(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027743
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】チャック装置
(51)【国際特許分類】
B24B 41/06 20120101AFI20240222BHJP
B23Q 3/08 20060101ALI20240222BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20240222BHJP
H01L 21/683 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
B24B41/06 L
B23Q3/08 Z
H01L21/304 622G
H01L21/68 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022130812
(22)【出願日】2022-08-18
(71)【出願人】
【識別番号】391011102
【氏名又は名称】株式会社岡本工作機械製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100165423
【弁理士】
【氏名又は名称】大竹 雅久
(72)【発明者】
【氏名】山本 栄一
(72)【発明者】
【氏名】三井 貴彦
(72)【発明者】
【氏名】宇根 篤暢
(72)【発明者】
【氏名】吉冨 健一郎
【テーマコード(参考)】
3C016
3C034
5F057
5F131
【Fターム(参考)】
3C016DA15
3C034AA07
3C034BB71
3C034BB73
3C034BB75
3C034BB87
3C034DD10
5F057AA03
5F057AA33
5F057AA34
5F057BA12
5F057BA15
5F057BA21
5F057CA11
5F057DA02
5F057DA11
5F057FA14
5F057FA30
5F057FA45
5F131AA02
5F131CA32
5F131DA33
5F131DA42
5F131EA05
5F131EA06
5F131EA22
5F131EA24
5F131EB56
5F131EB63
5F131EB71
5F131EB78
5F131EC52
5F131EC53
5F131FA14
5F131FA32
(57)【要約】
【課題】ワークを好適に保持する極薄の水膜を高精度に効率良く形成することができ、且つ水膜で接合されたワークを容易に剥離することができるチャック装置を提供する。
【解決手段】基板状のワーク30を水膜20を介して保持するチャック10を有し、チャックは、ポーラス構造体から形成され、チャックのワークを保持する表面11には、ワークに対向する平坦面13が形成されている。これにより、チャックの表面に供給された過剰な水がポーラス構造体に吸収され、ワークを好適に保持することができる高精度な極薄の水膜を効率良く形成することができる。そして、ワークに対してポーラス構造体の粒子状物質12が直接的に接触することなく、ワーク全面に均一な荷重を与える。また、ワークの剥離も容易である。よって、半導体基板等のワークに対して歩留まりの良い高精度且つ高効率な薄層化加工及び搬送が実現する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板状のワークを水膜を介して保持するチャックを有し、
前記チャックは、ポーラス構造体から形成され、
前記チャックの前記ワークを保持する表面には、前記ワークに対向する平坦面が形成されていることを特徴とするチャック装置。
【請求項2】
前記ポーラス構造体は、粒子径0.5から10μmの粒子状物質から形成されており、
前記平坦面は、前記表面の全面積に対して20から50%の面積比率で形成されていることを特徴とする請求項1に記載のチャック装置。
【請求項3】
前記平坦面は、最大高さ粗さ(Rz)が0.1μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のチャック装置。
【請求項4】
前記ポーラス構造体は、前記表面を構成する第1のポーラス層と、前記第1のポーラス層の裏面側に積層された第2のポーラス層と、を有し、
前記第1のポーラス層は、前記第2のポーラス層よりも粒子径が小さいことを特徴とする請求項1に記載のチャック装置。
【請求項5】
前記水膜を形成する水を前記チャック若しくは前記ワークに供給する水供給装置を備え、
前記水供給装置は、前記水膜を形成する水として電解アルカリイオン水を供給することを特徴とする請求項1に記載のチャック装置。
【請求項6】
前記水膜を形成する水を前記チャック若しくは前記ワークに供給する水供給装置を備え、
前記水供給装置は、前記水膜を形成する水としてファインバブル水を供給することを特徴とする請求項1に記載のチャック装置。
【請求項7】
前記水膜を形成する水を前記チャック若しくは前記ワークに供給する水供給装置を備え、
