(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024028034
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】ポリヒドロキシアルカン酸の製造方法およびその利用
(51)【国際特許分類】
C08J 3/12 20060101AFI20240222BHJP
B01J 2/20 20060101ALI20240222BHJP
C12P 7/625 20220101ALN20240222BHJP
【FI】
C08J3/12 Z CFD
B01J2/20
C12P7/625
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022131342
(22)【出願日】2022-08-19
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】小熊 慧
(72)【発明者】
【氏名】平野 優
【テーマコード(参考)】
4B064
4F070
4G004
【Fターム(参考)】
4B064AD11
4B064CA01
4B064DA16
4F070AA47
4F070DA33
4F070DA39
4F070DA42
4F070DC06
4F070DC16
4G004AA01
4G004AA02
4G004LA01
(57)【要約】
【課題】二軸押出機を用いた簡便な方法にて、強度が高く、取り扱い性に優れるPHAを得る。
【解決手段】(a)pHが7以上の水性溶媒を10~25重量%含んだポリヒドロキシアルカン酸湿潤粉体を調製する工程、および(b)前記ポリヒドロキシアルカン酸湿潤粉体を、二軸押出機中で設定温度60~110℃にて加熱して、造粒する工程、を含む、ポリヒドロキシアルカン酸の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)pHが7以下である水性溶媒を、ポリヒドロキシアルカン酸湿潤粉体全体の重量100重量%に対して10~25重量%含んだポリヒドロキシアルカン酸湿潤粉体を調製する工程、および
(b)前記工程(a)で調製したポリヒドロキシアルカン酸湿潤粉体を、二軸押出機中で設定温度60~110℃にて加熱して、造粒する工程、を含む、ポリヒドロキシアルカン酸の製造方法。
【請求項2】
以下の式(1)で示される分子量保持率(%)が、80~100%である、請求項1に記載のポリヒドロキシアルカン酸の製造方法。
式(1):分子量保持率(%)=(前記工程(b)にて造粒したポリヒドロキシアルカン酸の重量平均分子量/前記工程(b)に供されたポリヒドロキシアルカン酸湿潤粉体におけるポリヒドロキシアルカン酸の重量平均分子量)×100
【請求項3】
前記工程(b)において、二軸押出機中で設定温度が、60~95℃である、請求項1または2に記載のポリヒドロキシアルカン酸の製造方法。
【請求項4】
前記二軸押出機のスクリューの少なくとも一部が、混練作用を有するスクリューである、請求項1または2に記載のポリヒドロキシアルカン酸の製造方法。
【請求項5】
工程(b)で得られた造粒したポリヒドロキシアルカン酸を乾燥させる工程(c)をさらに含む、請求項1または2に記載のポリヒドロキシアルカン酸の製造方法。
【請求項6】
固形分100重量%に対して97重量%以上のポリヒドロキシアルカン酸を含み、かつ、JIS K 6253で示される強度が20以上である、ポリヒドロキシアルカン酸造粒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリヒドロキシアルカン酸の製造方法およびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリヒドロキシアルカン酸(以後、「PHA」と称する場合がある。)は、生分解性を有することが知られている。
【0003】
微生物が生成するPHAは、微生物の菌体内に蓄積されるため、PHAをプラスチックとして利用するためには、微生物の菌体内からPHAを分離・精製する工程が必要となる。PHAを分離・精製する工程では、PHA含有微生物の菌体を破砕もしくはPHA以外の生物由来成分を可溶化した後、得られた水性懸濁液からPHAを取り出す。このとき、例えば、遠心分離、ろ過、乾燥等の分離操作を行う。乾燥操作には、噴霧乾燥機、流動層乾燥機、ドラムドライヤー等が用いられる。その中でも、従来は、操作が簡便であることから、好ましくは噴霧乾燥機が用いられてきた(特許文献1)。
【0004】
一方、本発明者らは、最近、前記噴霧乾燥の代わりに、より簡便な操作でPHAを得ることができる技術として、二軸押出機を用いて、PHA水性懸濁液を、特定の温度で加熱しながら押し出す方法が見出した(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開公報WO2018/070492号
【特許文献2】国際公開公報WO2021/176941号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に記載の方法は優れたものであるが、得られるPHAの強度、すなわち、取り扱い性の面において改善の余地がある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、二軸押出機を用いた簡便な方法にて、強度が高く、取り扱い性に優れるPHAを製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特許文献2に記載の前記方法において、PHA水性懸濁液の代わりに、PHA湿潤粉体を、二軸押出機を用いて、特定の温度で加熱しながら押し出すことにより、強度が高く、取り扱い性に優れるPHA(PHA造粒体)を製造できるとの新規知見を見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
