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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027940
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】段差計測装置、及び、段差算出方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 21/02 20060101AFI20240222BHJP
   G01Q 30/04 20100101ALI20240222BHJP
   G01Q 60/36 20100101ALI20240222BHJP
【FI】
G01B21/02 A
G01Q30/04
G01Q60/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022131145
(22)【出願日】2022-08-19
(71)【出願人】
【識別番号】318010018
【氏名又は名称】キオクシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】弁理士法人イトーシン国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】芳野 公則
【テーマコード(参考)】
2F069
【Fターム(参考)】
2F069AA02
2F069AA42
2F069BB15
2F069CC06
2F069DD15
2F069DD25
2F069GG04
2F069GG07
2F069GG52
2F069GG62
2F069HH09
2F069JJ14
2F069MM04
2F069NN25
(57)【要約】
【課題】簡便に計測対象の段差を計測することができ、かつ、計測ばらつきを低減させることができる段差計測装置、及び、段差算出方法を提供する。
【解決手段】凹凸が形成された被検体11表面の段差を計測する段差計測装置であって被検体11の表面に設定された複数の計測点の表面高さを計測する原子間力顕微鏡100と、複数の計測点を含む計測対象領域OA内の段差を算出する段差算出部63とを有する。段差算出部63は、計測対象領域OA内において、少なくとも1つの段差部を含む測定領域MAを設定し、測定領域MAに含まれる計測点の表面高さをヒストグラム化してヒストグラムを生成し、ヒストグラムに基づき測定領域MAに含まれる段差部の段差を算出する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹凸が形成された被検体表面の段差を計測する段差計測装置であって、
前記被検体表面に設定された複数の計測点の表面高さを計測する高さ計測機構と、
前記複数の計測点を含む計測対象領域内の前記段差を算出する段差算出部と、
を有し、
前記段差算出部は、前記計測対象領域内において、少なくとも1つの段差部を含む測定領域を設定し、
前記測定領域に含まれる前記計測点の前記表面高さをヒストグラム化して第1ヒストグラムを生成し、
前記第1ヒストグラムに基づき、前記測定領域に含まれる前記段差部の前記段差を算出することを特徴とする、段差計測装置。
【請求項2】
前記段差算出部は、前記第1ヒストグラムの各ピークを、フィッティングにより算出し、前記ピークに基づき前記段差部の前記段差を算出することを特徴とする、請求項1に記載の段差計測装置。
【請求項3】
前記段差算出部は、前記第1ヒストグラムの各ピークを、すでに蓄積されている過去の学習データとの比較により算出し、前記ピークに基づき前記段差部の前記段差を算出することを特徴とする、請求項1に記載の段差計測装置。
【請求項4】
前記段差算出部は、前記第1ヒストグラムにあらわれるピークが2つになるように、前記測定領域の範囲を調整することを特徴する、請求項1に記載の段差計測装置。
【請求項5】
前記段差算出部は、前記計測対象領域内において複数の前記測定領域を設定し、それぞれの前記測定領域に含まれる前記段差部の高さを算出し、前記複数の測定領域で算出された前記高さをヒストグラム化して第2ヒストグラムを生成し、前記第2ヒストグラムに基づき、前記計測対象領域内における前記段差部の平均段差を算出することを特徴とする、請求項1に記載の段差計測装置。
【請求項6】
表面に凹凸が形成された被検体において、前記被検体の前記表面に設定された複数の計測点の表面高さを計測することと、
前記被検体の前記表面において、少なくとも1つの段差部を含む測定領域を設定することと、
前記測定領域に含まれる前記計測点の前記表面高さをヒストグラム化して第1ヒストグラムを生成することと、
