(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027704
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】超音波装置
(51)【国際特許分類】
A61B 8/14 20060101AFI20240222BHJP
【FI】
A61B8/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022130723
(22)【出願日】2022-08-18
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】泉尾 誠治
【テーマコード(参考)】
4C601
【Fターム(参考)】
4C601EE09
4C601EE11
4C601GA18
4C601GA26
4C601GB06
4C601GB18
4C601GB20
4C601GB41
4C601GC01
4C601GD04
4C601JB34
4C601JB35
4C601JB40
4C601KK16
4C601KK31
4C601LL26
(57)【要約】
【課題】検査対象の適切位置に容易にアライメント調整ができる超音波装置を提供する。
【解決手段】超音波装置は、超音波を送信し、検査対象の内部で反射された前記超音波を受信して受信信号を出力する超音波素子が複数アレイ状に配置された超音波送受部と、複数の前記超音波素子で前記超音波を受信した際に各前記超音波素子から出力される前記受信信号に基づいて、前記検査対象に対する前記超音波送受部の位置が適正か否かを判定する判定部と、前記判定部により前記検査対象に対する前記超音波送受部の位置が不適正と判定された場合に、前記超音波送受部の位置変更をユーザーに報知する報知部と、を備える。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を送信し、検査対象の内部で反射された前記超音波を受信して受信信号を出力する超音波素子が複数アレイ状に配置された超音波送受部と、
複数の前記超音波素子で前記超音波を受信した際に各々の前記超音波素子から出力される前記受信信号に基づいて、前記検査対象に対する前記超音波送受部の位置が適正か否かを判定する判定部と、
前記判定部により前記検査対象に対する前記超音波送受部の位置が不適正と判定された場合に、前記超音波送受部の位置変更をユーザーに報知する報知部と、
を備える超音波装置。
【請求項2】
前記判定部は、各々の前記超音波素子から出力される前記受信信号に対して、前記受信信号が正常であるか否かを判定し、各々の前記受信信号に対応する前記超音波素子について、前記検査対象に対する前記超音波素子の位置が適正であるか否かを判定する、
請求項1に記載の超音波装置。
【請求項3】
前記判定部は、前記受信信号における信号値のピークが検出された後、前記信号値が所定の第一閾値以下となるまでの減衰時間が所定の第一時間以下である場合に前記受信信号が正常であると判定する、
請求項2に記載の超音波装置。
【請求項4】
前記報知部は、前記判定部による各々の前記超音波素子についての判定結果に基づいて、前記超音波送受部を移動させるべき方向を報知する、
請求項2に記載の超音波装置。
【請求項5】
前記判定部は、正常であると判定された前記受信信号の数が所定の許容数以上であるか否かをさらに判定し、
前記報知部は、前記判定部により正常であると判定された前記受信信号の数が前記許容数未満である場合に、前記検査対象に対する前記超音波送受部の位置変更を報知する、
請求項2に記載の超音波装置。
【請求項6】
前記判定部により正常であると判定された前記受信信号の数が前記許容数以上である場合に、正常ではないと判定された前記受信信号を、正常であると判定された前記受信信号に基づいて補正する補正部を備える、
請求項5に記載の超音波装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生体等の検査対象に貼着可能な超音波プローブが知られている(例えば特許文献1)。この特許文献1に記載の超音波プローブは、柔軟性を有し、生体等の不規則な曲面を有する検査対象に対して密着して貼着可能に構成されている。そして、超音波プローブは、検査対象の内部に向けて超音波を照射し、内部から反射された超音波を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のような従来の超音波プローブでは、超音波プローブの貼り付け位置が適正であるか否かを判断するのが困難との課題がある。つまり、従来の超音波プローブでは、例えば超音波測定によって得られた測定結果に基づいて、検査対象の内部断層画像を形成し、その画像を確認してユーザーが測定したい画像が得られているか否かをユーザー自身が判断する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の第一態様の超音波装置は、超音波を送信し、検査対象の内部で反射された前記超音波を受信して受信信号を出力する超音波素子が複数アレイ状に配置された超音波送受部と、複数の前記超音波素子で前記超音波を受信した際に各々の前記超音波素子から出力される前記受信信号に基づいて、前記検査対象に対する前記超音波送受部の位置が適正か否かを判定する判定部と、前記判定部により前記検査対象に対する前記超音波送受部の位置が不適正と判定された場合に、前記超音波送受部の位置変更をユーザーに報知する報知部と、を備える。
【0006】
本態様の超音波装置において、前記判定部は、各々の前記超音波素子から出力される前記受信信号に対して、前記受信信号が正常であるか否かを判定し、各々の前記受信信号に対応する前記超音波素子について、前記検査対象に対する前記超音波素子の位置が適正であるか否かを判定することが好ましい。
【0007】
本態様の超音波装置において、前記判定部は、前記受信信号における信号値のピークが検出された後、前記信号値が所定の第一閾値以下となるまでの減衰時間が所定の第一時間以下である場合に前記受信信号が正常であると判定することが好ましい。
【0008】
本態様の超音波装置において、前記報知部は、前記判定部による各々の前記超音波素子についての判定結果に基づいて、前記超音波送受部を移動させるべき方向を報知することが好ましい。
【0009】
本態様の超音波装置において、前記判定部は、正常であると判定された前記受信信号の数が所定の許容数以上であるか否かをさらに判定し、前記報知部は、前記判定部により正常であると判定された前記受信信号の数が前記許容数未満である場合に、前記検査対象に対する前記超音波送受部の位置変更を報知することが好ましい。
