(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027988
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】鉄道車両構体
(51)【国際特許分類】
B61D 17/08 20060101AFI20240222BHJP
B61D 17/00 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
B61D17/08
B61D17/00 C
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022131260
(22)【出願日】2022-08-19
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-07-05
(71)【出願人】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】大塚 大輔
(72)【発明者】
【氏名】大橋 健悟
(72)【発明者】
【氏名】眞野 優太
(57)【要約】
【課題】外板に対する骨部材の配置の自由度を向上できる鉄道車両構体を提供すること。
【解決手段】2枚の外板21,22の縁同士が突き合わされて接合部23で接合され、その接合部23を跨ぐように2枚の外板21,22の車両内側に内板24が重ねて接合される。内板24には、接合部23に重なる部分が車両内側へ曲がって突出した突起部25が有るため、接合部23(突起部25)の近傍で内板24自身を面外方向へ変形し難くなる。その結果、溶接により強度が低下した接合部23に対し変形に伴う破壊などを生じ難くできるので、外板21,22と内板24とが重なった部分の強度をバランス良く確保でき、その部分を更に補強するための横骨26の配置に対する自由度を向上できる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
突き合わされた縁同士が溶接による接合部で接合された2枚の外板と、
前記接合部を跨ぐように2枚の前記外板の車両内側に重ねて接合される内板と、
その内板の車両内側に接合される骨部材と、を備え、
前記内板は、前記接合部に重なる部分が車両内側へ曲がって突出した突起部を備えることを特徴とする鉄道車両構体。
【請求項2】
前記接合部は、前記外板に対し車両内側へ盛り上がっていることを特徴とする請求項1記載の鉄道車両構体。
【請求項3】
前記突起部は、前記接合部が形成される縁に垂直な断面において、車両内側の頂点へ向かうにつれて次第に高くなる形状であることを特徴とする請求項1記載の鉄道車両構体。
【請求項4】
前記骨部材は、一対のフランジの一側縁同士をウェブで連結した断面コ字状のチャンネル部と、一対の前記フランジの他側縁からそれぞれ外側へ延びて前記内板に重ねて接合される一対の連結部と、を備え、
前記突起部の幅は、一対の前記フランジ間の幅よりも小さいことを特徴とする請求項1記載の鉄道車両構体。
【請求項5】
前記骨部材および前記突起部は、互いに平行に延び、
前記突起部の高さは、前記連結部から前記ウェブまでの高さよりも小さいことを特徴とする請求項4記載の鉄道車両構体。
【請求項6】
前記骨部材の内側であって一対の前記フランジ間に前記突起部が位置することを特徴とする請求項5記載の鉄道車両構体。
【請求項7】
2枚の前記外板は、複数の窓開口が車両前後方向に並んだ側構体の外壁面を構成しつつ、その側構体のうち前記窓開口の車両前後方向に位置する吹寄部で上下に縁同士が突き合わされて前記接合部で接合され、
前記内板は、前記吹寄部の全範囲で前記外板に重ねられるシアプレートであることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の鉄道車両構体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両構体に関し、特に外板に対する骨部材の配置の自由度を向上できる鉄道車両構体に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の各構体は、複数の外板を互いに溶接などで接合し、その外板の車両内側に骨部材を接合して形成される。特許文献1における鉄道車両の側構体では、窓開口の前後の吹寄部において、上下2枚の外板の縁同士を突き合わせて接合し、その接合部で低下してしまう強度を補うために接合部の近傍の外板に骨部材を接合している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、側構体の強度の確保のために接合部の近傍に骨部材を接合する必要があり、外板に対する骨部材の配置に制限があった。
【0005】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、外板に対する骨部材の配置の自由度を向上できる鉄道車両構体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために本発明の鉄道車両構体は、突き合わされた縁同士が溶接による接合部で接合された2枚の外板と、前記接合部を跨ぐように2枚の前記外板の車両内側に重ねて接合される内板と、その内板の車両内側に接合される骨部材と、を備え、前記内板は、前記接合部に重なる部分が車両内側へ曲がって突出した突起部を備える。
【発明の効果】
【0007】
請求項1記載の鉄道車両構体によれば、2枚の外板の縁同士が突き合わされて接合部で接合され、その接合部を跨ぐように2枚の外板の車両内側に内板が重ねて接合される。これにより、接合部を支点とするような面外方向の変形を外板に生じ難くできる。更に内板には、接合部に重なる部分が車両内側へ曲がって突出した突起部が有るため、接合部(突起部)の近傍で内板自身も面外方向へ変形し難くなる。これらの結果、溶接により強度が低下した接合部に対し変形に伴う破壊などを生じ難くできるので、外板と内板とが重なった部分の強度をバランス良く確保できる。よって、外板と内板とが重なった部分を更に補強するための骨部材の配置に対する自由度を向上できる。
【0008】
請求項2記載の鉄道車両構体によれば、請求項1記載の鉄道車両構体の奏する効果に加え、次の効果を奏する。突起部によって内板と外板の接合部との間に空間が形成されるので、外板に対し車両内側へ接合部が盛り上がっていても、外板に内板を重ねるときに、その盛り上がりの除去を不要にできる。この除去作業を無くすことで鉄道車両構体の製作工数を削減できる。
【0009】
請求項3記載の鉄道車両構体によれば、請求項1記載の鉄道車両構体の奏する効果に加え、次の効果を奏する。突起部は、接合部が形成される縁に垂直な断面において、車両内側の頂点へ向かうにつれて次第に高くなる形状である。この場合、平板状の内板に対し頂点となる部分を押し込む1回のプレス加工によって突起部を形成し易くでき、内板に対する加工回数を低減し易くできる。
【0010】
