(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027564
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】インクジェットインク組成物及び記録方法
(51)【国際特許分類】
C09D 11/322 20140101AFI20240222BHJP
C09D 11/54 20140101ALI20240222BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240222BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20240222BHJP
C09D 11/38 20140101ALI20240222BHJP
【FI】
C09D11/322
C09D11/54
B41J2/01 501
B41M5/00 120
B41M5/00 112
B41M5/00 132
B41M5/00 100
C09D11/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022130452
(22)【出願日】2022-08-18
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】浅川 裕太
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA08
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2C056HA46
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4J039AD09
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4J039GA24
(57)【要約】
【課題】バンディングムラを低減でき画質(濡れ広がり)に優れるとともに、保存安定性に優れ、着弾位置ズレを優れて低減できる、インクジェットインク組成物を提供すること。
【解決手段】本発明に係るインクジェットインク組成物の一態様は、顔料と、難水溶性低分子有機化合物と、ノニオン性水溶性樹脂と、を含有し、前記顔料は、自己分散顔料、又は分散剤樹脂により分散された樹脂分散顔料であり、前記ノニオン性水溶性樹脂は、重量平均分子量が2000以上であり、含有量がインク組成物の総質量に対し1質量%以下であり、水系のものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料と、難水溶性低分子有機化合物と、ノニオン性水溶性樹脂と、を含有し、
前記顔料は、自己分散顔料、又は分散剤樹脂により分散された樹脂分散顔料であり、
前記ノニオン性水溶性樹脂は、重量平均分子量が2000以上であり、含有量がインク組成物の総質量に対し1質量%以下である、水系のインクジェットインク組成物。
【請求項2】
前記難水溶性低分子有機化合物は、アルカンジオール類、モノアルコール類、グリコールモノエーテル類の何れか1種以上を含む、請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項3】
前記ノニオン性水溶性樹脂は、ポリビニルピロリドン、ポリ-N-ビニルアセトアミド、ポリビニルアルコ―ル、ポリアルキレンオキシドの何れか1種以上を含む、請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項4】
前記難水溶性低分子有機化合物の含有量が、インク組成物の総質量に対し0.1質量%以上2質量%以下である、請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項5】
標準沸点が250℃以下の水溶性低分子有機化合物を含有し、前記標準沸点が250℃以下の水溶性低分子有機化合物の含有量がインク組成物の総質量に対し5質量%以上30質量%以下である、請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項6】
水分散性樹脂を含有し、前記水分散性樹脂は、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂の何れか1種以上を含む、請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項7】
低吸収記録媒体又は非吸収記録媒体への記録に用いられるものである、請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項8】
凝集剤を含有する処理液と共に記録に用いられるものである、請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項9】
請求項1に記載のインクジェットインク組成物をインクジェット法により吐出して記録媒体に付着させるインク付着工程を備える、記録方法。
【請求項10】
複数回の主走査により記録を行い、同一の走査領域に複数回の主走査を行う、請求項9に記載の記録方法。
【請求項11】
前記記録媒体に付着した前記インクジェットインク組成物を乾燥させる一次乾燥工程を備える、請求項9に記載の記録方法。
【請求項12】
前記インク付着工程の後に、前記記録媒体を加熱する後加熱工程を備える、請求項9に記載の記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットインク組成物及び記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置の記録ヘッドのノズルから微小なインク滴を吐出させて、記録媒体上に画像を記録するインクジェット記録方法が知られており、例えば、サイン印刷、ラベル印刷、包装印刷などでの使用も検討されている。その中で、水を主要な溶媒の1つとする(水系の)インクを用いて、記録媒体に対して画像の記録を行う検討がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、インク組成物の成分を凝集させる凝集剤を含有する反応液とともに用いられる、100℃以上の融点を有する第1のワックスと、70℃以下の融点を有する第2のワックスと、水と、を含有する水系インクジェットインク組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、水系のインクを用いた記録において、インクが記録媒体上で濡れ広がり難い(埋まりが悪い)場合がある。そのため、例えば、インクジェットヘッドのノズルの個体差などによって生じる、ノズルから吐出されるインク滴の吐出量の僅かなズレや、僅かな着弾位置のズレによって、記録された画像に筋状のムラが見えるバンディングムラが生じやすい傾向がある。
【0006】
一方で、記録媒体上で濡れ広がり性が優れるインク組成とする検討において、インク組成に起因する、インクの保存安定性の悪化や、インク滴の着弾位置のズレの発生、という課題もあった。
【0007】
したがって、画質(濡れ広がり)に優れるとともに、保存安定性に優れ、着弾位置ズレの低減に優れる、インクジェットインク組成物が要求されている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るインクジェットインク組成物の一態様は、
顔料と、難水溶性低分子有機化合物と、ノニオン性水溶性樹脂と、を含有し、
前記顔料は、自己分散顔料、又は分散剤樹脂により分散された樹脂分散顔料であり、
前記ノニオン性水溶性樹脂は、重量平均分子量が2000以上であり、含有量がインク組成物の総質量に対し1質量%以下であり、水系のものである。
【0009】
本発明に係る記録方法の一態様は、
上記一態様のインクジェットインク組成物をインクジェット法により吐出して記録媒体に付着させるインク付着工程を備えるものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】インクジェット記録装置の一例のキャリッジ周辺の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の例を説明するものである。本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形形態も含む。なお、以下で説明される構成の全てが本発明の必須の構成であるとは限らない。
【0012】
1.インクジェットインク組成物
本発明の一実施形態に係るインクジェットインク組成物は、顔料と、難水溶性低分子有機化合物と、ノニオン性水溶性樹脂と、を含有し、前記顔料は、自己分散顔料、又は分散剤樹脂により分散された樹脂分散顔料であり、前記ノニオン性水溶性樹脂は、重量平均分子量が2000以上であり、含有量がインク組成物の総質量に対し1質量%以下であり、水系のものである。
【0013】
水系のインクを用いた記録においては、インクが記録媒体上で濡れ広がり難い(埋まりが悪い)傾向にある。そのため、インクジェットヘッドのノズルの個体差などによって生じる、ノズルから吐出されるインク滴の吐出量の僅かなズレや、僅かな着弾位置のズレによって、記録された画像に筋状のムラが見えるバンディングムラが生じやすい。
【0014】
今般、インクに難水溶性低分子有機化合物を含有させたところ、バンディングムラを低減できることが判明した。これは、難水溶性低分子有機化合物が高い疎水性を有し、これを含有するインクの記録媒体に対する濡れ広がりを向上できるためと推測する。しかしながら、難水溶性低分子有機化合物は、インクが乾燥したときに異物を生じやすく、保存安定性や目詰まり回復性が悪化しやすかった。
【0015】
そこで、本発明者が鋭意検討した結果、インクに特定のノニオン性水溶性樹脂をさらに含有させることで、保存安定性や目詰まり回復性に優れることを見出した。これは、難水溶性低分子有機化合物と、水等の溶媒成分との相溶性を、特定のノニオン性水溶性樹脂により向上できるためと推測する。なお、ノニオン性水溶性樹脂の分子量が所定未満である場合には、難水溶性低分子有機化合物による保存安定性や目詰まり回復性の悪化を抑制する効果は得られなかった。
【0016】
その一方で、特定のノニオン性水溶性樹脂を含有させると、インクの粘度が増加したり、その他インクの吐出特性が悪化したりして、インク滴の着弾位置ズレが発生する場合があった。そこで、特定のノニオン性水溶性樹脂を所定量以下の含有量とすることで、着弾位置ズレにおいても優れて低減できることが判明した。よって、本実施形態に係るインクジェットインク組成物によれば、バンディングムラを低減でき画質(濡れ広がり)に優れるとともに、保存安定性に優れ、着弾位置ズレを優れて低減できる。また、特定のノニオン性水溶性樹脂を所定量以下の含有量とすることで、印刷物の耐擦性も優れる。
【0017】
以下、本実施形態に係るインクジェットインク組成物が含有する各成分について説明する。
【0018】
1.1 顔料
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、顔料を含有する。顔料は、光やガス等に対して退色しにくい性質を有している。顔料を用いて記録媒体上に形成された画像は、画質に優れるだけでなく、耐水性、耐ガス性、耐光性等に優れ、保存性が良好となる。この性質は、特に低吸収記録媒体又は非吸収記録媒体である記録媒体上に画像が形成される場合に顕著である。
【0019】
顔料としては、特に制限されないが、無機顔料や有機顔料が挙げられる。無機顔料としては、酸化チタンおよび酸化鉄に加え、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法等の公知の方法によって製造されたカーボンブラックを使用することができる。一方、有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、多環式顔料、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック等を使用することができる。アゾ顔料としては、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等が挙げられる。多環式顔料としては、例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キノフラロン顔料等が挙げられる。
【0020】
ブラックインクに使用される顔料としては、例えば、カーボンブラックが挙げられる。カーボンブラックとしては、特に限定されないが、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、もしくはチャンネルブラック等(C.I.ピグメントブラック7)、また市販品としてNo.2300、900、MCF88、No.20B、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA77、MA100、No.2200B等(以上全て商品名、三菱化学株式会社製)、カラーブラックFW1、FW2、FW2V、FW18、FW200、S150、S160、S170、プリテックス35、U、V、140U、スペシャルブラック6、5、4A、4、250等(以上全て商品名、デグサ社製)、コンダクテックスSC、ラーベン1255、5750、5250、5000、3500、1255、700等(以上全て商品名、コロンビアカーボン社製)、リガール400R、330R、660R、モグルL、モナーク700、800、880、900、1000、1100、1300、1400、エルフテックス12等(以上全て商品名、キャボットジャパン株式会社製)が挙げられる。
【0021】
ホワイトインクに使用される顔料としては、特に限定されないが、例えば、C.I.ピグメントホワイト 6、18、21、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、酸化アンチモン、酸化マグネシウム、及び酸化ジルコニウムの白色無機顔料が挙げられる。当該白色無機顔料以外に、白色の中空樹脂微粒子及び高分子粒子などの白色有機顔料を使用することもできる。
【0022】
イエローインクに使用される顔料としては、特に限定されないが、例えば、C.I.ピグメントイエロー 1、2、3、4、5、6、7、10、11、12、13、14、16、17、24、34、35、37、53、55、65、73、74、75、81、83、93、94、95、97、98、99、108、109、110、113、114、117、120、124、128、129、133、138、139、147、151、153、154、155、167、172、180が挙げられる。
【0023】
マゼンタインクに使用される顔料としては、特に限定されないが、例えば、C.I.ピグメントレッド 1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、14、15、16、17、18、19、21、22、23、30、31、32、37、38、40、41、42、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、88、112、114、122、123、144、146、149、150、166、168、170、171、175、176、177、178、179、184、185、187、202、209、219、224、245、又はC.I.ピグメントヴァイオレット 19、23、32、33、36、38、43、50、及び上記複数顔料の固溶体などが挙げられる。
【0024】
シアンインクに使用される顔料としては、特に限定されないが、例えば、C.I.ピグメントブルー 1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:4、16、18、22、25、60、65、66、C.I.バットブルー 4、60が挙げられる。
【0025】