前記第1ヒストグラムに基づき、前記測定領域に含まれる前記段差部の段差を算出することを特徴とする、段差算出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、段差計測装置、及び、段差算出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体基板上などに形成された段差を高精度で計測する装置として、原子間力顕微鏡(AFM:Atmic Force Microscope)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-118487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本実施形態は、簡便に計測対象の段差を計測することができ、かつ、計測ばらつきを低減させることができる段差計測装置、及び、段差算出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本実施形態の段差計測装置は、凹凸が形成された被検体表面の段差を計測する段差計測装置であって、前記被検体表面に設定された複数の計測点の表面高さを計測する高さ計測機構と、前記複数の計測点を含む計測対象領域内の前記段差を算出する段差算出部とを有する。前記段差算出部は、前記計測対象領域内において、少なくとも1つの段差部を含む測定領域を設定し、前記測定領域に含まれる前記計測点の前記表面高さをヒストグラム化して第1ヒストグラムを生成し、前記第1ヒストグラムに基づき、前記測定領域に含まれる前記段差部の前記段差を算出する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】本発明の実施形態にかかる段差計測装置の構成例を示すブロック図。
図2】被検体における検査対象領域の一例を説明する上面図。
図3A図2のA-A´線に沿った垂直断面図。
図3B図2のB-B´線に沿った垂直断面図。
図3C図2のB-B´線に沿った垂直断面図。
図4図2のB-B´線に沿った計測結果の一例を説明する図。
図5A図2のB-B´線に沿った計測結果の別の一例を説明する図。
図5B図2のB-B´線に沿った計測結果の別の一例を説明する図。
図6】本発明の実施形態にかかる段差算出方法の手順の一例を示すフローチャート。
図7A】測定領域の一例を説明する上面図。
図7B】測定領域の一例を説明する上面図。
図8】測定領域の設定手順の一例を説明するフローチャート。
図9】管理値の算出手順の一例を示すフローチャート。
図10】段差ヒストグラムの一例を説明する図。
図11】段差ヒストグラムの別の一例を説明する図。
図12】測定領域の別の一例を説明する上面図。
図13図12に示す測定領域の段差ヒストグラムの一例を説明する図。
図14】測定領域の別の一例を説明する上面図。
図15図14に示す測定領域の段差ヒストグラムの一例を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
【0008】
図1は、本発明の第1実施形態にかかる段差計測装置の構成例を示すブロック図である。本実施形態の段差計測装置は、原子間力顕微鏡(AFMと示す場合もある)100と、情報処理装置200とを備え、被検体11である半導体装置(例えば、シリコンウェハ上に形成された電気回路など)における表面の段差を計測するために用いられる。なお、計測された段差に関する情報や、計測中に取得したデータ等を表示させる表示装置300を更に備えてもよい。
【0009】
高さ計測機構としての原子間力顕微鏡100は、探針21と被検体11に作用する原子間力を検出するタイプの顕微鏡であり、検体ステージ10と、カンチレバー20と、レーザー部30と、検出部40と、制御部50とを備える。
【0010】
検体ステージ10は、計測時において、表面に被検体11が載置される。検体ステージ10は、水平方向駆動部12により、検体ステージ10表面と平行な直交する2方向(x方向、y方向)に移動可能になされている。x方向、及び/または、y方向に検体ステージ10を移動させることで、被検体11における計測対象領域OAを移動させることができる。また、検体ステージ10は、垂直方向駆動部13により、検体ステージ10表面と直交する方向(z方向)に移動可能になされている。
【0011】
細長な板状のカンチレバー20には、その一端において、被検体11と対向する面に探針21が取り付けられている。探針21は、微細な形状を有する針状の部材である。また、カンチレバー20の他端は、アタッチメント部22に接続されている。アタッチメント部22は、駆動部51によって、検体ステージ10表面と平行な直行する2方向(x方向、y方向)に移動可能になされている。x方向、及び/または、y方向にカンチレバー20を移動させることで、計測対象領域OA内における計測点を移動させることができる。より具体的には、被検体11の計測対象領域OA内において、探針21の位置を、Y方向の位置を固定してX方向に一端から他端まで移動した後、Y方向の位置を変更してX方向に前記他端から前記一端まで移動させる、という動作を繰り返す。そして、この動作の繰り返しによりY方向の一端から他端まで達したとき、1回の走査を終了し、探針21の位置を、X方向の前記一端及びY方向の前記一端の位置に戻したうえで、Y方向の一端から他端までの上記動作を行うことで次の走査を行う。
