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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002770
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】建築用パネル
(51)【国際特許分類】
   E04C 2/04 20060101AFI20231228BHJP
【FI】
E04C2/04 D
E04C2/04 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022102171
(22)【出願日】2022-06-24
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】598037569
【氏名又は名称】會澤高圧コンクリート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 敦
(74)【代理人】
【識別番号】100195453
【弁理士】
【氏名又は名称】福士 智恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100205501
【弁理士】
【氏名又は名称】角渕 由英
(72)【発明者】
【氏名】小濱 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】青木 涼
【テーマコード(参考)】
2E162
【Fターム(参考)】
2E162AA02
2E162CA11
2E162CE08
2E162EA11
(57)【要約】
【課題】プレストレスが付加されたコンクリート製パネルにおいて、仕上げ面材の反りを抑制することが可能な建築用パネルを提供する。
【解決手段】建築用パネル1(外壁パネル)は、プレストレスが付加されたコンクリート製パネルである。建築用パネル1は、コンクリートの内部にコンクリートの長尺方向及び短尺方向の一方向に沿って埋設された緊張材11を有し、緊張材11によってプレストレスが付加されたコンクリート板10と、コンクリート板の表面に固定される仕上げ面材20と、を備えている。緊張材11は、コンクリートの内部においてコンクリートの厚さ方向及び上記一方向とは直交する方向に間隔を空けて並ぶように複数配置されている。また、複数の緊張材11は、それぞれコンクリート板10の厚さ方向においてコンクリート板の裏面側よりも仕上げ面材20側に寄らせた位置に配置されている。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレストレスが付加されたコンクリート製の建築用パネルであって、
コンクリートの内部に前記コンクリートの長尺方向及び短尺方向の一方向に沿って埋設された緊張材を有し、前記緊張材によってプレストレスが付加されたコンクリート板と、
前記コンクリート板の表面に固定される仕上げ面材と、を備え、
前記緊張材は、前記コンクリートの内部において前記コンクリートの厚さ方向及び前記一方向とは直交する方向に間隔を空けて並ぶように複数配置され、
複数の前記緊張材は、それぞれ前記コンクリート板の厚さ方向において前記コンクリート板の裏面側よりも前記仕上げ面材側に寄らせた位置に配置されていることを特徴とする建築用パネル。
【請求項2】
前記建築用パネルは、建築物の外部に面する位置に配置され、装飾性を有する前記仕上げ面材が固定されたパネルであって、
前記緊張材は、予め緊張力が付加された状態で前記コンクリートに埋設され、前記コンクリートの硬化後に緊張力を解放することで前記コンクリートにプレストレスを付加することを特徴とする請求項1に記載の建築用パネル。
【請求項3】
前記仕上げ面材は、前記コンクリート板の表面を覆うように配置され、
前記コンクリート板の裏面には、前記コンクリートの収縮を低減させるための収縮低減材が設けられ、
前記収縮低減材は、前記コンクリート板の裏面を覆うように配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の建築用パネル。
【請求項4】
複数の前記緊張材は、前記コンクリート板の厚さ方向において前記コンクリート板の中央部と前記仕上げ面材側の端部との間に配置され、かつ、前記仕上げ面材側よりも前記コンクリート板の中央部側に寄らせた位置に配置されていることを特徴とする請求項3に記載の建築用パネル。
