、円筒状容器11より小径の外周半径Riを有し、円筒状容器11の内部に同軸状に相対移動可能に配置されるプランジャー12と、プランジャー12を円筒状容器11と同軸状に相対移動させる駆動部13と、プランジャー12に設けられ、プランジャー12が試料から受ける力を測定する測定部14と、駆動部13を制御する制御部15と、を備えている。制御部15は、制御プログラムを記憶した記憶部を含むコンピュータシステムによって構成されており、この粘弾性測定装置10は、制御部15に記憶された制御プログラムを除いて、特許文献3に示した粘度測定装置と同じものであって差し支えない。
【0017】
駆動部13は、表面に円筒状容器11が載置される台座13aと、台座13aを支持する支持部材13bと、支持部材13bを鉛直方向に直線移動させるボールネジ(不図示)と、ボールネジに接続されたモータ(不図示)と、を有している。
【0018】
ボールネジとモータとは、粘弾性測定装置10の筐体16の内部に配置されており、図示を省略されている。ボールネジのネジ軸は筐体16の内部に鉛直に立設されている。
【0019】
筐体16の正面には鉛直方向に延ばされたスリット18が設けられている。支持部材13bは水平方向に延びる細長形状であり、当該支持部材13bの一端側がスリット18を貫通してボールネジのナット部分に固定されている。
【0020】
台座13aは、表面を鉛直上向きに向けられた状態で、支持部材13bの他端側に固定されている。そして、台座13aの表面には、円筒状容器11が中心軸線を鉛直方向と平行に向けられて載置されている。
【0021】
モータ(不図示)は、ボールネジ(不図示)に回転動力を伝達するようになっている。ボールネジに伝達された回転動力は、鉛直方向の直線動力に変換され、これにより、支持部材13bは台座13a及び台座13a上の円筒状容器11と一緒に鉛直方向に直線移動するようになっている。
【0022】
測定部14は、荷重センサ(ロードセル)であり、台座13aの鉛直上方に配置され、筐体16に固定されて支持されている。測定部14の測定面は、鉛直下向きに向けられている。
【0023】
測定部14の測定面にはプランジャー取付部17が固定されており、プランジャー12は、プランジャー取付部17に取り付けられている。これにより、プランジャー12が受ける鉛直上向きの力が、プランジャー取付部17を介して測定部14へと伝達されるようになっている。測定部14は、当該力の大きさを、時間の経過に応じて計測するようになっている。
【0024】
円筒状容器11は、プランジャー12と同軸状に配置されており、プランジャー12の外周半径Riは円筒状容器11の内周半径ROより小径である。これにより、駆動部13によって円筒状容器11が鉛直上向きに直線移動される際に、プランジャー12は相対的に円筒状容器11の内部に上方から非接触で同軸状に挿入されるようになっている。
【0025】
制御部15は、測定部14に接続されており、測定部14によって測定された力の測定値を読み出して、記憶部に記憶するように構成されている。
【0026】
また、制御部15は、駆動部13に接続されており、駆動部13の動作を制御するように構成されている。具体的には、制御部15は、駆動部13のモータに接続されて、当該モータに供給される電流の向き及び大きさを制御するように構成されており、これにより、モータの回転方向及び回転量が制御され、その結果、台座13a上の円筒状容器11が、所望の速度で鉛直方向に直線移動されると共に、鉛直方向の所望の位置に位置決めされる(停止される)ようになっている。
【0027】
制御部15の制御により、SBC測定手順を実行する。図1Bにおいて、SBC測定手順の各ステップは順に次のとおりである。
ステップ1-A “(a)スタート“
プランジャー外径Riはサンプルを入れた円筒形の内径R0のコンテナーに入れられ、その初期深さはL0 で停止している。
【0028】
ステップ1-B“(b)押込み”
プランジャーは浸漬されており、速度vp1(第1相対移動速度)で距離ΔL1 だけ押し込まれる。
プランジャーに加わる力は記録される。
【0029】
ステップ1-C ”(c)保持“
プランジャーを停止させた状態で保持する。プランジャーに加わる力のピーク値FT1と収束値FTe1を求める。

