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特開2024-27965硫化物スケール析出抑制システム及び方法
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  • 特開-硫化物スケール析出抑制システム及び方法 図1
  • 特開-硫化物スケール析出抑制システム及び方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027965
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】硫化物スケール析出抑制システム及び方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 5/00 20230101AFI20240222BHJP
   F03G 4/00 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
C02F5/00 610D
F03G4/00 551
C02F5/00 620Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022131200
(22)【出願日】2022-08-19
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(72)【発明者】
【氏名】宇井 慎弥
(72)【発明者】
【氏名】中島 悠也
(57)【要約】
【課題】 硫化水素を含む流体の気液二相流が流通する流路を備える機器における硫化鉄スケールの抑制。
【解決手段】 硫化鉄スケール析出抑制システムであって、硫化水素を含む流体の気液二相流Wが流通する流路を備え、当該流路中に乾湿交番部14、15を備える機器1と、前記乾湿交番部に水を含む液体Wを供給し、当該乾湿交番部を露点温度以下に保持する、液体供給装置19、20とを備えるシステム。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫化鉄スケール析出抑制システムであって、
硫化水素を含む流体の気液二相流が流通する流路を備え、当該流路中に、鉄製部材から構成された乾湿交番部を備える機器と、
前記乾湿交番部に水を含む液体を供給し、当該乾湿交番部を露点温度以下に保持する、液体供給装置と
を備えるシステム。
【請求項2】
前記液体供給装置が、液体噴霧装置、液体供給ノズル、散水管、液体供給口から選択される、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記機器が、地熱発電プラントを構成する機器であり、前記硫化水素を含む流体の気液二相流が、地熱流体の気液二相流である、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記水を含む液体が、地熱水を含む、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記液体供給装置が、前記地熱発電プラントを構成する、地熱流体が流通する配管、地熱流体を貯留するタンク、熱水ピット、及び生産井から選択される一以上の装置と接続され、当該装置由来の地熱水を前記乾湿交番部に供給するように構成される、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記機器が、熱交換器、流体輸送配管、気液分離器、オリフィス、弁、圧力計から選択される、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記乾湿交番部における流体の温度を測定する温度測定装置と、
前記乾湿交番部における流体の圧力を測定する圧力測定装置と、
前記温度測定装置及び圧力測定装置の測定結果に基づいて、前記液体供給装置からの液体供給を制御する制御装置と
をさらに備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
硫化鉄スケール析出抑制方法であって、
硫化水素を含む流体の気液二相流が流通する流路を備える機器の乾湿交番部に水を含む液体を供給し、当該乾湿交番部を露点温度以下に保持する工程を含む、方法。
【請求項9】
