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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027678
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】ゴム製品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16L 11/08 20060101AFI20240222BHJP
【FI】
F16L11/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022130666
(22)【出願日】2022-08-18
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】末藤 亮太郎
【テーマコード(参考)】
3H111
【Fターム(参考)】
3H111BA12
3H111BA25
3H111CC03
3H111DA07
3H111DB02
(57)【要約】
【課題】内圧に対して十分な耐圧性を確保しつつ円筒部での補強層の積層数を低減して、生産性および成型加工性の低下を抑制するゴム製品およびその製造方法を提供する。
【解決手段】内層4と外層10との間に複数の補強層5を同軸上に積層した円筒状の成形体1Aを成形し、この成形体1Aを加硫して円筒部3aを有するゴム製品を製造する際に、それぞれの補強層5を、多数の繊維コード7が引き揃えられて所定の接着処理が施された簾織物6とこの簾織物6の両表面を被覆するコートゴム層9とで構成するとともに、補強層5どうしの繊維コード7を交差する方向に延在させたバイアス構造とし、それぞれの簾織物6として、繊維コード延在方向の引張強さが4320N/cm以上で重量が950g/m2以下の仕様のものを使用して所定の接着処理後の曲げ硬さが30g/cm以下、それぞれのコートゴム層9の層厚を0.2mm以上1mm以下にする。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内層と外層との間に複数の補強層が同軸上に積層して埋設されている円筒部を有し、それぞれの前記補強層が、多数の繊維コードが引き揃えられていて所定の接着処理が施された簾織物とこの簾織物の両表面を被覆するコートゴム層とで構成されていて、前記補強層どうしの前記繊維コードが交差する方向に延在しているバイアス構造であるゴム製品において、
それぞれの前記簾織物として、前記繊維コード延在方向の引張強さが4320N/cm以上で重量が950g/m2以下の仕様のものが使用されていて、それぞれの前記簾織物の前記所定の接着処理後の曲げ硬さが30g/cm以下であり、前記円筒部を膨張させていない中立状態でそれぞれの前記コートゴム層の層厚が0.2mm以上1mm以下であるゴム製品。
【請求項2】
前記ゴム製品が空気式防舷材またはマリンホースである請求項1に記載のゴム製品。
【請求項3】
前記ゴム製品が空気式防舷材であり、前記円筒部を膨張させていない中立状態でそれぞれの前記繊維コードの前記円筒部の筒軸方向に対するコード角度が25°以上45°以下に設定されていて、前記円筒部に前記ゴム製品使用時の規定内圧が作用する状態では、それぞれの前記繊維コードの前記コード角度が54°以上55°以下になって前記円筒部が膨張変形する請求項1に記載のゴム製品。
【請求項4】
内層と外層との間に複数の補強層を同軸上に積層した円筒状の成形体を成形して、それぞれの前記補強層を、多数の繊維コードが引き揃えられて所定の接着処理が施された簾織物とこの簾織物の両表面を被覆するコートゴム層とで構成するとともに、前記補強層どうしの前記繊維コードを交差する方向に延在させたバイアス構造とし、前記成形体を加硫することにより、前記内層と前記外層との間に複数の前記補強層が同軸上に積層して埋設された円筒部を有するゴム製品を製造するゴム製品の製造方法において、
それぞれの前記簾織物として、前記繊維コード延在方向の引張強さが4320N/cm以上で重量が950g/m2以下の仕様のものを使用し、それぞれの前記簾織物の前記所定の接着処理後の曲げ硬さを30g/cm以下にして、それぞれの前記コートゴム層の層厚を0.2mm以上1mm以下にするゴム製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム製品およびその製造方法に関し、さらに詳しくは、内層と外層との間に複数の補強層が同軸上に積層して埋設されている円筒部を有するゴム製品およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
