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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027994
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】音響システム
(51)【国際特許分類】
   H04R 3/00 20060101AFI20240222BHJP
【FI】
H04R3/00 310
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022131277
(22)【出願日】2022-08-19
(71)【出願人】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099748
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 克志
(74)【代理人】
【識別番号】100103171
【弁理士】
【氏名又は名称】雨貝 正彦
(74)【代理人】
【識別番号】100105784
【弁理士】
【氏名又は名称】橘 和之
(74)【代理人】
【識別番号】100098497
【弁理士】
【氏名又は名称】片寄 恭三
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 雄二
(72)【発明者】
【氏名】田口 仁幸
(72)【発明者】
【氏名】江上 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】戸板 大樹
【テーマコード(参考)】
5D220
【Fターム(参考)】
5D220AA01
5D220AB04
(57)【要約】
【課題】過熱したスピーカを速やかに冷却する「音響システム」を提供する。
を提供する。
【解決手段】制御部9は、スピーカ2の過熱が検出されたならば、第1セレクタ3と第2セレクタ6を制御し、オーディオソース機器1の出力する音響信号を冷却処理部4に入力し、冷却処理部部の出力をスピーカ2に出力させる。冷却処理部4において、冷却処理部4に入力した音響信号からハイパスフィルタ41で低域側成分を除去した音響信号と、ゲイン調整部44でゲイン調整した冷却用信号生成部42が生成した超低周波数の冷却用信号とがミキサ46で混合され、非線形逆フィルタ47を介して冷却処理部4の出力となる。冷却処理部4のゲイン設定部45は、ローパスフィルタ43で抽出した冷却処理部4に入力した音響信号の低域側成分のパワーと、ゲイン調整部44から出力される冷却用信号のパワーが一致するように、ゲイン調整部44のゲインを設定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の音響信号を出力するオーディオソース機器とスピーカとを備えた音響システムであって、
前記スピーカの過熱状態の発生を検出する過熱検出手段と、
第2の音響信号を出力する冷却処理部と、
前記第1の音響信号と前記第2の音響信号との間で、前記スピーカに出力する音響信号を切り替える切替手段と、
前記切替手段が前記第1の音響信号を前記スピーカに出力しているときに、前記過熱検出手段が前記スピーカの過熱状態の発生を検出した場合に、前記切替手段に、前記スピーカに出力する音響信号を前記第2の音響信号に切り替えさせる制御手段とを有し、
前記冷却処理部は、少なくとも前記切替手段が前記第2の音響信号を前記スピーカに出力しているときに、前記オーディオソース機器が出力した前記第1の音響信号から低域側成分を除去した信号に、可聴域未満の周波数である超低周波数の信号である冷却用信号を混合した信号を前記第2の音響信号として出力することを特徴とする音響システム。
【請求項2】
請求項1記載の音響システムであって、
前記スピーカの振動系の振動を検出する当該スピーカに設けられたセンサと、
前記第1の音響信号を補正する信号補正手段を有し、
前記切替手段は、信号補正手段によって補正された前記第1の音響信号前記第2の音響信号との間で、前記スピーカに出力する音響信号を切り替え、
前記信号補正手段は、前記センサが検出した振動に基づいて、前記スピーカの出力歪みがキャンセルされるように、前記オーディオソース機器が出力した前記第1の音響信号を補正することを特徴とする音響システム。