したがって、本発明の一態様は、(a)pHが7以下である水性溶媒を、ポリヒドロキシアルカン酸湿潤粉体全体の重量100重量%に対して10~25重量%含んだポリヒドロキシアルカン酸湿潤粉体を調製する工程、および(b)前記工程(a)で調製したポリヒドロキシアルカン酸湿潤粉体を、二軸押出機中で設定温度60~110℃にて加熱して、造粒する工程、を含む、ポリヒドロキシアルカン酸の製造方法に関する。
【0010】
また、本発明の一態様は、固形分100重量%に対して97重量%以上のポリヒドロキシアルカン酸を含み、かつ、JIS K 6253で示される強度が20以上である、ポリヒドロキシアルカン酸造粒体に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、二軸押出機を用いた簡便な方法にて、強度が高く、取り扱い性に優れるPHAを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本願実施例1、2にて使用した二軸押出機の構成を表す模式図である。
【
図2】本願実施例1にて製造されたPHA造粒体を示した図である。
【
図3】本願実施例2にて製造されたPHA造粒体を示した図である。
【
図4】本願実施例3にて製造されたPHA造粒体を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の一形態について、以下に詳細に説明する。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。また、本明細書中に記載された文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。
【0014】
〔1.本発明の概要〕
本発明の一実施形態に係るPHAの製造方法(以下、「本製造方法」と称する。)は、(a)pHが7以下である水性溶媒を、ポリヒドロキシアルカン酸湿潤粉体全体の重量100重量%に対して10~25重量%含んだポリヒドロキシアルカン酸湿潤粉体を調製する工程、および(b)前記工程(a)で調製したポリヒドロキシアルカン酸湿潤粉体を、二軸押出機中で設定温度60~110℃にて加熱して、造粒する工程、を含む、方法である。なお、造粒により前記PHA湿潤粉体におけるPHAが造粒される。以下、造粒されたPHAを、「PHA造粒体」とも称する。前記PHA造粒体は、前記PHA(前記PHA湿潤粉体)同士が凝集してなるPHA凝集体でもある。また、本明細書にて、「ポリヒドロキシアルカン酸湿潤粉体(PHA湿潤粉体)」は、水性溶媒を含むPHA粉体を意味する。一方、本明細書にて、「PHA粉体」と記載する場合は、乾燥され、水性溶媒を実質的に含まないPHA粉体を意味する。具体的には、前記「PHA粉体」は、水性溶媒の含有量が、当該「PHA粉体」全体の重量に対して、0.5重量%以下である。
【0015】
特許文献2に記載の二軸押出機を用いて前記乾燥操作を行う方法においては、十分な流動性を確保するとの観点等から、PHAを水性懸濁液の状態にて、二軸押出機中にて加熱してPHA凝集体、すなわちPHA造粒体を製造している。この場合、前記水性懸濁液中の水等の溶媒を十分に揮発させるために、例えば、二軸押出機中における加熱温度を高温とすること、および/または、二軸押出機中における加熱時間を長時間とすることにより、当該水性懸濁液に対して多量の熱量を加える必要がある。そして、前述の加えられた多量の熱量により、前記水性懸濁液中のPHAは熱融着により結合し、PHA凝集体を製造する。
【0016】
ここで、本発明者らは、前述の二軸押出機を用いて乾燥操作を行う方法には、水分量が多いために水分蒸発に熱を奪われ、PHAに与えられる熱量が少なくなるために、PHAは熱融着が不十分となり、PHAの構造の一部が崩壊し、その結果、得られるPHA凝集体の強度が低下し、当該PHA凝集体の取り扱い性において改善の余地があるとの問題点があることを見出した。
【0017】
そこで、本発明者らは、前記問題点の解決を目指し、鋭意研究を行ったところ、前記PHA水性懸濁液の代わりに、特定の量の水性溶媒を含むPHA湿潤粉体を使用することにより、前記問題点を解決できることを見出した。詳細には、前記PHA湿潤粉体の乾燥のために加えられる熱量は、前述のPHA水性懸濁液の乾燥のために加えられる熱量よりも少ない。よって、PHAに十分な熱量が与えられ、得られるPHA凝集体、すなわちPHA造粒体の強度の低下を抑制することができると考えられる。また、前記加えられる熱量が少なく、前記PHA同士の熱融着が発生しない場合であっても、乾燥後のPHA湿潤粉体中に残存する水性溶媒がバインダとして機能することにより、前記PHA湿潤粉体同士が凝集し、PHA造粒体を得ることができると考えられる。
【0018】
以上のことから、本製造方法は、二軸押出機を用いた簡便な方法にて、強度が高く、取り扱い性に優れるPHA造粒体を得ることができるとの効果を奏すると考えられる。
【0019】
また、本発明者は、当該方法を用いれば、より効率的にPHA造粒体が得られる可能性、および従来にはない有用なPHA造粒体(例えば、新規な物性を有するPHA造粒体)が得られる可能性をも示した。