【請求項5】
複数の前記緊張材は、前記コンクリート板の厚さ方向において前記コンクリート板の中央部から、前記仕上げ面材の厚さよりも大きく離間するように配置されていることを特徴とする請求項4に記載の建築用パネル。
【請求項6】
複数の前記緊張材は、前記コンクリート板の長さ方向に沿って延びており、前記コンクリート板の幅方向に間隔を空けて並ぶように配置され、
前記コンクリート板の幅方向において最も外側に位置する左右の緊張材は、前記コンクリート板の断面視において前記コンクリート板の幅方向の端部よりも前記仕上げ面材に寄らせた位置に配置されていることを特徴とする請求項5に記載の建築用パネル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築用パネルに係り、特に、プレストレスが付加されたコンクリート製の建築用パネルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プレストレスを付加することで高強度としたコンクリート製の建築用パネルが知られている。
例えば、特許文献1に記載の発明では、表面側にタイル材が敷き詰められたコンクリート製のカーテンウォールであって、当該コンクリート内には、プレストレスを導入するPC(Prestressed Concrete)線材が埋設されているものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-220604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1のような仕上げ面材(タイル材)を有するコンクリート製の建築用パネルでは、例えば軽量化を図るべく当該パネルの薄板化が求められている。一方で、当該パネルを薄くすると、その後、コンクリート及び仕上げ面材の収縮量(乾燥収縮量)の違いに伴って、仕上げ面材に反り(凸状の反り)が発生してしまう虞があった。
そのため、プレストレスを付加することで高強度としたコンクリート製の建築用パネルにおいて、当該パネルの薄板化を図りつつも、仕上げ面材の反りを抑制することが可能な建築用パネルが求められていた。
特に、装飾性を有する仕上げ面材が固定された建築用パネル(例えば外壁パネルや屋根パネル)において、仕上げ面材の反りを抑制することが求められていた。
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、プレストレスが付加されたコンクリート製の建築用パネルにおいて、仕上げ面材の反りを抑制することが可能な建築用パネルを提供することにある。
また、本発明の他の目的は、装飾性を有する仕上げ面材が固定された建築用パネルにおいて、仕上げ面材の反りを抑制することが可能な建築用パネルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題は、本発明の建築用パネルによれば、プレストレスが付加されたコンクリート製の建築用パネルであって、コンクリートの内部に前記コンクリートの長尺方向及び短尺方向の一方向に沿って埋設された緊張材を有し、前記緊張材によってプレストレスが付加されたコンクリート板と、前記コンクリート板の表面に固定される仕上げ面材と、を備え、前記緊張材は、前記コンクリートの内部において前記コンクリートの厚さ方向及び前記一方向とは直交する方向に間隔を空けて並ぶように複数配置され、複数の前記緊張材は、それぞれ前記コンクリート板の厚さ方向において前記コンクリート板の裏面側よりも前記仕上げ面材側に寄らせた位置に配置されていること、により解決される。
上記構成により、プレストレスが付加されたコンクリート製の建築用パネルにおいて、仕上げ面材の反りを抑制可能な建築用パネルを実現することができる。
詳しく述べると、上記建築用パネルにおいて複数の緊張材は、それぞれコンクリート板の厚さ方向においてコンクリート板の裏面側よりも仕上げ面材側に寄らせた位置に配置されている。このようにコンクリート内において緊張材を仕上げ面材側に偏心させることで、一定程度の仕上げ面材の反り量を緩和させることができる。すなわち、プレストレス力による曲げモーメント、むくみ量を考慮して設計することで、仕上げ面材の反り量を相殺する(キャンセルする)ことができる。
実際のところ、薄板の建築用パネルにおいて緊張材を仕上げ面材側に寄らせた位置に配置することで、一定程度の反り量が抑制されたことが確認されている。