【請求項3】
請求項1記載の音響システムであって、
前記スピーカの温度を検出する温度検出手段を有し、
前記過熱検出手段は、前記温度検出手段が第1のしきい値を超える温度を検出したときに前記スピーカの過熱状態の発生を検出し、
前記制御手段は、前記切替手段が前記第2の音響信号を前記スピーカに出力しているときに、前記温度検出手段が、前記第1のしきい値以下のしきい値である第2のしきい値以下の温度を検出したときに、前記切替手段に、前記スピーカに出力する音響信号を前記第1の音響信号に切り替えさせることを特徴とする音響システム。
【請求項4】
請求項2記載の音響システムであって、
前記スピーカの温度を検出する温度検出手段を有し、
前記過熱検出手段は、前記温度検出手段が第1のしきい値を超える温度を検出したときに前記スピーカの過熱状態を検出し、
前記制御手段は、前記切替手段が前記第2の音響信号を前記スピーカに出力しているときに、前記温度検出手段が、前記第1のしきい値以下のしきい値である第2のしきい値以下の温度を検出したときに、前記切替手段に、前記スピーカに出力する音響信号を前記第1の音響信号に切り替えさせることを特徴とする音響システム。
【請求項5】
請求項1、2、3または4記載の音響システムであって、
前記冷却処理部は、前記オーディオソース機器が出力した前記第1の音響信号の低域側成分のパワーとパワーが一致するように、前記冷却用信号のゲインを調整するゲイン調整手段を有することを特徴とする音響システム。
【請求項6】
請求項1、2、3または4記載の音響システムであって、
前記冷却処理部は、当該冷却処理部が出力する前記第2の音響信号を、前記スピーカの非線形歪みがキャンセルされるように補正する非線形逆フィルタを有することを特徴とする音響システム。
【請求項7】
請求項1、2、3または4記載の音響システムであって、
前記冷却処理部は、前記オーディオソース機器が出力した前記第1の音響信号の低域側成分のパワーとパワーが一致するように、前記冷却用信号のゲインを調整するゲイン調整手段と、
当該冷却処理部が出力する前記第2の音響信号を、前記スピーカの非線形歪みがキャンセルされるように補正する非線形逆フィルタとを有することを特徴とする音響システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピーカを備えた音響システムにおいてスピーカの過熱を抑制する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
音響システムにおいてスピーカの過熱を抑制する技術としては、温度センサでスピーカの温度を検出し、検出された温度上昇が過大であったときに、スピーカに対して出力する音響信号のレベルを低下させる技術が知られている(たとえば、特許文献1)。
また、スピーカの等価回路に基づいて、入力に対するスピーカの出力の歪みが解消されるように、スピーカを駆動する音響信号を補正する技術も知られている(特許文献2)。
また、スピーカの振動板の振動を検出するセンサを備え、センサで検出した振動に応じてスピーカの駆動を制御するモーショナルフィードバックの技術も知られている(たとえば、特許文献3、4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-225743号公報
【特許文献2】特許6522668号公報
【特許文献3】特開2008-228214号公報
【特許文献4】特開2010-124026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スピーカの過熱を抑制することはスピーカの損傷防止や出力音質の維持のために重要である。また、上述のようにスピーカの振動板の振動を検出するセンサを設けた場合には、当該センサやその当該センサに付随するデバイスの損傷の防止や正常動作の保証の観点から、スピーカの過熱を抑制することが特に重要となる。
【0005】
一方で、上述した、温度上昇が過大であったときにスピーカに対して出力する音響信号のレベルを低下することによりスピーカの過熱を抑制する技術では、スピーカの発熱は抑制できるものの、スピーカの速やかな冷却は期待できない。また、スピーカに対して出力する音響信号のレベルを低下すると、ユーザに聞こえるオーディオコンテンツの音量も小さくなってしまい、ユーザに不便や違和感を与えてしまう。
