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特開2024-27942ワーク固定治具及びそれを備えた焼き入れ装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027942
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】ワーク固定治具及びそれを備えた焼き入れ装置
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/30 20060101AFI20240222BHJP
   H05B 6/10 20060101ALI20240222BHJP
   C21D 1/00 20060101ALI20240222BHJP
   C21D 1/10 20060101ALI20240222BHJP
   C21D 1/42 20060101ALI20240222BHJP
   C21D 1/62 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
C21D9/30 B
H05B6/10 361
C21D1/00 F
C21D1/10 Y
C21D9/30 A
C21D1/42 G
C21D1/62
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022131148
(22)【出願日】2022-08-19
(71)【出願人】
【識別番号】390026088
【氏名又は名称】富士電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100480
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 隆
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 弘子
(72)【発明者】
【氏名】堂阪 学
(72)【発明者】
【氏名】崎原 盛寛
【テーマコード(参考)】
3K059
4K034
4K042
【Fターム(参考)】
3K059AA08
3K059AB24
3K059AD40
4K034AA01
4K034AA10
4K034AA19
4K034BA10
4K034DA02
4K034DA06
4K034DB02
4K034DB03
4K034FA04
4K034FB03
4K034GA07
4K042AA16
4K042BA03
4K042BA14
4K042DA01
4K042DB01
4K042DD02
4K042DD04
4K042DE02
4K042DF02
4K042EA01
(57)【要約】
【課題】本開示のワーク固定治具は、異なる複数のワークに焼入れを行う際、短時間で容易に交換可能である。
【解決手段】本開示に係るワーク固定治具は、ワーク保持手段でシャフトを保持した状態で、回転手段によりシャフトを回転し、誘導加熱コイルを軸部に近接して配置して、第1ジャーナルを誘導加熱するものである焼き入れ装置のワーク固定治具であって、本体部の非回転部に固定される固定部と、誘導加熱コイル側に突出する突出部と、突出部より窪んだ窪み部とを有し、突出部が常時或いはコイルユニットの姿勢が変化した際に一時的にコイルユニットと接触するものであり、窪み部は、誘導加熱コイルと対向して配置されるものである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼き入れ装置を使用してワークを焼き入れする際に使用される焼き入れ装置のワーク固定治具であって、
焼き入れ装置は、ワーク保持手段とワークを回転させる回転手段とを備えた本体部と、誘導加熱コイルを有するコイルユニットを備えたものであり、
ワークは、端部に配置された第1ジャーナルと、第1ジャーナルに隣接して配置され、第1ジャーナルの径より大きい部位を少なくとも一部に有する隣接部材とを備えたシャフトであり、
ワーク保持手段でワークを保持した状態で、回転手段によりワークを回転し、誘導加熱コイルを第1ジャーナルに近接して配置して、第1ジャーナルを誘導加熱するものである焼き入れ装置のワーク固定治具において、
本体部の非回転部に固定される固定部と、誘導加熱コイル側に突出する突出部と、突出部より窪んだ窪み部とを有し、
突出部が常時或いはコイルユニットの姿勢が変化した際に一時的にコイルユニットと接触するものであり、