【0007】
このとき、前記建築用パネルは、建築物の外部に面する位置に配置され、装飾性を有する前記仕上げ面材が固定されたパネルであって、前記緊張材は、予め緊張力が付加された状態で前記コンクリートに埋設され、前記コンクリートの硬化後に緊張力を解放することで前記コンクリートにプレストレスを付加すると良い。
上記構成により、装飾性を有する仕上げ面材が固定された建築用パネルにおいて、仕上げ面材の反りを抑制することができる。
また上記のように、プレテンション方式によってプレストレスを付加することで、ポストテンション方式と比較して、コンクリート内において複数の緊張材の埋設位置(偏心位置)を管理し易くなる。また、ポストテンション方式と比較して、コンクリート板の厚さ方向の一方に緊張材が撓むことを抑えることができる(緊張材を直線状に埋設することができる)。
【0008】
このとき、前記仕上げ面材は、前記コンクリート板の表面を覆うように配置され、前記コンクリート板の裏面には、前記コンクリートの収縮を低減させるための収縮低減材が設けられ、前記収縮低減材は、前記コンクリート板の裏面を覆うように配置されていると良い。
一般に、仕上げ面材を有するコンクリート製パネルにおいては、(1)コンクリート板及び仕上げ面材の乾燥収縮量の違いによって(コンクリート板の乾燥収縮量が大きいことによって)、(2)パネルの厚さ方向における水分移動の差によって発生する乾燥収縮によって、仕上げ面材に凸状の反りが発生してしまう(図6参照)。
上記(2)について、コンクリート系の材料は、コンクリートの硬化後に内部の水分が散逸する(移動する)ことによって乾燥収縮が生じる。コンクリート製パネルの場合には、仕上げ面材側の乾燥は抑制されるが、裏面側は比較的自由に乾燥が進行する。これにより、パネルの厚さ方向の表裏面で乾燥速度に差が生じ、裏面の収縮が早く進行し、仕上げ面材に凸状の反りが発生する。
そこで、上記のようにコンクリート板の裏面を収縮低減材で覆うことで、上記(2)による仕上げ面材の反りの発生を抑制することができる。すなわち、緊張材の埋設位置の偏心と、収縮低減材の塗布とによって、仕上げ面材の反りを一層抑制することができる。
【0009】
このとき、複数の前記緊張材は、前記コンクリート板の厚さ方向において前記コンクリート板の中央部と前記仕上げ面材側の端部との間に配置され、かつ、前記仕上げ面材側よりも前記コンクリート板の中央部側に寄らせた位置に配置されていると良い。
一般に、緊張材を仕上げ面材側に寄せ過ぎると、仕上げ面材側に錆が発生してしまう虞がある。そこで、上記のように緊張材の埋設位置を設定することで、仕上げ面材の反りを抑制し、仕上げ面材側に錆が発生することを抑制し、仕上がりの良い薄板の建築用パネルを実現できる。
【0010】
このとき、複数の前記緊張材は、前記コンクリート板の厚さ方向において前記コンクリート板の中央部から、前記仕上げ面材の厚さよりも大きく離間するように配置されていると良い。
上記構成により、仕上げ面材の厚さを考慮しながら、緊張材を仕上げ面材側に出来る限り寄らせた位置に埋設することができる。そうすることで、仕上げ面材の反りをより好適に抑制することができる。
【0011】
このとき、複数の前記緊張材は、前記コンクリート板の長さ方向に沿って延びており、前記コンクリート板の幅方向に間隔を空けて並ぶように配置され、前記コンクリート板の幅方向において最も外側に位置する左右の緊張材は、前記コンクリート板の断面視において前記コンクリート板の幅方向の端部よりも前記仕上げ面材に寄らせた位置に配置されていると良い。
上記構成により、コンクリート板の幅方向における緊張材の埋設位置を考慮しながら、緊張材を仕上げ面材側に出来る限り寄らせた位置に埋設できる。そうすることで、仕上げ面材の反りをより一層好適に抑制できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の建築用パネルによれば、プレストレスが付加されたコンクリート製パネルにおいて、仕上げ面材の反りを好適に抑制することが可能となる。
また、装飾性を有する仕上げ面材が固定されたパネルにおいて、仕上げ面材の反りを好適に抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】外壁パネルを有する建築物の外観斜視図である。
図2】外壁パネルの斜視図である。
図3図2の要部拡大図である。
