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特開2024-27577硫酸還元菌検出キット、及び硫酸還元菌の検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027577
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】硫酸還元菌検出キット、及び硫酸還元菌の検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 17/04 20060101AFI20240222BHJP
【FI】
G01N17/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022130472
(22)【出願日】2022-08-18
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】トウ ギョウ
(72)【発明者】
【氏名】岡本 章玄
(72)【発明者】
【氏名】ファム デュエン ミン
【テーマコード(参考)】
2G050
【Fターム(参考)】
2G050AA01
2G050BA20
2G050EB07
2G050EB10
(57)【要約】      (修正有)
【課題】電気的微生物腐食(EMIC)を引き起こす硫酸還元菌を優先的に検出可能な硫酸還元菌検出キット、及び該キットを用いた硫酸還元菌検方法を提供する。
【解決手段】硫酸還元菌検出キットであって、培地と、鉄を含有する検出部材とを備える。前記培地は、水と、第1成分である硫酸塩と、第1成分よりも正の酸化還元電位を有する、硫酸還元菌の電子受容体として機能する第2成分とを含む。前記培地における、第1成分よりも負の酸化還元電位を有する有機物の濃度が、2mmol/L以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸還元菌検出キットであって、
培地と、鉄を含有する検出部材とを備え、
前記培地は、
水と、
第1成分である硫酸塩と、
前記第1成分よりも正の酸化還元電位を有する、硫酸還元菌の電子受容体として機能する第2成分とを含み、
前記培地における、前記第1成分よりも負の酸化還元電位を有する有機物の濃度が2mmol/L以下である、硫酸還元菌検出キット。
【請求項2】
前記培地における、前記硫酸塩よりも負の酸化還元電位を有する有機物の濃度が1mmol/L以下である、請求項1に記載の硫酸還元菌検出キット。
【請求項3】
前記培地が、前記硫酸塩よりも負の酸化還元電位を有する有機物を含有しない、請求項1に記載の硫酸還元菌検出キット。
【請求項4】
前記第2成分が、フマル酸塩、ジメチルスルホキシド、及び硝酸塩からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1~3のいずれか一項に記載の硫酸還元菌検出キット。
【請求項5】
前記第2成分の標準酸化還元電位(pH7)が、+20mV~+500mVである、請求項1~4のいずれか一項に記載の硫酸還元菌検出キット。
【請求項6】
前記培地において、前記第2成分のモル濃度(M2)に対する、前記第1成分のモル濃度(M1)の比率(M1/M2)が、2~4である、請求項1~5のいずれか一項に記載の硫酸還元菌検出キット。
【請求項7】
前記検出部材が板状体である、請求項1~6のいずれか一項に記載の硫酸還元菌検出キット。
【請求項8】
前記検出部材が、炭素鋼である、請求項1~7のいずれか一項に記載の硫酸還元菌検出キット。
【請求項9】
硫酸還元菌の検出方法であって、
請求項1~8のいずれか一項に記載の前記硫酸還元菌検出キットを用意することと、
前記培地に試料を添加して、前記培地内で前記検出部材の腐食試験を行うことと、
前記腐食試験後、前記検出部材の腐食の程度を評価することと、を含む硫酸還元菌の検出方法。
【請求項10】
前記検出部材の腐食の程度の評価が、
前記検出部材の表面の腐食生成物層の有無を確認すること、
前記検出部材の表面形状を評価すること、及び
前記腐食試験前後の前記検出部材の重量変化量を評価すること、からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項9に記載の硫酸還元菌の検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫酸還元菌検出キット、及び硫酸還元菌の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硫酸還元菌は土壌、海底、海水、河川水などの環境に普遍的に生息しており、様々な有機物や水素ガスを電子供与体として酸化し、硫酸塩を腐食性硫化水素まで還元するため、それらの環境(特に嫌気環境)における鉄材料腐食の主要な原因の一つと考えられてきた。そのため、硫酸還元菌を環境中から検出することは、腐食リスクの評価法として用いられてきた。硫酸還元菌の検出法としては、例えば、環境から採取したサンプルを、硫酸還元菌に合った有機物(電子供与体)と硫酸塩(電子受容体)を含む培地に加えて培養することが行われている。
【0003】
一方で、近年、鉄を電子源として利用する硫酸還元菌が単離された(非特許文献1)。これらの硫酸還元菌による鉄の腐食過程では、鉄表面に分厚い、導電性の腐食生成物が形成され、硫酸還元菌は腐食生成物上で、鉄から直接電子を摂取することによって腐食が進行する。このような細菌が引き起こす、電子の引き抜きに依存した腐食をEMIC(Electrical microbially influenced corrosion、電気的微生物腐食)と呼ぶ。発明者らは、硫酸還元菌の細胞膜を詳細に分析して電子取り込み機構を解析した結果、鉄から電子を直接引き抜くことに特定の酵素群が関わっていることを明らかにし(特許文献1)、更に、この酵素を有さない場合であっても、硫酸還元菌は腐食生成物(硫化鉄等)を使って鉄の腐食を加速させることを明らかにした(非特許文献2)。
【0004】
このような、電気的微生物腐食(EMIC)は、EMICではない腐食と比較して、腐食速度が数十倍速いことが知られており(非特許文献3)、一度発生すると毎年数十mmという急激な速度で進む。このため、例えば、石油パイプライン内部、汚染水や処理水を扱う設備、処理水の貯留タンクなど、日常的に目視確認できない環境で、EMICが原因の、突発的かつ重大な事故が多数報告されている。先進国のエネルギー産業や海運業を中心に、年間数百億ドルと推定される甚大な経済損失が生じており、EMICを引き起こす硫酸還元菌の検出は特に重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第7066224号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Hang T. Dinh, et al. “Iron corrosion by novel anaerobic microorganisms”, Nature volume 427, p.829-832, 2004.