前記機器が、地熱発電プラントを構成する装置であり、前記硫化水素を含む流体の気液二相流が、地熱流体の気液二相流である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記水を含む液体が、地熱水を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記地熱水が、前記地熱発電プラントを構成する、地熱流体が流通する配管、気液分離器、熱水ピット、及び生産井から選択される一以上の装置から取得した地熱水である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記乾湿交番部における流体の温度を測定する温度測定工程と、
前記乾湿交番部における流体の圧力を測定する圧力測定工程と、
前記温度測定工程及び圧力測定工程の測定結果に基づいて、前記液体供給装置からの液体供給を制御する制御工程と
をさらに含む、請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化物スケール析出抑制システム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、発電プラント、船舶システム、ボイラシステム、鉄鋼プラントなど、流体の流通系を備えるシステムにおいて、スケールの析出が問題になっている。特に、地熱発電プラント等、地熱流体を利用するシステムや、石油精製プラントにおいては、地熱流体や原油に含まれる硫黄成分、特には硫化水素に起因して、硫化鉄スケールの生成が問題となっている。硫化鉄スケールは、プラントを構成する鉄製部材の腐食に繋がり、剥離しやすい特性がある。このため、鉄製部材の減肉や、スケール生成箇所の下流プロセスにおける障害が生じることが問題となる。
【0003】
従来、硫化鉄スケールの抑制には、主に、薬剤を注入する方法が用いられてきた。石油精製装置に付着する硫化鉄系スケールを、必要によりアルカリと接触させて油分を除去したのち、硝酸と接触させてスケールを溶解除去する方法が知られている(例えば、特許文献1を参照)。また、地熱井用における硫化物およびシリカスケールの形成および堆積を抑制することを目的として、アクリル酸またはメタクリル酸とアニオン性モノマーとのコポリマーである硫化物スケール抑制剤と、アクリル酸またはメタクリル酸とアルコキシル化モノマーとのコポリマーであるシリカスケール抑制剤を含む組成物を水性系または坑井に注入する方法が知られている(例えば、特許文献2を参照)。
【0004】
既に生成したスケールを物理的に除去する方法も知られている。地熱蒸気生産井より得られた蒸気が供給されて仕事をする地熱発電用蒸気タービンのスケール除去装置であって、前記地熱発電用蒸気タービン内に配置されたノズルおよび/またはブレードの表面に向けて蒸気が噴射されるように構成されている装置が知られている(例えば、特許文献3、4を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6-212172
【特許文献2】特開2020-520792
【特許文献3】特開昭60-69241
【特許文献4】特開2005-220850
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術による、薬剤を用いた硫化鉄スケールの抑制方法では、ランニングコストが高いという問題がある。また、既に生成した硫化鉄スケールを除去する方法では、鉄製部材の減肉や、剥離の問題が解決できず、硫化鉄スケールの生成自体を抑制することはできない。
【0007】
より経済的かつ簡便に、硫化鉄スケールの生成を防止する方法が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、硫化鉄の生成を抑制するために、硫化水素の溶解吸収を促進しつつ、硫化水素に起因して生成する亜硫酸の濃度を積極的に希釈することを検討した。そして、硫化水素を含む流体の気液二相流が流通する流路を備える機器の、鉄製部材により構成された乾湿交番部において、散水により、硫化水素の吸収と亜硫酸の希釈を行うことにより、課題を解決可能であることに想到し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、一実施形態によれば、硫化鉄スケール析出抑制システムであって、硫化水素を含む流体の気液二相流が流通する流路を備え、当該流路中に、鉄製部材から構成された乾湿交番部を備える機器と、前記乾湿交番部に水を含む液体を供給し、当該乾湿交番部を露点温度以下に保持する、液体供給装置とを備えるシステムに関する。