請求項4記載の鉄道車両構体によれば、請求項1記載の鉄道車両構体の奏する効果に加え、次の効果を奏する。骨部材は、一対のフランジの一側縁同士をウェブで連結した断面コ字状のチャンネル部と、一対のフランジの他側縁からそれぞれ外側へ延びて内板に重ねて接合される一対の連結部と、を備える。この一対のフランジ間の幅よりも突起部の幅が小さいので、突起部によって内板が外板から離れる部位の幅を小さくできる。その結果、内板と外板との密着により高強度化する範囲を広くできる。
【0011】
請求項5記載の鉄道車両構体によれば、請求項4記載の鉄道車両構体の奏する効果に加え、次の効果を奏する。骨部材および突起部は、互いに平行に延びている。更に、一対のフランジ間の幅よりも突起部の幅が小さいのに加え、連結部からウェブまでの高さよりも突起部の高さが小さい。これにより、骨部材の内側(一対のフランジ間)にも突起部を配置することが可能となる。その結果、骨部材の配置の自由度を更に向上できる。
【0012】
請求項6記載の鉄道車両構体によれば、請求項5記載の鉄道車両構体の奏する効果に加え、次の効果を奏する。骨部材の内側であって一対のフランジ間に突起部が位置する。これにより、例えば骨部材と交差する縦骨に対し、突起部との干渉を避けるための切り欠きの追加を不要にできる。この縦骨に限らず内板の車両内側に位置する物品に対し、突起部との干渉を避けるための設計を不要にできる。
【0013】
請求項7記載の鉄道車両構体によれば、請求項1から6のいずれかに記載の鉄道車両構体の奏する効果に加え、次の効果を奏する。2枚の外板は、複数の窓開口が車両前後方向に並んだ側構体の外壁面を構成し、その側構体のうち窓開口の車両前後方向に位置する吹寄部で上下に2枚の外板の縁同士が突き合わされて接合部で接合される。内板は、この吹寄部の全範囲で外板に重ねられるシアプレートである。これにより、吹寄部(窓開口)よりも上下の部位に対し強度が低下し易い吹寄部がシアプレートで補強される。突起部によってシアプレート自身が面外方向へ変形し難いため、シアプレートによる吹寄部の補強効果を向上でき、側構体の強度をバランス良く向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1実施形態における鉄道車両構体の斜視図である。
【
図2】鉄道車両構体の車両内側から見た部分拡大図である。
【
図3】
図2のIII-III線における鉄道車両構体の部分拡大断面図である。
【
図5】(a)は外板の部分拡大断面図であり、(b)は外板および内板の部分拡大断面図であり、(c)は外板、内板および横骨の部分拡大断面図である。
【
図6】第2実施形態における鉄道車両構体の側構体の部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、好ましい実施形態について、添付図面を参照して説明する。まず
図1を参照して、第1実施形態における鉄道車両構体10の概要について説明する。
図1は、鉄道車両構体10の斜視図である。なお、各図面の矢印F-B,矢印U-D及び矢印L-Rは、鉄道車両構体10の前後方向(車両長さ方向、レール方向)、上下方向(車両上下方向)及び左右方向(車幅方向、枕木方向)をそれぞれ表している。
【0016】
鉄道車両構体10は、複数の車輪を有する台車に支持されることで鉄道車両を構成する箱状の車体である。鉄道車両構体10は、床面を構成する台枠11と、その台枠11の左右両縁からそれぞれ立ち上がる一対の側構体12と、一対の側構体12の上端同士を連結する屋根構体13と、それら台枠11、側構体12及び屋根構体13の前後両端にそれぞれ連結される一対の妻構体14と、を備える。これらの各構体によって取り囲まれた部分であって鉄道車両構体10の車両内側に乗務員室や客室などの空間が形成される。
【0017】
側構体12には、この車両内側の空間と外部とを連通する複数の窓開口15や乗降口16が左右方向に貫通形成されて前後方向に並んでいる。側構体12は、窓開口15の車両前後方向に位置する吹寄部17と、窓開口15及び吹寄部17よりも上側を構成する幕部18と、窓開口15及び吹寄部17よりも下側を構成する腰部19と、を備える。
【0018】
次に
図2から
図4を参照して側構体12について詳しく説明する。
図2は、側構体12(鉄道車両構体10)の車両内側から見た部分拡大図である。
図3は、
図2のIII-III線における側構体12の部分拡大断面図である。
図4は、横骨26が接合された内板24の平面図である。
【0019】
図2及び
図3に示すように、側構体12は、上下2枚の外板21,22と、その外板21,22に吹寄部17の位置で車両内側に重ねられる内板24と、それら外板21,22又は内板24の車両内側に接合される複数の横骨(骨部材)26及び縦骨27と、を備える。
【0020】
外板21,22は、金属製の板材であって、側構体12の外壁面を構成する。外板21は、吹寄部17の上側と幕部18との外壁面を形成する。外板22は、吹寄部17の下側と腰部19との外壁面を形成する。
【0021】
吹寄部17において、外板21の下縁と外板22の上縁とが前後方向に亘って互いに突き合わされ、外板21,22が同一面上に並べて配置される。この突き合わされた外板21,22の縁同士がレーザ溶接により接合されている。この溶接により形成された継手部分を接合部23と称す。なお、
図2では、接合部23のうち内板24が車両内側に重なった部分が破線で示されている。また、レーザ溶接に限らず、アーク溶接などにより接合部23を形成しても良い。
【0022】
接合部23は、突き合わされた外板21,22の縁の全長に沿って連続し、前後方向と平行に延びている。接合部23は、外板21,22に対し車両内側へ盛り上がっている。また、接合部23は、溶接直後に
図3に破線で示す通り外板21,22に対し車両外側へも盛り上がるが、見栄え等を考慮して、
図3に実線で示すように平滑に削正されている。
【0023】
内板24は、外板21,22の車両内側に重ねられて接合される金属製の板材である。内板24は、その重ねた部分の外板21,22を補強し、シアプレートと称される。内板24と外板21,22とは、レーザ溶接またはスポット溶接により形成された重ね接合部28で接合されている。
【0024】
内板24は、吹寄部17の全範囲で外板21,22に重ねられる。窓開口15が存在しない幕部18及び腰部19に対して、吹寄部17の強度は低下し易いが、この吹寄部17が内板24で補強されることにより、側構体12の強度をバランス良く向上させることができる。
【0025】
更に、内板24は、吹寄部17の範囲から(窓開口15の上下両縁よりも)幕部18側および腰部19側へそれぞれ延長した張出部24a,24bを備える。これにより、吹寄部17と幕部18及び腰部19との境界近傍を、張出部24a,24bを有する内板24で補強でき、側構体12の強度を効果的に向上させることができる。
【0026】
