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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027873
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】プリプレグおよび積層体
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/06 20060101AFI20240222BHJP
   B32B 5/00 20060101ALI20240222BHJP
   B60C 7/00 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
C08J5/06 CEZ
B32B5/00 A
B60C7/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022131043
(22)【出願日】2022-08-19
(71)【出願人】
【識別番号】597077469
【氏名又は名称】丸紅ケミックス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】500152267
【氏名又は名称】丸八株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】李 鋼哲
(72)【発明者】
【氏名】加藤 啓倫
(72)【発明者】
【氏名】中北 一誠
(72)【発明者】
【氏名】金山 達也
(72)【発明者】
【氏名】小林 史武
(72)【発明者】
【氏名】圖子 博昭
(72)【発明者】
【氏名】菅原 寿秀
【テーマコード(参考)】
3D131
4F072
4F100
【Fターム(参考)】
3D131BA02
3D131BA20
3D131BB19
3D131CC03
3D131DA31
4F072AA04
4F072AA08
4F072AB09
4F072AB22
4F072AC15
4F072AD37
4F072AD44
4F072AG03
4F072AG17
4F072AG20
4F072AH06
4F072AH24
4F072AH49
4F072AL18
4F072AL19
4F100AG00A
4F100AH06A
4F100AK01A
4F100AK01B
4F100AK41A
4F100AK46A
4F100AK48A
4F100AL09A
4F100BA01
4F100BA02
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100DG01A
4F100DH01A
4F100GB32
4F100GB51
4F100JA06A
4F100JB04A
4F100JB16A
4F100JK04
(57)【要約】
【課題】適度な硬さを維持しつつ、柔軟性に優れるプリプレグを提供することを課題とする。
【解決手段】繊維と、樹脂を含むマトリックス材料と、を含むシート状のプリプレグであって、
前記樹脂が、ポリアミド樹脂およびポリエステルエラストマー樹脂から選択される1種以上の熱可塑性樹脂を含み、
前記プリプレグ中の前記繊維の体積含有率が25%以上であり、
前記繊維がカップリング剤で表面処理され、
前記マトリックス材料の240℃における溶融粘度が50Pa・s以上、800Pa・s以下であり、
厚さが0.05mm以上、1.0mm以下である、
プリプレグ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維と、樹脂を含むマトリックス材料と、を含むシート状のプリプレグであって、
前記樹脂が、ポリアミド樹脂およびポリエステルエラストマー樹脂から選択される1種以上の熱可塑性樹脂を含み、
前記プリプレグ中の前記繊維の体積含有率が25%以上であり、
前記繊維がカップリング剤で表面処理され、
前記マトリックス材料の240℃における溶融粘度が50Pa・s以上、800Pa・s以下であり、
厚さが0.05mm以上、1.0mm以下である、
プリプレグ。
【請求項2】
前記繊維が開繊されている、請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項3】
前記カップリング剤の溶解度パラメーターが、8.25以上、である、請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項4】
前記カップリング剤が、アミノシラン系カップリング剤、メタクリルシラン系カップリング剤、イソシアネートシラン系カップリング剤、およびエポキシシラン系カップリング剤から選択される1種以上のカップリング剤である、請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項5】
前記繊維が、ガラス繊維又は有機繊維である、請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項6】
前記ポリアミド樹脂が、6,10-ナイロン、6,11-ナイロン、6,12-ナイロン、11-ナイロン、および12-ナイロンからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項7】
1つ以上の請求項1~6のいずれか1項に記載のプリプレグを含む、積層体。
【請求項8】
1つ以上の樹脂含有フィルムをさらに含む、請求項7に記載の積層体。
【請求項9】
前記樹脂含有フィルムのうち少なくとも1つの樹脂含有フィルムの240℃における溶融粘度が、前記マトリックス材料の240℃における溶融粘度以上であり、
前記積層体中の前記繊維の体積含有率が2%以上、25%以下であり、
厚さが0.5mm以上、5.0mm以下である、
請求項8に記載の積層体。
【請求項10】
曲げ弾性率が、1GPa以上、10GPa未満である、請求項7に記載の積層体。
【請求項11】
請求項7に記載の積層体を有する、非空気圧タイヤ用スポーク。
【請求項12】
前記積層体中の前記繊維の体積含有率が30%以上であり、
前記積層体を厚さ方向に2等分する仮想的な中間面を設けた場合において、前記積層体のいずれか一方の表面から前記中間面までの第1の領域における前記プリプレグの体積と、前記積層体のもう一方の表面から前記中間面までの第2の領域における前記プリプレグの体積とが異なる、
請求項7に記載の積層体。
【請求項13】
前記プリプレグが複数含まれ、そのうち少なくとも2つのプリプレグにおいて、含まれる繊維の配向方向が互いに異なる、請求項7に記載の積層体。
【請求項14】
前記繊維がガラス繊維である、請求項7に記載の積層体。
【請求項15】
請求項7に記載の積層体を有する、非空気圧タイヤ用ベルト。
【請求項16】
前記積層体の一方の表面が凹側、もう一方の表面が凸側となるように、かつ、厚さ方向の断面形状が略弓形状となるように構成され、
前記積層体を厚さ方向に2等分する仮想的な中間面を設けた場合において、前記積層体の凹側の表面から前記中間面までの領域よりも、前記積層体の凸側の表面から前記中間面までの領域に、前記プリプレグが偏在する、
請求項15に記載の非空気圧タイヤ用ベルト。
【請求項17】
外側環状ベルト、内側環状ベルト、および前記外側環状ベルトと前記内側環状ベルトとを連結するスポークを備える、非空気圧タイヤであって、
少なくとも、
前記スポークが、請求項11に記載の非空気圧タイヤ用スポークである、
非空気圧タイヤ。
【請求項18】
外側環状ベルト、内側環状ベルト、および前記外側環状ベルトと前記内側環状ベルトとを連結するスポークを備える、非空気圧タイヤであって、
少なくとも、
前記外側環状ベルトおよび前記内側環状ベルトから選択される1つ以上のベルトが、請求項15に記載の非空気圧タイヤ用ベルトである、
非空気圧タイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維を含浸した樹脂を含むマトリックス材料からなるプリプレグ、および該プリプレグと樹脂含有フィルムとを含む積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、炭素繊維やガラス繊維等の強化繊維と樹脂を含むマトリックス材料とを複合化して得られる繊維強化複合材料およびその中間基材(プリプレグ)は、種々の分野および用途に利用されている。例えば、航空機や自動車等の分野では、高い機械的特性が求められ、マトリックス材料に含まれる樹脂としてエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂が使用されてきた。
熱硬化性樹脂は、タイヤ、ホース、ベルト、空気バネ、又はゴルフボール等で用いられており、粘度が低いために繊維への含浸性が優れ、複雑な形状を成形しやすい利点がある一方で、材料のポットライフや成形時間の長さなどに関する問題、リサイクルが難しい問題、また、柔軟性が劣る問題がある。そこで、熱硬化性樹脂にエラストマーなどの熱可塑性樹脂を混合させることにより、これらの熱硬化性樹脂に起因する問題を改善させる方法が試みられるようになった。
【0003】
熱硬化性樹脂に熱可塑性樹脂を混合させる技術を利用したプリプレグに係る技術として、例えば、特許文献1には、強化繊維、特定の官能基を有する熱可塑性樹脂、及び熱硬化性樹脂としてのエポキシ樹脂を含む複合材料とすることにより、プリプレグとしての反応性に優れ、部材の成形時間を短縮可能かつ成形した部材の寸法精度にも優れており、同種または異種の部材と溶着により接合可能かつ、優れた接合強度を発現し、更に層間破壊靱性値にも優れ、構造材料として好適な積層体を与えるプリプレグを提供することができる技術が開示されている。
また、特許文献2には、特定のエポキシ当量を有する熱硬化性樹脂としての多官能エポキシ樹脂、無機充填材、およびフェノキシ樹脂などの熱可塑性樹脂を含む複合材料とすることにより、セミアディティブプロセス特性に優れており、プリント配線基板における絶縁層を形成するために用いられるプリプレグを提供することができる技術が開示されている。
また、特許文献3には、熱硬化性樹脂、水酸化アルミニウムを含む無機充填材、および有機溶剤に可溶な熱可塑性樹脂をそれぞれ特定の含有量で含む複合材料とすることにより、難燃性、吸湿耐熱性、成型性、及び回路パターンに対する密着性のバランスに優れるプリント配線板とすることができるプリプレグを提供することができる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第7088320号
【特許文献2】特開2021-073328号公報
【特許文献3】特開2018-100327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、プリプレグに含まれる樹脂として、熱硬化性樹脂に熱可塑性樹脂を混合させた樹脂が用いられている。熱化可塑性樹脂を用いる利点の一つとして柔軟性の向上が挙げられるが、熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂を含む樹脂は、適度な硬さを確保するために、繊維の含有率を高くして強化する必要があり、適度な硬さおよび靭性は確保され
