(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002751
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】マイクロ流路基材及びマイクロ流路基材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B81B 1/00 20060101AFI20231228BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20231228BHJP
B81C 1/00 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
B81B1/00
G01N37/00 101
B81C1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022102144
(22)【出願日】2022-06-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】長谷 妃奈
(72)【発明者】
【氏名】福上 典仁
【テーマコード(参考)】
3C081
【Fターム(参考)】
3C081AA01
3C081AA17
3C081BA03
3C081BA04
3C081BA23
3C081BA30
3C081CA02
3C081CA23
3C081CA31
3C081CA32
3C081CA40
3C081CA43
3C081DA03
3C081DA06
3C081DA10
3C081DA11
3C081EA27
(57)【要約】
【課題】マイクロ流路チップを構成する部材同士を接合する際の圧力による部材の破損を抑制し、通液時の液漏れが発生しないマイクロ流路チップを形成可能なマイクロ流路基材、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】マイクロ流路基材100は、基板10と、樹脂材料で構成され、基板10上に設けられて基板10上に流路を形成する隔壁層11と、を備え、流路部13は、隔壁層11において開口幅が2000μm以下の開口部として形成され、隔壁層11は、隔壁層11の基板10とは反対側の面である表面11aに流路部13の蓋となるカバー層12を設けた蓋材接合状態における開口面積率が60%以下である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
樹脂材料で構成され、前記基板上に設けられて該基板上に流路を形成する隔壁部と、
を備え、
前記流路は、前記隔壁部において開口幅が2000μm以下の開口部として形成され、
前記隔壁部は、前記隔壁部の前記基板とは反対側の面に前記流路の蓋となる蓋材を設けた蓋材接合状態における開口面積率が60%以下である
ことを特徴とするマイクロ流路基材。
【請求項2】
前記隔壁部と前記蓋材とが熱圧着により貼合される場合に、
前記隔壁部は、開口面積率が20%以上60%以下である
ことを特徴とする請求項1に記載のマイクロ流路基材。
【請求項3】
前記基板は、前記隔壁部側の表面において前記隔壁部により一つ以上の前記流路が形成される流路領域と、前記流路が形成されない非流路領域とを有する
ことを特徴とする請求項2に記載のマイクロ流路基材。
【請求項4】
前記隔壁部は、前記流路領域および前記非流路領域に設けられており、前記流路領域上と前記非流路領域上とで厚みが変化しない
ことを特徴とする請求項3に記載のマイクロ流路基材。
【請求項5】
前記隔壁部は、前記蓋材接合状態において前記蓋材を支持する蓋材支持部を前記非流路領域上に形成する
ことを特徴とする請求項4に記載のマイクロ流路基材。
【請求項6】
前記非流路領域上には、前記蓋材支持部として前記隔壁部の一部による樹脂構造体が一つ以上形成される
ことを特徴とする請求項5に記載のマイクロ流路基材。
【請求項7】
前記隔壁部の一部である前記蓋材支持部は、前記蓋材接合状態において前記基板とは反対側の面において前記蓋材と面接触する
ことを特徴とする請求項6に記載のマイクロ流路基材。
【請求項8】
前記蓋材支持部は、前記隔壁部の一部で形成された平面視で長方形状を有する前記樹脂構造体であり、
前記非流路領域上には、複数の前記蓋材支持部が前記長方形の長辺と平行に配置される
ことを特徴とする請求項7に記載のマイクロ流路基材。
【請求項9】
前記蓋材支持部は、前記隔壁部の一部で形成された平面視で多角形形状または円形状を有する前記樹脂構造体であり、
前記非流路領域上には、複数の前記樹脂構造体が点状に配置される
ことを特徴とする請求項7に記載のマイクロ流路基材。
【請求項10】
前記基板は、四角形状であり、
前記非流路領域には、前記基板の4つの角部が含まれ、
前記蓋材支持部は、前記非流路領域に含まれる前記基板の4つの角部のうち2以上の角部に形成されている
ことを特徴とする請求項7に記載のマイクロ流路基材。
【請求項11】
前記隔壁部は、複数の前記流路を有する流路群を前記基板上に形成する
ことを特徴とする請求項1に記載のマイクロ流路基材。
【請求項12】
前記隔壁部と前記基板との間に密着層が設けられている
ことを特徴とする請求項1から請求項11のいずれか1項に記載のマイクロ流路基材。
【請求項13】
前記隔壁部を形成する樹脂材料は、紫外光領域である190nm以上400nm以下の波長の光に対して感光性を有する感光性樹脂である、
ことを特徴とする請求項1から請求項11のいずれか1項に記載のマイクロ流路基材。
【請求項14】
基板上に、樹脂を塗工する工程と、
塗工した前記樹脂を露光する工程と、
露光した前記樹脂を現像及び洗浄し、前記基板上において流路を画定する隔壁部を形成する工程と、
前記隔壁部をポストベーク処理する工程と、
を含み、
前記現像により前記基板上の余分な樹脂を除去することで、前記流路となる開口幅が2000μm以下の開口部を前記隔壁部に形成し、前記隔壁部の前記基板とは反対側の面に前記流路の蓋となる蓋材を設けた蓋材接合状態における前記隔壁部の開口面積率を60%以下とする
ことを特徴とするマイクロ流路基材の製造方法。
【請求項15】
熱圧着により前記隔壁部と前記蓋材とを接合して前記蓋材接合状態とする場合に、
前記現像により、前記蓋材接合状態における前記隔壁部の開口面積率を20%以上60%以下とする
ことを特徴とする請求項14に記載のマイクロ流路基材の製造方法。
【請求項16】
前記現像において前記基板上の余分な樹脂を除去することにより、前記隔壁部が前記基板上に前記流路および前記蓋材接合状態において前記蓋材を支持する蓋材支持部を形成する
ことを特徴とする請求項15に記載のマイクロ流路基材の製造方法。
【請求項17】
前記樹脂を露光する工程において、感光性樹脂を、紫外光領域のうち190nm以上400nm以下の波長の光に感光させる
ことを特徴とする請求項14から請求項16のいずれか1項に記載のマイクロ流路基材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、マイクロ流路チップにおいて流路の形成に用いられるマイクロ流路基材及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、リソプロセスや厚膜プロセス技術を応用して、微細な反応場を形成し、数μLから数nL単位での検査を可能とする技術が提案されている。このような微細な反応場を利用した技術をμ-TAS(Micro Total Analysis system)という。
【0003】
μ-TASは、遺伝子検査、染色体検査、細胞検査、医薬品開発などの領域や、バイオ技術、環境中の微量な物質検査、農作物等の飼育環境の調査、農作物の遺伝子検査などに応用される。μ-TAS技術の導入により、自動化、高速化、高精度化、低コスト、迅速性、環境インパクトの低減など、大きな効果を得られる。
【0004】
μ-TASでは、多くの場合、基板上に形成されたマイクロメートルサイズの流路(マイクロ流路、マイクロチャンネル)が利用され、このような基板はチップ、マイクロチップ、マイクロ流路チップなどと呼ばれる。なお、マイクロ流路チップにおいて、基板および基板上に流路を形成する壁部を総称してマイクロ流路基材という。
【0005】
従来、こうしたマイクロ流路チップは、射出成形、モールド成形、切削加工、エッチングなどの技術を用いて作製されていた。またマイクロ流路チップを形成する基材(マイクロ流路基材)の基板としては、製造が容易であり、光学的な検出も可能であることから、主にガラス基板が用いられている。一方で、軽量でありながらガラス基板に比べて破損しにくく、且つ、安価な樹脂材料を用いたマイクロ流路基材によって形成するマイクロ流路チップの開発も進められている。樹脂材料を用いたマイクロ流路基材によるマイクロ流路チップの製造方法としては、主にフォトリソグラフィーにより基板上に流路用樹脂パターンを成形してマイクロ流路基材とし、そこに蓋材を接合してマイクロ流路チップを作製する方法がある。この方法によれば、従来技術では困難な側面もあった微細な流路パターンの形成も可能である。
【0006】
こうしたマイクロ流路チップは、複数の部材同士(例えば、マイクロ流路基材と蓋材)を接合させて作製される。例えば、特許文献1には、接着剤を介して接合する方法からなるマイクロ流路チップについて開示されている。また、例えば特許文献2に記載のように、大気圧またはその近傍下においてプロセスガスをプラズマ化し、基板表面を改質し、接着剤を使うことなく部材同士を接合する方法も提案されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007-240461号公報
【特許文献2】特開2011-104886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
マイクロ流路チップの作製時には、マイクロ流路基材および蓋材のように複数の部材同士を接合するため、当該部材に接合方法に応じた圧力を加える必要がある。例えば、流路が形成されるマイクロ流路基材の壁部(隔壁部)と蓋材との接合時には、接合方法に応じてこれらの部材が加圧される。近年、流路パターン構造の複雑化に伴ってマイクロ流路チップにおいて流路部分(壁部の開口領域)の表面積が増えているが、壁部の開口面積や開口幅が増大すると、壁部と蓋材とを接合する際の安定性が低減してマイクロ流路チップの部材、すなわちマイクロ流路基材(基板、壁部)、カバー層等が破損してしまうおそれがある。また部材同士の接合時に部材が破損すると、これらの部材で形成されたマイクロ流路チップに通液した際に、液漏れが起きる場合がある。
【0009】
そこで、本開示は上記課題に鑑み、マイクロ流路チップを構成する部材同士を接合する際の圧力による部材の破損を抑制し、通液時の液漏れが発生しないマイクロ流路チップを形成可能であるマイクロ流路基材、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係るマイクロ流路基材は、基板と、樹脂材料で構成され、前記基板上に設けられて該基板上に流路を形成する隔壁部と、を備え、前記流路は、前記隔壁部において開口幅が2000μm以下の開口部として形成され、前記隔壁部は、前記隔壁部の前記基板とは反対側の面に前記流路の蓋となる蓋材を設けた蓋材接合状態における開口面積率が60%以下であることを特徴とする。
【0011】
また、本開示の一態様に係るマイクロ流路基材の製造方法は、基板上に、樹脂を塗工する工程と、塗工した前記樹脂を露光する工程と、露光した前記樹脂を現像及び洗浄し、前記基板上において流路を画定する隔壁部を形成する工程と、前記隔壁部をポストベーク処理する工程と、を含み、前記現像により前記基板上の余分な樹脂を除去することで、前記流路となる開口幅が2000μm以下の開口部を前記隔壁部に形成し、前記隔壁部の前記基板とは反対側の面に前記流路の蓋となる蓋材を設けた蓋材接合状態における前記隔壁部の開口面積率を60%以下とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本開示の態様によればマイクロ流路チップを構成する部材同士を接合する際の圧力による部材の破損を抑制し、通液時の液漏れが発生しないマイクロ流路チップを形成可能なマイクロ流路基材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】(a)は、本開示の第一実施形態のマイクロ流路チップの一構成例を示す平面模式図であり、(b)は、本開示の第一実施形態に係るマイクロ流路チップの一構成例を示す断面模式図である。
【
図2】(a)は、本開示の第一実施形態に係るマイクロ流路基材の一構成例を示す平面模式図であり、(b)は、本開示の第一実施形態に係るマイクロ流路基材の一構成例を示す断面模式図である。
【
図3】
図2(a)に示す流路部の構成を拡大して示す図である。
【
図4】本開示の第一実施形態に係るマイクロ流路基材の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図5】(a)は本開示の第一実施形態の第一変形例に係るマイクロ流路基材における流路部の一配置例を示す平面模式図であり、(b)は、本開示の第一実施形態の第一変形例に係るマイクロ流路基材における流路部の一配置例を示す断面模式図である。
【
図6】本開示の第一変形例に係るマイクロ流路基材における流路部の他の配置例を示す平面模式図である。
【
図7】(a)は、本開示の第二変形例に係るマイクロ流路基材の一構成例を示す平面模式図であり、(b)は、本開示の第二変形例に係るマイクロ流路基材の一構成例を示す断面模式図である。
【
図8】(a)は、本開示の第二実施形態のマイクロ流路チップの一構成例を示す平面模式図であり、(b)は本開示の第二実施形態のマイクロ流路チップの一構成例を示す断面模式図である。
【
図9】(a)は、本開示の第二実施形態に係るマイクロ流路基材の一構成例を示す平面模式図であり、(b)は、本開示の第二実施形態に係るマイクロ流路基材の一構成例を示す断面模式図である。
【
図10】本開示の第二実施形態の第一変形例に係るマイクロ流路基材における蓋材支持部の一配置例を示す平面模式図である。
【
図11】本開示の第二実施形態の第一変形例に係るマイクロ流路基材における蓋材支持部の他の配置例を示す平面模式図(その1)である。
【
図12】本開示の第二実施形態の第一変形例に係るマイクロ流路基材における蓋材支持部の他の配置例を示す平面模式図(その2)である。
【
図13】本開示の第二実施形態の第一変形例に係るマイクロ流路基材における蓋材支持部の他の配置例を示す平面模式図(その3)である。
【
図14】(a)は、本開示の第二実施形態の第二変形例に係るマイクロ流路基材の一構成例を示す平面模式図であり、(b)は、本開示の第二実施形態の第二変形例に係るマイクロ流路基材の一構成例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施形態を通じて本開示を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。また、図面は特許請求の範囲にかかる発明を模式的に示すものであり、各部の幅、厚さ等の寸法は現実のものとは異なり、これらの比率も現実のものとは異なる。
【0015】
本開示の第一実施形態に係るマイクロ流路基材およびマイクロ流路基材を用いて作製したマイクロ流路チップについて説明する。なお、以下の説明ではマイクロ流路基材および、マイクロ流路チップの基板側を「下」、マイクロ流路基材およびマイクロ流路チップの基板側と反対側(蓋材側)を「上」として説明する場合がある。
【0016】
本発明者らは、鋭意検討の結果、マイクロ流路チップを形成するマイクロ流路基材において、壁部の開口面積率および壁部に形成された開口部の寸法(例えば、流路の開口幅)が特定条件を満たすように制御することにより、マイクロ流路チップを構成する部材であるマイクロ流路基材と蓋材とを接合する際の接合安定性が向上することを見出した。これにより、本発明者らは、マイクロ流路チップを構成する部材同士(マイクロ流路基材と蓋材)を接合する際の圧力によるマイクロ流路基材の各部材(基板、壁部)および蓋材の破損を抑制し、通液時に液漏れが発生しないマイクロ流路チップを形成可能なマイクロ流路基材及びその製造方法を発明するに至った。なお壁部の開口面積率についての詳細は、後述する。
以下、図面を参照して本開示の各実施形態の各態様について説明する。
【0017】
1.第一実施形態
以下、
図1から
図3を参照して、マイクロ流路チップ1およびマイクロ流路チップ1に用いるマイクロ流路基材100の構成について説明する。
(1.1)マイクロ流路チップの基本構成
図1は、本開示の第一実施形態(以下、「本実施形態」という)におけるマイクロ流路チップ1の一構成例を説明するための概略図である。具体的には、
図1(a)は本実施形態のマイクロ流路チップ1の平面概略図である。また、
図1(b)は、
図1(a)に示すA-A線でマイクロ流路チップ1を切断した断面を示す概略断面図である。
マイクロ流路チップ1は、
図1(a)、
図1(b)に示すように、マイクロ流路基材100と、蓋材であるカバー層12とを備える。マイクロ流路チップ1からカバー層12を除いた構成が、マイクロ流路基材100に相当する。以下、マイクロ流路チップ1全体としての基本構成を説明する。なお、マイクロ流路基材100およびカバー層12の具体的な構成については、後述する。
【0018】
図1(a)に示すように、マイクロ流路チップ1は、流体(例えば液体)を導入するための入力部4と、基板10上に形成されて入力部4から導入された流体が流れる流路部13と、流路部13から流体を排出するための出力部5とを備えている。これらの部材のうち、入力部4、出力部5はカバー層12に設けられており、流路部13はマイクロ流路基材100に形成されている。
【0019】
