(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027784
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】船舶用新鮮空気処理装置
(51)【国際特許分類】
B63J 2/04 20060101AFI20240222BHJP
【FI】
B63J2/04
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022130881
(22)【出願日】2022-08-19
(71)【出願人】
【識別番号】501137809
【氏名又は名称】サンレイ空調株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003155
【氏名又は名称】弁理士法人バリュープラス
(72)【発明者】
【氏名】小沢 敏紀
(57)【要約】
【課題】船舶の空気温度調整装置では、適温での除湿ができなかった点、また、60%~70%程度で船内を給気が循環して船内において劣化した空気が循環することで健康被害が生じる可能性がある点を改善する。
【解決手段】本発明の船舶用新鮮空気処理装置1は、船舶Sにおける船外部位に突出させると共に大開口及び断面積の大きな流路を有した外気取入口2と、外気を積極的かつ強力に船内へ吸入するための吸入手段(給気部7)と、外気取入口2から取り入れた外気を冷やして結露除湿を行う冷却器5と、この冷却器5を介して冷えた空気を適温に再加熱する加熱器6と備え、外気取入口2から吸入した新鮮空気のみを船舶内の各区画へ給気し、給気された新鮮空気は各区画から船外へ排出されるようにした
【効果】適温での除湿が可能となるほか、適温除湿された新鮮空気のみの船内環境とすることができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶における船外部位に突出させると共に大開口及び断面積の大きな流路を有した外気取入口と、外気を積極的かつ強力に船内へ吸入するための吸入手段と、前記外気取入口から取り入れた外気を冷やして結露除湿を行う冷却器と、この冷却器を介して冷えた空気を適温に再加熱する加熱器と備え、外気取入口から吸入した新鮮空気のみを船舶内の各区画へ給気し、給気された新鮮空気は各区画から船外へ排出されるようにした船舶用新鮮空気処理装置。
【請求項2】
前記吸入手段は、外気取入口の開口近傍における吸入器によって、新鮮空気流路における前記冷却器及び前記加熱器の下流位置に設けた除湿済みの新鮮空気を各区画へ給気するための比較的大型の給気部を兼用させることによって、のいずれか又は両方である請求項1記載の船舶用新鮮空気処理装置。
【請求項3】
前記冷却器及び加熱器に至るまでの外気取り入れ経路に水滴分離機を設けた請求項1又は2に記載の船舶用空気温度調整装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結露除湿して温度調節した海上の新鮮空気だけを船舶の各区画に給気し、しかも循環させないことで常に新鮮空気で船舶の各区画を満たした環境に維持できる船舶用新鮮空気処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1(特開平11-348891号公報)には、船用通風温度調整装置において、通風ダクトを省略して船室毎に家庭用機器を使用すること、船室毎の温度調整を可能にすること、吹出口の省略による騒音の低減すること、という課題を、天井送風ダクトに代え、通路を介した船室のドア下部に設けた開口から新鮮な空気を給気するようにし、各室の冷暖房は各船室に設けた家庭用冷暖房機で行い、各室の汚染空気は各室に設けたトイレ等の換気口から排出する構成により解決することが開示されている。
【0003】
また、例えば、特許文献2(実用新案登録第3236152号公報)には、船舶の風力発電技術に関し、海上を就航する船舶の外気取り入れ機構において、船上に突出してある曲り外気吸引管を水平回転自在に設け、曲り外気吸引管の後部に方向舵を設けると共に曲り外気吸引管又は曲り外気吸引管に上部を接続した縦吸引本管の空洞部内に風力発電風車を内接した構成が示されている。
【0004】
上記のとおり、特許文献1、2の開示内容からは、船上に突出した外気吸引管から新鮮空気(外気)を取り込むこと、また、一般的には各船室への温度調整された(新鮮)空気は中央制御型で行われること(特許文献1の発明の従来技術)が理解できる。
【0005】
図3、