る一方で、適度な柔軟性を確保することはできなかった。
【0006】
そこで、本発明は、適度な硬さを維持しつつ、柔軟性に優れるプリプレグを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討を重ねた結果、樹脂として特定の熱可塑性樹脂を用い、繊維の表面に特定の処理を施し、繊維の含有率およびマトリックス材料の溶融粘度を特定の範囲とすることにより、上記の課題を解決できることを見出した。すなわち、本発明の要旨は下記に存する。
【0008】
[1] 繊維と、樹脂を含むマトリックス材料と、を含むシート状のプリプレグであって、
前記樹脂が、ポリアミド樹脂およびポリエステルエラストマー樹脂から選択される1種以上の熱可塑性樹脂を含み、
前記プリプレグ中の前記繊維の体積含有率が25%以上であり、
前記繊維がカップリング剤で表面処理され、
前記マトリックス材料の240℃における溶融粘度が50Pa・s以上、800Pa・s以下であり、
厚さが0.05mm以上、1.0mm以下である、
プリプレグ。
[2] 前記繊維が開繊されている、[1]に記載のプリプレグ。
[3] 前記カップリング剤の溶解度パラメーターが、8.25以上、である、[1]又は[2]に記載のプリプレグ。
[4] 前記カップリング剤が、アミノシラン系カップリング剤、メタクリルシラン系カップリング剤、イソシアネートシラン系カップリング剤、およびエポキシシラン系カップリング剤から選択される1種以上のカップリング剤である、[1]~[3]のいずれかに記載のプリプレグ。
[5] 前記繊維が、ガラス繊維又は有機繊維である、[1]~[4]のいずれかに記載のプリプレグ。
[6] 前記ポリアミド樹脂が、6,10-ナイロン、6,11-ナイロン、6,12-ナイロン、11-ナイロン、および12-ナイロンからなる群から選択される少なくとも1種である、[1]~[5]のいずれかに記載のプリプレグ。
[7] 1つ以上の[1]~[6]のいずれかに記載のプリプレグを含む、積層体。
[8] 1つ以上の樹脂含有フィルムとをさらに含む、[7]に記載の積層体。
[9] 前記樹脂含有フィルムのうち少なくとも1つの樹脂含有フィルムの240℃における溶融粘度が、前記マトリックス材料の240℃における溶融粘度以上であり、
前記積層体中の前記繊維の体積含有率が2%以上、25%以下であり、
厚さが0.5mm以上、5.0mm以下である、
[8]に記載の積層体。
[10] 曲げ弾性率が、1GPa以上、10GPa未満である、[7]~[9]のいずれかに記載の積層体。
[11] [7]~[10]のいずれかに記載の積層体を有する、非空気圧タイヤ用スポーク。
[12] 前記積層体中の前記繊維の体積含有率が30%以上であり、
前記積層体を厚さ方向に2等分する仮想的な中間面を設けた場合において、前記積層体のいずれか一方の表面から前記中間面までの第1の領域における前記プリプレグの体積と、前記積層体のもう一方の表面から前記中間面までの第2の領域における前記プリプレグの体積とが異なる、
[7]に記載の積層体。
[13] 前記プリプレグが複数含まれ、そのうち少なくとも2つのプリプレグにおいて、含まれる繊維の配向方向が互いに異なる、[7]、[8]、および[12]のいずれかに記載の積層体。
[14] 前記繊維がガラス繊維である、[7]、[8]、[11]、および[12]のいずれかに記載の積層体。
[15] [7]、[8]、および[12]~[14]のいずれかに記載の積層体を有する、非空気圧タイヤ用ベルト。
[16] 前記積層体の一方の表面が凹側、もう一方の表面が凸側となるように、かつ、厚さ方向の断面形状が略弓形状となるように構成され、
前記積層体を厚さ方向に2等分する仮想的な中間面を設けた場合において、前記積層体の凹側の表面から前記中間面までの領域よりも、前記積層体の凸側の表面から前記中間面までの領域に、前記プリプレグが偏在する、
[15]に記載の非空気圧タイヤ用ベルト。
[17] 外側環状ベルト、内側環状ベルト、および前記外側環状ベルトと前記内側環状ベルトとを連結するスポークを備える、非空気圧タイヤであって、
少なくとも、
前記外側環状ベルトおよび前記内側環状ベルトから選択される1つ以上のベルトが、[15]又は[16]のいずれかに記載の非空気圧タイヤ用ベルトであるか、又は
前記スポークが、[11]に記載の非空気圧タイヤ用スポークである、
非空気圧タイヤ。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、適度な硬さを維持しつつ、柔軟性に優れるプリプレグを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係るプリプレグに含まれる繊維の配向方向を説明するための図である。
図2】本発明の一実施形態に係る積層体の概略断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る積層体の概略断面図である。
図4】本発明の一実施形態に係る積層体の概略断面図である。
図5】エアレスタイヤの概略断面図である。
図6】屈曲させた状態における本発明の一実施形態に係る積層体の概略断面図である。
図7】屈曲させた状態における本発明の一実施形態に係る積層体の概略断面図である。
図8】屈曲させた状態における本発明の一実施形態に係る積層体の概略断面図である。
図9】屈曲させた状態における本発明の一実施形態に係る積層体の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の内容に限定されない。
また、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後に記載される数値あるいは物理値を含む意味で用いることとする。また、上限、下限として記載した数値あるいは物理値は、その値を含む意味で用いることとする。
また、本明細書において、「複数」は、2以上であることを意味する。
【0012】
<プリプレグの構成>
本実施形態に係るプリプレグ(以下、単に「プリプレグ」とも称する。)は、
繊維と、樹脂を含むマトリックス材料と、を含むシート状のプリプレグであって、
前記樹脂が、ポリアミド樹脂およびポリエステルエラストマー樹脂から選択される1種以上の熱可塑性樹脂を含み、
前記プリプレグ中の前記繊維体積含有率が25%以上であり、
前記繊維がカップリング剤で表面処理され、
前記マトリックス材料の240℃における溶融粘度が50Pa・s以上、800Pa・s以下であり、
厚さが0.05mm以上、1.0mm以下である、
プリプレグである。
【0013】
従来のプリプレグは、熱硬化性樹脂が有する、材料のポットライフや成形時間の長さなどに関する問題、リサイクルが難しい問題、また、柔軟性が劣る問題を改善するために、熱硬化性樹脂に熱可塑性樹脂が混合された樹脂が用いられていた。しかし、熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂を含む樹脂は、十分な硬さを確保するため、繊維を高い含有率で含有させて補強する必要があり、十分な硬さは確保される一方で、適度な柔軟性を確保することはできなかった。
一方で、本実施形態に係るプリプレグは、表面処理された繊維を熱可塑性樹脂で含浸することにより、適度な硬さを維持しつつ、優れた柔軟性を確保することができる。また、本実施形態に係るプリプレグは、厚過ぎない適度な厚さを有するため、適度な硬さおよび優れた柔軟性を維持しつつ、他のフィルムを積層させた積層体として利用することも容易である。
本発明者らは、硬さと柔軟性の両方を評価できる特性として、曲げ弾性率に着目した。つまり、本実施形態に係るプリプレグは、曲げ弾性率が高すぎず(柔軟性に優れ)、低すぎない(適度な硬さを有する)ことを特徴とする。
【0014】
プリプレグは、繊維を、樹脂が含まれるマトリックス材料に含浸させたシートである。
シートの表面の形状は特段制限されず、円形状であってもよく、楕円形状であってもよく、三角形状、四角形状(長方形、又は平行四辺形等の形状を含む)、五角形状、又は六角形状等の多角形状であってもよいが、多角形状であることが好ましく、四角形状であることが特に好ましい。
シートの表面の面積は特段制限されず、用途に応じて適宜設定することができるが、通常1cm以上であり、10cm以上が好ましく、100cm以上がより好ましい。また1000000cm以下(100m以下)であってもよく、500000cm以下(50m以下)であってもよく、100000cm以下(10m以下)であってもよい。
シートの厚さは、用途によって異なるが、0.05mm以上、1.0mm以下であれば特段制限されないが、生産性の観点から、0.05mm以上であることが好ましく、0.1mm以上であることがより好ましく、0.2mm以上であることがさらに好ましく、また、含浸性の観点から、1.0mm以下であることが好ましく、0.7mm以下であることがより好ましく、0.4mm以下であることがさらに好ましい。
【0015】
[繊維]
繊維の材料は特段制限されず、ガラス繊維、炭素繊維、もしくは金属繊維等の無機繊維、又はナイロン繊維、ポリエステル繊維、ビニロン繊維、ポリエーテル繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維、もしくはバサルト繊維等の有機繊維等の繊維が使用でき、これらのなかでも、比重が低いために軽量化し易く、屈曲性に優れる観点から、ガラス繊維又は有機繊維が好ましく、特に、ガラス繊維が好ましい。これらの材料は、1種類を単独で用いても、2種類以上を任意の種類および量で併用することもできる。
【0016】
プリプレグ中の繊維の配置は特段制限されないが、繊維同士が擦れ合わずに、十分な機械的特性を得ることができる観点から、各繊維の長軸方向が略平行に揃っていることが好ましい。
【0017】
プリプレグ中の繊維の体積基準の含有率(繊維体積含有率)は、十分な硬さを維持できる観点から、25%以上であれば特段制限されないが、30%以上であることが好ましく、35%以上であることがより好ましい。また、該含有率は、硬くなり過ぎることを抑制する観点から、60%以下であることが好ましく、55%以下であることがより好ましく、50%以下であることがさらに好ましい。
なお、このプリプレグ中の繊維の含有量は、後述するカップリング剤の量を含まない。
【0018】
繊維の形状は特段制限されず、繊維の長軸方向に直交する断面の形状は、例えば、円形状であってもよく、楕円形状であってもよく、三角形状、四角形状、五角形状、又は六角形状等の多角形状であってもよいが、生産性の観点から、円形または楕円形状であることが好ましい。