出力部5は流体の排出(排出部)のための構成に限られず、流体と薬液とが接触するための構成(薬剤固定部)であってもよい。以下、流体の排出部または薬液固定部のうち少なくとも一方として機能する構成を総称して「出力部」と称する。
マイクロ流路基材100の基板10上には流路部13を確定する隔壁層(隔壁部の一例)11が形成されており、流路部13は表面11a側に開口した開口部である。マイクロ流路チップ1において、流路部13は、蓋材であるカバー層(カバー部の一例)12に覆われており、入力部4および出力部5は、カバー層12に設けられた貫通孔である。各構成の詳細は後述する。
図1(a)では、透明性を有するカバー層12を介して視認される基板10、隔壁層11および流路部13を図示している。
【0020】
マイクロ流路チップ1において、入力部4及び出力部5は、少なくとも1つ以上設けられていればよく、それぞれ複数個設けられていてもよい。またマイクロ流路チップ1において、流路部13は、一つ以上であればよく、複数設けられてもよいし、入力部4から導入された流体の合流や分離が可能な設計であってもよい。具体的には、一つの流路部13に対して入力部4が複数でもよいし、複数の流路部13に対して入力部4が一つであってもよい。また同様に、一つの流路部13に対して出力部5が複数であってもよいし、複数の流路部13に対して出力部5が一つであってもよい。
図1(a)および
図1(b)に示すマイクロ流路チップ1は、一例として3つの流路部13(流路部13a,13b,13c)を有する流路群130を有するマイクロ流路基材100を備えている。
【0021】
ここで、マイクロ流路チップ1において、流路部13(流路部13a~13c)を構成する部材(基板10、隔壁層11、カバー層12)の詳細について説明する。
図1(b)に示すように、マイクロ流路チップ1は、2つの基板部材(第一基板部材、第二基板部材)に挟まれた壁部である隔壁層11によって流体が流れる流路である流路部13が画定されている。本例では、隔壁層11の上面側に設けられて流路部13の上部を覆うカバー層(カバー部の一例)12が第一基板部材に相当し、隔壁層11の底面側に設けられて流路部13の底部を形成する基板10が第二基板部材に相当する。つまり、マイクロ流路チップ1は、基板10と、基板10上に設けられた流路部13と、流路部13の蓋となるカバー層12と、カバー層12と基板10との間に配置されて基板10上に流路部13を形成する一対の隔壁層11と、を備えている。より具体的には、マイクロ流路チップ1は、基板10と、基板10上に設けられて流路を形成する隔壁層11と、基板10上の流路である流路部13とを有するマイクロ流路基材100と、隔壁層11の基板10とは反対側の面に設けられて流路部13を覆う蓋材であるカバー層12と、を備えている。
【0022】
入力部4から導入された流体が流れる流路部13は、基板10と隔壁層11とカバー層12とに囲まれた領域である。流路部13は、基板10上に対向して設けられた隔壁層11によって画定され、基板10とは反対側を蓋材となるカバー層12に覆われている。上述のように、流路部13には、カバー層12に設けられた入力部4から流体が導入され、流路部13を流れた流体は出力部5から排出される。
【0023】
(1.2)マイクロ流路基材
次に、
図1を参照しつつ、
図2を用いてマイクロ流路基材の各部材について説明する。
図2は、本実施形態に係るマイクロ流路基材100の一構成例を説明するための概略図である。具体的には、
図2(a)は本実施形態のマイクロ流路基材100の平面概略図である。また、
図2(b)は、
図2(a)に示すA1-A1線でマイクロ流路基材100を切断した断面を示す概略断面図である。
【0024】
図2(a)、
図2(b)に示すように、マイクロ流路基材100は、基板10と、樹脂材料で構成され、基板10上に設けられて基板10上に流路を形成する隔壁層11と、を備える。以下、マイクロ流路基材100を構成する各部材について詳細に説明する。
(1.2.1)基板
基板10は、マイクロ流路基材100の基礎、すなわちマイクロ流路チップ1の基礎となる部材であり、基板10上に設けられた隔壁層11によって流路部13が構成される。つまり、マイクロ流路基材100が備える基板10および隔壁層11は、マイクロ流路チップ1の本体部といえる。
基板10は、透光性材料又は非透光性材料のいずれかによって形成することができる。例えば、流路部13内の状態(流体の状態)を光によって検出、観察する場合は、該光に対して透明性に優れる材料を用いることができる。これにより、例えば基板10側から流路部13内の状態を観察することができる。透光性材料としては、樹脂又はガラス等を用いることができる。基板10を形成する透光性材料に用いる樹脂としては、マイクロ流路チップ1の本体部の形成に適しているという観点から、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリプロピレン、ポリカーボネート樹脂、シクロオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられる。
【0025】
また例えば、流路部13内の状態(流体の状態)を光によって検出、観察する必要がない場合は、非透光性材料を用いてもよい。非透光性材料としては、シリコンウエハ、銅板等が挙げられる。基板10の厚みは特に限定されないが、流路形成工程においてはある程度の剛性は必要となることから、10μm(0.01mm)以上10mm以下の範囲内が好ましい。
【0026】
(1.2.2)隔壁層
隔壁層11は、基板10上に設けられて、流路部13を形成する構成である。具体的には、隔壁層11の対向する側面11bによって流路部13が画定される。
図2に示すように、本実施形態において隔壁層11には、流路群130、すなわち複数の流路部13(流路部13a,13b,13c)が形成されている。つまり、隔壁層11は、複数の流路部13を有する流路群130を基板10上に形成する。マイクロ流路チップ1は、複数の流路部13を有するマイクロ流路基材100で構成されることで、同時に複数の検査を行うことや、異なる種類の流体を用いた検査を行うこと等が可能となり、マイクロ流路チップをより幅広く活用することができる。複数の流路部13のそれぞれは、独立していてもよいし、一部が交差していてもよい。
隔壁層11は、樹脂材料で形成することができる。隔壁層11の樹脂材料としては、例えば感光性樹脂を用いることができる。
【0027】
隔壁層11を形成する感光性樹脂は、紫外光領域である190nm以上400nm以下の波長の光に対して感光性を有することが望ましい。当該感光性樹脂としては、液体レジスト又はドライフィルムレジスト等のフォトレジストを用いることができる。これらの感光性樹脂は、感光領域が溶解するポジ型、又は感光領域が不溶化するネガ型のいずれであってもよい。マイクロ流路基材100における隔壁層11の形成に適する感光性樹脂組成物としては、アルカリ可溶性高分子と付加重合性モノマーと光重合開始剤とを含むラジカルネガ型の感光性樹脂を挙げることができる。例えば、感光性樹脂材料としては、アクリル系樹脂、アクリルウレタン系樹脂(ウレタンアクリレート系樹脂)、エポキシ系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ノルボルネン系樹脂、フェノールノボラック系樹脂、その他の感光性を有する樹脂を単独で又は複数混合あるいは共重合して用いることができる。
【0028】
なお本実施形態においては、隔壁層11の樹脂材料は感光性樹脂に限定されるものではなく、例えば、シリコーンゴム(PDMS:ポリジメチルシロキサン)や、合成樹脂を用いてもよい。合成樹脂としては、例えばポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン樹脂(PS)、ポリプロピレン(PP)、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)などを用いることができる。隔壁層11の樹脂材料は、用途に応じて適宜選択されることが望ましい。
また、本実施形態において、隔壁層11の表面11aは、平坦である。これにより、隔壁層11は蓋材接合状態において、より安定的にカバー層12と接合される。なお、隔壁層11の表面11aには、カバー層12との接合の安定性に影響しない程度であれば、微小な凹凸が設けられていてもよい。
【0029】
(1.2.3)流路の構成
ここで、本実施形態に係るマイクロ流路基材100に形成される流路部13の構成について、
図1及び
図2を参照しつつ、
図3を用いて詳細に説明する。
図3は、
図2に示すマイクロ流路基材100の流路部13(流路部13a)を拡大して示す図である。
【0030】
以下では、マイクロ流路基材100における流路部13の寸法および流路部13を形成した隔壁層11における開口面積率について説明する。
上述のように、マイクロ流路基材は、流路パターン構造が複雑化しており壁部における開口領域が増大傾向にある。この開口領域の増大によってマイクロ流路チップを構成する部材同士(例えば、マイクロ流路基材の壁部と、蓋材)を接合する際の接合安定性が低減する場合がある。接合安定性が低減すると、例えばマイクロ流路チップ1の作製時において蓋材とマイクロ流路基材(特に壁部)とを接合する際等に、接合対象のマイクロ流路チップ1を構成する各部材(本例では、マイクロ流路基材の基板および壁部と、蓋材)の破損等の不具合が生じ得る。
【0031】
例えば、壁部の開口領域が増大して接合安定性が低減すると、加圧に対する壁部の耐性が低減し、壁部と蓋材とを接合する際に壁部が破損し、さらに蓋材、基板にも破損が及ぶ場合がある。また基板、壁部および蓋材といった部材に破損が生じると、各部材で形成されたマイクロ流路チップの通液時において、液漏れが発生する場合がある。したがって、マイクロ流路チップの本体を構成するマイクロ流路基材(壁部、基板)では、蓋材との接合時において接合安定性を向上することが求められる。本実施形態に係るマイクロ流路基材100は、以下に示すように、流路部13の寸法および隔壁層11の開口面積率が特定の条件を満たす構成となっている。これにより、加圧に対するマイクロ流路基材(特に壁部)の耐性を向上し、マイクロ流路チップの作製時における加圧による部材(基板、壁部、蓋材)の破損を抑制して通液時の液漏れが発生しないマイクロ流路チップを形成可能なマイクロ流路基材を提供することができる。
【0032】
マイクロ流路基材100において流路部13は、開口部として隔壁層11に形成される。
図2(a)、
図2(b)に示すように、隔壁層11の表面11aに形成された開口部である流路部13において、流路部13の底部を構成する基板10が露出している。なお本開示の構成はこれに限られず、流路部13の底部において基板10が露出しない構成(例えば、流路部13の底部が隔壁層11や別部材に覆われている構成)であってもよい。また流路部13は、入力部40と、出力部50との間に形成される。入力部40は、隔壁層11に形成された開口部である。入力部40は、マイクロ流路基材100を用いて形成されたマイクロ流路チップ1(
図1(a)参照)において、カバー層12の入力部4を介して導入された流体を受け付けて、流路部13に導入するための構成である。また、出力部50は、隔壁層11に形成された開口部である。出力部50は、マイクロ流路基材100を用いて形成されたマイクロ流路チップ1において流路部13を通過した流体を受け付けてカバー層12の出力部5へ排出するため構成である。出力部50は流体を排出(排出部)するための構成に限られず、流体と薬液とを接触させるための構成(薬剤固定部)であってもよい。例えば、予め出力部50に薬液を入れておくことで、出力部50に向かって流路部13を送液された流体と薬液とを接触させることができる。以下、流体の排出部または薬液固定部として機能する構成を総称して「出力部」と称する。
図1(a)に示すように、マイクロ流路チップ1において、隔壁層11の入力部40はカバー層12の入力部4と対向する位置に設けられ、隔壁層11の出力部50はカバー層12の出力部5と対向する位置に設けられている。
【0033】
本実施形態に係るマイクロ流路基材100において、複数の流路部13を有する流路群は、入力部40および出力部50と、流路部13とを含めた構成としてもよい。これにより、流路群は流体を導入・排出する領域も含めた構成とすることができる。
流路部13が形成されたマイクロ流路基材100の隔壁層11に対してカバー層12が接合されることで、マイクロ流路チップ1における流路部13は、カバー層12とマイクロ流路基材100の基板10および隔壁層11で囲まれ、液漏れを発生させずに流体を送液可能な構成となる。
【0034】
隔壁層11に形成される流路部13の寸法について説明する。
図2(b)および
図3に示すように、流路部13の幅Wは、対向する隔壁層11間(具体的には、側面11b間)の幅であって、隔壁層11に形成された開口部の開口端の幅(開口幅)を示す。
【0035】
マイクロ流路チップ1の本体、すなわち本実施形態に係るマイクロ流路基材100における流路部13は、隔壁層11において開口幅が2000μm(2mm)以下の開口部として形成される。流路部13の幅Wを2000μm以下とすることにより、蓋材であるカバー層12をマイクロ流路基材100の隔壁層11に接合する際に、隔壁層11における流路部13の近傍領域にかかる圧力が、隔壁層11の他の領域に比べて増大することを抑制できる。つまり、隔壁層11を備えるマイクロ流路基材100とカバー層12とを接合する際の接合安定性を向上することができる。
なお、本実施形態に係るマイクロ流路基材100において、流路部13は、入力部40と出力部50との間において開口幅(幅W)が増減する構成であってもよい。したがって、マイクロ流路基材100における流路部13は、開口幅が最も広い領域(隔壁層11の側面11b間の幅が最も広い領域)において、幅Wが2000μm以下であればよい。
【0036】
また後述する隔壁層11の厚み(流路部13の高さ)と同様に、解析・検査対象の物質よりは流路部13の幅を大きくする必要から、隔壁層11によって画定される流路部13の幅Wは、5μm以上であることが好ましい。つまり、流路部13の幅Wは、5μm以上2000μm以下の範囲内が好ましい。これにより、マイクロ流路基材100(具体的には、隔壁層11)とカバー層12とを接合する際の接合安定性を向上し、且つ流路部13内において解析・検査対象の物質を含む流体の送液性を向上することができる。
【0037】
また、
図3に示すように、流路部13の流路長Lは、隔壁層11に開口部として形成された流路部13の長さ、すなわち入力部4と出力部5との間の開口端の長さを示す。つまり流路長Lは、入力部4から導入された流体が出力部5から排出されるまでの送液区間の長さである。本実施形態において、流路部13の流路長Lは、10mm以上100mm以下の範囲内が好ましく、30mm以上70mm以下の範囲内がより好ましく、40mm以上60mm以下の範囲内がさらに好ましい。流路長Lを10mm以上100mm以下の範囲内とすることで、反応溶液の十分な反応時間を確保することができる。
【0038】
また、
図2(b)に示す流路部13の高さ、すなわちマイクロ流路基材100の基板10上における隔壁層11の厚みTは特に限定されないが、流路部13に導入される流体に含まれる解析・検査対象の物質(例えば、薬剤、菌、細胞、赤血球、白血球等)よりは流路部13の高さ(隔壁層11の厚みT)を大きくする必要がある。このため、流路部13の高さ(隔壁層11の厚みT)は、5μm以上500μm以下の範囲内が好ましい。なお、隔壁層11の厚みはこれに限定されない。
【0039】
次に、マイクロ流路基材100の隔壁層11における開口面積率について説明する。隔壁層11の開口面積率(Ar)とは、マイクロ流路チップ1において、平面視で隔壁層11を形成した基板10とカバー層12とが重なり合う領域全体の面積(重畳面積SA)に対する、隔壁層11の開口領域の面積(開口面積OA)の割合である(Ar(%)=開口面積OA/重畳面積SA)。つまり開口面積率(Ar)は、マイクロ流路基材100に対して流路部13の蓋となる蓋材であるカバー層12が設けられた場合における、重畳面積SAに対する開口面積OAの割合である。ここで、マイクロ流路基材100に対して流路部13の蓋となる蓋材であるカバー層12が設けられた状態、つまりマイクロ流路基材100がマイクロ流路チップ1とカバー層12とがマイクロ流路チップ1を構成している状態を、蓋材接合状態という。蓋材接合状態は、マイクロ流路基材100において隔壁層11の基板10とは反対側の面(表面11a)に流路部13の蓋となるカバー層12を設けた状態を示す。
【0040】
なお
図1に示すように、カバー層12には貫通孔として入力部4、出力部5が設けられている。このため、重畳面積SAには、入力部4、出力部5と基板10とが重なり合う領域の面積は含まれない。また同様に、マイクロ流路基材100の隔壁層11において、カバー層12の入力部4、出力部5に対向する位置に形成された入力部40および出力部50も開口面積OAには含まれない。
【0041】
例えば、
図1(a)、
図1(b)に示すマイクロ流路チップ1の場合、基板10の表面10a全体にカバー層12が重なっている。つまり、マイクロ流路基材100が蓋材接合状態である場合、基板10の表面10a全体にカバー層12が重なっている。このため、本例における重畳面積SAは、基板10の上面の面積から入力部4,出力部5の面積を除いた値となる(重畳面積SA=基板10の表面10aの面積-入力部4,出力部5の面積)。
また、本例のマイクロ流路基材100では、隔壁層11に複数の流路部13(流路群130)が形成されている。このため、本例における開口面積A2は、流路群130(流路部13a~13c)の開口面積(=流路部13a~13cの幅W×流路長L)の合計である。このため、
図1(a)、
