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  • 特開-増粘液の作製方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027515
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】増粘液の作製方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20240222BHJP
   B01F 27/111 20220101ALI20240222BHJP
   B01F 35/53 20220101ALI20240222BHJP
   B01F 27/113 20220101ALI20240222BHJP
   B01F 27/272 20220101ALI20240222BHJP
   B01F 27/91 20220101ALI20240222BHJP
   B01F 23/53 20220101ALI20240222BHJP
   B01F 27/13 20220101ALI20240222BHJP
   B01F 35/22 20220101ALI20240222BHJP
   C09D 7/43 20180101ALI20240222BHJP
【FI】
C09D201/00
B01F27/111
B01F35/53
B01F27/113
B01F27/272
B01F27/91
B01F23/53
B01F27/13
B01F35/22
C09D7/43
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022130385
(22)【出願日】2022-08-18
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】森本 有
(72)【発明者】
【氏名】藤井 幸司
(72)【発明者】
【氏名】岡田 恭平
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 寛也
【テーマコード(参考)】
4G035
4G037
4G078
4J038
【Fターム(参考)】
4G035AB46
4G035AE01
4G035AE19
4G037DA30
4G037EA04
4G078AA01
4G078AA26
4G078AB01
4G078AB20
4G078BA05
4G078CA05
4G078CA08
4G078DA19
4G078DA21
4G078DB02
4G078DC06
4G078EA20
4J038EA011
4J038HA506
4J038KA06
4J038KA08
4J038KA11
4J038MA09
4J038MA15
4J038NA01
4J038PB08
(57)【要約】
【課題】防眩性の塗膜用の塗工液に適した増粘性を付与できる増粘液を比較的容易に作製できる増粘液の作製方法を提供することである。
【解決手段】増粘剤と溶剤とを混合して前記増粘液を作製する混合工程を備え、前記混合工程では、前記増粘剤と前記溶剤とを充填する容器と、前記容器内の前記増粘剤と前記溶剤とを混合するホモミキサーとを備える撹拌装置を用い、前記混合工程は、前記ホモミキサーで撹拌しながら前記増粘剤と前記溶剤とを前記容器に充填する仕込工程と、前記増粘剤と前記溶剤とで構成される混合液の撹拌を継続して前記増粘液とする本撹拌工程とを備え、前記仕込工程では、前記混合液を前記ホモミキサーの上方から吸込み前記ホモミキサーの下方へ排出するように前記ホモミキサーを逆回転させ、且つ、前記本撹拌工程では前記混合液を前記ホモミキサーの下方から吸込み前記ホモミキサーの上方へ排出するように前記ホモミキサーを正回転させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
増粘液の作製方法であって、
前記増粘液は、防眩性の塗膜を形成するための塗工液の作製に使用されるものであり、
増粘剤と溶剤とを混合して前記増粘液を作製する混合工程を備え、
前記混合工程では、前記増粘剤と前記溶剤とを充填する容器と、前記容器内の前記増粘剤と前記溶剤とを混合するホモミキサーとを備える撹拌装置を用い、
前記混合工程は、前記ホモミキサーで撹拌しながら前記増粘剤と前記溶剤とを前記容器に充填する仕込工程と、前記増粘剤と前記溶剤とで構成される混合液の撹拌を継続して前記増粘液とする本撹拌工程とを備え、