【0010】
本態様の超音波装置において、前記判定部により正常であると判定された前記受信信号の数が前記許容数以上である場合に、正常ではないと判定された前記受信信号を、正常であると判定された前記受信信号に基づいて補正する補正部を備えることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第一実施形態の超音波システムの概略構成を示す図。
【
図2】第一実施形態の超音波プローブの概略断面図。
【
図3】第一実施形態における超音波基板の一例を示す平面図。
【
図4】
図3のB-B線で切断した際の超音波基板の概略断面図。
【
図5】第一実施形態の超音波デバイスのブロック図。
【
図6】第一実施形態における超音波測定方法を示すフローチャート。
【
図7】超音波測定の測定結果である各送受信列からの受信信号の一例を示す図。
【
図8】超音波測定の測定結果である各送受信列からの受信信号の一例を示す図。
【
図9】超音波測定の測定結果である各送受信列からの受信信号の一例を示す図。
【
図10】第二実施形態の超音波デバイスのブロック図。
【
図11】第二実施形態における超音波測定方法を示すフローチャート。
【
図12】第二実施形態において、補正部による信号値の補正の一例を示す図。
【
図13】第三実施形態の超音波プローブにおいて、検査対象に対して貼着される面の一例を示す図。
【
図14】第三実施形態において、位置検出用超音波アレイを構成する各超音波トランスデューサーの配置例と、各超音波トランスデューサーで超音波の送受信を行った場合の信号値の一例を示す図。
【
図15】第三実施形態において、超音波プローブの位置がずれている場合の超音波トランスデューサーの信号値の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[第一実施形態]
以下、本開示の第一実施形態について説明する。
図1は、第一実施形態の超音波システムの概略構成を示す図である。
超音波システム1は、
図1に示すように、本開示の超音波装置である超音波プローブ10と、超音波プローブ10と通信可能に接続された端末装置50と、を備える。
この超音波システム1は、超音波プローブ10が検査対象(例えば本実施形態では生体)の表面に接触された状態で、超音波プローブ10から生体内に超音波を送出する。また、生体内の器官(例えば筋肉など)にて反射された超音波を超音波プローブ10にて受信し、その受信信号に基づいて、例えば生体内の内部断層画像を取得したり、生体内の器官の状態や寸法を測定したり、所定の器官に超音波を収束させることで治療を行ったりする。
【0013】
[端末装置50の構成]
端末装置50は、例えば、
図1に示すように、ボタンやタッチパネル等を含む操作部51と、表示部52と、を備える。また、端末装置50は、図示は省略するが、メモリー等により構成された記憶部と、CPU(Central Processing Unit)等により構成された演算部と、を備える。端末装置50は、記憶部に記憶された各種プログラムを、演算部に実行させることにより、超音波システム1を制御する。例えば、端末装置50は、超音波プローブ10の駆動を制御するための指令を出力したり、超音波プローブ10から入力された超音波信号に基づいて、生体の内部構造の画像を形成して表示部52に表示させたり、血流等の生体情報を測定して表示部52に表示させたりする。このような端末装置50としては、例えば、タブレット端末やスマートフォン、パーソナルコンピューター等の端末装置を用いることができ、超音波プローブ10を操作するための専用端末装置を用いてもよい。
【0014】
[超音波プローブ10の構成]
図2は、超音波プローブ10の概略断面図である。
超音波プローブ10は、例えばベルトや医療テープ等を用いて検査対象である生体に貼着される。そして、超音波プローブ10は、上述したように、生体内に超音波を送出し、生体内の器官にて反射された超音波を受信する。
本実施形態では、超音波プローブ10は、例えば無線通信により端末装置50と通信可能に接続されており、端末装置50からの指令に基づいて、生体に対する超音波の送信処理、及び生体内で反射された超音波の受信処理を実施させる。
そして、本実施形態の超音波プローブ10は、
図2に示すように、超音波デバイス20と、超音波デバイス20を収納する筐体40とを備えている。
【0015】
[超音波デバイス20の構成]
超音波デバイス20は、超音波の送信及び受信を実施する複数の超音波トランスデューサーTr(
図3,
図4参照)がアレイ状に配置される超音波基板21、及び各超音波トランスデューサーTrを制御する制御基板30等を備えて構成されている。
図3は、本実施形態における超音波基板21の一例を示す平面図であり、
図4は、超音波基板21を
図3のB-B線で切断した際の概略断面図である。
超音波基板21には、X方向及びY方向に沿って、複数の超音波トランスデューサーTrが2次元アレイ状に配置されている。ここで、X方向及びY方向に直交する方向をZ方向とし、Z方向(+Z)は、超音波が送信される本開示の送信方向に相当する。
本実施形態では、Y方向に配置された複数の超音波トランスデューサーTrにより、1CH(チャンネル)の送受信列Chが構成される。また、当該1CHの送受信列ChがY方向に沿って複数並んで配置されることで、1次元アレイ構造の超音波アレイAr1が構成される。本実施形態では、個々の送受信列Chは本開示の超音波素子を構成する。
なお、
図3は、説明の便宜上、超音波トランスデューサーTrの配置数を減らしているが、実際には、より多くの超音波トランスデューサーTrが配置されていてもよい。
【0016】
超音波基板21は、
図4に示すように、素子基板211と、素子基板211上に設けられた振動板212と、振動板212上に設けられた圧電素子213と、を備えて構成されている。
素子基板211は、例えばSi等の半導体基板により構成されている。この素子基板211は、各々の超音波トランスデューサーTrに対応した基板開口部211Aが設けられている。本実施形態では、各基板開口部211Aは、素子基板211の基板厚み方向(Z方向)を貫通した貫通孔であり、当該貫通孔の-Z側(制御基板30側)に振動板212が設けられる。
また、基板開口部211Aの振動板212が設けられない側(+Z)には、生体に近い音響インピーダンスを有する音響層215が充填されている。音響層215としては、例えば、シリコーン等の樹脂材を用いることができる。
