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2024-2796高速通信用フッ素樹脂基板及び銅張高速通信用フッ素樹脂基板
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  • -高速通信用フッ素樹脂基板及び銅張高速通信用フッ素樹脂基板 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002796
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】高速通信用フッ素樹脂基板及び銅張高速通信用フッ素樹脂基板
(51)【国際特許分類】
   H05K 1/03 20060101AFI20231228BHJP
【FI】
H05K1/03 610H
H05K1/03 610T
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022102214
(22)【出願日】2022-06-24
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塩原 利夫
(72)【発明者】
【氏名】野村 龍之介
(72)【発明者】
【氏名】糸川 肇
(57)【要約】
【課題】誘電正接が40GHzで0.0001~0.0008、かつ誘電率が40GHzで2.0~3.2である高速通信用フッ素樹脂基板を提供する。
【解決手段】40GHzにおける誘電正接が、0.0001~0.0008である石英ガラスクロス、及び
40GHzにおける誘電正接が、0.0001~0.0005であるフッ素樹脂
を有し、
40GHzにおける誘電正接が、0.0001~0.0008、かつ
40GHzにおける誘電率が、2.0~3.2である高速通信用フッ素樹脂基板。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
40GHzにおける誘電正接が、0.0001~0.0008である石英ガラスクロス、及び
40GHzにおける誘電正接が、0.0001~0.0005であるフッ素樹脂
を有し、
40GHzにおける誘電正接が、0.0001~0.0008、かつ
40GHzにおける誘電率が、2.0~3.2である高速通信用フッ素樹脂基板。
【請求項2】
さらに、シリカ粉体を有する、請求項1記載の高速通信用フッ素樹脂基板。
【請求項3】
シリカ粉体が、平均粒径0.1~30μmで、SiO2含有量が99.5質量%以上であり、40GHzにおける誘電正接が、0.0001~0.0008であるシリカ粉体である、請求項1記載の高速通信用フッ素樹脂基板。
【請求項4】
石英ガラスクロスが、合成石英ガラスクロスである請求項1記載の高速通信用フッ素樹脂基板。
【請求項5】
フッ素樹脂が、テトラフルオロエチレン誘導体である請求項1記載の高速通信用フッ素樹脂基板。
【請求項6】
石英ガラスクロスが、シランカップリング剤で処理されたシランカップリング剤処理石英ガラスクロスである請求項1記載の高速通信用フッ素樹脂基板。
【請求項7】
請求項1又は2記載の高速通信用フッ素樹脂基板と、表面粗度1.5μm以下の銅箔とを、ビスマレイミド樹脂及び軟化点がテトラフルオロエチレン誘導体より低いフッ素樹脂から選ばれる樹脂を介して接着させた銅張高速通信用フッ素樹脂基板。
【請求項8】
上記樹脂が、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体〔PFA〕である、請求項7記載の銅張高速通信用フッ素樹脂基板。
【請求項9】
上記樹脂が、下記一般式
【化1】
(前記式中、Aは独立して芳香族環又は脂肪族環を含む4価の有機基を示す。Bは2価のヘテロ原子を含んでもよい脂肪族環を有する炭素数6~18のアルキレン鎖である。Qは独立して炭素数6以上の直鎖アルキレン基を示す。Rは独立して炭素数6以上の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。nは1~10の数を表す。mは0~10の数を表す。)
で示されるビスマレイミド樹脂である、請求項7記載の銅張高速通信用フッ素樹脂基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石英ガラスクロス及び低誘電特性のフッ素樹脂を有する基板で、ミリ波からテラヘルツ波領域において誘電正接の周波数依存性が極めて少ない高速通信用フッ素樹脂基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、5G等の高速通信化に伴い、ミリ波等の高周波を使用しても伝送損失の少ない高速通信基板やアンテナ基板が強く望まれている。またスマートフォン等の情報端末においては配線基板の高密度実装化や極薄化が著しく進行している。20GHzを超える高速基板では、従来技術の延長では信号品質を確保することが難しくなってきている。
【0003】
5G等の高速通信向けにはDガラス、NEガラス、Lガラス等の低誘電ガラスクロスに、フッ素樹脂やポリフェニレンエーテル等の熱可塑性樹脂、さらには低誘電エポキシ樹脂や低誘電マレイミド樹脂等を含侵させて得られるプリプレグを積層して加熱加圧硬化させた積層板が広く使用されている。しかしながら、Dガラス、NEガラス、Lガラス等の誘電特性が向上されたガラスクロスであっても、誘電正接はいずれのガラスにおいても10G以上の高周波領域において0.002~0.005程度と大きく、かつ周波数依存性も大きいためミリ波用高速基板として幅広い用途に適用することが困難であった。なお、信号の伝送損失はEdward A.Wolff式:伝送損失∝√ε×tanδ、が示すように、誘電率(ε)及び誘電正接(tanδ)が小さい材料ほど改善されることが知られている。
【0004】
プリント配線板等の有機樹脂基板の低誘電正接化として、樹脂よりも誘電正接の低い無機粉体やガラスクロスを用いる方法が一般的である。しかしながら、このような基板においては、ミクロに見た場合、バインダーとなる樹脂と無機粉体やガラスクロスとの誘電特性が異なり、周波数がミリ波等の高周波となっても均一な誘電特性を持った低誘電基板を得ることができない。特に、誘電正接が20GHz~100GHz等幅広い高周波領域で0.0015未満、かつ誘電率も4.0以下の均一な誘電特性を持った基板はほとんど知られていない。
【0005】
代表的な低誘電特性の無機粉体の一つであるシリカ粉体や石英ガラスクロスは、樹脂に添加する無機粉体や基板の補強材として膨張係数も小さく絶縁性や誘電特性にも優れた材料である。一般的に、石英ガラスクロスやシリカ粉体は誘電特性が非常に優れていることが知られているが、現在石英ガラスクロスやシリカ粉体は任意に誘電正接の値を調整することができない。
【0006】
一般的に石英ガラスやシリカ粉体においては、ガラス中に残存する水酸基(OH)量は製造方法や熱処理によって異なり、石英ガラスクロスでも石英バルクから石英ガラスクロスに加工する過程で石英バルクの水酸基量に比べて増加し、OH濃度の違いにより様々な物性の違いをもたらすことが知られている。このような石英ガラスクロスでは周波数依存性や温度依存性が高くなり、誘電正接が20GHz~100GHz等幅広い高周波領域で0.0015未満、かつ誘電率も4.0以下の均一な誘電特性を持った基板材料として用いることができなかった。しかしながら、特許文献1では、加熱処理により低シラノールシリカ粉体の製造を行っているものの、シラノール基(Si-OH)の減少率しか言及されておらず、処理後のシリカ粉体のシラノール量も測定されていない上に、誘電正接との相関についても言及はされていない。
【0007】
特許文献2では、シリカガラス繊維中の水分量と誘電正接の関係は示されているものの、シラノール量についての記載がなく、誘電正接についてもガラス繊維とPTFEを用いたプリント基板で測定した値であるため、シラノール量とガラス繊維の誘電正接の相関については明らかにされていない。誘電正接を向上させるために高温処理によってOH基を所定量まで減らすことは知られていない。また、石英ガラスやシリカ粉体を高温で加熱処理すると歪量が増大し、特にガラス表面で歪が増大し、マイクロクラックの発生が起きるため、強度が大きく低下するため、実用化には適さない。
【0008】
別のプリント配線板等の有機樹脂基板の低誘電正接化の方法として、有機樹脂として誘電正接が上記記載のガラスクロスより低く、伝送損失の小さいポリテトラフロオロエチレン(PTFE)等を用いたフッ素樹脂基板が提案されている(特許文献3,4)。
【0009】
特許文献3では、フッ素樹脂基板のさらなる低誘電正接化として、ガラスクロスよりフッ素樹脂の方が、誘電正接が低いため、ガラスクロスを薄層化し、フッ素樹脂層を厚く設計しフッ素樹脂の体積分率を向上させる方法が提案されている。しかしながら、バインダーとガラスクロスとの誘電正接差が大きく存在しており、2つの体積分率比率ではバインダー側に偏っているため、ミリ波帯以上での誘電特性の悪化を抑えることができず、ミリ波からテラヘルツ波領域において誘電正接の周波数依存性が極めて少ない高速通信用フッ素樹脂基板としては用いることができなかった。
