(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027920
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】エンジン、制御装置、及び制御プログラム
(51)【国際特許分類】
F02D 43/00 20060101AFI20240222BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20240222BHJP
F02D 41/32 20060101ALI20240222BHJP
F02D 41/22 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
F02D43/00 301G
F02D45/00 368Z
F02D43/00 301B
F02D41/32
F02D45/00 345
F02D41/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022131114
(22)【出願日】2022-08-19
(71)【出願人】
【識別番号】720001060
【氏名又は名称】ヤンマーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100205350
【弁理士】
【氏名又は名称】狩野 芳正
(74)【代理人】
【識別番号】100117617
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 圭策
(72)【発明者】
【氏名】森田 銀
(72)【発明者】
【氏名】松永 大知
(72)【発明者】
【氏名】天寅 喬文
【テーマコード(参考)】
3G301
3G384
【Fターム(参考)】
3G301HA21
3G301JA22
3G301LB02
3G301MA01
3G301MA11
3G301NA08
3G301NB02
3G301PA10Z
3G301PA16Z
3G301PC01Z
3G301PD11Z
3G301PD14Z
3G301PE01Z
3G384AA13
3G384BA09
3G384BA24
3G384DA55
3G384ED07
3G384FA11Z
3G384FA29Z
3G384FA45Z
3G384FA47Z
3G384FA56Z
3G384FA86Z
(57)【要約】
【課題】エンジンにおいて、異常燃焼が開始する前に異常燃焼の発生を推定する。
【解決手段】エンジン1000は、シリンダ110と、ピストン120と、点火装置140と、回転センサ170-1と、吸気温度センサ170-3と、吸気圧力センサ170-2と、制御装置500とを備える。点火装置140は、混合ガスに点火する。回転センサ170-1は、クランクシャフト130の回転速度を測定する。吸気温度センサ170-3は、混合ガスの温度を測定する。吸気圧力センサ170-2は、混合ガスの第1圧力値を測定する。制御装置500は、回転速度と、混合ガスの温度と、混合ガスの第1圧力値とに基づき、混合ガスに含まれる水素の水素当量比、または/および、混合ガスの点火する時期を制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部で水素を含む混合ガスを燃焼するシリンダと、
前記シリンダ内で往復運動するピストンと、
前記混合ガスに点火する点火装置と、
クランクシャフトの回転速度を測定する回転センサと、
前記混合ガスの温度を測定する吸気温度センサと、
前記混合ガスの第1圧力値を測定する吸気圧力センサと、
前記回転速度と、前記混合ガスの温度と、前記混合ガスの前記第1圧力値とに基づき、前記混合ガスに含まれる前記水素の水素当量比、または/および、前記混合ガスの点火する時期を制御する制御装置と、
を備えるエンジン。
【請求項2】
前記制御装置は、
前記回転速度と、前記混合ガスの温度と、前記混合ガスの前記第1圧力値とに基づき、前記混合ガスの異常燃焼の発生を推定する異常燃焼推定部と、
前記異常燃焼の発生が推定されたときに、前記混合ガスに含まれる前記水素の前記水素当量比、または/および、前記混合ガスの点火する時期を制御する第1制御信号を出力する制御部と、
を備える請求項1に記載のエンジン。
【請求項3】
前記異常燃焼推定部は、
前記混合ガスの温度に基づき、前記シリンダ内の圧縮温度を推定する温度推定部と、
前記回転速度と、前記混合ガスの温度と、前記混合ガスの前記第1圧力値とに基づき、第1基準値を決定する基準値決定部と、
前記第1基準値と、前記圧縮温度とを比較して、前記混合ガスの異常燃焼の発生を判定する判定部と、
を備える請求項2に記載のエンジン。
【請求項4】
前記シリンダ内のガスの第2圧力値を測定するシリンダ内圧力センサを備え、
前記制御装置は、
前記回転速度と、前記シリンダ内のガスの前記第2圧力値と、前記混合ガスの温度とに基づき、前記混合ガスの異常燃焼の発生を推定する異常燃焼推定部と、
前記異常燃焼の発生が推定されたときに、前記混合ガスに含まれる前記水素の前記水素当量比、または/および、前記混合ガスの点火する時期を制御する第1制御信号を出力する制御部と、
を備える請求項1に記載のエンジン。
【請求項5】
前記異常燃焼推定部は、
前記混合ガスの温度に基づき、前記シリンダ内の圧縮温度を推定する温度推定部と、
前記回転速度と、前記混合ガスの温度と、前記シリンダ内のガスの前記第2圧力値とに基づき、第1基準値を決定する基準値決定部と、
前記第1基準値と、前記圧縮温度とを比較して、前記混合ガスの異常燃焼の発生を判定する判定部と、
を備える請求項4に記載のエンジン。
【請求項6】
前記温度推定部は、前記混合ガスの温度と、前記シリンダ内のガスの前記第2圧力値とに基づき、前記圧縮温度を推定する
請求項5に記載のエンジン。
【請求項7】
前記シリンダ内には、ガスの温度を測定する燃焼室温度センサを備え、
前記温度推定部は、前記燃焼室温度センサにより測定された温度に基づき、前記混合ガスが燃焼している燃焼期間における前記シリンダ内のガスの平均温度を推定し、
前記基準値決定部は、前記第1基準値と、前記混合ガスが正常燃焼するときにおける前記ピストンが上死点にあるときの前記シリンダ内の温度とに基づき、第2基準値を決定することと、
前記判定部は、前記第2基準値と、前記平均温度とを比較して、前記混合ガスの異常燃焼の発生を判定する
請求項3と、5と、6とのいずれか1項に記載のエンジン。
【請求項8】
前記制御部は、前記異常燃焼の発生が推定されたときに、
前記水素当量比を減少するための第1制御信号を生成し、
前記水素当量比の減少に応じて前記シリンダ内における前記水素を除く燃料の量を増加する第2制御信号を生成する
請求項2から6のいずれか1項に記載のエンジン。
【請求項9】
前記混合ガスに前記水素が噴射される前の空気を圧縮する圧縮装置を備え、
前記制御装置は、前記回転速度と、前記混合ガスの温度と、前記混合ガスの前記第1圧力値とに基づき、前記圧縮装置による前記空気の圧縮比を増加させるための第1制御信号を生成する
請求項1に記載のエンジン。
【請求項10】
エンジンに含まれるシリンダ内のガスの圧縮圧力と、前記シリンダ内のガスの圧縮温度と、前記シリンダ内のガスの水素当量比と、前記エンジンの回転速度とに基づき、前記シリンダにおける異常燃焼の発生を推定する異常燃焼推定部と、
前記異常燃焼の発生が推定されたときに、前記水素当量比、または/および、前記シリンダ内のガスの点火する時期を制御する第1制御信号を生成する制御部と、
を備える制御装置。
【請求項11】
前記圧縮圧力は、前記シリンダの内部に含まれるピストンが上死点にあるときに、前記シリンダ内におけるガスの圧力を表し、
前記圧縮温度は、前記シリンダの内部に含まれる前記ピストンが上死点にあるときに、前記シリンダ内におけるガスの温度を表す
請求項10に記載の制御装置。
【請求項12】
前記異常燃焼推定部は、
前記エンジン内のガスの温度に基づき、前記圧縮温度を推定する温度推定部と、
第1基準値を決定する基準値決定部と、
前記第1基準値と、前記圧縮温度とを比較して、前記シリンダ内のガスの異常燃焼の発生を判定する判定部と、
を備え、
前記基準値決定部は、
