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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027650
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】腸内細菌叢改善性サプリメント
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/10 20160101AFI20240222BHJP
   A61K 35/74 20150101ALI20240222BHJP
   A61P 1/14 20060101ALI20240222BHJP
   A23L 33/125 20160101ALI20240222BHJP
   C12N 1/20 20060101ALN20240222BHJP
【FI】
A23L33/10
A61K35/74 G
A61P1/14
A23L33/125
C12N1/20 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022130610
(22)【出願日】2022-08-18
(71)【出願人】
【識別番号】502026975
【氏名又は名称】株式会社エンザミン研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】上嶋 繁
(72)【発明者】
【氏名】松尾 理
(72)【発明者】
【氏名】安澤 俊紀
(72)【発明者】
【氏名】後藤 謙治
【テーマコード(参考)】
4B018
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B018MD33
4B018MD85
4B018ME14
4B018MF01
4B018MF14
4B065AA01X
4B065AC14
4B065BB16
4B065BB17
4B065BB29
4B065CA41
4B065CA44
4B065CA60
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB64
4C087BC64
4C087CA10
4C087MA52
4C087NA14
4C087ZA69
(57)【要約】
【課題】免疫機能の向上や生活習慣病の発症を予防できるようにし、人の健康の維持または改善を図る腸内細菌叢の特定の細菌群の存在率を調整できるサプリメントを創製する。
【解決手段】培地用基材が澱粉糖化物もしくはショ糖またはこれらの混合物からなり、窒素源として酵母の水溶性成分を含有する発酵用培地で培養されたパエニバチルス・ポリミキサAK-T1-11株が産生する菌体外高分子物質を必須成分とする腸内細菌叢改善のためのサプリメントとする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
培地用基材が澱粉糖化物もしくはショ糖またはこれらの混合物からなり、窒素源として酵母の水溶性成分を含有する発酵用培地で培養されたパエニバチルス・ポリミキサAK-T1-11株(受託番号:NITE BP-03577)が産生する菌体外高分子物質を必須成分とする腸内細菌叢改善性サプリメント。
【請求項2】
前記腸内細菌叢改善性サプリメントの腸内細菌叢改善が、バクテロイデス門(Bacteroidetes)細菌の相対的存在率に対するフィルミクテス門(Firmicutes)細菌の相対的存在率の比の減少である請求項1に記載の腸内細菌叢改善性サプリメント。
【請求項3】
前記腸内細菌叢改善性サプリメントの腸内細菌叢改善が、ルミノコッカス科(Ruminococcuceae)細菌またはアッカーマンシア属(Akkermansia)細菌の全腸内細菌に対する相対的な存在率の減少である請求項1に記載の腸内細菌叢改善性サプリメント。
【請求項4】
前記菌体外高分子物質を含む培養精製物を1質量%以上含有する請求項1~3のいずれかに記載の腸内細菌叢改善性サプリメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ヒトの健康の維持や改善を図るための腸内細菌叢の組成を改善可能な腸内細菌叢改善性サプリメントに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの健康を増進させ、生体に必要な諸成分を体内で効率よく生成するように代謝活性を高め、Tリンパ球を幼若化させて免疫機能を増強する作用があると考えられている発酵代謝物エキスとして、エンザミン(登録商標)が知られており、またその製造方法も特許公報に開示されている(特許文献1)。
【0003】
上記公報に開示されている製造方法は、コーンスターチを含む澱粉をアミラーゼで加水分解した糖化物を培地用基材とし、これに窒素源としてイーストエキスを添加して発酵用培地を調整し、この培地に、赤澤(AK)菌と称されるパエニバチルス・ポリミキサ(Paenibacillus polymyxa)赤澤株(特許文献1ではバチルス・ズブチルス AKと記載されている)を接種し、培養後に生成した液状成分を分取して食品用原液とし、これを素材として健康食品、保健栄養食品や化粧品が製造されている(特許文献2)。
