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特開2024-27933ナノ構造体、細菌凝集剤、細菌検出剤、グラム陰性菌検出剤、細菌検出キット、グラム陰性菌検出キット、細菌を凝集する方法、細菌検出方法、グラム陰性菌検出方法、ナノ前駆構造体、及びナノ構造体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027933
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】ナノ構造体、細菌凝集剤、細菌検出剤、グラム陰性菌検出剤、細菌検出キット、グラム陰性菌検出キット、細菌を凝集する方法、細菌検出方法、グラム陰性菌検出方法、ナノ前駆構造体、及びナノ構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/04 20060101AFI20240222BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
C12Q1/04
G01N33/50 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】26
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022131134
(22)【出願日】2022-08-19
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 第37回シクロデキストリンシンポジウム講演要旨集にて公開 公開日 令和3年8月20日 第37回シクロデキストリンシンポジウムにてポスター発表 公開日 令和3年9月2日
(71)【出願人】
【識別番号】502350504
【氏名又は名称】学校法人上智学院
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】早下 隆士
(72)【発明者】
【氏名】橋本 剛
(72)【発明者】
【氏名】提箸 弘大
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
【Fターム(参考)】
2G045AA28
2G045CB21
2G045FB20
2G045GC30
4B063QA01
4B063QA18
4B063QA20
4B063QQ05
4B063QR81
4B063QS39
4B063QS40
4B063QX10
(57)【要約】
【課題】細菌を簡便で迅速に検出する技術を提供することにあり、必要に応じ、グラム陽性菌又はグラム陰性菌の何れの菌種であるのかも簡便で迅速に検出することができる技術を提供する。
【解決手段】細菌表面を認識し得る細菌表面認識部位と、
ナノ構造体の表面電荷を制御し得る表面電荷制御部位と
を含むナノ構造体。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細菌表面を認識し得る細菌表面認識部位と、
ナノ構造体の表面電荷を制御し得る表面電荷制御部位と
を含むナノ構造体。
【請求項2】
表面電荷制御部位は、カチオン性基、又はアニオン性基である、請求項1記載のナノ構造体。
【請求項3】
表面電荷制御部位は、カチオン性界面活性剤のカチオン性基、又はアニオン性界面活性剤のアニオン性基である、請求項1記載のナノ構造体。
【請求項4】
細菌表面認識部位は、ジピコリルアミノ基の金属錯体骨格、フェニルボロン酸骨格、イミノ二酢酸基の金属錯体骨格、グアニジノ基からなる群より選択される少なくとも1つを含む、請求項1記載のナノ構造体。
【請求項5】
ナノ構造体は、平均粒子径が5nm以上200nm以下の球状粒子又は略球状粒子である、請求項1記載のナノ構造体。
【請求項6】
ナノ構造体の基体は、シクロデキストリンナノゲル、シリカナノ粒子、デンドリマー、量子ドット、カーボンドット、及び金属ナノ粒子からなる群より選択される少なくとも1つを含む、請求項1記載のナノ構造体。
【請求項7】
ナノ構造体は、シクロデキストリンナノゲルにカチオン性界面活性剤又はアニオン性界面活性剤が包接された粒子である、請求項1記載のナノ構造体。
【請求項8】
ナノ構造体は、シクロデキストリンナノゲルにアニオン性界面活性剤が包接され、ジピコリルアミノ基の金属錯体骨格を有する粒子である、請求項1記載のナノ構造体。
【請求項9】
ナノ構造体の全量に対するアニオン性界面活性剤の添加量は、ナノ構造体のゼータ電位が負になる量である、請求項8記載のナノ構造体。
【請求項10】
グラム陰性菌を選択的に凝集するために用いられる、請求項8記載のナノ構造体。
【請求項11】
グラム陽性菌及び/又はグラム陰性菌を凝集するために用いられる、請求項1記載のナノ構造体。
【請求項12】
グラム陽性菌又はグラム陰性菌の何れであるかを識別するために用いられる、請求項1記載のナノ構造体。
【請求項13】
請求項1~12の何れか1項記載のナノ構造体を含む、細菌凝集剤。
【請求項14】
請求項1~12の何れか1項記載のナノ構造体を含む、細菌検出剤。
【請求項15】
請求項8~10の何れか1項記載のナノ構造体を含む、グラム陰性菌検出剤。
【請求項16】
請求項1~12の何れか1項記載のナノ構造体を含む、細菌検出キット。
【請求項17】
請求項8~10の何れか1項記載のナノ構造体を含む、グラム陰性菌検出キット。
【請求項18】
請求項1~12の何れか1項記載のナノ構造体を細菌に接触させることを含む、細菌を凝集する方法。
【請求項19】
請求項1~12の何れか1項記載のナノ構造体を試料に接触させる接触工程、及び
前記接触工程による前記ナノ構造体を含む凝集物の生成の有無を検知する検知工程
を含む、細菌検出方法。
【請求項20】
前記ナノ構造体を含む凝集物の生成が検知されるとき、前記試料中に細菌が存在すると判定し、前記ナノ構造体を含む凝集物の生成が検知されないとき、前記試料中に細菌が存在しないと判定する判定工程を更に含む、請求項19記載の細菌検出方法。
【請求項21】
請求項8~10の何れか1項記載のナノ構造体を細菌に接触させる接触工程、及び
前記接触工程による前記ナノ構造体を含む凝集物の生成の有無を検知する検知工程
を含む、グラム陰性菌検出方法。
【請求項22】
前記ナノ構造体を含む凝集物の生成が検知されるとき、前記試料中にグラム陰性菌が存在すると判定し、前記ナノ構造体を含む凝集物の生成が検知されないとき、前記試料中にグラム陰性菌が存在しないと判定する判定工程を更に含む、請求項21記載のグラム陰性菌検出方法。
【請求項23】
基体と、細菌表面を認識し得る細菌表面認識部位、又はジピコリルアミノ基と、を含むナノ前駆構造体であって、
前記基体の表面電荷を制御し得る表面電荷制御部位を導入するための、ナノ前駆構造体。
【請求項24】
請求項23記載のナノ前駆構造体に、表面電荷制御部位を導入することを含む、請求項1~12の何れか1項記載のナノ構造体の製造方法。
【請求項25】
請求項23記載のナノ前駆構造体に、カチオン性界面活性剤、又はアニオン性界面活性剤を添加することを含む、ナノ構造体の製造方法。
【請求項26】
前記ナノ構造体は、請求項1~12の何れか1項記載のナノ構造体である、請求項25記載のナノ構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ構造体、細菌凝集剤、細菌検出剤、グラム陰性菌検出剤、細菌検出キット、グラム陰性菌検出キット、細菌を凝集する方法、細菌検出方法、グラム陰性菌検出方法、ナノ前駆構造体、及びナノ構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食中毒、病院の院内感染等の健康被害の治療、食品や水の安全確保など様々な現場環境の衛生管理は極めて重要な課題であり、そのために細菌を検出する必要がある。
【0003】
本出願人は、細菌を検出する手法として、例えば、複数の細菌表面認識部位を固定化したナノ粒子を、細菌が存在する水等に投入し、当該細菌表面認識部位を介してナノ粒子とともに細菌を凝集させる技術を提案した(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-57956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、細菌検出を行う公定試験法は培養法によるものであり、結果が出るまでに2~10日程度の期間を要していた。これに対し、細菌を簡便で迅速に検出する手法が望まれてきた。
【0006】
また、細菌に対しては、細菌に薬剤耐性を獲得させないように、薬効範囲を狭めた抗生剤等の使用が望ましい。細菌は、グラム染色法により、グラム陽性菌とグラム陰性菌とに大別され、例えば抗生剤としても、グラム陽性菌用の抗生剤と、グラム陰性菌用の抗生剤とを選択できる場合がある。
【0007】
グラム陽性菌用の抗生剤又はグラム陰性菌用の抗生剤の何れを用いればよいのかを見極めるため、細菌がグラム陽性菌又はグラム陰性菌の何れの菌種であるのかを知ることができればよい。この菌種の識別には、従来、グラム染色法が用いられてきた。
【0008】
しかし、グラム染色法では、結果が出るまで時間を要し、例えば、細菌が問題となっている現場での識別を行うことができなかった。上記特許文献1記載の技術を用いても、菌種の識別は困難である。
【0009】
本発明の課題は、細菌を簡便で迅速に検出する技術を提供することにあり、必要に応じ、グラム陽性菌又はグラム陰性菌の何れの菌種であるのかも簡便で迅速に検出することができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の課題を達成すべく、本発明者らは、鋭意検討の結果、細菌表面を認識し得る細菌表面認識部位のみならず、ナノ構造体の表面電荷を制御し得る表面電荷制御部位をも含むナノ構造体とすることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]
細菌表面を認識し得る細菌表面認識部位と、
ナノ構造体の表面電荷を制御し得る表面電荷制御部位と
を含むナノ構造体。
[2]
表面電荷制御部位は、カチオン性基、又はアニオン性基である、上記[1]記載のナノ構造体。
[3]
表面電荷制御部位は、カチオン性界面活性剤のカチオン性基、又はアニオン性界面活性剤のアニオン性基である、上記[1]又は[2]記載のナノ構造体。
[4]
細菌表面認識部位は、ジピコリルアミノ基の金属錯体骨格、フェニルボロン酸骨格、イミノ二酢酸基の金属錯体骨格、グアニジノ基からなる群より選択される少なくとも1つを含む、上記[1]~[3]の何れか1項記載のナノ構造体。
[5]
ナノ構造体は、平均粒子径が5nm以上200nm以下の球状粒子又は略球状粒子である、上記[1]~[4]の何れか1項記載のナノ構造体。
[6]
ナノ構造体の基体は、シクロデキストリンナノゲル、シリカナノ粒子、デンドリマー、量子ドット、カーボンドット、及び金属ナノ粒子からなる群より選択される少なくとも1つを含む、上記[1]~[5]の何れか1項記載のナノ構造体。
[7]
ナノ構造体は、シクロデキストリンナノゲルにカチオン性界面活性剤又はアニオン性界面活性剤が包接された粒子である、上記[1]~[6]の何れか1項記載のナノ構造体。
[8]
ナノ構造体は、シクロデキストリンナノゲルにアニオン性界面活性剤が包接され、ジピコリルアミノ基の金属錯体骨格を有する粒子である、上記[1]~[7]の何れか1項記載のナノ構造体。
[9]
ナノ構造体の全量に対するアニオン性界面活性剤の添加量は、ナノ構造体のゼータ電位が負になる量である、上記[7]又は[8]記載のナノ構造体。
[10]
グラム陰性菌を選択的に凝集するために用いられる、上記[8]又は[9]記載のナノ構造体。
[11]