【0012】
段差計測時には、長さや厚みなど形状の異なるものや材質が異なるものなど種々のカンチレバーから、被検体11の材質や必要とする分解能などに応じたカンチレバー20が選択され、アタッチメント部22に取り付けて使用される。
【0013】
レーザー部30は、半導体レーザーをカンチレバー20に照射する。検出部40は、カンチレバー20の変位を検出する。すなわち、レーザー部30から出射された半導体レーザーは、カンチレバー20によって反射される。反射された半導体レーザーは、検出部40で検出される。より具体的には、検出部40は、カンチレバー12の可動端(探針21が取り付けられている一端)付近で反射されたレーザー光の入射位置を検出するものであって、当該入射位置によってカンチレバー20の撓み量が測定される。
【0014】
制御部50は、被検体11表面を探針21で走査する間、検出部40からの信号を受信して、該信号に基づいてカンチレバー20の変位量を検出する。そして、この変位量の検出値に基づいて、この変位量が一定の値になるように、垂直方向駆動部13を制御して検体ステージ10のZ方向の位置を調整する。
【0015】
なお、上述では、X-Y方向の走査時にはカンチレバー20を移動させるようにしたが、カンチレバー20を固定して検体ステージ11を水平方向駆動部12により移動させるようにしてもよいし、カンチレバー20と検体ステージ11の双方を移動させるようにしてもよい。また、上述では、Z方向の位置調整を、垂直方向駆動部13により検体ステージ11を移動させるようにしたが、駆動部51によりカンチレバー20をZ方向に移動させるようにしてもよい。
【0016】
情報処理装置200は、例えばコンピュータであり、中央演算処理装置(CPU)21と、RAM22と、欠陥検出部23とを備えている。情報処理装置200は、原子間力顕微鏡100から入力されるデータ(検出部40からの信号に基づくカンチレバー20の変位量、及び、探針21の位置情報)に基づいて、被検体11の表面形状を示すデータを作成する。また、当該データに基づいて、管理対象となる段差を算出する。
【0017】
CPU61は、図示しないメモリに記憶されたプログラムに従って動作し、情報処理装置200の各部を制御する。RA62は、原子間力顕微鏡100から入力されるデータを格納したり、段差算出部63での検出結果を格納したりする。
【0018】
段差算出部63は、原子間力顕微鏡100から入力されるデータに基づき、計測対象領域OA内における管理対象の段差を算出する。なお、段差算出部63における動作を予めプログラムとして図示しないメモリに格納しておき、CPU61において実行することにより、ソフトウェア的に段差算出を行ってもよい。また、情報処理装置200は、原子間力顕微鏡100の一部として制御部50と一体的に構成され、表面形状データの作成や管理対象となる段差の算出だけでなく、検体ステージ11やカンチレバー20の位置調整制御など、原子間力顕微鏡100の制御を行う機能等を有していてもよい。
【0019】
次に、実施形態における段差算出方法について説明する。まず、図2、3を用いて、管理対象となる段差の一例について説明する。図2は、被検体における検査対象領域の一例を説明する上面図である。図3Aは、図2のA-A´線に沿った垂直断面図である。
【0020】
図2に示すように、計測対象領域OAは、例えば、半導体装置(例えば、シリコンウェハ上に形成された電気回路など)が形成された半導体チップの上面であって、チップ端近傍に設定されている。計測対象領域OAには、パシベーション膜PVが成膜されている。また、ガードリング領域GRと、複数のパッドPDとが、パシベーション膜PVから露出するように形成されている。
【0021】
図3Aに示すように、計測対象領域OAの表面には、パシベーション膜PVとしての絶縁膜101が形成されている。また、絶縁膜101の一部に開口が形成されており、開口には、金属(例えば、銅)などで形成された導電性膜102が形成されている。導電性膜102は、パッドPDとして機能する。絶縁膜101および導電性膜102の下部には、層間絶縁膜103が形成されている。層間絶縁膜103は、導電性膜102の下部領域の一部に開口が形成されており、開口には、導電性材料で形成されたコンタクトプラグ104が埋め込まれている。すなわち、導電性膜102は、コンタクトプラグ104と電気的に接続されている。コンタクトプラグ104は、層間絶縁膜103の下部に形成された配線(不図示)を介して、配線の下部に形成された電気回路(不図示)と電気的に接続されている。このような構成により、パッドPDに外部から電源を供給することにより、半導体装置を形成する電気回路に所定の電圧が供給される。
