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特開2024-27661情報処理装置、調整方法、および調整プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027661
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】情報処理装置、調整方法、および調整プログラム
(51)【国際特許分類】
   C02F 11/14 20190101AFI20240222BHJP
   C02F 11/121 20190101ALI20240222BHJP
【FI】
C02F11/14
C02F11/121 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022130631
(22)【出願日】2022-08-18
(71)【出願人】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】東 隆司
(72)【発明者】
【氏名】山中 亮輝
【テーマコード(参考)】
4D059
【Fターム(参考)】
4D059AA03
4D059BE08
4D059BE15
4D059BE26
4D059BE54
4D059BJ00
4D059EA02
4D059EA20
4D059EB02
4D059EB11
4D059EB20
(57)【要約】
【課題】浮遊固形物を含む液体に対する薬剤の添加の態様を適切に調整する。
【解決手段】情報処理装置(1)は、薬剤の添加の態様が変更される前の液体の性状に関連のある第1の測定データを用いて脱水ケーキの含水率の第1の予測値を算出すると共に、薬剤の添加の態様が変更された後に測定された第2の測定データを用いて第2の予測値を算出する含水率予測部(102)と、第1の予測値と第2の予測値とに基づいて薬剤の添加の態様を調整する調整部(103)とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
浮遊固形物を含む液体に当該浮遊固形物を凝集させる薬剤を添加した上で脱水機により脱水することにより得られる脱水ケーキの含水率を予測するものであって、前記薬剤の添加の態様が変更される前の前記液体の性状に関連のある第1の測定データを用いて第1の予測値を算出すると共に、前記薬剤の添加の態様が変更された後の前記液体の性状に関連のある第2の測定データを用いて第2の予測値を算出する含水率予測部と、
前記第1の予測値と前記第2の予測値とに基づいて、前記薬剤の添加の態様を調整する調整部とを備える、情報処理装置。
【請求項2】
前記調整部は、前記薬剤の添加の態様を第1の態様から第2の態様に変化させ、前記第1の態様に戻した後の前記液体の性状に関連のある第3の測定データを用いて前記含水率予測部が予測した第3の予測値と前記第1の予測値との平均値と、前記第2の予測値との大小関係に応じて前記薬剤の添加の態様を調整する、請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記調整部は、前記薬剤の添加の態様を変更させる処理と、変更の前後における前記含水率予測部の予測値に基づいて前記薬剤の添加の態様を調整する処理とを、前記含水率予測部が予測する予測値が所定の条件を充足するまで繰り返し行う、請求項1または2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記条件の充足後、所定時間が経過するか、または、前記含水率予測部が予測する予測値が前記条件を充足しなくなったことを契機として、前記繰り返しの処理を再開する、請求項3に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記調整部は、前記第1の予測値と前記第2の予測値に基づいて推定される、含水率の低減による前記脱水ケーキの処理コストの減少量の方が、前記薬剤の添加量を所定量増やすコストの増加量よりも大きい場合に、前記薬剤の添加量を前記所定量増やす調整を行う、請求項1または2に記載の情報処理装置。
【請求項6】
1または複数の情報処理装置により実行される薬剤の添加の態様の調整方法であって、
浮遊固形物を含む液体に当該浮遊固形物を凝集させる薬剤を添加した上で脱水機により脱水することにより得られる脱水ケーキの含水率を予測するステップであって、前記薬剤の添加の態様が変更される前の前記液体の性状に関連のある第1の測定データを用いて第1の予測値を算出するステップと、
前記薬剤の添加の態様が変更された後の前記液体の性状に関連のある第2の測定データを用いて前記脱水ケーキの含水率の第2の予測値を算出するステップと、
前記第1の予測値と前記第2の予測値とに基づいて、前記薬剤の添加の態様を調整するステップとを含む、調整方法。
【請求項7】
請求項1に記載の情報処理装置としてコンピュータを機能させるための調整プログラムであって、前記含水率予測部および前記調整部としてコンピュータを機能させるための調整プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浮遊固形物を含む液体に当該浮遊固形物を凝集させる薬剤を添加した上で脱水機により脱水する処理において、当該薬剤の添加に関する処理を行う情報処理装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
下水処理場などの排水処理施設において実施される汚泥処理には汚泥を脱水機で脱水する工程が含まれている。効率的な汚泥処理のためには脱水により得られる脱水ケーキの含水率を所定の範囲内で維持することが重要である。しかし、脱水機の運転条件を一定にして脱水処理した場合には、供給される汚泥の性状が一定しない等の原因によって脱水ケーキの含水率は変動するため、脱水ケーキの含水率を所定の範囲内で維持することは容易ではない。
【0003】
このため、脱水ケーキの含水率を予測する技術の開発が従来から進められている。含水率を予測できれば、フィードフォワード制御により含水率を所定の範囲内で維持することが可能になる。例えば、下記の特許文献1には、遠心式の脱水機に供給される汚泥の量や、当該脱水機の遠心効果に関する値等の複数のパラメータを用いて含水率推定モデルを生成し、含水率を推定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-114569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
汚泥への薬剤の添加率(薬注率とも呼ばれる)と、脱水ケーキの含水率の予測値との間には相関があるため、含水率の予測値を用いて薬注率を調整することができる。すなわち、通常は薬注率を上げれば含水率は低下するため、含水率の予測値が所望の範囲内となるまで薬注率を上げていけばよい。
【0006】