前記仕込工程では前記混合液を前記ホモミキサーの上方から吸込み前記ホモミキサーの下方へ排出するように前記ホモミキサーを逆回転させ、且つ、前記本撹拌工程では前記混合液を前記ホモミキサーの下方から吸込み前記ホモミキサーの上方へ排出するように前記ホモミキサーを正回転させる、増粘液の作製方法。
【請求項2】
前記仕込工程では、前記増粘剤の質量(kg)に対する前記逆回転での予備撹拌時間(分)の比を1.0以上とする、請求項1に記載の増粘液の作製方法。
【請求項3】
前記本撹拌工程では、前記混合液の容量(L)に対する前記正回転での本撹拌時間(分)の比を0.5~2.0とする、請求項1又は2に記載の増粘液の作製方法。
【請求項4】
前記ホモミキサーは、前記混合液を吸引して該混合液を上方に排出させるように構成された撹拌部と、前記撹拌部から排出された前記混合液の飛散を抑制する飛散抑制部とを備え、
前記飛散抑制部が、前記撹拌部の上方に配された下板と、前記下板よりも上方に配された上板とを有する、請求項1又は2に記載の増粘液の作製方法。
【請求項5】
前記ホモミキサーは、前記撹拌部が、前記混合液を上方又は下方に移動させるタービンと、上下方向に延びる筒状に形成され内側に前記タービンを収容するステータとを有し、
前記下板及び前記上板の直径が、前記ステータの直径よりも大きく形成され、
前記混合工程では、前記下板を前記容器における気液界面に配し、前記上板を前記気液界面から上方に50~150mm離れた位置に配する、請求項4に記載の増粘液の作製方法。
【請求項6】
前記撹拌装置は、前記ステータの高さをX(mm)、前記ステータの上面と前記下板との間隔をY、前記容器の底面と前記ステータの下端との間隔をZとしたときに、
Y>1.5X
Z>1.5X
Z-Y<30
を満たす、請求項5に記載の増粘液の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防眩性の塗膜を形成するための塗工液の作製に用いられる増粘液の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイなどの画像表示装置は、画面における蛍光灯などの光の映り込みによるコントラスト低下を防止するために、防眩性フィルムを備えている。
【0003】
防眩性フィルムは、基材と、該基材に積層された防眩性の塗膜とを備えている。防眩性の塗膜はシリカなどの微粒子を含み、この微粒子が該塗膜の表面に凹凸形状を形成している。そして、防眩性フィルムを備える画面では、防眩性の塗膜に入射した光が微粒子によって散乱され、光の映りこみが抑制される。
【0004】
ここで、特許文献1には、防眩性の塗膜の形成方法が記載されており、該方法では、微粒子とバインダー樹脂と増粘剤とを混合した後、溶剤で希釈することによって塗工液を作製する。次いで、かかる塗工液を基材に塗工し、バインダー樹脂を硬化させることによって、防眩性の塗膜を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-074016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、塗膜に防眩性を付与するためには、微粒子の分散性に優れる塗工液を作製する必要がある。特許文献1に記載の方法では、かかる分散性を塗工液に付与するために、増粘剤を用いている。しかしながら、特許文献1に記載の方法では、微粒子やバインダー樹脂などの他の成分の影響によって増粘剤に所望の機能を発揮させることができず、すなわち、塗工液に所望の増粘性を付与できない場合がある。
【0007】
上記事情に鑑み、本発明は、防眩性の塗膜を形成するための塗工液の作製に用いられ、該塗工液に適した増粘性を付与できる増粘液を比較的容易に作製することができる増粘液の作製方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る増粘液の作製方法は、
前記増粘液は、防眩性の塗膜を形成するための塗工液の作製に使用されるものであり、
増粘剤と溶剤とを混合して前記増粘液を作製する混合工程を備え、
前記混合工程では、前記増粘剤と前記溶剤とを充填する容器と、前記容器内の前記増粘剤と前記溶剤とを混合するホモミキサーとを備える撹拌装置を用い、
前記混合工程は、前記ホモミキサーで撹拌しながら前記増粘剤と前記溶剤とを前記容器に充填する仕込工程と、前記増粘剤と前記溶剤とで構成される混合液の撹拌を継続して前記増粘液とする本撹拌工程とを備え、
