(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027910
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】グリース組成物、及び、グリース組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C10M 171/00 20060101AFI20240222BHJP
C10M 169/02 20060101ALI20240222BHJP
C10M 115/08 20060101ALN20240222BHJP
C10M 117/00 20060101ALN20240222BHJP
C10N 50/10 20060101ALN20240222BHJP
C10N 20/00 20060101ALN20240222BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20240222BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20240222BHJP
C10N 40/04 20060101ALN20240222BHJP
【FI】
C10M171/00
C10M169/02
C10M115/08
C10M117/00
C10N50:10
C10N20:00 Z
C10N30:00 Z
C10N40:02
C10N40:04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022131092
(22)【出願日】2022-08-19
(71)【出願人】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100188949
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 成典
(74)【代理人】
【識別番号】100214215
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼梨 航
(72)【発明者】
【氏名】酒井 一泉
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA04A
4H104BA07A
4H104BB14B
4H104BB32A
4H104BB34A
4H104BB41A
4H104BE13B
4H104CB14A
4H104DA02A
4H104EA01Z
4H104PA01
4H104PA02
4H104QA18
(57)【要約】
【課題】低トルクのグリース組成物、及び、当該グリース組成物の製造方法の提供。
【解決手段】基油(A)と、増ちょう剤(B)とを含有するグリース組成物であって、6204玉軸受に前記グリース組成物を2g封入し、25℃の大気圧下で2000rpmの速度で所定の時間前記玉軸受を回転させた後、中性子によって観察される前記玉軸受内の軸受球への前記グリース組成物の付着量を計測した際に、回転開始前の前記グリース組成物の前記軸受球への付着量に対する回転開始1分後の前記グリース組成物の前記軸受球への付着量の比率が、70%以上140%以下である、グリース組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油(A)と、増ちょう剤(B)とを含有するグリース組成物であって、
6204玉軸受に前記グリース組成物を2g封入し、25℃の大気圧下で2000rpmの速度で所定の時間前記玉軸受を回転させた後、中性子によって観察される前記玉軸受内の軸受球への前記グリース組成物の付着量を計測した際に、回転開始前の前記グリース組成物の前記軸受球への付着量に対する回転開始1分後の前記グリース組成物の前記軸受球への付着量の比率が、70%以上140%以下である、グリース組成物。
【請求項2】
回転開始1分後の前記グリース組成物の前記軸受球への付着量に対する回転開始60分後の前記グリース組成物の前記軸受球への付着量の比率が、165%以下である、請求項1に記載のグリース組成物。
【請求項3】
回転開始60分後の前記グリース組成物の前記軸受球への付着量が、2.00×1010μm3以上6.20×1010μm3以下である、請求項1又は2に記載のグリース組成物。
【請求項4】
前記増ちょう剤(B)は、金属コンプレックス石けん及びウレア化合物から選択される1種以上の増ちょう剤(B1)を含む、請求項1又は2に記載のグリース組成物。
【請求項5】
前記増ちょう剤(B)は、金属コンプレックス石けん及びウレア化合物から選択される1種以上の増ちょう剤(B1)を含む、請求項3に記載のグリース組成物。
【請求項6】
請求項1に記載のグリース組成物の製造方法であって、
前記増ちょう剤(B)を合成するため合成材料(B0)を準備する準備工程と、
前記基油(A)中で、前記合成材料(B0)を反応させて、前記増ちょう剤(B)を合成する合成工程と、
前記合成された増ちょう剤(B)と前記基油(A)とを混合する混合工程と、
前記混合工程で得られた混合物を混練する混練工程とを有する、グリース組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリース組成物、及び、グリース組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グリースは、基油に親油性の強い固体の増ちょう剤を分散させて半固体状にした潤滑剤である。グリースは、潤滑油に比べ潤滑部に付着しやすく、流出しにくい。そのため、グリースを用いることにより、潤滑システムの機械構造を簡略化できる。また、グリースは、潤滑油に比べ漏れも少なくクリーンな環境を実現でき、補給間隔も潤滑油に比べ少なくすることが可能である。
グリースは、主に転がり軸受、すべり軸受、ボールネジ、直動ガイド、及び歯車等の機械要素の潤滑に用いられる。転がり軸受は、工作機械の主軸、鉄道車両の車両、自動車のオルタネータ等のエンジン補機、等速ジョイント、及びホイール等に幅広く用いられている。
【0003】
近年の省エネルギー化、高効率化の要求を受けて、軸受にはトルクを低減することが望まれている。
例えば、特許文献1には、レーザー回折法によって測定された増ちょう剤粒度分布から算出される増ちょう剤の相対表面積が特定の値以上であるグリース組成物が開示されている。該グリース組成物によれば、攪拌抵抗に起因するトルクを低減することができると開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