【0006】
そこで、本発明は、ユーザのオーディオコンテンツの聴取に大きな影響を与えることなく、過熱したスピーカを速やかに冷却することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題達成のために、本発明は、第1の音響信号を出力するオーディオソース機器とスピーカとを備えた音響システムに、前記スピーカの過熱状態の発生を検出する過熱検出手段と、第2の音響信号を出力する冷却処理部と、前記第1の音響信号と前記第2の音響信号との間で、前記スピーカに出力する音響信号を切り替える切替手段と、前記切替手段が前記第1の音響信号を前記スピーカに出力しているときに、前記過熱検出手段が前記スピーカの過熱状態の発生を検出した場合に、前記切替手段に、前記スピーカに出力する音響信号を前記第2の音響信号に切り替えさせる制御手段とを備えたものである。ここで、前記冷却処理部は、少なくとも前記切替手段が前記第2の音響信号を前記スピーカに出力しているときに、前記オーディオソース機器が出力した前記第1の音響信号から低域側成分を除去した信号に、可聴域未満の周波数である超低周波数の信号である冷却用信号を混合した信号を前記第2の音響信号として出力する。
【0008】
ここで、この音響システムは、当該音響システムに、前記スピーカの振動系の振動を検出する当該スピーカに設けられたセンサと、前記第1の音響信号を補正する信号補正手段とを設け、前記切替手段において、信号補正手段によって補正された前記第1の音響信号前記第2の音響信号との間で、前記スピーカに出力する音響信号を切り替え、前記信号補正手段において、前記センサが検出した振動に基づいて、前記スピーカの出力歪みがキャンセルされるように、前記オーディオソース機器が出力した前記第1の音響信号を補正するように構成してもよい。
【0009】
また、以上の音響システムに、前記スピーカの温度を検出する温度検出手段を設け、前記過熱検出手段において、前記温度検出手段が第1のしきい値を超える温度を検出したときに前記スピーカの過熱状態の発生を検出し、前記制御手段において、前記切替手段が前記第2の音響信号を前記スピーカに出力しているときに、前記温度検出手段が、前記第1のしきい値以下のしきい値である第2のしきい値以下の温度を検出したときに、前記切替手段に、前記スピーカに出力する音響信号を前記第1の音響信号に切り替えさせるようにしてもよい。
【0010】
ここで、一般的に、入力電圧が同じであれば、可聴域の下限未満の周波数である超低周波数の帯域において、スピーカの共振周波数より高い周波数の帯域よりも振動版の変位が大きくなる。
したがって、スピーカの過熱状態の発生したときに、超低周波数の信号である冷却用信号を混合させた第2の音響信号をスピーカに出力する本音響システムによれば、第1の音響信号をスピーカに出力する場合よりも、スピーカの振動板をより大きな振幅で振動させることができる。そして、これにより、スピーカ内部により大きな空気の流れを発生させて、当該空気の流れによる、より強力で速やかなスピーカの冷却を行うことができる。
【0011】
また、冷却用信号を混合させた第2の音響信号をスピーカに出力している間も、オーディオソース機器が出力する音響信号の、より聴覚上の顕現性の高い高域側成分のスピーカからの出力は維持されると共に、スピーカの出力に混合する冷却用信号は可聴域の下限未満の周波数でありユーザに聞こえることはないので、オーディオソース機器が出力する第1の音響信号が表すオーディオコンテンツのユーザの聴取に大きな影響を与えてしまうことも抑制できる。
【0012】
次に、以上の音響システムは、前記冷却処理部に、前記オーディオソース機器が出力した前記第1の音響信号の低域側成分のパワーとパワーが一致するように、前記冷却用信号のゲインを調整するゲイン調整手段を備えてもよい。
このようにすることにより、冷却用信号の混合により、スピーカに入力する第2の音響信号全体のパワーが、前記オーディオソース機器が出力した第1の音響信号をそのままスピーカに出力する場合より大きくなってしまい、却ってスピーカを加熱してしまうことが抑止できる。
【0013】