ステップ1-D“(d)帰結“
プランジャーを初期深さL0に戻し,停止する。
【0030】
ステップ1-E“(e)待機“
サンプル表面が平たんになるまで待機させる。インターバルタイム
【0031】
ステップ2-B“押込み“
プランジャーは浸漬されており,二回目の速度vp2 (第2相対移動速度)で距離ΔL2 だけ押し込まれる。プランジャーに加わる力は記録される。
【0032】
ステップ2-C ”保持“
プランジャーを停止させた状態で保持する。プランジャーに加わるそのピーク値FT2と収束値FTe2を求める。
【0033】
ステップ2-D“帰結“
プランジャーを初期深さL0に戻し,停止する。
【0034】
ステップ2-E“(e)待機“
ステップ1-Aからステップ2-Eまでを1セットとする。
次の測定へ続く;決められた速度で必要回数繰り返される。
【0035】
図1Cは、上記のテストの結果として得られる測定値(プランジャーに加わる力)を示す。ステップ1-C ”若しくは2-Cの(c)保持において、“HB流体であれば、実線のような測定値が得られるはずである。一方で、指数則流体または、ニュートン流体の場合は、点線で示されるような測定値が得られるはずである。
【0036】
ニュートン流体、非ニュートン流体(指数則流体およびハーシェルバルクレイ(HB)流体)の解析は、図2のフロー図のように場合分けして行う。収束値FTe1、FTe2が浮力Fを超える塑性流動を示す場合には、HB流体として粘度および弾性率を計算する。粘度については、特許文献3に開示した手法でも求められるが、本実施態様では弾性率に加え粘度についても、より正確に求める計算手法(図11、12)を後に詳述することにし、ここでは概略を説明する。尚、流動性指数nが1でなければ、指数則流体として特許文献2に示した手法で粘性を求める。流動性指数nが1であれば、ニュートン流体として特許文献1に示した手法で粘性を求める。また、浮力Fbは、流体中に浸漬したプランジャーの体積から求められる。
【0037】
物質の流動によって、塑性流動を示すものは粘弾性挙動を示す。HB流体は粘弾性挙動を示すため、制御部15はHB流体の場合には粘度および弾性率Gの計算を行う。粘度の計算については、特許文献3に準ずるが、本実施態様においては、弾性率を求める工程が付加される。尚、図2における場合分けは、計算の効率化により行われるもので、全ての流体をHB流体と仮定して、HB流体における粘度および弾性率Gの計算を行っても良い。しかしながら、HB流体における粘度および弾性率Gの計算は、計算量が膨大であるので、図2における場合分けをしているのである。尚、図2の場合分けにおいて、「=(等しい)」と表示されているのは、完全な一致を意味しているのでなく、所定の閾値をもってほぼ等しい状態を含んでいる。
【0038】
SBC測定手順において、プランジャーを押し込み、プランジャーを停止させた後その停止状態を保持された間(ステップ1-C又は2-C)、流体はプランジャーの側面を上向きに流れる。本発明では、このときの設定状態を「ばね」と「ダッシュポット」の単純なマックスウェル(Maxwell)モデルに当てはめて、弾性率Gを求めるのである。
【0039】
すなわち、本発明では、ステップ1-C又は2-Cの期間において、流体が上向きに流れ、「ばね」はゆっくりと時間をかけて伸びる単純マックウェルモデルの応力緩和が起こるとの着想に到った。以下、本発明においては、ステップ1-C又は2-Cの期間を応力緩和プロセスとみなし、以降ステップ1-C又は2-Cの期間を「応力緩和プロセス」と呼ぶことにして説明する。なお、マックスウェルモデルとは、「ばね」と「ダッシュポット」を直列につないだ公知の二要素モデルで、粘弾性体の応力緩和を表わすモデルであって、マックスウェルモデルが使えるならば、弾性率を求めることができるのである。
【0040】
SBC粘弾性測定は粘度と弾性測定を同時に行う。制御部15は、収束値FTeが浮力Fbより大きく、HB流体であると判断した場合に、流動性指数nと見かけ粘度μaを弾性率G求める。
【0041】
流動性指数nは、第1相対移動速度vp1における第1相対移動距離ΔL1と第1ピーク値FT1と第1収束値FTe1と、第2相対移動速度vp2における第2相対移動距離ΔL2と第2ピーク値FT2と第2収束値FTe2と、プランジャー比κ=Ri/Roと、試料20の流動性指数nと、の間に成り立つ所定の関係に基づいて求められる。
【0042】
見かけ粘度μaは、第1相対移動速度vp1、第1相対移動距離ΔL1、第1ピーク値FT1、第1収束値FTe1と、第2相対移動速度vp2、第2相対移動距離ΔL2、第2ピーク値FT2、第2収束値FTe2と、プランジャー比κと、流動性指数nと、試料の密度ρと、重力加速度gとにより求めることができる。尚、流動性指数nの求め方についても、特許文献3に示されている。
【0043】
弾性率Gの測定は、新しく追加された手法である。応力緩和プロセス(図1Bのステップ1-C又は2-C”保持”、本例ではステップ2-Cの測定値を利用)において、測定されたプランジャーに加わる力を用いて求められる。
【0044】
応力緩和プロセスにおいて測定されたプランジャーに加わる力を単純なマックスウェルモデルとしてみし,プランジャーが止まった瞬間から収集する。制御部はプランジャーが止まる直前の正確な見かけ粘度μaを測定している。弾性率Gは、この正確な見かけ粘度μaを使って算出する。
【0045】
図3Aはプランジャーの(b)押込みからプランジャーが停止した直後の(c)保持の応力緩和プロセスにおいて,プランジャーの加わる力を示している。(b)押込みにおいてプランジャーが流体に押し込まれたため、プランジャーが停止した直後の最大応力σT には浮力σb が含まれている。図3Bの状態から、マックスウェルモデルは、図3Cに示すように「ばね」が延びる応力緩和プロセスが開始される。応力変化をσ(t)と定義すると,次の[数1]のような関数として表すことができる。