また、素子基板211の+Z側には、例えばシリコーン等の樹脂材により構成された保護層216を設けてもよく、音響レンズを設けてもよい。
【0017】
振動板212は、例えばSiO2及びZrO2の積層体等より構成され、素子基板211の制御基板30側全体を覆って設けられている。すなわち、振動板212は、基板開口部211Aを構成する隔壁211Bにより支持され、基板開口部211Aの-Z側を閉塞する。この振動板212の厚み寸法は、素子基板211に対して十分小さい厚み寸法となる。
【0018】
圧電素子213は、各基板開口部211Aを閉塞する振動板212上にそれぞれ設けられている。この圧電素子213は、例えば、振動板212から-Z側に向かって下部電極213A、圧電膜213B、及び上部電極213Cを積層した積層体により構成されている。
ここで、振動板212のうち、基板開口部211Aを閉塞する部分は振動部212Aを構成し、この振動部212Aと、圧電素子213とにより、1つの超音波トランスデューサーTrが構成される。
このような超音波トランスデューサーTrでは、下部電極213A及び上部電極213Cの間に所定周波数の矩形波電圧(駆動信号)が印加されることで、圧電膜213Bが撓んで振動部212Aが振動して+Z側に超音波が送出される。また、生体から反射された超音波(反射波)により振動部212Aが振動されると、圧電膜213Bの上下で電位差が発生する。これにより、下部電極213A及び上部電極213Cの間に発生する電位差を検出することで、受信した超音波を検出することが可能となる。
【0019】
本実施形態では、
図3に示すように、下部電極213Aは、X方向に沿って直線状に形成されており、1CHの送受信列Chを構成する複数の超音波トランスデューサーTrを接続する。この駆動端子213Dは、例えば、フレキシブルプリント基板等を介して制御基板30に電気接続されている。
【0020】
また、上部電極213Cは、X方向に沿って直線状に形成されており、X方向に並ぶ超音波トランスデューサーTrを接続する。そして、上部電極213Cの±X側端部は共通電極線214に接続される。この共通電極線214は、X方向に沿って複数配置された上部電極213C同士を結線し、その端部には、制御基板30の配線回路に電気接続される共通端子214Aが設けられている。この共通端子214Aは、例えば、フレキシブルプリント基板等を介して制御基板30に電気接続されている。
また、本実施形態では、超音波基板21に、1次元アレイ構造の超音波アレイAr1が構成される例を示すが、Y方向に配置される超音波トランスデューサーTr、X方向に配置される超音波トランスデューサーTrをそれぞれ個別駆動させる構成として、2次元アレイ構造の超音波アレイを構成してもよい。
上述したような超音波基板21には、基板強度を向上させるために、さらに補強板が設けられる構成としてもよい。補強板を設ける場合、振動板212の素子基板211とは反対側の面に設ける。この際、各振動部212Aの振動スペースを確保できるように、振動部212A以外の領域にスペーサー(接合層)を設け、当該スペーサーを介して補強板を接合することが好ましい。
【0021】
制御基板30は、超音波基板21とともに超音波デバイス20を構成する。後述する筐体40の開口窓41に対向して超音波基板21が配置され、この超音波基板21の-Z側に制御基板30が配置される。
制御基板30は、上述したようにフレキシブルプリント基板等によって駆動端子213Dや共通端子214Aと接続される。図示は省略するが、制御基板30には、例えばICチップや、無線通信モジュール、蓄電池等が設けられている。
1つ又は複数のICチップにより、超音波デバイス20を制御する制御部31(
図5参照)が構成され、各超音波トランスデューサーTrの駆動が制御される。また、無線通信モジュールによって、超音波プローブ10と端末装置とが無線通信により通信可能となる。
なお、制御基板30の制御回路により構成される各種機能構成に関しての説明は後述する。
【0022】
[筐体40の構成]
図2に戻り、筐体40は、内部に超音波デバイス20を収納する箱型に形成され、+Z側の一面に開口窓41が設けられている。本実施形態では、超音波デバイス20において、素子基板211,振動板212、及び圧電素子213によって薄型の超音波トランスデューサーTrが構成される。このため、筐体40のZ方向の厚みを小さくでき、例えば、10mm以下とすることができる。
また、本実施形態では、筐体40は、Z方向から見た形状が略矩形状に形成される。なお、短軸及び長軸を有する略矩形状の筐体40を例示するが、例えば楕円型や多角形型などの形状であってもよく、また正方形状であってもよい。ここで、筐体40のZ方向からの平面視において長軸の方向の長さ(矩形であれば長辺)が50mm以下で、短軸の長さが25m以上に形成されていることが好ましい。
【0023】
[超音波プローブ10の固定]
超音波プローブ10の生体への固定について説明する。
本実施形態の超音波プローブ10では、超音波プローブ10と生体との間に、水やジェル等の音響整合剤を介在させたうえで、超音波プローブ10を生体に密着させ、医療用テープ或いはバンド等を用いて超音波プローブ10を生体に貼着する。
【0024】
ここで、超音波プローブ10を生体に固定する場合、生体における所望の測定位置に超音波プローブ10を貼着する必要がある。例えば、超音波プローブ10を用いて、腹部の測定を行う場合では、腹部に超音波プローブ10を例えば医療用テープやバンド等を用いて貼り付ける必要がある。しかしながら、貼り付け方によっては、へそ等の凹凸部分に超音波プローブ10が貼着される場合がある。凹凸部分に超音波プローブ10が貼着されると適切な超音波測定を実施することができない。
これに対して、本実施形態の超音波システム1における超音波プローブ10は、貼着位置が適切であるか否かを自動で判定し、不適切である場合に、超音波プローブ10の貼着位置を変更するようにユーザーに報知する。
【0025】
[制御部31の構成]
図5は、本実施形態の超音波デバイス20のブロック図である。
本実施形態では、制御基板30に組み込まれたICチップ等により制御部31が構成される。制御部31は、複数の超音波トランスデューサーTrにより構成された送受信列Chを、それぞれ個別に制御する。
この制御部31は、
図5に示すように、送信回路311、受信回路312、記憶部313、及びプロセッサー314を備える。また、図示は省略するが、制御部31には、端末装置50と通信する通信モジュールや、電力を供給する蓄電池等を備える。
