(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027647
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】構造材の鋼板及び鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/58 20060101AFI20240222BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
E04B1/58 D
E04H9/02 311
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022130605
(22)【出願日】2022-08-18
(71)【出願人】
【識別番号】000245852
【氏名又は名称】矢作建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】田口 孝
(72)【発明者】
【氏名】清水 啓介
【テーマコード(参考)】
2E125
2E139
【Fターム(参考)】
2E125AA33
2E125AB08
2E125AC15
2E125AC23
2E125AG03
2E125AG32
2E125AG41
2E139AC19
2E139BA04
2E139BD13
(57)【要約】
【課題】材料コストを高くすることなく鋼板の破断を抑制できるようにする。
【解決手段】構造材の鋼板5は、構造物に組み込むことが可能な本体11を備える。本体11は、木質材料からなる補剛材6によって囲むことが可能とされる。本体11は、定められた長さ及び幅の中央板12と、その中央板12よりも大きい幅の接合板13と、を備える。接合板13は、中央板12の長手方向の両端に対し、それぞれ溶接される。この構成によれば、本体11を形成する際に切り落とされる箇所が存在しないため、鋼板5を製造する際の材料コストが高くなることはない。また、本体11における中央板12の幅方向の両側面が切断面とはならないため、上記両側面に切断に伴う傷などが付くことはない。その結果、鋼板5の長手方向に繰り返し力が作用する際、上記傷が原因となって鋼板5に破断が生じることは抑制される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物に組み込むことが可能な本体を備え、その本体は木質材料からなる補剛材によって囲むことが可能とされる構造材の鋼板において、
前記本体は、定められた長さ及び幅の中央板と、その中央板よりも大きい幅の接合板と、を備え、
前記接合板は、前記中央板の長手方向の両端に対し、それぞれ溶接されるものである構造材の鋼板。
【請求項2】
前記中央板の長手方向の端部と前記接合板との境界をまたぐように延びる端部板を備え、
前記端部板は、前記中央板の長手方向の端部と前記接合板とに対し、垂直に配置されて溶接されるものである請求項1に記載の構造材の鋼板。
【請求項3】
前記中央板の長手方向の端部と前記接合板とによって形成される隅に配置される補強板を備え、
前記補強板は、前記中央板と前記接合板とにそれぞれ溶接されるものである請求項1又は2に記載の構造材の鋼板。
【請求項4】
構造物に組み込むことが可能であり、且つ、木質材料からなる補剛材によって囲むことが可能である本体を備える構造材の鋼板に適用され、
前記鋼板の本体は、定められた長さ及び幅の中央板の長手方向の両端部に対し、前記中央板よりも大きい幅の接合板を溶接することによって形成される鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記中央板の長手方向の両端部に前記接合板を溶接した後、前記中央板の長手方向の端部と前記接合板とに対し垂直となるように且つ両者をまたぐように端部板を配置し、その端部板を前記中央板の長手方向の端部及び前記接合板に溶接することによって前記鋼板が形成される請求項4に記載の鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記中央板の長手方向の両端部に前記接合板を溶接した後、前記中央板の長手方向の端部と前記接合板とによって形成される隅に補強板を配置し、その補強板を前記中央板と前記接合板とにそれぞれ溶接する補強板溶接工程を行い、