窪み部は、誘導加熱コイルと対向して配置されるものであることを特徴とするワーク固定治具。
【請求項2】
コイルユニットは、誘導加熱コイルとワークとを離間させるための位置決め部材を有し、
位置決め部材は、ワーク固定治具側に突出する凸部を有し、
位置決め部材の凸部と突出部とが、常時或いはコイルユニットの姿勢が変化した際に一時的に接触することを特徴とする請求項1に記載のワーク固定治具。
【請求項3】
ワーク固定治具は、ワーク保持手段とコイルユニットとの間に配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のワーク固定治具。
【請求項4】
コイルユニットは、隣接部材とワーク固定治具との間に配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のワーク固定治具。
【請求項5】
焼き入れ装置は、さらにワーク固定治具とワーク保持手段との間に配置された保持部材を有し、
保持部材は、嵌合穴と、嵌合穴の内側に一部が飛び出しているボールプランジャーとを有し、
固定部は円弧形状であり、ボールプランジャーと嵌合する溝を有し、
ボールプランジャーと固定部の溝とが嵌合したり外れたりすることで、保持部材から脱着することが可能であることを特徴とする請求項1又は2に記載のワーク固定治具。
【請求項6】
請求項1又は2に記載したワーク固定治具と、ワーク保持手段とワークを回転させる回転手段とを備えた本体部と、誘導加熱コイルを有するコイルユニットとを備えたことを特徴とする焼き入れ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、各種機械部品・自動部品等のワークであるクランクシャフトに焼入れをする際、クランクシャフトを加熱するコイルユニットを位置決めするワーク固定治具及びそれを備えた焼き入れ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ワーク(W)であるクランクシャフトに焼入れをする際、誘導加熱コイルを有するコイルユニットを位置決めするワーク固定治具が知られている(特許文献1)。
【0003】
図14は、従来技術である特許文献1のワーク固定治具111を有する焼き入れ装置100の概略の構成を示す正面図である。
図14において、焼き入れ装置100は、ワーク保持手段112と回転手段120とを有する本体部103と、コイルユニット130と、ワーク固定治具111とを備えている。
ワーク保持手段112は第1のセンターピン113を有し、回転手段120は第2のセンターピン121を有する。
焼き入れ装置100は、第1のセンターピン113と第2のセンターピン121とで、クランクシャフト101を保持している。
図14において、ワーク保持手段112と、ワーク固定治具111と、回転手段120とは、概略の断面を描写している。
【0004】
図15は、クランクシャフト101及びコイルユニット130の概略の構成を示す正面図である。
図15に示すように、クランクシャフト101は、第1ジャーナルJ1-J5と、第1ジャーナルに対して偏心した位置に配されたピン(第2ジャーナルとも言う)P1-P4と、第1ジャーナルとピンとを接続し、第1ジャーナルの径より大きい部位を少なくとも一部に有する隣接部材(カウンターウェイトとも言う)C1-C8とを備えている。
【0005】
図15に示すように、クランクシャフト101は、5個の第1ジャーナルJ1-J5と、4個のピンP1-P4と、8個の隣接部材(カウンターウェイト)C1-C8と、ジャーナルJ5の右側に接合されたフランジF(右側端部)と、第1ジャーナルJ1の左側に接合された軸端部材G2と、軸端部材G2の左側に接合されたメインシャフトG1(左側端部)とを具備している。
軸端部材G2の直径は、第1ジャーナルJ1の直径より小さく、メインシャフトG1の直径は軸端部材G2の直径より小さい。このクランクシャフト101では、第1ジャーナルとピンとがカウンターウェイトを介して交互に配置されている。
クランクシャフト101は、少なくとも一組の第1ジャーナルと、ピンと、隣接部材(カウンターウェイト)とを備えている。
コイルユニット130は、半開放型の形状をしており、誘導加熱コイル131とコイル支持部132とを有する。
【0006】
図14において、回転軸70は、クランクシャフト101の回転軸70である。
第1のセンターピン113の先端とメインシャフトG1の回転軸70とは、一致している。第2のセンターピン121の先端とフランジFの回転軸70とは、一致している。
