(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027760
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】電力融通システム、電力融通方法、電力融通プログラム
(51)【国際特許分類】
H02J 3/00 20060101AFI20240222BHJP
H02J 3/06 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
H02J3/00 170
H02J3/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022130841
(22)【出願日】2022-08-19
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(71)【出願人】
【識別番号】500433225
【氏名又は名称】学校法人中部大学
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(71)【出願人】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 健洋
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 顕
(72)【発明者】
【氏名】飯岡 大輔
(72)【発明者】
【氏名】川原 純
(72)【発明者】
【氏名】山岡 宙太
(72)【発明者】
【氏名】杉村 修平
(72)【発明者】
【氏名】田邊 隆之
(72)【発明者】
【氏名】後藤 誠弥
【テーマコード(参考)】
5G066
【Fターム(参考)】
5G066AA03
5G066AA04
5G066AE01
5G066AE03
5G066AE09
(57)【要約】 (修正有)
【課題】配電系統における停電復旧スイッチ構成の切替手順中で新たな停電区間の発生を防止する。
【解決手段】方法は、配電系統のスイッチ構成すべてを圧縮したZDDのデータ構造を構築し、このZDDのデータ構造から事故時の区間をすべて含み、かつ、故障個所を含まない集合を実行可能な解集合ZDDとするS02。また、ZDDで表されたS01の各スイッチ構成それぞれについて「add演算」と「安全なswap演算」とを実行し、両演算の結果の和集合演算を行うS03。この和集合演算の結果と解集合ZDDとの共通集合演算を行うことにより、n+1手で得られるスイッチ構成に対して、各演算を行い、n+1手で切り替えられるスイッチ構成すべてを得る。これを繰り返すことで、すべての区間を含むスイッチ構成、即ちすべての区間が通電しているスイッチ構成又は区間最大数や停電量が最小のスイッチ構成を切替手順保存部5に保存して実行する。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の開閉器を備える配電系統の電力融通システムであって、
前記配電系統の情報を保持する系統設備データ部と、
前記系統設備データ部の保持情報を取得し、停電復旧の手順を算出する演算処理部と、
前記停電復旧後の切替手順を保持する切替手順保存部と、
を備え、
前記演算処理部は、
前記配電系統のスイッチ構成すべてを圧縮したゼロサプレス型二分決定グラフ(以下、ZDDとする。)のデータ構造から事故時の通電している区間をすべて含み、かつ故障個所を含まない集合を抽出し、抽出された集合を実行可能な解集合とし、
前記ZDDのデータ構造で表されたn(n=0以上の整数)手で切り替えられる各スイッチ構成それぞれについてadd演算とswap演算とを実行し、
前記add演算の実行により、前記開閉器を開状態から閉状態に変更して前記ZDDのデータ構造を作り変え、
前記swap演算の実行により、事故を発生させていない場合に限り、前記開閉器を開状態から閉状態に変更し、かつ別の開閉器を一つ閉状態から開状態に変更して前記ZDDのデータ構造を作り変え、
前記add演算と前記swap演算との結果の和集合演算を実行し、前記解集合と前記和集合との共通集合演算を行うことにより、n+1手で切り替えられるスイッチ構成の集合を取得し、
前記取得した集合を前記切替手順保存部に保持し、
前記切替手順保存部に保持した開閉器の開閉状態を実行することを特徴とする電力融通システム。