前記仕込工程では前記混合液を前記ホモミキサーの上方から吸込み前記ホモミキサーの下方へ排出するように前記ホモミキサーを逆回転させ、且つ、前記本撹拌工程では前記混合液を前記ホモミキサーの下方から吸込み前記ホモミキサーの上方へ排出するように前記ホモミキサーを正回転させる。
【0009】
斯かる構成によれば、仕込工程においてホモミキサーを逆回転させ且つ本撹拌工程においてホモミキサーを正回転させることによって、前記塗工液に適した増粘性を付与できる増粘液を比較的容易に作製することができる。
【0010】
また、本発明に係る増粘液の作製方法は、好ましくは、前記仕込工程では、前記増粘剤の質量(kg)に対する前記逆回転での予備撹拌時間(分)の比を1.0以上とし、より好ましくは、前記本撹拌工程では、前記混合液の容量(L)に対する前記正回転での本撹拌時間(分)の比を0.5~2.0とする。
【0011】
斯かる構成によれば、増粘液の粘度及びチクソトロピー値を高め易くなる。
【0012】
また、好ましくは、
本発明に係る増粘液の作製方法に用いる前記ホモミキサーは、前記混合液を吸引して該混合液を上方に排出させるように構成された撹拌部と、前記撹拌部から排出された前記混合液の飛散を抑制する飛散抑制部とを備え、
前記飛散抑制部が、前記撹拌部の上方に配された下板と、前記下板よりも上方に配された上板とを有する。
【0013】
さらに好ましくは、
前記ホモミキサーは、前記撹拌部が、前記混合液を上方又は下方に移動させるタービンと、上下方向に延びる筒状に形成され内側に前記タービンを収容するステータとを有し、
前記下板及び前記上板の直径が、前記ステータの直径よりも大きく形成され、
前記混合工程では、前記下板を前記容器における気液界面に配し、前記上板を前記気液界面部から上方に50~150mm離れた位置に配する。
【0014】
斯かる構成によれば、飛散抑制部の下板及び上板に混合液が衝突することによって撹拌効率が向上し、前記塗工液に適した増粘性を増粘液により付与し易くなる。
【0015】
また、本発明に係る増粘液の作製方法は、好ましくは、
前記撹拌装置は、前記ステータの高さをX[mm]、前記ステータの上面と前記下板との間隔をY、前記容器の底面と前記ステータの下端との間隔をZとしたときに、
Y>1.5X
Z>1.5X
Z-Y<30
を満たす。
【0016】
斯かる構成によれば、混合液の撹拌効率をより一層向上させることができる。
【発明の効果】
【0017】
以上の通り、本発明によれば、防眩性の塗膜を形成するための塗工液の作製に用いられ、該塗工液に適した増粘性を付与できる増粘液を比較的容易に作製することができる増粘液の作製方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】一実施形態に係る増粘液の作製方法に用いる撹拌装置の概略図である。
図2図1の撹拌装置におけるホモミキサーの撹拌部の分解図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態に係る増粘液の作製方法について説明する。
【0020】
本実施形態の増粘液の作製方法は、増粘剤と溶剤とを含む混合液を撹拌して前記増粘液とする混合工程を備える。
【0021】
前記増粘剤としては、スメクタイト、タルク、ベントナイト、モンモリロナイト、カオリナイトなどの有機粘土が挙げられる。
【0022】
前記溶剤としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、2-メトキシエタノールなどの一価アルコール系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノンなどのケトン系溶剤、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶剤、ジイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテル系溶剤、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのポリオール系溶剤、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの非環式脂肪族炭化水素系溶剤、シクロヘキサン、シクロヘプタンなどの環式脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶剤などが挙げられる。これらは、一種単独で用いられてもよく、複数種の組み合わせで用いられてもよい。
【0023】
本実施形態の混合工程では、前記溶剤の比誘電率が2~6に設定されている。すなわち、混合工程では、比誘電率が2~6となるように前記溶剤が選択される。