空気式防舷材やマリンホースなどのゴム製品には、その円筒部に補強層が埋設されている。この補強層はそのゴム製品に作用する内圧に対抗するために埋設されている。例えば、多数の引き揃えた繊維コードを有する簾織物とその両表面を被覆するコートゴム層とで構成された補強層が使用されている(特許文献1参照)。一般的には円筒部の内層と外層との間に複数の補強層が積層して埋設され、隣り合って積層されている補強層どうしでは、互いの繊維コードが交差する方向に延在している(いわゆる、バイアス構造になっている)。隣り合って積層された簾織物どうしの間に介在するコートゴム層は、十分な接合強度を確保するために相応の層厚に設定される。
【0003】
より大きな内圧に対抗するために、円筒部に埋設される補強層の積層数を増やすと、補強層の積層作業に要する時間が長くなるので、ゴム製品の生産性を向上させるには不利になる。補強層の積層数を増やすと、重量も増大するので成型加工性が低下する一因にもなる。また、コートゴム層の層厚が過大であると成型加工性が低下する。一方で、コートゴム層の層厚が過小であると、補強層どうしの接合強度や補強層と隣接する部材との接合強度が不足して十分な耐圧性を確保するには不利になる。それ故、内圧に対して十分な耐圧性を確保しつつ円筒部に埋設される補強層の積層数を低減して生産性を向上させ、かつ、成型加工性の低下を抑制するには改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-157016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の主な目的は、内圧に対して十分な耐圧性を確保しつつ円筒部に埋設される補強層の積層数を低減して生産性を向上させ、かつ、成型加工性の低下を抑制できるゴム製品およびゴム製品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明のゴム製品は、内層と外層との間に複数の補強層が同軸上に積層して埋設されている円筒部を有し、それぞれの前記補強層が、多数の繊維コードが引き揃えられていて所定の接着処理が施された簾織物とこの簾織物の両表面を被覆するコートゴム層とで構成されていて、前記補強層どうしの前記繊維コードが交差する方向に延在しているバイアス構造であるゴム製品において、それぞれの前記簾織物として、前記繊維コード延在方向の引張強さが4320N/cm以上で重量が950g/m2以下の仕様のものが使用されていて、それぞれの前記簾織物の前記所定の接着処理後の曲げ硬さが30g/cm以下であり、前記円筒部を膨張させていない中立状態でそれぞれの前記コートゴム層の層厚が0.2mm以上1mm以下であることを特徴とする。
【0007】
本発明のゴム製品の製造方法は、内層と外層との間に複数の補強層を同軸上に積層した円筒状の成形体を成形して、それぞれの前記補強層を、多数の繊維コードが引き揃えられて所定の接着処理が施された簾織物とこの簾織物の両表面を被覆するコートゴム層とで構成するとともに、前記補強層どうしの前記繊維コードを交差する方向に延在させたバイアス構造とし、前記成形体を加硫することにより、前記内層と前記外層との間に複数の前記補強層が同軸上に積層して埋設された円筒部を有するゴム製品を製造するゴム製品の製造方法において、それぞれの前記簾織物として、前記繊維コード延在方向の引張強さが4320N/cm以上で重量が950g/m2以下の仕様のものを使用し、それぞれの前記簾織物の前記所定の接着処理後の曲げ硬さを30g/cm以下にして、それぞれの前記コートゴム層の層厚を0.2mm以上1mm以下にすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、それぞれの前記簾織物として、前記繊維コード延在方向の引張強さが4320N/cm以上の仕様のものが使用されることで、前記円筒部に埋設される前記補強層の積層数を低減してもゴム製品に作用する内圧に対して十分な耐圧性を確保し易くなる。これに伴い、ゴム製品の生産性向上には有利になる。また、それぞれの前記簾織物の重量を950g/m2以下、それぞれの前記簾織物の前記所定の接着処理後の曲げ硬さを30g/cm以下にすることで、前記ゴム製品を製造する際の成型加工性の低下を抑制するには有利になる。さらには、それぞれの前記コートゴム層の層厚を0.2mm以上1mm以下にすることで、重量の増加を抑えつつ十分な接合強度を確保し易くなるので、成型加工性の低下を抑制しつつ耐圧性を確保するには益々有利になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ゴム製品の実施形態である空気式防舷材を、円筒部を膨張させていない中立状態で円筒部の一部を切り欠いて側面視で例示する説明図である。