前記水供給装置は、前記水膜を形成する水として水蒸気を供給することを特徴とする請求項1に記載のチャック装置。
【請求項8】
前記ワークを前記チャックに向かって押圧する押圧装置と、
前記チャックを前記表面に沿った方向に振動させる振動装置と、を有し、
前記チャック若しくは前記ワークに前記水膜を形成する水が供給され前記チャックに前記ワークが設けられた後、前記押圧装置は、前記ワークを押圧し、前記振動装置は、前記チャックを振動させることを特徴とする請求項1に記載のチャック装置。
【請求項9】
前記水膜を形成する水が前記チャック若しくは前記ワークに供給された後に前記チャックに前記ワークが設けられ、
前記水膜は、厚さ50から500nmに形成され、
前記ワークは、横拘束力10kPa以上で前記チャックに保持されることを特徴とする請求項1ないし請求項8の何れか1項に記載のチャック装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェーハ等の基板を保持するチャック装置に関し、特に、水膜によって基板を保持するチャック装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、半導体ウェーハ等の基板を研削、研磨する薄層化プロセス及び基板を搬送する搬送プロセス等において、ワークとなる基板をポーラスチャックに真空吸着することによって保持することが行われている。
【0003】
しかしながら、真空吸着によって基板を保持するチャック装置では、基板はポーラスチャックの気孔に吸引されるので、薄層化された基板の局所厚さにばらつきが生じてしまう。また、加工によって発生する研削屑等のスラッジがポーラスチャック等の真空系に吸い込まれ、基板をリリースする際にスラッジが逆流してポーラスチャックを汚す恐れがある。そうすると、以降の加工において、ポーラスチャックと基板との間にスラッジが残留し、そのスラッジによって基板の保持面にディンプルが発生し、加工精度を低下させる要因となる。また、搬送ハンドでは、上記のようなスラッジの付着は、薄層化された基板にクラックを発生させる要因となり、歩留まりを低下させる。また、真空吸着によって基板を保持するためには、ポーラスチャックを真空引きする真空装置が必要である。また、真空吸着によって基板を保持するチャック装置は、過大な反りを有する基板の保持が難しいという問題点もある。
【0004】
そこで、本願発明者らは、特許文献1に開示されているように、テンプレート基板チャックと半導体基板とを水膜で貼り合わせて半導体基板を研削する方法を提案している。具体的には、特許文献1には、テンプレート基板チャックの表面にスピンコートで水膜を形成する工程と、テンプレート基板チャックと半導体基板とを水膜によって貼り合わせて積層体を形成する工程と、積層体を回転させて水膜の厚みを減らす工程と、積層体の半導体基板の裏面を研削加工する工程と、平坦化された半導体基板をテンプレート基板チャックから分離する工程と、を具備する半導体基板の平坦化加工方法が開示されている。
【0005】
また、本願発明者らは、水膜によってチャック装置に保持された基板を薄層化加工後にチャックから容易に分離できる方法を提案している。具体的には、特許文献2には、水膜によってチャックに接合された半導体基板等のワークまたはその支持体をチャックの平坦面から容易に剥離できるよう水膜の保持力を低下させる分離装置が開示されている。
【0006】
例えば、同文献には、分離装置として、水膜にマイクロ波を照射して水膜を加熱して蒸発させる加熱装置、水膜に赤外線を照射する赤外線ヒータを有する加熱装置、及び、抵抗加熱式の電熱ヒータ等によって形成された発熱部を有する加熱装置等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2015-216281号公報
【特許文献2】特開2018-183848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に開示された従来技術のように、水膜によって半導体基板等のワークを保持するチャック装置は、ワークの保持及び分離を容易にして半導体基板等の生産性を高めるために改善すべき点があった。
【0009】
具体的には、水膜を利用する従来技術のチャック装置は、ワーク保持に適した極薄の水膜を形成するための水の除去が容易ではなく、好適な厚みの水膜を形成する工程に時間を要していた。
【0010】
即ち、従来技術のチャック装置は、好適な厚さの水膜を形成するために、チャックの表面に水が供給された後、チャックを高速回転させて過剰な水を除去する必要があった。そして、水膜の上に基板が載置された後においても、表面張力によって好適な強さで基板を保持できる水膜を形成するために、チャックを回転させて水膜の過剰な水を除去する工程が適用されてきた。
【0011】
また、特許文献2には、水膜によってチャックに固定されたワークを容易に剥離できる構成が開示されているが、同文献に開示された分離方法を実行するためには、上述の如く、水膜の保持力を低下させる特別な加熱装置等を備えた分離装置が必要である。そのため、特別な分離装置等を必要とせずに、容易に水膜の保持力を低下させ、薄層化されたワークを容易に分離できる技術が求められていた。
