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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027834
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】複合粒子及び複合粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20240222BHJP
   C08L 5/08 20060101ALI20240222BHJP
   C08L 1/00 20060101ALI20240222BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20240222BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20240222BHJP
【FI】
C08L101/00 ZBP
C08L5/08
C08L1/00
C08K7/02
C08L101/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022130968
(22)【出願日】2022-08-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】大林 佑美
(72)【発明者】
【氏名】薮原 靖史
(72)【発明者】
【氏名】中山 由美
【テーマコード(参考)】
4J002
4J200
【Fターム(参考)】
4J002AB011
4J002AB012
4J002AB041
4J002AB042
4J002AB051
4J002AB052
4J002AD011
4J002AD012
4J002AD031
4J002AD032
4J002BB221
4J002BB222
4J002BC03X
4J002BC09X
4J002BC13X
4J002BE021
4J002BE022
4J002BG041
4J002BG051
4J002BG061
4J002BG071
4J002BG072
4J002BG101
4J002BG102
4J002BN031
4J002BN111
4J002CF031
4J002CF032
4J002CF071
4J002CF072
4J002CF181
4J002CF182
4J002CF191
4J002CF192
4J002CG041
4J002CG042
4J002CP011
4J002CP012
4J002CP031
4J002CP032
4J002CQ011
4J002CQ012
4J002DJ016
4J002EA066
4J002EL096
4J002EN076
4J002ER006
4J002EU016
4J002EU056
4J002EU226
4J002EV256
4J002EV316
4J002FA042
4J002FA046
4J002FB022
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4J002FD012
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4J002FD070
4J002FD092
4J002FD096
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4J002GB00
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4J200CA00
4J200DA20
4J200DA21
4J200DA22
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4J200EA11
4J200EA17
4J200EA21
4J200EA23
(57)【要約】
【課題】精製効率よく、分散性が良好で、安定して製造できる複合粒子及び複合粒子の製造方法。
【解決手段】微細繊維2と、少なくとも1種のポリマーを含むコア粒子3と、を有する複合粒子であって、微細繊維2が、コア粒子3の表面に結合され、微細繊維2のメジアン径が0.01μm以上10μm以下であり、微細繊維2が、イオン性官能基を有するイオン変性繊維であり、前記イオン性官能基の導入量が、微細繊維2の乾燥質量に対して1.3mmol/g以上5.0mmol/g以下であり、平均粒径が0.1μm以上50μm以下であり、平均円形度が0.8以上である、複合粒子1。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細繊維と、少なくとも1種のポリマーを含むコア粒子と、を有する複合粒子であって、
前記微細繊維が、前記コア粒子の表面に結合され、
前記微細繊維のメジアン径が0.01μm以上10μm以下であり、
前記微細繊維が、イオン性官能基を有するイオン変性繊維であり、
前記イオン性官能基の導入量が、前記微細繊維の乾燥質量に対して1.3mmol/g以上5.0mmol/g以下であり、
平均粒径が0.1μm以上50μm以下であり、
平均円形度が0.8以上である、複合粒子。
【請求項2】
前記微細繊維を固形分で0.5質量%含む水分散液の25℃における粘度が、せん断速度1s-1のとき2mPa・s以上1000mPa・s以下であり、せん断速度100s-1のとき5mPa・s以上100mPa・s以下である、請求項1に記載の複合粒子。
【請求項3】
前記微細繊維が、セルロースナノファイバー及びキチンナノファイバーから選ばれる1種以上である、請求項1又は2に記載の複合粒子。
【請求項4】
前記イオン性官能基が、カルボキシ基、リン酸基及びスルホ基から選ばれる1種以上である、請求項1又は2に記載の複合粒子。
【請求項5】
前記イオン性官能基の含有量が、複合粒子の乾燥質量に対して0.1μmol/g以上100μmol/g以下である、請求項1又は2に記載の複合粒子。
【請求項6】
固形分率が80質量%以上である、請求項1又は2に記載の複合粒子。
【請求項7】
前記ポリマーが少なくとも一部にベンゼン環構造を有する、請求項1又は2に記載の複合粒子。
【請求項8】
前記ポリマーが生分解性ポリマーである、請求項1又は2に記載の複合粒子。
【請求項9】
前記イオン性官能基の一部又は全部が、アニオン性の機能性材料及びカチオン性の機能性材料から選ばれる1種以上の機能性材料と結合する反応により変性されている、請求項1又は2に記載の複合粒子。
【請求項10】
前記機能性材料が蛍光色素である、請求項9に記載の複合粒子。
【請求項11】
前記蛍光色素が、シアニン骨格、キサンテン骨格、オキサジン骨格、アクリジン骨格、ジフェニルメタン骨格、チアゾール骨格、インドール骨格、エチジウム骨格及びプロピジウム骨格から選ばれる1種以上を有する蛍光色素である、請求項10に記載の複合粒子。
【請求項12】
前記蛍光色素の結合量が、複合粒子の乾燥質量に対して0.1μmol/g以上100μmol/g以下である、請求項11に記載の複合粒子。
【請求項13】
繊維原料に短繊維化処理を施して短繊維化繊維を得る工程と、
溶媒中で前記繊維原料及び前記短繊維化繊維から選ばれる1種以上を解繊して、微細繊維が分散された微細繊維分散液を得る工程と、
前記微細繊維分散液にコア粒子前駆体を含む液滴を添加し、前記液滴の表面を前記微細繊維で被覆する工程と、
前記コア粒子前駆体を固体化させてコア粒子とし、前記コア粒子の表面を前記微細繊維で被覆した複合粒子を得る工程と、
を有する、複合粒子の製造方法。
【請求項14】
前記繊維原料、前記短繊維化繊維及び前記微細繊維から選ばれる1種以上にイオン性官能基を導入し、イオン変性繊維を得る工程をさらに有する、請求項13に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項15】
機能性材料を含む機能性材料含有液に、前記イオン変性繊維を接触させ、表面に前記機能性材料が結合した複合粒子を得る、請求項14に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項16】
前記機能性材料が蛍光色素である、請求項15に記載の複合粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合粒子及び複合粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、木材中のセルロース繊維を、その構造の少なくとも一辺がナノメートルオーダーになるまで微細化し、新規な機能性材料として利用しようとする試みが活発に行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、木材セルロースに対しブレンダーやグラインダーによる機械処理を繰り返すことで、微細化セルロース繊維、すなわちセルロースナノファイバー(以下、「CNF」とも称する。)が得られることが開示されている。この方法で得られるCNFは、短軸径が10~50nm、長軸径が1μm~10mmであると記載されている。このCNFは、鋼鉄の1/5の軽さで5倍以上の強さを誇り、250m/g以上の膨大な比表面積を有することから、樹脂強化用フィラーや吸着剤としての利用が期待されている。
【0004】
CNFの製造において、木材中のセルロース繊維を微細化しやすいように予め化学処理したのち、家庭用ミキサー程度の低エネルギー機械処理により微細化する試みが活発に行われている。上記化学処理の方法は特に限定されないが、セルロース繊維にイオン性官能基を導入して微細化しやすくする方法が好ましい。セルロース繊維にイオン性官能基が導入されることによってセルロースミクロフィブリル構造間に浸透圧効果で溶媒が浸入しやすくなり、セルロース原料の微細化に要するエネルギーを大幅に減少することができる。
【0005】
上記イオン性官能基の導入方法は特に限定されないが、例えば、非特許文献1には、リン酸エステル化処理を用いて、セルロースの微細繊維表面を選択的にリン酸エステル化処理する方法が開示されている。特許文献2には、高濃度アルカリ水溶液中でセルロースをモノクロロ酢酸又はモノクロロ酢酸ナトリウムと反応させることによりカルボキシメチル化することが開示されている。オートクレーブ中でガス化したマレイン酸やフタル酸等の無水カルボン酸系化合物とセルロースとを直接反応させてカルボキシ基を導入してもよい。
【0006】
また、比較的安定なN-オキシル化合物である2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシラジカル(TEMPO)を触媒として用い、セルロースの微細繊維表面を選択的に酸化する方法も報告されている(例えば、特許文献3参照。)。TEMPOを触媒として用いる酸化反応(TEMPO酸化反応)は、水系、常温、常圧で進行する環境調和型の化学改質が可能である。TEMPO酸化反応を木材中のセルロースに適用した場合、結晶内部には反応が進行せず、結晶表面のセルロース分子鎖が持つアルコール性1級炭素のみを選択的にカルボキシ基へと変換することができる。
【0007】
TEMPO酸化によって選択的に結晶表面に導入されたカルボキシ基同士の電離に伴う浸透圧効果により、溶媒中で一本一本のセルロースミクロフィブリル単位に分散させた、セルロースシングルナノファイバー(以下CSNFとも称する)が得られる。CSNFは表面のカルボキシ基に由来した高い分散安定性を示す。木材からTEMPO酸化反応によって得られる木材由来のCSNFは、短軸径が3nm前後、長軸径が数十nm~数μmに及ぶ高アスペクト比を有する構造体であり、その水分散液および成形体は高い透明性を有することが報告されている。
特許文献4には、CSNF分散液を塗布乾燥して得られる積層膜がガスバリア性を有することが記載されている。
【0008】
さらに、CNF又はCSNFに更なる機能性を付与する検討がなされている。例えば、CSNF表面のカルボキシ基を利用した更なる機能性付与が可能である。
例えば、特許文献5には、CSNF表面のカルボキシ基に金属イオンを吸着させた状態で金属を還元析出させることにより、金属ナノ粒子がCSNFに担持された複合体(金属ナノ粒子担持CSNF)が開示されている。特許文献5には、金属ナノ粒子担持CSNFを触媒として用いる例が開示されており、金属ナノ粒子を高比表面積な状態で分散安定化させることが可能となることにより、触媒活性が向上することが報告されている。
【0009】
特許文献6には、アニオン性官能基を有するCNFに標的物質を吸着させ、免疫測定組成物及び免疫測定用診断薬、免疫測定用デバイスとして用いる例が開示されており、CNFの特徴を利用した応用が検討されている。また、非特許文献2には、アニオン性官能基を有するCNFにカチオン性色素を吸着することが開示されている。
【0010】
一方、CNFの実用化に向けては、得られるCNF分散液の固形分濃度が0.1~5%程度と低くなってしまうことが課題である。例えば、微細化セルロース分散液を輸送しようとした場合、大量の溶媒とともに輸送するため輸送費がかさみ、事業性に大きく影響する。また、樹脂強化用の添加剤として用いる際にも、固形分濃度が低いことによる添加効率の悪さや、溶媒である水が樹脂と馴染まない場合には複合化が困難となるといった点が問題である。さらに、含水状態で流通させる場合、腐敗の恐れもあるため、冷蔵保管や防腐処理などの対策が必要となり、コスト増加の原因となる。
【0011】
しかしながら、単純に熱乾燥等で微細化セルロース分散液の溶媒を除去してしまうと、微細化セルロース同士が凝集・角質化し、あるいは膜化してしまい、添加剤として使用した際に、期待する機能が安定して発現しない場合がある。さらに、CNFの固形分濃度が低いため、乾燥による溶媒除去工程自体に多大なエネルギーがかかってしまうことも事業性へのハードルとなる。
【0012】
このように、CNFを分散液の状態で取り扱うこと自体が事業性への課題となっており、CNFを容易に取り扱うことができる新たな態様を提供することが強く望まれている。
【0013】
CNFを容易に取り扱うことができる新たな態様として、特許文献7には、セルロース繊維により構成される被覆層と、被覆層に覆われたポリマーとを含む複合粒子が記載されている。この複合粒子において、セルロース繊維とポリマーとは一体化しているため、容易に分離でき、粉体として流通できる。粉体の再分散性も良好である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2010-216021号公報
【特許文献2】国際公開第2014/088072号
【特許文献3】特開2008-001728号公報
【特許文献4】国際公開第2013/042654号
【特許文献5】国際公開第2010/095574号
【特許文献6】国際公開第2019/235318号
【特許文献7】特開2019-38949号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Noguchi Y, Homma I, Matsubara Y. Complete nanofibrillation of cellulose prepared by phosphorylation. Cellulose. 2017;24:1295.10.1007/s10570-017-1191-3
【非特許文献2】山片重房(1970)、アクリジンオレンジ染色細胞の螢光分光学的分析、日本臨床細胞学会雑誌、9巻、2号、p164-169
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、特許文献7のセルロース繊維は、アスペクト比が高く、粘度が高いために、複合粒子を精製することが困難な場合があった。精製方法、条件によっては回収できても、精製回収物の収率が低下することや、精製回収物に遊離のセルロース繊維が回収されるために、得られる複合粒子同士が橋掛けされ、複合粒子の分散性が低下することがあった。また、繊維長の長いセルロース繊維により得られた複合粒子の中に、真球状でない複合粒子が生成することがあった。
【0017】
非特許文献2に記載の蛍光色素であるアクリジンオレンジは、単分子では短波長の緑色の蛍光発光を示すが、色素分子同士が会合すると長波長の赤色の発光を示す。このように、蛍光色素は、会合や凝集により安定した蛍光発光を示すことができず、蛍光発光波長が変化することがある。また、溶媒への溶解性によっては使用できない場合があった。
【0018】
上記事情を踏まえ、本発明は、精製効率よく、分散性が良好で、安定して製造できる複合粒子及び複合粒子の製造方法を目的とする。
さらに、本発明は、蛍光色素等の機能性材料を安定して導入できる複合粒子及び複合粒子の製造方法をさらなる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、鋭意検討した結果、繊維長のより短い微細繊維を用いることで、濾過や遠心分離により、遊離の微細繊維を充分に除去でき、精製効率をより高められ、各種溶媒への分散性をより高められ、複合粒子をより安定して製造できることを見出した。さらに、蛍光色素等の機能性材料を複合粒子により安定して導入できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0020】
すなわち、本発明は、以下の態様を有する。
[1]微細繊維と、少なくとも1種のポリマーを含むコア粒子と、を有する複合粒子であって、
前記微細繊維が、前記コア粒子の表面に結合され、
前記微細繊維のメジアン径が0.01μm以上10μm以下であり、
前記微細繊維が、イオン性官能基を有するイオン変性繊維であり、
前記イオン性官能基の導入量が、前記微細繊維の乾燥質量に対して1.3mmol/g以上5.0mmol/g以下であり、
平均粒径が0.1μm以上50μm以下であり、
平均円形度が0.8以上である、複合粒子。
[2]前記微細繊維を固形分で0.5質量%含む水分散液の25℃における粘度が、せん断速度1s-1のとき2mPa・s以上1000mPa・s以下であり、せん断速度100s-1のとき5mPa・s以上100mPa・s以下である、[1]に記載の複合粒子。
[3]前記微細繊維が、セルロースナノファイバー及びキチンナノファイバーから選ばれる1種以上である、[1]又は[2]に記載の複合粒子。
[4]前記イオン性官能基が、カルボキシ基、リン酸基及びスルホ基から選ばれる1種以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の複合粒子。
[5]前記イオン性官能基の含有量が、複合粒子の乾燥質量に対して0.1μmol/g以上100μmol/g以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の複合粒子。
[6]固形分率が80質量%以上である、[1]~[5]のいずれかに記載の複合粒子。
[7]前記ポリマーが少なくとも一部にベンゼン環構造を有する、[1]~[6]のいずれかに記載の複合粒子。
[8]前記ポリマーが生分解性ポリマーである、[1]~[7]のいずれかに記載の複合粒子。
[9]前記イオン性官能基の一部又は全部が、アニオン性の機能性材料及びカチオン性の機能性材料から選ばれる1種以上の機能性材料と結合する反応により変性されている、[1]~[8]のいずれかに記載の複合粒子。
[10]前記機能性材料が蛍光色素である、[9]に記載の複合粒子。
[11]前記蛍光色素が、シアニン骨格、キサンテン骨格、オキサジン骨格、アクリジン骨格、ジフェニルメタン骨格、チアゾール骨格、インドール骨格、エチジウム骨格及びプロピジウム骨格から選ばれる1種以上を有する蛍光色素である、[10]に記載の複合粒子。
[12]前記蛍光色素の結合量が、複合粒子の乾燥質量に対して0.1μmol/g以上100μmol/g以下である、[10]又は[11]に記載の複合粒子。
【0021】
[13]繊維原料に短繊維化処理を施して短繊維化繊維を得る工程と、
溶媒中で前記繊維原料及び前記短繊維化繊維から選ばれる1種以上を解繊して、微細繊維が分散された微細繊維分散液を得る工程と、
前記微細繊維分散液にコア粒子前駆体を含む液滴を添加し、前記液滴の表面を前記微細繊維で被覆する工程と、
前記コア粒子前駆体を固体化させてコア粒子とし、前記コア粒子の表面を前記微細繊維で被覆した複合粒子を得る工程と、
を有する、複合粒子の製造方法。
[14]前記繊維原料、前記短繊維化繊維及び前記微細繊維から選ばれる1種以上にイオン性官能基を導入し、イオン変性繊維を得る工程をさらに有する、[13]に記載の複合粒子の製造方法。
[15]機能性材料を含む機能性材料含有液に、前記イオン変性繊維を接触させ、表面に前記機能性材料が結合した複合粒子を得る、[14]に記載の複合粒子の製造方法。
[16]前記機能性材料が蛍光色素である、[15]に記載の複合粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明の複合粒子及び複合粒子の製造方法によれば、精製効率よく、分散性が良好で、安定して複合粒子を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態に係る複合粒子を示す概略図である。
図2】本発明の一実施形態に係る複合粒子の製造方法の一例を示す図である。
図3】本発明の一実施形態に係る微細繊維の粒度分布を示すグラフである。
図4】本発明の一実施形態に係る微細繊維の粘度特性を示すグラフである。
図5】実施例1の複合粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
図6】実施例1の複合粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
図7】実施例20の複合粒子の蛍光顕微鏡画像である。
図8】比較例4の複合粒子の蛍光顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。ただし、以下に説明する各図において、相互に対応する部分には同一符号を付し、重複部分においては後述での説明を適宜省略する。また、本実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、各部の材質、形状、構造、配置、寸法等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0025】
≪複合粒子≫
本発明の複合粒子は、微細繊維と、少なくとも1種のポリマーを含むコア粒子とを有する。
微細繊維は、イオン性官能基を有するイオン変性繊維であり、コア粒子の表面に結合している。
【0026】
図1(a)に示すように、本実施形態の複合粒子1は、微細繊維2とコア粒子3とを有する。微細繊維2は、コア粒子3の表面に結合している。
複合粒子1には、微細繊維2がコア粒子3の表面を覆う被覆層(繊維層)20として形成されている。
複合粒子1は、コア粒子3と、コア粒子3の表面に結合されて不可分の状態にある微細繊維2とを有する。
【0027】
図1(b)に示すように、複合粒子1Aは、複合粒子1に機能性材料4が結合している。
複合粒子1Aは、イオン性官能基の一部又は全部が、アニオン性の機能性材料及びカチオン性の機能性材料から選ばれる1種以上の機能性材料4と結合する反応により変性されている。
【0028】
微細繊維2は、コア粒子3の表面に結合されて不可分の状態にある。ここでいう「不可分」とは、複合粒子1又は複合粒子1Aを含む分散液を遠心分離処理して上澄みを除去し、さらに溶媒を加えて再分散することで複合粒子1及び複合粒子1Aを精製、洗浄する操作、あるいはメンブレンフィルターを用いた濾過洗浄によって溶媒による洗浄する操作を繰り返した後であっても、コア粒子3と微細繊維2とが分離せず、微細繊維2によるコア粒子3の被覆状態が保たれることを意味する。
【0029】
被覆状態は、走査型電子顕微鏡(SEM)による複合粒子1又は複合粒子1Aの表面観察により確認できる。
複合粒子1において、微細繊維2とコア粒子3との結合メカニズムについては定かではないが、複合粒子1が微細繊維2によって安定化されたO/W型エマルションを鋳型として作製されるためであると考えられる。これは、エマルションの液滴内部のコア粒子前駆体に微細繊維2が接触した状態で、コア粒子前駆体を固体化してコア粒子3とするために、物理的に微細繊維2がコア粒子3の表面に固定化されて、最終的にコア粒子3と微細繊維2とが不可分な状態に至ると推察される。
微細繊維2に機能性材料4が結合した機能性材料結合繊維と、コア粒子3とは、同様のメカニズムで不可分な状態に至ると考えられる。
ここで、O/W型エマルションは、水中油滴型(Oil-in-Water)とも言われ、水を連続相とし、その中に油が油滴(油粒子)として分散しているものである。
【0030】