また、マゼンタ、シアン、およびイエロー以外のカラーインクに使用される顔料としては、特に限定されないが、例えば、C.I.ピグメント グリーン 7、10、C.I.ピグメントブラウン 3、5、25、26、C.I.ピグメントオレンジ 1、2、5、7、13、14、15、16、24、34、36、38、40、43、63が挙げられる。
【0026】
パール顔料としては、特に限定されないが、例えば、二酸化チタン被覆雲母、魚鱗箔、酸塩化ビスマス等の真珠光沢や干渉光沢を有する顔料が挙げられる。
【0027】
メタリック顔料としては、特に限定されないが、例えば、アルミニウム、銀、金、白金、ニッケル、クロム、錫、亜鉛、インジウム、チタン、銅などの単体又は合金からなる粒子が挙げられる。
【0028】
上記顔料は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
本実施形態に係るインクジェットインク組成物に含有される顔料は、自己分散顔料、又は分散剤樹脂により分散された樹脂分散顔料である。
【0030】
1.1.1 自己分散顔料
「自己分散顔料」とは、分散剤なしに水性媒体中に分散又は溶解することが可能な顔料である。なお、「分散剤なしに水性媒体中に分散又は溶解する」とは、顔料を分散させるための分散剤を用いなくても、その表面の親水基により、水性媒体中に安定に存在している状態をいう。自己分散顔料は、分散剤に起因する消泡性の低下が生じないため、発泡を抑制でき吐出安定性に優れるインクが調製しやすい。また、分散剤に起因する大幅な粘度上昇が抑えられるため、顔料をより多く含有することが可能となり印字濃度を十分に高めることが可能になる等、取り扱いが容易である。
【0031】
上記の親水基は、-OM、-COOM、-CO-、-SO3M、-SO2M、-SO2NH2、-RSO2M、-PO3HM、-PO3M2、-SO2NHCOR、-NH3、及び-NR3からなる群から選択される一以上の親水基であることが好ましい。
【0032】
なお、これらの化学式中、Mは、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、置換基を有していてもよいフェニル基、又は有機アンモニウムを表し、Rは、炭素原子数1~12のアルキル基または置換基を有していてもよいナフチル基を表す。また、上記のM及びRは、それぞれ互いに独立して選択される。
【0033】
自己分散顔料は、例えば、顔料に物理的処理または化学的処理を施すことで、前記親水基を顔料の表面に結合(グラフト)させることにより製造される。当該物理的処理としては、例えば真空プラズマ処理等が例示できる。また、当該化学的処理としては、例えば水中で酸化剤により酸化する湿式酸化法や、p-アミノ安息香酸を顔料表面に結合させることによりフェニル基を介してカルボキシル基を結合させる方法等が例示できる。
【0034】
1.1.2 樹脂分散顔料
「樹脂分散顔料」とは、分散剤樹脂によって分散可能とした顔料である。分散剤樹脂は、顔料の分散に用いている樹脂であり、顔料に付着、吸着、顔料を被覆などしている樹脂である。
分散剤樹脂としては、特に制限されず、例えば、ポリビニルアルコール類、ポリビニルピロリドン類、ポリアクリル酸、アクリル酸-アクリルニトリル共重合体、酢酸ビニル-アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-マレイン酸共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン-アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン-マレイン酸共重合体、酢酸ビニル-マレイン酸エステル共重合体、酢酸ビニル-クロトン酸共重合体、酢酸ビニル-アクリル酸共重合体等およびこれらの塩が挙げられる。これらの中で、特に、疎水性官能基を有するモノマーと親水性官能基を有するモノマーとの共重合体、疎水性官能基と親水性官能基とを併せ持つモノマーからなる重合体が好ましい。共重合体の形態としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体のいずれの形態でも用いることができる。
【0035】
上記の塩としては、アンモニア、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジプロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリ-iso-プロパノールアミン、アミノメチルプロパノール、モルホリン等の塩基性化合物との塩が挙げられる。これら塩基性化合物の添加量は、上記分散剤樹脂の中和当量以上であれば特に制限はない。
【0036】
好ましい分散剤樹脂としては、(メタ)アクリレート及び(メタ)アクリル酸のうち少なくとも一方を、樹脂の構成成分の好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上とする樹脂である。
【0037】
より好ましい分散剤樹脂としては、モノマー成分として、炭素数1~24のアルキル(メタ)アクリレート及び炭素数3~24の環状アルキル(メタ)アクリレートのうち少なくとも一方を、好ましくは70質量%以上、より好ましくは75質量%以上で重合した樹脂である。
【0038】
当該モノマー成分の具体例としては、以下に限定されないが、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、t-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、テトラメチルピペリジル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシ(メタ)アクリレート、及びベヘニル(メタ)アクリレートが挙げられる。また、その他の重合用モノマー成分として、スチレン、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、及びジエチレングリコール(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基を有するヒドロキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、並びにエポキシ(メタ)アクリレートを用いることもできる。
【0039】
なお、本明細書において、(メタ)アクリルとの表記は、アクリル及びメタクリルの少なくとも一方を意味する。(メタ)アクリレートとの表記は、アクリレート及びメタクリレートの少なくとも一方を意味する。
【0040】
分散剤樹脂のガラス転移温度(Tg)は、80℃以下であることが好ましく、75℃以下がより好ましい。当該Tgが80℃以下であると、インクの定着性を良好なものとすることができる場合がある。
【0041】
また、分散剤樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による重量平均分子量は、10,000以上200,000以下であることが好ましい。これにより、インクの保存安定性が一層良好となる場合がある。分散剤樹脂の重量平均分子量は、後述するノニオン性水溶性樹脂と同様にして、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。
【0042】
樹脂分散顔料は、分散剤樹脂により分散した顔料であり、分散剤樹脂が顔料に付着、吸着、被覆などしている顔料である。また、インクの定着性、光沢性、及び色再現性に特に優れる傾向にあるため、上記樹脂分散顔料は、分散剤樹脂に被覆された顔料、即ちマイクロカプセル化顔料が好ましく、好適に用いられる。
【0043】
樹脂分散顔料は、例えば、顔料と分散剤樹脂とを、水中や、必要に応じ水と有機溶剤の混合液中で、混錬・分散処理することによって得られる。
また、樹脂分散顔料のうち、分散剤樹脂に被覆された顔料は、例えば、転相乳化法により得られる。転相乳化法としては、例えば、上記の分散剤樹脂をメタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、及びジブチルエーテル等の有機溶媒に溶解させる。得られた溶液に顔料を添加し、次いで中和剤及び水を添加して混練・分散処理を行うことにより水中油滴型の分散体を調整する。そして、得られた分散体から有機溶媒を除去することによって、水分散体として分散剤樹脂に被覆された顔料を得ることができる。
混練・分散処理は、例えば、ボールミル、ロールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、及び高速攪拌型分散機などを用いることができる。
【0044】
中和剤としては、エチルアミン、トリメチルアミン等の3級アミン、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及びアンモニア等が好ましい。得られる水分散体のpHは6~10であることが好ましい。
【0045】
顔料を被覆する分散剤樹脂としては、GPCによる重量平均分子量が10,000~150,000程度のものが、顔料を安定的に分散させる点で好ましい。
【0046】
顔料(固形分)の含有量は、例えば、インク組成物の総質量に対し1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上であることがさらに好ましい。また、顔料(固形分)の含有量は、インク組成物の総質量に対し10質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましく、6質量%以下であることがさらに好ましい。顔料の含有量が上記範囲内であると、保存安定性により優れる場合がある。
【0047】
1.2 難水溶性低分子有機化合物
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、難水溶性低分子有機化合物を含有する。難水溶性低分子有機化合物は高い疎水性を有する。ゆえに、これを含有するインクは、特に低吸収又は非吸収の記録媒体との親和性が高く、インクがぬれ広がりやすい傾向にある。その結果として、優れたバンディングムラ抑制が得られたものと推測するが、理由はこれに限られない。
【0048】
本発明において、「難水溶性」とは、20℃の水100gに対する溶解度が10g以下であることをいい、溶解度が0gであることも含む。
【0049】
難水溶性低分子有機化合物における20℃の水100gに対する溶解度の上限としては、10g以下であり、8g以下が好ましく、6g以下がより好ましく、4g以下がさらに好ましく、2g以下が特に好ましく、1g以下がより特に好ましい。
難水溶性低分子有機化合物における20℃の水100gに対する溶解度の下限としては、特に限定されず、0g以上であってよく、0.01g以上であってもよく、0.5g以上であってもよく、0.1g以上であってもよい。
【0050】
本発明における溶解度は、以下の方法により求められる。まず、20℃の環境下で、水100gに対して所定量の化合物を混合し、30分攪拌する。攪拌後、常温で液体の化合物については、相分離または海島構造になっていない場合、溶解すると判断する。また、常温で固体の化合物については、溶け残りがない場合に、溶解すると判断する。
このようにして、水100gに対して所定量の化合物を混合した時に、溶解したと判断された場合の所定量のうち最も多い所定量を溶解度とする。
【0051】
本発明において「低分子」とは、分子量が300以下であることをいう。
【0052】
難水溶性低分子有機化合物における分子量の上限は、300以下であり、250以下が好ましく、200以下がより好ましい。
【0053】
難水溶性低分子有機化合物の標準沸点は、特に制限されないが、300℃以下であることが好ましく、280℃以下であることがより好ましく、270℃以下であることがさらに好ましい。標準沸点の下限は、特に制限されないが、100℃以上が好ましく、150℃以上がより好ましく、200℃以上がさらに好ましく、250℃以上が特に好ましい。
【0054】
難水溶性低分子有機化合物の融点は、130℃以下であることが好ましい。また融点は-120℃以上が好ましい。さらに-50~60℃が好ましく、-30~50℃がより好ましい。
【0055】
難水溶性低分子有機化合物としては、例えば、有機溶剤(常温で液体)や常温で固体の化合物が挙げられる。好ましくは難水溶性低分子有機化合物は、アルカンジオール類、モノアルコール類、グリコールモノエーテル類の何れか1種以上を含むものであり、より好ましくはアルカンジオール類である。難水溶性低分子有機化合物が上記のものを含む場合には、インクが記録媒体上でより濡れ広がりやすく、バンディングムラをより低減でき画質(濡れ広がり)により優れる傾向にある。さらに、インクが乾燥したときに異物を生じにくいため、保存安定性や目詰まり回復性により優れる傾向にある。
【0056】
1.2.1 アルカンジオール類
難水溶性低分子有機化合物であるアルカンジオール類としては、例えば、脂肪族ジオール、脂環式ジオール類などがあげられる。脂肪族ジオールとしては、1,3-アルカンジオール類や、1,3-アルカンジオール類以外の、脂肪族ジオール類があげられる。
【0057】
脂肪族ジオール類としては、例えば、炭素数6以上の脂肪族ジオール類があげられ、さらに炭素数8~20の脂肪族ジオール類があげられる。
【0058】
1,3-アルカンジオール類としては、例えば、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール(DEPOD、標準沸点240℃、25℃性状:固体、溶解度10.0[g/水100g])、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール(MPPD、標準沸点230℃、融点57℃、溶解度7.5[g/水100g])、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール(BEPG、標準沸点264℃、融点43℃、溶解度0.9[g/水100g])、2,2-ジイソブチル-1,3-プロパンジオール(DIBPD、標準沸点253℃、融点77℃、溶解度0.5[g/水100g])、2,2-ジブチル-1,3-プロパンジオール(DBPD、標準沸点269℃、溶解度0.2[g/水100g])、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール(TMPD、標準沸点232℃、融点54℃、溶解度1.9[g/水100g])、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール(EHD、標準沸点244℃、融点-40℃、溶解度4.2[g/水100g])、などが挙げられる。
【0059】
1,3-アルカンジオール類以外の脂肪族ジオール類としては、例えば、1,2-オクタンジオール(1,2OD、標準沸点267℃、融点26℃、溶解度0.8[g/水100g])、1,9-ノナンジオール(1,9ND、標準沸点289℃、融点46℃、溶解度0.6[g/水100g])、1,2-デカンジオール(標準沸点279℃、融点49℃、溶解度0.1[g/水100g])、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール(DEPD、標準沸点257℃、液体(25℃)、溶解度1.0[g/水100g])、などが挙げられる。
【0060】
脂環式ジオール類としては、例えば、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール(TMCD、標準沸点220℃、融点126℃、溶解度6.1[g/水100g])、1,4-シクロヘキサンジメタノール(CHDM、標準沸点286℃、融点35℃、溶解度0.8[g/水100g])、などが挙げられる。
脂環式ジオール類が有する脂環式構造としては例えば炭素数4~10の脂環を有する脂環式ジオール類があげられる。
