(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027729
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】採光装置
(51)【国際特許分類】
F21S 11/00 20060101AFI20240222BHJP
【FI】
F21S11/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022130777
(22)【出願日】2022-08-18
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久野 悠太
(57)【要約】
【課題】ライトシェルフから採り込まれる開口部近傍への自然光を抑制し、建物奥側へ採り込まれる自然光を増やす採光装置を提供する。
【解決手段】採光装置10は、建物1の開口部5の上部に固定され、外方に向けて下方に傾斜する上パネル部12と、上パネル部に連続し、外方から室内に向けて下方に傾斜する下パネル部13と、を有するライトシェルフ11を備えている。上パネル部12は、自然光を透過する透過部を有しており、下パネル部13は、透過部を透過した一部の自然光を室内側に反射させる反射面13aを有し、透過部のうち、建物側の領域12Aの単位面積あたりの自然光の透過率に比べて、外方側の領域12Bの単位面積あたりの自然光の透過率が高く、外方側の領域を透過した自然光は、反射面13aを反射して開口部5を通過し、建物側の領域を透過した自然光は、反射面を反射せず、開口部5を通過する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自然光を建物の開口部を通して室内に採り込む採光装置であって、
前記採光装置は、
前記建物の開口部の上部に固定され、外方に向けて下方に傾斜する上パネル部と、前記上パネル部に連続し、外方から室内に向けて下方に傾斜する下パネル部と、を有するライトシェルフを備えており、
前記上パネル部は、自然光の一部が透過するものであり、
前記下パネル部は、前記上パネル部を透過した一部の自然光を室内側に反射させる反射面を有し、
前記上パネル部のうち、建物側の領域の単位面積あたりの自然光の透過率に比べて、外方側の領域の単位面積あたりの自然光の透過率が高く、
前記外方側の領域を透過した自然光は、前記反射面に反射して前記開口部を通過し、
前記建物側の領域を透過した自然光は、前記反射面に反射せず、前記開口部を通過することを特徴とする採光装置。
【請求項2】
前記建物側の領域と前記外方側の領域とには、自然光を透過する複数の貫通孔が形成されており、
前記建物側の領域に形成された単位面積あたりの貫通孔の開口面積率は、前記外方側の領域に形成された単位面積あたりの貫通孔の開口面積率よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の採光装置。
【請求項3】
前記上パネル部は、透明な材料からなる板材と、前記板材に貼り付けられたフィルムで形成されており、
前記建物側の領域に貼り付けられたフィルムの自然光の透過率は、前記外方側の領域に貼り付けられたフィルムの自然光の透過率よりも低いことを特徴とする請求項1に記載の採光装置。
【請求項4】
前記上パネル部および前記下パネル部は、側面視において、水平線に対して線対称に配置されていることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の採光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の外壁面に開口する開口部を通して自然光を室内に採り込む採光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の採光装置としては、屋外側に張出した採光部と、壁を貫いた導光部と、屋内側に張出した放光部と、を備えた採光装置が提案されている。この採光装置は、採光部と放光部に、それぞれ上向きの透光パネルを有し、採光部の透光パネルは屋外側に向かって下り勾配で傾斜している。放光部内には、屋内側に向かって上り勾配で傾斜した第1反射板と第2反射板とが、屋外側から屋内側に連設されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記構造の採光装置は、庇下部の日射遮蔽は可能であるが、庇上部からの日射は遮蔽できないとともに、庇上部で反射させた自然光は室奥に届き難く、窓際だけが明るくなり、窓際の熱負荷増大や眩しさが生じる問題点があった。また、屋外、室内への突出部が大きく、構成が複雑となる問題点があった。