【0024】
前記増粘液の総質量に対する前記増粘剤の質量割合は、4~10質量%とされることが好ましく、5~8質量%とされることがより好ましい。また、前記増粘液の総質量に対する前記溶剤の質量割合は、90質量%以上とされることが好ましく、95質量%以上とされることがより好ましい。
【0025】
前記混合工程の撹拌には、図1及び図2に示す撹拌装置1を用いる。撹拌装置1は、前記増粘剤と前記溶剤とを充填する容器10と、前記増粘剤と前記溶剤とで構成される混合液Mを容器10内で撹拌するホモミキサー20とを備えている。
【0026】
本実施形態の容器10は、平面視において円形状の底部11と、底部11の外周縁から立ち上がる側壁部12とを備えている。容器10は、底部11と側壁部12とで画定される円筒状の混合液Mの収容空間Vを有する。
【0027】
底部11は、混合液Mが接触する円形状の底面111を有する。底面111の直径Rは、370~650mmであることが好ましく、370~500mmであることがより好ましい。また、収容空間Vの容量は、10~500Lであることが好ましく、50~200Lであることがより好ましい。本実施形態では、収容空間Vすなわち容器10の容量に対する前記増粘液の体積の比率が、0.4~0.9に設定されている。
【0028】
ホモミキサー20は、上下方向に沿って延びる回転軸を有する軸部21と、軸部21の下端部に接続された撹拌部22とを備えている。
【0029】
軸部21は、これを前記回転軸の周りに回転させる駆動部に接続されている。該駆動部は、モータと、該モータを収容する筐体とを有する。
【0030】
図2に示すように、撹拌部22は、軸部21の下端部に接続されたタービン22aと、タービン22aを収容するステータ22bとを有する。
【0031】
タービン22aは、軸部21の下端部に接続された円柱状の接続部23と、接続部23の下端から下方に延び且つ接続部23よりも外径が大きく形成された円柱状の拡径部24と、拡径部24の側面から径方向外方に延びる複数の撹拌翼25とを有する。
【0032】
本実施形態のタービン22aは、4枚の撹拌翼25を有する。各撹拌翼25は、等間隔を空けて回転軸周りに並ぶように配されている。各撹拌翼25は、上向きの上面251と下向きの下面252とを有するように回転軸に対して傾斜するように設けられている。ここで、第1の撹拌翼25の上面251と第1の撹拌翼25に隣り合う第2の撹拌翼25の下面252との間に上向きの混合液Mの流れを生じさせるタービン22aの回転を正回転と称し(図2の場合、上方から見て時計回りの回転)、これらの間に下向きの混合液Mの流れを生じさせるタービン22aの回転を逆回転と称する(図2の場合、上方から見て半時計回りの回転)。
【0033】
各撹拌翼25の高さは、40~60mmであり、幅は、15~30mmである。なお、撹拌翼25の幅は、上端の幅と、下端の幅と、上端と下端との中間部の幅との平均値を意味するものとする。
【0034】
ステータ22bは、タービン22aを収容するように構成されており、タービン22aの回転軸に沿って延びる円筒状の整流部26と、整流部26よりも上方に配され整流部26内を上向きに流れる混合液Mを吐出する吐出部27とを有する。ステータ22bは、複数の棒状の固定部材28を介して前記筐体に接続されている。すなわち、ステータ22bは、これと前記筐体とを接続する複数の固定部材28によって前記筐体に固定されている。
【0035】
整流部26は、タービン22aを囲繞するように形成されている。整流部26の下端261は、ステータ22bの下端261をなしている。整流部26は、下端261に円形状の開口262を有する。整流部26は、上下方向における長さ(mm)を有する。整流部26の長さは、ステータ22bの高さXに相当する。また、整流部26の外径は、ステータ22bの直径rに相当する。
【0036】
本実施形態の混合工程では、容器10及びホモミキサー20は、底面111の直径Rに対するステータ22bの直径rの比率r/Rが0.2~0.3となるように、好ましくは0.14~0.30となるように選定される。
【0037】
吐出部27は、整流部26の上端から回転軸に向かって延びる円板状に形成されている。すなわち、吐出部27は、回転軸に交差するように延在する延在部271を有する。また、延在部271の上面は、ステータ22bの上面272をなしている。吐出部27は、タービン22aの接続部23が挿通される円形の挿通口273と、挿通口273よりも径方向外方に配され且つ周方向に沿って延びるように形成された複数の吐出口274とを有する。各吐出口274は、等間隔を空けて回転軸の周りに並ぶように形成されている。