省エネルギー化、高効率化の要求レベルがより高まっており、特許文献1に記載されているような従来のグリース組成物よりも、より高いレベルのトルクの低減性が求められている。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、低トルクのグリース組成物、及び、当該グリース組成物の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の構成を採用した。
[1]基油(A)と、増ちょう剤(B)とを含有するグリース組成物であって、6204玉軸受に前記グリース組成物を2g封入し、25℃の大気圧下で2000rpmの速度で所定の時間前記玉軸受を回転させた後、中性子によって観察される前記玉軸受内の軸受球への前記グリース組成物の付着量を計測した際に、回転開始前の前記グリース組成物の前記軸受球への付着量に対する回転開始1分後の前記グリース組成物の前記軸受球への付着量の比率が、70%以上140%以下である、グリース組成物。
[2]回転開始1分後の前記グリース組成物の前記軸受球への付着量に対する回転開始60分後の前記グリース組成物の前記軸受球への付着量の比率が、165%以下である、[1]に記載のグリース組成物。
[3]回転開始60分後の前記グリース組成物の前記軸受球への付着量が、2.00×1010μm3以上6.20×1010μm3以下である、[1]又は[2]に記載のグリース組成物。
[4]前記増ちょう剤(B)は、金属コンプレックス石けん及びウレア化合物から選択される1種以上の増ちょう剤(B1)を含む、[1]~[3]のいずれか一項に記載のグリース組成物。
[5][1]~[4]のいずれか一項に記載のグリース組成物の製造方法であって、前記増ちょう剤(B)を合成するため合成材料(B0)を準備する準備工程と、前記基油(A)中で、前記合成材料(B0)を反応させて、前記増ちょう剤(B)を合成する合成工程と、前記合成された増ちょう剤(B)と前記基油(A)とを混合する混合工程と、前記混合工程で得られた混合物を混練する混練工程とを有する、グリース組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、低トルクのグリース組成物、及び、当該グリース組成物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】6204玉軸受を回転させた際の本実施形態のグリース組成物の挙動を説明するための模式図である。
【
図2】6204玉軸受を回転させた際の従来のグリース組成物の挙動を説明するための模式図である。
【
図3】6204玉軸受を説明するための模式図である。
【
図4】回転開始前の実施例1のグリース組成物の軸受球への付着量を計測するために用いた画像解析データである。
【
図5】回転開始60分後の実施例1のグリース組成物の軸受球への付着量を計測するために用いた画像解析データである。
【
図6】回転開始前の比較例1のグリース組成物の軸受球への付着量を計測するために用いた画像解析データである。
【
図7】回転開始60分後の比較例1のグリース組成物の軸受球への付着量を計測するために用いた画像解析データである。
【
図8】回転開始前の実施例2のグリース組成物の軸受球への付着量を計測するために用いた画像解析データである。
【
図9】回転開始60分後の実施例2のグリース組成物の軸受球への付着量を計測するために用いた画像解析データである。
【
図10】回転開始前の比較例2のグリース組成物の軸受球への付着量を計測するために用いた画像解析データである。
【
図11】回転開始60分後の比較例2のグリース組成物の軸受球への付着量を計測するために用いた画像解析データである。
【
図12】回転開始前の比較例3のグリース組成物の軸受球への付着量を計測するために用いた画像解析データである。
【
図13】回転開始60分後の比較例3のグリース組成物の軸受球への付着量を計測するために用いた画像解析データである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(グリース組成物)
本実施形態のグリース組成物は、基油(A)と、増ちょう剤(B)とを含有する。
本実施形態のグリース組成物は、6204玉軸受に前記グリース組成物を2g封入し、25℃の大気圧下で2000rpmの速度で所定の時間前記玉軸受を回転させた後、中性子によって観察される前記玉軸受内の軸受球への前記グリース組成物の付着量を計測した際に、回転開始前の前記グリース組成物の前記軸受球への付着量(以下、「0min付着量」という)に対する回転開始1分後の前記グリース組成物の前記軸受球への付着量(以下、「1min付着量」という)の比率(以下、「1min付着量/0min付着量」という)が、70%以上140%以下である。
【0011】
本実施形態のグリース組成物は、1min付着量/0min付着量が、70%以上であり、80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。
一方で、本実施形態のグリース組成物は、1min付着量/0min付着量が、140%以下であり、138%以下であることが好ましく、135%以下であることがより好ましく、130%以下であることがさらに好ましい。
【0012】
本実施形態のグリース組成物の1min付着量/0min付着量が、70%以上であれば、軸受トルクを低減することができる。本実施形態のグリース組成物の1min付着量/0min付着量が、上記の好ましい下限値以上であれば、軸受トルクをより低減することができる。
本実施形態のグリース組成物の1min付着量/0min付着量が、140%以下であれば、軸受回転時の本実施形態のグリース組成物の抵抗を抑制し、軸受トルクを低減することができる。本実施形態のグリース組成物の1min付着量/0min付着量が、上記の好ましい上限値以下であれば、軸受トルクをより低減することができる。
【0013】
例えば、本実施形態のグリース組成物は、1min付着量/0min付着量が、80%以上138%以下であることが好ましく、85%以上135%以下であることがより好ましく、90%以上130%以下であることがさらに好ましい。
【0014】
本実施形態のグリース組成物における軸受トルクの低減のメカニズムについて、
図1及び2を参照しつつ説明する。
図1は、6204玉軸受を回転させた際の本実施形態のグリース組成物の挙動を説明するための模式図である。
1min付着量/0min付着量が70%以上140%以下であれば、グリース組成物が玉軸受内の軸受球に適度に付着した状態を維持するため、グリース組成物を用いる効果が十分に得られる。加えて、軸受球が回転する際のグリース組成物から受ける抵抗(撹拌抵抗)も抑制することができるため、軸受トルクが低減すると推測される。