【0005】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであって、建物の開口部上部に設置されたライトシェルフから採り込まれる開口部近傍への自然光を抑制し、建物奥側へ採り込まれる自然光を増やすことで、開口部近傍の熱負荷増大や眩しさを抑制できる採光装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題に鑑みて、本発明に係る採光装置は、自然光を建物の開口部を通して室内に採り込む採光装置であって、前記採光装置は、前記建物の開口部の上部に固定され、外方に向けて下方に傾斜する上パネル部と、前記上パネル部に連続し、外方から室内に向けて下方に傾斜する下パネル部と、を有するライトシェルフを備えており、前記上パネル部は、自然光の一部が透過するものであり、前記下パネル部は、前記上パネル部を透過した一部の自然光を室内側に反射させる反射面を有し、前記上パネル部のうち、建物側の領域の単位面積あたりの自然光の透過率に比べて、外方側の領域の単位面積あたりの自然光の透過率が高く、前記外方側の領域を透過した自然光は、前記反射面に反射して前記開口部を通過し、前記建物側の領域を透過した自然光は、前記反射面に反射せず、前記開口部を通過することを特徴とする。
【0007】
前記のごとく構成された本発明の採光装置によれば、上パネル部の建物側の領域は、外方側の領域に比べて自然光の透過率が低いため、透過した自然光が、窓などの開口部から室内に直接採り込まれたとしても、自然光による熱負荷の増大が抑えられる。一方、上パネル部の外方側の領域は、建物側の領域に比べて自然光の透過率が高いため、透過した自然光が、下パネル部の反射面で反射して室内の奥まで効果的に採り込まれる。
【0008】
この結果、たとえば窓際など開口部近傍における直射日光などの自然光による熱負荷の増大を抑制するとともに、室内奥まで反射光を送ることができる。このため、反射光により室内照度を改善し、照明用電力を削減することができる。なお、単位面積あたりの自然光の透過率とは、その領域を通過する前の自然光の光量に対する、その領域を通過した後の自然光の光量のことである。
【0009】
より好ましい態様としては、前記建物側の領域と前記外方側の領域とには、自然光を透過する複数の貫通孔が形成されており、前記建物側の領域に形成された単位面積あたりの貫通孔の開口面積率は、前記外方側の領域に形成された単位面積あたりの貫通孔の開口面積率よりも小さい。
【0010】
この態様によれば、複数の貫通孔の大きさおよび貫通孔の配置密度などを設定することにより、貫通孔の開口面積率を変更し、建物側の領域と外方側の領域との自然光の透過率を調整した上パネル部を簡単に作製することができる。この結果、直射日光の遮光および反射光の取り込みを最適に行うことができる。さらに、開口部に窓が設置されない場合には、上パネル部に形成された貫通孔から室内に外気を取り込むことができる。
【0011】
なお、ここでいう「建物側の領域に形成された単位面積あたりの貫通孔の開口面積率」とは、上パネル部を平面視したときに、建物側の領域の全体面積(貫通孔を含む面積)に対する建物側の領域に形成された全ての貫通孔の総開口面積の割合のことをいう。同様に、「外方側の領域に形成された単位面積あたりの貫通孔の開口面積率」とは、上パネル部を平面視したときに、外方側の領域の全体面積(貫通孔を含む面積)に対する外方側の領域に形成された全ての貫通孔の総開口面積の割合のことをいう。
【0012】
上述した貫通孔の開口面積率の関係を満たすべく、たとえば、前記建物側の領域の単位面積あたりの貫通孔の個数を、前記外方側の領域の各貫通孔の単位面積あたりの貫通孔の個数よりも少なくしてもよい。別の態様としては、前記建物側の領域の各貫通孔の大きさを、前記外方側の領域の各貫通孔の大きさよりも小さくしてもよい。これらの態様によれば、建物側の領域および外方側の領域に形成される各貫通孔の個数または大きさを設定することにより、建物側の領域と外方側の領域との自然光の透過率を調整した上パネル部を簡単に作製することができる。