前記補強板溶接工程の後に、前記中央板の長手方向の端部と前記接合板とに対し垂直となるように且つ両者をまたぐように端部板を配置し、その端部板を前記中央板の長手方向の端部及び前記接合板に溶接する端部板溶接工程を行うことによって鋼板が形成される請求項4に記載の鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造材の鋼板及び鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建物等の構造物には、構造材が組み込まれる。構造材には、柱及び梁といった架構材が含まれる。構造材には、構造物を補強するためのブレースも含まれる。ブレースは、架構材の間、すなわち柱梁間に配置される。
【0003】
特許文献1には、上記ブレースの一種として、座屈拘束ブレースが開示されている。この座屈拘束ブレースを建物等の構造物に組み込むことにより、その構造物の強度及び剛性を高めることができる。上記座屈拘束ブレースは、定められた長さを有する鋼板を木質材料からなる補剛材で囲むことによって形成されている。補剛材は、鋼板が長手方向に圧縮されたときの鋼板の座屈を抑制するためのものである。
【0004】
また、特許文献1に記載された上記鋼板は、構造物に組み込むことが可能な本体を備え、その本体が上記補剛材によって囲まれている。上記鋼板の本体は、定められた長さ及び幅の中央板と、その中央板よりも大きい幅の接合板と、を備えている。接合板は、中央板の長手方向の両端に配置されており、その中央板に対し一体となっている。建物等の構造物に上記座屈拘束ブレースを組み込む際には、鋼板における上記接合板が構造物に対し接合される。
【0005】
上記鋼板を製造する際には、所定長さの長方形板状をなす金属製の素材の一部を次のように切り落とすことによって鋼板の本体が形成される。すなわち、上記素材における長手方向両端部以外の箇所の幅が両端部の幅よりも小さくなるよう上記素材の一部を切り落とすことにより、本体の中央板及び接合板が形成される。鋼板の本体における中央板の幅を接合板の幅よりも小さくするのは、鋼板に対しその長手方向に力が作用して鋼板が降伏する際、構造物に接続される接合板ではなく中央板で降伏させるためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
所定長さの長方形板状をなす金属製の素材の一部を上述したように切り落とすことにより、構造材における鋼板の本体を形成する場合、そうした切り落としを可能とするために上記素材を大きくしなければならない。このため、上記素材の材料コストが高くなるとともに、上記素材の運搬に手間がかかるようになる。また、上記素材の一部を切り落とす際に切断面に傷などが付くと、鋼板の長手方向に繰り返し力が作用することにより、鋼板が破断するおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
上記課題を解決する構造材の鋼板は、構造物に組み込むことが可能な本体を備える。本体は、木質材料からなる補剛材によって囲むことが可能とされる。また、上記本体は、定められた長さ及び幅の中央板と、その中央板よりも大きい幅の接合板と、を備える。接合板は、中央板の長手方向の両端に対し、それぞれ溶接される。
【0009】
上記構成によれば、中央板の長手方向の両端に対しそれぞれ接合板を溶接することにより、中央板よりも大きい幅の接合板を備えた本体が形成される。この場合、鋼板の本体を形成する際に切り落とさなければならない箇所が存在しないため、鋼板を製造する際の材料コストが高くなることはない。また、本体における中央板の幅方向の両側面が切断面とはならないため、上記両側面に切断に伴う傷などが付くことはない。その結果、鋼板の長手方向に繰り返し力が作用する際、上記傷が原因となって鋼板に破断が生じることは抑制される。
【0010】
上記構造材の鋼板は、中央板の長手方向の端部と接合板との境界をまたぐように延びる端部板を備える。端部板は、中央板の長手方向の端部と接合板とに対し、垂直に配置されて溶接されるものとされる。
【0011】
上記構成によれば、本体における中央板と接合板との接合が端部板によって強固なものとされる。
上記構造材の鋼板は、中央板の長手方向の端部と接合板とによって形成される隅に配置される補強板を備える。補強板は、中央板と接合板とにそれぞれ溶接されるものとされる。
【0012】
上記構成によれば、本体における中央板と接合板との接合箇所付近の強度を補強板によって高めることができる。
上記課題を解決する鋼板の製造方法は、構造物に組み込むことが可能であり、且つ、木質材料からなる補剛材によって囲むことが可能である本体を備える構造材の鋼板に適用される。鋼板の本体は、定められた長さ及び幅の中央板の長手方向の両端部に対し、中央板よりも大きい幅の接合板を溶接することによって形成される。