また、吹寄部17に接合部23が形成されているため、内板24は、接合部23を跨ぐ。これにより、接合部23を支点とするような面外方向の変形を外板21,22に生じ難くできる。接合部23は、溶接時の熱影響などを受けていない部分の外板21,22に対し強度が低下し易いが、内板24により接合部23を変形し難くすることで、その変形に伴う破壊などを接合部23に生じ難くできる。
【0027】
図3及び
図4に示すように、内板24は、接合部23に重なる部分が車両内側へ曲がって突出した突起部25を備え、この突起部25以外の部位が平板状に形成されている。突起部25は、接合部23の全長に亘って形成されている。なお、
図4には、内板24を外板21,22に重ねた時の接合部23の位置が二点鎖線で示されている。また、
図4では、横骨26で覆われた部分の突起部25が破線で示されている。
【0028】
この突起部25によって、接合部23(突起部25)の近傍で内板24自身が面外方向へ変形し難くなる。そのため、溶接により強度が低下した接合部23に対し変形に伴う破壊などをより生じ難くできるので、外板21,22と内板24とが重なった部分の強度をバランス良く確保できる。特に、内板24による吹寄部17の補強効果を向上でき、側構体12の強度をバランス良く向上させることができる。
【0029】
突起部25によって内板24と外板21,22との間に空間が形成されている。これにより、外板21,22に対し車両内側へ接合部23が盛り上がっていても、外板21,22に内板24を重ねるときに、その盛り上がりの除去を不要にできる。この除去作業を無くすことで鉄道車両構体10の製作工数を削減できる。
【0030】
なお、上述した通り、接合部23の車両外側への盛り上がりは削正により除去される。この削正の前に、突起部25を含む内板24を外板21,22に接合しておくことで、接合部23の削正時に発生する入熱による面外方向への外板21,22の変形を生じ難くできる。
【0031】
突起部25は、前後方向(接合部23が形成される縁)に垂直な断面において、車両内側の頂点へ向かうにつれて次第に高くなる形状であり、具体的に半円弧状である。この場合、平板状の内板24に対し頂点となる部分を押し込む1回のプレス加工によって突起部25を形成し易くでき、内板24に対する加工回数を低減し易くできる。
【0032】
更に、突起部25が1回のプレス加工で形成し易い形状である場合は、内板24を複数回曲げて形成する形状(例えばハット形状)である場合と比べて、突起部25の幅W1を小さくし易い。この幅W1とは、内板24の平板状部分に対する突起部25の盛り上がりの起点間の上下方向寸法である。
【0033】
この突起部25の幅W1が小さければ、突起部25により内板24が外板21,22から離れる部位の幅を小さくでき、内板24と外板21,22との密着により高強度化する範囲を広くできる。
【0034】
また、内板24の車両内側の面において、平板状部分から突起部25の頂点までの左右方向寸法を突起部25の高さH1とする。この高さH1が大きい程、突起部25(接合部23)の近傍で内板24を面外方向へ変形し難くできる。
【0035】
図2に示すように、複数の横骨26は、側構体12の強度および剛性を確保するための金属製の骨組である。複数の横骨26は、前後方向に沿って互いに平行に形成され、上下方向に並んでいる。これら複数の横骨26が外板21,22又は内板24の車両内側にそれぞれ接合される。
【0036】
外板21,22に低強度の部分があれば、その近傍に横骨26を配置して補強する必要がある。しかし、上述した通り、外板21,22と内板24とが重なった部分は、低強度の接合部23の近傍が突起部25により補強されて強度がバランス良く確保されている。そのため、接合部23の補強を考慮することなく外板21,22と内板24とが重なった部分(吹寄部17)を更に補強するための横骨26の配置に対する自由度を向上できる。
【0037】
図3及び
図4に示すように、横骨26は、一対のフランジ26bの一側縁同士をウェブ26aで連結した断面コ字状のチャンネル部と、その一対のフランジ26bの他側縁からそれぞれ外側(上下方向)へ延びる一対の連結部26cと、を備える。即ち、横骨26は、前後方向に垂直な断面がハット形状であって、その断面形状が前後方向の全長に亘って同一に形成されている。また、チャンネル部(ウェブ26a、フランジ26b)及び連結部26cは、1枚の板材を曲げ加工することで一体に形成されている。
【0038】
ウェブ26aが内板24から離隔した状態で、一対の連結部26cがそれぞれ内板24の車両内側に接合されている。具体的な接合方法としては、レーザ溶接、スポット溶接または栓溶接で形成した重ね接合部29によって内板24と連結部26cとを接合する方法が挙げられる。なお、重ね接合部28,29を個別に形成せず、外板21,22と内板24と連結部26cとの3枚が重なった部分の複数か所にスポット溶接を施し、この溶接で形成した重ね接合部で3枚を一度に接合しても良い。この場合、外板21,22と内板24との接合、内板24と連結部26cとの接合を別々に行う場合と比べて、側構体12の製作工数を削減できる。
【0039】
なお、内板24が重なっていない部分の外板21,22には、レーザ溶接またはスポット溶接によって連結部26cが直接接合される。また、内板24の有無に関わらず、複数の横骨26のウェブ26aまでの外板21,22からの高さ(左右方向寸法)は、いずれも同一になるようにフランジ26bの幅(左右方向寸法)が設定されている。これにより、複数の横骨26のウェブ26a同士を縦骨27で連結し易くできる。
【0040】
内板24に接合される横骨26において、一対のフランジ26b間の幅W2よりも突起部25の幅W1が小さくなっている。そのため、上述した通り、突起部25により内板24が外板21,22から離れる部位の幅を更に小さくでき、内板24と外板21,22との密着により高強度化する範囲を更に広くできる。
【0041】
内板24に接合される横骨26において、連結部26cの車両外側の面(内板24に接する面)からウェブ26aの車両外側の面(内板24に対向する面)までの左右方向寸法を、横骨26の高さH2とする。この高さH2よりも突起部25の高さH1が小さく、横骨26の幅W2よりも突起部25の幅W1が小さいのに加え、横骨26と突起部25とが互いに平行であるため、横骨26の内側(一対のフランジ26b間)にも突起部25を配置することが可能となる。その結果、横骨26の配置の自由度を更に向上できる。なお本実施形態では、実際に横骨26の内側に突起部25が位置している。
【0042】
また、突起部25の高さH1は、横骨26の高さH2よりも3mm以上小さいことが好ましい。これにより、突起部25や横骨26等の製造誤差を考慮しても横骨26の内側に突起部25を位置させることができる。高さH1は、高さH2の半分よりも大きいことが好ましい。この場合、突起部25(接合部23)の近傍で内板24を面外方向へより変形し難くできる。
【0043】
図2及び