つまり、ワーク保持手段112でクランクシャフト101を保持した状態で、回転手段120によりクランクシャフト101を回転する。
【0007】
第1ジャーナルJ1~J5を高周波加熱するには、クランクシャフト101を、回転軸70を中心として、回転手段120で回転させながら、誘導加熱コイル131を、第1ジャーナルJ1に載置し、所定時間加熱後、第1ジャーナルJ1に焼入用冷却液を噴射する。
次いて順次第1ジャーナルJ2~J5を焼入する。
【0008】
ところが、第1ジャーナルJ1のように片側にしかカウンターウェイトC1が無い第1ジャーナルJ1上に載置されたコイルユニット130は、第1ジャーナルJ1を加熱中に、不慮の衝撃や振動等によって、ワーク保持手段112側へ移動し、第1ジャーナルJ1に所望の硬化層を形成できないことがある。
【0009】
そのため、特許文献1では、メインシャフトG1及び軸端部材G2をワーク固定手段111に設けられた貫通孔117に挿入し、ボルト111aによりワーク固定治具111とワーク保持手段112とを固定している。
特許文献1のコイルユニット130では、一方の側にカウンターウェイトC1があり、他方の側にはワーク固定治具111があるので、クランクシャフト101の回転にともなってコイルユニット130に衝撃や振動が伝わっても、コイルユニット130が回転軸70の方向に移動することを防止している。
【0010】
しかしながら、特許文献1には、次のような改善の余地がある。
特許文献1において、最初のワークを終了した後、別機種の次のワークを行う場合、次のワークの軸端部材G2の直径が、最初のワークの軸端部材G2の直径より大きくワーク固定手段111の貫通孔117に挿入できない場合がある、
次に、詳細について説明する。
【0011】
まず、図14において、最初のワークを終了した後、ボルト111aを一旦外し、ワーク保持手段112からワーク固定治具111を取り外す。
次に、新しい次のワークと新しい次のワーク固定治具111とを準備する。
次に、新しい次のワークの軸端部材G2を新しい次のワーク固定治具111の貫通孔117に挿入する。
次に、第1ジャーナルJ1に半開放型のコイルユニット130を配置させる。
次に、第1のセンターピン113の先端と新しい次のワークのメインシャフトG1の中心とが接触するように、次の新しいワーク固定治具111とワーク保持手段112とをボルト111aで締めて取り付ける。
次に、第2のセンターピン121の先端と新しい次のワークのフランジFの中心とが接触するように、回転手段120を左に移動させて、新しい次のワークを固定する。
最後に、回転手段120でワークを回転させ、コイルユニット130で、新しい次のワークの第1ジャーナルJ1の焼入れを行う。
尚、上記態様において、第1のセンターピン113と第2のセンターピン121とにより、ワークを保持したが、この方法に限らず、チャック等でワークを掴み、ワーク保持手段112と回転手段120とでワークを保持してもよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】実公平6-19561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記のように、特許文献1では、ワーク固定治具111と誘導加熱コイル131との間に焼入用冷却液が入り込み、ワーク固定治具111と誘導加熱コイル131とがくっ付いてしまいワーク固定治具111を交換しにくいという課題があり、改善の余地がある。
【0014】
又、上記のように、特許文献1では、軸端部材G2の直径が異なるワークに焼入れを行う場合、軸端部材G2の直径と適合する新しいワーク固定治具111を準備し、新しいワーク固定治具111をボルト111aで固定するので、ボルト111aで緩めたり締めたりするのに時間が掛かる。又、回転軸70の方向のワークの第1のジャーナルの幅が異なるワークに焼入れを行う場合も上記と同様に改善の余地がある。
【0015】