送信回路311は、各送受信列Chに対してそれぞれ接続され、各送受信列Chを個別に駆動させる。つまり、送信回路311は、各送受信列Chに含まれる複数の超音波トランスデューサーTrに駆動信号を出力し、各超音波トランスデューサーTrから生体内に超音波を送信させる。
受信回路312は、各送受信列Chに対してそれぞれ接続され、生体で反射された超音波が各超音波トランスデューサーTrで受信された際に出力される受信信号を受信処理する。この受信回路312には、受信信号の増幅、ノイズ除去、デジタル信号への変換等の信号処理を行う各種回路が組み込まれている。そして、受信回路312は、各々の送受信列Chから出力される受信信号をそれぞれ個別に処理し、プロセッサー314に出力する。
【0026】
記憶部313には、超音波素子である各送受信列の配列位置を記憶する。また、記憶部313には、各送受信列から出力される受信信号に基づく、生体に対する超音波デバイス20の位置関係が記録される。
さらに、記憶部313には、超音波プローブ10を制御するための各種プログラムや各種データが記録されている。
【0027】
プロセッサー314は、記憶部313に記録されたプログラムを読み込み実行することで、測定制御部314A、判定部314B、報知部314C、及び結果出力部314Dとして機能する。
測定制御部314Aは、送信回路311を制御して、超音波デバイス20の各送受信列Chを駆動させて超音波を送信する。また、測定制御部314Aは、受信回路312を制御して、生体で反射された超音波が各送受信列Chで受信された際に出力される受信信号を受信処理する。
【0028】
判定部314Bは、測定制御部314Aによる超音波の送受信処理で得られた各受信信号に基づいて、超音波プローブ10の貼着位置、つまり、生体に対する超音波送受部である超音波デバイス20の位置が適正であるか否かを判定する。また、判定部314Bは、生体に対して超音波デバイス20(超音波プローブ10)をどの方向に移動すべきか等を判定する。
【0029】
報知部314Cは、判定部314Bにより超音波デバイス20の位置が不適切であると判定された場合に、ユーザーに超音波デバイス20の位置の修正を促す旨を報知する。例えば、超音波プローブ10に音声出力部(図示略)が設けられる構成としてもよく、この場合、報知部314Cは、当該音声報知部から超音波プローブ10の移動を促す情報やその移動方向を報知してもよい。或いは、報知部314Cは、端末装置50に、超音波プローブ10の移動方向及び移動を促す報知を出力する旨の指令情報を出力してもよい。この場合、端末装置50は、端末装置50に設けられたスピーカーから超音波プローブ10の移動や移動方向を音声出力してもよく、表示部52に超音波プローブ10の移動や移動方向を表示させてもよい。
【0030】
結果出力部314Dは、判定部314Bにより超音波デバイス20の位置が適切であると判定された場合に、測定制御部314Aの制御により超音波デバイス20で測定された超音波測定の測定結果を端末装置50に出力する。
【0031】
[超音波測定方法]
次に、上述したような超音波システム1における動作について説明する。
図6は、本実施形態における超音波測定方法を示すフローチャートである。
本実施形態の超音波システム1では、まず、ユーザーが超音波プローブ10を生体に貼着し、超音波測定を開始する旨を入力する。例えば、超音波プローブ10の電源をオンにしたり、端末装置50に超音波プローブ10を用いた超音波測定を実施する旨を設定入力したりする。
これにより、測定制御部314Aは、送信回路311及び受信回路312を制御して超音波測定を実施する(ステップS1)。つまり、測定制御部314Aは、超音波デバイス20の各送受信列Chから超音波を送信させ、生体表面や生体内で反射した超音波を各送受信列Chで受信させる。
【0032】
次に、判定部314Bは、ステップS1で得られた超音波測定結果である、各送受信列Chの受信信号に基づいて、超音波デバイス20の位置が適正であるか否かを判定する。
図7から
図9は、超音波測定の測定結果である各送受信列Chからの受信信号の一例を示す図である。
図7から
図9に示す例では、超音波デバイス20が8つの送受信列Chを有する例であり、各送受信列Chから出力される受信信号の信号波形例を示している。
本実施形態では、判定部314Bは、受信信号の信号ピーク(極大値)を検出し、当該信号ピークが所定の許容範囲内であり、信号ピークが検出されたタイミングから、受信信号の信号値が所定の第一閾値以下となるまでの減衰時間が所定の第一時間以下であるか否かを判定する。
ここで、許容範囲とは、超音波デバイス20及び受信回路312で出力可能な上限値(飽和値)未満で、かつ、少なくともノイズを除外可能な所定の下限値以上の範囲が例示できる。
また、第一閾値としては、例えば、信号ピークの半値等であってもよく、予め設定された所定値であってもよい。さらに、第一時間としては、受信信号が複数回反射された超音波の受信による尾引き成分を含まない信号であることが判定可能な時間であればよく、例えば5~10msecを例示できる。
【0033】
例えば
図7に示す例では、受信信号が、信号ピークから第一閾値(半値)になるまでの時間が長い。これは、多重反射された超音波を受信しているため、振動部212Aの信号が減衰していないことを示している。このような受信信号は、超音波プローブ10と生体との間に空気層が介在して多重反射が発生している場合や、生体の凹凸部分(へそ等)に超音波デバイス20が重なっていて多重反射された超音波が継続的に受信されている場合に多く見られる。このような受信信号が得られる場合、判定部314Bは、受信信号が異常であると判定する。
【0034】
また、
図8に示す例では、1~3Ch,5Ch,7~8Chの送受信列Chからの出力される受信信号の信号ピークは飽和値となる。
図8では、超音波アレイAr1の端部位置(1~3Ch、7~8Ch)が凹凸部分に重なっている例であり、凹凸部分で多重反射が発生することで、受信信号の信号ピークが飽和しやすい。この場合も、当該送受信列Chに対向する部分は、超音波測定に不適切である(受信信号が異常である)と判定する。
【0035】
一方、
図9に示す例では、いずれの受信信号も飽和値とならず、信号ピークから第一閾値(例えば半値)未満となるまでの減衰時間も第一時間(例えば10msec)以下となる。したがって、判定部314Bは、全ての受信信号に対する送受信列Chは、超音波測定に適した位置に配置されていると判定する。
