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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027953
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】油脂
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/97 20170101AFI20240222BHJP
   A61Q 19/02 20060101ALI20240222BHJP
   A61Q 5/00 20060101ALI20240222BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240222BHJP
   A61Q 5/06 20060101ALI20240222BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALN20240222BHJP
【FI】
A61K8/97
A61Q19/02
A61Q5/00
A61Q19/00
A61Q5/06
A61K8/9789
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022131181
(22)【出願日】2022-08-19
(71)【出願人】
【識別番号】518354699
【氏名又は名称】BOYLE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】513032541
【氏名又は名称】大河原 孝
(72)【発明者】
【氏名】大河原 孝
(72)【発明者】
【氏名】松村 光徳
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AA121
4C083AA122
4C083BB13
4C083CC06
4C083CC32
4C083DD30
4C083EE11
4C083EE16
4C083EE21
4C083EE28
4C083FF01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】オリーブ油等の植物由来の油脂であって、皮膚へ浸透可能とし、皮膚への刺激性を抑制した弱酸性油脂を提供する。また、該弱酸性油脂の製造方法を提供する。
【解決手段】植物由来の天然油脂からなる化粧用油脂であって、高周波振動子で狭隘な空間に発生する高密度衝撃波を複数回照射し、水素イオン濃度がpH5.0~6.5の弱酸性の植物性油脂にし、皮膚への刺激を減じ、低分子化された弱酸性植物性油脂が角質層から内部に浸透し、ヒト皮膚繊維芽細胞を賦活化すると共に、メラノサイトへの刺激物質である炎症性サイトカインTNF-αとIL-1aの発現量を抑制することによりメラニンの生成を抑制し、皮膚細胞のターンオーバーを促進する化粧用油脂とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
衝撃波を照射して植物性油脂を低分子化して製造される油脂であって、pHが5.0~6.5であることを特徴とする弱酸性油脂。
【請求項2】
植物性油脂に高密度衝撃波を照射したのちに冷却する工程を2~4回繰り返して実施したのちに活性炭、ゼオライト、活性白土、または、それらの混合物を混入し、電動攪拌機等で撹拌したのちにフィルターでろ過することを特徴とする弱酸性油脂の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弱酸性を示し、皮膚への浸透性に優れた化粧用等の油脂に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、化粧品などの皮膚に塗布する油脂において、皮膚に適度に浸透して皮膚表面の細胞を膨潤し、血流を促進させ、皮膚の弾力とはりを増加することが求められている。この解決方法として植物由来の天然油脂に大きな衝撃波を1回照射して低分子化する技術が発明された。(特許文献1)
【0003】