【0004】
ところで、ヒトの健康には、消化管、特に腸管に定着している少なくとも1000種類で100兆個以上の微生物が大きな影響を及ぼすことが知られており、そのような微生物を構成する細菌類は、腸内細菌叢または腸内ミクロビオタもしくはマイクロバイオータと呼ばれている。
【0005】
腸内微生物叢の99%以上は、バクテロイデス、クロストリジウム、ビフィズス菌などの嫌気性菌であり、ビフィズス菌などの善玉菌やクロストリジウムのような悪玉菌が含まれ、これらのバランスに基づいて健康なヒトの腸管内の環境は良好に維持されている。
【0006】
このような腸内細菌叢を構成する細菌群の組成、すなわち細菌の種類と量が変化すると健康が損なわれる場合があり、例えば脂質異常症、炎症性腸疾患、アレルギー性疾患および癌細胞の増殖やII型糖尿病(非特許文献1)による高血糖、高血圧またはそれらの合併症状(いわゆるメタボリックシンドローム)に至る可能性も高まる。
【0007】
腸内細菌群の1つであるクロストリジウム目のラクノスピラセ科に属する菌は、多糖類を資化して短鎖脂肪酸及びエタノールを産生するが、マウスの糖尿病(II型)の発症に関与することが知られている。
【0008】
また腸内細菌叢は、バクテロイデス門とフィルミクテス門が優勢であり、バクテロイデス門が栄養分を資化して菌体外に放出する短鎖脂肪酸は、脂肪細胞に作用して脂肪の取り込みを抑制して肥満を防ぎ、逆にルミノコッカス科(Ruminococcuceae)等のフィルミクテス門の細菌は栄養分から取り込むエネルギー量が多いので、存在割合が高まれば肥満に結びつきやすい。
【0009】
また、腸の表面はムチンを含む粘膜層で覆われており、細菌の侵入を防いで免疫機構の「腸粘膜バリア」とも呼ばれるが、ムチンを分解して栄養源として取り込む腸内細菌もあり、そのようなアッカーマンシア属(Akkermansia)の細菌としてアッカーマンシア ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)が知られている。また、ルミノコッカス科(Ruminococcuceae)細菌もムチン分解性細菌である。
【0010】
ところで、腸内微生物叢は、いわゆるプロバイオティクス及びプレバイオティクスという用語で特定される概念と関連性があることが知られており、因みにプロバイオティクスとは、ラクトバチルス、バチルス・サブチリス、クロストリジウム・ブチリカム等のような人の体内に自然に存在する微生物と同じ微生物、または類似の微生物を摂取することにより腸内微生物バランスに影響を与えることをいう。
【0011】
また、プレバイオティクスとは、微生物の宿主の大腸内の特定の細菌の増殖および活性を選択的に変化させることよって宿主の健康に有利な影響を与える食品成分であり、例えば難消化性オリゴ糖(フルクトオリゴ糖)、イヌリン等をプレバイオティクスとして摂取することにより腸内微生物バランスを改善することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第3902015号公報
【特許文献2】特開2012-143187号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Qin J.ら、“II型糖尿病における腸内細菌叢のメタゲノム-ワイド関連の研究”、2012年、ネイチャー490(7418)、p.55-60
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、前記したエンザミン(登録商標)の摂取とヒトの腸内細菌叢への影響は明らかでなく、エンザミンの摂取による腸内細菌叢を構成する細菌群の組成の変化についての知見がなく、そのような組成変化による健康への影響についても解明されていなかった。
【0015】
また、特定発酵生産物を必須成分とするエンザミンは、その特定成分を効率よく産生する菌株の改良と、その培養条件については、さらに改良の余地があった。
【0016】
そこで、この発明の課題は、上記した問題点を解決し、腸内細菌叢の特定細菌群の存在量を調整して、免疫機能の向上や生活習慣病の発症を予防できるサプリメントを創製し、人の健康の維持や改善を図るために腸内細菌叢の組成の改善を充分に行なえるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本願の発明者らは、腸内細菌叢について、パエニバチルス・ポリミキサAK-T1-11株という改良株による代謝産物またはその抽出生成物である改良されたエンザミンの効果を調べるために、マウスに対して標準食や高脂肪食を与えると共に高脂肪食に加えて所定量の前記エンザミンを所定期間以上摂取させた。
【0018】
その結果、腸内細菌叢を構成するバクテロイデス門、ウェルコミクロビウム門、フィルミクテス門等の細菌組成について、高脂肪食の摂食と共に前記エンザミンを投与したマウスと、高脂肪食のみを摂食したマウスとの間で、明らかに腸内細菌叢における健康に有用でない一部の細菌類の相対的存在率が有意に減少する変化があり、健康に好ましい腸内細菌叢になる効果が認められた。
