(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027654
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】中継装置、および通信品質判定方法
(51)【国際特許分類】
H04W 24/08 20090101AFI20240222BHJP
H04M 11/00 20060101ALI20240222BHJP
H04W 16/26 20090101ALI20240222BHJP
H04W 80/04 20090101ALI20240222BHJP
【FI】
H04W24/08
H04M11/00 302
H04W16/26
H04W80/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022130617
(22)【出願日】2022-08-18
(71)【出願人】
【識別番号】000000295
【氏名又は名称】沖電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001461
【氏名又は名称】弁理士法人きさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 智也
【テーマコード(参考)】
5K067
5K201
【Fターム(参考)】
5K067AA33
5K067BB04
5K067EE06
5K067LL11
5K201AA01
5K201DB02
5K201DC04
5K201FA02
(57)【要約】
【課題】音声通話における品質不良の要因の特定、および当該要因の切り分けを容易に行うことができるようにする中継装置、および通信品質判定方法を提供することを目的とする。
【解決手段】電話機と基地局との間の通信を中継する中継装置であって、基地局から受信する信号の電波強度および電波品質を測定する電波測定部と、音声RTPパケット受信数および音声RTPパケットロス数を測定する呼制御部と、音声RTPパケットのジッタバッファのオーバーフロー発生数およびアンダーフロー発生数、ならびにPLC補間の処理実行数を測定する音声信号制御部と、電波強度および電波品質、音声RTPパケット受信数および音声RTPパケットロス数、オーバーフロー発生数およびアンダーフロー発生数、ならびにPLC補間の処理実行数に基づいて通信品質を判定する品質判定部と、を有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電話機と基地局との間の通信を中継する中継装置であって、
前記基地局から受信する信号の電波強度および電波品質を測定する電波測定部と、
音声RTPパケット受信数および音声RTPパケットロス数を測定する呼制御部と、
音声RTPパケットのジッタバッファのオーバーフロー発生数およびアンダーフロー発生数、ならびにPLC補間の処理実行数を測定する音声信号制御部と、
前記電波強度および前記電波品質、前記音声RTPパケット受信数および前記音声RTPパケットロス数、前記オーバーフロー発生数および前記アンダーフロー発生数、ならびに前記PLC補間の処理実行数に基づいて通信品質を判定する品質判定部と、を有する
中継装置。
【請求項2】
前記電波測定部は、複数の接続バンドにおいて前記電波強度および前記電波品質を測定する
請求項1に記載の中継装置。
【請求項3】
前記品質判定部は、前記電波強度および前記電波品質、前記音声RTPパケット受信数および前記音声RTPパケットロス数、前記オーバーフロー発生数および前記アンダーフロー発生数、ならびに前記PLC補間の処理実行数と、閾値とを比較して、前記通信品質を判定する
請求項1または2に記載の中継装置。
【請求項4】
電話機と基地局との間の通信を中継する中継装置が前記基地局から受信する信号の電波強度および電波品質を測定するステップと、
音声RTPパケット受信数および音声RTPパケットロス数を測定するステップと、
音声RTPパケットのジッタバッファのオーバーフロー発生数およびアンダーフロー発生数、ならびにPLC補間の処理実行数を測定するステップと、
前記電波強度および前記電波品質、前記音声RTPパケット受信数および前記音声RTPパケットロス数、前記オーバーフロー発生数および前記アンダーフロー発生数、ならびに前記PLC補間の処理実行数に基づいて通信品質を判定するステップと、を有する