一方で、図示していないが、1min付着量/0min付着量が70%未満の場合は、軸受球へのグリース組成物の付着量が回転後に大きく減少することを意味し、さらにその中でも、回転前後の軸受球へのグリース組成物の付着量がいずれも少ないか、いずれも多い場合の2ケースが想定される。前者の場合、軸受球が回転する際のグリース組成物から受ける抵抗は抑制できるが、グリース組成物の潤滑する効果が十分に得られないため、軸受内で金属接触を起こし、軸受トルクが増大すると推測される。後者の場合、過剰量のグリース組成物が玉軸受内の軸受球付近に存在することになるため、軸受球が回転する際のグリース組成物から受ける抵抗が増大し、軸受トルクが増大すると推測される。
また、
図2に示すように、1min付着量/0min付着量が140%超である場合、過剰量のグリース組成物が玉軸受内の軸受球付近に留まり続けてしまい、軸受球が回転する際のグリース組成物から受ける抵抗が増大し、軸受トルクが増大すると推測される。
【0015】
本実施形態のグリース組成物は、6204玉軸受に前記グリース組成物を2g封入し、25℃の大気圧下で2000rpmの速度で所定の時間前記玉軸受を回転させた後、中性子によって観察される前記玉軸受内の軸受球への前記グリース組成物の付着量を計測した際に、1min付着量に対する回転開始60分後の前記グリース組成物の前記軸受球への付着量(以下、「60min付着量」という)の比率(以下、「60min付着量/1min付着量」という)が、165%以下であることが好ましく、160%以下であることがより好ましく、158%以下であることがさらに好ましい。
【0016】
本実施形態のグリース組成物における60min付着量/1min付着量が上記の好ましい上限値以下であれば、軸受球が回転する際のグリース組成物から受ける抵抗がより抑制され、軸受トルクをより低減することができる。
【0017】
一般的に玉軸受を長時間回転させるほど、グリース組成物の軸受球への付着量は増加することから、本実施形態のグリース組成物の60min付着量/1min付着量の下限値は特に限定されないが、90%以上であることが好ましく、100%以上であることがより好ましく、110%以上であることがさらに好ましい。
【0018】
例えば、本実施形態のグリース組成物は、60min付着量/1min付着量が、90%以上165%以下であることが好ましく、100%以上160%以下であることがより好ましく、110%以上158%以下であることがさらに好ましい。
【0019】
本実施形態のグリース組成物における0min付着量は、1.00×1010μm3以上が好ましく、1.20×1010μm3以上がより好ましく、1.50×1010μm3以上がさらに好ましい。
本実施形態のグリース組成物における0min付着量は、5.00×1010μm3以下が好ましく、4.50×1010μm3以下がより好ましく、4.00×1010μm3以下がさらに好ましい。
【0020】
本実施形態のグリース組成物における0min付着量が上記の好ましい下限値以上であれば、軸受トルクがより低減する。
本実施形態のグリース組成物における0min付着量が上記の好ましい上限値以下であれば、軸受球が回転する際のグリース組成物から受ける抵抗がより低減され、軸受トルクがより低減する。
【0021】
例えば、本実施形態のグリース組成物における0min付着量は、1.00×1010μm3以上5.00×1010μm3以下が好ましく、1.20×1010μm3以上4.50×1010μm3以下がより好ましく、1.50×1010μm3以上4.00×1010μm3以下がさらに好ましい。
【0022】
なお、本実施形態のグリース組成物における0min付着量は、後述の通り、特定の場所に特定の量を充填する方法で算出すれば、測定者の技量や充填方法で値が変化するものではない。本実施形態のグリース組成物における0min付着量は、該グリース組成物の物性により変化するものである。該0min付着量の制御方法は後述する。
【0023】
本実施形態のグリース組成物における1min付着量は、1.80×1010μm3以上が好ましく、2.00×1010μm3以上がより好ましく、2.20×1010μm3以上がさらに好ましい。
本実施形態のグリース組成物における1min付着量は、5.00×1010μm3以下が好ましく、4.50×1010μm3以下がより好ましく、4.00×1010μm3以下がさらに好ましい。
【0024】
本実施形態のグリース組成物における1min付着量が上記の好ましい下限値以上であれば、軸受トルクがより低減する。
本実施形態のグリース組成物における1min付着量が上記の好ましい上限値以下であれば、軸受球が回転する際のグリース組成物から受ける抵抗がより低減され、軸受トルクがより低減する。
【0025】
例えば、本実施形態のグリース組成物における1min付着量は、1.80×1010μm3以上5.00×1010μm3以下が好ましく、2.00×1010μm3以上4.50×1010μm3以下がより好ましく、2.20×1010μm3以上4.00×1010μm3以下がさらに好ましい。
【0026】
本実施形態のグリース組成物における60min付着量は、2.00×1010μm3以上が好ましく、2.20×1010μm3以上がより好ましく、2.50×1010μm3以上がさらに好ましい。
本実施形態のグリース組成物における60min付着量は、6.20×1010μm3以下が好ましく、6.00×1010μm3以下がより好ましく、5.80×1010μm3以下がさらに好ましい。
【0027】
本実施形態のグリース組成物における60min付着量が上記の好ましい下限値以上であれば、軸受トルクがより低減する。
本実施形態のグリース組成物における60min付着量が上記の好ましい上限値以下であれば、軸受球が回転する際のグリース組成物から受ける抵抗がより低減され、軸受トルクがより低減する。
【0028】
例えば、本実施形態のグリース組成物における60min付着量は、2.00×1010μm3以上6.20×1010μm3以下が好ましく、2.20×1010μm3以上6.00×1010μm3以下がより好ましく、2.50×1010μm3以上5.80×1010μm3以下がさらに好ましい。
【0029】
本実施形態のグリース組成物における0min付着量、1min付着量、及び60min付着量は、中性子イメージング法により算出することができる。