【0022】
導電性膜102の表面は、絶縁膜101の表面よりも低い位置に形成される。すなわち、パッドPDの表面とパシベーション膜PVの表面との間には高低差が生じており、段差PSが形成される。このパシベーション膜PV(絶縁膜101)とパッドPD(導電性膜102)との間の段差PSが、例えば管理対象として算出される。
【0023】
図3B、3Cは、図2のB-B´線に沿った垂直断面図である。図3B、3Cは、半導体基板105から絶縁膜101までの垂直断面を示している。半導体装置図3Bは、パシベーション膜PV表面の高さが計測対象領域OAにおいてどこも等しく、パッドPDの高さが計測対象領域OAにおいてどこも等しく、被検体11の反りや歪みがない状態の断面図を示している。また、図4は、図2のB-B´線に沿った計測結果の一例を説明する図である。図4は、図3Bに示すような状態(被検体11が理想的な状態)における計測結果を示している。このような理想的な状態の場合、図2のB-B´線に沿って探針211を走査させながら取得した計測結果は、パシベーション膜PVの計測値はZr、パッドPDの計測値はZpとなる。故に、パシベーション膜PVとパッドPDの段差PSは、(Zr-Zp)で算出される。
【0024】
ところが、実際には、半導体装置の製造過程において、成膜により印加される応力などにより被検体11に反りや歪みが生じることがある。また、検体ステージ10に被検体11を設置する際に、検体ステージ10の表面と被検体11の裏面とが平行に設置されず、傾斜が生じるように被検体11を設置してしまう設置不良が生じることがある。このような設置不良が発生する場合、傾斜の分だけ計測値に面内誤差が生じてしまうこともある。図3Cは、上述のような、被検体11に反りや歪みが生じた状態の断面図を示している。このため、現実的には、図5Bに示すような計測結果が得られる。
【0025】
図5A、5Bは、図2のB-B´線に沿った計測結果の別の一例を説明する図である。図5Bには、図3Cに示すように、被検体11がX方向正側に右下がりの傾斜をもって設置されており、かつ、被検体11にX方向正側が凸になるような歪みが生じている場合の計測結果の一例を示している。図5Bに示すように、パシベーション膜PV表面の高さは位置(X座標)によって異なっており、一定の値にはならない。また、パッドPDの高さも位置(X座標)によって異なっており、一定の値にはならない。計測結果からこれらの要因を排除するため、例えば、被検体11の計測対象領域OAにおいて、段差が形成されておらず表面が平坦な領域についての高さZの計測値を用いて、計測結果に対して補正を行うことが考えられる。しかしながら、計測対象領域OAに段差が形成されておらず表面が平坦な領域が存在しない場合、このような補正を行うことができない。
【0026】
また、被検体11に反りや歪みがない状態においても、図5Aに示すように、CMP(Chemical Mechanical Polishing)加工の影響などにより、パシベーション膜PV(絶縁膜101)が局所的に(ローカルに)突出した高さを有する場合(図5A、5Bの点線の楕円で示す領域)があったり、パッドPD(導電性膜102)の膜厚の面内ばらつきなどにより、位置によってパッドPDの高さに高低差があったりする。これらの影響により、計測結果からパシベーション膜PVの高さやパッドPDの高さを一意に算出することが困難である。
【0027】
図6は、本発明の実施形態にかかる段差算出方法の手順の一例を示すフローチャートである。図6に示す手順を実行することで、計測ばらつきを低減させ、かつ、簡便に、管理対象となる段差を算出することができる。
【0028】
まず、AFM100により、計測対象領域OA内のすべての計測点について、表面の高さを計測する(S1)。次に、測定領域MAを設定する(S2)。測定領域MAとは、計測対象領域OA内の一部領域であって、段差を算出する計測値として用いる範囲が特定された領域である。図7A、7Bは、測定領域の一例を説明する上面図である。管理対象がパシベーション膜PV(絶縁膜101)とパッドPD(導電性膜102)との間の段差PSである場合、例えば図7Bに示すように、1つのパッドPDと、当該パッドPDの周辺(四辺の外側)に形成されたパシベーション膜PVとを含む領域が、測定領域MAとして設定される。
【0029】