【非特許文献2】Xiao Deng, et al. “Biogenic Iron Sulfide Nanoparticles to Enable Extracellular Electron Uptake in Sulfate-Reducing Bacteria” Angew. Chem. Int. Ed., December 25, 2019.
【非特許文献3】Dennis Enning, et al. “Marine sulfate-reducing bacteria cause serious corrosion of iron under electroconductive biogenic mineral crust”, Environ Microbiology, 2012 July, 14(7), 1772-87.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来の硫酸還元菌の検出方法は、鉄を電子源とした電気的腐食(EMIC)が発生しやすい条件を提供しないため、EMICを引き起こす硫酸還元菌を優先的に検出できなかった。
【0008】
本発明はこれらの課題を解決するものである。即ち、本発明は、EMICを引き起こす硫酸還元菌を優先的に検出可能な硫酸還元菌検出キット、及び該キットを用いた硫酸還元菌検方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を達成することができることを見出した。
【0010】
[1] 硫酸還元菌検出キットであって、
培地と、鉄を含有する検出部材とを備え、
前記培地は、
水と、
第1成分である硫酸塩と、
第1成分よりも正の酸化還元電位を有する、硫酸還元菌の電子受容体として機能する第2成分とを含み、
前記培地における、第1成分よりも負の酸化還元電位を有する有機物の濃度が2mmol/L以下である、硫酸還元菌検出キット。
[2] 前記培地における、前記硫酸塩よりも負の酸化還元電位を有する有機物の濃度が1mmol/L以下である、[1]に記載の硫酸還元菌検出キット。
[3] 前記培地が、前記硫酸塩よりも負の酸化還元電位を有する有機物を含有しない、[1]に記載の硫酸還元菌検出キット。
[4] 前記第2成分が、フマル酸塩、ジメチルスルホキシド、及び硝酸塩からなる群から選択される少なくとも1つである、[1]~[3]のいずれかに記載の硫酸還元菌検出キット。
[5] 前記第2成分の標準酸化還元電位(pH7)が、+20mV~+500mVである、[1]~[4]のいずれかに記載の硫酸還元菌検出キット。
[6] 前記培地において、第2成分のモル濃度(M2)に対する、第1成分のモル濃度(M1)の比率(M1/M2)が、2~4である、[1]~[5]のいずれかに記載の硫酸還元菌検出キット。
[7] 前記検出部材が板状体である、[1]~[6]のいずれかに記載の硫酸還元菌検出キット。
[8] 前記検出部材が、炭素鋼である、[1]~[7]のいずれかに記載の硫酸還元菌検出キット。
[9] 硫酸還元菌の検出方法であって、
[1]~[8]のいずれかに記載の検出キットを用意することと、
前記培地に試料を添加して、前記培地内で前記検出部材の腐食試験を行うことと、
前記腐食試験後、前記検出部材の腐食の程度を評価することと、を含む硫酸還元菌の検出方法。
[10] 前記検出部材の腐食の程度の評価が、
前記検出部材の表面の腐食生成物層の有無を確認すること、
前記検出部材の表面形状を評価すること、及び
前記腐食試験前後の前記検出部材の重量変化量を評価すること、からなる群から選択される少なくとも1つである、[9]に記載の硫酸還元菌の検出方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の硫酸還元菌検出キットは、電気的微生物腐食(EMIC)を促進する特定の組成の培地を備えることで、EMICを引き起こす硫酸還元菌を優先的に検出可能であり、また、検出時間も短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態の硫酸還元菌検出キットの断面模式図である。
図2】本実施形態の硫酸還元菌の検出方法を説明するフローチャートである。
図3】実験1-1における、腐食試験後の検出部材の上面写真である。
図4A】実験1-7における、腐食試験後の検出部材の上面写真である。
図4B】実験1-7における、腐食試験後の検出部材(菌あり)の側面写真である。
図4C】実験1-6における、腐食試験後の検出部材(菌あり)の側面写真である。
図5A】実験1-1~1-7における、腐食試験後に腐食生成物を除去した後の検出部材の上面写真である。
図5B図5Aの点線で囲んだ部分の拡大図である。即ち、実験1-5~1-7における、腐食試験後に腐食生成物を除去した後の検出部材の上面写真である。
図6】実験1-1及び1-5~1-7における、腐食試験後に腐食生成物を除去した後の検出部材の表面形状評価結果(測定断面曲線)を示す図である。
図7】実験1-1~1-7における、腐食試験前後の検出部材の重量変化の評価結果を示す図である。
図8】実験2-1~2-7における、腐食試験前後の検出部材の重量変化の評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。尚、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0014】