また、繊維の長さは、強度及び耐熱性の観点から、通常0.1mm以上であり、1.0mm以上であることが好ましく、10mm以上であることがより好ましく、20mm以上であることがさらに好ましく、また、連続繊維を用いる場合は、通常1000m以下であり、500m以下であることが好ましく、100m以下であることがより好ましい。また、繊維を配向させたシートからプリプレグを切り出して製造する場合において、繊維の配向に沿って切り出しを行うこともでき、この場合には、繊維の長さとプリプレグの長さが同じとなる。
また、繊維の長軸方向に直交する断面において取り得る最大の線分の長さ(例えば、断面形状が円形状である場合には直径)は特段制限されないが、生産性の観点から、通常5μm以上であり、8μm以上であることが好ましい。12μm以上であることがさらに好ましい。また、硬さ確保の観点から、通常50μm以下であり、40μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましい。
【0019】
プリプレグ中の繊維の配向方向は特段制限されず、図1に示すように、任意の方向であってよい。図1の各図中の線が、繊維の配向方向を示す。
繊維が一定方向に配向した大きいサイズのプリプレグを作製し、このプリプレグから、所望のサイズおよび角度を有するシートを切り出し、所望の繊維の配向角度を有するプリプレグを作製することができる。
【0020】
繊維は、基材目付の軽量性や樹脂の含浸性の観点から、少なくとも一部開繊していることが好ましい。
繊維の開繊度は特段制限されず、開繊装置の運転条件で増減させることができる。
繊維の開繊度は、例えば開繊後の糸幅を原糸の糸幅で除した値で定義することができる。
【0021】
[カップリング剤]
繊維は、繊維へのマトリックス材料の染み込み(含浸性)を促進させるために、カップリング剤で表面処理されている。カップリング剤を用いることにより、マトリックス材料の染み込みの促進のみならず、繊維とマトリックス材料との接着性の向上の効果も期待される。
カップリング剤の種類は特段制限されず、例えば、イソシアネート化合物、有機シラン化合物、有機チタネ―ト化合物、又はエポキシ化合物などが挙げられるが、染み込みの促進、および接着性の向上の観点から、シランカップリング剤などで予備処理されたものが好ましく、例えば、アミノシラン系カップリング剤、メタクリルシラン系カップリング剤
、イソシアネートシラン系カップリング剤、およびエポキシシラン系カップリング剤から選択される1種以上のカップリング剤であることが好ましく、特に、アミノシラン系カップリング剤、およびエポキシシラン系カップリング剤から選択される1種以上のカップリング剤が好ましく、アミノシラン系カップリング剤がより好ましい。
【0022】
アミノシラン系カップリング剤は、アミノ基を有するシランカップリング剤であり、例えば、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、2-プロピニル[3-(トリメトキシシリル)プロピル]カルバメート、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、1-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]ウレア、および1-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]ウレア等からなる群から選択される1以上の化合物が挙げられ、一般的で安価なことから、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、およびN-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシランからなる群から選択される1以上の化合物が好ましい。
アミノシラン系カップリング剤は、マトリックス材料に含まれる樹脂として、ポリアミド樹脂を用いる場合に特に好適である。
【0023】
エポキシシラン系カップリング剤は、エポキシ基を有するシランカップリング剤であり、例えば、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、又は2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等が挙げられ、一般的で安価なことから、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、および3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランからなる群から選択される1以上の化合物が好ましい。
【0024】
マトリックス材料に含まれる樹脂として、ポリアミド樹脂を用いる場合、カップリング剤は、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、およびN-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシランからなる群から選択される1以上の化合物であることが好ましい。
【0025】
繊維の重量を100重量部とした場合のカップリング剤の重量部は特段制限されないが、染み込みの促進、および接着性の向上の観点から、通常0.01重量部以上であり、0.05重量部以上であることが好ましく、0.1重量部以上であることがより好ましく、また、通常10重量部以下であり、5重量部以下であることが好ましく、3重量部以下であることがより好ましい。
【0026】
カップリング剤の溶解度パラメーター(SP値)は制限されないが、繊維へのマトリックス材料の染み込みを促進させる観点から、通常低いことが求められるが、今回はナイロン系とポリエステル系のマトリックス樹脂の為、逆に高い方がよく、8.25以上であることが好ましく、8.5以上であることがより好ましく、9.0以上であることがさらに好ましく、また、15.7以下とすることができる(SP値15.7は、ポリセルロースのSP値である)。
カップリング剤の溶解度パラメーターは、Fedor’s Mmethodによる分子構造からの計算式で計算することができる。
【0027】
[マトリックス材料]
マトリックス材料は、ポリアミド樹脂およびポリエステルエラストマー樹脂から選択される1種以上の熱可塑性樹脂を含む。
本明細書において、プリプレグは、上記の繊維およびカップリング剤以外の成分をマトリックス材料として扱う。
【0028】
(樹脂)
マトリックス材料は、樹脂として、少なくともポリアミド樹脂およびポリエステルエラストマー樹脂から選択される1種以上の熱可塑性樹脂を含んでいれば特段制限されないが、本発明の効果が得られる範囲で、その他の樹脂を含んでいてもよい。ポリアミド樹脂およびポリエステルエラストマー樹脂は、耐衝撃性、耐疲労特性に優れる。
【0029】
ポリアミド樹脂の種類は特段制限されず、例えば、6-ナイロン、6,6-ナイロン、6,10-ナイロン、6,11-ナイロン、6,12-ナイロン、11-ナイロン、12-ナイロン、およびポリ(メタキシレンアジパミド)等からなる群から選択される1種以上の単量体の単独重合体又は共重合体であってよいが、吸水性を抑える観点から、長鎖ナイロンの重合体であることが好ましい。特に11-ナイロン、および12-ナイロンは長いメチレン鎖を有するポリアミドであるため、吸水率が低く、寸法安定性や耐屈曲性に優れる特徴を有するため、これらからなる群から選択される1種以上であることが好ましい。
単量体として6-ナイロン又は6,6-ナイロン等の短鎖ナイロンが用いられる場合、マトリックス材料の溶融粘度を低くする必要が生じる傾向が強くなる一方で、単量体として6,10-ナイロン、6,11-ナイロン、6,12-ナイロン、11-ナイロン、又は12-ナイロン等の長鎖ナイロンが用いられる場合、このようなマトリックス材料の溶融粘度の制限が課されにくいため、この観点からは、これらのナイロンからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
また、ポリアミド樹脂は、アミノシラン系カップリング剤との接着性及び含浸性に優れる。
【0030】
ポリエステルエラストマー樹脂は、ハードセグメントとソフトセグメントとの結合からなり、ハードセグメントおよびソフトセグメントのいずれか一方がポリエステル単位からなるエラストマーであるが、硬さの観点から、少なくともハードセグメントがポリエステル単位であることが好ましい。
ポリエステルエラストマー樹脂のハードセグメントは、例えば、ポリ(1,4-ブチレンテレフタレート)(PBT)、または2、6-ブチレンナフタレート等のポリマー単位であるが、硬さの観点から、ポリ(1,4-ブチレンテレフタレート)が好ましい。ハードセグメントを構成するポリマー単位は、1種類のポリマーからなる単独重合体であってもよく、2種類以上のポリマーからなる共重合体であってもよい。
ポリエステルエラストマー樹脂のソフトセグメントは、例えば、ポリエーテル単位又はポリエステル単位であり、具体的には、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンオキシド)グリコール、もしくはポリ(トリメチレンオキシド)グリコール等のポリエーテル単位、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリエナントラクトン、ポリカプリロラクトン、もしくはポリブチレンアジペート等のポリエステル単位であるが、耐疲労特性の観点から、ポリ(テトラメチレンオキシド)が好ましい。ソフトセグメントを構成するポリマー単位は、1種類のポリマーからなる単独重合体であってもよく、2種類以上のポリマーからなる共重合体であってもよい。
【0031】
ポリエステルエラストマー樹脂中のハードセグメントの含有率は特段制限されないが、耐熱性と硬さ確保の観点から、重量含有率で30%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、また、柔軟性確保の観点から、70%以下であることが好ましく、60%以下であることがより好ましい。
ポリエステルエラストマー樹脂中のソフトセグメントの含有率は特段制限されないが、
柔軟性確保の観点から、重量含有率で10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましく、また、ハードセグメントが多くなると結晶性が強くなり、熱収縮が大きく繊維に追随できなくなるに残留ひずみが大きくなる観点から、70%以下であることが好ましく、60%以下であることがより好ましい。
【0032】