前記エンジン内のガスの圧力値に基づき、前記圧縮圧力を決定し、
前記エンジン内のガスの温度と圧力値と、前記エンジンの回転数とに基づき、前記水素当量比を決定し、
前記圧縮圧力と、前記水素当量比と、前記エンジンの回転数とに基づき、前記第1基準値を決定する
請求項10または11に記載の制御装置。
【請求項13】
エンジンに含まれるシリンダ内のガスの圧縮圧力と、前記シリンダ内のガスの圧縮温度と、前記シリンダ内のガスの水素当量比と、前記エンジンの回転速度とに基づき、前記シリンダにおける異常燃焼の発生を推定することと、
前記異常燃焼の発生が推定されたときに、前記水素当量比、または/および、前記シリンダ内のガスの点火する時期を制御する第1制御信号を生成することと、
を演算装置に実行させる制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン、制御装置、及び制御プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、水素を含んだ燃料を用いて、動力を得る水素エンジンが研究されている。水素エンジンは、水素と空気とが混合された水素予混合気がシリンダに供給され、シリンダ内で水素予混合気が燃焼することで動力を得る。水素予混合気の空燃比が適正範囲から外れると、異常燃焼、例えば、設計された点火タイミングより早く着火するプレイグニッション、ノッキング、逆火等が発生する場合がある。異常燃焼はエンジンを破損してしまう場合があるため、異常燃焼を抑制する研究が行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、エンジンのシリンダ内の圧力を計測することで、異常燃焼の発生を検出する技術が開示されている。
【0004】
例えば、特許文献2には、シリンダ壁面の温度が、異常燃焼が発生する可能性の低い温度範囲で、エンジンが駆動するように制御する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-71284号公報
【特許文献2】国際公開第2013/118244号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術は、異常燃焼の発生を検出するため、異常燃焼が開始する前に異常燃焼の発生を抑制することは難しい。また、特許文献2に記載の技術は、異常燃焼の発生する可能性の低い温度範囲でエンジンを駆動するものであり、異常燃焼が開始する前に異常燃焼の発生を抑制するものではない。
【0007】
上記の状況に鑑み、本開示は、異常燃焼が開始する前に異常燃焼の発生を推定することを目的の1つとする。他の目的については、以下の記載及び実施の形態の説明から理解することができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下に、発明を実施するための形態で使用される番号・符号を用いて、課題を解決するための手段を説明する。これらの番号・符号は、特許請求の範囲の記載と発明を実施するための形態との対応関係の一例を示すために、参考として、括弧付きで付加されたものである。よって、括弧付きの記載により、特許請求の範囲は、限定的に解釈されるべきではない。
【0009】
上記目的を達成するための一実施の形態によるエンジン(1000)は、シリンダ(110)と、ピストン(120)と、点火装置(140)と、回転センサ(170-1)と、吸気温度センサ(170-3)と、吸気圧力センサ(170-2)と、制御装置(500)とを備える。シリンダ(110)は、内部で水素を含む混合ガスを燃焼する。ピストン(120)は、シリンダ(110)内で往復運動する。点火装置(140)は、混合ガスに点火する。回転センサ(170-1)は、クランクシャフト(130)の回転速度を測定する。吸気温度センサ(170-3)は、混合ガスの温度を測定する。吸気圧力センサは(170-2)、混合ガスの第1圧力値を測定する。制御装置(500)は、回転速度と、混合ガスの温度と、混合ガスの第1圧力値とに基づき、混合ガスに含まれる水素の水素当量比、または/および、混合ガスの点火する時期を制御する。
【0010】
上記目的を達成するための一実施の形態による制御装置(500)は、異常燃焼推定部(550)と、制御部(560)とを備える。異常燃焼推定部(550)は、エンジン(1000)に含まれるシリンダ(110)内のガスの圧縮圧力と、シリンダ(110)内のガスの圧縮温度と、シリンダ(110)内のガスの水素当量比と、エンジン(1000)の回転速度とに基づき、シリンダ(110)における異常燃焼を推定する。制御部(560)は、異常燃焼が推定されたときに、水素当量比、または/および、シリンダ(110)内のガスの点火する時期を制御する第1制御信号を生成する。
【0011】
上記目的を達成するための一実施の形態による制御プログラム(600)は、エンジン(1000)に含まれるシリンダ(110)内のガスの圧縮圧力と、シリンダ(110)内のガスの圧縮温度と、シリンダ(110)内のガスの水素当量比と、エンジン(1000)の回転速度とに基づき、シリンダ(110)における異常燃焼を推定することを演算装置(520)に実行させる。また、制御プログラム(600)は、異常燃焼が推定されたときに、水素当量比、または/および、シリンダ(110)内のガスの点火する時期を制御する第1制御信号を生成することを演算装置(520)に実行させる。
【発明の効果】
【0012】
上記の形態によれば、異常燃焼が開始する前に異常燃焼の発生を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】一実施の形態におけるエンジンの構成を表す図である。
【
図2】一実施の形態における制御装置の構成を表す図である。
【
図3】水素の着火点と、水素当量比と、混合ガスの圧力値との関係を表す図である。
【
図4】一実施の形態における制御装置が実行する機能ブロックを表す図である。
【
図5】一実施の形態における制御装置による処理を表すフローチャートである。
【
図6】一実施の形態における燃焼室内のガスの温度とクランク角度との関係を表す図である。
【
図7】一実施の形態におけるエンジンの構成を表す図である。
【
図8A】一実施の形態における制御装置による処理を表すフローチャートである。
【
図8B】一実施の形態における制御装置による処理を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(実施の形態1)
本発明の本実施の形態によるエンジン1000を、図面を参照して説明する。エンジン1000は、
図1に示すように、エアーインレット210から空気を取り込む。取り込まれた空気は、吸気管220を通過し、吸気ポート230において、水素噴射装置240から噴射される水素と混合され、混合ガスとしてシリンダ110内の燃焼室115に供給される。燃焼室115に供給された混合ガスは、ピストン120により圧縮され、点火装置140、例えばディーゼル噴射装置により点火される。混合ガスは、燃焼すると膨張し、ピストン120を押し、クランクシャフト130を回転させる。燃焼された混合ガスは、燃焼ガスとして、燃焼室115から排気ポート280に排出され、第2排気管270と、第1排気管260とを通過して外部に排気される。
【0015】
ここで、点火装置140は、ピストン120が上死点に達したとき、例えば上死点を超えた直後に、燃焼室115内のガスに点火する。しかし、燃焼室115の温度が高くなると、ピストン120が上死点に達する前に、燃焼室115内のガスに含まれる水素が燃焼するプレイグニッションが生じる場合がある。このため、エンジン1000は、ピストン120が上死点の位置にあるときの燃焼室115、例えばシリンダ110内の温度を推定し、推定された温度が基準値より高いとき、プレイグニッションを抑制する制御を行う。これにより、エンジン1000は、異常燃焼が発生する前に、異常燃焼を抑制する制御を行う。なお、推定された温度と比較する基準値は、水素が自然発火する着火温度に応じた値を表し、例えば燃焼室115(シリンダ110)内のガスの圧力の大きさと、水素当量比と、エンジン1000の回転速度とに基づき決定される。水素当量比は、燃焼室115内のガス中における水素の濃度を表し、例えば、燃焼室115内のガスにおいて、実際の空燃比で、理論上最も燃焼効率の高い空燃比である理論空燃比を除算した値を表す。
