(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027512
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】遅延時間測定システム
(51)【国際特許分類】
H04N 17/00 20060101AFI20240222BHJP
G04F 10/00 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
H04N17/00 A
G04F10/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022130380
(22)【出願日】2022-08-18
(71)【出願人】
【識別番号】322000030
【氏名又は名称】株式会社光パスコミュニケーションズ
(72)【発明者】
【氏名】松浦 裕之
(72)【発明者】
【氏名】小川 太郎
【テーマコード(参考)】
5C061
【Fターム(参考)】
5C061BB03
(57)【要約】
【課題】遠隔地間の映像遅延測定を行うために、それぞれの遅延にGPS受信機を設置して時刻同期をする際、映像送出側と受像側の間で測定のための指示を行うことや、GPS時刻同期に対応したソフトウエアを作成する必要があり、簡素化が望まれる。
【解決手段】光源の点滅を被測定システムで撮像・伝送・表示した映像を、光センサで観測し光源駆動信号と比較して遅延時間を測定する装置を前提とする。近接地での測定に用いる基準信号発生器の代わりに、遠隔地にてそれぞれ設置のGPS受信機から発生する1PPSなる時刻同期した信号を用いる。1PPS信号をもとに生成したデューティ比50%で絶対時刻に正確に同期したロジック信号を、映像送出側と受像側で用いる。点滅の周期を1秒に限ることで、GPSなしで近接地での測定に用いる基準信号発生器のみの動作を前提としたソフトウエアの改変なしに、GPSを2地点に導入しての遅延測定を極めて容易に実現できる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の地点に設置したアクチュエータを駆動電気信号でON/OFF駆動し、被測定システムでそれをセンシングして伝送したのち、前記被測定システムの第二の地点から出力される物理量を、センサで電気信号に変換し、前記駆動電気信号と前記センサからの電気信号の変化に関する時間差を測定する装置において、
前記第一の地点と前記第二の地点が遠隔地の場合は前記第一の地点に第一のGPS受信機、前記第二の地点に第二のGPS受信機を設置し、前記第一のGPS受信機および前記第二のGPS受信機からの信号を各地点における時刻基準とし、前記第一の地点と前記第二の地点が近接地の場合はGPS受信機を用いず、単一の基準信号発生器の信号を電気配線で接続するようにしたものを時刻基準として、
前記第一第二のGPS受信機使用時においてもシステム全体を制御するコントローラは前記第二の地点だけに設置し、前記第一の地点の時刻同期に関する制御は前記コントローラからの通信による指示は行なわず専ら前記第一の地点に設置の前記第一のGPS受信機からの信号のみで行い、
前記コントローラのソフトウエアは前記第一第二のGPS受信機からの信号なしで動作するものと同一のソフトウエアを使用し、所定の時間差を測定するようにした遅延時間測定システム.
【請求項2】
前記被測定システムは、ビデオカメラ、映像伝送部、ディスプレイからなるものとし、前記アクチュエータは光源、前記センサは光センサであることを特長とした請求項1に記載の遅延時間測定システム.
【請求項3】
前記被測定システムは、第一のマイクロフォン、音声信号伝送部、第一のスピーカからなるものとし、前記アクチュエータは第二のスピーカ、前記センサは第二のマイクロフォンであることを特長とした請求項1に記載の遅延時間測定システム.
【請求項4】
前記被測定システムは、第一の振動センサ、振動信号伝送部、第一の振動アクチュエータからなるものとし、前記アクチュエータは第二の振動アクチュエータ、前記センサは第二の振動センサであることを特長とした請求項1に記載の遅延時間測定システム.