【0013】
より好ましい態様としては、前記上パネル部は、透明な材料からなる板材と、前記板材に貼り付けられたフィルムで形成されており、前記建物側の領域に貼り付けられたフィルムの自然光の透過率は、前記外方側の領域に貼り付けられたフィルムの自然光の透過率よりも低い。
【0014】
この態様によれば、上パネル部は、透明な板材にフィルムが貼り付けられているので、建物側の領域をムラなく均一に透過した自然光を、室内に直接採り込むことができる。一方、外方側の領域をムラなく均一に透過した自然光を、反射面に反射させて、室内奥に採り込むことができる。さらに、上パネル部自体には、貫通孔等が形成されていないので、下パネル部の反射面に対して、外気からの埃および塵等が付着し難いため、反射面の清掃を低減することができる。
【0015】
より好ましい態様としては、前記上パネル部および前記下パネル部は、側面視において、水平線に対して線対称に配置されている。この態様によれば、上パネル部および下パネル部は、側面視において、水平線に対して線対称に配置されているので、建物側の領域を透過した自然光を直接的にバランス良く採り込み、外方側の領域を透過した自然光を、室内奥までバランス良く到達させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ライトシェルフにおいて、自然光の透過率が比較的低い建物側の領域を透過した光を開口部近傍に採り込み、透過率が比較的高い外方側の領域を透過した光を反射させて室内奥側に採り込むことができ、窓際の熱負荷を抑制し、室内奥の室内照度を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る採光装置の一実施形態の要部構成を示す斜視図である。
【
図2】
図1に示す採光装置の一部を分解した状態の斜視図である。
【
図3】
図1に示す採光装置の中央部縦断面図である。
【
図4】
図1に示す採光装置のライトシェルフの分解斜視図である。
【
図5A】(a)は、
図1に示す採光装置の上パネル部の他の実施形態の分解状態を示す斜視図であり、(b)は、(a)に示す上パネル部の斜視図である。
【
図5B】(a)は、
図1に示す採光装置の上パネル部の他の実施形態の分解状態を示す斜視図であり、(b)は、(a)に示す上パネル部の斜視図である。
【
図7】
図6に示す採光装置の要部を拡大した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る採光装置の一実施形態を図面に基づき詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る採光装置の要部構成を示す斜視図、
図2は、
図1に示す採光装置一部を分解した状態の斜視図、
図3は、
図1に示す採光装置の中央部縦断面図、
図4は、
図1に示す採光装置のライトシェルフの分解斜視図である。
【0019】
図1~4において、本実施形態の採光装置10は、自然光を建物1の開口部5を通して室内6側に採り込む装置である。建物1は、
図1では模式的に表しているが、外装材として屋根材2、壁材3、床材(図示せず)等で形成されており、壁材3は鉛直面の外壁面3aを構成し、開口部5は外壁面3aに開口している。建物1は木質系、鉄骨系、コンクリート系等、適宜適用できるものである。本例では、建物1の開口部5には、ガラス等の透明材の窓7が窓枠8で支持され設置されている。
【0020】
採光装置10は、建物1の開口部5の上部の窓枠8の外側に固定されている。採光装置10は、建物1の開口部5の上部に庇のように突出して固定され、外方に向けて下方に傾斜する上パネル部12と、上パネル部12に連続し、外方から室内に向けて下方に傾斜する下パネル部13と、を有するライトシェルフ11を備えている。
【0021】