グラム陽性菌及び/又はグラム陰性菌を凝集するために用いられる、上記[1]~[9]の何れか1項記載のナノ構造体。
[12]
グラム陽性菌又はグラム陰性菌の何れであるかを識別するために用いられる、上記[1]~[11]の何れか1項記載のナノ構造体。
[13]
上記[1]~[12]の何れか1項記載のナノ構造体を含む、細菌凝集剤。
[14]
上記[1]~[12]の何れか1項記載のナノ構造体を含む、細菌検出剤。
[15]
上記[8]~[10]の何れか1項記載のナノ構造体を含む、グラム陰性菌検出剤。
[16]
上記[1]~[12]の何れか1項記載のナノ構造体を含む、細菌検出キット。
[17]
上記[8]~[10]の何れか1項記載のナノ構造体を含む、グラム陰性菌検出キット。
[18]
上記[1]~[12]の何れか1項記載のナノ構造体を細菌に接触させることを含む、細菌を凝集する方法。
[19]
上記[1]~[12]の何れか1項記載のナノ構造体を試料に接触させる接触工程、及び
上記接触工程による上記ナノ構造体を含む凝集物の生成の有無を検知する検知工程
を含む、細菌検出方法。
[20]
上記ナノ構造体を含む凝集物の生成が検知されるとき、上記試料中に細菌が存在すると判定し、上記ナノ構造体を含む凝集物の生成が検知されないとき、上記試料中に細菌が存在しないと判定する判定工程を更に含む、上記[19]記載の細菌検出方法。
[21]
上記[8]~[10]の何れか1項記載のナノ構造体を細菌に接触させる接触工程、及び
上記接触工程による上記ナノ構造体を含む凝集物の生成の有無を検知する検知工程
を含む、グラム陰性菌検出方法。
[22]
上記ナノ構造体を含む凝集物の生成が検知されるとき、上記試料中にグラム陰性菌が存在すると判定し、上記ナノ構造体を含む凝集物の生成が検知されないとき、上記試料中にグラム陰性菌が存在しないと判定する判定工程を更に含む、上記[21]記載のグラム陰性菌検出方法。
[23]
基体と、細菌表面を認識し得る細菌表面認識部位、又はジピコリルアミノ基と、を含むナノ前駆構造体であって、
上記基体の表面電荷を制御し得る表面電荷制御部位を導入するための、ナノ前駆構造体。
[24]
上記[23]記載のナノ前駆構造体に、表面電荷制御部位を導入することを含む、上記[1]~[12]の何れか1項記載のナノ構造体の製造方法。
[25]
上記[23]記載のナノ前駆構造体に、カチオン性界面活性剤、又はアニオン性界面活性剤を添加することを含む、ナノ構造体の製造方法。
[26]
上記ナノ構造体は、上記[1]~[12]の何れか1項記載のナノ構造体である、上記[25]記載のナノ構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、細菌を簡便で迅速に検出する技術を提供することにあり、必要に応じ、グラム陽性菌又はグラム陰性菌の何れの菌種であるのかも簡便で迅速に検出することができる技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例におけるナノ前駆構造体及びナノ構造体の構造、並びにナノ構造体が細菌を連結捕集する様子を模式的に示す図である。
図2】実施例におけるナノ前駆構造体及びナノ構造体の作製工程を模式的に示す図である。
図3】実施例におけるCTAB濃度を示す表と、CTAB導入による表面電位変化の結果を示すグラフである。
図4】実施例におけるCTAB導入による細菌凝集効果を示す蛍光顕微鏡写真である。
図5】実施例におけるCTAB導入による細菌凝集効果を濁度変化で示すグラフである。
図6】実施例におけるSDS濃度を示す表と、SDS導入による表面電位変化の結果を示すグラフである。
図7】実施例におけるSDS導入による細菌凝集効果を示す蛍光顕微鏡写真である。
図8】実施例におけるSDS導入による細菌凝集効果を濁度変化で示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。ただし、本発明は、下記実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施され得る。
【0015】
<ナノ構造体>
本発明のナノ構造体は、細菌表面を認識し得る細菌表面認識部位と、ナノ構造体の表面電荷を制御し得る表面電荷制御部位とを含む。本明細書において、「細菌表面を認識し得る細菌表面認識部位」を「細菌表面認識部位」と略称することがあり、「ナノ構造体の表面電荷を制御し得る表面電荷制御部位」を「表面電荷制御部位」と略称することがある。
【0016】
かかるナノ構造体は、細菌に接触させた場合、細菌表面認識部位が細菌表面の所定の部位、官能基等と物理的または化学的に相互作用することにより、細菌との結合ないし吸着による細菌の凝集を確実に可能にするとともに、かかる細菌凝集能を、表面電荷制御部位によりナノ構造体の表面電荷を制御することにより、調整することを可能にしたものである。
【0017】
細菌を凝集する観点で、ナノ構造体1つ当り、典型的にはナノ構造体1粒子当り、細菌表面認識部位を複数含み、及び/又は、表面電荷制御部位を複数含むことが好ましく、細菌表面認識部位及び表面電荷制御部位をそれぞれ複数含むことがより好ましい。なかでも、細菌表面認識部位を複数含むことにより、ナノ構造体は、細菌表面のリン酸基等の官能基を多点で認識できるので、細菌の凝集や連結捕集が容易となる。
【0018】
ナノ構造体による細菌の凝集は、典型的には、後述の図1の左側の模式図に示されるように、細菌が存在する試料にナノ構造体を添加する場合、ナノ構造体に含まれる複数の細菌表面認識部位がそれぞれ細菌の表面に結合することにより、細菌を連結捕集し、複数のナノ構造体と複数の細菌とを含む凝集体ないし凝集物が形成されることにより生じ得るが、かかる細菌凝集能を、ナノ構造体に含まれる表面電荷制御部位と細菌表面の負電荷との静電相互作用により調整することができる。
細菌の凝集が検知されるとき、細菌の存在を検出することができ、細菌の凝集が検知されないとき、細菌の不存在を検出することができる。
【0019】
ナノ構造体は、ナノメートルオーダーのサイズを有する構造体である。
ナノ構造体は、たとえば粒子状であり、より好ましくは、球状粒子又は略球状粒子である。ナノ構造体は、典型的には、ナノ粒子である。ナノ構造体の平均粒子径は、通常、後述するナノ構造体の基体の平均粒子径以上である。ナノ構造体の平均粒子径は、細菌内への取り込みを抑制する観点から、たとえば5nm以上、好ましくは10nm以上、より好ましくは20nm以上であり、また、細菌をより一層迅速に凝集する観点から、たとえば300nm以下、好ましくは200nm以下、より好ましくは150nm以下である。
【0020】
ナノ構造体は、基体上に細菌表面認識部位と表面電荷制御部位とを含む構造体であることが好ましく、基体上に細菌表面認識部位が固定化され、基体上に表面電荷制御部位を含む構造体であることがより好ましく、具体的には、基体上に細菌表面認識部位と表面電荷制御部位とが固定化された構造体であってもよいが、基体上に細菌表面認識部位が固定化され、基体上に表面電荷制御部位を提供する構造(例えば、後述のカチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤等)が包接された構造体であることが最も好ましい。
【0021】
[基体]
基体は、細菌を凝集するための基材として機能し得る。基体は、例えば、ナノメートルオーダーのサイズを有する粒状の材料により構成され、典型的には、ナノ粒子である。
【0022】
基体の平均粒子径は、細菌内への取り込みを抑制する観点から、たとえば5nm以上、好ましくは10nm以上、より好ましくは20nm以上であり、また、細菌をより一層迅速に凝集する観点から、たとえば300nm以下、好ましくは200nm以下、より好ましくは150nm以下である。
【0023】
基体およびナノ構造体の粒子径は、たとえば数平均であり、動的光散乱法又は複数の粒子の顕微鏡観察により得られる画像から各粒子の粒子径を測定することにより算出できるが、本明細書においては動的光散乱法(DLS)による測定値とする。
また、基体およびナノ構造体の粒子径は、凝集対象である細菌の形状、大きさ、性質等に応じて決めることもできる。
【0024】
基体は、一様な断面構造を有していてもよいし、コア-シェル構造等の複数の異なる構造領域を有していてもよい。また、基体は中空粒子および中実粒子のいずれであってもよく、またゲル粒子等の網目構造を有する粒子であってもよい。
【0025】
基体は、1種の材料から構成されていてもよいし、2種以上の材料から構成されていてもよい。
基体の材料としては、例えば、
ポリスチレン、シクロデキストリン、キトサン等の有機材料から構成される粒子;
シリカ、酸化チタン等の金属酸化物またはその他の無機粒子から構成される粒子;
ポリアミドアミンデンドリマー等のデンドリマー(樹木状高分子、樹状高分子);
コロイド状の量子ドット等の半導体結晶から構成される粒子;
カーボンドット;
金コロイド、銀コロイド等の金属コロイド、ないし金ナノ粒子、銀ナノ粒子等の金属ナノ粒子;
等が挙げられる。
【0026】
基体の材質としては、なかでも、シクロデキストリンナノゲル、シリカナノ粒子、デンドリマー、量子ドット、カーボンドット、及び金属ナノ粒子からなる群より選択される少なくとも1つを含むことが好ましく、シクロデキストリンナノゲル、及びシリカナノ粒子からなる群より選択される少なくとも1つを含むことがより好ましく、シクロデキストリンナノゲルが更に好ましい。シクロデキストリンナノゲルは、疎水的な空洞を有する構造として調製することができ、かかる空洞に後述のカチオン性界面活性剤又はアニオン性界面活性剤を包接することにより、表面電荷制御部位が導入されたナノ構造体を容易に得ることができる。
【0027】
シクロデキストリンナノゲルを形成するシクロデキストリン類には、未変性のシクロデキストリン(α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン等)のみならず、その立体異性体、その少なくとも一部のヒドロキシ基が誘導化された変性デキストリン等も含まれる。
【0028】
シクロデキストリン類としては、例えば、下記式(1)で表されるシクロデキストリン類が挙げられる。
【化1】
[式中、R、R及びRは、それぞれ独立して、置換基で置換されていてもよいヒドロキシ基、又は置換基でモノ又はジ置換されていてもよいアミノ基を示し、nは6~9の整数を示す。]
【0029】
式(1)のR、R及びRにおけるヒドロキシ基及びアミノ基の置換基としては、特に限定されるものではないが、例えば、C1-6アルキル基、C2-6アルケニル基、C6-10アリール基、C7-15アラルキル基、C1-6アルキル-カルボニル基、C2-6アルケニル-カルボニル基、C6-10アリール-カルボニル基、C7-15アラルキル-カルボニル基、C1-6アルキル-オキシ-カルボニル基、C2-6アルケニル-オキシ-カルボニル基、C6-10アリール-オキシ-カルボニル基、C7-15アラルキル-オキシ-カルボニル基等が挙げられる。
【0030】
シクロデキストリン類としては、具体的に、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン等の未変性のシクロデキストリン;3-アミノ-3-デオキシ-α-シクロデキストリン、3-アミノ-3-デオキシ-β-シクロデキストリン、3-アミノ-3-デオキシ-γ-シクロデキストリン、2-アミノ-2-デオキシ-α-シクロデキストリン、2-アミノ-2-デオキシ-β-シクロデキストリン、2-アミノ-2-デオキシ-γ-シクロデキストリン等のアミノ化シクロデキストリン等が挙げられる。シクロデキストリン類は、1種単独であってもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0031】