特に限定されないが、微細繊維2によって安定化されたO/W型エマルションを鋳型として複合粒子1を作製すると、O/W型エマルションが安定化されるため、O/W型エマルションに由来した真球状の複合粒子1を得ることができる。詳細には、真球状のコア粒子3の表面に微細繊維2からなる被覆層20が比較的均一な厚みで形成された様態となることが好ましい。微細繊維2が短繊維であると、被覆層20の厚みがより均一になる。
【0031】
複合粒子1の粒径は、光学顕微鏡等を用いた観察により確認できる。無作為に抽出した100個の複合粒子1の直径(又は長径)を測定し、算術平均を求めることで平均粒径を算出できる。複合粒子1の平均粒径は、0.1μm以上50μm以下であり、0.5μm以上30μm以下が好ましく、1μm以上20μm以下がより好ましい。複合粒子1の平均粒径が上記下限値以上であると、複合粒子1の精製が容易になる。複合粒子1の平均粒径が上記上限値以下であると、複合粒子1の粒径のばらつきを小さくでき、複合粒子1を安定して製造できる。
複合粒子1Aの平均粒径は、複合粒子1の平均粒径と同様である。
このように、微細繊維2を用いることで、粒径のばらつきが小さく、微小な複合粒子1を得ることができる。
【0032】
複合粒子1は、球状、特に真球状であることが好ましい。微細繊維2を用いることで、安定したO/W型ピッカリングエマルションが形成し、これにより真球状の複合粒子1を得ることができる。微細繊維2が短繊維であると安定したピッカリングエマルションを形成でき、真球度の高い複合粒子1を得ることができる。複合粒子1が真球状であると、凝集が抑制され、各種液媒体や樹脂への分散性が良好となる。
真球度の指標は、画像分析型粒度分布計による平均円形度から評価することができる。複合粒子1の平均円形度は、0.8以上であり、0.85以上が好ましく、0.9以上がさらに好ましい。複合粒子1の平均円形度が上記下限値以上であると、複合粒子1を安定して製造できる。加えて、複合粒子1の平均円形度が上記下限値以上であると、滑らかな使用感を得られやすい。複合粒子1の平均円形度の上限値は、特に限定されないが、理想的には1.0である。
平均円形度は、画像分析型粒度分布計にて測定した1000個以上の粒子の円形度の算術平均値として算出することができる。その平均円形度を上記真球度の指標とすることが好ましい。なお、画像上における複合粒子1の面積をS、周囲長をLとしたとき、円形度は、「円形度=4πS/L」の式で算出でき、円形度が1に近いほど真球度が高くなる。
複合粒子1の平均円形度は、コア粒子3を構成するポリマーの種類、微細繊維2の種類、メジアン径、微細繊維2に導入されるイオン性官能基の種類、量、及びこれらの組合せにより調節できる。
複合粒子1Aの形状、平均円形度及び真球度は、複合粒子1の形状、平均円形度及び真球度と同様である。
【0033】
分散安定性の観点から、微細繊維2は、コア粒子3の表面に被覆層20を形成することが好ましい。この場合、被覆層20は微細繊維2で構成される。被覆層20は、コア粒子3の表面の全面を覆うことが好ましい。微細繊維2が短繊維であると、コア粒子3の表面を均一に覆うことができるため、ピッカリングエマルションの安定性が向上し、真球状の複合粒子1を効率よく得られると共に、分散性が向上する。
被覆層20の平均厚みは、特に限定されないが、例えば、0.1nm以上1000nm以下が好ましく、0.5nm以上500nm以下がより好ましく、1.0nm以上200nm以下がさらに好ましい。被覆層20の平均厚みが上記下限値以上であると、安定したピッカリングエマルションを形成しやすく、粒径のばらつきを抑制できる。加えて、被覆層20の平均厚みが上記下限値以上であると、蛍光色素等の機能性材料4を吸着しやすい。被覆層20の平均厚みが上記上限値以下であると、微細繊維2がコア粒子3の表面から剥離することを抑制できる。
ここで、「ピッカリングエマルション」とは、液/液界面に吸着した固体粒子によって安定化されたエマルションをいう。
被覆層20の平均厚みは、走査型電子顕微鏡(SEM)等を用いて観察を行うことにより求められる。具体的には、複合粒子1を包埋樹脂で固定したものをミクロトームで切削してSEM観察を行う。SEM観察を行った画像中の複合粒子1の断面像における被覆層20の厚みを画像上で100箇所ランダムに測定し、平均値を取ることで算出できる。
被覆層20の平均厚みは、コア粒子3を構成するポリマーの種類、微細繊維2の種類、メジアン径、微細繊維2に導入されるイオン性官能基の種類、量、及びこれらの組合せにより調節できる。
複合粒子1Aの被覆層20の平均厚みは、複合粒子1の平均厚みと同様である。
【0034】
複合粒子1は、比較的揃った厚みの被覆層20で均一に被覆されていることが好ましい。微細繊維2が短繊維であると、被覆層20の厚みが均一になる。被覆層20の厚みが均一であると、分散安定性が高く、機能性材料4を吸着しやすい。
被覆層20の厚みの均一さは、厚みの標準偏差を平均厚みで除した変動係数で評価できる。被覆層20の厚みの変動係数は、0.5以下が好ましく、0.4以下がより好ましい。
複合粒子1Aの被覆層20の厚みの変動係数は複合粒子1と同様である。
【0035】
複合粒子1の表面に存在するイオン性官能基(イオン性官能基の含有量)は、複合粒子1の乾燥質量1g当たり0.1μmol以上100μmol以下が好ましく、0.5μmol以上50μmol以下がより好ましい。短繊維長の微細繊維2を用いることにより、複合粒子1の表面に充分なイオン性官能基量を有する複合粒子1を得られるため、複合粒子1の分散性や機能性材料4の吸着性が向上する。複合粒子1の表面に存在するイオン性官能基が上記下限値以上であると、粒度分布が均一な複合粒子1が得られやすい。加えて、複合粒子1の表面に存在するイオン性官能基が上記下限値以上であると、複合粒子1の分散性をより高められる。また、蛍光色素等の機能性材料4を会合や凝集を抑制できる範囲で吸着しやすく、機能性材料4が結合した複合粒子1Aの蛍光発光強度等の機能性をより高められる。
複合粒子1Aのイオン性官能基の含有量は、複合粒子1のイオン性官能基の含有量と同様である。
【0036】
複合粒子1のイオン性官能基の含有量は、複合粒子1の分散液を用いて、電気伝導度滴定により測定することができる。イオン交換水99gに1gの複合粒子1を均一に分散させた後、塩酸を添加してpHを2.0以下として1時間程度攪拌する。そこに、自動滴定装置(商品名:AUT-701、東亜ディーケーケー社製)を用いて、1mmol/L水酸化ナトリウム水溶液を0.05mL/30秒で注入し、1分毎の電導度とpH値を測定し、pH11まで測定を続ける。得られた電導度曲線から、水酸化ナトリウムの滴定量を求め、イオン性官能基の含有量を算出する。
【0037】
複合粒子1の固形分率は、80質量%以上が好ましく、85質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、100質量%であってもよい。複合粒子1の固形分率が上記下限値以上であると、輸送コストを下げることができ、疎水性樹脂への分散性が良好となる。
複合粒子1の固形分率は、複合粒子1を温度120℃で1時間乾燥させた後の質量を、乾燥させる前の質量で除することにより求められる。
複合粒子1Aの固形分率は、複合粒子1における固形分率と同様である。
【0038】
複合粒子1は、イオン性官能基を有する短繊維長の微細繊維2でコア粒子3の表面が被覆されている。このため、安定したエマルションを形成することができ、粒子径のばらつきが小さく、真球状で分散性をより良好にできる。
また、微細繊維2は、イオン性官能基を有するため、アニオン性の機能性材料及びカチオン性の機能性材料から選ばれる1種以上の機能性材料4を吸着できる。
【0039】
イオン性官能基の一部又は全部は、アニオン性の機能性材料及びカチオン性の機能性材料から選ばれる1種以上の機能性材料4と結合する反応により変性されていることが好ましい。イオン性官能基の一部又は全部が、機能性材料4と結合する反応により変性されていることで、複合粒子1に機能性を付与できる。
【0040】
機能性材料4としては、例えば、着色剤(蛍光色素、酸化還元色素等)、吸油剤、光遮蔽剤(紫外線吸収剤、紫外線散乱剤等)、抗菌剤、酸化防止剤、制汗剤、消泡剤、帯電防止剤、結合剤、漂白剤、キレート剤、脱臭成分、芳香剤、香料、ふけ防止活性物質、皮膚軟化剤、防虫剤、防腐剤、天然抽出物、美容成分、pH調整剤、ビタミン、アミノ酸、ホルモン、油脂やロウ類をはじめとする油性原料、界面活性剤、無機質粒子(酸化チタン、シリカ、クレー等)等が挙げられる。
機能性材料4としては、着色剤が好ましく、蛍光色素がより好ましい。
【0041】
アニオン性の機能性材料とは、アニオン性官能基を有する機能性材料である。アニオン性官能基としては、特に限定されないが、例えば、カルボキシ基、リン酸基、スルホ基等が挙げられる。
カチオン性の機能性材料とは、カチオン性官能基を有する機能性材料である。カチオン性官能基としては、例えば、アミノ基、オニウム基、ヒドラジニウム基、ホスホニウム基、オキソニウム基、スルホニウム基、ジアゼニウム基、ジアゾニウム基等が挙げられる。
【0042】
蛍光色素の骨格としては、例えば、シアニン(HITCI等)、キサンテン(ローダミン6G、ローダミンB等)、オキサジン(ナイルブルー等)、クマリン(4-MU等)、キノリン(カルボスチリル165等)、スチルベン(スチルベン1等)、オキサゾール(POPOP等)、パラオリゴフェニレン(p-トリフェニル等)、アクリジン(アクリジン、アクリジンオレンジ等)、ジアリルメタン(オーラミン等)、チアゾール(チオフラビンT等)、インドール(DAPI二塩酸塩)、エチジウム(エチジウムブロマイド等)、プロピジウム(臭化プロピジウム等)、テトラピロール(クロロフィル等)、ジピロメテン(BODIPY等)、ナフタレン、アントラセン、ピレン、ペリレン等を用いることができる。
中でも、親水性溶媒への溶解性から、シアニン骨格、キサンテン骨格、オキサジン骨格、アクリジン骨格、ジアリルメタン骨格(ジフェニルメタン骨格)、チアゾール骨格、インドール骨格、エチジウム骨格、プロピジウム骨格を有する色素を用いることが好ましい。
また、キサンテン骨格、オキサジン骨格、アクリジン骨格、チアゾール骨格、インドール骨格、エチジウム骨格、プロピジウム骨格を有する色素は会合しやすいため、微細繊維2に吸着させることで会合抑制効果を発揮しやすい。
【0043】
カチオン性の蛍光色素としては、例えば、ローダミン6G、ローダミンB、ローダミン123、ナイルブルー、アクリジンオレンジ、オーラミン、DAPI二塩酸塩、エチジウムブロマイド、臭化エチジウム等が挙げられる。
アニオン性の蛍光色素としては、例えば、メロシアニンI、メロシアニン540、ピラニン、フルオレセイン等が挙げられる。
なお、蛍光色素は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、会合や凝集を抑制できる範囲で、カチオン性の蛍光色素とアニオン性の蛍光色素とを併用してもよい。
微細繊維2に吸着する蛍光色素の骨格は、赤外分光法(IR)、ガスクロマトグラフィー-質量分析法(GC/MS)等の方法で分析することができる。
【0044】
酸化還元色素としては、例えば、メチレンブルー、インジゴカルミン等が挙げられる。
【0045】
<微細繊維>
本実施形態の微細繊維2は、メジアン径が0.01μm以上10μm以下のイオン性官能基を有するイオン変性繊維である。
微細繊維2におけるイオン性官能基の導入量は、微細繊維2の乾燥質量に対して、1.3mmol/g以上5.0mmol/g以下である。
【0046】
微細繊維2は、ミクロフィブリル構造由来の繊維形状であることが好ましい。具体的には、微細繊維2は繊維状であって、数平均短軸径が1nm以上1000nm以下、数平均長軸径が50nm以上50μm以下であり、かつ数平均長軸径が数平均短軸径の5倍以上であることが好ましい。
数平均短軸径が上記下限値以上であると、剛直な繊維構造をとることができ、エマルション安定性が向上し、粒径のばらつきが小さい複合粒子1を得ることができる。また、複合粒子1に機能性材料4を吸着させた際に機能性材料4の分子同士の会合あるいは凝集を抑制でき、複合粒子1に、より確実に機能性を付与することが可能となる。数平均短軸径が上記上限値以下であると、微細繊維2がコア粒子前駆体のエマルションの液滴を均一に被覆することができ、安定したピッカリングエマルションを形成できる。このため、粒径のばらつきが小さく真球状の複合粒子1を得ることができる。
数平均長軸径は、数平均短軸径の5倍以上が好ましい。数平均長軸径が上記下限値以上であると、複合粒子1及び複合粒子1Aの粒径や形状の制御をより容易にできる。
微細繊維2の数平均長軸径は、50nm以上1000nm以下が好ましく、50nm以上800nm以下がより好ましく、100nm以上500nm以下がさらに好ましい。微細繊維2の数平均長軸径が上記上限値以下であると、複合粒子1を作製する際に、遊離の微細繊維2と複合粒子1とを充分に分離し、複合粒子1を高収率で回収できる。特に、微細繊維2の数平均長軸径が500nm以下であると、複合粒子1を安定して作製し、効率よく回収することが可能である。
微細繊維2の数平均短軸径及び数平均長軸径は、実施例に記載する方法により求められる。
【0047】
微細繊維2のメジアン径は、0.01μm以上10μm以下であり、0.03μm以上5μm以下が好ましく、0.05μm以上1.0μm以下がより好ましい。微細繊維2のメジアン径が上記下限値以上であると、微細繊維2が剛直な繊維構造を有するためにエマルションの安定性が良好となり、粒径のばらつきが小さい複合粒子1を得られる。微細繊維2のメジアン径が上記上限値以下であると、微細繊維2の繊維長が充分短く、コア粒子前駆体のエマルションの液滴を均一に被覆することができ、安定したピッカリングエマルションを形成できる。このため、粒径のばらつきが小さく真球状の複合粒子1を得られる。また、複合粒子1を作製する際に遊離の微細繊維2と複合粒子1とを充分に分離し、複合粒子1を高収率で回収できる。
ここで、「微細繊維のメジアン径」とは、レーザー回折・散乱方式の粒度分布計を用いて測定した場合の微細繊維を球に見立てた際の直径(又は長径)の個数基準のメジアン径(積算の粒子数が50%となったときの直径)を意味する。
微細繊維2のメジアン径は、実施例に記載する方法により求められる。
【0048】
微細繊維2の材質は、特に限定されず、有機物であってもよく、無機物であってもよい。有機物としては、有機高分子(有機ポリマー)を用いることができ、有機ポリマーとしては、例えば、アクリル系ポリマー、エポキシ系ポリマー、エステル系ポリマー、アミノ系ポリマー、シリコーン系ポリマー、フッ素系ポリマー、ウレタン系ポリマー等が挙げられる。
有機高分子は、天然高分子であってもよく、合成高分子であってもよい。
【0049】
天然高分子としては、例えば、植物が生産する多糖(セルロース、デンプン、アルギン酸等)、動物が生産する多糖(キチン、キトサン、ヒアルロン酸等)、タンパク質(コラーゲン、ゼラチン、アルブミン等)、微生物が生産するポリエステル(ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート))、多糖(ヒアルロン酸等)等が挙げられる。
【0050】
合成高分子としては、例えば、脂肪族ポリエステル、ポリオール、ポリカーボネート等が挙げられる。
脂肪酸ポリエステルとしては、例えば、グリコール-ジカルボン酸重縮合系(ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート等)、ポリラクチド類(ポリグリコール酸、ポリ乳酸等)、ポリラクトン類(β-カプロラクトン、ε-カプロラクトン等)、その他(ポリブチレンテレフタレート、アジペート等)が挙げられる。
ポリオールとしては、例えば、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
ポリカーボネートとしては、例えば、ポリエステルカーボネート等が挙げられる。
【0051】
特に限定されないが、有機ポリマーは生分解性ポリマーであることが好ましい。
生分解性ポリマーとしては、上述した天然高分子のほか、ポリ酸無水物、ポリシアノアクリレート、ポリオルソエステル、ポリホスファゼン等が挙げられる。
生分解性ポリマーの中でも、天然高分子であるセルロースやキチン、キトサンを用いることが好ましい。セルロースやキチン、キトサンは、均一にイオン性官能基を導入することができるため、均一に機能性材料4を吸着させることができ、複合粒子1に機能性材料4をより安定して導入できる。
【0052】
無機高分子(無機ポリマー)は、炭素を含まない高分子化合物であり、無機高分子としては、例えば、二酸化ケイ素、ポリシロキサン、ポリホスファゼン、ポリシラン等が挙げられる。
【0053】
中でも、微細繊維2は、セルロースナノファイバー及びキチンナノファイバーから選ばれる1種以上であることが好ましい。セルロースナノファイバー及びキチンナノファイバーから選ばれる1種以上は、繊維表面に均一にイオン性官能基を導入することができるため、分散性が良好であり、エマルション安定化効果が高い。また、蛍光色素等の機能性材料4が均一に吸着し、複合粒子1に機能性材料4をより安定して導入できる。さらに、機能性材料4として蛍光色素を適用した場合、蛍光色素が微細繊維2に均一に吸着するため、安定して蛍光発光を示すことができる。
【0054】
セルロースナノファイバー(CNF)は、セルロース、セルロース誘導体からなる数平均短軸径が1nm以上1000nm以下のファイバーである。
セルロースナノファイバーは、木材等から得られるセルロース原料を極細繊維に粉砕して得ることができる微細繊維であり、安全で生分解性を有する。
【0055】
キチンナノファイバー(キチンNF)は、キチン及びキトサンから選ばれる1種以上、キチン及びキトサンから選ばれる1種以上の誘導体からなる、数平均短軸径が1nm以上1000nm以下のファイバーである。
キチンナノファイバーは、カニ殻等から採取したキチン及びキトサンから選ばれる1種以上の原料を極細繊維に粉砕して得ることができる微細繊維であり、安全で生分解性を有し、抗菌性を有する。
このため、安全性確認が不要であることから、特に、食品、医療、薬剤、パーソナルケア等、体内に取り込んで使用される用途における応用展開が格段に容易になる。
【0056】
微細繊維2は、イオン性官能基として、カチオン性官能基、アニオン性官能基、又はこれらの両方を有する。微細繊維2は、イオン性官能基を有することにより、複合粒子1の作製において、エマルションを安定化することができ、粒子径のばらつきが小さい複合粒子1Aを効率よく得ることができる。
また、蛍光色素等の機能性材料4の凝集や会合を抑制した状態で微細繊維2に吸着させることができる。特に、機能性材料4として蛍光色素を適用した場合、微細繊維2の原料となる繊維原料の結晶表面のみにイオン性官能基を有すると、蛍光色素の分子同士の距離が保たれ、安定した蛍光発光を示す。
微細繊維2がアニオン性官能基を有する場合、カチオン性の機能性材料を吸着することができる。微細繊維2がカチオン性の官能基を有する場合、アニオン性の機能性材料を吸着することができる。
【0057】
アニオン性官能基としては、特に限定されないが、例えば、カルボキシ基、リン酸基、スルホ基等が挙げられる。中でも、カルボキシ基やリン酸基が好ましく、セルロース結晶表面への選択的な導入のしやすさから、カルボキシ基がより好ましい。
カチオン性官能基としては、例えば、アミノ基、オニウム基、ヒドラジニウム基、ホスホニウム基、オキソニウム基、スルホニウム基、ジアゼニウム基、ジアゾニウム基等が挙げられる。
【0058】
中でもTEMPO酸化によって選択的に繊維原料の結晶表面にカルボキシ基を導入したセルロースシングルナノファイバー(以下CSNF、TEMPO酸化セルロースナノファイバー、TEMPO酸化CNFとも称する)を用いることが好ましい。
TEMPO酸化CNFは、繊維原料の結晶表面のC6位の水酸基(OH基)が選択的に酸化されているため、結晶表面のOH基のみが酸化され、カルボキシ基同士の距離が一定であり、短軸径が均一である。このため、安定したエマルションを形成し、粒径のばらつきが小さく、被覆層20の厚みが均一で、真球状の複合粒子1を得ることができる。また、機能性材料4として蛍光色素を適用した場合、蛍光色素の分子間の距離を均一にすることができ、安定した蛍光発光を示す。
【0059】
微細繊維2におけるイオン性官能基の導入量は、微細繊維2の乾燥質量に対して1.3mmоl/g以上5.0mmоl/g以下であり、1.5mmol/g以上4.0mmol/g以下が好ましく、1.7mmol/g以上3.5mmol/g以下がより好ましく、2.0mmol/g以上3.0mmol/g以下がさらに好ましい。イオン性官能基の含有量が上記下限値以上であると、メジアン径の小さい微細繊維2が得られる。加えて、イオン性官能基の含有量が上記下限値以上であると、微細繊維2の分散性が向上するため、複合粒子1の製造において複合粒子1と遊離の微細繊維2との精製が容易となり、粒径のばらつきが小さく、真球状の複合粒子1を安定して得ることができる。また、機能性材料4として蛍光色素を適用した場合、蛍光色素の吸着量を高められ、蛍光発光の強度をより高められる。イオン性官能基の含有量が上記上限値以下であると、剛直な繊維構造を保つことができるため、エマルション安定性が向上し、粒径のばらつきが小さい複合粒子1を得ることができる。機能性材料4として蛍光色素を適用した場合、蛍光色素の分子同士の凝集を抑制でき、蛍光発光が変化することを抑制できる。
ここで、微細繊維2の乾燥質量は、微細繊維2を温度120℃で1時間乾燥させた後の質量を意味する。
イオン性官能基の含有量は、電気伝導度滴定により求められる。
【0060】
微細繊維2がセルロースナノファイバーの場合、微細繊維2の強度や加熱時の寸法安定性の観点から、セルロースナノファイバーの結晶構造は、セルロースI型が好ましい。
セルロースナノファイバーの結晶化度は50%以上が好ましく、60%以上がより好ましく、70%以上がさらに好ましい。セルロースナノファイバーの結晶化度が上記下限値以上であると、微細繊維2の強度や加熱時の寸法安定性が保たれるため、安定性の高い複合粒子1を得ることができる。
セルロースナノファイバーの結晶化度は、試料水平型回転対陰極式多目的X線回折装置(XRD)により求めることができる。
【0061】
微細繊維2を固形分で0.5質量%含む水分散液の25℃における粘度(以下、「微細繊維2の粘度」ともいう。)は、せん断速度1s-1のとき2mPa・s以上1000mPa・s以下であり、せん断速度100s-1のとき5mPa・s以上100mPa・s以下であることが好ましい。より好ましくは、せん断速度1s-1のとき5mPa・s以上800mPa・s以下であり、せん断速度100s-1のとき10mPa・s以上80mPa・s以下である。微細繊維2の粘度が上記下限値以上であると、剛直な繊維構造を有するため、安定したピッカリングエマルションを形成することができ、粒径のばらつきが小さい複合粒子1を得ることができる。微細繊維2の粘度が上記上限値以下であると、濾過や遠心分離による精製が容易となり、収率よく、遊離の微細繊維2から複合粒子1を回収することができる。
微細繊維2の粘度は、微細繊維2を、純水を用いて固形分で0.5質量%に調整した水分散液のレオロジーをレオメータ(ティー・エイ・インスツルメント社製、AR2000ex)傾斜角1°のコーンプレートにて定常粘弾測定をして評価する。測定部を25℃に温調し、せん断速度0.01s-1から1000s-1について、各速度で30秒間保持しながら連続的にせん断粘度を測定する。せん断速度を0.01s-1から1000s-1まで速度を上げた後、せん断速度を1000s-1から0.01s-1に下げる際の1s-1及び100s-1のときのせん断粘度を、微細繊維2の粘度とする。
【0062】
<コア粒子>
コア粒子3は、少なくとも1種のポリマーを含む。ポリマーは、有機ポリマーであってもよく、無機ポリマーであってもよい。ポリマーは、公知のポリマーを用いることができ、重合性モノマーを公知の方法で重合させたポリマーでもよい。ポリマーとしては、例えば、アクリル系ポリマー、エポキシ系ポリマー、エステル系ポリマー、アミノ系ポリマー、シリコーン系ポリマー、フッ素系ポリマー、ウレタン系ポリマー等が挙げられる。
中でも、コア粒子3に含まれるポリマーが、少なくとも一部にベンゼン環構造を有することが好ましい。ベンゼン環構造を有するポリマーは蛍光発光を有するため、機能性材料4として蛍光色素を適用した場合、蛍光色素と共にコア粒子3が発光し、特徴的な発光を示すことができる。
【0063】
コア粒子3に含まれるポリマーは、生分解性ポリマーであることが好ましい。本明細書において、生分解性ポリマーとは、土壌や海水中等の地球環境において分解して消滅するポリマー、又は生体内で分解して消滅するポリマーのことをいう。