しかしながら、薬注率が過剰になると含水率が低下しなくなることや、かえって含水率が上がることがある。このため、含水率の予測値が所望の範囲内となるまで薬注率を上げるという調整方法では、過剰な薬剤を無駄に添加してしまうおそれがある。このような問題は、汚泥に限られず、薬剤を添加して浮遊固形物を凝集させた上で脱水を行う、任意の浮遊固形物を含む液体の脱水処理において共通して生じる問題である。
【0007】
本発明の一態様は、浮遊固形物を含む液体に添加する、当該浮遊固形物を凝集させる薬剤の添加の態様を適切に調整することが可能な情報処理装置等を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る情報処理装置は、浮遊固形物を含む液体に当該浮遊固形物を凝集させる薬剤を添加した上で脱水機により脱水することにより得られる脱水ケーキの含水率を予測するものであって、前記薬剤の添加の態様が変更される前の前記液体の性状に関連のある第1の測定データを用いて第1の予測値を算出すると共に、前記薬剤の添加の態様が変更された後の前記液体の性状に関連のある第2の測定データを用いて第2の予測値を算出する含水率予測部と、前記第1の予測値と前記第2の予測値とに基づいて、前記薬剤の添加の態様を調整する調整部と、を備える。
【0009】
また、本発明の一態様に係る調整方法は、上記の課題を解決するために、1または複数の情報処理装置により実行される薬剤の添加の態様の調整方法であって、浮遊固形物を含む液体に当該浮遊固形物を凝集させる薬剤を添加した上で脱水機により脱水することにより得られる脱水ケーキの含水率を予測するステップであって、前記薬剤の添加の態様が変更される前の前記液体の性状に関連のある第1の測定データを用いて第1の予測値を算出するステップと、前記薬剤の添加の態様が変更された後の前記液体の性状に関連のある第2の測定データを用いて前記脱水ケーキの含水率の第2の予測値を算出するステップと、前記第1の予測値と前記第2の予測値とに基づいて、前記薬剤の添加の態様を調整するステップとを含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、浮遊固形物を含む液体に添加する、当該浮遊固形物を凝集させる薬剤の添加の態様を適切に調整することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る情報処理装置の要部構成の一例を示すブロック図である。
図2】上記情報処理装置を含む制御システムの構成例を示す図である。
図3】薬剤の添加の態様の調整例を示す図である。
図4】薬剤の添加の態様の他の調整例を示す図である。
図5】薬剤の添加の態様のさらに他の調整例を示す図である。
図6】上記情報処理装置が実行する処理の一例を示すフローチャートである。
図7】薬注率低減効果判定処理の一例を示すフローチャートである。
図8】薬注率増加効果判定処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔システム構成〕
図2に基づいて本発明の一実施形態に係る制御システムの構成を説明する。図2は、制御システム100の構成例を示す図である。制御システム100は、固体浮遊物を凝集させる薬剤を凝集槽内の被処理液(液体)に添加してフロックを形成し、フロックが形成された前記被処理液の固液分離を行うプラントで使用されるシステムである。以下では、被処理液が汚泥である例を説明するが、制御システム100は汚泥以外の被処理液を処理するプラントにも適用可能である。なお、汚泥とは、排水処理などで生じる微細な固形物を含む液体であり、スラリーと呼ぶこともできる。
【0013】
詳細は以下説明するが、制御システム100は、汚泥の処理工程のうち、処理対象の汚泥中の固体浮遊物を凝集させてフロックを形成させることによって、処理対象の汚泥を凝集汚泥とする工程から、凝集汚泥を脱水して脱水汚泥(脱水ケーキとも呼ばれる)と脱水ろ液を得る工程までの各処理を行う。図2に示すように、制御システム100は、情報処理装置1と、制御装置3と、フロキュレータ5と、脱水機9とを含む。
【0014】
フロキュレータ5は、固体浮遊物を凝集させる薬剤を凝集槽内の被処理液に添加して適度に撹拌することでフロックを形成させる機器である。具体的には、フロキュレータ5は、汚泥を被処理液とし、汚泥中の固体浮遊物を凝集させてフロックを形成させ、凝集汚泥を生成する。図2のフロキュレータ5は、凝集槽51と、撹拌翼52と、モータ53と、点検窓54とを備えている。また、フロキュレータ5には、汚泥投入口55と、薬剤投入口56と、排出口57とが設けられている。
【0015】
さらに、点検窓54には、撮影装置72と、撮影用の照明装置71とが取り付けられている。撮影装置72は、少なくとも静止画像が撮影できるものであればよい。制御システム100の稼働中、フロックへの光の当たり方が変化しないように、凝集槽51は光透過性のないものとすることが好ましい。また、撮影装置72および照明装置71は図示の例のように、点検窓54側が開口した遮光性の暗箱に収容することが好ましい。
【0016】
脱水機9は、フロックが形成された被処理液の固液分離を行う機器である。具体的には、脱水機9は、フロキュレータ5の後段に配設され、フロキュレータ5から排出される凝集汚泥を脱水して固液分離する。図2の脱水機9は、外胴スクリーン91とスクリュー92とを備えるスクリュープレス型脱水機である。また、脱水機9には、汚泥投入口93と、ろ液排出口94と、脱水ケーキ排出口95とが設けられている。なお、図示していないが、脱水機9は、スクリュー92を回転駆動するモータ等も備えている。無論、脱水機9は凝集汚泥を脱水できるものであればよく、スクリュープレス型に限られない。例えば、遠心脱水機、フィルタープレス型脱水機、またはベルトプレス脱水機等を適用することもできる。
【0017】
制御システム100において、処理対象の汚泥は、図示しない供給装置により、汚泥投入口55からフロキュレータ5の凝集槽51内に連続的あるいは断続的に供給され、凝集槽51から押し出されて排出された汚泥が脱水機9へ供給されるため、凝集槽51に供給される汚泥の流量と脱水機9へ供給される汚泥の流量は同時刻で一致する。汚泥の供給速度は、フロキュレータ5および脱水機9による汚泥の処理速度に応じて、供給装置あるいはその制御装置3が自動で制御する構成となっていてもよい。
【0018】
そして、凝集槽51内の汚泥に対して、薬剤投入口56から汚泥を凝集させるための薬剤(少なくとも凝集剤を含む)が投入される。この状態でモータ53を駆動させて撹拌翼52を回転させ、汚泥と薬剤を撹拌し、フロックを形成させる。形成されたフロックと、汚泥に含まれていた水との混合物である凝集汚泥は排出口57から排出される。
【0019】
続いて、この凝集汚泥は、脱水機9の汚泥投入口93から外胴スクリーン91内に供給される。脱水機9内において、上記凝集汚泥は、スクリュー92による加圧下で脱水されて、ろ液がろ液排出口94から排出され、脱水された凝集汚泥の固まりである脱水ケーキが脱水ケーキ排出口95から排出される。
【0020】