【0038】
そして、混合液Mは、タービン22aが正回転すると、開口262を介して整流部26内に吸引されて整流部26内を下方から上方に向かって移動し、吐出口274を介してステータ22bの外部に排出される。一方、混合液Mは、タービン22aが逆回転すると、吐出口274を介して整流部26に吸引されて整流部26内を上方から下方に向かって移動し、開口262を介してステータ22bの外部に排出される。
【0039】
本実施形態のホモミキサー20は、さらに、撹拌部22よりも上方に配されて混合液Mの飛散を抑制する飛散抑制部29を備えている。飛散抑制部29は、撹拌部22の上方に配された円板状の下板291と、下板291よりもさらに上方に配された円板状の上板292とを有する。下板291及び上板292は、吐出部27(ステータ22b)の上面272に対向するように配置されている。下板291及び上板292は、整流部26の直径よりも大きい直径を有する。好ましくは、下板291及び上板292は、整流部26の直径の2倍よりも大きい直径を有する。
【0040】
本実施形態の撹拌装置1は、ステータ22bの上面272と飛散抑制部29の下板291の下面との間隔Y(mm)、容器10の底面111とステータ22bの下端261(整流部26の下端261)との間隔Z(mm)、飛散抑制部29の下板291と上板292との間隔Dを調節可能に構成されている。X+Y+Zは、混合液Mの高さH(mm)である。
【0041】
本実施形態の混合工程は、ホモミキサー20で撹拌しながら前記増粘剤と前記溶剤とを容器10に充填する仕込工程と、混合液Mの撹拌を継続して前記増粘液とする本撹拌工程とを備える。
【0042】
本実施形態の混合工程では、底面111が水平面に沿うように容器10を設置する。すなわち、静置状態の混合液Mの気液界面Iが水平面に沿うように容器10を設置する。また、本実施形態の混合工程では、気液界面Iに沿うように飛散抑制部29の下板291を配置し(これによって撹拌部22の全体が混合液Mに浸かることとなる)、且つ、上板292を気液界面Iから上方に50~150mm離れるように配置する。
【0043】
さらに、本実施形態の混合工程では、YがXよりも大きく、ZがXよりも大きく、且つ、ZがYよも大きくなるように設定する。好ましくは、X、Y、Zの関係が、
Y>1.5X
Z>1.5X
Z-Y<30
を満たすようにこれらの間隔を設定する。これによって、混合液Mにおける前記増粘剤の分散性が向上し、経時での凝集が生じにくくなる。
【0044】
前記仕込工程では、容器10に前記溶剤を充填し、タービン22aを逆回転させる。これによって、前記仕込工程では、前記溶剤が吐出口274を介して整流部26に吸引されて、整流部26内を上方から下方に向かって移動し、開口262を介してステータ22bの外部に排出される。開口262を通って排出された前記溶剤は、底面111に向かって移動する。底面111に到達した前記溶剤は、底面111の中央部から外周部に向かってさらに移動して側壁部12の内面にまで到達し、該内面に沿って上方に移動する。前記仕込工程では、前記溶剤が上記のように移動することで容器10内を循環する第1の循環状態とする。
【0045】
前記仕込工程では、前記第1の循環状態において、前記増粘剤を容器10(前記溶剤)へ投入する。そして、前記仕込工程では、全ての増粘剤と前記溶剤との混合を完了した後(混合液Mの作製完了後)においても、タービン22aの逆回転による撹拌を継続する。ここで、全ての増粘剤の混合完了後から逆回転による撹拌を継続させる時間を以下では予備撹拌時間(単位は分)と称する。前記予備撹拌時間は、1分以上15分以内とされることが好ましい。
【0046】
前記仕込工程では、使用する前記増粘剤の総質量(kg)に対する前記予備撹拌時間(分)の比は、1.0以上とされることが好ましく、1.3以上とされることがより好ましく、
【0047】
前記仕込工程では、タービン22aの回転数は、2500rpm以上であることが好ましく、3000rpm以上であることがより好ましく、3500rpm以上であることがさらに好ましい。
【0048】
前記本撹拌工程では、タービン22aを正回転させる。これによって、前記本撹拌工程では、混合液Mが開口262を介して整流部26に吸引されて、整流部26内を下方から上方に向かって移動し、吐出口274を介してステータ22bの外部に排出される。吐出口274を通って排出された混合液Mは、飛散抑制部29の下板291に向かって移動する。下板291の下面に到達した混合液Mは、下板291の径方向中央部から外周部に向かって移動して側壁部12の内面にまで到達し、該内面に沿って下方に移動する。前記本撹拌工程では、混合液Mが上記のように移動することで容器10内を循環する第2の循環状態とする。
