(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027696
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】電気化学セル及びセルスタック
(51)【国際特許分類】
C25B 9/23 20210101AFI20240222BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20240222BHJP
C25B 1/23 20210101ALI20240222BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20240222BHJP
C25B 9/63 20210101ALI20240222BHJP
C25B 11/02 20210101ALI20240222BHJP
C25B 11/052 20210101ALI20240222BHJP
C25B 11/065 20210101ALI20240222BHJP
C25B 11/061 20210101ALI20240222BHJP
C25B 11/069 20210101ALI20240222BHJP
【FI】
C25B9/23
C25B1/04
C25B1/23
C25B9/00 A
C25B9/63
C25B11/02 301
C25B11/052
C25B11/065
C25B11/061
C25B11/069
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022130705
(22)【出願日】2022-08-18
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、環境省・二酸化炭素の資源化を通じた炭素循環社会モデル構築促進事業委託業務(人工光合成技術を用いた電解による地域のCO2資源化検討事業) 産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100150717
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 和也
(74)【代理人】
【識別番号】100164688
【弁理士】
【氏名又は名称】金川 良樹
(72)【発明者】
【氏名】菊池 勇
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4K011AA16
4K011AA31
4K011AA33
4K011BA07
4K011DA01
4K021AA01
4K021AB25
4K021BA02
4K021DB18
4K021DB53
(57)【要約】
【課題】アノード電極板とカソード電極板との短絡を低減できる電気化学セルを提供する。
【解決手段】一実施の形態によれば、電気化学セル1は、隔膜11と、隔膜11の一方の面に接するアノード電極板12と、隔膜11の他方の面に接し、アノード電極板12よりも機械的強度の小さいカソード電極板13と、を備える。そして、アノード電極板12の外周縁12cは、カソード電極板13の外周縁13cよりも外側に位置する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
隔膜と、
前記隔膜の一方の面に接する第1の電極板と、
前記隔膜の他方の面に接し、前記第1の電極板よりも機械的強度の小さい第2の電極板と、を備え、
前記第1の電極板の外周縁は、前記第2の電極板の外周縁よりも外側に位置する、電気化学セル。
【請求項2】
前記第2の電極板の前記外周縁の外側に配置され、前記第1の電極板における前記第2の電極板の前記外周縁よりも外側に位置する部分に対面する支持部を含む電極板外枠をさらに備える、請求項1に電気化学セル。
【請求項3】
前記電極板外枠は、前記第1の電極板の前記外周縁の外側に配置される第1電極用外枠部材と、前記第2の電極板の前記外周縁の外側に配置されて且つ前記第1電極用外枠部材と対面し、前記支持部を含む第2電極用外枠部材と、を備える、請求項2に記載の電気化学セル。
【請求項4】
前記隔膜の外周縁は、前記第1の電極板の前記外周縁よりも外側に位置し、
前記隔膜における前記第1の電極板の前記外周縁よりも外側に位置する部分は、前記第1電極用外枠部材と前記第2電極用外枠部材とに挟み込まれる、請求項3に記載の電気化学セル。
【請求項5】
前記第1電極用外枠部材と前記第2電極用外枠部材は、前記隔膜における前記第1の電極板の前記外周縁よりも外側に位置する部分を接着層を介して挟み込む、請求項4に記載の電気化学セル。
【請求項6】
前記接着層は、前記第1電極用外枠部材と前記第2電極用外枠部材とを接合しており、前記隔膜における前記第1の電極板の前記外周縁よりも外側に位置する部分は、前記第1電極用外枠部材と前記第2電極用外枠部材との間で前記接着層の内部に入り込んでいる、請求項5に記載の電気化学セル。