【0012】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ワークを好適に保持する極薄の水膜を高精度に効率良く形成することができ、且つ水膜で接合されたワークを容易に剥離することができるチャック装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のチャック装置は、基板状のワークを水膜を介して保持するチャックを有し、前記チャックは、ポーラス構造体から形成され、前記チャックの前記ワークを保持する表面には、前記ワークに対向する平坦面が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のチャック装置によれば、基板状のワークを水膜を介して保持するチャックを有し、前記チャックは、ポーラス構造体から形成されている。これにより、チャックの表面に供給された過剰な水がポーラス構造体に吸収されるので、ワークを好適に保持することができる高精度な極薄の水膜を効率良く形成することができる。また、水または空気等の流体を供給することにより、ワークとチャックとの分離も容易である。
【0015】
そして、前記チャックの前記ワークを保持する表面には、前記ワークに対向する平坦面が形成されている。これにより、極めて薄く加工される半導体基板等のワークに対して、水膜によりポーラス構造体を構成する粒子状物質の直接的な接触をなくし、ワーク全面に均一な荷重を与え、ワークを高精度な平坦状に保持することができる。よって、歩留まりの良い高精度且つ高効率な基板加工及び搬送が実現する。特に搬送に関しては、ワークを吸着する真空装置等を必要としないので装置を軽量化できる利点がある。
【0016】
また、本発明のチャック装置によれば、前記ポーラス構造体は、粒子径0.5から10μmの粒子状物質から形成されており、前記平坦面は、前記表面の全面積に対して20から50%の面積比率で形成されている。これにより、全表面において平坦面に好適な厚さの水膜を効率良く形成することができ、短時間でワークを好適に保持することができ、高精度且つ高効率なワークの加工及び搬送が可能となる。
【0017】
また、本発明のチャック装置によれば、前記平坦面は、最大高さ粗さ(Rz)が0.1μm以下でも良い。これにより、チャック装置で保持されたワークに対して高精度な平坦化加工を行うことができる。
【0018】
また、本発明のチャック装置によれば、前記ポーラス構造体は、前記表面を構成する第1のポーラス層と、前記第1のポーラス層の裏面側に積層された第2のポーラス層と、を有し、前記第1のポーラス層は、前記第2のポーラス層よりも粒子径が小さくても良い。これにより、粒子径が大きく流水抵抗が小さい第2のポーラス層で、粒子径が小さく高精度な平坦面を有する第1のポーラス層を支持することができ、高精度に平坦化された好適な保持が可能な水膜を短時間で効率良く形成することができる。また、チャック装置に保持されたワークをチャックから取り外す際には、水膜を厚くして保持力を低下させる水を第2のポーラス層の裏面側から効率良く供給することができる。よって、ワークをチャックから短時間で効率良く剥離することができ、半導体基板等の生産性を向上させることができる。
【0019】
また、本発明のチャック装置によれば、前記水膜を形成する水を前記チャック若しくは前記ワークに供給する水供給装置を備え、前記水供給装置は、前記水膜を形成する水として電解アルカリイオン水を供給しても良い。これにより、極薄で高精度に平坦化され好適な保持力を発揮する水膜を効率良く形成することができる。
【0020】
また、本発明のチャック装置によれば、前記水膜を形成する水を前記チャック若しくは前記ワークに供給する水供給装置を備え、前記水供給装置は、前記水膜を形成する水としてファインバブル水を供給しても良い。これにより、極薄で高精度に平坦化され好適な保持力を発揮する水膜を効率良く形成することができる。
【0021】
また、本発明のチャック装置によれば、前記水膜を形成する水を前記チャック若しくは前記ワークに供給する水供給装置を備え、前記水供給装置は、前記水膜を形成する水として水蒸気を供給しても良い。これにより、過剰な水の供給が少なく、極薄で高精度に平坦化され好適な保持力を発揮する水膜を効率良く形成することができる。
【0022】
また、本発明のチャック装置によれば、前記ワークを前記チャックに向かって押圧する押圧装置と、前記チャックを前記表面に沿った方向に振動させる振動装置と、を有し、前記チャック若しくは前記ワークに前記水膜を形成する水が供給され前記チャックに前記ワークが設けられた後、前記押圧装置は、前記ワークを押圧し、前記振動装置は、前記チャックを振動させても良い。これにより、過剰な水を効率良くチャックの空隙に送ることができ、従来技術では困難であった極薄の水膜を形成することができる。よって、高精度に平坦化され好適な保持力を発揮する水膜を効率良く形成することができる。
【0023】