例えば、本実施形態のグリース組成物における0min付着量、1min付着量、及び60min付着量は、大強度陽子加速器施設 J-PARC(Japan Proton Accelerator Research Complex )のMaterials and Life Science Experimental Facility(MLF)におけるRADENを用いて、6204玉軸受内のグリース組成物分布の中性子ラジオグラフィー及びコンピュータ断層撮影(CT)測定により算出することができる。
【0030】
図3は、6204玉軸受10を説明するための模式図である。
6204玉軸受10は、外輪7、内輪5、軸受球3、及び、保持器1で構成されている。
軸受球3は、内輪5と外輪7との間に、8個の軸受球3が互いに接触しないように、一定の間隔で保持器1によって保持されている。
【0031】
本実施形態のグリース組成物における0min付着量、1min付着量、及び60min付着量の算出方法の具体的な操作手順は以下の通りである。
(i)6204玉軸受の軸受球と軸受球との間の計8ヶ所の保持器上に、それぞれ0.25g(計2g)本実施形態のグリース組成物を充填し、ゴムシールで封止することで、サンプルを作成する。
(ii)サンプルを回転ステージ上に固定し、上記RADENにより中性子ビームを照射する。サンプルを透過した中性子を、厚さ0.10mmの6LiF/ZnS シンチレータスクリーンで可視光に変換した後、2048×2048画素の水冷CCD カメラで透過画像を保存する。ラジオグラフィー観察では、80mm×80mmの視野と約30秒のカメラ露光時間で、6204玉軸受の軸方向に中性子を照射する。得られる透過像の空間分解能は、例えば、60μmである。
(iii)サンプルを0°から360°まで0.6°刻みで回転させて得た600枚の透過画像から、フィルタ補正逆投影法を用いて3次元画像を作成する。
(iv)(iii)で得られた3次元画像において、軸受球の直径の1.2倍の大きさを測定範囲として、本実施形態のグリース組成物部分の体積(μm3)を画像解析により算出する。8個の軸受球に付着した本実施形態のグリース組成物の体積の平均(最小値及び最大値を除いた6個の平均)から、0min付着量を算出することができる。
(v)25℃の大気圧下で2000rpmの速度で1分間前記玉軸受を回転させた後に上記(ii)~(iv)の手順を行うことで、1min付着量を算出することができる。また、25℃の大気圧下で2000rpmの速度で60分間前記玉軸受を回転させた後に上記(ii)~(iv)の手順を行うことで、60min付着量を算出することができる。
【0032】
本実施形態のグリース組成物における0min付着量、1min付着量、及び60min付着量は、後述する基油(A)、及び増ちょう剤(B)の種類や含有量、グリース組成物の製造条件により制御することができる。該製造条件として、具体的には、グリース組成物の製造に3本ロールミルを用いる場合には、ローラーの速度差によるせん断力、及び3本ロールミルを通す回数等が挙げられる。また、油圧式の3本ロールミルを用いる場合には、ローラー間の圧力を利用した圧縮力等が挙げられる。
【0033】
本実施形態のグリース組成物のちょう度は、190以上が好ましく、200以上がより好ましく、210以上がさらに好ましい。
一方で、本実施形態のグリース組成物のちょう度は、340以下が好ましく、320以下がより好ましく、300以下がさらに好ましい。
例えば、本実施形態のグリース組成物のちょう度は、190以上340以下が好ましく、200以上320以下がより好ましく、210以上300以下がさらに好ましい。
【0034】
本実施形態のグリース組成物のちょう度が上記の好ましい下限値以上であると、該グリース組成物の潤滑性が良好となり、軸受トルクがより低減する。
本実施形態のグリース組成物のちょう度が上記の好ましい上限値以下であると、該グリース組成物に起因する粘性抵抗が低減し、軸受トルクがより低減する。
本明細書におけるちょう度は、JIS K2220:2013に準拠して測定される混和ちょう度を意味する。
【0035】
<基油(A)>
本実施形態のグリース組成物は、基油(A)を含有する。
基油(A)の40℃における動粘度は、15mm2/s以上が好ましく、30mm2/s以上がより好ましい。
基油(A)の40℃における動粘度は、100mm2/s以下が好ましく、70mm2/s以下がより好ましい。
【0036】
本実施形態のグリース組成物の基油(A)の40℃における動粘度が上記の好ましい下限値以上であると、該グリース組成物の潤滑性が良好となり、軸受トルクがより低減する。
本実施形態のグリース組成物の基油(A)の40℃における動粘度が上記の好ましい上限値以下であると、該グリース組成物に起因する粘性抵抗が低減し、軸受トルクがより低減する。
【0037】
例えば、基油(A)の40℃における動粘度は、15mm2/s以上100mm2/s以下が好ましく、30mm2/s以上70mm2/s以下がより好ましい。
【0038】
本明細書における40℃における動粘度は、JIS K2283:2000に準拠して測定された40℃における動粘度を意味する。
【0039】
本実施形態のグリース組成物の基油(A)としては、合成油、鉱油が挙げられる。
【0040】
≪合成油≫
合成油としては、例えば、ポリ-α-オレフィン等のポリオレフィン、ジエステル及びポリオールエステル等のエステル基油、ポリアルキレングリコール、アルキルベンゼン、並びにアルキルナフタレン等が挙げられる。
本実施形態のグリース組成物の基油(A)としては、合成油を1種単独で用いてもよく、複数の合成油を混合して用いてもよい。
【0041】
≪鉱油≫
鉱油としては、原油を常圧蒸留して得られる留出油を使用することができる。また、この留出油をさらに減圧蒸留して得られる留出油を、各種の精製プロセスで精製した潤滑油留分も使用することができる。
精製プロセスとしては、水素化精製、溶剤抽出、溶剤脱ろう、水素化脱ろう、硫酸洗浄、及び白土処理等を、適宜組み合わせることができる。これらの精製プロセスを適宜の順序で組み合わせて処理することにより、鉱油を得ることができる。
また、異なる原油又は留出油を異なる精製プロセスの組合せに供することにより得られた、性状の異なる複数の精製油の混合物を用いてもよい。
【0042】
鉱油としては、API基油分類のグループI基油(以下、「APIグループI基油」という)、グループII基油(以下、「APIグループII基油」という)、若しくはグループIII基油(以下、「APIグループIII基油」という)、又は、それらの混合基油を用いることができる。
APIグループI基油は、硫黄分が0.03質量%超、及び/又は、飽和分が90質量%未満であって、かつ、粘度指数が80以上120未満の鉱油系基油である。
APIグループII基油は、硫黄分が0.03質量%以下、飽和分が90質量%以上、かつ、粘度指数が80以上120未満の鉱油系基油である。