脂環式ジオール類の分子内の炭素数は、上記脂肪族ジオール類の炭素数と同様なものがあげられる。
【0061】
これらの中でも、画質(濡れ広がり)や保存安定性や目詰まり回復性により優れる傾向にある観点から、アルカンジオール類は、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール(BEPG)、1,2-オクタンジオール(1,2OD)から選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0062】
なお、上記1,3-アルカンジオール類の中でも、画質(濡れ広がり)や保存安定性や目詰まり回復性により優れる傾向にある観点から、下記一般式(1)で表される1,3-アルカンジオール類が好ましい。
【化1】
(式(1)中、R
1,R
2,R
3は、独立して水素またはアルキル基である。R
1,R
2およびR
3の合計炭素数は3~9である。)
【0063】
さらには、上記式中、R1,R2は同時に水素ではないことが好ましい。R1,R2,R3がアルキル基である場合、アルキル基は、独立して、炭素数1~5が好ましく、2~4がより好ましい。R1,R2およびR3の合計炭素数は4~5が好ましく、4~6がより好ましい。R3はアルキル基であることが好ましい。
【0064】
上記一般式(1)で表される1,3-アルカンジオール類としては、例えば、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール(MPPD)、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール(BEPG)、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール(TMPD)、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール(EHD)などを例示でき、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール(BEPG)が好ましい。
【0065】
1.2.2 モノアルコール類
難水溶性低分子有機化合物であるモノアルコール類としては、例えば炭素数4~10のモノアルコール類があげられる。
例えば、シクロヘキサノール(標準沸点161℃、液体(25℃)、溶解度3.8[g/水100g])、2-メチル-1-プロパノール(標準沸点108℃、液体(25℃)、溶解度7.0[g/水100g])、1-ブタノール(標準沸点118℃、液体(25℃)、溶解度6.6[g/水100g])、2-メチル-1-ブタノール(標準沸点128℃、液体(25℃)、溶解度3.0[g/水100g])、3-メチル-1-ブタノール(標準沸点132℃、液体(25℃)、溶解度2.6[g/水100g])、1-ペンタノール(標準沸点137℃、液体(25℃)、溶解度2.1[g/水100g])、4-メチル-2-ペンタノール(標準沸点132℃、液体(25℃)、溶解度2.2[g/水100g])、1-ヘキサノール(1-Hex、標準沸点157℃、液体(25℃)、溶解度0.1[g/水100g])、などが挙げられる。
【0066】
これらの中でも、画質(濡れ広がり)や保存安定性や目詰まり回復性により優れる傾向にある観点から、モノアルコール類は、1-ヘキサノール(1-Hex)であることが好ましい。
【0067】
1.2.3 グリコールモノエーテル類
難水溶性低分子有機化合物であるグリコールモノエーテル類としては、例えば、エチレングリコールモノヘキシルエーテル(EGHE、標準沸点208℃、融点-45℃、溶解度1.0[g/水100g])、エチレングリコールモノ2-エチルヘキシルエーテル(EHG、標準沸点229℃、融点-105℃、溶解度0.1[g/水100g])、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(HDG、標準沸点259℃、液体(25℃)、溶解度1.7[g/水100g])、ジエチレングリコールモノ2-エチルヘキシルエーテル(EHDG、標準沸点277℃、融点-82℃、溶解度0.5[g/水100g])、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル(BPDG、標準沸点230℃、液体(25℃)、溶解度4.0[g/水100g])、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル(BPTG、標準沸点276℃、溶解度4.0[g/水100g])、などが挙げられる。
【0068】
上記グリコールモノエーテル類の中でも、画質(濡れ広がり)や保存安定性や目詰まり回復性により優れる傾向にある観点から、エーテル部の炭素数4以上のグリコールモノエーテル類であることが好ましい。さらにエーテル部の炭素数は6~10が好ましい。
グリコールモノエーテル類の分子中の炭素数は、6~20が好ましく、8~15がより好ましい。
グリコールモノエーテル類としては、例えば、エチレングリコールモノヘキシルエーテル(EGHE)、エチレングリコールモノ2-エチルヘキシルエーテル(EHG)、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(HDG)、ジエチレングリコールモノ2-エチルヘキシルエーテル(EHDG)、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル(BPDG)、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル(BPTG)などが挙げられる。
【0069】
難水溶性低分子有機化合物の含有量は、インク組成物の総質量に対し0.1質量%以上2質量%以下であることが好ましい。かかる含有量の範囲であると、画質(濡れ広がり)と目詰まり回復性をバランスよく良好にできる傾向にある。含有量の下限値は、0.3質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上がさらに好ましく、0.7質量%以上が特に好ましい。含有量の上限値は、1.7質量%以下がより好ましく、1.5質量%以下がさらに好ましく、1.2質量%以下が特に好ましい。
【0070】
1.3 ノニオン性水溶性樹脂
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、重量平均分子量が2000以上であるノニオン性水溶性樹脂を、インク組成物の総質量に対し1質量%以下の含有量で含有する。これにより、上述した難水溶性低分子有機化合物を含有する場合であっても、保存安定性や目詰まり回復性に優れるとともに、着弾位置ズレや耐擦性についても優れたものとできる。なお、ノニオン性水溶性樹脂は、前述の分散剤樹脂とは異なるものである。
【0071】
本発明において、「水溶性」とは、20℃の水100gに対する溶解度が10g超であることをいう。
ノニオン性は、アニオン性やカチオン性ではないものである。例えば、分子中にアニオン性基やカチオン性基を有さないものである。
【0072】
ノニオン性水溶性樹脂における20℃の水100gに対する溶解度は10g超であり、11g以上が好ましく、50g以上がより好ましい。上限は限るものではなく無限大でもよい。なお、ノニオン性水溶性樹脂における溶解度は、前述した方法と同様にして求められる。
【0073】
ノニオン性水溶性樹脂における重量平均分子量は、2000以上であり、3000以上が好ましく、4000以上がより好ましく、5000以上がさらに好ましい。重量平均分子量の上限値は、特に制限されないが、50000以下が好ましく、45000以下がより好ましく、40000以下がさらに好ましく、35000以下がよりさらに好ましく、30000以下が特に好ましく、25000以下がより特に好ましく、20000以下が殊に好ましい。
【0074】
なお、ノニオン性水溶性樹脂における重量平均分子量は、日立製作所社(Hitachi, Ltd.)製L7100システムのゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算の重量平均分子量として測定することができる。
【0075】
ノニオン性水溶性樹脂の含有量は、インク組成物の総質量に対し1質量%以下である。これにより、着弾位置ズレ等のインクの吐出特性や耐擦性を良好にできる。
ノニオン性水溶性樹脂の含有量の上限は、0.9質量%以下が好ましく、0.8質量%以下がより好ましく、0.7質量%以下がさらに好ましく、0.6質量%以下が特に好ましく、0.5質量%以下がより特に好ましい。これにより、着弾位置ズレ等のインクの吐出特性や耐擦性をより良好にできる傾向にある。
ノニオン性水溶性樹脂の含有量の下限値は、特に制限されないが、0.05質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、0.2質量%以上がさらに好ましく、0.3質量%以上が特に好ましい。これにより、保存安定性や目詰まり回復性をより向上できる傾向にある。
【0076】
ノニオン性水溶性樹脂は、ポリビニルピロリドン、ポリ-N-ビニルアセトアミド、ポリビニルアルコ―ル、ポリアルキレンオキシド(ポリアルキレングリコール)の何れか1種以上を含むことが好ましく、ポリビニルピロリドンであることがより好ましい。かかる場合には、難水溶性低分子有機化合物と、水等の溶媒成分との相溶性を、より向上できる傾向にあると推測する。これにより、バンディングムラを低減でき画質(濡れ広がり)に優れるとともに、保存安定性により優れ、着弾位置ズレをより優れて低減できる傾向にある。
【0077】
ポリビニルピロリドンとしては、ノニオン性かつ水溶性であればホモポリマーに限定されず、ビニルピロリドンと他のモノマーとも共重合体を用いてもよい。ポリビニルピロリドンは、市販品を用いもよく、例えば、市販の試薬、ポリビニルピロリドンK-30、K-30W(以上商品名、日本触媒社)、ピッツコール(登録商標)K-17L、K-30L、K-30AL、K-60L、K-17(重量平均分子量9000)、K-30(重量平均分子量45000)、K-50、クリージャス(登録商標)K-30、アイフタクト(登録商標)K-30PH(以上商品名、第一工業製薬社)、PVP K-30、PVP K-25、PVP K-17(以上商品名、アシュランド社)、Sokalan K 17 P(重量平均分子量9000)(以上商品名、BASF社)などが挙げられる。
【0078】
ポリ-N-ビニルアセトアミドとしては、ノニオン性かつ水溶性であればホモポリマーに限定されず、N-ビニルアセトアミドと他のモノマーとも共重合体を用いてもよい。ポリ-N-ビニルアセトアミドは、市販品を用いもよく、例えば、GE191-107(重量平均分子量50000)、GE191-108(重量平均分子量10000)(以上商品名、昭和電工社)などが挙げられる。
【0079】
ポリビニルアルコ―ルとしては、ノニオン性かつ水溶性であればホモポリマーに限定されず、ビニルアルコールと他のモノマーとも共重合体を用いてもよい。ポリビニルアルコ―ルは、市販品を用いもよく、例えば、PVA-203(重量平均分子量16000)(以上商品名、クラレ社)などが挙げられる。
【0080】
ポリアルキレンオキシドとしては、ノニオン性かつ水溶性であればホモポリマーに限定されず、アルキレンオキシドと他のモノマーとも共重合体を用いてもよい。また、例えば、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとの共重合体のように、複数種のアルキレンオキシドを含むポリアルキレンオキシドを用いてもよい。ポリアルキレンオキシドは、市販品を用いもよく、例えば、ペオ(登録商標)-1、2、3、4、8、15、18、27、29(以上商品名、住友精化社)、アルコックス(登録商標)L-6(重量平均分子量60000)、L-8、L-11、E-30、E-45、E-60、E-75、E-100、E-160、E-240、E-300、R-150、R-400、R-1000(以上商品名、明成化学工業社)、PEG-6000(重量平均分子量8300)(以上商品名、ADEKA社)などが挙げられる。
【0081】
1.4 水
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、水系の組成物である。水系の組成物は、組成物の溶媒成分として少なくとも水を含有する組成物である。
【0082】
水の含有量は、液媒体成分中、好ましくは30~100質量%であり、より好ましくは40~90質量%であり、さらに好ましくは50~80質量%である。なお、液媒体とは、水や水溶性低分子有機化合物などの溶媒成分である。
【0083】
また、水の含有量は、インク組成物の総質量に対して40質量%以上が好ましく、45質量%以上がさらに好ましく、50質量%以上がより好ましく、60質量%以上が特に好ましい。水の含有量の上限は、特に制限されないが、例えば、インク組成物の総質量に対して好ましくは99質量%以下であり、さらには90質量%以下であり、より好ましくは85質量%以下であり、さらに好ましくは80質量%以下である。
【0084】
水としては、例えば、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、及び蒸留水等の純水、並びに超純水のような、イオン性不純物を低減したものが挙げられる。また、紫外線照射又は過酸化水素の添加等によって滅菌した水を用いると、インクジェットインク組成物を長期保存する場合に細菌類や真菌類の発生を抑制することができる。
【0085】
1.5 水溶性低分子有機化合物
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、水溶性低分子有機化合物を含有していてもよい。水溶性低分子有機化合物としては、常温で液体であるものや常温で固体であるものが挙げられる。インクが水溶性低分子有機化合物を含有することにより、インクの目詰まり回復性や、保存安定性や画質などが優れる傾向にある。
【0086】
水溶性低分子有機化合物における「水溶性」や「低分子」の定義は、前述した通りである。すなわち、水溶性低分子有機化合物において、20℃の水100gに対する溶解度は10g超であり、分子量は300以下である。なお、水溶性低分子有機化合物における溶解度は、前述した方法と同様にして求められる。
【0087】
水溶性低分子有機化合物の溶解度は、11g以上が好ましく、50g以上がより好ましい。上限は限るものではなく無限大でもよい。
【0088】
水溶性低分子有機化合物は、水と完全混和する化合物、または水と混和する化合物であることが好ましい。ここで、「水と完全混和」とは、水と有機化合物が相互に溶解する場合、すなわち20℃の水100gに対する当該有機化合物の溶解度が無限大の場合を呼ぶ。また、「水と混和」とは、水と有機化合物が有限の溶解度をもつ場合であり、少なくとも20℃の水100gに対する当該有機化合物の溶解度が10g超である場合を呼ぶ。
【0089】
水溶性低分子有機化合物の分子量は、250以下がより好ましく、200以下がさらに好ましい。また、下限は特に制限されないが、50以上が好ましい。
【0090】
水溶性低分子有機化合物は、標準沸点が150~350℃のものを含むことが好ましく、標準沸点が150~320℃がより好ましい。また、水溶性低分子有機化合物は、融点が90℃以下の化合物を含むことが好ましく、80℃以下の化合物を含むことがより好ましい。融点の下限は、特に限定されないが、-70℃以上が好ましい。
【0091】
水溶性低分子有機化合物としては、例えば、樹脂溶解物質、ポリオール類、グリコールエーテル類、アルカノールアミン類などが挙げられる。必要に応じて、他の水溶性低分子有機化合物を含んでもよい。
【0092】
これらの中でも、水溶性低分子有機化合物は、樹脂溶解物質、ポリオール類、アルカノールアミン類が好ましい。より好ましくは、水溶性低分子有機化合物は、標準沸点が250℃超である、アミド類、含硫黄溶剤、環状エーテル類の何れかである樹脂溶解物質及びアルカノールアミン類、並びに、標準沸点が250℃以下であるポリオール類である。