図2図1の半球状部の内部構造を正面視で例示する説明図である。
図3図1の円筒部を一部拡大して横断面視で例示する説明図である。
図4】繊維コードに直交して横断する断面視で補強層を例示する説明図である。
図5】簾織物を平面視で例示する説明図である。
図6図6(A)は繊維コードの製造工程を例示し、図6(B)は繊維コードを横断面視で模式的に例示する説明図である。
図7】成形体の加硫工程を例示する説明図である。
図8図1の本体の内部を規定内圧に昇圧して所定形状に膨張させた空気式防舷材を、円筒部の一部を切り欠いて側面視で例示する説明図である。
図9】円筒部の変形例を一部拡大して横断面視で示す説明図である。
図10】ゴム製品の実施形態であるマリンホースを、円筒部の一部を切り欠いて側面視で例示する説明図である。
図11図10の円筒部の一部を横断面視で例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のゴム製品およびその製造方法を、ゴム製品が空気式防舷材の場合を例にして、図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0011】
図1図3に例示するゴム製品の実施形態である空気式防舷材1(以下、防舷材1という)は、円筒部3aの両端に半球状部3bが連接された本体2と、本体2に設けられた口金部11とを備えている。この実施形態では、口金部11が一方の半球状部3bだけに設けられているが、両側の半球状部3bに設けられることもある。図中の一点鎖線CLは円筒部3aの筒軸心を示していて、一点鎖線CLの延在方向が筒軸方向である。
【0012】
円筒部3aには、円筒状の内層4と、円筒状の外層10との間に複数の円筒状の補強層5が同軸上に積層されて埋設されていて、この実施形態では6層の補強層5が積層されている。即ち、円筒部3aでは、内層4、それぞれの補強層5および外層10が同軸上に積層されている。補強層5の積層数は防舷材1に要求される内圧に対する耐圧性によって決定され、例えば4~12程度である。
【0013】
図4図5に例示するようにそれぞれの補強層5は、多数の繊維コード7が引き揃えられた簾織物6と、簾織物6の両表面を被覆するコートゴム層9とで構成されている。繊維コード7どうしの間にはコートゴム層9のゴムが充填された状態になっている。後述するが、円筒部3aとそれぞれの半球状部3bとは、繊維コード7の延在方向が異なっていて、円筒部3aはバイアス構造、それぞれの半球状部3bはラジアル構造になっている。
【0014】
簾織物6は所定の接着処理が施されてコートゴム層9と接合されている。この所定の接着処理は、繊維コード7とゴムとの接着性を向上させる公知の接着処理である。具体的には、繊維コード7にエポキシ処理液を付与して乾燥させた後に、レゾルシン・ホルマリン・ラテックス(RFL)混合液を付与して乾燥させる。この接着処理の条件(それぞれの液の付着量や乾燥温度など)は事前テストなどを行って、目標の接着力(実用上問題が生じない接着力)が得られる適切な範囲に設定する。
【0015】
図5に例示するように簾織物6は、多数の繊維コード7が並列して延在していて、これら繊維コード7を横断する横断コード8が、繊維コード7延在方向に間隔をあけて配置されている。繊維コード7の密度(打込み密度)は例えば30本/5cm以上70本/5cm以下程度である。
【0016】
それぞれの横断コード8は例えば、多数の繊維コード7の上下を縫って繊維コード7の延在方向と直交する方向に延在している。隣り合って配置されている横断コード8の密度(打込み密度)は繊維コード7の密度に比して非常に小さく、例えば2本/5cm以上8本/5cm以下程度である。
【0017】
それぞれの簾織物6としては、繊維コード7延在方向の引張強さFが4320N/cm以上で重量Wが950g/m2以下の仕様のものが使用される。この引張強さFはJIS L1096に規定されている引張り強さ試験(A法)に基づいて測定され、簾織物6の試験片(長さ300mm、幅50mm)の破断荷重を試験片の幅で除した値である。この試験では引張速度200mm/min、クランプ間隔200mmである。従来の簾織物の引張強さFは3000N/cm未満なので、この実施形態では引張強さFが大幅に高くなっている。簾織物6の引張強さFの上限は例えば5500N/cmであり、重量Wの下限は例えば700g/m2である。
