(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027742
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】高隠蔽性ナノ粒子膜とその作製方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/02 20060101AFI20240222BHJP
G02B 5/26 20060101ALI20240222BHJP
A61Q 1/00 20060101ALI20240222BHJP
A61K 8/19 20060101ALI20240222BHJP
A61K 8/25 20060101ALI20240222BHJP
C09D 11/00 20140101ALI20240222BHJP
【FI】
C01B33/02 Z
G02B5/26
A61Q1/00
A61K8/19
A61K8/25
C09D11/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022130810
(22)【出願日】2022-08-18
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000822
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル知財
(72)【発明者】
【氏名】杉本 泰
(72)【発明者】
【氏名】藤井 稔
【テーマコード(参考)】
2H148
4C083
4G072
4J039
【Fターム(参考)】
2H148FA05
2H148FA07
2H148FA15
4C083AB171
4C083AB172
4C083BB23
4C083CC12
4C083FF01
4G072AA01
4G072BB05
4G072BB09
4G072DD04
4G072DD05
4G072GG01
4G072GG03
4G072HH13
4G072JJ18
4G072LL02
4G072MM02
4G072MM03
4G072MM36
4G072NN21
4G072NN27
4G072PP14
4G072TT01
4G072TT30
4G072UU09
4G072UU30
4J039BA12
4J039BA21
4J039BA35
4J039BE01
4J039EA21
(57)【要約】
【課題】より少ない塗装回数で、高い隠蔽性を実現でき、色相を調整できる高隠蔽性ナノ粒子膜を提供する。
【解決手段】屈折率3以上の無機ナノ粒子を含む厚さ100~220nmの膜であって、可視光領域における反射率が60%以上、透過率が20%以下である。屈折率3以上の無機ナノ粒子とは、シリコン(Si)、GaAs、GaP、InPなどである。無機ナノ粒子を含む厚さ100~220nmの膜とは、粒子径がほぼ均一な無機ナノ粒子で形成された単層膜、2層又は3層の多層膜、或いは、異なる粒子径の無機ナノ粒子が少なくとも2種以上含む混合膜である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈折率3以上の無機ナノ粒子を含む厚さ100~220nmの膜であって、可視光領域における反射率が60%以上、透過率が20%以下であることを特徴とする高隠蔽性ナノ粒子膜。
【請求項2】
前記膜は、前記無機ナノ粒子で形成された単層膜であることを特徴とする請求項1に記載の高隠蔽性ナノ粒子膜。
【請求項3】
前記膜は、前記無機ナノ粒子で形成された2層又は3層の多層膜であることを特徴とする請求項1に記載の高隠蔽性ナノ粒子膜。
【請求項4】
前記膜は、異なる粒子径の前記無機ナノ粒子が少なくとも2種以上含む混合膜であることを特徴とする請求項1に記載の高隠蔽性ナノ粒子膜。
【請求項5】
前記膜は、前記無機ナノ粒子の反射率もしくは吸収率を補填する無機又は有機のナノ粒子が更に含まれることを特徴とする請求項1に記載の高隠蔽性ナノ粒子膜。
【請求項6】
前記膜は、可視光領域における隠蔽率が80%以上であることを特徴とする請求項1に記載の高隠蔽性ナノ粒子膜。