図4】外壁パネルの縦断面図である。
図5A】外壁パネルの寸法を示す図である。
図5B】外壁パネルの寸法を示す図である。
図6】外壁パネルにおいて仕上げ面材の反り原因を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図1図6を参照して説明する。
本実施形態は、コンクリート製の建築用パネル(外壁パネル)であって、コンクリートの内部に埋設された緊張材によってプレストレスが付加されたコンクリート板と、コンクリート板の表面に固定される仕上げ面材とを備えており、緊張材がコンクリート板の幅方向に間隔を空けて並ぶように配置され、複数の緊張材がコンクリート板の厚さ方向においてコンクリート板の裏面側よりも仕上げ面材側に寄らせた位置に配置されていることを主な特徴とする建築用パネルの発明に関するものである。
【0015】
<建築用パネルの構成>
本実施形態の建築用パネル1は、図1に示すように、建築物Bの一部を構成するパネルであって、具体的には、建築物Bの外壁を構成し、上下方向に長尺な矩形状の外壁パネル1Aである。
なお、建築用パネル1は、外壁パネル1Aに特に限定されるものではなく、建築物Bの屋根パネル1Bであっても良いし、庇パネルであっても良い。あるいは、天井パネルや床パネル、内壁パネル等であっても良い。
好ましくは、建築用パネル1は、建築物Bの外部に面する位置に配置され、装飾性を有する仕上げ面材(外装面材)が固定されたパネルであると良い。そうすることで、後述するように外装面材の反りを抑制し、装飾性(意匠性)を確保した薄板の建築用パネル1を実現できる。
【0016】
建築用パネル1は、図2図4に示すように、プレストレスを付加することで補強されたコンクリート製パネルである。
詳しく述べると、建築用パネル1は、コンクリート内部にコンクリートの長さ方向(長尺方向)に沿って埋設された緊張材11を有し、緊張材11によってプレストレスが付加されたコンクリート板10と、コンクリート板10の表面に設けられる仕上げ面材20と、コンクリート板10の裏面に設けられる収縮低減材30と、から主に構成されている。
【0017】
コンクリート板10は、矩形板状のコンクリート材であって、例えば長さLが3000~5000mm(好ましくは4000mm)、幅Wが600~1800mm(好ましくは900mm)、厚さTが70~200mm(好ましくは85mm)である。
コンクリート板10は、プレテンション方式によってプレストレスが付加されている。すなわち、コンクリート板10の内部に複数の緊張材11が埋設されている。
なお、コンクリート板は、プレテンション方式に特に限定されるものではなく、ポストテンション方式等によってプレストレスが付加されても良い。
【0018】
緊張材11は、図4に示すように、PC線材(具体的には、PCより線)であって、PC鋼材とも称され、予め緊張力が付加された状態でコンクリートに埋設され、コンクリートの硬化後に緊張力を解放することでコンクリート板10にプレストレスを付加するものである。
緊張材11は、コンクリートの内部においてコンクリートの幅方向に間隔を空けて並ぶように複数配置されている。
また、複数の緊張材11は、それぞれコンクリート板10の厚さ方向においてコンクリート板10の裏面側よりも仕上げ面材20側に寄らせた位置に配置されている。
【0019】
なお、コンクリート板10の内部には、より高強度とすべく鉄筋(内蔵鉄筋)がさらに埋設されていても良い。その場合には、コンクリート板10の内部において緊張材11及び鉄筋が所定の間隔を空けて配置され、コンクリート板10の厚さ方向において緊張材11が鉄筋よりも仕上げ面材20側に寄らせた位置に配置されていると良い。
【0020】
仕上げ面材20は、図2図4に示すように、装飾性を有する面材(例えばタイル材)であって、コンクリート板10の表面に敷き詰められており、コンクリート板10の表面全体(略全体)を覆うように配置されている。
各面材20Aの間には、気温変化等による膨張を考慮して所定の隙間(目地20B)が形成されている。なお、目地20Bには、目地材(シーリング材)が充填されていると良い。
【0021】
収縮低減材30は、図2図4に示すように、コンクリートの乾燥収縮を低減させるものであって、例えば有機-無機複合型ポリマーを主成分とする塗布型の収縮低減材である。