【請求項2】
前記各演算を行い前記開閉状態を切り替えながら、全区間が通電状態であるスイッチ構成が得られるまで前記演算を繰り返す
ことを特徴とする請求項1記載の電力融通システム。
【請求項3】
すべての区間が通電している集合が得られなかった場合には、区間最大数または停電量が最小の開閉状態を前記切替手順保存部に保持する
ことを特徴とする請求項1記載の電力融通システム。
【請求項4】
前記ZDDのデータ構造は、どの区間もただ1つの前記開閉器から供給を受けることで事故時の停電区間を極小化する放射状制約と、
前記配電系統内の各線路を許容電流以下にする線路容量制約と、
前記配電系統内の各箇所を許容電圧範囲内に収める電圧制約と、
を同時に満たすことを特徴とする請求項1記載の電力融通システム。
【請求項5】
複数の開閉器を備えた配電系統の情報を保持する系統設備データ部と、
前記系統設備データ部の保持情報を取得し、停電復旧の手順を算出する演算処理部と、
前記停電復旧後の切替手順を保持する切替手順保存部と、
を備えた配電系統の電力融通システムの実行する方法であって、
前記演算処理部が、
前記配電系統のスイッチ構成すべてを圧縮したゼロサプレス型二分決定グラフ(以下、ZDDとする。)のデータ構造から事故時の通電している区間をすべて含み、かつ故障個所を含まない集合を抽出し、抽出された集合を実行可能な解集合とするステップと、
前記ZDDのデータ構造で表されたn(n=0以上の整数)手で切り替えられる各スイッチ構成それぞれについてadd演算とswap演算とを実行し、
前記add演算の実行により、前記開閉器を開状態から閉状態に変更して前記ZDDのデータ構造を作り変え、
前記swap演算の実行により、事故を発生させていない場合に限り、前記開閉器を開状態から閉状態に変更し、かつ別の開閉器を一つ閉状態から開状態に変更して前記ZDDのデータ構造を作り変え、
前記add演算と前記swap演算との結果の和集合演算を実行するステップと、
前記解集合と前記和集合との共通集合演算を行うことにより、n+1手で切り替えられるスイッチ構成の集合を取得するステップと、
前記取得した集合を切替手順保存部に保持し、前記切替手順保存部に保持した開閉器の開閉状態を実行するステップと、
を有することを特徴とする電力融通方法。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか記載の電力融通システムとしてコンピュータを機能させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般送配電事業者の配電系統における電力融通の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
配電系統における電力の供給経路は、開閉器の開閉状態(スイッチ構成)によって放射状系統を形成している。配電系統に停電などの事故が発生した場合や工事等で計画的に停電を行う場合には、通常の経路からの電力供給が不可能となる。
【0003】
したがって、別の経路からの電力供給が必要となる。このときスイッチ構成を変更することで周辺の電力を融通する“別の経路”を算出する。その手法として、特許文献1および非特許文献1,2の技術が公知となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】井上武,高野圭司,渡辺喬之,川原純,岸本章宏,津田宏治,湊真一,林泰弘 “ZDDを用いた系統運用制約を満たす配電網構成の網羅的探索手法” 平成24年度電気学会全国大会,6-031(2012)
【非特許文献2】Takehiro Ito, Jun Kawahara, Yu Nakahata, Takehide Soh, Akira Suzuki, Junichi Teruyama, Takahisa Toda, “ZDD-Based Algorithmic Framework for Solving Shortest Reconfiguration Problems,”arXiv 2207.13959, 2022
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、系統構成データに基づき供給点が複数の需要点に繋がっているか否かを確認し、繋がっている場合に供給点を所定の仮想供給点に分割し、仮想供給点の供給量の合計が供給点と一致するように設定する。ところが、特許文献1では、木構造の多段融通は考慮されておらず、停電箇所が多く残る可能性があった。