【0018】
また、それぞれの簾織物6の上述した所定の接着処理後の曲げ硬さHは30g/cm以下、より好ましくは25g/cm以下、さらに好ましくは20g/cm以下にする。この曲げ硬さHの下限は例えば9g/cmである。本発明においてこの曲げ硬さHは、JIS L1096に規定されているガーレー曲げ試験法に準拠して測定される剛軟度である。具体的には、所定の接着処理後の簾織物6を所定幅で切り出した試験片を、繊維コード7の延在方向を長手方向にして測定した測定値X(mg/本)に繊維コード7の打込み密度(本/5cm)を乗じ、単位を(g/cm)にして曲げ硬さHを算出する。曲げ硬さHの算出式は下記のとおりである。
曲げ硬さH(g/cm)=測定値X(mg/本)×打込み密度(本/5cm)/5/1000
【0019】
図1に例示するように円筒部3aでは、それぞれの繊維コード7の延在方向が筒軸心CLにして傾斜していて所定のコード角度Aに設定されている。そして、補強層5どうしの繊維コード7が交差する方向に延在したバイアス構造になっている。この実施形態では、隣り合って積層されている補強層5どうしでは繊維コード7が交差する方向に延在している。詳述すると、隣り合うどうしの補強層5では繊維コード7のコード角度Aは実質的に同じであり、傾斜方向は逆方向に設定されている。そして、積層されている補強層5の1層おきどうしの補強層5では繊維コード7の角度Aは実質的に同じであり、傾斜方向も同じ方向に設定されている。したがって、内周側から1層目、3層目、5層目の補強層5の繊維コード7の傾斜方向は同じであり、内周側から2層目、4層目、6層目の補強層5の繊維コード7の傾斜方向は同じである。
【0020】
円筒部3aを膨張させていない中立状態では、それぞれの補強層5の繊維コード7のコード角度Aは25°以上45°以下に設定されている。より好ましくは、コード角度Aは30°以上35°以下に設定される。
【0021】
それぞれの半球状部3bでは、多数の繊維コード7が円筒部3aの筒軸心CLを中心にして放射状に延在するとともに、多数の繊維コード7が円筒部3aの筒軸心CLを中心にして同心円状に延在するラジアル構造になっている。
【0022】
繊維コード7としては、ポリエステルやナイロンなどの公知の繊維コードが用いられる。繊維コード7の外径(簾織物6の厚さh)は、円筒部3aを膨張させていない中立状態で例えば1mm以上1.5mm以下程度である。
【0023】
円筒部3aを膨張させていない中立状態とは、円筒部3aの繊維コード7に実質的にテンションが生じていない状態であり、本体2の内部に空気が注入されているが、その内圧が大気圧よりも若干高い程度(例えば、10kPa)である。そして、円筒部3aが円筒状の形態を保持するとともに半球状部3bが半球状の形態を保持している状態である。この中立状態での円筒部3aの外径は、例えば2m以上10m以下程度である。
【0024】
図6に例示するように繊維コード7は、複数本の素線7aを撚り合わせた撚りコードである。この実施形態では繊維コード7は、繊度が1670dtexの素線7aを複数本撚って形成されている。2本の素線7aを同一方向に下撚りし、次いで、これら下撚りした2本の素線7aの3組を合わせて逆方向に上撚りすることにより繊維コード7が構成されている。即ち、この繊維コード7は、1670/2/3構造であり、総繊度Dは10020(=1670×6本)dtexである。繊維コード7は、この構造に限定されず、簾織物6が上述した重量W、引張強さF、曲げ硬さHの仕様を満足していればよい。
【0025】
この繊維コード7は諸撚り構造なので片撚り構造に比べて、より良好な耐疲労性を得ることができる。下撚りと上撚りは、異なる撚り数にすることもできるが、安定性を得るために同数、或いは略同数とすることが好ましい。引張強度や柔軟性等を考慮して、繊維コード7の総繊度Dは10000dtex以上15000dtex以下程度であり、撚り合わせる素線7aは例えば4本以上8本以下程度である。
【0026】
下記(1)式で規定される撚り係数Kが1300以上2500以下程度になる上撚り数Tが好ましい。撚り係数Kが1300未満では十分な耐久性が確保し難くなり、2500超では十分な引張強度が確保し難くなる。具体的な上撚り数Tとしては例えば10以上20以下程度である。
撚り係数K=T×D1/2 ・・・(1)
T:繊維コード7の上撚り数(回/10cm)