【0016】
(エンジンの構成)
図1に示すエンジン1000の構成を説明する。エンジン1000は、例えば、シリンダ110、ピストン120、クランクシャフト130、センサ170、水素噴射装置240、圧縮装置310などを備える。シリンダ110は、シリンダ110の壁面とピストン120の上面とに囲まれた燃焼室115を形成するように構成されている。シリンダ110は、点火装置140と、吸気バルブ150と、排気バルブ160とを備える。なお、シリンダ110内における上方向は、シリンダ110の軸方向のうち、ピストン120から点火装置140への方向を表す。
【0017】
点火装置140は、燃焼室115内のガス、例えば水素を含むガスに点火するように構成されている。点火装置140は、例えば、パイロット液体(例えば軽油)を噴射するパイロット液体噴射装置を含む。パイロット液体噴射装置から噴射されたパイロット液は、燃焼室115内の温度により、発火する。パイロット液が発火することで生じた炎は、燃焼室115内のガス、例えば水素に引火する。これにより、燃焼室115内のガスが燃焼する。また、点火装置140は、火花を発生させる火花発火装置(例えば点火プラグ)でもよい。
【0018】
吸気バルブ150は、水素を含む混合ガスを燃焼室115内に取り込むときに開くように構成されている。吸気バルブ150が開くことで、吸気ポート230からシリンダ110内に混合ガスが取り込まれる。また、排気バルブ160は、燃焼室115内で燃焼した燃焼ガスを燃焼室115外に排気するときに開くように構成されている。排気バルブ160が開くことで、シリンダ110内の燃焼ガスが排気ポート280に排出される。吸気バルブ150と、排気バルブ160とは、例えば、クランクシャフト130の角度に応じて動作する。
【0019】
ピストン120は、シリンダ110の軸方向に往復し、燃焼室115内のガスを圧縮する。ピストン120は、1往復すると、クランクシャフト130を1回回転させる。また、ピストン120は、例えば、燃焼室115内のガスが1回燃焼するときに2往復する。
【0020】
クランクシャフト130は、ピストン120の往復運動により回転させられ、発生した回転力を外部に伝達する。エンジン1000の回転速度は、単位時間あたりのクランクシャフト130の回転数を表す。また、エンジン1000の回転速度は、単位時間あたりのピストン120の往復回数を表す。
【0021】
水素噴射装置240は、吸気ポート230を流れる空気に水素を噴射するように構成されている。水素噴射装置240は、水素を噴射することで、空気と水素との混合ガスを生成する。生成された混合ガスは、シリンダ110に供給される。
【0022】
圧縮装置310は、エアーインレット210から取り込まれた空気を圧縮する。圧縮された空気は、吸気管220に排出される。圧縮装置310は、シャフト330により、排気タービン320と接続されている。シャフト330が回転することで、圧縮装置310は空気を圧縮する。
【0023】
排気タービン320は、シリンダ110から排出された燃焼ガスを、第2排気管270を介して取り込み、第1排気管260に排出する。排気タービン320は、燃焼ガスの流れを利用して、シャフト330を回転させる。
【0024】
エンジン1000は、第2排気管270と、第1排気管260とを接続する分岐管420を有してもよい。分岐管420は、排気タービン320を介さずに燃焼ガスを第2排気管270から第1排気管260に排出する。分岐管420には、分岐バルブ425が設けられている。分岐バルブ425は、第2排気管270から第1排気管260に排出する燃焼ガスの流量を調整する。分岐バルブ425は、分岐管420を通過する燃焼ガスの流量を調整することで、排気タービン320を通過する燃焼ガスの流量を調整する。これにより、分岐バルブ425は、排気タービン320がシャフト330に加える回転力を制御する。
【0025】
また、エンジン1000は、第2排気管270と、吸気管220とを接続する第1排気再循環管410を有してもよい。第1排気再循環管410は、燃焼ガスを第2排気管270から吸気管220に排出し、例えばHP-EGR(High Pressure loop Exhaust Gas Recirculation)として機能する。第1排気再循環管410には、通過する燃焼ガスの流量を調整する第1排気再循環バルブ415が設けられている。また、第1排気再循環管410には、通過する燃焼ガスを冷却する再循環冷却装置が設けられてもよい。
【0026】
エンジン1000は、第1排気管260と、エアーインレット210とを接続する第2排気再循環管430を有してもよい。第2排気再循環管430は、燃焼ガスを第1排気管260からエアーインレット210に排出し、例えばLP-EGR(Low Pressure loop Exhaust Gas Recirculation)として機能する。第2排気再循環管430には、通過する燃焼ガスの流量を調整する第2排気再循環バルブ435が設けられている。また、第2排気再循環管430には、通過する燃焼ガスを冷却する再循環冷却装置が設けられてもよい。
【0027】
また、圧縮装置310と吸気ポート230とを接続する吸気管220に、インタークーラが設けられてもよい。また、エアーインレット210に、外部から取り込む空気から異物、例えば砂塵などを除去するエアーフィルタが設けられてもよい。また、第1排気管260に、燃焼ガスから有害物質を除去する除去装置、例えば触媒、ディーゼル微粒子捕集フィルタ(Diesel Particulate Filter;DPF)が設けられてもよい。
【0028】
センサ170は、エンジン1000の状態を測定する。例えば、センサ170は、クランクシャフト130の回転速度を測定する回転センサ170-1を備える。回転センサ170-1は、クランクシャフト130の回転角度、例えばピストン120が上死点の位置にあるときを「0」度としたときの回転角度を測定してもよい。
【0029】
また、センサ170は、エンジン1000内のガス、例えば混合ガスと、燃焼ガスとの状態、例えば圧力の大きさを表す圧力値と温度とを測定する。例えば、センサ170は、シリンダ110に供給される混合ガスの圧力値を測定するように構成された吸気圧力センサ170-2を備える。また、センサ170は、シリンダ110に供給される混合ガスの温度を測定するように構成された吸気温度センサ170-3を備える。吸気温度センサ170-3は、混合ガスの温度を決定するために、吸気ポート230の壁面の温度を測定してもよい。吸気圧力センサ170-2と、吸気温度センサ170-3とは、例えば吸気ポート230に設けられている。吸気圧力センサ170-2と、吸気温度センサ170-3とは、吸気管220に設けられてもよい。
【0030】
また、センサ170は、燃焼室115内のガス、例えば混合ガスと燃焼ガスとの圧力値を測定するように構成されたシリンダ内圧力センサ170-4を有してもよい。シリンダ内圧力センサ170-4は、ピストン120が上死点の位置にあるときに、燃焼室115内のガスの圧力値を測定できる位置に設けられている。例えば、シリンダ内圧力センサ170-4は、シリンダ110内において、上方、例えば吸気バルブ150または排気バルブ160の近くに配置されている。
【0031】
また、センサ170は、シリンダ110から排出される燃焼ガスの圧力値を測定するように構成された排気圧力センサ170-5を有してもよい。また、センサ170は、シリンダ110から排出される燃焼ガスの温度を測定するように構成された排気温度センサ170-6を有してもよい。排気温度センサ170-6は、燃焼ガスの温度を決定するために、排気ポート280の壁面の温度を測定してもよい。排気圧力センサ170-5と、排気温度センサ170-6とは、例えば排気ポート280に設けられている。排気圧力センサ170-5と、排気温度センサ170-6とは、第2排気管270に設けられてもよい。
【0032】
エンジン1000は、さらに、