図1(b)に示すマイクロ流路チップ1の開口面積率Ar、すなわち
図2(a)、
図2(b)に示すマイクロ流路基材100が蓋材接合状態である場合の開口面積率Arは、以下のようにして算出される。
開口面積率Ar(%)=(流路部13a~13cの開口面積の合計/重畳面積SA)
なおカバー層12はマイクロ流路チップ1の蓋材として機能すればよく、用途に合わせて種々の形状に設計することができる。カバー層12は、マイクロ流路基材100において少なくとも流路部13が形成された基板10の一部、すなわち後述する隔壁流路領域31を覆うように設計されていればよく、例えば平面視において隔壁層11が形成された基板10全体を覆うように設計することができる。
【0042】
本実施形態に係るマイクロ流路基材100の隔壁層11は、蓋材接合状態における開口面積率Arが60%以下である。すなわち、マイクロ流路基材100には、蓋材接合状態における隔壁層11において開口面積率Arが60%以下となるように、一つ又は複数の流路部13が形成されている。言い換えれば、マイクロ流路チップ1の隔壁層11は、開口面積率Arが60%以下である。すなわち、マイクロ流路チップ1には、隔壁層11において開口面積率Arが60%以下となるように、一又は複数の流路部13が形成されている。
【0043】
本実施形態に係るマイクロ流路基材100において、蓋材接合状態における隔壁層11の開口面積率Arを60%以下にすることにより、マイクロ流路チップ1の蓋材であるカバー層12をマイクロ流路基材100の隔壁層11に接合する際に、隔壁層11における流路部13の近傍領域にかかる圧力が、隔壁層11の他の領域に比べて増大することを抑制できる。つまり、隔壁層11の加圧への耐性の向上により、隔壁層11を備えるマイクロ流路基材100とカバー層12とを接合する際の接合安定性を向上することができる。
また、マイクロ流路基材100は、隔壁層11の開口面積率Arが60%以下であるという条件に加えて、上述したように流路部13の幅W(開口幅)が2000μm以下であるという条件を満たすことにより、隔壁層11とカバー層12との接合安定性がさらに向上し、マイクロ流路基材100(基板10、隔壁層11)およびカバー層12の破損を抑制することができる。
【0044】
つまり、マイクロ流路基材100において、流路部13は隔壁層11において開口幅が2000μm以下の開口部として形成され、隔壁層11は、蓋材接合状態における開口面積率が60%以下である。これにより、接合安定性(例えば隔壁層11における加圧への耐性)が向上してマイクロ流路チップ1の作製時における加圧による部材(基板10、隔壁層11およびカバー層12)の破損を抑制し、通液時の液漏れが発生しないマイクロ流路チップを提供することができる。
本実施形態に係るマイクロ流路基材100は、隔壁層11において開口部として形成される流路部13の開口幅が2000μm以下であり、且つ蓋材接合状態における隔壁層11の開口面積率が60%以下であるという条件を満たしていればよく、隔壁層11に一つ又は複数の流路部13を形成することができる。
【0045】
また、マイクロ流路基材100において、蓋材接合状態における隔壁層11の開口領域以外の面積、すなわち隔壁層11において樹脂が残存している領域の面積(樹脂面積RA)は、重畳面積SAと開口面積OAとの差分として算出される(樹脂面積RA=重畳面積SA-開口面積OA)。つまり、マイクロ流路基材100において、樹脂面積RAは、重畳面積SAと開口面積OAとの差分として算出される。したがって、重畳面積SAに対する開口面積OAの割合の残余が樹脂面積率RAr(%)となる。このため、マイクロ流路基材100において、蓋材接合状態における開口面積率が60%のとき樹脂面積率RArは40%である。つまり、隔壁層11の加圧への耐性を向上して隔壁層11とカバー層12とを接合する際の接合安定性を向上するためには、隔壁層11における樹脂面積率RArは、40%以上であればよい。
【0046】
また詳しくは後述するが、マイクロ流路チップ1の作製時においてマイクロ流路基材100の隔壁層11と、カバー層12との接合方法として、熱圧着が好適に用いられる。熱圧着により隔壁層11とカバー層12とを接合する場合、熱膨張係数による隔壁層11の変形によりカバー層12とマイクロ流路基材100(特に隔壁層11)との接合に不具合が生じることを回避することが必要となる。
そこで、マイクロ流路基材100の隔壁層11とカバー層12とが熱圧着により接合(貼合)される場合に、隔壁層11は、蓋材接合状態における開口面積率Arが20%以上60%以下の範囲内であることが好ましい。蓋材接合状態における隔壁層11において、開口面積率を当該範囲内とすることにより、熱膨張係数による隔壁層11の変形を抑制し、当該変形によってカバー層12とマイクロ流路基材100(特に、隔壁層11)との接合に不具合が生じること(接合不良)を回避することができる。言い換えれば、マイクロ流路基材1001において蓋材接合状態である場合に、隔壁層11の樹脂面積率RArは、40%以上80%以下の範囲内であることが好ましい。
【0047】
(1.3)カバー層
図1(a)、
図1(b)に示すマイクロ流路チップ1において、カバー層12は、隔壁層11の基板10とは反対側の面に設けられており、
図1(b)に示すように流路部13を覆う蓋材である。上述のように、カバー層12は、マイクロ流路基材100における隔壁層11の基板10とは反対側の面(表面11a)に設けられており、隔壁層11を挟んで基板10と対向している。より具体的には、
図1(b)に示すように、断面視においてカバー層12は、隔壁層11に支持されており、流路部13が形成された隔壁層11の開口部において基板10と対向し、基板10との対向面が流路部13の上部を画定している。つまり、マイクロ流路基材100だけでなくカバー層12も流路部13を形成する部材の一つである。
【0048】
カバー層12は、透光性材料又は非透光性材料のいずれかによって形成することができる。例えば、流路内の状態を光によって検出、観察する場合は、該光に対して透明性に優れる材料を用いることができる。透光性材料としては、特に限定されないが、樹脂又はガラス等を用いることができる。カバー層12を形成する樹脂としては、マイクロ流路チップ1の本体部の形成に適しているという観点から、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリプロピレン、ポリカーボネート樹脂、シクロオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられる。カバー層12の厚みは特に限定されないが、カバー層12に対して入力部4および出力部5それぞれに該当する貫通孔を設けることを鑑みると、10μm以上10mm以下の範囲内が好ましい。またカバー層12には、隔壁層11との接合前に、流体(液体)を導入する入力部4、流体を排出する出力部5のそれぞれに相当する孔を予め開けておくことが望ましい。
【0049】
(1.4)マイクロ流路基材の製造方法
次に、本実施形態に係るマイクロ流路基材100の製造方法について説明する。
図4は、本実施形態に係るマイクロ流路基材100の製造方法の一例を示すフローチャートである。
ここでは、隔壁層11を感光性樹脂で形成する場合を例にとって説明する。
【0050】
(ステップS1)
本実施形態に係るマイクロ流路基材100の製造方法では、まず基板10上へ樹脂を塗工する工程を行う。これにより、基板10上に隔壁層11を形成するための樹脂層を設ける。本実施形態に係るマイクロ流路基材100の製造方法では、例えば基板10上に感光性樹脂による樹脂層(感光性樹脂層)を形成する。
【0051】
基板10上への感光性樹脂層の形成方法は、例えば、基板10への感光性樹脂の塗工により行われる。塗工は、例えば、スピンコーティング、スプレーコーティング、バーコーティングなどにより行われることができ、中でも膜厚制御性の観点からはスピンコーティングが好ましい。基板10上には、例えば液状、固体状、ゲル状、フィルム状など種々の形態の感光性樹脂を塗工することができる。中でも、液体レジストによって感光性樹脂層を形成することが好ましい。
また、基板10上には、樹脂層(例えば、感光性樹脂層)の厚み、すなわち隔壁層11の厚みが5μm以上500μm以下の範囲内となるように樹脂(例えば、感光性樹脂)を塗工することが好ましい。なお、隔壁層11の厚みはこれに限定されない。
【0052】
(ステップS2)
基板10上に感光性樹脂を形成すると、次に、基板10上に塗工した樹脂(例えば、感光性樹脂)内に含まれる溶媒(溶剤)を除去する目的で加熱処理(プリベーク処理)する工程を行う。なお、本実施形態に係るマイクロ流路基材100の製造方法において、プリベーク処理は必須の工程ではなく、適宜、樹脂の特性に合わせて最適な温度、時間で実施すればよい。例えば、基板10上の樹脂層が感光性樹脂である場合は、プリベーク温度、時間は感光性樹脂の特性に応じて、適宜、最適な条件で行う。
【0053】
(ステップS3)
次に、基板10上に塗工した樹脂(例えば感光性樹脂)を露光する工程を行う。具体的には、基板10上に塗工した感光性樹脂には、露光により流路パターンが描画される。露光は、例えば、紫外線を光源とした露光装置、レーザー描画装置により行うことができる。中でも、紫外線を光源としたプロキシミティ露光やコンタクト露光装置を用いた露光が好ましい。プロキシミティ露光装置の場合、マイクロ流路チップ1における流路パターン配列を有するフォトマスクを介して露光が行われる。フォトマスクはクロム及び酸化クロムの二層構造を遮光膜とするフォトマスクなどを使用すればよい。
また上述のように、隔壁層11には、紫外光領域である190nm以上400nm以下の波長の光に対して感光性を有する感光性樹脂が用いられる。したがって、本工程(露光工程)では、基板10上に塗工される感光性樹脂を、190nm以上400nm以下の波長の光に感光させればよい。
【0054】
なお、基板10上における樹脂層の形成に化学増幅型レジストなどを用いる場合には、露光により発生した酸の触媒反応を促すために、露光後にさらに加熱処理(ポストエクスポージャーベーク:PEB)を行うとよい。
【0055】
(ステップS4)
次に、露光した感光性樹脂に対して現像を行い、流路パターンを形成する工程を行う。
現像は、例えば、スプレー、ディップ、パドル形式などの現像装置にて感光性樹脂と現像液の反応により行われる。現像液は、例えば炭酸ナトリウム水溶液、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化カリウム、有機溶剤などを用いることができる。現像液は感光性樹脂の特性に応じた最適なものを適宜使用すればよく、これらに限定されるものではない。また、濃度や現像処理時間は、感光性樹脂の特性に合わせて適宜最適な条件に調整することができる。
【0056】
(ステップS5)
次に、洗浄により基板10上の樹脂層(感光性樹脂層)から現像に用いた現像液を完全に除去する工程を行う。洗浄は、例えば、スプレー、シャワー、浸漬形式などの洗浄装置によって行うことができる。洗浄水としては、例えば純水、イソプロピルアルコールなどから、現像処理に用いた現像液を除去するために最適な洗浄水を適宜使用すればよい。洗浄後はスピンドライヤ、IPAベーパドライヤ、自然乾燥などにより乾燥を行う。
【0057】
(ステップS6)
次に、流路パターン、すなわち流路部13を形成する隔壁層11に対して加熱処理(ポストベーク)する工程を行う。このポストベーク処理により、現像や洗浄時の残留水分を除去する。ポストベーク処理は、例えば、ホットプレート、オーブン、などを用いて行われる。上記ステップS5の洗浄工程での乾燥が不十分な場合、現像液や洗浄時の水分が隔壁層11に残留している場合がある。また、プリベーク処理において除去されなかった溶剤も隔壁層11に残留している場合がある。ポストベーク処理を行うことで、それらを除去することができる。
【0058】
このように、本実施形態に係るマイクロ流路基材100の製造方法では、フォトリソグラフィーを用いて基板10上に流路部13を構成する隔壁層11を形成し、マイクロ流路基材100を作製することができる。
例えば基板10上に塗工された感光性樹脂がポジ型レジストの場合、露光領域が現像時に溶解されて流路部13となり、未露光領域に残存する感光性樹脂が隔壁層11となる。また、基板10上に塗工された感光性樹脂がネガ型レジストの場合、露光領域に残存する感光性樹脂が隔壁層11となり、未露光領域が現像時に溶解されて流路部13となる。
【0059】
また、マイクロ流路基材100の作製後、つまり上記ステップS6のポストベーク処理後に、マイクロ流路基材100の隔壁層11にカバー層12を接合する工程を行うことで、マイクロ流路チップ1を作製することができる。本工程では、
図1(b)に示すように、隔壁層11の基板10とは反対側の面にカバー層12を接合する。これにより、流路部13がカバー層12に覆われ、
図1(a)、
図1(b)に示すマイクロ流路チップ1が形成される。本工程では、マイクロ流路基材100の隔壁層11とカバー層12との隙間を狭めるように圧力を加えて隔壁層11とカバー層12とを隙間なく接合する。なお、「隙間なく接合」された隔壁層11とカバー層12とにおいて、マイクロ流路チップ1の通液時において液漏れが発生しない程度のごく微小の隙間は許容される。
【0060】
マイクロ流路基材100の隔壁層11とカバー層12との接合方法としては、熱圧着による方法や、接着剤を用いる方法、隔壁層11とカバー層12との接合面の表面改質処理により接路接合する方法を実施してもよい。
上記熱圧着による方法では、例えば隔壁層11とカバー層12との接合面に表面改質処理を施した上で熱圧着を行う。当該表面改質処理は、例えばマイクロ流路基材100の製造工程におけるポストベーク処理後(上記ステップ6の実行後)に、マイクロ流路基材100の隔壁層11、及び隔壁層11との接合前のカバー層12(蓋材)に対して表面改質処理する工程を実施すればよい。表面改質処理の一例としては、例えばプラズマ処理がある。
【0061】
マイクロ流路チップ1を構成する部材同士(本例では、マイクロ流路基材100の隔壁層11とカバー層12)を熱圧着で接合させる場合、例えば表面改質処理を行った後に熱プレス機や熱ロール機を用いた熱圧着を行うことが好ましい。接着剤を用いずに熱圧着によって隔壁層11上にカバー層12を設けることにより、接着剤成分の流路内への溶出を防いで流路内の溶液の反応阻害を抑制することができる。
カバー層12には、隔壁層11との接合前に、予め流体の入力部4、出力部5(
図1参照)に相当する孔をおくことが望ましい。これにより、隔壁層11との接合後に孔を開ける場合よりも、ゴミやコンタミネーションの問題が生じることを抑制することができる。
カバー層12の厚みは、貫通孔を設けることを鑑みると、10μm以上10mm以下の範囲内で形成することが好ましい。また、カバー層12の材料は透光性材料又は非透光性材料のいずれかを用いて形成することができ、透光性材料として樹脂又はガラス等を用いることが好ましい。なお、本発明においてカバー層12の厚みおよび材料は上述の構成に限定されない。
【0062】
また、マイクロ流路基材100の隔壁層11とカバー層12との接合方法として接着剤を用いて接合する場合、接着剤は隔壁層11およびカバー層12を構成する材料との親和性などに基づいて決定することができる。接着剤は、隔壁層11とカバー層12とを接合できるものであれば、特に限定されない。例えば、本実施形態における接着剤としては、アクリル樹脂系接着剤や、ウレタン樹脂系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤等を用いることができる。
【0063】
また、表面改質処理によって接合する方法としては、プラズマ処理、コロナ放電処理、エキシマレーザー処理などがある。この場合、隔壁層11の表面の反応性を向上させ、隔壁層11とカバー層12との親和性及び接着の相性に応じて、適宜最適な処理方法を選択すればよい。
【0064】
また、マイクロ流路チップ1の作製時には、カバー層12において平面視で流路部13に重ならない領域、すなわち流路部13と対向していない領域において、シールの貼付やインクジェットプリンタによる所定情報(例えばマイクロ流路チップの識別番号等)の印字が行われる場合がある。マイクロ流路チップ1では、上述のように接合安定性が向上されているため、隔壁層11に接合後のカバー層12へのシールの貼付や印字の際の加圧による隔壁層11およびカバー層12の破損も抑制することができる。
【0065】
また上述のように、本実施形態に係るマイクロ流路チップ1の製造方法では、隔壁層11とカバー層12との接合工程(上記ステップS8)において、隔壁層11とカバー層12との隙間を狭めるように圧力を加えて隔壁層11とカバー層12とを隙間なく接合する。上述のように、本実施形態に係るマイクロ流路チップ1の製造方法では、隔壁層11に形成される流路部13は開口幅が2000μm以下であり、隔壁層11の開口面積率は60%以下である。このため、隔壁層11の加圧への耐性が向上し、マイクロ流路チップ1の作製時において複数部材(本例では、隔壁層11およびカバー層12)の接合工程における接合安定性(壁部における加圧への耐性)が向上する。このため、接合時の加圧による部材(基板10、隔壁層11およびカバー層12)の破損を抑制し、通液時の液漏れが発生しないマイクロ流路チップを提供することができる。また、接合安定性の向上により、マイクロ流路チップ1の作製時には圧力による部材の破損を防ぐために低圧力での接合を行う必要がなく、低圧力での接合に起因して部材同士の接合が不十分となるような不具合(接合不良)の発生を抑制することができる。
【0066】