シクロデキストリンナノゲルは、複数のシクロデキストリン類の分子から形成されたポリシクロデキストリンを含むことが好ましく、複数のシクロデキストリン類の分子が架橋した構造を有するポリシクロデキストリンを含むことがより好ましく、水溶性の観点から、親水性構造を介してシクロデキストリン類の分子が架橋した構造を有することが更に好ましい。
【0032】
ポリシクロデキストリンの架橋構造を形成する親水性構造としては、例えば、ポリエーテル構造、ポリチオエーテル構造、ポリアミド構造等が挙げられるが、中でも、ポリエーテル構造が好ましい。
【0033】
ポリシクロデキストリンの架橋部位におけるポリエーテル構造は、例えば、下記式(2)で表される構造であり得る。
【化2】
[式中、X、Y及びZは、それぞれ独立して、ヒドロキシ基で置換されていてもよいC2-6アルキレン基を示し、mは、1~10の整数を示し、*は、シクロデキストリン類の酸素原子との結合部位を示す。]
【0034】
式(2)において、mは、1~5の整数であることが好ましく、1~3の整数であることがより好ましく、1であることが特に好ましい。
「C2-6アルキレン基」とは、炭素原子数2~6の直鎖、分枝鎖又は環状の2価の脂肪族飽和炭化水素基をいう。「C2-6アルキレン基」としては、例えば、-CH-CH-、-CH(CH)-、-CH-CH-CH-、-CH-CH(CH)-、-CH(CH)-CH-、-C(CH-、-CH-CH-CH-CH-、-CH-CH-CH(CH)-、-CH-CH(CH)-CH-、-CH(CH)-CH-CH-、-CH-C(CH-、-C(CH-CH-等が挙げられる。「C2-6アルキレン基」は、炭素原子数2又は3であるC2-3アルキレン基であることが好ましい。
【0035】
[表面電荷制御部位]
表面電荷制御部位は、ナノ構造体の表面電荷を制御し得る部位であり、通常、電荷を有する部位であり、好ましくは、カチオン性基、又はアニオン性基であり、より好ましくは、炭素骨格に結合したカチオン性基、又は炭素骨格に結合したアニオン性基であり、更に好ましくは、カチオン性界面活性剤のカチオン性基、又はアニオン性界面活性剤のアニオン性基である。尚、カチオン性界面活性剤、又はアニオン性界面活性剤は、後述の「表面電荷制御部位を提供する物質」に相当する。
【0036】
表面電荷制御部位におけるカチオン性基を構成するカチオンとしては、例えば、4級アンモニウムイオン(-NR )、ホスホニウムイオン(-PR )、ピリジニウムイオン(-C)等が挙げられる。表面電荷制御部位におけるアニオン性基を構成するアニオンとしては、例えば、硫酸イオン(-OSO )、スルホアニオン(-SO )、カルボン酸イオン(-COO)、リン酸イオン(-OPO 2-)等が挙げられる。ここで、Rは、置換基を有していてもよい炭化水素基等の有機基を示し、炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基等の脂肪族炭化水素基;フェニル基等の芳香族炭化水素基;ベンジル基等の脂肪族炭化水素基と芳香族炭化水素基との組合せ;等が挙げられる。
【0037】
表面電荷制御部位におけるカチオン性基は、好ましくは、カチオン性界面活性剤により提供されるカチオン性基であり、より好ましくは、ナノ構造体がカチオン性界面活性剤を含むことにより有することとなる。また、表面電荷制御部位におけるアニオン性基は、好ましくは、アニオン性界面活性剤により提供されるアニオン性基であり、より好ましくは、ナノ構造体がアニオン性界面活性剤を含むことにより有することとなる。
【0038】
カチオン性界面活性剤としては、例えば、アンモニウム系界面活性剤、ホスホニウム系界面活性剤、ピリジニウム系界面活性剤等が挙げられる。
【0039】
アンモニウム系界面活性剤としては、例えば、式:(R11(R124-s[式中、R11は直鎖のC8-22アルキル基又は直鎖のC8-22アルケニル基を示し、R12はC1-6アルキル基、C2-6アルケニル基、フェニル基又はベンジル基を示し、Aはアニオンを示し、sは1~3の整数を示す。]で表される4級アンモニウム塩が挙げられる。
【0040】
アンモニウム系界面活性剤としては、具体的に、ステアリルトリメチルアンモニウムブロミド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロリド、ステアリルトリメチルアンモニウムヨージド、セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)、セチルトリメチルアンモニウムクロリド、セチルトリメチルアンモニウムヨージド、ミリスチルトリメチルアンモニウムブロミド、ミリスチルトリメチルアンモニウムクロリド、ミリスチルトリメチルアンモニウムヨージド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ドデシルトリメチルアンモニウムヨージド、ドデシルエチルジメチルアンモニウムブロミド、ドデシルエチルジメチルアンモニウムクロリド、ドデシルエチルジメチルアンモニウムヨージド、デシルトリメチルアンモニウムブロミド、デシルトリメチルアンモニウムクロリド、デシルトリメチルアンモニウムヨージド、オクチルトリメチルアンモニウムブロミド、オクチルトリメチルアンモニウムクロリド、オクチルトリメチルアンモニウムヨージド等の長鎖モノアルキル4級アンモニウム塩;ジステアリルジメチルアンモニウムブロミド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロリド、ジステアリルジメチルアンモニウムヨージド、ジセチルジメチルアンモニウムブロミド、ジセチルジメチルアンモニウムクロリド、ジセチルジメチルアンモニウムヨージド、ジミリスチルジメチルアンモニウムブロミド、ジミリスチルジメチルアンモニウムクロリド、ジミリスチルジメチルアンモニウムヨージド、ジドデシルジメチルアンモニウムブロミド(DDAB)、ジドデシルジメチルアンモニウムクロリド、ジドデシルジメチルアンモニウムヨージド、ジデシルジメチルアンモニウムブロミド、ジデシルジメチルアンモニウムクロリド、ジデシルジメチルアンモニウムヨージド、ジオクチルジメチルアンモニウムブロミド、ジオクチルジメチルアンモニウムクロリド、ジオクチルジメチルアンモニウムヨージド等の長鎖ジアルキル4級アンモニウム塩;トリステアリルメチルアンモニウムブロミド、トリステアリルメチルアンモニウムクロリド、トリステアリルメチルアンモニウムヨージド、トリセチルメチルアンモニウムブロミド、トリセチルメチルアンモニウムクロリド、トリセチルメチルアンモニウムヨージド、トリミリスチルメチルアンモニウムブロミド、トリミリスチルメチルアンモニウムクロリド、トリミリスチルメチルアンモニウムヨージド、トリドデシルメチルアンモニウムブロミド、トリドデシルメチルアンモニウムクロリド、トリドデシルメチルアンモニウムヨージド、トリデシルメチルアンモニウムブロミド、トリデシルメチルアンモニウムクロリド、トリデシルメチルアンモニウムヨージド、トリオクチルメチルアンモニウムブロミド、トリオクチルメチルアンモニウムクロリド、トリオクチルメチルアンモニウムヨージド等の長鎖トリアルキル4級アンモニウム塩等が挙げられる。
【0041】
ホスホニウム系界面活性剤としては、例えば、式:(R11(R124-s[式中、R11は直鎖のC8-22アルキル基又は直鎖のC8-22アルケニル基を示し、R12はC1-6アルキル基、C2-6アルケニル基、フェニル基又はベンジル基を示し、Aはアニオンを示し、sは1~3の整数を示す。]で表される4級ホスホニウム塩が挙げられる。
【0042】
ホスホニウム系界面活性剤としては、具体的に、ステアリルトリメチルホスホニウムブロミド、ステアリルトリメチルホスホニウムクロリド、ステアリルトリメチルホスホニウムヨージド、セチルトリメチルホスホニウムブロミド、セチルトリメチルホスホニウムクロリド、セチルトリメチルホスホニウムヨージド、ミリスチルトリメチルホスホニウムブロミド、ミリスチルトリメチルホスホニウムクロリド、ミリスチルトリメチルホスホニウムヨージド、ドデシルトリメチルホスホニウムブロミド、ドデシルトリメチルホスホニウムクロリド、ドデシルトリメチルホスホニウムヨージド、ドデシルエチルジメチルホスホニウムブロミド、ドデシルエチルジメチルホスホニウムクロリド、ドデシルエチルジメチルホスホニウムヨージド、デシルトリメチルホスホニウムブロミド、デシルトリメチルホスホニウムクロリド、デシルトリメチルホスホニウムヨージド、オクチルトリメチルホスホニウムブロミド、オクチルトリメチルホスホニウムクロリド、オクチルトリメチルホスホニウムヨージド等の長鎖モノアルキル4級ホスホニウム塩;ジステアリルジメチルホスホニウムブロミド、ジステアリルジメチルホスホニウムクロリド、ジステアリルジメチルホスホニウムヨージド、ジセチルジメチルホスホニウムブロミド、ジセチルジメチルホスホニウムクロリド、ジセチルジメチルホスホニウムヨージド、ジミリスチルジメチルホスホニウムブロミド、ジミリスチルジメチルホスホニウムクロリド、ジミリスチルジメチルホスホニウムヨージド、ジドデシルジメチルホスホニウムブロミド、ジドデシルジメチルホスホニウムクロリド、ジドデシルジメチルホスホニウムヨージド、ジデシルジメチルホスホニウムブロミド、ジデシルジメチルホスホニウムクロリド、ジデシルジメチルホスホニウムヨージド、ジオクチルジメチルホスホニウムブロミド、ジオクチルジメチルホスホニウムクロリド、ジオクチルジメチルホスホニウムヨージド等の長鎖ジアルキル4級ホスホニウム塩;トリステアリルメチルホスホニウムブロミド、トリステアリルメチルホスホニウムクロリド、トリステアリルメチルホスホニウムヨージド、トリセチルメチルホスホニウムブロミド、トリセチルメチルホスホニウムクロリド、トリセチルメチルホスホニウムヨージド、トリミリスチルメチルホスホニウムブロミド、トリミリスチルメチルホスホニウムクロリド、トリミリスチルメチルホスホニウムヨージド、トリドデシルメチルホスホニウムブロミド、トリドデシルメチルホスホニウムクロリド、トリドデシルメチルホスホニウムヨージド、トリデシルメチルホスホニウムブロミド、トリデシルメチルホスホニウムクロリド、トリデシルメチルホスホニウムヨージド、トリオクチルメチルホスホニウムブロミド、トリオクチルメチルホスホニウムクロリド、トリオクチルメチルホスホニウムヨージド等の長鎖トリアルキル4級ホスホニウム塩等が挙げられる。
【0043】
ピリジニウム系界面活性剤としては、例えば、式:C13[式中、R13は直鎖のC8-22アルキル基又は直鎖のC8-22アルケニル基を示し、Aはアニオンを示す。]で表されるピリジニウム塩が挙げられる。
【0044】
ピリジニウム系界面活性剤としては、具体的に、ステアリルピリジニウムブロミド、ステアリルピリジニウムクロリド、ステアリルピリジニウムヨージド、セチルピリジニウムブロミド、セチルピリジニウムクロリド、セチルピリジニウムヨージド、ミリスチルピリジニウムブロミド、ミリスチルピリジニウムクロリド、ミリスチルピリジニウムヨージド、ドデシルピリジニウムブロミド、ドデシルピリジニウムクロリド、ドデシルピリジニウムヨージド、デシルピリジニウムブロミド、デシルピリジニウムクロリド、デシルピリジニウムヨージド、オクチルピリジニウムブロミド、オクチルピリジニウムクロリド、オクチルピリジニウムヨージド等の長鎖アルキルピリジニウム塩等が挙げられる。
【0045】
上記各カチオン性界面活性剤の一般式における「アニオン」としては、例えば、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン等のハロゲン化物イオン等が挙げられる。
【0046】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、硫酸塩型アニオン性界面活性剤、スルホン酸塩型アニオン性界面活性剤、カルボン酸塩型アニオン性界面活性剤、リン酸エステル型アニオン性界面活性剤、アミノ酸塩型アニオン性界面活性剤等が挙げられる。