詳細は以下説明するが、情報処理装置1は、浮遊固形物を含む液体に当該浮遊固形物を凝集させる薬剤を添加した上で脱水機9により脱水することにより得られる脱水ケーキの含水率を予測する。なお、浮遊固形物を含む液体は、例えば上述した汚泥等であってもよい。
【0021】
より詳細には、情報処理装置1は、薬剤の添加後であって薬剤の添加の態様が変更される前の液体の性状に関連のある第1の測定データを用いて第1の予測値を算出すると共に、薬剤の添加の態様が変更された後の液体の性状に関連のある第2の測定データを用いて第2の予測値を算出する。そして、情報処理装置1は、算出した第1の予測値と第2の予測値とに基づいて、薬剤の添加の態様を調整する。
【0022】
薬剤の添加態様の変更は、当該薬剤が添加された液体の性状に影響を与える。そして、液体の性状の変化は測定データの変化をもたらし、その測定データを用いた含水率の予測値に影響を与える。このため、上述した第1の予測値と第2の予測値は、薬剤の添加態様の変更がもたらした効果を評価する指標となる。よって、上記の構成によれば、薬剤の添加態様の変更がもたらした効果を考慮して、当該薬剤の添加態様を適切に調整することが可能になる。
【0023】
また、情報処理装置1は、制御装置3を介して制御システム100の構成要素である各種機器(例えば、フロキュレータ5、脱水機9、および図示していない薬剤の供給装置等)の動作制御を行うこともできる。制御装置3は、制御システム100の構成要素である各種機器の動作を制御する装置である。制御装置3は、例えばPLC(Programmable Logic Controller)であってもよい。
【0024】
〔装置構成〕
図1に基づいて情報処理装置1の構成を説明する。図1は、情報処理装置1の要部構成の一例を示すブロック図である。図示のように、情報処理装置1は、情報処理装置1の各部を統括して制御する制御部10と、情報処理装置1が使用する各種データを記憶する記憶部11を備えている。また、情報処理装置1は、情報処理装置1が他の装置と通信するための通信部12、情報処理装置1に対する各種データの入力を受け付ける入力部13、および情報処理装置1が各種データを出力するための出力部14を備えている。また、制御部10には、データ取得部101、含水率予測部102、および調整部103が含まれている。
【0025】
データ取得部101は、含水率の予測に必要な各種データを取得する。具体的には、データ取得部101は、薬剤の添加後であって薬剤の添加の態様が変更される前の液体の性状に関連のある第1の測定データと、薬剤の添加の態様が変更された後の液体の性状に関連のある第2の測定データとを取得する。なお、第1の測定データと第2の測定データについては、後記「測定データについて」の項目で具体例を挙げて説明する。
【0026】
含水率予測部102は、浮遊固形物を含む液体に当該浮遊固形物を凝集させる薬剤を添加した上で脱水機により脱水することにより得られる脱水ケーキの含水率を予測する。より詳細には、含水率予測部102は、薬剤の添加の態様が変更される前の液体の性状に関連のある第1の測定データを用いて第1の予測値を算出すると共に、薬剤の添加の態様が変更された後の液体の性状に関連のある第2の測定データを用いて第2の予測値を算出する。なお、含水率の予測手法については、後記「含水率の予測手法」の項目で説明する。
【0027】
調整部103は、含水率予測部102が予測する第1の予測値と第2の予測値とに基づいて薬剤の添加の態様を調整する。なお、薬剤の添加態様の調整手法については、後記「薬剤の添加態様の調整手法」の項目で説明する。
【0028】
このように、本実施形態に係る情報処理装置1は、浮遊固形物を含む液体に当該浮遊固形物を凝集させる薬剤を添加した上で脱水機により脱水することにより得られる脱水ケーキの含水率を予測するものであって、薬剤の添加の態様が変更される前の液体の性状に関連のある第1の測定データを用いて第1の予測値を算出すると共に、薬剤の添加の態様が変更された後の液体の性状に関連のある第2の測定データを用いて第2の予測値を算出する含水率予測部102と、第1の予測値と第2の予測値とに基づいて薬剤の添加の態様を調整する調整部103とを備える。これにより、浮遊固形物を含む液体に添加する、当該浮遊固形物を凝集させる薬剤の添加の態様を適切に調整することが可能になる。
【0029】
〔測定データについて〕
第1の測定データは、薬剤の添加後であって薬剤の添加の態様が変更される前の液体の性状に関連のあるデータであり、第1の測定データを用いて含水率の予測値である第1の予測値が算出される。また、第2の測定データは、薬剤の添加の態様が変更された後の液体の性状に関連のあるデータであり、第2の測定データを用いて含水率の予測値である第2の予測値が算出される。なお、第2の測定データとしては、薬剤の添加の態様が変更された後、その効果が測定データに現れるのに十分な時間(例えば5分以上)が経過した後で測定されたものを使用する。
【0030】
このように、第1の測定データと第2の測定データは、測定されるタイミングが異なるが、何れも含水率の予測値の算出に用いられるデータである点で共通しており、値は異なったものとなり得るがデータの種類は同じである。このため、本項目においては、特に区別する必要がない限り、第1の測定データと第2の測定データを単に「測定データ」と呼ぶ。
【0031】
測定データは、薬剤の添加後の液体の性状に関連のあるデータであればよい。例えば、液体の性状を示すデータを測定データとしてもよい。例えば、フロキュレータ5内のフロックのサイズを示すデータを測定データとしてもよい。
【0032】
また、薬剤の添加の態様の変更の前後における液体の性状の変化は、当該液体を処理する各種機器について測定される測定データの変化ももたらす。例えば、液体の性状が変化したときには、当該液体を搬送しながら脱水する脱水機9の運転状態も変化し得る。このため、当該液体を処理する各種機器について測定されるデータを測定データとしてもよい。
【0033】
例えば、液体を脱水機9(あるいはフロキュレータ5)に供給するときの圧力を一定にする制御(以下、圧力一定制御と呼ぶ)を行う場合には、脱水機9への液体の単位時間当たりの供給流量を示すデータを測定データとして用いてもよい。
【0034】
ここで、圧力一定制御を行う場合に、ある時点における薬注率(液体の量に対する薬剤の量の比)が適正範囲より低かったとする。この状態において薬注率を増加させると、薬剤添加後の液体の脱水機9におけるろ過速度は上がる。このため、圧力一定制御により、ろ過速度上昇に相当する分だけ、液体の供給流量は増加する。そして、供給流量が増加した分、脱水ケーキの含水率の予測値は低くなる。
【0035】
よって、本例において、薬注率を増加させた後の供給流量から予測される含水率(第2の予測値)は、薬注率を増加させる前の供給流量から予測される含水率(第1の予測値)よりも低くなる。つまり、本例では、第1の予測値よりも第2の予測値が小さくなり、このことは、薬注率を増加させるという薬剤の添加態様の変更が、含水率の低下という効果をもたらしたことを意味しているといえる。