また、以上の音響システムは、前記冷却処理部に、当該冷却処理部が出力する前記第2の音響信号を、前記スピーカの非線形歪みがキャンセルされるように補正する非線形逆フィルタを備えてもよい。
このようにすることにより、通常、スピーカの振動板を大きく振動させると顕著となるスピーカの非線形歪みによる可聴域への影響を低減できる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明によれば、ユーザのオーディオコンテンツの聴取に大きな影響を与えることなく、過熱したスピーカを速やかに冷却することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係る音響システムの構成を示す図である。
図2】本発明の実施形態に係る振動検出の構成を示す図である。
図3】スピーカの変位-周波数特性の例を示す図である。
図4】本発明の実施形態に係る冷却制御処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1に、実施形態に係る音響システムの構成を示す。
図示するように、音響システムは、音楽などのオーディオコンテンツのデジタルの音響信号を出力するオーディオソース機器1、スピーカ2、第1セレクタ3、冷却処理部4、信号補正部5、第2セレクタ6、スピーカ2の駆動用のアンプ7、スピーカ2の振動系の振動/変位を計測する振動計測部8、制御部9を備えている。
【0017】
このような構成において、第1セレクタ3は、制御部9の制御に従って、オーディオソース機器1から入力する音響信号を冷却処理部4と信号補正部5の一方に出力する。
冷却処理部4は第1セレクタ3から入力する音響信号から低域側成分を除去した音響信号に冷却用信号を混合した音響信号を第2セレクタ6に出力し、信号補正部5は第1セレクタ3から入力する音響信号をスピーカの出力歪みがキャンセルされるように補正して第2セレクタ6に出力する。
第2セレクタ6は、制御部9の制御に従って、冷却処理部4から入力する音響信号と信号補正部5から入力する音響信号の一方をアンプ7に出力し、アンプ7は第2セレクタ6から入力する音響信号のアナログ信号(電圧信号)への変換、増幅を行ってスピーカ2を駆動する。
【0018】
図2aに、スピーカ2の構成を示す。
図示するように、スピーカ2は、ヨーク201、磁石202、トッププレート203、ボイスコイルボビン204、ボイスコイル205、フレーム206、ダンパ207、振動板208、エッジ209、ダストキャップ210を有する。
今、図における上方をフロントスピーカの前方、下方をフロントスピーカの後方として、ヨーク201は、中央部に前方に突出した凸部2011を有し、当該凸部2011の外周部に環状の磁石202が設けられており、磁石202の上には環状のトッププレート203が設けられている。そして、このトッププレート203は、鉄等の導電性を有する部材によって構成され、これらヨーク201、磁石202、トッププレート203によって磁気回路220が形成される。
【0019】
ボイスコイルボビン204は中空の円筒形状を有し、アンプ7からの信号が印加されるボイスコイル205が外周に巻かれている。また、ヨーク201の凸部2011は、ボイスコイルボビン204がヨーク201に対して前後に移動可能なようにボイスコイルボビン204の中空に後方より挿入されており、ボイスコイル205はヨーク201の凸部2011とトッププレート203との間の、磁気回路220によってトッププレート203の内周端間に発生する磁束が通過する位置に配置されている。
【0020】
振動板208は、おおよそフロントスピーカの前後方向を高さ方向とする円錐台の側面と同様な形状を有し、その外周端部がエッジ209でフレーム206の前端部に連結されている。また、振動板208の内周端部は、ボイスコイルボビン204の前端部に固定されている。
【0021】
このようなスピーカ2の構成において、アンプ7から信号がボイスコイル205に印加されると、磁気回路220から発生する磁気ベクトルと、ボイスコイル205を流れる音響信号との電磁作用によって、アンプ7から入力された音響信号の振幅に応じて、ボイスコイルボビン204が前後に振動する。そして、ボイスコイルボビン204が振動すると、ボイスコイルボビン204に連結されている振動板208が振動し、入力された音響信号に応じた音が発生する。