【0010】
特許文献4では、低誘電ガラスクロスとフッ素樹脂を用いた低誘電フッ素樹脂基板が提案されており、石英ガラスクロスとフッ素樹脂を複合化させたフッ素樹脂基板について言及されている。しかしながら、上記で示した通り、石英ガラスクロスの誘電正接は任意に調整することができないため、石英クロスの周波数依存性については記載されておらず、40GHにおける低い誘電正接、特定の誘電率を有する、高速通信用フッ素樹脂基板は記載されていない。
【0011】
このように特定の誘電正接を有する石英ガラスクロスと、特定の誘電正接を有するフッ素樹脂とを組み合わせる、高速通信用フッ素樹脂基板については、知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平2-289416号公報
【特許文献2】特開平5-170483号公報
【特許文献3】特開2015-111625号公報
【特許文献4】特開2002-307611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
既存のシリカ粉体や石英ガラスクロスの誘電特性、特に誘電正接を任意に調整することができれば、今後大きく成長が期待できる高速通信用半導体等の封止材や高速通信用基板、またアンテナ基板等の補強材や充填剤として幅広い用途に展開できる。本発明は、誘電正接が40GHzで0.0001~0.0008、かつ誘電率が40GHzで2.0~3.2である高速通信用フッ素樹脂基板を提供することを目的とする。樹脂基板はミクロ的に均一な誘電正接をもった周波数依存性の少ないフッ素樹脂基板で、伝搬時間に差がなく安定した品質の良好な信号を送ることができる樹脂基板を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、特に、周波数依存性のない低誘電化について検討を行った結果、40GHzにおける誘電正接が、0.0001~0.0008である石英ガラスクロスと、40GHzにおける誘電正接が、0.0001~0.0005であるフッ素樹脂とを組み合わせることで、20~100GHzの周波数帯で周波数依存性の極めて少ない誘電特性を持った、今後大きく成長が期待できる伝送損失が顕著に少ない高速通信用低誘電基板を見出した。
【0015】
さらに、石英ガラスクロス、シリカ粉体の誘電正接は加熱処理条件を任意に可変することができ、テフロン(登録商標)樹脂以外のフッ素樹脂に合わせることができ、波長に対し誘電正接特性のばらつきが極めて少ない高速通信低誘電基板を見出した。
【0016】
従って、本発明は、高速通信用フッ素樹脂基板を提供する。
1.40GHzにおける誘電正接が、0.0001~0.0008である石英ガラスクロス、及び
40GHzにおける誘電正接が、0.0001~0.0005であるフッ素樹脂
を有し、
40GHzにおける誘電正接が、0.0001~0.0008、かつ
40GHzにおける誘電率が、2.0~3.2である高速通信用フッ素樹脂基板。
2.さらに、シリカ粉体を有する、1記載の高速通信用フッ素樹脂基板。
3.シリカ粉体が、平均粒径0.1~30μmで、SiO2含有量が99.5質量%以上であり、40GHzにおける誘電正接が、0.0001~0.0008であるシリカ粉体である、1又は2記載の高速通信用フッ素樹脂基板。
4.石英ガラスクロスが、合成石英ガラスクロスである1~3のいずれかに記載の高速通信用フッ素樹脂基板。
5.フッ素樹脂が、テトラフルオロエチレン誘導体である1~4のいずれかに記載の高速通信用フッ素樹脂基板。
6.石英ガラスクロスが、シランカップリング剤で処理されたシランカップリング剤処理石英ガラスクロスである1~5のいずれかに記載の高速通信用フッ素樹脂基板。
7.1~6のいずれかに記載の高速通信用フッ素樹脂基板と、
表面粗度1.5μm以下の銅箔とを、
ビスマレイミド樹脂及び軟化点がテトラフルオロエチレン誘導体より低いフッ素樹脂から選ばれる樹脂を介して接着させた銅張高速通信用フッ素樹脂基板。
8.上記樹脂が、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体〔PFA〕である、7記載の銅張高速通信用フッ素樹脂基板。
9.上記樹脂が、下記一般式
【化1】
(前記式中、Aは独立して芳香族環又は脂肪族環を含む4価の有機基を示す。Bは2価のヘテロ原子を含んでもよい脂肪族環を有する炭素数6~18のアルキレン鎖である。Qは独立して炭素数6以上の直鎖アルキレン基を示す。Rは独立して炭素数6以上の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。nは1~10の数を表す。mは0~10の数を表す。)
で示されるビスマレイミド樹脂である、7記載の銅張高速通信用フッ素樹脂基板。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、20~100GHzの周波数帯で、周波数依存性の極めて少ない誘電特性を有する、ミリ波以上の周波数を用いる高速通信において、伝送損失が非常に少ない理想的な基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】乾燥気体の導入装置の例を示す図である。
図2】本発明の加熱量の計算方法を示す図である。
図3】シリカ粉体の誘電正接の計算法を説明する図である。
図4】伝送損失を測定する回路基板の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0020】
[石英ガラスクロス]
本発明の石英ガラスクロスは、誘電正接が40GHzで0.0001~0.0008の石英ガラスクロスである。本発明で使用する石英ガラスクロスの素材は、天然で産出される不純物の少ない石英や、四塩化ケイ素等を原料とする合成石英等を主に使用することができる。
【0021】
SiO2組成量は特に限定されないが、90~100質量%から選択され、95質量%以上が好ましく、99.9質量%以上がより好ましい。石英ガラス素材中の不純物の濃度は、アルカリ金属であるNa、K、Liの総和が10ppm以下、Bが1ppm以下、Pが1ppm以下、放射線による誤動作を防止するためにはUやThの含有量が0.1ppb以下であることが好ましい。
【0022】
本発明の石英ガラスクロスは、下記のような製法で得られる石英インゴットを原料としてフィラメント、ヤーンを製造して製織することで製造することができる。石英インゴットは、天然で産出する石英を原料とした電気溶融法、火炎溶融法、又は四酸化ケイ素を原料とした直接合成法、プラズマ合成法、スート法、又はアルキシルケートを原料としたゾルゲル法等で、合成石英インゴットを製造することができる。例えば、本発明で使用する直径100~300ミクロンメーター石英糸は、インゴットを1,700~2,300℃で溶融させ延伸し巻き取ることで製造することができる。
【0023】
なお、本明細書では、上述した石英糸を引き伸ばして得られる細い糸状の単繊維を石英ガラスフィラメント、石英ガラスフィラメントを束ねたものを石英ガラスストランド、石英ガラスフィラメントを束ねてさらに撚りをかけたものを石英ガラスヤーンと定義する。
【0024】
石英ガラスフィラメントの場合、その直径は3~20μmが好ましく、3.5~9μmがより好ましい。石英ガラスフィラメントの製造方法としては、上述した石英糸を電気溶融、酸水素火炎による延伸法等が挙げられるが、石英ガラスフィラメント径は3~20μmであればこれらの製造方法に限定されるものではない。
【0025】
石英ガラスフィラメントを10~400本、好ましくは40~200本の本数で束ねて、石英ガラスストランドを製造する。本発明に使用する石英ガラスクロスは前述した石英ガラスヤーンや、ストランドを製織して製造することができる。ガラスクロスの製織方法は特に制限はなく、例えば、レピア織機によるもの、シャトル織機によるもの、エアジェットルームによるもの等が挙げられる。
【0026】
[石英ガラスクロス]
本発明においては、高周波領域における誘電正接、つまり40GHzで0.0001~0.0008である低誘電石英ガラスクロスを使用する。石英ガラスクロスの40GHzにおける誘電正接は、0.0001~0.0006が好ましく、0.0001~0.0005がより好ましい。石英ガラスクロスの40GHzにおける誘電率は、3.2~4.0が好ましい。誘電正接及び誘電正接の測定方法は、誘電正接の測定方法は共振法に基づくものであり、具体的には、後述する実施例の記載に基づくものである。
【0027】