しかしながら、先行技術によれば皮膚への浸透性が不十分で有った。この為の皮膚の真皮層まで浸透し、シミや肝斑などを十分には改善できない課題があった。また、塗布時には従来の油脂の塗布時の感触と大差がないことが課題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-169269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題点に鑑み、植物性油脂を角質層へ浸透可能な低分子量にすると共に、皮膚の刺激を抑制する為に油脂を弱酸性化し、角質層から真皮層内の細胞を活性化させ、皮膚のターンオーバーを改善すると共に、真皮層底部にあるメラノサイトへの刺激物質夷である炎症性サイトカインTNF-α及びIL-1aの発現量を抑制し、メラノサイトでのメラニンの生成を抑制することによりシミや肝斑等の皮膚トラブルを改善する油脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、衝撃波を植物性油脂に照射して低分子化する製造方法おいて、前記油脂がpH5.0から6.5であることを特徴とする弱酸性油脂である。
ここでいう衝撃波とは、植物性油脂を狭隘な空間に設置された高周波振動子を作動させた時に生じる衝撃波であって、高周波振動子が植物性油脂中で高速に上下に振動すると油脂に与えられた振動エネルギーで油脂の内部エネルギーが増加して油脂中の微細な気泡核
が成長し、気泡が生成され、その後、気泡の周囲の圧力によって気泡が崩壊する。高周波振動子は、高速で振動する為に無数のキャビテ―ション気泡が発生と崩壊を短時間に繰り返す。このような動作状態においては、崩壊した気泡は崩壊する時に極めて短時間の間に大きな衝撃波を発生し、高密度な衝撃波の領域が形成される。高密度衝撃波の領域では、衝撃波により植物性油脂中の長鎖脂肪酸などが集合したミセル状態を破壊し、単分子状態にするとともに単分子化した長鎖脂肪酸などを衝撃波にて破断し、低分子量化を行う。
植物性油脂をバッチ処理するときに衝撃波を照射された油脂は、照射する回数の増加と共に水素イオン濃度がpH4.5から6.5まで変化する。化粧用に用いる弱酸性油脂の場合は、皮膚への刺激性を考慮してpH5.0から6.5の範囲が必要である。
ここで植物由来の天然油脂としては、好ましくは、オリーブオイル、パーム油、パーム核油、ヤシ油、椿油、カポック油、糠油、トウモロコシ油、胡麻油、サフラワー油、大豆油、トール油、菜種油、綿実油、落花生油、ひまわり油、ブドウ種子油などが挙げられるが、最も好ましくはオリーブオイルである。
【0007】
また、請求項2に記載の発明は、植物性油脂を高密度衝撃波で2から4回複数回バッチ処理したのちに活性炭、ゼオライト、活性白土、またはそれらの混合物を投入し、電動攪拌機等で撹拌したのちにフィルターでろ過することを特徴とする弱酸性油脂の製造方法である。
ここでいう複数回のバッチ処理とは、長時間植物性油脂に衝撃波の照射を続けると温度が高温になり品質が劣化するために1回当り60℃未満に油脂の温度を保持するのが望ましい。このため、照射された当該油脂は、いったん冷却装置などで室温付近の温度に冷却し、再度、前記高密度衝撃波発生装置にて当該油脂に衝撃波を照射する。照射回数ごとに油脂の水素イオン濃度を計測し、室温に冷却したのちに再度衝撃波を照射することを繰り返し、油脂の酸素イオン濃度をpH5.0から6.5になるようにバッチ処理を複数回実施することである。
次に低分子量化された油脂に活性炭、ゼオライト、活性白土等または、混合物を投入し、電動撹拌装置等で30分から30時間撹拌し、好ましくは、8時間から24時間撹拌し、最も好ましくは、12時間の撹拌である。油脂中に含まれる不純物などを吸着したのちに濾紙などで濾過したのちに、角質層の浸透試験を兼ねた除菌処理を行う。使用するフィルターは、孔径0.2μm以下のメンブレンフィルターまたは0.15μm以下の中空糸フィルターで濾過する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、下記1~9に代表される様々な効果が得られる。
1.高密度衝撃波を油脂に複数回照射することにより、当該油脂の水素イオン濃度を変化させ、ヒトの皮膚の弱酸性の水素イオン濃度に近づけることにより、当油脂を皮膚に
塗布したときの刺激を抑制する効果がある。