以上説明したように、本実施形態に係るマイクロ流路基材100の製造方法は、基板10上に、樹脂を塗工する工程(上記ステップS1)と、塗工した樹脂を露光する工程(上記ステップS3)と、露光した樹脂を現像及び洗浄し基板10上に流路部13を画定する隔壁層11を形成する工程(上記ステップS4および上記ステップS5)と、隔壁層11をポストベーク処理する工程(上記ステップS6)と、を含んでいる。さらに、現像工程(上記ステップS4)により基板10上の余分な樹脂(感光性樹脂層)を除去することで、流路部13となる開口幅が2000μm以下の開口部(流路パターン)を隔壁層11に形成し、蓋材接合状態における隔壁層11の開口面積率を60%以下とする。
これにより、接合安定性(例えば隔壁層11における加圧への耐性)が向上して隔壁層11を備えるマイクロ流路基材100とカバー層12との接合時の加圧による部材(基板10、隔壁層11およびカバー層12)の破損が抑制され、通液時の液漏れが発生しないマイクロ流路チップ1を作製可能なマイクロ流路基材100を得ることができる。
【0067】
また、上記ステップS6ポストベーク処理を実行してマイクロ流路基材100を作製した後に、マイクロ流路基材100の隔壁層11の基板10とは反対側の面にカバー層12を接合する工程を実施してすることで、上述のようにマイクロ流路チップ1を作製することができる。当該接合工程において熱圧着により隔壁層11とカバー層12とを接合する、すなわち熱圧着によりマイクロ流路チップ1を蓋材接合状態とする場合は、隔壁層11を形成する際の現像工程(ステップS4)において、開口面積率Arが20%以上60%以下となるように、隔壁層11に流路パターン、すなわち流路部13を形成することが好ましい。
すなわち、本実施形態に係るマイクロ流路基材100の製造方法は、熱圧着により隔壁層11とカバー層12とを接合して蓋材接合状態とする場合に、上記の現像工程において、蓋材接合状態における隔壁層11の開口面積率Arを20%以上60%以下とすることが好ましい。これにより、隔壁層11を備えるマイクロ流路基材100における加圧への耐性低減および加熱時の熱膨張係数による隔壁層11およびカバー層12の変形が抑制され、当該変形によってカバー層12とマイクロ流路基材100(特に隔壁層11)との接合に不具合が生じること(接合不良)を回避して接合安定性が向上する。また、隔壁層11とカバー層12との接合時の加圧および加熱によってマイクロ流路基材100の部材(基板10、隔壁層11)およびカバー層12に破損および反りが発生することが抑制され、通液時の液漏れが発生しないマイクロ流路チップ1を形成可能なマイクロ流路基材100を作製することができる。
【0068】
(1.5)変形例
(1.5.1)第一変形例
以下、本実施形態の第一変形例に係るマイクロ流路基材について、
図5および
図6を用いて説明する。まず、第一変形例の一構成例について
図5を用いて説明する。
図5(a)は、本実施形態の変形例に係るマイクロ流路基材101の一構成例を説明するための平面概略図である。
図5(b)は、
図5(a)に示すA2-A2線でマイクロ流路基材101を切断した断面を示す概略断面図である。
マイクロ流路基材101は、マイクロ流路基材100と同様に、基板10と、基板10上に複数の流路部13(流路部13a~13c)を有する流路群130を形成する隔壁層11と、を備えている。
【0069】
図5(a)に示すように、マイクロ流路基材101は、隔壁層11に隔壁流路領域31と支持領域32とが形成されている点で、マイクロ流路基材100と相違している。
隔壁層11における隔壁流路領域31は、流路部13が形成される領域である。隔壁流路領域31には、少なくとも一つの流路部13が形成されていればよい。本例では、隔壁流路領域31には、3つの流路部13a,13b,13cが設けられている。これに対し、隔壁層11における支持領域32は、流路部13が設けられていない領域である。
【0070】
また
図5(b)に示すようにマイクロ流路基材101は、基板10上に基板流路領域(流路領域の一例)191と基板非流路領域(非流路領域の一例)192とが形成されている点で、マイクロ流路基材100と相違している。
基板10における基板流路領域191は、隔壁層11側の表面10aにおいて隔壁層11により一つ以上の流路部13が形成される領域である。つまり、基板流路領域191は基板10において隔壁層11の隔壁流路領域31が設けられている領域である。一方、基板10における基板非流路領域192は、隔壁層11側の表面10aにおいて隔壁層11により流路部13が形成されていない領域である。つまり、基板非流路領域192は基板10において隔壁層11の支持領域32が設けられている領域である。このように、マイクロ流路基材101において、基板10は、隔壁層11側の表面10aにおいて隔壁層11により一つ以上の流路部が形成される基板流路領域191と、流路部13が形成されない基板非流路領域192とを有する。
【0071】
隔壁層11において、支持領域32には流路部13が形成されないため、隔壁流路領域31に比べて多くの樹脂が残存している。すなわち、基板10上の基板非流路領域192上には基板流路領域191上に比べて多くの樹脂が残存している。このため、隔壁層11の支持領域32は、マイクロ流路基材101の隔壁層11に蓋材であるカバー層12を設けた蓋材接合状態においてカバー層12を支持する支持部材、すなわち蓋材支持部として用いることができる。すなわち、隔壁層11の支持領域32は、マイクロ流路基材101を用いたマイクロ流路チップにおける蓋材支持部として機能する。
このように、マイクロ流路基材101において隔壁層11は、蓋材接合状態において流路部13の蓋材となるカバー層12を支持する蓋材支持部である支持領域32を基板10の基板非流路領域192上に形成する。
【0072】
つまり、マイクロ流路基材101を用いたマイクロ流路チップでは、隔壁層11に隔壁流路領域31および、蓋材支持部として機能する支持領域32が形成されることにより、隔壁層11とカバー層12との接合安定性がさらに向上する。このため、隔壁層11とカバー層12とを接合する際の圧力による部材の破損がさらに抑制され、液漏れが発生しないマイクロ流路チップを確実に形成可能なマイクロ流路基材を提供することができる。
【0073】
また、隔壁層11が支持領域32を有することにより、マイクロ流路基材101自体の剛性が向上し、保管時や使用時において圧力が加わった際の部材の破損も抑制することができる。
なお、マイクロ流路基材101は、マイクロ流路チップ作製時におけるカバー層12との接合安定性を向上するため、隔壁層11において隔壁流路領域31と支持領域32とでは、隔壁層11の厚みは同等である。具体的には、マイクロ流路基材101において、隔壁層11は、基板流路領域191および基板非流路領域192に設けられており、基板流路領域191上と基板非流路領域192上とで厚みが変化しない。これにより、マイクロ流路基材101は、マイクロ流路チップ作製時におけるカバー層12との接合安定性を向上することができる。
【0074】
また、流路部13が設けられていない支持領域32の一部には、残存する樹脂材料を利用した機能を付与することができる。例えばインクジェットプリンタによる印字や、樹脂の一部に対する型抜き加工により所定情報(例えば識別番号や製品名等)を示す文字列の刻印を施すことができる。これにより、支持領域32は、情報表示部として機能する。これに限られず、隔壁層11における支持領域32は、マイクロ流路基材101を用いて作製するマイクロ流路チップの用途等に応じて多種多様な目的に使用することができ、種々の機能を付与することができる。
図5(a)、
図5(b)では、一例として平面視で隔壁流路領域31が隔壁層11の左領域に配置され、支持領域32が隔壁層11の右領域に配置されている。なお本開示はこれに限られず、隔壁層11において隔壁流路領域31が右領域に配置され、支持領域32が左領域に配置されてもよい。
【0075】
次に、第一変形例の他の構成例について
図6を用いて説明する。
図6は、本実施形態の変形例に係るマイクロ流路基材102の一構成例を説明するための平面概略図である。
図6に示すマイクロ流路基材102のように、隔壁層11に複数の流路部13が形成される場合において、隔壁流路領域31が複数形成されていてもよい。この場合、複数の隔壁流路領域31の間に支持領域32を配置してもよい。図示は省略するが、マイクロ流路基材102においては、隔壁層11に隔壁流路領域31が複数形成されることから、基板10上に複数の基板流路領域が形成されることとなる。また、基板10上において複数の流路領域の間に基板非流路領域が配置される。
図6では、隔壁流路領域31を2つの領域(隔壁流路領域31a,31b)に分割し、隔壁流路領域31a,31bの間に支持領域32を設けている。本例では、隔壁流路領域31aには、複数の流路部13のうち一つの流路部13aが設けられ、隔壁流路領域31bには、残余の流路部13(流路部13b,13c)が設けられている。隔壁層11において流路部13が複数であり、且つ隔壁流路領域31が複数形成される場合には、各隔壁流路領域31(本例では、隔壁流路領域31a,31b)には、複数の流路部13のうち少なくとも一つの流路部13が形成されていればよい。
なお、
図5および
図6は、隔壁層11に隔壁流路領域31と支持領域32とを設けたマイクロ流路チップの構成例であって、本変形例によるマイクロ流路基材101,102に限られず、用途に合わせて種々の態様とすることができる。例えば、マイクロ流路基材において、隔壁層11には支持領域32が複数設けられていてもよい。
【0076】
このように、マイクロ流路基材(マイクロ流路基材101,102)において、隔壁層11は、少なくとも一つの前記流路が形成されている隔壁流路領域31と流路が形成されていない支持領域32とを有していてもよい。これによりマイクロ流路基材を用いてマイクロ流路チップを作製する際において隔壁層11と蓋材となるカバー層12との接合安定性がより向上してマイクロ流路基材(特に隔壁層11)とカバー層12とを接合する際の圧力による部材(基板10、隔壁層11、カバー層12)の破損がさらに抑制され、液漏れが発生しないマイクロ流路チップを形成可能なマイクロ流路基材を確実に提供することができる。
【0077】
(1.5.2)第二変形例
以下、本実施形態の第二変形例に係るマイクロ流路基材200について、
図7を用いて説明する。
図7(a)は、本変形例に係るマイクロ流路基材200の一構成例を説明する平面概略図であり、
図7(b)は、本変形例に係るマイクロ流路基材200の一構成例を説明するための断面図であって、
図7(a)に示すB-B線でマイクロ流路基材200を切断した断面を示す概略断面図である。
図7(a)、
図7(b)に示すように、マイクロ流路基材200は、基板10と、基板10上に配置された密着層15と、基板10上に複数の流路部13a~13cを有する流路群130を形成する隔壁層11と、を備えている。具体的には、マイクロ流路基材200は、隔壁層11と基板10との間に密着層15を備えている。密着層15を備える点で、マイクロ流路チップ2は、上記第一実施形態に係るマイクロ流路チップ1と相違する。
【0078】
(1.5.2.1)密着層の構成
以下、密着層15について説明する。なお、密着層15以外の各構成(基板10、隔壁層11及び流路部13)については、マイクロ流路基材100と同様の構成であるため、同一の符号を付し、説明を省略する。
【0079】
マイクロ流路基材200には、基板10と樹脂層(例えば感光性樹脂層)、すなわち隔壁層11との密着性を向上する目的で、基板10上に疎水化表面処理(HMDS処理)を施したり、薄膜の樹脂をコートしてもよい。特に基板10にガラスを用いる場合などは、
図7(b)に示すように基板10と隔壁層11(感光性樹脂層)との間に薄膜による密着層15を設けてもよい。この場合、流路部13を流れる流体(例えば液体)は、基板10ではなく密着層15と接することになる。このため、密着層15は、流路部13に導入される流体への耐性を有していればよい。基板10上に密着層15を設けることで、感光性樹脂による流路パターンの解像性向上などへも寄与することができる。
上述のように、密着層15は基板10上に形成される。このため
図7(a)、
図7(b)に示すように、本変形例に係るマイクロ流路基材200においては、流路部13の底部は密着層15で形成され、流路部13において、流路部13の底部を構成する密着層15(具体的には、密着層15の表面15a)が露出している。
【0080】
2.第二実施形態
以下、
図8および
図9を参照して、マイクロ流路チップ7およびマイクロ流路チップ7に用いるマイクロ流路基材700の構成について説明する。
(2.1)マイクロ流路チップの基本構成
以下、本開示の第二実施形態に係るマイクロ流路チップ2について、
図8および
図9を用いて説明する。
図8は、本開示の第二実施形態(以下、「本実施形態」という)におけるマイクロ流路チップ7の一構成例を説明するための概略図である。具体的には、
図8(a)は本実施形態のマイクロ流路チップ2の平面概略図である。また、
図8(b)は、
図8(a)に示すC-C線でマイクロ流路チップ1を切断した断面を示す概略断面図である。
図8(a)、
図8(b)に示すように、マイクロ流路チップ7は、マイクロ流路基材700と、カバー層12とを備える。詳しくは後述するが、マイクロ流路基材700は、蓋材支持部111を備える点で、上記第一実施形態に係るマイクロ流路基材100と相違する。つまり、マイクロ流路チップ7は、蓋材支持部111を有するマイクロ流路基材700を備える点で、マイクロ流路チップ1と相違する。
【0081】
マイクロ流路チップ7において、マイクロ流路基材700以外の構成(カバー層12)については、マイクロ流路チップ1と同様の構成であるため、同一の符号を付し、説明を省略する。
ここで、マイクロ流路チップ7において、流路部73(流路部73a~73c)を構成する部材(基板、隔壁層、カバー層)の関連については、蓋材支持部111が設けられている以外は、上記第一実施形態におけるマイクロ流路チップ1と同様である。
具体的には、マイクロ流路チップ7は、マイクロ流路基材700における基板(基板70)と、基板70上に設けられた流路部73と、流路部73の蓋となるカバー層12と、カバー層12と基板70との間に配置されて基板70上に流路部73および蓋材支持部111を形成する隔壁層71と、を備えている。より具体的には、マイクロ流路チップ7は、基板70と、基板70上に設けられて流路を形成する隔壁層71と、隔壁層71の基板70とは反対側の面に接合されて流路部73を覆うカバー層12と、を備えている。詳しくは後述するが、本例において隔壁層71とカバー層12とは熱圧着により接合されている。またマイクロ流路チップ7において、流路部73は、一つ以上であればよく、複数設けられてもよいし、入力部4から導入された流体の合流や分離が可能な設計であってもよい。
【0082】
(2.2)マイクロ流路基材の構成
次に、
図8を参照しつつ、
図9を用いてマイクロ流路基材の各部材について説明する。
図9は、本実施形態に係るマイクロ流路基材700の一構成例を説明するための概略図である。具体的には、
図9(a)は本実施形態のマイクロ流路基材700の平面概略図である。また、
図9(b)は、
図9(a)に示すC1-C1線でマイクロ流路基材700を切断した断面を示す概略断面図である。
なお、上記第一実施形態に係るマイクロ流路基材100と共通する構成については、適宜、説明を省略する。
【0083】
図9(a)、
図9(b)に示すように、マイクロ流路基材700は、基板70と、樹脂材料で構成され、基板70上に設けられて基板70上に流路を形成する隔壁層71と、を備える。以下、マイクロ流路基材700を構成する各部材について詳細に説明する。
【0084】
(2.2.1)基板
基板70は、マイクロ流路基材700の基礎、すなわちマイクロ流路チップ7の基礎となる部材であり、基板70上に設けられた隔壁層71によって流路部73が構成される。つまり、基板70および隔壁層71は、マイクロ流路チップ7の本体部といえる。
また、
図9(a)、
図9(b)に示すように、基板70は、蓋材接合状態においてカバー層12と対向する面(表面70a)において流路部73が設けられる基板流路領域(流路領域の一例)291と、流路部73が設けられていない基板非流路領域292とを有している。つまり、基板10において、基板流路領域291上には隔壁層11により流路部73が形成され、基板非流路領域292上には蓋材接合状態においてカバー層12を支持する蓋材支持部111が形成されている。つまり、基板70は、隔壁層11側の表面70aにおいて隔壁層71により一つ以上の流路部73が形成される基板流路領域191と、流路部73が形成されない基板非流路領域292とを有している。また、基板非流路領域292において、蓋材支持部111が形成されていない部分は基板70の表面70aが露出している。つまり、基板非流路領域292上において、蓋材支持部111以外の箇所には隔壁層71は設けられていない。
【0085】
基板70は、上記第一実施形態に係るマイクロ流路基材100の基板10と同様に透光性材料又は非透光性材料のいずれかによって形成することができる。例えば、流路部73内の状態(流体の状態)を光によって検出、観察する場合は、該光に対して透明性に優れる材料を用いることができる。これにより、例えば基板70側から流路部73内の状態を観察することができる。透光性材料としては、基板10に用いられる透光性材料と同等の材料が挙げられる。
【0086】
また例えば、流路部73内の状態(流体の状態)を光によって検出、観察する必要がない場合は、非透光性材料を用いてもよい。非透光性材料としては、基板10と同様にシリコンウエハ、銅板等が挙げられる。基板70の厚みは特に限定されないが、流路形成工程においてはある程度の剛性は必要となることから、基板10と同様に10μm(0.01mm)以上10mm以下の範囲内が好ましい。
【0087】
(2.2.2)隔壁層