ライトシェルフ11は、金属板材を板金加工して形成されている。ライトシェルフ11は、下板部11aと、下板部11aの長手方向に沿って連続して折り返された折り返し部11bと、下板部11aの長手方向の両端部から立ち上げた側板部11c、11cと、2つの側板部を水平に連結する連結部11dと、を備えている。下板部11aは下パネル部13を兼用している。
【0022】
側板部11c、11cは、側面視において、水平線HLに対して線対称に配置され、二等辺三角形状に形成されている。すなわち、側板部11c、11cの上辺は、下板部11aと同じ傾斜角度で折り曲げられ、上傾斜部11eと下板部11aとが同じ傾斜角度に形成されている。
【0023】
具体的には、上傾斜部11eと下板部11aとの角度をαとすると、水平線HLと上傾斜部11eとの角度は(α/2)であり、水平線HLと下板部11aとの角度も(α/2)である。したがって、ライトシェルフ11の上パネル部12と下パネル部13との成す角度はαとなり、上パネル部12と下パネル部13とは、水平線HLを挟んで、同じ角度α/2で傾斜する。
【0024】
ライトシェルフ11の側板部11c、11cは、連結部11dにより連結されている。連結部11dは、下方傾斜部11fを備えている。上パネル部12は、下方傾斜部11f、上傾斜部11e、および折り返し部11bにより形成された支持面で、支持されている。上傾斜部11eと、連結部11dの下方傾斜部11fとは、溶接、ビス等で固定されている。ライトシェルフ11は、開口部5の上部に固定され、庇として機能する。ライトシェルフ11は、連結部11dの水平部に形成された固定孔と、側板部11c、11cに形成された固定孔にビス等を通して窓枠8周囲の壁材3に固定される。
【0025】
ライトシェルフ11では、下方傾斜部11f、上傾斜部11e、11e、折り返し部11bにより、上パネル部12の支持面が形成され、この支持面に上パネル部12が固定される。上パネル部12は金属板材で形成され、自然光を透過する複数の貫通孔15を有している。
図1~
図4に示す本実施形態では、複数の貫通孔15の配置密度等を変更することで開口面積を調整し、自然光の透過率(貫通孔15の開口面積率)を変更している。
【0026】
上パネル部12は、平面視で長方形をしており、幅aの建物側の領域12Aと、幅bの外方側の領域12Bとを有している。建物側の領域12Aは、壁材3の外壁面3aに接近する領域であり、外方側の領域12Bは、建物側の領域12Aよりも外側の領域で、建物1から離れた領域である。一方、上パネル部12は、建物側の領域12Aの単位面積あたりの自然光の透過率に比べて、外方側の領域12Bの単位面積あたりの自然光の透過率が高くなるように設定されている。単位面積あたりの自然光の透過率とは、その領域を通過する前の自然光の光量に対する、その領域を通過後の自然光の光量のことである。
【0027】
本実施形態では、建物側の領域12Aと外方側の領域12Bとには、自然光を透過する複数の貫通孔15が形成されている。建物側の領域12Aに形成された単位面積あたり貫通孔15の開口面積率は、外方側の領域12Bに形成された単位面積あたりの貫通孔15の開口面積率よりも小さい。
【0028】
具体的には、建物側の領域12Aに形成された単位面積あたりの貫通孔15の開口面積率は、上パネル部12を平面視したときに、建物側の領域12Aに形成された全ての貫通孔15の総開口面積を、建物側の領域12Aの全体面積(貫通孔を含む矩形状の面積)で除算することにより算出される。同様に、外方側の領域12Bに形成された単位面積あたりの貫通孔15の開口面積率は、上パネル部12を平面視したときに、外方側の領域12Bに形成された全ての貫通孔15の総開口面積を、外方側の領域12Bの全体面積(貫通孔を含む矩形状の面積)で除算することにより算出される。
【0029】
建物側の領域12Aと外方側の領域12Bとに形成された貫通孔15の大きさは同じであり、これらは円形であり、これらの直径は同じである。上述した関係を満たすべく、本実施形態では、建物側の領域12Aでは、外方側の領域12Bに比べて、複数の貫通孔15の配置密度(上パネル部12の単位面積当たりの貫通孔数)を少なくすることで開口面積を減らして透過率が相対的に低くなるようにしている。本実施形態では、建物側の領域12Aと外方側の領域12Bに形成された貫通孔15は、それぞれ別々の等ピッチで形成されており、建物側の領域12Aの隣接する貫通孔15のピッチは、外方側の領域12Bの隣接する貫通孔15のピッチよりも広い。