一般的に、土壌や海水中では微生物が持つ酵素によりポリマーが分解されるのに対し、生体内では酵素を必要とせず、物理化学的な加水分解により分解される。ポリマーの分解は、ポリマーが低分子化又は水溶性化して形態を消失することである。ポリマーの分解は、特に限定されないが、主鎖、側鎖、架橋点の加水分解や、主鎖の酸化分解等により起こる。
生分解性ポリマーとしては、天然由来の天然高分子、あるいは合成高分子が挙げられる。
【0064】
天然高分子としては、例えば、植物が生産する多糖(セルロース、デンプン、アルギン酸等)、動物が生産する多糖(キチン、キトサン、ヒアルロン酸等)、タンパク質(コラーゲン、ゼラチン、アルブミン等)、微生物が生産するポリエステル(ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート))、多糖(ヒアルロン酸等)等が挙げられる。
【0065】
合成高分子としては、例えば、脂肪族ポリエステル、ポリオール、ポリカーボネート等が挙げられる。
脂肪酸ポリエステルとしては、例えば、グリコール-ジカルボン酸重縮合系(ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート等)、ポリラクチド類(ポリグリコール酸、ポリ乳酸等)、ポリラクトン類(β-カプロラクトン、ε-カプロラクトン等)、その他(ポリブチレンテレフタレート、アジペート等)が挙げられる。
ポリオールとしては、例えば、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
ポリカーボネートとしては、例えば、ポリエステルカーボネート等が挙げられる。
その他、ポリ酸無水物、ポリシアノアクリレート、ポリオルソエステル、ポリホスファゼン等も生分解性の合成高分子である。
【0066】
コア粒子3は、ポリマー以外に機能性成分等他の成分を含んでもよい。他の成分としては、例えば、着色剤(蛍光色素、酸化還元色素等)、吸油剤、光遮蔽剤(紫外線吸収剤、紫外線散乱剤等)、抗菌剤、酸化防止剤、制汗剤、消泡剤、帯電防止剤、結合剤、漂白剤、キレート剤、脱臭成分、芳香剤、香料、防虫剤、防腐剤、天然抽出物、pH調整剤、油脂やロウ類をはじめとする油性原料、界面活性剤、無機質粒子(酸化チタン、シリカ、クレー等)等が挙げられる。
上記機能性成分は固体、気体、液体のいずれの形態であってもよい。機能性成分の複合粒子1中の含有率は、特に限定されず、複合粒子1が安定して形態を保つことができる範囲であることが好ましい。機能性成分の含有率は、複合粒子1を100質量部とすると、機能性成分は0.001質量部以上80質量部以下であることが好ましい。
【0067】
中でも、機能性成分は、着色剤であることが好ましく、蛍光色素であることがより好ましい。コア粒子3が蛍光色素を含むことにより、複合粒子1の表面の蛍光色素と共に蛍光発光を示すため、特徴的な発光を示すことができ、偽造防止用途として好適である。蛍光色素は蛍光発光を示すものであれば、特に限定されないが、後述するコア粒子前駆体に溶解、あるいは分散することが好ましい。コア粒子前駆体に溶解、分散することで、効率よく蛍光色素をコア粒子3に内包させることができる。なお、蛍光色素は、複合粒子1の表面の蛍光色素と同じ種類であってもよく、異なる種類であってもよい。
【0068】
コア粒子3の平均粒径は、複合粒子1の平均粒径から、被覆層20の平均厚みを減じることにより求められる。
複合粒子1Aの場合は、コア粒子3の平均粒径は、複合粒子1Aの平均粒径から、被覆層20の平均厚みを減じることにより求められる。
【0069】
複合粒子1は、微細繊維2のイオン性官能基に、機能性材料4が吸着していることが好ましい。
図1(b)に示すように、本実施形態の複合粒子1Aは、微細繊維2のイオン性官能基の一部又は全部が、アニオン性の機能性材料及びカチオン性の機能性材料から選ばれる1種以上の機能性材料4と結合する反応により変性されている。
機能性材料4は、微細繊維2のイオン性官能基と対となって、イオン結合によって吸着している。イオン性官能基のうち、機能性材料4が吸着している官能基は、機能性材料4と結合する反応により変性されている。
ここで、「変性されている」とは、イオン性官能基が電気的に中性になっていることをいう。
【0070】
機能性材料4としては、着色剤が好ましく、蛍光色素がより好ましい。
蛍光色素は、蛍光発光を示す色素であり、励起光により紫外光や可視光、赤外光といった光エネルギーを吸収して励起状態になり、基底状態に戻る際に蛍光を発する。
本実施形態の蛍光色素は、微細繊維2にイオン吸着する蛍光色素であり、カチオン性あるいはアニオン性の蛍光色素である。特に限定されないが、微細繊維2の分散液に蛍光色素を添加、混合して蛍光色素を吸着させるため、蛍光色素は親水性溶媒に溶解することが好ましい。
【0071】
アニオン性の蛍光色素とは、アニオン性官能基を有する蛍光色素である。アニオン性官能基としては、特に限定されないが、例えば、カルボキシ基、リン酸基、スルホ基等が挙げられる。
カチオン性の蛍光色素とは、カチオン性官能基を有する蛍光色素である。カチオン性官能基としては、例えば、アミノ基、オニウム基、ヒドラジニウム基、ホスホニウム基、オキソニウム基、スルホニウム基、ジアゼニウム基、ジアゾニウム基等が挙げられる。
【0072】
蛍光色素の骨格としては、例えば、シアニン(HITCI等)、キサンテン(ローダミン6G、ローダミンB等)、オキサジン(ナイルブルー等)、クマリン(4-MU等)、キノリン(カルボスチリル165等)、スチルベン(スチルベン1等)、オキサゾール(POPOP等)、パラオリゴフェニレン(p-トリフェニル等)、アクリジン(アクリジン、アクリジンオレンジ等)、ジアリルメタン(オーラミン等)、チアゾール(チオフラビンT等)、インドール(DAPI二塩酸塩)、エチジウム(エチジウムブロマイド等)、プロピジウム(臭化プロピジウム等)、テトラピロール(クロロフィル等)、ジピロメテン(BODIPY等)、ナフタレン、アントラセン、ピレン、ペリレン等を用いることができる。
中でも、親水性溶媒への溶解性から、シアニン骨格、キサンテン骨格、オキサジン骨格、アクリジン骨格、ジアリルメタン骨格(ジフェニルメタン骨格)、チアゾール骨格、インドール骨格、エチジウム骨格、プロピジウム骨格を有する色素を用いることが好ましい。
また、キサンテン骨格、オキサジン骨格、アクリジン骨格、チアゾール骨格、インドール骨格、エチジウム骨格、プロピジウム骨格を有する色素は会合しやすいため、微細繊維2に吸着させることで会合抑制効果を発揮しやすい。
【0073】
カチオン性の蛍光色素としては、例えば、ローダミン6G、ローダミンB、ローダミン123、ナイルブルー、アクリジンオレンジ、オーラミン、DAPI二塩酸塩、エチジウムブロマイド、臭化エチジウム等が挙げられる。
アニオン性の蛍光色素としては、例えば、メロシアニンI、メロシアニン540、ピラニン、フルオレセイン等が挙げられる。
なお、蛍光色素は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、会合や凝集を抑制できる範囲で、カチオン性の蛍光色素とアニオン性の蛍光色素とを併用してもよい。
複合粒子1に吸着する蛍光色素の骨格は、複合粒子1から蛍光色素を脱離させた成分を、赤外分光法(IR)、ガスクロマトグラフィー-質量分析法(GC/MS)等の方法で分析することができる。
【0074】
蛍光色素の励起光の波長(励起波長)は特に限定されないが、紫外光(UV)、可視光、赤外光における任意の波長の光で励起すればよい。蛍光色素の発光波長も特に限定されず、UV、可視光、赤外光の発光を示すことが好ましい。
【0075】
蛍光色素に由来する蛍光発光は、例えば、蛍光顕微鏡観察、蛍光スペクトル測定装置にて評価することができる。
蛍光顕微鏡観察においては、例えば、実体顕微鏡システムSZX16(オリンパス(株)製)にて、下地を黒とし、接眼レンズ×1(1倍)、対物レンズ×10(10倍)にて観察する。蛍光観察は、SZX2-FGFP(GFPフィルター)、SZX2-FUV(UVフィルター)を用いて評価することができる。GFPフィルター条件では100から255、UVフィルター条件では0から125の色調範囲で観察し、外部の光が入らないように紙等で実体顕微鏡システムを覆いながら評価する。蛍光色素により変性された微細繊維2を蛍光色素吸着繊維と呼ぶ。蛍光色素吸着繊維の観察は、スライドガラスに試料を乗せて評価することができる。
蛍光スペクトル測定は、ファイバー式の小型光学分光器USB2000+(OceanOptics社製)を用いて評価することができる。スライドガラス上に蛍光色素吸着繊維の試料を乗せ、光源を照射した際の蛍光スペクトルを測定する。光源として、実体顕微鏡システムSZX16(オリンパス社製)のGFPフィルターを通した光源を用い、外部の光が入らないようにして測定することができる。
【0076】
通常、蛍光色素は会合や凝集により蛍光波長の変化や蛍光強度の低下が起こる。蛍光色素を複合粒子1の微細繊維2に吸着することで色素の会合が抑制され、蛍光発光波長の長波長化を抑制できる。
例えば、10μMのローダミン6Gの水溶液の極大蛍光波長は560nmであるのに対し、蛍光色素固体試薬単体の極大蛍光波長は、蛍光色素の会合により670nmと長波長になる。蛍光色素が複合粒子1の微細繊維2に吸着すると、蛍光色素の会合や凝集が抑制され、蛍光波長の長波長化を防ぐことができ、極大蛍光波長は580nmとなる。
本実施形態の複合粒子1Aの蛍光色素由来の極大蛍光波長λ1、色素固体単体の極大蛍光波長をλ2、10μMの蛍光色素の水溶液の極大蛍光波長をλ3とすると、『50nm≦(λ2-λ1)』となることが好ましい。色素固体単体では、蛍光色素の会合や凝集が起こりやすい。複合粒子1Aにおいて、蛍光色素の会合や凝集をより抑制できることから、(λ2-λ1)が上記下限値以上となることが好ましい。
また、極大蛍光波長の関係式は、『-100nm≦(λ3-λ1)≦100nm』であることが好ましい。10μMの蛍光色素水溶液中では、蛍光色素が単分子で存在している。複合粒子1Aにおいて、蛍光色素の会合をより抑制できることから、(λ3-λ1)が上記数値範囲内となることが好ましい。
複合粒子1Aにおける蛍光色素由来のλ1を算出する方法としては、蛍光色素を吸着した複合粒子1Aの蛍光強度の値から、蛍光色素を吸着していない複合粒子1の蛍光強度の値を減じる方法が挙げられる。
【0077】
複合粒子1の表面に吸着する蛍光色素の量(蛍光色素の吸着量)は、複合粒子1の乾燥質量1g当たり0.01μmol以上100.0μmol以下が好ましく、0.05μmol以上50.0μmol以下がより好ましい。蛍光色素の吸着量が上記下限値以上であると、充分な蛍光発光を示すことができる。蛍光色素の吸着量が上記上限値以下であると、蛍光色素の分子間同士の会合や凝集を抑制でき、蛍光発光波長の変化を抑制できる。
【0078】
蛍光色素の結合量(蛍光色素の吸着量)は、次の方法で求められる。
複合粒子1Aを酸性水溶液又はアルカリ性水溶液に浸漬させて吸着していた蛍光色素を脱離させる。脱離した蛍光色素の量を吸光度から求める。吸光度から求めた蛍光色素の量を、吸着していた蛍光色素の量(蛍光色素の結合量)とする。
例えば、イオン性官能基がアニオン性官能基であれば、pH2.0以下の塩酸に複合粒子1Aを1質量%添加して攪拌しながら1時間以上放置する。その後、遠心分離あるいは濾過により、固体成分と液体成分とに分離する。分離した液体成分の吸光度を測定し、酸により脱離した蛍光色素の量を求める。酸により脱離した蛍光色素の量を、蛍光色素の吸着量とする。
酸により脱離した蛍光色素の量は、以下の手順で求められる。
純水をリファレンスとして、事前に濃度既知の蛍光色素水溶液の吸光度を測定し、下記式(i)で表されるランベルトベールの法則から、蛍光色素のモル吸光係数を算出する。
A=-log10(I/I)=εcl ・・・(i)
式(i)において、Aは吸光度、Iは媒質に入射する前の光の強度(放射照度)、Iは長さlの媒質を透過した後の光の強度、εはモル吸光係数、cは媒質のモル濃度を表す。
分離した液体成分の吸光度Aと、蛍光色素のモル吸光係数εとから、分離した液体成分における蛍光色素のモル濃度c、すなわち、酸により脱離した蛍光色素の量が求められる。
【0079】
複合粒子1Aにおける微細繊維2は、複合粒子1における微細繊維2と同様である。
【0080】
複合粒子1Aの微細繊維2における蛍光色素の吸着量(結合量)は、特に限定されないが、微細繊維2の乾燥質量に対して、0.1mol/g以上4.0mmol/g以下が好ましく、0.2mmol/g以上3.0mmol/g以下がより好ましい。蛍光色素の結合量が上記下限値以上であると、充分な蛍光発光を示すことができる。蛍光色素の結合量が上記上限値以下であると、蛍光色素の分子の分子間の距離を適度に維持でき、会合あるいは凝集を抑制でき、蛍光発光のシフトや蛍光発光が弱くなることを抑制できる。
【0081】
蛍光色素吸着繊維における蛍光色素の結合量は、次の方法で求められる。
蛍光色素吸着繊維を酸性水溶液又はアルカリ性水溶液に浸漬させて吸着していた蛍光色素を脱離させる。脱離した蛍光色素の量を吸光度から求める。吸光度から求めた蛍光色素の量を、吸着していた蛍光色素の量(蛍光色素の結合量)とする。
例えば、イオン性官能基がアニオン性官能基であれば、pH2.0以下の塩酸に蛍光色素吸着繊維を0.1質量%添加して攪拌しながら1時間以上放置する。その後、固体成分と液体成分とを分離する。分離した液体成分の吸光度を測定し、酸により脱離した蛍光色素の量を求める。酸により脱離した蛍光色素の量を、蛍光色素の吸着量とする。
酸により脱離した蛍光色素の量は、以下の手順で求められる。
純水をリファレンスとして、事前に濃度既知の蛍光色素水溶液の吸光度を測定し、下記式(i)で表されるランベルトベールの法則から、蛍光色素のモル吸光係数を算出する。
A=-log10(I/I)=εcl ・・・(i)
式(i)において、Aは吸光度、Iは媒質に入射する前の光の強度(放射照度)、Iは長さlの媒質を透過した後の光の強度、εはモル吸光係数、cは媒質のモル濃度を表す。
分離した液体成分の吸光度Aと、蛍光色素のモル吸光係数εとから、分離した液体成分における蛍光色素のモル濃度c、すなわち、酸により脱離した蛍光色素の量が求められる。
【0082】
微細繊維2のイオン性官能基に対する蛍光色素の吸着量(吸着率)は、特に限定されないが、イオン性官能基量を100mol%とすると、0.1mol%以上95mol%以下が好ましく、1mol%以上90mol%がより好ましく、2mol%以上50mol%以下がさらに好ましい。イオン性官能基に対する蛍光色素の吸着率が上記下限値以上であると、充分な蛍光発光を示すことができる。イオン性官能基に対する蛍光色素の吸着率が上記上限値以下であると、蛍光色素の分子の分子間の距離を適度に維持でき、会合あるいは凝集を抑制でき、蛍光発光のシフトや蛍光発光が弱くなることを抑制できる。
イオン性官能基に対する蛍光色素の吸着率は、蛍光色素の結合量をイオン性官能基の含有量で除することにより求められる。
【0083】
≪複合粒子の製造方法≫
本発明の複合粒子の製造方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、化学的調製法や物理化学的調製法を用いて、ポリマーを含有する材料で形成されたコア粒子3と、コア粒子3の表面に結合された微細繊維2を有する複合粒子1とを製造する。
化学的調製法としては、例えば、重合性モノマーから重合過程で粒子形成を行う重合造粒法(乳化重合法、懸濁重合法、シード重合法、放射線重合法等)が挙げられる。
物理化学的調製法としては、例えば、微小液滴化したポリマー溶液から粒子形成を行う分散造粒法(スプレードライ法、液中硬化法、溶媒蒸発法、相分離法、溶媒分散冷却法等)が挙げられる。
前記複合粒子1の表面の微細繊維2に機能性材料4を吸着させることで複合粒子1Aを製造できる。
【0084】
例えば、微細繊維2を用いたO/W型ピッカリングエマルションを形成させ、液滴内部のコア粒子前駆体を固体化させ、コア粒子3の表面に微細繊維2が被覆された繊維被覆粒子(複合粒子1)を作製することで、コア粒子3と微細繊維2とが結合して不可分の状態にある複合粒子1を得ることができる。
微細繊維2を用いることで界面活性剤等の添加物を用いることなく、安定した液滴を形成するため、粒子径分布の小さい真球状の複合粒子1を得ることができる。
また、複合粒子1の表面に存在する微細繊維2は、親水性で、比表面積が高く、分散性が良好になるため、機能性材料4が複合粒子1の表面に効率よく吸着し、機能性材料4が脱離しにくくなる。
コア粒子前駆体は、固体化してコア粒子3を形成するものであればよく、例えば、重合性モノマー、溶融ポリマー、溶解ポリマー等が挙げられる。
コア粒子前駆体の固体化の方法は特に限定されず、重合性モノマーを重合する、溶融ポリマーを凝固させる、溶解ポリマーから溶媒を除去する、等により、コア粒子前駆体を固体化することができる。
【0085】
以下、本実施形態の複合粒子1及び複合粒子1Aの製造方法について、図面を参照して詳細に説明する。
【0086】
本実施形態の複合粒子1及び複合粒子1Aは、図2に示す製造方法で製造することができる。図2に示すように、本実施形態の複合粒子1の製造方法は、第1工程と第2工程と第3工程と第4工程とを有する。また、本実施形態の複合粒子1Aの製造方法は、複合粒子1の製造方法における第1工程と第2工程と第3工程と第4工程と、第4工程の後に第5工程とを有する。
【0087】
<第1工程>
第1工程(工程1)は、図2(a)に示すように、繊維原料に短繊維化処理を施して短繊維化繊維の分散液を得、親水性溶媒7中で繊維原料及び短繊維化繊維から選ばれる1種以上を解繊して微細繊維2の分散液を得る工程である。
【0088】
繊維原料としては、セルロース原料や、キチン及びキトサンから選ばれる1種以上の原料(以下、「キチン/キトサン原料」ともいう。)を用いることができる。
セルロース原料として用いることができるセルロースの種類や結晶構造は、特に限定されない。具体的には、セルロースI型結晶からなる原料としては、例えば、木材系天然セルロースに加えて、コットンリンター、竹、麻、バガス、ケナフ、バクテリアセルロース、ホヤセルロース、バロニアセルロースといった非木材系天然セルロースを用いることができる。さらには、セルロースII型結晶からなるレーヨン繊維、キュプラ繊維に代表される再生セルロースを用いることもできる。材料調達の容易さから、木材系天然セルロースを原料とすることが好ましい。木材系天然セルロースとしては、特に限定されず、針葉樹パルプや広葉樹パルプ、古紙パルプ等、一般的にセルロースナノファイバーの製造に用いられるものを用いることができる。木材系天然セルロースとしては、精製及び微細化のしやすさから、針葉樹パルプが好ましい。
【0089】
キチン/キトサン原料としては、例えば、カニ、エビ等の甲殻類や昆虫、クモ等、節足動物や、イカの腱のように動物の体を支え、守るための直鎖状の構造多糖が挙げられる。キチン/キトサン原料は、結晶性があり(分子が規則的に並んでいる部分がある)、一部はタンパク質と結合している。キチンは、N-アセチルグルコサミンを主な構成糖とした多糖である。キチン/キトサン原料を単離、精製すると、100%がN-アセチルグルコサミンからなる精製キチンはほとんどなく、一部はグルコサミンを構成成分として含んだキチン及びキトサンから選ばれる1種以上が得られる。
例えば、乾燥状態のタラバガニの殻を5mm程度に砕いた原料や、湿潤状態のヤリイカの軟甲を1cm程度に砕いた原料をキチン/キトサン原料として用いることができる。
キチン/キトサン原料は予め精製することが好ましい。
セルロース原料やキチン/キトサン原料から、セルロースナノファイバー及びキチンナノファイバーから選ばれる1種以上を製造することができる。
【0090】
まず、繊維原料を溶媒中に分散し、懸濁液とする。懸濁液中の繊維原料の濃度としては0.1質量%以上10質量%未満が好ましい。懸濁液中の繊維原料の濃度が上記下限値以上であると、溶媒過多となり生産性を損なうことを抑制できる。懸濁液中の繊維原料の濃度が上記上限値未満であると、複合粒子1及び複合粒子1Aの粒子径のばらつきを小さくしやすい。加えて、懸濁液中の繊維原料の濃度が上記上限値未満であると、微細繊維を得る場合、繊維原料の解繊に伴い懸濁液が急激に増粘することを抑制でき、均一な解繊処理をより容易に行うことができる。
【0091】
懸濁液作製に用いる溶媒としては、親水性溶媒7を用いることが好ましい。
親水性溶媒7としては特に限定されず、水;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;テトラヒドロフラン等の環状エーテル類、あるいはこれらの混合物が挙げられる。
懸濁液としては、水を50質量%以上含むことが好ましい。懸濁液中の水の割合が50質量%以上であると、繊維原料及び繊維から選ばれる1種以上に短繊維化処理を施し微細繊維2を得る工程において、微細繊維2の分散が阻害されることを抑制できる。また、水以外に含まれる溶媒としては前述の親水性溶媒7が好ましい。
【0092】
第1工程では、必要に応じて、繊維原料、生成する短繊維化繊維及び微細繊維2の分散性を上げるために、懸濁液のpH調整を行ってもよい。pH調整に用いられるアルカリ水溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水溶液、有機アルカリ水溶液等が挙げられる。有機アルカリ水溶液としては、例えば、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液、水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液、水酸化テトラブチルアンモニウム水溶液、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム水溶液等が挙げられる。pH調整に用いられるアルカリ水溶液としては、pHを調整しやすく、コスト面で優れることから、水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。
【0093】
繊維原料は微細繊維2の長軸径(繊維長)を短くするための短繊維化処理が施される。短繊維化処理を施すことにより、繊維原料の長軸径が短くなり、メジアン径が小さく、低粘度な微細繊維2を得ることができる。このため、複合粒子1の精製過程が容易となり、収率よく純度の高い、粒径のばらつきが小さい、真球状の複合粒子1を回収することができる。
【0094】
短繊維化処理としては化学的処理あるいは物理的処理が挙げられる。化学的処理、物理的処理のいずれの短繊維化処理も、表面構造を維持しながら繊維原料を低分子化することで、長軸径(繊維長)の短い、低粘度化された微細繊維2を製造できる。このため、コア粒子前駆体を含む微小な液滴6の全体を被覆しやすく、安定したピッカリングエマルションを形成することができ、粒径のばらつきが小さい、真球状の複合粒子1を得ることができる。
【0095】
化学的処理は、試薬や酵素を用い、化学反応を利用して繊維を分解し、低分子化するものである。特に限定されないが、酵素酸化処理や酸加水分解処理、アルカリ処理のうち少なくとも1種類以上であることが好ましい。
【0096】
物理的処理としては、例えば、マイクロ波照射処理、レーザー照射処理、紫外線照射処理、電子線照射処理、ガンマー線照射処理、ヒドロキシ(OH)ラジカル処理等が挙げられる。中でも、紫外線照射処理、電子線照射処理、ガンマー線照射処理、OHラジカル処理のうち少なくとも1種類以上であることが好ましい。
【0097】
短繊維化処理を施すことで、0.5質量%水分散液の25℃における粘度が、せん断速度1s-1のとき2mPa・s以上1000mPa・s以下であり、せん断速度100s-1のとき2mPa・s以上100mPa・s以下である微細繊維2を得ることができる。このため、精製が容易で高収率に、粒径のばらつきが小さい複合粒子1を製造できる。
【0098】
短繊維化処理は、繊維原料にイオン性官能基を導入する前あるいは後に施されてもよい。また、イオン性官能基を導入しながら短繊維化処理を施してもよい。特に限定されないが、繊維原料にイオン性官能基を導入した後、短繊維化処理を施すことが好ましい。
【0099】
酵素酸化処理において用いる酵素の種類は、特に限定されないが、繊維原料がセルロース原料の場合は、セルラーゼが好ましい。セルラーゼの種類としては、例えば、セロビオハイドロラーゼ、グルカナーゼ、β-グルコシダーゼ等が挙げられる。
これらの酵素は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0100】