【0007】
この点につき非特許文献1では、ゼロサプレス型二分決定グラフ(以下、ZDDとする。)と呼ばれるデータ構造を用いることで配電系統において実行可能な全てのスイッチ構成を圧縮して保持することを可能としている。これにより多段融通も考慮に入れた停電復旧のスイッチ構成を求めることができるものの、停電発生時のスイッチ構成から停電復旧のスイッチ構成への切替手順は求められなかった。
【0008】
そこで、非特許文献2では、ZDDのデータ構造を用いて、多段融通を考慮した停電復旧のスイッチ構成を算出するだけでなく、そのスイッチ構成への切替手順を同時に求めている。ここではZDDのデータ構造に対して、add演算とswap演算とを定義することで切替手順を算出している。
【0009】
しかしながら、この技術が算出する停電復旧スイッチ構成への切替手順では、その途中で新たな停電区間を発生させる場合があり、実運用への適用に問題を生じるおそれがあった。
【0010】
本発明は、このような従来の問題を解決するためになされ、配電系統における停電復旧スイッチ構成の切替手順中で新たな停電区間を発生させないことを解決課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明の一態様は、複数の開閉器を備える配電系統の電力融通システムであって、
前記配電系統の情報を保持する系統設備データ部と、
前記系統設備データ部の保持情報を取得し、停電復旧の手順を算出する演算処理部と、
前記停電復旧後の切替手順を保持する切替手順保存部と、
を備え、
前記演算処理部は、
前記配電系統のスイッチ構成すべてを圧縮したゼロサプレス型二分決定グラフ(以下、ZDDとする。)のデータ構造から事故時の通電している区間をすべて含み、かつ故障個所を含まない集合を抽出し、抽出された集合を実行可能な解集合とし、
前記ZDDのデータ構造で表されたn(n=0以上の整数)手で切り替えられる各スイッチ構成それぞれについてadd演算とswap演算とを実行し、
前記add演算の実行により、前記開閉器を開状態から閉状態に変更して前記ZDDのデータ構造を作り変え、
前記swap演算の実行により、事故を発生させていない場合に限り、前記開閉器を開状態から閉状態に変更し、かつ別の開閉器を一つ閉状態から開状態に変更して前記ZDDのデータ構造を作り変え、
前記add演算と前記swap演算との結果の和集合演算を実行し、前記解集合と前記和集合との共通集合演算を行うことにより、n+1手で切り替えられるスイッチ構成の集合を取得し、
前記取得した集合を前記切替手順保存部に保持し、
前記切替手順保存部に保持した開閉器の開閉状態を実行することを特徴としている。
【0012】
(2)本発明の他の態様は、複数の開閉器を備えた配電系統の情報を保持する系統設備データ部と、
前記系統設備データ部の保持情報を取得し、停電復旧の手順を算出する演算処理部と、
前記停電復旧後の切替手順を保持する切替手順保存部と、
を備えた配電系統の電力融通システムの実行する方法であって、
前記演算処理部が、
前記配電系統のスイッチ構成すべてを圧縮したゼロサプレス型二分決定グラフ(以下、ZDDとする。)のデータ構造から事故時の通電している区間をすべて含み、かつ故障個所を含まない集合を抽出し、抽出された集合を実行可能な解集合とするステップと、
前記ZDDのデータ構造で表されたn(n=0以上の整数)手で切り替えられる各スイッチ構成それぞれについてadd演算とswap演算とを実行し、
前記add演算の実行により、前記開閉器を開状態から閉状態に変更して前記ZDDのデータ構造を作り変え、
前記swap演算の実行により、事故を発生させていない場合に限り、前記開閉器を開状態から閉状態に変更し、かつ別の開閉器を一つ閉状態から開状態に変更して前記ZDDのデータ構造を作り変え、
前記add演算と前記swap演算との結果の和集合演算を実行するステップと、
前記解集合と前記和集合との共通集合演算を行うことにより、n+1手で切り替えられるスイッチ構成の集合を取得するステップと、
前記取得した集合を切替手順保存部に保持し、前記切替手順保存部に保持した開閉器の開閉状態を実行するステップと、を有することを特徴としている。