D:繊維コード7の総繊度(dtex)
【0027】
尚、この実施形態では横断コード8は、繊維コード7と同じ仕様になっているが、異なる仕様にすることもできる。
【0028】
コートゴム層9は公知のゴムにより形成されていて、例えば天然ゴム、ブチルゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、或いは、これらを複数種類のブレンドしたゴムが使用される。隣り合って積層された補強層5どうしは対向するコートゴム層9を介して接合されている。最内周の補強層5と内層4とはその補強層5のコートゴム層9を介して接合されている。最外周の補強層5と外層10とはその補強層5のコートゴム層9を介して接合されている。
【0029】
それぞれのコートゴム層9の層厚tは、円筒部3aを膨張させていない中立状態で0.2mm以上1mm以下である。層厚tが0.2mm未満では十分な接合強度を確保し難くなる。層厚tが1mm超であると重量が過大になるとともに成型加工性が低下する。層厚tは、0.2mm以上0.6mm以下にすることがより好ましい。
【0030】
内層4を形成するゴムとしては、例えば天然ゴム、ブチルゴム、スチレンブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム等が用いられる。外層10を形成するゴムとしては、例えば天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、エチレンプロピレンゴム等が用いられる。円筒部3aを膨張させていない中立状態では、内層4の層厚は例えば2mm以上5mm以下程度、外層10の層厚は例えば3mm以上12mm以下程度である。
【0031】
次に、この防舷材1を製造する手順の一例を説明する。
【0032】
公知の成形モールドの内側に順次、外層10、補強層5、内層4となる部材を積層することで、図1図3に例示した防舷材1と同構造の成形体1Aを成形する。即ち、内層4と外層10との間に複数の補強層5を同軸上に積層した円筒状の成形体1Aを成形する。成形体1Aには防舷材1とは異なり、未加硫ゴムが存在している。
【0033】
次いで、図7に例示するように、成形した袋状の成形体1を公知の加硫函などの加硫装置14の内部に配置する。次いで、加硫装置14による所定時間の加硫工程を経ることで、成形体1Aを構成している未加硫ゴムを加硫して、成形体1Aの構成部材どうしを強固に接合して一体化する。その結果、図1図3に例示する防舷材1が製造される。
【0034】
成形体1Aを成形する際には、上述したように、それぞれの簾織物6として、繊維コード7延在方向の引張強さFが4320N/cm以上で、重量Wが950g/m2以下の仕様のものを使用する。さらに、上述した所定の接着処理後の簾織物6の曲げ硬さHを30g/cm以下にする。この曲げ硬さHは、例えば繊維コード7に対するRFL混合液の付着量を変化させることで調整できる。また、それぞれのコートゴム層9の層厚tを0.2mm以上1mm以下にする。この層厚tは加硫工程の前後でほとんど変化しない。
【0035】
この防舷材1では、それぞれの簾織物6として、繊維コード7延在方向の引張強さFが4320N/cm以上の仕様のものが使用されているので、円筒部3aに埋設される補強層5の積層数を低減しても防舷材1に作用する内圧に対して十分な耐圧性を確保し易くなる。即ち、同じ耐圧性を得るために従来の防舷材に比して、補強層5の積層数を減らすことができる。例えば従来、引張強さFが2500N/cmの簾織物6を使用していた場合は、同等の耐圧性を得るには引張強さFが5000N/cmの簾織物6を使用すると、補強層5の積層数を半分程度にすることも可能になる。成形体1Aの成形工程では、補強層5の積層数が多くなる程、作業工数が増大する。そのため、この実施形態によれば防舷材1の内圧に対する十分な耐圧性を確保しつつ生産性を向上するには非常に有利になる。
【0036】
また、それぞれの簾織物6の重量Wを950g/m2以下にして、かつ、所定の接着処理後の曲げ硬さHを30g/cm以下にすることで、成形体1Aの成形工程において、補強層5を移動、変形させる作業負担が軽減する。耐圧性を確保するために簾織物6の厚さh(繊維コード7の太さ)を大きくすることに起因して成型加工性が低下するが、重量Wおよび曲げ硬さHを上記の範囲にすることで、補強層5を所定位置に積層して円筒状に形成し易くなるので、成型加工性の低下を抑制できる。
【0037】