酵素酸化処理においては、繊維原料を含有する水分散液に、酵素を添加して一定時間保持し、必要に応じて攪拌することで、繊維に酵素を吸着させて作用させる。酵素酸化処理により、繊維の加水分解が促進され、繊維原料の長軸径が短くなり、低粘度で長軸径の短い微細繊維2が得られる。酵素酸化処理による加水分解反応の進行は、酵素の使用量、酵素酸化処理温度、pH、反応時間等により制御でき、結晶表面の構造が変化しない範囲で短繊維化処理を施すことが好ましい。
【0101】
酵素の使用量は、繊維原料100質量%に対して、0.005~20質量%が好ましく、0.1~10質量%がより好ましい。酵素の使用量が上記下限値以上であると、加水分解反応を促進できる。酵素の使用量が上記上限値以下であると、加水分解反応の進行による短繊維化と低粘度化とを抑制し、繊維の表面構造の変化を抑制でき、安定したピッカリングエマルションをより容易に形成できる。
酵素酸化処理における処理温度は、酵素反応を促進する観点から、4~70℃が好ましく、10~50℃がより好ましい。
酵素酸化処理におけるpHは、酵素反応を促進する観点から、3.0~12.0が好ましく、4.0~10.0がより好ましい。
酵素酸化処理における処理時間は、例えば、0.5~48時間が好ましい。
【0102】
繊維原料に酸加水分解処理を施してもよい。例えば、セルロースは、酸による加水分解にて低分子化する。酸加水分解処理により繊維原料を低分子化することで、長軸径の短い低粘度な微細繊維2が得られる。酸加水分解処理の条件は、繊維の非晶部分に作用し、繊維表面構造が崩れない範囲であればよく、特に限定されるものではない。酸加水分解処理に用いる酸も、公知の酸を用いることができる。例えば硫酸、塩酸、硝酸を用いることができる。
【0103】
酸の添加量は、繊維原料の乾燥質量に対して、0.05~10質量%が好ましい。酸の添加量が上記下限値以上であると、加水分解を促進できる。酸の添加量が上記上限値以下であると、過度の反応を抑制し、繊維表面の構造の崩壊を抑制でき、安定したピッカリングエマルションをより容易に形成できる。
酸加水分解処理の進行は、pH、温度、処理時間にて調節できる。
酸加水分解処理におけるpHは、1.5~5.0が好ましい。
酸加水分解処理における温度は、10~120℃が好ましい。
酸加水分解処理における処理時間は、0.5~20時間が好ましい。
酸加水分解処理後は、解繊処理の前に水酸化ナトリウム等のアルカリを添加して中和しておくことが好ましい。
【0104】
アルカリ性溶液中、好ましくはpH7.5からpH14の条件において加水分解を行うことで、繊維が短繊維化し、低粘度な微細繊維2を得ることができる(アルカリ処理)。
【0105】
アルカリ処理における繊維原料の固形分濃度は、アルカリ性溶液100質量%に対して、0.1~30質量%が好ましい。アルカリ処理に用いるアルカリは、水溶性であることが好ましい。アルカリとしては、例えば、アルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物を用いることができ、中でも水酸化ナトリウムを用いることが好ましい。アルカリ処理における低分子化の進行は、pH、温度、時間により制御できる。
アルカリ処理における温度は、30~150℃が好ましい。
アルカリ処理における処理時間は、0.25~20時間が好ましい。
【0106】
アルカリ処理では、助剤として酸化剤又は還元剤を用いてもよい。酸化剤、還元剤は特に限定されないが、酸化剤としては、例えば、酸素、オゾン、過酸化水素、次亜塩素酸塩等が挙げられる。還元剤としては、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、亜塩素酸等が挙げられる。
【0107】
pH7.5からpH14のアルカリ性溶液中では、N-オキシル化合物を用いて酸化された繊維原料の非結晶領域にカルボキシ基が存在し、このカルボキシ基が存在するC6位の水素は、カルボキシ基によって電荷が欠乏している。C6位の水素は、アルカリ条件下では水酸化物イオンで容易に引き抜かれ、β脱離によるグリコシド結合の開裂が進行する。このように、繊維原料をアルカリ性条件におくことで短繊維化、低粘度化が起きる。酸化剤や還元剤を用いることで、β脱離の際に生成した二重結合を酸化、又は還元して除去できるため微細繊維2の着色を抑制できる。
【0108】
物理的処理として、電子線又はガンマー線を照射することにより、短繊維化した微細繊維2を得ることができる。一般に、有機化合物に電子線やガンマー線を照射すると、照射線量に応じて材料の改質や分解を促すことができる。電子線やガンマー線を照射すると、原子間の結合が切断され、ラジカルが発生する。発生したラジカルにより分子の切断が起こる場合や再結合による共有結合が新たに形成する場合がある。繊維原料が、セルロース等の天然高分子の場合は、分解が優位に進行し、低分子化が起こるため、低粘度な微細繊維2を得ることができる。
【0109】
電子線照射やガンマー線照射にて短繊維化処理を施す際、水を包含した有機化合物であると、その含水状態が分解挙動を促進する。電子線やガンマー線が照射された水がラジカルにより材料の分解が加速される場合がある一方、水の存在により電子線照射やガンマー線照射が遮蔽されて分解効率が低下する場合がある。繊維原料の含水率は、5質量%以上90質量%以下が好ましい。繊維原料の含水率が上記下限値以上であると、繊維原料の凝集を抑制でき、その後の分散処理が容易になり、処理後のハンドリングがより容易になる。繊維原料の含水率が上記上限値以下であると、電子線照射やガンマー線照射の遮蔽効果を抑制でき、繊維原料の分解効率をより高められる。
【0110】
電子線の照射方法は特に限定されず、カーテン型、スキャン型、プラズマ放電型等、公知の方法を用いることができる。ガンマー線は、コバルト60を線源に用いることができる。照射量は、特に限定されないが、いずれも10kGy以上1000kGy以下が好ましい。10kGyより少ないと分解能力が不充分であり、1000kGyより大きい場合は1000kGyと同等の分解効率しか得られず、照射エネルギーが過剰となる。
【0111】
ガンマー線は、物質の透過能力が非常に高いため、照射面は特に限定されず、いずれの面から照射しても構わない。電子線に関しては、加速電圧により物質の透過能力が異なり、加速電圧が高いほど電子線の物質中での透過能力が高くなる。水の場合、電子線の加速電圧が2MeVで8mm程度の透過能力がある。そのため、材料の形態によって電子線を照射する面を考慮する必要がある。加速電圧は0.1MeVから10MeVが好ましい。0.1MeVより低いと電子線透過能力が低いために電子線照射効果が材料表面近傍のみに限定されてしまう。一方、10MeVより高い加速電圧を持つ装置では設備の規模が大きくなり現実的ではない。
【0112】
電子線又はガンマー線を処理する際の繊維原料の形態としては、電子線又はガンマー線が繊維を分解可能な状態において、処理の過程で被処理材料が包含する水が過剰に蒸発したり、繊維を包装する包装材料が電子線又はガンマー線の照射により生成した分解物等により繊維に悪影響を及ぼしたりしなければよく、特に限定されない。例えば、繊維原料をアルミ箔で覆い、電子線又はガンマー線により処理をすることが好ましい。電子線又はガンマー線を照射することにより、薬剤等を使用せずに高固形分濃度において処理ができ、煩雑な操作を必要としないため、生産性が高い方法である。
【0113】
紫外線は、電磁波(光)の一種であり、一般に100nmから400nmの範囲の電磁波の総称である。電磁波の持つエネルギーはE=1/5.2・N・h・c/λ(kcal/mol)で表される。ここで、hはプランク定数(6.626×10-27erg・sec)、cは光速(2.998×1010cm/sec)、λは波長(cm)、Nはアボガドロ定数(6.02×1023/mol)である。紫外線、例えば、172nm、185nm、254nmのように紫外線領域の光は、大部分の化学結合エネルギーよりも大きく、結合を切断することができる。
【0114】
大気中の酸素(O)は、185nmの紫外線を吸収してオゾン(O)を生成し、生成したOは、更に254nmの紫外線を吸収してOと反応して酸素元素ラジカル(活性酸素)を発生する。これらの活性酸素は強力な酸化力を持っており、有機化合物は切断されて励起状態となり、活性酸素と反応し、カルボニル基やカルボキシ基等の親水基を持った低分子化合物を生成し、COやHOのような揮発性物質を生成する。
また、185nmの紫外線を用いる方法で、紫外線を水に直接照射することで酸化力の高いOHラジカルを発生させてもよい。254nmの紫外線と酸化剤(Oや過酸化水素等)との反応により、OHラジカルを発生させ、繊維原料を分解することもできる。
【0115】
上記の理由により、紫外線を照射すると繊維原料は低分子化し、得られる微細繊維2が短繊維化する。紫外線の波長は100~400nmである。特に、130~270nmの紫外線は、繊維原料の低分子化を引き起こすため、好適である。紫外線照射条件は、特に限定されず、所望の長軸径や粘度の微細繊維2を得られるように設定することができる。
【0116】
紫外線の線源としては、紫外線照射ランプ、例えば、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、カーボンアーク、キセノンアーク等を用いることができる。低圧水銀ランプは、185nmと254nmに2本の強力なスペクトルが放射されるため、好ましい。これらは、1種類を用いてもよく、複数の線源を用いてもよい。ランプ形状は、直管型、U型、M型、正方型等があり、特に限定されない。また、紫外線照射の際に酸素濃度を低下させてもよく、そのために導入される不活性ガスとしては、窒素を用いることができる。
【0117】
紫外線照射処理の方法は、特に限定されず、粘度特性を望ましい範囲にすることができるように調整することができる。
紫外線照射処理は、紫外線照射時間や紫外線照射のエネルギー量、繊維原料の含水率、空気や窒素等の不活性ガスを装置内へ導入すること等により、得られる微細繊維2の長軸径や粘度特性を制御することができる。紫外線照射処理は、酸素、オゾン、過酸化物等の助剤の存在下で行うことで光酸化効率を高められるため、好ましい。
【0118】
ヒドロキシ(OH)ラジカル処理は、OHラジカルを公知の方法で発生させ、繊維原料を低分子化する処理である。高い酸化分解ポテンシャルを持つOHラジカルにより、有機化合物のC-C結合を切断できるため、繊維原料を低分子化し、長軸径が短く、粘度の低い微細繊維2が得られる。
OHラジカルの生成方法は、特に限定されず、一般的にオゾン、過酸化水素、紫外線等の物理化学的な処理手法を併用するのが一般的である。例えば、Oを用いる方法(特開2010-235681号公報)や紫外線と酸化剤とを併用する方法が知られる。特に、放電により直接OHラジカルを発生させるとOHラジカルの発生効率が高く、好ましい。
【0119】
を用いる方法としては、放電によりOを発生させ、処理水中に溶解させた溶存OがH若しくは紫外線により分解される過程でOHラジカルを発生させる方法が一般的である。Oの発生方法としては、特に限定されないが、紫外線による方法、電解法、放射線照射法、放電により発生させる方法等が用いられる。紫外線による方法では、大気中のOは185nmの紫外線を吸収してオゾン(O)を生成する。電解法は、一般に電解液として硫酸又は塩酸の水溶液を使用し、電気分解によりオゾンを生成する方法である。また、放射線照射法は、放射線の電離作用によるもので、放射線の高エネルギー領域に空気を入れてオゾンが発生することを応用している。放電によりOを発生させる方法としては、無声放電方式、コロナ放電方式、又はいくつかの放電方式を組み合わせた複合放電方式が挙げられる。
【0120】
紫外線を用いる方法としては、紫外線を酸化剤に照射して、より酸化力の強いOHラジカルを発生させる方法が好ましい。特に限定されないが、酸化剤としてはHO、O、H、次亜塩素酸塩、光触媒を用いるのが一般的である。
【0121】
放電によりOHラジカルを発生させる方法は、OHラジカルを発生していればよく、他のラジカル種を発生していても構わない。特に限定されないが、プラズマ放電やコロナ放電を用いるとOHラジカルの発生効率が高いため、好ましい。OHラジカルを発生させる装置としては、例えば、繊維原料の分散液と、その上方に配置される中空円筒のピン電極、ピン電極に高電圧を印加させるための高電圧パルス電源で構成される装置が挙げられる。ピン電極に高電圧が印加されると電極最端部でコロナ放電が発生する。放電により内部で電子衝突による水(HO)分子や酸素分子(O)の解離反応が起こり、OHラジカルが生成する。OHラジカルは、ガス空間中を移動して処理水中に溶解し、水中の繊維原料と反応して分解処理が行われる。放電時の雰囲気は、特に限定されないが、一般にO、N、大気、又はそれらの混合物を用いることが出来る。
【0122】
OHラジカル処理における処理度は、繊維原料の固形分濃度、pH、温度、処理時間等により調節することができる。OHラジカル処理において、繊維原料の含水率は5%以上であることが好ましい。5%未満では繊維原料の凝集が強くなりすぎるため、その後の分散処理が困難になる等の処理後のハンドリングが困難になる。
【0123】
OHラジカル処理における繊維原料の温度は特に限定されないが、反応効率の面から10℃以上であることが好ましい。また、処理中の固形分濃度が変化しにくく、繊維表面の構造が崩壊しにくいため、80℃以下であることが好ましい。pHも特に限定されないが、pH2.0からpH12.0で行うことが好ましい。O発生量、酸化剤の添加量、紫外線の照射量等は特に限定されず、繊維の低分子化の度合いや得られる微細繊維2が所望の長軸径、粘度特性となるように適宜調整できる。反応を効率よく、均一に行うためには、攪拌機、温調、pHを調節することができるような装置を用いることが好ましい。
【0124】
化学的処理又は物理的処理は、イオン性官能基導入の前後、あるいは短繊維化処理後、イオン性官能基導入中、短繊維化処理中に行っても構わない。また、同じ処理を複数回、又は異なる種類の処理を順次行ってもよく、複数の処理を同時に行ってもよい。
【0125】
繊維原料は化学改質によりイオン性官能基が導入されている。予め繊維原料にイオン性官能基を導入してから解繊してもよく、繊維原料を解繊してからイオン性官能基を導入してもよい。また、短繊維化処理前にイオン性官能基を導入してもよく、短繊維化処理後にイオン性官能基を導入してもよい。
繊維原料の結晶表面にイオン性官能基が導入されていると、エマルション安定性が良好となり、複合粒子1及び複合粒子1Aの粒子径のばらつきを小さくしやすい。また、複合粒子1の表面に存在する微細繊維2のイオン性官能基を介して蛍光色素等の機能性材料4を吸着させることができる。
さらに、繊維原料又は短繊維化繊維の結晶表面にイオン性官能基が導入されていると、浸透圧効果で繊維原料又は短繊維化繊維の結晶間に溶媒が浸入しやすくなり、繊維原料又は短繊維化繊維の微細化が進行しやすく、微細繊維2の分散液(微細繊維分散液)を効率的に得ることができる。
【0126】
繊維原料の結晶表面に導入されるイオン性官能基の種類は特に限定されない。なお、イオン性官能基は、短繊維化処理を施す前に導入されてもよく、短繊維化繊維に導入されてもよい。また、解繊前に導入されてもよく、解繊後に導入されてもよい。
イオン性官能基としては、アニオン性官能基やカチオン性官能基が挙げられる。
アニオン性官能基の種類や導入方法は特に限定されないが、カルボキシ基やリン酸基が好ましい。繊維原料がセルロース原料の場合、セルロース結晶表面への選択的な導入のしやすさから、カルボキシ基が好ましい。
カチオン性官能基の種類や導入方法も特に限定されない。カチオン性官能基としては、例えば、アミノ基、オニウム基、ヒドラジニウム基、ホスホニウム基、オキソニウム基、スルホニウム基、ジアゼニウム基、ジアゾニウム基等が挙げられる。例えば、アミノ基を導入する方法として、キチン/キトサン原料を精製して部分脱アセチル化処理によりアミノ基を導入する方法が挙げられる。
【0127】
イオン性官能基の導入量は、繊維原料、短繊維化繊維又は微細繊維2の乾燥質量に対して、1.3mmоl/g以上5.0mmоl/g以下であり、1.5mmоl/g以上4.0mmоl/g以下が好ましく、1.7mmоl/g以上3.5mmоl/g以下がより好ましく、2.0mmоl/g以上3.0mmоl/g以下がさらに好ましい。イオン性官能基の含有量が上記下限値以上であると、メジアン径の小さい微細繊維2が得られる。加えて、イオン性官能基の含有量が上記下限値以上であると、微細繊維2の分散性が向上するため、複合粒子1と遊離の微細繊維2の精製が容易となり、粒径のばらつきが小さく、真球状の複合粒子1を効率よく得ることができる。また、機能性材料4として蛍光色素を適用した場合、蛍光色素の吸着量を高められ、蛍光発光の強度をより高められる。イオン性官能基の含有量が上記上限値以下であると、剛直な繊維構造を保つことができるため、エマルション安定性が向上し、粒径のばらつきが小さい複合粒子1を得ることができる。また、機能性材料4として蛍光色素を適用した場合、蛍光色素の分子同士の凝集を抑制でき、蛍光発光が変化することを抑制できる。
ここで、繊維原料、短繊維化繊維又は微細繊維2の乾燥質量は、繊維原料、短繊維化繊維又は微細繊維2を温度120℃で1時間乾燥させた後の質量を意味する。
イオン性官能基の含有量は、電気伝導度滴定により求められる。
【0128】
繊維原料、短繊維化繊維又は微細繊維2の結晶表面にカルボキシ基を導入する方法は、特に限定されない。具体的には、例えば、高濃度アルカリ水溶液中でセルロースをモノクロロ酢酸又はモノクロロ酢酸ナトリウムと反応させることによりカルボキシメチル化を行う方法が挙げられる。また、オートクレーブ中で、ガス化したマレイン酸やフタル酸等の無水カルボン酸系化合物とセルロースとを直接反応させて、カルボキシ基を導入してもよい。さらには、水系の比較的温和な条件下で、可能な限り構造を保ちながら、アルコール性一級炭素の酸化に対する選択性が高い化合物の存在下、共酸化剤を用いた手法を用いてもよい。アルコール性一級炭素の酸化に対する選択性が高い化合物としては、例えば、TEMPOをはじめとするN-オキシル化合物等が挙げられる。
カルボキシ基導入部位の選択性及び環境負荷低減のためには、N-オキシル化合物を用いた酸化がより好ましい。N-オキシル化合物の存在下、共酸化剤を用いた手法においては、結晶表面に存在するC6位の水酸基が選択的に酸化されるため、カルボキシ基が規則正しく導入される。
【0129】
N-オキシル化合物としては、例えば、TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシラジカル)、2,2,6,6-テトラメチル-4-ヒドロキシピペリジン-1-オキシル、4-メトキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル、4-エトキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル、4-アセトアミド-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル等が挙げられる。その中でも、反応性が高いTEMPOが好ましい。
N-オキシル化合物の使用量は、触媒としての量でよく、特に限定されない。通常、酸化処理する木材系天然セルロース(繊維原料)の固形分に対して0.01質量%以上5.0質量%以下が好ましい。
【0130】
N-オキシル化合物を用いた酸化方法としては、例えば、木材系天然セルロースを水中に分散させ、N-オキシル化合物の共存下で酸化処理する方法が挙げられる。このとき、N-オキシル化合物とともに、共酸化剤を併用することが好ましい。この場合、反応系内において、N-オキシル化合物が順次共酸化剤により酸化されてオキソアンモニウム塩が生成し、上記オキソアンモニウム塩によりセルロースが酸化される。この酸化処理によれば、温和な条件でも酸化反応が円滑に進行し、カルボキシ基の導入効率が向上する。酸化処理を温和な条件で行うと、セルロースの結晶構造を維持しやすい。
温和な条件としては、例えば、温度20~60℃で反応を行う条件が挙げられる。
【0131】
共酸化剤としては、例えば、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸や過ハロゲン酸、又はそれらの塩、ハロゲン酸化物、窒素酸化物、過酸化物等、酸化反応を推進することが可能であれば、いずれの酸化剤も用いることができる。入手の容易さや反応性から、次亜ハロゲン酸又はそれらの塩が好ましく、次亜塩素酸ナトリウムがより好ましい。
共酸化剤の使用量は、酸化反応を促進することができる量でよく、特に限定されない。通常、酸化処理する木材系天然セルロースの固形分に対して1~200質量%程度である。
【0132】
N-オキシル化合物及び共酸化剤とともに、臭化物及びヨウ化物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物をさらに併用してもよい。これにより、酸化反応をより円滑に進行させることができ、カルボキシ基の導入効率を改善することができる。このような化合物としては、例えば、臭化ナトリウム、臭化リチウムが好ましく、コストや安定性から、臭化ナトリウムがより好ましい。
上記化合物の使用量は、酸化反応を促進することができる量でよく、特に限定されない。通常、酸化処理する木材系天然セルロースの固形分に対して1~50質量%程度である。
【0133】
酸化反応の反応温度は、4℃以上80℃以下が好ましく、10℃以上70℃以下がより好ましい。酸化反応の反応温度が上記下限値以上であると、試薬の反応性を高められ、反応時間を短くすることができる。酸化反応の反応温度が上記上限値以下であると、副反応を抑制でき、高結晶性の剛直なセルロースナノファイバーの繊維構造を維持できる。
【0134】
酸化処理の反応時間は、反応温度、所望のカルボキシ基量等を考慮して適宜設定でき、特に限定されないが、通常、10分以上5時間以下である。
【0135】
酸化反応時の反応系のpHは特に限定されないが、9以上11以下が好ましい。pHが9以上であると反応を効率良く進めることができる。pHが11以下であると、副反応を抑制でき、繊維原料、短繊維化繊維又は微細繊維2の分解を抑制できる。
また、酸化処理においては、酸化が進行するにつれて、カルボキシ基等が生成することにより系内のpHが低下してしまうため、酸化処理中、反応系のpHを9以上11以下に保つことが好ましい。反応系のpHを9以上11以下に保つ方法としては、pHの低下に応じてアルカリ水溶液を添加する方法が挙げられる。
【0136】
アルカリ水溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水溶液、有機アルカリ水溶液等が挙げられる。有機アルカリ水溶液としては、例えば、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液、水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液、水酸化テトラブチルアンモニウム水溶液、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム水溶液等が挙げられる。アルカリ水溶液としては、pHを調整しやすく、コスト面で優れることから水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。
【0137】
N-オキシル化合物による酸化反応は、反応系にアルコールを添加することにより停止させることができる。このとき、反応系のpHは上記の範囲内に保つことが好ましい。
添加するアルコールとしては、反応を素早く終了させるため、メタノール、エタノール、プロパノール等の低分子量のアルコールが好ましく、反応により生成される副産物の安全性等から、エタノールがより好ましい。
【0138】
酸化処理後の反応液は、そのまま解繊処理を施してもよいが、N-オキシル化合物等の着色、不純物等を除去するために、反応液に含まれる酸化セルロースを回収し、洗浄液で洗浄することが好ましい。
【0139】
酸化セルロースの回収は、ガラスフィルターや20μm孔径のナイロンメッシュを用いた濾過等の公知の方法により実施できる。
酸化処理後のセルロースの回収方法としては、例えば、(a)カルボキシ基が塩を形成したままろ別する方法、(b)反応液に酸を添加して系内を酸性下に調整し、カルボン酸としてろ別する方法、(c)有機溶媒を添加して凝集させた後にろ別する方法等が挙げられる。