隔壁層71は、基板70上に設けられて、流路部73を形成する構成である。具体的には、隔壁層71の対抗する側面71bによって流路部73が画定される。
図9(b)に示すように、本実施形態において隔壁層71は、基板7010上において複数の流路部73(流路部73a,73b,73c)を有する流路群730を形成している。マイクロ流路チップ7は、複数の流路部73を有するマイクロ流路基材700で構成されることで、同時に複数の検査を行うことや、異なる種類の流体を用いた検査を行うこと等が可能となり、マイクロ流路チップをより幅広く活用することができる。複数の流路部73のそれぞれは、独立していてもよいし、一部が交差していてもよい。
隔壁層71は、樹脂材料で形成することができる。隔壁層71の樹脂材料としては、例えば感光性樹脂を用いることができる。
【0088】
隔壁層11を形成する感光性樹脂は、上記第一実施形態に係るマイクロ流路基材100の隔壁層11と同様に、紫外光領域である190nm以上400nm以下の波長の光に対して感光性を有することが望ましい。当該感光性樹脂としては、隔壁層11と同様に液体レジスト又はドライフィルムレジスト等のフォトレジストを用いることができる。これらの感光性樹脂は、感光領域が溶解するポジ型、又は感光領域が不溶化するネガ型のいずれであってもよい。マイクロ流路基材700における隔壁層71の形成に適する感光性樹脂組成物としては、隔壁層11と同様のラジカルネガ型の感光性樹脂を挙げることができる。例えば、感光性樹脂材料としては、隔壁層11と同様の感光性樹脂材料を用いることができる。
【0089】
なお本実施形態においては、隔壁層71の樹脂材料は感光性樹脂に限定されるものではなく、隔壁層11と同様に、例えば、シリコーンゴム(PDMS:ポリジメチルシロキサン)や、合成樹脂を用いてもよい。合成樹脂としては、隔壁層11と同様の材料を用いることができる。隔壁層71の樹脂材料は、用途に応じて適宜選択されることが望ましい。
【0090】
(2.2.2.1)蓋材支持部
次に、基板70上に隔壁層71が形成する蓋材支持部について説明する。
隔壁層71は、基板70の基板流路領域291上に流路部73を形成し、基板非流路領域292上に蓋材支持部(例えば、蓋材支持部111)を形成する。蓋材支持部は隔壁層11の一部による樹脂構造体として形成される。つまり、本実施形態においてマイクロ流路基材700には、基板流路領域291上だけでなく基板非流路領域292上にも隔壁層71の一部(蓋材支持部111)が設けられている。したがってマイクロ流路基材700において隔壁層71は、基板流路領域291および基板非流路領域292に設けられている。これにより、蓋材接合状態、すなわちマイクロ流路チップ7において隔壁層71とカバー層12との接触面積を確実に確保することができ、マイクロ流路基材700(特に隔壁層71)とカバー層12との接合時における押圧力を分散して(押圧力の集中を防いで)加圧への耐性を向上するとともに、接合後の剥離不良を防ぐことが可能なマイクロ流路基材を得ることができる。また、隔壁層71が蓋材支持部111を形成することにより、マイクロ流路基材700自体の剛性が向上し、保管時や使用時において圧力が加わった際の部材の破損や反りの発生も抑制することができる。
【0091】
マイクロ流路基材700において、蓋材支持部の形状や数は限定されないが、蓋材接合状態における隔壁層71とカバー層12との接触面積を拡大する観点では、基板非流路領域292上には蓋材支持部として隔壁層71の一部による樹脂構造体が一つ以上形成されることが好ましい。つまり、マイクロ流路基材700には、基板非流路領域292上において一つ又は複数の樹脂構造体が蓋材支持部として形成されていることが好ましい。これにより、マイクロ流路基材700(特に隔壁層71)とカバー層12との接触面積をより確実に確保することができ、隔壁層71とカバー層12との接合時における加圧への耐性をより向上することができる。
図9(a)および
図9(b)に示すように、本例では、基板70上(具体的には基板非流路領域292上)において、蓋材支持部111が3つ形成されている。
【0092】
また、マイクロ流路基材700では、隔壁層71の厚みTは上記隔壁層11の厚みTと同等であり、基板70上において隔壁層71の厚みTは変化しない。すなわち、隔壁層71は、基板流路領域291上と基板非流路領域292上とで厚みが変化しない。このため、基板流路領域291において流路部73を形成する隔壁層71と、蓋材支持部111を形成する隔壁層71とは、厚みTが同等である。したがって蓋材接合状態における隔壁層71は、基板70とは反対側の面(表面71a)において、安定的にカバー層12と接合される。
【0093】
また
図8(b)に示すように、蓋材接合状態における隔壁層71は、基板流路領域291上および基板非流路領域292上のいずれにおいても、基板70とは反対側の面(表面71a)において、カバー層12と接合する。つまり、基板非流路領域292上の蓋材支持部111も、基板70とは反対側の面(表面71a)においてカバー層12と接合している。本実施形態において、蓋材支持部111は、蓋材接合状態において基板70とは反対側の面(表面71a)、すなわちカバー層12側の面において、カバー層12と面接触する。これにより、蓋材支持部111を含む隔壁層71は、蓋材接合状態の場合に、基板70とは反対側の面(表面71a)においてより安定的にカバー層12と接合される。
また、本実施形態において、蓋材支持部111を含む隔壁層71の表面71aは、平坦である。これにより、隔壁層71は蓋材接合状態において、より安定的にカバー層12と接合される。なお、隔壁層71の表面71aには、カバー層12との接合の安定性に影響しない程度であれば、微小な凹凸が設けられていてもよい。
【0094】
本実施形態において、蓋材支持部111の形状は特に限定されず、種々の形状とすることができる。
図9(a)に示すように、本例において蓋材支持部111は、平面視で長方形状を有する樹脂構造体である。ここで、平面視は、隔壁層71の表面71aと直交する方向から見ることを示す。つまり、平面視での蓋材支持部111の形状は、表面71aの形状である。
【0095】
より具体的には、本例において基板非流路領域292上には、複数(3つ)の蓋材支持部111が樹脂構造体の平面形状である長方形の長辺と平行に配置されている。つまり、基板70の基板非流路領域292上において、複数の蓋材支持部111がストライプ状(線状)のパターン110を形成している。また、本例において複数の蓋材支持部111は、平面形状である長方形の長辺と流路部73とが平行となるように配置されている。
【0096】
なお、本開示はこれに限られず、ストライプ状のパターン110を形成する複数の蓋材支持部111は、基板非流路領域292上において2つ以上配置されていればよい。また、蓋材支持部111は、平面形状である長方形の長辺が流路部73と直交する仮想直線に平行となるように配置されてもよいし、平面視で長方形状である基板非流路領域292の対角線と平行に配置されてもよい。また、平面視で長方形状の蓋材支持部111の配置は、ストライプ状のパターン110に限られず、例えば平面視で長方形状の基板非流路領域292の内周を囲むように、基板非流路領域292の四辺に沿って配置されてもよい。
【0097】
複数の蓋材支持部111がストライプ状のパターン110を形成する場合、蓋材支持部111における表面71aの長辺は流路部73の長さ(後述する流路長L)と同等以上の長さであることが好ましい。これにより、蓋材接合状態において、開口部である流路部73の分だけ減少する隔壁層71とカバー層12との接触面積を補い、カバー層12との接合安定性を向上することができる。
なお、ストライプ状のパターン110を構成する蓋材支持部111の平面形状は長方形に限られず、角丸形状でもよいし、楕円形状でもよい。また、蓋材支持部111の平面形状において各辺は直線に限られず、波線状や鋸歯状の部分が含まれてもよい。
【0098】
なお、
図8および
図9では、蓋材支持部(本例では蓋材支持部111)が複数形成される構成を例示したが、本開示はこれに限られない。まず、蓋材支持部のパターンは、ストライプ状のパターン110に限られず種々のパターンとして形成することができる。また上述のように、マイクロ流路基材700において基板70上(具体的には基板非流路領域292上)に形成される蓋材支持部は一つであってもよい。蓋材支持部が一つである場合、当該蓋材支持部の表面71aの面積は、複数の蓋材支持部が形成される場合における一つの蓋材支持部の表面71aの面積よりも大きいことが好ましい。つまり、蓋材支持部が一つである場合、当該蓋材支持部の表面71aの面積は、複数の蓋材支持部(例えば3つの蓋材支持部111)のうち一つの蓋材支持部の表面11aの面積よりも大きいことが好ましい。
【0099】
また、蓋材支持部が一つである場合、当該一つの蓋材支持部の表面11aの面積は、複数の蓋材支持部の表面71aの総面積(面積の合計)と同等以上であることが好ましい。例えば、蓋材支持部が一つである場合、当該一つの蓋材支持部の表面71aの面積は、3つの蓋材支持部111の表面71aの面積の合計(3つの蓋材支持部111の総面積)と同等以上であればよい。これにより、蓋材支持部が一つである場合も、複数の蓋材支持部が形成される場合(例えば、ストライプ状のパターン110が形成される場合)と同等に、蓋材接合状態においてマイクロ流路基材700(隔壁層71)とカバー層12との接触面積を確保し、接合安定性を向上することができる。
なお、蓋材支持部が一つである場合、蓋材支持部の平面視の形状(表面11a形状)は、特に限定されず、多角形形状でも円形状でもよいし、文字やキャラクター形状でもよい。
【0100】
(2.2.3)隔壁層の開口領域の構成
ここで、本実施形態に係るマイクロ流路チップ7を構成するマイクロ流路基材700の基板70上における隔壁層71の開口領域に関する構成について、
図8を参照しつつから
図9を用いて詳細に説明する。
以下では、マイクロ流路基材700における流路部73の寸法および流路部73を形成した隔壁層71における開口面積率について説明する。
上述のように、マイクロ流路基材は、流路パターン構造が複雑化しており壁部における開口領域が増大傾向にあり、これによりマイクロ流路チップを構成する部材同士(例えば、マイクロ流路基材の壁部と、蓋材)を接合する際の接合安定性が低減する場合がある。接合安定性が低減すると、例えばマイクロ流路チップ7の作製時において蓋材とマイクロ流路基材(特に壁部)とを接合する際等に、マイクロ流路チップ7を構成する各部材(本例では、マイクロ流路基材の基板および壁部と、蓋材)の破損や反りの発生等の不具合が生じ得る。
【0101】
例えば、壁部の開口領域が増大して接合安定性が低減すると、加圧に対する壁部の耐性が低減し、壁部と蓋材とを接合する際に壁部が破損し、さらに蓋材、基板にも破損が及ぶ場合がある。一方で、壁部の開口領域が過度に減少し、マイクロ流路基材の壁部と蓋材との接触面積が増大し過ぎた場合、熱圧着法による接合時の加熱による部材の膨張、およびその後の収縮で生じた変形に起因して部材が破損してしまうおそれがある。特に、壁部と蓋材とが異種材料で構成されたマイクロ流路チップの場合、各材料の熱膨張係数が異なることから、熱圧着時の加熱による膨張およびその後の収縮の差により、部材に破損、反りが生じ易い。
【0102】
また基板、壁部および蓋材といった部材に破損が生じると、各部材で形成されたマイクロ流路チップの通液時において、液漏れが発生する場合がある。したがって、マイクロ流路チップの本体を構成するマイクロ流路基材(壁部、基板)では、部材同士を熱圧着で接合する場合には、壁部と蓋材との接合時において加圧への耐性低減および加熱による部材(基板、壁部、蓋材)の変形を抑制して接合安定性を向上することが求められる。
本実施形態に係るマイクロ流路基材700は、以下に示すように、隔壁層71における開口部である流路部73の寸法および隔壁層71の開口面積率が特定の条件を満たす構成となっている。さらに、マイクロ流路基材700は、上述のように隔壁層71によって形成された蓋材支持部111を備えている。これにより、加圧に対するマイクロ流路基材(特に壁部)の耐性を向上し、部材(基板、壁部、蓋材)に破損、反りが発生することを抑制して通液時の液漏れが発生しないマイクロ流路チップを形成可能なマイクロ流路基材を提供することができる。
【0103】
マイクロ流路チップ7において流路部73は、開口部として基板流路領域291上の隔壁層71(具体的には、表面71a)に形成される。
図9(a)に示すように、隔壁層71の表面71aに形成された開口部である流路部73において、流路部73の底部を構成する基板70(表面70a)が露出している。なお本開示の構成はこれに限られず、流路部13の底部において基板10が露出しない構成(例えば、流路部73の底部が隔壁層11や別部材に覆われている構成)であってもよい。また、入力部40、出力部50は、上記第一実施形態に係るマイクロ流路基材100と同等の構成であるため、同一符号を付して説明は省略する。
【0104】
本実施形態に係るマイクロ流路基材700おいて、複数の流路部73を有する流路群は、入力部40および出力部50と、流路部73とを含めた構成としてもよい。これにより、流路群は流体を導入・排出する領域も含めた構成とすることができる。
【0105】
流路部73が形成されたマイクロ流路基材700の隔壁層71に対してカバー層12が接合されることで、マイクロ流路チップ7における流路部73は、カバー層12とマイクロ流路基材700の基板70および隔壁層11で囲まれ、液漏れを発生させずに流体を送液可能な構成となる。
【0106】
本実施形態に係るマイクロ流路基材700において隔壁層71に形成される流路部73の寸法(幅W、流路長L)は上記第一実施形態に係るマイクロ流路基材100の流路部13の幅W、流路長Lと同等であるため、同一符号を付して詳しい説明は省略する。
【0107】
本実施形態に係るマイクロ流路チップ7の本体、すなわち本実施形態に係るマイクロ流路基材700における流路部73は、マイクロ流路基材100の流路部13と同様に、隔壁層71において開口幅が2000μm(2mm)以下の開口部として形成される。本実施形態において、流路部73の幅Wを2000μm以下とすることにより、蓋材であるカバー層12をマイクロ流路基材700の隔壁層71に接合する際に、隔壁層71における流路部73の近傍領域にかかる圧力が、隔壁層71の他の領域に比べて増大することを抑制できる。つまり、隔壁層71を備えるマイクロ流路基材700とカバー層12とを接合する際の接合安定性を向上することができる。
なお、本実施形態に係るマイクロ流路基材700において、流路部73は、入力部40と出力部50との間において開口幅(幅W)が増減する構成であってもよい。例えば、流路部73は、入力部40と出力部50との中間領域に向かって幅Wが拡大する形状でもよい。したがって、マイクロ流路基材700における流路部73は、開口幅が最も広い領域(隔壁層71の側面11b間の幅が最も広い領域)において、幅Wが2000μm以下であればよい。
【0108】
次に、隔壁層71における開口面積率について説明する。隔壁層71の開口面積率(Ar)は、上記第一実施形態に係るマイクロ流路基材100の隔壁層11の開口面積率(Ar)と同様である。具体的には、隔壁層71の開口面積率(Ar)は、マイクロ流路チップ7、すなわち蓋材接合状態のマイクロ流路基材700において、平面視で隔壁層71を形成した基板70とカバー層12とが重なり合う領域全体の面積(重畳面積SA)に対する、隔壁層71の開口領域の面積(開口面積OA)の割合(Ar(%)=開口面積OA/重畳面積SA)として求められる。
隔壁層11の開口面積率(Ar)の算出時と同様に、蓋材接合状態のマイクロ流路基材700における重畳面積SAには、入力部4、出力部5と基板10とが重なり合う領域の面積は含まれない。また同様に、マイクロ流路基材700の隔壁層71において、カバー層12の入力部4、出力部5に対向する位置に形成された入力部40および出力部50も開口面積OAには含まれない。
【0109】
例えば、
図8(a)、
図8(b)に示すマイクロ流路チップ7の場合、基板70の表面70a全体、すなわち基板流路領域291および基板非流路領域292にカバー層12が重なっている。つまり、マイクロ流路基材700が蓋材接合状態である場合、基板70の表面70a全体にカバー層12が重なっている。このため、本例における重畳面積SAは、基板70の上面の面積から入力部4,出力部5の面積を除いた値となる(重畳面積SA=基板70の表面70aの面積-入力部4,出力部5の面積)。
また、本例のマイクロ流路基材700では、基板70の基板流路領域291において隔壁層71が複数の流路部73(流路群730)を形成している。また、上述のように、基板70上の基板非流路領域292において蓋材支持部111以外の箇所は基板70が露出した開口領域である。このため、本例における開口面積OAは、基板流路領域291上における流路群730(流路部73a~73c)の開口面積OA(=流路部73a~73cの幅W×流路長L)と、基板非流路領域292上の開口面積(=表面70a内の基板非流路領域292の面積-蓋材支持部111における表面71aの面積)の合計である。このため、
図8(a)、
図8(b)に示すマイクロ流路チップ7の開口面積率Ar、すなわち蓋材接合状態である場合のマイクロ流路基材700の開口面積率Arは、以下のようにして算出される。
開口面積率Ar(%)=(流路部73a~73cの開口面積と基板非流路領域292上の開口面積との合計/重畳面積SA)
なおカバー層12は、上記第一実施形態と同様に、マイクロ流路チップ7の蓋材として機能すればよく、用途に合わせて種々の形状に設計することができる。カバー層12は、少なくとも流路部73が形成された基板70の一部、すなわち基板流路領域291を覆うように設計されていればよく、例えば平面視において隔壁層71が形成された基板10全体を覆うように設計することができる。