【0013】
上記方法によれば、中央板の長手方向の両端に対しそれぞれ接合板を溶接することにより、中央板よりも大きい幅の接合板を備えた鋼板の本体が形成される。この場合、鋼板の本体を形成する際に切り落とさなければならない箇所が存在しないため、鋼板を製造する際の材料コストが高くなることはない。また、本体における中央板の幅方向の両側面が切断面とはならないため、上記両側面に切断に伴う傷などが付くことはない。その結果、鋼板の長手方向に繰り返し力が作用する際、上記傷が原因となって鋼板に破断が生じることは抑制される。
【0014】
上記鋼板の製造方法において、中央板の長手方向の両端部に接合板を溶接した後、中央板の長手方向の端部と接合板とに対し垂直となるように且つ両者をまたぐように端部板を配置する。そして、その端部板を中央板の長手方向の端部及び接合板に溶接することによって鋼板が形成される。
【0015】
上記方法によれば、鋼材の本体における中央板と接合板との接合が端部板によって強固なものとされる。
上記鋼板の製造方法において、中央板の長手方向の両端部に接合板を溶接した後、中央板の長手方向の端部と接合板とによって形成される隅に補強板を配置し、その補強板を中央板と接合板とにそれぞれ溶接する補強板溶接工程が行われる。そして、補強板溶接工程の後に、中央板の長手方向の端部と接合板とに対し垂直となるように且つ両者をまたぐように端部板を配置し、その端部板を中央板の長手方向の端部及び接合板に溶接する端部板溶接工程を行うことによって鋼板が形成される。
【0016】
上記方法によれば、本体における中央板と接合板との接合箇所付近の強度を補強板によって高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】建物等の構造物に組み込まれた座屈拘束ブレースを示す側面図である。
【
図2】上記座屈拘束ブレースを示す分解斜視図である。
【
図3】上記座屈拘束ブレースにおける鋼板の本体を示す側面図である。
【
図4】上記座屈拘束ブレースにおける鋼板の本体を示す平面図である。
【
図5】上記鋼板の本体に対する補強板の取り付け方を示す平面図である。
【
図6】上記鋼板の本体に対する端部板の取り付け方を示す平面図である。
【
図7】上記鋼板の本体に対する端部板の取り付け方を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、構造材の鋼板及び鋼板の製造方法の一実施形態について、
図1~
図9を参照して説明する。
図1に示すように、建物等の構造物には、柱1及び梁2といった架構材が組み込まれている。構造物の架構材には、複数のガセットプレート3が所定の距離をおいて取り付けられている。ガセットプレート3間には、構造材としての座屈拘束ブレース4が組み込まれている。座屈拘束ブレース4は、構造物の強度及び剛性を高めるためのものである。
【0019】
図2に示すように、座屈拘束ブレース4は、定められた長さを有する鋼板5を木質材料からなる補剛材6で囲むことによって形成されている。補剛材6は、鋼板5が長手方向に圧縮されたときの鋼板5の座屈を抑制するためのものである。補剛材6としては、例えば板材を鋼板5の幅方向に重ねた集成材が用いられる。なお、補剛材6として、直交集成材(クロス・ラミネーティッド・ティンバー:CLT)、もしくは単板積層材(ラミネイティッド・ベニア・ランバー:LVL)を用いることも可能である。
【0020】
<鋼板5の詳細な構造>
鋼板5は、構造物に組み込むことが可能な所定長さの本体11を備えている。本体11は、定められた長さ及び幅の中央板12と、その中央板12の幅よりも大きい幅の接合板13と、を備えている。接合板13は、中央板12の長手方向の両端面に対し、それぞれ完全溶け込み溶接等によって溶接されている。このときの接合板13の幅方向の両側面は、中央板12の幅方向の両側面から幅方向の外側にはみ出している。
【0021】
鋼板5は、上記本体11の他に、端部板7と補強板14とを備えている。端部板7は、中央板12の長手方向の端部と接合板13との境界をまたぐように延びている。端部板7は、中央板12の長手方向の端部及び接合板13の幅方向の中央部に対し、垂直に配置されている。端部板7は、中央板12の長手方向の端部及び接合板13の幅方向の中央部に対し、隅肉溶接等によって溶接されている。補強板14は、直角三角形の板状に形成されている。補強板14は、中央板12の長手方向の端部と接合板13とによって形成される隅に配置されている。補強板14は、中央板12と接合板13とにそれぞれ完全溶け込み溶接等によって溶接されている。