【0010】
前記硫化鉄スケール析出抑制システムにおいて、前記液体供給装置が、液体噴霧装置、液体供給ノズル、散水管、液体供給口から選択されることが好ましい。
【0011】
前記硫化鉄スケール析出抑制システムにおいて、前記機器が、地熱発電プラントを構成する機器であり、前記硫化水素を含む流体の気液二相流が、地熱流体の気液二相流であることが好ましい。
【0012】
前記機器が地熱発電プラントを構成する機器である前記硫化鉄スケール析出抑制システムにおいて、前記水を含む液体が、地熱水を含むことが好ましい。
【0013】
前記機器が地熱発電プラントを構成する機器である硫化鉄スケール析出抑制システムにおいて、前記液体供給装置が、前記地熱発電プラントを構成する、地熱流体が流通する配管、気液分離器、熱水ピット、及び生産井から選択される一以上の装置と接続され、当該装置由来の地熱水を前記乾湿交番部に供給するように構成されることが好ましい。
【0014】
前記硫化鉄スケール析出抑制システムにおいて、前記機器が、熱交換器、流体輸送配管、気液分離器(タンク)、オリフィス、弁、圧力計から選択されることが好ましい。
【0015】
前記硫化鉄スケール析出抑制システムにおいて、前記乾湿交番部の温度を測定する温度測定装置と、当該温度測定装置の測定結果に基づいて、前記液体供給装置からの液体供給を制御する制御装置とをさらに備えることが好ましい。
【0016】
本発明は、別の実施形態によれば、硫化鉄スケール析出抑制方法であって、硫化水素を含む流体の気液二相流が流通する流路を備える機器の乾湿交番部に水を含む液体を供給し、当該乾湿交番部を露点温度以下に保持する工程を含む方法に関する。
【0017】
前記硫化鉄スケール析出抑制方法において、前記機器が、地熱発電プラントを構成する装置であり、前記硫化水素を含む流体の気液二相流が、地熱流体の気液二相流であることが好ましい。
【0018】
前記機器が地熱発電プラントを構成する機器である前記硫化鉄スケール析出抑制方法において、前記水を含む液体が、地熱水を含むことが好ましい。
【0019】
前記機器が地熱発電プラントを構成する機器である前記硫化鉄スケール析出抑制方法において、前記地熱水が、前記地熱発電プラントを構成する、地熱流体が流通する配管、地熱流体を貯留するタンク、熱水ピット、及び生産井から選択される一以上の装置から取得した地熱水であることが好ましい。
【0020】
前記硫化鉄スケール析出抑制方法において、前記乾湿交番部の温度を測定する温度測定工程と、前記温度測定工程の測定結果に基づいて、前記液体供給装置からの液体供給を制御する制御工程とをさらに含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る硫化鉄スケール析出抑制システム及び方法によれば、硫化水素を含む流体が流通するプラントにおいて、硫化鉄スケール生成を抑制し、プラントを構成する機器の腐食や、硫化鉄の剥離による下流プロセスへの障害を防止することができる。また、従来技術による硫化鉄スケールの抑制、除去方法と比較して、装置の初期費用や運転費用を抑え、硫化鉄スケールの生成自体を抑制することができる。このため、プラント全体の健全性を保証することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る硫化鉄スケールの析出抑制システム及び方法を概念的に示す図である。
図2図2は、本発明の一実施形態に係る硫化鉄スケールの析出抑制システム及び方法が適用される地熱発電プラントの一例を概念的に説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施の形態によって限定されるものではない。
【0024】
本発明は一実施形態によれば、硫化鉄スケール析出抑制システム及び方法に関する。本実施形態による硫化鉄スケール析出抑制システム及び方法は、硫化水素を含む流体の気液二相流が流通する流路を備え、当該流路中に、鉄製部材から構成された乾湿交番部を備える機器に適用される。
【0025】
このような機器としては、例えば、熱交換器、流体輸送配管、気液分離器(タンク)、オリフィス、弁、圧力計が挙げられるが、これらには限定されない。また、このような機器を備えるプラントとしては、例えば、地熱発電プラントや、石油精製プラント、または火力発電プラントのような硫黄分を含む燃料を使用したシステムが挙げられるが、これらには限定されない。