このような低誘電石英ガラスクロスの製造方法としては、目的のものが得られれば特に限定されないが、例えば、石英ガラスクロスを加熱炉に入れ、真空又は露点15℃以下の気体中で、最高加熱温度が100~600℃、かつ前記条件下での100℃以上の加熱温度(℃)×加熱時間(h)で表される加熱量が450(℃・h)以上となる条件で加熱する工程を有する製造方法で得ることができる。この方法の例を下記に詳細に説明する。さらに、カップリング剤等で石英ガラス表面を処理することもできる。
【0028】
(加熱炉)
加熱に用いる加熱炉は、100~600℃に加熱することができ、炉内を真空又は露点15℃以下の乾燥気体雰囲気下にすることができるものを用いることができ、このような加熱炉であれば特に限定されず、加熱炉としては、ガス炉、電気炉、マッフル炉、レーザー加熱等が挙げられる。
【0029】
中でも、単位発熱量(1,000kcal)当たりに生じる水の量が0.12L以下となるような発熱機構を有する加熱炉を用いることが好ましい。このような発熱機構を有していれば、特に限定されず、電気炉、マッフル炉、レーザー加熱等で、上記が可能な発熱機構を有する加熱炉を含む装置が挙げられる。特に、電気炉は燃焼を伴わないため、気体中の水の量を0.12L以下、0.10L未満とすることができる。
【0030】
加熱炉には、乾燥気体を炉内に送り込む装置を有することが好ましい。この装置としては、石英ガラスクロス又は後述するシリカ粉体2を入れる加熱炉1、石英ガラスクロス又はアルミナ等の容器に収容されたシリカ粉体2、コンプレッサー又はエアドライヤー等の乾燥気体を生成する機構4、乾燥気体を充填又は導入する、乾燥気体を生成する機構と炉内を結合する配管3、炉内から排気を行う排出機構6を有しているものが挙げられる。加熱炉への乾燥気体導入の一例を図1に示す。但し、本導入方法に限定されるものではない。
【0031】
(加熱雰囲気)
真空又は露点15℃以下の気体中で、石英ガラスクロスを加熱する場合、気体としては、空気、窒素及びアルゴン等の不活性ガスが好ましい。炉内を真空にする場合は、島津製作所製 真空加熱焼成炉VASTA等の、真空加熱焼成炉を用いることができる。
【0032】
炉内を露点15℃以下の気体中にする方法としては、炉内が露点15℃以下の気体中であれば特に限定されないが、加熱前に、露点15℃以下の乾燥気体で炉内を充填、又は露点15℃以下の乾燥気体を、炉内に導入する方法が挙げられる。導入は、加熱前、昇温中、温度保持中及び降温中のいずれでもよく、この中から複数を選んで導入してもよい。中でも、露点15℃以下、好ましくは0℃以下の乾燥気体を、炉内に導入することが好ましく、降温中に、炉内に導入することが好ましい。乾燥気体としては、空気、窒素及びアルゴン等の不活性ガスから選択される露点15℃以下の乾燥気体が挙げられる。中でも、生産効率の面で乾燥空気が好ましい。上記の乾燥空気を生成する装置としてはコンプレッサーやエアドライヤー等が挙げられる。なお、本発明における露点とは大気圧露点を指す。充填又は導入する乾燥気体の露点は、15℃以下(水分含有量;12.8g/m3)が好ましく、0℃(水分含有量;4.85g/m3)以下がより好ましく、-20℃以下(水分含有量;1.07g/m3)がさらに好ましく、-60℃(水分含有量;0.0193g/m3)以下が特に好ましい。気体中での加熱工程では、SiO2+H2O⇔Si-OHの反応は、露点が低ければ低いほど平衡が左に傾き、石英ガラスクロスの誘電正接を低下させる。
【0033】
加熱前に、炉内に予め充填・導入する乾燥気体は露点15℃以下とすることができ、0℃以下が好ましく、生産効率、経済性の点から、-20℃以下の乾燥空気がより好ましい。
加熱炉に導入する乾燥気体の露点は15℃以下とすることができ、さらに石英ガラスクロスを低誘電正接化させるために、昇温から降温に至る加熱工程における乾燥気体の露点は0℃以下が好ましく、-20℃がより好ましく、-60℃以下がさらに好ましい。
【0034】
乾燥気体の導入量については特には限定されないが、炉内の露点を十分に低下させ、かつ炉内の温度を一定に保てる範囲として一時間当たり乾燥炉の体積に対して0.5~20倍が好ましい。
【0035】
(加熱温度)
SiO2+H2O⇔Si-OHの反応は100℃以上で活性化し、温度が高くなればなるほど平衡が左に傾いてSi-OH基は再度結合してSi-O-Si結合を形成する。すなわち露点が低く、加熱温度が高いほどSi-OH基は減少し、石英ガラスクロスの誘電正接が低下する。そのため、石英ガラスクロスの最高加熱温度は100~600℃とすることができ、300~550℃が好ましく、350~450℃がより好ましい。100℃未満では上述のようにSi-OH基同士の反応における活性化エネルギーが足りないためにSi-OH基の量が低下せず誘電正接も低下しない。また、サイズ剤が付着したままの石英ガラスクロスであれば、サイズ剤が燃焼するためのエネルギーが不足するため加熱時間を長くしてもサイズ剤が残存してしまい、残存サイズ剤による誘電正接の悪化や後工程のシランカップリング処理で不良が起こってしまう。一方、石英ガラスクロスの柔軟性、プリプレグの作製のしやすさから、最高加熱温度は600℃以下が好ましい。
【0036】
(加熱量)
真空又は露点15℃以下の気体中での100~600℃の温度(℃)×加熱時間(h)で表される加熱量が450(℃・h)以上にすることができる。なお、加熱量には、真空又は露点15℃以下の気体中ではない場合、100℃未満である範囲は含まれない。図2にこの加熱量の算出法を示す。塗りつぶし部分が加熱量である。昇温中、温度保持中及び降温中には影響されない。加熱量が450(℃・h)以上であれば特には限定されないが、生産効率の点で450~50,000(℃・h)が好ましく、3,000~50,000(℃・h)がより好ましく、4,000~45,000(℃・h)がさらに好ましい。
【0037】
加熱は、昇温中、温度保持中及び降温中に関しては数ステップに分けてもよく、温度保持も複数の温度で保持してもよい。また上記の加熱量が満たせれば保持時間がなくてもよい。昇温及び降温レートに関しては特に限定されないが、生産性の点から、10℃/h以上が好ましく、ガラスクロスの強度の点から、200℃/h未満が好ましい。
【0038】
特に、100~300℃の雰囲気は、活性化エネルギーは超えるものの低温領域のためSiO2+H2O⇔Si-OHの平衡が右に傾きやすく、最もSi-O-Si結合が開裂しやすい。乾燥気体の導入タイミングについては昇温中、降温中、温度保持中のいずれのタイミングでもよい。炉内の露点を低く保ち続ける点から、昇温中、温度保持中、降温中の100~600℃の全加熱中で、乾燥気体を炉内に導入し続けることが好ましい。特に、加熱最高温度から100℃まで降温中に、乾燥気体を炉内に導入することが、誘電正接の改善に有効である。このような製造方法で得られた石英ガラスクロスを用いることで、均一な誘電特性を有する高速通信用フッ素樹脂基板が得られる。
【0039】
[シリカ粉体]
本発明の高速通信用フッ素樹脂基板は、さらに、シリカ粉体を有することができる。シリカ粉体の40GHzにおける誘電正接は、0.0001~0.0008が好ましく、0.0001~0.0005がより好ましい。シリカ粉体の40GHzにおける誘電率は、3.2~4.0が好ましい。さらに、平均粒径0.1~30μmで、SiO2含有量が99.5質量%以上のシリカ粉体が好ましい。シリカ粉体を石英ガラスクロスと併用することで、高速通信基板、アンテナ基板等基板としてより好適である。誘電正接及び誘電正接の測定方法は共振法に基づくものであり、具体的には、後述する実施例の記載に基づくものである。
【0040】
シリカ粉体は、平均粒径0.1~30μmが好ましく、0.5~20μmがより好ましい。最大粒径は100μm以下が好ましく、50μm以下がさらに好ましい。流動性や加工性等特性向上のため、異なる平均粒径のシリカ粉体をブレンドしてもよい。平均粒径が0.1μm未満では、比表面積が大きく樹脂へ高充填化できず、30μmを超えると狭部への充填性が悪く、未充填等の不具合が発生する。特に、高速通信用基板の充填剤として使用する場合は平均粒径が0.1~5μmで、最大粒径が20μmのものが好ましく、0.1~3μmで、最大粒径が10μm以下のものがさらに好ましい。なお、本発明において、最大粒径及び平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えば、SALD-3100:島津製作所製等)により測定することができ、平均粒径は、レーザー光回折法による粒度分布測定における質量平均値D50(即ち、累積質量が50%となるときの粒子径又はメジアン径)として求めることができる。
【0041】
シリカ粉体は、さらに、下記特性を有するものが好ましい。シリカ粉体の水酸基(Si-OH)含有量は、300ppm以下が好ましく、280ppm以下がより好ましく、150ppm以下がさらに好ましい。水酸基(Si-OH)含有量の測定方法は、後述する実施例の記載に基づくものである。このようなシリカ粉体は、半導体用封止材や高速通信基板、アンテナ基板等基板向けの充填剤として好適である。