【0013】
(3)なお、本発明は、前記電力融通システムとしてコンピュータを機能させることを特徴とするプログラムとして構成することもできる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、配電系統における停電復旧スイッチ構成の切替手順中で新たな停電区間の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図4】(a)は
図1の放射状制約のみを満たすZDDのスイッチ構成図、(b)は同線路容量制約のみを満たすZDDのスイッチ構成図、(c)は同電圧制約のみを満たすZDDのスイッチ構成図、(d)は(a)~(c)のすべての共通集合演算結果を示すスイッチ構成図。
【
図5】本実施形態に係る電力融通システムの構成図。
【
図6】(a)はZDDのスイッチ構成図、(b)は本実施形態のスイッチ構成図。
【
図7】
図6中のe4で故障が発生した状態を示すスイッチ構成図。
【
図8】(a)は実行可能な解集合ZDDの構築前のスイッチ構成図、(b)は構築後のスイッチ構成図。
【
図9】(a)は「安全なswap演算」前のスイッチ構成図、(b)は同演算後のスイッチ構成図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態に係る電力融通システム(方法)を説明する。この電力融通システムは、一般送配電事業者の配電系統における電力融通計算のアルゴリズムを提供し、配電系統で事故停電が発生した場合や工事などで計画的に停電を行う場合に電力供給可能なスイッチ構成の探索と切替手順の算出とを図っている。
【0017】
≪ZDD≫
(1)前記電力融通システムは、非特許文献1,2のZDDを利用する。ZDDとは、「組合せの集合」を圧縮して表現するデータ構造である。
図1および
図2の配電系統例に基づきZDDを説明する。
【0018】
図2は、
図1の配電系統における全てのスイッチ構成を表している。すなわち、
図2において「s
i」とラベル付けされた各丸(ノード)は、配電系統の開閉器「s
i」に対応し、ノード「s
i」から出る矢印が実線であれば開閉器「s
i」が閉状態であることを示し、点線であれば開閉器「s
i」が開状態であることを示している。
【0019】
また、
図2の下端にある2つの四角10,11は、一方の10が制約条件を満たすことを示し、他方の11が制約条件を満たさないことを示している。したがって、
図2のノードを上から下に順に辿ることは、
図1の配電系統に対するスイッチ構成を一つ決定することに相当し、そのスイッチ構成が制約条件を満たすかどうかは、10,11のどちらの四角に辿り着くかで表現できる。
【0020】
図2に示すような方法でスイッチ構成を保持する場合、そのデータ量は膨大になるという問題があった。また、このデータ保持方法では、制約条件を満たさない事が明らかである開閉器の状態も保持しているなど冗長な情報が多分に含まれている。非特許文献1では、このような冗長性を省き、圧縮することで制約条件を満たす全てのスイッチ構成を効率よく計算し、データを保持することを可能とした(
図3参照)。このデータの圧縮表現がZDDの特徴である。
【0021】
また、ZDDでは和集合演算や共通集合演算を行うことができる。例えば、
図1の系統において、放射状制約のみを満たす全てのスイッチ構成を
図4(a)に示すZDDで保持し、線路容量制約のみを満たす全てのスイッチ構成を
図4(b)に示すZDDで保持し、電圧制約のみを満たす全てのスイッチ構成を
図4(c)に示すZDDで保持するとする。
【0022】
このとき全ての共通集合演算を行った結果として得られる
図4(d)に示すZDDには、放射状制約と線路容量制約と電圧制約の3つの制約を同時に満たす全てのスイッチ構成が保持される。
【0023】
なお、放射状制約とは、どの区間もただ1つの開閉器から供給を受けることで事故時の停電区間を極小化するための制約である。一般に日本国内の配電系統は、放射状系統にて運用している。
【0024】
線路容量制約とは、配電系統内の各線路が許容電流以下になるようにすることで線路の熱劣化・破壊を防止するための制約である。
【0025】