その中でも、ハンドリング性や回収効率、廃液処理の観点から、(b)カルボン酸として回収する方法が好適である。また、後述する対イオン置換工程において、対イオンを置換する場合、対イオンとして金属イオンを含有しない方が副生成物の生成を抑制でき、置換効率に優れるため、(b)カルボン酸として回収する方法が好ましい。
【0140】
酸化反応後のセルロース中の金属イオン含有量は、様々な分析方法で調べることができ、例えば、電子線マイクロアナライザーを用いたEPMA法、蛍光X線分析法の元素分析によって簡易的に調べることができる。塩を形成したままろ別する方法を用いて回収した場合、金属イオンの含有率が5wt%以上であるのに対し、カルボン酸としてからろ別する方法により回収した場合、金属イオンの含有率が1wt%以下となる。
【0141】
さらに、回収したセルロースは洗浄を繰り返すことにより精製でき、触媒や副生成物を除去することができる。このとき、塩酸等を用いてpH3以下の酸性条件に調整した洗浄液で洗浄を繰り返した後に、純水で洗浄を繰り返すことにより、残存する金属イオン及び塩類の量を低減することができる。
【0142】
次に、対イオン置換工程としては、カルボキシ基を導入した繊維原料、短繊維化繊維又は微細繊維2の懸濁液にアルカリを添加することにより実施される。アルカリの添加量としては、繊維原料、短繊維化繊維又は微細繊維2に導入されたカルボキシ基に対して0.8当量以上2当量以下であることが好ましい。特に、1当量以上1.8当量以下であると、過剰量のアルカリを添加することなく対イオンを交換できるため、より好ましい。ここで、0.8当量未満でも繊維原料、短繊維化繊維又は微細繊維2をある程度分散させることは可能だが、分散処理により長時間、高エネルギーを要し、得られる繊維の繊維径も本実施形態のものより大きくなり、分散体の均質性が低下する。一方、2当量を超えると、過剰量のアルカリによる分解や分散媒への親和性が低下する場合があり好ましくない。
【0143】
対イオン置換工程においては、繊維原料、短繊維化繊維又は微細繊維2の懸濁液のpHを、アルカリを用いてpH4以上pH12以下の範囲に調整することが好ましい。特に、pHをpH7以上pH12以下のアルカリ性とし、添加したアルカリとカルボン酸塩を形成する。これにより、カルボキシ基同士の荷電反発が起こりやすくなるため、分散性が向上し微細繊維分散液が得られやすくなる。ここで、pH4未満でも機械的分散処理により繊維原料、短繊維化繊維又は微細繊維2を分散させることは可能であるが、アルカリの添加量が過少である場合と同様の理由により微細繊維分散液の均質性が低下する。一方、pH12を超えると分散処理中に繊維原料、短繊維化繊維又は微細繊維2のピーリング反応やアルカリ加水分解による低分子量化や、末端アルデヒドや二重結合形成に伴い微細繊維分散液の黄変が促進されるため、力学強度や均質性が低下する。
【0144】
懸濁液のpHを調整するアルカリは、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、アンモニア、オニウム化合物及びアミンから選ばれる1種以上(以下、「オニウム化合物/アミン」ともいう。)等の水溶液を用いることができる。
オニウム化合物/アミンを用いることで、後述するエマルション液滴の安定性を制御することができ、複合粒子1を高収率にて得ることができる。
【0145】
本実施形態におけるオニウム化合物は、下記構造式(1)に示すカチオン構造を有する。
【0146】
【化1】
【0147】
構造式(1)中、Mは窒素原子、リン原子、硫黄原子のいずれかであり、R1、R2、R3、及びR4は、水素原子、炭化水素基、ヘテロ原子を含む炭化水素基のいずれかである。
【0148】
例えば、Mが窒素原子であり、R1、R2、R3及びR4がいずれも水素原子の場合、オニウム化合物はアンモニウムイオンである。R1、R2、R3、R4のうち3つが水素原子の場合は第1級アミン、2つの場合は第2級アミン、1つの場合は第3級アミン、0個の場合は第4級アミンとなり、いずれも本実施形態におけるオニウム化合物である。
へテロ原子を含む炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルキレン基、オキシアルキレン基、アラルキル基、アリール基、芳香族基等を例示できる。R1、R2、R3、及びR4が環を形成していてもよい。
【0149】
構造式(1)において、Mが窒素原子である、第4級アンモニウム化合物(第4級アンモニウム塩)としては、例えば、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド(TEAH)、テトラエチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH)、テトラブチルアンモニウムクロリド、ジデシルジメチルアンモニウムクロリド、ラウリルトリメチルアンモニウムクロリド、ジラウリルジメチルクロリド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロリド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロリド、セチルトリメチルアンモニウムクロリド、アルキルベンジルジメチルアンモニウムクロリド、ココナットアミン等が挙げられる。
特に、ジデシルジメチルアンモニウムクロリド、セチルトリメチルアンモニウムクロリド、アルキルベンジルジメチルアンモニウムクロリドを用いることで、抗菌性を付与できるため、好ましい。
【0150】
構造式(1)において、Mがリン原子である、第4級ホスホニウム化合物(第4級ホスホニウム塩)としては、例えば、テトラメチルホスホニウムヒドロキシド、テトラエチルホスホニウムヒドロキシド、テトラプロピルホスホニウムヒドロキシド、テトラブチルホスホニウムヒドロキシド、ベンジルトリメチルホスホニウムヒドロキシド、ベンジルトリエチルホスホニウムヒドロキシド、ヘキサデシルトリメチルホスホニウムヒドロキシド等が挙げられる。
【0151】
オニウム化合物のカチオン構造の対イオンは特に限定されないが、金属イオンの混入に伴う悪影響や分散媒への分散性等を考慮すると、水酸化物イオンが対イオンであることが好ましい。オニウム化合物に加えて、アルカリ金属やアルカリ土類金属等の金属塩を含む無機アルカリが添加されてもよい。
【0152】
本実施形態における第1級アミン、第2級アミン、第3級アミンは、それぞれ下記構造式(2)、(3)、(4)に示す構造を有する。なお、これらがイオン化しアンモニウムイオンとなった際の構造は、それぞれ(2)’、(3)’、(4)’となる。
【0153】
【化2】
【0154】
上記構造式中、R~Rは、炭化水素基、ヘテロ原子を含む炭化水素基のいずれかである。
【0155】
第1級アミンとしては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、へキシルアミン、2-エチルへキシルアミン、n-オクチルアミン、ドデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン等が挙げられる。
第2級アミンとしては、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジヘキシルアミン、ジオクチルアミン等が挙げられる。
第3級アミンとしては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン、トリへキシルアミン等が挙げられる。
【0156】
アニオン性を有する繊維原料、短繊維化繊維又は微細繊維2とオニウム化合物/アミンとを用いて得られた懸濁液は、金属イオンを対イオンとする無機アルカリを用いた場合よりも低エネルギー、短時間で分散処理を行うことができ、かつ最終的に得られる微細繊維分散液の均質性も高い。これは、オニウム化合物/アミンを用いた方が、繊維原料、短繊維化繊維又は微細繊維2が有するアニオン性部位の対イオンのイオン径が大きいため、分散媒中で微細繊維2同士を引き離す効果がより大きいためと考えられる。さらに、微細繊維分散液としてオニウム化合物/アミンを含むと、無機アルカリと比べて微細繊維分散液の粘度とチキソ性を低下させることができ、分散処理のしやすさとその後のハンドリングにおいて有利になる。さらに、オニウム化合物/アミンとイオン結合により相互作用した微細繊維2は、オニウムイオン及びアンモニウムイオンから選ばれる1種以上のイオンに基づく立体斥力又は疎水化作用によって親水性が低下する。これにより後述の第2工程(工程2)において液状のコア粒子前駆体のエマルション液滴への親和性が高まり、液滴6の安定性が向上する。
【0157】
オニウムイオン及びアンモニウムイオンから選ばれる1種以上のイオンがカウンターカチオンとして結合した繊維原料又は短繊維化繊維を解繊することで、オニウムカチオン及びアミンから選ばれる1種以上がカウンターカチオンとして結合した微細な微細繊維2を得ることができる。オニウムカチオン及びアミンから選ばれる1種以上がカウンターカチオンとして結合した微細繊維2は、エマルション安定性が高く、コア粒子前駆体の種類によらず、安定したO/W型ピッカリングエマルションを形成でき、多様なコア樹脂において粒子径のばらつきが小さい複合粒子1を高収率で得ることができる。
また、オニウム化合物がイオン化した状態を、オニウムイオン又はオニウムカチオンと記載する。また、ここで言うアミンとは、一部又は全部がイオン化したアンモニウムイオンを含むものとする。なお、これ以降、オニウムカチオン及びアミンから選ばれる1種以上、及びオニウムカチオン及びアンモニウムイオンから選ばれる1種以上のイオンのいずれかを、それぞれ「オニウムカチオン(又は、オニウムイオン)/アミン」、「オニウムカチオン(又は、オニウムイオン)/アンモニウムイオン」とも記載することとする。
【0158】
繊維原料又は短繊維化繊維におけるオニウムイオン/アンモニウムイオンの平均結合量は、エマルション安定性の観点から繊維原料又は短繊維化繊維の乾燥質量1gあたり、0.02mmol/g以上が好ましく、0.2mmol/g以上がより好ましい。また、繊維原料又は微細繊維2におけるオニウムイオン/アンモニウムイオンの平均結合量は、繊維原料又は微細繊維2の乾燥質量1gあたり、3mmol/g以下が好ましく、2.5mmol/g以下がより好ましく、2mmol/g以下がさらに好ましい。任意の2種以上のオニウムイオン/アンモニウムイオンが同時に繊維原料又は短繊維化繊維に結合してもよく、この場合、オニウムイオン/アンモニウムイオンの平均結合量は、導入されている修飾基の合計量が前記範囲内であることが好ましい。オニウムイオン/アンモニウムイオンの平均結合量(mmol/g)は公知の方法で測定できる。例えば、滴定やIR測定等により算出できる。
【0159】
繊維原料又は短繊維化繊維が、オニウムイオン/アンモニウムイオンが結合することによって、表面の一部が疎水化されている場合、微細繊維2を用いて作製した膜の、水に対する接触角は、特に限定されないが、45°以上が好ましく、50°以上がより好ましい。接触角は、例えば、微細繊維2の0.5質量%の水分散液を5cm×5cmの容器に流し入れ、温度30℃湿度80%で乾燥させた後、さらに窒素雰囲気下で乾燥させた膜に2μlの純水を滴下して、接触角計(協和界面科学社製、PCA-1)を用いて測定できる。
【0160】
繊維原料又は短繊維化繊維のアニオン性官能基の対イオンとして、オニウムイオン/アンモニウムイオン以外のカチオン性物質が対イオンとして結合していても構わない。カチオン性物質としては、特に限定されないが、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン等のアルカリ金属や、マグネシウムイオン、カルシウムイオン等のアルカリ土類金属等の金属イオンが挙げられる。アニオン性官能基の対イオンは、繊維原料又は短繊維化繊維の分散安定性の観点から、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン等のアルカリ金属の金属イオンであることが好ましい。
オニウムイオン/アンモニウムイオン以外のカチオン性物質の結合当量は、微細繊維2の分散安定性やエマルション安定性の観点から、繊維原料又は短繊維化繊維の乾燥質量1gあたり、0.02mmol/g以上が好ましく、0.2mmol/g以上がより好ましい。また、オニウムイオン/アンモニウムイオン以外のカチオン性物質の結合当量は、繊維原料又は短繊維化繊維の乾燥質量1gあたり、3mmol/g以下が好ましく、2.5mmol/g以下がより好ましく、2mmol/g以下がさらに好ましい。任意の2種以上のカチオン性物質が同時に繊維原料又は短繊維化繊維に導入されていてもよい。カチオン性物質の平均結合量(mmol/g)は公知の方法で測定できる。例えば、カチオン性物質が金属イオンの場合、電子線マイクロアナライザーを用いたEPMA法や、蛍光X線分析法、ICP発光分光分析による元素分析等でカチオン性物質の平均結合量を測定できる。
【0161】
繊維原料又は短繊維化繊維を解繊して微細繊維2の分散液を得る方法として、溶媒中で繊維原料又は短繊維化繊維を解繊して微細繊維2の分散液を得ることができる。イオン変性処理は、解繊する前後のどちらでもよく、解繊処理はイオン変性の前後のどちらでもよい。例えば、溶媒中で繊維原料又は短繊維化繊維にイオン性官能基を導入後、解繊することができる。繊維原料又は短繊維化繊維を解繊してからイオン性官能基を導入してもよい。
【0162】
懸濁液に物理的解繊処理を施して、繊維原料又は短繊維化繊維を解繊する方法としては、特に限定されないが、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、ボールミル、ロールミル、カッターミル、遊星ミル、ジェットミル、アトライター、グラインダー、ジューサーミキサー、ホモミキサー、超音波ホモジナイザー、ナノジナイザー、水中対向衝突等の機械的処理が挙げられる。このような物理的解繊処理を行うことで、前記親水性溶媒7を溶媒とした繊維原料又は短繊維化繊維の懸濁液中の繊維が微細化され、その構造の少なくとも一辺がナノメートルオーダーになるまで微細化された微細繊維2の分散液を得ることができる。また、このときの物理的解繊処理の時間や回数により、得られる微細繊維2の数平均短軸径及び数平均長軸径を調整することができる。
【0163】
上記のようにして、その構造の少なくとも一辺がナノメートルオーダーになるまで微細化された微細繊維2の分散体(微細繊維分散液)が得られる。得られた分散体は、そのまま、又は希釈、濃縮等を行って、後述するO/W型エマルションの安定化剤として用いることができる。
【0164】
微細繊維2の分散体は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、pH調整に用いた成分以外の他の成分を含有してもよい。上記他の成分としては、特に限定されず、複合粒子1あるいは複合粒子1Aの用途等に応じて、公知の添加剤の中から適宜選択できる。具体的には、アルコキシシラン等の有機シラン化合物又はその加水分解物、無機層状化合物、無機針状鉱物、消泡剤、無機系粒子、有機系粒子、潤滑剤、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、安定剤、磁性材料、配向促進剤、可塑剤、架橋剤、医薬品、農薬、香料、接着剤、酵素、着色剤、消臭剤、金属、金属酸化物、無機酸化物、防腐剤、抗菌剤、天然抽出物、界面活性剤等が挙げられる。
【0165】
<第2工程>
第2工程(工程2)は、図2(b)に示すように、微細繊維2の分散液に、コア粒子前駆体を含む液滴6を添加し、分散させ、液滴6の表面を微細繊維2で被覆する工程である。
本実施形態の製造方法は、第2工程を有することで、コア粒子前駆体を含む液滴6の表面を微細繊維2で被覆し、エマルションとして安定化させることができる。
【0166】
具体的には、第1工程で得られた微細繊維2の分散液に、コア粒子前駆体含有液を添加し、微細繊維2の分散液中に液滴6として分散させ、液滴6の表面を微細繊維2によって被覆し、微細繊維2によって安定化されたO/W型エマルションを作製する。微細繊維2によって安定化されたO/W型エマルションをエマルション液と呼ぶ。
【0167】
O/W型エマルションを作製する方法としては、特に限定されないが、一般的な乳化処理、例えば、各種ホモジナイザー処理や機械攪拌処理を用いることができる。具体的には、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、万能ホモジナイザー、ボールミル、ロールミル、カッターミル、遊星ミル、ジェットミル、アトライター、グラインダー、ジューサーミキサー、ホモミキサー、超音波ホモジナイザー、ナノジナイザー、水中対向衝突、ペイントシェイカー等の機械的処理が挙げられる。また、複数の機械的処理を組み合わせて用いてもよい。
【0168】
例えば、超音波ホモジナイザーを用いる場合、微細繊維2の分散液に対しコア粒子前駆体含有液を添加して混合溶媒とし、混合溶媒に超音波ホモジナイザーの先端を挿入して超音波処理を実施する。超音波ホモジナイザーの処理条件としては特に限定されないが、例えば、周波数は20kHz以上が好ましく、出力は10W/cm以上が好ましい。処理時間については特に限定されず、例えば、10秒間から1時間程度が好ましい。
【0169】
上記超音波処理により、微細繊維2の分散液中にコア粒子前駆体を含む液滴6が分散してエマルション化が進行する。さらに、液滴6と微細繊維2の分散液との液/液界面に選択的に微細繊維2が吸着することで、液滴6が微細繊維2で被覆されO/W型エマルションとして安定した構造を形成する。このように、液/液界面に固体物が吸着して安定化したエマルションは、学術的には「ピッカリングエマルション」と呼称されている。前述のように微細繊維2によってピッカリングエマルションが形成されるメカニズムは定かではない。しかし、微細繊維2がセルロースの場合、セルロースは、その分子構造において水酸基に由来する親水性サイトと炭化水素基に由来する疎水性サイトとを有することから、両親媒性を示すため、両親媒性に由来して疎水性モノマーと親水性溶媒との液/液界面に微細繊維2が吸着すると考えられる。
【0170】
O/W型エマルション構造は、光学顕微鏡観察等により確認することができる。O/W型エマルションの粒径は特に限定されないが、ピッカリングエマルションが複合粒子1の鋳型となるため、平均粒径が0.1μm以上50μm以下であることが好ましい。平均粒径は、ランダムに100個のエマルションの直径を測定し、平均値を取ることで算出できる。
【0171】
O/W型エマルション構造において、液滴6の表面に形成された被覆層20(繊維層)の厚みは特に限定されないが、例えば、3nm以上1000nm以下が好ましい。エマルション構造における粒径は、特に限定されないが、第3工程において得られる複合粒子1及び第5工程において得られる複合粒子1Aの粒径と同程度となる。被覆層20の厚みは、例えば、クライオTEMを用いて測定することができる。
【0172】
第2工程において、微細繊維2の分散液とコア粒子前駆体含有液との質量比については特に限定されないが、微細繊維2の分散液100質量部に対し、コア粒子前駆体含有液が1質量部以上50質量部以下であることが好ましい。コア粒子前駆体含有液の質量が上記下限値以上であると、複合粒子1及び複合粒子1Aの収量が向上する。コア粒子前駆体含有液の質量が上記上限値以下であると、液滴6を微細繊維2で均一に被覆しやすくなり、粒径制御をより容易にできる。加えて、コア粒子前駆体含有液の質量が上記上限値以下であると、機能性材料4を吸着しやすくなる。
【0173】
コア粒子前駆体含有液は、コア粒子前駆体を含有し、O/W型エマルションを形成できればよく、O/W型エマルションを安定的に形成するためには、疎水性であることが好ましい。
コア粒子前駆体は、化学的な変化あるいは物理化学的な変化により固体化してコア粒子3を形成する前駆体である。コア粒子前駆体は、液滴6を安定して形成できるものであれば特に限定されない。コア粒子前駆体としては、例えば、重合性モノマー(モノマー)、溶融ポリマー、溶解ポリマーを用いることができる。
【0174】
第2工程で用いることができる重合性モノマーの種類としては、ポリマーの単量体であって、その構造中に重合性の官能基を有し、常温で液体であって、水と相溶せず、重合反応によってポリマー(高分子重合体)を形成できるものであれば特に限定されない。重合性モノマーは少なくとも一つの重合性官能基を有する。重合性官能基を一つ有する重合性モノマーは単官能モノマーとも称する。また、重合性官能基を二つ以上有する重合性モノマーは多官能モノマーとも称する。重合性モノマーの種類としては特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル系モノマー、ビニル系モノマー等が挙げられる。また、エポキシ基やオキセタン構造等の環状エーテル構造を有する重合性モノマー(例えばε-カプロラクトン等)を用いることも可能である。中でも、ベンゼン環構造を持つモノマーを用いると、コア粒子3が蛍光を示すため、好ましい。
なお、「(メタ)アクリレート」の表記は、「アクリレート」と「メタクリレート」との一方又は両方を含むことを示す。
【0175】
単官能の(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、アクリロイルモルフォリン、N-ビニルピロリドン、テトラヒドロフルフリール(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、3-メトキシブチル(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、リン酸(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性リン酸(メタ)アクリレート、フェノキシ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性フェノキシ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性フェノキシ(メタ)アクリレート、ノニルフェノール(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ノニルフェノール(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性ノニルフェノール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-2-ヒドロキシプロピルフタレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロゲンフタレート、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルハイドロゲンフタレート、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルヘキサヒドロハイドロゲンフタレート、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルテトラヒドロハイドロゲンフタレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、ヘキサフルオロプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2-アダマンタン及びアダマンタンジオールから誘導される1価のモノ(メタ)アクリレートを有するアダマンチルアクリレート等のアダマンタン誘導体モノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0176】
2官能の(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等のジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0177】
3官能以上の(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート等のトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の3官能の(メタ)アクリレート化合物や、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンヘキサ(メタ)アクリレート等の4官能以上の多官能(メタ)アクリレート化合物や、これら(メタ)アクリレートの一部をアルキル基やε-カプロラクトンで置換した多官能(メタ)アクリレート化合物等が挙げられる。
【0178】