通信品質判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音声通話における通信品質を判定する中継装置、および通信品質判定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、IP電話機器における音声品質を判定する技術としては、R値(ITU-T勧告G.107)またはPESQ値(ITU-T勧告P.862)などの品質指標を用いる方法が一般的である(例えば、特許文献1)。
【0003】
また、従来のLTE通信機器は、基地局から受信する信号の受信電波強度(RSRP:Reference Signal Received Power)、および受信電波品質(RSRQ:Reference Signal Received Quality)を判定し、その判定結果を基地局に報告している。そして、基地局は、通信端末から受信した電波強度および電波品質の情報をもとに、通信端末との接続状態を精査し、通信端末が適切な基地局に接続されるような切り替え(ハンドオーバー)などの制御を行い、安定した通信サービスの維持を行っている。特許文献2には、電波品質の判定方法を、ユーザ装置において柔軟に設定することが可能とするための技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-290492号公報
【特許文献2】特許第6937295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
実際に通信品質の測定が必要になる状況では、測定を行うことそのものが目的ではなく、測定結果に基づいて、品質不良の要因の切り分けの実施、つまり品質不良を生じさせる要因を除去し、品質が不良である状態を解消することが目的となる。ここで、電話機と基地局との間の通信を中継する中継装置の場合、中継装置と基地局との間の無線通信区間の通信状況が通信品質に及ぼす影響が大きく、特許文献1および特許文献2のそれぞれに示された各種の測定値のみから、品質不良の要因を特定し、当該要因の切り分けを行うことは困難であった。
【0006】
本発明は、上記のような課題を背景としたものであり、音声通話における品質不良の要因の特定、および当該要因の切り分けを容易に行うことができるようにする中継装置、および通信品質判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る中継装置は、電話機と基地局との間の通信を中継する中継装置であって、基地局から受信する信号の電波強度および電波品質を測定する電波測定部と、音声RTPパケット受信数および音声RTPパケットロス数を測定する呼制御部と、音声RTPパケットのジッタバッファのオーバーフロー発生数およびアンダーフロー発生数、ならびにPLC補間の処理実行数を測定する音声信号制御部と、電波強度および電波品質、音声RTPパケット受信数および音声RTPパケットロス数、オーバーフロー発生数およびアンダーフロー発生数、ならびにPLC補間の処理実行数に基づいて通信品質を判定する品質判定部と、を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る中継装置は、電波強度、および電波品質といった無線通信品質に関する測定値と、音声RTPパケットのパケットロス、ジッタバッファのオーバーフロー数およびアンダーフロー数、ならびにPLC補間数といった音声通信品質に関する測定値に基づいて、通信品質を判定している。このため、通信品質が不良であった場合、測定値ごとにその要因を特定することができる。したがって、中継装置は、音声通話における品質不良の要因の特定、および当該要因の切り分けを容易に行うことができるようにする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態1に係る通話システムを示す概略構成図である。
【
図3】実施の形態1に係る各測定値の測定方法を示すフローチャートである。
【
図4】実施の形態1に係る通信品質の判定方法を示すフローチャートである。
【
図5】実施の形態1に係る通信品質の判定方法を示すフローチャートである。
【
図6】実施の形態1に係る実施の形態1に係る総合判定表を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る通話システム1を示す概略構成図である。通話システム1は、電話サーバ2、基地局3Aおよび3B、中継装置4、および電話機5を有する。通話システム1は、電話サーバ2、基地局3Aおよび3B、および中継装置4を介して、電話機5と相手方の電話機と間での音声通話を行うためのものである。また、複数の基地局3Aおよび3B、ならびに電話サーバ2によってモバイル網10が形成される。なお、