【0093】
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、水溶性低分子有機化合物を、インク組成物の総質量に対し、50質量%以下含むことが好ましく、40質量%以下含むことがより好ましく、30質量%以下含むことがさらに好ましい。また、下限値としては、インク組成物の総質量に対し、5質量%以上含むことが好ましく、10質量%以上含むことがより好ましく、15質量%以上含むことがさらに好ましい。
水溶性低分子有機化合物を上記範囲内で含有する場合には、水溶性低分子有機化合物と難水溶性低分子有機化合物との相溶性がより良好になり、保存安定性により優れる傾向にある。
【0094】
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、標準沸点が250℃以下の水溶性低分子有機化合物を含有し、該標準沸点が250℃以下の水溶性低分子有機化合物の含有量がインク組成物の総質量に対し5質量%以上30質量%以下であることが好ましく、10質量%以上28質量%以下であることがより好ましく、15質量%以上26質量%以下であることがさらに好ましく、20質量%以上23質量%以下であることが特に好ましい。
また、標準沸点が250℃以下の水溶性低分子有機化合物の中でも、標準沸点が250℃以下のポリオール類が好ましく、標準沸点が250℃以下のアルカンジオール類がより好ましくこれらの含有量を上記範囲としてもよい。
かかる場合には、耐擦性、目詰まり回復性及び着弾位置ズレをバランスよく良好にできる傾向にある。
【0095】
1.5.1 樹脂溶解物質
樹脂溶解物質としては、例えば、アミド類、含硫黄溶剤、環状エーテル類などを挙げることができる。特に、インクの保存安定性をより向上できる観点から、標準沸点が250℃超である、アミド類、含硫黄溶剤、環状エーテル類の何れかを含有することが好ましく、標準沸点が250℃超であるアミド類を含有することがより好ましい。なお、樹脂溶解物質とは、樹脂を溶解し耐擦過性を向上させる機能をもつ有機化合物であるが、この機能に限定されるものではない。
【0096】
(アミド類)
アミド類としては、例えば、2-ピロリドン(2P)、2-ピペリドン、ε-カプロラクタム(CPL、標準沸点267℃、固体(25℃))、N-メチル-ε-カプロラクタム、N-シクロヘキシル-2-ピロリドン、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、N-ブチルピロリドン、5-メチル-2-ピロリドン、β-プロピオラクタム、ω-ヘプタラクタムなどの環状アミド(ラクタム)、N,N-ジメチルアセトアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアセトアミド、N-メチルアセトアセトアミド、N,N-ジメチルイソ酪酸アミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド(DMPA)、3-n-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-メトキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-メトキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド、3-エトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-エトキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-エトキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド、3-n-ブトキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-n-ブトキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド、3-n-プロポキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-n-プロポキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-n-プロポキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド、3-iso-プロポキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-iso-プロポキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-iso-プロポキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド、3-tert-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-tert-ブトキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-tert-ブトキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミドなどの鎖状アミドが挙げられる。
これらの中でも、インクの保存安定性をより向上できる観点から、2-ピロリドン(2P)、ε-カプロラクタム(CPL)、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド(DMPA)のいずれかが好ましく、ε-カプロラクタム(CPL)がより好ましい。
【0097】
(含硫黄溶剤)
含硫黄溶剤としては、例えば、3-メチルスルホラン、スルホラン、エチルイソプロピルスルホン、エチルメチルスルホン、ジメチルスルホン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジエチルスルホキシド、テトラメチレンスルホキシド、メチルフェニルスルホキシドなどが挙げられる。
これらの中でも、インクの保存安定性をより向上できる観点から、ジメチルスルホキシド(DMSO)がより好ましい。
【0098】
(環状エーテル類)
環状エーテル類としては、例えば、イソソルビドジメチルエーテル、3-メチル-3-オキセタンメタノール、3-エチル-3-オキセタンメタノール(DMHD)、2-ヒドロキシメチルオキセタン、テトラヒドロフルフリルアルコール、ソルケタール、グリセロールホルマール、1,4-ジオキサン-2,3-ジオール、ジヒドロレボグルコセノンなどが挙げられる。
これらの中でも、インクの保存安定性をより向上できる観点から、3-エチル-3-オキセタンメタノール(DMHD)がより好ましい。
【0099】
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、水溶性低分子有機化合物として、樹脂溶解物質を、インク組成物の総質量に対し、10質量%以下含むことが好ましく、8質量%以下含むことがより好ましく、5質量%以下含むことがさらに好ましく、3質量%以下含むことが特に好ましい。また、下限値としては、特に制限されないが、0.05質量%以上含むことが好ましく、0.1質量%以上含むことがより好ましく、0.5質量%以上含むことがさらに好ましい。また、樹脂溶解物質の中でも、アミド類が好ましく、標準沸点が250℃超であるアミド類がより好ましく、これらの含有量を上記範囲としてもよい。
これらの樹脂溶解物質の含有量が上記範囲内にあると、インク組成物中での、水溶性低分子有機化合物と難水溶性低分子有機化合物との相溶性が良好になり、保存安定性や耐擦性により優れる傾向にある。
【0100】
1.5.2 ポリオール類
ポリオール類は、分子中に2個以上の水酸基を有するものである。ポリオール類は、例えば、ジオール類、多価アルコール類があげられる。
【0101】
ポリオール類は、分子中の炭素数が15以下が好ましく、10以下がより好ましい。炭素数の下限は、特に限定されないが、2以上が好ましく、3以上がより好ましい。
【0102】
ポリオール類の標準沸点は、250℃以下が好ましく、150~250℃がより好ましい。
【0103】
(ジオール類)
ジオール類とは、分子中に2個の水酸基を有するものである。ジオール類としては、例えば、アルカンジオール類、アルカンジオール類の2分子以上が水酸基同士で分子間縮合した縮合物などが挙げられる。
【0104】
アルカンジオール類におけるグリコール又はアルカンジオール類の2分子以上が水酸基同士で分子間縮合した縮合物におけるグリコール単位は、炭素数2~10が好ましく、3~8がより好ましい。
【0105】
アルカンジオール類としては、例えば、エチレングリコール(標準沸点198℃、水と混和)、1,2-プロパンジオール(プロピレングリコール:PG)(標準沸点188℃、水と完全混和)、1,2-ブタンジオール(標準沸点193℃、水と混和)、1,2-ペンタンジオール(標準沸点210℃、水と混和)、1,2-ヘキサンジオール(標準沸点224℃、水と完全混和)、1,3-プロパンジオール(標準沸点214℃、水と完全混和)、1,4-ブタンジオール(標準沸点228℃、水と完全混和)、2,3-ブタンジオール(標準沸点177℃、水と混和)、1,3-ブチレングリコール(標準沸点207℃、水と完全混和)、3-メチル-1,3-ブタンジオール(標準沸点203℃、水と完全混和)、2-メチル-1,3-プロパンジオール(標準沸点214℃、水と完全混和)、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール(標準沸点208℃、溶解度83[g/水100g])、2-メチルペンタン-2,4-ジオール(標準沸点197℃、水と完全混和)、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール(標準沸点218℃、溶解度14[g/水100g])、1,5-ペンタンジオール(標準沸点242℃、水と混和)、3-メチル-1,5-ペンタンジオール(標準沸点250℃、水と完全混和)、1,2-ヘキサンジオール(1,2HD、標準沸点224℃、水と混和)、1,6-ヘキサンジオール(標準沸点250℃、水と混和)、などが挙げられる。
【0106】
アルカンジオール類の2分子以上が水酸基同士で分子間縮合した縮合物としては、例えば、ジエチレングリコール(標準沸点244℃、水と完全混和)、ジプロピレングリコール(標準沸点227℃、水と完全混和)等のジアルキレングリコールや、トリエチレングリコール(標準沸点276℃、水と完全混和)、トリプロピレングリコール(標準沸点273℃、水と完全混和)等のトリアルキレングリコールなどが挙げられる。
【0107】
(多価アルコール類)
多価アルコール類とは、分子中に3個以上の水酸基を有するものである。多価アルコール類としては、例えば、アルカンやポリエーテル構造を骨格とする、3個以上の水酸基を有する化合物などが挙げられる。このような化合物としては、例えば、グリセリン(標準沸点290℃、水と混和)、トリメチロールエタン(標準沸点283℃、溶解度約60[g/水100g])、トリメチロールプロパン(標準沸点295℃、水と完全混和)、1,2,6-ヘキサントリオール(水と完全混和)などが挙げられる。
【0108】
以上ポリオール類の中でも、標準沸点が150~250℃で炭素数が10以下のアルカンジオール類であることがより好ましく、標準沸点が150~250℃で炭素数が6以下のアルカンジオール類であることがさらに好ましい。
【0109】
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、水溶性低分子有機化合物として、ポリオール類を、インク組成物の総質量に対し、30質量%以下含むことが好ましく、25質量%以下含むことがより好ましい。また、下限値としては、インク組成物の総質量に対し、5質量%以上含むことが好ましく、10質量%以上含むことがより好ましく、15質量%以上含むことがさらに好ましい。また、ポリオール類の中でも、標準沸点が150~250℃であるポリオール類が好ましく、標準沸点が150~250℃であるアルカンジオール類がより好ましく、標準沸点が150~250℃で炭素数が10以下のアルカンジオール類がさらに好ましく、これらの含有量を上記範囲としてもよい。
これら水溶性低分子有機化合物を上記範囲内で含有する場合には、耐擦性、目詰まり回復性及び着弾位置ズレをバランスよく良好にできる傾向にある。
【0110】
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、水溶性低分子有機化合物として、標準沸点が280℃超のポリオール類を、インク組成物の総質量に対し3質量%を超えて含有しないことが好ましい。さらに1質量%を超えて含有しないことがより好ましく、0.5質量%を超えて含有しないことがさらに好ましい。
この場合において、標準沸点が280℃超のポリオール類をインクに含んでも含まなくても良く、含む場合であっても上記の含有量以下である。標準沸点が280℃超のポリオール類の含有量が上記範囲内であると、インクの乾燥性が大幅に低下してしまうことを防止でき、その結果、低吸収または非吸収の記録媒体に対する記録を行うものであっても、画像の定着性が低下することを防止できる傾向にある。また、加熱乾燥を行う際の記録媒体の温度を、比較的低くしても十分な乾燥を行なうことができる傾向にある。このような標準沸点が280℃超のポリオール類としては、例えば、グリセリン(標準沸点290℃)が挙げられる。
【0111】
1.5.3 グリコールエーテル類
グリコールエーテル類は、グリコールの1つ以上の水酸基がエーテル化した化合物である。グリコールエーテル類としては、アルキレングリコールのモノエーテル又はジエーテルが好ましい。上記エーテル化のエーテルとしては、アルキルエーテルが好ましい。グリコールエーテル類を構成する、アルキレングリコールのアルキレンや、アルキルエーテルのアルキルは、独立して炭素数1~5が好ましく、2~4がより好ましい。標準沸点が150~250℃である、グリコールエーテル類が好ましい。
【0112】
グリコールエーテル類は、アルキレングリコールモノアルキルエーテル類として、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル(水と完全混和)、エチレングリコールモノエチルエーテル(水と混和)、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル(溶解度100[g/水100g])、エチレングリコールモノプロピルエーテル(水と混和)、エチレングリコールモノイソブチルエーテル(溶解度75.5[g/水100g])、エチレングリコールモノ-tert-ブチルエーテル(水と混和)、エチレングリコールモノブチルエーテル(溶解度100[g/水100g])、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(水と完全混和)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(水と完全混和)、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル(水と混和)、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル(水と完全混和)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(水と完全混和)、トリエチエレングリコールモノメチルエーテル(水と完全混和)、トリエチレングリコールモノエチルエーテル(水と完全混和)、トリエチエレングリコールモノブチルエーテル(水と混和)、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル(水と混和)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(水と混和)、プロピレングリコールモノエチルエーテル(水と完全混和)、プロピレングリコールモノプロピルエーテル(水と混和)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(水と完全混和)、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル(溶解度19[g/水100g])、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(水と完全混和)、1,3-プロパンジオールモノメチルエーテル(3-メトキシ-1-プロパノール)(水と完全混和)、1,3-ブチレングリコール-3-モノメチルエーテル(3-メトキシ-1-ブタノール)(水と混和)などが挙げられる。