2.高密度衝撃波を油脂に照射する回数を制御することにより、当該油脂の水素イオン濃度を最適なpHに調整できる。
3.角質層から真皮層に浸透可能な弱酸性油脂によって真皮細胞が賦活化されると共にメラノサイトへの刺激成分である炎症性サイトカインTNF-αとIL-1aの発現が抑制できる。
4.真皮細胞の活性化と炎症性サイトカインの抑制により細胞内に貯留されるメラニンをスムーズに体外に排出すると共に新たなメラニンの発生を抑止できる。
5.1.2項に記述する作用により、従来スキンケアオイルなどでは真皮層内部への浸透ができない為に肝斑などの改善が不可能で有ったが、本発明では、弱酸性油脂が真皮層まで浸透し、皮膚の深層部にあるメラニンが周辺細胞を破壊することなく安全に体外に排出される為、皮膚にダメージを与えることなく安全に肝斑などが改善できる。
6.弱酸性油脂は、化学薬品が不使用で製造できるので肝斑、シミなどが漂白成分を使用せずに安全に治癒することができる。
7.細胞を活性化させると共に炎症性サイトカインの発生を抑制するために、敏感肌で炎症が生じやすい人に対しても使用が可能である。
8.本発明の弱酸性油脂は、アルカリ性のスキンケアオイルに配合することによりスキンケアオイルを弱酸性化するpH調整剤の役割をかねることができる。
9.本発明の弱酸性油脂は、pH7.0の油脂に比べ、細菌の繁殖が抑制される為に防腐剤などを添加しなくても長期間品質を保持できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第一実施形態の高密度衝撃波の発生原理説明図を示す模式図である。
図2】本発明の第一実施形態の弱酸性油脂製造プロセス示すブロック図である。
図3】本発明の第一実施形態の弱酸性油脂の処理回数と水素イオン濃度の試験結果を示す表である。
図4】本発明の第一実施形態の油脂の種類と処理前後の水素イオン濃度の試験結果を示す表である。
図5】本発明の第一実施形態のオリーブ油における処理回数とメンブレンフィルターの透過量の試験結果を示す表である。
図6】オリーブ油の弱酸性油脂を細胞培地に添加したときの細胞賦活試験結果を示す表である。
図7】オリーブ油の弱酸性油脂を細胞培地に添加したときの細胞免疫賦活化作用試験のサイトカインTNF-αの試験結果を示す表である。
図8】オリーブ油の弱酸性油脂を細胞培地に添加したときの細胞免疫賦活化作用試験のサイトカインIL-1aの試験結果を示す表である。
図9】本発明の第一実施形態の弱酸性油脂のシミへの作用を模式的に表したフロー図である。
図10】オリーブ油の弱酸性油脂塗布前の肝斑の状態の写真を示す。
図11】本発明の第一実施例を示し、オリーブ油の弱酸性油脂を肝斑部に塗布して2か月経過した時の肝斑の写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において、以下に述べる水素イオン濃度(pH)の測定方法は、当該油脂をガラス容器などに滴下し、滴下した油脂と同量のpH7.0の精製水を1分ほど混ぜて均一に撹拌したのちに濾紙などで当該油脂を濾過し、当該油脂を濾紙に吸着させた後の水溶液をリトマス試験紙にて測定したpHである。
計測に使用したリトマス試験紙は、MECHEREY-NAGEL Gmbh&Co.KG社製のTRI-BOX pH0.5-13.0を使用した。測定精度は、0.5でる。電極式のpH計では、導電性の金属電極の表面に油脂が付着し、皮膜状に覆われると水素イオン濃度が正確に測れない。この為、本発明で実施したリトマス試験紙による水素イオン濃度の計測方法では、当該油脂が溶液中に少量残存していてもpH計測には大きな差異が無いことを実験で確認し、使用することとした。
油脂の平均分子量の測定方法は、油脂に含まれる脂肪酸の種類と含有率をガスクロマトグラフィーなどの分析装置で特定し、特定された脂肪酸の分子式から各脂肪酸の分子量を求め、次に、各脂肪酸の分子量と含有率を乗じた値を合計し、脂肪酸の平均分子量を求める。次に油脂自体の平均分子量を式(1)にて求め、これを平均分子量とした。
油脂の平均分子量=脂肪酸の平均分子量×3+92(グリセリンCの分子量)-54(脱水縮合3HOの分子量) 式(1)
【0011】