【0019】
上記結果に基づいて、本願の発明者らはこの発明に想到したのであり、培地用基材が澱粉糖化物もしくはショ糖またはこれらの混合物からなり、窒素源として酵母の水溶性成分を含有する発酵用培地で培養されたパエニバチルス・ポリミキサAK-T1-11株(受託番号:NITE BP-03577)が産生する菌体外高分子物質を必須成分とする腸内細菌叢改善のためのサプリメントとすることによって、上記の課題を解決したのである。
【0020】
この発明でいうある細菌の「相対的存在率」は、解析した細菌の16sRNA遺伝子の塩基配列を基に算出した相対的な存在率であり、解析することができた全ての細菌の16sRNA遺伝子に占める、ある細菌の16sRNA遺伝子の割合(占有率)をいう。
【0021】
また、この発明でいうサプリメントは、医薬品や単なる食品とは異なり、健康補助食品や保健機能食品等とも呼ばれる保健機能や栄養機能を有する健康食品の一種であり、通常の食品よりも高い濃度で特定成分が含まれるように調製されていて、その好ましい製剤形態としては、例えば顆粒剤、粉剤、錠剤やカプセル剤、液剤等のように経口摂取に適した形態のものである。
【0022】
このような腸内細菌叢改善性サプリメントは、必須成分として含有されている菌体外高分子物質が、パエニバチルス・ポリミキサAK-T1-11株(受託番号:NITE BP-03577)が特定の培養条件で産生されたものであり、これを摂取したヒトの腸管内で細菌叢を構成する細菌の組成を変化させ、特に特定種類(科、属または種)のヒトの健康に有用な細菌の相対的存在率(以下、単に「存在率」と称する場合がある。)を増加させ、または健康に不要または有害な細菌の存在率を減少させることにより、ヒトの健康の維持や改善に貢献できるものである。
【0023】
特に、バクテロイデス門(Bacteroidetes)細菌の相対的存在率に対するフィルミクテス門(Firmicutes)細菌の相対的存在率の比の減少であることにより、エネルギーの取り込み量の多いフィルミクテス門(Firmicutes)細菌の存在率を減少させて肥満を抑制し、またはバクテロイデス門の細菌の存在率を増やして菌体外に放出する短鎖脂肪酸を増やすことにより、脂肪細胞に作用し脂肪の取り込みを抑制して肥満を防ぐことができる。
【0024】
また、ルミノコッカス科(Ruminococcuceae)細菌またはアッカーマンシア属(Akkermansia)細菌の全腸内細菌に対する相対的な存在率の減少により、これらのムチン分解性の細菌による腸の表面のムチンを含む粘膜層の破壊が抑制され、この粘膜層による病原体や異物に対するバリア機能を健全に保つことができる。
【0025】
このような効果がより充分に奏されるように、上記腸内細菌叢改善性サプリメントは、多糖類等の菌体外高分子物質が含まれる培養精製物を1質量%以上含有するものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
この発明の腸内細菌叢改善性サプリメントは、パエニバチルス・ポリミキサAK-T1-11株を用いて産生された菌体外高分子物質を必須成分としているので、腸内細菌叢の特定の細菌群の存在率を調整して免疫機能の向上や生活習慣病の発症を予防できるサプリメントとなり、ヒトの健康の維持や改善を図るために腸内細菌叢の組成の改善を充分に行なえるものになるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】培養液Dを用いた培養後の分子量分布を示し、HPLCによる保持時間とlog分子量(MW)との関係を示すクロマトグラム
図2】試験群別の腸内細菌の門別相対的存在率を示す図表
図3】試験群別の腸内細菌の門別平均相対的存在率を示す図表
図4】試験群別の腸内細菌の(フィルミクテス門/バクテロイデス門)の相対的存在率の比を示す図表
図5】試験群別の腸内細菌のルミノコッカス科の相対的存在率を示す図表
図6】試験群別の腸内細菌のアッカーマンシア属の相対的存在率を示す図表
図7】免疫ブロット法で検出されたクローディン-4とコントロール(β-アクチン)の試験群別のブロットを示す写真
図8図7におけるβ-アクチン発現量に対するクローディン-4発現量の比を試験群別に示す図表
【発明を実施するための形態】
【0028】
この発明の実施形態の腸内細菌叢改善性サプリメントは、所定の培地で培養されたパエニバチルス・ポリミキサの所定株が産生する菌体外高分子物質を必須成分として含有するものであり、以下のようにして澱粉糖化物もしくはショ糖またはこれらの混合物を培地用基材とし、これに窒素源として酵母の水溶性成分を添加して発酵用培地を調製し、これにパエニバチルス・ポリミキサAK-T1-11株を接種して培養し、産生した菌体外高分子物質を含む液状発酵生産物を、可食性素材に1質量%以上配合して製造することができる。
【0029】