【0026】
硫化水素を含む流体の気液二相流は、硫化水素を含む二相流体であって、温度及び/または圧力の低下により、液化の懸念がある流体であってよい。このような流体としては、地熱水、燃焼排ガスなど、主な液体成分が水である水性流体、石油など、主な液体成分が油である油性流体が挙げられるが、これらには限定されない。例えば、プラントが地熱発電プラントである場合には、硫化水素を含む流体の気液二相流は、地熱流体であってよい。
【0027】
図1を参照して、鉄製部材から構成された乾湿交番部を備える機器が地熱発電プラントを構成する熱交換器であり、硫化水素を含む流体が地熱流体である場合を例として、硫化鉄スケール析出抑制システム及び方法の実施形態について説明する。熱交換器1は、地熱流体の流路と、冷却媒体Wの流路を内部に備える。地熱流体の流路は、過熱蒸気W入口11と、乾燥状態にある上流ヘッダー部12と、チューブ13と、乾湿交番部14である折返し部水室と、チューブ22と、乾湿交番部15である下流ヘッダー部と、凝縮水W1b出口21とを備える。冷却媒体Wの流路は、冷却媒体入口16と、複数の流路形成板17と、冷却媒体出口18とを備える。熱交換器1の後段には、凝縮水W1bが流れる輸送配管3、フラッシュタンク4が配置されている。
【0028】
過熱蒸気Wは、過熱蒸気入口11から熱交換器1内に流入し、乾燥状態にある上流ヘッダー部12に導かれ、チューブ13で冷却されて、気液二相流を形成する100℃以上の加熱水W1aとなる。加熱水W1aは気液二相流を形成しており、乾湿交番部14、チューブ22、乾湿交番部15を流れながら冷却され、凝縮水W1bとなって、凝縮水出口21から流出する。流出した凝縮水W1bは、輸送配管3を通り、後段のタンク4に蓄積され、さらに図示しない後段の機器へと流れる。なお、図1においては、過熱蒸気W、加熱水W1a、凝縮水W1bと符号を変えて説明しているが、熱交換器1を流れる流体の状態は、連続的に変化しており、厳密に区別できない場合がある。冷却媒体Wは、冷却媒体入口16から熱交換器1内に流入し、流路形成板17で区切られた流路を通り、その間に加熱されて冷却媒体出口18から流出する。冷却媒体Wは水である場合もあり、バイナリーサイクル式の発電プラントにおいては、水よりも沸点が低いアンモニア水やペンタン、代替フロンなどの作動媒体でありうる。
【0029】
上流ヘッダー部12、及び乾湿交番部14である折返し部水室、乾湿交番部15である下流ヘッダー部は、鉄製部材から構成することができる。鉄製部材は、硫化鉄を生成する懸念のある鉄製部材であって、例えば、炭素鋼であってよく、詳細には、一般構造用圧延鋼材(SS材)や、圧力配管用炭素鋼鋼管(STPG)等があり得るが、特定の種類には限定されない。なお、耐腐食性のステンレス鋼、例えば二相ステンレスなどは、本発明における鉄製部材には含まれない。乾湿交番部とは、気液二相流を形成する100℃以上の加熱水W1aの流路のうち、加熱水W1aの温度の低下や、圧力の低下により、凝縮が生じる可能性がある部分である。機器中で、乾湿交番部となる箇所は、機器の種類や構造、流通する流体の種類や温度により異なるが、例えば、熱交換器1においては、熱交換器1のヘッダー部であってよく、蓋、分離板、チューブ、管板等であってよい。熱交換器のヘッダー部とは、流体の流路中にあって、単一もしくは少数の流路を複数の流路へ分配し、または複数の流路を単一もしくは少数の流路に集合させる部分をいうものとする。乾湿交番部の懸念箇所の特定は、各機器を流れる流体の温度、及び圧力を計測し、モニタリングすることにより実施することができ、あるいは、機器の設計段階で特定することができる。
【0030】
本実施形態のシステムにおいては、乾湿交番部14、15に、液体供給装置19、20を備える。液体供給装置は、乾湿交番部に水を含む液体を供給し、当該乾湿交番部を露点温度以下に保持する。液体供給装置19、20は、水を含む液体Wを供給することができる装置であればよく、スプレー、ノズル、散水管、単純なポートのような液体供給口などが挙げられるが、これらには限定されない。
【0031】