又、特許文献1において、ボルト111aを緩めたり締めたりするとボルトの山、又はワーク固定治具111の山が潰れてしまうという改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本開示の一態様に係るワーク固定治具は、焼き入れ装置を使用してワークを焼き入れする際に使用される焼き入れ装置のワーク固定治具であって、焼き入れ装置は、ワーク保持手段とワークを回転させる回転手段とを備えた本体部と、誘導加熱コイルを有するコイルユニットを備えたものであり、ワークは、端部に配置された第1ジャーナルと、第1ジャーナルに隣接して配置され、第1ジャーナルの径より大きい部位を少なくとも一部に有する隣接部材とを備えたシャフトであり、ワーク保持手段でワークを保持した状態で、回転手段によりワークを回転し、誘導加熱コイルを第1ジャーナルに近接して配置し、第1ジャーナルを誘導加熱するものである焼き入れ装置のワーク固定治具において、本体部の非回転部に固定される固定部と、誘導加熱コイル側に突出する突出部と、突出部より窪んだ窪み部とを有し、突出部が常時或いはコイルユニットの姿勢が変化した際に一時的にコイルユニットと接触するものであり、窪み部は、誘導加熱コイルと対向して配置されるものである。
【0017】
本開示の一態様に係る焼入れ装置は、上記記載したワーク固定治具と、ワーク保持手段とワークを回転させる回転手段とを備えた本体部と、誘導加熱コイルを有するコイルユニットとを備えている。
【発明の効果】
【0018】
本開示の一態様によれば、異なる複数のワークに焼入れを行う際、短時間で容易にワーク固定治具を交換可能なワーク固定治具を提供できる。又、本開示の一態様によれば、上記効果を有するワーク固定治具を備えた焼入れ装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施形態1における焼き入れ装置の概略の構成を示す正面図である。
図2】実施形態1における第1のワーク固定治具及びコイルユニットの概略の分解斜視図である。
図3】実施形態1におけるコイルユニットの概略の斜視図である。
図4】実施形態1におけるコイルユニットの概略の分解斜視図である。
図5】実施形態1におけるワークとコイルユニットとの位置関係を示す図である。
図6】実施形態1における第1のワーク固定治具の概略の斜視図である。
図7】本開示の別の態様である実施形態2における焼き入れ装置の概略の構成を示す正面図である。
図8】実施形態2におけるコイルユニット、第2のワーク固定治具及び保持部材の概略の分解斜視図である。
図9】実施形態2における第2のワーク固定治具の概略の斜視図である。
図10】実施形態2における保持部材の概略の斜視図である。
図11】実施形態2における第2のワーク固定治具を保持部材から着脱する動作図で、(a)は挿入時、(b)固定時の状態を表す図である。
図12】実施形態3における焼き入れ装置の概略の構成を示す正面図である。
図13】実施形態4における焼き入れ装置の概略の構成を示す正面図である。
図14】従来技術の焼き入れ装置の概略の構成を示す正面図である。
図15】従来技術のクランクシャフトの概略の構成を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本開示のより具体的な実施形態を説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、発明者らは、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。以下の説明において、同一または類似する構成要素については、同じ参照符号を付している。
【0021】
(実施形態1)
以下、本開示の一態様を示す焼き入れ装置1について図面を用いて説明する。
【0022】
図1は、第1のワーク固定治具11を有する焼き入れ装置1の概略の構成を示す正面図である。
図1において、焼き入れ装置1は、ワーク保持手段12と回転手段20とを有する本体部3と、コイルユニット30と、第1のワーク固定治具11である第1のワーク固定治具11とを備えている。
ワーク保持手段12は第1のセンターピン13を有し、回転手段20は第2のセンターピン21を有する。
焼き入れ装置1は、第1のセンターピン13と第2のセンターピン21とで、クランクシャフト10(W)を保持している。
図1において、ワーク保持手段12、第1のワーク固定治具11、回転手段20は、それぞれの概略の断面を描写している。
【0023】
クランクシャフト10(W)は、図14のクランクシャフト101(W)と同様であるので、説明を省略する。
図2は、図1の点線の個所の第1のワーク固定治具11及びコイルユニット30の概略の分解斜視図である。
第1のワーク固定治具11は、コイルユニット30がワーク保持手段12の方向に移動するのを規制するものである。
図1において、一方の側にカウンターウェイトC1があり、他方の側には第1のワーク固定治具11があるので、クランクシャフト10の回転にともなってコイルユニット30に衝撃や振動が伝わっても、コイルユニット30は回転軸70の方向に移動しない。