【請求項7】
前記第1の電極板は、金属のメッシュ材、金属のパンチング材、金属の多孔体、及び金属繊維焼結体からなる群より選ばれる少なくとも1つを有する基材を含む、請求項1乃至6のいずれかに記載の電気化学セル。
【請求項8】
前記第2の電極板は、炭素材料を有する基材を含む、請求項1乃至6のいずれかに記載の電気化学セル。
【請求項9】
前記第2の電極板の前記基材は、カーボンペーパ、カーボンクロス、及びカーボン粉と樹脂材料との焼成体からなる群より選ばれる少なくとも1つを有する、請求項8に記載の電気化学セル。
【請求項10】
請求項1に記載の複数の電気化学セルと、
複数の流路板と、を備え、
前記電気化学セルと前記流路板とを交互に積層する、セルスタック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施の形態は、電気化学セル及びセルスタックに関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学セルは、例えば、電解質膜などの隔膜と、隔膜を挟んで配置されるアノード電極板及びカソード電極板とを備える。このような電気化学セルでは、アノード電極板及びカソード電極板のうちの少なくとも一方に、液体、又は気体、又は液体と気体の混合体からなる流体が供給されるとともに、アノード電極板とカソード電極板との間に外部から電位差が負荷され、電流が流される。これにより、イオン化した物質が隔膜を通過し、電気化学反応が発生する。
【0003】
上記電気化学セルは、アノード電極板側に水(H2O)を供給することでカソード電極板側から水素(H2)を取り出す水電解に用いられることがある。また、上記電気化学セルは、アノード電極板側に微量の電解質を含んだ水(H2O)を供給し且つカソード電極板側に二酸化炭素(CO2)を供給することでカソード電極板側から一酸化炭素(CO)を取り出す二酸化炭素電解に用いられることもある。
【0004】
このような電気化学セルにおいてアノード電極板側に流体(以下、アノード流体)を供給し且つカソード電極板側に流体(以下、カソード流体)を供給する場合には、通常、アノード流体及びカソード流体を通流させるための流路を形成する流路板が用いられる。
【0005】
流路板には、一方の面にアノード流体の流路を形成するための流路形成部分を有し、他方の面にカソード流体の流路を形成するための流路形成部分を有するものがある。この流路板は、一方の面でアノード電極板に接することでアノード電極板との間にアノード流体の流路を形成し、他方の面でカソード電極板に接することでカソード電極板との間にカソード流体の流路を形成する。このような流路板は、複数の電気化学セルとともにセルスタックを作製する場合に用いられることがある。
【0006】
セルスタックは、隔膜、アノード電極板及びカソード電極板からなる電極板ユニットと、上述したような流路板とを交互に積層することで作製され得る。このようなセルスタックでは、通常、複数の電極板ユニットと複数の流路板とを含む積層体を積層方向の両端部から締め付けることにより、複数の電極板ユニットと複数の流路板とが固定される。このような締め付けを行った場合には、隣り合う電極板ユニットと流路板とが互いに近接する方向に締め付けられる。また、電極板ユニット内では、アノード電極板とカソード電極板とを互いに近接させる力が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のような電気化学セルでは、アノード電極板の材質がカソード電極板の材質と同じでもよい。また、アノード電極板の材質がカソード電極板の材質と異なってもよい。アノード電極板の材質とカソード電極板の材質とを異ならせる場合、アノード電極板は、例えばチタン(Ti)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)等のメッシュ材、パンチング材、多孔体や、金属繊維焼結体等の多孔構造を有する部材で構成されてもよい。また、カソード電極板は、例えばカーボンペーパやカーボンクロス等の多孔構造を有するカーボン基材で構成されてもよい。
【0009】
ところで、例えばセルスタックを作製する際の上述したような締め付けによりアノード電極板とカソード電極板とを互いに近接させる力が生じる場合、アノード電極板の材質とカソード電極板の材質とが異なると、アノード電極板及びカソード電極板のうちの機械的強度が高い方の電極板、特にその外周部分が、機械的強度の低い方の電極板よりも隔膜を貫通しやすくなる。例えばアノード電極板が金属のメッシュ材で構成され、カソード電極板がカーボンペーパで構成される場合、アノード電極板がカソード電極板よりも隔膜を貫通しやすくなる。そして、アノード電極板及びカソード電極板のうちのいずれか又は両方が隔膜を貫通した場合には、アノード電極板とカソード電極板との短絡が生じ得る。
【0010】