【0036】
これにより、含水率を低下させるべき状態において、第1の予測値よりも第2の予測値が小さいことに基づき、薬注率を増加させるという適切な調整を行うことが可能になる。このように、脱水機9への液体の単位時間当たりの供給流量を示すデータは、測定データとして好適である。また、液体を機内で搬送しながら脱水する脱水機9の運転に関する他の測定データについても同様に適用可能である。無論、測定データは、薬剤の添加後の液体の性状に関連のあるデータであればよく、上述の例に限られない。なお、どのような測定データを用いる場合であっても、第2の測定データとしては、薬剤の添加の態様が変更された後、その効果が測定データに現れるのに十分な時間が経過した後で測定されたものを使用する。
【0037】
〔含水率の予測手法〕
含水率予測部102は、データ取得部101が取得する上述のような測定データ(第1の測定データおよび第2の測定データ)を用いて含水率の予測値を算出する。含水率の予測には、例えば含水率の予測モデルを用いることができる。
【0038】
含水率の予測モデルは、測定データを説明変数とし、含水率を目的変数として、それらの関係をモデル化したものである。例えば、過去に測定された測定データと当該測定データに対応する含水率との対応関係を示す教師データを用いた機械学習により生成された予測モデルを用いることもできる。予測モデルのアルゴリズムは特に限定されず、例えば回帰あるいは重回帰モデル、ニューラルネットワーク、またはランダムフォレスト等の予測モデルを用いることもできる。
【0039】
なお、予測モデルの説明変数には、薬剤の添加時の液体の性状に関連するデータが含まれている必要がある。ただし、予測モデルの説明変数は、含水率と関連のあるデータであればよく、当該説明変数には、薬剤の添加時の液体の性状とは特に関連のないデータあるいは関連がないと考えられるデータが含まれていてもよい。
【0040】
例えば、予測モデルの説明変数には、脱水機9に供給される液体の浮遊固形物の濃度を示すデータ、フロキュレータ5に供給される薬剤に関するデータ(薬剤の供給流量、液体の量に対する薬剤の量の比すなわち薬注率、等)、フロキュレータ5内における上記液体に関するデータ(フロックサイズあるいはそれに関連する各種指標値)、フロキュレータ5の運転条件を示すデータ(撹拌速度等)、および脱水機9の運転条件を示すデータ(スクリュー回転速度、運転時間、投入圧等)の少なくとも何れかが含まれていてもよい。なお、フロキュレータ5内における上記液体に関する指標値は、例えば、図2に示した撮影装置72で撮影した画像を解析することにより得られたものであってもよい。
【0041】
〔薬剤の添加態様の調整手法〕
調整部103は、含水率予測部102が予測する第1の予測値と第2の予測値とに基づいて薬剤の添加の態様を調整する。なお、薬剤の添加の態様とは、薬剤をどのように添加するかを意味する。例えば、薬注率、薬剤の添加量、および薬剤の供給流量の少なくとも何れかを変更または調整することは、薬剤の添加の態様を変更または調整することに該当する。この他にも、添加する薬剤の種類や配合を変えることも薬剤の添加の態様の変更に該当する。
【0042】
なお、以下では薬注率を調整する例を説明する。調整部103は、フロキュレータ5に薬剤を供給する供給装置を直接または制御装置3等の他の装置を介して制御することにより、薬注率を調整すること(具体的には薬注率を増加させるかまたは低減させること)ができる。薬剤の添加量や供給流量等を調整する場合も同様である。
【0043】
例えば、調整部103は、薬注率を低減させる前に測定された第1の測定データを用いて算出された第1の予測値と、薬注率を低減させた後に測定された第2の測定データを用いて算出された第2の予測値とに基づいて薬注率を低減させる調整の効果を判定してもよい。なお、以下では、当該判定を薬注率低減効果判定と呼ぶ。そして、調整部103は、薬注率低減効果判定の結果に応じて薬剤の添加の態様を調整してもよい。
【0044】
同様に、調整部103は、薬注率をさせる前に測定された第1の測定データを用いて算出された第1の予測値と、薬注率を低減させた後に測定された第2の測定データを用いて算出された第2の予測値とに基づいて薬注率を低減させる調整の効果を判定してもよい。なお、以下では、当該判定を薬注率低減効果判定と呼ぶ。そして、調整部103は、薬注率低減効果判定の結果に応じて薬剤の添加の態様を調整してもよい。
【0045】
(1:基本の調整手法)
以下では、図3に基づいて薬注率低減効果判定および薬注率増加効果判定について説明する。図3は、薬剤の添加の態様の調整例を示す図である。図3には、薬注率と含水率の予測値との関係を示すグラフを示している。このグラフに示されるように、薬注率を増加させることにより含水率の予測値は基本的には低下するが、薬注率がある程度高くなるとそれ以上薬注率を増加させても含水率の予測値は低下しなくなり、さらに薬注率を増加させると含水率の予測値が増加する場合がある。
【0046】
(1-1:薬注率低減効果判定)
図3に示すEX1は、薬注率低減効果判定の結果に基づく薬注率の調整例である。当該調整例においては、薬注率を低減させる調整を行った後で薬注率低減効果判定を行う。そして、薬注率低減効果判定の結果が「含水率の予測値が低下」または「含水率の予測値が不変」であるときに薬注率を低下させる、という処理を薬注率低減効果判定の結果が「含水率の予測値が増加」となるまで繰り返す。そして、薬注率は、薬注率低減効果判定の結果が「含水率の予測値が増加」となる直前の値に調整される。
【0047】
薬注率低減効果判定は、薬注率を低減させる調整を行う前後の測定データ(第1の測定データと第2の測定データ)を用いて算出された含水率の予測値(第1の予測値と第2の予測値)との大小関係に基づいて行われる。つまり、第1の予測値よりも第2の予測値が小さければ「含水率の予測値が低下」ということになり、第1の予測値と第2の予測値が等しければ「含水率の予測値が不変」ということになり、第1の予測値よりも第2の予測値が大きければ「含水率の予測値が増加」ということになる。
【0048】
なお、調整部103は、第1の予測値と第2の予測値の差が閾値以下である場合に「含水率の予測値が不変」と判定してもよい。これにより、予測誤差等の影響で薬注率低減効果判定の結果がばらつく可能性を低減することができる。
【0049】
以下、具体的に説明する。EX1において、調整部103による調整前の初期状態をグラフ上の点P11で示している。なお、薬注率低減効果判定の結果に基づいて薬注率を調整する場合、初期状態における薬注率は高めに設定しておくことが好ましい。
【0050】
薬注率低減効果判定においては、データ取得部101が初期状態で測定された第1の測定データを取得し、含水率予測部102が当該第1のデータを用いて第1の予測値を算出する。
【0051】