図2に示す制御装置500を備える。制御装置500は、エンジン1000の動作を制御する。制御装置500は、例えば、演算装置520と、通信装置530と、記憶装置540とを備える。通信装置530は、エンジン1000に設けられた各々の装置との通信を行う。例えば、通信装置530は、センサ170により測定された情報を表す信号を取得する。また、通信装置530は、燃焼室115内のガスを点火するための信号を点火装置140に出力する。通信装置530は、圧縮装置310による空気の圧縮率を制御するための信号を出力してもよい。通信装置530は、例えば、エンジン1000が搭載された装置、例えば車両のCAN(Controller Area Network)で規定されたシリアル通信プロトコルに準拠する信号を送受信してもよい。また、通信装置530は、外部の端末と通信するためのNIC(Network Interface Card)、USB(Universal Serial Bus)などの種々のインタフェースを含んでもよい。
【0033】
記憶装置540は、エンジン1000を制御するための様々なデータ、例えば制御プログラム600と、自着火温度データ610とを格納する。記憶装置540は、制御プログラム600を記憶する非一時的記憶媒体(non-transitory tangible storage medium)として用いられる。制御プログラム600は、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体1に記録されたコンピュータプログラム製品(computer program product)として提供されてもよく、または、サーバからダウンロード可能なコンピュータプログラム製品として提供されてもよい。
【0034】
自着火温度データ610は、燃焼室115内のガスの圧力値と、燃焼室115内のガスの水素当量比と、エンジン1000の回転速度とに基づき決定される第1基準値を表す。この第1基準値は、水素が自然発火する着火点に応じて表される。水素の着火点は、
図3に示すように、水素当量比と、圧力値とに応じて変化する。例えば、第1自着火線910は、圧力値が10Mpaであるときの、水素当量比と、着火点との関係を表す。また、第2自着火線920は、圧力値が5Mpaであるときの、水素当量比と、着火点との関係を表す。また、水素が自然着火するとき、温度が着火点に達してから自然着火するまでに所定の時間を必要とする。
【0035】
一方、
図1に示す燃焼室115におけるガスの圧力値と温度とは、ピストン120が上下に移動しているため、時間とともに変化する。ここで、ピストン120が上死点の位置にあるときを中心とする所定の期間、例えばクランク確度が-30度から30度の期間が、圧力値と温度とが最も高くなる期間として設定される。自着火温度データ610は、この期間において、水素が着火するときのガスの圧力値と、水素当量比と、温度との関係を表す。例えば、自着火温度データ610に表される第1基準値は、この期間において、ガスの圧力値と、水素当量比とに応じて決定される水素が着火する温度から、所定の値を減算した値を表す。減算される所定の値は、余裕をもって水素の着火を抑制することができるように設定される。
【0036】
例えば、自着火温度データ610に表される第1基準値は、
図3に示すように、水素当量比が大きくなると水素の着火点が小さくなるため、小さくなる。また、この第1基準値は、圧力値が大きくなると、小さくなる。また、エンジン1000の回転速度が大きくなると圧力値と温度とが最も高くなる期間が短くなるため、第1基準値は、回転速度が大きくなると、大きくなる。このように、自着火温度データ610は、燃焼室115内のガスの圧力値と、水素当量比と、エンジン1000の回転速度とに応じた第1基準値を表す。自着火温度データ610は、シミュレーションにより決定されてもよく、水素の着火に関する試験により決定されてもよい。例えば自着火温度データ610は、ガスの圧力値と、水素当量比と、エンジン1000の回転速度とを引数として第1基準値を出力するルックアップテーブルを含んでもよい。
【0037】
図2に示す演算装置520は、制御プログラム600を記憶装置540から読み出し実行して、エンジン1000を制御するための様々なデータ処理を行う。例えば、演算装置520は、エレクトロニックコントロールユニット(ECU;Electronic Control Unit)などを含む。また、エレクトロニックコントロールユニットは、演算装置520と、記憶装置540とにより実現されてもよく、制御装置500により実現されてもよい。
【0038】
演算装置520は、制御プログラム600を読み出し実行することで、
図4に示すように、異常燃焼推定部550と、制御部560とを実現する。異常燃焼推定部550は、燃焼室115内のガスの圧力値と、水素当量比と、温度と、エンジン1000の回転速度とに基づき、異常燃焼の発生を推定する。制御部560は、異常燃焼の発生が推定されたとき、異常燃焼の発生を抑制するようにエンジン1000を制御する。
【0039】
異常燃焼推定部550は、温度推定部551と、基準値決定部552と、判定部553とを含む。温度推定部551は、ピストン120が上死点の位置にあるときのガスの温度を表す圧縮温度を推定する。基準値決定部552は、ガスの圧力値と、水素当量比と、エンジン1000の回転速度とに基づき、第1基準値を決定する。判定部553は、決定された第1基準値と推定された圧縮温度とを比較して異常燃焼の発生の有無を判定する。
【0040】
(エンジンの動作)
例えば、シリンダ110に取り込まれる混合ガスの温度と、シリンダ110に取り込まれる混合ガスの圧力値と、エンジン1000の回転数とに基づき、異常燃焼の発生の有無を推定する動作を説明する。エンジン1000が起動されると、演算装置520は、制御プログラム600を実行して、制御方法の一部である
図5に示す処理を実行する。演算装置520により実現される温度推定部551は、ステップS110において、混合ガスの温度に基づき、燃焼室115内のガスの圧縮温度を推定する。例えば、温度推定部551は、
図1に示す吸気温度センサ170-3が測定した温度を、シリンダ110に取り込まれる混合ガスの温度として取得する。例えば、温度推定部551は、吸気バルブ150が開いているときに測定された温度を、シリンダ110に取り込まれる混合ガスの温度として取得する。温度推定部551は、数式(1)に基づき、圧縮温度T
compを決定する。数式(1)は、熱力学第一法則と、理想気体の状態方程式と、ポリトロープの関係式とに基づき、導出される。
【数1】
ここで、T
inはシリンダ110に取り込まれる混合ガスの温度を表し、εは燃焼室115の幾何学圧縮比を表し、nはポリトロープ指数を表す。
【0041】
図5に示すステップS120において、基準値決定部552は、混合ガスの圧力値に基づき、ピストン120が上死点の位置にあるときの燃焼室115内の圧力値を表す圧縮圧力値を推定する。例えば、基準値決定部552は、
図1に示す吸気圧力センサ170-2が測定した圧力値を、シリンダ110に取り込まれる混合ガスの圧力値として取得する。例えば、基準値決定部552は、吸気バルブ150が開いているときに測定された圧力値を、シリンダ110に取り込まれる混合ガスの圧力値として取得する。基準値決定部552は、数式(2)に基づき、圧縮圧力値P
compを決定する。数式(2)は、熱力学第一法則と、理想気体の状態方程式と、ポリトロープの関係式とに基づき、導出される。
【数2】
ここで、P
inはシリンダ110に取り込まれる混合ガスの圧力値を表し、εは燃焼室115の幾何学圧縮比を表し、nはポリトロープ指数を表す。
【0042】
図5に示すステップS130において、基準値決定部552は、混合ガスの温度と、混合ガスの圧力値と、エンジン1000の回転速度とに基づき、燃焼室115内の水素当量比を決定する。例えば、基準値決定部552は、数式(3)を用いて水素当量比Φを決定する。
【数3】
ここで、λは空気過剰率を表し、G
Airはシリンダ110に供給される空気の質量流量を表す。G
fuelは、水素の質量流量を表し、演算装置520が水素噴射装置240に指示した水素の噴射量を指す。A