[硫酸還元菌検出キット]
図1に示すように、本実施形態の硫酸還元菌検出キット(以下、単に「検出キット」、又は「キット」と記載する場合がある)100は、培地10と、鉄を含有する検出部材20とを備える。培地10に試料(サンプル)を添加し、硫酸還元菌による検出部材20の腐食の程度(状態)を評価することで、試料内の硫酸還元菌を検出できる(図2参照)。
【0015】
本実施形態の硫酸還元菌検出キットで検出する硫酸還元菌、即ち、EMICを引き起こす硫酸還元菌としては、例えば、Desulfovibrio vulgaris Hildenborough,D. ferrophilus IS5,Desulfobacterium corrodens IS4等が挙げあれる。
【0016】
本実施形態の培地10は、第1成分である硫酸塩と、第1成分よりも正の酸化還元電位を有する第2成分とを含む。第2成分は、第1成分(硫酸塩)と共に、硫酸還元菌の電子受容体として機能する。発明者らは、培地に第1成分と共に、第2成分を含有させることで、驚くべきことに、EMICが格段に促進される(腐食速度が格段に速まる)ことを見出し、本発明に至った。後述する実施例に示すように、電子受容体として第1成分のみを含む場合のEMICの速度と、電子受容体として第2成分のみを含む場合のEMICの速度とは、ほぼ同等である。したがって、本実施形態の培地10では、第1成分と第2成分との相乗効果が生じ、EMICが促進されると推測される。このメカニズムは、次のように推測される。酸化還元電位が硫酸塩より正の電子受容体(第2成分)が存在する場合、細菌細胞内に取り込まれた電子は、正の電位を持つ第2成分(降圧電子移動)と負の電位を持つNADHや硫酸塩へ(昇圧電子移動)分岐する。細胞内電子分岐反応は、負電位の物質(硫酸塩)の還元を促進する。この結果、系全体のEMICが促進される。尚、以上説明したメカニズムは推測であり、本発明を何ら限定しない。
更に、培地10では、硫酸還元菌の電子供与体となり得る、第1成分よりも負の酸化還元電位を有する有機物(以下、適宜、「特定有機物」と記載する)の濃度が、2mmol/L以下である。電子供与体となり得る特定有機物の培地10内の濃度が低い(又は、培地10が特定有機物を含有しない)ことで、硫酸還元菌は、検出部材20中の鉄を電子供与体とし、よりEMICが促進される。このように、電気的微生物腐食(EMIC)を促進する組成の培地10を備えることで、本実施形態のキット100は、EMICを引き起こす硫酸還元菌を優先的に検出でき、また、検出時間も短縮できる。
【0017】
第1成分である硫酸塩は、硫酸還元菌の電子受容体(第1電子受容体)として機能する。硫酸還元菌により、硫酸塩に由来する硫酸イオンは還元され、硫化水素が生成する。第1成分は硫酸塩であれば特に限定されない。例えば、硫酸塩は、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸鉄等が挙げられる。第1成分は、1種類の硫酸塩のみから構成されてもよいし、2種類以上の硫酸塩から構成されてもよい。
【0018】
第2成分は、硫酸還元菌の電子受容体(第2電子受容体)として機能する。第2成分は、培地において、第1成分よりも正の酸化還元電位を有し、且つ硫酸還元菌の電子受容体として機能する化合物であれば特に限定されないが、例えば、フマル酸塩、硝酸塩、ジメチルスルホキシド(DMSO)、クエン酸鉄、二クロム酸ナトリウム、酸化マンガン等が挙げられ、EMICをより促進する観点から、フマル酸塩、硝酸塩、ジメチルスルホキシド(DMSO)が好ましい。フマル酸塩は、特に限定されず、例えば、フマル酸ナトリウム、フマル酸鉄、フマル酸マグネシウム等が挙げられる。硝酸塩は、特に限定されず、例えば、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸マグネシウム等が挙げられる。また、硝酸塩はEMICを促進するが、還元されると亜硝酸(HNO)を生成し、これが硫酸還元菌に対する毒性を示す場合がある。この場合、硫酸還元菌の活性が抑制される虞があるため、EMICをより促進する観点からは、第2成分として、硫酸還元菌に対する毒性を示さない化合物、例えば、フマル酸塩、ジメチルスルホキシド(DMSO)が好ましい。第2成分は、1種類の化合物のみから構成されてもよいし、2種類以上の化合物から構成されてもよい。
【0019】
下表に、代表的な第2成分の標準酸化還元電位(pH7)と、硫酸イオンの標準酸化還元電位を示す。硫酸イオンの標準酸化還元電位よりも、正の標準酸化還元電位を有していれば、培地10において第1成分よりも正の酸化還元電位を有する、と判断できる。第2成分の標準酸化還元電位は、EMICをより促進する観点から、例えば、0mV以上、又は+20mV~+500mVが好ましい。
【0020】
【表1】
【0021】
本実施形態の培地10において、第1成分よりも負の酸化還元電位を有する有機物(特定有機物)の濃度は、2mmol/L以下であり、好ましくは、1mmol/L以下である。特定有機物の中には、硫酸還元菌の電子供与体として働く化合物も存在する。特定有機物の濃度を上記上限値以下とすることで、鉄を電子源とした電気的微生物腐食(EMIC)がより発生しやすい条件となり、EMICを引き起こす硫酸還元菌を優先的に検出できる。本実施形態の培地10は、特定有機物を含有しなくてもよい(即ち、特定有機物の濃度が、0(ゼロ)mmol/Lであってもよい)。