【0047】
硫酸塩型アニオン性界面活性剤としては、例えば、アルキル硫酸塩(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム(SDS)等のラウリル硫酸塩)、アルケニル硫酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩(例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩)、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、グリセライド硫酸塩、アミドエーテル硫酸塩等の、硫酸残基を有するアニオン性界面活性剤が挙げられる。これらのうち、アルキル硫酸塩が好ましく、ラウリル硫酸塩がより好ましい。
【0048】
スルホン酸塩型アニオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩(例えば、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム等)、スルホコハク酸アルキルエステル塩、ポリオキシアルキレンスルホコハク酸アルキルエステル塩(例えば、ポリオキシエチレンスルホコハク酸ラウリル二ナトリウム等のポリオキシアルキレンスルホコハク酸ラウリル塩)、α-オレフィンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、α-スルホ脂肪酸エステル塩等のスルホン酸残基を有するアニオン性界面活性剤が挙げられる。これらのうち、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシアルキレンスルホコハク酸アルキルエステル塩が好ましい。
【0049】
カルボン酸塩型アニオン性界面活性剤としては、例えば、高級脂肪酸塩(例えば、炭素原子数10以上の脂肪酸塩)、アルキルエーテルカルボン酸塩等のカルボン酸残基を有するアニオン性界面活性剤が挙げられる。
【0050】
リン酸エステル型アニオン性界面活性剤としては、例えば、式:R-O-PO(OH)O[式中、Rは直鎖のC8-22アルキル基、直鎖のC8-22アルケニル基、ポリオキシアルキレンアルキル基、又はポリオキシアルキレンアルキルフェニル基を示し、Mはカチオンを示す。]で表されるリン酸塩が挙げられ、具体的に、例えば、アルキルリン酸エステル又はその塩、ポリオキシアルキレンアルキルリン酸エステル又はその塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルリン酸エステル又はその塩、グリセリン脂肪酸エステルモノリン酸エステル又はその塩等のアニオン性界面活性剤が挙げられる。
【0051】
アミノ酸塩型アニオン性界面活性剤としては、例えば、N-アシルアミノ酸塩(例えば、N-アシル-L-グルタミン酸塩)、アルキルアミノ酸塩(例えば、ラウロイルメチルアラニン塩)等のアミノ酸残基を有するアニオン性界面活性剤が挙げられる。これらのうち、N-アシルアミノ酸塩が好ましい。
【0052】
アニオン性界面活性剤がアルキル基、アルケニル基を有する場合、特段の定義をしない限り、その炭素原子数は、通常、8以上、好ましくは9以上、より好ましくは10以上である。上限は、通常、26以下、好ましくは24以下、より好ましくは22以下である。従って、炭素原子数は、通常8~26、好ましくは9~24、より好ましくは10~22である。アニオン性界面活性剤がアルキレンオキシド構造を有する場合、その平均付加モル数は、通常、1以上、好ましくは2以上である。上限は、通常100以下、好ましくは60以下である。従って、アルキレンオキシド平均付加モル数は、1~100、好ましくは2~60である。
【0053】
塩としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、塩基付加塩及びアミノ酸塩が挙げられる。具体的には例えば、アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム、カリウム)、アルカリ土類金属塩(例えば、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属塩)、アンモニウム等の無機塩基塩;アルカノールアミン、トリエチルアンモニウム、トリエタノールアンモニウム、ピリジニウム、ジイソプロピルアンモニウム等の有機塩基塩が挙げられる。中でも、無機塩基塩が好ましく、アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム、カリウム)又はアンモニウムがより好ましく、ナトリウムが更に好ましい。
【0054】
[細菌表面認識部位]
細菌表面認識部位は、細菌表面を認識し得る部位であり、具体的には、細菌表面の所定の部位、官能基等と物理的または化学的に相互作用する部位であり、好ましくは、細菌表面の特定の部位と特異的に相互作用する部位である。
【0055】
細菌表面認識部位は、ジピコリルアミノ基の金属錯体骨格、フェニルボロン酸骨格、イミノ二酢酸基の金属錯体骨格、グアニジノ基からなる群より選択される少なくとも1つを含むものが好ましく、ジピコリルアミノ基の金属錯体骨格、及びフェニルボロン酸骨格からなる群より選択される少なくとも1つを含むものがより好ましく、ジピコリルアミノ基の金属錯体骨格を含むものが更に好ましい。
【0056】
ジピコリルアミノ基の金属錯体骨格は、本明細書において、ジピコリルアミン(dipicolylamine:dpa)/金属錯体を略して「dpa/金属錯体」と表すことがある。ジピコリルアミノ基は、ジピコリルアミン基、ビス(2-ピリジルメチル)アミン(bis(2-pyridylmethylamine))基等とも称される。
dpa/金属錯体を用いることにより、ナノ構造体が細菌表面のリン酸基を認識する構成とすることができる。dpa/金属錯体として、dpa/Cu錯体、dpa/Zn錯体等が挙げられる。
【0057】
フェニルボロン酸骨格を用いることにより、ナノ構造体が細菌表面のタイコ酸又はタイコ酸残基を認識する構成とすることができ、これにより、ナノ構造体に、グラム陽性菌に選択的な細菌凝集能(グラム陽性菌への凝集選択性)を付与することもできる。
【0058】
ナノ構造体中の細菌表面認識部位の表面密度は、検出する細菌の種類や、細菌表面認識部位の構成により決めることができる。細菌を効率よく検出する観点からは、細菌表面認識部位の表面密度をたとえば1.0×10-9mol/m以上、好ましくは1.0×10-8mol/m以上とする。また、細菌表面認識部位の周辺に好適な空間を形成して細菌との相互作用を生じやすくする観点からは、細菌表面認識部位の表面密度をたとえば1.0×10-4mol/m以下、好ましくは1.0×10-5mol/m以下とする。
【0059】
また、凝集体の形成をさらに高感度で簡便に検出する観点からは、細菌表面認識部位が、細菌と相互作用する官能基と、細菌との相互作用により光応答性を示す官能基とを含む構成としてもよい。
光応答性の官能基として、細菌表面に結合して発色、蛍光応答を示す官能基が挙げられる。
細菌表面認識部位に導入する蛍光物質として、7-ヒドロキシクマリン-3-カルボン酸(7-hydroxycoumarin-3-carboxylic acid:HCC)およびその誘導体;8-(2,2'-ジピコリルアミノメチル)-7-ヒドロキシクマリン-3-カルボン酸((2,2'-dipicolylaminomethyl)-7-hydroxycoumarin-3-carboxylic acid)等が挙げられる。
【0060】
また、基体中の発光または発色物質として後述する例示物質を用いることもできる。このとき、細菌表面認識部位に導入する蛍光物質として、基体中の発光または発色物質と異なる発光または発色波長を有するものを用いることが好ましい。
細菌表面認識部位において、細菌との結合部位と光応答性を示す官能基との組み合わせの具体例として、dpa/金属錯体とHCC由来の官能基との組み合わせ、フェニルボロン酸とHCC由来の官能基との組み合わせが挙げられる。
【0061】
また、ナノ構造体において、細菌表面認識部位が、スペーサーを介して基体に固定化された構成としてもよい。スペーサーを設けることにより、基体の外側に空間が形成されるため、細菌表面認識部位と細菌との相互作用をより効率よく生じさせて、細菌をさらに確実に凝集することができる。
また、スペーサーとして親水性材料を用いることにより、基体の表面が親水性のスペーサー分子で覆われるため、基体の水分散性を高めたり、ナノ構造体が凝集対象である細菌以外の材料に非特異的に吸着することを抑制したりすることができる。
スペーサーとして、4-ヒドロキシ安息香酸(HB);アルキル鎖やエチレングリコール鎖等の鎖状分子;アゾベンゼン等を用いてもよい。
【0062】
[ナノ構造体の任意物質]
ナノ構造体は、発光物質および発色物質からなる群から選択される1種以上を含んでいてもよい。発光物質および発色物質からなる群から選択される1種以上は、例えば、ナノ構造体の基体中に含むことができ、このような基体の具体例として、発光物質および発色物質からなる群から選択される一種以上を内包しているシクロデキストリンナノゲル、シリカナノ粒子等が挙げられる。
【0063】
また、検出感度をさらに向上させる観点からは、蛍光物質を用いることがさらに好ましく、このとき基体をたとえば、蛍光シクロデキストリンナノゲル、蛍光シリカナノ粒子(FSiNP)とすることができる。
発光物質または発色物質をナノ構造体に内包させると、ナノ構造体が捕集した細菌をたとえば目視等の視覚により容易に検知することができるため、細菌の凝集の有無や、凝集した細菌の存在位置を、より一層簡便で感度良く検知することができる。
【0064】
基体に含ませる発色物質の具体例としては、アクリジンオレンジやテトラキス(4-メチルピリジニウム)ポルフィリンなどが挙げられる。
【0065】
また、基体の粒子内に含ませる発光物質の具体例としては各種蛍光物質が挙げられ、たとえば、
[Ru(bpy)3]Cl2(トリス(ビピリジン)ルテニウム(II)錯体)等のビピリジン系金属錯体化合物およびその塩、水和物;
フルオレセインイソチオシアネート(fluorescein isothiocyanate:FITC)等のフルオレセイン;
ピレン;
アントラセン;
ナフタレン;
ローダミン;
4-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール(4-nitrobenz-2-oxa-1,3-diazole:NBD);
クマリン;
Cy色素等のシアニン系化合物;
ポルフィリン;ならびにこれらの誘導体を用いることができる。
【0066】
基体に対する発光物質の割合は、発光の強度に応じて決めることができるが、凝集体の検出感度を向上させる観点からは、たとえば重量比で0.05%以上、好ましくは0.1%以上とする。
また、凝集体の検出感度を向上させる観点からは、基体に対する発光物質の割合を重量比でたとえば100%以下、好ましくは80%以下とする。なお、基体が発光物質により構成されていてもよく、このような材料として、量子ドットなどの半導体結晶が挙げられる。
【0067】
[ナノ構造体の機能・効果等]
ナノ構造体は、上述のように、細菌に接触させた場合、細菌表面認識部位を介して細菌表面との結合ないし吸着による細菌の凝集を確実に行うことができるが、かかる細菌凝集能を、表面電荷制御部位でナノ構造体の表面電荷を制御することにより、調整することができる。
【0068】