上記培養条件としては、第1段階としてpH5.5~7.2、28~32℃で1週間以上培養した後、第2段階としてpH4.0~6.0、8℃以上13℃未満で1週間以上培養することが好ましい。このように培養すると特定のタイプの有効成分、特にEPSの産生量を増やすことができ、従来の培養方法で産生される有効成分量やその機能をさらに高めることができる。
【0030】
上記製造方法では、所定の発酵用培地に、パエニバチルス・ポリミキサAK-T1-11株という有用成分を高効率で産生する菌株を接種し、所定の2段階のpH域での培養によってさらに効率よく多糖類を含んだ菌体外高分子物質を液状発酵生産物として得ることができる。これを精製した培養精製物を製剤するための周知の可食性基材に所定量配合することにより、腸内細菌叢改善性のサプリメントを効率よく製造することができる。
【0031】
発酵用培地の基材となる澱粉糖化物は、穀類、芋類、植物の根や幹、豆類などの植物由来の澱粉を分解する過程の最終工程で消化酵素のアミラーゼで加水分解したものであり、特にコーンスターチを含む澱粉をアミラーゼで加水分解した低分子量の澱粉糖化物であることが好ましい。
【0032】
発酵用培地の炭素源となるショ糖(スクロース)は、多くの植物から得られる二糖類であり、これを主成分とするグラニュー糖を用いることが好ましい。この発明では、澱粉糖化物に加えて、もしくは澱粉糖化物に代えてショ糖を用いることができる。上記のようにショ糖を用いることにより、顕著に菌体外多糖の産生量を増加させることができる。
【0033】
窒素源としての酵母の水溶性成分は、イーストエキスまたは酵母エキスとも別称される酵母からの抽出物であり、酵母の菌体自体を自己消化または酸加水分解することにより得られ、アミノ酸、核酸等の他、ミネラル、ビタミンも含まれる微生物培養の培地用成分として周知なものである。
【0034】
また、発酵用培地には、pH緩衝剤を含有させ、pH7.0以下に調整することが好ましい。前記炭素源としてグルコース等の代謝され易い成分を用いると、培地中に酸が蓄積されやすくなるが、pHがあまり低下しすぎると発酵に関わる菌類がダメージを受ける場合があるので、このような場合にもpH緩衝剤は有効である。
【0035】
pH緩衝剤としては、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二ナトリウムなどが挙げられる。また、菌体内外の浸透圧を適切に調整するために、必要に応じて適量の塩化ナトリウム、塩化カルシウム等を添加する場合もある。
【0036】
上記のような必須成分等を含む発酵用培地に接種する発酵菌は、パエニバチルス・ポリミキサAK-T1-11株であり、さらにこの発明の目的を阻害しない程度に、好ましい生育条件や菌体外高分子物質の産生能などの特性が若干異なる変異株を一種以上含ませてもよい。
【0037】
パエニバチルス・ポリミキサAK-T1-11株は、最新のAPI50CHによる生化学的性状分類と細菌16S rRNA全塩基配列の成績により、1993年の細菌種の再分類でBacillus属から移されたPaenibacillus属のPaenibacillus polymyxa であることが判明している。
【0038】
上記菌株の菌学的性状は、以下の通りである。-
<パエニバチルス・ポリミキサ AK-T1-11株>
(a) 形態学的性質
(1)細胞の形及び大きさ:桿菌0.6~0.8×3.0~50μm 連鎖 単~短
(2)細胞の多形性の有無:無し
(3)運動性の有無: 有り (周毛性の鞭毛)
(4)芽胞の有無: 有り 楕円 菌体のほぼ中央 菌体膨張 有り
(b) 培養的性質
(1)肉汁寒天平板培養:円形粘調集落
(2)肉汁液体培養:上部に菌体凝集
(c) 生化学的性質
(1)グラム反応: 不定
(2)硝酸塩の還元: 陽性
(3) VPテスト: 陽性
(4) ウレアーゼ: 陰性
(5)インドールの生成: 陰性
(6)硫化水素の生成: 陰性
(7)クエン酸の利用: 陽性
(8)カタラーゼ: 陽性
(9)オキシダーゼ: 陰性
(10)生育の範囲:pH 5.5~7.6、温度 10℃~45℃
【0039】
このパエニバチルス・ポリミキサ(Paenibacillus polymyxa)AK-T1-11株は、2021年12月24日(受託日)に独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NPMD)に受託番号:NITE BP-03577として国際受託されている。
【0040】
この発明で採用することが好ましい第1段階の培養条件は、菌株により詳細は異なるが、pH5.5~7.2、28~32℃の条件で1週間以上2ヶ月未満である。上記より強い酸性域で所定温度未満の条件では、2ヶ月以上培養しても、この発明に用いる所定の菌株が効率よく糖および窒素源を資化しないと推定され、得られた食品に期待した効果が充分得られない。また、上記のpH域を超えたアルカリ性の条件で所定温度を超えた高温では効率よく糖および窒素源が資化されない場合がある。
【0041】
この発明で採用することが好ましい第2段階の低温培養条件は、pH4.0~6.0で培養温度は13~17℃、好ましくは8℃以上13℃未満であり、好ましい培養期間は1週間以上、例えば1カ月以上でもよく、4ヶ月未満である。
【0042】