【0030】
上パネル部12は、ライトシェルフ11の上部に、(α/2)の傾斜角度で、外方に向けて下方に傾斜して固定される。上パネル部12の傾斜角度(α/2)は、説明の便宜上、20°程度に傾斜している。後述するように上パネル部12と下パネル部13との成す角度αは、太陽の高度が45°~75°に変化することを想定すると、53°から124°の範囲に設定すると好ましい。
【0031】
本実施形態では、上パネル部12および下パネル部13は、側面視において、水平線に対して線対称に配置されている。したがって、上パネル部12と下パネル部13との成す角度αが、53°から124°の範囲にある場合、上パネル部12の水平面に対する傾斜角度は26.5°から62°の範囲であり、同様に下パネル部13の水平面に対する傾斜角度も26.5°から62°の範囲である。
【0032】
ライトシェルフ11の上パネル部12は、自然光に対して非透過性を有した材料からなる。具体的には、上パネル部12は、複数の貫通孔15が形成された金属板材であり、下パネル部13は、下板部11aであり、下板部11aの上面は反射面13aとなっている。
【0033】
下パネル部13は、金属材料からなり、自然光を反射するように、鏡面加工された反射面13aを有してもよい。この他にも、反射面13aとしては、反射フィルムを貼着したもの、鏡を固定したもの等を用いてもよい。反射面13aは、ライトシェルフ11の上パネル部12の複数の貫通孔15を透過した一部の自然光を室内側に反射させる機能を有する。
【0034】
具体的には、下パネル部13では、外方側の領域12Bを透過した自然光は、反射面13aで反射され、開口部5の窓7を通過して室内6側に進むように構成されている。また、建物側の領域12Aを透過した自然光は、反射面13aに至らず、開口部5の窓7を通過して直接室内6側に進むように構成されている。
【0035】
前記の如く構成された本実施形態の採光装置10の作用について以下に説明する。
図3に示すように、建物1の開口部5に固定されたライトシェルフ11の上パネル部12に、太陽からの自然光が当たると、上パネル部12に形成された複数の貫通孔15を通して、開口部5から室内6に自然光が採り込まれる。建物側の領域12Aの単位面積あたりの自然光の透過率に比べて、外方側の領域12Bの単位面積あたりの自然光の透過率が高いため、建物側の領域12Aの透過光量が少なく、外方側の領域12Bの透過光量が多くなる。
【0036】
建物側の領域12Aを透過する自然光R1は、外方側の領域12Bと比較して、相対的に透過率が低いため、熱エネルギーの小さい自然光R1が室内6の開口部5近傍に到達する。これに対して、外方側の領域12Bを透過する自然光R2は、建物側の領域12Aと比較して、相対的に透過率が高いため、熱エネルギーの大きい自然光R2は、下パネル部13の反射面13aで反射され、室内6の奥まで到達する。
図3に示すように、たとえば、ライトシェルフ11の角度αを小さくすると、反射光は天井に向けて室内6側に進むが、角度αを大きくすると、水平方向あるいは下方に向けて進む。したがって、建物1の室内6の奥行きの大きさに合わせて角度αを設定することが好ましい。
【0037】
このように、建物側の領域12Aを透過した自然光R1は、開口部5の近傍の室内6に直接進むため、窓7付近の熱負荷を抑制することができ、眩しさを低減することができる。また、外方側の領域12Bを透過した自然光R2は、下パネル部13を構成する下板部11aの反射面13aで反射され、室内6の奥側まで進むことができる。このため、室内奥の照度を増やすことができ、照明用の電力を削減できる。また、建物1の開口部5に窓7がない場合、上パネル部12に穿設された複数の貫通孔15を通して外気が流通するため、室内6に外気を取り込むことができる。
【0038】
つぎに、
図5A、
図5Bを参照して、採光装置の他の実施形態を説明する。これらの採光装置が、
図1~
図4に示すものと相違する点は、上パネル部12の構造である。したがって、この点のみを以下に説明する。
【0039】