st_gasは、水素の理論混合比を表し、固定値である。
【0043】
このため、基準値決定部552は、空気の質量流量G
Airを、混合ガスの温度と、混合ガスの圧力値と、エンジン1000の回転速度に基づき決定する。例えば、基準値決定部552は、シリンダ110に取り込まれる混合ガスの温度と圧力値と、エンジン1000の回転速度とに基づき、空気の質量流量G
Airを決定する。例えば、基準値決定部552は、シリンダ110に取り込まれる混合ガスの温度と圧力値とには、ステップS110と、ステップS120とで用いられた値が用いられる。また、基準値決定部552は、回転センサ170-1から測定されたエンジン1000の回転速度を取得する。例えば、基準値決定部552は、空気の質量流量G
Airを、数式(4)を用いて決定する。数式(4)は、理想気体の状態方程式に基づき導出される。
【数4】
ここで、η
vcorは空気の体積効率を表し、V
swptはシリンダ110における総行程容積を表し、Rはガス定数を表し、Nはエンジン1000の回転速度を表す。P
inはシリンダ110に取り込まれる混合ガスの圧力値を表し、T
inはシリンダ110に取り込まれる混合ガスの温度を表す。ここで、体積効率η
vcorは、既知の方法により、混合ガスの圧力、水素の噴射量などから決定される。例えば、体積効率η
vcorは、エンジン1000の試験において、回転速度、水素噴射量、空気過剰率等を変化させて測定される空気流量に基づき算出される。Rは固定値、例えば287を示し、V
swptはエンジン1000におけるシリンダ110の個数と形状とに応じた固定値を示す。
【0044】
基準値決定部552は、決定された空気の質量流量GAirと、数式(3)とに基づき、燃焼室115内のガスの水素当量比を決定する。
【0045】
ステップS140において、基準値決定部552は、自着火温度データ610に基づき、第1基準値を決定する。例えば、基準値決定部552は、推定されたガスの圧力値Pcompと、水素当量比Φと、エンジン1000の回転速度Nとに対応する第1基準値を自着火温度データ610から取得する。
【0046】
ステップS150において、判定部553は、決定された圧縮温度Tcompと、第1基準値とに基づき、異常燃焼が発生するか否かを判定する。例えば、判定部553は、圧縮温度Tcompが第1基準値より大きいか否かを判定する。圧縮温度Tcompが第1基準値より大きいとき、判定部553は、異常燃焼が発生すると判定する。圧縮温度Tcompが第1基準値以下であるとき、判定部553は、異常燃焼が発生しないと判定する。異常燃焼が発生しないと判定されると、処理は、ステップS110に戻り、処理を繰り返す。異常燃焼が発生すると判定されると、処理はステップS160に移行する。
【0047】
ステップS160において、制御部560は、異常燃焼の発生を抑制するための第1制御信号を生成し、対応する装置に第1制御信号を出力する。例えば、制御部560は、点火装置140により混合ガスを点火する時期を遅らせるための第1制御信号を生成する。制御部560からの第1制御信号に応じて、点火装置140は、混合ガスを点火する時期を遅らせる。例えば、点火装置140は、パイロット液(例えば軽油)を噴射する時期を遅らせる。
【0048】
また、制御部560は、水素当量比を制御するための第1制御信号を生成してもよい。例えば、制御部560は、
図1に示す圧縮装置310による空気の圧縮率を高くするための第1制御信号を生成する。この場合、制御部560は、例えば、分岐バルブ425を通過する燃焼ガスが減少するための第1制御信号を生成する。分岐バルブ425は、第1制御信号を受信すると、通過する燃焼ガスが減少するように、燃焼ガスが流れる流路の断面積を小さくする。分岐バルブ425を通過する燃焼ガスが減少することで、排気タービン320を通過する燃焼ガスが増加する。排気タービン320を通過する燃焼ガスが増加することで、シャフト330の回転力が増加し、圧縮装置310による空気の圧縮率が増加する。吸気ポート230に流入する空気が増加するため、水素当量比が減少する。
【0049】
また、制御部560は、第1排気再循環バルブ415を通過する燃焼ガスが減少するための第1制御信号を生成してもよい。例えば、第1排気再循環バルブ415は、通過する燃焼ガスが減少するように、燃焼ガスが流れる流路の断面積を小さくする。第1排気再循環バルブ415を通過する燃焼ガスが減少することで、吸気ポート230に流入する空気が増加する。吸気ポート230に流入する空気が増加するため、水素当量比が減少する。
【0050】
また、制御部560は、水素噴射装置240から噴射される水素の噴射量を減少するための第1制御信号を生成してもよい。水素の噴射量を減少したとき、制御部560は、水素の減少に応じて、点火装置140から排出するパイロット液を増加する第2制御信号を生成してもよい。これにより、エンジン1000の出力を維持しつつ、異常燃焼の発生が抑制される。
【0051】
このように、制御装置500は、燃焼室115内のガスの温度と、第1基準値とを比較することで、異常燃焼の発生を推定する。異常燃焼が発生すると推定されると、制御装置500は、異常燃焼の発生を抑制するように、エンジン1000を制御する。これにより、制御装置500は、異常燃焼が発生する前に、異常燃焼の発生を抑制することができる。
【0052】
(実施の形態2)
例えば、異常燃焼の発生の有無は、シリンダ110内の圧力値と、シリンダ110に取り込まれる混合ガスの温度と、エンジン1000の回転速度とに基づき、判定されてもよい。この場合、エンジン1000の構成は、実施の形態1と同様のため、説明を省略する。
【0053】
(エンジンの動作)
例えば、
図5に示すステップS110において、シリンダ内圧力センサ170-4により測定された圧力値を用いて、温度推定部551は、圧縮温度T
compを推定する。例えば、温度推定部551は、数式(5)を用いて、圧縮温度T
compを推定する。数式(5)は、理想気体の状態方程式により導出される。
【数5】
ここで、P
compは、ピストン120が上死点の位置にあるときにシリンダ内圧力センサ170-4により測定された圧力値を表す。V
compは、ピストン120が上死点の位置にあるときの燃焼室115の容積を表し、シリンダ110の形状に応じた固定値を示す。R
gは、気体定数を表し、固定値、例えば8.314を示す。
【0054】
W
gは、作動ガス総モル数を表し、数式(6)により決定される。
【数6】
ここで、n
IVCは吸気バルブ150が閉じた時点におけるシリンダ110内の気体のモル数を表す。n
IVCは、理想気体の状態方程式に基づき導出される数式(7)により決定される。
【数7】
ここで、P
IVCは、吸気バルブ150を閉じた時点のシリンダ内の圧力値を表し、例えば吸気バルブ150を閉じた時点にシリンダ内圧力センサ170-4により測定された圧力値を示す。P
IVCは、吸気バルブ150が開いているときにシリンダ内圧力センサ170-4により測定された圧縮値を表してもよい。V
IVCは、吸気バルブ150を閉じた時点の燃焼室115の容量を表し、シリンダ110の形状と、クランクシャフト130の回転角度を表すクランク角度とに基づき決定される。T
in_cylは、吸気バルブ150を閉じた時点の燃焼室115内のガス、例えば混合ガスと燃焼ガスとの温度を表す。ここで、T
in_cylは、吸気バルブ150を閉じた時点に吸気温度センサ170-3により測定された温度T
inで代用する。T
in_cylは、吸気バルブ150が開いているときに吸気温度センサ170-3により測定された温度T
inで代用してもよい。
【0055】
図5に示すステップS120において、基準値決定部552は、シリンダ内圧力センサ170-4により測定された圧力値を圧縮圧力値P
compとして利用する。例えば、基準値決定部552は、ピストン120が上死点の位置にあるときに、シリンダ内圧力センサ170-4により測定された圧力値を圧縮圧力値P
compとして決定する。
【0056】