細菌は、グラム染色法により、グラム陽性菌とグラム陰性菌とに大別される。グラム染色法は、細胞壁の構造の相違による染色の有無により、グラム陽性菌とグラム陰性菌との判別を可能すると考えられている。一般に、グラム陽性菌の細胞壁は、タイコ酸、リポタイコ酸等を含む厚いペプチドグリカン層から構成され、グラム陰性菌の細胞壁は、何層かの薄いペプチドグリカン層の外側を、外膜と呼ばれる、リポ多糖を含む脂質二重膜が覆う形となっている。細菌表面は、細菌表面のリポ多糖やリポタイコ酸などに存在するリン酸基に由来する負電荷を有する。細菌表面が負電荷を有することは、グラム陽性菌かグラム陰性菌かの別を問わない。
【0069】
本発明のナノ構造体の細菌凝集能の調整としては、例えば、表面電荷制御部位としてカチオン性基を有する場合は、表面電荷制御部位を有さない場合に比べて、細菌凝集能を増加することができる。細菌凝集能の増加は、ナノ構造体がカチオン性基により表面に正電荷を保持することができ、細菌表面の負電荷との相互作用(静電相互作用、静電引力)を強化できることによるものと推察される。かかるカチオン性基による細菌凝集能の増加は、細菌がグラム陰性菌であってもグラム陽性菌であっても可能であるが、表面電荷制御部位を有さない場合に比べて、特にグラム陰性菌の凝集能を顕著に増加することができる。これは、グラム陽性菌に対しては、表面電荷制御部位がなくても細菌表面認識部位により細菌凝集を十分達成することができ、表面電荷制御部位を追加することによる凝集能の差異が生じにくいのに対し、グラム陰性菌に対しては、表面電荷制御部位がなく細菌表面認識部位がある状態では細菌凝集能が不十分であるが(これは、グラム陰性菌の厚い外膜に起因する可能性がある)、表面電荷制御部位を追加することで細菌表面の負電荷との静電引力を強化できることによるものと推察される。カチオン性基の濃度に応じてナノ構造体の表面電位を増加できるので、カチオン性基の濃度を調整することによっても、細菌凝集能の増加の程度を調整することができる。
【0070】
一方、表面電荷制御部位としてアニオン性基を有する場合、表面電荷制御部位を有さない場合に比べて、グラム陽性菌の凝集能を著しく減少させるのに対し、グラム陰性菌の凝集能は大きく変化させないことから、グラム陰性菌に選択的な凝集能(グラム陰性菌への凝集選択性)を獲得できる。このように、グラム陽性菌とグラム陰性菌とで凝集挙動に違いが現れるのは、表面電荷制御部位としてのアニオン性基と細菌表面の負電荷との静電反発や、細菌の表面電荷の大小のみならず、表面構造の違いにもよると推察され、特に、グラム陽性菌の表面がペプチドグリカン層であるのに対し、グラム陰性菌では何層かの薄いペプチドグリカン層の外側に、外膜と呼ばれるリポ多糖を含んだ脂質二重層が覆う構造になっていることが影響する可能性が推測される。例えば、グラム陰性菌は、リポ多糖で覆われた外膜が厚いために、表面電荷制御部位としてのアニオン性基との静電的な反発の効果が少ないことも、凝集能が高い機構の一つとして考えられる。アニオン性基の濃度に応じてナノ構造体の表面電位を減少できるので、アニオン性基の濃度を調整することによっても、細菌凝集能を調整することができ、例えば、グラム陰性菌に選択的な凝集能(グラム陰性菌選択性)を強化することができる。
【0071】
以上の細菌凝集能から、本発明のナノ構造体は、グラム陽性菌及び/又はグラム陰性菌を凝集するために好適に用いることができ、かかる目的には、表面電荷制御部位としてカチオン性基又はアニオン性基の何れを用いてもよいが、カチオン性基を用いることが好ましい。また、本発明のナノ構造体は、表面電荷制御部位としてアニオン性基を用いる場合は特に、グラム陰性菌を選択的に凝集するために好適に用いることができる。
【0072】
ナノ構造体としては、細菌凝集能の発揮、調節の容易等の観点で、シクロデキストリンナノゲルにカチオン性界面活性剤又はアニオン性界面活性剤が包接された粒子であることが好ましく、シクロデキストリンナノゲルにカチオン性界面活性剤又はアニオン性界面活性剤が包接され、ジピコリルアミノ基の金属錯体骨格を有する粒子であることがより好ましく、更に検出感度を向上させる観点から、FITC等の蛍光物質を含むシクロデキストリンナノゲルにカチオン性界面活性剤又はアニオン性界面活性剤が包接され、ジピコリルアミノ基の金属錯体骨格を有する粒子であることが更により好ましい。
【0073】
ナノ構造体のかかる一態様は、例えば、図1の模式図に示すことができる。図1において、部分的円錐形で示される疎水的な空洞を有するシクロデキストリンナノゲル(γ-CyD)は、ナノゲル粒子の表面において、細菌表面認識部位としてジピコリルアミノ基の金属錯体骨格(dpa/Zn2+錯体)が、スペーサーである4-ヒドロキシ安息香酸(HB)を介して固定化されており、架橋剤としてエチレングリコールジグリシジルエーテル(EGDE)を用いた架橋構造中に蛍光物質としてフルオレセインイソチオシアネート(FITC)を含む。以上の構成は、後述のナノ前駆構造体に相当する。このナノ前駆構造体に、カチオン性界面活性剤としてセチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)、又はアニオン性界面活性剤としてラウリル硫酸ナトリウム(SDS)を添加すると、これら界面活性剤の疎水性基(長鎖アルキル基)がシクロデキストリンナノゲルの疎水的な空洞に包接され、これにより、表面電荷制御部位として4級アンモニウムイオン(-N)又は硫酸イオン(-OSO )を有することとなる。
【0074】
ナノ構造体は、また、グラム陰性菌に選択的な凝集能の観点で、シクロデキストリンナノゲルにアニオン性界面活性剤が包接され、ジピコリルアミノ基の金属錯体骨格を有する粒子であることが好ましく、更に検出感度を向上させる観点から、FITC等の蛍光物質を含むシクロデキストリンナノゲルにアニオン性界面活性剤が包接され、ジピコリルアミノ基の金属錯体骨格を有する粒子であることがより好ましい。
【0075】
<ナノ構造体の製造方法>
ナノ構造体の製造方法は、例えば;
基体と、細菌表面を認識し得る細菌表面認識部位、又はその前駆的基(ジピコリルアミノ基等)と、を含むナノ前駆構造体に、当該基体の表面電荷を制御し得る表面電荷制御部位を導入することを含む。
【0076】
ジピコリルアミノ基の金属錯体骨格、及びイミノ二酢酸基(-N(CHCOOないし-N(CHCOOH))の金属錯体骨格は、金属錯体を構成することで初めて細菌表面認識機能を有することとなる。金属配位子(金属イオン)を含まない、ジピコリルアミノ基又はイミノ二酢酸基について、これらの基のみでは細菌表面認識機能を有さない点で、本明細書において、「細菌表面認識部位の前駆的基」又はこれに準じた用語を用いることがある。
【0077】
本明細書において、基体と、細菌表面認識部位又はその前駆的基とを含む構造体を「ナノ前駆構造体」ということがある。ナノ前駆構造体に対し、少なくとも表面電荷制御部位を追加することにより、ナノ構造体が構成される。ナノ前駆構造体が、細菌表面認識部位の前駆的基を含むものである場合、表面電荷制御部位の追加に加え、細菌表面認識部位を構成するための金属配位子(金属イオン)を添加することにより、ナノ構造体が構成される。
【0078】
ナノ構造体の製造方法は、好ましくは;
ナノ前駆構造体に、カチオン性界面活性剤、又はアニオン性界面活性剤を添加することを含む。
この方法により、上述のナノ構造体を得ることができ、なかでも、表面電荷制御部位が、カチオン性界面活性剤のカチオン性基、又はアニオン性界面活性剤のアニオン性基であるナノ構造体を製造する方法として好適である。かかる界面活性剤の添加については、後述の手法を用いることができる。
【0079】
ナノ構造体の製造方法は、具体的には、
(1)基体を準備することと、
(2)基体に細菌表面認識部位又はその前駆的基を導入することと、
(3)基体に表面電荷制御部位を導入することと、を含む。
【0080】
(1)基体の準備
基体は、その構成材料に応じて所定の方法で作製または入手することができる。
【0081】
たとえば、基体として金属または金属酸化物の粒子を用いる場合、化学気相析出法、物理気相析出法等の気相法、金属アルコキシド法、共沈法、逆ミセル法、噴霧法等の溶液法などを用いることができる。
【0082】
基体がシリカ粒子である場合、疎水性溶媒、界面活性剤およびアルキル水溶液により形成される逆ミセル内で、テトラエトキシシラン等の金属アルコキシドを加水分解、重合する逆ミセル法(Xiaoxiao He、外5名、「FSiNPs mediated improved double immunofluorescence staining for gastric cancer cells imaging」、Talanta、2008年、第76巻、p.1199-1206);および
シリコンアルコキシド、アルコールおよびアンモニア水を室温付近の温度で混合してアルコキシドの加水分解縮合反応によりシリカ微粒子を得るストーバー法等が挙げられる。
シリカ粒子の粒径のばらつきを抑制しつつ分散安定性を向上させる観点からは、逆ミセル法が好ましい。
【0083】
基体が発光物質や発色物質を含む構成とするとき、発光物質または発色物質は、基体の製造工程中に粒子内に含ませてもよいし、粒子の形成後、粒子に内包させたり粒子表面に導入してもよい。
たとえば、基体をシリカナノ粒子とする場合、たとえば前述した逆ミセル法において、疎水性溶媒中にあらかじめ蛍光物質等を添加しておくことにより、得られるシリカ粒子内に蛍光物質を含ませることができる。
【0084】
また、得られた粒子の表面に所定の官能基を導入してもよい。このとき、たとえば、粒子表面を、所定の官能基を有するシランカップリング剤等のカップリング剤で処理する。
粒子表面に導入する官能基は、細菌表面認識部位またはスペーサーに含まれる官能基との結合に用いることができる。たとえば、細菌表面認識部位またはスペーサーに含まれる、チオール基、アミノ基、カルボキシル基、アルデヒド基、水酸基等を利用するとき、これらの基との反応に用いられる官能基を有するカップリング剤で粒子を処理することができる。
【0085】
さらに具体的には、細菌表面認識部位またはスペーサーに含まれるカルボキシル基と結合させようとする場合、粒子を3-アミノプロピルエトキシシラン(APS)、3-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基を有するシランカップリング剤の溶液に浸漬し、表面処理することができる。基体がシクロデキストリンナノゲルである場合、原料のシクロデキストリン類として、アミノ基を有するシクロデキストリン類を用いることができる。
【0086】
また、基体が金コロイド粒子であるとき、たとえば、チオール基および細菌表面認識部位との結合に用いられる官能基を有するカップリング剤で粒子の表面を処理すると、金-チオール結合により、基体の表面に細菌表面認識部位との結合に用いられる官能基を導入することができる。
【0087】
基体がシクロデキストリンナノゲルである場合について、以下に説明する。
シクロデキストリンナノゲルは、(i)シクロデキストリン類、架橋剤及び水を含む水層と、油層と、両親媒性化合物とを含む系を乳化させて乳化液を準備する工程、及び(ii)乳化液の乳化状態を維持して、乳化液下でシクロデキストリン類の分子を架橋させ、ポリシクロデキストリンのナノゲル粒子を形成する工程を含む方法により製造することができる。尚、この製法を「逆乳化法」ということがある。
【0088】