図5A(a)、(b)に示すように、上パネル部12は、ガラスまたは樹脂などの透明な材料からなる板材(ガラス板または透明樹脂板)21と、板材21に貼り付けられたフィルム22で形成されている。板材21は矩形状であり、フィルム22は、自然光の一部を透過するフィルムである。したがって、この実施形態では、上パネル部12全体が、自然光を透過する透過部となる。
【0040】
ここで、フィルム22は、板材21の建物側の領域21Aと外方側の領域21Bに貼り付けられている。板材21の建物側の領域21Aと外方側の領域21Bとには、自然光を透過する透過率が異なるフィルム22A、22Bが貼り付けられている。具体的には、板材21の建物側の領域21Aに貼り付けられたフィルム22Aの自然光の透過率は、板材21の外方側の領域21Bに貼り付けられたフィルム22Bの自然光の透過率よりも低い。これにより、建物側の領域12Aの単位面積あたりの自然光の透過率に比べて、外方側の領域12Bの単位面積あたりの自然光の透過率が高くなる。
【0041】
このようにして、上パネル部12のうち、建物側の領域12Aの単位面積あたりの自然光の透過率に比べて、外方側の領域12Bの単位面積あたりの自然光の透過率を高くすることができる。なお、フィルム22Aとフィルム22Bは、樹脂製のフィルムに着色料または染料等を含有させることにより、自然光の透過率を調整することができる。
【0042】
図5Aに示す実施形態によれば、上パネル部12は、透明な板材21にフィルム22(22A、22B)が貼り付けられているので、上パネル部12に自然光がムラなく透過する。したがって、建物側の領域12Aをムラなく均一に透過した自然光を、室内に直接採り込むことができる。一方、外方側の領域12Bをムラなく均一に透過した自然光を、反射面13aに反射させて、室内奥に採り込むことができる。さらに、上パネル部12自体には、貫通孔15等が形成されていないので、下パネル部13の反射面13aに対して、外気からの埃および塵等が付着し難いため、反射面13aの清掃を低減することができる。
【0043】
図5Bに示す実施形態が、
図5Aに示す実施形態と相違する点は、上パネル部12を構成するフィルムである。したがって、他の構成は同じであるので、その詳細な説明を省略する。
図5B(a)、(b)に示すように、本実施形態では、透明な板材21に、自然光を透過しない遮光性を有したフィルム23が貼り付けられている。フィルム23には、上述した貫通孔15と同様の配置関係で、複数の貫通孔25が形成されている。
【0044】
本実施形態では、フィルム23は、光を透過しないフィルムであり、たとえば、黒色のフィルムであってもよく、アルミ箔などの金属箔の一方側(外方側)の表面に、樹脂フィルムがラミネートされたものであってもよい。
【0045】
本実施形態では、フィルム23のうち、建物側の領域23Aと外方側の領域23Bとに形成された貫通孔25の大きさは同じであり、これらは円形であり、これらの直径は同じである。建物側の領域23Aと外方側の領域23Bに形成された貫通孔25は、それぞれ別々の等ピッチで形成されており、建物側の領域23Aの隣接する貫通孔25のピッチは、外方側の領域23Bの隣接する貫通孔25のピッチよりも広い。
【0046】
このようにして、上パネル部12のうち、建物側の領域23Aの単位面積あたりの自然光の透過率に比べて、外方側の領域23Bの単位面積あたりの自然光の透過率を高くすることができる。なお、このような透過率の関係を満たすことができるのであれば、フィルム22に形成された貫通孔25のピッチおよび大きさは、特に限定されず、上述した貫通孔15の大きさおよび配置密度で例示したものであってもよい。たとえば、複数の貫通孔25の配置密度を同じに設定し、建物側の領域23Aに位置する複数の貫通孔25の直径を小さくし、外方側の領域23Bに位置する複数の貫通孔25の直径を大きくしてもよい。また、複数の貫通孔25の直径を変化させるとともに、配置密度も変更することで、上述した透過率の関係を満たすようにしてもよい。
【0047】
図5Bに示す実施形態によれば、
図5Aの実施形態で示した効果に加えて、遮光性を有した一枚のフィルム23に、貫通孔25を設けることにより、建物側の領域12Aと外方側の領域12Bとの単位面積あたりの自然光の透過率を簡単に調整することができる。
【0048】
ここで、
図6、