【0110】
本実施形態に係るマイクロ流路チップ7では、マイクロ流路基材700の隔壁層71とカバー層12との接合方法として、熱圧着が用いられる。熱圧着により隔壁層71とカバー層12とを接合する場合、隔壁層71の加圧への耐性の向上に加え、加熱時の熱膨張係数による隔壁層71およびカバー層12の変形によりカバー層12とマイクロ流路基材700(特に隔壁層71)との接合に不具合(接合不良)が生じることを回避することが必要となる。
【0111】
そこで、本実施形態に係るマイクロ流路基材700において、隔壁層11とカバー層12とが熱圧着により接合(貼合)される(蓋材接合状態となる)場合、隔壁層11は、開口面積率Arが20%以上60%以下の範囲内である。すなわち、マイクロ流路チップ7(蓋材接合状態のマイクロ流路基材700)には、隔壁層71において開口面積率Arが20%以上60%以下となるように、一つ又は複数の流路部73および蓋材支持部111が形成されている。本実施形態に係るマイクロ流路基材700において、蓋材接合状態における隔壁層71の開口面積率Arを当該範囲内とすることにより、マイクロ流路チップ7蓋材であるカバー層12を隔壁層11に接合する際に、隔壁層11における流路部73の近傍領域にかかる圧力が、隔壁層71の他の領域に比べて増大することを抑制できる。さらに、隔壁層71の開口面積率Arを当該範囲内とすることにより、加熱時の熱膨張係数による隔壁層71、カバー層12の変形に起因するマイクロ流路チップ7の各部材(マイクロ流路基材700の基板70、隔壁層71および、カバー層12)の破損および反りの発生を抑制し、さらに当該破損や反りによってカバー層12とマイクロ流路基材(特に隔壁層11)との接合に不具合が生じること(接合不良)を回避することができる。すなわち、隔壁層71の開口面積率Arを当該範囲内とすることにより、マイクロ流路チップ7の作製時におけるマイクロ流路基材(特に壁部)と蓋材との接合時においてマイクロ流路チップ7を構成する部材の加圧への耐性低減および加熱による部材の変形を抑制して接合安定性を向上することができる。
【0112】
また、マイクロ流路基材700は、蓋材接合状態の隔壁層11における開口面積率Arが20%以上60%以下であるという条件に加えて、上述したように流路部73の幅W(開口幅)が2000μm以下であるという条件を満たすことにより、マイクロ流路基材700(特に隔壁層11)とカバー層12との接合安定性がさらに向上し、接合時におけるマイクロ流路基材700(基板10、隔壁層11)およびカバー層12の破損を抑制することができる。
【0113】
つまり、マイクロ流路基材700において、流路部73は隔壁層71において開口幅が2000μm以下の開口部として形成され、隔壁層71は、開口面積率が20%以上60%以下である。これにより、接合安定性(例えばマイクロ流路基材700の隔壁層11における加圧への耐性)が向上して、熱圧着によってカバー層12を接合する際の圧力(加圧)および加熱によって各部材(マイクロ流路基材700の基板10、隔壁層11、およびカバー層12)に破損および反りが発生することを抑制し、通液時の液漏れが発生しないマイクロ流路チップを形成可能なマイクロ流路基材提供することができる。
本実施形態に係るマイクロ流路基材700は、流路部73の開口幅が2000μm以下であり且つ蓋材接合状態における隔壁層71の開口面積率が20%以上60%以下であるという条件を満たしていれば、基板流路領域291上において隔壁層11が一つ又は複数の流路部73を形成することができ、基板非流路領域292上において種々の形状による複数の蓋材支持部111を形成することができる。
【0114】
また、マイクロ流路基材700において、隔壁層71の開口領域以外の面積、すなわち隔壁層71において樹脂が残存している領域(表面71a)の面積(樹脂面積RA)は、上記第一実施形態に係るマイクロ流路基材100の樹脂面積RAと同様に、重畳面積SAと開口面積OAとの差分として算出される(樹脂面積RA=重畳面積SA-開口面積OA)。つまり、マイクロ流路基材700において、樹脂面積RAは、重畳面積SAと開口面積OAとの差分として算出される。したがって、重畳面積SAに対する開口面積OAの割合の残余が樹脂面積率RAr(%)となる。このため、マイクロ流路基材700において、蓋材接合状態における開口面積率が20%のとき樹脂面積率は80%であり、60%のとき樹脂面積率RArは40%である。樹脂面積RAは、蓋材接合状態における隔壁層71とカバー層12との接触面積を示す。つまり、隔壁層71の加圧への耐性を向上して隔壁層71とカバー層12とを接合する際の接合安定性を向上するためには、マイクロ流路基材700の隔壁層11とカバー層12との接触面積である樹脂面積率RArは、40%以上80%以下の範囲内であればよい。つまり、マイクロ流路基材700において、蓋材接合状態における樹脂面積率RArが40%以上80%以下の範囲内となるように、流路部73および蓋材支持部111を形成すればよい。なお、樹脂面積率RArの調整は、蓋材支持部111の形状やサイズを調整することで、容易に制御することができる。
【0115】
(2.3)マイクロ流路チップの製造方法
次に、本実施形態に係るマイクロ流路基材700の製造方法について説明する。本実施形態に係るマイクロ流路基材700の製造方法は、基板10を基板70、隔壁層11を隔壁層71、流路部13を流路部73として読み替えれば、原則として上記第一実施形態に係るマイクロ流路基材100の製造方法(
図4参照)と同等である。このため、詳しい説明は省略する。
以下、マイクロ流路基材100の製造方法と相違する点のみ説明する。
【0116】
マイクロ流路基材700の製造方法では上記ステップS3の露光工程において、流路パターンの描画に加えて、隔壁層71を形成するための感光性樹脂に対し、露光により蓋材支持部111を形成するための溝部(間隙パターン)の描画が実施される。
図8および
図9に示すように、隔壁層71によって形成される複数の蓋材支持部111は、それぞれ間隙を設けて形成されている。つまり、蓋材支持部111は、隔壁層71を形成するための感光性樹脂に蓋材支持部111を画定するための間隙パターンを描画することで、
図8、
図9に示す形状(本例では、ストライプ状のパターン)に形成される。これにより、隔壁層71の一部として形成樹脂構造物である複数の蓋材支持部111を形成することができる。
【0117】
また、マイクロ流路基材700の製造方法では上記ステップS4の露光工程において、露光した感光性樹脂に対して現像を行い、流路パターンに加えて蓋材支持部111を画定する間隙パターンを形成する工程を行う。その後、上記ステップS5の洗浄により現像液を完全に除去し、上記ステップS6において流路パターン、すなわち流路部73および蓋材支持部111を形成する隔壁層71に対して加熱処理(ポストベーク)する工程を行う。これにより、フォトリソグラフィーを用いて基板70上に流路部73および蓋材支持部111を構成する隔壁層71を形成し、マイクロ流路基材700を作製することができる。
また、マイクロ流路基材700の作製後、つまり上記ステップS6のポストベーク処理後に、マイクロ流路基材700の隔壁層71にカバー層12を接合する工程を行うことで、マイクロ流路チップ7を作製することができる。本実施形態では、熱圧着により隔壁層71にカバー層12を接合する。
カバー層12の接合工程については、上記第一実施形態と同様であるため、説明は省略する。
【0118】
また、マイクロ流路チップ7の作製時には、カバー層12において平面視で流路部73に重ならない領域、すなわち流路部73と対向していない領域において、シールの貼付やインクジェットプリンタによる所定情報(例えばマイクロ流路チップの識別番号等)の印字が行われる場合がある。マイクロ流路チップ7では、上述のように接合安定性が向上されているため、隔壁層71に接合後のカバー層12へのシールの貼付や印字の際の加圧による各部材(基板10、隔壁層71およびカバー層12)の破損や反りの発生も抑制することができる。
【0119】
以上説明したように、本実施形態に係るマイクロ流路基材700の製造方法は、基板70上に、樹脂を塗工する工程(上記ステップS1)と、塗工した樹脂を露光する工程(上記ステップS3)と、露光した樹脂を現像及び洗浄し基板70上に隔壁層71を形成する工程(上記ステップS4および上記ステップS5)と、隔壁層71をポストベーク処理する工程(上記ステップS6)と、を含んでいる。さらに、隔壁層71を形成する現像工程(上記ステップS4)において基板70上の余分な樹脂(感光性樹脂層)を除去することにより、基板70上に流路部73および蓋材接合状態においてカバー層12を支持する蓋材支持部111を形成し、且つ流路部73となる開口幅が2000μm以下の開口部(流路パターン)を隔壁層11に形成し、熱圧着により隔壁層71とカバー層12とを接合して蓋材接合状態とする場合において、隔壁層71の開口面積率を20%以上60%以下とする。
これにより、マイクロ流路基材700の隔壁層71における加圧への耐性低減および加熱時の熱膨張係数による隔壁層71およびカバー層12の変形が抑制されて接合安定性が向上し、マイクロ流路基材700(特に隔壁層71)とカバー層12との接合時の加圧および加熱によってマイクロ流路チップ7の各部材(基板70、隔壁層71およびカバー層12)に破損および反りが発生することが抑制され、通液時の液漏れが発生しないマイクロ流路チップ7を形成可能なマイクロ流路基材700を作製することができる。
【0120】
上述のように、本実施形態に係るマイクロ流路チップ7の製造方法、つまりマイクロ流路基材700とカバー層12との接合する場合において、隔壁層71とカバー層12との接合工程には、隔壁層71とカバー層12とを隙間なく接合するように圧力を加える工程、および隔壁層71とカバー層12とを加熱する工程が含まれる。つまり本実施形態に係るマイクロ流路基材700の製造方法では、隔壁層71が基板70上に流路部73および蓋材接合状態においてカバー層12を支持する蓋材支持部111を形成し、流路部73は開口幅が2000μm以下であり、隔壁層11の開口面積率は20%以上60%以下である。このため、マイクロ流路基材700(特に隔壁層71)の加圧および加熱への耐性が向上し、マイクロ流路チップ1の作製時において複数部材(本例では、マイクロ流路基材700の基板70、隔壁層71および、カバー層12)の接合工程における接合安定性(マイクロ流路基材700(基板、壁部)における加圧への耐性)が向上する。このため、接合時の加圧および加熱によってマイクロ流路チップ7の各部材(基板70、隔壁層71およびカバー層12)に破損および反りが発生することを抑制し、通液時の液漏れが発生しないマイクロ流路チップを形成可能なマイクロ流路基材を提供することができる。また、接合安定性の向上により、マイクロ流路チップ7の作製時には加圧および加熱による破損を防ぐために低圧力、低温での接合を行う必要がない。したがって、本実施形態に係るマイクロ流路基材700によれば、低圧力および低温での接合に起因して部材同士の接合が不十分となるような不具合(接合不良)の発生を抑制することが可能なマイクロ流路基材を提供することができる。
(2.4)変形例
(2.4.1)第一変形例
以下、本実施形態の変形例に係るマイクロ流路基材について、
図10から
図13を用いて説明する。
図10は、本実施形態の変形例に係るマイクロ流路基材701の一構成例を説明するための平面概略図である。
マイクロ流路基材701は、マイクロ流路チップ1と同様に、基板70と、基板70上に複数の流路部73(流路部73a~73c)を有する流路群730を形成する隔壁層71と、を備えている。
【0121】
図10に示すように、マイクロ流路基材701は、基板非流路領域292上において、隔壁層71により蓋材支持部112が形成されている点で、マイクロ流路基材700と相違している。以下、蓋材支持部112について説明する。
【0122】
図10に示すように、本例において蓋材支持部112は、平面視で円形状を有する樹脂構造体である。より具体的には、本例において基板非流路領域292上には、複数の蓋材支持部112が15個(=3列×5行)整列して配置されている。つまり、基板70の基板非流路領域292上において、複数の蓋材支持部112がドット状(点状)のパターン120を形成している。蓋材支持部112がドット状(点状)のパターン120を形成することにより、隔壁層71とカバー層12との接触面積の調整が容易であり、隔壁層71の開口面積率Arを適切に制御することができる。また、ドット状(点状)のパターン120は、設計により、複数の蓋材支持部112のそれぞれを基板非流路領域292内の任意の位置に配置可能である。このため、マイクロ流路基材701を用いたマイクロ流路チップの使用目的、隔壁層71およびマイクロ流路チップのカバー層12の材料等に合わせて、蓋材支持部112を柔軟に配置することができる。
蓋材支持部112は、マイクロ流路基材700の蓋材支持部111と同様に、露光工程(上記ステップS3)、現像工程(上記ステップS4)においてドット状(点状)のパターン120に応じた間隙パターンを形成することで、隔壁層71の一部として形成することができる。
【0123】
なお、本開示はこれに限られず、ドット状のパターン120を形成する複数の蓋材支持部112は、基板非流路領域292上において少なくとも2つ以上配置されていればよい。このとき蓋材支持部112は、基板非流路領域292において少なくとも基板70の角部に相当する領域(
図10に示すドット状のパターン120のうち、3列目の上から1番目、5番目の蓋材支持部112の領域)に配置されていればよい。また、ドット状のパターン120を形成する複数の蓋材支持部112は、平面形状が円形でなくてもよい。例えば、蓋材支持部112の平面形状は、多角形状でもよい。つまり、蓋材支持部112は、隔壁層71の一部で形成された平面視で多角形状または円形状を有する樹脂構造体であり、基板非流路領域292上には、複数の当該樹脂構造体が点状に配置されてもよい。またこの場合、多角形状には、L字型を含んでもよい。蓋材支持部112の平面形状が、L字型の場合、L字の屈曲部分が基板非流路領域292の角部に沿うように配置してもよい。
【0124】
また、
図11に示すマイクロ流路基材702のように、基板非流路領域292上において、隔壁層71によりカバー層12を支持する蓋材支持部113を形成してもよい。
図11に示すように、本例において蓋材支持部113は、平面視で文字形状を有する樹脂構造体である。より具体的には、本例において基板非流路領域292上には、文字形状の複数の蓋材支持部113が9個連続して、線状に配置されている。つまり、基板70の基板非流路領域292上において、複数の蓋材支持部113が文字列パターン131を形成している。蓋材支持部113が文字列パターン131を形成することにより、隔壁層71とカバー層12との接触面積を確保しつつ、基板非流路領域292上においてマイクロ流路基材702を用いたマイクロ流路チップに係る種々の情報(例えば、識別番号や製品名等)を表示することができる。
蓋材支持部113は、マイクロ流路基材700の蓋材支持部111と同様に、露光工程(上記ステップS3)、現像工程(上記ステップS4)において文字列パターン131に応じた間隙パターンを形成することで、隔壁層71の一部として形成することができる。
【0125】
なお、本開示はこれに限られず、文字列パターン131を形成する複数の蓋材支持部113は、基板非流路領域292上において少なくとも2つ以上設けられていればよい。また、文字列パターン131を構成する蓋材支持部113は、アルファベット、数字、カタカナ、ひたがな、漢字等いずれの文字であってもよく、また記号を含んでもよい。また、蓋材支持部113は、文字形状に限らず、所定の模様(幾何学模様、木目模様、和柄等)を含んでもよいし、動物や人のキャラクター等、種々の形状等を含んでもよい。
【0126】
また、
図12に示すマイクロ流路基材703のように、基板非流路領域292が複数形成されていてもよい。この場合、複数の基板非流路領域292の間に基板流路領域291を配置してもよい。
図12では、基板非流路領域292を2つの領域(基板非流路領域292a,292b)に分割し、基板非流路領域292a,292bの間に基板流路領域291を設けている。本例では、基板70はマイクロ流路基材700,701,702と同様に四角形状であり、2つの基板非流路領域292は、基板70の4つの角部を含んで形成されている。
【0127】
また、マイクロ流路基材703における蓋材支持部114は、基板非流路領域292a,292bにそれぞれ含まれる基板の4つの角部に形成されている。より具体的には、蓋材支持部114は、
図10に示す蓋材支持部112と同様に、平面形状が円形形状であって、4つの角部に点状に配置されている。つまり、基板70の基板非流路領域292上において、複数の蓋材支持部114が局所点在パターン140を形成している。
なお、本開示はこれに限られず、蓋材支持部114は基板非流路領域292a,292bに含まれる基板70の4つの角部のうち、2以上の角部に形成されていればよい。これにより、マイクロ流路チップ103では、接合安定性が低減し易い基板70の角部上に局所的に蓋材支持部114を配置して、隔壁層71とカバー層12との接合面積を確保し、接合安定性を向上させることができる。また、蓋材支持部114を局所点在パターン140で配置することにより、蓋材支持部114を多数配置することなく、効果的に接合安定性を向上させることができる。
【0128】
また本開示はこれに限られず、蓋材支持部114は、蓋材支持部112と同様に、L字型を含めた多角形状でもよい。また、蓋材支持部114は文字形状でもよい。
【0129】
また、