マトリックス材料が含んでもよいポリアミド樹脂およびポリエステルエラストマー樹脂以外の樹脂(その他の樹脂)は特段制限されず、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o-メチルスチレン、t-ブチルスチレン、o-エチルスチレン、p-クロロスチレン、o-クロロスチレン、p-メトキシスチレン、o-メトキシスチレン、もしくは2,4-ジメチルスチレン等の芳香族ビニル単量体;アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸-2-エチルヘキシル、メタクリル酸-2-エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、メタクリル酸ドデシル、アクリル酸トリデシル、メタクリル酸トリデシル、アクリル酸オクタデシル、メタクリル酸オクタデシル、アクリル酸シクロヘキシル、もしくはメタクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステル単量体;アクリロニトリル、もしくはメタアクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体;無水マレイン酸等のα,β-不飽和カルボン酸;N-フェニルマレイミド、N-メチルマレイミド、もしくはN-シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド単量体;グリシジルメタクリレート等のエポキシ基含有単量体;ビニルメチルエーテル、もしくはビニルエチルエーテル等のビニルエーテル単量体;酢酸ビニル、もしくは酪酸ビニル等のカルボン酸ビニル単量体;エチレン、プロピレン、もしくはイソブチレン等のオレフィン単量体;又はブタジエン、イソプレン、もしくはジメチルブタジエン等のジエン単量体等が挙げられる。
【0033】
マトリックス材料中の樹脂の含有率は特段制限されないが、強化繊維としてガラス繊維を用いた場合は十分な含浸性を確保する観点から、通常重量含有率で10%以上であり、20%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましく、また、繊維の配向を揃えて硬さ確保する観点から、通常重量含有率で80%以下であり、70%以下であることが好ましく、60%以下であることがより好ましい。
マトリックス材料中の樹脂の全重量を100重量部とした場合のポリアミド樹脂およびポリエステルエラストマー樹脂から選択される1種以上の熱可塑性樹脂の合計含有率は特段制限されないが、溶融粘度を確保する観点から、通常70重量部以上であり、80重量部以上であることが好ましく、90重量部以上であることがより好ましく、また、上限の設定は特段要せず、100重量部以下であり、100重量部であってもよい。
【0034】
樹脂(特に、上記のポリアミド樹脂およびポリエステルエラストマー樹脂から選択される1種以上の熱可塑性樹脂)の重量平均分子量(Mw)は、特段制限されないが、硬さおよび耐疲労特性の観点から、通常5000以上であり、10000以上であることが好ましく、20000以上であることがより好ましく、また、樹脂の含浸性の観点から、通常200000以下であり、100000以下であることが好ましく、50000以下であることがより好ましい。重量平均分子量は、公知の方法で調整することができる。
上記の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で分析することができる。
【0035】
屋外で使用する場合は、樹脂の耐候性や耐水性が要求される。ポリエステル成分は少ない方が加水分解されずに耐久性が保たれる。またポリアミド樹脂では汎用のナイロンでは耐水性が悪く、寒冷地等での使用は制限されるので、長鎖ナイロンが耐久性に優れる。
【0036】
(その他の材料)
マトリックス材料は、上記の樹脂以外の材料を含んでいてもよく、例えば、酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、顔料、着色剤、相溶化剤、界面活性剤又は滑剤等が挙げられる。
【0037】
プリプレグ中の各成分の含有量は、上述の説明で分析方法を明示した成分以外の成分については、一般的な定性分析法および定量分析法で分析することができる。また、プリプレグに用いられる原料の量から計算することもできる。
【0038】
[マトリックス材料の物性]
(溶融粘度)
マトリックス材料の240℃における溶融粘度は、十分な機械的特性を維持しつつ、優れた柔軟性を確保することができる観点から、50Pa・s以上、800Pa・s以下であれば特段制限されないが、硬さ確保の観点から、50Pa・s以上であることが好ましく、また、70Pa・s以上であることがより好ましく、90Pa・s以上であることがさらに好ましく、100Pa・s超であることが特に好ましく、また、含浸性確保の観点から、800Pa・s以下であることがより好ましく、700Pa・s以下であることがさらに好ましく、600Pa・s以下であることが特に好ましく、500Pa・s以下であってもよく、500Pa・s未満であってもよい。この溶融粘度は、樹脂の分子量や構造等の条件を選定することにより調整することができ、例えば、樹脂の分子量を増加させることにより溶融粘度を増加させることができ、樹脂の分子量を減少させることにより溶融粘度を減少させることができる。
上記の溶融粘度は、下記の方法で測定することができる。
(溶融粘度) 溶融粘度の測定は、一般的には溶融粘度のせん断速度依存性を任意の溶融温度にて求める方法がポリマーの性状を知る上で正しいが、高温対応のキャピラリレオメーターが必要となるなど直接測定の障壁が高い。本実施形態では、平板プレス機を用いた熱板圧着による一定量のポリマーの拡がり直径から間接的に求める方法(丸八法)に従い実施することができる。リファレンスのポリマーを用いてあらかじめ測定された溶融粘度と拡がり直径の関係から換算則を求めておき、この換算則を使って任意の温度における溶融粘度を簡易的に求めることができる。以下に詳述する。
(イ)メルトフローインデクサを用いてリファレンスポリマー(結晶性ポリマーであればよい)の融点より高い任意温度での溶融粘度を数点測定する(温度と溶融粘度の関係が得られる)。
(ロ)リファレンスポリマー2.3gを、圧力0.4MPa、(イ)の各温度にて熱板圧着により熱溶融させ、冷却後のポリマーの拡がり直径を4箇所計測する(温度と直径の関係が得られる)。
(ハ)上記(イ)と(ロ)から、直径から溶融粘度への換算則を得る。
(ニ)対象ポリマーの溶融挙動について、(ロ)に従い結晶融解温度より高い任意の温度にて同様の方法で測定する。
(ホ)換算則を用いて、対象ポリマーの溶融温度と溶融粘度の関係を得る。
(ヘ)実用的な成形温度である結晶融解温度+40℃の溶融粘度を(ホ)のグラフから読み取る。
【0039】
(曲げ弾性率)
マトリックス材料の曲げ弾性率は特段制限されないが、弾性体として機能する観点から、50MPa以上であることが好ましく、100MPa以上であることがより好ましく、200MPa以上であることがさらに好ましく、また、柔軟性及の観点から、3500MPa以下であることが好ましく、3000MPa以下であることがより好ましく、2500MPa以下であることがさらに好ましい。この曲げ弾性率の測定方法は、後述する実施例に記載の方法で測定することができる。
【0040】
(曲げ強さ)
マトリックス材料の曲げ強さは特段制限されないが、硬さ確保の観点から、5MPa以
上であることが好ましく、10MPa以上であることがより好ましく、また、柔軟性の観点から、200MPa以下であることが好ましく、100MPa以下であることがより好ましい。この曲げ強さの測定方法は、後述する実施例に記載の方法で測定することができる。
【0041】
(引張強さ)
マトリックス材料の引張強さは特段制限されないが、機械的強度確保観点から、10MPa以上であることが好ましく、20MPa以上であることがより好ましく、また、柔軟性確保の観点から、200MPa以下であることが好ましく、100MPa以下であることがより好ましい。この引張強さの測定方法は、後述する実施例に記載の方法で測定することができる。
【0042】
(熱変形温度)
マトリックス材料の熱変形温度は特段制限されないが、使用時の耐熱性観点から、低荷重0.45MPa条件下で40℃以上であることが好ましく、60℃以上であることがより好ましく、80℃以上であることがさらに好ましく、また、繊維への含浸性を確保する観点から、200℃以下であることが好ましく、170℃以下であることがより好ましく、140℃以下であることがさらに好ましい。この熱変形温度の測定方法は、後述する実施例に記載の方法で測定することができる。
【0043】
(吸水率)
マトリックス材料の吸水率は特段制限されないが、屋外使用時の観点から、3%以下であることが好ましく、2%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。この吸水率の測定方法は、後述する実施例に記載の方法で測定することができる。
【0044】
[プリプレグの物性]
(曲げ弾性率)
プリプレグの曲げ弾性率は特段制限されないが、硬さ及び軽量化の観点から、1GPa以上であることが好ましく、2GPa以上であることがより好ましく、3GPa以上であることがさらに好ましく、また、柔軟性確保の観点から、15GPa以下であることが好ましく、12GPa以下であることがより好ましい。この曲げ弾性率の測定方法は、後述する実施例に記載の方法で測定することができる。
【0045】
プリプレグ中の各成分の量は、分析可能な装置を用いて評価することができるが、プリプレグの製造で使用した原料の量から算出することもできる。
【0046】
<プリプレグの製造方法>
上記のプリプレグを製造する方法は特段制限されず、公知の方法により、又は公知の方法を組み合わせることにより、製造することができる。以下、この製造方法の一例を説明する。
プリプレグは、
(A)樹脂含有組成物を準備する樹脂含有組成物準備工程、
(B)繊維をカップリング剤で表面処理する繊維表面処理工程、
(C)前記樹脂含有組成物に前記表面処理した繊維を含有させて繊維含有組成物を得る繊維含有組成物準備工程、及び
(D)前記繊維含有組成物を冷却硬化する硬化工程、
を含む方法で製造することができる。
上記の(A)~(D)の各工程は、この順番に実施することができるが、(A)と(B)の順番は逆にしてもよい。
【0047】
使用する各原料について、市販品を用いることができ、また、合成できるものは公知の方法により合成したものを用いてもよい。
【0048】
[(A)樹脂含有組成物準備工程]
樹脂含有組成物準備工程では、マトリックス材料に含まれる各原料を準備し、混合して樹脂含有組成物を得る。樹脂含有組成物の原料としては、上述したマトリックス材料に含まれ得る材料を用いることができる。
原料としての樹脂は、(1)熱可塑性樹脂を加熱して軟化した状態のものを用いてもよく、(2)樹脂を溶媒に溶解した状態のものを用いてもよく、また、(3)後の硬化工程で重合することを前提に樹脂を構成する単量体が混合された状態のものを用いてもよいが、硬化後のプリプレグ中の繊維の配置を所望の位置に配置させやすい観点から、(1)又は(2)の状態のものを用いることが好ましい。
原料としての樹脂として、上記の(1)の状態のものを用いる場合、熱可塑性樹脂を軟化させるための加熱温度は特段制限されず、熱可塑性樹脂に応じて適宜設定することができる。
原料としての樹脂として、上記の(2)の状態のものを用いる場合、溶媒の種類は特段制限されず、使用する樹脂を溶解させることができるものであれば特段制限されない。