図7を参照して、太陽高度、採光装置10の形状や寸法について検討する。まず、太陽高度は45°から75°の範囲とし、冬至等の太陽高度の低い季節については室内に採り込まれる自然光が少ないため除外する。また、ライトシェルフ11の上パネル部12と、下パネル部13との成す角度αは前記のように53°から124°の範囲とする。
【0049】
まず、ライトシェルフ11の外壁面3aからの奥行(突出量)Lについて
図6を参照して検討する。
図6に示すL、H、H’、およびθは、以下のとおりである。
L:ライトシェルフの奥行(mm)
H':ライトシェルフの下端高さ(mm)
H:ライトシェルフの全高さ(mm)
θ:太陽高度(°)
【0050】
図6から明らかなようにLは以下の式(1)のように表すことができる。
L=( H' + H/2 ) × tan(90 - θ)…(1)
【0051】
(1)式に、太陽高度θとして、45°と、75°を代入し、ライトシェルフ11の下端高さH'として、1300mmと、2100mmを代入し、ライトシェルフ11の全高さHとして、600mmを代入すると、以下の表1に示す結果を得ることができる。
【0052】
【0053】
表1から、Lは、最小値として429mm、最大値として2400mmとなる。したがって、ライトシェルフ11の奥行の寸法Lは429~2400mmとなる。
【0054】
つぎに、建物側の領域12Aの幅aと、外方側の領域12Bの幅bについて、検討する。幅aおよび幅bは、以下の式(2)および式(3)により算出することができる。
a=H/2 - H (1 - tanα' × tan(90 - θ)) / 2(1 + tanα' × tan(90 - θ))…(2)
b=H (1 - tanα' × tan(90 - θ)) / 2(1 + tanα' × tan(90 - θ))…(3)
【0055】
ここで、以下の式(4)および式(5)のように、A、Bの値を定義する。
A=1 + tan α' × tan(90 - θ)…(4)
B=1 - tan α' × tan(90 - θ)…(5)
【0056】
この式(4)および式(5)を式(1)および式(2)に代入すると以下a、bは以下の式(6)、(7)のように
a=H/2 - H × B/2A…(6)
b=H × B/2A…(7)
となる。
【0057】
前記の各式に、太陽高度θとして75°を代入し、ライトシェルフ11の下端高さH'として1300mmと、2100mmを代入し、ライトシェルフ11の全高さHとして、600mmを代入すると、以下の表2に示す結果を得ることができる。
【0058】
【0059】
表2より、a/bは、0.33~1.29の範囲が得られる。したがって、上パネル部12の建物側の領域の幅aと、外方側の領域の幅bとの比は、0.33~1.29の範囲から選択することができる。
【0060】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。本発明は、或る実施形態の構成を他の実施形態の構成に追加したり、或る実施形態の構成を他の実施形態と置換したり、或る実施形態の構成の一部を削除したりすることができる。
【0061】
なお、
図1~4では、上パネル部12の貫通孔15のピッチを調整することにより、建物側の領域12Aと外方側の領域12Bとの単位面積あたりの貫通孔15の個数を調整した。しかしながら、建物側の領域12Aと外方側の領域12Bとの単位面積あたりの自然光の透過率を、上述した関係に調整することができるのであれば、建物側の領域12Aと外方側の領域12Bとの貫通孔15のピッチを同じにし、建物側の領域12Aの貫通孔15の大きさを、外方側の領域12Bの貫通孔15の大きさよりも小さくしてもよい。
【0062】
さらに、上述した実施形態では、上パネル部12と下パネル部13とを別体としたが、たとえば、鋼板またはアルミニウム板などの金属板のうち、上パネル部12に相当する部分に貫通孔15を穿設した後、これをくの字状に屈曲させることにより、これらを一体的に成形してもよい。
【符号の説明】
【0063】
1:建物、5:開口部、6:室内、10:採光装置、11:ライトシェルフ、12:上パネル部、12A:建物側の領域、12B:外方側の領域、13:下パネル部、13a:反射面、15:貫通孔、21:板材、22,23:フィルム