【数1】

ここで,τMはマックスウェルモデルの応力緩和時間である。さて、応力σは、プランジャーに加わる力Fと直線関係にあり、応力緩和時間τMは力時間曲線から計算することができる。
【0046】
ステップ2-Bにおけるプランジャーの押し込みにより、流体には変形率約85%となる小変形しか与えていない。応力緩和プロセスは、最大値を記録した後に、プランジャーが保持される時間として始まる。流体が高粘度になるにつれて収束値までの時間が長くなり、場合に依っては2時間たっても収束値は十分ではないこともある。こんなに長時間測定することは現実的でないので、本実施の態様においては、応力緩和プロセス開始直後を除きごく初期の30秒後までの測定値で弾性率Gを求める。収束値は、この間のプランジャーに加わる力と時間の関係を使って数式から算出する。
【0047】
ステップ2-Cの応力緩和プロセスにおいて、ステップ2-Bの時から流体はすでに上向きに流れており、「ばね」がゆっくりと時間をかけて伸びる単純なマックウェルモデルが適用できるのは、しばらく時間をおく必要があると考えられる。また、高粘度のニュートン流体であっても、応力緩和測定においては、非特許文献3、2、11に示された応力緩和試験、60分のクリープと応力緩和試験、弾性率測定試験において、高い弾性率が記録されることから、試料容器とプランジャーの間の流体には力の伝達の時間差があると考えられる。
【0048】
よって、ステップ2-Cの応力緩和プロセスでは,図4のようにプランジャーが止まった直後から所定の時間(本例では0.2秒)の間に測定された応力を除いて外挿する。応力時間変化F(t)は次の[数2]のように線形回帰式として表されるので、測定値を、[数2]の関数にあてはめ、測定値の無い範囲(外側)の値を推定するのである。外挿の結果として、応力Fg(t=0の時の応力)、応力緩和時間τMを定めることができる。なお、上記のように、応力σとプランジャーに加わる力Fとは直線関係にあるから、[数2]は[数1]をプランジャーに加わる力Fで単純に書き換えたものである。)

【数2】
【0049】
力時間曲線の応力緩和は指数関数方程式Y=A×e-(t/B)で表されるから、実験データから応力緩和時間τMはマックスウェルモデルとして次の[数3]ように表すことができる。