【0020】
このように、本製造方法によれば、簡便な操作でPHAを得ることができる。また、本製造方法は連続生産設備によるものであることから、設備の省スペース化が実現でき、その結果、製造サイトの設置および移動が容易になるとの利点も有する。この観点から、本製造方法は、PHAの連続的な製造方法ということもできる。前述のように、本製造方法は、PHAの製造において極めて有利である。
【0021】
なお、本明細書において、本製造方法に用いられる「二軸押出機」は、二軸混練機も含めるものとする。以下、本製造方法の構成について詳説する。
【0022】
〔2.PHAの製造方法〕
本製造方法は、下記の工程(a)~(b)を必須の工程として含む方法である。
・工程(a):pHが7以下である水性溶媒を、ポリヒドロキシアルカン酸湿潤粉体全体の重量100重量%に対して10~25重量%含んだポリヒドロキシアルカン酸湿潤粉体を調製する工程
・工程(b):前記工程(a)で調製したポリヒドロキシアルカン酸湿潤粉体を、二軸押出機中で設定温度60~110℃にて加熱して、造粒する工程
(工程(a))
本製造方法における工程(a)では、pHが7以下である水性溶媒を、PHA湿潤粉体全体の重量100重量%に対して10~25重量%含んだPHA湿潤粉体を調製する。
【0023】
<PHA>
本明細書において、「PHA」とは、ヒドロキシアルカン酸をモノマーユニットとする重合体の総称である。PHAを構成するヒドロキシアルカン酸としては、特に限定されないが、例えば、3-ヒドロキシブタン酸、4-ヒドロキシブタン酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、3-ヒドロキシペンタン酸、3-ヒドロキシヘキサン酸、3-ヒドロキシヘプタン酸、3-ヒドロキシオクタン酸等が挙げられる。これらの重合体は、単独重合体でも、2種以上のモノマーユニットを含む共重合体でもよい。
【0024】
より詳しくは、PHAとしては、例えば、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)(P3HB)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(P3HB3HH)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート)(P3HB3HV)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)(P3HB4HB)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタノエート)(P3HB3HO)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタデカノエート)(P3HB3HOD)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシデカノエート)(P3HB3HD)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(P3HB3HV3HH)等が挙げられる。中でも、工業的に生産が容易であることから、P3HB、P3HB3HH、P3HB3HV、P3HB4HBが好ましい。
【0025】
また、繰り返し単位の組成比を変えることで、融点、結晶化度を変化させ、結果として、ヤング率、耐熱性等の物性を変化させることができ、かつ、ポリプロピレンとポリエチレンとの間の物性を付与することが可能であること、および前述のように工業的に生産が容易であり、物性的に有用なプラスチックであるという観点から、3-ヒドロキシ酪酸と3-ヒドロキシヘキサン酸の共重合体であるP3HB3HHがより好ましい。
【0026】
本発明の一実施形態において、P3HB3HHの繰り返し単位の組成比は、柔軟性および強度のバランスの観点から、3-ヒドロキシブチレート単位/3-ヒドロキシヘキサノエート単位の組成比が、80/20~99/1(mol/mol)であることが好ましく、85/15~97/3(mo1/mo1)であることがより好ましい。3-ヒドロキシブチレート単位/3-ヒドロキシヘキサノエート単位の組成比が、99/1(mol/mol)以下であると、十分な柔軟性が得られ、80/20(mol/mol)以上であると、十分な硬度が得られる。
【0027】
<PHA水性懸濁液の調製>
本製造方法は、工程(a)の前に、PHA水性懸濁液を得る工程を含んでいてもよい。本明細書において、「PHA水性懸濁液」は、少なくともPHAを含む水性懸濁液である。前記PHA水性懸濁液中において、PHAが水性媒体中に分散した状態で存在している。
【0028】
前記PHA水性懸濁液は、例えば、細胞内にPHAを生成する能力を有する微生物を培養する培養工程、および当該培養工程の後、PHA以外の物質を分解および/または除去する精製工程、を含む方法により得ることができる。
【0029】