【0022】
硫酸還元菌の電子供与体として働く特定有機物としては、例えば、乳酸塩、ブドウ糖(グルコース)、水素、プロピオン酸等が挙げられる。これらの化合物の濃度は、上述のように、2mmol/L以下であるが、EMICをより発生し易くする観点からは、1mmol/L以下が好ましく、含有しないこと(0mmol/L)がより好ましい。
【0023】
また、本実施形態の培地は、硫酸還元菌の電子供与体とは別の目的で、2mmol/L以下の特定有機物を含んでもよい。このような特定有機物としては、例えば、微量元素及びアミノ酸等を含有する酵母(Yeast)、炭素源(酢酸塩、炭酸水素イオン等)、還元剤として使用するアスコルビン酸、システイン等が挙げられる。本実施形態の培地10は、これらの特定有機物を必要に応じて含有してもよいし、含有しなくともよい。また、これらの特定有機物は、2mmol/L以下、又は1mmol/L以下の低濃度で、十分な効果を奏することができる。
【0024】
硫酸イオンの標準酸化還元電位よりも、負の標準酸化還元電位を有していれば、培地10において第1成分よりも負の酸化還元電位を有する、即ち、特定有機物だと判断できる。
【0025】
本実施形態の培地10が複数種類の特定有機物を含有する場合、複数種類の特定有機物の合計濃度(合計配合量)が、2mmol/L以下であり、好ましくは、1mmol/L以下である。
【0026】
本実施形態の培地は、水を含有する。水は、純水、イオン交換水等を用いてよい。第1成分、及び第2成分は、水に溶解、又は分散していることが好ましい。
【0027】
本実施形態の培地は、水、第1成分、及び第2成分を含有し、且つ特定有機物の濃度が2mmol/L以下であれば、それ以外の組成は特に限定されない。本実施形態の培地は、水、第1成分、及び第2成分のみから構成されてもよいし、また、水、第1成分、及び第2成分以外のその他の成分を含有してもよい。その他の成分としては、例えば、炭素源、窒素源、微量栄養素(ビタミン、アミノ酸等)、無機塩(ミネラル)、pH調整剤、還元剤等が挙げられる。また、本実施形態の培地は、例えば、人工海水に第1成分、及び第2成分を加えたものであってもよい。人工海水は、例えば、塩化ナトリウムを主成分とする複数種類の無機塩類、pH調整剤等を含有したものであってよい。
【0028】
培地における第1成分(硫酸塩)の濃度(配合量)M1、及び第2成分の濃度(配合量)M2は、特に限定されず、検出対象である硫酸還元菌の種類に応じて適宜調整してよい。第1成分の濃度M1は、例えば、10mmol/L~25mmol/Lとしてよい。第2成分の濃度M2は、例えば、3mmol/L~8mmol/Lとしてよい。
【0029】
培地において、第2成分のモル濃度(M2)に対する、第1成分のモル濃度(M1)の比率(M1/M2)は、特に限定されないが、硫酸還元菌によるEMICをより促進する観点から、1~10が好ましく、2~8がより好ましく、2~4が更により好ましい。
【0030】
培地において、水、第1成分及び第2成分以外の、その他の成分の濃度(配合量)は特に限定されない。その他の成分の濃度は、例えば、0.1質量%~10質量%としてもよい。
【0031】
培地10は、水、第1成分(硫酸塩)、第2成分、及び必要によりその他の成分を公知の方法により、均一の混合することにより製造してもよい。
【0032】
本実施形態の硫酸還元菌検出キット100における培地10の量は、特に限定されない。例えば、硫酸還元菌の検出試験(検出部材20の腐食試験)時に、検出部材20が培地10に完全に浸漬できる量であることが好ましい。培地10の量は、実質的な観点から、例えば、5mL以上、又は5mL~1000mLの範囲で適宜調整してよい。
【0033】
検出部材20は、鉄を含有していれば特に限定されず、純鉄(純度99.90~99.95%程度)であってもよいし、鉄合金であってもよい。鉄合金は、鉄が主成分(50質量%以上)であることが好ましい。鉄合金としては、例えば、炭素鋼(Fe-C)、ステンレス(Fe-Ni-Cr)、クロムモリブデン鋼(Fe-Cr-Mo)、マンガンモリブデン鋼(Fe-Mn-Mo)等が挙げられる。安価で入手し易いという観点から、検出部材20は炭素鋼であることが好ましい。
【0034】
検出部材20の大きさ、形状等は、硫酸還元菌の検出試験(腐食試験)に用いることに支障のない大きさ、形状等であれば、特に限定されない。例えば、検出部材20は板状体であってもよく、板状体であれば、腐食表面の評価(表面粗さ等)等を容易に行える。検出部材20が板状体である場合、その大きさは、例えば、L:5~20mm、W:5~20mm、H:0.5~5mmであってよい。また、検出部材20は、粉末状であってもよい。検出部材20が粉末状である場合、目視による色の変化(黒色化)により、腐食の程度を評価できる。
【0035】
硫酸還元菌検出キット100は、培地10及び検出部材20のみから構成されてもよいし、更に、その他の構成物を含んでもよい。例えば、硫酸還元菌検出キット100は、培地10及び検出部材20を保持可能な容器30を有してもよい(図1参照)。容器30の材質等は、本実施形態の効果を奏する範囲であれば特に限定されないが、内部の様子を目視可能なように、ガラス、アクリル等の可視光において透明な(透過率が高い)材質が好ましい。
【0036】