水層に含まれる架橋剤としては、特に限定されるものではないが、2価以上のエポキシ化合物であることが好ましく、2以上のシクロデキストリン類の分子との間で親水性構造を形成し得る2価以上のエポキシ化合物であることがより好ましく、2以上のシクロデキストリン類の分子との間でポリエーテル構造を形成し得る2価以上のエポキシ化合物であることがさらに好ましい。このような架橋剤としては、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル(EGDE)、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリエチレングリコールジグリシジルエーテル、テトラエチレングリコールジグリシジルエーテル、1,2-プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ジ-1,2-プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリ-1,2-プロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,3-プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ジ-1,3-プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリ-1,3-プロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル等の脂肪族多価アルコールのポリグリシジルエーテル等が挙げられ、中でも、エチレングリコールジグリシジルエーテルが特に好ましい。架橋剤は、1種類単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0089】
水層は、シクロデキストリン類、架橋剤、水に加えて、無機塩基等の架橋促進剤を含んでいてもよい。無機塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化アルカリ金属が挙げられる。無機塩基は、1種類単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0090】
油層には、疎水性の有機溶媒が含まれ得る。疎水性の有機溶媒としては、例えば、ヘキサン、ペンタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環族炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、1,3,5-トリメチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒等の炭化水素系溶媒;クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン等のハロゲン系溶媒が挙げられる。中でも、炭化水素系溶媒が好ましく、芳香族炭化水素系溶媒がより好ましく、トルエンが特に好ましい。疎水性の有機溶媒は、1種単独で使用してもよいし、2種以上の組み合わせで使用してもよい。
【0091】
両親媒性化合物としては、例えば、油層/水層の乳化液を安定化させる界面活性剤であればよく、中でも、カチオン性界面活性剤を好適に用いることができ、とりわけ2本の長鎖アルキル基(例えばC8-22アルキル基)を有するカチオン性界面活性剤が特に好ましい。カチオン性界面活性剤としては、例えば、表面電荷制御部位を提供するカチオン性界面活性剤として上述したアンモニウム系界面活性剤、ホスホニウム系界面活性剤、ピリジニウム系界面活性剤等が挙げられ、好ましくは、アンモニウム系界面活性剤、より好ましくは、長鎖ジアルキル4級アンモニウム塩、特に好ましくは、ジドデシルジメチルアンモニウムブロミド(DDAB)である。
【0092】
工程(i)における乳化は、分散相が水相、連続相が油相である油中水滴型(W/O型)の乳化形態である。
工程(i)における乳化方法は、例えば、水層と油層との2層に分離した系を、機械的に分散させ、乳化させる方法を用いることができ、かかる方法としては、例えば、撹拌子、ホモミキサー、ディスパーミキサー、ウルトラミキサー等を用いる撹拌法、振盪装置を用いる振盪法、超音波ホモジナイザーを用いる超音波法、高圧ホモジナイザーで高剪断力をかける高圧ホモジナイザー法等が挙げられる。中でも、超音波ホモジナイザーを用いる超音波法が好ましい。
【0093】
工程(ii)におけるナノゲル粒子の形成では、工程(i)で準備した乳化液の乳化状態を維持しつつ、乳化液下でシクロデキストリン類の分子を架橋させてポリシクロデキストリンのナノゲル粒子を形成する。工程(ii)においては、分離、沈殿、凝集等の機械的作用がなければ乳化液の乳化状態を維持できない場合、乳化状態を維持するため、乳化液を、攪拌、振盪、超音波、高圧等の乳化条件と同じ条件或いは乳化条件よりも穏和な条件に晒し続けてもよい。
【0094】
シクロデキストリンナノゲルの製造方法は、工程(i)及び工程(ii)に加えて、さらに、(iii)両親媒性化合物を除去してシクロデキストリンナノゲル粒子を取り出す工程を含み得る。
シクロデキストリンナノゲルの製造方法としては、例えば、特開2021-31570号公報記載の方法を用いることができる。
【0095】
(2)細菌表面認識部位、又はその前駆的基の導入
細菌表面認識部位となる物質は、その分子構造に応じて所定の方法で合成または入手することができる。細菌表面認識部位が蛍光性または発色性の官能基を含む構成とするときは、たとえば細菌表面に結合する官能基と蛍光性または発色性の官能基とを所定の方法で縮合させる。
【0096】
次に、基体と細菌表面認識部位となる物質とを接触させて、基体上に細菌表面認識部位、又はその前駆的基を導入する。
固定化方法は、固定化反応に用いられる官能基の種類により選択される。たとえば、基体または細菌表面認識部位となる物質の一方に含まれるアミノ基と他方に含まれるカルボキシ基とを用いる場合、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルフォリニウムクロライドn-ハイドレート(DMT-MM)等のトリアジン系の縮合剤;ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)等のカルボジイミド系の縮合剤、などが用いられる。
【0097】
なお、固定化の際には必要に応じて、N-ヒドロキシスクシンイミド、p-ニトロフェノール、ペンタフルオロフェノール等の活性エステル類を併用してもよい。
また、基体と細菌表面認識部位との間にスペーサーを設ける場合には、基体または細菌表面認識部位若しくはその前駆的基の一方とスペーサーの片末端とを結合させた後、基体または細菌表面認識部位若しくはその前駆的基の他方とスペーサーの他末端とを結合させる。
【0098】
細菌表面認識部位がジピコリルアミノ基の金属錯体骨格、又はイミノ二酢酸基の金属錯体骨格である場合、上述の“細菌表面認識部位となる物質”として、金属錯体における配位子(金属イオン)を含まない化合物、即ち、ジピコリルアミン(dpa)、又はイミノ二酢酸を用いて基体にジピコリルアミノ基、又はイミノ二酢酸基を導入し、後工程において金属配位子(金属イオン)を添加してもよい。後工程としては、例えば、細菌の凝集又は検出のために、細菌を含み得る試料にナノ構造体を接触させる直前であってもよく、また、例えば、表面電荷制御部位を導入する際、又はその前後であってもよい。
【0099】
基体の準備、及び、細菌表面認識部位又はその前駆的基の導入としては、例えば、特許文献1記載の方法を用いることができる。
【0100】
(3)表面電荷制御部位の導入
表面電荷制御部位を提供する物質は、その分子構造に応じて所定の方法で合成または入手することができる。「表面電荷制御部位を提供する物質」としては、表面電荷制御部位の種類等によるが、上述のように、表面電荷制御部位がカチオン性界面活性剤のカチオン性基、又はアニオン性界面活性剤のアニオン性基である場合、カチオン性界面活性剤、又はアニオン性界面活性剤を用いることができる。
【0101】
次に、基体と、表面電荷制御部位を提供する物質との接触を含む方法により、基体上に表面電荷制御部位を導入する。ここで基体としては、細菌表面認識部位又はその前駆的基を導入した基体であってもよいし(即ち、上記(2)の工程の後)、細菌表面認識部位又はその前駆的基を導入する前の基体であってもよいが(即ち、上記(1)の工程の後)、細菌表面認識部位又はその前駆的基を導入した基体であることが好ましい(即ち、上記(2)の工程の後)。
【0102】
表面電荷制御部位を導入する方法としては、表面電荷制御部位を提供する物質の分子構造や、基体の種類等に応じて、上述の(2)細菌表面認識部位の導入に関して説明した化学反応と同様の化学反応により行うことができるが、表面電荷制御部位がカチオン性界面活性剤のカチオン性基、又はアニオン性界面活性剤のアニオン性基である場合、上記基体と、カチオン性界面活性剤、又はアニオン性界面活性剤との接触を含む方法を用いることができ、具体的には、上記ナノ前駆構造体に、カチオン性界面活性剤、又はアニオン性界面活性剤を添加することを含む方法が好ましい。
【0103】
例えば、基体としてシクロデキストリンナノゲルを用いる場合、シクロデキストリンナノゲルは、例えば上述の製法(逆乳化法)により、疎水的な空洞を有する構造として調製することができるので、例えば、シクロデキストリンナノゲルにカチオン性界面活性剤、又はアニオン性界面活性剤を添加し、適宜撹拌することにより、シクロデキストリンナノゲルの疎水的空洞に、カチオン性界面活性剤、又はアニオン性界面活性剤が有する直鎖アルキル基、直鎖アルケニル基等の疎水性基が入り込み(包接)、これら界面活性剤のカチオン性基又はアニオン性基がシクロデキストリンナノゲル粒子の表面に存在する又は該粒子の表面から突出することとなり、細菌表面の負電荷との静電相互作用に機能するのに好適な構造を容易に形成することができる。
【0104】
具体的には、例えば、水にシクロデキストリンナノゲル粒子を分散させてなるシクロデキストリンナノゲル分散水に、カチオン性界面活性剤又はアニオン性界面活性剤を添加し、適宜撹拌することのみによって、表面電荷制御部位を導入することができる。シクロデキストリンナノゲル分散水に含有されるシクロデキストリンナノゲル粒子の濃度は、例えば0.05mg/cm以上、好ましくは0.10mg/cm以上、より好ましくは0.30mg/cm以上であり、また、例えば2.0mg/cm以下、好ましくは1.0mg/cm以下、より好ましくは0.50mg/cm以下である。
【0105】
ナノ構造体の全量に対するカチオン性界面活性剤の添加量は、ナノ構造体の表面電荷を正電荷とすることができる観点で、ナノ構造体のゼータ電位が正になる量であることが好ましく、ナノ構造体のゼータ電位が5mV以上になる量であることがより好ましく、ナノ構造体のゼータ電位が10mV以上になる量であることが更に好ましく、上限値としては、例えば、ナノ構造体のゼータ電位が40mV以下になる量であってよく、ナノ構造体のゼータ電位が20mV以下になる量であることが好ましく、ナノ構造体のゼータ電位が15mV以下になる量であることがより好ましい。
【0106】
ナノ構造体の全量に対するアニオン性界面活性剤の添加量は、ナノ構造体の表面電荷を負電荷とすることができる観点で、ナノ構造体のゼータ電位が負になる量であることが好ましく、ナノ構造体のゼータ電位が-5mV以下になる量であることがより好ましく、ナノ構造体のゼータ電位が-10mV以下になる量であることが更に好ましく、下限値としては、例えば、ナノ構造体のゼータ電位が-30mV以上になる量であってよく、ナノ構造体のゼータ電位が-20mV以上になる量であることが好ましく、ナノ構造体のゼータ電位が-15mV以上になる量であることがより好ましい。
【0107】
本明細書において、ナノ構造体のゼータ電位は、電気泳動光散乱測定法(Electrophoretic Light Scattering:ELS)で測定されるものであり、実施例で示すように、ナノ構造体水溶液ないしナノ構造体水分散液を室温で測定した値であり得る。ゼータ電位は、溶液中の微粒子の表面電位(表面電荷)に反映される値であり、具体的には、一般的に「溶液中の微粒子の表面電位(表面電荷)」と理解してよいが、正確には、溶液中の微粒子の周りに形成する電気二重層中の、液体流動が起こり始める「すべり面」の電位として定義される値である。