【請求項7】
前記無機ナノ粒子は、消光係数が0.1以下であることを特徴とする請求項1に記載の高隠蔽性ナノ粒子膜。
【請求項8】
請求項1~7の何れかの高隠蔽性ナノ粒子膜を有する化粧用品。
【請求項9】
請求項1~7の何れかの高隠蔽性ナノ粒子膜の作製方法であって、
粒子径が調製された前記無機ナノ粒子を含有するインクを塗布するステップ、を含むことを特徴とする高隠蔽性ナノ粒子膜の作製方法。
【請求項10】
請求項1~7の何れかの高隠蔽性ナノ粒子膜の作製方法であって、
前記無機ナノ粒子の粒子径を制御し、所望の色相の膜に調製するステップ、を含むことを特徴とする高隠蔽性ナノ粒子膜の作製方法。
【請求項11】
請求項1~7の何れかの高隠蔽性ナノ粒子膜の作製方法であって、
前記無機ナノ粒子の粒子径を制御し、可視光領域における所望の波長域の隠蔽率を高めた膜に調製するステップ、を含むことを特徴とする高隠蔽性ナノ粒子膜の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光領域において高い隠蔽性を有するナノ粒子膜とその作製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
顔料を着色材料(化粧品、インクなど)として用いる際には、顔料に含まれる微粒子の光散乱を利用して、透過性を低下させ隠蔽性を高くする必要がある。微粒子の材料は、屈折率が高いほど散乱効率が大きくなり、隠蔽性が高くなるため、これまで一般的に二酸化チタン(屈折率2.5)が用いられてきた。
【0003】
また、化粧品など色を向上させるナノ粒子を含む組成物として、ヒュームドシリカ、ヒュームドアルミナ、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、二酸化チタンなどから選択されるナノ粒子と、二酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化亜鉛、酸化鉄などから選択される顔料と、スルホポリエステル樹脂、ポリ酢酸ビニル、アクリル樹脂などから選択される皮膜形成剤またはワックスから構成される組成物が知られている(特許文献1を参照)。かかる組成物では、光透過、吸収、及び散乱をコントロールでき、高い色の彩度を可能する。
また、二酸化チタンの粒子を含み、その粒子サイズが200~500nmの合算粒度分布D50を有する粒子状組成物と、ナトリウム、カリウム、アンモニウム及びそれらの混合物から選択される対イオンを有するポリアクリレート又はポリアクリレート誘導体からなる粒子状懸濁剤と、水とを含む角質表面を改善する処置組成物が知られている(特許文献2を参照)。
これらの組成物の場合、透過性を低く、隠蔽性を高くするために二酸化チタンの微粒子が用いられている。
【0004】
一方、本発明者らは、既に、半永久的に変色・退色せず、単色性が高く、高解像度を実現できるインク及びその作製方法を提案している(特許文献3を参照)。これは、高屈折率誘電体ナノ粒子(シリコンなど)が、ミー共鳴により、可視波長域で非常に大きな光散乱を示すこと、周期配列構造を用いない発色性ナノ構造体として利用できることに着目し、インク(分散溶液)形成、平均粒子径(90~300nm)の制御により、単一の粒子で可視域(青~赤色)ないし近赤外領域(800~1200nm)で高い散乱光を発生させたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2011-509256号公報
【特許文献2】特表2019-508365号公報
【特許文献3】特願2019-200333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の化粧品において、透過性を低く、隠蔽性を高くするために主に二酸化チタンの微粒子が用いられているが、二酸化チタンでは、数μm以下の膜厚では隠蔽性は不十分であり、濃色色調 (青~黒茶) の隠蔽力ではカバーできないという問題があり、また二酸化チタンの微粒子で形成された膜の色相は白色に限られてしまう。高い隠蔽性を実現するには、微粒子の含有量を高め、膜厚を数μmから数十μmにする必要があるが、複数回の塗装が必要で、剥がれ易いなどの問題が生じる。そのため、より少ない塗装回数で、高い隠蔽性を実現でき、色相を調整できる化粧品の組成物が要望されている。