【0024】
(コイルユニット)
図3は、コイルユニット30の概略の斜視図である。図4は、コイルユニット30の概略の分解斜視図である。
図3、4において、側板2a、2bは、耐熱性と剛性を有する通電しにくい素材で構成された薄い板状の部材であり、コイルユニット30の筐体を構成する部材である。側板2a、2bには、半円形の凹部である切欠部22が設けられている。側板2a、2bの切欠部22の中央付近には、固定孔8a、8bが設けられている。
【0025】
また、側板2a、2bの切欠部22の端部付近には、それぞれ別の固定孔9a、9b、10a、10bが設けられている。
【0026】
両側板2a、2bは、同様の構造を備えており、同様の構造の側板2a、2bが平行に配置されて対向している。両側板2a、2bの間には、誘導加熱コイル4と中央位置決め部材5と、左側位置決め部材(第1の側方位置決め部材)6と、及び右側位置決め部材(第2の側方位置決め部材)7とが配置されている。
【0027】
接続部材3は、耐熱性と剛性を有する通電し易い素材で構成された略L字形の部材である。接続部材3には、誘導加熱コイル4のリード部4bを配置する孔3aが設けられている。接続部材3は、図示しない変圧器側の接続部材と接続されている。
【0028】
誘導加熱コイル4は、銅又は銅合金等の良導体からなる中空の線状部材である。すなわち誘導加熱コイル4は、内部に冷却液を流通させることができる空間を有している。誘導加熱コイル4は、半円弧状に湾曲したコイル部4aとリード部4bとを有している。
コイル部4aは、右半分の加熱コイル4a1と左半分の加熱コイル4a2とを有している。
【0029】
図5は、ワーク10(W)とコイルユニット30との位置関係を示す図である。ワーク10(W)は、概略の断面を表している。
図5に示す様に、リード部4bの端部は接続部材3に固定されており、リード部4bは、図1の電力線32に接続されている。
【0030】
コイル部4aは、誘導加熱コイル4の中央部分を構成している。コイル部4aは、リード部4bと連続している。すなわち、変圧器の二次側から供給された高周波電流は、リード部4bを介してコイル部4aにも通電される。
【0031】
図4に示す様に、中央位置決め部材5は、ワークと接触する部材で、第1中央位置決め部材5aと、第2中央位置決め部材5bと、絶縁部材5cとを有する。
第1中央位置決め部材5a及び第2中央位置決め部材5bは、セラミックス等の剛性と耐摩耗性に優れた素材で構成された部材である。第1中央位置決め部材5a及び第2中央位置決め部材5bは、それぞれコの字型の第1中央当接部材5d1、第2中央当接部材5d2を有している。
【0032】
図5に示す様に、第1中央当接部材5d1、第2中央当接部材5d2は、ワーク(W)と接触し、コイルユニット30の姿勢を保っている。
絶縁部材5cは、第1中央位置決め部材5aと第2中央位置決め部材5bとの位置合わせを行う位置合わせ部材として機能する。
【0033】
図3、4において、左側位置決め部材6は、第1左側当接部材6aと、第2左側当接部材6bと、絶縁部材6cとを有する。
図3、4において、第1左側当接部材6a、第2左側当接部6bのそれぞれは、第1中央当接部材5a、第2中央当接部材5bと同様に、セラミックス等の通電しにくく剛性と耐摩耗性に優れた素材で構成された部材である。第1左側当接部材6a、第2左側当接部6bのそれぞれは、L字型の形状をしている。
第1左側当接部材6aは、ワーク側に飛び出している凸部6d1を有している。凸部6d1は、側板2aよりワーク保持手段12側へ突出している。
第2左側当接部6bは、ワーク側に飛び出している凸部6d2を有している。凸部6d2は、側板2bよりワーク保持手段12と反対側に突出している。
図5に示す様に、凸部6d1、凸部6d2は、ワークと少し離間して配置され、コイルユニット30が、ワークの回転軸70の方向に垂直な方向(水平方向)に移動するのを規制している。
【0034】
第1右側位置決め部材7a、第2右側位置決め部材7bのそれぞれは、第1左側位置決め部材6a、第2左側位置決め部材6bと同様である。
【0035】
コイルユニット30は、一対の側板2a、2bに対して接続部材3と、誘導加熱コイル4と、中央位置決め部材5と、第1の側方位置決め部材6と、第2の側方位置決め部材7とが固定された構造を有している。すなわち、コイルユニット30は全体が一体化されている。
【0036】