APIグループIII基油は、硫黄分が0.03質量%以下、飽和分が90質量%以上、かつ、粘度指数が120以上の鉱油系基油である。
【0043】
本実施形態のグリース組成物の基油(A)としては、鉱油を1種単独で用いてもよく、複数の鉱油を混合して用いてもよい。複数の鉱油を含む混合基油においては、それらの鉱油のAPI分類は同一であってもよく、相互に異なっていてもよい。
【0044】
本実施形態のグリース組成物の基油(A)としては、鉱油又は合成油のいずれかを用いてもよく、鉱油及び合成油を混合して用いてもよい。
【0045】
本実施形態のグリース組成物の基油(A)の含有量は、グリース組成物全量に対して、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましい。
本実施形態のグリース組成物の基油(A)の含有量は、グリース組成物全量に対して、95質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましい。
例えば、本実施形態のグリース組成物の基油(A)の含有量は、グリース組成物全量に対して、50質量%以上95質量%以下が好ましく、60質量%以上95質量%以下がより好ましく、80質量%以上90質量%以下がさらに好ましい。
【0046】
本実施形態のグリース組成物の基油(A)の含有量が上記の好ましい範囲内であれば、グリース組成物における1min付着量/0min付着量を70%以上140%以下により制御しやすくなる。
【0047】
<増ちょう剤(B)>
本実施形態のグリース組成物は、増ちょう剤(B)を含有する。
増ちょう剤(B)としては、金属コンプレックス石けん及びウレア化合物から選択される1種以上の増ちょう剤(B1)(以下、「(B1)成分」ともいう)が好ましい。
【0048】
≪金属コンプレックス石けん≫
金属コンプレックス石けんとは、複数の異なる分子構造のカルボン酸を金属水酸化物でケン化し、複合化させた金属石けんである。
金属コンプレックス石けんとして、具体的には、金属水酸化物に脂肪酸と二塩基酸又は芳香族カルボン酸とを反応させて得られる金属コンプレックス石けんが挙げられる。
金属コンプレックス石けんにおける金属としては、リチウム、ナトリウム等のアルカリ金属、カルシウム等のアルカリ土類金属、又はアルミニウムのような両性金属等が挙げられる。該金属としては、上記の中でも、軸受トルクをより低減させる観点から、リチウム、アルミニウムが好ましく、リチウムがより好ましい。
【0049】
該脂肪酸は、ヒドロキシ基等の置換基を有する脂肪酸誘導体であってもよい。
該脂肪酸としては、1価又は2価の脂肪酸が好ましい。
該脂肪酸としては、炭素数6~20の脂肪酸が好ましく、炭素数12~20の1価の脂肪酸又は炭素数6~14の2価の脂肪酸がより好ましい。なお、本発明において「炭素数6~20」とは、炭素原子を6個以上20個以下有することを意味する。
【0050】
上記の中でも、該脂肪酸としては、1個のヒドロキシ基を含む1価の脂肪酸が好ましい。
金属コンプレックス石けんにおいて脂肪酸と組み合わせる二塩基酸としては、酢酸、アゼライン酸、セバシン酸等が挙げられる。
金属コンプレックス石けんにおいて脂肪酸と組み合わせる芳香族カルボン酸としては、安息香酸等が挙げられる。
【0051】
金属コンプレックス石けんとしては、上記の中でも、水酸化リチウムに1個のヒドロキシ基を含む炭素数6~20の1価の脂肪酸と二塩基酸とを反応させて得られるリチウムコンプレックス石けんが好ましく、水酸化リチウムに1個のヒドロキシ基を含む炭素数12~20の1価の脂肪酸とアゼライン酸とを反応させて得られるリチウムコンプレックス石けんがより好ましく、水酸化リチウムに12-ヒドロキシステアリン酸とアゼライン酸とを反応させて得られるリチウムコンプレックス石けんがさらに好ましい。
【0052】
本実施形態のグリース組成物の金属コンプレックス石けんとしては、1種の金属コンプレックス石けんを単独で用いてもよく、複数の金属コンプレックス石けんを混合して用いてもよい。
【0053】
≪ウレア系増ちょう剤≫
ウレア系増ちょう剤としては、例えば、ジウレア化合物、及びポリウレア化合物が挙げられる。
ジウレア化合物は、ジイソシアネートとモノアミンとの反応で得られる化合物であり、ウレア基(-NH-CO-NH-)を2つ有する化合物である。
本明細書において、ポリウレア化合物は、ジイソシアネートとモノアミン又はジアミンとの反応で得られる化合物であり、ウレア基(-NH-CO-NH-)を3つ以上有する化合物を意味する。
【0054】
・ジイソシアネート
ジイソシアネートとは、炭化水素の2つの水素がイソシアネート基(-N=C=O)で置換された化合物である。
該炭化水素は、環状の炭化水素であっても、鎖状の炭化水素であってもよい。また、該炭化水素は、芳香族炭化水素であっても、脂肪族炭化水素であってもよい。
該炭化水素の炭素数は、好ましくは4~20であり、より好ましくは8~18である。
【0055】
ジイソシアネートの好ましい具体例としては、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ビフェニルジイソシアネート(ジフェニルジイソシアネート)、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート(MDI)、オクタデカンジイソシアネート、デカンジイソシアネート、ヘキサンジイソシアネー卜等が挙げられる。
ジイソシアネートは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
・モノアミン
モノアミンとは、1分子中に1個のアミノ基を有する化合物である。
モノアミンとしては、オクチルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ステアリルアミン(オクタデシルアミン)、オレイルアミン、アニリン、p-トルイジン、及びシクロヘキシルアミン等が好ましい。
モノアミンは、環状のアミンであっても、鎖状のアミンであってもよい。また、モノアミンは、脂環式アミンであっても、芳香族アミンであっても、脂肪族アミンであってもよい。
モノアミンとしては、鎖状のアミンが好ましい。
鎖状のアミンの炭素数は、好ましくは4~20であり、より好ましくは6~16であり、さらに好ましくは6~10である。
【0057】
・ジアミン
ジアミンとは、1分子中に2個のアミノ基を有する化合物である。
ジアミンとしては、エチレンジアミン、プロパンジアミン、ブタンジアミン、ヘキサンジアミン、オクタンジアミン、フェニレンジアミン、トリレンジアミン、キシレンジアミン、及びジアミノジフェニルメタン等が好ましい。