また、本発明のチャック装置によれば、前記水膜を形成する水が前記チャック若しくは前記ワークに供給された後に前記チャックに前記ワークが設けられ、前記水膜は、厚さ50から500nmに形成され、前記ワークは、横拘束力10kPa以上で前記チャックに保持される。これにより、極薄で高精度に平坦化され好適な保持力を発揮する水膜を効率良く形成することができる。よって、半導体基板等のワークを高精度、高歩留まり且つ高効率に加工及び搬送することができ、半導体基板等の生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の実施形態に係るチャック装置の概略構成を示す図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るチャック装置のチャックの表面近傍を示す図である。
【
図3】本発明の実施形態に係るチャック装置の水供給の一例を示す図である。
【
図4】本発明の実施形態に係るチャック装置の水供給の他の例を示す図である。
【
図5】本発明の実施形態に係るチャック装置の水供給の他の例を示す図である。
【
図6】本発明の実施形態に係るチャック装置の押圧装置及び振動装置を示す図である。
【
図7】本発明の実施形態に係るチャック装置の剥離用流体供給の一例を示す図である。
【
図8】本発明の他の実施形態に係るチャック装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態に係るチャック装置を図面に基づき詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るチャック装置1の概略構成を示す図である。
図1に示すように、チャック装置1は、基板状のワーク30を水膜20によって保持する装置である。チャック装置1は、ワーク30を研削する図示しない研削装置、ワーク30を研磨する図示しない研磨装置、ワーク30を搬送する図示しない搬送装置等に設けられている。チャック装置1は、水膜20を介してワーク30を保持するチャック10を有する。
【0026】
チャック10は、ワーク30を保持する部材であり、略円板状の形態をなし、ポーラス構造体から形成されている。詳細については後述する。なお、図示を省略するが、研削等の加工時等にワーク30を回転させるため、チャック10の裏面側には、チャック10を支持する回転軸、回転軸を回動自在に支持する軸受、回転軸を介してチャック10を回転させる駆動源としてのモータ等が設けられても良い。
【0027】
また、チャック10の表面11の外周近傍には、ワーク30を位置決めするための図示しない複数の位置決めピン等が設けられても良い。位置決めピン等が設けられることにより、ワーク30をチャック10の表面11の略中央に保持することができる。
【0028】
ワーク30は、研削加工、研磨加工、搬送等の対象となる基板状のものであり、例えば、半導体基板、サポート基板、その他積層体等である。ワーク30としての半導体基板は、例えば、直径約300mmのシリコン基板等であっても良い。また、ワーク30の主面には回路等が形成されていても良い。
【0029】
ワーク30は、水膜20によってチャック10に接合された状態で、チャック10に対して反対側となる面である例えば上面が図示しない研削といし等によって研削または研磨される。これにより、ワーク30は、例えば厚さ10から20μmに形成される。このように、ワーク30としての半導体基板等は、水膜20によってチャック10に固定されて研削等されることにより、薄く且つ高平坦に加工される。
【0030】
なお、ワーク30が、一主面にデバイスが形成された半導体基板等である場合、チャック装置1は、ワーク30のデバイスが形成されていない裏面を保持することもできるし、デバイスが形成されたデバイス面を保持することもできる。よって、チャック装置1は、ワーク30のデバイス面研削等及び裏面研削等の双方の面の加工工程においてワーク30を保持する装置として利用することができる。
【0031】
また、チャック装置1に保持されるワーク30は、積層体であっても良い。即ち、チャック10の表面11には、半導体基板等と半導体基板等を支持する支持体からなる積層体が固定されても良い。
【0032】
具体的には、ワーク30としての積層体は、研削加工等の対象となる半導体基板等と、半導体基板等を固定する支持体としてのサポート基板と、を有し、半導体基板等とサポート基板は、例えば、シリコン樹脂等によって貼り合わされていても良い。
【0033】
積層体は、サポート基板の半導体基板等に対して反対側となる面が水膜20によってチャック10に接合されても良い。即ち、半導体基板等は、サポート基板及び水膜20を介してチャック10の上面に固定されても良い。
【0034】
ここで、サポート基板は、例えば、ガラス、金属、セラミック、合成樹脂等から形成される高剛性の板状体である。半導体基板等にサポート基板が貼り合わされることにより、半導体基板等の研削等や、薄く研削等された後の半導体基板等の搬送等を容易に実行することができる。
【0035】