【0022】
次に、図中に示すようにスピーカ2の軸方向をX方向、径方向をY方向として、このようなスピーカ2に、変位検出用磁石211と磁気角度センサ212が、振動板208のX方向の変位を検出するセンサとして組み付けられている。
変位検出用磁石211は、ボイスコイルボビン204と共に上下動するようにボイスコイルボビン204に固定されており、磁気角度センサ212は、磁気回路220に対して位置が変化しないように、トッププレート203の上等に固定される。
そして、磁気角度センサ212は、図2bに示す、磁気回路220の発生する磁気ベクトルと変位検出用磁石211の発生する磁気ベクトルの合成ベクトルVのX方向の成分の大きさとY方向の成分の大きさ検出し、X方向の成分の大きさ示すX検出値Vsと、Y方向の成分の大きさ示すY検出値Vcとを振動計測部8に出力する。
【0023】
ここで、合成ベクトルVの大きさや向き(X方向の成分の大きさとY方向の成分の大きさの組み合わせ)は、ボイスコイルボビン204の変位に伴う変位検出用磁石211のX方向の変位に応じて変化するので、X検出値VsとY検出値Vcから、スピーカ2の振動系のX方向の変位量を算定することができる。
【0024】
また、スピーカ2の磁気回路220には温度センサ231が取付けられており、温度センサ231は検出した温度を制御部9に出力する。
図1に戻り、振動計測部8は、スピーカ2の磁気角度センサ212の出力から、ボイスコイルボビン204や振動板208等のスピーカ2の振動系の振動/変位を計測し、制御部9と信号補正部5に出力する。
また、制御部9には、スピーカ2もしくはアンプ7から入力電圧や入力電流の情報が入力する。
次に、冷却処理部4は、ハイパスフィルタ41(HPF41)、冷却用信号生成部42、ローパスフィルタ43(LPF43)、ゲイン調整部44、ゲイン設定部45、ミキサ46、非線形逆フィルタ47を備えている。
冷却処理部4の入力は第1セレクタ3が出力する音響信号であり、冷却処理部4に入力した音響信号は、ハイパスフィルタ41とローパスフィルタ43に入力する。
ハイパスフィルタ41は、入力した音響信号から低域側成分(たとえば、50Hz以下の成分)を除去した音響信号をミキサ46に出力する。
ローパスフィルタ43は、入力した音響信号から低域側成分を抽出し、ゲイン設定部45に出力する。この低域側成分は、ハイパスフィルタ41が除去する低域側成分と同じである。
冷却用信号生成部42は、可聴域の下限(20Hz)未満の周波数である超低周波数の信号(たとえば、10Hzの正弦波)である冷却用信号をゲイン調整部44に出力する。
ゲイン調整部44は、冷却用信号生成部42から出力された冷却用信号のゲインを、ゲイン設定部45から設定されたゲインで調整し、ミキサ46に出力する。
ゲイン設定部45は、ローパスフィルタ43から入力する低域側成分の実効値、パワーを算出し、ゲイン調整部44から出力される冷却用信号のパワーが、ローパスフィルタ43から入力する低域側成分のパワーと一致するように、ゲイン調整部44のゲインを設定する。
【0025】
ミキサ46は、ハイパスフィルタ41から入力する低域側成分を除去した音響信号と、ゲイン調整部44から入力する冷却用信号を混合した音響信号を非線形逆フィルタ47に出力する。
非線形逆フィルタ47は、スピーカ2の非線形歪みをキャンセルするように、音響信号を修正する伝達関数を、ミキサ46から入力する音響信号に施して第2セレクタ6に出力する。
ここで、第1セレクタ3がオーディオソース機器1から入力する音響信号を冷却処理部4に出力し、第2セレクタ6が冷却処理部4から入力する音響信号を出力している状態にあるとき、オーディオソース機器1の出力する音響信号が冷却処理部4で処理され、冷却処部の出力がスピーカ2に出力される。
【0026】
そして、この状態でスピーカ2に出力される音響信号には、オーディオソース機器1が出力した音響信号の高域側成分と、超低周波数の音響信号である冷却用信号とが含まれる。
図3に示すスピーカ2の振動版の変位と周波数の関係の一例のように、一般的に、入力電圧が同じであれば、可聴域の下限未満の周波数である超低周波数の帯域において、スピーカ2の共振周波数より高い周波数の帯域よりも振動版の変位が大きくなる。