水を含む液体Wは、液体の状態を保つ範囲でできるだけ高温であることが好ましく、例えば、0.58MPaの加圧下で157℃以下の液体であればよい。水を含む液体Wの例としては、地熱水、水道水、地下水、またはこれらの希釈水が挙げられるが、これらには限定されない。あるいは、水を含む液体Wは、例示した液体に、塩化鉄を添加した液体であってもよい。塩化鉄を添加した液体は、乾湿交番部を流れる加熱水W1a中の硫化水素と優先的に反応し、乾湿交番部において鉄製部材と反応する硫化水素の量を低減することで、硫化鉄スケールの生成を抑制することができる。気液二相流を形成する硫化水素を含む流体が地熱水である場合、水を含む液体Wとしても地熱水を使用することが好ましい。
【0032】
次に、乾湿交番部15に着目して、水を含む液体Wの供給態様をより詳細に説明する。図示する内壁15a、15b、15c、15dはいずれも鉄を含む部材で形成される。この中で、特には、内壁15a、15b、15cが乾湿交番部となる。図示する実施形態では、内壁15dは、熱交換器1の主要部を構成する部材として、耐腐食性部材で製造される場合を例示しているため、鉄製部材から構成された乾湿交番部には該当しない。したがって、内壁15a、15b、15cが、露点温度以下に保持される態様で、液体供給装置19から、内壁15a、15b、15cに水を含む液体Wを噴霧し、あるいは内壁15a、15b、15cの表面を、水を含む液体Wが流れるように構成する。図1中、内壁15a、15b、15cの表面に存在する液体を、ドットで示す。水を含む液体Wの供給においては、供給した液体が、加熱水W1aと直接接触することを避けるように実施する。したがって、例えば、液体供給装置19を内壁15a、15b、15cの近傍に設置し、液体供給装置19の液体供給口と、内壁15a、15b、15cとの間に、チューブ22の出口や、加熱水W1aの流路が位置することのないように構成することが好ましい。なお、別の実施形態によっては、内壁15dを構成する部材も、炭素鋼などの鉄製部材から構成され、乾湿交番部に該当する場合がある。その場合は、内壁15a、15b、15cと同様に、内壁15dにも、水を含む液体Wを供給し、露点温度以下に保持することができる。
【0033】
液体供給装置19が、一般的なスプレーノズルや散水管である場合、当該装置は、圧力計、温度計、流量計、バルブ、ストレーナ等を備えていてもよく、ノズルは、摩耗や閉塞を抑制するためのコーティングがされたものであってよい。図1においては、簡易的な説明のために、単一の液体供給装置19を示しているが、液体供給装置19を複数設置することもでき、複数の液体供給口を備える単一の液体供給装置19を用いることもできる。
【0034】
このように構成することで、チューブ22を流れてくる加熱水W1aに含まれる硫化水素が、乾湿交番部15である下流ヘッダー部内に拡散し、内壁15a、15b、15cに近接すると、内壁15a、15b、15cを構成する鉄製部材の表面に存在する水に溶解吸収され、亜硫酸の水溶液となる。液体供給装置19から、水を含む液体Wが連続的に供給されると、亜硫酸の水溶液は希釈される。これにより、鉄の活性面が露出することなく、内壁15a、15b、15cを構成する鉄製部材を亜硫酸が侵食することを防止することができる。また、好ましい態様においては、塩化鉄を添加した液体を液体供給装置19から供給することで、硫化水素と、内壁15a、15b、15cとの接触をさらに抑制することができる。従来技術においては、内壁15a、15b、15cの部分では、乾湿交番が生じ、亜硫酸の濃縮が生じていたため、硫化鉄が生成しやすくなっていたところ、液体供給装置19により乾湿交番を抑制し、亜硫酸を希釈することができるため、硫化鉄の生成を抑制することが可能となる。乾湿交番部14についても、同様に液体供給装置20から水を含む液体Wを供給し、内壁の表面に水を含む液体が存在するように構成することで、硫化鉄の生成を抑制することができる。
【0035】
別の好ましい態様においては、内壁15a、15b、15cなどの、水を含む液体Wの散布対象となる領域には、例えば、ステンレス鋼から構成されたメッシュ等を取り付けることもできる。メッシュを設けることにより、散布された水を含む液体Wが、メッシュによって薄く広く広がり、硫化水素ガスと水との接触面を増やすことができる。また、メッシュが散布された水を含む液体Wを保持することができる。これらの理由で、亜硫酸希釈率を向上させることができる。
【0036】