ジアミンは、環状のアミンであっても、鎖状のアミンであってもよい。また、ジアミンは、脂環式アミンであっても、芳香族アミンであっても、脂肪族アミンであってもよい。
該ジアミンの炭素数は、好ましくは4~20であり、より好ましくは8~18である。
【0058】
ウレア系増ちょう剤としては、上記の中でも、ジウレア化合物が好ましい。
該ジウレア化合物としては、芳香族炭化水素基を有するジイソシアネートとモノアミンとの反応で得られる化合物であることが好ましい。
芳香族炭化水素基を有するジイソシアネートとしては、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート(MDI)が好ましい。
モノアミンとしては、接触部における摩擦係数低減の観点から、脂肪族アミンが好ましい。
その中でも軸受内におけるグリース組成物の過剰な流動を低減し、軸受球へのグリース組成物の付着量を適切に制御する観点から、炭素数6~16の脂肪族アミンがより好ましく、炭素数6~10の脂肪族アミンがさらに好ましい。
【0059】
本実施形態のグリース組成物のウレア系増ちょう剤としては、1種のウレア系増ちょう剤を単独で用いてもよく、複数のウレア系増ちょう剤を混合して用いてもよい。
【0060】
上述した(B1)成分以外の増ちょう剤(B2)(以下、「(B2)成分」ともいう)としては、以下の増ちょう剤が挙げられる。
【0061】
≪(B1)成分以外の増ちょう剤(B2)≫
(B2)成分としては、例えば、単一金属石けん系増ちょう剤、及び、無機系の増ちょう剤等が挙げられる。
【0062】
・単一金属石けん系増ちょう剤
単一金属石けん系増ちょう剤は、脂肪酸又は油脂を、金属水酸化物でケン化した単一金属石けんである。
該脂肪酸としては、上述した金属コンプレックス石けんにおける脂肪酸と同様のものが挙げられる。
【0063】
単一金属石けん系増ちょう剤における金属としては、リチウム、ナトリウム等のアルカリ金属、カルシウム等のアルカリ土類金属、又はアルミニウムのような両性金属等が挙げられる。
【0064】
・無機系の増ちょう剤
無機系の増ちょう剤として、具体的には、ベントナイト、及び、シリカゲル等が挙げられる。
【0065】
本実施形態のグリース組成物の増ちょう剤(B)中の(B1)成分の割合は、増ちょう剤(B)全量に対して、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、100質量%、すなわち、(B1)成分のみからなることがさらに好ましい。
一実施形態のグリース組成物としては、増ちょう剤(B)として、(B2)成分を含有するグリース組成物は除かれる。
【0066】
本実施形態のグリース組成物の増ちょう剤(B)の含有量は、グリース組成物全量に対して、5質量%以上が好ましく、8質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらに好ましい。
本実施形態のグリース組成物の増ちょう剤(B)の含有量は、グリース組成物全量に対して、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、18質量%以下がさらに好ましい。
例えば、本実施形態のグリース組成物の増ちょう剤(B)の含有量は、グリース組成物全量に対して、5質量%以上30質量%以下が好ましく、8質量%以上20質量%以下がより好ましく、10質量%以上18質量%以下がさらに好ましい。
【0067】
グリース組成物全量に対する増ちょう剤(B)の含有量が、上記の好ましい範囲内であれば、軸受トルクがより低減する。
【0068】
<任意成分>
本実施形態のグリース組成物は、上述した基油(A)及び増ちょう剤(B)以外の任意成分を含有してもよい。該任意成分としては、固体潤滑剤、摩耗防止剤又は極圧剤、酸化防止剤、油性剤、防錆剤、並びに腐食防止剤等が挙げられる。
【0069】
固体潤滑剤としては、例えば、黒鉛、フッ化黒鉛、メラミンシアヌレート、ポリテトラフルオロエチレン、二硫化モリブデン、硫化アンチモン、窒化ホウ素、アルカリ(土類)金属ホウ酸塩等が挙げられる。グリース組成物が固体潤滑剤を含有する場合、その含有量はグリース組成物全量に対して、例えば、0.1質量%以上20質量%以下である。固体潤滑剤は、1種単独で用いてもよく、複数の固体潤滑剤を混合して用いてもよい。
【0070】
摩耗防止剤又は極圧剤としては、例えば、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、ジアルキルジチオカルバミン酸亜鉛等の有機亜鉛化合物;ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン、ジハイドロカルビルポリサルファイド、硫化エステル、チアゾール化合物、チアジアゾール化合物等の硫黄含有化合物;リン酸エステル、酸性リン酸エステル、酸性リン酸エステルのアミン塩、亜リン酸エステル等のリン系極圧剤等が挙げられる。グリース組成物が摩耗防止剤又は極圧剤を含有する場合、その含有量はグリース組成物全量に対して、例えば、0.1質量%以上10質量%以下である。摩耗防止剤又は極圧剤は、1種単独で用いてもよく、複数の摩耗防止剤又は極圧剤を混合して用いてもよい。
【0071】
酸化防止剤としては、例えば、2,6-ジ-t-ブチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール等のフェノール系化合物;ジフェニルアミン、ジアルキルジフェニルアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、p-アルキルフェニル-α-ナフチルアミン等のアミン系化合物等が挙げられる。グリース組成物が酸化防止剤を含有する場合、その含有量はグリース組成物全量に対して、例えば、0.5質量%以上10質量%以下である。酸化防止剤は、1種単独で用いてもよく、複数の酸化防止剤を混合して用いてもよい。
【0072】
油性剤としては、例えば、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、パルミチルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン等のアミン類;ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、パルミチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール等の高級アルコール類;ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸等の高級脂肪酸類;ラウリン酸メチル、ミリスチン酸メチル、パルミチン酸メチル、ステアリン酸メチル、オレイン酸メチル等の脂肪酸エステル類;グリセリンオレート、グリセリンステアレート等の油脂等が挙げられる。グリース組成物が油性剤を含有する場合、その含有量はグリース組成物全量に対して、例えば、0.01質量%以上5質量%以下である。油性剤は、1種単独で用いてもよく、複数の油性剤を混合して用いてもよい。