単官能のビニル系モノマーとしては、例えば、ビニルエーテル系、ビニルエステル系、芳香族ビニル系(特にスチレン及びスチレン系)モノマー等、常温で水と相溶しない液体のモノマーが好ましい。
単官能ビニル系モノマーのうち(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ヘプタフルオロデシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
また、単官能芳香族ビニル系モノマーとしては、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、エチルスチレン、イソプロペニルトルエン、イソブチルトルエン、tert-ブチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルビフェニル、1,1-ジフェニルエチレン等が挙げられる。
【0179】
多官能のビニル系モノマーとしては、例えば、ジビニルベンゼン等の不飽和結合を有する多官能基が挙げられる。常温で水と相溶しない液体が好ましい。
多官能性ビニル系モノマーとしては、具体的には、
(1)ジビニルベンゼン、1,2,4-トリビニルベンゼン、1,3,5-トリビニルベンゼン等のジビニル類、
(2)エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,3-プロピレングリコールジメタクリレート、1,4-ブチレングリコールジメタクリレート、1,6-ヘキサメチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、2,2-ビス(4-メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパン等のジメタクリレート類、
(3)トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリエチロールエタントリメタクリレート等のトリメタクリレート類、
(4)エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、1,3-ジプロピレングリコールジアクリレート、1,4-ジブチレングリコールジアクリレート、1,6-ヘキシレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、2,2-ビス(4-アクリロキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン等のジアクリレート類、
(5)トリメチロールプロパントリアクリレート、トリエチロールエタントリアクリレート等のトリアクリレート類、
(6)テトラメチロールメタンテトラアクリレート等のテトラアクリレート類、
(7)その他に、例えば、テトラメチレンビス(エチルフマレート)、ヘキサメチレンビス(アクリルアミド)、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられる。
官能性スチレン系モノマーとしては、具体的には、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルナフタレン、ジビニルキシレン、ジビニルビフェニル、ビス(ビニルフェニル)メタン、ビス(ビニルフェニル)エタン、ビス(ビニルフェニル)プロパン、ビス(ビニルフェニル)ブタン等が挙げられる。
特に官能性スチレン系モノマーはベンゼン環構造を有し、蛍光を示すコア粒子3を得られるため、好ましい。
【0180】
また、これらの他にも重合性の官能基を少なくとも1つ有するポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂等を使用することができ、特にその材料は限定されない。
【0181】
上記重合性モノマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0182】
また、重合性モノマーに重合開始剤を添加してもよい。一般的な重合開始剤としては、有機過酸化物やアゾ重合開始剤等のラジカル開始剤が挙げられる。
【0183】
有機過酸化物としては、例えば、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシカーボネート、パーオキシエステル等が挙げられる。
【0184】
アゾ重合開始剤としては、例えば、2,2-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)、2,2-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)(AMBN)、2,2-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(ADVN)、1,1-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボニトリル)(ACHN)、ジメチル-2,2-アゾビスイソブチレート(MAIB)、4,4-アゾビス(4-シアノバレリアン酸)(ACVA)、1,1-アゾビス(1-アセトキシ-1-フェニルエタン)、2,2-アゾビス(2-メチルブチルアミド)、2,2-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2-アゾビス(2-メチルアミジノプロパン)二塩酸塩、2,2-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)、2-シアノ-2-プロピルアゾホルムアミド、2,2-アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)、2,2-アゾビス(N-シクロヘキシル-2-メチルプロピオンアミド)等が挙げられる。
【0185】
第2工程において、重合性モノマー及び重合開始剤を含んだコア粒子前駆体含有液を用いれば、O/W型エマルションの液滴6中に重合開始剤が含まれるため、後述の第3工程において、液滴6内部のモノマーを重合させる際に重合反応が進行しやすくなる。
【0186】
第2工程における重合性モノマーと重合開始剤との質量比は、特に限定されないが、例えば、重合性モノマー100質量部に対し、重合性開始剤が0.1質量部以上であることが好ましい。重合性モノマーの質量が上記下限値以上であると、重合反応が充分に進行し、複合粒子1、さらには、複合粒子1Aの収量をより高められる。重合開始剤の含有量の上限値は、特に限定されないが、例えば、重合性モノマー100質量部に対し、10質量部とされる。
【0187】
コア粒子前駆体含有液は、溶媒を含んでいてもよい。エマルションを安定化させる観点から、溶媒としては、有機溶媒を用いることが好ましい。有機溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、イソホロン、セロソルブアセテート、ソルベッソ(登録商標)100、トリクレン(トリクロロエチレン)、ヘキサン、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、イソオクタン、ノナン等を用いることができる。
【0188】
第2工程における重合性モノマーと溶媒との質量比は、特に限定されないが、例えば、重合性モノマー100質量部に対し、溶媒が80質量部以下であることが好ましい。
【0189】
溶解ポリマーを得るためのポリマーは、親水性溶媒7に溶解しにくいことが好ましい。ポリマーが親水性溶媒7に溶解すると、安定したエマルションを形成することができない。
溶解ポリマーを得るためのポリマーとしては、以下のものが例示できる。セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート等のセルロースアセテート誘導体、キチン、キトサン等の多糖類、ポリ乳酸、乳酸と他のヒドロキシカルボン酸との共重合体等のポリ乳酸類。ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート等の二塩基酸ポリエステル類。ポリカプロラクトン、カプロラクトンとヒドロキシカルボン酸との共重合体等のポリカプロラクトン類。ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシブチレートとヒドロキシカルボン酸との共重合体等のポリヒドロキシブチレート類。ポリヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシ酪酸と他のヒドロキシカルボン酸との共重合体等の脂肪族ポリエステル類。ポリアミノ酸類、ポリエステルポリカーボネート類、ロジン等の天然樹脂等。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0190】
上記ポリマーを溶媒に溶解させることで溶解ポリマーを得ることができる。上記ポリマーを溶解させる溶媒としては、微細繊維2の分散液への相溶性が低い溶媒を用いることが好ましい。親水性溶媒7への溶解度が高い場合、溶媒が液滴6相から親水性溶媒7相へ容易に溶解してしまうため、エマルション化が困難となる。また、溶媒は沸点が90℃以下であるものが好ましい。沸点が90℃より高い場合、溶媒よりも先に微細繊維2の分散液の親水性溶媒7が蒸発してしまい、複合粒子1を得ることが困難となる。上記ポリマーを溶解させる溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、イソホロン、セロソルブアセテート、ソルベッソ(登録商標)100、トリクレン、ヘキサン、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、イソオクタン、ノナン等を用いることができる。
【0191】
上記ポリマーと上記ポリマーを溶解させる溶媒との質量比は、特に限定されず、例えば、上記ポリマー100質量部に対して、上記溶媒の質量は、0.005質量部以上100質量部以下が好ましく、0.1質量部以上80質量部以下がより好ましい。
【0192】
溶融ポリマーを得る方法としては、例えば、常温で固体のポリマーを溶融させて液体とする方法が挙げられる。溶融ポリマーは、前述の超音波ホモジナイザー等による機械処理を加えながら、溶融状態を維持可能な温度にまで加熱された微細繊維2の分散液に添加することによって、分散液中で溶融ポリマー液滴をO/W型エマルションとして安定化することが好ましい。
【0193】
溶融ポリマーとしては、微細繊維2の親水性溶媒7への溶解性が低いものが好ましい。親水性溶媒7への溶解度が高い場合、溶融ポリマーの液滴6相から親水性溶媒7相へポリマーが容易に溶解してしまうため、エマルション化が困難となる。また、溶融ポリマーは融点が90℃以下であることが好ましい。融点が90℃より高い場合、微細繊維2の分散液中の親水性溶媒7が蒸発してしまい、エマルション化が困難となる。
【0194】
溶融ポリマーに用いるポリマーとしては、例えば、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ステアリン酸バチル、ステアリン酸ステアリル、ミリスチン酸ミリスチル、パルミチン酸セチル、ジステアリン酸エチレングリコール、ベヘニルアルコール、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、炭化水素ワックス、脂肪酸アルキルエステル、ポリオール脂肪酸エステル、脂肪酸エステルとワックスとの混合物、脂肪酸エステルの混合物、グリセリンモノパルミテート(ステアリン酸モノグリセライド)、グリセリンモノ・ジステアレート(グリセリンステアレート)、グリセリンモノアセトモノステアレート(グリセリン脂肪酸エステル)、コハク酸脂肪族モノグリセライド(グリセリン脂肪酸エステル)、クエン酸飽和脂肪族モノグリセライド、ソルビタンモノステアレート、ソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタントリベヘネート、プロピレングリコールモノベヘネート(プロピレングリコール脂肪酸エステル)、アジピン酸ペンタエリスリトールポリマーのステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ジペンタエリスリトールヘキサステアレート、ステアリルシトレート、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、超淡色ロジン、ロジン含有ジオール、超淡色ロジン金属塩、水素化石油樹脂、ロジンエステル、水素化ロジンエステル、特殊ロジンエステル、ノボラック、結晶性ポリαオレフィン、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレングリコールエステル、ポリオキシアルキレンエーテル、ポリ乳酸、乳酸と他のヒドロキシカルボン酸との共重合体等のポリ乳酸類;ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート等の二塩基酸ポリエステル類;ポリカプロラクトン、カプロラクトンとヒドロキシカルボン酸との共重合体等のポリカプロラクトン類;ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシブチレートとヒドロキシカルボン酸との共重合体等のポリヒドロキシブチレート類;ポリヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシ酪酸と他のヒドロキシカルボン酸との共重合体等の脂肪族ポリエステル類;ポリアミノ酸類、ポリエステルポリカーボネート類、ロジン等の天然樹脂等を用いることができる。
【0195】
液滴6には、予め重合開始剤以外の機能性成分が含まれていてもよい。具体的には、着色剤(蛍光色素、酸化還元色素等)、吸油剤、光遮蔽剤(紫外線吸収剤、紫外線散乱剤等)、抗菌剤、酸化防止剤、制汗剤、消泡剤、帯電防止剤、結合剤、漂白剤、キレート剤、脱臭剤、芳香剤、香料、ふけ防止活性物質、皮膚軟化剤、防虫剤、防腐剤、天然抽出物、美容成分、pH調整剤、ビタミン、アミノ酸、ホルモン、油脂やロウ類をはじめとする油性原料、界面活性剤、無機質粒子(酸化チタン、シリカ、クレー等)、酵素等が挙げられる。
重合性モノマーに、予め重合開始剤以外の他の機能性成分が含まれている場合、複合粒子1として形成した際のコア粒子3内部に上述の機能性成分を含有させることができ、用途に応じた機能発現が可能となる。
中でも、蛍光色素を含むことが好ましい。機能性材料4として蛍光色素を吸着した複合粒子1Aにおいて、コア粒子3内部に蛍光色素が含まれると、複合粒子1Aの表面の蛍光色素の発光と共にコア粒子3の蛍光発光により、特徴的な蛍光発光を示すことができる。なお、コア粒子3内部の蛍光色素は、複合粒子1Aの表面の蛍光色素と同じ種類であってもよく、異なる種類であってもよい。
【0196】
機能性成分は、液滴6へ溶解又は分散しやすく、親水性溶媒7に溶解又は分散しにくいことが好ましい。機能性成分を液滴6に溶解又は分散することにより、O/W型エマルションを形成した際にエマルションの液滴6中に機能性成分を内包しやすく、機能性成分を内包する複合粒子1及び複合粒子1Aを効率的に得ることができる。また、内包する機能性成分の量を増やすことが可能である。
【0197】
コア粒子前駆体として、重合性モノマー、溶解ポリマー及び溶融ポリマーを併用して液滴6を形成し、エマルション化することも可能である。また、複合粒子1のコア粒子3のポリマー種として生分解性ポリマー(樹脂)を選択した場合、得られる複合粒子1は生分解性ポリマーからなるコア粒子3及び微細繊維2で構成されることにより、生分解性材料を有する環境調和性の高い複合粒子1として提供することも可能である。
【0198】
<第3工程>
第3工程(工程3)は、図2(c)に示すように、液滴6内部のコア粒子前駆体を固体化して、コア粒子3の表面を微細繊維2で被覆した複合粒子1を得る工程である。
【0199】
コア粒子前駆体を固体化させる方法については特に限定されない。コア粒子前駆体として重合性モノマーを用いた場合、重合性モノマーを重合することによりポリマー化することで、固体化できる。コア粒子前駆体として溶解ポリマーを用いた場合、液滴6内部の溶媒を親水性溶媒7に拡散させる方法や、溶媒を蒸発させる方法により溶媒を除去し、ポリマーを固体化できる。コア粒子前駆体として溶融ポリマーを用いた場合、溶融ポリマーを冷却して凝固させて固体化させることができる。
【0200】
例えば、コア粒子前駆体として重合性モノマー、さらに重合開始剤を含む液滴6が微細繊維2によって被覆され安定化したO/W型エマルションを、攪拌しながら加熱して重合性モノマーを重合し、コア粒子前駆体を固体化する。攪拌の方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。具体的には、ディスパーや攪拌子を用いることができる。また、攪拌せずに加熱処理のみでもよい。
加熱時の温度条件については、重合性モノマーの種類及び重合開始剤の種類によって適宜設定することが可能であるが、20℃以上150℃以下が好ましい。加熱時の温度が20℃未満であると重合の反応速度が低下するため好ましくなく、150℃を超えると微細繊維2が変性する可能性があるため好ましくない。重合反応に供する時間は、重合性モノマーの種類及び重合開始剤の種類によって適宜設定することが可能であるが、通常1時間~24時間程度である。また、重合反応は電磁波の一種である紫外線照射処理によって実施してもよい。また、電磁波以外にも電子線等の粒子線を用いてもよい。
【0201】
溶解ポリマーの溶媒を蒸発させる方法としては、具体的には、加熱及び減圧乾燥の一方又は双方により溶媒を蒸発させ、除去する方法が挙げられる。溶媒の沸点が水より低いと、溶媒を選択的に除去することが可能である。特に限定されないが、減圧条件下で加熱することにより効率的に溶媒を除去することができる。加熱温度は20℃以上100℃以下が好ましく、圧力は600mmHg以上750mmHg以下が好ましい。
【0202】
溶解ポリマーの溶媒を拡散させる方法としては、具体的には、O/W型エマルション液にさらに溶媒や塩の添加により液滴6内部の溶媒を拡散させる方法が挙げられる。親水性溶媒7への溶解性の低い溶媒が経時的に親水性溶媒7相へと拡散して行くことで、溶解ポリマーが析出して粒子として固体化させることができる。
【0203】
溶融ポリマーを凝固させる方法としては、O/W型エマルション液を冷却することで、溶融ポリマーを凝固させる方法が挙げられる。
【0204】
<第4工程>
第4工程(工程4)は、図2(d)に示すように、複合粒子1と遊離の微細繊維2の分散液とから複合粒子1を精製する工程である。
【0205】
上述の工程を経て、コア粒子3が微細繊維2によって被覆された複合粒子1を作製することができる。なお、複合粒子1の生成直後の状態は、複合粒子1の分散液中に多量の水と被覆層20の形成に寄与していない遊離した微細繊維2が混在した状態となっている。そのため、第4工程において複合粒子1を回収、精製することで複合粒子1の粉体を回収できる。本発明における微細繊維2は長軸径が短く、粘度が低いために精製が容易となり、収率よく複合粒子1を回収することができる。
【0206】
回収、精製方法としては、遠心分離による洗浄又は濾過洗浄が挙げられる。例えば、第3工程後の複合粒子1の分散液を遠心分離又は濾過に供し、遊離の微細繊維2を分離して複合粒子1を回収して複合粒子1精製する。続いて、親水性溶媒を加えて複合粒子1を再分散させ、再度遠心分離や濾過により遊離の微細繊維2を分離し、複合粒子1を回収することで微細繊維2を分離し、複合粒子1を精製することができる。さらに、親水性溶媒の代わりに有機溶媒を用いた洗浄、親水性溶媒を用いた洗浄と有機溶媒を用いた洗浄とを繰り返すことにより、遊離の微細繊維2だけでなく、コア粒子3に残留したモノマーを精製することができる。
【0207】
複合粒子1を精製、洗浄するために使用する親水性溶媒は特に限定されないが、純水、リン酸緩衝液等を用いることができる。有機溶媒としては、コア粒子3に残留したモノマーを溶解し、コア粒子3のポリマーが溶解しない有機溶媒を用いることができる。特に限定されないが、エタノールやメタノール等のアルコールを用いることができる。
【0208】
精製する際の複合粒子1を含む分散液における固形分濃度は特に限定されないが、1質量%以上50質量%以下が好ましく、5質量%以上40質量%以下がより好ましい。再分散液においても同様に、複合粒子1の固形分濃度が5質量%以上50質量%以下であることが好ましい。複合粒子1の精製時あるいは再分散液の固形分濃度が上記下限値以上であると、効率よく精製が可能であり、上記上限値以下であると、充分に洗浄が可能である。
【0209】
精製に用いる親水性溶媒のpHは、遊離の微細繊維2が凝集しない範囲であれば特に限定されない。例えば、微細繊維2のイオン性官能基がカルボキシ基である場合、pHが4.0以上8.0以下であることが好ましい。pHが4.0未満であるとカルボキシ基がCOOH(酸型)となり、微細繊維2が凝集し、複合粒子1と分離することが難しくなる。
【0210】
精製時における再分散液の温度は特に限定されないが、4℃以上40℃以下が好ましく、10℃以上30℃以下がより好ましい。再分散液の温度が上記下限値以上であると、遊離の微細繊維2が凝集することなく分散でき、効率よく精製が可能である。再分散液の温度が上記上限値以下であると、精製に用いる有機溶媒が揮発しにくく、精製の作業性が良好となる。
【0211】
遠心分離による洗浄方法としては、分画沈殿法、密度勾配沈降速度法、密度勾配平衡法等の公知の方法を用いることができる。中でも、分画沈殿法を用いることが好ましい。具体的には、遠心分離により複合粒子1を沈降させて、デカンテーションによる遊離の微細繊維2を含む上澄みを除去することで遊離の微細繊維2を分離し、複合粒子1を回収することができる。さらに、親水性溶媒を添加し、複合粒子1を再分散させて、再び遠心分離により複合粒子1を沈殿させて上澄み液除去することにより複合粒子1を洗浄できる。
遠心分離機としては、例えば、バッチ式遠心分離機、自動排出型遠心分離機、ノズル型遠心分離機、手洗い型遠心分離機等が挙げられる。
【0212】
遠心分離における遠心加速度は5000×g以上500000×g以下であることが好ましい。より好ましくは10000×g以上100000×g以下である。遠心加速度が上記下限値以上であると、効率的に複合粒子1が沈降して複合粒子1を回収することができる。遠心加速度が上記上限値以下であると、遊離の微細繊維2が沈降せずに複合粒子1を沈殿させ、精製することができる。また、沈殿物である複合粒子1が塊状になるのを抑制でき、再分散しやすくなる。
遠心分離における処理時間(遠心分離時間ともいう。)は、1分以上60分以下が好ましく、3分以上30分以下がより好ましく、5分以上10分以下がさらに好ましい。遠心分離時間が上記下限値以上であると、充分に複合粒子1が沈降して収率よく複合粒子1を回収することができる。遠心分離時間が上記上限値以下であると、遊離の微細繊維2が沈降することなく、複合粒子1を精製することができる。
遠心分離における処理温度(遠心分離温度ともいう。)は、4℃以上40℃以下が好ましい。遠心分離温度が4℃以上であると微細繊維2の粘度の上昇を抑えられ、40℃以下であると微細繊維2の変質を抑制できる。
【0213】
微細繊維2は、メジアン径が小さいため、第3工程にて得られた複合粒子1を含む分散液の粘度が低く、複合粒子1が沈降しやすくなる。また、微細繊維2は、メジアン径が小さいため、微細繊維2自体の沈降を抑制でき、効率よく複合粒子1と遊離の微細繊維2とを分離することができる。
【0214】
濾過洗浄についても公知の方法を用いることができる。濾過により、微細繊維2及び溶媒は濾材中を通過させ、複合粒子1を濾材上に回収することができる。さらに、親水性溶媒を濾過装置に供給し、複合粒子1を再分散させ、再度濾過することで複合粒子1を洗浄できる。濾過においては、親水性溶媒を濾過装置に供給することが、複合粒子1が塊状になるのを抑制でき、再分散が容易であるため、好ましい。
濾過方法としては、例えば、自然濾過、減圧濾過、加圧濾過、遠心濾過等が挙げられる。
【0215】
濾材は特に限定されず、セルロース、ガラス繊維、メンブレンフィルター、濾過板、焼結フィルター、綿栓、セライト等公知の濾材を用いることができる。中でも、複合粒子1を回収しやすいことからメンブレンフィルターを用いることが好ましい。また、複合粒子1作製における微細繊維2及び親水性溶媒7が親水性であるため、親水性の濾材を用いることが好ましい。