また、チャック装置1は、サポート基板自体が研削加工等の対象となる場合に用いられても良い。即ち、ワーク30は、サポート基板等であっても良い。具体的には、チャック10の表面11には、水膜20によってワーク30としてのサポート基板等が固定され、サポート基板等の加工面は、半導体基板等の加工と同様に、図示しない研削といし等によって研削または研磨される。このように、半導体基板等を支持するために用いられるサポート基板等がチャック10に固定されて、サポート基板等の研削等が行われることにより、サポート基板等の主面を高精度に平坦化加工することができる。
【0036】
上述の如く、チャック装置1では、半導体基板、支持体またはそれらの積層体等である基板状のワーク30が、水膜20によってチャック10に接合されている。これにより、研削加工後のワーク30の厚さばらつきを小さくでき、ワーク30を高精度に平坦化することができる。
【0037】
また、ワーク30は、水膜20によって固定されるため、チャック10と接触しない。これにより、ワーク30がチャック10と接触することによるワーク30の傷つきを防止することができる。
【0038】
また、ワーク30は水膜20によって保持されるので、チャック10には、真空吸着チャックのように加工によって発生するスラッジが吸い込まれて残留することはない。よって、スラッジの付着に起因する加工精度の低下やクラックの発生等を抑制することができる。
【0039】
図2は、チャック装置1のチャック10の表面11近傍の概略構成を示す図である。
図2を参照して、チャック10は、ポーラス構造体から形成されている。具体的には、チャック10は、水膜20を形成する水が流通可能な空隙14を有するシリコン、セラミック等の多孔質体から形成されている。
【0040】
このような構成により、チャック10の表面11に供給された過剰な水は、ポーラス構造体からなるチャック10に吸収されるので、ワーク30を好適に保持することができる高精度な極薄の水膜20を効率良く形成することができる。
【0041】
詳しくは、チャック10のポーラス構造体は、粒子径0.5から10μm、好ましくは0.5から8μm、更に好ましくは0.5から5μmの粒子状物質12から形成されている。チャック10の表面11全体に対する後述する平坦面13の面積比率を大きくするためには粒子状物質12の粒子径を小さくすることが望ましい。これにより、過剰な水を効率良く吸収できると共に、ワーク30を好適な保持力で支持することができる好適な厚みの水膜20を形成することができる。即ち、短時間で好適な厚みの水膜20を形成することができる。
【0042】
そして、チャック10のワーク30を保持する表面11には、ワーク30に対向する平坦面13が形成されている。平坦面13とは、粒子状物質12に形成された平坦な面であり、ワーク30と粒子状物質12が水膜20を介して実際に接触する接触面である。
【0043】
このような平坦面13が形成されることにより、極めて薄く加工される半導体基板等のワーク30に対して、水膜20によりポーラス構造体を構成する粒子状物質12の直接的な接触をなくし、ワーク30の全面に均一な荷重を与え、水膜20を介してワーク30を高精度な平坦状に保持することができる。よって、歩留まりの良い高精度且つ高効率な基板加工及び搬送が実現する。
【0044】
具体的には、平坦面13は、チャック10の表面11の全面積に対して20から50%、更に好ましくは30から40%、の面積比率で形成されている。これにより、ワーク30を精密な平坦度で支持することができ、高精度な平坦化加工及び搬送が実現する。
【0045】
また、ポーラス構造体を形成する粒子状物質12の平坦面13の最大高さ粗さ(Rz)は、10kPa以上の横拘束力を実現可能な水膜20の厚さを形成できる必要がある。具体的には、平坦面13は、最大高さ粗さ(Rz)が0.1μm以下に形成されている。これにより、チャック装置1で保持されたワーク30に対して高精度な平坦化加工を行うことができる。なお、チャック10の表面11全体の最大高さ粗さ(Rz)は、例えば、約1μmになる。
【0046】
即ち、前述のとおり、ポーラス構造体が好適な粒子径の粒子状物質12から形成され、且つ、チャック10の表面11に好適な面性比率で好適な面粗さの平坦面13が形成されていることにより、チャック10の全表面11において、平坦面13に好適な厚さの水膜20を効率良く形成することができる。これにより、短時間でワーク30を好適に保持することができ、高精度且つ高効率なワーク30の加工及び搬送が可能となる。
【0047】
図3は、チャック装置1の水供給の一例を示す図である。なお、
図3において矢印は、水の流れ方向の概略を示している。
図3に示すように、チャック装置1は、水膜20を形成する水をチャック10に供給する水供給装置21を有する。
【0048】
水供給装置21は、チャック10の表面11に水膜20を形成するための水を供給する装置である。即ち、チャック装置1によれば、水膜20を形成する水が、水供給装置21からチャック10の表面11に供給される。例えば、ワーク30を保持する表面11が上方になるようチャック10が略水平に設けられる場合には、上方にある水供給装置21からチャック10の表面11に水が滴下されても良い。