【数3】
応力緩和時間τMは、見かけ粘度μaと弾性率Gを使った[数4]であるから、

【数4】
【0050】
弾性率Gは次の[数5]のように求めることができる。

【数5】
【0051】
また、見かけ粘度μaはプランジャーを押し込む第1相対移動速度vp1(第2相対移動速度vp2)により変化する。特許文献3では、第1相対移動速度vp1=第2相対移動速度vp2とし、6種類の相対移動速度vpについて見かけ粘度μaを求めている。よって、弾性率Gも、相対移動速度vpで変化する。尚、SBE法における粘度は、[数6]で表された構成方程式に基づいて求められる。

【数6】

ここにおいて、応力σ、初期応力σ、粘性定数K、ずり速度dγ/dt、流動性指数nである。
【0052】
[試料と測定機器]
図2のフロー図のHB流体解析に測定データを投入した。
ニュートン流体としては、以下の標準粘度液を使用した。
標準粘度液1000cps (silicone, viscosity 1.003 Pa・s, density 970 kg/m3, 25°C,
Brookfield Engineering Laboratories, INC)。
標準粘度液1,000,000 cps (silicone, viscosity102.72 Pa・s, density1000 kg/m3, 25°C, Brookfield Engineering Laboratories, INC) 。
非ニュートン流体の標準粘度を示す物質は市販されていないため、非ニュートン流体の試料として、以下のヨーグルト、マヨネーズを使用した。
ヨーグルトA(明治ブルガリアLB81400g,1034.9 Kg・m-3,明治ホールディングス)。
ヨーグルトB(フジッコ1029.3 Kg・m-3,カスピ海ヨーグルト,フジッコ(株)神戸,日本)。
マヨネーズA(卵黄タイプのマヨネーズ)(Kewpie Mark, 450 g, density of 943.2 kg m-3, Kewpie Co., Ltd.,Tokyo, Japan)。
マヨネーズB(全卵タイプのマヨネーズ)(Pure Select Mark, 400g, density of 927.2 kg m-3, Ajinomoto Co., Inc., Tokyo, Japan)。
【0053】
SBE法は圧縮引張レオメーター(Rheoner Creep Meter, RE2-33005C, Yamaden Co.,Ltd., Tokyo, Japan)を使用し、ポリアセタール円筒型のプランジャー12と円筒状容器11を使用した。ロードセル14は機器の上部に取り付けてある(図1)。円筒状容器11は二層構造になっており、恒温槽から希望の温度に設定された定温の水が循環されている。円筒状容器11は台座13aに装着される。
【0054】
円筒状容器11は、プランジャー12に対して垂直方向に相対的に所定の距離△Lと相対移動速度vpで2回で自動的に動いて、ロードセル14によりプランジー12に加わる力を測定する。この測定は、同じ相対移動速度vpで3回繰り返される。さらに、相対移動速度vpを6段階に変化させて、これを繰り返す。測定されたデータは、線形領域とみなされる範囲内で収集した。6段階の相対移動速度vpは、1.78mm/s、2.51mm/s、3.55mm/s、5.01mm/s、7.08mm/s、10mm/s である。
【0055】
以下に示す各実験例の結果は図5に示されている。図5A図5Fにおいて、相対移動速度vpが10mm/sにおけるステップ2-Cの応力緩和プロセスの開始直後の0.3秒の間の測定値がドットで示されている。上記した30秒よりもはるかに短い0.2秒から0.3秒のまでの測定値に基づいて、マックスウェルモデルの応力緩和式([数2])に適用妥当性を検証した。
【0056】
[実験例1]
標準粘度液1000cps(図5A
直径32mmのプランジャー12と直径40mmの円筒状容器11を用いて測定した。プランジャー比は、0.8である。相対移動速度vpは、前記した6段階である。
プランジャー11に加えられる力の測定値より得られるマックスウェルモデルの応力緩和式([数2])は、図5Aのモデル曲線aとして描かれている。求めたずり速度dγ/dt、応力σ、粘度μ、相関係数r、弾性率Gを表1に示す。モデル曲線aと測定値との相関関係を調べたところ、相関係数rは-0.5063と評価された。その他の相対移動速度vpの測定でも,相関係数rが|0.6 |以下となり、測定値とマックスウェルモデルとの間で高い相関性は示されなかった。よって、標準粘度液1000 cps(viscosity 1.003Pa・s)は弾性率を持たないことが示された。