【0007】
また、インクにおいても、下地の模様が見えないようにするために複数回の塗装を行うケースがある。そのため、より少ない塗装回数で、高い隠蔽性を実現できるインクが要望されている。
【0008】
かかる状況に鑑みて、本発明は、より少ない塗装回数で、高い隠蔽性を実現でき、色相を調整できる高隠蔽性ナノ粒子膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく、本発明者らは、屈折率が3以上の無機材料のナノ粒子(直径100~220nm)を用いて、単層または2層もしくは3層の多層の粒子膜が、高い隠蔽性を有することを確認し、本発明の高隠蔽性ナノ粒子膜を完成した。本発明の高隠蔽性ナノ粒子膜では、粒径分布の異なるナノ粒子を用いることにより、高い隠蔽性と色相の調整を同時に実現できた。
【0010】
すなわち、本発明の高隠蔽性ナノ粒子膜は、屈折率3以上の無機ナノ粒子を含む厚さ100~220nmの膜であって、可視光領域における反射率が60%以上、透過率が20%以下であることを特徴とする。
屈折率3以上の無機ナノ粒子とは、例えば、シリコン(Si)、GaAs、GaP、InPなどが挙げられる。なお、シリコンの屈折率は4.32であり、無機化合物であるGaAsの屈折率は4.27、GaPの屈折率は3.6、InPの屈折率は3.0である。これらに特に限定されないが、屈折率nが3以上の無機材料のナノ粒子を用いて、本発明の高隠蔽性ナノ粒子膜が構成される。ここで、屈折率は、波長に依存するが波長500nmの値をいうものとする。なお、無機ナノ粒子は、シリコンやGaAsなど屈折率が4以上であることが好ましく、更に好ましくは、地球上で酸素の次に多い元素で、土壌や岩石、天然水、樹木、植物などに含まれ、半導体に多く用いられるシリコンである。
【0011】
また、無機ナノ粒子を含む厚さ100~220nmの膜とは、粒子径がほぼ均一な無機ナノ粒子で形成された単層膜、2層又は3層の多層膜、或いは、異なる粒子径の無機ナノ粒子が少なくとも2種以上含む混合膜であってもよい。100~220nmの膜厚を1種類の粒子径で実現する場合、単層の場合では粒子径(直径)を揃え、その粒子径と膜厚が等しいものであり、2層の場合では粒子径(直径)を揃え、その粒子径の2倍と膜厚が等しいものである。また、100~220nmの膜厚を2種以上の粒子径で実現する場合、異なる粒子径を混合させて膜厚を100~220nmに調製する。
【0012】
また、可視光領域における反射率が60%以上、透過率が20%以下とは、例えば、500~600nmの可視光領域において、膜の法線方向から照射させた入射光に対して、膜を反射する拡散反射光の割合、膜を透過する拡散透過光の割合をいう。無機ナノ粒子の粒子径は、均一であっても、不均一であってもよい。また、異なる粒径のナノ粒子の混合膜にすることで、可視光領域(400~760nm)の全域にわたり、反射率が60%以上、透過率が20%以下を実現し、広い範囲で光を散乱することで、透過率を低減(隠蔽)ができる。これは、波長λ(nm)の光が無機ナノ粒子(屈折率n)に入射した場合、ナノ粒子中で実効波長λ/n(nm)となり、光の実効波長λ/n(nm)がナノ粒子の直径に等しくなるときに定在波が形成され、最低次のミー共鳴が生じるが、ナノ粒子の散乱断面積は狭帯域であるが、粒子径の異なるナノ粒子を用いることにより、広帯域の散乱(隠蔽)が可能になる。
【0013】
本発明の高隠蔽性ナノ粒子膜における膜は、異なる粒子径の無機ナノ粒子が少なくとも2種以上含む混合膜である。異なる粒子径の無機ナノ粒子を含むことにより、可視光領域において広帯域の光散乱ができる。上記のとおり、粒子径の異なるナノ粒子を用いることにより、広帯域の散乱(隠蔽)が可能になるが、ナノ粒子の散乱断面積は狭帯域であり(半値幅が100~200nm)、少なくとも2種以上含むものである。ここで、ナノ粒子の粒子径は、平均粒径を意味し、ある一種の粒子径の分布は、標準偏差を平均粒径で除算した範囲(例えば、20~50%)である。