図3に示すように、複数の縦骨27は、横骨26と共に側構体12の強度および剛性を確保するための金属製の骨組である。複数の縦骨27は、複数の横骨26とそれぞれ垂直に交差するように前後方向に並び、複数か所のレーザ溶接、スポット溶接または栓溶接により複数の横骨26のウェブ26aに接合されている。
【0044】
縦骨27は、横骨26と同様に、一対のフランジの一側縁同士をウェブで連結した断面コ字状のチャンネル部27aと、その一対のフランジの他側縁からそれぞれ外側(前後方向)へ延びて横骨26に接合される一対の連結部27bと、を備える。即ち、縦骨27は、上下方向に垂直な断面がハット形状であって、その断面形状が上下方向の全長に亘って同一に形成されている。
【0045】
更に、縦骨27の連結部27bの外縁からは、外板21,22へ向かって垂下部27cが延びる。この垂下部27cによって縦骨27を高剛性化できる。なお、垂下部27cは、複数の横骨26及び突起部25を避けるように切り欠かれ(複数に分断され)ている。
【0046】
但し、上述した通り、横骨26の内側に突起部25が位置しているため、突起部25との干渉を避けるために縦骨27の垂下部27cへ切り欠きを追加することを不要にできる。横骨26の内側に突起部25が位置することで、この縦骨27に限らず、内板24の車両内側に位置する物品に対し、突起部25との干渉を避けるための設計を不要にできる。
【0047】
次に
図5を参照して側構体12の製造方法について説明する。
図5(a)は、側構体12の外板21,22の部分拡大断面図である。
図5(b)は、側構体12の外板21,22及び内板24の部分拡大断面図である。
図5(c)は、側構体12の外板21,22、内板24及び横骨26の部分拡大断面図である。なお、
図5には、上述した通り削正前の接合部23の盛り上がりが破線で示されている。
【0048】
まず
図5(a)に示すように、外板21,22の縁同士を突き合わせ、外板21,22の縁同士をレーザ溶接などで接合して接合部23を形成する。次いで
図5(b)に示すように、外板21,22の車両内側に内板24を重ね、その重ねた部分をレーザ溶接などによる重ね接合部28で接合する。次いで
図5(c)に示すように、横骨26の連結部26cを内板24等に重ね、その重ねた部分をレーザ溶接などによる重ね接合部29で接合する。最後に複数の横骨26と複数の縦骨27とを接合することで、側構体12が形成される。
【0049】
なお、各部位の接合順は上述した手順に限らない。例えば、重ね接合部29で横骨26と内板24とを接合してから、重ね接合部28で内板24と外板21,22とを接合しても良い。
【0050】
また、先に重ね接合部28で内板24と外板21,22とを接合する場合、内板24のうち連結部26cが重ねられる部分を避けて重ね接合部28を配置することが好ましい。これにより、重ね接合部28の車両内側への盛り上がりを除去する作業を不要にできる。但し、重ね接合部28の車両内側への盛り上がりを除去した後、その除去した部分の上に連結部26cを重ねても良い。
【0051】
次に
図6を参照して第2実施形態について説明する。第1実施形態では、横骨26の内側に突起部25が位置する場合について説明した。これに対し第2実施形態では、横骨26の外側に突起部32が位置する場合について説明する。なお、第1実施形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
【0052】
図6は第2実施形態における鉄道車両構体の側構体30の部分拡大断面図である。この
図6には、側構体30のうち吹寄部17の一部を拡大した断面図が示されている。吹寄部17における側構体30は、接合部23で互いに接合された上下2枚の外板21,22と、その外板21,22の車両内側に重ねられる内板31と、それら外板21,22又は内板31の車両内側に接合される複数の横骨(骨部材)26及び縦骨27と、を備える。
【0053】
内板31は、接合部23を跨ぐように外板21,22の車両内側に重ねられて接合される金属製の板材であり、シアプレートと称される。内板31は、接合部23に重なる部分が前後方向の全長に亘り車両内側へ曲がって突出した突起部32を備え、この突起部32以外の部位が平板状に形成されている。内板31は、この突起部32の断面形状や寸法が第1実施形態の内板24と異なるが、それ以外は内板24と同一に構成されている。
【0054】
よって、第1実施形態と同様に、内板31への突起部32の形成によって、低強度の接合部23の近傍で内板31が高剛性化されるため、外板21,22と内板31とが重なった部分の強度をバランス良く確保できる。従って、その部分を更に補強するための横骨26の配置に対する自由度を向上できる。
【0055】
突起部32は、前後方向に垂直な断面において、車両内側の頂点へ向かうにつれて次第に高くなる形状であり、具体的に頂点が丸い山形状である。この場合、第1実施形態における半円弧状の突起部25と同様に、1回のプレス加工によって突起部32を形成し易くでき、内板31に対する加工回数を低減し易くできる。
【0056】
突起部32の高さH1は、横骨26の高さH2よりも大きい。そのため、横骨26の内側に突起部32を配置することはできないが、突起部32(接合部23)の近傍で内板31を面外方向へより変形し難くできる。その結果、外板21,22と内板31とが重なった部分の強度をバランス良く向上でき、接合部23から離れた位置に横骨26を配置し易くできるという点で、横骨26の配置の自由度を向上できる。
【0057】
突起部32は縦骨27と非接合である。更に、突起部32の頂点と縦骨27との間には、無荷重時において隙間が設けられている。これにより、突起部32と縦骨27とを干渉し難くするために求められる突起部32の高さH1の寸法精度を低くでき、突起部32を形成し易くできる。
【0058】
なお、突起部32の高さH1が横骨26の高さH2よりも大きいため、上記無荷重時の隙間は非常に小さく、横骨26のウェブ26aの板厚未満となる。この隙間が小さいことによって、突起部32の上下両側の横骨26間で外板21,22及び内板31が車両内側へ若干撓んだとき、突起部32が縦骨27に接触し易く、その接触により外板21,22及び内板31の撓みを規制できる。よって、この撓みに伴う側構体30の面外方向への変形をより小さくできる。
【0059】
以上、上記実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変形改良が可能であることは容易に推察できるものである。上記実施形態で挙げた数値は一例であり、他の数値を採用することは当然可能である。
【0060】
上記実施形態において、各部材の具体的な接合方法として、レーザ溶接やスポット溶接などを例示したが、スポット溶接以外の抵抗溶接やガス溶接などの他の溶接方法を用いても良い。また、溶接に限らず、摩擦撹拌接合によって各部材を接合しても良い。更に一部の接合方法に、ボルト等による機械接合を用いても良い。
【0061】