【0049】
そして、チャック10の表面11に水が供給された後、
図2に示すように、チャック10の表面11にワーク30が設けられる。即ち、例えば、表面11が上方になるようチャック10が略水平に設けられる場合には、水が滴下されたチャック10の表面11にワーク30が搭載されるようにワーク30若しくはチャック10が送られる。
【0050】
水が供給されたチャック10の表面11にワーク30が接合されると、前述のとおり、ワーク30とチャック10の表面11との間の過剰な水はチャック10に吸収され、好適な厚さの水膜20が形成される。
【0051】
詳細については後述するが、具体的には、ワーク30を押圧しチャック10に振動を与えることにより、過剰な水がチャック10に吸引され、水膜20は、厚さ50から500nmに形成される。これにより、ワーク30を、横拘束力10kPa以上でチャック10で保持することができる。即ち、ワーク30は、水膜20の表面張力を利用した好適な保持力でチャック10の表面11に保持されることになる。なお、横拘束力とは、チャック10の表面11に対してワーク30を横方向、即ち表面11に沿った方向、に拘束する力であり、チャック10とワーク30との間の横せん断応力に略相当する力である。
【0052】
このように、チャック装置1は、極薄で高精度に平坦化され好適な保持力を発揮する水膜20を効率良く形成することができる。よって、半導体基板等のワーク30を高精度、高歩留まり且つ高効率に加工及び搬送することができ、半導体基板等の生産性を向上させることができる。
【0053】
図3を参照して、水供給装置21は、水膜20を形成する水としてpH12以上の電解アルカリイオン水を供給する装置であっても良い。これにより、極薄で高精度に平坦化され好適な保持力を発揮する水膜20を効率良く形成することができる。
【0054】
また、水供給装置21は、水膜20を形成する水としてバブル径が100nm以下のファインバブル水を供給する装置であっても良い。これにより、極薄で高精度に平坦化され好適な保持力を発揮する水膜20を効率良く形成することができる。
【0055】
また、水供給装置21は、水膜20を形成する水として水蒸気を供給する装置であっても良い。即ち、水供給装置21は、加湿機能を有し、加湿され水蒸気を多く含む空気、即ち高湿度の空気、をチャック10の表面11に供給し、水蒸気の結露によってチャック10の表面11に好適な量の水を供給する。
【0056】
水供給装置21による加湿方式としては、例えば、電熱等によって水を蒸発させるスチーム方式、超音波を利用して水の微細な粒子を放出する超音波方式、その他方法で水を噴霧する噴霧方式、気化フィルタ及び送風ファン等を利用して水を気化させる気化方式等、種々の方式を採用することができる。
【0057】
このように、水供給装置21として水蒸気を供給する方式を採用することにより、過剰な水の供給が少なく、極薄で高精度に平坦化され好適な保持力を発揮する水膜20を効率良く形成することができる。
【0058】
図4は、チャック装置1の水供給の他の例を示す図である。なお、
図4において矢印は、水の流れ方向の概略を示している。
図4に示すように、水供給装置21は、チャック10の表面11に下方から水を供給するよう設けられても良い。即ち、チャック10が、ワーク30を保持する表面11が下方になるよう略水平に設けられている場合、水供給装置21は、チャック10の
図4において下面である表面11に、下方から水を供給する。
【0059】
具体的には、水供給装置21は、チャック10の表面11に水を吹き付けるように、または、水蒸気として水を供給するように設けられても良い。このような構成によってチャック10の表面11に水が供給されてワーク30が接合されても、好適な厚みの水膜20を効率良く形成することができる。
【0060】
なお、図示を省略するが、表面11が傾斜している状態、略垂直になっている状態等においても、水供給装置21は、水膜20を形成するための水をチャック10の表面11に供給することができる。そして、水分が供給された後にワーク30が接合されることにより、チャック装置1は、好適な水膜20を容易に形成することができる。
【0061】
前述のとおり、水供給装置21は、水膜20を形成する水として電解アルカリイオン水を供給する装置、ファインバブル水を供給する装置、及び水蒸気を供給する装置等であっても良い。例えば、水膜20を形成する水としてファインバブル水や水蒸気を供給する水供給装置21は、ワーク30を保持するチャック10の表面11が下方や側方に位置する場合であっても水膜20の形成に必要な適切な量の水を効率良く供給することができる。
【0062】
図5は、チャック装置1の水供給の他の例を示す図である。なお、
図5において矢印は、水の流れ方向の概略を示している。