上記より強い酸性域で所定温度未満の条件では、4ヶ月以上培養しても、発酵生産物として各種の活性を有するアミノ酸、リポ多糖(リポポリサッカライド)、リピッドなどが充分に低分子量化しないと推定され、得られた食品に所期した効果が充分得られない。
【0043】
また上記の酸性域を超えて中性またはアルカリ性の条件で所定温度を超えて高温で培養しても、活性が低下すると推定され、得られた機能性表示食品は上記同様に所期した効果が充分得られないものになる。
【0044】
生成した液状成分を分取するには、連続遠心分離器を使用し、得られた液状発酵生産物は、そのまま利用できるが、必要に応じて濃縮し、または希釈して利用することもできる。例えば、上記のように遠心分離などで分取した液状発酵生産物を20倍に濃縮したものを後述する実施例に用いるために製造可能である。
【0045】
得られた液状発酵生産物中には、前記菌体外高分子物質のレバン、レバンオリゴ糖及びβ-グルカンから選ばれる1種以上の多糖類が含まれている。当該菌による発酵で産生したレバン、カードラン等の多糖類であるβグルカン及びオリゴ糖等の存在を確認するには、サイズ排除クロマトグラフィカラムを装着した高速液体クロマトグラフ(HPLC)による分子量分布で測定することができる。
【0046】
また、このような定性的な分析だけでなく、定量分析を行うには、エタノール沈殿法で処理した後、希硫酸による加水分解で多糖類の構成糖に分解し、HPLC法で構成糖を定量する方法で測定することができる。
【0047】
実施形態の腸内細菌叢改善性サプリメントは、上記のようにして得られた菌体外高分子物質を含む液状発酵生産物を可食性素材に所定量配合し、必要に応じて内服に適した形態に製剤する。製剤の形態は、例えば顆粒剤、粉剤、錠剤やカプセル剤、液剤等の周知の製剤形態が挙げられる。
【0048】
製剤の基材等として用いる可食性素材は、特に限定した素材でなくてもよく、経口摂取することによって口中もしくは消化管内で体液により溶解または消化される人体に無害なものであればよく、例えばデンプンなどの炭水化物、動・植物性蛋白質、油脂などの脂肪が挙げられる。
【0049】
カプセル剤に製剤する場合に用いるカプセルを構成する可食性高分子としては、熱可塑性高分子が挙げられ、例えばポリビニルピロリドン、ポリ酢酸ビニル、酢酸ビニル・ビニルピロリドン共重合体、ヒドロキシアルキルセルロース、カルボキシアルキルセルロースやデンプン等を用いることができる。
【0050】
このような可食性素材に配合する菌体外高分子物質は、充分に腸管内で細菌叢を構成する細菌の組成を変化させるために、可食性素材(基材)100質量%中に0.1質量%以上、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上の濃度で配合する。配合量の上限は、食品安全性の基準を満たす限り濃度を高めてもよいが、レバン、レバンオリゴ糖及びβ-グルカンの食品添加物としての安全性が満たされる限り、例えば5質量%もしくは10質量%、または90質量%以内の濃度で調整することも可能である。
上記の濃度で菌体外高分子物質を配合したサプリメントは、腸内細菌叢の細菌類のうち、バクテロイデス門(Bacteroidetes)細菌、フィルミクテス門(Firmicutes)細菌、ルミノコッカス科(Ruminococcuceae)細菌、アッカーマンシア属(Akkermansia)細菌の存在量を有意に減少または増加させ、相対的な存在率(相対的な構成割合)を充分に変化させてヒトの健康の維持や改善を図ることができる。
【実施例0051】
<液体培地(培養液)A,B,C,Dの調製>
表1に示す配合割合(以下に示す「部」は、全て質量部である。)で以下の手順に従って、発酵用の液体培地を調製した。
【0052】
【表1】
【0053】
[培地A、B]
コーンスターチ1.5部に対し、塩化カルシウム0.05部、食塩(焼塩、塩化ナトリウム)0.1部に精製水を18.3部入れ、撹拌しながら蒸気で加温した。これを91℃まで昇温し、コーンスターチを糊化させた。さらに精製水を加えながら撹拌し、60℃付近まで温度を下げたところでアミラーゼ0.03部を加え、撹拌しながら糖化させた。
【0054】
糖化後、ショ糖(グラニュー糖)1部または11部、グルコース(ブドウ糖)1部、酵母エキス(国内産)0.3部、リン酸水素二ナトリウム0.05部を投入して撹拌し溶解し、さらに米飴1部の入ったカゴをタンク内に入れて溶かした。
【0055】
米飴溶解後、精製水を100部まで加水しながら10%水酸化ナトリウム0.2部を投入してpHを調整した。
【0056】
pH・Brixを測定し、規格基準内にあることを確認し、基準値内(pH7.2~7.6、Brix4.5~4.8)であれば培養缶に分注し、高圧蒸気滅菌(121℃、15分間)を行なった後、水冷による急速冷却を行なった。なお、前記pH基準値は、培養後の培地pHが速やかにpH5.5~7.2になることを前提に設定した。
【0057】
[培地C、D]
ショ糖(グラニュー糖)10部または15部に対し、イーストエクストラクト(BBL社製)0.2部、リン酸水素二カリウム0.55部及び硫酸マグネシウム0.02部を投入して撹拌し溶解した。