【0042】
シリカ粉体の内部及び表面中内部及び表面中の、アルミニウム、マグネシウム、チタン及びその酸化物の含有量は、アルミニウム、マグネシウム、チタン金属質量として、それぞれ300ppm以下が好ましく、150ppm以下がより好ましく、100ppm以下がさらに好ましい。
【0043】
シリカ粉体の内部及び表面中内部及び表面中の、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の含有量は、それぞれ質量換算で10ppm以下が好ましく、8ppm以下がより好ましく、5ppm以下がさらに好ましい。なお、本発明において、アルカリ金属とは、周期表において第1族に属する元素のうち水素を除いたリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウムをいう。また、アルカリ土類金属とは、周期表において第2族に属する元素のうちベリリウムとマグネシウムを除いたカルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウムをいう。アルカリ金属、アルカリ土類金属の多いシリカ粉体は、高速通信基板や半導体素子の電極を腐蝕する問題があり、腐蝕防止の観点からもこれらが少ないシリカ粉体が要求されている。
【0044】
低誘電正接シリカ粉体内部及び表面中の、B(ホウ素)の含有量は、2ppm以下が好ましく、1以下がより好ましい。P(リン)の含有量は、2ppm以下が好ましく、1以下がより好ましい。U(ウラン)及びTh(トリウム)の含有量が、それぞれ0.1ppb以下が好ましく、0.05以下がより好ましい。このように、不純物濃度を低く抑えることでシリカ粉体の誘電特性等がより好ましいものとなる。
【0045】
アルミニウム、マグネシウム、チタン及びその酸化物、アルカリ金属及びアルカリ土類金属、B(ホウ素)、P(リン)、U(ウラン)及びTh(トリウム)の量は、適宜、原料のシリカ粉体を選択することで、調整することができる。濃度は、原子吸光光度法や、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法等により測定することができる。
【0046】
シリカ粉体の製造方法としては、目的のものが得られれば特に限定されないが、例えば、平均粒径が0.1~30μmのシリカ粉体を加熱炉に入れ、真空又は露点15℃以下の気体中で、最高加熱温度が100~1,000℃、かつ前記条件下での100℃以上の加熱温度(℃)×加熱時間(h)で表される加熱量が450(℃・h)以上となる条件で加熱する加熱工程を含む、製造方法が挙げられる。さらに、カップリング剤等でシリカ粉体表面を処理することもできる。装置及び操作、好適範囲等は、上記石英ガラスクロス製造方法において、石英ガラスクロスをシリカ粉体に変更し、同様のものを用いることができる。なお、最高加熱温度は100~1,000℃から適宜選定することができ、300~600℃が好ましく、350~450℃がさらに好ましい。加熱量は450(℃・h)以上から適宜選定することができ、生産効率の点で450~50,000(℃・h)が好ましく、3,000~50,000(℃・h)がより好ましい、4,000~45,000(℃・h)がさらに好ましい。
【0047】
フッ素樹脂に対するシリカ粉体の量は、樹脂成分の総和100質量部に対し、0~500質量部であり、配合する場合は、20~300質量部が好ましく、50~200質量部がさらに好ましい。20質量部以上で配合することで、誘電特性の調整が容易となり、硬化物の熱膨張率(CTE)を抑制できる。ただ、有機樹脂の種類や用途によって、非添加系での使用もある。プリプレグ製造時に柔軟性や外観の点から、500質量部が好ましい。
【0048】
[シランカップリング剤]
本発明の高速通信用フッ素樹脂基板は、さらに、シランカップリング剤を有することができ、予め上記石英ガラスクロス及びシリカ粉体をシランカップリング剤処理してもよい。
【0049】
シランカップリング剤としては、公知のシランカップリング剤を用いることができ、1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。中でも、アルコキシシランが好ましく、代表的なシランカップリング剤として3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製;商品名:KBM-903)、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業(株)製;商品名:KBE-903)、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製;商品名:KBM-603)、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業(株)製;商品名:KBE-603)のアミノ系シランカップリング剤、ビニルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製;商品名:KBM-1003)、ビニルトリエトキシシラン(信越化学工業(株)製;商品名:KBE-1003)、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製;商品名:KBM-503)、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業(株)製;商品名:KBE-503)、p-スチリルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製;商品名:KBM-1403)等の不飽和基含有シランカップリング剤、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製;商品名:KBM-7103)、パーフルオロポリエーテル含有トリアルコキシシラン(信越化学工業(株)製;商品名:X-71-195、KY-1901、KY-108)等のフッ素原子含有シランカップリング剤、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製;商品名:KBM-403)、グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業(株)製;商品名:KBE-403)、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製;商品名:KBM-803)、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業(株)製;商品名:KBE-9007)、3-トリメトキシシリルプロピルコハク酸無水物(信越化学工業(株)製;商品名:X-12-967C)等が挙げられる。また、上記アミノ系シランカップリング剤と不飽和基含有シランカップリング剤からなるオリゴマー等が挙げられる。中でも、アミノ系シランカップリング剤や不飽和基含有シランカップリング剤がより好ましい。
【0050】
上記シランカップリング剤の濃度は通常0.05~5質量%の間の希薄水溶液で使用されるが、0.1~1質量%の間で使用するのが効果的である。本発明の石英ガラスクロスを用いることで、記シランカップリング剤が均一に付着しガラスクロスやシリカ粉末表面に対して、より均一な保護作用をもたらし取扱がし易くなるばかりでなく、プリプレグを製作する際に用いられる樹脂に対しても均一でムラのない塗布が可能となる。石英ガラスクロスを予めシランカップリング処理する場合は、シラン処理する石英ガラスクロスを上記水溶液に浸漬すればよい。温度や時間は、50~200℃で、30秒~1時間等から適宜選定される。石英ガラスクロスに対するシランカップリング量は0.05~1質量%が好適である。シリカ粉体を予めシランカップリング処理する場合は、シラン処理するシリカ粉体を上記水溶液に浸漬する湿式処理又はヘンシェルやロッキングミキサー等で乾式処理する。シリカ粉体に対するシランカップリング量は0.05~3質量%が好適である。
【0051】
[フッ素樹脂]