例えば、孔径5μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)メンブレンフィルターを用いて、水とメタノールで吸引濾過を繰り返し、最終的にメンブレンフィルター上に残留したペーストからさらに残留溶媒を除去して複合粒子1を回収することができる。
【0216】
濾材の孔径は特に限定されないが、0.45μm以上20μm以下が好ましく、1μm以上15μm以下がより好ましく、5μm以上10μm以下がさらに好ましい。濾材の孔径が上記下限値以上であると、微細繊維2が濾材を通過しやすく、複合粒子1を精製することが容易となる。濾材の孔径が上記上限値以下であると、複合粒子1が濾材を通過することなく高収率で複合粒子1を回収することができる。
通常、微細繊維は粘度が高く、アスペクト比が高い繊維であるため、濾材を通過することなく、濾過することが難しい。しかし、本実施形態のメジアン径が小さい微細繊維2であれば、濾材を通過し、遊離の微細繊維2と複合粒子1とを濾過により分離することが可能となる。
【0217】
<第5工程>
第5工程(工程5)は、図2(e)に示すように、複合粒子1に機能性材料4を含む機能性材料含有液を含浸させて、複合粒子1に機能性材料4を結合させる工程である。この工程により、複合粒子1A(コア粒子3の表面に微細繊維2が被覆され、その表面に機能性材料4が吸着した粒子)が得られる。
具体的には、第4工程で得られた複合粒子1を溶媒に分散させ、機能性材料4を添加して混合し、複合粒子1に機能性材料4をイオン結合により吸着させる。
【0218】
複合粒子1の分散液に機能性材料4を添加する方法としては、特に限定されないが、予め機能性材料4を溶媒に分散させた機能性材料含有液を、複合粒子1の分散液に添加して攪拌する方法が挙げられる。機能性材料4を吸着させる際の複合粒子1の分散液の温度は、5℃以上50℃以下が好ましい。
【0219】
機能性材料4を結合させる際には、予め複合粒子1のイオン性官能基の対イオンを取り除くことで、効率よく機能性材料4を吸着させることができる。具体的には、塩酸等の酸や、アルカリを用いてpHを調整した後、余剰な塩を取り除いてから機能性材料4を吸着させることが好ましい。塩酸等の酸性溶液やアルカリ溶液を用いて複合粒子1を含浸、洗浄することが好ましい。複合粒子1を酸性溶液やアルカリ溶液に含浸、洗浄することで、微細繊維2の対イオンを除去することができる。
微細繊維2がアニオン性官能基を有する場合、例えば、複合粒子1をpH2.0の塩酸に含浸後、純水や希薄な酸にて複数回洗浄することで対イオンを取り除くことができる。洗浄は前述の遠心分離や濾過を用いることができる。アニオン性官能基がカルボキシ基の場合、カルボキシ基をナトリウム塩型(COONa)から酸型(COOH)にすることで、効率よく機能性材料4をカルボキシ基に吸着させることができる。
イオン性官能基がカチオン性の場合、アルカリを用いてpHをアルカリ性にした後、余剰な塩を取り除いてから機能性材料4を吸着させることができる。
【0220】
機能性材料4を結合させる際の複合粒子1の分散液(複合粒子分散液)における複合粒子1の固形分濃度は、特に限定されないが、例えば、0.1質量%以上20質量%以下が好ましい。複合粒子1の固形分濃度が上記下限値以上であると、機能性材料4の吸着効率をより高められる。複合粒子1の固形分濃度が上記上限値以下であると、攪拌しやすく、機能性材料4を均一に吸着させやすい。
ここで、複合粒子1の分散液の固形分濃度は、複合粒子1の乾燥質量を複合粒子1の分散液の総質量で除することにより求められる。
【0221】
機能性材料4を吸着させる際の複合粒子1の分散液の温度は、5℃以上50℃以下が好ましい。
【0222】
機能性材料含有液中の機能性材料4の濃度は、特に限定されないが、例えば、1μM以上1M以下が好ましい。機能性材料4の濃度が上記下限値以上であると、複合粒子1の表面の微細繊維2への機能性材料4の吸着効率をより高められる。機能性材料4の濃度が上記上限値以下であると、機能性材料4の溶解性を高められ、複合粒子1の表面の微細繊維2に機能性材料4を均一に吸着させやすい。
【0223】
複合粒子1に吸着する機能性材料4の吸着量は、複合粒子1の乾燥質量1g当たり0.01μmol以上100μmol以下が好ましく、0.05μmol以上50μmol以下がより好ましい。機能性材料4の吸着量が上記下限値以上であると、機能性を充分に付与できる。機能性材料4の吸着量が上記上限値以下であると、機能性材料4の分子間同士の会合や凝集を抑制できる。このため、機能性材料4として蛍光色素を適用した場合、蛍光発光波長の変化を抑制できる。
メジアン径の小さい微細繊維2を用いることで、微細繊維2がコア粒子3の表面を均一に被覆するため、複合粒子1の表面のイオン性官能基量が増え、機能性材料4が会合、凝集しない範囲で機能性材料4の吸着量を増やすことが可能である。
【0224】
微細繊維2に対する機能性材料4の吸着量は、特に限定されないが、例えば、微細繊維2の乾燥質量1gに対して、0.01mmol/g以上3.0mmol/g以下が好ましく、0.1mmol/g以上2.0mmol/g以下がより好ましい。機能性材料4の吸着量が上記下限値以上であると、機能性を充分に付与できる。機能性材料4の吸着量が上記上限値以下であると、機能性材料4の分子の分子間の距離を適度に維持でき、会合あるいは凝集を抑制できる。このため、機能性材料4として蛍光色素を適用した場合、蛍光発光のシフトや蛍光発光が弱くなることを抑制できる。
【0225】
複合粒子1のイオン性官能基に対する機能性材料4のイオン吸着量は、特に限定されないが、イオン性官能基量を100mol%とすると、例えば、0.1mol%以上95mol%以下が好ましく、1mol%以上90mol%以下がより好ましい。機能性材料4の吸着量が上記下限値以上であると、機能性を充分に付与できる。機能性材料4の吸着量が上記上限値以下であると、機能性材料4の分子間距離を維持でき、機能性材料4の会合や凝集を抑制できる。このため、機能性材料4として蛍光色素を適用した場合、蛍光発光が弱くなることや蛍光発光波長のシフトを抑制できる。
なお、複合粒子1に存在するイオン性官能基量は電気伝導度滴定により評価することができる。複合粒子1Aへの機能性材料4のイオン吸着量は、複合粒子1を酸やアルカリに浸漬して機能性材料4を脱離させ、吸光度を測定することにより、脱離した機能性材料4の量を算出して評価することができる。
【0226】
以上の第1工程、第2工程、第3工程、第4工程、第5工程によれば、複合粒子1に機能性材料4を結合させた複合粒子1Aを得ることができる。
【0227】
(乾燥)
第4工程における精製後の複合粒子1、あるいは第5工程における機能性材料吸着後の複合粒子1Aに残留した溶媒を乾燥により除去することで、複合粒子1及び複合粒子1Aの乾燥粉体を得ることができる。
残留溶媒の除去方法は特に限定されず、風乾やオーブン等による熱乾燥にて実施することが可能である。こうして得られた複合粒子1及び複合粒子1Aを含む乾燥固形物は、膜状や凝集体状にはならず、肌理細やかな粉体として得られる。
【0228】
乾燥後の複合粒子1及び複合粒子1Aの固形分率は、80質量%以上が好ましく、85質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、100質量%であってもよい。複合粒子1及び複合粒子1Aの固形分率が上記下限値以上であると、輸送コストを下げることができ、疎水性樹脂への分散性が良好となる。
複合粒子1及び複合粒子1Aの固形分率は、複合粒子1及び複合粒子1Aを温度120℃で1時間乾燥させた後の質量を、乾燥させる前の質量で除することにより求められる。
【0229】
≪成形体≫
本実施形態の複合粒子1及び複合粒子1Aは粉体として使用してもよく、成形体に含有させてもよい。
成形体としては、特に限定されず、例えば、フィルム状の成形体、シート状の成形体、カード状の成形体、ブロック状の成形体等が挙げられる。
【0230】
本実施形態の成形体の製造方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
例えば、本実施形態の微細繊維2及び複合粒子1から選ばれる1種以上を含む樹脂を、押出成形、射出成形、ブロー成形、真空成形、圧空成形、プレス成形等により成形して、成形体を得る方法が挙げられる。
樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化樹脂等、公知の樹脂を用いることができる。
【0231】
複合粒子1及び複合粒子1Aから選ばれる1種以上を樹脂や紙と混合して成形してもよく、塗工により樹脂や紙等の基材に、複合粒子1及び複合粒子1Aから選ばれる1種以上を含む層を形成することもできる。
【0232】
微細繊維の実用化に向けては、得られる微細繊維の分散液の固形分濃度が0.1~5質量%程度と低くなってしまうことが課題となっている。このため、微細繊維の分散体を輸送しようとする場合、大量の溶媒を輸送するに等しいため輸送費の高騰を招き、事業性が著しく損なわれるという問題(溶媒過多の問題)がある。微細繊維と樹脂とを複合化することで、微細繊維を固体のまま輸送することができ、大量の溶媒に分散させる必要がないため、セルロースナノファイバーやキチンナノファイバーを含む微細繊維の溶媒過多の問題が解決できる。しかし、微細繊維と樹脂の複合化においては、遊離の微細繊維と複合化した樹脂とを分離する工程が煩雑である。また、分離ができても収率が低いことや、精製回収した部分において遊離の微細繊維が含まれることにより分散性が低下することがある。さらに、微細繊維の長軸径が長いと微細繊維がエマルション液滴を充分に被覆できず、複合粒子の粒径が大きくなることがある。
【0233】
本発明の複合粒子1によれば、粒径のばらつきが小さく、樹脂と微細繊維2との真球状の複合粒子1を、少ない精製回数で効率よく、精製し、回収することが可能となる。加えて、簡便な方法で製造可能な新たな様態の微細繊維2を有する複合粒子1Aを提供できる。本発明の複合粒子1Aによれば、機能性材料4分子間の会合や凝集を抑制し、機能性材料4の脱離を抑制することができる。このため、機能性材料4として蛍光色素を適用した場合、安定した蛍光発光を有する。その結果、安定した蛍光波長と蛍光発光強度を保つことができる。また、コア粒子3が蛍光発光をする場合、コア粒子3及び表面の蛍光色素による2種類の蛍光発光を有する複合粒子1A及びその製造方法を提供できる。
【0234】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成は本実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
また、上述の実施形態において示した構成要素は適宜に組み合わせて構成することが可能である。
【実施例0235】
以下に、実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
以下の各例において、「%」は、特に断りのない限り、質量%(w/w%)を示す。
【0236】
[実施例1]
<第1工程:微細繊維分散液(セルロースナノファイバー水分散液)を得る工程>
(木材セルロースのTEMPO酸化)
針葉樹クラフトパルプ70gを蒸留水3500gに懸濁し、蒸留水350gにTEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシラジカル)を0.7g、臭化ナトリウムを7g溶解させた溶液を加え、20℃まで冷却した。ここに2mol/L、密度1.15g/mLの次亜塩素酸ナトリウム水溶液450gを滴下により添加し、酸化反応を開始した。系内の温度は常に40℃に保ち、反応中のpHの低下は0.5Nの水酸化ナトリウム水溶液を添加することでpH10に保ち続けた。セルロース(針葉樹クラフトパルプ)の質量に対して、水酸化ナトリウムの添加量の合計が3.5mmol/gに達した時点で、約100mLのエタノールを添加し反応を停止させた。その後、ガラスフィルターを用いて蒸留水による濾過洗浄を繰り返し、酸化パルプ(酸化セルロース)を得た(酸化工程)。
【0237】
(酸化セルロースの解繊処理)
上記TEMPO酸化で得た酸化セルロース1gを99.0gの蒸留水に分散させ、ジューサーミキサーで30分間短繊維化処理を施し、固形分濃度1.0%の微細繊維分散液(セルロースナノファイバー水分散液)を得た。
【0238】
<第2工程:O/W型エマルションを作製する工程>
次に、重合性モノマーであるジビニルベンゼン(以下、DVBとも称する。)10gに対し、重合開始剤である2,2-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(以下、ADVNとも称する。)1gを溶解させて、重合性モノマー混合液を得た。前記重合性モノマー混合液全量を、微細繊維分散液40gに対して添加したところ、重合性モノマー混合液と微細繊維分散液とは、それぞれ2相に分離した。
【0239】
次に、上記2相に分離した状態の混合液における上相の液面から超音波ホモジナイザーのシャフトを挿入し、周波数24kHz、出力400Wの条件で、超音波ホモジナイザー処理を3分間行った。超音波ホモジナイザー処理後の混合液の外観は白濁した乳化液の様態であった。混合液一滴をスライドガラスに滴下し、カバーガラスで封入して光学顕微鏡で観察したところ、数μm程度のエマルション液滴が無数に生成し、O/W型エマルションとして分散安定化している様子が確認された。
【0240】
<第3工程:コア粒子前駆体を固体化する工程>
第2工程で得られたO/W型エマルション分散液の全量を、ウォーターバスを用いて70℃の湯浴中に供し、攪拌子で攪拌しながら8時間処理し、重合反応を実施した。8時間処理後に上記分散液を室温(25℃)まで冷却した。重合反応の前後で分散液の外観に変化はなかった。
【0241】
<第4工程:精製工程>
得られた分散液を純水で10倍に希釈し、孔径5.0μmのPTFEメンブレンフィルターを用いて濾過し、複合粒子を回収した(複合粒子の回収)。
【0242】
回収した複合粒子を純水100gに再分散させ、孔径5.0μmのPTFEメンブレンフィルターを用いて減圧濾過して複合粒子を洗浄した(濾過洗浄1回目)。
【0243】
洗浄した複合粒子をメタノール100gに再分散させ、孔径5.0μmのPTFEメンブレンフィルターを用いて濾過して複合粒子を洗浄した(濾過洗浄2回目)。
【0244】
2回洗浄した複合粒子を純水100gに再分散させ、孔径5.0μmのPTFEメンブレンフィルターを用いて減圧濾過して複合粒子を洗浄した(濾過洗浄3回目)。
【0245】
(乾燥工程)
3回洗浄後の精製・回収物を固形分濃度1%で純水に再分散させ、粒度分布計(NANOTRAC UPA-EX150、日機装株式会社製)を用いて粒径を評価した。次に精製・回収物を風乾し、さらに室温25℃にて真空乾燥処理を24時間実施したところ、肌理細やかな白色の乾燥粉体(複合粒子)を得た。
【0246】
[実施例2]
実施例1において、セルロース原料にアルカリ処理を施した。アルカリ処理は、酸化セルロースを固形分で10質量%になるようにpH9.0の水酸化ナトリウム水溶液に分散させ、攪拌しながら30℃にて1時間放置した後、酸で中和し、水洗することにより行った。
また、実施例1の酸化工程にて系内の温度を20℃とし、セルロースの質量に対して、水酸化ナトリウムが3.0mmol/gになった時点で、過剰量のエタノールを添加し反応を停止させた。
それ以外は実施例1と同様の条件で微細繊維及び複合粒子を製造した。
【0247】
[実施例3]
実施例2において、アルカリ処理を施さず、酸化工程後の酸化セルロースに電子線照射処理を施した。電子線照射処理は、酸化セルロースをアルミ箔で包み、電子線照射装置で加速電圧2MeV、照射線量50kGyの電子線を照射することにより行った。
それ以外は実施例2と同様の条件で微細繊維及び複合粒子を製造した。
【0248】
[実施例4]
実施例1において、酸化工程の系内を温度30℃、pH12.0に保ったこと以外は、実施例1と同様の条件で微細繊維及び複合粒子を製造した。
【0249】
[実施例5]
実施例2において、アルカリ処理の代わりに酵素処理を施した。酵素処理は次のように行った。セルロース原料の分散液を攪拌しながら、pH7.0、1.0質量%、温度25℃に調液し、スクラーゼC(三菱化学フーズ株式会社)を添加して1時間反応させた。その後、95℃に加熱してセルラーゼを失活させた。
それ以外は実施例2と同様の条件で微細繊維及び複合粒子を製造した。
【0250】
[実施例6]
実施例2においてアルカリ処理を施さず、酸化工程後に酸加水分解処理を施した。酸化工程において得られた酸化セルロースを1質量%に調液し、pHが3.0になるように塩酸を加えて80℃で3時間、酸加水分解処理を行った。酸加水分解処理を行った酸化セルロース繊維を水洗し、水酸化ナトリウム水溶液で中和した。
それ以外は実施例2と同様に微細繊維及び複合粒子を製造した。
【0251】
[実施例7]
実施例2において、アルカリ処理を施さず、酸化工程後に紫外線照射処理を施した。酸化セルロースを10質量%とし、キセノンランプで3.6kV、100回紫外線照射処理を施した。
それ以外は実施例2と同様に微細繊維及び複合粒子を製造した。
【0252】
[実施例8]
実施例2において、アルカリ処理を施さず、酸化工程後に過酸化水素処理を施した。酸化セルロースをpH7.0、1質量%に調液し、酸化セルロース繊維に対して0.5質量%の過酸化水素を添加し、さらに水酸化ナトリウムを添加してpHを11とし、70℃にて3時間反応させた後、濾過、水洗した。
それ以外は実施例2と同様に微細繊維及び複合粒子を製造した。
【0253】
[実施例9]
実施例2において、アルカリ処理を施さず、OHラジカル処理を施した。酸化工程後の酸化セルロースをpH7.0、1質量%に調液し、酸素雰囲気下にて10WでOHラジカルにて30分間処理を行った。
それ以外は実施例2と同様に微細繊維及び複合粒子を製造した。
【0254】
[実施例10]
実施例1において、酸化工程にてセルロースの質量に対して、水酸化ナトリウムが6.0mmol/gになった時点で、過剰量のエタノールを添加し反応を停止させた以外は、実施例1と同様に微細繊維及び複合粒子を製造した。
【0255】
[実施例11]
実施例1において、酸化工程の系内の温度を60℃に保ったこと以外は、実施例1と同様の条件で微細繊維及び複合粒子を製造した。
【0256】
[実施例12]
実施例2において、TEMPO酸化の代わりに、先行技術文献として挙げた特許文献2に従い、カルボキシメチル化(CM化)処理を行って得られたCM化CNF分散液を用いたこと以外は、実施例2と同様の条件で微細繊維及び複合粒子を製造した。
【0257】
[実施例13]
実施例2において、TEMPO酸化の代わりに、先行技術文献として挙げた非特許文献1に従い、リン酸エステル化処理を行って得られたリン酸エステル化CNF分散液を用いたこと以外は、実施例2と同様の条件で微細繊維及び複合粒子を製造した。
【0258】
[実施例14]
実施例1において、TEMPO酸化の代わりに、特開2010-180309号公報の記載に従う方法で得られたキチンナノファイバー(以下、キチンNFとも称する)分散液を用いた以外は、実施例1と同様の条件で微細繊維及び複合粒子を製造した。
【0259】
キチンNFの作製は、次のように行った。
キチン及びキトサンから選ばれる1種以上の原料(以下、「キチン/キトサン原料」ともいう。)を溶媒中で解繊して、微細化キチンの分散液を得た。具体的には、(1)キチン/キトサン原料の精製と部分脱アセチル化処理、(2)浸漬処理、(3)解繊処理、の工程により微細化キチンの分散液を作製した。
【0260】
(1-1)キチン/キトサン原料の精製
まず、キチン/キトサン原料として乾燥状態のタラバガニの殻を5mm程度に砕いた原料を、脱脂するため、クロロホルム/メタノール(体積比2/1)溶液に一日浸漬した。
次に、脱脂された原料の脱ミネラルを行うために、1M塩酸で3時間処理を行った。処理された原料は、脱タンパクを行うために、窒素パージした10%水酸化ナトリウム水溶液で一晩処理を行った。その後、処理された原料を、0.3%亜塩素酸ナトリウム水溶液に浸し、70℃に設定したオイルバス中にマグネチックスターラーを用いて4時間撹拌することで漂白した。脱ミネラル、脱タンパク及び漂白の一連の処理を4回繰り返した後、脱脂された原料を、1M水酸化ナトリウム水溶液で洗浄し、表面のアミノ基を脱プロント化し、その後、水で洗浄した。
【0261】
(1-2)精製キチンの部分脱アセチル化
キチン/キトサン原料に対して上記の精製処理を行った精製キチン原料を、90℃に保持した33%水酸化ナトリウム水溶液に4時間浸漬し、部分脱アセチル化処理を施した。その後、部分脱アセチル化処理された原料を、濾過-水洗浄によって、濾液が中性になるまで充分洗浄した。精製キチン原料は、部分脱アセチル化によりN-アセチル化度が低下して、ナノファイバー化に適した状態となった。精製キチン原料に含まれるキチンは、脱アセチル化の結果、部分的にキトサン構造となった。
【0262】
(2)浸漬処理
次に、上記で得られた精製キチンに水を加えて固形分濃度0.1%の精製キチン水分散液を調製した。その後、上記の水分散液に酢酸を添加することでpHを3.3に調整した水分散液試料を作製した。
【0263】
(3)解繊処理
次に、得られた精製キチン水分散液試料0.25%を家庭用ミキサーで1分間解繊処理した後、超音波ホモジナイザーで1分間解繊処理した。
以上の(1)~(3)の処理により、精製キチンを原料とする微細繊維及び微細繊維分散液を得た。
【0264】
[実施例15~18]
実施例1においてセルロースナノファイバーのカルボキシ基と等モル量のテトラブチルアンモニウムクロリド(TBACl)を添加し、対イオンをテトラブチルアンモニウム(TBA)イオンとしてから解繊した点と、ジビニルベンゼン(DVB)に代えて、以下のモノマー・オリゴマーをコア粒子前駆体とした点を除き、実施例1と同様の手順で実施例15から実施例18にかかる微細繊維及び複合粒子を製造した。
・実施例15:単官能性アクリレートであるイソボニルメタクリレート(IB-X)。
・実施例16:単官能性アクリレートであるイソボニルアクリレート(IB-XA)。
・実施例17:単官能性ビニルモノマーであるp-メチルスチレン(p-MeSt)。
・実施例18:二官能性ウレタンアクリレートオリゴマー(UA4200、新中村化学工業社製)。
【0265】
[実施例19]
<第1工程:微細繊維分散液(セルロースナノファイバー水分散液)を得る工程>
実施例1と同様の条件で微細繊維分散液(セルロースナノファイバー水分散液)を得た。
【0266】
<第2工程:O/W型エマルションを作製する工程>
次に、ポリ-ε-カプロラクトン(PCL、富士フイルム和光純薬社製)10gを200gの酢酸エチルに溶解して溶解ポリマーを調製した。
溶解ポリマー全量を、固形分で0.5質量%の微細繊維分散液500gに対し添加したところ、溶解ポリマーと微細繊維分散液とは、それぞれ2相に分離した。
【0267】
次に、上記2相に分離した状態の混合液における上層の液面から超音波ホモジナイザーを用いて実施例1の第2工程と同様に超音波ホモジナイザー処理した。光学顕微鏡にて1~数十μm程度のエマルション液滴が無数に生成し、O/W型エマルションとして分散安定化している様子が確認された。
【0268】
<第3工程:コア粒子前駆体を固体化する工程>
上記O/W型エマルション液を700mmHgの減圧条件下で、40℃で3時間減圧乾燥して酢酸エチルを完全に揮発させた。酢酸エチルの揮発前後で分散液の外観に変化はなかった。
得られた分散液を実施例1と同様の条件で洗浄したところ、1~数十μm程度の粒子径の球状の複合粒子が得られた。実施例1と同様の条件で回収物を乾燥したところ、白色の肌理細やかな乾燥粉体を得た。
【0269】
[比較例1]
実施例1において、酸化工程にて酸化反応を4時間行い、セルロースの質量に対して、水酸化ナトリウムが3.0mmol/gになった時点で、過剰量のエタノールを添加し反応を停止させたこと以外は、実施例1と同様の条件で微細繊維及び複合粒子を製造した。
【0270】
[比較例2]
実施例1において、酸化工程にて酸化反応を2時間行い、セルロースの質量に対して、水酸化ナトリウムが1.5mmol/gになった時点で、過剰量のエタノールを添加し反応を停止させたこと以外は、実施例1と同様の条件で微細繊維及び複合粒子を製造した。
【0271】
[比較例3]
実施例1において、TEMPO酸化CNF分散液の代わりにカルボキシメチルセルロース(以下、CMCとも称する。)水溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様の条件で微細繊維及び複合粒子の作製を試み、以下の各評価を実施した。
【0272】
<微細繊維の評価方法>