図1では、一組の基地局3A、中継装置4および電話機5のみを示し、基地局3Bに対応する通話相手の電話機などについて図示を省略している。
【0011】
電話サーバ2は、電話網に配置されている装置であり、2台の電話機5の間で呼接続を確立する。電話サーバ2は、送信側の中継装置4から発呼信号を受信すると、当該発呼信号を受信側の中継装置4に送信する。また、電話サーバ2は、受信側の中継装置4から応答信号を受信すると、当該応答信号を送信側の中継装置4に送信する。
【0012】
基地局3Aは、中継装置4と無線接続される。基地局3Aは、例えば、電話の発呼信号、応答信号、および音声信号などを中継装置4との間で送受信する。基地局3Aは、例えば、LTE(Long Term Evolution)に対応する基地局3Aである。基地局3Bは、基地局3Aと同一の構成であるため、説明を省略する。
【0013】
中継装置4は、モバイル網10内の電話サーバ2を介して、音声通話を行うための機器である。中継装置4は、電話機5と基地局3Aとの間の通信を中継する。以下では、中継装置4とモバイル網10との通信が行われる区間を、LTE無線区間と称することがある。中継装置4は、アンテナ41、LTE通話チップ42、CPU43、電話制御チップ44、およびメモリ45を有する。アンテナ41は、中継装置4が基地局3Aとの間の電波の送受信を行うためのものである。アンテナ41は、LTE通話チップ42から受信した電気的な信号を無線信号に変換して基地局3Aに送信する。また、アンテナ41は、基地局3Aから無線信号を受信し、当該無線信号を電気的な信号に変換してLTE通話チップ42に送信する。
【0014】
LTE通話チップ42は、基地局3Aと無線で通信するためのインタフェースである。例えば、LTE通話チップ42は、アンテナ41を介して、発呼信号および当該発呼信号に応答する応答信号などを電話サーバ2との間で送受信する。また、LTE通話チップ42は、アンテナ41を介して、音声信号を電話サーバ2との間で送受信する。ここでの音声信号は、AMR(Adaptive Multi-Rate)またはG.711といった音声コーデックを用いたRTP(Real-time Transport Protocol)音声パケット形式で送受信される。電話制御チップ44は、電話機5と通信するためのインタフェースである。例えば、電話制御チップ44は、音声信号を電話機5との間で送受信する。
【0015】
CPU43は、中継装置4の動作の制御を行う。また、CPU43は、各測定値を測定し、通信品質を判定する。測定値は、電波強度、電波品質、音声RTPパケット受信数、音声RTPパケットロス数、ジッタバッファのアンダーフロー発生数およびオーバーフロー発生数、ならびにPLC補間の処理実行数である。各測定値については、後述する。
図2は、実施の形態1に係るCPU43を示す図である。CPU43は、各機能部として、
図2に示すように、品質判定部71、LTE_I/F制御部72、呼制御部73、音声信号制御部74、および電話I/F制御部75を有する。各機能部は、ソフトウェア、ファームウェア、またはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。ソフトウェア及びファームウェアはプログラムとして記述され、メモリ45に格納される。CPU43は、メモリ45に格納されたプログラムを読み出して実行することにより、各機能を実現する。
【0016】
品質判定部71は、LTE_I/F制御部72、呼制御部73、および音声信号制御部74のそれぞれから測定値を取得し、各測定値と閾値とを比較し、通信品質を判定する。ここで、通信品質とは、基地局3Aと中継装置4との間のLTEを用いた無線通信の品質に関する無線通信品質、および通話者に感じられる音声の品質に関する音声品質である。なお、閾値は、各測定値に基づく通信品質の良または不良を判定するためのものであって、測定値ごとに複数設定され、予めメモリ45に記憶されている。
【0017】
LTE_I/F制御部72は、LTE通信チップを制御し、モバイル網10との接続制御を担う。また、LTE_I/F制御部72では、LTEによるモバイル網10との通信の電波強度および電波品質を測定する。LTE_I/F制御部72は、本開示の「電波測定部」に相当する。
【0018】