したがって、オーディオソース機器1が出力した音響信号の低域側成分に代えて、超低周波数の信号である冷却用信号を混合してスピーカ2に出力することにより、スピーカ2の振動板208を、オーディオソース機器1から入力する音響信号をそのままスピーカ2に出力する場合よりも大きな振幅で振動させることができる。そして、このようにスピーカ2の振動板208をより大きな振幅で振動させることにより、スピーカ2内部により大きな空気の流れを発生させ、当該空気の流れによる、より強力で速やかなスピーカ2の冷却を行うことができる。
【0027】
また、音響信号から除去した低域側成分のパワーと同じパワーとなるように、冷却用信号のゲインを調整して出力しているので、冷却用信号の混合により、スピーカ2に入力する音響信号全体のパワーが、オーディオソース機器1から入力する音響信号をそのままスピーカ2に出力する場合より大きくなってしまい、却ってスピーカ2を加熱してしまうことも抑止される。
【0028】
また、オーディオソース機器1が出力する音響信号の、より聴覚上の顕現性の高い高域側成分のスピーカ2からの出力は維持されると共に、スピーカ2の出力に混合する冷却用信号は可聴域の下限未満の周波数でありユーザに聞こえることはないので、オーディオソース機器1が出力する音響信号が表すオーディオコンテンツのユーザの聴取に大きな影響を与えてしまうことも抑制される。
【0029】
また、正弦波のままの冷却用信号でスピーカ2の振動板208を大きな振幅で振動させると、駆動力、剛性、インダクタンスなどのスピーカ2の特性の非線形性によるスピーカ2の非線形歪みが大きくなり可聴域においても歪みが生じるが、冷却用信号を混合した音響信号を、スピーカ2の非線形歪みをキャンセルする非線形逆フィルタ47を通してスピーカ2に出力しているので、このようなスピーカ2の非線形歪みによる影響も低減される。
【0030】
次に、信号補正部5は、スピーカ2の線形な特性や非線形な特性による出力の歪みが解消されるように、オーディオソース機器1が出力する音響信号を補正して出力する。
すなわち、信号補正部5は、非線形部補正フィルタ51、線形逆フィルタ52、適応アルゴリズム実行部53、エラー算出部54、推定フィルタ55を備えている。
信号補正部5の入力は第1セレクタ3が出力する音響信号であり、信号補正部5に入力した音響信号は、非線形部補正フィルタ51と線形逆フィルタ52を通って第2セレクタ6に出力される。
非線形部補正フィルタ51には、その伝達関数(フィルタ係数)として、非線形部補正フィルタ51が出力する音響信号でスピーカ2を駆動した場合に、信号補正部5に入力する音響信号に対するスピーカ2の非線形パラメータによるスピーカ2の出力の歪みがキャンセルされる伝達関数、すなわち、スピーカ2の非線形パラメータによる歪みを補正する伝達関数が設定されている。
【0031】
推定フィルタ55の入力は、信号補正部5に入力する音響信号であり、推定フィルタ55の出力は適応アルゴリズム実行部53とエラー算出部54に入力する。また、推定フィルタ55には、事前に推定したスピーカ2の振動特性を表す伝達関数が設定されている。
【0032】
エラー算出部54は、推定フィルタ55の出力を用いて、信号補正部5に入力した音響信号に対して歪みの無いスピーカ2の振動と、振動計測部8が計測した実際のスピーカ2の振動との差分を算出する。
線形逆フィルタ52は可変フィルタであり、線形逆フィルタ52と適応アルゴリズム実行部53と推定フィルタ55は適応フィルタを構成している。適応アルゴリズム実行部53は推定フィルタ55の出力を参照信号、エラー算出部54が算出した差分をエラーとして、Filtered-x LMSアルゴリズム等によって、エラーが最小化するように、線形逆フィルタ52の伝達関数(フィルタ係数)を更新する適応動作を行う。
【0033】
ここで、第1セレクタ3のオーディオソース機器1から入力する音響信号を信号補正部5に出力し、第2セレクタ6が信号補正部5から入力する音響信号を出力している状態にあるとき、信号補正部5が、オーディオソース機器1の出力する音響信号をスピーカ2の線形な特性や非線形な特性による出力の歪みが解消されるように補正した音響信号がスピーカ2に出力される。
【0034】
次に、制御部9が行う冷却制御処理について説明する。
この冷却制御処理の手順を図4に示す。