【0073】
防錆剤としては、例えば、アミン類、中性又は過塩基性の石油系又は合成油系金属スルフォネート、カルボン酸金属塩類、エステル類、リン酸、リン酸塩等が挙げられる。グリース組成物が防錆剤を含有する場合、その含有量はグリース組成物全量に対して、例えば、0.005質量%以上5質量%以下である。防錆剤は、1種単独で用いてもよく、複数の防錆剤を混合して用いてもよい。
【0074】
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系化合物、トリルトリアゾール系化合物、チアジアゾール系化合物、及びイミダゾール系化合物等の公知の腐食防止剤を使用可能である。グリース組成物が腐食防止剤を含有する場合、その含有量はグリース組成物全量に対して、例えば、0.01質量%以上10質量%以下である。腐食防止剤は、1種単独で用いてもよく、複数の腐食防止剤を混合して用いてもよい。
【0075】
(グリース組成物の製造方法)
本実施形態のグリース組成物の製造方法は、基油(A)と、増ちょう剤(B)とを混合して、混合物を得る混合工程と、前記混合工程で得られた混合物を混練する混練工程とを有する。
【0076】
<混合工程>
混合工程は、基油(A)と、増ちょう剤(B)とを混合する工程である。
混合工程は、例えば、マグネチックスターラーを用いて行うこともできるし、人手により混合してもよい。
混合工程は加熱して行うことが好ましい。加熱温度としては、40℃以上120℃以下が好ましく、50℃以上110℃以下がより好ましい。
【0077】
<混練工程>
混練工程は、上記混合工程で得られた混合物を混練する工程である。
混練工程は、例えば、3本ロールミルを用いて行うことができる。3本ロールミルは油圧式のものと油圧式でないものがある。
油圧式でない3本ロールミルは、ロールとロールとの隙間を制御し、その狭いロール間の隙間に混練対象物が押し込まれることによる圧縮と、ロールの速度差によるせん断とで、混練対象物を粉砕、混練、分散、脱泡する装置である。
一方で、油圧式の3本ロールミル(以下、「油圧ロール」ともいう)は、ロール同士を油圧の力で押し付けることが可能な装置であり、上記油圧式でない3本ロールミルとは異なり、混練対象物にかかる負荷をより精度よく制御できる装置である。
【0078】
グリース組成物の製造に3本ロールミルを用いる場合には、ローラーの速度差によるせん断力、及び3本ロールミルを通す回数、油圧式の3本ロールミルを用いる場合には、ローラー間の圧力を利用した圧縮力等を適宜調整することで、グリース組成物の1min付着量/0min付着量を制御することができる。
【0079】
<任意工程>
本実施形態のグリース組成物の製造方法は、混合工程及び混練工程に加えて任意工程を有してもよい。任意工程としては、上述した混合工程の前に、増ちょう剤(B)を合成するため合成材料(B0)を準備する準備工程と、基油(A)中で、合成材料(B0)を反応させて、増ちょう剤(B)を合成する合成工程と、混合工程で得られた混合物を冷却する冷却工程が挙げられる。
【0080】
≪準備工程≫
準備工程は、上述した混合工程の前に、増ちょう剤(B)を合成するため合成材料(B0)を準備する工程である。
合成材料(B0)として、具体的には、上述した(B1)成分における金属コンプレックス石けんを合成するための複数の異なる分子構造のカルボン酸及び金属水酸化物、並びに、(B1)成分におけるウレア化合物を合成するためのジイソシアネート及びモノアミン又はジアミンが挙げられる。
【0081】
≪合成工程≫
合成工程は、基油(A)中で、合成材料(B0)を反応させて、増ちょう剤(B)を合成する工程である。
基油(A)と増ちょう剤(B)とをそれぞれ準備し、それらを混合するより、基油(A)中で、合成材料(B0)を反応させて、増ちょう剤(B)を合成する方が、増ちょう剤(B)の分散性が向上する。このとき、合成工程と混合工程は同時に行われる。
【0082】
合成工程は、混合工程と同じく加熱して行うことが好ましい。加熱温度としては、40℃以上200℃以下が好ましく、50℃以上150℃以下がより好ましい。
【0083】
≪冷却工程≫
冷却工程は、混合工程で得られた混合物を冷却する工程である。
混合物を冷却する方法は、冷却機を用いて冷却してもよいし、室温(25℃)で冷却してもよい。
【実施例0084】
<グリース組成物の配合>
実施例1及び2のグリース組成物及び比較例1~3のグリース組成物を、表1に示す配合割合で、基油(A)、及び増ちょう剤(B)を配合することによって調製した。表1中の数値は、グリース組成物全量に対する含有量(質量%)である。
【0085】
(1)基油(A)
・基油(A)-1:APIグループI基油(40℃動粘度=32mm2/s)
・基油(A)-2:ポリ-α-オレフィン(40℃動粘度=48mm2/s)
【0086】
(2)増ちょう剤(B)
・増ちょう剤(B)-1:リチウムコンプレックス石けん(水酸化リチウム、12-ヒドロキシステアリン酸、及びアゼライン酸の反応で得られるリチウムコンプレックス石けん)
・増ちょう剤(B)-2:ステアリン酸リチウム石けん(単一リチウム石けん)
・増ちょう剤(B)-3:ジウレア化合物(MDIとオクチルアミンとの反応で得られるジウレア化合物)
・増ちょう剤(B)-4:ジウレア化合物(MDIとオクタデシルアミンとの反応で得られるジウレア化合物)
・増ちょう剤(B)-5:ジウレア化合物(MDIとシクロヘキシルアミンとの反応で得られるジウレア化合物)
【0087】
<グリース組成物の製造>
(実施例1のグリース組成物)
・準備工程~冷却工程
基油(A)-1を表1に示す配合割合でステンレス製容器に入れた。該容器に12-ヒドロキシステアリン酸を加え、70℃に加熱し、マグネチックスターラーで撹拌した。次いで、該容器に、さらに水酸化リチウム水溶液を加え、加熱脱水した。その後、アゼライン酸を加えて100℃で溶解させ、再度水酸化リチウムを加えた後、加熱脱水することで、12-ヒドロキシステアリン酸とアゼライン酸と水酸化リチウムとを基油(A)-1中で反応させて、増ちょう剤(B)-1を合成しながら、基油(A)-1と増ちょう剤(B)-1とを混合した。そして、室温に冷却することで半固体状の組成物を得た。