尚、図1には、硫酸還元菌検出キット100を用いて、硫酸還元菌の検出試験(検出部材20の腐食試験)を行っている状態を示している。このため、検出部材20を培地10中に浸漬させているが、本実施形態の検出キット100の形態は、これに限定されない。例えば、検出キット100は、工場出荷時、販売時、保管時等において、検出部材20と、培地10とが接触しておらず、硫酸還元菌検出試験時に初めて、これらを接触させてもよい。検出試験前に培地10と検出部材20とを接触させないことで、培地10及び検出部材20の劣化を防ぎ、硫酸還元菌の検出感度を高められる。
【0037】
[硫酸還元菌の検出方法]
図1及び図2を参照しながら、本実施形態の硫酸還元菌の検出方法の一例について説明する。検出方法は、例えば、以下の工程S1~S3を含み、試料(サンプル)中の硫酸還元菌の検出を行う。
工程S1:硫酸還元菌検出キット100を用意する工程
工程S2:培地10に試料を添加して、培地10内で検出部材20の腐食試験を行う工程、及び
工程S3:腐食試験後、検出部材20の腐食の程度を評価する工程。
【0038】
工程S1:
まず、硫酸還元菌検出キット100を用意する。硫酸還元菌検出キット100の態様については既に説明しているため、ここでは説明を省略する。
【0039】
工程S2:
次に、培地10に試料を添加して、培地10内で検出部材20の腐食試験を行う。試料としては、特に限定されないが、例えば、環境から採取したサンプルであり、具体的には、海水、海底土、汚泥、地下水、河川水、土壌である。培地10に添加する試料の量も特に限定されないが、実質的な量としては、例えば、培地10に対して、0.5~10%(v/v)としてよい。
【0040】
図1に示す硫酸還元菌検出キット100では、検出部材20を培地10中に浸漬させているが、上述のように、本実施形態の検出キット100の形態は、これに限定されない。したがって、工程S1の段階では、検出部材20と、培地10とが接触していない場合もある。この場合、本工程S2(腐食試験)において、検出部材20を培地10に浸漬させる(接触させる)。培地10への試料の添加と、検出部材20の添加との順序は、特に問わない。培地10へ検出部材20、試料の順で添加してもよいし、逆に、試料、検出部材20の順に添加してもよいし、また、試料と検出部材20とを同時に培地10に添加してもよい。
【0041】
腐食試験では、例えば、試料を添加した培地10内に検出部材20を浸漬させた状態を所定時間(腐食試験時間)、保持する。試料内に硫酸還元菌が存在する場合、腐食試験中に、以下に説明する電気的微生物腐食(EMIC)が生じる。まず、硫酸還元菌の代謝により、検出部材20中の鉄から電子が引き抜かれて(酸化されて)鉄イオン(Fe2+)が生成し、一方で、培地10中の硫酸イオン(SO 2-)が還元されて硫化物イオン(S2-)が生成する。そして、これらが結合して硫化鉄(FeS)が生成し、この硫化鉄を主成分とする導電性の腐食生成物層が検出部材20の表面に形成される。更に、硫酸還元菌は、この腐食生成物層を介して検出部材20中の鉄から電子を引き抜き続ける(腐食し続ける)。本実施形態の培地10は、電子受容体として第1成分と第2成分とを含み、更に、特定有機物の濃度が、2mmol/L以下という組成を有することで、この電気的微生物腐食(EMIC)を促進する。
【0042】
本実施形態の培地10の組成はEMICを促進するため、腐食試験時間を短くできる。腐食試験時間は、特に限定されないが、例えば、3日以上、3日~3週間の範囲内で適宜調整してもよい。腐食試験中の培地10の温度は、特に限定されず、サンプルが取得された環境、検出すべき硫酸還元菌の種類等に応じて設定することができ、例えば、1℃以上、又は4℃~100℃の範囲内で適宜選択してもよい。また、腐食試験中は、硫酸還元菌検出キット100を嫌気性条件下に置くことが好ましい。
【0043】
工程S3:
腐食試験後、検出部材20の腐食の程度を評価する。腐食の程度の評価方法は、特に限定されない。例えば、腐食試験後に、検出部材20の表面の腐食生成物層の有無を確認してもよい。硫化鉄等から形成される腐食生成物は、電気的微生物腐食(EMIC)によって形成されるため、腐食生成物層が形成されていれば、試料中に硫酸還元菌が存在していると判断できる。また、腐食の程度の評価方法として、腐食生成物層の厚さを測定してもよい。腐食生成物の厚さが厚いほど、腐食がより進行していることを意味しており、試料中の硫酸還元菌のEMICを引き起こす能力が高いと判断できる。
【0044】
また、腐食の程度の評価として、腐食試験後の検出部材20の表面形状の評価(例えば、表面粗さの測定)を行ってもよい。表面形状の評価は、目視、光学的評価方法等により行うことができ、例えば、腐食孔の有無を判断する。腐食孔が形成されていれば、試料中に硫酸還元菌が存在していると判断できる。また、腐食孔の大きさ(検出部材20表面における、幅、径、面積等)が大きい程、及び/又は、腐食深さが深い程、腐食がより進行していることを意味しており、試料中の硫酸還元菌のEMICを引き起こす能力が高いと判断できる。表面形状の評価は、腐食生成物層を除去した後に行ってもよい。
【0045】