本発明において、以下に述べる皮膚の浸透性の測定方法は、釣り鐘型と呼ばれる真空濾過装置を使用した。ベルジャー上部と下部の真空濾過部の間にメンブレンフィルターを装着し、真空濾過部の内部を真空装置にて減圧する。使用したメンブレンフィルターは、外径49mmで、孔径0.2μmの小孔が全面に均一に開口している。メンブレンフィルターは、MILLIPORE社製のフィルタータイプJG、PORE SIZE0.2μmを使用した。計測は、真空濾過部の真空度を0.1kg/cmに維持し、当該油脂の温度を30℃に一定に保持して行った。油脂の透過量は、当該油脂を60分間濾過し、透過した油脂の量をメスシリンダーで計測し、濾過に要し時間で割って毎分当りの透過量として算出した。
【0012】
図1に本発明の第一実施形態で使用する高密度衝撃波の発生原理を示す。
図1において、植物性油脂3が高密度衝撃波発生装置を格納した容器に充填されている。
容器の底部には衝撃波に耐え得る金属にて作られた静止部2が固設されている。
静止部2に相対して高周波で振動する高周波振動子1が隙間を設けて平行に設置されている。高周波振動子1と静止部2の隙間の狭隘部4には、植物性油脂3が充満している。高周波振動子1が植物性油脂3中で高速に上下に振動すると油脂に与えられた振動エネルギーで油脂の内部エネルギーが増加して油脂中の微細な気泡核が成長し、気泡が生成され、その後、気泡の周囲の圧力によって気泡が崩壊する。高周波振動子1は、高速で振動する為に図に示す様に無数のキャビテ―ション気泡4aが発生と崩壊を短時間に繰り返す。前記動作状態において、崩壊した気泡4bは崩壊する時に極めて短時間の間に大きな衝撃波4cを発生する。
【0013】
衝撃波4cは、水中では300Mpaに達する。植物性油脂中でも粘度によって発生する衝撃波4cは、大きく異なるが、40~100Mpaの衝撃波が食用油中などで観察されている。高周波振動子1と静止部2の狭隘部4の距離を植物性油脂の粘度特性に合わせて数ミリ~十数ミリに保つと、狭隘部4で発生した衝撃波4cは、一部が高周波振動子1の端面で反射する。また、前記衝撃波4cは、一部が静止部2の端面で反射することにより、高周波振動子1と静止部2の狭隘な空間部に高密度衝撃波発生領域5が形成され、高密度な衝撃波空間が連続して形成される。前記狭隘部4に連続して図1の右側よりポンプなどにより植物性油脂3を高密度衝撃波発生領域5に供給すると前記植物性油脂3の分子は、衝撃波4cや反射衝撃波4dによって低分子化され、前記高密度衝撃波発生領域5から排出される。
【0014】
高周波振動子1は、周波数16KHz~2.4GHzの超磁歪アクチュエーターもしくは超音波アクチュエーターが適しており、望ましくは、16KHzから90KHzの周波数帯域である。周波数がこの範囲を超えると油脂中の気泡の生成と崩壊する効果が減じ、衝撃波の発生が低下する傾向にある。
【0015】
次に図2に本発明の第一実施形態の弱酸性油脂の製造プロセスを示す。
図2において、低分子化する原料の植物性油脂6は、オリーブ油などの食用油脂または化粧品等に使用される油脂などを使用する。本実施例では代表例としてオリーブ油について記載する。
【0016】
原料の植物性油脂6は、植物性油脂中に含まれる固形物等の異物を濾過等の作業で取り除いた後に図1に示した高密度衝撃波を発生せしめる高密度衝撃波発生装置7に供給される。前記高密度衝撃波発生装置7に供給された原料の植物性油脂6は、衝撃波により植物性油脂中の長鎖脂肪酸が集合したミセル状態を破壊し、単分子状態にするとともに単分子化した長鎖脂肪酸を衝撃波にて破断し、低分子化を行う。
【0017】
原料の植物性油脂6は必要に応じて数回のバッチ処理を実施する。高密度衝撃波発生装置7で当該油脂が衝撃波を照射されると油脂の水素イオン濃度、すなわちpHが変化することが実験より明らかになっている。また油脂が高密度な衝撃波を受けると油脂の温度が時間経過とともに上昇する。
【0018】
前記油脂の温度が60℃~70℃に上昇すると油脂中に含まれるたんぱく質やビタミン類等の有効成分が熱によって変質してしまうので、油脂に衝撃波を長時間継続して照射することが困難である。この為、衝撃波の照射時間は、1回当り60℃未満に保持できる様にする。照射された当該油脂は、いったん冷却装置などで室温付近の温度に冷却し、再度、前記高密度衝撃波発生装置7にて当該油脂に衝撃波を照射する。