アノード電極板及びカソード電極板の両方が機械的強度の小さいカーボンペーパ等で構成される場合には、これまで電極板の隔膜の貫通は大きな問題にならなかった。しかしながら、アノード電極板及びカソード電極板の材質などを互いに異ならせる場合には、上述したような一方の電極板が隔膜を貫通しやすくなるといった状況が生じ得る。したがって、電極板の隔膜の貫通による短絡を抑制するための対策を講じることが望ましい。
【0011】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、アノード電極板とカソード電極板との短絡を低減できる電気化学セル及びセルスタックを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一実施の形態に係る電気化学セルは、隔膜と、前記隔膜の一方の面に接する第1の電極板と、前記隔膜の他方の面に接し、前記第1の電極板よりも機械的強度の小さい第2の電極板と、を備えている。前記第1の電極板の外周縁は、前記第2の電極板の外周縁よりも外側に位置している。
【0013】
また、一実施の形態に係るセルスタックは、前記の複数の電気化学セルと、複数の流路板と、を備え、前記電気化学セルと前記流路板とを交互に積層する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、アノード電極板とカソード電極板との短絡を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】一実施の形態に係る電気化学セルの平面図である。
【
図3】
図1の電気化学セルを構成する電極板の断面図である。
【
図4】
図1の電気化学セルを備えるセルスタックの断面図である。
【
図5】(A)及び(B)は、
図1の電気化学セルの変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付の図面を参照しつつ一実施の形態に係る電気化学セル1を詳細に説明する。なお、本明細書で言う「板」という用語は、呼称の違いのみに基づいて、シートやフィルム、箔等と呼ばれる部材から区別されるものではない。
【0017】
<電気化学セル>
図1は、一実施の形態に係る電気化学セル1の平面図である。
図2は、板状をなす
図1の電気化学セル1を厚さ方向に切断した際の断面図である。
図1及び
図2に示す電気化学セル1は、電極板ユニット10と、電極板外枠20と、を備えている。電極板外枠20は、電極板ユニット10の周囲を囲むように配置されて電極板ユニット10と一体化されている。
【0018】
電極板ユニット10は、隔膜11と、隔膜11の一方の面に接するアノード電極板12と、隔膜11の他方の面に接するカソード電極板13と、を備える。隔膜11、アノード電極板12及びカソード電極板13は、それぞれの厚さ方向を平行にした状態で積層される。上記隔膜11の一方の面及び他方の面とは、隔膜11の厚さ方向における一方の面及び当該一方の面の反対の他方の面を意味する。本実施の形態においてアノード電極板12は第1の電極板に対応し、カソード電極板13は第2の電極板に対応する。
【0019】
隔膜11は、固定高分子膜(イオン交換膜)や固定電解質膜(電解質膜)などのイオン濾過膜である。アノード電極板12は、例えば電気化学セル1を用いて水電解を行う場合、アノード流体としての水(H2O)を供給される。この際、水素(H2)がカソード電極板13側から取り出される。
【0020】
アノード電極板12は、一例として、金属の基材(以下、アノード基材)と、アノード基材に付着又は含有されたアノード触媒材料と、を含む。アノード基材は、アノード流体を供給された際に、アノード流体やイオンを移動させることが可能な構造を有する。アノード基材は、例えば金属のメッシュ材、金属のパンチング材、金属の多孔体、及び金属繊維焼結体からなる群より選ばれる少なくとも1つを有するものでもよい。アノード基材を構成し得る金属のメッシュ材、パンチング材、及び多孔体や、金属繊維焼結体は、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)等の金属やこれら金属を少なくとも1つ含む合金(例えばSUS)等の金属材料で構成されてもよい。
【0021】
アノード触媒材料は、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)等の金属、それらの金属を含む合金や金属間化合物、酸化マンガン(Mn-O)、酸化イリジウム(Ir-O)、酸化ニッケル(Ni-O)、酸化コバルト(Co-O )、酸化鉄(Fe-O)、酸化スズ(Sn-O)、酸化インジウム(In-O)、酸化ルテニウム(Ru-O)、酸化リチウム(Li-O)、酸化ランタン(La-O)等の二元系金属酸化物、Ni-Co-O、Ni-Fe-O、La-Co-O、Ni-La-O、Sr-Fe-O等の三元系金属酸化物、Pb-Ru-Ir-O、La-Sr-Co-O等の四元系金属酸化物、Ru錯体やFe錯体等の金属錯体などでもよい。また、アノード触媒材料は、ナノ粒子、ナノ構造体、ナノワイヤなどでもよい。ナノ構造体とは、触媒材料の表面にナノスケールの凹凸を形成した構造体である。