【0014】
本発明の高隠蔽性ナノ粒子膜における膜は、無機ナノ粒子の反射率もしくは吸収率を補填する無機又は有機のナノ粒子が更に含まれる。
ここで、反射率もしくは吸収率は、可視光領域に限定されず、可視光領域外の紫外領域、赤外領域も含まれる。可視光領域における隠蔽性、明るさ、色相を向上させるために反射率・吸収率を補填でき、可視光領域外(例えば、紫外領域)における反射率もしくは吸収率を補填できる。
【0015】
本発明の高隠蔽性ナノ粒子膜における膜は、可視光領域における隠蔽率が80%以上である。後述する実施例で示すとおり、平均粒子径150nmのシリコン粒子の場合には、可視光領域(400~760nm)における拡散透過率が約20%以下であり、可視光領域の隠蔽率は約80%以上である。
【0016】
本発明の高隠蔽性ナノ粒子膜において、無機ナノ粒子は、消光係数が0.1以下である。
屈折率3以上、かつ、消光係数が0.1以下の無機ナノ粒子の場合、該当する物性値を有するものとしては、例えば、シリコン(屈折率4.32、消光係数0.073)、GaP(屈折率3.6、消光係数0.006)が挙げられる。
【0017】
上述の本発明の高隠蔽性ナノ粒子膜を有する化粧用品、例えば、ファンデーション、リップスティック、アイシャドーが好適に用いることができる。本発明の高隠蔽性ナノ粒子膜に含まれる高い屈折率の無機ナノ粒子の光散乱を利用して、肌における可視光の反射率を高め、透過率を低下させ、隠蔽性が高くする。また、粒径分布の異なるナノ粒子を用いることにより、色相を調整でき、例えば、シリコンナノ粒子の粒子径が160~200nmの場合には、肌の色に近い色相に調整可能である。さらに、顔料と異なり発色する色素分子がなく、分解されて退色することがないため、半永久的に変色・退色しないメリットもある。
【0018】
本発明の高隠蔽性ナノ粒子膜の作製方法は、屈折率3以上の無機ナノ粒子で、粒子径を100~220nmに調製された無機ナノ粒子を含有するインクを塗布するステップを含む。粒子径が100~220nmに調製とは、前述のとおり、ナノ粒子の粒子径は、平均粒径を意味し、ある一種の粒子径の分布は、標準偏差を平均粒径で除算した範囲(例えば、20~50%)である。
【0019】
本発明の高隠蔽性ナノ粒子膜の作製方法は、屈折率3以上の無機ナノ粒子で、粒子径を100~220nmに制御し、所望の色相の膜に調製するステップを含む。粒子径が100~110nmの場合、ピンク系の色相になり、115~125nmの場合、ブルー系の色相になり、130~140nmの場合、グリーン系の色相になり、145~160nmの場合、イエロー系の色相になり、165nm~200nmでは、肌色系の色相の膜に調製できる。
【0020】
本発明の高隠蔽性ナノ粒子膜の作製方法は、屈折率3以上の無機ナノ粒子で、粒子径を100~220nmに制御し、可視光領域における所望の波長域の隠蔽率を高めた膜に調製するステップを含む。屈折率3以上の無機ナノ粒子の粒子径を100~220nmに制御することにより、可視光領域における所望の波長域の隠蔽率を制御することができる。また、2種以上の粒子径の無機ナノ粒子を混合させることにより、可視光領域において、広い波長域を隠蔽することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の高隠蔽性ナノ粒子膜によれば、高い隠蔽性と色相の調整を行えるといった効果がある。また、本発明の高隠蔽性ナノ粒子膜によれば、膜厚がナノ粒子の直径程度で、可視光領域における透過率が20%以下まで抑えることができるといった効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】Siナノ粒子とTiO
2ナノ粒子の可視光領域における反射率の比較グラフ(シミュレーションによる計算値)
【
図2】Siナノ粒子とTiO
2ナノ粒子の可視光領域における透過率の比較グラフ(シミュレーションによる計算値)
【