本発明のフッ素樹脂は、40GHzにおける誘電正接が0.0001~0.0005のものである。フッ素樹脂としては、テトラフルオロエチレン誘導体が挙げられ、例えば、ポリテトラフルオロエチレン〔PTFE〕、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体〔ETFE〕、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体〔FEP〕、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体〔PFA〕、ポリクロロトリフルオロエチレン〔PCTFE〕、クロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体〔ECTFE〕、クロロトリフルオロエチレン・テトラフルオロエチレン共重合体及びポリビニリデンフルオライド〔PVdF〕、ならびにテトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ビニリデンフルオライドの3種類のモノマーからなる熱可塑性フッ素樹脂〔THV〕からなる群より選択される1種以上であることが好ましい。中でも、ポリテトラフルオロエチレン〔PTFE〕、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体〔FEP〕、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体〔PFA〕が誘電正接の点から好ましい。ポリテトラフルオロエチレン〔PTFE〕は誘電特性に優れている点から、より好ましい。また、接着性に劣るフッ素樹脂の接着性向上の点から、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体〔PFA〕が好ましく、誘電特性の点から、ポリテトラフルオロエチレン〔PTFE〕や低誘電正接シリカ粉体との併用系が好ましい。誘電正接の測定方法は、種々の測定方法により測定可能であるが、具体的には、後述する実施例の記載に基づくものである。
【0052】
また、上記した誘電特性を悪化させない範囲で熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を添加することや、樹脂フィルムの積層ができる。熱硬化性樹脂としてはエポキシ樹脂、アリル化エポキシ樹脂、マレイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、シアネート樹脂、シクロペンタジエン・スチレン共重合樹脂が例示される。中でも、下記一般式で示されるビスマレイミド樹脂が低誘電化に好適な有機樹脂として使用される。
【化2】
(前記式中、Aは独立して芳香族環又は脂肪族環を含む4価の有機基を示す。Bは2価のヘテロ原子を含んでもよい脂肪族環を有する炭素数6~18のアルキレン鎖である。Qは独立して炭素数6以上の直鎖アルキレン基を示す。Rは独立して炭素数6以上の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。nは1~10の数を表す。mは0~10の数を表す。)代表的なビスマレイミド樹脂としてはSLK-シリーズ(信越化学工業(株)製、SLK-6895、SLK-3000、SLK-2600等)がある。また、熱硬化性のシクロペンタジエン・スチレン共重合樹脂も高耐熱性・低誘電樹脂として使用可能である。代表例としてはSLK-250シリーズ(信越化学工業(株)製)が挙げられる。一例として、SLK-3000の構造式を下記に示す。
【化3】
(式中、n≒3(平均値)である。)
【0053】
一般的に、フッ素樹脂等の低誘電特性の樹脂を基板のマトリックス樹脂として使用した場合、従来の低誘電ガラスクロスは誘電正接がフッ素樹脂に比べ大きいため、バスケットホールには樹脂のみが充填されガラスクロスとの誘電特性差が大きくなる。このためシリカ粉体をバスケットホールに充填して誘電特性を均一化させる方法がとられる。しかしながら、この手法では誘電特性としては均一化されるが、低誘電のフッ素樹脂を使用したにもかかわらず、ガラスクロスやシリカ粉体の誘電特性により樹脂基板としての誘電特性が悪化する。本発明では40GHzの誘電正接が0.0001~0.0008の石英ガラスクロス、必要に応じてシリカ粉体、及び40GHzの誘電正接が0.0001~0.0005のフッ素樹脂を使用することで、均一な誘電特性をもった高速通信用フッ素樹脂基板を製造することができる。
【0054】
[高速通信用フッ素樹脂基板]
本発明の高速通信用フッ素樹脂基板の「高速通信用」とは、ミリ波以上の周波数を用いる高速通信をいい、本発明によれば、このような高速通信においても、伝送損失が非常に少ない高速通信用フッ素樹脂基板が得られる。
高速通信用フッ素樹脂基板の構成としては、
石英ガラスクロスと、このガラスクロスに、フッ素樹脂を含浸したプリプレグと、このプリプレグを加圧加熱してなる樹脂基板、
石英ガラスクロスと、フッ素樹脂とを複合化した樹脂基板、
石英ガラスクロスと、このガラスクロスに、シリカ粉体を含むフッ素樹脂を含浸したプリプレグと、このプリプレグを加圧加熱してなる樹脂基板、
等が挙げられる。
【0055】
本発明の高速通信用フッ素樹脂基板は、40GHzにおける誘電正接が、0.0001~0.0008、かつ40GHzにおける誘電率が、2.0~3.2である。40GHzにおける誘電正接は、0.0001~0.0006が好ましく、0.0001~0.0005がより好ましく、0.0001~0.0004がさらに好ましい。40GHzにおける誘電率は上記石英ガラスクロス、フッ素樹脂及びシリカ粉体の組成比により適宜選択されるが、2.2~3.2が好ましく、2.4~3.1がより好ましく、2.5~3.0がさらに好ましい。
【0056】
[高速通信用フッ素樹脂基板の製造方法]
溶剤に溶解し難い熱可塑性樹脂の場合は、薄膜の樹脂フィルムと石英ガラスクロスを加熱圧着することでプリプレグを作製することができる。例えば、フッ素樹脂基板を作製する場合は、あらかじめ成形されたフッ素樹脂のフィルムと、ガラスクロスとを加熱下で圧着する方法が挙げられる。加熱下での熱圧着は通常250~400℃の範囲内で、1~60分間、0.1~10メガパスカルの圧力で行うことができる。熱圧着温度に関しては、フッ素樹脂の軟化温度によるが高温になると、樹脂のしみ出しや、厚みの不均一化が起こるおそれがあり、340℃未満であることが好ましく、330℃以下であることがより好ましい。熱圧着はプレス機を用いてバッチ式に行うこともでき、また高温ラミネーターを用いて連続的に行うこともできる。プレス機を用いる場合は空気の挟み込みを防ぎ、フッ素樹脂がガラスクロス内へ入り込みやすくするために、真空プレス機を用いることが好ましい。
【0057】
フッ素樹脂水溶液を用いる場合は、シリカ粉体を予め水溶液に所定量混合しスラリー化した後、石英ガラスクロスに含浸処理、乾燥することでフッ素樹脂とシリカ粉体とを含んだ石英ガラスクロスが得られる。ここで得られた石英ガラスクロスを上記の温度・時間・加圧して、プリプレグを作製する。フッ素樹脂微粉末水溶液の系では、有機系の界面活性剤等が含まれていることから、例えば、220~400℃で1分~1時間加熱して、界面活性剤を除去することが好ましい。有機系の界面活性剤は特に限定されず、公知のものを適量用いることができる。
【0058】
上記フッ素樹脂フィルム、又はフッ素樹脂水溶液を用いてフッ素樹脂基板を作製する場合、石英ガラスクロスに対するフッ素樹脂量は特に限定されないが、基板加工性及び基板信頼性等の観点から、作製したフッ素樹脂基板内のフッ素樹脂の体積分率が20~80体積%となるように調整されることが好ましい。フッ素樹脂水溶液を用いる場合、上記体積分率に調整するために、石英ガラスクロスに含浸塗布する工程を複数回行ってもよい。
【0059】
[銅張高速通信用フッ素樹脂基板]
上記高速通信用フッ素樹脂基板と、表面粗度1.5μm以下の銅箔とを、ビスマレイミド樹脂及び軟化点がテトラフルオロエチレン誘導体より低いフッ素樹脂から選ばれる樹脂を介して接着させることにより、銅張高速通信用フッ素樹脂基板が得られる。
【0060】
一般的にフッ素樹脂と銅箔の接着強度は非常に弱いため、直接熱圧着等で製造することができない。本発明では表面粗度が1.5μm以下の銅箔に対して十分に接着力を持った樹脂を研究した結果、ビスマレイミド樹脂や、軟化点がテトラフルオロエチレン誘導体より低いフッ素樹脂が、低粗度銅箔とフッ素樹脂の接着に有効であることを見出し、銅張高速通信用フッ素樹脂基板の製造が可能となったものである。
【0061】
表面粗度1.5μm以下の銅箔は、この範囲内であれば特に限定されない。なお、本発明の表面粗度の測定方法は、JIS-C-6481:1996に準拠して測定した値である。銅箔の厚さは特に限定されず、通常の範囲のものが用いられる。
【0062】
銅箔と、高速通信用フッ素樹脂基板との接着に使用する、ビスマレイミド樹脂及び軟化点がテトラフルオロエチレン誘導体より低いフッ素樹脂は1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。ビスマレイミド樹脂としては、上記式で表されるビスマレイミド樹脂が挙げられ、好適な成分も同じである。
【0063】
テトラフルオロエチレン誘導体より軟化点が低いフッ素樹脂としては、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体〔PFA〕、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体〔ETFE〕、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体〔FEP〕等が挙げられる。