図5に示すステップS130において、基準値決定部552は、吸気バルブ150を閉じたときにシリンダ内圧力センサ170-4により測定された圧力値を用いて、水素当量比を決定する。例えば、基準値決定部552は、数式(4)において、シリンダ110に取り込まれる混合ガスの圧力値を表すP
inに、吸気バルブ150を閉じた時点にシリンダ内圧力センサ170-4により測定された圧力値P
IVCを用いる。P
inに、吸気バルブ150が開いているときにシリンダ内圧力センサ170-4により測定された圧力値を用いてもよい。これにより、基準値決定部552は、数式(3)と数式(4)とにより、水素当量比を決定する。
【0057】
ステップS140からステップS160の処理は、実施の形態1と同様のため、説明を省略する。
【0058】
このように、制御装置500は、シリンダ110内の圧力値と、シリンダ110に取り込まれる混合ガスの温度と、エンジン1000の回転速度とに基づき、異常燃焼の発生の有無を推定することができる。
【0059】
また、燃焼室115内の温度を表すT
in_cylは、シリンダ110に供給された混合ガスの温度と、シリンダ110から排出された燃焼ガスの温度とに基づき決定されてもよい。例えば、燃焼室115内において、混合ガスの温度がシリンダ110に供給された混合ガスの温度を表し、かつ、燃焼ガスの温度がシリンダ110から排出された燃焼ガスの温度を表すと仮定すると、シャルルの法則から、数式(8)が導出される。
【数8】
ここで、T
inは、シリンダ110に取り込まれる混合ガスの温度を表し、吸気バルブ150が開いている時点で吸気温度センサ170-3により測定された温度を表す。T
exは、シリンダ110から排気される燃焼ガスの温度を表し、排気バルブ160が開いているときに排気温度センサ170-6により測定された温度を表す。
【0060】
このように、制御装置500は、シリンダ110内の圧力値と、シリンダ110に取り込まれる混合ガスの温度と、シリンダ110から排出される燃焼ガスの温度と、エンジン1000の回転速度とに基づき、異常燃焼の発生の有無を推定してもよい。
【0061】
ここで、制御装置500の基準値決定部552は、シリンダ内圧力センサ170-4により測定される圧力値のゼロ点補正を、吸気圧力センサ170-2により測定される圧力値を用いて行ってもよい。例えば、吸気バルブ150が開いているときに、シリンダ内圧力センサ170-4により測定される圧力値が吸気圧力センサ170-2により測定される圧力値と等しくなるように、基準値決定部552は、シリンダ内圧力センサ170-4により測定される圧力値の補正値を決定する。基準値決定部552は、シリンダ内圧力センサ170-4により測定された圧力値に補正値を加えることで、シリンダ110内の圧力値を取得する。
【0062】
また、基準値決定部552は、シリンダ内圧力センサ170-4により測定される圧力値のゼロ点補正を、排気圧力センサ170-5により測定される圧力値を用いて行ってもよい。また、基準値決定部552は、シリンダ内圧力センサ170-4により測定される圧力値のゼロ点補正を、吸気圧力センサ170-2と、排気圧力センサ170-5とにより測定される2つの圧力値を用いて行ってもよい。例えば、基準値決定部552は、吸気バルブ150が開いているときのシリンダ内圧力センサ170-4の圧力値と吸気圧力センサ170-2の圧力値との差と、排気バルブ160が開いているときのシリンダ内圧力センサ170-4の圧力値と排気圧力センサ170-5の圧力値との差との合計が最小になるように補正値を決定してもよい。
【0063】
(実施の形態3)
例えば、制御装置500の基準値決定部552は、混合ガスが燃焼する前に、シリンダ110に取り込まれる混合ガスが排気ポート280に吹き抜ける吹き抜け量を推定して、水素当量比を決定してもよい。この場合、エンジン1000の構成は、実施の形態1と同様のため、説明を省略する。
【0064】
(エンジンの動作)
図5に示すステップS110と、ステップS120との処理は、実施の形態1、または、実施の形態2と同様のため、説明を省略する。
【0065】
ステップS130において、基準値決定部552は、数式(9)により、水素当量比Φを決定する。
【数9】
ここで、n
short_ratioは、シリンダ110に供給される混合ガスに対して、燃焼前に排気ポート280に吹き抜ける気体、例えば混合ガスと燃焼ガスとの割合を表し、数式(10)により算出される。
【数10】
ここで、n
shortは、燃焼前に排気ポート280に吹き抜ける気体のモル数を表す。n
airは、シリンダ110に供給される空気のモル数を表し、吸気バルブ150が開いている時点の吸気ポート230における混合ガスの温度と圧力とに基づき決定される。n
fuelは、シリンダ110に供給される水素のモル数を表し、制御装置500が水素噴射装置240に指示した水素の噴射量に基づき決定される。
【0066】
n
shortは、数式(11)により算出される。
【数11】
ここで、n
IVCは、シリンダ110内のガスのモル数を表し、数式(7)により決定される。n
resは、シリンダ110内に残留する燃焼ガスのモル数を表し、数式(12)により決定される。数式(12)は、理想気体の状態方程式に基づき、ピストン120が上死点の位置にあるときの燃焼ガスのモル数を表す。
【数12】
ここで、P
exは、シリンダ110から排出される燃焼ガスの圧力を表し、排気バルブ160が開いている時点に排気圧力センサ170-5により測定される圧力値を示す。P
exは、排気バルブ160が開いている時点にシリンダ内圧力センサ170-4により測定される圧力値を用いてもよい。V
compはクランク角度が0度における燃焼室115の容積を表す。R
gは気体定数を表す。T
exは、シリンダ110から排出される燃焼ガスの温度を表し、排気バルブ160が開いている時点に排気温度センサ170-6により測定される温度を示す。
【0067】
このように、基準値決定部552は、水素当量比を、吸気圧力センサ170-2と、吸気温度センサ170-3と、排気圧力センサ170-5と、排気温度センサ170-6とにより測定される値を用いて、水素当量比を決定する。また、基準値決定部552は、水素当量比を、シリンダ内圧力センサ170-4と、吸気温度センサ170-3と、排気温度センサ170-6とにより測定される値を用いて、水素当量比を決定してもよい。
【0068】
ステップS140からステップS160の処理は、実施の形態1と同様のため、説明を省略する。
【0069】
このように、制御装置500は、混合ガスが燃焼する前に、シリンダ110に取り込まれる混合ガスが排気ポート280に吹き抜ける吹き抜け量を考慮して、異常燃焼の発生の有無を推定することができる。
【0070】
また、制御装置500は、
図1に示す第1排気再循環管410、または/および、第2排気再循環管430を通過する燃焼ガスの流量を考慮して、異常燃焼の発生の有無を推定してもよい。この場合、制御装置500は、
図5に示すステップS130において、第1排気再循環管410、または/および、第2排気再循環管430を通過する燃焼ガスの流量を用いて、水素当量比を決定する。例えば、制御装置500は、数式(10)と数式(11)とを、第1排気再循環管410、または/および、第2排気再循環管430を通過する燃焼ガスのモル数を加えた数式に変更して、水素当量比を決定する。この場合、エンジン1000は、第1排気再循環管410、または/および、第2排気再循環管430を通過する燃焼ガスの流量を測定する流量測定装置を有する。
【0071】
(実施の形態4)
発明者は、ピストン120が上死点の位置にあるときの燃焼室115内の温度が低い場合であっても、異常燃焼が生じる場合があることを見い出した。この場合、混合ガスが燃焼している期間の燃焼室115内の温度が、正常燃焼しているときより高い。例えば、
図6に示すように、混合ガスが燃焼している燃焼期間930において、異常燃焼が生じる前の燃焼室115内の温度は、正常に混合ガスが燃焼しているときの温度より高くなる。このため、エンジン1000は、
図7に示すように、燃焼室115内の温度に対応する温度を測定する燃焼室温度センサ170-7を備える。燃焼室温度センサ170-7は、例えば、シリンダ110の壁面外側に設けられている。また、燃焼室温度センサ170-7は、燃焼室115内の温度に対応する温度を測定できる任意の位置、例えばシリンダ110内などに設けられてもよい。