次いで、精製水を100部まで加水しながら10%水酸化ナトリウム0.2部を投入して培地のpHを調整した。
【0058】
pH・Brixを測定し、前記規格基準内にあることを確認し、基準値内(pH7以下、Brix4.5~4.8)であれば培養缶に分注し、高圧蒸気滅菌(121℃、15分間)を行なった後、水冷による急速冷却を行なった。
【0059】
<培地A、B、C、Dに対するAK菌の接種と培養>
芽胞状態で菌株保存用ビーズに吸着させて-80℃で保存していたAK-T1-11株を前記培地に接種する直前に85℃10分間の加熱処理(芽胞の発芽を促進する処理)した後、1ビーズずつ、500mL容コルベンに入れた200mLの増菌培地に投入し、回転式振盪培養器で30℃、150rpmで一夜培養した。
【0060】
次いで、振盪培養が終了した培養液は、直ちに新鮮液体培地30L入りステンレス培養缶に各100mLづつ無菌的に接種した後、30℃恒温室内に静置し1週~2ヶ月間第1段階の培養を行なった。
【0061】
所定の培養期間が経過した培養缶は、8~10℃の恒温室に移動させ、2~4ヶ月間、第2段階の低温培養を行った。
【0062】
<液状発酵生産物の分子量分布の測定>
上記低温培養後の培養液に対してHPLCを行ない、その際に島津製品の送液ポンプ(LC-20AD)、システムコントローラー(CBM-20ALite)、脱気ユニット(DGU-20A3R)、カラム恒温槽(CTO-20A)、UV-VIS検出器(SPD-20A)、示差屈折率計検出器(RID-20A)、LC-ワークステーション(Lab solution single)を使用した。
【0063】
サイズ排除クロマトグラフィカラムは、糖類の分子量分布を測定するためShodex製Sugar KS-803(φ8mm×300mm)とKS-804(φ8mm×300mm)の連結カラムを使用し、カラム恒温槽80℃、移動相(水)、流量1.25mL/min、示差屈折率計検出器の測定条件で20μL注入する方法で行なった。
【0064】
分子量は、予め分子量既知の成分として、グルコース(分子量:MW180)、スクロース(MW342)、プルラン(MW6,100、MW9,600、MW22,000、MW47,100、MW107,000、MW194,000、MW337,000)の9成分を濃度1,000mg/Lで測定し、保持時間(溶出時間)と分子量との関係から算出した分子量較正曲線式を作成し、未知成分の分子量を求めた。
【0065】
分子量較正曲線式は、9成分の保持時間を説明変数、分子量の対数値を目的変数にした最小二乗法により、y=‐0.4636x+9.2797、寄与率:0.9964で示された。
【0066】
上記培養開始後に採取した培地A、B、C、Dの培養液(液状発酵生産物)の培養精製物について、上記HPLCにより分子量分布を測定し、培地Dの培養液のHPLCによる分子量分布を図1に示した。なお、図1中の縦軸の強度は、UV-VIS検出器で検出される単位AU(Absorbance Unit)の吸光度である。
また、エタノール沈澱処理で上記低温培養後の培養液に含まれている多糖類を分離し、加水分解により単糖に分解した後、HPLC法で単糖の測定を行ったところ、フルクトースが検出された。これによりエンザミン原液に含まれている多糖類は、フルクトースがグリコシド結合で繋がったポリマーを形成しているレバンであると判定された。
【0067】
さらにまた、上記低温培養後の培養液沈査物に含まれている非水溶性の多糖類を分離し、加水分解により単糖に分解した後、HPLC法で単糖の測定を行ったところ、グルコースがグリコシド結合で繋がったβ-1,3-グルカンであるカードランであると判定された。
なお、以上の本項(発明を実施するための形態)中の記載は、本願発明の実施に必要な所定株(パエニバチルス・ポリミキサAK-T1-11株)の入手方法を示し、本願の出願人による先願の特願2021-214044の明細書にも記載される通りである。
【0068】
上記のようにして得られた菌体外高分子物質を含む液状発酵生産物の代表例としての培地Dの培養液(液状発酵生産物)を精製し、以下のように水道水に所定量を混和して腸内細菌叢改善性サプリメントを製造し、これを用いた飼育試験によって腸内細菌叢改善効果を調べた。
【0069】
(a) 高脂肪食誘導肥満マウスの飼育
以下の3つ試験群に分けた雄のC57BL/6Jマウスについて、各群に以下の所定の条件で摂餌および摂水させて4週間飼育した後、腸内細菌叢の分析のために便を採取すると共に、後述する検査試験用サンプルとしての大腸粘膜および血液を採取した。
(1) 対照群:通常食(CE-2、クレアジャパン社)の摂餌と水道水の摂水により飼育した。
(2) HFD群:高脂肪食HFD(HFD32、クレアジャパン社) の摂餌と水道水の摂水により飼育した。
(3) HFD・ENZ群:高脂肪食HFD(HFD32、クレアジャパン社) の摂餌とエンザミン原液を1%含む水道水の摂水により飼育した。前記エンザミン原液は、上記した培地Dの液状発酵生産物を精製により固液分離した液体を用いた。
【0070】
<遺伝子解析による細菌の同定試験>