【0064】
上記ビスマレイミド樹脂及び軟化点がテトラフルオロエチレン誘導体より低いフッ素樹脂(以下、ビスマレイミド樹脂等と略す場合がある。)は、予め100μ以下、50μ以下のフィルムに加工したものを使用することが好ましい。ビスマレイミド樹脂は熱硬化性のため、パーオキサイド等の触媒を混合したものを原料として使用してフィルム化する。銅張高速通信用フッ素樹脂基板は、フッ素樹脂基板、接着フィルム、銅箔を積層して熱圧着することで容易に製造することができる。加熱下での熱圧着は通常250~400℃の範囲内で、1~60分間、0.1~10メガパスカルの圧力で行うことができる。熱圧着温度に関しては、フッ素樹脂の軟化温度によるが、高温になると樹脂のしみ出しや、厚みの不均一化が起こる懸念があり、340℃未満であることが好ましく、330℃以下であることがより好ましい。熱圧着はプレス機を用いてバッチ式に行うこともでき、また高温ラミネーターを用いて連続的に行うこともできる。プレス機を用いる場合は空気の挟み込みを防ぎ、フッ素樹脂がガラスクロス内へ入り込みやすくするために、真空プレス機を用いることが好ましい。金属張積層基板の電極パターンは、公知の方法で作製すればよく、例えば、本発明の銅張高速通信用フッ素樹脂基板に対してエッチング等を行うことにより作製することができる。
【実施例0065】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
ガラスクロスの誘電正接の測定は以下の方法で行った。
ガラスクロスの10GHz及び40GHzの誘電正接はエーイーティー社製空洞共振器(TE011モード)を用いて測定した。なおガラスクロスの厚みは理論膜厚を用いて測定しており、ガラスクロスの理論膜厚は
理論膜厚t(μm)=目付量(g/m2)/比重(g/cm3
から算出した。
【0066】
シリカ粉体の誘電正接の測定は以下の方法で行った。
下記表1に示す割合で、シリカ粉体を低誘電マレイミド樹脂であるSLK-3000(信越化学工業社製)と硬化剤としてラジカル重合開始剤であるジクミルパーオキサイド(パークミルD:日油(株)社製)を含むアニソール溶剤に混合、分散、溶解してワニスを作製した。
シリカ粉体を下記表1に示す割合で、シリカ粉体と樹脂(SLK-3000)との合計量に対して、体積%で0%、17.6%、33.3%、48.1%となるように添加し、バーコーターで厚さ200mmに引き延ばし、80℃、30分間、乾燥機に入れてアニソール溶剤を除去することで未硬化のマレイミド樹脂組成物を調製した。
【0067】
【表1】
【0068】
調製した未硬化のマレイミド樹脂組成物を60mm×60mm×100μmの型に入れ、ハンドプレスにて180℃、10分、30MPaにて硬化後、乾燥器にて180℃、1時間で完全に硬化させて樹脂硬化シートを作製した。樹脂硬化シートを50mm×50mmの大きさに切り、誘電率測定用SPDR(Split post dielectric resonators)誘電体共振器周波数10GHz(キーサイト・テクノロジー社製)を用いて、10GHzにおける誘電正接を測定した。
【0069】
得られた誘電正接の値を図3に示すように横軸にシリカ粉体の体積%を、縦軸に測定した誘電正接を取ることで得られるプロットから、シリカ粉体の体積%と誘電正接との直線を作成した。この直線を外挿し、シリカ粉体100体積%の誘電正接をシリカ粉体の誘電正接の値とした。
【0070】
シリカ粉体を直接測定できるとする測定機もあるが、測定ポットの中にシリカ粉体を充填して測定するため、混入した空気の除去が困難である。特に、比表面積の大きいシリカ粉体は混入空気の影響が大きいため、なおさら困難である。そこで混入した空気の影響を排除し、実際の使用態様に近い状態での値を得るために、本発明では、上記した測定方法からシリカ粉体の誘電正接を求めた。実施例及び比較例の40GHzの誘電正接は、上記10GHzの測定方法と同様の手法及び計算で求めた。なお、石英ガラスクロス、石英粉体の誘電率の測定方法は、上記誘電正接の測定方法に準じた。
【0071】
基板の誘電率及び誘電正接、ならびに伝送損失の測定は以下の方法で行った。
<誘電率及び誘電正接の測定>
ネットワークアナライザ(キーサイト・テクノロジー社製 E5063A)とSPDR誘電体共振器(キーサイト・テクノロジー社製)を接続し、誘電率と誘電正接を測定した。
<伝送損失の測定>
実施例や比較例で作製した基板上に、表面粗度がRz0.6μm、厚さ18μmの銅箔を、接着フィルムを介して接着した銅張基板を、エッチング処理して回路長は100mmマイクロストリップラインを有する回路基板を作製した。この回路基板を使用して伝送損失を測定した。作製した回路基板を図1に示す。
上記作製した基板をネットワークアナライザ(キーサイト・テクノロジー社製 N5227B)に接続し伝送損失を測定した。
【0072】
[調製例1]石英ガラスクロス(1)
石英ガラス糸を高温で延伸しながら石英ガラス繊維用集束剤を塗布し、直径5.0μmの石英ガラスフィラメント200本からなる石英ガラスストランドを作製した。次に、得られた石英ガラスストランドに25mmあたり0.4回の撚りをかけ石英ガラスヤーンを作製した。
得られた石英ガラスヤーンをエアージェット織機にセットし、たて糸密度が54本/25mm、よこ糸密度が54本/25mmの平織の石英ガラスクロスを製織した。石英ガラスクロス(SQ1)は厚さ0.045mm、クロス重量が42.5g/m2で、誘電正接が0.0023(40GHz)であった。
この石英ガラスクロスをネムス社製電気炉B80×85×200-3Z12-10を用い、500℃・24時間加熱処理する時、昇温から降温時までHITATHI社製インバーターパッケージオイルフリーベビコン POD-15VNPを用いて作製した露点-20℃の乾燥空気を、一時間当たり電気炉の体積の5倍量送り込んで加熱処理を行った。
次いで、加熱処理後の石英ガラスクロスを0.5質量%のKBM-903(商品名;信越化学工業(株)製、3-アミノプロピルトリメトキシシラン)水溶液に10分間浸漬し、次いで110℃/20分加熱乾燥させて表面処理した。石英ガラスクロス(1)の40GHzの誘電正接は0.0003であった。
【0073】
[調製例2]石英ガラスクロス(2)
調製例1と同様にして、調製例1で作製した石英ガラスクロス(SQ1)をネムス社製電気炉B80×85×200-3Z12-10を用い、500℃・24時間加熱処理する時、昇温から降温時までHITATHI社製インバーターパッケージオイルフリーベビコン POD-15VNPを用いて作製した露点-70℃の乾燥空気を一時間当たり電気炉の体積の5倍量送り込んで加熱処理を行った。
次いで、加熱処理後の石英ガラスクロスを0.5質量%のKBM-903(商品名;信越化学工業(株)製、3-アミノプロピルトリメトキシシラン)水溶液に10分間浸漬し、次いで110℃/20分加熱乾燥させて表面処理した。本石英ガラスクロス(2)の40GHzの誘電正接は0.0001であった。
【0074】
[調製例3]石英ガラスクロス(3)
調製例1と同様にして、調製例1で作製した石英ガラスクロス(SQ1)をネムス社製電気炉B80×85×200-3Z12-10を用い、500℃・36時間加熱処理する時、昇温から降温時までHITATHI社製インバーターパッケージオイルフリーベビコン POD-15VNPを用いて作製した露点-20℃の乾燥空気を一時間当たり電気炉の体積の5倍量送り込んで加熱処理を行った。
次いで、加熱処理後の石英ガラスクロスを0.5質量%のKBM-903(商品名;信越化学工業(株)製、3-アミノプロピルトリメトキシシラン)水溶液に10分間浸漬し、次いで110℃/20分加熱乾燥させて表面処理した。本石英ガラスクロス(3)の40GHzの誘電正接は0.0002であった。
【0075】
[調製例4]石英ガラスクロス(4)
調製例1と同様にして、調製例1で作製した石英ガラスクロス(SQ1)をネムス社製電気炉B80×85×200-3Z12-10を用い、800℃・16時間加熱処理する時、昇温から降温時までHITATHI社製インバーターパッケージオイルフリーベビコン POD-15VNPを用いて作製した露点-20℃の乾燥空気を一時間当たり電気炉の体積の5倍量送り込んで加熱処理を行った。
次いで、加熱処理後の石英ガラスクロスを0.5質量%のKBM-903(商品名;信越化学工業(株)製、3-アミノプロピルトリメトキシシラン)水溶液に10分間浸漬し、次いで110℃/20分加熱乾燥させて表面処理した。本石英ガラスクロス(4)の40GHzの誘電正接は0.0001であった。
【0076】
[調製例5]石英ガラスクロス(5)(比較品)