【0049】
ここで、前記本撹拌工程における撹拌時間(単位は分であり、以下では本撹拌時間と称する)の開始点は、タービン22aの正回転を開始した時点とする。前記本撹拌工程では、混合液Mの容量(L)に対する前記本撹拌時間の比が0.1~2.5とされることが好ましく、0.5~2.2がより好ましく、1.0~1.9がさらに好ましい。
【0050】
前記本撹拌工程では、飛散抑制部29の下板291のみならず、上板292にまで混合液Mがせり上がる程度にタービン22aを回転させることが好ましい。かかる観点から、タービン22aの回転数は、1000rpm以上5000rpm以下に設定されることが好ましく、2000rpm以上4000rpm以下がより好ましく、2500rpm以上3500rpm以下がさらに好ましい。これによって、混合液Mが強力に撹拌されるとともに、下板291に加えて上板292における跳ね返しによっても混合液Mの循環が生じるため、撹拌効率が向上する。
【0051】
本実施形態の方法で作製された増粘液は、防眩性の塗膜を形成するための塗工液に適した増粘性を有するものとなる。具体的には、E型粘度計を用いて温度30℃の測定条件で粘度を測定したときに、本実施形態の増粘液は、回転数5rpmの低剪断時の粘度が30m・Pas以上を示す。前記低剪断時の粘度は、好ましくは40m・Pas以上であり、より好ましくは50m・Pas以上である。また、本実施形態の増粘液は、回転数50rpmの高剪断時の粘度が10m・Pas以下を示す。さらに、本実施形態の増粘液は、前記低剪断時の粘度を前記高剪断時の粘度で割ることによって算出されるチクソトロピー値が3以上7以下を示す。
【0052】
本実施形態の増粘液を用いて作製される塗工液は、前記増粘液の他、前記塗膜に防眩性を付与するための粒子と、バインダー樹脂とを含む。
【0053】
前記粒子としては、無機粒子、有機粒子が挙げられる。前記無機粒子としては、酸化ケイ素粒子、酸化チタン粒子、酸化アルミニウム粒子、酸化亜鉛粒子、酸化錫粒子、炭酸カルシウム粒子、硫酸バリウム粒子、タルク粒子、カオリン粒子、硫酸カルシウム粒子などが挙げられる。前記有機粒子としては、ポリメチルメタクリレート樹脂粒子(PMMA粒子)、シリコーン樹脂粒子、ポリスチレン樹脂粒子、ポリカーボネート樹脂粒子、アクリルスチレン樹脂粒子、ベンゾグアナミン樹脂粒子、メラミン樹脂粒子、ポリオレフィン樹脂粒子、ポリエステル樹脂粒子、ポリアミド樹脂粒子、ポリイミド樹脂粒子、ポリフッ化エチレン樹脂粒子等が挙げられる。これらは、一種単独で用いられてもよく、複数種の組み合わせで用いられてもよい。
【0054】
前記バインダー樹脂としては、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂が挙げられる。前記熱硬化性樹脂としては、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート、1,10-デカンジオール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、エトキシ化グリセリントリアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレートなどの多官能アクリル系モノマー、エトキシ化o-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、イソオクチルアクリレート、イソステアリルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、イソホロニルアクリレート、ベンジルアクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシアクリレート、アクリロイルモルホリン、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチルアクリルアミドなどの単官能モノマーが挙げられる。
【0055】