図5に示すように、水供給装置21は、ワーク30のチャック10に保持される面に水を供給するよう設けられても良い。このようにワーク30に水を供給する構成によっても、水が供給された後にワーク30とチャック10が接合されることにより、過剰な水分がチャック10に吸引され、ワーク30の保持に適した厚みの水膜20を効率良く形成することができる。
【0063】
なお、ワーク30に水を供給する場合においても、チャック10の表面11に水を供給する場合と同様に、水が供給される面は、
図5に示す如く下方の水平面に限定されるものではない。図示を省略するが、ワーク30は、水が供給される面が上方、側方等になるよう配置されても良い。
【0064】
図6は、チャック装置1の押圧装置25及び振動装置27の概略を示す図である。
図6に示すように、チャック装置1は、ワーク30を押圧する押圧装置25と、チャック10を振動させる振動装置27と、を備えている。
【0065】
押圧装置25は、チャック10の表面11に接合されたワーク30を、矢印26で概略方向を示す如くチャック10に向かって押圧する装置である。例えば、押圧装置25は、空気圧によってワーク30を押圧する装置であっても良い。具体的には、押圧装置25は、ワーク30を覆う図示しないケース部、ケース部に送る空気を圧縮して高圧にする図示しない圧縮機等を有しても良い。
【0066】
振動装置27は、ワーク30が設けられたチャック10を、矢印28で概略方向を示す如く横振動、即ち表面11に沿った方向に振動させる装置である。振動装置27は、例えば、超音波振動装置であっても良い。また、押圧装置25及び振動装置27は、ワーク30を搬送し、チャック10に設置する図示しないワーク搬送装置に設けられても良い。
【0067】
前述のとおり、チャック10でワーク30を保持する際には、先ず、水供給装置21(
図3ないし
図5参照)によって、チャック10の表面11若しくはワーク30に、水膜20を形成する水が供給される。
【0068】
水膜20を形成する水が供給された後、チャック10とワーク30は、供給された水を介して接合される。そして、押圧装置25は、ワーク30をチャック10の表面11に押圧し、振動装置27は、チャック10に横振動を与える。これにより、ワーク30は、チャック10の表面11に直接的には接触しないが、水を挟んで表面11に擦り付けられるように振動する。
【0069】
このようにワーク30が押圧されチャック10に振動が与えられることにより、供給された過剰な水を効率良くチャック10の空隙14(
図2参照)に送ることができる。これにより、従来技術では困難であった極薄の水膜20を形成することができる。
【0070】
具体的には、ワーク30の押圧とチャック10の振動により、ワーク30とチャック10の間の過剰な水は効率良くチャック10に吸引される。そして、水膜20は、厚さ50から500nm、好ましくは200nm以下、更に好ましくは100nm以下、に均一に形成される。
【0071】
これにより、チャック10は、横拘束力10kPa以上でワーク30を保持することができ、水膜20を100nm以下に薄くすると、横拘束力20から50kPaでワーク30を保持することができる。即ち、水膜20の表面張力によるメニスカス力を利用して反りを矯正し、薄化した水膜20により横拘束力を発生させた好適な保持力でワーク30をチャック10の表面11に保持することができる。
【0072】
図7は、チャック装置1の剥離用流体供給の一例を示す図である。
図7に示すように、チャック装置1は、ワーク30をチャック10から取り外す際に利用される剥離用流体供給装置23を備えている。
【0073】
剥離用流体供給装置23は、図示しないポンプ等を有し、該ポンプ等の稼働により、チャック10とワーク30を剥離するための流体をチャック10の裏面に供給する。剥離用流体供給装置23から供給される流体は、例えば、水または空気である。なお、
図7において、流体の流れ方向の概略を矢印で示している。
【0074】
前述のとおり、チャック10はポーラス構造体から形成されているので、剥離用流体供給装置23からチャック10の裏面に供給された流体は、チャック10内の空隙14(
図2参照)を通過し、チャック10の表面11とワーク30との間に供給される。
【0075】
これにより、ワーク30を保持する水膜20を厚くし、チャック10の表面11とワーク30との間の距離を広げて、水膜20による保持力を低下させることができる。そして、ワーク30を容易に剥離することができる。
【0076】
例えば、剥離用流体供給装置23から空気が供給されることにより、水膜20は、チャック10を介して供給される空気によって押され、ワーク30とチャック10の間から外部に排出される。これにより、ワーク30とチャック10を接合している水膜20が除去され、ワーク30を容易に取り外すことができる。
【0077】
また例えば、剥離用流体供給装置23から水が供給されることにより、水膜20は厚くなる。これにより、水膜20の表面張力による吸着力が弱まり、水膜20の保持力が低下し、ワーク30を容易に取り外すことができる。
【0078】