次に、調整部103が薬注率を低減させる。薬注率低減後の状態は点P12で示されている。点P12の状態において、データ取得部101は第2の測定データを取得し、含水率予測部102は第2の測定データを用いて第2の予測値を算出する。EX1では、点P11の状態から点P12の状態に遷移したときに含水率の予測値が低下している。よって、薬注率低減効果判定の結果は「含水率の予測値が低下」となる。
【0052】
そこで、調整部103はさらに薬注率を低減させる。薬注率をさらに低減させた後の状態を示すのが点P13である。点P13の状態において、データ取得部101は測定データを取得し、含水率予測部102は取得された測定データを用いて予測値を算出する。EX1では、点P12の状態から点P13の状態に遷移したときに含水率の予測値が変化していないから、点P12の状態で行われた薬注率を低減させる調整についての薬注率低減効果判定の結果は「含水率の予測値が不変」となる。
【0053】
そこで、調整部103はさらに薬注率を低減させる。図3では、薬注率をさらに低減させた後の状態を点P14で示している。点P14の状態において、データ取得部101は測定データを取得し、含水率予測部102は取得された測定データを用いて予測値を算出する。EX1では、点P13の状態から点P14の状態に遷移したときに含水率の予測値が増加しているから、点P13の状態で行われた薬注率を低減させる調整についての薬注率低減効果判定の結果は「含水率の予測値が増加」となる。このため、調整部103は点14の状態から薬注率を増加させて点P13の状態における薬注率に戻す。これにより、薬注率は、含水率が最も低くなることが期待できる値に調整される。
【0054】
なお、薬注率低減効果判定の結果に基づいて薬注率を調整する場合、調整部103は、薬注率低減効果判定の結果が「含水率の予測値が不変」となったときに調整を終了してもよい。この場合も最終的には図3の点P13の状態に調整される。また、調整部103は、薬注率低減効果判定の結果が「含水率の予測値が不変」となった場合に薬注率を増加させて、薬注率低減効果判定の結果が最後に「含水率の予測値が低下」となったときの薬注率に調整してもよい。この場合、最終的には点P12の状態に調整される。
【0055】
(1-2:薬注率増加効果判定)
図3に示すEX2は、薬注率増加効果判定の結果に基づく薬注率の調整例である。当該調整例においては、薬注率を増加させる調整を行った後で薬注率増加効果判定を行う。そして、薬注率増加効果判定の結果が「含水率の予測値が低下」であるときに薬注率を増加させる、という処理を薬注率増加効果判定の結果が「含水率の予測値が増加」または「含水率の予測値が不変」となるまで繰り返す。そして、薬注率は、薬注率増加効果判定の結果が「含水率の予測値が増加」または「含水率の予測値が不変」となる直前の値に調整される。
【0056】
薬注率増加効果判定においても、薬注率低減効果判定と同様に、第1の予測値よりも第2の予測値が小さければ「含水率の予測値が低下」ということになり、第1の予測値と第2の予測値が等しければ「含水率の予測値が不変」ということになり、第1の予測値よりも第2の予測値が大きければ「含水率の予測値が増加」ということになる。なお、上述のように第1の予測値と第2の予測値の差が閾値以下である場合には「含水率の予測値が不変」としてもよい。
【0057】
EX2において、調整部103による調整前の初期状態を点P21で示し、1回目~4回目の薬注率増加後の状態をそれぞれ点P22~P25で示している。なお、薬注率増加効果判定の結果に基づいて薬注率を調整する場合、初期状態における薬注率は低めに設定しておくことが好ましい。
【0058】
この例では、3回目の薬注率増加後の点P24の状態から点P25の状態に遷移したときに含水率の予測値が増加しているから、点P24の状態で行われた薬注率を増加させる調整についての薬注率増加効果判定の結果は「含水率の予測値が増加」となる。このため、調整部103は点P25の状態から薬注率を低減させて点P24の状態に戻す。これにより、薬注率は、含水率が最も低くなることが期待できる値に調整される。
【0059】
なお、薬注率増加効果判定の結果に基づいて薬注率を調整する場合、調整部103は、薬注率増加効果判定の結果が「含水率の予測値が不変」となったときに調整を終了してもよい。また、調整部103は、薬注率増加効果判定の結果が「含水率の予測値が不変」となった場合に薬注率を減少させて、薬注率低減効果判定の結果が最後に「含水率の予測値が低下」となったときの薬注率に調整してもよい。
【0060】
(2:薬注率を戻す調整手法)
薬注率低減効果判定および薬注率増加効果判定を行う場合には、上述のように薬注率を増加または低減させるが、この際に増加または低減させた薬注率を一旦元に戻した上で薬注率低減効果判定または薬注率増加効果判定を行ってもよい。これについて図4および図5に基づいて説明する。
【0061】
図4は、薬剤の添加の態様の他の調整例を示す図である。図4に示すEX3では初期状態が点P31で示されている。点P31に示される状態において測定された第1の測定データをデータ取得部101が取得し、含水率予測部102が当該第1のデータを用いて第1の予測値を算出する。この後、調整部103が薬注率を低減させて状態は点P32に遷移する。点P32の状態において、データ取得部101は第2の測定データを取得し、含水率予測部102は第2の測定データを用いて第2の予測値を算出する。ここまでは図3に示したEX1における点P11から点P12への遷移の際の処理と同じである。
【0062】
EX3では、点P32の状態において、調整部103が薬注率を低減前に戻す処理を行う。そして、薬注率が低減前に戻った点P31’の状態でデータ取得部101は再度測定データ(第3の測定データ)を取得し、含水率予測部102は第3の測定データを用いて第3の予測値を算出する。なお、データ取得部101は、薬注率が戻された後、その効果が測定データに現れるのに十分な時間が経過した後で測定された第3の測定データを取得する。
【0063】
このように、EX3の調整例においては、薬注率を変化させる前の点P31の状態と、変化させた後の点P32の状態と、変化前に戻した点P31’の状態と、の計3回測定データ(第1~第3の測定データ)が取得され、それらの測定データを用いて3つの予測値(第1~第3の予測値)が算出される。この場合、調整部103は、第1~第3の予測値を用いて薬注率低減効果判定を行う。
【0064】
例えば、調整部103は、第3の予測値と第1の予測値の平均値と、第2の予測値とを比較し、平均値よりも第2の予測値が小さければ「含水率の予測値が低下」と判定し、平均値と第2の予測値が等しければ「含水率の予測値が不変」と判定し、平均値よりも第2の予測値が大きければ「含水率の予測値が増加」と判定してもよい。
【0065】
また、調整部103は、平均値と第2の予測値との差が閾値以下である場合には「含水率の予測値が不変」としてもよい。この閾値をΔWとし、第1~第3の予測値をそれぞれW1~W3としたとき、調整部103は、下記の(1)の条件が充足されたときに「含水率の予測値が低下」と判定し、下記の(2)の条件が充足されたときに「含水率の予測値が不変」と判定し、下記の(3)の条件が充足されたときに「含水率の予測値が増加」と判定してもよい。