上記実施形態では、接合部23が吹寄部17に位置する場合を説明したが、これに限られない。例えば、側構体12,30の幕部18や腰部19に接合部23を位置させ、その接合部23を跨ぐように内板24,31を配置しても良い。また、接合部23が前後方向に延びて形成される場合に限らず、接合部23を上下方向に延ばして形成し、その接合部23を跨ぐように内板24,31を配置しても良い。更に、外板21,22の接合部23を跨ぐ内板24,31を、側構体12,30に限らず妻構体14や屋根構体13に適用しても良い。なお、接合部23の位置によっては、横骨26の位置ではなく縦骨27の位置の自由度を突起部25,32によって向上できる。
【0062】
上記実施形態では、突起部25,32の断面形状が半円弧状または山形状である場合を説明したが、これに限られない。例えば、突起部25,32の断面形状をハット形状などにしても良い。
【符号の説明】
【0063】
10 鉄道車両構体
12,30 側構体
15 窓開口
17 吹寄部
21,22 外板
23 接合部
24,31 内板
25,32 突起部
26 横骨(骨部材)
26a ウェブ(チャンネル部の一部)
26b フランジ(チャンネル部の一部)
26c 連結部
【手続補正書】
【提出日】2023-05-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
突き合わされた縁同士が溶接による接合部で接合された2枚の外板と、
前記接合部を跨ぐように2枚の前記外板の車両内側に重ねて接合される内板と、
その内板の車両内側に接合される骨部材と、を備え、
前記内板は、前記接合部に重なる部分が車両内側へ曲がって突出した突起部を備え、
前記骨部材は、一対のフランジの一側縁同士をウェブで連結した断面コ字状のチャンネル部と、一対の前記フランジの他側縁からそれぞれ外側へ延びて前記内板に重ねて接合される一対の連結部と、を備え、
前記突起部の幅は、一対の前記フランジ間の幅よりも小さく、
前記骨部材および前記突起部は、互いに平行に延び、
前記突起部の高さは、前記連結部から前記ウェブまでの高さよりも小さいことを特徴とする鉄道車両構体。
【請求項2】
前記接合部は、前記外板に対し車両内側へ盛り上がっていることを特徴とする請求項1記載の鉄道車両構体。
【請求項3】
前記突起部は、前記接合部が形成される縁に垂直な断面において、車両内側の頂点へ向かうにつれて次第に高くなる形状であることを特徴とする請求項1記載の鉄道車両構体。
【請求項4】
前記骨部材の内側であって一対の前記フランジ間に前記突起部が位置することを特徴とする請求項1記載の鉄道車両構体。
【請求項5】
2枚の前記外板は、複数の窓開口が車両前後方向に並んだ側構体の外壁面を構成しつつ、その側構体のうち前記窓開口の車両前後方向に位置する吹寄部で上下に縁同士が突き合わされて前記接合部で接合され、
前記内板は、前記吹寄部の全範囲で前記外板に重ねられるシアプレートであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の鉄道車両構体。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両構体に関し、特に外板に対する骨部材の配置の自由度を向上できる鉄道車両構体に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の各構体は、複数の外板を互いに溶接などで接合し、その外板の車両内側に骨部材を接合して形成される。特許文献1における鉄道車両の側構体では、窓開口の前後の吹寄部において、上下2枚の外板の縁同士を突き合わせて接合し、その接合部で低下してしまう強度を補うために接合部の近傍の外板に骨部材を接合している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、側構体の強度の確保のために接合部の近傍に骨部材を接合する必要があり、外板に対する骨部材の配置に制限があった。
【0005】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、外板に対する骨部材の配置の自由度を向上できる鉄道車両構体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために本発明の鉄道車両構体は、突き合わされた縁同士が溶接による接合部で接合された2枚の外板と、前記接合部を跨ぐように2枚の前記外板の車両内側に重ねて接合される内板と、その内板の車両内側に接合される骨部材と、を備え、前記内板は、前記接合部に重なる部分が車両内側へ曲がって突出した突起部を備える。
【発明の効果】
【0007】
請求項1記載の鉄道車両構体によれば、2枚の外板の縁同士が突き合わされて接合部で接合され、その接合部を跨ぐように2枚の外板の車両内側に内板が重ねて接合される。これにより、接合部を支点とするような面外方向の変形を外板に生じ難くできる。更に内板には、接合部に重なる部分が車両内側へ曲がって突出した突起部が有るため、接合部(突起部)の近傍で内板自身も面外方向へ変形し難くなる。これらの結果、溶接により強度が低下した接合部に対し変形に伴う破壊などを生じ難くできるので、外板と内板とが重なった部分の強度をバランス良く確保できる。よって、外板と内板とが重なった部分を更に補強するための骨部材の配置に対する自由度を向上できる。
骨部材は、一対のフランジの一側縁同士をウェブで連結した断面コ字状のチャンネル部と、一対のフランジの他側縁からそれぞれ外側へ延びて内板に重ねて接合される一対の連結部と、を備える。この一対のフランジ間の幅よりも突起部の幅が小さいので、突起部によって内板が外板から離れる部位の幅を小さくできる。その結果、内板と外板との密着により高強度化する範囲を広くできる。
骨部材および突起部は、互いに平行に延びている。更に、一対のフランジ間の幅よりも突起部の幅が小さいのに加え、連結部からウェブまでの高さよりも突起部の高さが小さい。これにより、骨部材の内側(一対のフランジ間)にも突起部を配置することが可能となる。その結果、骨部材の配置の自由度を更に向上できる。
【0008】
請求項2記載の鉄道車両構体によれば、請求項1記載の鉄道車両構体の奏する効果に加え、次の効果を奏する。突起部によって内板と外板の接合部との間に空間が形成されるので、外板に対し車両内側へ接合部が盛り上がっていても、外板に内板を重ねるときに、その盛り上がりの除去を不要にできる。この除去作業を無くすことで鉄道車両構体の製作工数を削減できる。
【0009】
請求項3記載の鉄道車両構体によれば、請求項1記載の鉄道車両構体の奏する効果に加え、次の効果を奏する。突起部は、接合部が形成される縁に垂直な断面において、車両内側の頂点へ向かうにつれて次第に高くなる形状である。この場合、平板状の内板に対し頂点となる部分を押し込む1回のプレス加工によって突起部を形成し易くでき、内板に対する加工回数を低減し易くできる。
【0010】
【0011】
【0012】