呼制御部73は、電話網内のサーバとの呼接続を制御する。呼接続には、例えば、VoLTE(Voice over LTE)またはVoIP(Voice Internet Protocol)などの音声通信のプロトコルが用いられる。また、呼制御部73は、音声RTPパケット受信数および音声RTPパケットロス数を測定する。音声RTPパケット受信数は、RTPパケットを受信した数である。また、音声RTPパケットロス数は、音声RTPパケットが消失した数である。
【0019】
音声信号制御部74は、音声信号データを制御し、呼制御部73と、電話I/F制御部75との間の音声信号データの中継を行う。音声信号制御部74には、例えば、DSP(Digital Signal Processor)が用いられる。音声信号制御部74は、音声RTPパケットの揺らぎを吸収するジッタバッファ機能を有する。また、音声信号制御部74は、ジッタバッファのアンダーフロー発生数およびオーバーフロー発生数、ならびにPLC補間の処理実行数をカウントする。ジッタバッファのバッファアンダーフローは、音声データの枯渇を意味し、バッファオーバーフローは、音声データの溢れを意味する。PLC(packet loss concealment)補間とは、音声データの欠損を検出した際に、その前後の音声データをもとに、欠損を補間し、音声をつなぎ合わせる技術である。以下では、ジッタバッファのアンダーフロー発生数を単に、アンダーフロー発生数と称することがある。また、ジッタバッファのオーバーフロー発生数を単に、オーバーフロー発生数と称することがある。更に、PLC補間の処理実行数を単に、補間実行数と称することがある。
【0020】
電話I/F制御部75は、電話制御チップ44を制御し、電話機5からの発信、および電話機5への着信に関する電話回線の制御を担う。また、電話I/F制御部75は、音声信号の送受信の制御、A/D変換(アナログ/ディジタル変換)、およびD/A変換(ディジタル/アナログ変換)を行う。
【0021】
メモリ45は、例えば、RAM、ROM、フラッシュメモリ、EPROM、EEPROM等の不揮発性または揮発性の半導体メモリである。メモリ45には、CPU43の各機能部を実現するためのプログラムが格納されている。
【0022】
電話機5は、音声通話機能を有する端末であって、中継装置4と電話線で接続されている。電話機5は、例えば、LTEに対応する機器である。
【0023】
ここで、
図3~
図5を用いて、中継装置4の動作について説明する。先ずは、
図3を用いて、各測定値の測定方法について説明する。
図3は、実施の形態1に係る各測定値の測定方法を示すフローチャートである。中継装置4に接続した電話機5からの発信通話、または当該電話機5への着信通話が行われ、音声通話が確立すると、音声通話が継続している間、数秒もしくは数分の一定間隔で、各制御部で測定が行われる。
【0024】
最初に、LTE_I/F制御部72は、LTEの電波強度を測定する(ステップS1)。また、LTE_I/F制御部72は、LTEの電波品質を測定する(ステップS2)。次に、呼制御部73は、音声RTPパケット受信数を測定する(ステップS3)。また、呼制御部73は、音声RTPパケットロス数を測定する(ステップS4)。
【0025】
続いて、音声信号制御部74は、オーバーフロー発生数を測定する(ステップS5)。また、音声信号制御部74は、アンダーフロー発生数を測定する(ステップS6)。更に、音声信号制御部74は、補間実行数を測定する(ステップS7)。
【0026】
そして、CPU43は、通話が継続中か否かを判定する(ステップS8)。なお、CPU43は、中継装置4に接続した電話機5、または通話相手による終話が検出された場合、通話が継続中でないと判断する。通話が継続中である場合(ステップS8:YES)、CPU43は、ステップS1~S7までの処理を繰り返し実行する。通話が継続中でない場合(ステップS8:NO)、各制御部は、測定(カウント)した各測定値を集計し(ステップS9)、品質判定部71に送信する。以上によって、各測定値の測定が終了する。
【0027】
次に、
図4および
図5を用いて、通信品質の判定方法について説明する。
図4および
図5は、実施の形態1に係る通信品質の判定方法を示すフローチャートである。なお、
図4および
図5は、連続した処理を示している。
【0028】