図4に示すように、従来の船舶の空気温度調整装置11は、特許文献1のような家庭用の室内機と室外機を対にした個別の設備ではなく、外気取入口12と、この外気取入口12から取り入れた外気を冷やす冷却器13A、外気を温める加熱器13B、温度調整された空気を送る送気ファン13Cを備えた中央冷暖ユニット13と、この中央冷暖ユニット13から送気ファン13Cによっり送り出される空気を各区画(船室)の吹出口14Aに送気ダクト14とを備え、中央冷暖ユニット13には各区画の排気口15Aからの排気が循環して戻ってくるように排気ダクト15(一点鎖線)が接続された構成とされ、中央冷暖ユニットは冷却器13Aを稼働させた冷房、加熱器13Bを稼働させた暖房、冷却器13A及び加熱器13Bを稼働しない送風、の3種類のモードを備えている。
【0006】
こうした船舶の空気温度調整装置においては、除湿を独立したモードとして備えていないので、多湿高温時は冷房によって除湿を行うようにしていた。しかしながら、冷房による除湿効果を(体感できるほど)得ようとすると、かなり温度を下げる必要があり、除湿効果を得る代わりに体感は非常に寒くなるといった弊害があった。
【0007】
また、船舶の空気温度調整装置は、各区画に給気する空気全量に対して約30%~40%の新鮮空気を取り入れ、残りの約60~70%は各区画から循環されて戻ってきた空気が、再度温度調節されて給気される。したがって、換気効率としては、非常に悪く、長期航行であると時間経過と共にしだいに二酸化炭素等の濃度が高くなり、健康被害をおよぼす可能性があった。
【0008】
加えて言うと、例えば空気感染の可能性のある疫病が発生すると、上記のような循環型の空気温度調整装置であると、僅かの時間で確実に船内全域に病原が行きわたってしまい、被害が甚大化する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11-348891号公報
【特許文献2】実用新案登録第3236152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
解決しようとする問題は、船舶の空気温度調整装置では、適温での除湿ができなかった点、また、60%~70%程度で船内を給気が循環し、新鮮空気は30%~40%程度しか取り入れられておらず、船内において劣化した空気が循環することで健康被害が生じる可能性がある点、である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は、船舶における船外部位に突出させると共に大開口及び断面積の大きな流路を有した外気取入口と、外気を積極的かつ強力に船内へ吸入するための吸入手段と、前記外気取入口から取り入れた外気を冷やして結露除湿を行う冷却器と、この冷却器を介して冷えた空気を適温に再加熱する加熱器と備え、外気取入口から吸入した新鮮空気のみを船舶内の各区画へ給気し、給気された新鮮空気は各区画から船外へ排出されるようにした。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、冷却器により結露除湿を行った後、冷えた空気を加熱器により適温まで加熱できるので、除湿した新鮮空気を快適な温度で各区画に吸気することができる。また、本発明は外気取入口と吸入手段により新鮮空気を大量に取り入れて処理するので、各区画へ給気する空気は該各区画で循環させる必要はなく、新鮮空気のみで賄える。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の船舶用新鮮空気処理装置を搭載した船舶構造の概略図である。
【
図2】本発明の船舶用新鮮空気処理装置の新鮮空気処理ユニット周辺構成を示す概略図である。
【
図3】従来の空気温度調整装置を搭載した船舶構造の概略図である。
【
図4】従来の空気温度調整装置の中央冷暖ユニット周辺構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、適温での除湿ができなかった点、また、60%~70%程度で船内を給気が循環し、新鮮空気は30%~40%程度しか給気されていなかった点を、船舶における船外部位に突出させると共に大開口及び断面積の大きな流路を有した外気取入口と、外気を積極的かつ強力に船内へ吸入するための吸入手段と、前記外気取入口から取り入れた外気を冷やして結露除湿を行う冷却器と、この冷却器を介して冷えた空気を適温に再加熱する加熱器と備え、外気取入口から吸入した新鮮空気のみを船舶内の各区画へ給気し、給気された新鮮空気は各区画から船外へ排出されるようにすることで改善した。