【0019】
この一連の作業を2~4回実施することにより、衝撃波を照射する前に水素イオン濃度が7.0であった当該油脂の水素イオン濃度が弱酸性へと変化する。化粧品などでは、ヒトの皮膚表面は、弱酸性の状態に保持されているので、ヒトの皮膚の水素イオン濃度に近い5.0~6.5にするために前記処理回数を調整して実施する。
【0020】
平均分子量が100~2,000の植物性油脂、例えばオリーブ油は、949(実験値)、椿油では、284となっているが、油脂への照射実験では、油脂の分子量が異なっても当該油脂を水素イオン濃度が5.5~6.0に処理する場合には当該油脂に3回の衝撃波の照射が必要となることが実験で確認されている。
【0021】
低分子化された植物性油脂7aの水素イオン濃度がpH5.0~6.5の弱酸性の領域に入っていることを確認後、撹拌装置7cに前記油脂を投入し、活性炭、ゼオライト、活性白土等を投入し、数時間~数十時間撹拌し、油脂中の刺激性物質や臭い、不純物などを吸着させる。
【0022】
次に濾紙等のフィルターにて濾過装置8にて撹拌された油脂を濾過し、投入物や不純物を除去する。
【0023】
不純物を除去された油脂は、安定化処理8aにて水素や酸素等の分子と結合され、低分子化された油脂が凝集され再結合するのを防止する。
【0024】
次にフィルターの目が細かい濾紙やメンブレンフィルター等にて濾過し、微細な不純物を除去する。
【0025】
次に除菌フィルター濾過装置9にて油脂中の雑菌などを除去する。除菌フィルターは、好ましくは孔径0.1μmから0.2μmのメンブレンフィルター又は中空糸フィルターを使用する。最も好ましくは、孔径0.15μmから0.2μmである。孔径が0.2μmより超える孔径では、太さが小さなサイズの細菌、例えば大腸菌などがフィルターを透過し、濾過した油脂中に残存する恐れがある。また、孔径0.1μmより小さい孔径のフィルターでは、油脂を濾過するのに多くの時間がかかると共にフィルターの目詰まりが起こりやすくなり生産性が低下する課題が生じる。
0.1μmから0.2μmのこれらの孔径のメンブレンフィルターは、メンブレンフィルターを原料として製造されている試験用人工皮膚の孔径と同等な為、製造された油脂が除菌フィルターを透過すれば当該油脂がヒトの角質層から浸透可能な大きさの分子になっていることの確認試験も兼ねることになる。
【0026】
除菌フィルター濾過装置にて濾過された油脂が最終の弱酸性油脂10となる。
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照にして説明する。
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。
【実施例0027】
図3にオリーブ油を使用したときの実施例を示す。図3の表は、低分子化されたオリーブ油の処理回数と水素イオン濃度の試験結果を示す。
図3において、処理回数とは、当該オリーブ油に高密度衝撃波装置7にて衝撃波を照射するバッチ回数を示す。表中の数値は、水素イオン濃度(pH)を示す。
高密度衝撃波を発生させる手段としては、超音波振動子を使用した。超音波振動子は、40kHzから42kHzの周波数帯域のアクチュエーターを使用した。オリーブ油は、衝撃波を照射中に温度が60℃を超えないように流量を調整しながら実施し、その後25℃まで冷却をし、複数回の照射処理を実施した。また衝撃波を照射中の油脂の温度が60℃を超えることが見込まれる場合には、油脂の温度を更に15~20℃程度に冷却を行い、油脂の変質を防止した。
【0028】
図3において、処理回数0は、処理前の油脂の水素イオン濃度を示す。同じく処理回数1は、処理回数1回目の油脂の水素イオン濃度を示し、処理回数2は、処理回数2回目の水素イオン濃度を示し、処理回数3は、処理回数3回目の水素イオン濃度を示し、処理回数4は、処理回数4回目の水素イオン濃度を示し、処理回数5は、処理回数5回目の水素イオン濃度を示す。
【0029】
処理回数0では、水素イオン濃度は、7.0、処理回数1回目の水素イオン濃度は、6.5、処理回数2回目の水素イオン濃度は、6.0、処理回数3回目の水素イオン濃度