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、映像などの撮像・伝送・表示を行う被測定対象における一連の動作を行う際の所要時間の測定を、GPS(Global Positioning System)を用いて遠隔地間で正確に行う遅延時間測定システムに関する。測定対象は映像だけにとどまらず音声やハプティクスも対象とすることが可能である。
【背景技術】
【0002】
映像遅延時間を測定する方法は多数の例があり、タイムスタンプを挿入する方法、時計を撮像・表示する方法、IPネットワークのICMPプロトコルを使用した往復時間を測定する方法などがある。
【0003】
タイムスタンプを使用する方法は、映像送出側で正確な時刻を付した情報を映像信号と一緒に送出し、被測定システムを介して伝送した後、受像側でそれを解析するものである。例えば特許文献1にその詳細が述べられている。しかし、この方法では被測定システムに含まれるビデオカメラやディスプレイの遅延を測ることができず、システムの一部分の遅延時間しか測定できない。また、本来の映像信号に加え、タイムスタンプを付した信号を映像送出側で挿入し、受像側で抜き出す必要があり、測定システムが複雑になる。
【0004】
時計を撮像・表示する方法は、例えば特許文献2に述べられていて、被測定システムのビデオカメラで時計の映像を撮像し、伝送後に被測定システムのディスプレイに表示された映像についてその時点での時計の映像と比較して遅延時間を算出するものである。このシステムではビデオカメラやディスプレイを含む遅延時間を測定することが可能ではあるが、時計表示の変化を正確に捉えられないため精度が悪い点に課題がある。
【0005】
IPネットワークのICMPプロトコルによる測定、すなわち、いわゆるpingコマンドによる遅延時間測定は、文献をあげるまでもなく広く一般的に行われるものである。しかしながらこれは往復遅延時間を対象としていて、測定対象はIPネットワークで伝送する場合に限られる。また、ビデオカメラやディスプレイを含む遅延時間を測定することができない。
【0006】
別の方法として非特許文献1に示されるようなものがある。これは測定装置が点滅させる光源を、被測定システムのビデオカメラで撮像・伝送した後、ディスプレイで表示される点滅映像を光センサで電気信号に変え、その応答から遅延時間を測定する方法である。
【0007】
図1に構成図を示す。
図1において1は光源であり例えば発光ダイオードLED(Light Emitting Diode)を、2は光センサであり例えばフォトダイオードPD(Photo Diode)を用いる。3は基準信号発生器でコントローラ7の制御の元で所定の矩形波を出力する。4は光源駆動部で、基準信号発生器3の信号から光源1を駆動する信号を発生する。5はトリガ信号発生で基準信号発生器3の信号を入力し、6の波形測定部に印加する信号を発生する。光源駆動部4とトリガ発生5の信号変化のタイミングは同一である。波形測定部6は、光センサ2の信号とトリガ発生5からの信号の波形を測定する。波形測定部6で取得した波形はコントローラ7に送られ、解析し遅延時間を算出する。コントローラ7は例えばパーソナルコンピュータであり遅延時間算出結果をそのディスプレイ部に表示する。10は被測定システムであり、ビデオカメラ11、映像伝送系12、ディスプレイ13を含む。
【0008】
この動作を
図2のタイムチャートに示す。光源駆動信号すなわちトリガ信号がローレベルの時には光源1は消灯し、ハイレベルの時には光源は点灯する。光源を撮像した被測定システム10のビデオカメラ11の出力は映像伝送系12を介してディスプレイ13に表示される。この動作の遅延時間は
図2に示すように光センサ2から出力される光強度信号の遅れとなり、光源1が消灯から点灯時はT1で示した時間、点灯から消灯の時はT2で示した時間というように、コントローラ7にて解析して遅延時間の測定を行うことができる。
【0009】
図1の構成は、タイムスタンプを使わないため被測定系の映像信号には手を加えず、またビデオカメラからディスプレイまでのすべての遅延を測定することができる。さらに、光源のオンオフの2値を用いていてシンプルに遅延時間を算出することができる。ICMPプロトコルと異なり、IPネットワークに限定されない任意の映像伝送系での片道遅延を評価しすることができる。
【0010】
図1の遅延時間測定システムは被測定システム10のビデオカメラ11とディスプレイ13が近距離にあり、測定のための信号をケーブルにて適宜接続できるような距離を前提としていた。ところが被測定システム10のビデオカメラ11とディスプレイ13が遠隔地に設置され、その間の遅延時間を測定したい場合は、