各例で得られた微細繊維について、イオン性官能基の導入量、結晶化度、短軸の数平均軸径(数平均短軸径)、長軸の数平均軸径(数平均長軸径)、光線透過率及びレオロジーの測定や算出を次のように行った。
【0273】
(イオン性官能基の導入量の測定)
分散処理前の微細繊維について、イオン性官能基の導入量を以下の方法にて算出した。
微細繊維の乾燥質量換算0.2gをビーカーに採り、イオン交換水80mLを添加した。そこに、0.01mol/L塩化ナトリウム水溶液5mLを加え、攪拌しながら、0.1mol/L塩酸を加えて、全体がpH2.8となるように調整した。
そこに、自動滴定装置(商品名:AUT-701、東亜ディーケーケー社製)を用いて、0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液を0.05mL/30秒で注入し、30秒毎の電導度とpH値を測定し、pH11まで測定を続けた。
得られた電導度曲線から、水酸化ナトリウムの滴定量を求め、イオン性官能基(カルボキシ基)の導入量(mmol/g)を算出した。
イオン性官能基がカチオン性基である場合は、アルカリ条件から塩酸を注入して電気伝導度滴定を行った。分散処理前の微細繊維の乾燥質量換算0.2gをビーカーに採り、イオン交換水80mLを添加した。そこに、攪拌しながら、0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液を加えて、全体がpH8となるように調整した。
そこに、自動滴定装置(商品名:AUT-701、東亜ディーケーケー社製)を用いて、0.1mol/L塩酸を0.05mL/30秒で注入し、30秒毎の電導度とpH値を測定し、pH2.0まで測定を続けた。
得られた電導度曲線から、塩酸の滴定量を求め、イオン性官能基(アミノ基)の導入量(mmol/g)を算出した。
【0274】
(結晶化度の算出)
各例で得られた微細繊維の結晶化度を以下の方法にて算出した。
微細繊維(TEMPO酸化セルロース)について、試料水平型多目的X線回折装置(商品名:UltimaIII、Rigaku社製)を用い、X線出力:(40kV、40mA)の条件で、5°≦2θ≦35°の範囲でX線回折パターンを測定した。得られるX線回折パターンはセルロースI型結晶構造に由来するものであるため、下記の式(I)を用い、以下に示す手法により、微細繊維の結晶化度を算出した。
結晶化度(%)=〔(I22.6-I18.5)/I22.6〕×100・・・(I)
ただし、I22.6は、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度、I18.5は、アモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折強度を示す。
【0275】
(微細繊維の短軸及び長軸の数平均軸径の算出)
微細繊維の短軸及び長軸の数平均軸径を以下の方法にて算出した。
まず、微細繊維分散液を0.001%となるように希釈した後、マイカ板上に20μLずつキャストして風乾した。乾燥後に原子間力顕微鏡(商品名:AFM5400L、日立ハイテクノロジーズ社製)を用い、DFMモードで微細繊維の形状を観察した。
微細繊維の短軸の数平均軸径(数平均短軸径)は、原子間力顕微鏡による観察画像から100本の繊維の短軸径(繊維幅)を測定し、その平均値として求めた。微細繊維の長軸の数平均軸径(数平均長軸径)は、原子間力顕微鏡による観察画像から100本の繊維の長軸径(繊維長)を測定し、その平均値として求めた。
【0276】
(微細繊維分散液の光線透過率の測定)
固形分で微細繊維0.5%の水分散液について、以下の方法にて光線透過率(透過率)を測定した。
石英製のサンプルセルの一方にはリファレンスとして水を入れ、もう一方には気泡が混入しないように微細繊維分散液を入れた。光路長1cmにおける波長220nmから800nmまでの光線透過率を分光光度計(商品名:NRS-1000、日本分光社製)にて測定した。波長660nmにおける光線透過率を表1に示す。
【0277】
(粒度分布の測定)
レーザー回折・散乱方式の粒度分布計SALD-7100H(島津製作所社製)を用い、フローセル内に微細繊維分散液を滴下し、散乱光強度が安定した時点で粒度分布を測定した。実施例1及び比較例1の結果を図3に示す。図3(a)に示すように、実施例1の微細繊維のメジアン径は0.083μmであった。図3(b)に示すように、比較例1の微細繊維のメジアン径は34μmであった。ここで、「微細繊維のメジアン径」とは、レーザー回折・散乱方式の粒度分布計を用いて測定した場合の微細繊維を球に見立てた際の直径(又は長径)の個数基準のメジアン径(積算の粒子数が50%となったときの直径)を意味する。
【0278】
(レオロジー測定)
固形分濃度0.5%の微細繊維分散液のレオロジーをレオメータ(商品名:AR2000ex、ティー・エイ・インスツルメント社製)傾斜角1°のコーンプレートにて測定した。
測定部を25℃に温度調整し、定常粘弾性測定において、せん断速度を0.01s-1から1000s-1まで30秒ごとに連続的に上昇させた後、1000s-1から0.01s-1まで30秒ごとに連続的にせん断速度を低下させた際のせん断粘度を測定した。せん断速度0.1s-1から1000s-1における実施例1及び比較例1の結果を図4に示す。また、せん断速度が1s-1のとき及び100s-1のときのせん断粘度を表1に示す。
【0279】
図4に示すように、微細繊維分散液は、せん断速度を上げると、せん断粘度が低下した。この結果から明らかなように、微細繊維分散液はチキソトロピック性を示した。
【0280】
表1の光線透過率に示すように、微細繊維分散液は高い透明性を示した。また、実施例1の微細繊維分散液に含まれる微細繊維(TEMPO酸化CNF)の数平均短軸径は3nm、数平均長軸径は558nmであった。
【0281】
<複合粒子の評価方法>
各例で得られた乾燥粉体(複合粒子)について、以下の評価を行った。
【0282】
(収率)
得られた乾燥粉体の質量を測定し、収率を算出した。収率は以下の式にて算出した。
収率(%)=乾燥粉体の質量(g)/仕込みのコア粒子前駆体の質量(g)×100
各例の複合粒子の収率を算出した結果を表1に示す。
【0283】
(平均円形度)
複合粒子の形状が真球状であるかの指標として、画像分析型粒度分布計PITA-04(セイシン企業)にて平均円形度を評価した。得られた乾燥粉体を純水に分散させ、画像分析型粒度分布計にて3000個の粒子の円形度を測定し、その円形度の算術平均値として平均円形度を算出した。画像上における試料の面積をS、周囲長をLとしたとき、円形度は、「円形度=4πS/L」の式で算出でき、円形度が1に近いほど真球度が高くなる。
各例の複合粒子の平均円形度を算出した結果を表1に示す。
【0284】
(走査型電子顕微鏡による形状観察、平均粒径、最大粒径)
得られた乾燥粉体を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察した。そのSEM画像を図5に示す。O/W型エマルション液滴を鋳型として重合反応を実施したことにより、エマルション液滴の形状に由来した、真球状の粒子が無数に形成していることが確認された。
さらに、図6(a)、図6(b)に示すように、複合粒子の表面は、幅数nmの微細繊維によって均一に被覆されていることが確認された。濾過洗浄によって繰り返し洗浄したにも拘らず、粒子の表面は等しく均一に微細繊維によって被覆され、コア粒子と微細繊維とは結合しており、不可分の状態にあることが示された。
また、SEM画像から無作為に抽出した100個の複合粒子の粒径を測定し、平均粒径及び最大粒径を評価した。結果を表1に示す。
【0285】
(精製の可否)
第1工程から第3工程において得られた分散液を第4工程において純水で10倍に希釈し、孔径5.0μmのPTFEメンブレンフィルター(以下、単に「フィルター」ともいう)を用いて濾過した。精製の可否を下記評価基準に基づいて評価した。結果を表1に示す。
《評価基準》
○:フィルターが詰まることなく、分散液の全量を濾過できる。
×:フィルターが詰まり、分散液の全量を濾過できない。
【0286】
(分散性の評価)
各例で得られた乾燥粉体を1質量%の濃度で純水又はアセトンに添加し、攪拌子で24時間攪拌して分散させた後、スライドガラスに滴下し、カバーガラスを被せて光学顕微鏡にて凝集物の有無を確認した。分散性を下記評価基準に基づいて評価した。結果を表1に示す。
《評価基準》
○:純水中及びアセトン中において凝集物が無い。
×:純水中又はアセトン中において凝集物がある。
【0287】
上記実施例1~19及び比較例1~3の評価結果を表1にまとめて示す。表1中、「-」は、その評価を実施しなかったことを示す。
【0288】
【表1】
【0289】
表1に示すように、本発明を適用した実施例1は、短繊維長であるため、図3に示すようにメジアン径が小さく、図4に示すように低粘度な微細繊維であった。この微細繊維分散液を、メンブレンフィルターを用いて濾過したところ、フィルターが詰まることなく分散液全量を濾過することができた。フィルター上の回収物を乾燥して回収物の収率を算出した結果、80%以上と高い収率であった。得られた粒子のSEM観察を行ったところ、図5図6に示すように微細繊維が被覆された真球状の粒子であり、粒子径のばらつきが小さかった。粒度分布計により平均円形度を評価したところ、平均円形度は0.8以上と真球状であることが示唆された。また、純水及びアセトン中において分散性が良好であった。
【0290】
実施例1~11においては、短繊維化処理の方法によらず、イオン性官能基を有するメジアン径の小さな低粘度の微細繊維を得ることができた。この微細繊維を用いてDVBモノマー液滴のピッカリングエマルションを形成させ、重合した分散液を、減圧濾過したところ、フィルターが詰まることなく、分散液全量を濾過することができた。加えて、高い収率にて、真球状で粒子径のばらつきが小さく、分散性が良好な複合粒子を製造することができた。
【0291】
実施例12~14においては、微細繊維のイオン性官能基の種類や原料の種類によらず、メジアン径が小さく低粘度な微細繊維を得ることができた。この微細繊維を用いて、精製工程における減圧濾過においてフィルターが詰まることなく、分散液全量を濾過することができ、高収率にて、真球状で粒子径のばらつきが小さく、分散性が良好な複合粒子を製造することができた。
【0292】
実施例15~19においては、コア粒子におけるポリマーの種類によらず、微細繊維でコア粒子の表面が被覆された複合粒子を製造することができた。この複合粒子と微細繊維との分散液を減圧濾過したところ、フィルターが詰まることなく分散液を濾過することができ、高収率にて真球状で粒径のばらつきが小さく、分散性が良好な複合粒子を製造することができた。
【0293】
一方、短繊維化処理を施していないためメジアン径が大きく、粘度が高いTEMPO酸化CNF(微細繊維)を用いた比較例1及び比較例2においては、微細繊維を用いて安定したDVBモノマー液滴のピッカリングエマルションを形成することができた。しかし、モノマーを重合後、分散液の精製を試みたところ、フィルターが詰まってしまい、分散液全量を濾過することができなかった。得られた回収物は、遊離の微細繊維と共に回収されたため、乾燥すると複数の粒子に微細繊維が橋掛けしてしまい、分散性が良好でなかった。
繊維状でないポリマーのCMCを用いた比較例3においては、DVBモノマーのエマルションが重合中に崩壊してしまった。精製は可能であったが、粒子径のばらつきが小さい真球状の粒子を得ることはできず、分散性が低かった。
【0294】
[実施例20]
実施例1において、複合粒子の精製工程の後に、以下のように実施した。
【0295】
(酸洗浄工程)
得られた複合粒子を0.01M(pH2.0)の塩酸に分散させ、1時間攪拌した後、孔径0.45μmのPTFEメンブレンフィルターによりろ過し、純水で3回洗浄してカルボキシ基が酸型(-COOH)の複合粒子を得た。
【0296】
<第5工程:機能性材料(蛍光色素)吸着工程>
10mMの蛍光色素(アクリジンオレンジ(AO)(富士フイルム和光純薬社製))の水溶液5mLに、0.1gの複合粒子を添加して攪拌した後、一晩放置した。その後、孔径0.45μmのPTFEメンブレンフィルターにて濾過することより粒子を分離した。
【0297】
(洗浄工程及び乾燥工程)
0.01Mのリン酸緩衝液(pH7.0)5.0mlを添加して粒子を分散させ、孔径0.45μmのPTFEメンブレンフィルターにより濾過する工程を4回繰り返し(洗浄工程)、余剰の蛍光色素を取り除き、室温(25℃)で乾燥させた(乾燥工程)。このように、洗浄工程、乾燥工程を経て、複合粒子の表面に蛍光色素が吸着した、蛍光色素吸着複合粒子を得た。
【0298】
[実施例21]
実施例20において、AO水溶液の代わりにローダミン6G(Rh6G)(東京化成工業社製)水溶液を用いた以外は、実施例20と同様の条件で蛍光色素吸着複合粒子を製造した。
【0299】
[実施例22]
実施例20において、AO水溶液の代わりに4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール二塩酸塩(DAPI)(Sigma aldrich社製)を用いた以外は、実施例20と同様の条件で蛍光色素吸着複合粒子を製造した。
【0300】
[実施例23]
実施例20において、AO水溶液の代わりにチオフラビンT(TT)(東京化成工業社製)を用いた以外は、実施例20と同様の条件で蛍光色素吸着複合粒子を製造した。
【0301】
[実施例24]
実施例20において、TEMPO酸化の代わりに、先行技術文献として挙げた非特許文献1に従いリン酸エステル化処理を行って得られたリン酸エステル化CNF分散液を用いたこと以外は、実施例20と同様の条件で蛍光色素吸着複合粒子を製造した。
【0302】
[実施例25]
実施例20において、TEMPO酸化の代わりに、特開2010-180309号公報の記載に従う方法で得られた実施例14に記載のキチンNF分散液を用いた。キチンNFにより得られた複合粒子を、塩酸を用いて酸洗浄する代わりに水酸化ナトリウム水溶液を用いて塩基洗浄した。実施例20におけるAO水溶液の代わりにピラニン(Py)(富士フイルム和光純薬社製)の水溶液を用いた以外は、実施例20と同様の条件で蛍光色素吸着複合粒子を製造した。
【0303】
[実施例26]
実施例20において、セルロースナノファイバーのカルボキシ基と等モル量のテトラブチルアンモニウムクロリド(TBACl)を添加し、対イオンをテトラブチルアンモニウム(TBA)イオンとしてから解繊した点と、ジビニルベンゼン(DVB)に代えて、実施例15と同様にIB-Xモノマーをコア粒子前駆体とした点を除き、実施例20と同様の手順で蛍光色素吸着複合粒子を製造した。
【0304】
[実施例27]
実施例20において、酸洗浄工程を行わなかった以外は、実施例20と同様の条件で蛍光色素吸着複合粒子を製造した。
【0305】
[実施例28]
実施例20において、機能性材料吸着工程を以下のように実施した。
【0306】
<第5工程:機能性材料(抗菌剤)吸着工程>
10mMの抗菌剤(塩化ベンザルコニウム(BAC)(東京化成工業社製))の水溶液5mLに、0.1gの複合粒子を添加して攪拌した後、一晩放置した。その後、孔径0.45μmのPTFEメンブレンフィルターにて濾過することより粒子を分離した。
【0307】
(洗浄工程及び乾燥工程)
0.01Mのリン酸緩衝液(pH7.0)5.0mlを添加して粒子を分散させ、孔径0.45μmのPTFEメンブレンフィルターにより濾過する工程を4回繰り返し(洗浄工程)、余剰の抗菌剤を取り除き、室温(25℃)で乾燥させた(乾燥工程)。このように、洗浄工程、乾燥工程を経て、複合粒子の表面に抗菌剤が吸着した、抗菌剤吸着複合粒子を得た。
【0308】
[比較例4]
AOの固体試薬単体(固体、富士フイルム和光純薬社製)について、以下の各評価を実施した。
【0309】
[比較例5]
実施例1において、TEMPO酸化CNF分散液の代わりにCMC水溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様の条件で粒子の作製を試み、以下の各評価を実施した。
【0310】
<蛍光色素吸着複合粒子(又は抗菌剤吸着複合粒子)の評価方法>
(分散性の評価)
各例で得られた蛍光色素吸着複合粒子(又は抗菌剤吸着複合粒子)を実施例1に記載の条件と同様の条件で精製し、乾燥粉体を得た。得られた乾燥粉体を1質量%の濃度で純水又はアセトンに添加し、攪拌子で24時間攪拌して分散させた後、スライドガラスに滴下し、カバーガラスを被せて光学顕微鏡にて凝集物の有無を確認した。分散性を下記評価基準に基づいて評価した。
《評価基準》
○:純水中及びアセトン中において凝集物が無い。
×:純水中又はアセトン中において凝集物がある。
【0311】
(蛍光発光強度の評価)
各例で得られた乾燥粉体又は吸着に使用した色素固体試薬(以下、「試料」ともいう)を蛍光顕微鏡にて観察した。実体顕微鏡システムSZX16(オリンパス社製)にて、下地を黒とし、接眼レンズ×1(1倍)、対物レンズ×10(10倍)にてスライドガラスに載せた試料の蛍光観察を行った。蛍光観察は、GFPフィルター(励起:450nm~500nm、発光:500nm~)又はUVフィルター(励起:300nm~400nm、発光:400nm~)を用いて行い、外部の蛍光灯の光が入らないように紙で実体顕微鏡システムを覆って評価した。GFPフィルター条件ではヒストグラム100~255の色調範囲で観察し、UVフィルターではヒストグラム0~125の色調範囲で、露出時間1000msの条件で観察した。蛍光発光の有無を確認し、蛍光発光強度を下記評価基準に基づいて評価した。
《評価基準》
○:蛍光発光がある。
×:蛍光発光が無い。
【0312】
(蛍光波長の評価)
各例の試料の蛍光スペクトルを、蛍光スペクトル測定装置にて測定した。実体顕微鏡システムSZX16(オリンパス社製)のGFPフィルターを通した光源をスライドガラスに載せた試料に照射し、ファイバー式の小型光学分光器USB2000+(OceanOptics社製)を用いて蛍光スペクトルを測定した。実体顕微鏡システムの下地を黒とし、外部の蛍光灯の光が入らないように暗幕カーテンで実体顕微鏡システムを覆いながら蛍光スペクトルを測定した。
測定した試料の蛍光色素由来の極大蛍光波長をλ1、蛍光色素固体試薬単体の極大蛍光波長をλ2、10μMの蛍光色素水溶液の極大蛍光波長をλ3とした。試料から蛍光色素由来のλ1を算出する際は、蛍光色素を吸着した試料の蛍光強度の値から、蛍光色素を吸着していない試料の蛍光強度の値を減じて算出した。各試料の(λ2-λ1)、(λ3-λ1)をそれぞれ算出し、下記式(II)及び下記式(III)の関係を満たすか確認した。蛍光波長を下記評価基準に基づいて評価した。
50nm≦(λ2-λ1) ・・・(II)
-100nm≦λ3-λ1≦100nm ・・・(III)
《評価基準》
○:式(II)及び式(III)の関係を満たす。
×:式(II)又は式(III)の関係を満たさない。
【0313】
(抗菌性の評価)
冷蔵保管している普通寒天(NA)斜面培地の大腸菌NBRC3972を1白金耳掻き取って新しいNA斜面培地に移植し、35℃で22時間培養した。培養した大腸菌を滅菌したミューラーヒントンブイヨン(MHB)培地に1白金耳移植し、35℃で19時間培養した。これを試料として混釈培養し、菌液に含まれる大腸菌数を推定した。また、試料の一部は滅菌したMHB培地で100倍に希釈した。
試料をスクリュー管瓶に秤量し、滅菌したMHB培地を1mL加え、スクリュー管瓶ごと超音波洗浄槽に入れ、3分間攪拌した。スクリュー管瓶に菌液10μLを接種して試験液とし、この試験液を35℃で28時間培養した。28時間培養後の各スクリュー管瓶にレシチン・ポリソルベート80添加ソイビーン・カゼインダイジェスト(SCDLP)培地を9mL加え、30分間静置した。これを試験液の10倍希釈とし、さらにリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で適宜希釈したものを寒天培地で24時間混釈培養した。混釈培養後の大腸菌コロニー数から大腸菌数を推定し、コロニーが見られない最小濃度を最小殺菌濃度(MBC)として、下記評価基準に基づいて抗菌性を評価した。
《評価基準》
○:MBCが32ppm(質量基準)以下。
×:MBCが32ppm(質量基準)超。
【0314】
上記実施例20~28及び比較例4~5の評価結果を表2にまとめて示す。表2中、「-」は、その成分を含有しないこと又はその評価を実施しなかったことを示す。
【0315】
【表2】
【0316】
実施例20の蛍光観察の結果を図7に示す。
実施例20のように、実施例1の複合粒子に蛍光色素であるAOを吸着させたところ、図7(a)に示すように、GFPフィルター条件にて蛍光発光を確認でき、充分な蛍光発光強度だった。実施例20は、AOに由来する緑色の蛍光発光を示した。
また、図7(b)に示すように、UVフィルター条件にて蛍光発光を観察したところ、コア粒子の蛍光発光を確認できた。コア粒子の蛍光発光は、ベンゼン環に由来する青色であった。
実施例20の試料の蛍光スペクトルを測定した結果、蛍光色素由来の極大蛍光波長(λ1)は600nm以下であった。
【0317】
一方、比較例4のAO固体試薬単体をGFPフィルター条件で観察したところ、図8のように蛍光発光が観察された。比較例1の蛍光発光は、赤色であった。比較例1の試料の蛍光スペクトルを測定したところ、極大蛍光波長(λ2)は700nmであり、AO固体試薬単体に対して、実施例20の試料の極大蛍光波長は50nm以上短波長であった。また、10μMのAO水溶液の極大蛍光波長(λ3)は530nmであり、実施例20の試料の極大蛍光波長との差は100nm以下であり、実施例20においては、蛍光色素の会合や凝集が抑制できていることが示唆された。
【0318】
表2に示すように、実施例20~26は、微細繊維の種類やイオン性官能基の種類、コア粒子、蛍光色素の種類によらず、蛍光色素の会合や凝集が抑制され、充分な蛍光発光強度を有し、蛍光発光のシフトを抑制した蛍光色素吸着複合粒子を得ることができた。
実施例27のように、酸洗浄を行わなくても蛍光色素を吸着させることができた。この複合粒子においても、分散性が良好であり、充分な蛍光発光強度を有し、蛍光発光のシフトを抑制できた。
実施例28の複合粒子は、抗菌性の評価が「○」で、抗菌性を有していることが確認できた。
【0319】
これに対して、微細繊維を含有しない比較例4は、図8に示すように充分な蛍光発光強度を示したが、極大蛍光波長(λ1)は、10μMの色素水溶液の極大蛍光波長(λ3)に対して100nm以上長波長であり、蛍光色素が会合していることが示唆された。
繊維状でないイオン性官能基を有するポリマーを用いた比較例5は、蛍光発光を確認できたが、その極大蛍光波長は10μMの色素水溶液に対して100nm以上長波長にシフトしており、蛍光色素が会合していることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0320】
本発明の複合粒子によれば、セルロースナノファイバーやキチンナノファイバーといった微細繊維の溶媒過多の問題を解決すると共に、簡便な方法で製造可能な新たな様態の微細繊維を有する複合粒子を提供することができる。
微細繊維を用いることで界面活性剤等の添加物を用いることなく、安定した液滴を形成するため、粒子径分布の小さい真球状の複合粒子を得ることができる。
短繊維長な微細繊維を用いることで、エマルション液滴を充分に被覆することができ、安定したピッカリングエマルションを形成できるため、粒径のばらつきが小さい真球状の複合粒子を得ることができる。
また、短繊維で粘度の低い微細繊維を用いることで、精製効率が向上し、遊離の微細繊維を充分に除去することができるため、粒子間の橋掛けを抑制し、各種溶媒への分散性が向上した複合粒子を提供することができる。このことにより、化粧品やセキュリティ部材等への応用が期待される。
セルロースナノファイバーやキチンナノファイバーは生分解性ポリマーから構成される微細繊維である。よって、コア粒子も生分解性ポリマーを含む材料で構成することにより、環境への負荷を低減し、マイクロプラスチック問題を解決し得る複合粒子を提供することができる。
本発明の複合粒子(蛍光色素吸着複合粒子)によれば、蛍光色素の会合や凝集を防ぐことにより、蛍光色素分子本来の蛍光発光を安定して発揮することが可能である。このため、蛍光色素吸着複合粒子を含む成形体を、偽造防止等のセキュリティ部材等として使用できる。
【符号の説明】
【0321】
1,1A 複合粒子
2 微細繊維
3 コア粒子
4 機能性材料
6 液滴
7 親水性溶媒
20 被覆層(繊維層)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8