請求項4記載の鉄道車両構体によれば、請求項1記載の鉄道車両構体の奏する効果に加え、次の効果を奏する。骨部材の内側であって一対のフランジ間に突起部が位置する。これにより、例えば骨部材と交差する縦骨に対し、突起部との干渉を避けるための切り欠きの追加を不要にできる。この縦骨に限らず内板の車両内側に位置する物品に対し、突起部との干渉を避けるための設計を不要にできる。
【0013】
請求項5記載の鉄道車両構体によれば、請求項1から4のいずれかに記載の鉄道車両構体の奏する効果に加え、次の効果を奏する。2枚の外板は、複数の窓開口が車両前後方向に並んだ側構体の外壁面を構成し、その側構体のうち窓開口の車両前後方向に位置する吹寄部で上下に2枚の外板の縁同士が突き合わされて接合部で接合される。内板は、この吹寄部の全範囲で外板に重ねられるシアプレートである。これにより、吹寄部(窓開口)よりも上下の部位に対し強度が低下し易い吹寄部がシアプレートで補強される。突起部によってシアプレート自身が面外方向へ変形し難いため、シアプレートによる吹寄部の補強効果を向上でき、側構体の強度をバランス良く向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1実施形態における鉄道車両構体の斜視図である。
【
図2】鉄道車両構体の車両内側から見た部分拡大図である。
【
図3】
図2のIII-III線における鉄道車両構体の部分拡大断面図である。
【
図5】(a)は外板の部分拡大断面図であり、(b)は外板および内板の部分拡大断面図であり、(c)は外板、内板および横骨の部分拡大断面図である。
【
図6】第2実施形態における鉄道車両構体の側構体の部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、好ましい実施形態について、添付図面を参照して説明する。まず
図1を参照して、第1実施形態における鉄道車両構体10の概要について説明する。
図1は、鉄道車両構体10の斜視図である。なお、各図面の矢印F-B,矢印U-D及び矢印L-Rは、鉄道車両構体10の前後方向(車両長さ方向、レール方向)、上下方向(車両上下方向)及び左右方向(車幅方向、枕木方向)をそれぞれ表している。
【0016】
鉄道車両構体10は、複数の車輪を有する台車に支持されることで鉄道車両を構成する箱状の車体である。鉄道車両構体10は、床面を構成する台枠11と、その台枠11の左右両縁からそれぞれ立ち上がる一対の側構体12と、一対の側構体12の上端同士を連結する屋根構体13と、それら台枠11、側構体12及び屋根構体13の前後両端にそれぞれ連結される一対の妻構体14と、を備える。これらの各構体によって取り囲まれた部分であって鉄道車両構体10の車両内側に乗務員室や客室などの空間が形成される。
【0017】
側構体12には、この車両内側の空間と外部とを連通する複数の窓開口15や乗降口16が左右方向に貫通形成されて前後方向に並んでいる。側構体12は、窓開口15の車両前後方向に位置する吹寄部17と、窓開口15及び吹寄部17よりも上側を構成する幕部18と、窓開口15及び吹寄部17よりも下側を構成する腰部19と、を備える。
【0018】
次に
図2から
図4を参照して側構体12について詳しく説明する。
図2は、側構体12(鉄道車両構体10)の車両内側から見た部分拡大図である。
図3は、
図2のIII-III線における側構体12の部分拡大断面図である。
図4は、横骨26が接合された内板24の平面図である。
【0019】
図2及び
図3に示すように、側構体12は、上下2枚の外板21,22と、その外板21,22に吹寄部17の位置で車両内側に重ねられる内板24と、それら外板21,22又は内板24の車両内側に接合される複数の横骨(骨部材)26及び縦骨27と、を備える。
【0020】
外板21,22は、金属製の板材であって、側構体12の外壁面を構成する。外板21は、吹寄部17の上側と幕部18との外壁面を形成する。外板22は、吹寄部17の下側と腰部19との外壁面を形成する。
【0021】
吹寄部17において、外板21の下縁と外板22の上縁とが前後方向に亘って互いに突き合わされ、外板21,22が同一面上に並べて配置される。この突き合わされた外板21,22の縁同士がレーザ溶接により接合されている。この溶接により形成された継手部分を接合部23と称す。なお、
図2では、接合部23のうち内板24が車両内側に重なった部分が破線で示されている。また、レーザ溶接に限らず、アーク溶接などにより接合部23を形成しても良い。
【0022】
接合部23は、突き合わされた外板21,22の縁の全長に沿って連続し、前後方向と平行に延びている。接合部23は、外板21,22に対し車両内側へ盛り上がっている。また、接合部23は、溶接直後に
図3に破線で示す通り外板21,22に対し車両外側へも盛り上がるが、見栄え等を考慮して、
図3に実線で示すように平滑に削正されている。
【0023】
内板24は、外板21,22の車両内側に重ねられて接合される金属製の板材である。内板24は、その重ねた部分の外板21,22を補強し、シアプレートと称される。内板24と外板21,22とは、レーザ溶接またはスポット溶接により形成された重ね接合部28で接合されている。
【0024】
内板24は、吹寄部17の全範囲で外板21,22に重ねられる。窓開口15が存在しない幕部18及び腰部19に対して、吹寄部17の強度は低下し易いが、この吹寄部17が内板24で補強されることにより、側構体12の強度をバランス良く向上させることができる。
【0025】
更に、内板24は、吹寄部17の範囲から(窓開口15の上下両縁よりも)幕部18側および腰部19側へそれぞれ延長した張出部24a,24bを備える。これにより、吹寄部17と幕部18及び腰部19との境界近傍を、張出部24a,24bを有する内板24で補強でき、側構体12の強度を効果的に向上させることができる。
【0026】
また、吹寄部17に接合部23が形成されているため、内板24は、接合部23を跨ぐ。これにより、接合部23を支点とするような面外方向の変形を外板21,22に生じ難くできる。接合部23は、溶接時の熱影響などを受けていない部分の外板21,22に対し強度が低下し易いが、内板24により接合部23を変形し難くすることで、その変形に伴う破壊などを接合部23に生じ難くできる。
【0027】
図3及び
図4に示すように、内板24は、接合部23に重なる部分が車両内側へ曲がって突出した突起部25を備え、この突起部25以外の部位が平板状に形成されている。突起部25は、接合部23の全長に亘って形成されている。なお、
図4には、内板24を外板21,22に重ねた時の接合部23の位置が二点鎖線で示されている。また、
図4では、横骨26で覆われた部分の突起部25が破線で示されている。
【0028】
この突起部25によって、接合部23(突起部25)の近傍で内板24自身が面外方向へ変形し難くなる。そのため、溶接により強度が低下した接合部23に対し変形に伴う破壊などをより生じ難くできるので、外板21,22と内板24とが重なった部分の強度をバランス良く確保できる。特に、内板24による吹寄部17の補強効果を向上でき、側構体12の強度をバランス良く向上させることができる。