【0072】
また、
図4に示す温度推定部551は、燃焼室温度センサ170-7により測定される温度に基づき、燃焼期間930における燃焼ガスの温度を決定する。基準値決定部552は、混合ガスの温度と水素当量比と、エンジン1000の回転速度とに基づき、燃焼期間930における燃焼ガスの温度と比較するための第2基準値を決定する。判定部553は、燃焼期間930における燃焼ガスの温度と、第2基準値とに基づき、異常燃焼が発生するかを判定する。制御部560は、異常燃焼が発生すると判定されたとき、異常燃焼を抑制するための制御を行う。
【0073】
その他の構成については、実施の形態1と同様のため、説明を省略する。
【0074】
(エンジンの動作)
実施の形態1の処理に、燃焼期間930における燃焼ガスの温度を用いた判定を加えたエンジン1000の制御方法を説明する。エンジン1000が起動されると、演算装置520は、制御プログラム600を実行して、制御方法の一部である
図8Aと、
図8Bとに示す処理を実行する。ステップS110からステップS140の処理は、実施の形態1と同様のため、説明を省略する。
【0075】
ステップS150において、判定部553は、決定された圧縮温度T
compと、第1基準値とに基づき、異常燃焼が発生するか否かを判定する。例えば、判定部553は、圧縮温度T
compが第1基準値より大きいか否かを判定する。圧縮温度T
compが第1基準値より大きいとき、判定部553は、異常燃焼が発生すると判定する。圧縮温度T
compが第1基準値以下であるとき、判定部553は、異常燃焼が発生しないと判定する。異常燃焼が発生すると判定されると、処理はステップS160に移行する。ステップS160の処理は、実施の形態1と同様のため、説明を省略する。異常燃焼が発生しないと判定されると、処理は
図8Bに示すステップS210に移行する。
【0076】
ステップS210において、温度推定部551は、燃焼室温度センサ170-7により測定された温度に基づき、燃焼期間930における燃焼ガスの平均温度を推定する。例えば、温度推定部551は、燃焼期間930において、燃焼室温度センサ170-7により測定された温度の平均値を、燃焼ガスの平均温度として推定する。ここで、燃焼期間930は、混合ガスが燃焼する期間を表し、予め決められている。
【0077】
ステップS220において、基準値決定部552は、第1基準値に基づき、燃焼期間930における燃焼ガスの平均温度と比較するための第2基準値を決定する。第2基準値は、水素が自然発火する着火点に応じた第1基準値に、所定の係数を乗算し、所定の値を減算することで決定される。乗算される係数は、混合ガスが正常燃焼するときに、燃焼期間930における燃焼ガスの平均温度と、ピストン120が上死点の位置にあるときの燃焼室115内のガスの圧縮温度とに基づき決定される。係数は、例えば燃焼期間930における燃焼ガスの平均温度を圧縮温度で除算した値を表す。係数は、試験やシミュレーションなどにより、予め決められた固定値でもよい。また、係数に用いられる平均温度と圧縮温度とは、シリンダ110に供給されるガスに水素を噴射せずに、パイロット液(例えば軽油)のみで燃焼するときに測定された温度でもよい。また、減算される所定の値は、余裕をもって水素の着火を抑制することができるように設定される。
【0078】
ステップS230において、判定部553は、燃焼期間930における燃焼ガスの平均温度と、第2基準値とに基づき、異常燃焼が発生するか否かを判定する。例えば、判定部553は、平均温度が第2基準値より大きいか否かを判定する。平均温度が第2基準値より大きいとき、判定部553は、異常燃焼が発生すると判定する。平均温度が第2基準値以下であるとき、判定部553は、異常燃焼が発生しないと判定する。異常燃焼が発生しないと判定されると、処理は、
図8Aに示すステップS110に戻り、処理を繰り返す。異常燃焼が発生すると判定されると、処理はステップS240に移行する。
【0079】
ステップS240において、制御部560は、異常燃焼の発生を抑制するための第1制御信号を生成し、対応する装置に第1制御信号を出力する。ステップS240の処理は、ステップS160の処理と同様のため、詳細な説明を省略する。
【0080】
このように、エンジン1000は、ピストン120が上死点の位置にあるときの燃焼室115内の温度が低いときに発生する異常燃焼を抑制することができる。
【0081】
(変形例)
実施の形態において説明した構成は一例であり、機能を阻害しない範囲で構成を変更することができる。例えば、
図5に示すステップS140において、基準値決定部552は、燃焼室115内のガスの圧力値と、燃焼室115内のガスの水素当量比と、エンジン1000の回転速度とを用いた演算処理により第1基準値を決定してもよい。この場合、自着火温度データ610は省略されてもよい。
【0082】
また、基準値決定部552は、圧縮温度Tcompと大小関係を比較するための第1基準値を決定する例を示したがこれに限定されない。基準値決定部552は、判定部553が圧縮温度Tcompと比較して異常燃焼の発生の有無を推定できる第1基準値を決定してもよい。例えば、基準値決定部552は、燃焼室115内のガスの圧力値と、燃焼室115内のガスの水素当量比と、エンジン1000の回転速度とに基づき、水素が着火する温度を第1基準値として決定してもよい。この場合、判定部553は、圧縮温度Tcompと第1基準値との差が所定の値より小さいとき、異常燃焼が発生すると推定する。
【0083】
図8Bに示すステップS220において、基準値決定部552は、燃焼期間930における燃焼ガスの平均温度と大小関係を比較するための第2基準値を決定する例を示したがこれに限定されない。基準値決定部552は、判定部553が平均温度と比較して異常燃焼の発生の有無を推定できる第2基準値を決定してもよい。例えば、基準値決定部552は、第1基準値、または、水素が着火する温度を、混合ガスが正常燃焼するときの圧縮温度で除算した第2基準値を決定してもよい。この場合、判定部553は、燃焼期間930における平均温度を、混合ガスが正常燃焼するときの燃焼期間930における平均温度で除算した評価値を決定する。第2基準値と評価値との差が所定の値より小さいとき、判定部553は、異常燃焼が発生すると推定する。
【0084】
シリンダ110に供給される混合ガスは、水素以外の燃料を含んでもよい。例えば、
図1に示す吸気ポート230に水素以外の燃料を噴射する燃料噴射装置が設けられてもよい。この場合、制御装置500の制御部560は、水素噴射装置240から噴射される水素の噴射量を減少させるための第1制御信号を生成するとき、水素の減少量に応じて、シリンダ110内における水素を除く燃料、例えばパイロット液の噴射量を増加させる第2制御信号を生成してもよい。これにより、エンジン1000の出力を維持しつつ、異常燃焼の発生が抑制される。
【0085】
エンジン1000は、複数のシリンダ110を備え、吸気管220と吸気ポート230との間にインテークマニホールドを備えてもよい。この場合、吸気圧力センサ170-2と、吸気温度センサ170-3とは、吸気ポート230と、吸気管220とのいずれに設けられてもよい。
【0086】
また、エンジン1000は、排気ポート280と、第2排気管270との間にエキゾーストマニホールドを備えてもよい。この場合、排気圧力センサ170-5と、排気温度センサ170-6とは、排気ポート280と、第2排気管270とのいずれに設けられてもよい。
【0087】
また、ピストン120は、燃焼室115内のガスが1回燃焼するときに1往復してもよい。この場合、基準値決定部552は、数式(4)を用いてGAirを算出するとき、数式(4)の右辺を2倍した数式でGAirを算出する。
【0088】