【0113】
グリコールエーテル類は、アルキレングリコールジアルキルエーテル類(グライム)として、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル(水と完全混和)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(水と完全混和)、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル(水と完全混和)、ジエチレングリコールジエチルエーテル(水と完全混和)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(水と完全混和)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(水と完全混和)、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(溶解度52.6[g/水100g])、トリプロピレングリコールジメチルエーテル(溶解度23.6[g/水100g])などが挙げられる。
【0114】
また、上記のグリコールエーテル類は、モノエーテルよりもジエーテルの方が、インク中の樹脂を溶解又は膨潤させやすい傾向があり、形成される画像の耐擦性を向上させる点でより好ましい。一方、インクの濡れ広がり性が優れる点でモノエーテルが好ましい。
【0115】
1.5.4 アルカノールアミン類
アルカノールアミン類とは、アルカン骨格に、水酸基とアミノ基とを有する化合物である。アルカノールアミン類は、分子中の水酸基の数が1以上であり、1~5が好ましく、2~3がより好ましい。アルカノールアミン類は、分子中の炭素数が1~20が好ましく、2~10がより好ましく、6~9がさらに好ましい。アルカン骨格は、アルカン骨格あたりの炭素数が1~6が好ましく、2~4がより好ましい。アルカノールアミン類は、分子中のアミノ基の数が1以上であり、1~5が好ましく、1~2がより好ましい。
【0116】
アルカノールアミン類としては、特に制限されないが、例えば、エタノールアミン(水と混和)、N-メチルエタノールアミン(溶解度100[g/水100g])、N,N-ジメチルエタノールアミン(水と完全混和)、N-エチルエタノールアミン(水と混和)、N-ブチルエタノールアミン(水と混和)、N,N-ジエチルエタノールアミン(水と混和)、ジエタノールアミン(溶解度100[g/水100g])、N-メチルジエタノールアミン(溶解度100[g/水100g])、N-エチルジエタノールアミン(水と混和)、N-ブチルジエタノールアミン(水と混和)、N-tert-ブチルジエタノールアミン(水と完全混和)、トリエタノールアミン(水と完全混和)、イソプロパノールアミン(水と混和)、N,N-ジメチルイソプロパノールアミン(水と完全混和)、N,N-ジエチルイソプロパノールアミン(水と混和)、ジイソプロパノールアミン(溶解度87[g/水100g])、トリイソプロパノールアミン(TIPA、標準沸点301℃、溶解度83[g/水100g])、N,N-ジメチルプロパノールアミン(水と混和)、2-アミノ-1-プロパノール(水と完全混和)、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール(水と完全混和)、5-アミノ-1-ペンタノール(水と混和)、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール(水と混和)、2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール(水と混和)、3-アミノ-1,2-プロパンジオール(水と混和)、3-メチルアミノ-1,2-プロパンジオール(水と完全混和)、トリプロパノールアミン、及びトリブタノールアミンなどが挙げられる。
【0117】
これらの中でも、トリエタノールアミン及びトリイソプロパノールアミン(TIPA)が好ましく、トリイソプロパノールアミン(TIPA)がより好ましい。
【0118】
アルカノールアミン類のインク組成物の総質量に対する含有量は、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、1質量%以下がさらに好ましい。下限は、特に制限されないが、0.05質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上がさらに好ましい。
【0119】
1.6 水分散性樹脂
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、水分散性樹脂を含有してもよい。水分散性樹脂は、水溶性樹脂、または樹脂粒子のエマルジョンとして配合され得る。このような水分散性樹脂は、記録媒体に付着させた顔料インクの成分の密着性や耐擦過性を向上させる、いわゆる定着樹脂として機能する場合がある。水分散性樹脂は、樹脂粒子のエマルジョンが好ましい。
【0120】
水分散性樹脂の樹脂としては、例えば、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、フルオレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ロジン変性樹脂、テルペン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、塩化ビニル系樹脂、エチレン酢酸ビニル系樹脂、酢酸ビニル樹脂、ブタジエン樹脂、スチレン樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋スチレン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、パラフィン樹脂、フッ素樹脂、等からなる樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、エマルジョン形態で取り扱われることが多いが、粉体の性状であってもよい。また、樹脂は1種単独又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0121】
これらの樹脂の中でも、耐擦性をより向上できる観点から、水分散性樹脂は、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂の何れか1種以上を含むことが好ましく、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂の何れか1種以上を含むことがより好ましい。
【0122】
ポリウレタン系樹脂とは、ウレタン結合を有する樹脂の総称である。ポリウレタン系樹脂には、ウレタン結合以外に、主鎖にエーテル結合を含むポリエーテル型ウレタン樹脂、主鎖にエステル結合を含むポリエステル型ウレタン樹脂、主鎖にカーボネート結合を含むポリカーボネート型ウレタン樹脂等を使用してもよい。ポリウレタン系樹脂としては、市販品を用いてもよく、例えば、スーパーフレックス 210、460、460s、840、E-4000(商品名、第一工業製薬株式会社製)などの中から選択して用いてもよい。
【0123】
アクリル系樹脂は、少なくとも(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステルなどのアクリル系単量体を1成分として重合して得られる重合体の総称であって、例えば、アクリル系単量体から得られる樹脂や、アクリル系単量体とこれ以外の単量体との共重合体などが挙げられる。例えばアクリル系単量体とビニル系単量体との共重合体であるアクリル-ビニル系樹脂などが挙げられる。さらに例えば、スチレンなどのビニル系単量体との共重合体が挙げられる。アクリル系単量体としてはアクリルアミド、アクリロニトリル等も使用可能である。
【0124】
アクリル系樹脂を原料とする樹脂エマルジョンには、市販品を用いてもよく、例えばFK-854(商品名、中央理科工業社製)、モビニール952B、718A(商品名、日本合成化学工業社製)、NipolLX852、LX874(商品名、日本ゼオン社製)、ポリゾールAT860(昭和電工株式会社製)、ボンコートAN-1190S、YG-651、AC-501、AN-1170、4001(商品名、DIC社製、アクリル系樹脂エマルジョン)等の中から選択して用いてもよい。
【0125】
なお、本明細書において、アクリル系樹脂は、上述のようにスチレンアクリル系樹脂であってもよい。また、本明細書において、(メタ)アクリルとの表記は、アクリル及びメタクリルの少なくとも一方を意味する。
【0126】
スチレンアクリル系樹脂は、スチレン単量体とアクリル系単量体とから得られる共重合体であり、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸-アクリル酸エステル共重合体等が挙げられる。スチレンアクリル系樹脂には、市販品を用いても良く、例えば、ジョンクリル62J、7100、390、711、511、7001、631、632、741、450、840、74J、HRC-1645J、734、852、7600、775、537J、1535、PDX-7630A、352J、352D、PDX-7145、538J、7640、7641、631、790、780、7610(商品名、BASF社製)、モビニール966A、975N(商品名、日本合成化学工業社製)などが挙げられる。
【0127】
塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体であってもよい。
【0128】
ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン等のオレフィンまたはその誘導体から製造した樹脂およびその共重合体、具体的には、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリブチレン系樹脂等が挙げられる。ポリオレフィン系樹脂は、市販されているものを利用することができ、具体的には、ノプコートPEM17(商品名、サンノプコ株式会社製)、ケミパールW4005(商品名、三井化学株式会社製)、AQUACER515、AQUACER593(以上商品名、ビックケミー・ジャパン株式会社製)、ハイテックE-6500(東邦化学工業社製、ポリエチレン系樹脂)等を用いることができる。
【0129】
水分散性樹脂の含有量は、インク組成物の総質量に対し、固形分として、0.1質量%以上25.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以上15.0質量%以下であることがより好ましく、2.0質量%以上12.0質量%以下がさらに好ましく、3.0質量%以上10.0質量%以下であることが特に好ましい。
【0130】
水分散性樹脂の中でも、アクリル系樹脂の含有量は、0.05質量%以上20.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以上15.0質量%以下がより好ましく、2.0質量%以上10.0質量%以下がさらに好ましく、3.0質量%以上8.0質量%以下であることが特に好ましい。
【0131】
水分散性樹脂の中でも、ポリオレフィン系樹脂の含有量は、インク組成物の総質量に対し、0.1質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以上4質量%以下であることがより好ましく、0.3質量%以上3質量%以下であることがさらに好ましい。
【0132】
1.7 界面活性剤
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、界面活性剤を含有していてもよい。界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、フッ素系界面活性剤及びシリコーン系界面活性剤が挙げられる。
【0133】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、サーフィノール104、104E、104H、104A、104BC、104DPM、104PA、104PG-50、104S、420、440、465、485、SE、SE-F、504、61、DF37、CT111、CT121、CT131、CT136、TG、GA、DF110D(以上全て商品名、エアープロダクツジャパン株式会社製)、オルフィンB、Y、P、A、STG、SPC、E1004、E1010、PD-001、PD-002W、PD-003、PD-004、EXP.4001、EXP.4036、EXP.4051、AF-103、AF-104、AK-02、SK-14、AE-3(以上全て商品名、日信化学工業株式会社製)、アセチレノールE00、E00P、E40、E100(以上全て商品名、川研ファインケミカル株式会社製)が挙げられる。
【0134】
フッ素系界面活性剤としては、フッ素変性ポリマーを用いることが好ましく、具体例としては、BYK-340(商品名、ビックケミー・ジャパン株式会社製)が挙げられる。
【0135】
シリコーン系界面活性剤としては、特に限定されないが、ポリシロキサン系化合物が好ましく挙げられる。当該ポリシロキサン系化合物としては、特に限定されないが、例えばポリエーテル変性オルガノシロキサンが挙げられる。当該ポリエーテル変性オルガノシロキサンの市販品としては、例えば、BYK-306、BYK-307、BYK-333、BYK-341、BYK-345、BYK-346、BYK-348、BYK-349(以上商品名、ビックケミー・ジャパン株式会社製)、KF-351A、KF-352A、KF-353、KF-354L、KF-355A、KF-615A、KF-945、KF-640、KF-642、KF-643、KF-6020、X-22-4515、KF-6011、KF-6012、KF-6015、KF-6017(以上商品名、信越化学工業株式会社製)、シルフェイスSAG503A、シルフェイスSAG014(以上商品名、日信化学工業株式会社製)等が挙げられる。
【0136】
上記界面活性剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0137】
界面活性剤の含有量は、インク組成物の総質量に対して0.1質量%以上2.0質量%以下とすることが好ましい。界面活性剤の含有量の上限は、1.5質量%以下がより好ましく、1.0質量%以下がさらに好ましく、0.8質量%以下が特に好ましく、0.5質量%以下がより特に好ましい。界面活性剤の含有量の下限は、特に制限されないが、0.2質量%以上であってよく、0.3質量%以上であってよい。
また、上記界面活性剤のうちシリコーン系界面活性剤またはフッ素系界面活性剤の含有量を上記範囲としても良く好ましい。さらに上記界面活性剤のうちシリコーン系界面活性剤の含有量を上記範囲としても良く好ましい。
【0138】
一般的に、インク組成物にシリコーン系界面活性剤を含有させることで、画質がより向上する傾向にあるが、耐擦性や消泡性に劣りやすくなる。しかしながら、本実施形態に係るインクジェットインク組成物においては、上記範囲内の少量の添加量であっても、画質に優れるとともに、耐擦性や消泡性においても良好なものとできる傾向にある。