接続部材3は、両側板2a、2bの間に挟まれた状態で両側板2a、2bと一体固着されている。接続部材3を介して、コイルユニット30の誘導加熱コイル4が変圧器(二次側)と通電可能に接続されている。
【0037】
図3、4に示す様に、誘導加熱コイル4は、絶縁部材(図示せず)を介して一対の側板2a、2bの間に固定されている。すなわち、誘導加熱コイル4と両側板2a、2bは一体化されている。側板2a、2bに固定された誘導加熱コイル4のコイル部4aは、側板2a、2bの切欠部22に沿っており、切欠部22から露出している。コイル部4aは、切欠部22の内径よりも小径である。
【0038】
(第1のワーク固定治具)
図6に示す様に、第1のワーク固定治具11は、固定部11aと、接触部11bとを有する。固定部11aの大きさは、接触部11bより大きい。
固定部11aと、接触部11bは、ワークが通る貫通孔17を有する。
固定部11aの固定穴43にボルト16aが挿入され、第1のワーク固定治具11は、ワーク保持手段12に固定される(図1)。
接触部11bは、3つの突出部41a、41b、41cと、3つの窪み部42a、42b、42cを有する。
【0039】
(第1のワーク固定治具とコイルユニットとの関係)
図2に示す様に、中央位置決め部材5の凸部5d1、左側位置決め部材6の凸部6d1、右側位置決め部材7の凸部7d1の少なくとも1つと、突出部41a、41b、41cの少なくとも1つとが接触する。
この位置決め部材の凸部(5d1、6d1、7d1)とワーク固定治具の突出部(41a、41b、41c)との接触は、常時接触してもよいし、或いはコイルユニット30の姿勢が変化した際に一時的に接触してもよい。
この接触により、コイルユニット30は、ワーク保持手段12の方向への移動が規制される。
【0040】
図6に示す様に、第1のワーク固定治具11の窪み部42aは、誘導加熱コイル4の右半分の加熱コイル4a1と距離が離れて対向している。窪み部42bは、誘導加熱コイル4の左半分の加熱コイル4a2と距離が離れて対向している。
【0041】
以上、図2に示す様に、実施形態1では、第1のワーク固定治具11と誘導加熱コイル4との間に非接触の箇所を有し、この非接触の箇所では焼入用冷却液が入り込まないので、第1のワーク固定治具11と誘導加熱コイル4とがくっ付いてしまうのを防止できる。
【0042】
(実施形態2)
以下、本開示の別の態様を示す焼き入れ装置1である実施形態2について、図面を用いて説明する。
図7は、実施形態2における焼き入れ装置1の概略の構成を示す正面図である。
図7は、実施形態1(例えば、図1)と主に異なる点は、保持部材15を設け、第2のワーク固定治具50を保持部材15からボルトを用いずに脱着可能にした点である。
図8は、図7における点線の箇所のコイルユニット30、第2のワーク固定治具50及び保持部材15の概略の分解斜視図で、これらの位置関係を示したものである。
第2のワーク固定治具50は、コイルユニット30と保持部材15との間に配置される。
【0043】
実施形態1と重複する点の説明は省略する。
【0044】
(第2のワーク固定治具)
図9は、実施形態2における第2のワーク固定治具50の分解斜視図である。
図9に示す様に、第2のワーク固定治具50は、第2の接触部51aと、回転軸70方向に張り出した張り出し部である固定部51bとを有する。第2の接触部51aの大きさは、固定部51bより大きい。
第2の接触部51aと固定部51bとは、円弧形状で、ワークが通る貫通孔17を有する。
第2の接触部51aは、図6の第1の接触部11b同様、3つの突出部41a、41b、41cと、3つの窪み部42a、42b、42cとを有する。
固定部51bは、回転軸70方向に長孔がある軸溝52と、周方向に長孔がある周溝53とを有する。
【0045】
(保持部材)
図10に示す様に、保持部材15は、治具保持部材55と、支持部材56と、ボールプランジャー57と、嵌合穴18と、取付穴59とを有する。
保持部材15は、嵌合穴18と、嵌合穴18の内側に一部が飛び出している2つのボールプランジャー57とを有する。
図8図10に示す様に、第2のワーク固定治具50の固定部51bと保持部材15の嵌合穴18とが嵌合する。
図7に示す様に、保持部材15は、支持部材56の取付穴59にボルト60を挿入され、ボルト60でワーク保持手段12に固定される。
【0046】
(着脱動作)
図11を用いて、第2のワーク固定治具50と保持部材15との着脱動作について説明する。
図11(a)は、第2のワーク固定治具50を保持部材15に装着した状態の図である。図11(b)は、第2のワーク固定治具50を保持部材15に固定した状態の図である。