電圧制約とは、配電系統内の各箇所が許容電圧範囲に収まるようにすることで、接続負荷が過電圧による劣化・破壊や不足電圧による能力低下を防止するための制約である。
【0026】
(2)これらZDDの技術に基づき非特許文献1は、配電系統の全てのスイッチ構成をZDDとして算出した。したがって、このZDDには多段融通も考慮に入れた停電復旧のスイッチ構成も含まれる。しかしながら、このZDDはスイッチ構成を保持するのみであり、前述のように停電発生時のスイッチ構成から停電復旧のスイッチ構成への切替手順は求められなかった。
【0027】
この問題を解決したのが非特許文献2である。非特許文献2は、「add演算」と「swap演算」というZDDにおける新しい演算を2つ開発した。これらは配電系統のスイッチ構成を保持するZDDでは、次の操作に相当する。
【0028】
すなわち、「add演算」は、ZDDが表現する各スイッチ構成それぞれについて、一つの開閉器を開状態から閉状態に変更してZDDを作り変える操作に相当する。
【0029】
「swap演算」は、ZDDが表現する各スイッチ構成それぞれについて、一つの開閉器を開状態から閉状態に変更し、同時に別の開閉器を一つ閉状態から開状態に変更してZDDを作り変える操作に相当する。
【0030】
これらの演算により、ZDDを用いてスイッチ構成の切替手順を表現できるようになったが、この技術が算出する停電復旧スイッチ構成への切替手順では、その途中で新たな停電区間を発生させるおそれがあった。そこで、本実施形態の前記電力融通システムは、途中で新たな停電区間を発生させることのない切替手順を構築した。
【0031】
≪システム内容≫
(1)構成例
図5中の1は、前記電力融通システムを示している。ここでは前記電力融通システム1は、コンピュータにより構成され、通常のコンピュータのハードウェアリソース(CPU,RAM,ROM,HDD,SSDなど)を備える。
【0032】
このハードウェアリソースとソフトウェアリソース(OS,アプリケーションなど)の協働の結果、前記電力融通システム1は、
図5に示すように、系統設備データ部2,ZDD演算処理部3,復旧後の系統設備データ部4,切替手順保存部5を実装する。この各部2,4,5は、記憶装置(RAM,ROM,HDD,SSDなど)上に構築されている。
【0033】
具体的には系統設備データ部2は配電系統における開閉器の情報を保持し、前記系統設備データ部4および切替手順保存部5は前記停電復旧後の系統設備データと切替手順をそれぞれ保持する。また、ZDD演算処理部3は、前記電力融通システム1の中心的な役割を果たし、系統設備データ部2の保持情報(保存データ)を取得して停電復旧の手順を算出する。
【0034】
(2)停電復旧手順算出方法
図6の配電系統に基づきZDD演算処理部3の処理内容を説明する。
図6中の20は変電所を示し、開閉器を線分(e1,e2,e3,e4,e5,e6)で表し、区間を丸(v1,v2,v3,v4)で表している。
【0035】
非特許文献1,2のZDDでは、閉状態の開閉器の集合でスイッチ構成(リンク変数)を表していた。この場合のデータ構造は、
図6(a)に示すように、{e1,e2,e3,e4}となる。
【0036】
これに対して本実施形態のZDD演算処理部3は、あらかじめ
図6(a)の情報に給電区間の情報を付加した新たなデータ構造(リンク・ノード変数)を作成する。この場合のデータ構造は、
図6(b)に示すように、{e1,e2,e3,e4,v1,v2,v3,v4}となる。このように給電している区間情報を追加したことで停電有無の判断や故障区間有無の判断が可能となる。以下、
図10に基づき停電復旧手順算出の処理ステップ(S01~S04)を説明する。
【0037】
S01:初期状態のスイッチ構成からn(n=0以上の整数)手で切り替えられるスイッチ構成のZDDとする。初期状態のスイッチ構成(0手で切り替えられるスイッチ構成)とは、初期解から故障個所を除いたスイッチ構成である。
【0038】
S02:系統データから停電区間を許す放射状制約のZDDと線路容量制約のZDDおよび電圧制約のZDDを構築し、これらを共通集合演算することで、全制約を満たすZDDを構築し、構築された全制約を満たすZDDから、事故時の停電区間でない(通電している)区間を全て含み、さらに故障個所を含まない集合を抽出し、その集合を実行可能な解集合ZDDとする。ここで、停電区間を許す放射状制約とは、供給点を含む区間は放射状制約を満たし、停電区間は孤立点であることを意味する。