なお、収縮低減材30は、塗布型に特に限定されるものではない。また、ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテル、グリコールエーテル系等を主成分とするコンクリート表面養生材であっても良い。
収縮低減材30は、コンクリート板10の裏面全体(略全体)を覆うように配置されている。好ましくは、コンクリート板10の裏面に収縮低減材30を二重塗り(二回塗り)すると良い。
【0022】
<仕上げ面材の反りの発生要因>
仕上げ面材20の反りの発生要因について図6に基づいて説明する。なお、コンクリート板10の裏面に収縮低減材30が塗布されていない場合を例にして説明する。
反りの発生要因として、主として以下の2点が挙げられる。
(1)コンクリート板10及び仕上げ面材20の乾燥収縮量の違い
仕上げ面材20の乾燥による収縮応力が、コンクリート板10の乾燥による収縮応力と比較して極めて小さい。そのため、乾燥に伴い、建築用パネル1の仕上げ面材20側(表面側)は拘束され易いものの、コンクリート板10側(裏面側)は拘束され難く乾燥収縮が生じ易くなっている。その結果、仕上げ面材20に凸状の反りが発生するものと考えられる。
(2)建築用パネル1の厚さ方向における水分移動の差
コンクリート板10(コンクリート系の材料)では、コンクリートの硬化後に内部の水分が散逸する(移動する)ことによって乾燥収縮が生じる。建築用パネル1の場合には、仕上げ面材20側の乾燥は抑制されるものの、裏面側は比較的自由に乾燥が進行する。そうすると、パネル1の表裏面で乾燥速度に差が生じ、裏面側の収縮が早く進行する。その結果、表面側にある仕上げ面材20に凸状の反りが発生するものと考えられる。
【0023】
<仕上げ面材の反り対策>
上記発生要因(1)に対する対策として、建築用パネル1では、図4に示すように、複数の緊張材11が、それぞれコンクリート板10の厚さ方向においてコンクリート板10の裏面側よりも仕上げ面材20側に寄らせた位置に配置されている。
そうすることで、一定程度の仕上げ面材20の反り量を緩和させることができる。すなわち、プレストレス力による曲げモーメント、むくみ量の計算式に基づき、仕上げ面材20の反り量を相殺することができる。
具体的に説明すると、以下の通りである。
【0024】
・プレストレス力による曲げモーメントMpcの計算式は下記の通りである。
Mpc=D×P(N・mm)
D:偏心距離(mm)
P:有効プレストレス量(N)
また、プレストレス力によるむくみ量δの計算式は下記の通りである。
・δ=5×Mpc×L/(48×E×I)
L:長さ(mm)
E:コンクリートのヤング係数(N/mm
I:断面二次モーメント=W×T/12(mm
W:幅(mm)、T:コンクリートの厚さ(mm)
【0025】
具体例として、図5A、Bに示すコンクリート板10の長さLが4000mm、幅Wが1000mm、厚さTが80mm、ヤング係数Eが3.0×10(N/mm)であって、緊張材11の偏心距離Dが10mm、1本の緊張材11の有効プレストレス量Pが0.8×26.7(kN/本)、計10本の緊張材11が埋設されているケースにおいて「むくみ量δ」を計算すると下記の通りである。

・曲げモーメントMpc=10(mm)×0.8×26.7(kN/本)×10(本)=2.14×10(N・mm)
・断面二次モーメントI=1000(mm)×80(mm)/12=4.27×10(mm
・むくみ量δ=5×2.14×10(N・mm)×4000(mm)/(48×3.0×10(N/mm)×4.27×10(mm))=2.78(mm)

上記計算式により、例えばコンクリート板10内に計10本の緊張材11を埋設し、当該緊張材11を仕上げ面材20側に10mm偏心させることで、約3mm程度の凸状の反りを相殺(キャンセル)させることが可能と考えられる。
上記により、仕上げ面材20の凸状の反りを抑制することができる。
【0026】
また上記発生要因(2)に対する対策として、図4に示すように、仕上げ面材20の裏面には、コンクリートの収縮を低減させる収縮低減材30が略全面にわたって塗布されている。
そうすることで、建築用パネル1の裏面側における水分移動の速度(乾燥速度)を遅らせて、乾燥収縮を低減させることができる。つまり、建築用パネル1の表裏面において乾燥速度の差を小さくすることができる。
上記により、仕上げ面材20の凸状の反りを抑制することができる。
【0027】