調製例1と同様にして、調製例1で作製した石英ガラスクロス(SQ1)をネムス社製電気炉B80×85×200-3Z12-10を用いて、500℃・24時間電気炉内の露点20℃の空気で加熱処理を行った。
次いで、加熱処理後の石英ガラスクロスを0.5質量%のKBM-903(商品名;信越化学工業(株)製、3-アミノプロピルトリメトキシシラン)水溶液に10分間浸漬し、次いで110℃/20分加熱乾燥させて表面処理した。本石英ガラスクロス(6)の40GHzの誘電正接は0.0020であった。
【0077】
[調製例6]低誘電シリカ粉体(1)
平均粒径1.5μm、誘電正接0.0015(40GHz)のシリカ(アドマテックス社製 SO-E5)を調製例1と同様に、昇温か降温時まで露点-20℃の乾燥空気雰囲気下で800℃・16時間加熱処理を行った。得られた低誘電シリカ粉体をシランカップリング剤、KBM-503(信越化学工業(株)製、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン)で表面処理を行った。本低誘電シリカ粉体(1)の40GHzの誘電正接は0.0003であった。
【0078】
[調製例7]低誘電シリカ粉体(2)
平均粒径15μm、誘電正接0.0012(40GHz)のシリカ(瀧森社製 RS8225)を調製例2と同様に、昇温か降温時まで露点-70℃の乾燥空気雰囲気下で800℃・16時間加熱処理を行った。得られた低誘電シリカ粉体をシランカップリング剤、KBM-503(信越化学工業(株)製、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン)で表面処理を行った。本低誘電シリカ粉体(2)の40GHzの誘電正接は0.0002であった。調製例について下記表にまとめた。
【0079】
【表2】
【0080】
【表3】
【0081】
[実施例1]
誘電正接が40GHzで0.0002のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)微粒子が60質量%、非イオン界面活性剤が6質量%、水が34質量%からなるポリテトラエチレン微粒子水系分散液(PTFE水系分散液)を、調製例1で示した石英ガラスクロス(1)に対して、含浸塗布した後、100℃の乾燥炉で10分乾燥させ水分を飛ばし、その後、280℃の加熱炉で2分加熱し界面活性剤を除去した。上記工程をプリプレグ内のPTFEの体積分率が60体積%になるまで複数回行い、プリプレグを作製した。次いで、作製したプリプレグを真空加圧プレス機で380℃、1.5MPaで30分間成形し、高速通信用フッ素樹脂基板(1)を作製した。
フッ素樹脂基板(1)は成形不良もなく、良好なフッ素樹脂基板が得られた。40GHzの誘電正接と誘電率の測定結果を表4に示す。優れた誘電特性を有するものであった。
【0082】
[実施例2]
調製例2の石英ガラスクロス(2)に、実施例1のPTFE水系分散液を実施例1と同様にして、含浸塗布、加熱乾燥を複数回行い、プリプレグ内PTFEの体積分率が60体積%となるようにプリプレグを作製した。次いで、作製したプリプレグを実施例1と同様にして真空加圧プレス機を用いて成形し、高速通信用フッ素樹脂基板(2)を作製した。
フッ素樹脂基板(2)は成形不良もなく、良好なフッ素樹脂基板が得られた。40GHzの誘電正接と誘電率の測定結果を表4に示す。優れた誘電特性を有するものであった。
【0083】
[実施例3]
調製例3の石英ガラスクロス(3)に、実施例1のPTFE水系分散液を実施例1と同様にして、含浸塗布、加熱乾燥を複数回行い、プリプレグ内PTFEの体積分率が60体積%となるようにプリプレグを作製した。次いで、作製したプリプレグを実施例1と同様にして真空加圧プレス機を用いて成形し、高速通信用フッ素樹脂基板(3)を作製した。
フッ素樹脂基板(3)は成形不良もなく、良好なフッ素樹脂基板が得られた。40GHzの誘電正接と誘電率の測定結果を表4に示す。優れた誘電特性を有するものであった。
【0084】
[実施例4]
調製例4の石英ガラスクロス(4)に、実施例1のPTFE水系分散液を実施例1と同様にして、含浸塗布、加熱乾燥を複数回行い、プリプレグ内PTFEの体積分率が60体積%となるようにプリプレグを作製した。次いで、作製したプリプレグを実施例1と同様にして真空加圧プレス機を用いて成形し、高速通信用フッ素樹脂基板(4)を作製した。
フッ素樹脂基板(4)は成形不良もなく、良好なフッ素樹脂基板が得られた。40GHzの誘電正接と誘電率の測定結果を表4に示す。優れた誘電特性を有するものであった。
【0085】
[実施例5]
実施例1のPTFE水系分散液に含まれるPTFE樹脂100質量部相当に、調製例6で作製した低誘電シリカ粉体(1)を60質量部添加混合してシリカ含有PTFE分散液(1)を調製した。調製例1の石英ガラスクロス(1)に、シリカ含有PTFE分散液(1)を実施例1と同様にして、含浸塗布、加熱乾燥を複数回行い、プリプレグ内PTFEの体積分率が60体積%となるようにプリプレグを作製した。次いで、作製したプリプレグを実施例1と同様にして真空加圧プレス機を用いて成形し、高速通信用フッ素樹脂基板(5)を作製した。
フッ素樹脂基板(5)は成形不良もなく、良好なフッ素樹脂基板が得られた。40GHzの誘電正接と誘電率の測定結果を表4に示す。優れた誘電特性を有するものであった。
【0086】
[実施例6]
実施例1のPTFE水系分散液に含まれるPTFE樹脂100質量部相当に、調製例7で作製した低誘電シリカ粉体(2)を60質量部添加混合してシリカ含有PTFE分散液(2)を調製した。調製例1の石英ガラスクロス(1)に、シリカ含有PTFE分散液(2)を実施例1と同様にして、含浸塗布、加熱乾燥を複数回行い、プリプレグ内PTFEの体積分率が60体積%となるようにプリプレグを作製した。次いで、作製したプリプレグを実施例1と同様にして真空加圧プレス機を用いて成形し、高速通信用フッ素樹脂基板(5)を作製した。
フッ素樹脂基板(5)は成形不良もなく、良好なフッ素樹脂基板が得られた。40GHzの誘電正接と誘電率の測定結果を表4に示す。優れた誘電特性を有するものであった。
【0087】
[実施例7]
厚さ25μmのテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)からなる接着層フィルム(1)(誘電正接:0.0008(40GHz))を2枚、低粗度銅箔((粗度(Rx):0.6μm、厚み:18μm)を2枚、実施例1で作製した高速通信用フッ素樹脂基板(1)用プリプレグを1枚用意し、それぞれ銅箔/PFAフィルム/フッ素樹脂基板用プリプレグ/PFAフィルム/銅箔の順に積層し、真空加圧プレス機を用いて325℃、1.5MPaで30分間熱プレスすることにより銅張高速通信用フッ素樹脂基板(1)を作製した。
作製した銅張高速通信用フッ素樹脂基板(1)を、通常の感光性樹脂を用いてエッチング処理することで不要な銅箔を除去し、回路長が100mmのマイクロストリップラインを有する回路基板を作製した。この回路基板を使用して伝送損失を測定した。
また、誘電正接はフッ素樹脂基板から銅箔をエッチング除去し、純水洗浄、乾燥させた面を用い、10GHz、40GHzで測定した。誘電正接と伝送損失の結果を表5に示す。
【0088】
[実施例8]
テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)を100質量部、調製例6の低誘電シリカ粉体(2)を150質量部、ジクミルパーオキシド(商品名;パークミルD、日油製)を2質量部の組成物からなる厚み25μmの接着フィルム(2)(誘電正接:0.0003(40GHz))を作製した。
この接着層フィルム(2)を2枚、低粗度銅箔((粗度(Rx):0.6μm、厚み:18μm)を2枚、実施例2で作製した高速通信用フッ素樹脂基板(2)用プリプレグを1枚用意し、それぞれ銅箔/PFAフィルム/フッ素樹脂基板用プリプレグ/PFAフィルム/銅箔の順に積層し、真空加圧プレス機を用いて325℃、1.5MPaで30分間熱プレスすることにより銅張高速通信用フッ素樹脂基板(2)を作製した。
作製した銅張高速通信用フッ素樹脂基板(1)を通常の感光性樹脂を用いてエッチング処理することで不要な銅箔を除去し、回路長が100mmのマイクロストリップラインを有する回路基板を作製した。この回路基板を使用して伝送損失を測定した。
また、誘電正接はフッ素樹脂基板から銅箔をエッチング除去し、純水洗浄、乾燥させた面を用い10GHz、40GHzで測定した。誘電正接と伝送損失の結果を表5に示す。
【0089】
[実施例9]
ビスマレイミド樹脂SLK-3000(信越化学工業社製 誘電正接:0.0014(40GHz))を100質量部、調製例7の低誘電シリカ粉体(2)を150質量部、ジクミルパーオキシド(商品名;パークミルD、日油製)を2質量部の組成物からなる厚み25μmの接着フィルム(3)を作製した。