図13に示すマイクロ流路基材704のように、基板非流路領域292が基板流路領域291を囲むように設けられていてもよい。つまり、基板非流路領域292が基板70の表面70aにおける周縁部に形成され、基板流路領域291が表面70aの中央領域に形成されていてもよい。
【0130】
またマイクロ流路基材704における蓋材支持部115は、基板非流路領域292において基板70の表面70aの内周を囲むように配置されている。より具体的には、蓋材支持部115は、
図8(a)および
図9(a)に示す蓋材支持部111と同様に、平面形状が長方形状であって、基板70の表面70aの四辺に沿って配置されている。つまり、基板70の基板非流路領域292上において、複数の蓋材支持部115が枠状パターン150を形成している。これにより、マイクロ流路基材704では、接合不良が発生し易い基板70の周縁部に蓋材支持部115を配置して、蓋材接合状態において隔壁層71とカバー層12との接合面積を確保し、接合安定性を向上させることができる。
【0131】
(2.4.2)第二変形例
以下、本開示の第二変形例に係るマイクロ流路基材710について、
図14を用いて説明する。
図14(a)は、本実施形態の第二変形例に係るマイクロ流路基材710の一構成例を説明する平面概略図であり、
図14(b)は、本実施形態の第二変形例に係るマイクロ流路基材710の一構成例を説明するための断面図である。
【0132】
図14(a)および
図14(b)に示すように、マイクロ流路チップ2は、基板70と、基板70上に配置された密着層15と、基板70上に複数の流路部73a~73cおよび蓋材支持部111を有する流路群730を形成する隔壁層71と、カバー層12と、を備えている。具体的には、マイクロ流路基材710において、隔壁層71と基板70との間に密着層15を備えている。具体的には、マイクロ流路基材710は、隔壁層71と基板10との間に密着層15を備えている。密着層15を備える点で、マイクロ流路基材710は、上記第一実施形態に係るマイクロ流路基材700と相違する。
マイクロ流路基材710における密着層15は、上記第一実施形態に係るマイクロ流路基材200の密着層15と同等の構成であるため、同一の符号を付して詳しい説明は省略する。
【0133】
基板70上に密着層15を設けることで、感光性樹脂による流路パターンの解像性向上などへも寄与することができる。
上述のように、密着層15は基板70上に形成される。このため
図14(a)、
図14(b)に示すように、本実施形態に係るマイクロ流路基材においては、流路部73の底部は密着層15で形成され、流路部73において、流路部73の底部を構成する密着層15(具体的には、密着層15の表面15a)が露出している。
【0134】
<実施例>
以下に本開示の実施例について具体的に説明するが、本開示はこれに限定されるものではない。
【0135】
(第1実施例)
第一実施例は、本開示の第一実施形態に係るマイクロ流路基材に関する実施例である。なお、本第一実施例は、実施例1-1から1-9および比較例1-1から1-5による「第一実施例(1)」と、実施例1-11から1-19および比較例1-11から1-15による「第一実施例(2)」とで構成される。
【0136】
<第1実施例(1)>
[マイクロ流路基材の作製]
<実施例1-1>
本発明者は、
図2に示した通り、基板上に隔壁層を形成し、隔壁層とカバー層とを接合してマイクロ流路基材を製造した。
【0137】
第1実施例(1)における実施例1-1に係るマイクロ流路基材100の製造方法について説明する。まず基板としてガラスを用いた。
【0138】
ガラス基板上へ透明体の感光性樹脂を塗工して、感光性樹脂層を形成した。感光性樹脂にアクリル系感光性樹脂を使用した。感光性樹脂は、スピンコーターにて回転数1100rpm、30秒でガラス基板上に塗工した。膜厚は50μmになるように回転数、時間を調整した。次に、ホットプレート上にて感光性樹脂内に含まれる残留溶媒を除去する目的で加熱処理(プリベーク)を行った。プリベークは、温度90℃で20分実施した。
次に、ガラス基板上の感光性樹脂層を露光して流路パターンを描画した。具体的には、マイクロ流路のパターン配列を有するフォトマスクを介して、感光性樹脂へパターン露光した。フォトマスクはクロム及び酸化クロムの二層構造を遮光膜とするフォトマスクを使用した。また、露光にはプロキシミティ露光装置を用いた。露光装置は高圧水銀灯を光源とし、i線フィルタのカットフィルタを入れて露光した。露光量は170mJ/cm2とした。
【0139】
次に、露光した感光性樹脂層に対して現像を行い、流路パターンを形成する隔壁層とした。具体的には、アルカリ現像液(TMAH2.38%)を用いて感光性樹脂層を60秒間現像することにより、未露光部分を溶解し、流路構造をパターニングした。
続いて、超純水によるシャワー洗浄を行い、基板上の感光性樹脂層から現像液を除去し、スピンドライヤにて乾燥を行った。
次に、流路パターンをオーブンで100℃、10分、加熱処理(ポストベーク)した。
上記現像工程では、ポストベーク(残存水分の除去)後の隔壁層において、流路部の開口幅(流路幅)が10μm、流路長がとなり、蓋材接合状態において隔壁層の開口面積率Arが10%となるように流路構造を形成(パターンニング)した。すなわち、現像における、開口幅が10μmの流路部を有し、隔壁層の開口面積率Arが10%となる隔壁層を形成した。これにより、実施例1-1によるマイクロ流路基材を得た。
【0140】
[マイクロ流路チップの作製]
次に、流路部を形成した隔壁層を有するマイクロ流路基材と別途作製したカバー層との接合面に対して表面改質処理を施した上で、マイクロ流路基材の隔壁層とカバー層とを以下の条件で圧着(室温圧着)により接合した。
〔圧着条件〕
接着剤:アクリル系接着剤(3M社製、型番9969)
使用装置:ゴムローラー
圧力:3N/cm
2
温度:25℃(室温)
プレス時間:3秒
また、カバー層は予め流路の入出口の孔を開けた厚さが5mmのポリカーボネートを使用した。
これにより、
図1に示した通り本実施例によるマイクロ流路基材を用いたマイクロ流路チップを得た。
【0141】
<実施例1-2>
ガラス基板上に形成した隔壁層に、現像により、流路部の開口幅が500μmとなるように流路構造を形成した。それ以外は実施例1-1と同様にして、実施例1-2に係るマイクロ流路基材を用いたマイクロ流路チップを得た。
<実施例1-3>
ガラス基板上に形成した隔壁層に、現像により、流路部の開口幅が2000μmとなるように流路構造を形成した。それ以外は実施例1-1と同様にして、実施例1-3に係るマイクロ流路基材を用いたマイクロ流路チップを得た。
<実施例1-4>
現像により、ガラス基板上に形成した隔壁層において蓋材接合状態における開口面積率が30%となるように流路構造を形成した。それ以外は実施例1-1と同様にして実施例1-4に係るマイクロ流路基材を用いたマイクロ流路チップを得た。
<実施例1-5>
ガラス基板上に形成した隔壁層に、現像により、流路部の開口幅が500μmとなるように流路構造を形成した。それ以外は実施例1-4と同様にして、実施例1-5に係るマイクロ流路基材を用いたマイクロ流路チップを得た。
<実施例1-6>
ガラス基板上に形成した隔壁層に、現像により、流路部の開口幅が2000μmとなるように流路構造を形成した。それ以外は実施例1-4と同様にして、実施例1-6に係るマイクロ流路基材を用いたマイクロ流路チップを得た。
<実施例1-7>
現像により、ガラス基板上に形成した隔壁層において蓋材接合状態における開口面積率が60%となるように流路構造を形成した。それ以外は実施例1-1と同様にして実施例1-7に係るマイクロ流路基材を用いたマイクロ流路チップを得た。
<実施例1-8>
ガラス基板上に形成した隔壁層に、現像により、流路部の開口幅が500μmとなるように流路構造を形成した。それ以外は実施例1-7と同様にして、実施例1-8に係るマイクロ流路基材を用いたマイクロ流路チップを得た。
<実施例1-9>
ガラス基板上に形成した隔壁層に、現像により、流路部の開口幅が2000μmとなるように流路構造を形成した。それ以外は実施例7と同様にして、実施例1-9に係るマイクロ流路基材を用いたマイクロ流路チップを得た。
【0142】
<比較例1-1>
現像により、ガラス基板上に形成した隔壁層において蓋材接合状態における開口面積率が70%となるように流路構造を形成した。それ以外は実施例1-1と同様にして比較例1-1に係るマイクロ流路基材を用いたマイクロ流路チップを得た。
<比較例1-2>
ガラス基板上に形成した隔壁層に、現像により、流路部の開口幅が500μmとなるように流路構造を形成した。それ以外は比較例1-1と同様にして、比較例1-2に係るマイクロ流路基材を用いたマイクロ流路チップを得た。
<比較例1-3>
ガラス基板上に形成した隔壁層に、現像により、流路部の開口幅が2000μmとなるように流路構造を形成した。それ以外は比較例1-1と同様にして、比較例1-3に係るマイクロ流路基材を用いたマイクロ流路チップを得た。
<比較例1-4>
ガラス基板上に形成した隔壁層に、現像により、流路部の開口幅が3000μmとなり、蓋材接合状態において隔壁層の開口面積率が30%となるように流路構造を形成した。それ以外は実施例1-1と同様にして、比較例1-4に係るマイクロ流路基材を用いたマイクロ流路チップを得た。
<比較例1-5>
現像により、ガラス基板上に形成した隔壁層において、流路部の開口幅が3000μmとなり、蓋材接合状態において隔壁層の開口面積率が70%となるように流路構造を形成した。それ以外は実施例1-1と同様にして比較例1-5に係るマイクロ流路基材を用いたマイクロ流路チップを得た。
【0143】
[評価方法]
実施例1-1から実施例1-9および比較例1-1から比較例1-5に記載のマイクロ流路基材を用いたマイクロ流路チップにおいて、カバー層の接合後に以下の方法により、接合時の破損、液漏れの有無の評価を行った。
【0144】
(破損の有無)
実施例1-1から実施例1-9および比較例1-1から比較例1-5のマイクロ流路基材を用いたマイクロ流路チップに対し、目視で破損の有無を確認した。目視で破損が確認されない場合を「〇(合格)」、目視で破損が確認された場合を「×(不合格)」とした。
【0145】
(液漏れの有無)
実施例1-1から実施例1-9および比較例1-1から比較例1-5のマイクロ流路基材を用いたマイクロ流路チップに対し、着色した反応溶液10μLの量をピペットにて採取し、カバー層の入力口流路により導入し、その送液の様子を顕微鏡にて観察した。
観察結果に基づいて、以下の基準により「〇」、「×」の2段階でマイクロ流路チップの液漏れ状態について評価した。
<評価基準>
〇:隔壁層とカバー層との接合箇所において流路内からの液漏れが観察されなかった
×:隔壁層とカバー層との接合箇所において流路内からの液漏れが観察された
【0146】
第1実施例(1)における各実施例および各比較例の評価結果を、マイクロ流路基材の隔壁層における蓋材接合状態での開口面積率、流路の開口幅、流路長、カバー層との圧着温度とともに表1に示す。
【0147】
【0148】
実施例1-1から実施例1-9のマイクロ流路基材を用いたマイクロ流路チップは、接合後に破損しておらず、通液後の液漏れがないことを確認した。一方、比較例1-1から比較例1-5のマイクロ流路基材を用いたマイクロ流路チップは、接合後に破損が生じており、さらに通液後に液漏れを確認した。
【0149】
以上の結果から、本実施例のマイクロ流路基材は、蓋材接状態における壁部の開口面積率および壁部に形成された開口部の寸法(例えば、流路の開口幅)が特定条件を満たすように制御することにより、マイクロ流路基材(ここでは、壁部)と蓋材とを接合する際の接合安定性が向上して、隔壁層と蓋材とを接合する際の圧力によるマイクロ流路チップの各部材(基板、壁部および蓋材)の破損が抑制され、通液時に液漏れが発生しないマイクロ流路チップを形成可能であることが確認できた。
具体的には、実施例1-1から実施例1-9に係るマイクロ流路基材のように、隔壁層により流路部を開口幅が2000μm以下の開口部として形成し、蓋材接合状態における隔壁層の開口面積率が60%以下であることにより、マイクロ流路チップ基材(特に隔壁層)とカバー層とを接合する際の圧力による部材の破損を抑制し、通液時の液漏れが発生しないマイクロ流路チップを形成可能であることが確認された。
<第1実施例(2)>
<実施例1-11>
現像により、ガラス基板上に形成した隔壁層において開口面積率が20%となるように流路構造を形成した。
さらに、流路部を形成した隔壁層と別途作製したカバー層との接合面に対して表面改質処理を施した上で、隔壁層とカバー層とを以下の条件で圧着(熱圧着)により接合した。
〔圧着条件〕
使用装置:熱プレス機
圧力:2MPa
温度:50℃
プレス時間:5min
それ以外は実施例1-1と同様の方法で、実施例1-11のマイクロ流路チップを作製した。
【0150】
<実施例1-12>
ガラス基板上に形成した隔壁層に、現像により、流路部の開口幅が500μmとなるように流路構造を形成した。それ以外は実施例1-11と同様にして、実施例1-12に係るマイクロ流路チップを得た。
<実施例1-13>
ガラス基板上に形成した隔壁層に、現像により、流路部の開口幅が2000μmとなるように流路構造を形成した。それ以外は実施例1-11と同様にして、実施例1-13に係るマイクロ流路チップを得た。
<実施例1-14>
現像により、ガラス基板上に形成した隔壁層において開口面積率が30%となるように流路構造を形成した。それ以外は実施例1-11と同様にして実施例1-14に係るマイクロ流路チップを得た。
<実施例1-15>
ガラス基板上に形成した隔壁層に、現像により、流路部の開口幅が500μmとなるように流路構造を形成した。それ以外は実施例1-14と同様にして、実施例1-15に係るマイクロ流路チップを得た。
<実施例1-16>
ガラス基板上に形成した隔壁層に、現像により、流路部の開口幅が2000μmとなるように流路構造を形成した。それ以外は実施例1-14と同様にして、実施例1-16に係るマイクロ流路チップを得た。
<実施例1-17>
現像により、ガラス基板上に形成した隔壁層において開口面積率が60%となるように流路構造を形成した。それ以外は実施例1-11と同様にして実施例1-17に係るマイクロ流路チップを得た。
<実施例1-18>
ガラス基板上に形成した隔壁層に、現像により、流路部の開口幅が500μmとなるように流路構造を形成した。それ以外は実施例1-17と同様にして、実施例1-18に係るマイクロ流路チップを得た。
<実施例1-19>
ガラス基板上に形成した隔壁層に、現像により、流路部の開口幅が2000μmとなるように流路構造を形成した。それ以外は実施例1-17と同様にして、実施例1-19に係るマイクロ流路チップを得た。
【0151】
<比較例1-11>
現像により、ガラス基板上に形成した隔壁層において開口面積率が70%となるように流路構造を形成した。それ以外は実施例1-11と同様にして比較例1-11に係るマイクロ流路チップを得た。
<比較例1-12>
ガラス基板上に形成した隔壁層に、現像により、流路部の開口幅が500μmとなるように流路構造を形成した。それ以外は比較例1-11と同様にして、比較例1-12に係るマイクロ流路チップを得た。
<比較例1-13>
ガラス基板上に形成した隔壁層に、現像により、流路部の開口幅が2000μmとなるように流路構造を形成した。それ以外は比較例1-11と同様にして、比較例1-13に係るマイクロ流路チップを得た。
<比較例1-14>
ガラス基板上に形成した隔壁層に、現像により、流路部の開口幅が3000μmとなり、隔壁層の開口面積率が30%となるように流路構造を形成した。それ以外は実施例1-11と同様にして、比較例1-14に係るマイクロ流路チップを得た。
<比較例1-15>
現像により、ガラス基板上に形成した隔壁層において、流路部の開口幅が3000μmとなり、隔壁層の開口面積率が70%となるように流路構造を形成した。それ以外は実施例1-11と同様にして比較例1-15に係るマイクロ流路チップを得た。
【0152】
[評価方法]
実施例1-11から実施例1-19および比較例1-11から比較例1-15に記載のマイクロ流路チップにおいて、カバー層の接合後に以下の方法により、接合時の破損および反りの発生有無、液漏れの有無の評価を行った。
【0153】
(破損および反りの有無)
実施例1-11から実施例1-19および比較例1-11から比較例1-15のマイクロ流路基材を用いたマイクロ流路チップに対し、目視で破損および反りの有無を確認した。目視で破損および反りがいずれも確認されない場合を「〇(合格)」、目視で破損又は反りの少なくとも一方が確認された場合を「×(不合格)」とした。
【0154】
(液漏れの有無)
実施例1-11から実施例1-19および比較例1-11から比較例1-15のマイクロ流路チップに対し、着色した反応溶液10μLの量をピペットにて採取し、カバー層の入力口流路により導入し、その送液の様子を顕微鏡にて観察した。
観察結果に基づいて、以下の基準により「〇」、「×」の2段階でマイクロ流路チップの液漏れ状態について評価した。
<評価基準>
〇:隔壁層とカバー層との接合箇所において流路内からの液漏れが観察されなかった
×:隔壁層とカバー層との接合箇所において流路内からの液漏れが観察された
なお、マイクロ流路チップの破損により通液が実施できないものは「-」で表記した。
【0155】
第1実施例(2)における各実施例および各比較例の評価結果を、マイクロ流路基材の隔壁層における蓋材接合状態での開口面積率、流路の開口幅、流路長、カバー層との圧着温度とともに表2に示す。
【0156】
【0157】
実施例1-11から実施例1-19のマイクロ流路基材を用いたマイクロ流路チップは、接合後に破損および反りがいずれも生じておらず、通液後の液漏れがないことを確認した。一方、比較例1-11から比較例1-15のマイクロ流路基材を用いたマイクロ流路チップは、接合後に破損または反りが生じており、さらに通液後に液漏れを確認した。