【0139】
1.8 その他の成分
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、必要に応じて、上記した成分以外に、消泡剤、キレート剤、防錆剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤など、種々の添加剤を含有してもよい。
【0140】
1.9 調製方法及び物性
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、前述した成分を任意の順序で混合し、必要に応じて濾過等をして不純物を除去することにより得られる。各成分の混合方法としては、メカニカルスターラー、マグネチックスターラー等の撹拌装置を備えた容器に順次材料を添加して撹拌混合する方法が好適に用いられる。濾過方法としては、遠心濾過、フィルター濾過等を必要に応じて行なうことができる。
【0141】
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、画像品質とインクジェット記録用のインクとしての信頼性とのバランスの観点から、20℃における表面張力(静的表面張力)が18mN/m以上40mN/mであることが好ましく、20mN/m以上35mN/m以下であることがより好ましく、22mN/m以上33mN/m以下であることがさらに好ましい。なお、表面張力の測定は、例えば、自動表面張力計CBVP-Z(商品名、協和界面科学株式会社製)を用いて、20℃の環境下で白金プレートをインクで濡らしたときの表面張力を確認することにより測定することができる。
【0142】
同様の観点から、インクの20℃における粘度は、3mPa・s以上10mPa・s以下であることが好ましく、3mPa・s以上8mPa・s以下であることがより好ましい。なお、粘度の測定は、例えば、粘弾性試験機MCR-300(商品名、Pysica社製)を用いて、20℃の環境下での粘度を測定することができる。
【0143】
1.10 用途
本実施形態に係るインクジェットインク組成物の好ましい用途を、以下に説明する。
【0144】
1.10.1 記録媒体
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、低吸収記録媒体又は非吸収記録媒体への記録に用いられるものであることが好ましい。低吸収記録媒体又は非吸収記録媒体への記録においては、インクが記録媒体上で濡れ広がり難い(埋まりが悪い)ため、ノズルから吐出されるインク滴の吐出量の僅かなズレや、僅かな着弾位置のズレによって、記録された画像に筋状のムラが見えるバンディングムラが生じやすい。しかしながら、本実施形態に係るインクジェットインク組成物によれば、このような記録媒体への記録に用いるものであっても、バンディングムラを低減でき画質(濡れ広がり)に優れるとともに、保存安定性に優れ、着弾位置ズレを優れて低減できる傾向にある。
【0145】
「低吸収記録媒体又は非吸収記録媒体」とは、液体を全く吸収しない、又はほとんど吸収しない性質を有する記録媒体を指す。定量的には、「低吸収記録媒体又は非吸収記録媒体」とは、「ブリストー(Bristow)法において接触開始から30msec1/2までの水吸収量が10mL/m2以下である記録媒体」を指す。このブリストー法は、短時間での液体吸収量の測定方法として最も普及している方法であり、日本紙パルプ技術協会(JAPAN TAPPI)でも採用されている。試験方法の詳細は「JAPAN TAPPI紙パルプ試験方法2000年版」の規格No.51「紙及び板紙-液体吸収性試験方法-ブリストー法」に述べられている。
【0146】
(低吸収記録媒体)
低吸収記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、表面にインクを受容するための塗工層が設けられた塗工紙が挙げられる。塗工紙としては、特に限定されないが、例えば、アート紙、コート紙、マット紙等の印刷本紙が挙げられる。なお、塗工層は、インクを吸収し難いものであり、無機化合物などの粒子などがバインダーとともに塗工されたものなどが挙げられる。
【0147】
(非吸収記録媒体)
非吸収記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、プラスチック、ガラス、金属、陶磁器等の記録媒体が挙げられる。
【0148】
記録媒体がプラスチックである場合、例えばプラスチックフィルムなどがある。当該プラスチックフィルムとしては、例えば、ポリエステルフィルム、ポリウレタンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリフェニレンサルファイドフィルム、ポリイミドフィルム、ポリアミドイミドフィルム等が挙げられる。他にも、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリ塩化ビニルなどが挙げられる。また、バイオマス由来プラスチックフィルムも挙げられ、例えば、PLA、PBS、PHA、バイオPE、バイオPP、バイオPETなどを例示できる。
【0149】
また、プラスチックからなるフィルムでも良いし、紙等の基材上にプラスチックがコーティングされているもの、紙等の基材上にプラスチックフィルムが接着されているもの、であっても良い。
【0150】
記録媒体が金属である場合、鉄、銀、銅、アルミニウム等の金属からなる基材、又はそれら各種金属をプラスチックなどの金属以外の基材の記録面に蒸着したものでもよい。つまり記録面が金属からなるものであればよい。
【0151】
なお、記録媒体は、無色透明、半透明、着色透明などの透光性を有する記録媒体でもよい。または、有彩色不透明、無彩色不透明等の透光性を有さないものであってもよい。また、記録媒体としては、シート状、球状、直方体形状等の立体的な形状を有する物、紙器などを用いてもよい。
【0152】
これら低吸収記録媒体又は非吸収記録媒体の中でも、本発明の奏する効果をより享受できる観点から、非吸収記録媒体であることが好ましく、記録媒体がプラスチックであることがより好ましい。すなわち、このような記録媒体は、インクがより濡れ広がり難いものであるためバンディングムラが特に生じやすいが、本実施形態に係るインクジェットインク組成物によれば、このような記録媒体であっても、バンディングムラを低減でき画質(濡れ広がり)に優れるとともに、保存安定性に優れ、着弾位置ズレを優れて低減できる傾向にある。
【0153】
1.10.2 処理液
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、凝集剤を含有する処理液と共に記録に用いられるものであることが好ましい。インクの成分を凝集させる処理液を併用することで、画質を向上させることが可能である。しかしながら、このような態様は、インク滴が記録媒体上でより一層濡れ広がり難くなるため、バンディングムラがより生じやすい。これに対して、本実施形態に係るインクジェットインク組成物によれば、凝集剤を含有する処理液と共に記録に用いられるものであっても、バンディングムラを低減でき画質(濡れ広がり)に優れるとともに、保存安定性に優れ、着弾位置ズレを優れて低減できる傾向にある。
【0154】
なお、「処理液」とは、記録媒体に着色を行うために用いるインク組成物ではなく、インク組成物と共に用いる補助液である。また、処理液は、インク組成物の成分を凝集または増粘させ得るものであることが好ましく、インク組成物の成分を凝集または増粘させる凝集剤を含むものであることがより好ましい。処理液は、顔料等の色材を含有してもよいが、処理液の総質量に対して0.2質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましく、0.05質量%以下であることがさらに好ましく、下限は0質量%である。処理液は色材を含有しないことが好ましい。
【0155】
以下、処理液に含有する各成分について説明する。
【0156】
〔凝集剤〕
処理液は凝集剤を含有する。このような凝集剤は、インク組成物に含まれる顔料や樹脂等の成分と速やかに反応し得る。そうすると、インク組成物中の成分の分散状態が破壊されて凝集し、この凝集物が顔料の記録媒体への浸透を阻害するため、記録画像の画質の向上の点で優れたものとなると考えられる。
【0157】
凝集剤としては、例えば、多価金属塩、カチオン性樹脂、カチオン性界面活性剤等のカチオン性化合物、有機酸が挙げられる。これらの凝集剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。これらの凝集剤の中でも、インク組成物に含まれる成分との反応性に優れるという点から、多価金属塩、有機酸、カチオン性樹脂よりなる群から選択される少なくとも1種の凝集剤を用いることが好ましい。
【0158】
多価金属塩としては、二価以上の多価金属イオンとこれら多価金属イオンに結合する陰イオンとから構成され、水に可溶な化合物である。多価金属イオンの具体例としては、Ca2+、Cu2+、Ni2+、Mg2+、Zn2+、Ba2+などの二価金属イオン;Al3+、Fe3+、Cr3+などの三価金属イオンが挙げられる。陰イオンとしては、Cl-、I-、Br-、SO4
2-、ClO3-、NO3-、およびHCOO-、CH3COO-などが挙げられる。これらの多価金属塩の中でも、処理液の安定性や凝集剤としての反応性の観点から、カルシウム塩およびマグネシウム塩が好ましい。
【0159】
有機酸としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、シュウ酸、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、アスコルビン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、ピルビン酸、ピロリドンカルボン酸、ピロンカルボン酸、ピロールカルボン酸、フランカルボン酸、ピリジンカルボン酸、クマリン酸、チオフェンカルボン酸、ニコチン酸、若しくはこれらの化合物の誘導体、又はこれらの塩等が好適に挙げられる。有機酸は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。有機酸の塩で多価金属塩でもあるものは多価金属塩に含めるものとする。
【0160】
カチオン性樹脂としては、例えば、カチオン性のウレタン樹脂、カチオン性のオレフィン樹脂、カチオン性のアミン系樹脂などが挙げられる。カチオン性のアミン系樹脂はアミノ基を有する樹脂であればよく、アリルアミン樹脂、ポリアミン樹脂、4級アンモニウム塩ポリマー、ポリアミド樹脂等が挙げられる。ポリアミン樹脂として樹脂の主骨格中にアミノ基を有するものが挙げられる。アリルアミン樹脂としては樹脂の主骨格中にアリル基に由来する構造を有するものが挙げられる。4級アンモニウム塩ポリマーは構造中に4級アンモニウム塩を有する樹脂が挙げられる。ポリアミド樹脂としては、樹脂の主骨格中にアミド基を有し、樹脂の側鎖にアミノ基を有するものが挙げられる。カチオン性樹脂の中でも、カチオン性のアミン系樹脂は反応性が優れるだけでなく、入手しやすいため好ましい。
【0161】
処理液の凝集剤の濃度は、処理液の総質量に対し、0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上であることがさらに好ましい。また、処理液の凝集剤の濃度は、処理液の総質量に対し、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましく、8質量%以下であることが特に好ましい。
【0162】
〔水〕
処理液は、水を含有していてもよい。用いることができる水の種類、水の含有量などは、上述したインクジェットインク組成物と同様にできる。
【0163】
〔水溶性低分子有機化合物〕
処理液は、水溶性低分子有機化合物を含有していてもよい。用いることができる水溶性低分子有機化合物の種類、水溶性低分子有機化合物の含有量などは、上述したインクジェットインク組成物と同様にできる。
【0164】
〔界面活性剤〕
処理液は、界面活性剤を含有していてもよい。用いることができる界面活性剤の種類、界面活性剤の含有量などは、上述したインクジェットインク組成物と同様にできる。
【0165】
〔その他の成分〕
処理液は、上記以外の成分として、例えば、難水溶性低分子有機化合物、ノニオン性水溶性樹脂、水分散性樹脂などの上述したインクジェットインク組成物に含有する成分を含有してもよく、含有量等も同様とできる。さらに、処理液は、必要に応じて、例えば、消泡剤、キレート剤、防錆剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤など、種々の添加剤を含有してもよい。
【0166】
〔調製方法及び物性〕
処理液の調製方法及び物性は、上述したインクジェットインク組成物と同様にできる。
【0167】
2.記録方法
本発明の一実施形態に係る記録方法は、上述のインクジェットインク組成物をインクジェット法により吐出して記録媒体に付着させるインク付着工程を備えるものである。
【0168】
本実施形態に係る記録方法によれば、上述のインクジェットインク組成物を用いるものであるため、バンディングムラを低減でき画質(濡れ広がり)に優れるとともに、保存安定性に優れ、着弾位置ズレを優れて低減できる。
【0169】
以下、本実施形態に係る記録方法における各工程について説明する。
【0170】
2.1 インク付着工程
本実施形態に係る記録方法は、上述のインクジェットインク組成物をインクジェット法により吐出して記録媒体に付着させるインク付着工程を備える。
【0171】
記録媒体としては、特に制限されず、例えば、紙、インク吸収性のフィルム、布等の吸収記録媒体、印刷本紙などの低吸収記録媒体、金属、ガラス、高分子等の非吸収記録媒体などが挙げられる。これらの中でも、本発明の奏する効果をより享受できる観点から、低吸収記録媒体又は非吸収記録媒体であることが好ましい。低吸収記録媒体及び非吸収記録媒体については、上述の通りであるから説明を省略する。
【0172】
インク付着工程における、記録媒体のインクを付着させる領域の、記録媒体の単位面積当たりのインク組成物の付着量は、好ましくは3mg/inch2以上であり、より好ましくは5mg/inch2以上であり、さらに好ましくは10mg/inch2以上である。
記録媒体の単位面積当たりインク組成物の付着量は、好ましくは20mg/inch2以下であり、より好ましく18mg/inch2以下であり、さらに好ましくは16mg/inch2以下である。
インク組成物の付着量が上記範囲内であると、バンディングムラをより低減できる傾向にある。また、記録媒体のインクを付着させる領域のインクの付着量が最大である領域の記録媒体の単位面積当たりのインク組成物の付着量、つまりインクの最大の付着量を、上記範囲としても良く好ましい。
【0173】
インク付着工程は、上述のインクジェットインク組成物を記録媒体へ付着させる際の記録媒体の表面温度が、55℃以下であることが好ましい。この場合において、インク付着工程は、記録媒体を加熱することなく行われてもよいし、加熱して行われてもよい。すなわち、加熱する場合でも、記録媒体の表面温度が55℃以下となるように加熱することが好ましい。
【0174】
インク付着時の記録媒体の表面温度の上限値は、55℃以下であることが好ましく、50℃以下であることがより好ましく、45℃以下であることがさらに好ましく、40℃以下であることが特に好ましく、35℃以下であることがより特に好ましく、28℃以下であることが殊更好ましい。一方下限値は、20℃以上であることが好ましく、23℃以上であることがより好ましく、25℃以上であることが特に好ましい。さらには28℃以上が好ましく、35℃以上がより好ましく、40℃以上がさらに好ましい。
【0175】
2.2 処理液付着工程