【0015】
船舶では外気を取り込む必要性のあることから、どうしても海上における新鮮空気の取り入れによる塩害と水害による装備や設備の劣化が課題となる。したがって、新鮮空気を取り込む装備や設備に関しては、該装備や設備を塩害と水害に対する耐性が求められる。
【0016】
海上の空気による塩害と水害を考慮すれば、少なくとも船舶おける空気温度調整装置は新鮮空気を取り込まず、船内空気を循環させればよいこととなるが、船内空気の循環では酸素量がしだいに不足して人体に悪影響があるほか、船舶構造の規定ではその大きさで新鮮空気の取込み量や換気の回数や換気の手法等が決まっている。
【0017】
したがって、船舶、特に大型船舶では、空気温度調整装置を駆動して、あるいは空気温度調整装置を駆動しないとしても通気経路を用いて、少なくとも各船室へ新鮮空気を送る必要があり、海上の空気による塩害と水害は避けて通れない不可分一体の課題とされている。
【0018】
上記したとおり、従来の空気温度調整装置は、空気温度調整に重きが置かれており、少なくとも新鮮空気の取り入れについては別問題と捉えていた。したがって、従来の空気温度調整装置によっても新鮮空気を低温に冷やすことで空気中水分を結露させることができるが、従来はこのまま各区画へ送気すると温度が低すぎて寒くなるという課題がある。一方で、寒すぎないように適温に冷やすと結露除湿が不十分で、塩分と水分を含んだ空気を給気してしまい、ダクトや中央冷暖ユニット等の劣化を早めてしまうことになる。
【0019】
また、従来の空気温度調整装置は、上記のとおり空気の温度調整を主目的としていたので、効率よく温度調整を行うべく、温度調整した空気を循環させていた。したがって、新鮮空気は、単位時間当たりで給気量の30%~40%しか取り入れられていなかった。
【0020】
そこで、本発明は、広義の空気調整装置における、空気温度調整装置ではなく、新鮮空気処理装置として、再構成した。本発明の新鮮空気処理装置は、特徴点の1つ目は割合として100%の新鮮空気(つまり新鮮空気だけ)を全量結露除湿して適温化して給気すること、2つ目は船内の各区画へ給気された空気は、循環させずに各区画より排気することである。
【0021】
本発明は、1つ目の特徴点を反映すべく、外気取入口は船舶における船外部位に突出させると共に大開口及び断面積の大きな流路を有することとし、また、吸入手段は外気を積極的かつ強力に吸入するものを用いる構成とした。
【0022】
さらに、本発明は、2つ目の特徴点を反映すべく、外気取入口から吸入した新鮮空気のみを船舶内の各区画へ給気し、給気された新鮮空気は各区画から船外へ排出される、つまり循環路を有しない構成とした。
【0023】
また、本発明は、上記構成において、前記吸入手段は、外気取入口の開口近傍における吸入器によって、新鮮空気流路における前記冷却器及び前記加熱器の下流位置に設けた除湿済みの新鮮空気を各区画へ給気するための比較的大型の給気部を兼用させることによって、のいずれか又は両方とすればよい。このようにすることで、上記に較べてより大量に新鮮空気を取り込んで、水分と塩分とを取り除いて快適温度に調整された空気を給気することができる。
【0024】
さらに、本発明は、上記構成において、前記冷却器及び加熱器に至るまでの外気取り入れ経路に水滴分離機を設けてもよい。このようにすれば、冷却器では予め新鮮空気からある程度の水分を除去した状態を扱うことができるようになり、効率がさらに向上する。
【実施例0025】
以下、
図1~
図2を参照して本発明の具体的実施形態について説明する。本実施例における本発明の船舶用新鮮空気処理装置(以下、処理装置1と記す)は、本実施例では船室などの区画を有した大型の船舶Sに搭載される。
【0026】
処理装置1は、船舶Sにおける船外部位に突出させると共に水平方向に大開口及び断面積の大きな流路を有した外気取入口2を有している。外気取入口2は、例えば本例では、船尾の甲板(デッキ)から上方開放された取入ダクト2Aが突出している。この取入ダクト2Aは、直下の区画の床面に据え付けられた新鮮空気処理ユニット3の下部まで垂直に延びた後直交したL字経路、あるいは該新鮮空気処理ユニット3の下部に向けて下り勾配の経路、とすればよく、本例では上記L経路を採用している。
【0027】
外気取入口2における開口2Bは、大径又は断面積を大きくして、本実施例では例えば上方を開放しているので、フード2Cを設けている。よって、新鮮空気はフード2Cの下方から開口2Bに取り込まれることとなる。フード2Cを設けることで、雨や海上からのしぶきが外気取入口2に侵入することを抑制することができる。