【表1】
【0057】
測定結果は,以下の通りで、粘性流体のニュートン流体として評価された。
尚、以下の説明において、Rは統計学上の決定係数であり、1に近い程、測定値との相対的な残差が少ないことを表している。構成方程式は、[数7]のとおりである。

【数7】
【0058】
[実験例2]
標準粘度液1,000,000 cps(図5B
直径20mmのプランジャー12と直径40mmの円筒状容器11を用いて測定した。プランジャー比は、0.5である。相対移動速度vpは、前記した6段階である。
【0059】
マックスウェルモデルの応力緩和式(式(2))は、図5Bのモデル曲線bである。表2は求めた結果である。相関係数は-0.0417と評価された。その他の相対移動速度vpの測定でも,相関係数rが|0.6 |以下となり、測定値とマックスウェルモデルとの間で高い相関性は示されなかった。よって、標準粘度液1,000,000 cps (viscosity 102.270 Pa・s)は弾性率を持たないことが示された。

【表2】

測定結果は,以下の通りで、粘性流体のニュートン流体として評価された。構成方程式は、[数8]のとおりである。

【数8】
【0060】
[実験例3]
ヨーグルトA
直径28mmのプランジャー12と直径40mmの円筒状容器11を用いて測定した。プランジャー比は、0.7である。相対移動速度vpは、前記した6段階である。
【0061】
マックスウェルモデルの応力緩和式(式(2))は、図5Cのモデル曲線cである。表3は求めた結果である。相関係数は-0.9970と評価された。その他の相対移動速度vpの測定でも,相関係数が|0.9929 |以上となり、測定値とマックスウェルモデルとの間で高い相関性を示した。よって、ヨーグルトAは、弾性率を含むものと考えられる。

【表3】

測定結果は以下の通りで,粘弾性流体のHB流動を示した.構成方程式は、[数9]のとおりである。

【数9】
【0062】
[実験例4]
ヨーグルトB
直径28mmのプランジャー12と直径40mmの円筒状容器11を用いて測定した。プランジャー比は、0.7である。相対移動速度vpは、前記した6段階である。
【0063】
マックスウェルモデルの応力緩和式(式(2))は、図5Dのモデル曲線dである。表4は求めた結果である。相関係数は-0.9990と評価された。その他の相対移動速度vpの測定でも,相関係数が|0.9948 |以上となり、測定値とマックスウェルモデルとの間で高い相関性を示した。よって、ヨーグルトBは、弾性率を含むものと考えられる。

【表4】

測定結果は以下の通りで,粘弾性流体のHB流動を示した.構成方程式は、[数10]のとおりである。
【数10】
【0064】
[実験例5]
マヨネーズA
直径24mmのプランジャー12と直径40mmの円筒状容器11を用いて測定した。プランジャー比は、0.6である。相対移動速度vpは、前記した6段階である。
【0065】
マックスウェルモデルの応力緩和式(式(2))は、図5Eのモデル曲線eである。表5は求めた結果である。相関係数は-0.9972と評価された。その他の相対移動速度vpの測定でも,相関係数が|0.9971 |以上となり、測定値とマックスウェルモデルとの間で高い相関性を示した。よって、マヨネーズAは、弾性率を含むものと考えられる。

【表5】

測定結果は以下の通りで,粘弾性流体のHB流動を示した。構成方程式は、[数11]のとおりである。

【数11】
【0066】
[実験例6]
マヨネーズB
直径24mmのプランジャー12と直径40mmの円筒状容器11を用いて測定した。プランジャー比は、0.6である。相対移動速度vpは、前記した6段階である。
【0067】
マックスウェルモデルの応力緩和式(式(2))は、図5Fのモデル曲線fである。表6は求めた結果である。相関係数は-0.9974と評価された。その他の相対移動速度vpの測定でも,相関係数が|0.9970 |以上となり、測定値とマックスウェルモデルとの間で高い相関性を示した。よって、マヨネーズAは、弾性率を含むものと考えられる。