品質判定部71は、各制御部から各測定値を受信すると、第1に、(a)LTE電波強度が閾値以上であるか否かを判定する(ステップS11)。測定した電波強度が閾値以上である場合(ステップS11:YES)、品質判定部71は、十分な電波強度が得られており、無線通信品質が良好であると判断する。また、測定した電波強度が閾値未満である場合(ステップS11:NO)、品質判定部71は、LTE電波状態が不十分であることから、無線通信品質が不良であると判断する(ステップS12)。このとき、メンテナンス要員は、LTE通信の信号の減衰が、LTE通信の電波強度に影響を与え、LTE電波品質不良を引き起こす要因であると判断することができる。
【0029】
第2に、品質判定部71は、(b)LTE電波品質が閾値以上であるか否かを判定する(ステップS13)。測定した電波品質が閾値以上である場合(ステップS13:YES)、品質判定部71は、十分な電波品質が保たれており、無線通信品質が良好であると判断する。また、測定した電波品質が閾値未満である場合(ステップS13:NO)、品質判定部71は、LTEの電波品質が不十分であることから、無線通信品質が不良であると判断する(ステップS14)。このとき、メンテナンス要員は、LTE電波の干渉が、LTE通信の電波品質に悪影響を与え、無線通信品質の不良を引き起こす要因であると判断することができる。
【0030】
なお、これらLTEの電波強度および電波品質の測定値は、電波状況によって変動する値である。このため、閾値との比較を行う上で、測定値の平均値、中央値、または最頻値を状況に合わせて選択すればよい。
【0031】
第3に、品質判定部71は、通話中に受信した全ての音声RTPパケット受信数と音声RTPパケットロス数との割合、即ち音声RTPパケットロスの発生割合を算出する(ステップS15)。そして、品質判定部71は、(c)音声RTPパケットロスの発生割合が閾値以上であるか否かを判定する(ステップS16)。(c)音声RTPパケットロスの発生割合が閾値未満である場合(ステップS16:NO)、品質判定部71は、音声品質が良好であると判断する。(c)音声RTPパケットロスの発生割合が閾値以上である場合(ステップS16:YES)、品質判定部71は、音声品質が不良であると判断する(ステップS17)。また、メンテナンス要員は、基地局3Bから通話相手側のコアネットワーク側に、音声品質の不良を引き起こす要因があると判断することができる。これは、LTE無線通信の場合、LTE通信の送達確認が行われるため、LTE無線区間でのパケットロスの発生率は少ない傾向があるためである。
【0032】
第4に、品質判定部71は、通話中に受信した全ての音声RTPパケット受信数とアンダーフロー発生数との割合、即ちアンダーフローの発生割合を算出する(ステップS18)。そして、品質判定部71は、(d)アンダーフローの発生割合が閾値以上であるか否かを判定する(ステップS19)。(d)アンダーフローの発生割合が閾値未満である場合(ステップS19:NO)、品質判定部71は、音声品質が良好であると判断する。(d)アンダーフローの発生割合が閾値以上である場合(ステップS19:YES)、品質判定部71は、音声品質が不良であると判断する(ステップS20)。また、メンテナンス要員は、LTE無線区間での無線環境に、音声品質の不良を引き起こす要因があると判断することができる。これは、ジッタバッファアンダーフローが発生しているということは、ネットワークの揺らぎによって、音声パケットが枯渇方向に進んでいる状況であって、更にLTE無線での音声サービスの場合、コアネットワークにおいても、揺らぎを吸収する仕組みを導入する運用が多い傾向があるためである。
【0033】
第5に、品質判定部71は、通話中に受信した全ての音声RTPパケット受信数とオーバーフロー発生数との割合、即ちオーバーフローの発生割合を算出する(ステップS21)。そして、品質判定部71は、(e)オーバーフローの発生割合が閾値以上であるか否かを判定する(ステップS22)。(e)オーバーフローの発生割合が閾値未満である場合(ステップS22:NO)、品質判定部71は、音声品質が良好であると判断する。(e)オーバーフローの発生割合が閾値以上である場合(ステップS22:YES)、品質判定部71は、音声品質が不良であると判断する(ステップS23)。また、メンテナンス要員は、LTE無線区間での無線環境に、音声品質の不良を引き起こす要因があると判断することができる。これは、ジッタバッファオーバーフローが発生しているということは、ネットワークの揺らぎによって、音声パケットが溢れ方向に進んでいる状況であって、更にLTE無線での音声サービスの場合、コアネットワークにおいても、揺らぎを吸収する仕組みを導入する運用が多い傾向があるためである。
【0034】