液体供給装置19、20により供給される水を含む液体Wが地熱水である場合、当該地熱水は、地熱発電プラント内の機器を流れ、あるいは機器内に蓄積されている地熱水由来であってよい。例えば、地熱発電プラントを構成する、輸送配管3、フラッシュタンク4、図示しない生産井、熱水ピット等から選択される1以上の機器を流れ、あるいは機器内に蓄積されている地熱水の一部を分配して、液体供給装置19、20に供給可能に構成することができる。これらの機器を流れ、あるいは機器内に蓄積されている地熱水は、100℃以上である場合が多く、乾湿交番部14、15に供給しても、加熱水W1aや、凝縮水W1bの温度を低下させることがなく、熱損失が少ないため、好ましい。これらの機器の中でも、地熱発電プラントの下流の機器を流れ、あるいは下流の機器内に蓄積されている地熱水の一部を分配して、水を含む液体Wとして、液体供給装置19、20に供給可能に構成することが好ましい。下流の機器とは、例えば、地熱発電プラントにおいて、フラッシュ発電の場合は気液分離器以降、バイナリーサイクル式の発電の場合は熱交換器以降にある機器をいうことができる。下流の地熱水は、地下由来の二酸化炭素の脱気が進んでいるためpHが上昇しており、腐食性が低くなっていることに加え、温度が80~120℃と比較的高いため、乾湿交番部に供給する水を含む液体Wとして好ましい。中でも、下流地熱水として、熱水卓越型の高圧余剰熱水が利用可能な機器、例えば、気液分離器がある場合には、図1中のポンプ2を使用することなく、液体供給装置19、20に送ることができるため、特に好ましい。熱水卓越型の高圧余剰熱水とは、蒸気と熱水が混じっている状態で噴気した地熱流体から、気液分離装置によりフラッシュ発電に用いる蒸気が分離された後の余剰の熱水をいう。なお、生産井は、下流の機器ではないが、同一系統内で最も圧力が高いため、ポンプなどの送液設備が不要となるという理由で、生産井由来の地熱水を、水を含む液体Wとして液体供給装置19、20から乾湿交番部14、15に供給することが好ましい。
【0037】
ある態様においては、液体供給装置19、20は、熱交換器1の運転時には、常に水を含む液体Wを一定の量で供給可能に構成することができる。別の態様においては、液体供給装置19、20は、水を含む液体Wの供給を制御可能に構成することもできる。水を含む液体Wの供給を制御するとは、水を含む液体Wの供給、供給の停止を切り替え可能にすることや、水を含む液体Wの供給量を変化可能にすることが含まれ得る。本実施形態によるシステムは、一例として、乾湿交番部を流れる流体の温度測定装置及び圧力測定装置と、当該温度及び圧力装置の測定結果から、測定時点での湿り度(露点からの裕度)に応じて、液体供給装置19、20を制御する制御装置とを備えていてもよい。乾湿交番部の温度及び圧力測定装置は、乾湿交番部の温度センサ及び圧力センサであってよい。制御装置は、当該温度及び圧力センサで測定した流体の温度が閾値よりも低下した場合に液体供給を行い、閾値以上である場合には液体供給を停止するように、液体供給装置19、20を制御する装置であってよい。閾値は、例えば、乾湿交番部における流体の露点温度、その近傍の温度であってよい。しかし、閾値は、当業者が、設計時に適宜設定することができる。別の態様においては、制御装置は、当該温度及び圧力センサで測定した温度により、液体供給量を変化させる装置であってよい。さらには、予防的な制御として、乾湿交番部に流れ込む流体の温度が、露点+5℃まで低下していたら予防的な散水を開始するように制御することもできる。本実施形態によるシステムは、別の例として、乾湿交番部にある鉄製部材の表面温度を測定する装置であってもよい。この場合、鉄製部材の表面度計が閾値まで低下した場合に水を含む液体の供給を開始するように制御することができ、閾値は、流体の露点であってもよく、露点+5℃程度であってもよい。
【0038】
図1においては、硫化水素を含む流体の気液二相流が流通する流路を備え、当該流路中に、鉄製部材から構成された乾湿交番部を備える機器の例として、熱交換器を挙げて説明したが、本発明の対象とする機器は、熱交換器には限定されない。例えば、硫化水素を含む流体の輸送配管や、各種機器を構成するパイプ、バルブ、ドレンポットなどにも、乾湿交番部が存在しうる。そして、本実施形態に係るシステム及び方法は、任意の乾湿交番部に適用することができる。
【0039】
本実施形態による硫化鉄スケール析出抑制システム及び方法によれば、従来、特に硫化鉄スケールの析出が問題となっていた、乾湿交番部における硫化鉄の生成を、経済的かつ根本的に抑制することができる。これにより、硫化鉄スケールに起因する障害や問題を低減し、プラントを健全な状態に維持することができる。