図3】Siナノ粒子における粒子径の違いによる反射スペクトルの違いを示すグラフ(シミュレーションによる計算値)
【
図4】Siナノ粒子膜(平均粒径180nm±70nm、標準偏差40%)のSEM像
【
図5】粒子径サイズを分離したSiナノ粒子膜の反射スペクトル
【
図6】Siナノ粒子膜(実施例)とTiO
2ナノ粒子膜(比較例)の可視光領域における隠蔽性の比較結果
【
図8】Siナノ粒子膜(実施例)とTiO
2ナノ粒子膜(比較例)の可視光領域および紫外光領域における拡散透過率の説明図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態の一例を、図面を参照しながら詳細に説明していく。なお、本発明の範囲は、以下の実施例や図示例に限定されるものではなく、幾多の変更及び変形が可能である。
【実施例0024】
図1,2は、それぞれシリコンナノ粒子(Siナノ粒子ともいう)と二酸化チタンナノ粒子(TiO
2ナノ粒子ともいう)の可視光領域における反射率の比較グラフ(何れも時間領域差分法によるシミュレーション結果)を示している。ナノ粒子とは、ナノメーターサイズの粒子を指し、Siナノ粒子は、結晶性Siで形成された球形粒子で、粒子径(直径)がナノメーターサイズである。
以下の条件で、シミュレーションを行ったところ、同じ粒子径(150nm程度)のSiナノ粒子において、可視光領域(470~570nm)の散乱効率がTiO
2ナノ粒子と比べて、5~10倍であり、反射率が60%以上、透過率が20%以下であることが確認された。ここで、シミュレーション条件は、Siナノ粒子とTiO
2ナノ粒子の粒子径(直径)は共に150nmで、結晶構造は六方格子配列(周期200nm)であり、それぞれの材料の屈折率、消光係数として、シリコンの屈折率は5.57~3.7、消光係数は0.387~0.007(屈折率、消光係数は、共に、400~800nmの波長域において波長が長くなるに従って単調減少)、二酸化チタンの屈折率は2.5(400~800nmの波長域において凡そ一定)、消光係数は0とした。なお、シリコンの屈折率と消光係数は波長に依存するため、次の文献に記載された値を参照している(Handbook of Optical Constants of Solids, Edward D. Palik. Academic Press, Boston, 1985)。
【0025】
図1,2から、Siナノ粒子の場合、既存の材料(TiO
2ナノ粒子)よりも可視光領域の特定波長(470~570nm)で、はるかに高い反射率(低い透過率)を実現できることが分かった。
【0026】
次に、Siナノ粒子における粒子径の違いによる反射スペクトルの違いについて、シミュレーションを行った結果を
図3に示す。
図3のグラフのシミュレーションは、Siナノ粒子の粒子径(直径)が80、100、120、140、160、180、200、220nmのそれぞれの場合における可視波長域の反射率を計算したものであり、結晶構造は六方格子配列(周期は、粒子径に50nmを加算)とした。
図3のグラフから、粒子径により反射光の波長を制御できることが分かった。また、異なる粒子径(100~220nm)からなる混合膜を作製することによって、可視光領域(400~760nm)の広い範囲を反射(隠蔽)できることが分かった。
なお、六方格子配列の周期パラメータを固定しているため、80nmの粒子径では周期が130nm(=80nm+50nm)となり密度が低く反射率が低下したシミュレーション結果になっているが、シミュレーション条件によっては可視光領域において反射率を60%程度に高くすることが可能である。
【0027】
図4は、Siナノ粒子膜(平均粒径180nm±70nm、標準偏差40%)のSEM像を示す。ガラス基板上に形成したSiナノ粒子の単層膜であり、平均膜厚は180nmである。このSiナノ粒子の単層膜を用いて、試験紙の白背景と黒背景の2色の境界部分の上に、単層膜を配置し、隠蔽性の確認を行ったところ、十分な隠蔽性が有ることが確認できた。Siナノ粒子膜(平均粒径180nm±70nm、標準偏差40%)の色相は、褐色であった。