【表6】

測定結果は以下の通りで,粘弾性流体のHB流動を示した構成方程式は、[数12]のとおりである。

【数12】
【0068】
[議論]
弾性率は、SBE法による粘度測定における応力緩和セクションで解析することができる。しかしながら、解析条件で最大値(応力緩和セクションの開始時点)に達してから0.2秒のデータを除き、かつ、相関係数が0.9以上であることが重要である。ニュートン流体や指数則流体の本来弾性を示さないものは相関係数が低く解析には適さないが、HB流体については弾性率を解析することができると見込まれる。
【0069】
応力緩和セクションで弾性率Gを測定することにより、粘度に応じた弾性率の変化を測定することができるようになった。SBE法では、そもそも測定の相対移動速度vpを変化させながら粘度を測定しており、これに弾性率Gも同時に測定できるようにしたのである。SBE法ではない従来の方法では、流体を流動させて測定する際に粘度あるいは弾性率の一方しか一度に測定できなかったことに対して、本実施態様の方法では一回の流動で粘性と弾性率の両方を測定できるために,テクスチャーの変化やゲル化などを観察することができる。この特徴的な本実施形態の粘弾性測定方法によれば、粘弾性体の比較に大きな助けになると予測される。
【0070】
[応用1]
ヨーグルトA(ブルガリアヨーグルト)とヨーグルトB(カスピ海ヨーグルト)の比較
表3と表4から得られるずり速度(dγ/dt)と粘度μaを図6Aにプロットして示した。図6Aにおいて、ヨーグルトAとヨーグルトBは、変化はほぼ同じ流動性を示した。
【0071】
図6Bは、粘度μaと弾性率Gとをプロットして示した。ヨーグルトAとヨーグルトBは弾性率が異なっている。ヨーグルトAのような一般的なヨーグルトは降伏値を持つが容易に構造が破壊され、水っぽくなってしまう。これに対して、ヨーグルトBのカスピ海ヨーグルトはほとんど同じ流動特性を示すが、ヨーグルトAに比較して、粘っこい。これは、同じ粘度ではヨーグルトAより弾性傾向が高いためである。カスピ海ヨーグルトはラクトバチルスが菌体外多糖を産生し弾性が生じたものと考えられるからである。このように、食感を数値として正確に示す事ができる。
【0072】
[応用2]
マヨネーズA(卵黄タイプ)とマヨネーズB(全卵タイプ)の比較
表5と6から得られるずり速度(dγ/dt)と粘度μaを図7Aにプロットして示した。図7Aにおいて、これらは同じ流動性を示した。しかし実際の食間では、卵黄タイプのマヨネーズAはマヨネーズBに比較して,粘りが強く重たく感じる。これは、卵黄だけを使っているためだけではなく、粘弾性の違いによるものと考えられた。図7Bは、粘度μaと弾性率Gとをプロットして示してみると、マヨネーズAとマヨネーズBは弾性率が異なっていることが理解出来る。
【0073】
粘弾性特徴が明らかになれば,同じように流動するが食感の異なる試料の物理的特性を明確にできる.本発明の実施態様による粘弾性測定方法によれば、粘性率と弾性率を同時に得ることができる.粘性と弾性を同時に比較することによって、付着性や口中でのくちどけなども評価できる可能性を有する。
【0074】
[制御部15による計算手順]
最後に、制御部15による計算手順につき詳細に説明する。
図8から図12は、図2に示した粘弾性測定方法の手順を5つに分割して、夫々をより詳細に示している。これらの図において、第1相対移動速度vp1における第1相対移動距離ΔLと第1ピーク値FT1と第1収束値FTe1と、力Fcdと、無次元座標λ、無次元流速Φ、第2相対移動速度vp2における第2相対移動距離ΔLと第2ピーク値FT2と第2収束値FTe2と、無次元座標λ、無次元流速Φ、に関しては、符号に下付けされた数字が無い場合、例えば移動速度vpは、第1相対移動速度vp1又は第2相対移動速度vp2の何れでも良いことを示す。以下、同じである。
【0075】
図8のフロー図の説明]
図8は、ニュートン流体、指数則流体およびハーシェルバルクレイ(HB)流体の場合分けを示している。
ステップ1-C、2-Cにおいて十分に時間が経過した後の応力(収束応力FTe)が計測される。収束応力FTeと浮力Fを比較し、浮力Fを超える塑性流動を示す場合には、HB流体として粘度および弾性率を計算する(以下、図11及び図12の説明を参照)。
同じ場合には、応力のピーク値Fと浮力Fから、プランジャー12に働く力FCDを求め、これらから[数13]から、s(流動性指数nの逆数)を計算する。