最後に、品質判定部71は、通話中に受信した全ての音声RTPパケット受信数と補間実行数との割合、即ち補間処理の発生割合を算出する(ステップS24)。そして、品質判定部71は、(f)補間処理の発生割合が閾値以上であるか否かを判定する(ステップS25)。(f)補間処理の発生割合が閾値未満である場合(ステップS25:NO)、品質判定部71は、音声品質が良好であると判断する。(f)補間処理の発生割合が閾値以上である場合(ステップS25:YES)、品質判定部71は、音声品質が不良であると判断する(ステップS26)。また、メンテナンス要員は、ジッタバッファアンダーフロー同様に、LTE無線区間での無線環境に、音声品質の不良を引き起こす要因があると判断することができる。これは、PLC補間が発生しているということは、音声パケットの一時的な損失が発生しているためである。ステップS11~S26までの処理が完了すると、メンテナンス要員が総合判定表を用いて品質不良の要因を総合的に判定することが可能な状態となる。
【0035】
メンテナンス要員は、ステップS11~S26までの処理が完了した後、総合判定表を用いて品質不良の要因および状況などを総合的に判定する。
図6は、実施の形態1に係る総合判定表を示す図である。以下では、総合判定の方法についてパターンごとに説明する。
【0036】
メンテナンス要員は、
図6のパターンAに示すように、(a)電波強度のみが不良であると判定した場合、LTEの信号を減衰させる何等かが品質不良の要因となっていることで、無線通信品質は悪いものの、音声通話には影響しない程度であると総合判定を行う。さらに、基地局3Aと中継装置4との距離が離れすぎている点に、問題箇所を絞り込むことができる。
【0037】
図6のパターンBに示すように、(b)電波品質のみが不良の場合、ノイズまたは干渉源が要因となって中継装置4のLTE通信の信号の品質低下が引き起こされていると考えられる。このため、メンテナンス要員は、基地局3Aと中継装置4との間に、通信を阻害する外部要因が存在していることが、品質不良の要因である可能性があると総合判定を行う。
【0038】
メンテナンス要員は、
図6のパターンCに示すように、(b)電波品質、(c)音声RTPパケットロスの発生割合、および(f)補間処理の発生割合のみが不良の場合、次のように総合的に判定する。すなわち、メンテナンス要員は、基地局3Aと中継装置4との間に通信を阻害する品質不良の要因があり、この影響で音声RTPパケットロスが発生し、このパケットロスを補間するために、PLC補間が発生している可能性が高いと総合判定を行う。
【0039】
メンテナンス要員は、
図6のパターンDに示すように、(d)アンダーフローの発生割合、(e)オーバーフローの発生割合、(f)補間処理の発生割合のみが不良である場合、次のように総合的に判定する。即ち、メンテナンス要員は、受信する音声RTPパケットに揺らぎが発生し、本来の受信間隔よりも、間隔が狭まる状況と、間隔が広がる状況とが発生し、ジッタバッファの枯渇および溢れが発生していることが品質不良の要因であると総合的に判定する。また、(a)電波強度および(b)電波品質が良好であることから、中継装置4と基地局3Aとの間の通信区間よりも、基地局3Aと通話相手の電話機との間の通信区間に要因がある可能性が高いと判定できる。
【0040】
メンテナンス要員は、
図6のパターンEに示すように、(b)電波品質、および(d)アンダーフローの発生割合のみが不良である場合、次のように総合的に判定する。即ち、メンテナンス要員は、基地局3Aと中継装置4との間にノイズまたは干渉源などの品質不良の外部要因があり、その影響で音声RTPパケットの到達が遅れ、ジッタバッファが枯渇している可能性が高いと総合判定する。
【0041】
メンテナンス要員は、
図6のパターンFに示すように、(a)電波強度、(b)電波品質、(e)オーバーフローの発生割合、および(f)補間処理の発生割合のみが不良である場合、次のように総合的に判定する。即ち、メンテナンス要員は、基地局3Aと中継装置4との間の通信区間に品質不良の要因があり、その影響で音声RTPパケットが揺らいで、ジッタバッファが枯渇し、PLC補間が発生している可能性が高いと総合判定する。
【0042】
図6のパターンGに示すように、(c)音声RTPパケットロスの発生割合を除くすべての測定値が不良である場合、(a)電波強度および(b)電波品質が不良であることから、少なくとも、基地局3Aと中継装置4との間の通信区間に問題があることは明らかである。このため、メンテナンス要員は、基地局3Aと中継装置4との間の通信区間の問題要因を発見および除去して、品質不良が生じている状態が解決されるかを確認する。解決しない場合は、問題が(d)~(f)のみに絞り込まれるため、パターンDに示したように対応することができる。このように、品質不良の要因を段階的に切り分けることができる。