測定領域MAの設定(S2)は、例えば、図8に示す手順で行われる。図8は、測定領域の設定手順の一例を説明するフローチャートである。まず、半導体装置を構成する各部位のレイアウトデータであるCAD(Computer Aided Disign)データを情報処理装置200に入力する(S21)。次に、CADデータに基づいて、段差計測対象となるパッドPDの領域を設定し、測定領域を仮設定する(S22)。例えば、図7Bに示すように、格子状に配置された複数のパッドPDのうち、左上部角に位置するパッドPDの段差を算出する場合、まず、当該パッドPDの位置情報(パッドのレイアウトデータ)をCADデータから抽出して、図7Aに示すように測定領域MAとして仮設定する。最後に、S23で仮設定した測定領域を調整し、図7Bに示すように測定領域MAを決定する(S23)。仮設定された測定領域は、パッドPDのみが含まれており周囲のパシベーション膜PVが含まれていない。したがって、例えば、当該パッドPDの四辺から所定の距離までの間のパシベーション膜PVが測定領域MAに含まれるように、仮設定された測定領域を調整(拡大)して、段差算出範囲である測定領域MAを決定する。なお、測定領域MAは、計測対象領域OA内に複数設定することができる。例えば、図7A、7Bに示す24個のパッドPDのそれぞれについて段差を算出する場合、S2では24個の測定領域MAが設定される。
【0030】
続いて、S2で設定された測定領域MAについて、管理値(段差)を算出する(S3)。管理値の算出(S3)は、例えば、図9に示す手順で行われる。図9は、管理値の算出手順の一例を示すフローチャートである。まず、測定領域MAごとに段差ヒストグラムを作成する(S31)。図10は、段差ヒストグラムの一例を説明する図である。段差ヒストグラムは、測定領域MA内に存在する計測点の計測データについて、高さの分布をヒストグラムで表したものである。
【0031】
図10に示すように、段差ヒストグラムには分布のピークが2つ形成される。高さが低い側にあらわれる1つめのピークP1は、パッドPDが形成されている領域に存在する計測点の計測データで構成されている。高さが高い側にあらわれる2つめのピークP2は、パシベーション膜PVが形成されている領域に存在する計測点の計測データで構成されている。
【0032】
次に、測定領域MAごとに、作成された段差ヒストグラムから段差PSを算出する(S32)。パシベーション膜PVとパッドPDの段差PSは、2つめのピークP2の高さから1つめのピークP1の高さとの差分により算出される。このように計測結果を段差ヒストグラムで表現することで、パッドPD内の計測点の計測値にばらつきがあったり、パシベーション膜PV内の計測点の計測値にばらつきがあったりする場合にも、計測ばらつきの影響を低減し、かつ、簡便な方法で段差PS算出することができる。さらには、段差ヒストグラムに採用する計測点の範囲を測定領域MA内に限定することで、段差PSの算出において、被検体11を検体ステージ10に設置する際の傾きや、被検体11の反りや歪みといった全域的な(グローバルな)高さずれの影響を排除することができる。
【0033】
また、コロージョンなどにより局所的に(ローカルに)高さが異なる微小領域があった場合、図11に示すように、例えばパッドPDのピークP1の隣接領域に所定の分布を持ったサブピークO1として出現する。段差PSの算出は2つのピークP1、P2のみを用いて算出されるため、サブピークO1は段差PSの値に影響を及ぼさない。すなわち、本実施形態の段差算出方法によれば、コロージョンなどの欠陥の有無によらず、簡便に段差PSを算出することができる。
【0034】
なお、所定の分布を持ったサブピークO1は、欠陥等の異常部分として出力することができる。計測対象領域OA内に複数の測定領域MAが設定されている場合、欠陥が検出された測定領域MAを抽出することで、面内の欠陥管理を行うことも可能である。また、設定した基準(例えば、サブピークO1の高さとピークの高さとの差、サブピークO1に存在する計測点の個数、サブピークO1の分布幅)を超える場合に、サブピークO1を欠陥として認識するようあらかじめ設定することで、段差ヒストグラムを作成する工程(S31)において、欠陥も自動的に抽出することが可能である。
【0035】
さらに、図11に示すように、分布を持たない線状のサブピークO2が出現した場合、飛び値(外れ値)としてみなすことができる。このようなサブピークO2は、疑似として無視することができる。なお、段差PSの算出は2つのピークP1、P2のみを用いて算出されるため、サブピークO2も段差PSの値に影響を及ぼさない。
【0036】
なお、上述では、計測データそのものをヒストグラムであらわすことにより段差ヒストグラムを生成したが、ガウス関数など用いて計測データにフィッティングする曲線を導出し、当該曲線を段差ヒストグラムの代わりに用いてもよい。さらには、過去の計測データと段差との関係を学習データとして蓄積しておき、当該学習データと今回の計測データとを比較することにより、段差を推定するようにしてもよい。
【0037】