W2-(W1+W3)/2<-ΔW …(1)
-ΔW≦W2-(W1+W3)/2<ΔW …(2)
ΔW≦W2-(W1+W3)/2 …(3)
EX3では、点P31およびP31’の状態と比べて、点P32の状態における含水率の予測値が低い。よって、薬注率低減効果判定の結果は「含水率の予測値が低下」となる。この場合、図示のように、調整部103は、改めて薬注率を低減させ、点P32の状態に遷移させる。
【0066】
この後は、EX1と同様に、薬注率低減効果判定の結果が「含水率の予測値が増加」となるまで同様の処理が繰り返される。具体的には、まず、調整部103は、図示のように、点P32の状態から薬注率を低減させて点P33の状態に遷移させた後、点P32の薬注率に戻す。そして、薬注率を戻した状態(点P32’に示される状態)において薬注率低減効果判定が行われる。このような処理を繰り返して、薬注率低減効果判定の結果が「含水率の予測値が増加」となる直前の値に薬注率が調整される。
【0067】
一方、EX4においては、初期状態は点P41で示されている。また、点P41の状態において薬注率を低減することにより遷移した状態が点P42で示され、そして点P41の薬注率に戻した状態が点P41’で示されている。図示のように、点P41および点P41’の状態と比べて点P42の状態における含水率の予測値は大きいため、点P41の状態で薬注率を低減した処理についての薬注率低減効果判定の結果は「含水率の予測値が増加」となる。
【0068】
この場合、調整部103は、図示のように、点P41’の状態から薬注率を増加させて点P43の状態に遷移させた後、点P41’の薬注率に戻す。戻した状態が点P41”で示されている。この後は、EX2と同様に、薬注率増加効果判定の結果が「含水率の予測値が増加」または「含水率の予測値が不変」となるまで処理が繰り返され、薬注率増加効果判定の結果が「含水率の予測値が増加」または「含水率の予測値が不変」となる直前の値に薬注率が調整される。なお、薬注率を戻す場合の薬注率増加効果判定については図5に基づいて説明する。
【0069】
このように、調整部103は、最初に薬注率を低減させて薬注率低減効果判定を行い、当該薬注率低減効果判定の結果が「含水率の予測値が増加」であれば、薬注率を増加させる方向で調整するように切り替えてもよい。この場合、初期状態で薬注率を高めあるいは低めにしておく必要はない。なお、これは薬注率を戻さない場合の処理(図3参照)においても同様である。
【0070】
図5は、薬剤の添加の態様のさらに他の調整例を示す図である。図5に示すEX5の初期状態は点P51で示されている。点P51に示される状態において測定された第1の測定データをデータ取得部101が取得し、含水率予測部102が当該第1のデータを用いて第1の予測値を算出する。この後、調整部103が薬注率を増加させて点P52の状態に遷移する。点P52の状態において、データ取得部101は第2の測定データを取得し、含水率予測部102は第2の測定データを用いて第2の予測値を算出する。ここまでは図3に示したEX2における点P21から点P22への遷移の際の処理と同じである。
【0071】
EX5では、点P52の状態において、調整部103が薬注率を増加前に戻す処理を行い、これにより薬注率が点P51と同じである点P51’の状態に遷移する。そして、点P51’に示される状態でデータ取得部101は再度測定データ(第3の測定データ)を取得し、含水率予測部102は第3の測定データを用いて第3の予測値を算出する。
【0072】
そして、調整部103は、算出された第1~第3の予測値を用いて薬注率増加効果判定を行う。判定の手法としては、薬注率低減効果判定と同様のものが適用できる。例えば、調整部103は、上述の(1)の条件が充足されたときに「含水率の予測値が低下」と判定し、(2)の条件が充足されたときに「含水率の予測値が不変」と判定し、(3)の条件が充足されたときに「含水率の予測値が増加」と判定してもよい。
【0073】
EX5では、点P51および点P51’の状態と比べて点P52の状態における含水率の予測値は低いため、薬注率増加効果判定の結果は「含水率の予測値が低下」となる。この場合、図示のように、調整部103は、改めて薬注率を増加させ、点P52の状態に遷移させる。
【0074】
この後は、EX2と同様に、薬注率増加効果判定の結果が「含水率の予測値が増加」または「含水率の予測値が不変」となるまで同様の処理が繰り返される。具体的には、まず、図示のように、調整部103は、点P52の状態から薬注率を増加させて点P53の状態に遷移させた後、点P52の薬注率に戻す。そして、薬注率を戻した状態(点P52’に示される状態)において薬注率増加効果判定が行われる。このような処理を繰り返して、薬注率増加効果判定の結果が「含水率の予測値が増加」または「含水率の予測値が不変」となる直前の値に薬注率が調整される。
【0075】
(3:薬剤の添加態様の調整手法についてまとめ)
以上のように、データ取得部101は、薬剤の添加の態様が第1の態様であるときの液体の性状に関連のある第1の測定データと、薬剤の添加の態様が第2の態様に変化した後の液体の性状に関連のある第2の測定データに加え、薬剤の添加の態様が第2の態様から第1の態様に戻された後の液体の性状に関連のある第3の測定データを取得してもよい。
【0076】
そして、含水率予測部102は、第1~第3の測定データのそれぞれを用いて第1~第3の予測値を算出し、調整部103は、第3の予測値と第1の予測値との平均値と、第2の予測値との大小関係に応じて薬剤の添加の態様を調整してもよい。これにより、薬剤の添加態様の変化以外の因子の影響を低減して、薬剤の添加の態様を適切に調整することが可能になる。
【0077】
例えば、第1の測定データの測定後、第2の測定データの測定前に、供給される液体の性状が含水率の予測値に影響を与える程度に変化したとする。この場合、第1の予測値にはその影響が反映されないが、第2の予測値と第3の予測値には反映される。
【0078】
第3の予測値を用いることにより、このような場合において、第1の予測値と第2の予測値との大小関係に応じて薬剤の添加の態様を調整する場合と比べて、供給される液体の性状変化の影響を軽減することができる。
【0079】
また、図3図5に基づいて説明したように、調整部103は、薬剤の添加の態様を変更させる処理と、変更の前後における含水率予測部102の予測値に基づいて薬剤の添加の態様を調整する処理とを、含水率予測部102が予測する予測値が所定の条件を充足するまで繰り返し行ってもよい。この構成によれば、薬剤の添加態様の調整を自動的に繰り返し、含水率が所望の条件を充足することが期待できる状態にすることができる。
【0080】