【0108】
ナノ構造体の全量に対するカチオン性界面活性剤の添加量は、具体的には、例えば1μM以上、好ましくは10μM以上、より好ましくは50μM以上であり、また、上限値としては、例えば1000μM以下、好ましくは500μM以下、より好ましくは100μM以下である。かかる添加量は、例えば、グラム陽性菌又はグラム陰性菌の何れの菌種であるかの別を問わず細菌を凝集させる場合に好適である。
【0109】
ナノ構造体の全量に対するアニオン性界面活性剤の添加量は、具体的には、例えば1mM以上、好ましくは1.5mM以上、より好ましくは2mM以上であり、また、上限値としては、例えば8mM以下、好ましくは5mM以下、より好ましくは3mM以下である。かかる添加量は、例えば、グラム陽性菌又はグラム陰性菌の何れの菌種であるかの別を問わず細菌を凝集させる場合に好適である。
【0110】
ナノ構造体の全量に対するアニオン性界面活性剤の添加量は、グラム陰性菌に選択的な凝集能を高める観点で、好ましくは2mM超、より好ましくは2.3mM以上、より好ましくは2.5mM以上であり、また、上限値としては、例えば8mM以下、好ましくは5mM以下、より好ましくは3mM以下である。
【0111】
<ナノ前駆構造体>
上述した、基体と、細菌表面認識部位又はその前駆的基とを含む構造体であるナノ前駆構造体もまた、本発明の一つである。
【0112】
ナノ前駆構造体は、基体の表面電荷を制御し得る表面電荷制御部位を導入するための物質として好適に用いることができる。ナノ前駆構造体に対し、少なくとも表面電荷制御部位を追加することにより、ナノ構造体が構成され、また、ナノ前駆構造体が、細菌表面認識部位の前駆的基(ジピコリルアミノ基等)を含むものである場合、表面電荷制御部位の追加に加え、細菌表面認識部位を構成するための金属配位子(Zn2+等の金属イオン)を添加することにより、ナノ構造体が構成されることは上述したとおりである。
【0113】
ナノ前駆構造体は、安定な構造体であり、例えば、ナノ前駆構造体の状態での保存、保管、流通等も可能である。そして、細菌を含む試料等の状況に応じて、表面電荷制御部位の種類や濃度等を選択してナノ前駆構造体に追加し、また、ナノ前駆構造体が細菌表面認識部位の前駆的基(ジピコリルアミノ基等)を含むものである場合は更に金属配位子の種類や濃度等を選択して添加することにより、細菌凝集能を制御ないし調整することができる。
【0114】
<細菌を凝集する方法>
ナノ構造体を細菌に接触させることを含む、細菌を凝集する方法(本明細書において、単に「細菌凝集方法」ともいう。)もまた、本発明の一つである。
【0115】
ナノ構造体と細菌との接触は、例えば、細菌に直接、又は、細菌が存在し得る試料に、ナノ構造体を添加することにより行うことができる。ナノ構造体は、細菌に接触すると、上述のとおり、ナノ構造体に含まれる細菌表面認識部位と表面電荷制御部位とを介して、細菌表面に結合ないし吸着し、ナノ構造体とともに細菌を凝集することができる。
細菌凝集方法は、凝集した細菌を捕集することを更に含むものであってもよい。
【0116】
凝集対象である細菌の種類に制限はなく、たとえば;
大腸菌(Escherichia coli)、サルモネラ、シュードモナス、モラクセラ、ヘリコバクター(ヘリコバクター・ピロリ)、ステノトロフォモナ、ブデロビブリオ、酢酸菌、レジオネラ、インフルエンザ菌、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)、緑膿菌、ミラビリス変形菌(Proteus mirabilis)、Enterobacter cloacae、セラチア菌(Serratia marcescens)、ゲルトネル菌(Salmonella enteritidis)、チフス菌(Salmonella typhi)のグラム陰性菌;および
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)等のブドウ球菌(Staphylococcus);肺炎球菌、緑色連鎖球菌等の連鎖球菌(Streptococcus);枯草菌(B. subtilis)、炭疽菌(B. anthracis)、セレウス菌(B. cereus)等のバシラス属(Bacillus);腸球菌等のエンテロコッカス属(Enterococcus);クロストリジウム属(Clostridium)等のグラム陽性菌が挙げられ、グラム陰性菌とグラム陽性菌とが混在していてもよい。
【0117】
ナノ構造体に含まれる表面電荷制御部位としては、カチオン性基又はアニオン性基の何れであってもよく、例えばカチオン性基を用いる場合、グラム陰性菌又はグラム陽性菌の何れであっても凝集可能であり、アニオン性基を用いる場合、グラム陰性菌を選択的に凝集することができる。
【0118】
ナノ構造体を細菌に接触させる際に、細菌の濃度は、凝集体を効率よく形成する観点から、例えば10CFU/cm以上、好ましくは10CFU/cm以上、より好ましくは10CFU/cm以上であり、また、ナノ構造体と効率よく相互作用させる観点から、例えば10CFU/cm以下、好ましくは5×10CFU/cm以下、より好ましくは10CFU/cm以下である。なお、菌液の濃度は、例えば、目的とする細菌の濃度を示す濁度となるように、PBS緩衝液等の緩衝液等を用いて濃度調整することにより、調整することができ、ここで濁度としては、通常、例えば500~700nm、好適には600nmにおける吸光度測定により求められる濁度を用いることができる。菌液の濃度は、例えば、黄色ブドウ球菌、大腸菌の菌液については次の様に調製することができる。LB培地で培養後の10cmの黄色ブドウ球菌、大腸菌の菌液を含む50cmファルコンチューブを取り出し、遠心操作(1000rpm,1min,10℃)により細菌をファルコンチューブの底へ沈殿させる。その後、上澄みを除去して超純水で置換することによりLB培地を取り除き、PBS Buffer(PBS緩衝液)で10cmにメスアップする。得られる溶液について600nmにおける吸光度測定により求められる濁度OD600として、黄色ブドウ球菌はOD600=0.44(2.0×10CFU/cm)、大腸菌はOD600=0.20(2.0×10CFU/cm)を目安に、目的とする細菌の濃度を示す濁度となるようにPBS Bufferで調製する。
【0119】
また、ナノ構造体を細菌に接触させる際に、ナノ構造体の濃度は、例えば基体がシクロデキストリンナノゲルである場合を基準にすると、凝集体を効率よく形成する観点から、例えば0.1mg/cm以上、好ましくは0.2mg/cm以上、より好ましくは0.3mg/cm以上であり、また、細菌とより安定的に相互作用させる観点から、例えば1.0mg/cm以下、好ましくは0.6mg/cm以下、より好ましくは0.4mg/cm以下である。
【0120】
<細菌凝集剤>
ナノ構造体を含む、細菌凝集剤もまた、本発明の一つである。
上述のとおり、ナノ構造体は細菌を凝集できるので、細菌凝集剤として好適である。
細菌凝集剤は、ナノ構造体のみであってもよいし、ナノ構造体を含む水等の液体であってもよく、また、任意成分としてpH緩衝剤、金属イオン、界面活性剤等を含んでもよい。
【0121】
<細菌検出方法>
ナノ構造体を試料に接触させる接触工程、及び
上記接触工程による上記ナノ構造体を含む凝集物の生成の有無を検知する検知工程
を含む、細菌検出方法もまた、本発明の一つである。
【0122】
試料は、通常、細菌が含まれる可能性のある試料であり、細菌が含まれる試料であってもよいし、細菌が含まれない試料であってもよい。細菌は、グラム陰性菌であってもよいし、グラム陽性菌であってもよいし、両者の混在であってもよい。
【0123】
ナノ構造体に含まれる表面電荷制御部位としては、カチオン性基又はアニオン性基の何れであってもよく、例えばカチオン性基を用いる場合、グラム陰性菌又はグラム陽性菌の何れであっても検出可能であり、アニオン性基を用いる場合、グラム陰性菌を選択的に検出することができる。
【0124】
接触工程は、細菌凝集方法においてナノ構造体を細菌に接触させることと同様に行うことができる。ナノ構造体は、細菌に接触すると、上述のとおり、ナノ構造体とともに細菌を凝集することができるので、かかる凝集物の生成の有無を検知することにより、試料中の細菌の有無を検知することができる。
【0125】
検知工程において、生成の有無を検知する凝集物は、通常、ナノ構造体と細菌とを含む凝集物である。凝集物の検知は、例えば、肉眼、光学顕微鏡、蛍光顕微鏡等による凝集物の視認ないし目視;試料の濁度減少の検知等により簡便に行うことができる。ナノ構造体が蛍光物質を含む場合、蛍光顕微鏡による観察に好適である。試料の濁度減少は、例えば、500~700nm、好適には600nmにおける吸光度測定により検知できる。
【0126】
細菌の検出感度は、系内における細菌およびナノ構造体のそれぞれの濃度、これらの濃度比、ナノ構造体中の細菌表面認識部位及び表面電荷制御部位の表面密度等により変化し得るが、細菌およびナノ構造体のそれぞれの濃度は、例えば、上述の細菌凝集方法においてナノ構造体を細菌に接触させる際と同様であってよい。
【0127】
細菌検出方法は、ナノ構造体を含む凝集物の生成が検知されるとき、試料中に細菌が存在すると判定し、ナノ構造体を含む凝集物の生成が検知されないとき、試料中に細菌が存在しないと判定する判定工程を更に含むものであってもよい。
【0128】
<細菌検出剤>
ナノ構造体を含む、細菌検出剤もまた、本発明の一つである。
【0129】
上述のとおり、ナノ構造体は、凝集物生成の有無により細菌を検出できるので、細菌検出剤として好適である。
細菌検出剤は、ナノ構造体のみであってもよいし、ナノ構造体を含む水等の液体であってもよく、また、任意成分としてpH緩衝剤、金属イオン、界面活性剤等を含んでもよい。蛍光顕微鏡により凝集物の有無を観察して細菌の有無を検出する場合、ナノ構造体としては蛍光物質を含むものが好適である。
【0130】
<細菌検出キット>
ナノ構造体を含む、細菌検出キットもまた、本発明の一つである。
【0131】
上述のとおり、ナノ構造体は、凝集物生成の有無により細菌を検出できるので、細菌検出キットに好適に用いることができる。
細菌検出キットとしては、例えば、ナノ構造体を含むウェル等の容器を含むものが挙げられ、該容器に試料を添加できる構成を備えたものが好ましく、また、更に、ナノ構造体を含む凝集物の有無を検知できる構成を備えたものがより好ましい。
【0132】
<グラム陰性菌検出方法>
ナノ構造体を細菌に接触させる接触工程、及び
上記接触工程による上記ナノ構造体を含む凝集物の生成の有無を検知する検知工程
を含む、グラム陰性菌検出方法もまた、本発明の一つである。
【0133】
ナノ構造体としては、グラム陰性菌を選択的に検出できる観点で、表面電荷制御部位としてアニオン性基を有するものが好ましい。
細菌は、グラム陰性菌であってもよいし、グラム陽性菌であってもよいし、両者の混在であってもよく、グラム陰性菌である場合、表面電荷制御部位としてアニオン性基を有するナノ構造体を接触させると選択的に凝集物を生成するので、該凝集物の生成の有無を検知することにより、グラム陰性菌の存在の有無を検出することができる。
【0134】
接触工程は、細菌凝集方法においてナノ構造体を細菌に接触させることと同様に行うことができる。
検知工程は、細菌検出方法における検知工程と同様に行うことができる。
【0135】
グラム陰性菌検出方法としては、ナノ構造体を含む凝集物の生成が検知されるとき、試料中にグラム陰性菌が存在すると判定し、ナノ構造体を含む凝集物の生成が検知されないとき、試料中にグラム陰性菌が存在しないと判定する判定工程を更に含むものであってもよい。