従来の培地を用いた硫酸還元菌の検出方法では、試料中に硫酸還元菌が存在している場合でも、ある程度の厚みを有する腐食生成物層が形成されるまでに、例えば、数か月の腐食試験時間を要した。また、従来の培地を用いた硫酸還元菌の検出方法において、検出部材20に、目視で観察出来るほどの深い、及び/又は大きな腐食孔が約1週間に形成されることは、皆無に等しかった。これに対して、EMICを促進する培地を有する本実施形態のキット100を用いれば、後述する実施例に示すように、例えば、1週間程度の腐食試験時間で、目視可能な厚い腐食生成物層が形成され、目視で観察可能な大きく深い腐食孔が形成される。このように、本実施形態の硫酸還元菌検出キット100を用いることで、硫酸還元菌検出時間の大幅な短縮が可能となる。
【0046】
更に、腐食の程度の評価としては、腐食試験前後の検出部材20の重量減少量(重量変化量)WLを評価してもよい。例えば、まず、腐食試験前の検出部材20の重量(WB)から、腐食試験後の検出部材20の重量(WA)を減じた差WL1(=WB-WA)を求める。次に、リファレンスとして、硫酸還元菌を含まない試料を用いて同様の腐食試験を行い、腐食試験前後の検出部材20の重量減少量WL2を求める。そして、重量減少量WL1から、リファレンスの重量減少量WL2を減じた差Δ(=WL1-WL2)を求める。差Δは、電気的微生物腐食(EMIC)による検出部材20の重量減少量を意味する。したがって、差Δが大きい程、腐食がより進行しており、試料中の硫酸還元菌のEMICを引き起こす能力が高いと判断できる。
【0047】
また、腐食の程度の評価としては、検出部材20として鉄を含有する粉末を用いて、腐食試験前後の検出部材(粉末)20の色の変化を評価してもよい。試料が硫酸還元菌を含む場合、検出部材(粉末)20中の鉄が硫化鉄となることで、黒色化する。
【0048】
以上、検出部材20の腐食の程度を評価する方法の例について説明したが、本実施形態では、腐食の程度を評価する方法として、1種類のみの評価方法を採用してもよいし、複数種類の評価方法を採用してもよい。培地の組成(特に、第2成分の種類)、検出すべき硫酸還元菌の種類等に基づいて、適当な評価方法を適宜、選択してよい。
【実施例0049】
以下に実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0050】
[実験1-1~1-7]
以下に説明する方法により、実験1-1~1-7で用いる7種類の硫酸還元菌検出キットを6個ずつ作製した。したがって、全部で、7種類×6個=42個のキットを作製した。
【0051】
(1)培地の調製
まず、表2に示す組成となるように、各化合物を水に均一に混合して溶解し、溶液(I)を調製した。
次に、硫酸還元菌の電子受容体として機能する4種類の化合物の水溶液を調製した。調製した水溶液は以下である。硫酸ナトリウム水溶液(NaSO、濃度:300mmol/L)、フマル酸ナトリウム水溶液(Na-fumarate、濃度:100mmol/L)、ジメチルスルホキシド(DMSO、濃度:100mmol/L)、硝酸ナトリウム(NaNO、濃度:100mmol/L)。
表3に示す組成となるように、溶液(I)、水、及び上記4種類の水溶液の少なくとも1種を均一に混合して、実験1-1~1-7で用いる7種類の培地を得た。
【0052】
(2)実験1-1~1-7で用いる検出部材として、板状(10mm×10mm×2mm)の炭素鋼を用意した。上で調製した7種類培地(15mL)それぞれと、炭素鋼(1枚)とを組み合わせたキットを、培地の各種類について6個ずつ作製した。これにより、合計42個(7種類×6個)のキットを得た。
【0053】
【表2】
【0054】
【表3】
【0055】
[腐食試験]
(1)硫酸還元菌の前培養
Desulfovibrio vulgaris Hildenborough(DSM番号:644)を、80mLのDSMZ培地63を含むブチルゴム栓付きガラスバイアル中で、ヘッドスペースをNで無酸素状態とし、30℃で前培養を5日間行った。5日後の培養物は、細胞光学密度OD600nm=3であった。
【0056】
(2)腐食試験
前培養した硫酸還元菌(D.vulgaris)を遠心分離後、溶液(I)に再懸濁した液を、硫酸還元菌を含む試料として用いた。実験1-1の6個の硫酸還元菌検出キットのうち、3個のキットの培地に、検出部材(板状の炭素鋼)、及び硫酸還元菌を含む試料(1mL)を加えて、培地における細胞光学密度OD600nm=2になるように調整し、嫌気性条件下、30℃で7日間培養した。
また、比較のため、実験1-1の残りの3個のキットの培地に、検出部材、及び硫酸還元菌を含有しない試料(溶液(I)、1mL)を添加し、同様に培養した。
実験1-2~1-7の各硫酸還元菌検出キットにおいても、実験1-1と同様に、6個のキットのうち3個のキットの培地に、検出部材、及び硫酸還元菌を含む試料を加えて培養し、残りの3個のキットの培地に、検出部材、及び硫酸還元菌を含まない試料を加えて培養した。
腐食試験後、培地から検出部材を取り出し、下記評価を行った。
【0057】
[評価]
(1)腐食生成物の観察、腐食生成物層の厚さの測定
図3に、実験1-1の検出部材の写真を示す。第1成分(硫酸塩)を含み、第2成分を含まない実験1-1の検出部材は、試料が硫酸還元菌を含む場合のみ(図3の下側の3個の検出部材)、表面が黒色化した。これは、硫酸還元菌が生成した腐食生成物(硫化鉄)によるものである。しかし、生成した腐食生成物は少量であり、検出部材上に腐食生成物層(隆起部)を形成するには至らなかった。
また、第2成分を含み、第1成分(硫酸塩)を含まない実験1-2~1-4においても、図3に示す実験1-1と同様の結果であった。即ち、実験1-2~1-4においても、試料が硫酸還元菌を含む場合、検出部材の表面は黒色化したが、検出部材上に腐食生成物層(隆起部)を形成するには至らなかった。