【0047】
(取り付け動作)
図9は、実施形態2における第2のワーク固定治具50の概略の斜視図である。
図10は、実施形態2における保持部材15の概略の斜視図である。図10の左下の図は、ボールプランジャー57の拡大図である。
図11は、実施形態2における第2のワーク固定治具50を保持部材15から着脱する動作図である。
図9図10図11(a)に示す様に、まず、保持部材15のボールプランジャー57と第2のワーク固定治具50の軸溝52とを合わせ、ワークの回転軸70の方向に第2のワーク固定治具50を保持部材15に押し込む。
次に、図11(b)に示す様に、第2のワーク固定治具50を時計回りに回転させて、ボールプランジャー57が周溝53の端部にある深溝である孔54まで回転させる。この時、ボールプランジャー57が突出して孔54に嵌り(図9)、第2のワーク固定治具50が固定される。
上記により、第2のワーク固定治具50は保持部材15に固定され、第2のワーク固定治具50は保持部材15から外れない状態となる。
この時、突出部41aは、上側の頂点に位置している。
【0048】
(取り外し動作)
取り外し動作は、取り付け動作と逆の動作である。
まず、図11(b)の状態の第2のワーク固定治具50を反時計回りに回転させて、ボールプランジャー57が軸溝52に当たるまで回転させる(図11(a))。
次に、図11(a)において、ワークの回転軸70の方向に第2のワーク固定治具50を保持部材15から引き出し、第2のワーク固定治具50を保持部材15から取り外す。
この様に、異なる第2のワーク固定治具50を、短時間で簡単に交換できる。
【0049】
上記態様によれば、第2のワーク固定治具50を保持部材15からボルト16aを用いずに脱着できるので、異なる複数のワークに焼入れを行う際、短時間で交換可能なワーク固定治具を提供できる。又、ボルトを緩めたり締めたりすることがないので、長寿命のワーク固定治具を提供できる。
【0050】
(実施形態3)
以下、本開示の別の態様を示す焼き入れ装置1である実施形態3について、図面を用いて説明する。
図12は、実施形態3における焼き入れ装置1の概略の構成を示す正面図である。
実施形態3において、実施形態1の図1と主に異なる点は、ワークであるクランクシャフト10(W)が、ロータリーエンジンに用いられるエキセントリックシャフト200(W)を用いた点である。実施形態1と重複する点の説明は省略する。
【0051】
エキセントリックシャフト200(W)は、第1ジャーナルであるメインジャーナル201と、隣接部材であるロータージャーナル202と、端部シャフト203とを有する。
図12に示す様に、隣接部材であるロータージャーナル202の径はメインジャーナル201の径より大きく、メインジャーナル201の径は端部シャフト203の径より大きい。
誘導加熱コイル4は、メインジャーナル201の焼入れを行う。
誘導加熱コイル4は、ロータージャーナル202と第1のワーク固定治具11との間に配置されているので、回転軸70の方向に移動するのが規制され、エキセントリックシャフト200(W)の焼入れを確実に行うことが可能である。実施形態3の効果は、実施形態1と同様である。
【0052】
(実施形態4)
以下、本開示の別の態様を示す焼き入れ装置1である実施形態4について、図面を用いて説明する。
図13は、実施形態4における焼き入れ装置1の概略の構成を示す正面図である。
実施形態4において、実施形態2の図7と主に異なる点は、ワークであるクランクシャフト10(W)が、ロータリーエンジンに用いられるエキセントリックシャフト200(W)を用いた点である。実施形態2と重複する点の説明は省略する。
【0053】
エキセントリックシャフト200(W)は、第1ジャーナルであるメインジャーナル201と、隣接部材であるロータージャーナル202と、端部シャフト203とを有する。
図12に示す様に、隣接部材であるロータージャーナル202の径はメインジャーナル201の径より大きく、メインジャーナル201の径は端部シャフト203の径より大きい。
誘導加熱コイル4は、メインジャーナル201の焼入れを行う。
誘導加熱コイル4は、ロータージャーナル202と第2のワーク固定治具50との間に配置されているので、回転軸70の方向に移動するのが規制され、エキセントリックシャフト200(W)の焼入れを確実に行うことが可能である。実施形態4の効果は、実施形態2同様である。
【0054】