【0036】
判定部314Bによる超音波デバイス20の判定では、まず、判定部314Bは、全ての送受信列Chから出力される受信信号が正常であるか否かを判定する(ステップS2)。
【0037】
ステップS2においてNoと判定される場合、異常な受信信号を出力した送受信列Chの位置が、Y方向に並ぶ複数の送受信列Chのうち、両端部のどちらかのみであるか否かを判定する(ステップS3)。つまり、Y方向に並ぶ両端部に配置された所定数(例えば2個以下)の送受信列Chの受信信号が異常であるか否かを判定する。
【0038】
ステップS3においてYesと判定される場合、超音波プローブ10の一端側が、生体の凹凸部に重なっている可能性が高い。例えば、超音波プローブ10を用いて腹部を測定する場合では、超音波プローブ10を腹部に貼着するが、端部の一部がへその位置と重なる場合がある。ここで、+Y側の送受信列Chから異常な受信信号が出力される場合、判定部314Bは超音波プローブ10の+Y側端部が凹凸と重なっていると判定し、超音波プローブ10を移動させるべき方向を-Y側と判定する。また、-Y側の送受信列Chから異常な受信信号が出力される場合、判定部314Bは超音波プローブ10の-Y側端部が凹凸と重なっていると判定し、超音波プローブ10を移動させるべき方向を+Y側と判定する。
【0039】
この場合、報知部314Cは、超音波プローブ10の端部が凹凸に重なっているため、超音波プローブ10の移動が必要である旨をユーザーに報知するとともに、移動させるべき超音波プローブ10の方向(正常な受信信号が得られる側)を報知する(ステップS4)。
報知部314Cによるユーザーへの報知方法は特に限定されない。例えば、上述したように、超音波プローブ10にスピーカー等の音声出力部が設けられていてもよく、この場合、音声出力部から超音波プローブ10の移動方向を音声により報知してもよい。また、筐体40の開口窓41とは反対側の面の±Y側端部にLED等により構成されたランプが設けられ、ランプを点灯させることで、超音波プローブ10の移動方向を報知してもよい。
また、報知部314Cは、端末装置50に、超音波プローブ10の移動を促す旨の情報と、移動方向とを送信してもよい。この場合、端末装置50が、例えばスピーカーや表示部52を用いて、ユーザーに超音波プローブ10を移動させる旨と移動方向とを報知すればよい。
以上の後、ステップS1に戻る。すなわち、ユーザーにより超音波プローブ10の貼着位置の変更が行われた後、ユーザーが再び超音波測定を開始する旨を入力することでステップS1の処理が実施される。
【0040】
ステップS3でNoと判定される場合、異常な受信信号を出力した送受信列Chの位置が端部以外にあることを意味する。この場合、判定部314Bは、異常な受信信号を出力した送受信列Chの個数が予め設定された再貼着判定値(例えば1)以上であるか否かを判定する(ステップS5)。
ステップS5でNoと判定される場合、超音波プローブ10と生体との間に気泡が介在する可能性が高い。したがって、この場合、報知部314Cは、超音波プローブ10と生体との間のジェルの塗り直しの案内を報知する(ステップS6)。
この後、ステップS1に戻る。
【0041】
さらに、ステップS5において、Yesと判定される場合、超音波プローブ10と生体とが正しく貼着されておらず、接触異常が発生している可能性が高い。したがって、報知部314Cは、超音波プローブ10の貼り直しの案内を報知する(ステップS7)。
この後、ステップS1に戻る。
【0042】
一方、ステップS2でYESと判定される場合、つまり、全ての送受信列Chから出力される受信信号が正常である場合、超音波デバイス20の位置が正常である。
この場合、結果出力部314Dは、端末装置50に得られた測定結果を出力する(ステップS8)。結果出力部314Dが、端末装置50に出力する測定結果は、例えば、各送受信列Chの位置と、各送受信列Chから出力された受信信号である。これにより、端末装置50は、得られた測定結果から測定対象の内部断層画像を生成して表示部52に表示させたり、所定組織の厚みを算出したりすることができる。
【0043】
[本実施形態の作用効果]
本実施形態の超音波システム1は、超音波装置である超音波プローブ10を備え、この超音波プローブ10は、超音波送受部である超音波基板21と、制御基板30とを備える。超音波基板21は、超音波トランスデューサーTrにより構成された送受信列Ch(超音波素子)が複数アレイ状に配置された超音波アレイAr1を備え、各々の送受信列Chで超音波の送受信処理が可能に構成されている。制御基板30には、1つ又は複数のICチップ等によりプロセッサー314を含む制御部31が構成され、制御部31のプロセッサー314が記憶部313に記憶されたプログラムを読み込み実行することで、判定部314B、報知部314Cとして機能する。判定部314Bは、複数の送受信列Chで超音波を受信した際に出力される受信信号に基づいて、検査対象である生体に対する超音波デバイス20の位置が適正か否かを判定する。報知部314Cは、判定部314Bにより生体に対する超音波デバイス20の位置が不適正と判定された場合に、超音波デバイス20(超音波プローブ10)の位置変更をユーザーに報知する。
【0044】
これにより、ユーザーは、例えば超音波測定結果で得られる内部断層画像の確認等をすることなく、また、専門的な知識がなくても、超音波プローブ10を適正な位置に移動させることができる。
【0045】
本実施形態では、判定部314Bは、複数の送受信列Chの各々から出力される受信信号に対して、受信信号が適切であるか否かを判定する。そして、受信信号が適切である場合に、その受信信号を出力した超音波素子が前記検査対象に対して適する位置に配置されていると判定する。
つまり、本実施形態では、個々の送受信列Chのそれぞれに対して正常な受信信号が得られているか否かを判定するので、例えば、超音波プローブ10の具体的にどの部分の位置が不適正であるかを判定することができる。これにより、超音波プローブ10の位置が不適正と判定される場合に、どの方向に超音波プローブ10を移動させるのがよいかを決定することができる。
【0046】
本実施形態では、判定部314Bは、受信信号における信号ピーク値が所定の許容範囲以内であり、信号ピーク値が検出された後、当該信号値が所定の第一閾値以下となるまでの減衰時間が所定の第一時間以下である場合に当該受信信号が適切であると判定する。