は、5.5、処理回数4回目の水素イオン濃度は、5.0を示している。処理回数が増加するに従い水素イオン濃度が変化していることが分かる。処理回数が5回でも水素イオン濃度が変化することが確かめられているが、水素イオン濃度が4.5であり、水素イオン濃度が低くなると酸性度が上がり、皮膚の表面の刺激が強くなる。この為、化粧品の原料としてみた場合には、水素イオン濃度が5.0~6.5の2~4回処理が皮膚への刺激が少ない弱酸性になる為に、最も適していると考えられる。
【0030】
図4に本発明の第一実施形態の植物性油脂の種類と処理前後の水素イオン濃度の試験結果を示す。図4において、処理前のpHとは、高密度衝撃波を照射する前の原料の植物性油脂の水素イオン濃度を示す。水素イオン濃度の測定は、図3において示したリトマス試験紙による方法である。3回処理時のpHとは、当該油脂を高密度衝撃波発生装置7にて3回照射した時の油脂の水素イオン濃度を示す。図に示す様に、処理前の各種植物性油脂の水素イオン濃度は、pH7.0の中性を示しているが高密度衝撃波を3回照射した時点では、いずれも水素イオン濃度は、5.5~6.0の弱酸性の様相を呈している。
植物性油脂の種類と処理前後の水素イオン濃度の試験結果を示す。
【0031】
これらの試験結果から、植物性油脂の種類によらず、水素イオン濃度のpH7.0の油脂が高密度衝撃波照射により等しく弱酸性に変化することがわかった。中鎖脂肪酸であるMCTオイルとそれ以外の長鎖脂肪酸であるオリーブ油などでも同様に水素イオン濃度が変化していることは、単に分子の長さが変化して弱酸性化しているのではなく、分子構造が変化している可能性を示唆している。
【0032】
図5に本発明の第一実施形態の油脂のメンブレンフィルター透過量と処理回数の関係を示す試験結果を示す。
【0033】
処理前の植物性油脂のメンブレンフィルター透過量は、0.1cc/分であり、処理回数1回目の植物性油脂のメンブレンフィルター透過量は、0.3cc/分であり、処理回数2回目の植物性油脂のメンブレンフィルター透過量は、1.0cc/分であり、処理回数3回目の植物性油脂のメンブレンフィルター透過量は、2.0cc/分であり、処理回数4回目の植物性油脂のメンブレンフィルター透過量は、2.8cc/分であり、処理回数5回目の植物性油脂のメンブレンフィルター透過量は、3.0cc/分であった。
【0034】
図5において、処理回数が多くなると共にメンブレンフィルターの透過量が多くなるが
処理回数が5回目あたりから透過量の増減割合が少なくなっていることが分かる。なお、処理回数が1回目からの5回目までの油脂を0.1μmのメンブレンフィルターにて濾過した結果、いずれの場合でも全量濾過されることが確認できている。0.1μmのメンブレンフィルターの場合でも処理回数と透過量については、同様な傾向が得られたが、未処理のオイルでは、フィルターが透過できない結果となった。試験用の人工皮膚などでは、孔径が、0.15μmのメンブレンフィルターを積層しているものが市販されているが、処理によって0.1μmのメンブレンフィルターを透過することは、0.15μmのメンブレンフィルターで構成された人口皮膚においても透過することになり、ヒトの角質層を透過し、真皮層に到達することが可能であることを示している。
【0035】
図6に本発明の第一実施形態のオリーブ油の弱酸性油脂による細胞賦活試験結果を示す。
図6において、表の細胞の増加率とは、基準培養液に対する細胞の増加率を示し、表中の添加率とは、基準培養液にオリーブ油の弱酸性油脂を添加した添加率を示す。
【0036】
ここで用いた基準培養液とは脂肪酸を含まないBSA溶液を示す。BSA溶液とは、牛血清アルブミンのことであり、英語表記のBovine serum albuminのそれぞれの頭文字を取って表記したものである。このたんぱく質は、細胞の研究実験においてタンパク質の培養等の標準溶液として使用される。本実験で使用された脂肪酸不含BSA溶液は、牛由来の脂肪酸を除去したものであり、脂質代謝の研究などに使用される標準的な培養液である。実験では、前記基準培養液を脂肪酸不含溶液で希釈した10%濃度の溶液を作り、前記溶液にオリーブ油の弱酸性油脂を溶液に滴下し、撹拌分散したのちに培地を用いて適宜希釈し、調整培地として細胞へ添加する方法を採用した。また、調整培地調整直後及び細胞への添加直後において前記オリーブ油の弱酸性油脂が調整培地と分離していないことを確認している。