尚、実施形態1~4係る発明は、矛盾が生じない限り、置き換えたり、組合せたりすることができる。
【0055】
以上のように、本開示は、以下の項目に記載のワーク固定治具及びそれを備えた焼き入れ装置を含む。
【0056】
〔項目1〕
焼き入れ装置を使用してワークを焼き入れする際に使用される焼き入れ装置のワーク固定治具であって、
焼き入れ装置は、ワーク保持手段とワークを回転させる回転手段とを備えた本体部と、誘導加熱コイルを有するコイルユニットを備えたものであり、
ワークは、端部に配置された第1ジャーナルと、第1ジャーナルに隣接して配置され、第1ジャーナルの径より大きい部位を少なくとも一部に有する隣接部材とを備えたシャフトであり、
ワーク保持手段でワークを保持した状態で、回転手段によりワークを回転し、誘導加熱コイルを第1ジャーナルに近接して配置して、第1ジャーナルを誘導加熱するものである焼き入れ装置のワーク固定治具において、
本体部の非回転部に固定される固定部と、誘導加熱コイル側に突出する突出部と、突出部より窪んだ窪み部とを有し、
突出部が常時或いはコイルユニットの姿勢が変化した際に一時的にコイルユニットと接触するものであり、
窪み部は、誘導加熱コイルと対向して配置されるものであることを特徴とするワーク固定治具。
上記態様によれば、異なる複数のワークに焼入れを行う際、短時間で容易にワーク固定治具を交換可能なワーク固定治具を提供できる。
【0057】
〔項目2〕
コイルユニットは、誘導加熱コイルとワークとを離間させるための位置決め部材を有し、
位置決め部材は、ワーク固定治具側に突出する凸部を有し、
位置決め部材の凸部と突出部とが、常時或いはコイルユニットの姿勢が変化した際に一時的に接触することを特徴とする項目1に記載のワーク固定治具。
上記態様によれば、位置決め部材の凸部と突出部とが接触し、さらにワーク固定治具とコイルユニットとの距離が広がるので、ワーク固定治具とコイルユニットとがくっ付きにくい。
【0058】
〔項目3〕
ワーク固定治具は、ワーク保持手段とコイルユニットとの間に配置されていることを特徴とする項目1又は2に記載のワーク固定治具。
上記態様によれば、ワーク保持手段とコイルユニットとの間に配置されているので、コイルユニットが回転軸方向に移動するのを規制することができる。
【0059】
〔項目4〕
コイルユニットは、隣接部材とワーク固定治具との間に配置されていることを特徴とする項目1乃至3のいずれかに記載のワーク固定治具。
上記態様によれば、コイルユニットが隣接部材とコイルユニットとの間に配置されているので、コイルユニットが回転軸方向に移動するのを規制することができる。
【0060】
〔項目5〕
焼き入れ装置は、さらにワーク固定治具とワーク保持手段との間に配置された保持部材を有し、
保持部材は、嵌合穴と、嵌合穴の内側に一部が飛び出しているボールプランジャーとを有し、
固定部は円弧形状であり、ボールプランジャーと嵌合する溝を有し、
ボールプランジャーと固定部の溝とが嵌合したり外れたりすることで、保持部材から脱着することが可能であることを特徴とする項目1乃至4のいずれかに記載のワーク固定治具。
上記態様によれば、ワーク固定治具を保持部材から容易に短時間で簡単に、壊すことなく脱着することができる。
【0061】
〔項目6〕
項目1乃至5のいずれかに記載したワーク固定治具と、ワーク保持手段とワークを回転させる回転手段とを備えた本体部と、誘導加熱コイルを有するコイルユニットとを備えたことを特徴とする焼き入れ装置。
上記態様によれば、異なる複数のワークに焼入れを行う際、短時間で容易にワーク固定治具を交換可能なワーク固定治具を有した焼き入れ装置を提供できる。
【符号の説明】
【0062】
1 焼入れ装置
3 本体部
4 誘導加熱コイル
5 中央位置決め部材
6 左側位置決め部材
7 右側位置決め部材
10 クランクシャフト(ワーク)
11 第1のワーク固定治具
11a 固定部
12 ワーク保持手段
15 保持部材
18 嵌合穴
20 回転手段
30 コイルユニット
41a、b、c 突出部
42a、b、c 窪み部
51b 固定部
50 第2のワーク固定治具
52 軸溝
53 周溝
57 ボールプランジャー
201 第1ジャーナル(メインジャーナル)
202 隣接部材(ロータージャーナル)
W ワーク
J1-J5 第1ジャーナル
C1-C8 隣接部材(カウンターウェイト)
P1-P4 ピン(第2ジャーナル)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15