超音波プローブ10と生体との間に気泡があって多重反射が生じている場合や、凹凸部分に超音波プローブ10が貼着されることで、複数の箇所で多重反射された超音波が送受信列Chで受信される場合では、受信信号の信号値がオーバーレンジとなったり、受信信号の尾引きが生じたりすることで、受信信号の正しい信号ピークを検出できず、測定誤差が発生する。これに対して、本実施形態では、このような許容範囲を超える受信信号や、尾引きが長い受信信号を異常な受信信号として判定することで、正常な受信信号を適正に判定できる。
【0047】
本実施形態では、報知部314Cは、判定部314Bによる各送受信列Chについての判定結果に基づいて、超音波プローブ10を移動させるべき方向を報知する。
これにより、超音波プローブ10の貼着位置が不適正と判定される場合に、ユーザーは、どの方向に超音波プローブ10を移動させればよいかを容易に知ることができ、利便性の向上を図れる。
【0048】
[第二実施形態]
次に第二実施形態について説明する。
上記第一実施形態では、複数の送受信列Ch(超音波素子)のうち全ての送受信列Chが正常な受信信号である場合にステップS8の本測定処理を実施する例を示した。これに対して、第二実施形態では、複数の送受信列Chのうちの所定数以上の送受信列Chが正常な受信信号を出力する場合、つまり、異常な受信信号の数が少数である場合でも測定を継続する点で上記第一実施形態と相違する。
【0049】
図10は、第二実施形態における超音波デバイス20Aの構成を示すブロック図である。
本実施形態では、第一実施形態と同様、制御部31は、送信回路311、受信回路312、記憶部313、及びプロセッサー314を備える。そして、本実施形態では、プロセッサー314は、測定制御部314A、判定部314B、報知部314C、及び結果出力部314Dとして機能するとともに、さらに、補正部314Eとしても機能する。
補正部314Eは、不適切な受信信号を出力する送受信列Chの当該受信信号を、他の送受信列Chの受信信号に基づいて補正する。つまり、本実施形態では、判定部314Bは、複数の送受信列Chから出力される受信信号のうち、所定の許容数以上の受信信号が正常と判定される場合に、超音波プローブ10の位置が適切であると判定する。しかしながら、この場合、異常な受信信号を出力する送受信列Chが含まれる場合もある。本実施形態では、補正部314Eは、このような異常な受信信号を、他の送受信列Chから出力される正常な受信信号に基づいて補正する。
【0050】
次に、第二実施形態の超音波システム1における動作について説明する。
図11は、本実施形態における超音波測定方法を示すフローチャートである。
第一実施形態と同様に、ユーザーが超音波プローブ10を生体に貼着し、超音波測定を開始する旨を入力する。これにより、ステップS1により、測定制御部314Aが超音波測定を実施する。
【0051】
次に、判定部314Bは、第一実施形態と同様、各送受信列Chの受信信号に基づいて超音波デバイス20Aの位置が適正であるか否かを判定するが、この際、本実施形態では、まず、複数の受信信号のうち所定の許容数以上の受信信号が正常であるか否かを判定する(ステップS11)。
【0052】
ステップS11において、Noと判定される場合、つまり、正常な受信信号が許容数未満である場合、上記第一実施形態と同様、ステップS3からステップS7を実施し、超音波プローブ10の貼着位置の移動、ジェルの塗り直し、超音波プローブの貼り直し等を報知する。
【0053】
一方、ステップS11においてYesと判定される場合、全ての受信信号が正常であるか否かを判定する(ステップS12)。
ステップS12でYesと判定される場合は、第一実施形態と同様のステップS8の処理を実施し、結果出力部314Dは、端末装置50に得られた測定結果を出力する。
一方、ステップS12でNoと判定される場合、つまり、許容数以上の正常な受信信号が得られているが、わずかに異常な受信信号が含まれる場合、補正部314Eは、この異常な受信信号の信号値を正常な受信信号の信号値によって補正する(ステップS13)。
【0054】
図12は、補正部314Eによる信号値の補正の一例を示す図である。
図12の例では、チャンネル数(送受信列Chの数)がCH1~CH4の4つであり、許容数が3である例を示している。
パターンP1では、全ての受信信号が正常であるため、ステップS12によりYesと判定されて、ステップS8が実施される。
パターンP4では、正常な受信信号が許容数未満であるため、ステップS11においてNoと判定され、超音波プローブ10の貼着位置の移動、ジェルの塗り直し、超音波プローブの貼り直し等が報知される。
【0055】
パターンP2、P3では、ステップS12によりNoと判定され、ステップS13の補正処理が実施される。
例えば、異常な受信信号を出力した送受信列Chが端部以外である場合、補正部314Eは、その送受信列Chを挟む一対の送受信列Chの信号値の平均値を求める。例えば、パターンP2のように、チャンネルCH2の受信信号が異常である場合、チャンネルCH2の受信信号をチャンネルCH1,3の受信信号の平均値に補正する。
また、パターンP3のように、異常な受信信号を出力した送受信列Chが端部(チャンネルCH1)である場合、補正部314Eは、他の送受信列Ch(チャンネルCH2,3,4)の受信信号の信号値の平均値により補正する。
なお、ここでは、パターンP2の場合に、異常な受信信号を出力した送受信列を挟む一対の送受信列の受信信号で、異常な受信信号を補正しているが、後述のパターンP3のように、全ての正常な受信信号で異常な受信信号を補正してもよい。
以上の後、ステップS8を実施する。
【0056】
[本実施形態の作用効果]
本実施形態では、判定部314Bは、正常であると判定された受信信号の数が所定の許容数以上であるか否かをさらに判定し、報知部314Cは、判定部314Bにより正常であると判定された受信信号の数が許容数未満である場合に、超音波プローブ10の位置変更を報知する。
このような本実施形態では、異常な受信信号が僅かに存在しても、許容数以上の正常な受信信号が得られている場合には、超音波プローブ10による測定処理を継続する。これにより、超音波プローブ10の移動や貼り直しを繰り返し行う必要がなく、ユーザーの利便性の向上を図れる。
【0057】
また、本実施形態では、判定部314Bにより正常と判定された受信信号の数が許容数以上である場合に、異常と判定された受信信号を、正常と判定された受信信号に基づいて補正する補正部314Eを備える。