【0037】
図6では、前記調整培地を基準培地として表現している。細胞賦活化試験では、ヒト皮膚繊維芽細胞(NHDF)を使用した。オリーブ油の弱酸性油脂の添加量は、10%濃度の基準培養液に対する混合割合をそれぞれ0.001%、0.01%、0.1%とした。培養時間は48時間とした。細胞増殖の確認は呈色反応により実施した。細胞増殖量は、増殖した細胞の個数をカウントした。オリーブ油の弱酸性油脂を添加しない状態で細胞培養した時の増殖細胞数をNとし、これをコントロールとし、Nと同じ細胞増加数の場合は、ゼロと表記した。基準培養液にオリーブ油の弱酸性油脂を0.001%添加した場合の基準培養液に対する細胞発生の増加率は、4%である。基準培養液にオリーブ油の弱酸性油脂を0.01%添加した場合の基準培養液に対する細胞発生の増加率は、9%である。基準培養液にオリーブ油の弱酸性油脂を0.1%添加した場合の基準培養液に対する細胞発生の増加率は、20%の結果となっている。
【0038】
図6の細胞賦活試験結果によれば、培養実験に使用したヒト皮膚繊維芽がオリーブ油の弱酸性油脂の少量の添加で大きく増殖すると共に正常に増殖することが確認できた。また、前記ヒト皮膚繊維芽細胞は、細胞増殖を活発化、すなわち賦活化していることが言える。
【0039】
図7にオリーブ油の弱酸性油脂の添加による細胞免疫賦活化作用試験のサイトカインTNF-αの試験結果を示す。
図7において、基準培地は、図5の培地と同じ培地を使用した。また、試験に使用した
細胞は、規格品のマウスマクロファジー細胞(J774A.1)を使用した。培養時間は、24時間とし、炎症性サイトカインTNF―αの増加を調べた。
【0040】
図7において、表の横軸の基準培地は、基準培地におけるサイトカインTNF-αの
発現量を示す。本表では、前記発現量を1.0と定義し、基準培地にオリーブ油の弱酸性油脂をそれぞれ0.001%、0.01%、0.1%におけるサイトカインTNF-αの発現量を基準値1.0に対する割合で表示している。サンプル1の基準培地にオリーブ油の弱酸性油脂を0.001%添加した場合の基準培地に対するサイトカインTNF-αの発現率は、1.0であり、サンプル2の基準培地にオリーブ油の弱酸性油脂を0.01%添加した場合の基準培地に対するサイトカインTNF-αの発現率は、0.9であり、基準培地にオリーブ油の弱酸性油脂を0.1%添加した場合の基準培地に対するサイトカインTNF-αの発現率は、1.0である。
以上の試験結果から、オリーブ油の弱酸性油脂を0.001%から0.1%添加した場合の炎症性サイトカインTNF-αの発現量の増加は見られないとの結論を得た。
【0041】
図8にオリーブ油の弱酸性油脂添加による細胞免疫賦活化作用試験のサイトカインIL-1aの試験結果を示す。
図8において、基準培地は、図3の培地と同じ培地を使用した。また、試験に使用した細胞は、規格品のマウスマクロファジー細胞(J774A.1)を使用した。培養時間は、24時間とし、炎症性サイトカインIL-1aの増加を調べた。
【0042】
図8において、表の横軸の基準培地は、基準培地におけるサイトカインIL-1aの発現量を示す。本表では、前記発現量を1.0と定義し、基準培地にオリーブ油の弱酸性油脂をそれぞれ0.001%、0.01%、0.1%におけるサイトカインIL-1aの発現量を基準値1.0に対する割合で表示している。サンプル1の基準培地にオリーブ油の弱酸性油脂を0.001%添加した場合の基準培地に対するサイトカインIL-1aの発現率は、1.1であり、サンプル2の基準培地にオリーブ油の弱酸性油脂を0.01%添加した場合の基準培地に対するサイトカインIL-1aの発現率は、1.1であり、基準培地にオリーブ油の弱酸性油脂を0.1%添加した場合の基準培地に対するサイトカインIL-1aの発現率は、1.1である。
試験結果から、オリーブ油の弱酸性油脂を0.001%から0.1%添加した場合の炎症性サイトカインIL-1aの発現量は、微増しているがほぼ増加は見られないとの結論を得た。
【0043】