【0088】
・混練工程
3本ロールミルを用いて、得られた半固形状の組成物を混練して実施例1のグリース組成物を調製した。
【0089】
(実施例2のグリース組成物)
・準備工程~冷却工程
基油(A)-2を、合計量が表1に示す配合割合になるよう2つのステンレス製容器に二分した。
一方のステンレス製容器にMDIを加え、60~65℃に加熱し、マグネチックスターラーで撹拌して、混合液Pを得た。また、他方のステンレス製容器にオクチルアミンを加え、60~65℃に加熱し、マグネチックスターラーで撹拌して、混合液Qを得た。次いで、混合液P及び混合液Qを混合し、60~65℃で、マグネチックスターラーで撹拌することで、MDIとオクチルアミンとを基油(A)-2中で反応させて、増ちょう剤(B)-3を合成しながら、基油(A)-1と増ちょう剤(B)-3とを混合した。そして、室温に冷却することで半固体状の組成物を得た。
【0090】
・混練工程
3本ロールミルを用いて、得られた半固形状の組成物を混練して実施例2のグリース組成物を調製した。
【0091】
(比較例1のグリース組成物)
・準備工程~冷却工程
基油(A)-1を表1に示す配合割合でステンレス製容器に入れた。該容器にステアリン酸を加え、70℃に加熱し、マグネチックスターラーで攪拌しながら、水酸化リチウム水溶液を加えた後、加熱脱水することで、ステアリン酸と水酸化リチウムとを基油(A)-1中で反応させて、増ちょう剤(B)-2を合成しながら、基油(A)-1と増ちょう剤(B)-2とを混合した。その後、室温に冷却することで半固体状の組成物を得た。
【0092】
・混練工程
3本ロールミルを用いて、得られた半固形状の組成物を混練して比較例1のグリース組成物を調製した。
【0093】
(比較例2のグリース組成物)
原料として用いたアミンを、オクチルアミンからオクタデシルアミンに変更したこと以外は実施例2と同様の方法で、比較例2のグリース組成物を調製した。
【0094】
(比較例3のグリース組成物)
原料として用いたアミンを、オクチルアミンからシクロヘキシルアミンに変更したこと以外は実施例2と同様の方法で、比較例3のグリース組成物を調製した。
【0095】
[ちょう度の評価]
JIS K2220:2013に準拠して測定した各例のグリース組成物の混和ちょう度を表1に示した。
【0096】
【0097】
[軸受球への付着量の評価]
各例のグリース組成物における0min付着量、1min付着量、及び60min付着量は以下の方法で算出した。
(i)6204玉軸受の軸受球と軸受球との間の計8ヶ所の保持器上に、それぞれ0.25g(計2g)各例のグリース組成物をそれぞれ充填し、ゴムシールで封止することで、各例のサンプルをそれぞれ作成した。
(ii)サンプルを回転ステージ上に固定し、上述したRADENにより中性子ビームを照射した。サンプルを透過した中性子を、厚さ0.10mmの
6LiF/ZnS シンチレータスクリーンで可視光に変換した後、2048×2048画素の水冷CCD カメラで透過画像を保存した。ラジオグラフィー観察では、80mm×80mmの視野と約30秒のカメラ露光時間で、6204玉軸受の軸方向に中性子を照射した。得られた透過像の空間分解能は60μmであった。
(iii)サンプルを0°から360°まで0.6°刻みで回転させて得た600枚の透過画像から、フィルタ補正逆投影法を用いて3次元画像を作成した。
(iv)(iii)で得られた3次元画像において、軸受球の直径の1.2倍の大きさを測定範囲として、各例のグリース組成物部分の体積(μm
3)を画像解析により算出した。8個の軸受球に付着した各例のグリース組成物の体積の平均(最小値及び最大値を除いた6個の平均)から、0min付着量を算出した。
(v)25℃の大気圧下で2000rpmの速度で1分間前記玉軸受を回転させた後に上記(ii)~(iv)の手順を行うことで、1min付着量を算出した。また、25℃の大気圧下で2000rpmの速度で60分間前記玉軸受を回転させた後に上記(ii)~(iv)の手順を行うことで、60min付着量を算出した。
0min付着量、1min付着量、及び60min付着量の平均、並びに各付着量の最大値・最小値を除いた平均(6個の平均値)を表2に示す。また、1min付着量/0min付着量、及び60min付着量/1min付着量も表2に示す。
また、各例のグリース組成物の付着量を計測するために用いた画像解析データの一部を
図4~13に示す。
【0098】
図4は、回転開始前の実施例1のグリース組成物の軸受球への付着量を計測するために用いた画像解析データである。
図5は、回転開始60分後の実施例1のグリース組成物の軸受球への付着量を計測するために用いた画像解析データである。
図6は、回転開始前の比較例1のグリース組成物の軸受球への付着量を計測するために用いた画像解析データである。
図7は、回転開始60分後の比較例1のグリース組成物の軸受球への付着量を計測するために用いた画像解析データである。
図8は、回転開始前の実施例2のグリース組成物の軸受球への付着量を計測するために用いた画像解析データである。
図9は、回転開始60分後の実施例2のグリース組成物の軸受球への付着量を計測するために用いた画像解析データである。
図10は、回転開始前の比較例2のグリース組成物の軸受球への付着量を計測するために用いた画像解析データである。
図11は、回転開始60分後の比較例2のグリース組成物の軸受球への付着量を計測するために用いた画像解析データである。
図12は、回転開始前の比較例3のグリース組成物の軸受球への付着量を計測するために用いた画像解析データである。
図13は、回転開始60分後の比較例3のグリース組成物の軸受球への付着量を計測するために用いた画像解析データである。
【0099】
[軸受トルクの評価]
(i)に記載の方法で軸受サンプルを用意し、アキシャル荷重50N、ラジアル荷重50Nを負荷し、室温にて回転数2000rpmで内輪を回転させ、ハウジングに作用する接線力をロードセルで測定することにより軸受トルク(mN・m)を算出した。なお、軸受トルクは回転開始30分の時点での値を測定した。各例のグリース組成物の軸受トルクの結果を表2に示す。
【0100】
【0101】
表2に示す通り、1min付着量/0min付着量が129%である実施例1のグリース組成物、及び1min付着量/0min付着量が94%である実施例2のグリース組成物は、比較例1~3のグリース組成物に比べて、軸受トルクが低く、トルク性能が良好であった。このことから、グリース組成物は、玉軸受の回転によっても軸受球への付着量があまり変化しないものであるとトルク性能に優れるということが分かった。