本実施形態では、上記のように、異常と判定された受信信号の数が僅かであり、正常な受信信号が許容数以上得られていれば測定を継続し、例えば、生体の内部断層画像の表示や筋肉などの所定組織の厚みの測定等の各種処理を行なうことができる。この際、異常な受信信号をそのまま用いると測定誤差が発生し、異常な受信信号を用いないで測定を継続すると測定精度が低下する。これに対して、本実施形態では、補正部314Eによって、異常な受信信号の信号値を、正常な受信信号に基づいて補正する。したがって、測定誤差の発生や、測定精度の低下を抑制することができる。
【0058】
[第三実施形態]
上記第一及び第二実施形態では、超音波プローブ10において、検査対象の内部断層画像を取得したり、所定の組織に対する治療を行なったりする、処理用の超音波アレイAr1を用いて、超音波プローブ10の貼着位置が適正であるか否かを判定した。
これに対して、第三実施形態では、処理用の超音波アレイAr1とは別に、超音波プローブの位置が適正であるか否かを検出するための位置検出用超音波アレイAr2(
図13参照)を有する点で、上記実施形態と相違する。
【0059】
図13は、第三実施形態の超音波プローブ10Aにおいて、検査対象に対して貼着される面の一例を示す図である。
本実施形態では、
図13に示すように、超音波プローブ10Aには、処理用超音波アレイAr1と、位置検出用超音波アレイAr2とが設けられている。これらの超音波アレイAr1,Ar2は、同一の超音波基板21上の異なる位置に設けられていてもよく、それぞれ異なる超音波基板21により別体として構成されていてもよい。
処理用超音波アレイAr1は、上記第一実施形態における超音波アレイAr1と同様であり、例えばY方向に沿って並ぶ超音波トランスデューサーTrにより1Chの送受信列Chが構成され、X方向に沿って、それぞれ独立して駆動可能な複数の送受信列Chが配置されている。
一方、位置検出用超音波アレイAr2は、X方向及びY方向に沿った2次元アレイ構造に配置された超音波トランスデューサーTrを有し、各超音波トランスデューサーTrがそれぞれ個別に駆動可能となる。
【0060】
本実施形態の超音波プローブ10Aは、腹部貼着用のプローブであり、例えば、処理用超音波アレイAr1により、腹部の内部断層画像を形成したり、所定組織の厚みを測定したりする。
この際、本実施形態では、超音波プローブ10Aの位置検出用超音波アレイAr2が腹部におけるへそに位置するように貼着されることで、処理用超音波アレイAr1が測定部位に対向するように、予め位置検出用超音波アレイAr2に対する処理用超音波アレイAr1の相対位置が決められている。
【0061】
図14は、位置検出用超音波アレイAr2を構成する各超音波トランスデューサーTrの配置例と、各超音波トランスデューサーTrで超音波の送受信を行った場合の信号値の一例を示している。
図14の例では、位置検出用超音波アレイAr2の中心が、腹部のへそに対向している状態での信号値の一例である。
図14において、X方向及びY方向に沿って配置された各マス目は、個々の超音波トランスデューサーTrを示している。また、各超音波トランスデューサーTrにおいて、色の濃淡は、出力される受信信号の信号値または所定期間の信号値の積算値が大きさを示す。色が濃い超音波トランスデューサーTrは、出力される信号値又は信号値の積算値が大きいことを示している。
【0062】
腹部のへその部分は、他の肌部に比べて凹凸が大きく、これにより、位置検出用超音波アレイAr2から超音波を送信すると、様々な位置で多重反射が発生する。したがって、へその中心部分では、多重反射成分が最も多く、その分、受信される超音波の音圧も高くなるので受信信号の信号値が大きくなる。また、多数の多重反射された超音波が異なるタイミングで超音波トランスデューサーTrに入力されるので、振動部212Aの振動減衰が遅く、振幅が大きい(第一閾値を超える)受信信号が通常に比べて長く続く(尾引きが長くなる)。よって、その分、所定期間の受信信号の信号値の積算値も大きくなる。
【0063】
したがって、
図14に示すような2次元アレイ構造の位置検出用超音波アレイAr2の中心部の信号値(または積算値)が大きくなるように、アライメント調整を行うことで、超音波プローブ10Aの位置を調整することができる。
例えば、
図14に示す例では、正常位置範囲Ar3内の超音波トランスデューサーTrが最大信号値(または最大積算値)となる場合に、判定部314Bは超音波プローブ10Aが適正な位置であると判断する。
【0064】
一方、最大信号値(または最大積算値)となる受信信号を出力した超音波トランスデューサーTrが、正常位置範囲Ar3とは異なる位置にある場合、判定部314Bは、当該超音波トランスデューサーTrの位置が不適正と判定し、報知部314Cは、正常位置範囲Ar3内の超音波トランスデューサーTrの受信信号が最大信号値(または最大積算値)となるように、超音波プローブ10Aの移動方向を報知する。
図15は、超音波プローブ10Aの位置がずれている場合の正常位置範囲Ar3内の超音波トランスデューサーTrの信号値の一例である。
例えば
図15の場合では、最大信号値(または最大積算値)を出力する超音波トランスデューサーTrが、正常位置範囲Ar3の中心から2マス分-X側に位置する。1マスの大きさが例えば0.5cmである場合、報知部314Cは、超音波プローブを-X側に2マス分(1.0cm)移動するようにユーザーに報知する。
【0065】
本実施形態でも、上記第一実施形態と同様に、ユーザーは、例えば超音波測定結果で得られる内部断層画像の確認等をすることなく、また、専門的な知識がなくても、超音波プローブ10を適正な位置に移動させることができる。
【0066】
[変形例]
なお、本発明は上述の各実施形態及び変形例に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良、及び各実施形態を適宜組み合わせる等によって得られる構成は本発明に含まれるものである。
【0067】
上記第一実施形態から第三実施形態では、超音波プローブ10の筐体40に対して超音波デバイス20の位置が固定されているため、報知部314Cは、ユーザーに超音波プローブ10の移動を促す報知を行う例を示した。
これに対して、超音波プローブ10において、生体に貼着された筐体40に対して超音波デバイス20を所定範囲内で相対的に移動可能な構成であれば、超音波デバイス20を移動させるように報知してもよい。
【0068】