さらには、それぞれのコートゴム層9の層厚tを0.2mm以上1mm以下にすることで、重量の増加を抑えつつ十分な接合強度を確保し易くなる。層厚tが大きくなると、成形体1Aの成形工程では、補強層5どうし、補強層5と内層4、補強層5と外層10を万遍に十分に圧着することが困難になり、また、未加硫のコートゴム層9は変形し易くなる。これに伴い、成型加工性が低下するが、層厚tを上記の範囲にすることで、成型加工性の低下を抑制しつつ耐圧性を確保するには益々有利になる。
【0038】
この防舷材1は、保管、運搬、設置する時などの使用していない時は、内圧を例えば10kPa程度の低圧にして、図1に例示するように円筒部3aを膨張させていない中立状態にする。さらには、本体2の内部の空気を排出して折り畳んだ状態にする。
【0039】
防舷材1を設置場所に取付けて使用する場合は、図8に例示するように円筒部3aを膨張させて所定形状に維持する。具体的には、口金部11に設置されたバルブを通じて、本体2の内部に空気を充填して、防舷材1を使用する際の規定内圧Pに昇圧する。規定内圧Pは、例えば50kPa以上100kPa以下程度である。
【0040】
本体2の内部に空気を充填して規定内圧Pに到達する過程で、円筒部3aではそれぞれの補強層5はコード角度Aが安定な静止角程度(54°~55°)まで大きくなろうとする。ここで、繊維コード7が交差する方向に延在している補強層5(簾織物6)の間では、介在するコートゴム層9にせん断力が作用してせん断変形する。
【0041】
円筒部3aが中立状態においてコード角度Aが25°未満では、コード角度Aを静止角程度に大きくするにはコートゴム層9に過大なせん断応力が生じて好ましくないのでコード角度Aは25°以上、より好ましくは30°以上にする。このコード角度Aが45°超では、円筒部3aを中立状態から規定内圧Pに昇圧した際の円筒部3aの拡径具合が小さくなるので45°以下、より好ましくは35°以下にする。
【0042】
規定内圧Pに昇圧した際には円筒部3aの外径を中立状態に対して120%~150%程度にすることが可能になる。また、規定内圧Pに昇圧した際には本体2(円筒部3a)の軸方向長さは中立状態に対して95%~80%程度になる。
【0043】
コートゴム層9の層厚tが0.2mm未満では、円筒部3aが膨張する際にせん断力が作用するコートゴム層9に対する負荷が過大になる。また、コートゴム層9の層厚tが1mm以上では、防舷材1の重量が過大になる。それ故、それぞれのコートゴム層9の層厚tは0.2mm以上1mm以下にすることが好ましい。
【0044】
図9に例示する防舷材1では、積層されて隣り合う2層の補強層5どうしが1つのセットS(S1~S4)になっていて、複数のセットSを有している。この実施形態では、円筒部3aでは8層の補強層5が積層されていて、4セットSを有している。それぞれのセットSは、互いに異なる補強層5により構成されている。セットSの数は例えば3~6程度であり、複数にすることが好ましい。
【0045】
それぞれの補強層5の1つのセットS毎では、それぞれの補強層5の繊維コード7どうしは同じ方向に所定のコード角度Aで延在している。積層されて隣り合うセットSどうしでは、互いの補強層5の繊維コード7が交差する方向に所定のコード角度Aで延在している。即ち、セットS1とS2とでは互いの補強層5の繊維コード7が交差する方向に延在し、セットS2とS3とでは互いの補強層5の繊維コード7が交差する方向に延在し、セットS3とS4とでは互いの補強層5の繊維コード7が交差する方向に延在している。したがって、セットS1とS3とでは互いの補強層5の繊維コード7が平行に延在し、セットS2とS4とでは互いの補強層5の繊維コード7が平行に延在している。即ち、この円筒部3aは、セットSを単位として繊維コード7がバイアス構造になっている。この防舷材1を製造する際には、図9に例示した構造と同構造の成形体1Aを成形すればよい。
【0046】
この防舷材1では、本体2の内部に空気を充填して規定内圧Pに到達する過程で、円筒部3aでは、それぞれの補強層5の繊維コード7は、コード角度Aが安定な静止角程度(54°~55°)まで大きくなろうとする。ここで、それぞれの1つのセットSではそれぞれの補強層5の繊維コード7どうしは所定のコード角度Aで同じ方向に延在しているので、これら補強層5(簾織物6)の間に介在するコートゴム層9にはせん断力が実質的に作用しない。
【0047】
一方、円筒部3aで積層されて隣り合うセットSどうしの補強層5の繊維コード7は交差する方向に延在しているので、セットSどうしの間に介在するコートゴム層9にはせん断力が作用してせん断変形する。このようにして、円筒部3aを中立状態から規定内圧Pに昇圧した際には、円筒部3aではそれぞれの補強層5の繊維コード7のコード角度Aが安定な静止角程度(54°~55°)まで大きくなって円筒部3aは膨張し、所定形状に維持される。