上記各試験群で飼育後に採取した便は、QIAamp DNAスツールミニキット(ドイツ、Qiagen社製)を用いてDNAを分離し、各DNAサンプルについて遺伝子解析を行ない、種もしくは属又は科を同定し、それらを門別に区分けして相対的存在率を算出した。遺伝子解析について詳細に説明すると、以下の通りである。
【0071】
上記DNAサンプルに対して2つのステップのPCRを実施し、配列ライブラリーを得た。最初のPCRは、Bakt-341F:CCTACGGGNGGCWGCAGとBakt_805R: GACTACHVGGGTATCTAATCCのプライマー対で16S rRNA遺伝子のV3-V4領域を増幅するために行なった。そして、16SrRNA遺伝子のシーケンシングにより細菌叢の細菌の種類(門、科、属)を可能な限り判別した。
【0072】
得られた上記3つの試験群の各マウスの腸内微生物叢について同定された細菌の系統分類学上の分類は、アクチノバクテリア門(Actinobacteria)またはプロテオバクテリア門(Proteobacteria) 、バクテロイデス門(Bacteroidetes)、ディフェリバクター門(Deferribacteres)、ウェルコミクロビウム門(Verrucomicrobia)、フィルミクテス門(Firmicutes)であり、これらの門別に相対的な存在率(%)を試験群別に図2にまとめて示した。
【0073】
また、各マウスの固体差による影響を少なくするために、試験群別に細菌種の分類(門)別の相対的存在率(%)の平均値を算出し、図3に示した。
【0074】
さらに、試験群別に細菌種のバクテロイデス門細菌の相対的存在率に対するフィルミクテス門細菌の相対的存在率の比を算出し、その結果を図4に示した。
【0075】
以上の結果について考察すると、図2に示される結果が集約された図3のグラフからも明らかなように、高脂肪食(HFD)は、フィルミクテス門細菌の相対的存在率を増加させると共に、バクテロイデスの相対的存在率を減少させていた。
【0076】
一方、エンザミンの添加された水道水と高脂肪食を与えられた試験群(HFD・ENZ)のフィルミクテスの相対的存在率は減少し、バクテロイデス門細菌の相対的存在率が増加した。
【0077】
また、図4の結果からも明らかなように、高脂肪食(HFD)群は、通常の食事を与えられた対照群と比較してバクテロイデス門細菌の相対的存在率に対するフィルミクテス門細菌の相対的存在率の比を有意に増加させた。なお、有意差を図4以下の図中に*(P<0.05)または**(P<0.01)で示した。
しかし、エンザミンの添加された水道水と高脂肪食を与えられた(HFD・ENZ)群は、高脂肪食(HFD)群と比較してバクテロイデス門細菌の相対的存在率に対するフィルミクテス門細菌の相対的存在率の比を有意に低下させた。
【0078】
また、前記した図3には示されていないが、フィルミクテス門のうち、同定されたルミノコッカス科に着目し、その相対的存在率を算出し、その結果を図5に示した。
【0079】
同じく図3中には示されていないが、ウェルコミクロビウム門のうち、アッカーマンシア属に着目して、その相対的存在率を算出し、その結果を図6に示した。
【0080】
図5に示される結果からも明らかなように、高脂肪食(HFD)群はルミノコッカスの相対的存在率を有意に増加させた。しかし、エンザミンの添加された高脂肪食(HFD・ENZ)群のルミノコッカスの相対的存在率は有意に減少した。
【0081】
ルミノコッカス・グナバスは、クローン病などの炎症性腸疾患に関連する炎症性多糖を産生し、また腸の免疫バリアに必要な糖タンパク質であるムチンを利用する菌種であることから、エンザミンを含有するサプリメントを服用することにより、炎症性腸疾患が抑制される可能性が認められた。
【0082】
また、図6に示される結果からも明らかなように、ウェルコミクロビウム門のうち、アッカーマンシア属は、対照群のマウスからは検出できなかった(ND)が、高脂肪食(HFD)群では検出された。また、エンザミンの添加された高脂肪食(HFD・ENZ)群は、(HFD)群と比較してアッカーマンシア属の相対的存在率を有意に減少させた。
【0083】
前述したように、アッカーマンシア属(Akkermansia)の細菌としてアッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)は、「腸粘膜バリア」の一翼を担う腸の表面のムチンを含む粘膜層を栄養源とする腸内細菌である。
そのため、アッカーマンシア属の相対的存在率の減少が、腸表面の粘膜層の免疫機能を向上させている可能性がある。
【0084】
<腸粘膜におけるクローディン-4の免疫ブロット法による検出試験>
腸上皮細胞間のバリア構築に関わり、異物の侵入を防いで免疫機能を高める密着結合に関与する接着性蛋白質について、腸粘膜におけるクローディン-4およびオクルディンの発現を免疫ブロット法により定量的に調べた。
【0085】