上記第一実施形態及び第二実施形態において、本開示の超音波素子として送受信列Chを例示した。これに対して、第三実施形態の位置検出用超音波アレイAr2に配置される各超音波トランスデューサーTrのように、各々の超音波トランスデューサーTrをそれぞれ個別に駆動可能な構成としてもよい。この場合、各超音波トランスデューサーTrが本開示の超音波素子を構成する。このような超音波トランスデューサーTrは、2次元アレイ構造に配置されてもよく、1次元アレイ構造に配置されてもよい。
【0069】
上記実施形態では、超音波プローブ10を生体に貼着する例を示すが、その他の対象に貼着してもよい。超音波プローブ10を貼着する対象としては、例えばコンクリート構造体等の無機物等を例示できる。
【0070】
さらに、上記第一実施形態から第三実施形態において、超音波プローブ10が、本開示の超音波装置に相当する旨を説明したが、超音波システム1を本開示の超音波装置としてもよい。つまり、上記第一実施形態から第三実施形態では、超音波プローブ10に組み込まれた制御基板30に制御部31が搭載され、当該制御部31を構成するプロセッサー314が、本開示の判定部314B、報知部314C,及び補正部314Eとして機能する例である。これに対して、超音波プローブ10の各送受信列Chから出力される受信信号が、そのまま端末装置50に送信される構成とし、端末装置50を、本開示の判定部314B、報知部314C,及び補正部314Eとして機能させてもよい。つまり、端末装置50は、記憶部及びプロセッサーを備えた一般的なコンピューターであり、プロセッサーが記憶部に記録されたプログラムを読み込み実行することで、判定部314B、報知部314C,及び補正部314Eとして機能させることができる。
【0071】
[本開示のまとめ]
本開示の第一態様の超音波装置は、超音波を送信し、検査対象の内部で反射された前記超音波を受信して受信信号を出力する超音波素子が複数アレイ状に配置された超音波送受部と、複数の前記超音波素子で前記超音波を受信した際に各々の前記超音波素子から出力される前記受信信号に基づいて、前記検査対象に対する前記超音波送受部の位置が適正か否かを判定する判定部と、前記判定部により前記検査対象に対する前記超音波送受部の位置が不適正と判定された場合に、前記超音波送受部の位置変更をユーザーに報知する報知部と、を備える。
これにより、ユーザーは、例えば超音波測定結果で得られる内部断層画像の確認等をすることなく、また、専門的な知識がなくても、超音波送受部を適正な位置に移動させることができる。すなわち、検査対象の適正な位置に容易に超音波デバイスのアライメント調整を行うことができる。
【0072】
本態様の超音波装置において、前記判定部は、各々の前記超音波素子から出力される前記受信信号に対して、前記受信信号が正常であるか否かを判定し、各々の前記受信信号に対応する前記超音波素子について、前記検査対象に対する前記超音波素子の位置が適正であるか否かを判定することが好ましい。
本態様では、個々の超音波素子のそれぞれに対して正常な受信信号が得られているか否かを判定するので、例えば、超音波送受部のどの部分の位置が検査対象に対して不適正な位置となっているかを判定することができる。これにより、超音波送受部の位置が不適正と判定される場合に、どの方向に超音波送受部を移動させるのがよいかを決定することができる。
【0073】
本態様の超音波装置において、前記判定部は、前記受信信号における信号値のピークが検出された後、前記信号値が所定の第一閾値以下となるまでの減衰時間が所定の第一時間以下である場合に前記受信信号が正常であると判定することが好ましい。
超音波送受部と検査対象との間に気泡があって多重反射が生じている場合や、凹凸部分に超音波プローブ10が貼着されることで、複数の箇所で多重反射された超音波が送受信列Chで受信される場合では、受信信号の信号値が許容範囲を超えてオーバーレンジとなったり、受信信号の減衰時間が長くなったり(いわゆる、尾引き)し、適正な測定が実施できない。これに対して、本態様では、受信信号が許容範囲以内であり、かつ、減衰時間が第一時間以下となる受信信号を正常であると判定するので、超音波送受部と検査対象との間に気泡がある場合や、貼着位置が凹凸となっている場合を適切に判定できる。
【0074】
本態様の超音波装置において、前記報知部は、前記判定部による各々の前記超音波素子についての判定結果に基づいて、前記超音波送受部を移動させるべき方向を報知することが好ましい。
これにより、ユーザーは、どの方向に超音波送受部を移動させればよいかを容易に知ることができ、利便性の向上を図れる。
【0075】
本態様の超音波装置において、前記判定部は、正常であると判定された前記受信信号の数が所定の許容数以上であるか否かをさらに判定し、前記報知部は、前記判定部により正常であると判定された前記受信信号の数が前記許容数未満である場合に、前記検査対象に対する前記超音波送受部の位置変更を報知することが好ましい。
本態様では、正常な受信信号が許容数未満である場合に、超音波送受部の位置変更を報知する。よって、わずかに異常な受信信号が出力された場合は、超音波送受部の位置変更は報知しない。これによって、許容数以上の正常な受信信号が得られれば良いので、ユーザーに超音波送受部の位置変更を過剰に促すことがなくなり、利便性の向上を図れる。
【0076】
本態様の超音波装置において、前記判定部により正常であると判定された前記受信信号の数が前記許容数以上である場合に、正常ではないと判定された前記受信信号を、正常であると判定された前記受信信号に基づいて補正する補正部を備えることが好ましい。
上記態様では、異常と判定された受信信号の数が僅かであり、正常な受信信号が許容数以上得られていれば測定が継続されるが、異常な受信信号をそのまま用いると測定誤差が発生し、異常な受信信号を用いないで測定を継続すると測定精度が低下する。これに対して、本態様では、補正部によって、異常な受信信号の信号値を、正常な受信信号に基づいて補正するため、測定誤差の発生や、測定精度の低下を抑制することができる。
【符号の説明】
【0077】
1…超音波システム、10,10A…超音波プローブ(超音波装置)、20,20A…超音波デバイス、21…超音波基板、30…制御基板、31…制御部、40…筐体、50…端末装置、311…送信回路、312…受信回路、313…記憶部、314…プロセッサー、314A…測定制御部、314B…判定部、314C…報知部、314D…結果出力部、314E…補正部、Ar1…超音波アレイ、Ar2…位置検出用超音波アレイ、Ar3…正常位置範囲、O…生体、Tr…超音波トランスデューサー。