【0136】
<グラム陰性菌検出剤>
ナノ構造体を含む、グラム陰性菌検出剤もまた、本発明の一つである。
【0137】
上述のとおり、ナノ構造体は、凝集物生成の有無によりグラム陰性菌を検出できるので、グラム陰性菌検出剤として好適である。
ナノ構造体として、グラム陰性菌を選択的に検出できる観点で、表面電荷制御部位としてアニオン性基を有するものが好ましいこと以外は、上述の細菌検出剤と同様の構成とすることができる。
【0138】
<グラム陰性菌検出キット>
ナノ構造体を含む、グラム陰性菌検出キットもまた、本発明の一つである。
【0139】
上述のとおり、ナノ構造体は、凝集物生成の有無によりグラム陰性菌を検出できるので、グラム陰性菌検出キットに好適に用いることができる。
ナノ構造体として、グラム陰性菌を選択的に検出できる観点で、表面電荷制御部位としてアニオン性基を有するものが好ましいこと以外は、上述の細菌検出キットと同様の構成とすることができる。
【実施例0140】
以下、本発明について、実施例を示して具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。また、以下に説明する操作は、別途明示の無い限り、常温常圧の環境で行った。
【0141】
実施例1:ナノ前駆構造体及びナノ構造体の作製
図2に模式的に示す工程により、ナノ前駆構造体及びナノ構造体を作製した。具体的には以下の方法による。
ジピコリルアミン(dpa)787mgと4-ヒドロキシ安息香酸(HB)577mgとを37%ホルムアルデヒド水溶液340mgを含むアセトニトリル50cmに添加し、100℃4時間、次いで55℃48時間かけて反応させ、924mgの黄色固体(dpa-HB)を得た。
得られたdpa-HB 167mgと3-アミノ-γ-シクロデキストリン(3-NH-γ-CyD)518mgとを用いて、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)123mg及び1-ヒドロキシベンゾトリアゾール・一水和物(HOBt・HO)93mgを含むN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)20cm中で脱水縮合することにより、橙色粉末(dpa-HB-γ-CyD)485mgを合成した。
【0142】
このdpa-HB-γ-CyD 260mgと界面活性剤としてDDAB(dilauryl dimethyl ammonium bromide)33mg、架橋剤としてEGDE(ethylene glycol diglycidyl ether)1.5cmを用いた逆乳化法によって、フルオレセイン蛍光団FITC 78mgを導入したナノゲル(dpa-HB-γ-CyD)を作製した。
具体的には、遠心管中、0.2M水酸化ナトリウム水溶液2.7cmに、dpa-HB-γ-CyD 260.40mg、及びエチレングリコールジグリシジルエーテル(EGDE)1.5cmを加え、超音波で溶解させた。この溶液に、1-ヘキサノール1.25cm、及びジドデシルジメチルアンモニウムブロミド(DDAB)33.07mgをトルエン7.15cmに溶解させたものを順に穏やかに加えた。静置して2層に分離させた後、超音波ホモジェナイザー(duty50,output2.5,10min)を用いて乳化させ、これを27時間室温撹拌した。撹拌を止め2層に分離した液体の下層を回収し、アセトン10cm加えた後、遠心分離した。2層に分離した下層に超純水を10cm加えた後、pH試験紙が中性を示すまで塩酸を加えた。その後透析膜(MWCO=3500)を用いて3dmの超純水で5回透析処理を行った。透析後の透析膜内の溶液を吸引ろ過(孔径1μm)した後、メンブレンフィルター(孔径0.45μm)で濾過した濾液を凍結乾燥し、dpa-HB-γ-CyDナノゲルの橙赤色固体243mgを得た。
【0143】
得られたdpa-HB-γ-CyDナノゲルの平均粒子径は17.04±6.917nmであった。平均粒子径は動的光散乱法測定装置(DLS)により測定した。dpa-HB-γ-CyDナノゲルをナノ前駆構造体1とする。
【0144】
得られたdpa-HB-γ-CyDナノゲル(ナノ前駆構造体1)に亜鉛イオンを加えて、Zn-dpa-HB-γ-CyDナノゲルを得た。これをナノ前駆構造体2とする。ナノ前駆構造体2において、dpa-HB-γ-CyDナノゲルの濃度は0.65mg/cm、亜鉛イオンの濃度は400μMとした。
【0145】
ナノ前駆構造体2に、カチオン性界面活性剤としてセチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)を加えて、CATB-Zn-dpa-HB-γ-CyDナノゲルを得た。これをナノ構造体1とする。ナノ構造体1において、dpa-HB-γ-CyDナノゲルの濃度は0.65mg/cm、亜鉛イオンの濃度は400μM、CTABの濃度は図3の表に示す300μL(1200μM)以下の各濃度とした。
【0146】
dpa-HB-γ-CyDナノゲル(ナノ前駆構造体1)に亜鉛イオンと、カチオン性界面活性剤としてセチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)を加えて、CATB-Zn-dpa-HB-γ-CyDナノゲルを得た。これをナノ構造体2とする。ナノ構造体2において、dpa-HB-γ-CyDナノゲルの濃度は0.356mg/cm、亜鉛イオンの濃度は200μM、CTABの濃度は50μMとした。
【0147】
ナノ前駆構造体2に、アニオン性界面活性剤としてラウリル硫酸ナトリウム(SDS)を加えて、SDS-Zn-dpa-HB-γ-CyDナノゲルを得た。これをナノ構造体3とする。ナノ構造体3において、dpa-HB-γ-CyDナノゲルの濃度は0.65mg/cm、亜鉛イオンの濃度は400μM、SDSの濃度は図6の表に示す300μL(8.91mM)以下の各濃度とした。
【0148】
dpa-HB-γ-CyDナノゲル(ナノ前駆構造体1)に亜鉛イオンと、アニオン性界面活性剤としてラウリル硫酸ナトリウム(SDS)を加えて、SDS-Zn-dpa-HB-γ-CyDナノゲルを得た。これをナノ構造体4とする。ナノ構造体4において、dpa-HB-γ-CyDナノゲルの濃度は0.356mg/cm、亜鉛イオンの濃度は200μM、SDSの濃度は1.5mMとした。
【0149】
<カチオン性界面活性剤の導入と表面電位変化>
ナノ前駆構造体2及びナノ構造体1を用い、CTABの濃度を図3の表に示す0μL(0μM)~300μL(1200μM)の各濃度とした場合のZn-dpa-HB-γ-CyDナノゲルの表面電位を電気泳動光散乱測定法により測定した。結果を図3に示す。
【0150】
図3の表に示すとおり、CTABの添加により、Zn-dpa-HB-γ-CyDナノゲルの表面電位が増加し、該表面電位は正電荷であることがわかった。
【0151】
<カチオン性界面活性剤の効果(蛍光顕微鏡観察)>
(1)ナノ前駆構造体1、(2)ナノ前駆構造体2、及び(3)ナノ構造体2のそれぞれを、DAPI(4’,6-Diamidino-2-phenylindole, dichloride)で染色したグラム陽性菌として黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus;S.aureus)、及びグラム陰性菌として大腸菌(E.coli)それぞれに添加し(細菌濃度は10CFU/cm)、10分間インキュンベートした後、FITCについて494nm、DAPIについて359nmの波長で蛍光顕微鏡により観察した。結果を図4に示す。
なお、黄色ブドウ球菌、大腸菌の菌液については次のように調製した。LB培地で培養後の10cmの黄色ブドウ球菌、大腸菌の各菌液を含む50cmファルコンチューブを取り出し、遠心操作(1000rpm、1分、10℃)により細菌をファルコンチューブの底へ沈殿させた。その後、上澄みを除去して超純水で置換することによりLB培地を取り除き、PBS緩衝液で10cmにメスアップした。得られた溶液の濁度を600nmにおける吸光度測定により求め、黄色ブドウ球菌:OD600=0.22(1.0×10CFU/cm)、大腸菌:OD600=0.10(1.0×10CFU/cm)となるようにPBS緩衝液で調製した。
【0152】
図4の蛍光顕微鏡の写真に示すとおり、Zn-dpa-HB-γ-CyDナノゲルの細菌凝集能は、CTABの添加により、黄色ブドウ球菌(S.aureus)、及び大腸菌(E.coli)の何れに対しても増加することがわかった。細菌表面は負電荷であり、CTABの添加により、静電相互作用が強くなったことによると思われる。
【0153】
<カチオン性界面活性剤の効果(濁度変化)>
(1)ナノ前駆構造体1、(2)ナノ前駆構造体2、及び(3)ナノ構造体2のそれぞれを、PBS緩衝液(pH7.4)中の黄色ブドウ球菌(S.aureus)、及び大腸菌(E.coli)に添加して(細菌濃度は1.0×10CFU/cm)、600nmにおける吸光度測定により濁度の変化を観察した(n=3)。結果を図5に示す。
【0154】
図5のグラフに示すとおり、CTABの添加により、Zn-dpa-HB-γ-CyDナノゲルの細菌凝集能が増加することがわかった。特に大腸菌(E.coli)の凝集能が顕著に増加することがわかった。
【0155】
<アニオン性界面活性剤の導入と表面電位変化>
ナノ前駆構造体2及びナノ構造体3を用い、SDSの濃度を図6の表に示す0μL(0mM)~300μL(8.91mM)の各濃度とした場合のZn-dpa-HB-γ-CyDナノゲルの表面電位を上記と同様の方法により測定した。結果を図6に示す。
【0156】
図6の表に示すとおり、SDSの添加により、Zn-dpa-HB-γ-CyDナノゲルの表面電位が減少し、該表面電位は負電荷であることがわかった。
【0157】
<アニオン性界面活性剤の効果(蛍光顕微鏡観察)>
(1)ナノ前駆構造体1、(2)ナノ前駆構造体2、及び(3)ナノ構造体4のそれぞれを、DAPIで染色したグラム陽性菌として黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus;S.aureus)、及びグラム陰性菌として大腸菌(E.coli)それぞれに添加し(細菌濃度は10CFU/cm)、10分間インキュンベートした後、FITCについて494nm、DAPIについて359nmの波長で蛍光顕微鏡により観察した。結果を図7に示す。
【0158】
図7の蛍光顕微鏡の写真に示すとおり、SDSの添加により、黄色ブドウ球菌(S.aureus)と大腸菌(E.coli)の凝集挙動に違いが生じることがわかった。具体的には、SDS添加前のナノ前駆構造体2に比べ、SDSの添加により、黄色ブドウ球菌(S.aureus)の凝集能が著しく低下するのに対し、大腸菌(E.coli)の凝集能に大きな変化が見られないことがわかった。
【0159】
<アニオン性界面活性剤の効果(濁度変化)>
(1)ナノ前駆構造体1、(2)ナノ前駆構造体2、及び(3)ナノ構造体4のそれぞれを、PBS緩衝液(pH7.4)中の黄色ブドウ球菌(S.aureus)、及び大腸菌(E.coli)に添加して(細菌濃度は1.0×10CFU/cm)、600nmにおける吸光度測定により濁度の変化を観察した(n=3)。結果を図8に示す。
【0160】
図8のグラフに示すとおり、SDS添加前のナノ前駆構造体2に比べ、SDSの添加により、黄色ブドウ球菌(S.aureus)の凝集能は著しく減少するのに対し、大腸菌(E.coli)の凝集能に大きな変化は見られないことがわかった。SDSの添加により、グラム陰性菌に選択的な凝集が起こることが見出された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8