【0022】
カソード電極板13は、一例として、炭素材料を有する基材(以下、カソード基材)と、カソード基材の表面に形成されたカソード触媒材料と、を含む。カソード基材は、カーボンペーパ、カーボンクロス、及びカーボン粉と樹脂材料の焼成体からなる群より選ばれる少なくとも1つを有してもよい。
【0023】
カソード触媒材料は、例えばカソード基材の表面に形成される膜の形態で設けられ、この場合、隔膜11と接触する。カソード触媒材料は、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、チタン(Ti)、カドミウム(Cd)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、鉛(Pb)、錫(Sn)等の金属、または、それらの金属を少なくとも1つ含む合金や金属間化合物等の金属材料、炭素(C)、グラフェン、CNT(カーボンナノチューブ)、フラーレン、ケッチェンブラック等の炭素材料、Ru錯体やRe錯体等の金属錯体などでもよい。
【0024】
本実施の形態では、カソード電極板13の機械的強度がアノード電極板12の機械的強度よりも小さい。具体的に本実施の形態では、アノード電極板12のアノード基材がチタンの金属繊維焼結体を有し、カソード電極板13のカソード基材はカーボンペーパでなり、薄いシートとなる。その結果、カソード電極板13の機械的強度は、アノード電極板12の機械的強度よりも小さくなっている。より詳しくは、本実施の形態ではカソード電極板13の少なくともビッカーズ硬さが、アノード電極板12のビッカーズ硬さよりも小さい。
【0025】
詳細は後述するが、電気化学セル1は例えば流路板111(
図4参照)と交互に積層されることでセルスタック100を構成する。この場合、複数の電気化学セル1と複数の流路板111とを含む積層体は、積層方向の両側から締め付けられることで固定される。このような締め付けの際に、アノード電極板12及びカソード電極板13はそれぞれの特に外周部分で、互いに近接する方向における大きい締め付け力を受ける。このとき、上述したようにカソード電極板13の機械的強度がアノード電極板12の機械的強度よりも小さい場合には、アノード電極板12が隔膜11を貫通してカソード電極板13に接触しやすくなる。
【0026】
また、本実施の形態では特にアノード電極板12が金属を含み、その外周部分に比較的硬く且つ鋭いバリが生じる場合があり、表面が粗くなることがある。これに起因して、アノード電極板12の外周部分が隔膜11をより貫通しやすくなることがある。さらには、締め付け部材の反りの影響で、アノード電極板12の中央側よりも外周部分のほうに応力が集中しやすく、その結果、アノード電極板12の外周部分が隔膜11をより貫通しやくなる。
【0027】
そこで、電気化学セル1は、
図2に示すようにアノード電極板12の外周縁12cがカソード電極板13の外周縁13cよりも外側に位置するように構成される。これにより、仮にアノード電極板12の外周部分が隔膜11を貫通したとしても、アノード電極板12とカソード電極板13との短絡が低減され得る。
【0028】
詳しくは、アノード電極板12及びカソード電極板13はそれぞれ、
図1に示すように平面視で、換言すると厚さ方向に見た場合に矩形状である。そして、アノード電極板12とカソード電極板13とは辺の向きを揃えられ、アノード電極板12は、カソード電極板13の全体を包含する状態でカソード電極板13と重なっている。すなわち、アノード電極板12の外周縁12cは、その全域でカソード電極板13の外周縁13cよりも外側に位置している。これにより、本実施の形態における電気化学セル1は、アノード電極板12の外周部分が広範囲又は全体的に隔膜11を貫通したとしても、アノード電極板12とカソード電極板13との短絡が低減され得るようになっている。ただし、アノード電極板12の外周縁12cが部分的にカソード電極板13の外周縁13cよりも外側に位置するような構成が採用されてもよい。
【0029】
また、本実施の形態では隔膜11がアノード電極板12よりも大きく、隔膜11の外周縁11cがアノード電極板12の外周縁12cよりも外側に位置している。詳しくは、隔膜11は、
図1に示すように平面視で、換言すると厚さ方向に見た場合に矩形状であり、アノード電極板12及びカソード電極板13と辺の向きを揃えられて重ねられた際、アノード電極板12及びカソード電極板13の全体を包含するようになっている。これにより、隔膜11の外周縁11cは、その全域でアノード電極板12の外周縁12cよりも外側に位置している。
【0030】