【0158】
以上の結果から、本実施例のマイクロ流路基材は、蓋材接状態における壁部の開口面積率および壁部に形成された開口部の寸法(例えば、流路の開口幅)が特定条件を満たすように制御することにより、マイクロ流路チップを構成する部材同士(ここでは、マイクロ流路基材の壁部、および蓋材)を接合する際の接合安定性が向上して、マイクロ流路基材(特に隔壁層)とカバー層とを接合する際の圧力および加熱によるマイクロ流路チップの各部材(基板、壁部および蓋材)の破損が抑制されることに加えて反りも抑制され、通液時に液漏れが発生しないマイクロ流路チップを形成可能であることが確認できた。
具体的には、実施例1-11から実施例1-19に係るマイクロ流路基材は、蓋材接合状態である隔壁層において流路部を開口幅が2000μm以下の開口部として形成し、隔壁層の開口面積率が20%以上60%以下であることにより、マイクロ流路基材(特に隔壁層)とカバー層とを熱圧着によって接合する際の圧力および加熱によって部材に破損および反りが発生する事抑制し、通液時の液漏れが発生しないマイクロ流路チップを形成可能であることが確認された。
【0159】
なお、本開示のマイクロ流路チップ及びマイクロ流路チップの製造方法は、上記の実施形態及び実施例に限定されるものではなく、発明の特徴を損なわない範囲において種々の変更が可能である。
【0160】
<第2実施例>
[マイクロ流路基材の作製]
<実施例2-1>
本発明者は、
図9に示した通り、基板上に隔壁層を形成し、隔壁層とカバー層とを接合してマイクロ流路基材を製造した。
【0161】
実施例2-1に係るマイクロ流路基材の製造方法について説明する。まず基板としてガラスを用いた。
【0162】
ガラス基板上へ透明体の感光性樹脂を塗工して、感光性樹脂層を形成した。感光性樹脂にアクリル系感光性樹脂を使用した。感光性樹脂は、スピンコーターにて回転数1100rpm、30秒でガラス基板上に塗工した。膜厚は50μmになるように回転数、時間を調整した。次に、ホットプレート上にて感光性樹脂内に含まれる残留溶媒を除去する目的で加熱処理(プリベーク)を行った。プリベークは、温度90℃で20分実施した。
次に、ガラス基板上の感光性樹脂層を露光して流路パターンおよび蓋材支持部を形成するための間隙パターンを描画した。具体的には、マイクロ流路のパターン配列を有するフォトマスクおよび蓋材支持部の間隙パターン配列を有するフォトマスクを介して、感光性樹脂へパターン露光した。フォトマスクはクロム及び酸化クロムの二層構造を遮光膜とするフォトマスクを使用した。また、露光にはプロキシミティ露光装置を用いた。露光装置は高圧水銀灯を光源とし、i線フィルタのカットフィルタを入れて露光した。露光量は170mJ/cm2とした。
【0163】
次に、露光した感光性樹脂層に対して現像を行い、流路パターンおよび蓋材支持部を形成するための間隙パターンを形成する隔壁層とした。具体的には、アルカリ現像液(TMAH2.38%)を用いて感光性樹脂層を60秒間現像することにより、未露光部分を溶解し、流路構造をパターニングした。
続いて、超純水によるシャワー洗浄を行い、基板上の感光性樹脂層から現像液を除去し、スピンドライヤにて乾燥を行った。
次に、流路パターンおよび蓋材支持部を形成するための間隙パターンを形成するマイクロ流路チップ用部材(基板および隔壁層)をオーブンで100℃、10分、加熱処理(ポストベーク)した。
上記現像工程では、ポストベーク(残存水分の除去)後の隔壁層において、流路部の開口幅(流路幅)が10μm、流路長が500mmとなり、蓋材接合状態において隔壁層の開口面積率Arが20%となるように流路構造および蓋材支持部を形成(パターンニング)した。蓋材支持部は、
図7に示すように、平面形状が円形状であり、基板10上の4つの角部にそれぞれ配置する局所点在パターン(
図7参照)として形成した。各蓋材支持部の基板と反対側の面(円形状の面)は直径を500μmとした。これにより、実施例2-1によるマイクロ流路基材を得た。
【0164】
[マイクロ流路チップの作製]
次に、流路部を形成した隔壁層を有するマイクロ流路基材と別途作製したカバー層との接合面に対して表面改質処理を施した上で、60℃に加熱しながらマイクロ流路基材の隔壁層とカバー層とを熱圧着により接合した。カバー層は予め流路の入出口の孔を開けた厚さが5mmのポリカーボネートを使用した。これにより、
図8に示した通り本実施例によるマイクロ流路基材を用いたマイクロ流路チップを得た。
【0165】
<実施例2-2>
ガラス基板上に形成した隔壁層に、現像により、流路部の開口幅が500μmとなるように流路構造を形成した。それ以外は実施例2-1と同様にして、実施例2-2に係るマイクロ流路基材を用いたマイクロ流路チップを得た。
<実施例2-3>
ガラス基板上に形成した隔壁層に、現像により、流路部の開口幅が2000μmとなるように流路構造を形成した。それ以外は実施例2-1と同様にして、実施例2-3に係るマイクロ流路基材を用いたマイクロ流路チップを得た。
<実施例2-4>
蓋材支持部は、平面形状が長方形状であり、基板10上の4辺に配置する枠状のパターン(
図8参照)として形成した。各蓋材支持部のサイズ(基板と反対側の面の面積)は、25平方ミリメートル(0.5mm(500μm)×50mm=25mm
2)とした。それ以外は実施例2-1と同様にして、実施例2-4に係るマイクロ流路基材を用いたマイクロ流路チップを得た。
<実施例2-5>
ガラス基板上に形成した隔壁層に、現像により、流路部の開口幅が500μmとなるように流路構造を形成した。それ以外は実施例2-4と同様にして、実施例2-5に係るマイクロ流路基材を用いたマイクロ流路チップを得た。
<実施例2-6>
ガラス基板上に形成した隔壁層に、現像により、流路部の開口幅が2000μmとなるように流路構造を形成した。それ以外は実施例2-4と同様にして、実施例2-6に係るマイクロ流路基材を用いたマイクロ流路チップを得た。
<実施例2-7>
ガラス基板上に形成した隔壁層に、現像により、蓋材接合状態において隔壁層の開口面積率Arが60%となるように流路構造および蓋材支持部を形成した。それ以外は実施例2-1と同様にして、実施例2-7に係るマイクロ流路基材を用いたマイクロ流路チップを得た。
<実施例2-8>
ガラス基板上に形成した隔壁層に、現像により、流路部の開口幅が500μmとなるように流路構造を形成した。それ以外は実施例2-7と同様にして、実施例2-8に係るマイクロ流路基材を用いたマイクロ流路チップを得た。
<実施例2-9>
ガラス基板上に形成した隔壁層に、現像により、流路部の開口幅が2000μmとなるように流路構造を形成した。それ以外は実施例2-7と同様にして、実施例2-9に係るマイクロ流路基材を用いたマイクロ流路チップを得た。
<実施例2-10>
ガラス基板上に形成した隔壁層に、現像により、蓋材接合状態において隔壁層の開口面積率Arが60%となるように流路構造および蓋材支持部を形成した。それ以外は実施例2-4と同様にして、実施例2-10に係るマイクロ流路基材を用いたマイクロ流路チップを得た。
<実施例2-11>
ガラス基板上に形成した隔壁層に、現像により、流路部の開口幅が500μmとなるように流路構造を形成した。それ以外は実施例2-10と同様にして、実施例2-11に係るマイクロ流路基材を用いたマイクロ流路チップを得た。
<実施例2-12>
ガラス基板上に形成した隔壁層に、現像により、流路部の開口幅が2000μmとなるように流路構造を形成した。それ以外は実施例2-10と同様にして、実施例2-12に係るマイクロ流路基材を用いたマイクロ流路チップを得た。
【0166】
<比較例2-1>
ガラス基板上に形成した隔壁層に、現像により、蓋材接合状態において隔壁層の開口面積率Arが10%となるように流路構造および蓋材支持部を形成した。それ以外は実施例2-1と同様にして、比較例2-1に係るマイクロ流路基材を用いたマイクロ流路チップを得た。
<比較例2-2>
ガラス基板上に形成した隔壁層に、現像により、流路部の開口幅が3000μmとなるように流路構造を形成した。それ以外は実施例2-1と同様にして、比較例2-2に係るマイクロ流路基材を用いたマイクロ流路チップを得た。
<比較例2-3>
ガラス基板上に形成した隔壁層に、現像により、蓋材接合状態において隔壁層の開口面積率Arが80%となり、流路部の開口幅が500μmとなるように流路構造および蓋材支持部を形成した。それ以外は実施例2-1と同様にして、比較例2-3に係るマイクロ流路基材を用いたマイクロ流路チップを得た。
<比較例2-4>
ガラス基板上に形成した隔壁層に、現像により、蓋材接合状態において隔壁層の開口面積率Arが20%となり、流路部の開口幅が500μmとなるように流路構造を形成し、蓋材支持部を形成しなかった。それ以外は実施例2-1と同様にして、比較例2-4に係るマイクロ流路基材を用いたマイクロ流路チップを得た。
【0167】
[評価方法]
実施例2-1から実施例2-12および比較例2-1から比較例2-4に記載のマイクロ流路基材を用いたマイクロ流路チップにおいて、カバー層の接合後に以下の方法により、接合時の破損および反りの発生有無、液漏れの有無の評価を行った。
【0168】
(破損および反りの有無)
実施例2-1から実施例2-12および比較例2-1から比較例2-4のマイクロ流路基材を用いたマイクロ流路チップに対し、目視で破損の有無を確認した。目視で破損および反りがいずれも確認されない場合を「〇(合格)」、目視で破損又は反りの少なくとも一方が確認された場合を「×(不合格)」とした。
【0169】
(液漏れの有無)
実施例2-1から実施例2-12および比較例2-1から比較例2-4のマイクロ流路基材を用いたマイクロ流路チップに対し、着色した反応溶液10μLの量をピペットにて採取し、カバー層の入力口流路により導入し、その送液の様子を顕微鏡にて観察した。
観察結果に基づいて、以下の基準により「〇」、「×」の2段階でマイクロ流路チップの液漏れ状態について評価した。
<評価基準>
〇:隔壁層とカバー層との接合箇所において流路内からの液漏れが観察されなかった
×:隔壁層とカバー層との接合箇所において流路内からの液漏れが観察された
なお、マイクロ流路チップの破損により通液が実施できないものは「-」で表記した。
【0170】
実施例2-1から2-12および比較例2-1から2-4の評価結果を、マイクロ流路基材の隔壁層における蓋材接合状態での開口面積率、流路の開口幅、流路長、蓋材支持部の構成とともに表3に示す。
【0171】
【0172】
実施例2-1から実施例2-12のマイクロ流路基材を用いたマイクロ流路チップは、接合後に破損および反りがいずれも生じておらず、通液後の液漏れがないことを確認した。一方、比較例2-1から比較例2-4のマイクロ流路基材を用いたマイクロ流路チップは、接合後に破損または反りが生じており、このうち比較例2-1のマイクロ流路基材を用いたマイクロ流路チップはさらに通液後に液漏れを確認した。また、比較例2-2から比較例2-4のマイクロ流路基材を用いたマイクロ流路チップは、破損が大きく通液が実施できなかった。
【0173】
以上の結果から、本実施例のマイクロ流路基材を用いたマイクロ流路チップは、隔壁層が流路部および蓋材支持部を形成し、蓋材接合状態における隔壁層の開口面積率および隔壁層に形成された開口部の寸法(例えば、流路の開口幅、蓋材支持部間の間隙)が特定条件を満たすように制御することにより、複数部材(ここでは、マイクロ流路基材の壁部および、蓋材)を接合する際の接合安定性が向上して、壁部(隔壁層)と蓋材(カバー層)とを接合する際の圧力による部材の破損および反りの発生が抑制され、通液時に液漏れが発生しないことが確認できた。
具体的には、実施例2-1から実施例2-12に係るマイクロ流路基材は、隔壁層により基板上に流路部および蓋材接合状態においてカバー層を支持する蓋材支持部を形成し、流路部を開口幅が2000μm以下の開口部として形成し、蓋材接合状態における隔壁層の開口面積率が20%以上60%以下である。これにより、マイクロ流路基材の隔壁層とカバー層とを熱圧着によって接合する際の圧力および加熱によって部材に破損および反りが発生することを抑制し、通液時の液漏れが発生しないマイクロ流路チップを形成可能であることが確認された。
【0174】
また、例えば、本開示は以下のような構成を取ることができる。
(1)
基板と、
樹脂材料で構成され、前記基板上に設けられて該基板上に流路を形成する隔壁部と、
を備え、
前記流路は、前記隔壁部において開口幅が2000μm以下の開口部として形成され、
前記隔壁部は、前記隔壁部の前記基板とは反対側の面に前記流路の蓋となる蓋材を設けた蓋材接合状態における開口面積率が60%以下である
ことを特徴とするマイクロ流路基材。
(2)
前記隔壁部と前記蓋材とが熱圧着により貼合される場合に、
前記隔壁部は、開口面積率が20%以上60%以下である
ことを特徴とする上記(1)に記載のマイクロ流路基材。
(3)
前記基板は、前記隔壁部側の表面において前記隔壁部により一つ以上の前記流路が形成される流路領域と、前記流路が形成されない非流路領域とを有する
ことを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のマイクロ流路基材。
(4)
前記隔壁部は、前記流路領域および前記非流路領域に設けられており、前記流路領域上と前記非流路領域上とで厚みが変化しない
ことを特徴とする上記(3)に記載のマイクロ流路基材。
(5)
前記隔壁部は、前記蓋材接合状態において前記蓋材を支持する蓋材支持部を前記非流路領域上に形成する
ことを特徴とする上記(3)又は(4)に記載のマイクロ流路基材。
(6)
前記非流路領域上には、前記蓋材支持部として前記隔壁部の一部による樹脂構造体が一つ以上形成される
ことを特徴とする(5)に記載のマイクロ流路基材。
(7)
前記蓋材支持部は、前記隔壁部の一部で形成された平面視で長方形状を有する前記樹脂構造体であり、
前記非流路領域上には、複数の前記蓋材支持部が前記長方形の長辺と平行に配置される
ことを特徴とする上記(6)に記載のマイクロ流路基材。
(8)
前記蓋材支持部は、前記隔壁部の一部で形成された平面視で多角形形状または円形状を有する前記樹脂構造体であり、
前記非流路領域上には、複数の前記樹脂構造体が点状に配置される
ことを特徴とする上記(6)に記載のマイクロ流路基材。
(9)
前記基板は、四角形状であり、
前記非流路領域には、前記基板の4つの角部が含まれ、
前記蓋材支持部は、前記非流路領域に含まれる前記基板の4つの角部のうち2以上の角部に形成されている
ことを特徴とする上記(6)に記載のマイクロ流路基材。
(10)
前記隔壁部の一部である前記蓋材支持部は、前記蓋材接合状態において前記基板とは反対側の面において前記蓋材と面接触する
ことを特徴とする上記(5)から(9)のいずれか1項に記載のマイクロ流路基材。
(11)
前記隔壁部は、複数の前記流路を有する流路群を前記基板上に形成する
ことを特徴とする上記(1)から(10)のいずれか1項に記載のマイクロ流路基材。
(12)
前記隔壁部と前記基板との間に密着層が設けられている
ことを特徴とする上記(1)から(11)のいずれか1項に記載のマイクロ流路基材。
(13)
前記隔壁部を形成する樹脂材料は、紫外光領域である190nm以上400nm以下の波長の光に対して感光性を有する感光性樹脂である、
ことを特徴とする上記(1)から上記(12)のいずれか1項に記載のマイクロ流路基材。
(14)
基板上に、樹脂を塗工する工程と、
塗工した前記樹脂を露光する工程と、
露光した前記樹脂を現像及び洗浄し、前記基板上において流路を画定する隔壁部を形成する工程と、
前記隔壁部をポストベーク処理する工程と、
を含み、
前記現像により前記基板上の余分な樹脂を除去することで、前記流路となる開口幅が2000μm以下の開口部を前記隔壁部に形成し、前記隔壁部の前記基板とは反対側の面に前記流路の蓋となる蓋材を設けた蓋材接合状態における前記隔壁部の開口面積率を60%以下とする
ことを特徴とするマイクロ流路基材の製造方法。
(15)
熱圧着により前記隔壁部と前記蓋材とを接合して前記蓋材接合状態とする場合に、
前記現像により、前記蓋材接合状態における前記隔壁部の開口面積率を20%以上60%以下とする
ことを特徴とする上記(14)に記載のマイクロ流路基材の製造方法。
(16)
前記現像において前記基板上の余分な樹脂を除去することにより、前記隔壁部が前記基板上に前記流路および前記蓋材接合状態において前記蓋材を支持する蓋材支持部を形成する
ことを特徴とする上記(14)又は(15)に記載のマイクロ流路基材の製造方法。
(17)
前記樹脂を露光する工程において、感光性樹脂を、紫外光領域のうち190nm以上400nm以下の波長の光に感光させる
ことを特徴とする上記(14)から(16)のいずれか1項に記載のマイクロ流路基材の製造方法。
【産業上の利用可能性】
【0175】
本開示は、研究用途、診断用途、検査、分析、培養などを目的としたマイクロ流路チップにおいて、複雑な製造工程が必要なく上蓋を形成できるマイクロ流路チップ及びその製造方法として好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0176】
1、2 … マイクロ流路チップ
4、40 … 入力部
5、50 … 出力部
10 … 基板
11 … 隔壁層
12 … カバー層
13、13a、13b、13c、73、73a、73c … 流路部
15 … 密着層
31、31a、31b … 隔壁流路領域
32 … 支持領域
100、101、102、200、700、701、702、703、704、710 … マイクロ流路基材
10a、11a、15a…表面
11b … 側面
130、730 … 流路群
191、291… 基板流路領域
192、292… 基板非流路領域