【0043】
メンテナンス要員は、
図6のパターンHに示すように、すべての測定値が良好の場合は、中継装置4による通信としては問題がないと総合的に判定できる。したがって、この状況で、実際の音声通話の聴取で音声の途切れなどが生じる場合は、中継装置4の接続された電話機5、または中継装置4自身の不良の可能性が高いと判断できる。
【0044】
以上のように、実施の形態1に係る中継装置4は、電波強度、および電波品質といった無線通信品質に関する測定値と、音声RTPパケットのパケットロス、ジッタバッファのオーバーフロー数およびアンダーフロー数、ならびにPLC補間数といった音声通信品質に関する測定値に基づいて、通信品質を判定している。このため、通信品質が不良であった場合、測定値ごとにその要因を特定することができる。したがって、中継装置4は、音声通話における品質不良の要因の特定、および当該要因の切り分けを容易に行うことができるようにする。
【0045】
また例えば、音声品質を測定するための測定器を使用する場合、中継装置4と電話機5との間に測定器を接続して測定するため、測定中は一時的に通話サービスを停止せざるを得ない。しかし、実施の形態1によれば、中継装置4のみで各測定値を測定し、通信品質の判定を行う。このため、各測定値を測定するための測定器を別途用意する必要がない。よって、測定中に通話サービスが停止されない。
【0046】
以上が本発明の実施の形態の説明であるが、本発明は、上記の実施の形態の構成に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内で様々な変形または組み合わせが可能である。例えば、各装置の通信規格は、LTEではなく、5Gなどであってもよい。
【0047】
また、実施の形態1で説明した方法に、LTE通信の接続バンド(接続周波数帯)を切り替える工程を追加するようにしてもよい。具体的に、LTE_I/F制御部72は、接続バンドを切り替えて、再度(a)電波強度および(b)電波品質の測定を実施する。ここで、(a)電波強度および(b)電波品質は、接続している基地局3Aとの位置関係および周波数帯によって変動する。このため、接続バンドを切り替えた(a)電波強度および(b)電波品質に基づく判定の結果、(a)電波強度および(b)電波品質が改善された場合、切り替える前の基地局3Aまたは接続バンドに依存した問題があることが特定できる。また、改善されなければ、(a)電波強度および(b)電波品質を引き起こす外部要因が品質不良の要因から除外される。このため、メンテナンス要員は、複数の接続バンドにおいて電波強度および電波品質を測定することで、基地局3Aと通話相手の電話機との間の区間に通信不良の要因がある可能性が高いという判断を、より確実に行うことができる。
【0048】
また、実施の形態1では、測定および判定までの処理を説明したが、LTE網内に判定結果を保存するサーバを用意し、中継装置4は測定および判定の都度、当該サーバに測定および判定の結果をアップロードするようにしてもよい。この場合、メンテナンス要員は、中継装置4が設定されている現地に行かずに、遠隔で測定および判定の状況の確認および管理を行うことができる。
【0049】
また、中継装置4の品質判定部71は、各測定値に基づいて判定した通信品質から、通信品質の不良を引き起こす要因を判断し、表示するようにしてもよい。表示形態は、例えば、中継装置4にディスプレイを設けて表示するようにしてもよいし、上述の判定結果をアップロードするためのサーバに品質不良を引き起こす要因についてもアップロードすることで表示するようにしてもよい。
【0050】
また、各測定値の測定、および各測定値に基づく通信品質の判定からなる通信品質判定方法は、中継装置4以外の機器によって行われるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0051】
1 通話システム、2 電話サーバ、3A、3B 基地局、4 中継装置、5 電話機、10 モバイル網、41 アンテナ、42 LTE通話チップ、43 CPU、44 電話制御チップ、45 メモリ、71 品質判定部、72 LTE_I/F制御部、73 呼制御部、74 音声信号制御部、75 電話I/F制御部。