さらに、段差PSの算出だけでなく、パッドPD内の高さ分布やパシベーション膜PVの高さ分布を段差ヒストグラムから算出することができる。例えば、高さが低い側にあらわれる1つめのピークP1の半値幅をパッドPD内の高さ分布D2、高さが高い側にあらわれる2つめのピークP2の半値幅をパシベーション膜PVの高さ分布D1とすることができる。このように、段差PSだけでなく高さ分布D1、D2も算出することで、段差部分の形状について更にきめ細やかな管理が可能となる。
【0038】
次に、計測対象領域OAにおける管理値(平均段差など)を算出する(S33)。具体的には、計測対象領域OAにおけるすべての測定領域MAに関してS32で算出された段差PSを積算し、測定領域MAの個数で除することにより平均段差を算出する。また、各測定領域MAの段差PSの分布幅を算出し、平均段差とともに管理値としてもよい。さらには、平均段差などとともに、S32で算出された、各測定領域MAの段差PSや高さ分布D1、D2も、管理値としてもよい。最後に、S3で算出された管理値の出力(S4)をもって、本実施形態の段差算出方法の一連の手順を終了する。
【0039】
以上のように、本実施形態によれば、被検体11の計測対象領域OAに、段差の底面と上面とを含む測定領域MAを設定し、段差算出部63において測定領域MA内の計測データをヒストグラム化する。ヒストグラムにあらわれる2つのピークのピーク値の差分を段差とすることで、被検体11を検体ステージ10に設置する際の傾きや、被検体11の反りや歪みといった全域的な(グローバルな)高さずれの影響も、コロージョンなどの欠陥の影響も排除することができる。すなわち、簡便に段差を計測することができ、かつ、計測ばらつきを低減させることができる段差計測装置、及び、段差算出方法を提供することができる。
【0040】
なお、上述では、1つのパッドPDとその周辺のパシベーション膜PVとが含まれるように測定領域MAを設定しているが、複数のパッドが含まれるように設定してもよい。例えば、図12に示すように、2つのパッドPD1、PD2が含まれるように測定領域MAを設定してもよい。図12は、測定領域の別の一例を説明する上面図である。ただし、測定領域MA内の計測データをヒストグラム化した際に、分布のピークが、パッドPDのピークとパシベーション膜PVのピークの2つになるように測定領域MAを設定することが望ましい。
【0041】
図13は、図12に示す測定領域の段差ヒストグラムの一例を説明する図である。例えば、測定領域MAの計測データをヒストグラム化したときに、図13に示すような分布、すなわち、パッドPD1のピークP11、パッドPD2のピークP12、パッドPD1の周辺のパシベーション膜PVのピークP21、パッドPD2の周辺のパシベーション膜PVのピークP22、のように4つのピークができてしまう場合、段差PSの算出が単純な引き算でできなくなってしまう。このように2つ以上のピークができてしまう場合、測定領域MAを狭め、含まれるパッドPDの個数を減らす必要がある。図10に示すように分布のピークが2つになるのであれば、2つ以上のパッドが含まれるように測定領域MAを設定してもよい。
【0042】
図14は測定領域の別の一例を説明する上面図である。また、図15は、図14に示す測定領域の段差ヒストグラムの一例を説明する図である。図14に示す測定領域MAは、1つのパッドPDのみを含むように設定されているが、パッドPD周辺のパシベーション膜PVがほとんど含まれていない。このように測定領域MAを設定した場合、図15に示すように、パシベーション膜PVのピークが小さくなってしまい、サブピークとの切り分けが困難になってしまう。このように、測定領域MAは、含まれるパッドPDの個数だけでなく、段差ヒストグラムの形状が段差PSの算出に最適な形状になるようにモニターしながら調整することが好ましい。
【0043】
また、被検体11の表面形状(高さ)を計測する装置は、原子間力顕微鏡に限定されず、必要とされる分解能などに応じて、光や電子線、X線などを用いた計測装置を用いてもよい。
【0044】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、一例として示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0045】
10…検体ステージ、11…被検体、12…水平方向駆動部、13…垂直方向駆動部、20…カンチレバー、21…探針、22…アタッチメント部、30…レーザー部、40…検出部、50…制御部、51…駆動部、61…CPU、62…RAM、63…段差算出部、100…原子間力顕微鏡、200…情報処理装置、300…表示装置、
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5A
図5B
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10
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図15