【0039】
例えば、
図7に示すように(e4)で故障が発生した場合には、(e4)が故障個所となり、(v4)が停電区間となり、0手で切り替えられるスイッチ構成(S01)を取得する。そして、事故時の停電区間でない(通電している)区間を全て含み、さらに故障個所を含まない集合として、
図8に示すように、「(v1),(v2),(v3)を全て含み、(e4)を含まない集合」を抽出し、抽出された集合を実行可能な解集合としてZDD(S02)を構築する。
【0040】
このとき
図8(a)中のスイッチ構成a1は、(v2)を含まないため、
図8(b)に示すように、削除される。スイッチ構成a3は、(e4)を含むので、同様に削除される。
【0041】
一方、スイッチ構成a2は、「(v1),(v2),(v3)を全て含み、(e4)を含まない」条件を満たすため、解集合ZDDとして抽出される。このようにして抽出された実行可能な解集合ZDDが、停電復旧時に許されるスイッチ構成の集合となっている。
【0042】
S03:非特許文献1,2の「add演算」に加えて「安全なswap演算」を実行し、該両演算の和集合演算(OR)を適用した結果のZDDを算出する。
【0043】
ここで「安全なswap演算」を説明すれば、S01のZDDが表現する各スイッチ構成それぞれについて、新たな停電を発生させない限り、一つの開閉器を開状態から閉状態に変更し、同時に別の開閉器を一つ閉状態から開状態に変更してZDDを作り変える演算である。
【0044】
例えば
図9(a)中のスイッチ構成a1についてみれば、「(e4)を閉・(e3)を開」にした場合、
図9(b)に示すように、(v3)が新たに停電してしまうので、このようなswap演算で得られるスイッチ構成は削除される。一方、「(e6)を閉・(e3)を開」にした場合、新たな停電を発生させないので、その結果として得られるスイッチ構成は「安全なswap演算」で得られたZDDに含まれる。また、スイッチ構成a2は、「(e5)を閉・(e6)を開」にした場合、停電を発生させないので、同様とする。
【0045】
S04:S03で和集合演算(OR)の結果得られたZDDと、S02の実行可能な解集合ZDDとの共通集合演算(AND)を行って、切替手順保存部5に保存する。これにより1手で切り替えられるスイッチ構成の集合を得ることができる。
【0046】
このとき
図11に示すように、n手で切り替えられる各スイッチ構成に対して、前記各演算を行うことで、n+1手で切り替えらえれるスイッチ構成すべてを得る。これを繰り返すことで、すべての区間を含むスイッチ構成、即ちすべての区間が通電しているスイッチ構成が得られれば、これを実行することで停電復旧を完了とする。また、もし複数パターンのスイッチ構成が得られた場合には、その中の1つのパターンのスイッチ構成を実行すればよい。この実行するスイッチ構成は、復旧後の系統設備データ部4に格納する。
【0047】
したがって、電力融通システム1によれば、非特許文献2の課題であった「切替途中での新たな停電区間」の発生を防止することができる。ただし、実行可能な解集合ZDDをすべて探索したにも関わらず、そのようなスイッチ構成が得られなければ、区間数の最大(つまり復旧時に停電が発生してしまうノード数が最小)または停電量(通算停電時間)の最小となるスイッチ構成を解として、切替手順保存部5に保持して実行する。この場合にも切替途中の停電区間/停電時間を最小限に抑える効果を得られる。
【0048】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、各請求項に記載された範囲内で変形して実施することができる。例えば本発明は、コンピュータを前記電力融通システム1として機能させるプログラムとして構成することができる。
【0049】
このプログラムをインストールされたコンピュータは、前記電力融通システムとして、S01~S04のステップを実行する。このプログラムは、インターネットからのダウンロードや記録媒体に格納されることで配布することできる。
【符号の説明】
【0050】
1…電力融通システム
2…系統設備データ部
3…ZDD演算処理部
4…復旧後の系統設備データ部
5…切替手順保存部
20…変電所