図3に示すようにGPSを用いて時刻同期をとることが一般に行われる。
【0011】
図3においてそれぞれの地点にGPS受信機21およびGPS受信機31を設置する。一般に電波状況の良好な場所で受信する場合、GPS受信機の時刻確度は絶対時刻に対して±10ナノ秒程度の誤差に収まる性能を有する。一方測定対象とする被測定システムはビデオ信号のフレームレートが例えば60Hzであればこの周期16.7ミリ秒より小さいことが望ましい。GPS受信機からの信号は十分な精度を有している。このGPSからの信号を元にコントローラ23およびコントローラ24の制御によって、基準信号発生器22および基準信号発生器32から所定の矩形波を発生する。基準信号発生器22の出力は光源駆動部4を介して光源2を駆動する。一方、基準信号発生器32の出力はトリガ発生5を介して波形測定部6に印加する。基準信号発生器22および基準信号発生器32の各出力はGPSの機能によって正確に時刻同期しており、あたかも一つの基準信号発生器にて発生した同一とみなせる信号である。このように構成した場合、
図2に示したタイミングチャートと同じ動作が実現でき、遠隔地間での遅延測定が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第3892844号公報
【特許文献2】特許第5553409号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】小川太郎,松浦裕之,“ゼロ遅延映像光伝送技術とその応用,” 大型ディスプレイ&デジタルサイネージ総覧2020,pp.12-22, 日本・社会システムラボラトリー,2020.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
図3の構成において、コントローラ23およびコントローラ33はその間で通信をして、それらの動作に齟齬がないよう測定システム全体を制御する必要がある。この通信は例えばインターネットを用いるなどで実現することは可能ではあるが煩雑である。また、それぞれ基準信号発生器22および基準信号発生器32を有する必要があり、その制御も必要となり煩雑である。
【0015】
さらに遠隔地における遅延時間を測定したい場合には
図3の構成をとり、近距離の場合における遅延時間測定の場合は
図1の構成をとることなるが、それぞれに適したコントローラの制御ソフトウエアが必要である。この距離の違いによるハードウエア的な切替およびソフトウエア的な切替の両方を行う必要があり、煩雑である。GPSに対応したソフトウエアを作成することなく近距離の測定のソフトウエアと同じものを改変することなく使用して、GPS同期時にも遅延時間測定を行えることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0016】
これらの課題を解決するために、第一の地点に設置した光源を光源駆動信号で点灯消灯の動作をさせ、被測定システムでは光源をビデオカメラで映像信号に変換して、伝送した後に、前記被測定システムのディスプレイに表示される光源の像を、第二の地点にて光センサで電気信号に変換し、前記光源駆動信号と前記光センサからの電気信号の変化に関する時間差を測定する装置であって、
前記第一の地点と前記第二の地点が遠隔地の場合は前記第一の地点に第一のGPS受信機、前記第二の地点に第二のGPS受信機を設置し、前記第一のGPS受信機および前記第二のGPS受信機からの信号を各地点における時刻基準とし、前記第一の地点と前記第二の地点が近接地の場合はGPS受信機を用いず、単一の基準信号発生器の信号を電気配線で接続するようにしたものを時刻基準として、
前記第一第二のGPS受信機使用時においてもシステム全体を制御するコントローラは前記第二の地点だけに設置し、前記第一の地点の時刻同期に関する制御は前記コントローラからの通信による指示は行なわず専ら前記第一の地点に設置の前記第一のGPS受信機からの信号のみで行い、
前記コントローラのソフトウエアは前記第一第二のGPS受信機からの信号なしで動作するものと同一のソフトウエアを使用し、所定の時間差を測定するようにした遅延時間測定システムを構築する。
【発明の効果】
【0017】
第一のGPS受信機と第二のGPS受信機があたかも一つの基準信号発生器と同じように見えるように構成しているので、遠隔地間における遅延時間を測定する場合のGPS使用の構成と、近距離での遅延時間をGPSなしに測定する場合の