【0029】
突起部25によって内板24と外板21,22との間に空間が形成されている。これにより、外板21,22に対し車両内側へ接合部23が盛り上がっていても、外板21,22に内板24を重ねるときに、その盛り上がりの除去を不要にできる。この除去作業を無くすことで鉄道車両構体10の製作工数を削減できる。
【0030】
なお、上述した通り、接合部23の車両外側への盛り上がりは削正により除去される。この削正の前に、突起部25を含む内板24を外板21,22に接合しておくことで、接合部23の削正時に発生する入熱による面外方向への外板21,22の変形を生じ難くできる。
【0031】
突起部25は、前後方向(接合部23が形成される縁)に垂直な断面において、車両内側の頂点へ向かうにつれて次第に高くなる形状であり、具体的に半円弧状である。この場合、平板状の内板24に対し頂点となる部分を押し込む1回のプレス加工によって突起部25を形成し易くでき、内板24に対する加工回数を低減し易くできる。
【0032】
更に、突起部25が1回のプレス加工で形成し易い形状である場合は、内板24を複数回曲げて形成する形状(例えばハット形状)である場合と比べて、突起部25の幅W1を小さくし易い。この幅W1とは、内板24の平板状部分に対する突起部25の盛り上がりの起点間の上下方向寸法である。
【0033】
この突起部25の幅W1が小さければ、突起部25により内板24が外板21,22から離れる部位の幅を小さくでき、内板24と外板21,22との密着により高強度化する範囲を広くできる。
【0034】
また、内板24の車両内側の面において、平板状部分から突起部25の頂点までの左右方向寸法を突起部25の高さH1とする。この高さH1が大きい程、突起部25(接合部23)の近傍で内板24を面外方向へ変形し難くできる。
【0035】
図2に示すように、複数の横骨26は、側構体12の強度および剛性を確保するための金属製の骨組である。複数の横骨26は、前後方向に沿って互いに平行に形成され、上下方向に並んでいる。これら複数の横骨26が外板21,22又は内板24の車両内側にそれぞれ接合される。
【0036】
外板21,22に低強度の部分があれば、その近傍に横骨26を配置して補強する必要がある。しかし、上述した通り、外板21,22と内板24とが重なった部分は、低強度の接合部23の近傍が突起部25により補強されて強度がバランス良く確保されている。そのため、接合部23の補強を考慮することなく外板21,22と内板24とが重なった部分(吹寄部17)を更に補強するための横骨26の配置に対する自由度を向上できる。
【0037】
図3及び
図4に示すように、横骨26は、一対のフランジ26bの一側縁同士をウェブ26aで連結した断面コ字状のチャンネル部と、その一対のフランジ26bの他側縁からそれぞれ外側(上下方向)へ延びる一対の連結部26cと、を備える。即ち、横骨26は、前後方向に垂直な断面がハット形状であって、その断面形状が前後方向の全長に亘って同一に形成されている。また、チャンネル部(ウェブ26a、フランジ26b)及び連結部26cは、1枚の板材を曲げ加工することで一体に形成されている。
【0038】
ウェブ26aが内板24から離隔した状態で、一対の連結部26cがそれぞれ内板24の車両内側に接合されている。具体的な接合方法としては、レーザ溶接、スポット溶接または栓溶接で形成した重ね接合部29によって内板24と連結部26cとを接合する方法が挙げられる。なお、重ね接合部28,29を個別に形成せず、外板21,22と内板24と連結部26cとの3枚が重なった部分の複数か所にスポット溶接を施し、この溶接で形成した重ね接合部で3枚を一度に接合しても良い。この場合、外板21,22と内板24との接合、内板24と連結部26cとの接合を別々に行う場合と比べて、側構体12の製作工数を削減できる。
【0039】
なお、内板24が重なっていない部分の外板21,22には、レーザ溶接またはスポット溶接によって連結部26cが直接接合される。また、内板24の有無に関わらず、複数の横骨26のウェブ26aまでの外板21,22からの高さ(左右方向寸法)は、いずれも同一になるようにフランジ26bの幅(左右方向寸法)が設定されている。これにより、複数の横骨26のウェブ26a同士を縦骨27で連結し易くできる。
【0040】
内板24に接合される横骨26において、一対のフランジ26b間の幅W2よりも突起部25の幅W1が小さくなっている。そのため、上述した通り、突起部25により内板24が外板21,22から離れる部位の幅を更に小さくでき、内板24と外板21,22との密着により高強度化する範囲を更に広くできる。
【0041】
内板24に接合される横骨26において、連結部26cの車両外側の面(内板24に接する面)からウェブ26aの車両外側の面(内板24に対向する面)までの左右方向寸法を、横骨26の高さH2とする。この高さH2よりも突起部25の高さH1が小さく、横骨26の幅W2よりも突起部25の幅W1が小さいのに加え、横骨26と突起部25とが互いに平行であるため、横骨26の内側(一対のフランジ26b間)にも突起部25を配置することが可能となる。その結果、横骨26の配置の自由度を更に向上できる。なお本実施形態では、実際に横骨26の内側に突起部25が位置している。
【0042】
また、突起部25の高さH1は、横骨26の高さH2よりも3mm以上小さいことが好ましい。これにより、突起部25や横骨26等の製造誤差を考慮しても横骨26の内側に突起部25を位置させることができる。高さH1は、高さH2の半分よりも大きいことが好ましい。この場合、突起部25(接合部23)の近傍で内板24を面外方向へより変形し難くできる。
【0043】
図2及び
図3に示すように、複数の縦骨27は、横骨26と共に側構体12の強度および剛性を確保するための金属製の骨組である。複数の縦骨27は、複数の横骨26とそれぞれ垂直に交差するように前後方向に並び、複数か所のレーザ溶接、スポット溶接または栓溶接により複数の横骨26のウェブ26aに接合されている。
【0044】
縦骨27は、横骨26と同様に、一対のフランジの一側縁同士をウェブで連結した断面コ字状のチャンネル部27aと、その一対のフランジの他側縁からそれぞれ外側(前後方向)へ延びて横骨26に接合される一対の連結部27bと、を備える。即ち、縦骨27は、上下方向に垂直な断面がハット形状であって、その断面形状が上下方向の全長に亘って同一に形成されている。
【0045】
更に、縦骨27の連結部27bの外縁からは、外板21,22へ向かって垂下部27cが延びる。この垂下部27cによって縦骨27を高剛性化できる。なお、垂下部27cは、複数の横骨26及び突起部25を避けるように切り欠かれ(複数に分断され)ている。
【0046】
但し、上述した通り、横骨26の内側に突起部25が位置しているため、突起部25との干渉を避けるために縦骨27の垂下部27cへ切り欠きを追加することを不要にできる。横骨26の内側に突起部25が位置することで、この縦骨27に限らず、内板24の車両内側に位置する物品に対し、突起部25との干渉を避けるための設計を不要にできる。