このSiナノ粒子の単層膜の拡散透過率スペクトルについては、
図8のグラフを参照して説明するが、拡散透過率は500nm以下で10%以下、可視光領域(400~760nm)の全領域で30%以下であった。また、300~400nmの紫外領域で拡散透過率が5%以下と低く、このことから紫外線防止効果があることが分かった。
【0028】
図5は、粒子径サイズを分離したSiナノ粒子膜の反射スペクトルを示している。平均粒子径を100~200nm±10~15%で制御して、それぞれの色相の違いを確認した。粒子径が100nmの場合、ピンク系の色相になり、123nmの場合、ブルー系の色相になり、140nmの場合、グリーン系の色相になり、157nmの場合、イエロー系の色相になり、171nm、182nm、192nmでは、肌色系の色相の膜に調製できる。これにより、高い隠蔽性と同時に、様々な色相に調整できるため、顔料が不要で化粧品としての利用には優位である。
【0029】
図6は、Siナノ粒子膜とTiO
2ナノ粒子膜の可視光領域における隠蔽性の比較結果を示している。Siナノ粒子膜は、上述のガラス基板上に形成したSiナノ粒子単層膜(平均粒径180nm±70nm、標準偏差40%)であり、TiO
2ナノ粒子膜は、直径200nm程度のTiO
2粒子膜(石原産業製ST-41)である。試験紙の白背景と黒背景の2色の境界部分の上に、Siナノ粒子膜(単層膜)、TiO
2ナノ粒子膜をそれぞれ配置し、隠蔽性の確認を行ったところ、TiO
2ナノ粒子膜では黒背景が透けて見え、隠蔽性が低かったのに対して、Siナノ粒子膜(単層膜)では、十分な隠蔽性が有ることが確認できた。
【0030】
図7、8を参照して、Siナノ粒子膜とTiO
2ナノ粒子膜の可視光領域および紫外光領域における拡散透過率、拡散反射率について説明する。
図7は、拡散透過率と拡散反射率の説明図であるが、拡散透過率は、ナノ粒子膜の法線方向から照射させた入射光(I
0)に対して、膜を透過する拡散透過光の割合(拡散透過率(%)=I
T/I
0×100)、拡散反射率は、入射光(I
0)に対して、膜を反射する拡散反射光の割合(拡散反射率(%)=I
R/I
0×100)である。
図8は、それぞれ、Siナノ粒子膜とTiO
2ナノ粒子膜の可視光領域および紫外光領域における拡散透過率を示している。
図8から、同程度のサイズ(平均粒子径200nm)のナノ粒子膜において、可視光領域において、Siナノ粒子膜の方が、TiO
2ナノ粒子膜よりも、拡散透過率が低く、隠蔽性が高いことが分かった。また、Siナノ粒子膜は、300~400nmの紫外領域でTiO
2ナノ粒子膜と同等の紫外線カット効果を有することが分かった。
【0031】
(Siナノ粒子膜の作製方法)
ここでは、粒子径が制御されたSiナノ粒子膜の作製方法の一例について
図9を参照して説明する。
市販されている一酸化ケイ素の粉末を原料として用い、一酸化ケイ素の粉末を単体シリコンの融点(1414℃)より低い温度条件から融点より高い温度条件(1350~1600℃)、例えば1450℃で、窒素(N
2)雰囲気で30分間アニール処理を行う(ステップS1)。アニール処理後に得られる粉末は、Siナノ粒子を含有する二酸化ケイ素の粒子である。アニール処理された粉末に対してフッ化水素酸(HF)を用いてエッチングを行う(ステップS2)。フッ化水素酸によりエッチングすることにより、二酸化ケイ素の部分だけがエッチングされ、粒子内に含有されていたSiナノ粒子を取り出す。エッチングの後、極性溶媒としてメタノールを用いて、メタノールとエッチング液を置換する(ステップS3)。その後、超音波ホモジナイザーで攪拌し、メタノール中でSiナノ粒子を分散させ、分散液に対して密度勾配遠心分離法(4500rpm;60分間)を用いてSiナノ粒子の粒径を揃える(ステップS4)。Siナノ粒子をガラス基板上に自己集積させることで成膜する(ステップS5)。なお、Siナノ粒子の分散液に、ポリビニルピロリドン(PVP)等の透明性樹脂を添加し、混練させた後、成膜してもよい。
以上の処理により、粒子径が制御されたSiナノ粒子膜を作製することができる。