【0040】
本発明のシステムは、硫化鉄スケールが問題になる任意のプラントに適用可能であるが、特に硫化鉄スケールが問題になる地熱発電プラントにおいて有用でありうる。地熱発電プラントを構成する複数の機器について、図2を参照して説明し、硫化鉄スケール析出抑制システムの適用が好ましい所定の箇所について説明する。
【0041】
図2は、バイナリーサイクル式の地熱発電プラントの一例を示す概念的なフロー図である。バイナリーサイクル式の地熱発電プラントは、乾湿交番部が発生しやすいため、本実施形態によるシステム及び方法が好ましく適用されうる。地熱発電プラントは、生産井31と、第1の気液分離器32と、第1のタービン・発電機33と、熱水タンク34と、第2の気液分離器35と、蒸発器36と、セパレータ37と、第2のタービン・発電機38と、給液加熱器39と、空冷式復水器40と、予熱器41と、フラッシュタンク42と、熱水ピット43と、還元ポンプ44と、還元井45から構成することができる。任意選択的に、後段熱利用を行う施設46を含んでいてもよい。図2中、地熱水の流れを実線矢印で、低沸点媒体の流れを破線矢印で示す。また、破線で囲んだ領域は、フラッシュ発電領域を示す。
【0042】
地熱発電プラントにおける物質の流れについて簡単に説明する。生産井31は、地中の地熱貯留層にある熱水、蒸気、またはそれらの混合物(地熱水)が地上に噴出する井戸である。生産井31から噴出した地熱水は、第1の気液分離器32にて気体成分である蒸気と、液体成分である熱水に分離される。分離された蒸気は第1のタービン・発電機33に導かれ、タービンの回転に使用されて、発電機にて電気を生産する。第1のタービン・発電機33を通過した蒸気は、図示しない復水器にて冷却され、図示しない輸送配管を通って還元井45に導かれる。一方、第1の気液分離器32にて分離された熱水は、熱水タンク34を経て、第2の気液分離器35に導かれる。第2の気液分離器35にて分離された気体成分は蒸発器56に導かれ、蒸発器56において低沸点溶媒の加熱に用いられる。低沸点溶媒の加熱により再び液化された熱水は、次いで、フラッシュタンク42に導かれる。第2の気液分離器35にて分離された液体成分は、低沸点媒体を加熱するために予熱器41に導かれた後、フラッシュタンク42に導かれる。フラッシュタンク42では、熱水が減圧され、発生する水蒸気は大気中に放散される。減圧後に残存する液体成分は、熱水ピット43に導かれ、還元ポンプ44により、一部は還元井45に返送され、一部は、温泉施設などの後段熱利用を行う施設46に導かれる。
【0043】
一方、低沸点媒体は、破線矢印で示すように、設備内を循環している。低沸点媒体は、蒸発器56において、地熱蒸気により加熱され、二相流の低沸点媒体は、セパレータ37で、気相と液相に分離される。気相の低沸点媒体は、第2のタービン・発電機38に導かれる。第2のタービン・発電機38の回転に使用した低沸点媒体は、給液加熱器39で凝縮されて液化し、復水器40で放熱され、予熱器41に導かれる。予熱器41では、液化された低沸点媒体が、地熱水により再び加熱され、蒸発器56に循環される。
【0044】
実線50で囲まれた機器は、地熱発電プラント中の、硫化鉄スケール析出抑制システムを適用することが好ましい機器である。これらは、いずれも、地熱水が二相流となって流通する可能性のある機器であり、地熱水の再沸騰の可能性があり、乾湿交番部を備える機器である。したがって、これらの機器の1以上において、硫化鉄スケール析出抑制システムを適用することにより、乾湿交番を抑制することができ、硫化鉄の生成を抑制することができる。なお、硫化鉄スケール析出抑制システムを適用する機器として、第1のタービン・発電機33は好ましくない。タービンは、蒸気を直接利用する機器であり、液体供給装置による液滴の混入は、タービンの破損につながるおそれがあるためである。
【符号の説明】
【0045】
1 熱交換器、 2 ポンプ、3 輸送配管、4 フラッシュタンク
11 過熱蒸気入口、12 上流ヘッダー部、13 チューブ、
14 乾湿交番部(折返し部水室)、15 乾湿交番部(下流ヘッダー部)、
15a、15b、15c 内壁、16 冷却媒体入口
17 流路形成板、18 冷却媒体出口、19、20 液体供給装置
21 凝縮水出口、22 チューブ
過熱蒸気、W1a 加熱水、W1b 凝縮水、W 冷却媒体、W 供給水
図1
図2