なお、上記所定の条件は任意に設定することができる。例えば、EX1のように薬注率低減効果判定の結果が「含水率の予測値が増加」となるという条件を設定してもよいし、EX2のように薬注率増加効果判定の結果が「含水率の予測値が増加」または「含水率の予測値が不変」となる、という条件を設定してもよい。また、例えば、含水率の予測値が閾値以下となるという条件や、含水率の予測値が所定の許容範囲内となるという条件を設定してもよい。
【0081】
〔薬注率調整の自動再開〕
また、情報処理装置1は、上記条件の充足後、所定時間が経過するか、または、含水率予測部102が予測する予測値が上記条件を充足しなくなったことを契機として、上述した繰り返しの処理を再開してもよい。一度条件を充足しても時間経過等に伴って条件を充足しなくなることがあるが、当該構成によれば、このような場合に繰り返しの処理を再開するので、含水率が所望の条件を満たすことが期待できる状態を自動的に維持することができる。
【0082】
例えば、調整部103は、上記条件の充足時にタイマーによるカウントダウンを開始してもよい。そして、データ取得部101は、当該タイマーにより所定時間の経過を検知したときに第1の測定データを取得し、含水率予測部102は当該第1の測定データを用いて第1の予測値を算出してもよい。その後は、上述のEX1~EX5のような要領で繰り返し処理を行い、薬注率を調整すればよい。
【0083】
また、例えば、データ取得部101は、上述の繰り返し処理を行っていない期間中においても定期的に測定データを取得し、含水率予測部102は当該測定データを用いて予測値を算出するようにしてもよい。そして、含水率予測部102の予測値が所定の条件を満たしていない場合(例えば、予測値が所定の許容範囲外となっている場合)に、上述の繰り返し処理を開始してもよい。
【0084】
〔コストを考慮した調整要否の判定〕
上述した条件(1)~(3)における判定基準閾値ΔWと、薬注率の調整幅は、液体の処理に要するコストを考慮して設定してもよい。つまり、調整部103は、第1の予測値と第2の予測値に基づいて推定される、含水率の低減による脱水ケーキの処理コストの減少量の方が、薬剤の添加量を所定量増やすコストの増加量よりも大きい場合に、薬剤の添加量を所定量増やす調整を行うようにしてもよい。これにより、液体の処理コストを自動的に低減することが可能になる。
【0085】
例えば、薬注率をΔP%増減したときの処理コストの増減と、含水率がΔW増減したときの脱水ケーキの処理コストの増減とが等しくなるようにΔPとΔWを設定してもよい。具体例を挙げれば、薬注率を0.1%増減したときの処理コスト(主として薬品代)の増減と、含水率が0.4%増減したときの脱水ケーキの処理コスト(期待値でよい)の増減とが等しかったとする。この場合、調整部103は、薬注率を0.1%刻みで調整し、含水率が0.4%以上下がることが期待できる場合に薬注率を低下させる調整を行う。
【0086】
また、調整部103は、処理コストの合計が最小化されるように薬注率を調整してもよい。この場合、調整部103は、含水率予測部102が予測する予測値から、処理コストの予測値を算出すればよい。これにより、含水率の予測値が最小となる薬注率に調整する上述の各例と同様の処理により、処理コストの合計が最小化される薬注率に自動で調整することができる。
【0087】
例えば、薬品コストと脱水ケーキの処理コストを考慮する場合、調整部103は、含水率予測部102が予測する予測値から脱水ケーキの処理コストを算出すると共に、当該予測値の算出に用いた測定データの測定時の薬注率から薬品コストを算出する。また、調整部103は、算出した脱水ケーキの処理コストと薬品コストの和を処理コストの合計値として算出する。そして、調整部103は、薬注率を変化させて上記合計値を算出する、という処理を上記合計値が最小になるまで繰り返すことにより、処理コストの合計が最小化される薬注率に調整することができる。
【0088】
〔処理の流れ(全体)〕
情報処理装置1が実行する処理(調整方法)の流れを図6に基づいて説明する。図6は、情報処理装置1が実行する処理の一例を示すフローチャートである。なお、図6の処理の開始時点では、フロキュレータ5内の液体に対して所定の薬注率で薬剤の添加が行われている。
【0089】
S1では、薬注率低減効果判定処理が行われる。詳細は図7に基づいて後述するが、薬注率低減効果判定処理では、図4のEX3、EX4に基づいて説明した「薬注率低減効果判定」が行われ、含水率の予測値である第1~第3の予測値が算出される。なお、「薬注率低減効果判定」の際には、図3のEX1のように薬注率を戻さないようにしてもよい。
【0090】
S2では、調整部103が、S1で算出された第1~第3の予測値に基づき、薬注率を低減させる調整により、含水率の予測値が低下または不変であったか否かを判定する。S2でYESと判定された場合にはS3の処理に進み、S2でNOと判定された場合にはS4の処理に進む。
【0091】
S2において、調整部103は、例えば下記の(3)の条件が充足された場合にNOと判定してもよい。一方、調整部103は、下記の(1)または(2)の条件が充足された場合にS2でYESと判定してもよい。
W2-(W1+W3)/2<-ΔW …(1)
-ΔW≦W2-(W1+W3)/2<ΔW …(2)
ΔW≦W2-(W1+W3)/2 …(3)
なお、通常は薬注率を低減させると含水率は増加するため、S2の判定結果はNOとなることが多い。ただし、例えば、図6の処理の開始時点における薬注率が高すぎる場合には、薬注率を低減させる調整により含水率の予測値が低下することがある。このような場合にS2の判定結果はYESとなる。
【0092】
S3では、調整部103は、薬剤の添加の態様を調整する。より詳細には、調整部103は薬注率を低減し、この後処理はS1に戻る。例えば、調整部103は、S1と同じ低減幅で薬注率を低減してもよい。S3において、調整部103は、フロキュレータ5に薬剤を供給する供給装置を直接制御することにより薬注率を低減してもよいし、制御装置3等の他の装置を介して当該供給装置を制御することにより薬注率を低減してもよい。後述のS6においても同様である。
【0093】
このように、S1~S3の処理は、S2でNOと判定されるまで繰り返し行われる。S1~S3の処理は、含水率の予測値の上昇が想定される直前まで薬注率を所定の低減幅で段階的に低減させる処理であるといえる。
【0094】
S4では、薬注率増加効果判定処理が行われる。詳細は図8に基づいて後述するが、薬注率増加効果判定処理では、図5のEX5に基づいて説明した「薬注率増加効果判定」が行われ、含水率の予測値である第1~第3の予測値が算出される。なお、「薬注率増加効果判定」の際には、図3のEX2のように薬注率を戻さないようにしてもよい。
【0095】
S5では、調整部103が、S4で算出された第1~第3の予測値に基づき、薬注率を増加させる調整により、含水率の予測値が低下したか否かを判定する。S5でNOと判定された場合には図6の処理は終了し、S5でYESと判定された場合にはS6の処理に進む。
【0096】
例えば、調整部103は、上記した(1)の条件が充足された場合にS5でYESと判定してもよい。一方、調整部103は、上記した(2)または(3)の条件が充足された場合にS5でNOと判定してもよい。