本実施形態に係る記録方法は、凝集剤を含有する処理液を記録媒体に付着させる処理液付着工程を備えるものであってもよい。なお、処理液については、上述した処理液と同様にできる。
【0176】
処理液付着工程は、上述のインク付着工程と同時、前又は後に行うことができる。
【0177】
処理液の付着方法としては、例えば、処理液中に記録媒体を浸漬させる浸漬塗布、処理液を刷毛、ローラー、ヘラ、ロールコーター等を用いて付着させるローラー塗布、処理液をスプレー装置などにて噴射するスプレー塗布、処理液をインクジェット法にて付着させるインクジェット塗布等が挙げられる。これらの中でも、インクジェット塗布であることが好ましい。
【0178】
処理液付着工程における、記録媒体のインクと処理液を重ねて付着させる領域の、処理液の付着量は、上述のインク付着工程で付着されるインク組成物の付着量に対して、5質量%以上であることが好ましく、7質量%以上であることがより好ましく、9質量%以上であることが特に好ましい。一方で、処理液の付着量は、上述のインク付着工程で付着されるインク組成物の付着量に対して、25質量%以下であることが好ましく、21質量%以下であることがより好ましく、17質量%以下であることがさらに好ましく、13質量%以下であることが特に好ましい。処理液の付着量が上記範囲内にある場合には、バンディングムラや凝集ムラなどの画質と、耐擦性とを好ましく両立できる傾向にある。
また、記録媒体のインクと処理液を重ねて付着させる領域の、処理液の付着量は0.1~5mg/inch2が好ましい。
また、記録媒体のインクと処理液を重ねて付着させる領域の、インクの付着量が最大である領域における処理液の付着量を上記範囲としても良く好ましい。
【0179】
処理液付着工程における、上述のインクジェットインク組成物を記録媒体へ付着させる際の記録媒体の表面温度は、前述のインク付着工程と同様にできる。
【0180】
2.3 一次乾燥工程
本実施形態に係る記録方法は、記録媒体に付着したインクジェットインク組成物を乾燥させる一次乾燥工程を備えていてもよい。
【0181】
記録方法においては、一次乾燥工程を備えることで、記録媒体上でインク組成物や処理液を迅速に乾燥させることができ、画質を良好にできる点で好ましい。その一方で、一次乾燥工程は、インク等が迅速に乾燥されるため、記録媒体上でインクが濡れ広がり難くなる。すなわち、一次乾燥工程を備える記録方法は、バンディングムラがより生じやすいという課題を有するものである。しかしながら、本実施形態に係る記録方法によれば、このような場合であっても、バンディングムラを低減でき画質(濡れ広がり)に優れるとともに、保存安定性に優れ、着弾位置ズレを優れて低減できる傾向にある。
【0182】
一次乾燥工程は、記録媒体に付着したインクを早期の段階で乾燥させる工程である。一次乾燥工程は、記録媒体に付着したインクを、少なくともインクの流動を減少させる程度に、インクの溶媒成分の少なくとも一部を乾燥させるための工程である。一次乾燥工程は、記録媒体に着弾したインク滴が、そのインク滴の着弾から遅くも0.5秒以内に乾燥が開始されることが好ましい。また、一次乾燥工程は、付着させた処理液に対しても、インクと同様に施されるものであってよい。
【0183】
一次乾燥工程の手段としては、例えば、ファン等による記録媒体への常温の送風(常温風)又は加熱を伴う送風(温風)に基づく方法である送風式や、IRヒーター、マイクロウェーブの放射式や、プラテンヒーターなどにより記録媒体を加熱することに基づく伝熱式や、これらを組み合わせた方法などが挙げられる、ここで、本実施形態における一次乾燥工程では、インクの乾燥性を向上できる態様であれば特に限定されず、必ずしも加熱を伴う必要はないことに留意されたい。それゆえ、本実施形態における一次乾燥工程においては、常温の送風に基づく方法も単独で用いてよい。なお、一次乾燥工程は、加熱を伴う方法であることがより好ましい。
【0184】
一次乾燥工程において、送風による乾燥が行われる場合、送風の風速が、0.5~15m/sであることが好ましく、0.5~10m/sがより好ましく、1~5m/sがさらに好ましく、2~3m/sが特に好ましい。該風速は、記録媒体の表面付近における風速である。
送風の風温は55℃以下が好ましく、10℃以上が好ましい。さらには15~50℃が好ましく、20~49℃がより好ましい。さらに23~40℃が好ましく、25~35℃がより好ましく、25~28℃がさらに好ましい。送風の風温は常温であってもよい。
【0185】
また、一次乾燥工程における記録媒体の表面温度は、上述のインク付着工程における記録媒体の表面温度として記載した温度の範囲とすればよく、好ましい。すなわち、一次乾燥工程における記録媒体の表面温度は、特に55℃以下であることが好ましく、より好ましくは前述の表面温度範囲である。
一次乾燥工程による乾燥温度が上記範囲内であると、バンディングムラをより低減でき画質(濡れ広がり)を良好にできるとともに、良好な目詰まり回復性を得ることができる傾向にある。
【0186】
なお、一次乾燥工程において加熱を伴う場合、一次乾燥工程は、加熱された記録媒体にインクが付着されるようにしても良いし、付着後の早期に加熱されるようにしてもよい。一次乾燥工程は、記録媒体に着弾したインク滴が、そのインク滴の着弾から遅くも0.5秒以内に加熱が開始されることが好ましい。
一次乾燥工程において加熱を伴う場合、上述のインク付着工程の前、付着と同時、付着後の早期の少なくとも何れかで加熱を行えばよく、同時に行われることが好ましい。このような加熱順序にして、インク付着工程を行うことができる。
【0187】
なお、一次乾燥工程における記録媒体の表面温度は、一次乾燥工程が行われた記録媒体にインクを付着させる場合は、インクの付着時の記録媒体の表面温度であり、インクの付着後の早期に一次乾燥工程を行う場合は、一次乾燥工程を行う際の記録媒体の表面温度である。また一次乾燥工程中の一次乾燥工程による最大の温度である。それらの時の一次乾燥工程の記録媒体の表面温度は、前述のインク付着時の記録媒体の表面温度の範囲とすることが好ましい。
また、一次乾燥工程において加熱を伴わない場合の記録媒体の表面温度とは、インクの付着時の記録媒体の表面温度である。
【0188】
2.4 後加熱工程
本実施形態に係る記録方法は、上述のインク付着工程の後に、記録媒体を加熱する後加熱工程を備えていてもよい。
【0189】
本実施形態に係る記録方法に用いられるインクジェットインク組成物には、難水溶性低分子有機化合物が含有されるため、インク付着工程後の乾燥性は難水溶性低分子有機化合物が含有されない場合と比較して良好である。そして、本実施形態に係る記録方法が後加熱工程を備えることで、より乾燥性を向上できるため、耐擦性により優れた記録物を得られる傾向にあり好ましい。
【0190】
後加熱工程は、記録を完了させ、記録物を使用できる程度に十分に加熱する加熱工程である。後加熱工程は、インクや処理液の溶媒成分の十分な乾燥、及びインクに含む樹脂などを加熱してインクの塗膜を平膜化させるための加熱工程である。後加熱工程は、記録媒体のインク及び処理液が付着後0.5秒超に開始されることが好ましい。例えば、記録媒体のある記録領域に対するインク及び処理液の付着が全て完了してから0.5秒超に、該領域に対して加熱を開始することが好ましい。また、上記一次乾燥工程で好ましい温度と、後加熱工程で好ましい温度とは異なるものであることが好ましい。
【0191】
後加熱工程における記録媒体の加熱は、例えば、インクジェット記録装置を用いる場合には、適宜の加熱手段を用いて行うことができる。また、インクジェット記録装置に備えられた加熱手段に限らず、適宜の加熱手段により行うことができる。また、この場合の記録媒体の表面温度は、60℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがより好ましく、80℃以上であることがさらに好ましく、85℃以上であることが特に好ましい。また、後加熱工程で加熱された記録媒体の表面温度は、120℃以下であることが好ましく、110℃以下であることがより好ましく、100℃以下であることがさらに好ましく、95℃以下であることが特に好ましい。本実施形態に係る記録方法によれば、上記範囲内の記録媒体の表面温度であっても、インクを十分に乾燥させ、耐擦性に優れる記録物を得られる傾向にある。
【0192】
2.5 記録態様
本実施形態に係る記録方法は、複数回の主走査により記録を行い、同一の走査領域に複数回の主走査を行うことが好ましい。このような記録態様であると、1回の主走査により付着されるインク滴量は、少なくなる。それゆえ、インク滴は、記録媒体に対し離散的に付着するため、隣接インク滴と接触する機会が少なくなる。すなわち、このような記録態様は、記録媒体上でインクの埋まりが悪く、記録された画像に筋状のムラが見えるバンディングムラがより生じやすいものである。これに対して、本実施形態に係る記録方法によれば、上述のインクジェットインク組成物を用いるものであるため、このような記録態様であっても、バンディングムラを低減でき画質(濡れ広がり)に優れるとともに、保存安定性に優れ、着弾位置ズレを優れて低減できる傾向にある。
【0193】
主走査の回数は、2~20が好ましく、3~15がより好ましく、4~10がさらに好ましい。なお、「同一の走査領域に複数回の主走査を行う」とは、主走査を1回行った領域に、再度主走査を行うことをいう。例えば、1回の副走査の距離が、インクを吐出するノズル列の副走査方向の長さよりも短い場合、1回の主走査の走査領域に再度走査を行うこととなる。より具体的にいえば、1回の副走査の距離が、インクを吐出するノズル列の副走査方向の長さの4分の1であれば、同一の走査領域に4回の主走査有を行うこととなる。この場合を主走査の回数が4であるという。
【0194】
なお、本実施形態に係る記録方法は、ラインヘッドを用いて1回の走査により記録を行うライン型の記録方法で行ってもよい。この場合も、走査方向に沿って筋状のムラが発生する場合があり、本実施形態によればバンディングムラを低減でき画質(濡れ広がり)に優れる傾向にある。
【0195】
2.6 インクジェット記録装置
本実施形態に係る記録方法において、好ましく適用できるインクジェット記録装置の一例について、図面を参照しながら説明する。
【0196】
図1は、インクジェット記録装置を模式的に示す概略断面図である。
図2は、
図1のインクジェット記録装置1のキャリッジ周辺の構成の一例を示す斜視図である。
図1、2に示すように、インクジェット記録装置1は、記録ヘッド2と、IRヒーター3と、プラテンヒーター4と、加熱ヒーター5と、冷却ファン6と、プレヒーター7と、通気ファン8と、キャリッジ9と、プラテン11と、キャリッジ移動機構13と、搬送手段14と、制御部CONTを備える。インクジェット記録装置1は、
図2に示す制御部CONTにより、インクジェット記録装置1全体の動作が制御される。
【0197】
記録ヘッド2は、インクジェットインク組成物を記録ヘッド2のノズルから吐出して付着させることにより記録媒体Mに記録を行う構成である。処理液についても、同様とすることができる。
図1及び
図2に示す、記録ヘッド2は、シリアル式の記録ヘッドであり、記録媒体Mに対して相対的に主走査方向に複数回走査してインクや処理液を記録媒体Mに付着させるものである。記録ヘッド2は
図2に示すキャリッジ9に搭載される。記録ヘッド2は、キャリッジ9を記録媒体Mの媒体幅方向に移動させるキャリッジ移動機構13の動作により、記録媒体Mに対して相対的に主走査方向に複数回走査される。媒体幅方向とは、記録ヘッド2の主走査方向である。主走査方向への走査を主走査ともいう。
【0198】
またここで、主走査方向は、記録ヘッド2を搭載したキャリッジ9の移動する方向である。
図1においては、矢印SSで示す記録媒体Mの搬送方向である副走査方向に交差する方向である。
図2においては、記録媒体Mの幅方向、つまりS1-S2で表される方向が主走査方向MSであり、T1→T2で表される方向が副走査方向SSである。なお、1回の走査で主走査方向、すなわち、矢印S1又は矢印S2の何れか一方の方向に走査が行われる。そして、記録ヘッド2の主走査と、記録媒体Mの搬送である副走査を複数回繰り返し行うことで、記録媒体Mに対して記録する。
【0199】
記録ヘッド2にインクや処理液を供給するカートリッジ12は、独立した複数のカートリッジを含む。カートリッジ12は、記録ヘッド2を搭載したキャリッジ9に対して着脱可能に装着される。複数のカートリッジのそれぞれには異なる種類のインクジェットインク組成物や処理液を充填させることができ、カートリッジ12から各ノズルにインクジェットインク組成物や処理液が供給される。なお、
図1及び
図2では、カートリッジ12はキャリッジ9に装着される例を示しているが、これに限定されず、キャリッジ9以外の場所に設けられ、図示せぬ供給管によって各ノズルに供給される形態でもよい。
【0200】
記録ヘッド2の吐出には従来公知の方式を使用することができる。ここでは、圧電素子の振動を利用して液滴を吐出する方式、すなわち、電歪素子の機械的変形によりインク滴等を形成する吐出方式を使用する。
【0201】
インクジェット記録装置1は、記録ヘッド2からインクや処理液を吐出して記録媒体に付着させる際に記録媒体Mを乾燥する一次乾燥機構を備えることができる。一次乾燥機構は、伝導式、送風式、放射式などを用いることができる。伝導式は記録媒体に接触する部材から熱を記録媒体に伝導する。例えばプラテンヒーターなどがあげられる。送風式は常温風又は温風を記録媒体に送りインク等を乾燥させる。例えば送風ファンがあげられる。放射式は熱を発生する放射線を記録媒体に放射して記録媒体を加熱する。例えばIR放射があげられる。また、図示しないがプラテンヒーター4よりもSS方向のすぐ下流側にプラテンヒーターと同様のヒーターが設けられていてもよい。これら一次乾燥機構は、単独で用いても、組み合わせて用いてもよい。例えば、一次乾燥機構として、IRヒーター3及びプラテンヒーター4を備える。
【0202】
なお、IRヒーター3を用いると、記録ヘッド2側から赤外線の輻射により放射式で記録媒体Mを加熱することができる。これにより、記録ヘッド2も同時に加熱されやすいが、プラテンヒーター4等の記録媒体Mの裏面から加熱される場合と比べて、記録媒体Mの厚さの影響を受けずに昇温することができる。なお、温風又は環境と同じ温度の風を記録媒体Mにあてて記録媒体M上のインク等を乾燥させる各種のファン(例えば通気ファン8)を備えてもよい。
【0203】
プラテンヒーター4は、記録ヘッド2に対向する位置において記録媒体Mを、プラテン11を介して加熱することができる。プラテンヒーター4は、記録媒体Mを伝導式で加熱可能なものであり、インクジェット記録方法では、必要に応じて用いられる。
【0204】
また、インクジェット記録装置1は、記録媒体Mに対してインクや処理液が付着される前に、記録媒体Mを予め加熱するプレヒーター7を備えていてもよい。
【0205】
インク付着工程及び処理液付着工程後に、記録媒体を加熱して、インク等を乾燥させ、定着させる後加熱機構を備えてもよい。
【0206】
後加熱機構に用いる加熱ヒーター5は、記録媒体Mに付着されたインク等を乾燥及び固化させるものである。加熱ヒーター5が、画像が記録された記録媒体Mを加熱することにより、インクや処理液中に含まれる水分等がより速やかに蒸発飛散して、インク中に含まれる樹脂によってインク膜が形成される。このようにして、記録媒体M上においてインク膜が強固に定着又は接着して造膜性が優れたものとなり、優れた高画質な画像が短時間で得られる。
【0207】
インクジェット記録装置1は、冷却ファン6を有していてもよい。記録媒体Mに記録されたインク等を乾燥後、冷却ファン6により記録媒体M上のインクを冷却することにより、記録媒体M上に密着性よくインク塗膜を形成することができる。
【0208】
キャリッジ9の下方には、記録媒体Mを支持するプラテン11と、キャリッジ9を記録媒体Mに対して相対的に移動させるキャリッジ移動機構13と、記録媒体Mを副走査方向に搬送するローラーである搬送手段14を備える。キャリッジ移動機構13と搬送手段14の動作は、制御部CONTにより制御される。