【0022】
<鋼板5と補剛材6との関係>
補剛材6は、中央板12の厚さ方向の両側にそれぞれ配置されている。それら補剛材6同士をボルト等によって互いに締結することにより、鋼板5における本体11の中央板12が補剛材6によって囲まれている。このとき、鋼板5における本体11の中央板12の長手方向の両端部以外は補剛材6の内部に位置しており、本体11の接合板13は補剛材6から露出している。また、鋼板5における端部板7及び補強板14、並びに、本体11の中央板12の長手方向の端部は、それぞれ一部のみが補剛材6から露出している。
【0023】
<構造物に対する座屈拘束ブレース4の組み込み>
図1に示すように、鋼板5の端部とガセットプレート3とは添え板16,17によって固定されている。詳しくは、添え板16がガセットプレート3と鋼板5における本体11の接合板13とに対しボルト締結される。更に、添え板17がガセットプレート3と鋼板5の端部板7とに対しボルト締結される。これにより、鋼板5の両端部はそれぞれ、ガセットプレート3に固定されている。その結果、鋼板5が構造物に組み込まれる。
【0024】
次に、鋼板5の製造方法について、
図3~
図9を参照して説明する。
鋼板5を製造する際には、まず
図3及び
図4に示すように、中央板12の長手方向の両端部付近にそれぞれ接合板13を配置する。その後、接合板13を
図3及び
図4の矢印で示すように中央板12の長手方向の両端部に対し溶接することにより、鋼板5の本体11が形成される。このように本体11が形成されてから、以下の補強板溶接工程及び端部板溶接工程が順に行われる。
【0025】
<補強板溶接工程>
この工程では、中央板12の長手方向の両端部に接合板13を溶接した後、
図5に示すように中央板12の長手方向の端部と接合板13とによって形成される隅に補強板14が配置される。そして、
図5に矢印で示すように、補強板14は、中央板12と接合板13とにそれぞれ溶接される。
【0026】
<端部板溶接工程>
この工程では、上記補強板溶接工程を実行した後、端部板7が
図6に矢印で示すように、中央板12の長手方向の端部と接合板13とに対し垂直となり、且つ、両者をまたぐように配置される。そして、
図7に矢印で示すように、端部板7が中央板12の長手方向の端部及び接合板13に溶接される。これにより、
図8及び
図9に示すように鋼板5が形成される。
【0027】
以上詳述した本実施形態によれば、以下に示す作用効果が得られるようになる。
(1)鋼板5の本体11は、中央板12の長手方向の両端に対しそれぞれ接合板13を溶接することにより、中央板12よりも大きい幅の接合板13を備えたものとされる。この場合、鋼板5の本体11を形成する際に切り落とさなければならない箇所が存在しないため、鋼板5を製造する際の材料コストが高くなることはない。また、本体11における中央板12の幅方向の両側面が切断面とはならないため、上記両側面に切断に伴う傷などが付くことはない。その結果、鋼板5の長手方向に繰り返し力が作用する際、上記傷が原因となって鋼板5に破断が生じることは抑制される。
【0028】
(2)鋼板5は、中央板12の長手方向の端部と接合板13との境界をまたぐように延びる端部板7を備えている。端部板7は、中央板12の長手方向の端部及び接合板13に対し、垂直に配置されて溶接される。その結果、鋼板5の本体11における中央板12と接合板13との接合が端部板7によって強固なものとされる。
【0029】
(3)鋼板5は、本体11における中央板12の長手方向の端部と接合板13とによって形成される隅に配置される補強板14を備えている。補強板14は、中央板12と接合板13とにそれぞれ溶接される。その結果、本体11における中央板12と接合板13との接合箇所付近の強度を補強板14によって高めることができる。
【0030】
なお、上記実施形態は、例えば以下のように変更することもできる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・鋼板5の補強板14を省略してもよい。この場合、鋼板5を製造する際の補強板溶接工程が省略される。
【0031】
・鋼板5の端部板7を省略してもよい。この場合、鋼板5を製造する際の端部板溶接工程が省略される。
・鋼板5を備えた構造材として座屈拘束ブレース4を例示したが、上記構造材は柱1及び梁2といった架構材であってもよい。
【符号の説明】
【0032】
1…柱
2…梁
3…ガセットプレート
4…座屈拘束ブレース
5…鋼板
6…補剛材
7…端部板
11…本体
12…中央板
13…接合板
14…補強板
16,17…添え板