【0097】
S6では、調整部103は、薬剤の添加の態様を調整する。より詳細には、調整部103は薬注率を増加する。例えば、調整部103は、S4と同じ増加幅で薬注率を増加してもよい。S6の終了後、処理はS4に戻る。
【0098】
このように、S4~S6の処理は、S5でNOと判定されるまで繰り返し行われる。S4~S6の処理は、含水率の予測値の低下が期待できなくなる程度まで薬注率を所定の増加幅で段階的に増加させる処理であるといえる。
【0099】
そして、調整部103は、S1~S3の処理をS2でNOと判定されるまで繰り返した後で、S4~S6の繰り返し処理を行うことにより、薬注率を、含水率を最小化することが期待でき、かつ、過大ではない値に調整することができる。
【0100】
〔処理の流れ(薬注率低減効果判定処理)〕
図6のS1で行われる薬注率低減効果判定処理について図7に基づいて説明する。図7は、薬注率低減効果判定処理の一例を示すフローチャートである。
【0101】
S11では、含水率予測部102が含水率を予測する。より詳細には、含水率予測部102は、S11の処理の実施時点における薬剤の添加時の液体の性状に関連のある第1の測定データを用いて第1の予測値を算出する。
【0102】
S12では、調整部103が、薬注率を低減させる。薬注率の低減幅は予め定めておけばよい。例えば、調整部103は、薬注率をΔP%低減させてもよい。続いて、S13では、含水率予測部102が、S12で薬注率を低減させた後で測定された測定データから含水率を予測する。より詳細には、含水率予測部102は、S12の処理により薬剤の添加の態様が変更された後の液体の性状に関連のある第2の測定データを用いて第2の予測値を算出する。なお、第2の測定データは、S12で薬注率を低減させた後、その効果が測定データに現れるのに十分な時間が経過した後で測定される。以下では当該時間をΔtと記載する。Δtは、例えば5分以上の時間に設定してもよい。
【0103】
S14では、調整部103が、薬注率をS12で低減させる前の値に戻す。続いて、S15では、含水率予測部102が、S14で薬注率を戻した後で測定された測定データから含水率を予測する。より詳細には、含水率予測部102は、S14の処理により薬剤の添加の態様がS12の直前の態様に戻された後の液体の性状に関連のある第3の測定データを用いて第3の予測値を算出する。これにより、図7の処理は終了する。
【0104】
なお、第3の測定データについても、第2の測定データと同様に、薬注率を変化させた効果が測定データに現れるのに十分な時間が経過した後で測定される。この時間は第2の測定データと同じ時間(Δt)としてもよい。これは、後述する図8のS45においても同様である。
【0105】
〔処理の流れ(薬注率増加効果判定処理)〕
図6のS4で行われる薬注率増加効果判定処理について図8に基づいて説明する。図8は、薬注率増加効果判定処理の一例を示すフローチャートである。
【0106】
S41では、含水率予測部102が含水率を予測する。より詳細には、含水率予測部102は、S41の処理の実施時点における薬剤の添加後の液体の性状に関連のある第1の測定データを用いて第1の予測値を算出する。
【0107】
S42では、調整部103が、薬注率を増加させる。薬注率の増加幅は予め定めておけばよい。例えば、調整部103は、図7のS12と同じ幅(例えばΔP%)だけ薬注率を増加させてもよい。
【0108】
S43では、含水率予測部102が、S42で薬注率を増加させた後で測定された測定データから含水率を予測する。より詳細には、含水率予測部102は、S42の処理により薬剤の添加の態様が変更された後の液体の性状に関連のある第2の測定データを用いて第2の予測値を算出する。なお、第2の測定データは、S42で薬注率を増加させた後、その効果が測定データに現れるのに十分な時間が経過した後で(例えば5分経過以降に)測定される。例えば、第2の測定データは、図7のS13と同様に、S42で薬注率を増加させてから時間(Δt)だけ経過したときに測定されたものであってもよい。
【0109】
S44では、調整部103が、薬注率をS42で増加させる前の値に戻す。続いて、S45では、含水率予測部102が、S44で薬注率を戻してから十分な時間(例えば5分程度)が経過した後で測定された測定データから含水率を予測する。より詳細には、含水率予測部102は、S44の処理により薬剤の添加の態様がS42の直前の態様に戻された後の液体の性状に関連のある第3の測定データを用いて第3の予測値を算出する。これにより、図8の処理は終了する。
【0110】
図6図8に基づいて説明したように、本実施形態の調整方法は、浮遊固形物を含む液体に当該浮遊固形物を凝集させる薬剤を添加した上で脱水機9により脱水することにより得られる脱水ケーキの含水率を予測するステップであって、薬剤の添加の態様が変更される前の液体の性状に関連のある第1の測定データを用いて第1の予測値を算出するステップ(S11/S41)と、薬剤の添加の態様が変更された後の液体の性状に関連のある第2の測定データを用いて脱水ケーキの含水率の第2の予測値を算出するステップ(S13/43)と、第1の予測値と第2の予測値とに基づいて薬剤の添加の態様を調整するステップ(S3/S6)と、を含む。よって、薬剤の添加の態様を適切に調整することが可能になる。
【0111】
〔変形例〕
上述の実施形態で説明した各処理の実行主体は任意であり、上述の例に限られない。例えば、図6図8に示した調整方法の各ステップは、複数の情報処理装置に分担させることもできる。つまり、当該調整方法は、1つの情報処理装置1により実行されるものであってもよいし、複数の情報処理装置により実行されるものであってもよい。
【0112】
〔ソフトウェアによる実現例〕
情報処理装置1(以下、「装置」と呼ぶ)の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該装置の各制御ブロック(特に制御部10に含まれる各部)としてコンピュータを機能させるためのプログラム(調整プログラム)により実現することができる。
【0113】
この場合、上記装置は、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記プログラムを実行することにより、上記各実施形態で説明した各機能が実現される。
【0114】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
【0115】
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0116】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0117】
1 情報処理装置
102 含水率予測部
103 調整部
図1
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図8