【0209】
3.実施例
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。以下「%」は、特に記載のない限り、質量基準である。
【0210】
3.1 インクジェットインク組成物の調製
下表1及び下表2の組成になるように各成分を容器に入れて、マグネチックスターラーで2時間混合及び攪拌した後、孔径5μmのメンブランフィルターで濾過することで、各実施例及び各比較例に係るインクジェットインク組成物を得た。なお、顔料、水分散性樹脂やノニオン性水溶性樹脂等の樹脂成分の表中の数値は、それらの固形分量を表す。なお、純水は、組成物の全質量が100質量%となるように添加した。また、顔料は、事前に以下の手順によって調製した顔料分散液を用いた。
【0211】
〔顔料分散液の調製〕
まず、滴下漏斗、窒素導入管、還流冷却管、温度計及び攪拌装置を備えたフラスコに、メチルエチルケトン(MEK)50gを加え、窒素バブリングしながら、75℃に加温した。そこへ、メタクリル酸ブチル80g、メタクリル酸メチル50g、スチレン15g、メタクリル酸20gのモノマーとMEK50g、重合開始剤(アゾビスイソブチロニトリル/AIBN)500mgの混合物を滴下漏斗より3時間かけ滴下した。滴下後さらに6時間加熱還流し、放冷後揮発した分のMEKを加え、樹脂溶液(樹脂固形分50質量%、酸価79mg/KOH、Tg65℃)を得た。その溶液20gに、中和剤として20質量%水酸化ナトリウム水溶液を所定量加えて塩生成基を100%中和し、そこへ攪拌しながら、顔料(C.I.ピグメントブルー15:3)50gを少しずつ加えた後、ビーズミルで2時間混練した。得られた混練物にイオン交換水200gを加え攪拌後、減圧下、加温しMEKを留去した。さらに、イオン交換水で濃度を調整し、顔料分散体(顔料固形分20質量%、樹脂固形分5重量%)を得た。
【0212】
3.2 処理液の調製
下表3の組成になるように各成分を容器に入れて、マグネチックスターラーで2時間混合及び攪拌した後、孔径5μmのメンブランフィルターで濾過することで、処理液A~Cを得た。なお、カチオン性樹脂の表中の数値は固形分量を表す。なお、純水は、組成物の全質量が100質量%となるように添加した。
【0213】
【0214】
【0215】
【0216】
上表1~上表3に示す各成分について、説明を補足する。
【0217】
<水溶性低分子有機化合物>
・PG:〔プロピレングリコール、標準沸点188℃、液体(25℃)、水と完全混和〕
・1,2HD:〔1,2-ヘキサンジオール、標準沸点224℃、液体(25℃)、水と混和〕
・CPL:〔ε-カプロラクタム、標準沸点267℃、固体(25℃)〕
・TIPA:〔トリイソプロパノールアミン、標準沸点301℃、溶解度83[g/水100g]、固体(25℃)〕
【0218】
<難水溶性低分子有機化合物>
・BEPG:〔2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、標準沸点264℃、融点43℃、固体(25℃)、溶解度0.9[g/水100g]〕
・1,2OD:〔1,2-オクタンジオール、標準沸点267℃、融点26℃、固体(25℃)、溶解度0.8[g/水100g]〕
・EHDG:〔ジエチレングリコールモノ2-エチルヘキシルエーテル、標準沸点277℃、融点-82℃、液体(25℃)、溶解度0.5[g/水100g]〕
・1-Hex:〔1-ヘキサノール、標準沸点157℃、液体(25℃)、溶解度0.1[g/水100g]〕
【0219】
<界面活性剤>
・BYK-349:〔シリコーン系界面活性剤、ビックケミージャパン社製商品名〕
・サーフィノールDF110D:〔アセチレン系界面活性剤、日信化学工業社製商品名〕
【0220】
<水分散性樹脂>
・ジョンクリル631:〔スチレンアクリル系樹脂エマルジョン、BASFジャパン社製商品名〕
・ハイテックE-6500:〔ポリエチレン系ワックスエマルジョン、東邦化学工業社製商品名〕
【0221】
<特定のノニオン性水溶性樹脂>
・PVP(ポリビニルピロリドン)
・・ピッツコールK-17:〔ポリビニルピロリドン、重量平均分子量9000、第一工業製薬社製商品名〕
・・ピッツコールK-30:〔重量平均分子量45000、第一工業製薬社製商品名〕
・PNVA(ポリ-N-ビニルアセトアミド)
・・GE191-108:〔ポリ-N-ビニルアセトアミド、重量平均分子量10000、昭和電工社製商品名〕
・PVA(ポリビニルアルコール)
・・PVA-203:〔ポリビニルアルコール、重量平均分子量16000、クラレ社製商品名〕
・PEG/PEO(ポリエチレングリコール/ポリエチレンオキシド)
・・PEG-6000:〔ポリエチレングリコール、重量平均分子量8300、ADEKA社製商品名〕
【0222】
<その他のノニオン性水溶性樹脂>
・PEG/PEO(ポリエチレングリコール/ポリエチレンオキシド)
・・PEG-1000:〔ポリエチレングリコール、重量平均分子量1000、ADEKA社製商品名〕
<アニオン性水溶性樹脂>
・アロンA-30SL:〔ポリアクリル酸アンモニウム、重量平均分子量6000、東亜合成社製商品名〕
【0223】
<凝集剤>
・カチオマスターPD-7:〔アミン・エピクロロヒドリン系カチオン性樹脂、四日市合成社製商品名〕
【0224】
3.3 印字条件
後述する評価試験における印刷では、以下の印字条件とした。
(印字条件)
・印刷機:「SC-R5050」、セイコーエプソン株式会社製改造機
・解像度:1200×1200dpi
・走査回数:9回
・プラテン加熱温度:45℃
・二次乾燥温度:80℃
・記録媒体:「Orajet 3165G-010」、オラフォルジャパン社製、塩ビフィルム
・プラテンギャップ:1.7mm
【0225】
「プラテン加熱温度」とは、記録中にヘッドと対向するプラテン領域における記録媒体の表面温度である。また、「二次乾燥温度」とは、インクジェットヘッドより下流側にある二次ヒーターによって加熱された記録媒体の表面温度である。なお、二次乾燥温度にての加熱乾燥は約3分間とした。
【0226】
3.4 評価試験
3.4.1 耐擦性
上記で得られたインクジェットインク組成物を「SC-R5050」に充填して、上記印字条件に基づき、記録媒体にベタパターンを印刷した。なお、下表4~表6に記載の条件に従い、必要に応じて上記で得られた処理液も「SC-R5050」に充填した。このとき、カラーインク付着量は12mg/inch2、処理液付着量は1mg/inch2とした。30分室温放置後に、インク付着部を30×150mm矩形に切断し、平織布を使用して学振式耐擦試験機(荷重500g)で100回擦った際のインクの剥がれ度合を目視観察し、以下の評価基準にて判定した。
(評価基準)
AA:剥がれなし
A:評価面積に対し2割未満の剥がれあり
B:評価面積に対し5割未満の剥がれあり
C:評価面積に対し5割以上の剥がれあり
【0227】
3.4.2 画質(濡れ広がり)
上記で得られたインクジェットインク組成物を「SC-R5050」に充填して、上記印字条件に基づき、記録媒体にベタパターンを印刷した。なお、下表4~表6に記載の条件に従い、必要に応じて上記で得られた処理液も「SC-R5050」に充填した。このとき、カラーインク付着量は20mg/inch2をduty100%として、duty10%刻みのパッチパターンを印刷し、処理液付着量はカラーインク付着量の10質量%とした。印刷物を目視観察し、以下の評価基準にて判定した。
(評価基準)
AA:主走査方向に延びるスジ状の濃度ムラ(バンディングムラ)が見えない
A:バンディングムラは少しあるが、濃度差は小さく目立たない
B:バンディングムラがあり、濃度差が大きいが、許容できる
C:バンディングムラがあり、濃度差が大きく、目立つ
【0228】
3.4.3 目詰まり回復性
「SC-R5050」に上記で得られたインクジェットインク組成物を充填した後、水で湿らせたベンコットでノズル面を叩いて意図的にノズル抜けを発生させた。この状態で、上記印字条件に基づいた温度条件で3時間空走させた。記録後、クリーニングを3回行い、未回復のノズル数をカウントし、以下の評価基準にて判定した。ただし、処理液は評価対象から除外した。1回のクリーニングは、ノズル群から1gのインクを排出させた。なお、ノズル群は800ノズルから構成される。
(評価基準)
AA:ノズル不吐出なし
A:ノズル不吐出1%未満
B:ノズル不吐出1%以上3%未満
C:ノズル不吐出3%以上
【0229】
3.4.4 保存安定性
上記で得られた各インクジェットインク組成物30gを気泡が混入しないようにアルミパックに封入後、60℃恒温槽で6日間放置した。取り出して自然冷却後、レオメータ(MCR702/アントンパール社)にてせん断速度200s-1の粘度を測定し、初期(インク調合直後)の粘度と比較して増粘率を算出した。得られた増粘率から保存安定性を、以下の評価基準にて判定した。
(評価基準)
A:増粘率3%未満
B:増粘率3%以上、5%未満
C:増粘率5%以上
【0230】
3.4.5 着弾ずれ
「SC-R5050」に上記で得られたインクジェットインク組成物を充填して、記録媒体をセットし、フラッシングを行った直後にノズルチェックパターンを記録し、正常吐出していることを確認した。その後、プラテン45℃の温度条件でインクを吐出せず1分空走を行い、同様のノズルチェックパターンを記録した。空走動作後のインクの着弾ずれを比較し、以下の評価基準にて判定した。なお、評価基準における着弾位置ずれの距離は、全ノズルでの平均値とした。ただし、不吐出ノズルは除き、処理液は評価対象外とした。
(評価基準)
A:着弾位置の違いなし
B:ノズル間距離以内のズレ有り
C:ノズル間距離超のズレ有り
【0231】
【0232】
【0233】
【0234】
3.5 評価結果
評価結果を、上表4~表6に示す。
【0235】
上記の評価結果より、顔料と、難水溶性低分子有機化合物と、ノニオン性水溶性樹脂と、を含有し、顔料は、自己分散顔料、又は分散剤樹脂により分散された樹脂分散顔料であり、
ノニオン性水溶性樹脂は、重量平均分子量が2000以上であり、含有量がインク組成物の総質量に対し1質量%以下であり、水系のインクジェットインク組成物である各実施例においては、バンディングムラを低減でき画質(濡れ広がり)に優れるとともに、保存安定性に優れ、着弾位置ズレを優れて低減できた。
【0236】
実施例1と比較例1との対比より、ノニオン性水溶性樹脂を含有しない場合には、保存安定性や目詰まり回復性に劣った。
【0237】
実施例1と比較例2、3との対比より、難水溶性低分子有機化合物を含有しない場合には、バンディングムラを低減できず画質(濡れ広がり)に劣った。
【0238】
実施例1と比較例4との対比より、ノニオン性水溶性樹脂の含有量が所定量以下でない場合には、吐出特性に劣り着弾ずれが発生した。
【0239】
実施例1と比較例5、6との対比より、特定のノニオン性水溶性樹脂を含有しない場合には、保存安定性や目詰まり回復性に劣った。
【0240】
実施例1、2の結果より、特定のノニオン性水溶性樹脂が所定の含有量範囲であると、優れた保存安定性を維持しつつ、着弾位置ズレ等のインクの吐出特性や耐擦性をより良好にできる傾向にあった。
【0241】
実施例1、3~6の結果より、種々の特定のノニオン性水溶性樹脂において、保存安定性や目詰まり回復性に優れていた。
【0242】
実施例1、7、8の結果より、難水溶性低分子有機化合物の含有量が所定範囲であると、画質(濡れ広がり)と目詰まり回復性をバランスよく良好にできる傾向にあった。
【0243】
実施例1、9~11の結果より、種々の難水溶性低分子有機化合物において、画質(濡れ広がり)に優れていた。
【0244】
実施例1、12、13の結果より、標準沸点が250℃以下の水溶性低分子有機化合物の含有量が所定の範囲にあると、耐擦性、目詰まり回復性及び着弾位置ズレをバランスよく良好にできる傾向にあった。
【0245】
実施例1、14の結果より、水分散性樹脂を含有すると、耐擦性により優れていた。
【0246】
実施例1、15~17の結果より、凝集剤を含有する処理液と共に記録に用いられるものであっても、バンディングムラを低減でき画質(濡れ広がり)に優れるものであった。
【0247】
上表4~表6中には記載されていないが、記録媒体を普通紙ロール(セイコーエプソン社製、普通紙)とした以外は上記印字条件と同様として、インクDを使用した参考例の評価も行った。この場合、バンディングムラの課題は生じなかった。
【0248】
上述した実施形態から以下の内容が導き出される。
【0249】
インクジェットインク組成物の一態様は、
顔料と、難水溶性低分子有機化合物と、ノニオン性水溶性樹脂と、を含有し、
前記顔料は、自己分散顔料、又は分散剤樹脂により分散された樹脂分散顔料であり、
前記ノニオン性水溶性樹脂は、重量平均分子量が2000以上であり、含有量がインク組成物の総質量に対し1質量%以下であり、水系のものである。
【0250】
上記インクジェットインク組成物の一態様において、
前記難水溶性低分子有機化合物は、アルカンジオール類、モノアルコール類、グリコールモノエーテル類の何れか1種以上を含むものであってよい。
【0251】
上記インクジェットインク組成物の何れかの態様において、
前記ノニオン性水溶性樹脂は、ポリビニルピロリドン、ポリ-N-ビニルアセトアミド、ポリビニルアルコ―ル、ポリアルキレンオキシドの何れか1種以上を含むものであってよい。
【0252】
上記インクジェットインク組成物の何れかの態様において、
前記難水溶性低分子有機化合物の含有量が、インク組成物の総質量に対し0.1質量%以上2質量%以下であってよい。
【0253】
上記インクジェットインク組成物の何れかの態様において、
標準沸点が250℃以下の水溶性低分子有機化合物を含有し、前記標準沸点が250℃以下の水溶性低分子有機化合物の含有量がインク組成物の総質量に対し5質量%以上30質量%以下であってよい。
【0254】
上記インクジェットインク組成物の何れかの態様において、
水分散性樹脂を含有し、前記水分散性樹脂は、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂の何れか1種以上を含むものであってよい。
【0255】
上記インクジェットインク組成物の何れかの態様において、
低吸収記録媒体又は非吸収記録媒体への記録に用いられるものであってよい。
【0256】
上記インクジェットインク組成物の何れかの態様において、
凝集剤を含有する処理液と共に記録に用いられるものであってよい。
【0257】
記録方法の一態様は、
上述のインクジェットインク組成物をインクジェット法により吐出して記録媒体に付着させるインク付着工程を備えるものである。
【0258】
上記記録方法の一態様において、
複数回の主走査により記録を行い、同一の走査領域に複数回の主走査を行うものであってよい。
【0259】
上記記録方法の何れかの態様において、
前記記録媒体に付着した前記インクジェットインク組成物を乾燥させる一次乾燥工程を備えていてもよい。
【0260】
上記記録方法の何れかの態様において、
前記インク付着工程の後に、前記記録媒体を加熱する後加熱工程を備えていてもよい。
【0261】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成、例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成、を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0262】
1…インクジェット記録装置、2…記録ヘッド、3…IRヒーター、4…プラテンヒーター、5…加熱ヒーター、6…冷却ファン、7…プレヒーター、8…通気ファン、9…キャリッジ、11…プラテン、12…カートリッジ、13…キャリッジ移動機構、14…搬送手段、CONT…制御部、MS…主走査方向、SS…副走査方向、M…記録媒体