原料としての樹脂として、上記の(3)の状態のものを用いる場合、溶媒を用いても用いなくともよいが、用いる場合には、使用する単量体を溶解させることができるものであれば特段制限されない。
【0049】
[(B)繊維表面処理工程]
繊維表面処理工程では、繊維をカップリング剤で表面処理する。繊維およびカップリング剤としては、上述した繊維およびカップリング剤を用いることができる。
繊維をカップリング剤で表面処理する方法は特段制限されず、例えば、紡糸工程の際にシランカップリング剤加水分解溶液に浸漬、または塗布してその後乾燥する方法が挙げられる。カップリング剤加水分解液のpHを調整しながら、カップリング剤の濃度を調整して、所定の付着量とする。
【0050】
[(C)繊維含有組成物準備工程]
繊維含有組成物準備工程では、樹脂含有組成物に、表面処理した繊維を含有させて繊維含有組成物を得る。
樹脂含有組成物に、表面処理した繊維を含有させる方法は特段制限されず、公知の方法を適用することができ、例えば、各繊維の長軸方向が略平行となるように配置して繊維を樹脂含有組成物に含有させることが好ましい。
また、上述したように、繊維は開繊していることが好ましく、開繊装置に通糸することにより、最終的に得られるプリプレグ中の繊維の開繊度を向上させることができる。
【0051】
[(D)硬化工程]
硬化工程では、繊維含有組成物をシート形状に硬化する。繊維含有組成物をシート形状に硬化する方法は特段制限されず、公知の方法により行うことができる。
原料としての樹脂として、上記の(1)の状態のものを用いる場合、繊維含有組成物を冷却することにより硬化することができる。冷却する方法は特段制限されず、放置して自然に冷却する方法でもよく、又は、冷媒や冷却する装置を用いて冷却する方法でもよい。
原料としての樹脂として、上記の(2)の状態のものを用いる場合、加熱して溶媒を除去することにより硬化することができる。加熱する条件は、原料や溶媒に応じて適宜設定することができる。
原料としての樹脂として、上記の(3)の状態のものを用いる場合、加熱又は光照射等により単量体を重合し、硬化することができる。加熱又は光照射等の条件は、原料や溶媒
に応じて適宜設定することができる。
【0052】
繊維含有組成物をシート形状に形成する方法は特段制限されず、溶融した状態の組成物であれば、押出成形、射出成形、又はプレス成形等によりシート形状に成形することができ、溶媒を含む状態の組成物であれば、溶媒を除去して得られたシートをそのまま使用するか又は該シートから所望の形状に切り出すことでシート形状に成形することができ、単量体を含む組成物であれば、シート形状の成形型中で重合したシートをそのまま使用するか又は該シートから所望の形状に切り出すことでシート形状に成形することができる。
【0053】
[その他の工程]
プリプレグの製造では、上記の(A)~(D)の各工程以外の工程を有していてもよい。
例えば、プリプレグの製造方法は、プリプレグの使用しない部分をカットして除去するトリミング工程を含むことができる。
【0054】
<プリプレグの用途>
上述したプリプレグの用途は特段制限されず、従来プリプレグが用いられていた用途で用いることができる。例えば、プリプレグは、自動車のタイヤもしくは外板等の自動車用部材;航空機用部材;風車羽;ICトレイ;ノートパソコンの筐体等のコンピューター用部材;スポーツシューズ、ゴルフシャフト、テニスラケットもしくはヨットのセール等のスポーツ用部材;又は屋根材もしくはテント生地等に用いることができるが、上述したプリプレグは機械的特性および柔軟性に優れる観点から、自動車用部材として用いることが好ましく、特に、非空気圧タイヤ(エアレスタイヤ)のスポーク、又はベルト(外側環状ベルト、内側環状ベルト)として用いることが好ましい。従来の自動車に用いられてきたタイヤでは、金属繊維により補強されたゴムを用いたベルトを有するものが一般的であった。一方で、本実施形態に係るプリプレグは、ゴムに代わる特定の熱可塑性樹脂と、繊維の表面処理との組合せから、適度の硬さおよび優れた柔軟性を達成することができるため、より優れたタイヤの提供を可能とする。
【0055】
<積層体>
本発明の別の実施形態に係る積層体(以下、単に「積層体」とも称する。)は、1つ以上の上述したプリプレグを含む、積層体である。また、該積層体は、1つ以上の樹脂含有フィルムをさらに含むことが好ましい。樹脂含有フィルムを含む積層体とすることにより、プリプレグにおける材料配合の設計のみならず、樹脂含有フィルムの材料配合の設計、プリプレグと樹脂含有フィルムの使用数や積層順番に関する設計を行うことが可能となり、プリプレグ単体の場合よりも設計変更の自由度が向上する。
本明細書では、積層体に含まれる上記のプリプレグを「芯材用プリプレグ」とも称する。
【0056】
積層体に含まれる層の数は特段制限されず、プリプレグを含んで2以上であればよいが、機械的強度や耐疲労特性を確保する観点から、3以上であることが好ましく、4以上であることがより好ましく、5以上であることがさらに好ましい。
プリプレグの数は特段制限されず、1以上であり、2以上であることが好ましく、また、繊維含量を低く抑える場合には3以下であることが好ましく、2以下であることがより好ましい。ただし、繊維含量を上げて剛性を上げる場合は多い方がよく、繊維の配向角度を交差させる場合などは最低3つ以上は必要となる。
樹脂含有フィルムを用いる場合、樹脂含有フィルムの数は特段制限されず、1以上であり、2以上であることが好ましく、繊維含量を低く抑える場合には4以上であることがより好ましく、8以上であることがさらに好ましく、また、40以下であることが好ましく、30以下であることがより好ましく、20以下であることがさらに好ましい。
積層体が、2層以上のプリプレグを含む場合、各プリプレグに含まれる繊維の種類は、同じであっても異なっていてもよい。同様に、積層体が、2層以上の樹脂含有フィルムを含む場合、各樹脂含有フィルムに含まれる繊維の種類は、同じであっても異なっていてもよい。
以下の積層体の説明では、1つ以上の上述したプリプレグと、1つ以上の樹脂含有フィルムとを含む積層体の態様について具体的に説明するが、樹脂含有フィルムを含まない態様においても、適用可能な範囲内で以下の態様の説明を適用することができる。
【0057】
積層体の各層の配置は特段制限されず、例えば、積層体10の厚さ方向の断面が図2~4に示す層構造を有する配置が挙げられる。図2は、樹脂含有フィルム12とプリプレグ11を交互に積層する3層構造である。また、図3は、樹脂含有フィルム12とプリプレグ11を交互に積層する5層構造である。また、図4は、樹脂含有フィルム12(3層)と樹脂含有フィルム12(1層)でプリプレグ11(1層)を挟持する5層構造である。
【0058】
積層体の使用態様は特段制限されないが、積層体の一方の表面が凹側、もう一方の表面が凸側となるように、かつ、厚さ方向の断面形状が略弓形状に湾曲するように積層体を屈曲させた状態で使用される態様では、積層体を厚さ方向に2等分する仮想的な中間面を設けた場合において、積層体の凹側の表面から中間面までの領域よりも、積層体の凸側の表面から中間面までの領域に、プリプレグが偏在するような態様で使用することにより、適度な硬さおよび優れた柔軟性の効果が得られやすい。
上記の使用態様が想定される用途としては、自動車用部材が好ましく挙げられ、特に、エアレスタイヤのスポーク、又はベルトが好ましく挙げられる。図5に、非空気圧タイヤ(エアレスタイヤ)20の断面の概略図の一例を示す。図5のエアレスタイヤは、外側環状ベルト21、内側環状ベルト22、およびスポーク23を有する態様であるが、その他の部材は省略されている。
また、積層体の凹側の表面から中間面までの領域にプリプレグが含まれる場合には、屈曲試験における亀裂伝播抵抗に優れる観点から、該プリプレグに含まれる繊維は、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、ビニロン繊維、又はポリエーテル繊維等の有機繊維であることが好ましく、また、積層体の凸側の表面から中間面までの領域にプリプレグが含まれる場合には、曲げ弾性率を保つ観点から、該プリプレグに含まれる繊維は、ガラス繊維等の無機繊維であることが好ましく、ガラス繊維であることがより好ましい。
【0059】
上記の略弓形状に湾曲するように積層体を屈曲させた状態で使用する場合、積層体の各層の配置は特段制限されず、例えば、積層体の厚さ方向の断面が図6~9に示す層構造を有する配置とすることが挙げられる。図6は、樹脂含有フィルム12(3層)と樹脂含有フィルム12(1層)でプリプレグ11(1層)を挟持し、樹脂含有フィルム12(1層)の側が積層体の凸側の表面となる5層構造である。また、図7は、樹脂含有フィルム12(3層)と樹脂含有フィルム12(1層)でプリプレグ11(2層)を挟持し、樹脂含有フィルム12(1層)の側が積層体の凸側の表面となる6層構造である。また、図8は、樹脂含有フィルム12(3層)、プリプレグ11(1層)、樹脂含有フィルム12(1層)、プリプレグ11(1層)、樹脂含有フィルム12(1層)の順番に積層され、樹脂含有フィルム12(1層)の側が積層体の凸側の表面となる7層構造である。また、図9は、樹脂含有フィルム12(1層)、第1のプリプレグ13(1層)、樹脂含有フィルム12(1層)、第2のプリプレグ14(1層)、樹脂含有フィルム12(1層)の順番に積層され、第2のプリプレグ14に近い側が積層体の凸側の表面となる5層構造である。図9における第1のプリプレグおよび第2のプリプレグは、いずれも上述したプリプレグに属するものである。亀裂伝播防止観点から、凹側に配置される第1のプリプレグ13に含まれる繊維をナイロン繊維、ポリエステル繊維、ビニロン繊維、又はポリエーテル繊維等の有機繊維とし、第2のプリプレグ14に含まれる繊維をガラス繊維等の無機繊維とすることが好ましい。なお、図9以外の図で2層以上のプリプレグを有する態様においても、それぞれのプリプレグに含まれる繊維の種類を異なるものとしてもよい。
図6~9における点線Aは、上記の「積層体を厚さ方向に2等分する仮想的な中間面」を表す。
【0060】
積層体は、上記の要件が満たされていれば特段制限されないが、以下に説明する第1の態様に係る積層体(第1の積層体)および第2の態様に係る積層体(第2の積層体)とすることが好ましい。積層体は、繊維体積含有率が25%以上のプリプレグを製造した後、樹脂含有フィルムを積層させることにより製造することができるが、その際、プリプレグおよび樹脂含有フィルムの体積や使用する数を調整することにより、得られる積層体における繊維の体積含有率を調整することができ、第1の積層体は2%以上、25%以下とすることを特徴の一つとし、第2の積層体は30%以上とすることを特徴の一つとする。
【0061】
[第1の積層体]
積層体の第1の態様は、
樹脂含有フィルムのうち少なくとも1つの樹脂含有フィルムの240℃における溶融粘度が、前記マトリックス材料の240℃における溶融粘度以上であり、