ここで、本実施の形態では隔膜11におけるアノード電極板12の外周縁12cよりも外側に位置する部分(外周部分)が電極板外枠20に覆われている。詳しくは、電極板外枠20は、隔膜11の外周部分を厚さ方向の両側から覆い、且つ保持している。
【0031】
より詳しくは、電極板外枠20は、アノード電極板12の外周縁12cの外側に配置されるアノード用外枠部材21と、カソード電極板13の外周縁13cの外側に配置され且つアノード用外枠部材21と対面するカソード用外枠部材22と、を有する。そして、これらアノード用外枠部材21とカソード用外枠部材22とに隔膜11の外周部分が挟み込まれて、保持されている。ここで、本実施の形態におけるアノード用外枠部材21は第1電極用外枠部材に対応する部材であり、カソード用外枠部材22は第2電極用外枠部材に対応する部材である。
【0032】
アノード用外枠部材21は矩形の開口を有する板材である。そして、アノード用外枠部材21は、その開口の内側にアノード電極板12を嵌め込むようにして収容する。カソード用外枠部材22も矩形の開口を有する板状である。そして、カソード用外枠部材22も、その開口の内側にカソード電極板13を嵌め込むようにして収容する。ここで、カソード用外枠部材22は、アノード電極板12におけるカソード電極板13の外周縁13cよりも外側に位置する部分に対面する支持部22Sを含んでいる。
【0033】
カソード用外枠部材22の開口はアノード用外枠部材21の開口よりも一回り小さく、カソード用外枠部材22とアノード用外枠部材21とが対面するように配置された際、カソード用外枠部材22の開口の周縁部分は、アノード用外枠部材21の開口から露出する。この露出部分に、上述の支持部22Sが形成されている。支持部22Sは、アノード電極板12が隔膜11に押し付けられた際、隔膜11の外周部分を介してアノード電極板12を支持する部分である。
【0034】
また、本実施の形態におけるアノード用外枠部材21及びカソード用外枠部材22は、隔膜11の外周部分を接着層24を介して挟み込む。接着層24は絶縁性を有する。接着層24は、有機系でも、無機系でもよい。接着層24は、接着剤を硬化してなるものでもよいし、揮発型の接着剤からなるものでもよいし、接着テープ等の感圧性接着剤からなるものでもよい。
【0035】
接着層24はアノード用外枠部材21とカソード用外枠部材22との間に介在し、アノード用外枠部材21とカソード用外枠部材22とを接合している。隔膜11の外周部分は、アノード用外枠部材21とカソード用外枠部材22との間で接着層24の内部に入り込んでいる。これにより、アノード用外枠部材21及びカソード用外枠部材22が隔膜11の外周部分を接着層24を介して挟み込む状態が形成される。接着層24の厚みは特に限られないが、隔膜11の厚さよりも大きい。
【0036】
電気化学セル1を組み立てる際には、例えば、アノード用外枠部材21にアノード電極板12が組み込まれ、アノード用外枠部材21におけるカソード用外枠部材22と対面する面に接着剤が塗布される。また、カソード用外枠部材22にカソード電極板13が組み込まれ、カソード用外枠部材22におけるアノード用外枠部材21と対面する面に接着剤が塗布される。そして、例えばカソード電極板13と、カソード用外枠部材22上の接着剤とに跨がるように隔膜11が重ねられる。その後、カソード用外枠部材22上の接着剤にアノード用外枠部材21上の接着剤が接し且つ隔膜11にアノード電極板12が接するように、アノード用外枠部材21及びアノード電極板12と、カソード用外枠部材22及びカソード電極板13とが重ねられる。これにより、隔膜11の一部は接着層24の内部に入り込む状態になる。
【0037】
また、
図1に示すように電極板外枠20には、アノード流体入口連通孔26Aと、アノード流体出口連通孔26Bと、カソード流体入口連通孔27Aと、カソード流体出口連通孔27Bと、が設けられる。アノード流体入口連通孔26Aは、アノード電極板12上に供給するアノード流体を通過させる孔である。アノード流体出口連通孔26Bは、アノード電極板12から流出するアノード流体を通過させる孔である。カソード流体入口連通孔27Aは、カソード電極板13上に供給するカソード流体を通過させる孔である。カソード流体出口連通孔27Bは、カソード電極板13から流出するカソード流体を通過させる孔である。
【0038】
電極板外枠20は、フッ素樹脂、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などの樹脂材料で構成されてもよい。電極板外枠20は、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)などのゴム材料などの電気絶縁性の材料から構成されてもよい。電極板外枠20は、導電性の基材の表面の流体に接する範囲に電気絶縁性の材料を設置して構成されてもよい。
【0039】
<セルスタック>
以下、電気化学セル1を備えるセルスタック100の一例について説明する。