【0058】
図4Aに、実験1-7の検出部材の写真を示す。第1成分(硫酸塩)及び第2成分(硝酸塩)を含む実験1-7の検出部材は、試料が硫酸還元菌を含む場合のみ(図4Aの下側の3個の検出部材)、表面が黒色化し、更に、検出部材上に厚い腐食生成物層(隆起部)が形成された(図4B参照)。
また、第1成分及び第2成分を含む実験1-5及び1-6においても、実験1-7と同様の結果であり、試料が硫酸還元菌を含む場合、検出部材上に黒色の厚い腐食生成物層(隆起部)が形成された。特に、実験1-6(第2成分としてDMSOを使用)では、腐食生成物層の厚さは約1mm程あり、実験1-5~1-7のうち、最も厚かった(図4C参照)。
【0059】
以上の腐食生成物の観察等から、培地が第1成分と第2成分の両方含む場合(実験1-5~1-7)、EMICが促進されることが確認でした。一方で、培地が電子受容体として第1成分のみを含む場合(実験1-1)のEMIC速度と、電子受容体として第2成分のみを含む場合(実験1-2~1-4)のEMIC速度とは、ほぼ同等であった。したがって、培地が第1成分と第2成分の両方含む場合には(実験1-5~1-7)、第1成分と第2成分の何らかの相乗効果によりEMICが促進されると推測される。
【0060】
(2)検出部材の表面形状評価
3.5g/Lのヘキサメチレンテトラミンを含む6Nの塩酸を用いて検出部材を洗浄して腐食生成物を洗い流し、腐食生成物の下の検出部材表面を目視で観察した。図5A及び図5Bに示すように、第1成分及び第2成分を含有する培地を用いた実験1-5~1-7においては、試料が硫酸還元菌を含有する場合に、検出部材の腐食(腐食孔)を目視で確認できた。一方、その他の検出部材では、腐食(腐食孔)を目視で確認できなかった。
【0061】
実験1-5~1-7(第1及び第2成分)の検出部材の腐食孔付近の表面粗さ(測定断面曲線)をワンショット3D形状測定機(株式会社キーエンス製、コントローラ VR-3000)を用いて測定した。結果を図6に示す。図6の測定断面曲線において、腐食孔に対応する部分を点線で囲んで示す。また、比較のため、実験1-1(第1成分のみ)において、試料が硫酸還元菌を含有する場合の検出部材の表面粗さを測定した。結果を合わせて図6に示す。
【0062】
図6に示すように、実験1-5(第2成分としてフマル酸塩を使用)では、幅1.5mm程度、最大深さ14μm程度の深い腐食孔が確認された。実験1-6(第2成分としてDMSOを使用)では、幅4~5mm程度、最大深さ19μm程度の大きく、深い腐食孔が確認された。実験1-7(第2成分として硝酸塩を使用)では、幅2~3mm程度、最大深さ5μm程度の腐食孔が確認された。
一方、実験1-1(第1成分のみ)では、全体的な腐食は認められたが、目視で評価した通り、深い腐食(腐食孔)は確認されなかった。
【0063】
以上の検出部材の表面形状評価から、培地が第1成分と第2成分の両方含む場合(実験1-5~1-7)に、EMICが促進されることが確認でした。
【0064】
(3)腐食試験前後の検出部材の重量変化
実験1-1~1-7において、まず、腐食試験前の検出部材の重量(WB)から、腐食試験後の検出部材の重量(WA)を減じた差(WB-WA)を求めた。重量(WA)は、塩酸を用いて腐食生成物を洗い流した後の検出部材の重量である。図7に、各実験の差(WB-WA)を重量減少量(Weight loss)として示す。図7では、各実験において、左側に試料が硫酸還元菌を含まない場合(sterile)の重量減少量3点とその平均値WL2を、右側に試料が硫酸還元菌を含む場合の重量減少量3点とその平均値WL1を示す。
【0065】
本評価では、硫酸還元菌による腐食(EMIC)に注目する。このため、各実験における、試料が硫酸還元菌を含む場合の重量減少量WL1から、試料が硫酸還元菌を含まない場合(sterile)の重量減少量WL2を減じた差Δ(=WL1-WL2)を求め、比較した。差Δが大きい程、EMICの程度が大きいと判断できる。
【0066】
図7に示すように、培地が第1成分と第2成分の両方含む実験1-6、及び1-7は、培地が電子受容体として第1成分のみ、又は第2成分のみを含む実験1-1~1-4と比較して、差Δが大きく、よりEMICが促進されていた。中でも、実験1-6(第2成分としてDMSOを使用)は、最も差Δ(EMICによる重量減少量)が大きかった。
【0067】
尚、実験1-5(第2成分としてフマル酸塩を使用)では、差Δ(EMICによる重量減少量)が確認できなかった。しかし、これは実験1-5の培地のEMIC促進効果を否定するものではない。例えば、上述の(1)腐食生成物の観察等、(2)検出部材の表面形状評価において、実験1-5の培地のEMIC促進効果は確認されている。実験1-5の腐食実験では、検出部材に深い腐食孔が形成されたが、その幅(径)は小さかった(図6参照)。このため、腐食が重量減少量に与える影響が小さかったケースもあると推測される。
【0068】
[実験2-1~2-7]
以下に説明する方法により、実験2-1~2-7で用いる7種類の硫酸還元菌検出キットを6個ずつ作製した。したがって、全部で、7種類×6個=42個のキットを作製した。
【0069】
(1)培地の調製