前記積層体中の前記繊維の体積含有率が2%以上、25%以下であり、
厚さが0.5mm以上、5.0mm以下である、
積層体(第1の積層体)である。
【0062】
上記の第1の積層体の構成によれば、繊維の体積含有率が25%以下に抑えられつつ、樹脂含有フィルムの溶融粘度がマトリックス材料の溶融粘度よりも低いため、適度な硬さを維持しつつ、薄くて軽量な積層体を提供することができる。第1の積層体の用途は限定されないが、適度な硬さを維持しつつ、薄くて軽量な積層体とすることができる観点から、エアレスタイヤのスポークとして好適に用いることができる。
以下、第1の積層体の条件を説明するが、エアレスタイヤのスポークとして特に好ましく用いられる条件を説明する。
【0063】
第1の積層体の厚さは特段制限されないが、硬さ確保観点から、通常0.5mm以上であり、1.0mm以上であることが好ましく、また、軽量化の観点から、通常5.0mm以下であり、4.0mm以下であることが好ましく、3.0mm以下であることがより好ましい。
【0064】
第1の積層体に含まれる層の数は特段制限されず、プリプレグおよび樹脂含有フィルムを含んで2以上であればよいが、耐疲労特性の観点から、3以上であることが好ましく、4以上であることがより好ましく、また、40以下であることが好ましく、30以下であることがより好ましく、20以下であることがさらに好ましい。
第1の積層体に含まれるプリプレグの数は特段制限されず、1以上であり、また、繊維含量を低く抑える必要があり、5以下であることが好ましく、4以下であることがより好ましく、3以下であることがさらに好ましい。
第1の積層体に含まれる樹脂含有フィルムの数は特段制限されず、繊維含量を低く抑えるために2以上であり、3以上であることが好ましく、4以上であることがより好ましく、また、40以下であることが好ましく、30以下であることがより好ましく、20以下であることがさらに好ましい。
【0065】
樹脂含有フィルムの厚さは特段制限されないが、生産性の観点から、通常0.03mm以上であり、0.1mm以上であることが好ましく、0.2mm以上であることがより好ましく、また、軽量化の観点から、通常2.0mm以下であり、1.0mm以下であることが好ましく、0.5mm以下であることがより好ましい。
【0066】
樹脂含有フィルムに含まれる樹脂の種類は特段制限されず、例えば、上述したプリプレグのマトリックス材料に含まれる樹脂と同様の種類から選定することができ、同様の条件を適用することができる。樹脂含有フィルムに含まれる樹脂は、接着性を向上させることができる観点から、マトリックス材料に含まれる樹脂と同様の種類であることが好ましいが、曲げ弾性率を向上する観点から、分子量等を調整して、マトリックス材料の240℃における溶融粘度以上の溶融粘度を有するように調整することが好ましい。樹脂の種類は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の種類および量で併用することができる。
本明細書において、1つの層であるか、又は2つの層が隣接しているか、を確認する方法は限定されず、層に含まれる樹脂の種類の相違や、樹脂の物性の相違で確認することができ、明らかに層と層の境界が確認できる場合には2つの層が隣接していると判断することができる。
【0067】
樹脂含有フィルム中の樹脂の含有量は特段制限されず、耐熱性や強度を確保する観点から、通常70重量%以上であり、80重量%以上であることが好ましく、90重量%以上であることがより好ましく、また、100重量%以下であり、100重量%であってもよい。
【0068】
樹脂含有フィルムは樹脂以外の成分を含んでいてよく、該成分としては、例えば、酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、顔料、着色剤、相溶化剤、界面活性剤又は滑剤等が挙げられる。
【0069】
硬さ確保の観点から、樹脂含有フィルムのうち少なくとも1つ以上の樹脂含有フィルムの240℃における溶融粘度は、プリプレグ中のマトリックス材料の240℃における溶融粘度以上であり、さらに、硬さ確保の観点から、50Pa・s以上であることが好ましく、100Pa・s以上であることがより好ましく、また、含浸性の観点から、800Pa・s以下であることが好ましく、600Pa・s以下であることがより好ましい。この溶融粘度は、樹脂の分子量や構造等の条件を選定することにより調整することができ、例えば、樹脂の分子量を増加させることにより溶融粘度を増加させることができ、樹脂の分子量を減少させることにより溶融粘度を減少させることができる。
上記の溶融粘度は、上記のマトリックス材料で説明した測定方法により測定することができる。
【0070】
樹脂含有フィルムに含まれる樹脂の重量平均分子量(Mw)は、特段制限されないが、硬さの観点から、通常3000以上であり、5000以上であることが好ましく、また、成形性や接着性の観点から、通常1000000以下であり、500000以下であることが好ましい。重量平均分子量は、公知の方法で調整することができる。
上記の重量平均分子量は、上記のマトリックス材料に含まれる樹脂の重量平均分子量の分析方法と同様の方法で分析することができる。
【0071】
第1の積層体中の繊維の含有率は、適度の曲げ弾性率を確保する観点から、繊維体積含有率で2%以上、25%以下であれば特段制限されないが、硬さを確保する観点から、2%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましく、また、柔軟性を確保する観点から、25%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましい。
【0072】
第1の積層体は、本発明の効果が得られる範囲で、プリプレグおよび樹脂含有フィルム以外のフィルムを含んでいてもよいが、含んでいなくともよい。
【0073】
第1の積層体の曲げ弾性率は特段制限されないが、剛性を確保する観点から、通常1GPa以上であり、1.6GPa以上であることが好ましく、2.0GPa以上であること
がより好ましく、また、通常10GPa以下であり、8GPa以下であることが好ましく、7GPa以下であることがより好ましく、6GPa以下であることがさらに好ましい。第1の積層体の曲げ弾性率は、プリプレグの枚数を増加したり、その積層位置を変えることにより増加させることができ、また樹脂含有フィルムの枚数を増加することにより減少させることができる。
上記の曲げ弾性率の測定方法は、後述する実施例に記載の方法で測定することができる。
【0074】
第2の積層体は、エアレスタイヤのスポークとして好適に用いることができる観点から、積層体の一方の表面が凹側、もう一方の表面が凸側となるように、かつ、厚さ方向の断面形状が略弓形状に湾曲するように構成されることが好ましい。
略弓形状に湾曲する形状の曲率半径は特段制限されず、用途に応じて適宜設定することができ、例えば、0.01m以上、10m以下としてもよく、0.05m以上、5m以下としてもよく、0.1m以上、1.0m以下としてもよい。
【0075】
[第1の積層体の用途]
第1の積層体の用途は特段制限されず、上記のプリプレグの用途と同様の用途で用いることができるが、薄肉軽量化の観点から、自動車用部材として用いることが好ましく、特に、エアレスタイヤ用のスポークとして用いることが好ましい。第1の積層体をスポークとして用いる場合、スポークの位置は、エアレスタイヤの進行方向、すなわちタイヤの周方向に対して垂直でも平行でもよく、デザイン性、タイヤの振動や騒音、および成形性等を考慮して設計することができる。
【0076】
[第2の積層体]
積層体の第2の態様は、
前記積層体中の前記繊維の体積含有率が30%以上であり、
前記積層体を厚さ方向に2等分する仮想的な中間面を設けた場合において、前記積層体のいずれか一方の表面から前記中間面までの第1の領域における前記プリプレグの体積と、前記積層体のもう一方の表面から前記中間面までの第2の領域における前記プリプレグの体積とが異なる、
積層体(第2の積層体)である。
【0077】
上記の第2の積層体の構成によれば、繊維の含有率が30体積%以上であるために剛性と靭性に優れる。また、第2の積層体は、積層体を厚さ方向に2等分する仮想的な中間面を設けた場合において、積層体のいずれか一方の表面から中間面までの第1の領域における前記プリプレグの体積と、積層体の凸側の表面から中間面までの第2の領域における前記プリプレグの体積とが異なっている。この構成とすることにより、積層体を屈曲させた状態で使用した場合において、積層体の凹側の表面から中間面までの領域よりも、積層体の凸側の表面から中間面までの領域に、プリプレグが偏在するような態様で使用することができ、上述した様に、適度な硬さおよび優れた柔軟性の効果が得られやすい。
以下、第2の積層体の条件を説明するが、エアレスタイヤのベルトとして特に好ましく用いられる条件を説明する。
【0078】
第2の積層体の厚さは特段制限されないが、剛性及び硬さ確保の観点から、通常0.5mm以上であり、1mm以上であることが好ましく、2mm以上であることがより好ましく、また、軽量化の観点から、通常15mm以下であり、10mm以下であることが好ましく、6mm以下であることがより好ましい。
【0079】
第2の積層体に含まれる層の数は特段制限されず、プリプレグおよび樹脂含有フィルムを含む2以上であればよいが、耐疲労特性を上げる観点から、3以上であることが好まし
く、4以上であることがより好ましく、また、40以下であることが好ましく、30以下であることがより好ましく、20以下であることがさらに好ましい。
第2の積層体に含まれるプリプレグの数は特段制限されず、1以上であり、2以上であることが好ましく、繊維の配向性を交差させるためには2以上であることがより好ましく、3以上であることがさらに好ましく、また、軽量化のためには32以下であることが好ましく、28以下であることがより好ましく、24以下であることがさらに好ましい。
第2の積層体に含まれる樹脂含有フィルムの数は特段制限されず、1以上であり、2以上であることが好ましく、また、16以下であることが好ましく、8以下であることがより好ましい。
【0080】
樹脂含有フィルムの厚さは特段制限されないが、生産性の観点から、通常0.05mm以上であり、0.1mm以上であることが好ましく、また、繊維含量を上げる観点から、通常1.0mm以下であり、0.5mm以下であることが好ましい。
【0081】
樹脂含有フィルムに含まれる樹脂の種類は特段制限されず、例えば、上述したプリプレグのマトリックス材料に含まれる樹脂と同様の種類から選定することができ、同様の条件を適用することができる。樹脂含有フィルムに含まれる樹脂は、接着性を向上させることができる観点から、マトリックス材料に含まれる樹脂と同様の種類であることが好ましいが、耐熱性や硬さ向上の観点から、分子量等を調整して、マトリックス材料の240℃における溶融粘度以上の溶融粘度を有するように調整することが好ましい。樹脂の種類は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の種類および量で併用することができる。