図1の構成とが、容易に切り替えられる。また、ソフトウエア的な切り替えを行うことなく。近距離の測定のソフトウエアと同じものを改変することなくGPS使用時にも使用して、遅延時間測定を行える。さらに、測定のためのコントローラからの指示は遠隔地に行わない、すなわち、コントローラが設置される地点2からコントローラが設置されない地点1へは測定のための通信は行わない構成になっているので、簡易なシステムが実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】GPSを使用しない遅延時間測定システムを説明する従来例を示す図面である。
【
図2】
図1の動作を示すタイミングチャートである。
【
図3】従来のGPSを使用する遅延時間測定システムを説明する図面である。
【
図5】
図4にてGPSを使用する際の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例0019】
第一の実施例を
図4に示す。ここでGPS受信機21およびGPS受信機31の出力信号は1PPS(Pulse Per Second)と呼ばれる正確な1秒周期の信号で、例えばその変化タイミングが絶対時刻に±10ナノ秒以内の誤差で合致した信号である。この1PPS信号は通常のGPS受信機として市販されている部品や機器から多くの場合標準的に出力されるものである。但し、GPS受信機21の出力は所定のデューティ―比、例えば50%のデューティ―サイクルの信号を出力するよう構成する。使用する部品がそうなっていない場合は、適宜回路を追加して上記を実現する。
【0020】
被測定システム10のビデオカメラ11が設置される側の地点において、GPS受信機21の出力は切り替えスイッチ24を介して光源駆動部25に接続される。GPSを使用する遠隔地の測定動作の説明では切り替えスイッチ24はAの接続とする。このようにすることにより光源1は絶対時刻に正確に同期した1秒周期でデューティ―比50%の点灯と消灯とを繰り返す。
【0021】
被測定システム10のディスプレイ13が設置される側の地点において、GPS受信機31の出力は切り替えスイッチ34を介してトリガ発生35に接続される。切り替えスイッチ34はAの接続とし、光源の点滅に同期した1秒周期でデューティ比50%のトリガ信号がトリガ発生5から出力される。切り替えスイッチ34はA側の接続になっていて基準信号発生器3は測定に使用しない。同様に、
図4で切り替えスイッチ24はA側であるので基準信号発生器3の出力は切替スイッチ24にて使用されないので結線は不要である。
【0022】
波形測定部5は光センサ2とトリガ発生5からの信号を受け、そのデータをコントローラに送り、GPSの有無にかかわらず同じように波形を解析し遅延時間を測定する。
【0023】
図5は第一の実施例の説明図であり、
図4においてスイッチ24とスイッチ34をA側に倒し、使用しない基準信号発生器3を削除し整理したものである。基準信号発生器3の代わりにGPS受信機21およびGPS受信機31を使用しているものであり、遠隔地であるにもかかわらず、あたかも一つの基準信号発生器からの信号で動作していることがわかる。この時、GPS受信機からの信号は1PPS信号をもとにしたもので周期が1秒、デューティ―比が50%である基準信号発生器の動作と何ら変わらない。繰り返し周期が1秒であるソフトウエア動作は、GPSなしのシステムで実現されている前提で、コントローラ7の制御ソフトウエアはGPSを使用しない場合から改変することなく使用することができる。これが非常に大きな利点である。
【0024】
次にGPSを使用せず、近接した地点にビデオカメラとディスプレイが設置される場合について記述する。この場合、
図4の切り替えスイッチ24はB側の接続とし、切り替えスイッチ34もB側の接続とする。この場合はGPS受信機21およびGPS受信機31の出力は使用されない。そして
図1の接続と全く同じ接続関係となり、その動作も先に述べた通りであり、所望の遅延時間を測定することができる。これら切り替えスイッチ24と切り替えスイッチ34はメカニカルなスイッチのほか、切替頻度が低いのでコネクタの抜き差しで同等のことを行うことが可能である。以下の切り替えスイッチでも同様である。
被測定システム10のビデオカメラ11が設置される側の地点において、GPS受信機21の出力は光源駆動部25を介して切り替えスイッチ26に接続される。切り替えスイッチ26がA側に接続されているとすると、GPS受信機21からの1PPS信号に従って、光源は1秒周期でデューティ―比50%の点灯と消灯とを繰り返す。