【0028】
なお、外気取入口2は、本実施例では1つとしているが、例えばより多くの新鮮空気を取り入れるならば、1つの新鮮空気処理ユニット3に対して複数設けてもよい。また、外気取入口2の開口2Bは、甲板面に対して直交した開口するように設けてもよく、いずれにしても、外気が容易に取り込まれると共に雨や海上からのしぶきが取入ダクト2Aに侵入しないようにしてあればよい。
【0029】
図2に詳細に示す新鮮空気処理ユニット3は、筐体3Aの下部に取入ダクト2Aと接続する流入口3aが設けられている。本実施例では、流入口3aの筐体3A内側に、水滴分離機4を設けている。この水滴分離機4は、本実施例ではワイヤーメッシュの微細フィルターを用いたいわゆるデミスター型のものを採用している。水滴分離機4は、上記のとおり空気中の水分の該フィルターの通過を阻止して下方に滴下させ、この滴下した水を排出口4Aから排出し、該フィルターを空気だけを通過させる。
【0030】
なお、水滴分離機4は、本実施例では流入口3aの筐体3A内側に設けたが、外気取入口2の開口2B近傍の取入ダクト2A内に設けても良い。この場合、排出口4Aだけを筐体3A内の後述の冷却器5の排出口5Aからの水と集合されるように配管する。このようにすれば、取込ダクト2Aのいわゆる塩害劣化も抑制することができる。
【0031】
また、筐体3A内には、空気流路の順に、該筐体3A内に取り込まれた新鮮空気を結露除湿するための冷却器5、この冷却器5により冷却された空気を適温に再加熱する加熱器6が設けられている。これら冷却器5、加熱器6は、本発明においては前記のとおり新鮮空気の除湿処理のために用いられ、湿度の低い場合であっても両方が稼働される。すなわち、本発明の処理装置1は、従来の空気温度調整装置でいう冷却器5だけを稼働させる冷房モード、加熱器6だけを稼働させる暖房モード、が存在せず、送風モードだけが存在するということになる。
【0032】
冷却器5及び加熱器6は、筐体3Aの設置面に対して、ある一点に向けて下方に傾斜させて設けられており、この傾斜の最下部位置に結露した水分の排出口5Aが設けられている。筐体内3Aにおいて、水分分離機4及び冷却器5から排出された水は不図示の排出路から筐体3A外へ排出される。
【0033】
さらに、筐体3A内の空気流路の順において、加熱器6の下流位置には、本例では、同クラスの船舶Sにおける「空気温度調整装置」の送風機よりかなり大きい出力の、吸入手段としての給気部7を設けている。すなわち、この給気部7は、単なる送風だけではなく、積極的かつ強力に新鮮空気を外気取入口2より取り入れるために、吸気の機能も兼ねている。
【0034】
なお、給気手段としての吸気部7は、上記本実施例のように大きい出力のものを用いると共に、外気取入口2の開口2B近傍の取入ダクト2A内に別途の吸引ファンを設けてもよいし、吸気部7を通常の送風に必要な出力だけのものとして吸引ファンを設けもよい。
【0035】
筐体3Aの上部には、給気部7からの空気を送り出すための送気口3bが設けられており、この送気口3bには、各区画へ配管された給気ダクト8が接続されている。そして、この給気ダクト8は各区画へ分岐して該各区画に設けた吹出口8Aが終端となっている。
【0036】
吹出口8Aは、その開口量がシャッタ等で調節可能とされており、開口量を調節することで給気量(吹出量)を調整してこれにより各区画における温度調整を行うことができるようになっている。
【0037】
さらに、各区画には船外へ排気する排気口Pが設けられている。排気口Pからの排気について再度言及すると、本発明においては排気口Pから排出される空気は、新鮮空気処理ユニット3に戻ることはなく、上記のとおり船外に排気される。したがって、排気口Pには循環用のダクトが接続されていない。
【0038】
以上のとおり、本発明は、外気取入口2は船舶Sにおける船外部位に突出させると共に大開口及び断面積の大きな開口2B及び取入ダクト2Aを有し、かつ外気を積極的かつ強力に吸入する吸入手段(吸気部7)を用いるので、結露除湿した新鮮空気のみで船内の各区画の給気が行える。
【0039】
また、本発明は、給気された新鮮空気は各区画の排気口Pから船外へ排出され、新鮮結城処理ユニット3へ循環しない構成なので、上記結露除湿した新鮮空気のみで船内の各区画の給気を行うことと相俟って、船内の各区画においては常に100%の新鮮空気が満ちた環境とすることができる。