本明細書において、1つの層であるか、又は2つの層が隣接しているか、を確認する方法は限定されず、層に含まれる樹脂の種類の相違や、樹脂の物性の相違で確認することができ、明らかに層と層の境界が確認できる場合には2つの層が隣接していると判断することができる。
【0082】
樹脂含有フィルム中の樹脂の含有量は特段制限されず、耐熱性や強度を確保する観点から、通常70重量%以上であり、80重量%以上であることが好ましく、90重量%以上であることがより好ましく、また、100重量%以下であり、100重量%であってもよい。
【0083】
樹脂含有フィルムは樹脂以外の成分を含んでいてよく、該成分としては、例えば、酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、顔料、着色剤、相溶化剤、界面活性剤又は滑剤等が挙げられる。
【0084】
硬さ確保観点から、樹脂含有フィルムのうち少なくとも1つ以上の樹脂含有フィルムの240℃における溶融粘度は、プリプレグ中のマトリックス材料の240℃における溶融粘度以上であることが好ましく、さらに、硬さ確保の観点から、50Pa・s以上であることが好ましく、100Pa・s以上であることがより好ましく、また、含浸性観点から、800Pa・s以下であることが好ましく、600Pa・s以下であることがより好ましい。この溶融粘度は、樹脂の分子量や構造等の条件を選定することにより調整することができ、例えば、樹脂の分子量を増加させることにより溶融粘度を増加させることができ、樹脂の分子量を減少させることにより溶融粘度を減少させることができる。
上記の溶融粘度は、上記のマトリックス材料で説明した測定方法により測定することができる。
【0085】
樹脂含有フィルムに含まれる樹脂の重量平均分子量(Mw)は、特段制限されないが、硬さの観点から、通常3000以上であり、5000以上であることが好ましく、10000以上であることがより好ましく、また、成形性や接着性の観点から、通常1000000以下であり、500000以下であることが好ましい。重量平均分子量は、公知の方
法で調整することができる。
上記の重量平均分子量は、上記のマトリックス材料に含まれる樹脂の重量平均分子量の分析方法と同様の方法で分析することができる。
【0086】
第2の積層体中の繊維の含有率は、剛性及び硬さ確保の観点から、繊維体積含有率で30%以上であれば特段制限されないが、剛性を重視する場合は、35%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、また、耐疲労特性を確保する場合は、繊維体積含有率60%以下であることが好ましく、55%以下であることがより好ましく、50%以下であることがさらに好ましい。
【0087】
第2の積層体では、繊維とマトリックス樹脂との接着の観点から、プリプレグに含まれる繊維としてガラス繊維を用いることが特に好ましい。
第2の積層体がプリプレグを複数含む場合、面内剛性を確保する観点から、複数のプリプレグのうち少なくとも2つのプリプレグにおいて、含まれる繊維の配向方向が互いに異なることが好ましい。
【0088】
第2の積層体は、硬さを確保す観点から、積層体を厚さ方向に2等分する仮想的な中間面を設けた場合において、積層体の凹側の表面から前記中間面までの領域(領域A)よりも、積層体の凸側の表面から前記中間面までの領域(領域B)に、プリプレグが偏在することが好ましい。これは、領域Aに含まれるプリプレグの量よりも、領域Bに含まれるプリプレグの量の方が多い、ということを意味する。なお、領域Bには、プリプレグが含まれていてもいなくともよい。
【0089】
第2の積層体は、本発明の効果が得られる範囲で、プリプレグおよび樹脂含有フィルム以外のフィルムを含んでいてもよいが、含んでいなくともよい。
【0090】
[第2の積層体の用途]
第2の積層体の用途は特段制限されず、上記のプリプレグの用途と同様の用途で用いることができるが、自動車用部材として用いることが好ましく、特に、エアレスタイヤ用のベルトの部材として用いることが好ましい。
【0091】
<積層体の製造方法>
積層体の製造方法は特段制限されず、公知の方法により、又は公知の方法を組み合わせることにより、製造することができる。以下、この製造方法の一例を説明する。
プリプレグは、
(A2)プリプレグを準備するプリプレグ準備工程、
(B2)樹脂含有フィルムを準備する樹脂含有フィルム準備工程、及び
(C2)前記プリプレグおよび前記樹脂含有フィルムを積層する積層工程、
を含む方法で製造することができる。
上記の(A2)~(C2)の各工程は、この順番に実施することができるが、(A2)と(B2)の順番は逆にしてもよい。
本項で説明する積層体の製造方法は、第1の積層体又は第2の積層体のいずれにおいても採用することができる。
また、樹脂含有フィルムを用いない積層体については、複数のプリプレグを準備する工程、およびこれらのプリプレグを積層する工程を含む方法で製造することができる。
【0092】
[(A2)プリプレグ準備工程]
プリプレグ準備工程では、上述したプリプレグを準備する。該プリプレグを準備する方法は、上述したプリプレグの製造方法で説明した方法で準備することができる。
【0093】
[(B2)樹脂含有フィルム準備工程]
樹脂含有フィルム準備工程は、樹脂含有フィルムを準備する工程であるが、樹脂含有フィルムを製造する方法は特段制限されず、例えば、樹脂含有フィルムに含まれ得る原料を混合した組成物を作製し、フィルム形状に成形する方法で製造することができる。樹脂含有フィルムの原料としては、上述した樹脂含有フィルムに含まれ得る材料を用いることができる。
原料としての樹脂は、(1’)熱可塑性樹脂を加熱して軟化した状態のものを用いてもよく、(2’)樹脂を溶媒に溶解した状態のものを用いてもよく、また、(3’)後の硬化工程で重合することを前提に樹脂を構成する単量体が混合された状態のものを用いてもよいが、硬化後のプリプレグ中の繊維の配置を所望の位置に配置させやすい観点から、(1’)又は(2’)の状態のものを用いることが好ましい。
原料としての樹脂として、上記の(1’)の状態のものを用いる場合、熱可塑性樹脂を軟化させるための加熱温度は特段制限されず、熱可塑性樹脂に応じて適宜設定することができる。
原料としての樹脂として、上記の(2’)の状態のものを用いる場合、溶媒の種類は特段制限されず、使用する樹脂を溶解させることができるものであれば特段制限されない。
原料としての樹脂として、上記の(3’)の状態のものを用いる場合、溶媒を用いても用いなくともよいが、用いる場合には、使用する単量体を溶解させることができるものであれば特段制限されない。
【0094】
組成物をシート形状に形成する方法は特段制限されず、溶融した状態の組成物であれば、押出成形、射出成形、又はプレス成形等によりシート形状に成形することができ、溶媒を含む状態の組成物であれば、溶媒を除去して得られたシートをそのまま使用するか又は該シートから所望の形状に切り出すことでシート形状に成形することができ、単量体を含む組成物であれば、シート形状の成形型中で重合したシートをそのまま使用するか又は該シートから所望の形状に切り出すことでシート形状に成形することができる。
【0095】
[(C2)積層工程]
積層工程では、上記のプリプレグおよび上記の樹脂含有フィルムを積層するが、積層する方法は特段制限されず、公知の方法により、又は公知の方法を組み合わせることにより、製造することができる。
例えば、プリプレグおよび樹脂含有フィルムのいずれかに加熱溶融する成分が含まれる場合、又は、プリプレグおよび樹脂含有フィルムのいずれかに、隣接する層と反応して結合する成分が含まれる場合、各層を重ねた状態で加熱し、隣接する層同士を接着して積層することができる。加熱の条件は、使用する原料に応じて適宜設定することができ、例えば、加熱温度は、200℃以上、400℃以下とすることができ、また、250℃以上、350℃以下とすることもでき、加熱時間は、1分以上、30分以下とすることができ、また、5分以上、15分以下とすることもできる。
また、隣接する層の対抗する面のいずれか一方の面に接着成分を被覆した後、各層を重ねて接着して積層することができる。
【0096】
<エアレスタイヤ>
本発明の別の実施形態である非空気圧タイヤは、
外側環状ベルト、内側環状ベルト、および前記外側環状ベルトと前記内側環状ベルトとを連結するスポークを備える、非空気圧タイヤであって、
少なくとも、
前記外側環状ベルトおよび前記内側環状ベルトから選択される1以上のベルトが、上述した第2の積層体を有する非空気圧タイヤ用ベルトであるか、又は
前記スポークが、上述した第1の積層体を有する非空気圧タイヤ用スポークである、
非空気圧タイヤである。
上記の非空気圧タイヤは、前記外側環状ベルトおよび前記内側環状ベルトから選択される1以上のベルトが、上述した第2の積層体を有する非空気圧タイヤ用ベルトであり、かつ、前記スポークが、上述した第1の積層体を有する非空気圧タイヤ用スポークであることが好ましい。
【0097】
本実施形態に係る非空気圧タイヤ(エアレスタイヤ)は、外側環状ベルトおよび内側環状ベルトから選択される1以上のベルトが、第2の積層体を有するエアレスタイヤ用ベルトであることにより、スチールベルトよりも軽量でかつ荷重を支えることが可能であり、また、スポークが、第1の積層体を有するエアレスタイヤ用スポークであることにより、軽量でかつ荷重を変形で吸収して環状ベルトに伝えスムーズな回転につなげる。
このエアレスタイヤの構造は、公知のエアレスタイヤと同様の構造を採用することができ、スポークおよびベルト以外の部材は、公知のものを採用することができる。
また、エアレスタイヤの製造方法は特段制限されず、公知の方法により、又は公知方法を組合わせて製造することができる。
【0098】
外側環状ベルトおよび内側環状ベルトから選択される1以上のベルトは、第2の積層体を有するエアレスタイヤ用ベルトであるが、第2の積層体を有するエアレスタイヤ用ベルトでないベルトを用いる場合、該ベルト態様は特段制限されず、公知のエアレスタイヤ用ベルトを用いることができる。外側環状ベルトおよび内側環状ベルトがともに第2の積層体を有するエアレスタイヤ用ベルトであることが好ましい。
【実施例0099】
以下、本開示について実施例を用いて更に詳細に説明するが、本開示は、その要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。
【0100】
<樹脂の物性の比較>
[樹脂材料]
下記の樹脂材料の物性の比較を行った。
(熱可塑性樹脂)
・6-ナイロン(PA6):UBEナイロン1011FB(宇部興産株式会社製)
・6,10-ナイロン(PA610):Hiprolon70NN(アルケマ株式会社製)
・6,12-ナイロン(PA612):ダイアミドZX2900(ポリプラ・エボニック株式会社製)