図4に示すセルスタック100は、複数の電気化学セル1と、複数の流路板組込体110と、第1締付板121と、第2締付板122と、を備える。
【0040】
流路板組込体110は、流路板111と、流路板111の外周縁を囲む状態で流路板111と一体化される流路板外枠112と、を含む。流路板組込体110は、流路板111が電極板ユニット10に重なるとともに流路板外枠112が電極板外枠20に重なるように配置される。流路板111は図示の例では波形であり、一方の面(
図4の下面)にアノード流路用溝111aを有し、他方の面(
図4の上面)にカソード流路用溝111cを有する。流路板111は、アノード流路用溝111aでアノード電極板12と接した際に、アノード電極板12とともにアノード流体流路を形成する。流路板111は、カソード流路用溝111cでカソード電極板13と接した際に、カソード電極板13とともにカソード流体流路を形成する。
【0041】
セルスタック100では、複数の電気化学セル1と複数の流路板組込体110とが交互に積層される。これにより、複数の電気化学セル1と、詳しくはその電極板ユニット10と、複数の流路板111とが交互に積層される状態が形成される。このような積層状態において、図示の例では、電極板ユニット10の外周部が、電極板ユニット10に対して厚さ方向の両側に配置される流路板組込体110における流路板外枠112のそれぞれと重なる。2つの流路板外枠112に挟まれるようにして重なる電極板ユニット10の外周部には、隔膜11の外周部分、アノード電極板12の外周部分及びカソード電極板13の外周部分が含まれる。ただし、電極板ユニット10の外周部の一部又は全部は厚み方向で流路板外枠112と重ならなくてもよい。
【0042】
また、第1締付板121は、電気化学セル1と流路板組込体110とを含む積層体の積層方向における一方の端に位置する流路板組込体110に第1集電板131を介して接するように配置されている。第2締付板122は、上記積層方向における他方の端に位置する流路板組込体110に第2集電板132を介して接するように配置されている。そして、第1締付板121と第2締付板122は、締結部材123によって互いに近接する方向に締め付けられる。これにより、積層された電気化学セル1と流路板組込体110とが固定される。本実施の形態では、2つの流路板外枠112に挟まれるようにして重なる電極板ユニット10の外周部に、隔膜11の外周部分、アノード電極板12の外周部分及びカソード電極板13の外周部分が含まれる。したがって、上記締め付けが行われた場合、アノード電極板12の外周部分とカソード電極板13の外周部分とを近接させる力は、主として流路板外枠112から伝わる。
【0043】
図示しないが、流路板外枠112には、アノード流体入口連通孔26A及びアノード流体出口連通孔26Bと、流路板111におけるアノード流路用溝111aとを接続する流路が形成されている。また、流路板外枠112には、カソード流体入口連通孔27A及びカソード流体出口連通孔27Bと、流路板111におけるカソード流路用溝111cとを接続する流路が形成されている。
【0044】
流路板111は、カーボン、カーボンと樹脂の混合物、金属などの導電性の材料、又は、導電性の材料の表面に導電性のメッキやコーティングを付加した材料で構成されてもよい。メッキやコーティングは、腐食電位を高くしたり、接触抵抗を低減したりする目的で不可される。
【0045】
流路板外枠112は、フッ素樹脂、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などの樹脂材料で構成されてもよい。また、流路板外枠112は、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)などのゴム材料などの電気絶縁性の材料から構成されてもよい。また、流路板外枠112は、導電性の基材の表面の流体に接する範囲に電気絶縁性の材料を設置して構成されてもよい。
【0046】
本実施の形態に係る電気化学セル1は、上述したように、隔膜11と、隔膜11の一方の面に接するアノード電極板12と、隔膜11の他方の面に接し、アノード電極板12よりも機械的強度の小さいカソード電極板13と、を備えている。そして、アノード電極板12の外周縁12cは、カソード電極板13の外周縁13cよりも外側に位置する。これにより、アノード電極板12とカソード電極板13との短絡を低減できる。
【0047】