【0048】
即ち、円筒部3aが膨張する際には、積層されて隣り合うセットSどうしの間に介在するコートゴム層9にだけに実質的にせん断力が作用する。そのため、すべてのコートゴム層9にせん断力が作用する場合に比して、円筒部3aを膨張させる際の抵抗が小さくなり、円筒部3aを円滑に膨張させるには有利になる。
【0049】
ゴム製品の実施形態は防舷材1に限定されず、図10図11に例示するようにマリンホース12の場合もある。マリンホース12は、長手方向両端部にフランジ部13を有し、それぞれのフランジ部13の間に円筒部3aが延在している。円筒部3aでは、内層4と外層10との間に複数の補強層5が同軸上に積層して埋設されている。それぞれの補強層5の仕様は、先の実施形態と同様である。マリンホース12では、内層4の内周側領域が流路12aになる。フローティングタイプのマリンホース12では、外層10と補強層5との間に浮力層が設けられる。
【0050】
このマリンホース12は、上述した部材を使用して公知の方法で円筒状の成形体を成形し、その成形体を公知の方法で加硫して製造することができる。このマリンホース12においても、防舷材1の実施形態と同様、円筒部3aに埋設される補強層5の積層数を低減しても内圧に対して十分な耐圧性を確保し易くなり、マリンホース12の生産性向上には有利になる。また、マリンホース12を製造する際の成型加工性の低下を抑制するには有利になる。
【実施例0051】
表1に示すように、仕様を異ならせた8種類の簾織物(従来例、実施例1~5、比較例1~3)を用意して、上述した所定の接着処理を施した後、簾織物の両表面をコートゴム層により被覆して補強層を製造した。尚、それぞれの繊維コード7は上撚り数Tと同数の下撚りをした諸撚り構造である。それぞれの簾織物については繊維コード7延在方向の引張強さFを測定し、所定の接着処理後のそれぞれの簾織物については曲げ硬さHを測定した。また、製造したそれぞれの補強層については同条件で加硫して作成した試験片を用いて、下記のとおり耐疲労性を評価した。それぞれの測定結果、評価結果を表1に示すとおりである。
【0052】
【表1】
【0053】
[耐疲労性]
JIS L1017(2002)付属書1の2.2.2に規定されているディスク疲労強さ(グッドリッチ法)により評価した。加硫した補強層から作製した試験片を用いて、歪±10%、2400rpmの回転数で24時間、室温で回転させる疲労試験を行った。疲労試験後に試験片から繊維コードを取り出して引張強さを測定し、疲労試験前の引張強さに対する保持率を算出した。この保持率の値が高いほど耐疲労性に優れていることを意味する。
【0054】
表1の耐圧性は、引張強さFが4100N/cm未満では補強層1層当たりで十分な耐圧性を確保することが難しいと評価して×で示し、4100N/cm以上では補強層1層当たりで十分な耐圧性を確保することができると評価して〇で示している。また、表1の成形加工性は、所定幅の未加硫の補強層を所定外径の成形ドラムに貼付ける作業を行ない、貼付け易さと貼付け後のコートゴム層の変形具合を評価している。非常に円滑に貼付け作業ができコートゴム層の変形も少ない場合を成型加工性が優れていると評価して◎で示した。概ね問題なく貼付け作業ができコートゴム層の変形も実用上問題ないレベルの場合を成型加工性が概ね良好と評価として〇で示した。貼付け作業とコートゴム層の変形の少なくとも一方が実用上問題があるレベルの場合を成形加工性が不良と評価して×で示している。即ち、成型加工性が優れている序列は◎、〇、×である。
【0055】
表1の結果から、実施例1~5に該当する補強層は優れた耐圧性を有するとともに、成形加工性も良好であることが分かる。また、実施例1~5に該当する補強層では、耐疲労性が従来例と同等または同等以上であり、良好な耐疲労性を有していることが分かる。
【符号の説明】
【0056】
1 空気式防舷材
1A 成形体
2 本体
3a 円筒部
3b 半球状部
4 内層
5 補強層
6 簾織物
7 繊維コード
7a 素線
8 横断コード
9 コートゴム層
10 外層
11 口金部
12 マリンホース
12a 流路
13 フランジ部
14 加硫装置
A コード角度
S(S1、S2、S3、S4) 補強層のセット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11