また、ワーク30を分離する際、剥離用流体供給装置23によって、チャック10の外周近傍からチャック10の中央側に順次、水または空気等の流体が供給されても良い。これにより、ワーク30の外周近傍に水膜20の水や剥離用流体供給装置23から供給される流体の排出口を確保しつつ、剥離用流体供給装置23から流体を供給することができ、水膜20を好適に除去することができる。なお、剥離用流体供給装置23は、チャック10の裏面全体に略同時に流体を供給する構成でも良い。
【0079】
このように、剥離用流体供給装置23は、ポンプ等の稼働により、ワーク30とチャック10との間に効率良く水または空気等の流体を供給することができる。そして、研削等の加工によって極薄化されたワーク30に対して過大な力を加えずに、ワーク30をチャック装置1から容易に分離することができる。
【0080】
なお、剥離用流体供給装置23は、水膜20を形成する水をチャック10若しくはワーク30に供給する水供給装置21として利用することも可能である。剥離用流体供給装置23によってチャック10若しくはワーク30に高圧水を供給することで、チャック10の表面11上に水膜20を形成する水を噴霧することもできる。
【0081】
以上説明の剥離用流体供給装置23を備えることにより、チャック装置1は、高精度に超薄化される半導体基板等を固定する装置として用いることができる。チャック装置1によれば、高集積化された半導体基板等の極薄化かつ高均一化により、プロセスの高速化と、半導体基板等の高歩留り化が達成できると共に三次元化された半導体基板等の多層化を実現できる。
【0082】
図8は、本発明の他の実施形態に係るチャック装置101の概略構成を示す図である。なお、既に説明した実施形態と同一若しくは同様の作用、効果を奏する構成要素については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0083】
図8に示すように、チャック装置101は、多層構造のポーラス構造体からなるチャック110を有する。具体的には、チャック110を構成するポーラス構造体は、チャック110の表面11を構成する第1のポーラス層15と、第1のポーラス層15の裏面側に積層された第2のポーラス層16と、を有する。
【0084】
第1のポーラス層15は、既に説明したチャック10(
図2参照)のポーラス構造体と略同じ構成である。即ち、第1のポーラス層15は、シリコン、セラミック等の多孔質体から形成され、粒子径0.5から10μm、好ましくは0.5から8μm、更に好ましくは0.5から5μmの粒子状物質12から形成されている。
【0085】
そして、第1のポーラス層15の表面11には、全面積に対して20から50%、更に好ましくは30から40%、の面積比率でワーク30に対向する最大高さ粗さ(Rz)が0.1μm以下の平坦面13が形成されている。
【0086】
このような第1のポーラス層15により、極めて薄く加工される半導体基板等のワーク30を精密な平坦度で保持することができる。これにより歩留まりの良い高精度な平坦化加工を行うことができる。
【0087】
第2のポーラス層16は、第1のポーラス層15よりも粒子径が大きいシリコン、セラミック等の多孔質体から形成されている。換言すれば、第1のポーラス層15は、第2のポーラス層16よりも粒子径が小さい。
【0088】
具体的には、第2のポーラス層16は、粒子径10から100μmの粒子状物質17から形成されている。これにより、粒子径が大きく流水抵抗が小さい第2のポーラス層16で、水膜20を形成する水を効率良く吸収し、好適な厚みの水膜20を効率良く形成することができる。
【0089】
そして、第2のポーラス層16は、粒子径が小さく高精度な平坦面13を有する第1のポーラス層15を支持している。よって、第2のポーラス層16によって効率良く水が吸収されることにより、第1のポーラス層15の表面11に、高精度に平坦的された好適な保持が可能な水膜20を短時間で効率良く形成することができる。
【0090】
また、第2のポーラス層16は、第1のポーラス層15よりも粒子径が大きいので、剥離用流体供給装置23から供給される水または空気等の流体を効率良く流すことができる。よって、チャック装置101は、ワーク30をチャック110から取り外す工程を短時間で効率良く実行することができ、半導体基板等の生産性を向上させることができる。
【0091】
なお、図示を省略するが、第2のポーラス層16の裏面側には、更に他のポーラス層が形成されても良い。即ち、チャック110は、3層以上のポーラス層を有する多層構造のポーラス構造体から形成されても良い。これにより、ワーク30の吸着及び剥離を更に効率良く実行することができる高精度なチャック装置101が得られる。
【0092】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の変更実施が可能である。
【符号の説明】
【0093】
1、101 チャック装置
10、110 チャック
11 表面
12 粒子状物質
13 平坦面
14 空隙
15 第1のポーラス層
16 第2のポーラス層
17 粒子状物質
20 水膜
21 水供給装置
23 剥離用流体供給装置
25 押圧装置
27 振動装置
30 ワーク