図示するように、制御部9は、冷却制御処理において、スピーカ2の温度を取得する(ステップ402)。スピーカ2の温度は、温度センサ231から取得する。ただし、スピーカ2の温度は、スピーカ2もしくはアンプ7から入力する情報が示す、スピーカ2の入力電圧や入力電流の履歴から、スピーカ2の発熱量を推定して算定してもよい。
【0035】
そして、スピーカ2の温度がしきい値Th1を超えているかどうかを判定する(ステップ404)。しきい値Th1は、スピーカ2と磁気角度センサ212双方の正常動作が保証される温度の上限より少し低い温度の値とする、
そして、スピーカ2の温度がしきい値Th1を超えていなければ、第1セレクタ3のオーディオソース機器1から入力する音響信号の出力先を信号補正部5に設定し(ステップ406)、第2セレクタ6の出力を信号補正部5が出力する音響信号に設定する(ステップ408)。
【0036】
そして、スピーカ2の温度を取得し(ステップ410)、スピーカ2の温度がしきい値Th1を超えているかどうかを判定する(ステップ412)処理を、スピーカ2の温度がしきい値Th1を超えていると判定されるまで繰り返す。
そして、スピーカ2の温度がしきい値Th1を超えていると判定されたならば(ステップ412)、ステップ414の処理に進む。
一方、ステップ404で、スピーカ2の温度がしきい値Th1を超えていると判定された場合には、ステップ414の処理に進む。
そして、ステップ404またはステップ412からステップ414に進んだならば、第1セレクタ3のオーディオソース機器1から入力する音響信号の出力先を冷却処理部4に設定し(ステップ414)、第2セレクタ6の出力を冷却処理部4が出力する音響信号に設定する(ステップ416)。
【0037】
そして、スピーカ2の温度を取得し(ステップ418)、スピーカ2の温度がしきい値Th2以下であるかどうかを判定する(ステップ420)処理を、スピーカ2の温度がしきい値Th2以下であると判定されるまで繰り返す。
ここで、しきい値Th2≦Th1である。
そして、ステップ420で、スピーカ2の温度がしきい値Th2以下であると判定された場合には、ステップ406からの処理に進む。
以上、制御部9が行う冷却制御処理について説明した。
このような冷却制御処理によれば、スピーカ2の温度がしきい値Th1を超えると、スピーカ2の温度がしきい値Th2以下となるまで、オーディオソース機器1の出力する音響信号が冷却処理部4で処理され、冷却処理部4の出力がスピーカ2に出力される。
また、スピーカ2の温度がしきい値Th1を超えてからスピーカ2の温度がしきい値Th2以下となるまでの期間を除く期間には、オーディオソース機器1の出力する音響信号が信号補正部5で処理され、信号補正部5の出力がスピーカ2に出力される。
以上、本発明の実施形態について説明した。
ここで、以上の実施形態は、制御部9において、スピーカ2の温度などに応じて、スピーカ2の非線形特性の変化を推定し、推定した変化に応じて冷却部の非線形逆フィルタ47や非線形部補正フィルタ51の伝達関数を、現在のスピーカ2の非線形特性に適合する処理を行うようにしてもよい。
【0038】
また、以上で示した冷却処理部4を用いてスピーカ2の冷却を行う構成は、信号補正部5や振動計測部8や変位検出用磁石211や磁気角度センサ212を備えていない音響システムにも、第1セレクタ3の出力を、信号補正部5の出力に代えて第2セレクタ6に入力することにより適用することができる。
【符号の説明】
【0039】
1…オーディオソース機器、2…スピーカ、3…第1セレクタ、4…冷却処理部、5…信号補正部、6…第2セレクタ、7…アンプ、8…振動計測部、9…制御部、41…ハイパスフィルタ、42…冷却用信号生成部、43…ローパスフィルタ、44…ゲイン調整部、45…ゲイン設定部、46…ミキサ、47…非線形逆フィルタ、51…非線形部補正フィルタ、52…線形逆フィルタ、53…適応アルゴリズム実行部、54…エラー算出部、55…推定フィルタ、201…ヨーク、202…磁石、203…トッププレート、204…ボイスコイルボビン、205…ボイスコイル、206…フレーム、207…ダンパ、208…振動板、209…エッジ、210…ダストキャップ、211…変位検出用磁石、212…磁気角度センサ、220…磁気回路、231…温度センサ、2011…凸部。
図1
図2
図3
図4