免疫ブロット法は、大腸粘膜ライセートを10%SDS-ポリアクリルアミドゲルで分離し、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜にブロットした。その後、膜を抗クローディン-4抗体、抗β-アクチン抗体で一晩4℃でインキュベートした。その後、PVDF膜を洗浄し、次いでPVDF膜をわさびペルオキシダーゼ標識二次抗体で1時間、室温にてインキュベートした。タンパク質抗体複合体は、ECL試薬を用いて化学発光させ、CCDイメージャーで検出した。その結果のブロット像を図7に示し、β-アクチンの検出光量(β-アクチンの発現量)に対するクローディン-4の検出光量(クローディン-4の発現量)の比を各群で比較して図8に示した。
【0086】
図7及び図8に示される結果からも明らかなように、クローディン-4の発現は、通常食を与えられたコントロール群のマウスと比較して、高脂肪食(HFD)群のマウスでは顕著に低下した。一方、エンザミンの添加された水道水と高脂肪食を与えられた(HFD・ENZ)群は、クローディン-4の発現を正常値に近づけるように上昇させた。
このように、エンザミンを含有するサプリメントを服用することにより、アッカーマンシアの増殖の抑制によって、高脂肪食の状態では不足しやすい腸上皮のクローディン-4の濃度を正常に保った。
なお、クローディン-4と同様に腸上皮細胞間のバリア構築に関わるオクルディンについては、コントロール群、高脂肪食(HFD)群及びエンザミンの添加された水道水と高脂肪食を与えられた(HFD・ENZ)群において、発現量に有意差が認められなかった。
【0087】
(b)上述した腸内細菌叢の変化によるマウスへの影響
高脂肪食を摂食させたマウスへのエンザミン投与がマウスに及ぼす健康上の影響を、体重およびLPS、TG、TCのレベル変化から調べた。表2に示す体重以外の測定は、以下の血液分析試験によって行なった。
【0088】
<血液分析試験>
上記4週間の飼育後の各試験群のマウスについて、血液サンプルを採取し、血清リポ多糖(LPS)、トリグリセリド(TG)および総コレステロール(TC)を分析した。血液中のLPS濃度は、市販キットのLPS用ELISA(米国クラウドクローン社)を使用して測定した。トリグリセリドおよびコレステロール濃度の測定は、富士フイルムワコーピュアケミカル社製のトリグリセリドEテストワコーとコレステロールEテストワコーを用いて測定し、これらの結果を表3に示した。
【0089】
【表2】
【0090】
表2中の値は、サンプル数n=10の平均値±標準偏差で示し、コントロールに対して有意差p<0.01のある場合を**で示した。
表2に示される結果からも明らかなように、4週間飼育後のマウスの体重は、通常の食事を与えられたコントロール群と比較して、高脂肪食(HFD)群で有意に増加した。一方、高脂肪食(HFD)群とエンザミンの添加された水道水および高脂肪食を与えられた(HFD・ENZ)群を比較したところ、マウスの体重に有意な変化は見られなかった。
【0091】
【表3】
【0092】
表3中の値は、サンプル数n=4~5の平均値±標準偏差で示し、コントロール群に対して有意差p<0.01の場合を**で示した。また、HFD群に対して有意差p<0.05の場合を#で示した。またHFD群に対して有意差p<0.01の場合を##で示した。
【0093】
表3に示される結果からも明らかなように、高脂肪食(HFD)群では、血清LPSレベルが、正常な食事を与えられたコントロール群よりも有意に高かった。一方、エンザミンを同時投与された高脂肪食(HFD・ENZ)群では、高脂肪食(HFD)群と比較して、血清LPSレベルを有意に低下させた。
【0094】
また、高脂肪食(HFD)群では、血清TGおよびTCレベルが、コントロール群と比較して有意に上昇した。しかし、エンザミンを同時投与された高脂肪食(HFD・ENZ)群では、高脂肪食(HFD)群と比較して、血清TGおよびTCレベルが有意に低下した。
【0095】
これらの知見に基づいて、この発明の腸内細菌叢改善性サプリメントは、高脂肪食の摂食によって増加した腸内細菌叢のバクテロイデスに対するフィルミクテスの存在比を正常レベルに調整し、ルミノコッカス科およびアッカーマンシア属の相対的存在率を抑制するものであり、高脂肪食によって誘発される腸上皮の免疫バリアの破壊を抑制するものと考えられた。また、この発明の腸内細菌叢改善性サプリメントには、高脂肪食の摂食による腸管から血流へのLPSの移動を抑制し、血清LPSの上昇を防いで慢性的な炎症を抑制する可能性が示された。
【0096】
これらのことから、この発明の腸内細菌叢改善性サプリメントは、経口投与によって誘発される腸内微生物叢の変化により、脂肪組織をはじめとする慢性炎症の発症を阻止し、慢性炎症によって引き起こされる代謝障害を予防することができ、健康の維持または改善を図ることができるものと考えられた。
【受託番号】
【0097】
1)受託機関名:独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NPMD)
2)受託日:2021年12月24日
3)受託番号:NITE BP-03577
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8