・12-ナイロン(PA12-1):ダイアミドL1640(ポリプラ・エボニック株式会社製)
・12-ナイロン(PA12-2):ダイアミドL1940(ポリプラ・エボニック株式会社製)
・アクリロニトリル・EPDM・スチレン共重合体(AES):ダイヤラックSK50(テクノUMG株式会社製)
・芳香族ポリエステル(芳香族ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール)と芳香族ポリエーテル(ポリ(1,4-ブチレンテレフタレート)とのブロック共重合体(TPC-1):ハイトレル4047N(東レ・デュポン株式会社製)、ポリエステルエラストマー・芳香族ポリエステル(芳香族ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール)と芳香族ポリエーテル(ポリ(1,4-ブチレンテレフタレート)とのブロック共重合体(TPC-2):ハイトレル5557(東レ・デュポン株式会社製)、ポリエステルエラストマー
・芳香族ポリエステル(芳香族ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール)と芳香族ポリエーテル(ポリ(1,4-ブチレンテレフタレート)とのブロック共重合体(TPC-3):ハイトレル7247(東レ・デュポン株式会社製)、ポリエステルエラストマー
・芳香族ポリエステルと芳香族ポリエーテルとのブロック共重合体(TPC-4):ハイ
トレル5577(東レ・デュポン株式会社製)、ポリエステルエラストマー
・12-ナイロン(TPA):UBESTA XPA9055(UBE株式会社製)
・ポリカーボネート(PC):パンライトL-1225Y(帝人株式会社製)
・ポリブタジエンテレフタレート(PBT):ジェラネックス2002(ポリプラスチックス株式会社製)
(熱硬化性樹脂)
・不飽和ポリエステル(UP):CBZ500LM-AS(日本ユピカ株式会社製)
【0101】
[樹脂の物性]
上記の各樹脂材料の物性を表1に示す。各物性について、含浸性および折り曲げ性以外の物性はカタログ値である。表1における「-」の表記の内、カタログ値を参照したものは、カタログに記載されていなかったことを表す。
(曲げ弾性率)
上記の材料の曲げ弾性率は、ASTM D790に従い評価された。
【0102】
(曲げ強さ)
上記の材料の曲げ強さは、ASTM D790に従い評価された。
【0103】
(引張強さ)
上記の材料の引張強さは、ASTM D638、ISO527、又はまたはJISK7113に従い評価された。
【0104】
(熱変形温度)
上記の材料の熱変形温度は、ASTM D648、ISO75、又はJISK7207
(0.455M、荷重1.82M)に従い評価された。
【0105】
(吸水率)
上記の材料の吸水率は、ASTM D570、又はISO62 (23℃、50%)に従い評価された。
【0106】
(溶融粘度)
上記の材料の溶融粘度は、上述したマトリックス材料の溶融粘度の測定方法に従い評価された。
【0107】
(含浸性)
各材料のシートの外観および断面観察から、以下の基準に従い各シートの含浸性を評価した。なお、表1における「-」は、未評価であることを表す。また、シートの厚さは表1に示す。
A:透明性が良く、ガラス繊維の浮き出しがない。断面にエアーだまりがほとんどない。
B:透明性は少ないが、表面がなめらかである。断面にエアーだまりが一部ある。
C:透明性に劣り、ガラス繊維の浮き出しが見られる。断面にエアーだまりが残る。
【0108】
(折り曲げ性)
上記の材料の折り曲げ性は、各材料のシートを±90°に3~5回か繰り返し屈曲させて、材料表面のクラックや破損(繊維-樹脂界面のはく離の進行等)の発生状況を観察し、以下の基準に従い評価した。なお、表1における「-」は、未評価であることを表す。また、シートの厚さは表1に示す。
A:何回か折り曲げても、クラックや破損がない。
B:クラックや破損が一部見られる。
C:破損が発生する。
【0109】
表1中の厚さにおける「-」は、未評価であることを表す。
【0110】
【表1】
【0111】
吸水率が低い観点からは、PA6、PA610以外のものが優れており、屋外用途に好ましく用いることができることが分かった。また、TPC-4、PC、およびPBTは流動性が比較的低いため、含浸用樹脂ではなく、補強用樹脂フィルムとして用いることが好ましいことが分かった。また、熱硬化性樹脂であるUPは、曲げ弾性率が3GPa以上であり、弾性体としては硬すぎることが分かった。
本発明者らは、上記の樹脂のうち、PA6、PA12-2、TPC-2、TPA、およびUPを用いて下記の実験を行った。
【0112】
<実験2:積層体の物性評価>
本実験で用いた樹脂は、上記の実験1で用いた樹脂と同様の樹脂を用いた。
[積層体の作製]
(熱可塑性樹脂)
樹脂材料としてUP以外の材料を用いた場合、表2および3に記載の樹脂を溶融粘度が一定となるように200~300℃に加熱して軟化させた後に、ガラス繊維(Eガラスロービング、断面形状:楕円形状、断面の直径:10~20μm)を含有させ、シート形状で冷却してプリプレグ(縦30cm、横20cm、厚さ:0.25mm、プリプレグ中の繊維体積含有率:40%)を得た。ガラス繊維の配向方向とプリプレグの縦方向とを一致させ、かつ、ガラス繊維がプリプレグの縦方向の一方の端部から他方の端部まで存在するようにプリプレグ中にガラス繊維を配置させため、ガラス繊維の長さはプリプレグの縦の長さと同じである。
また、プリプレグ中の繊維体積含有率を50%としたこと以外は上記のプリプレグの製造方法と同様の方法で、プリプレグを作製した。
本実験におけるプリプレグは、樹脂と繊維のみから構成されるため、樹脂そのものがマトリックス材料である。
【0113】
さらに、プリプレグで用いた樹脂と同様の樹脂を用いて、ガラス繊維を含有させないこと以外は上記のプリプレグの製造方法と同様の方法で、樹脂含有フィルム(縦と横のサイズは上記のプリプレグと同様、厚さ:0.10mm)を製造した。この樹脂含有フィルムは、複数枚作製した。
【0114】
さらに、積層体全体に対するガラス繊維の含有率が、表2および3に示すガラス繊維含有率となるように、プリプレグおよび樹脂含有フィルムを複数枚で積層させた後、型締め機を用いて、温度160~240℃、圧力3~5MPa、時間3~5分の条件で接着させて厚さ2mmの積層体を得た。ガラス繊維体積含有率が5、10、30%の積層体は、上記のガラス繊維体積含有率40%のプリプレグと複数の樹脂フィルムを用い、ガラス繊維体積含有率が50%の積層体は、上記のガラス繊維体積含有率50%のプリプレグを用いた。
なお、型締め機での接着では、圧力をかけて各層を接着させているため、接着前の積層体の合計厚さを2mmよりも厚くし、最終的な積層体の厚さが2mmとなるようにした。
また、積層体中のプリプレグの位置については、一部にプリプレグが偏在せず、均等に存在するようにした(プリプレグが積層体中に均等に存在する状態とは、例えば、図3に示すような状態である)。
また、表3におけるガラス繊維体積含有率が50%の積層体は、樹脂含有フィルムを用いず、それぞれ、ガラス繊維体積含有率が50%のプリプレグのみを積層させて作製した。
【0115】
(熱硬化性樹脂)
樹脂材料としてUPを用いた場合、90g/mの一方向ガラステープ(ガラス繊維が一方向にテープ形状となったもの)に、常温タイプの硬化剤を混ぜた液状のUP樹脂CBZ500LM-ASをローラで含浸させたものを複数枚準備し、最終的な積層体のガラス
繊維含有率が、表2および3に示すガラス繊維含有率となるように、複数枚を同じ方向に積層した。これをガラス板に挟んで常温で16時間保持して硬化させた後、さらに、60℃、80℃、120℃で各2時間硬化させ、厚さ2mm積層板(縦30cm、横20cm)を得た。
【0116】
樹脂およびガラス繊維の重量基準の含有率は、それぞれの材料の体積および比重から評価することができる。
【0117】
(曲げ弾性率)
島津製作所製の万能力学試験機(AUTOGRAPH、AGX-300kNV)を用いて、ASTM D790に従い、各積層体の曲げ弾性率を測定した。測定結果を表2および3に示す。
【0118】
スポーク評価は、エアレスタイヤのスポークとして用いた場合の評価を意味し、以下の基準に従い評価した結果を記載した。
A:1GPa以上、9GPa未満
B:9GPa以上、11GPa未満
C:1GPa未満、11GPa以上
【0119】
表3におけるベルト評価は、エアレスタイヤのベルト部材として用いた場合の評価を意味し、以下の基準に従い評価した結果を記載した。
A:10GPa以上、30GPa未満
B:1GPa以上、10GPa未満:30GPa以上、40GPa未満
C:1GPa未満、40GPa以上
【0120】
【表2】
【0121】
【表3】
【0122】
表2および3から、熱可塑性樹脂であるPA6、PA12、TPC、TPAをマトリックス材料として用いた場合、ガラス繊維体積含有率が2%以上、25%以下で所望の曲げ弾性率が得られ、スポーク評価が高いことが分かった。一方で、熱硬化性樹脂であるUPをマトリックス材料として用いた場合、ガラス繊維体積含有率が10%でも、曲げ弾性率が14GPaと高い、つまり柔軟性が乏しく、スポーク評価が低いことが分かった。なお、PA6は、吸水率が高く、他の熱可塑性樹脂と比較してスポーク評価が劣ることが分かった。
表2および3から、熱可塑性樹脂であるPA6、PA12、TPC、TPAをマトリックス材料として用いた場合、ガラス繊維体積含有率が30%以上で所望の曲げ弾性率が得られ、ベルト評価が高いことが分かった。一方で、熱硬化性樹脂であるUPをマトリックス材料として用いた場合、ガラス繊維体積含有率が30%以上では、曲げ弾性率が高い、つまり柔軟性が乏しく、ベルト評価が低いことが分かった。なお、PA6は、吸水率が高く、他の熱可塑性樹脂と比較してスポーク評価が劣ることが分かった。
また、UPは熱硬化性樹脂であるため、積層体を他の部材とともに用いる場合、例えば、積層体をベルトとして用いる場合には、スポークやトレッドとの間で接着処理を行う必要がある等の利便性の観点から熱可塑性樹脂よりも劣る。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明によれば、十分な機械的特性を維持しつつ、柔軟性に優れ、幅広い用途で使用できるプリプレグを提供することができる。さらに、このプリプレグおよび樹脂含有フィルムを含む積層体は、プリプレグおよび樹脂含有フィルムの構造や材料の条件を調整することにより様々な特性を実現することができ、エアレスタイヤのスポーク、ベルト、に特に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0124】
10 積層体
11 プリプレグ
12 樹脂含有フィルム
13 第1のプリプレグ
14 第2のプリプレグ
20 非空気圧タイヤ
21 外側環状ベルト
22 内側環状ベルト
23 スポーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9