以上において説明した実施の形態および変形例は一例であり、各実施の形態および変形例で説明した構成は、機能を阻害しない範囲で、任意に変更してもよく、または/および、任意に組み合わせてもよい。さらに、必要となる機能を実現できれば、実施の形態および変形例で説明した一部の機能を省略してもよい。例えば、圧縮装置310と、第1排気再循環管410と、第2排気再循環管430とのすべて、または、一部が省略されてもよい。圧縮装置310が省略されるとき、排気タービン320と、シャフト330と、分岐管420とも省略される。
【0089】
また、制御装置500の演算装置520の処理で使用されない値を測定するセンサ170を省略してもよい。
【0090】
(付記)
各実施の形態で記載したエンジンと、制御装置と、制御プログラムとは以下のように言うことができる。
【0091】
第1の態様に係るエンジンは、
内部で水素を含む混合ガスを燃焼するシリンダと、
前記シリンダ内で往復運動するピストンと、
前記混合ガスに点火する点火装置と、
クランクシャフトの回転速度を測定する回転センサと、
前記混合ガスの温度を測定する吸気温度センサと、
前記混合ガスの第1圧力値を測定する吸気圧力センサと、
前記回転速度と、前記混合ガスの温度と、前記混合ガスの第1圧力値とに基づき、前記混合ガスに含まれる前記水素の水素当量比、または/および、前記混合ガスの点火する時期を制御する制御装置と、
を備える。
【0092】
第2の態様に係るエンジンは、第1の態様に係るエンジンであって、
前記制御装置は、
前記回転速度と、前記混合ガスの温度と、前記混合ガスの前記第1圧力値とに基づき、前記混合ガスの異常燃焼の発生を推定する異常燃焼推定部と、
前記異常燃焼の発生が推定されたとき、前記混合ガスに含まれる前記水素の前記水素当量比、または/および、前記混合ガスの点火する時期を制御する第1制御信号を出力する制御部と、
を備える。
【0093】
第3の態様に係るエンジンは、第2の態様に係るエンジンであって、
前記異常燃焼推定部は、
前記混合ガスの温度に基づき、前記シリンダ内の圧縮温度を推定する温度推定部と、
前記回転速度と、前記混合ガスの温度と、前記混合ガスの前記第1圧力値とに基づき、第1基準値を決定する基準値決定部と、
前記第1基準値と、前記圧縮温度とを比較して、前記混合ガスの異常燃焼の発生を判定する判定部と、
を備える。
【0094】
第4の態様に係るエンジンは、第1の態様に係るエンジンであって、
前記シリンダ内のガスの第2圧力値を測定するシリンダ内圧力センサを備え、
前記制御装置は、
前記回転速度と、前記シリンダ内のガスの前記第2圧力値と、前記混合ガスの温度とに基づき、前記混合ガスの異常燃焼の発生を推定する異常燃焼推定部と、
前記異常燃焼の発生が推定されたとき、前記混合ガスに含まれる前記水素の前記水素当量比、または/および、前記混合ガスの点火する時期を制御する第1制御信号を出力する制御部と、
を備える。
【0095】
第5の態様に係るエンジンは、第4の態様に係るエンジンであって、
前記異常燃焼推定部は、
前記混合ガスの温度に基づき、前記シリンダ内の圧縮温度を推定する温度推定部と、
前記回転速度と、前記混合ガスの温度と、前記シリンダ内のガスの前記第2圧力値とに基づき、第1基準値を決定する基準値決定部と、
前記第1基準値と、前記圧縮温度とを比較して、前記混合ガスの異常燃焼の発生を判定する判定部と、
を備える。
【0096】
第6の態様に係るエンジンは、第5の態様に係るエンジンであって、
前記温度推定部は、前記混合ガスの温度と、前記シリンダ内のガスの前記第2圧力値とに基づき、前記圧縮温度を推定する。
【0097】
第7の態様に係るエンジンは、第3と、5と、6とのいずれか1つの態様に係るエンジンであって、
前記シリンダ内には、ガスの温度を測定する燃焼室温度センサを備え、
前記温度推定部は、前記燃焼室温度センサにより測定された温度に基づき、前記混合ガスが燃焼している燃焼期間における前記シリンダ内のガスの平均温度を推定し、
前記基準値決定部は、前記第1基準値と、前記混合ガスが正常燃焼するときにおける前記ピストンが上死点にあるときの前記シリンダ内の温度とに基づき、第2基準値を決定することと、
前記判定部は、前記第2基準値と、前記平均温度とを比較して、前記混合ガスの異常燃焼の発生を判定する。
【0098】
第8の態様に係るエンジンは、第2から7のいずれか1つの態様に係るエンジンであって、
前記制御部は、前記異常燃焼の発生が推定されたときに、
前記水素当量比を減少するための第1制御信号を生成し、
前記水素当量比の減少に応じて前記シリンダ内における前記水素を除く燃料の量を増加する第2制御信号を生成する。
【0099】
第9の態様に係るエンジンは、第1から8のいずえか1つの態様に係るエンジンであって、
前記混合ガスに前記水素が噴射される前の空気を圧縮する圧縮装置を備え、
前記制御装置は、前記回転速度と、前記混合ガスの温度と、前記混合ガスの前記第1圧力値とに基づき、前記圧縮装置による前記空気の圧縮比を増加させるための第1制御信号を生成する。
【0100】
第10の態様に係る制御装置は、
エンジンに含まれるシリンダ内のガスの圧縮圧力と、前記シリンダ内のガスの圧縮温度と、前記シリンダ内のガスの水素当量比と、前記エンジンの回転速度とに基づき、前記シリンダにおける異常燃焼の発生を推定する異常燃焼推定部と、
前記異常燃焼の発生が推定されたときに、前記水素当量比、または、前記シリンダ内のガスの点火する時期を制御する第1制御信号を生成する制御部と、
を備える。
【0101】
第11の態様に係る制御装置は、第10の態様に係る制御装置であって、
前記圧縮圧力は、前記シリンダの内部に含まれるピストンが上死点にあるときに、前記シリンダ内におけるガスの圧力を表し、
前記圧縮温度は、前記シリンダの内部に含まれるピストンが上死点にあるときに、前記シリンダ内におけるガスの温度を表す。
【0102】
第12の態様に係る制御装置は、第10または第11の態様に係るエンジンであって、
前記異常燃焼推定部は、
前記エンジン内のガスの温度に基づき、前記圧縮温度を推定する温度推定部と、
第1基準値を決定する基準値決定部と、
前記第1基準値と、前記圧縮温度とを比較して、前記シリンダ内のガスの異常燃焼の発生を判定する判定部と、
を備え、
前記基準値決定部は、
前記エンジン内のガスの圧力値に基づき、前記圧縮圧力を決定し、
前記エンジン内のガスの温度と圧力値と、前記エンジンの回転数とに基づき、前記水素当量比を決定し、
前記圧縮圧力と、前記水素当量比と、前記エンジンの回転数とに基づき、前記第1基準値を決定する。
【0103】
第13の態様に係る制御プログラムは、
エンジンに含まれるシリンダ内のガスの圧縮圧力と、前記シリンダ内のガスの圧縮温度と、前記シリンダ内のガスの水素当量比と、前記エンジンの回転速度とに基づき、前記シリンダにおける異常燃焼の発生を推定することと、
前記異常燃焼の発生が推定されたときに、前記水素当量比、または、前記シリンダ内のガスの点火する時期を制御する第1制御信号を生成することと、
を演算装置に実行させる。
【符号の説明】
【0104】
1 :記憶媒体
110 :シリンダ
115 :燃焼室
120 :ピストン
130 :クランクシャフト
140 :点火装置
150 :吸気バルブ
160 :排気バルブ
170 :センサ
170-1:回転センサ
170-2:吸気圧力センサ
170-3:吸気温度センサ
170-4:シリンダ内圧力センサ
170-5:排気圧力センサ
170-6:排気温度センサ
170-7:燃焼室温度センサ
210 :エアーインレット
220 :吸気管
230 :吸気ポート
240 :水素噴射装置
260 :第1排気管
270 :第2排気管
280 :排気ポート
310 :圧縮装置
320 :排気タービン
330 :シャフト
410 :第1排気再循環管
415 :第1排気再循環バルブ
420 :分岐管
425 :分岐バルブ
430 :第2排気再循環管
435 :第2排気再循環バルブ
500 :制御装置
520 :演算装置
530 :通信装置
540 :記憶装置
550 :異常燃焼推定部
551 :温度推定部
552 :基準値決定部
553 :判定部
560 :制御部
600 :制御プログラム
610 :自着火温度データ
910 :第1自着火線
920 :第2自着火線
930 :燃焼期間
1000 :エンジン
N :エンジンの回転速度
Tcomp :圧縮温度
Pcomp :圧縮圧力値
Φ :水素当量比