まず、表4に示す組成となるように、各化合物を水に均一に混合して溶解し、溶液(II)を調製した。溶液(II)は、人工海水である。尚、表4において、Se‐W溶液は、各化合物を水に溶解して調製した。微量金属溶液(SL-10 solution)は、FeClを塩酸に溶解した後、水で希釈し、そこに、他の塩類を加えて溶解し、最後に、水で希釈して溶液全体を1000.00mLとして調製した。
次に、硫酸還元菌の電子受容体として機能する4種類の化合物の水溶液を調製した。調製した水溶液は以下である。硫酸ナトリウム水溶液(NaSO、濃度:420mmol/L)、フマル酸ナトリウム水溶液(Na-fumarate、濃度:100mmol/L)、ジメチルスルホキシド(DMSO、濃度:100mmol/L)、硝酸ナトリウム(NaNO、濃度:100mmol/L)。
表5に示す組成となるように、溶液(II)、水、及び上記4種類の水溶液の少なくとも1種を均一に混合して、実験2-1~2-7で用いる7種類の培地を得た。
【0070】
(2)実験2-1~2-7で用いる検出部材として、実験1-1~1-7で用いたものと同様の板状の炭素鋼を用意した。調製した7種類培地(15mL)それぞれと、炭素鋼(1枚)とを組み合わせたキットを、培地の各種類について6個ずつ作製した。これにより、合計42個(7種類×6個)のキットを得た。
【0071】
【表4】
【0072】
【表5】
【0073】
[腐食試験]
(1)硫酸還元菌の前培養
Desulfovibrio ferrophilus IS5(DSM番号:15579)を、80mLのDSMZ培地195cを含むブチルゴム栓付きガラスバイアル中で、ヘッドスペースをCO/N(体積比20/80)で無酸素状態とし、28℃で前培養を5日間行った。5日後の培養物は、細胞光学密度OD600nm=0.3であった。
【0074】
(2)腐食試験
前培養した硫酸還元菌(D. ferrophilus IS5)を遠心分離後、溶液(II)に再懸濁した液を、硫酸還元菌を含む試料として用いた。実験2-1の6個の硫酸還元菌検出キットのうち、3個のキットの培地に、検出部材(板状の炭素鋼)、及び硫酸還元菌を含む試料(1mL)を加えて、培地における細胞光学密度OD600nm=0.15になるように調整し、嫌気性条件下、28℃で7日間培養した。
また、比較のため、実験2-1の残りの3個のキットの培地に、検出部材(板状の炭素鋼)、及び硫酸還元菌を含有しない試料(溶液(II)、人工海水 1mL)を添加し、同様に培養した。
実験2-2~2-7の各硫酸還元菌検出キットにおいても、実験2-1と同様に、6個のキットのうち3個のキットの培地に、検出部材、及び硫酸還元菌を含む試料を加えて培養し、残りの3個のキットの培地に、検出部材、及び硫酸還元菌を含まない試料を加えて培養した。
腐食試験後、培地から検出部材を取り出し、下記評価を行った。
【0075】
[評価:腐食試験前後の検出部材の重量変化]
実験2-1~2-7において、上述した実験1-1~1-7と同様の方法により腐食試験前後の検出部材の重量変化を評価した。
まず、腐食試験前の検出部材の重量(WB)から、腐食試験後の検出部材の重量(WA)を減じた差(WB-WA)を求めた。図8に、各実験の差(WB-WA)を重量減少量(Weight loss)として示す。図8では、各実験において、左側に試料が硫酸還元菌を含まない場合(sterile)の重量減少量3点とその平均値WL2を、右側に試料が硫酸還元菌を含む場合の重量減少量3点とその平均値WL1を示す。本評価においても、各実験における、試料が硫酸還元菌を含む場合の重量減少量WL1から、試料が硫酸還元菌を含まない場合(sterile)の重量減少量WL2を減じた差Δ(=WL1-WL2)に注目する。差Δが大きい程、EMICの程度が大きいと判断できる。
【0076】
図8に示すように、培地が第1成分と第2成分の両方含む実験2-5~2-7は、培地が電子受容体として第1成分のみ、又は第2成分のみを含む実験2-1~2-4と比較して、差Δが大きく、よりEMICが促進されていた。中でも、実験2-5(第2成分としてフマル酸塩を使用)は、最も差Δ(EMICによる重量減少量)が大きかった。
【0077】
このように、硫酸還元菌としてD.ferrophilus IS5を用いた場合には、実験2-5(第2成分としてフマル酸塩を使用)が、最も差Δ(EMICによる重量減少量)が大きかった(図8参照)。一方で、硫酸還元菌としてD.vulgarisを用いた場合には、実験1-6(第2成分としてDMSOを使用)が、最も差Δ(EMICによる重量減少量)が大きかった。このように、検出すべき硫酸還元菌の種類によって、腐食をより促進する第2成分の種類も異なる。したがって、検出すべき硫酸還元菌に適した第2成分を選択して培地を調製することで、より効率的にEMICを引き起こす硫酸還元菌を検出可能である。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の硫酸還元菌検出キットは、電気的微生物腐食(EMIC)を引き起こす硫酸還元菌を優先的に検出可能であり、また、検出時間も短縮できる。これにより、例えば、石油パイプライン内部等に存在する嫌気鉄腐食を早期に検出することができ、微生物腐食による事故を事前に抑制することができる。
【符号の説明】
【0079】
10 培地
20 検出部材
30 容器
100 硫酸還元菌検出キット
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図6
図7
図8