この接着フィルム(3)を2枚、低粗度銅箔((粗度(Rx):0.6μm、厚み:18μm)を2枚、実施例1で作製した高速通信用フッ素樹脂基板(1)を1枚用意し、それぞれ銅箔/SLK-3000フィルム/フッ素樹脂基板用プリプレグ/SLK-3000フィルム/銅箔の順に積層し、真空加圧プレス機を用いて150℃で1時間、さらに180℃で2時間のステップキュアを行うことにより硬化させて銅張高速通信用フッ素樹脂基板(3)を作製した。
ここで作製した銅張高速通信用フッ素樹脂基板(3)を通常の感光性樹脂を用いてエッチング処理することで不要な銅箔を除去し、回路長が100mmのマイクロストリップラインを有する回路基板を作製した。この回路基板を使用して伝送損失を測定した。
また、誘電正接はフッ素樹脂基板から銅箔をエッチング除去し、純水洗浄、乾燥させた面を用いて、10GHz、40GHzで測定した。誘電正接と伝送損失の結果を表中に示す。
【0090】
[比較例1]
調製例1で使用した加熱処理前の石英ガラスクロス(SQ1)に、実施例1のPTFE水系分散液(PTFE樹脂分60質量部)を実施例1と同様にして、含浸塗布、加熱乾燥を複数回行い、プリプレグ内PTFEの体積分率が60体積%となるようにプリプレグを作製した。次いで、作製したプリプレグを実施例1と同様にして真空加圧プレス機を用いて成形し、フッ素樹脂基板(7)を作製した。
フッ素樹脂基板(7)は成形不良のない、フッ素樹脂基板が得られた。40GHzの誘電正接と伝送損失の結果を表6に示す。
【0091】
[比較例2]
調製例5の石英ガラスクロス(5)に、実施例1のPTFE水系分散液(PTFE樹脂分60質量部)を実施例1と同様にして、含浸塗布、加熱乾燥を複数回行い、プリプレグ内PTFEの体積分率が60体積%となるようにプリプレグを作製した。次いで、作製したプリプレグを実施例1と同様にして真空加圧プレス機を用いて成形し、フッ素樹脂基板(8)を作製した。
フッ素樹脂基板(8)は成形不良のない、フッ素樹脂基板が得られた。40GHzの誘電正接と伝送損失の結果を表6に示す。
【0092】
[比較例3]
厚さ40μmのテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)フィルム(ダイキン製 誘電正接:0.0009(40GHz))を2枚、調製例1で得られた石英ガラスクロス(1)を1枚用意し、それぞれPFAフィルム/石英ガラスクロス/PFAフィルムの順に積層し、真空加圧プレス機を用いて325℃、1.5MPaで30分間熱プレスすることによりフッ素樹脂基板(9)を作製した。
フッ素樹脂基板(9)は成形不良のないフッ素樹脂基板が得られた。40GHzの誘電正接と伝送損失の結果を表6に示す。
【0093】
[比較例4]
厚さ40μmのビスマレイミド樹脂(SLK-3000)フィルム(信越化学工業社製 誘電正接:0.0014(40GHz))を2枚、調製例1で得られた石英ガラスクロス(1)を1枚用意し、それぞれSLK-3000フィルム/石英ガラスクロス/SLK-3000フィルムの順に積層し、真空加圧プレス機を用いて150℃で1時間、さらに180℃で2時間のステップキュアを行うことにより硬化させて硬化性樹脂基板(10)を作製した。得られた硬化性樹脂基板(10)は、成形不良のないものであった。40GHzの誘電正接と伝送損失の結果を表6に示す。
【0094】
[比較例5]
実施例1のPTFE水系分散液に含まれるPTFE樹脂100質量部相当に、調製例7で使用した加熱処理前のシリカ粉体(アドマテックス社製 SO-E5:誘電正接(40GHz)0.0015)を150質量部に変更した以外は実施例5と同様にしてシリカ含有PTFE分散液(3)を調製した。調製例1で使用した加熱処理前の石英ガラスクロス(SQ1)に、シリカ含有PTFE分散液(3)を実施例1と同様にして、含浸塗布、加熱乾燥を複数回行い、プリプレグ内PTFEの体積分率が60体積%となるようにプリプレグを作製した。次いで、作製したプリプレグを実施例1と同様にして真空加圧プレス機を用いて成形し、フッ素樹脂基板(11)を作製した。
フッ素樹脂基板(11)は成形不良のないフッ素樹脂基板が得られた。40GHzの誘電正接と伝送損失の結果を表6に示す。
【0095】
[比較例6]
40GHzにおける誘電正接が0.0019である低誘電ガラスクロスと40GHzにおける誘電正接が0.0015である熱硬化型末端変性ポリフェニレンエーテル樹脂からなる低誘電基板用プリプレグを1枚、低粗度銅箔((粗度(Rx):0.6μm、厚み:18μm)を2枚用意し、それぞれ銅箔/低誘電基板用プリプレグ/銅箔の順に積層し、真空加圧プレス機を用いて180℃2MPaで60分間熱プレスすることにより基板(4)を作製した。ここで作製した低誘電基板(4)を、感光性樹脂を用いてエッチング処理することで不要な銅箔を除去し、回路長が100mmのマイクロストリップラインを有する回路基板を作成した。この回路基板を使用して伝送損失を測定した。
また、誘電正接は低誘電基板から銅箔をエッチング除去し、純水洗浄、乾燥させた面を用い10GHz、40GHzで測定した。誘電正接と伝送損失の結果を表5に示す。
【0096】
【表4】
【0097】
【表5】
【0098】
【表6】
【0099】
上記結果から、PTFE樹脂と、同レベルの誘電正接を有する石英ガラスクロスとからなるフッ素樹脂基板は、伝送損失が少なく、高速通信用フッ素樹脂基板として好適な基板である。また、より伝送損失の低減化に同レベルの誘電正接を有するシリカ粉体の添加も有効であることが判明した。
【符号の説明】
【0100】
1 加熱炉
2 石英ガラスクロス又はシリカ粉体(容器中)
3 配管
4 乾燥気体を生成する機構
5 乾燥気体
6 排出機構
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2023-07-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
40GHzにおける誘電正接が、0.0001~0.0008である石英ガラスクロス、及び
40GHzにおける誘電正接が、0.0001~0.0005であるフッ素樹脂
を有し、
40GHzにおける誘電正接が、0.0001~0.0008、かつ
40GHzにおける誘電率が、2.0~3.2である高速通信用フッ素樹脂基板。
【請求項2】
さらに、シリカ粉体を有する、請求項1記載の高速通信用フッ素樹脂基板。
【請求項3】
シリカ粉体が、平均粒径0.1~30μmで、SiO2含有量が99.5質量%以上であり、40GHzにおける誘電正接が、0.0001~0.0008であるシリカ粉体である、請求項記載の高速通信用フッ素樹脂基板。
【請求項4】
40GHzにおける誘電正接が、0.0001~0.0006である請求項1記載の高速通信用フッ素樹脂基板。
【請求項5】
石英ガラスクロスが、合成石英ガラスクロスである請求項1記載の高速通信用フッ素樹脂基板。
【請求項6】
石英ガラスクロスが、シランカップリング剤で処理されたシランカップリング剤処理石英ガラスクロスである請求項1記載の高速通信用フッ素樹脂基板。
【請求項7】
フッ素樹脂が、テトラフルオロエチレン誘導体である請求項1記載の高速通信用フッ素樹脂基板。
【請求項8】
石英ガラスクロスに、フッ素樹脂が含浸した請求項7記載の高速通信用フッ素樹脂基板。
【請求項9】
さらに、石英ガラスクロスに、シリカ粉体を含むフッ素樹脂が含浸した請求項8記載の高速通信用フッ素樹脂基板。
【請求項10】
フッ素樹脂基板内のフッ素樹脂の体積分率が20~80体積%である、請求項8記載の高速通信用フッ素樹脂基板。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項記載の高速通信用フッ素樹脂基板と、表面粗度1.5μm以下の銅箔とを、ビスマレイミド樹脂、ならびにテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体及びテトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体から選ばれる樹脂を介して接着させた銅張高速通信用フッ素樹脂基板。
【請求項12】
上記樹脂が、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体である、請求項11記載の銅張高速通信用フッ素樹脂基板1。
【請求項13】
上記樹脂が、下記一般式
【化1】
(前記式中、Aは独立して芳香族環又は脂肪族環を含む4価の有機基を示す。Bは2価のヘテロ原子を含んでもよい脂肪族環を有する炭素数6~18のアルキレン鎖である。Qは独立して炭素数6以上の直鎖アルキレン基を示す。Rは独立して炭素数6以上の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。nは1~10の数を表す。mは0~10の数を表す。)
で示されるビスマレイミド樹脂である、請求項11記載の銅張高速通信用フッ素樹脂基板。