【0047】
次に
図5を参照して側構体12の製造方法について説明する。
図5(a)は、側構体12の外板21,22の部分拡大断面図である。
図5(b)は、側構体12の外板21,22及び内板24の部分拡大断面図である。
図5(c)は、側構体12の外板21,22、内板24及び横骨26の部分拡大断面図である。なお、
図5には、上述した通り削正前の接合部23の盛り上がりが破線で示されている。
【0048】
まず
図5(a)に示すように、外板21,22の縁同士を突き合わせ、外板21,22の縁同士をレーザ溶接などで接合して接合部23を形成する。次いで
図5(b)に示すように、外板21,22の車両内側に内板24を重ね、その重ねた部分をレーザ溶接などによる重ね接合部28で接合する。次いで
図5(c)に示すように、横骨26の連結部26cを内板24等に重ね、その重ねた部分をレーザ溶接などによる重ね接合部29で接合する。最後に複数の横骨26と複数の縦骨27とを接合することで、側構体12が形成される。
【0049】
なお、各部位の接合順は上述した手順に限らない。例えば、重ね接合部29で横骨26と内板24とを接合してから、重ね接合部28で内板24と外板21,22とを接合しても良い。
【0050】
また、先に重ね接合部28で内板24と外板21,22とを接合する場合、内板24のうち連結部26cが重ねられる部分を避けて重ね接合部28を配置することが好ましい。これにより、重ね接合部28の車両内側への盛り上がりを除去する作業を不要にできる。但し、重ね接合部28の車両内側への盛り上がりを除去した後、その除去した部分の上に連結部26cを重ねても良い。
【0051】
次に
図6を参照して第2実施形態について説明する。第1実施形態では、横骨26の内側に突起部25が位置する場合について説明した。これに対し第2実施形態では、横骨26の外側に突起部32が位置する場合について説明する。なお、第1実施形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
【0052】
図6は第2実施形態における鉄道車両構体の側構体30の部分拡大断面図である。この
図6には、側構体30のうち吹寄部17の一部を拡大した断面図が示されている。吹寄部17における側構体30は、接合部23で互いに接合された上下2枚の外板21,22と、その外板21,22の車両内側に重ねられる内板31と、それら外板21,22又は内板31の車両内側に接合される複数の横骨(骨部材)26及び縦骨27と、を備える。
【0053】
内板31は、接合部23を跨ぐように外板21,22の車両内側に重ねられて接合される金属製の板材であり、シアプレートと称される。内板31は、接合部23に重なる部分が前後方向の全長に亘り車両内側へ曲がって突出した突起部32を備え、この突起部32以外の部位が平板状に形成されている。内板31は、この突起部32の断面形状や寸法が第1実施形態の内板24と異なるが、それ以外は内板24と同一に構成されている。
【0054】
よって、第1実施形態と同様に、内板31への突起部32の形成によって、低強度の接合部23の近傍で内板31が高剛性化されるため、外板21,22と内板31とが重なった部分の強度をバランス良く確保できる。従って、その部分を更に補強するための横骨26の配置に対する自由度を向上できる。
【0055】
突起部32は、前後方向に垂直な断面において、車両内側の頂点へ向かうにつれて次第に高くなる形状であり、具体的に頂点が丸い山形状である。この場合、第1実施形態における半円弧状の突起部25と同様に、1回のプレス加工によって突起部32を形成し易くでき、内板31に対する加工回数を低減し易くできる。
【0056】
突起部32の高さH1は、横骨26の高さH2よりも大きい。そのため、横骨26の内側に突起部32を配置することはできないが、突起部32(接合部23)の近傍で内板31を面外方向へより変形し難くできる。その結果、外板21,22と内板31とが重なった部分の強度をバランス良く向上でき、接合部23から離れた位置に横骨26を配置し易くできるという点で、横骨26の配置の自由度を向上できる。
【0057】
突起部32は縦骨27と非接合である。更に、突起部32の頂点と縦骨27との間には、無荷重時において隙間が設けられている。これにより、突起部32と縦骨27とを干渉し難くするために求められる突起部32の高さH1の寸法精度を低くでき、突起部32を形成し易くできる。
【0058】
なお、突起部32の高さH1が横骨26の高さH2よりも大きいため、上記無荷重時の隙間は非常に小さく、横骨26のウェブ26aの板厚未満となる。この隙間が小さいことによって、突起部32の上下両側の横骨26間で外板21,22及び内板31が車両内側へ若干撓んだとき、突起部32が縦骨27に接触し易く、その接触により外板21,22及び内板31の撓みを規制できる。よって、この撓みに伴う側構体30の面外方向への変形をより小さくできる。
【0059】
以上、上記実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変形改良が可能であることは容易に推察できるものである。上記実施形態で挙げた数値は一例であり、他の数値を採用することは当然可能である。
【0060】
上記実施形態において、各部材の具体的な接合方法として、レーザ溶接やスポット溶接などを例示したが、スポット溶接以外の抵抗溶接やガス溶接などの他の溶接方法を用いても良い。また、溶接に限らず、摩擦撹拌接合によって各部材を接合しても良い。更に一部の接合方法に、ボルト等による機械接合を用いても良い。
【0061】
上記実施形態では、接合部23が吹寄部17に位置する場合を説明したが、これに限られない。例えば、側構体12,30の幕部18や腰部19に接合部23を位置させ、その接合部23を跨ぐように内板24,31を配置しても良い。また、接合部23が前後方向に延びて形成される場合に限らず、接合部23を上下方向に延ばして形成し、その接合部23を跨ぐように内板24,31を配置しても良い。更に、外板21,22の接合部23を跨ぐ内板24,31を、側構体12,30に限らず妻構体14や屋根構体13に適用しても良い。なお、接合部23の位置によっては、横骨26の位置ではなく縦骨27の位置の自由度を突起部25,32によって向上できる。
【0062】
上記実施形態では、突起部25,32の断面形状が半円弧状または山形状である場合を説明したが、これに限られない。例えば、突起部25,32の断面形状をハット形状などにしても良い。
【符号の説明】
【0063】
10 鉄道車両構体
12,30 側構体
15 窓開口
17 吹寄部
21,22 外板
23 接合部
24,31 内板
25,32 突起部
26 横骨(骨部材)
26a ウェブ(チャンネル部の一部)
26b フランジ(チャンネル部の一部)
26c 連結部