そのほか、図5A、Bに示す通り、複数の緊張材11が、コンクリート板10の厚さ方向においてコンクリート板10の中央部(中心部)と仕上げ面材20側の端部との間に配置され、かつ、仕上げ面材20側よりもコンクリート板10の中央部側に寄らせた位置に配置されている。
一般に、緊張材11を仕上げ面材20側に寄せ過ぎると、仕上げ面材20側に錆が発生してしまう虞がある。そこで、上記のように緊張材11の埋設位置を設定することで、仕上げ面材20の反りを抑制しつつ、仕上げ面材20側に錆が発生することを抑制し、仕上がりの良い薄板の建築用パネル1を実現できる。
【0028】
また、図5A、Bに示す通り、複数の緊張材11が、コンクリート板10の厚さ方向においてコンクリート板10の中央部(中心部)から、仕上げ面材20の厚さよりも大きく離間するように配置されている。
例えば、建築用パネル1において中心線CLから緊張材11までの距離(偏心距離)Dが10mm、仕上げ面材20の厚さt1が5mmとなっていると良い。すなわち、偏心距離D(mm)が、仕上げ面材20の厚さt1(mm)よりも大きくなっていると良い。
上記構成により、仕上げ面材20の厚さを考慮しながら、緊張材11を仕上げ面材20側に出来る限り寄らせた位置に埋設することができる。そうすることで、仕上げ面材20の反りをより好適に抑制することができる。
【0029】
また、図5A、Bに示す通り、複数の緊張材11が、コンクリート板10の幅方向に間隔を空けて並ぶように配置されている。そして、コンクリート板10の幅方向において最も外側に位置する左右の緊張材11が、コンクリート板10の断面視においてコンクリート板10の幅方向の端部よりも仕上げ面材20に寄らせた位置に配置されている。
具体的には、図5Bにおいて、厚さT/2(mm)-偏心距離D(mm)で求められる距離(mm)が間隔d2よりも小さく設定されている。
上記構成により、コンクリート板10の幅方向における緊張材11の埋設位置を考慮しながら、緊張材11を仕上げ面材20側に出来る限り寄らせた位置に埋設できる。そうすることで、仕上げ面材20の反りをより好適に抑制することができる。
【0030】
<その他の実施形態>
上記実施形態では、建築用パネル1が外壁パネルや屋根パネルのほか、床パネル等にも適用可能であることを説明した。
一方で、建築用パネル1は、好ましくは外壁パネルや屋根パネルのように、建築物の外部に面する位置に配置され、装飾性を有する仕上げ面材が固定されたパネルであると良い。すなわち、装飾性及び薄板化が求められる外壁パネルに適用させると好ましい。
理由として、床パネルの場合には、仮に表面側(上面側)に反りが発生する場合であっても、床パネルの自重によって反りが抑制され、反り量が比較的小さいためである。また、床パネルや内壁パネルの場合には、外部に露出し、装飾面材が固定される外壁パネルと比較して、表面側に凸状の反りが発生する量が比較的小さいためである。
【0031】
上記実施形態では、図4に示すように、緊張材11がコンクリート板10の長さ方向(長尺方向)に沿って埋設されているが、コンクリート板10の幅方向(短尺方向)に沿って埋設されていても良い。
また、複数の緊張材11がコンクリート板10の幅方向に一列に並ぶように埋設することが好ましいが、特に限定されなくても良い。例えば、コンクリート板10の厚さ方向において異なる位置(交互に異なる位置)に配置されて、コンクリート板10の幅方向に沿って並ぶように埋設されていても良い。
すなわち、複数の緊張材11が、コンクリート板10の厚さ方向において仕上げ面材20側に寄らせた位置に配置され、それぞれ間隔を空けて並ぶように配置されていれば良い。
【0032】
上記実施形態では、主として本発明に係る建築用パネルに関して説明した。
ただし、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするための一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。
【符号の説明】
【0033】
B 建築物(建物の躯体)
1 建築用パネル(パネル)
1A 外壁パネル
1B 屋根パネル
10 コンクリート板
11 緊張材(PC線材、PCより線材)
20 仕上げ面材
20A 面材
20B 目地
30 収縮低減材(裏面材)
CL 中心線
L 長さ
W 幅
T 厚さ
D 偏心距離
t1、t2 厚さ
d1、d2 間隔
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6