すなわち、例えば上述したようにセルスタック100に電気化学セル1が組み込まれる際、隣り合う流路板111と電極板ユニット10は互いに近接する方向に締め付けられる状態で固定される。このような締め付けでは、アノード電極板12とカソード電極板13とを互いに近接させる力が生じる。そして、このような力が生じる場合、アノード電極板12の材質とカソード電極板13の材質とが異なると、アノード電極板12及びカソード電極板13のうちの機械的強度が高い方の電極板(本実施の形態では、アノード電極いた12)の外周部分が隔膜11を貫通しやすくなる。そのため、アノード電極板12とカソード電極板13とが短絡するリスクが高まる。ここで、本実施の形態ではアノード電極板12の外周縁12cがカソード電極板13の外周縁13cよりも外側に位置する。これにより、仮にアノード電極板12の外周部分が隔膜11を貫通したとしても、貫通した先にはカソード電極板13が無いため、アノード電極板12とカソード電極板13との接触が回避され得る。したがって、アノード電極板12とカソード電極板13との短絡を低減できる。
【0048】
<変形例>
次に、上述の実施の形態の変形例について
図5を参照しつつ説明する。上述の実施の形態では、アノード用外枠部材21とカソード用外枠部材22は、隔膜11におけるアノード電極板12の外周縁12cよりも外側に位置する部分を接着層24を介して挟み込む。
図5に示す変形例では、隔膜11と電極板外枠20との間に接着層24が介在しない。
【0049】
まず、
図5(A)では電極板外枠20が2部材に分離されていない。一方で、電極板外枠20には、アノード電極用開口20aと、アノード電極用開口20aよりも小さいカソード電極用開口20cとが形成されている。そして、電極板外枠20には、アノード電極用開口20aとカソード電極用開口20cとの間に段差部20Sが形成される。そして、段差部20Sは支持部22Sを形成する。そして、段差部20Sに、隔膜11とアノード電極板12とがこの順で重ねられている。このような構成でも、仮にアノード電極板12の外周部分が隔膜11を貫通したとしても、貫通した先にはカソード電極板13が無いため、アノード電極板12とカソード電極板13との接触が回避され得る。したがって、アノード電極板12とカソード電極板13との短絡を低減できる。
【0050】
また、
図5(B)では、電極板外枠20がアノード用外枠部材21とカソード用外枠部材22とを備えるが、アノード用外枠部材21及びカソード用外枠部材22と、隔膜11との間に接着層24が設けられていない。このような構成でも、アノード電極板12とカソード電極板13との短絡を低減できる。
【0051】
以上、一実施の形態を説明したが、上記実施の形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施の形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上述の実施の形態及びその他の変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0052】
例えば、上述の実施の形態では流路板111の外周に流路板外枠112が設けられるが、流路板外枠112がなく、流路板111の外周部分が電極板外枠20に重なる構成でもよい。
【0053】
また、上述の実施の形態では、アノード電極板12のアノード基材がチタンの金属繊維焼結体を有し、カソード電極板13のカソード基材がカーボンペーパでなることで、カソード電極板13の機械的強度がアノード電極板12の機械的強度よりも小さくなる例を説明した。ただし、このような材質の組合せは特に限られるものではない。また、アノード電極板12の機械的強度がカソード電極板13の機械的強度よりも小さくてもよい。
【0054】
また、例えばアノード電極板12の厚さがカソード電極板13の厚さよりも大きいことで、アノード電極板12の機械的強度がカソード電極板13の機械的強度よりも大きくなってもよい。この場合、アノード電極板12の材質とカソード電極板13の材質は同じであってもよいし、異なってもよい。例えばアノード電極板12が厚さ1mmの白金板(Pt)で構成され、カソード電極板13が厚さ0.1mmの白金箔で構成される場合、アノード電極板12がカソード電極板13よりも隔膜11を貫通しやすくなる。この場合、アノード電極板12の外周縁12cをカソード電極板13の外周縁13cの外側に位置させることで、短絡を抑制することが可能となる。以上の観点から、アノード電極板12及びカソード電極板13のうちの例えば機械的強度として曲げ剛性が大きい方の電極板の外周縁を曲げ剛性を小さい方の電極板の外周縁よりも外側に位置させることは、短絡の低減において有効と言える。
【符号の説明】
【0055】
1…電気化学セル、10…電極板ユニット、11…隔膜、11c…外周縁、12…アノード電極板、12c…外周縁、13…カソード電極板、13c…外周縁、20…電極板外枠、20a…アノード電極用開口、20c…カソード電極用開口、21…アノード用外枠部材、22…カソード用外枠部材、22S…支持部、24…接着層、26A…アノード流体入口連通孔、26B…アノード流体出口連通孔、27A…カソード流体入口連通孔、27B…カソード流体出口連通孔、100…セルスタック、110…流路板組込体、111…流路板、111a…アノード流路用溝、111c…カソード流路用溝、112…流路板外枠、121…第1締付板、122…第2締付板