また、前記バインダー樹脂としては、(メタ)アクリル酸または(メタ)アクリル酸エステルとポリオールとから得られるヒドロキシ(メタ)アクリレートを、ジイソシアネートと反応させることにより得られるウレタン(メタ)アクリレートが挙げられる。前記ポリオールとしては、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステル、トリシクロデカンジメチロール、1,4-シクロヘキサンジオール、スピログリコール、水添ビスフェノールA、エチレンオキサイド付加ビスフェノールA、プロピレンオキサイド付加ビスフェノールA、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン、3-メチルペンタン-1,3,5-トリオール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、グルコース類などが挙げられる。
【0056】
前記塗工液の作製では、前記増粘液と、前記粒子と、前記バインダー樹脂とを混合する。前記塗工液の作製では、前記増粘液の作製に用いた撹拌装置1を用いることが好ましい。
【0057】
本実施形態の増粘液を用いて作製された塗工液は、液だれが抑制され、且つ、前記粒子の分散性に優れるものとなり、延いては、防眩性の塗膜の形成に適したものとなる。
【0058】
なお、本発明に係る増粘液の作製方法は、上記実施形態に限定されるものではない。また、本発明に係る増粘液の作製方法は、上記の作用効果によって限定されるものではない。本発明に係る増粘液の作製方法は、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【実施例0059】
以下、実施例を示すことにより、本発明をさらに説明する。
【0060】
表1に示すように混合工程の諸条件を設定し、増粘剤としてスメクタイト、溶剤として65Lのトルエン(比誘電率2.4)を用い、増粘液を作製した。各増粘液の作製には、図1に示すような撹拌装置を用いた。容器は、底面の直径Rが440mmであり、容量が100Lのものを用いた。また、ホモミキサーは、高さXが100mm、直径rが105mmのステータと、直径300mmの下板及び直径300mmの上板とを備えるものを用いた。
【0061】
[増粘液の増粘性評価]
E型粘度計を用いて、ロータの回転数5rpmの粘度及びロータの回転数50rpmの粘度を測定した。なお、測定温度は30℃とした。また、5rpmで測定した粘度を50rpmで測定した粘度で割ることによって、チクソトロピー値(TI値)を算出した。結果は、表1に示すとおりである。
【0062】
[増粘液の性能評価]
作製した各増粘液を用い、防眩性塗膜を形成するための塗工液を作製した。塗工液には、増粘液の他、粒子としてテクポリマーSSX-103DXE(積水化成品工業社製)と、バインダー樹脂としてNKオリゴマーUA-53-80BK(新中村化学工業製)、モノマーとしてビスコート#300(大阪有機化学工業製)と4-ヒドロキシブチルアクリレート(大阪有機化学工業製)、光開始剤としてOmnirad907(IGM Resin社製)、表面張力調整剤としてGRANDIC PC4100(DIC社製)とを用いた。塗工液の総質量に対する増粘液の割合を1.5質量部、テクポリマーSSX-103DXEを50質量部、NKオリゴマーUA-53-80BKを50質量部、ビスコート#300を50質量部、4-ヒドロキシブチルアクリレートを20質量部、Omnirad907を5質量部、GRANDIC PC4100を1質量部とした。各塗工液を基材に塗工し、塗工液を硬化させることによって、基材上に塗膜を形成した。そして、塗膜の防眩性について、JIS B 0601:2013に規定の粗さ曲線要素の平均長さ(凹凸の平均間隔Sm)を測定することによって評価した。Smが0.1以上の塗膜は、十分に防眩性を発揮するものと評価した。なお、Smは、0.15以上が好ましく、0.19以上がより好ましい。結果は、表1に示すとおりである。
【0063】
表1に示すように、TI値が3~7の増粘液は、防眩性の塗膜の形成に適したものと認められる。そして、TI値が3~7の増粘液を作製するためには、仕込工程で逆回転を実施し、且つ、本撹拌工程で正回転を実施することが重要であることがわかる。
【0064】
【表1】
【符号の説明】
【0065】
1:撹拌装置、10:容器、11:底部、111:底面、12:側壁部、20:ホモミキサー、21:軸部、22:撹拌部、22a:タービン、22b:ステータ、23:接続部、24:拡径部、25:撹拌翼、251:上面、252:下面、26:整流部、261:下端、262:開口、27:吐出部、271:延在部、272:上面、273:挿通口、274:吐出口、28:固定部材、29:飛散抑制部、291:下板、292:上板
図1
図2