図9に本発明の第一実施形態のオリーブ油の弱酸性油脂のシミへの作用プロセスを示す。図9において、第一ステップ28は、オリーブ油の弱酸性油脂27を皮膚表面に塗布したときの第一ステップを表す。塗布されたオリーブ油の弱酸性油脂27は、角質層から表皮内部に浸透する。第二ステップ29は、表皮内部に浸透したオリーブ油の弱酸性油脂27が表皮内部の細胞を賦活化し、活性化すると共に、炎症性サイトカインTNF-αの発現量とIL-1aの発現量を抑制することによりメラノサイトへの刺激物質の生成を抑制する。第三ステップ30は、活性化された細胞がメラニン排出因子を活発に生産することを示している。第四ステップ31は、活性化された細胞によって皮膚のターンオーバーが促進され、メラニンの体外排出がスムーズに実施されることを示している。第五ステップ32は、第四ステップ31の結果として皮膚に滞留するメラニンの量が抑制されることによりシミが順次体外に排出されると共に肌が活性化するのを示している。
【0044】
図10は、オリーブ油の弱酸性油脂を顔面に生じている塗布前の肝斑の写真を示す。図10において、円形で囲んだ場所は、オリーブ油の弱酸性油脂塗布前の肝斑部位33を示している。被験者は、オリーブ油の弱酸性油脂油塗布前にレーザーにて肝斑を除去しているが同じ部位に肝斑が再発生した状態を示している。部位は濃い褐色を呈している。
【0045】
図11は、オリーブ油の弱酸性油脂を塗布して2か月経過した時の肝斑の写真を示す。なお、試験に使用したオリーブ油の弱酸性油脂には、酵素チロシナーゼの働きを抑制する添加剤などは含まれていない。
【0046】
図11において、被験者は、オリーブ油の弱酸性油脂を1日1回患部に塗布を継続して2か月間経過した患部の写真である。この間、効果を検証する為に皮膚の活性を促すスキンケア用品等の化粧品は使用していない。2か月経過時点では、濃い褐色を呈していた肝斑部位は、ほぼ周囲の肌の色調まで回復していることが写真からも確認できる。
【0047】
従来、肝斑など真皮層底部に発生する皮膚疾患においては、皮膚表面から有用な脂肪酸などを深部まで浸透させ、メラノサイトを活性化させる炎症性サイトカインを抑制し、細胞を賦活化し、肝斑部に多く貯留したメラニンを体外に排出することは困難であった。この為、メラノサイトごと破壊するレーザー治療が普及している。この方法では、皮膚細胞に大きな損傷を与えることにより炎症性サイトカインの大量発生を引き起こすことになり、治療前よりも更に重症化した肝斑が生じることが多数報告されている。本発明は、皮膚の高密度衝撃波で複数回バッチ処理をすることによりpH7.0の油脂をヒトの皮膚の性状に近い弱酸性に変換し、皮膚への刺激を減じると共に、細胞を賦活化させ、且つ炎症性サイトカインの発生を抑え、皮膚のターンオーバーを活性化することにより問題点の解決を図るものである。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の化粧用油脂によれば、介護の際に生じる皮膚のただれ防止や皮膚の外用油脂
や、手、顔、脚等の化粧用油脂、その他アカギレやシモヤケ等の予防や治療に有用である
その他に毛髪に本発明の油脂を塗布することにより、しっとりとしてつややかな髪の毛の
状態を保持することが出来、整髪料としても有用である。
また、化粧用油脂の他に下記の用途にも応用可能である。
・ 医薬品関係
・ サプリメント関係
・ 抗がん剤関係
・ 細胞培養による再生医療分野
【符号の説明】
【0049】
1 高周波振動子
2 静止部
3 植物性油脂
4 狭隘部
4a キャビテーション気泡
4b 崩壊した気泡
4c 衝撃波
4d 反射衝撃波
5 高密度衝撃波発生領域
6 植物性油脂
7 高密度衝撃波発生装置
7a 弱酸性化された植物性油脂
7b 水素イオン濃度確認試験
7c 攪拌装置
8 濾過装置
8a 安定化処理
8b 濾過装置
9 除菌フィルター濾過装置
10 弱酸性化された植物性油脂
28 第一ステップ
28a 第0ステップ
28b 第1-1ステップ
29 第二ステップ
30 第三ステップ
31 第4ステップ
32 第五ステップ
33 オリーブ油の弱酸性植物油塗布前の肝斑部位
34 オリーブ油の弱酸性植物油塗布後2か月後の肝斑部位
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11