【数13】
(vp:相対移動速度、L:初期深さ、ΔL:相対移動距離、R:プランジャー外周径、ρ:密度、g:重力加速度、L1:ΔL/k
数13において、vp、Fcd、およびL1_1、L1_2に表れるLに続く下付数字は、1回目と2回目の測定の別である。)
流動性指数nが1でなければ、指数則流体として粘度μaを求める(以下、図9の説明を参照)。流動性指数nが1であれば、ニュートン流体として粘度μaを求める(以下、図10の説明を参照)。
【0076】
図9のフロー図の説明]
図9は、指数則流体の粘性を求めるフロー図である。詳細は特許文献2に説明されているが、粘度μaの求め方を簡単に示す。
無次元座標λを、[数14]から求める。

【数14】
(κ:使用する測定装置の装置定数、若しくはプランジャー比 κ=R/R、n:流動性指数)

そして、[数15]により、粘度μaを求める。
【数15】
(R:円筒容器の内周半径)
【0077】
図10のフロー図の説明]
[数16]により粘度μaを求める。
【数16】
【0078】
図11のフロー図の説明]
図11は、決定係数Rを、「1」に近づけるためのフロー図である。詳細は特許文献1に説明されているが、粘度μaの求め方を簡単に示す。
無次元降伏応力Tと降伏応力σを、[数17]により求める。
試料容器とプランジャーの間の流体には力の伝達の時間差があると考えられるため、Tを所定の範囲内で微少に動かして、図12のフロー図により粘度μa、弾性率G、決定係数Rの計算を繰り返して評価するのである。本例では、プラスマイナス0.05の範囲内で動かした。決定係数Rは、「1」に近づく程、測定値との相対的な残差が少ないことを表している。以下の様に、Tは、ピーク値Fと収束値FTEと浮力Fにより求められており、
を微少に動かすということは、測定値であるピーク値Fと収束値FTEのいずれか1つ若しくは全部を所定の範囲で微少に動かすと言うことも出来る。

【数17】

もっとも、決定係数Rが「1」にもっとも近づいたときの出力は以下の通りである。
dγ/dt:ずり速度、σ:ずり応力、μa:粘度、G:弾性率、Eq:構成方程式、R:決定係数
【0079】
図12のフロー図の説明]
図11のフロー図から、無次元降伏応力Tの値が指定される。
流動性指数nを仮定し、[数18]から無次元座標λを求める。流動性指数nの初期の値は、[数13]で求める。但し、[数13]により求めた流動性指数nは、流動性指数nの1つの候補としての意味合いでしか無く、[数13]によらず流動性指数nの初期値を1~0の任意の数値としても良い。
【数18】
また、無次元流速Φは、この無次元座標λを用いて、[数19]により求める。尚、[数18][数19]に表れるsは、流動性指数nの逆数である。
【数19】
プランジャーの異なる相対移動速度における測定値から得られる無次元流速Φには、[数19]の関係が成り立ち、[数18][数19]により求めた無次元座標λを無次元流速Φを用いて[数20]から流動性指数nの逆数sが求められる。
【数20】
こうして求めた流動性指数nと仮定した流動性指数nとが所定の閾値内で等しいかどうかを判定し、等しくなければ[数20]により求めたnを新たな流動性指数nとして計算を繰り返して、正しい流動性指数n、無次元座標λ及び無次元流速Φを求める。
([数20]において、v、Fcd、Φ、λ、およびL1_1、L1_2に表れるLに続く下付数字は、1回目と2回目の測定の別である。)

[数21]により、粘度μaと弾性率Gを求める。
【数21】
[数6]で示した構成方程式の各定数を決定する。測定値との残差から公知の方法により決定係数Rを求める。決定係数Rは、図11のフロー図において、1に近い最大値であるかどうか評価される。
【符号の説明】
【0080】
10 粘弾性測定装置
10 粘度測定装置
11 円筒状容器
12 プランジャー
13 駆動部
13a 台座
13b 支持部材
14 測定部
15 制御部
16 筐体
17 プランジャー取付部
18 スリット


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12