当該工程において用いられる微生物は、細胞内にPHAを生成し得る微生物である限り、特に限定されない。例えば、天然から単離された微生物や菌株の寄託機関(例えば、IFO、ATCC等)に寄託されている微生物、またはそれらから調製し得る変異体や形質転換体等を使用できる。より詳しくは、例えば、カプリアビダス(Cupriavidus)属、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、ラルストニア(Ralstonia)属、シュウドモナス(Pseudomonas)属、バチルス(Bacillus)属、アゾトバクター(Azotobacter)属、ノカルディア(Nocardia)属、アエロモナス(Aeromonas)属の菌等が挙げられる。中でも、アエロモナス属、アルカリゲネス属、ラルストニア属、またはカプリアビダス属に属する微生物が好ましい。特に、アルカリゲネス・リポリティカ(A.lipolytica)、アルカリゲネス・ラトゥス(A.latus)、アエロモナス・キャビエ(A.caviae)、アエロモナス・ハイドロフィラ(A.hydrophila)、カプリアビダス・ネカトール(C.necator)等の菌株がより好ましく、カプリアビダス・ネカトールが最も好ましい。
【0030】
また、微生物が、本来PHAの生産能力を有しないものである場合、またはPHAの生産量が低いものである場合には、当該微生物に目的とするPHAの合成酵素遺伝子および/またはその変異体を導入して得られる形質転換体を用いることもできる。このような形質転換体の作製に用いるPHAの合成酵素遺伝子は特に限定されない。前記PHAの合成酵素遺伝子としては、アエロモナス・キャビエ由来のPHA合成酵素の遺伝子が好ましい。これらの微生物を適切な条件で培養することで、菌体内にPHAを蓄積した微生物菌体を得ることができる。当該微生物菌体の培養方法は特に限定されない。前記培養方法としては、例えば、特開平05-93049号公報等に記載された方法が用いられる。
【0031】
前記微生物を培養することにより作製されたPHA含有微生物には、不純物である菌体由来成分が多量に含まれているため、通常、PHA以外の不純物を分解および/または除去するための精製工程を実施され得る。この精製工程においては、特に限定されず、当業者が考え得る物理学的処理、化学的処理、生物学的処理等を適用することができ、例えば、国際公開第2010/067543号に記載の精製方法が好ましく適用できる。
【0032】
前述の精製工程により、最終製品に残留する不純物量が概ね決定されるため、これらの不純物は、できる限り低減させた方が好ましい。当然に、用途によっては、最終製品の物性を損なわない限り不純物が混入しても構わない。しかしながら、医療用用途等、高純度のPHAが必要とされる場合は、できる限り不純物を低減させることが好ましい。その際の精製度の指標としては、例えば、PHA水性懸濁液中のタンパク質量が挙げられる。当該タンパク質量は、好ましくは、PHA重量当たり30000ppm以下、より好ましくは、15000ppm以下、さらに好ましくは、10000ppm以下、最も好ましくは、7500ppm以下である。精製手段は、特に限定されず、例えば、前述の公知の方法を適用可能である。
【0033】
なお、本製造方法におけるPHA水性懸濁液を構成する溶媒は、水性溶媒である。前記水性溶媒は、水、または水と有機溶媒との混合溶媒であってもよい。また、当該混合溶媒において、水と相溶性のある有機溶媒の濃度としては、使用する有機溶媒の水への溶解度以下であれば特に限定されない。また、水と相溶性のある有機溶媒は特に限定されない。前記水と相溶性のある有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、iso-ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類;ジメチルホルムアミド、アセトアミド等のアミド類;ジメチルスルホキシド、ピリジン、ピペリジン等が挙げられる。前記水と相溶性のある有機溶媒としては、その中でも、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、iso-ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトニトリル、プロピオニトリル等が、除去しやすい点から好ましい。また、前記水と相溶性のある有機溶媒としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、アセトン等が、入手容易であることからより好ましい。さらに、前記水と相溶性のある有機溶媒としては、メタノール、エタノール、アセトンが、特に好ましい。なお、PHA水性懸濁液を構成する水性溶媒は、本発明の本質を損なわない限り、他の溶媒、菌体由来の成分、精製時に発生する化合物等を含んでいても構わない。
【0034】
本製造方法におけるPHA水性懸濁液を構成する水性溶媒には、水が含まれていることが好ましい。水性媒体中の水の含有量は、5重量%以上が好ましく、より好ましくは、10重量%以上であり、さらに好ましくは、30重量%以上であり、特に好ましくは、40重量%以上である。
【0035】
<pHの調整>
工程(a)において、PHA湿潤粉体に含まれる水性溶媒のpHは、7以下である。前記水性溶媒のpHの調整は、例えば、前記PHA水性懸濁液のpHを7以下に調整することにより行われ得る。その調整方法は、特に限定されず、例えば、酸を添加する方法等が挙げられる。酸は、特に限定されず、有機酸、無機酸のいずれでもよく、揮発性の有無は問わない。より具体的には、酸としては、例えば、硫酸、塩酸、リン酸、酢酸等が使用できる。
【0036】
前記水性溶媒のpHを7以下に調整することにより、後述の工程(b)にて、前記PHA粉体を加熱乾燥する際に、得られるPHA造粒体が着色されることを防止することができ、かつ、PHAの分子量の安定性を確保することができる。前述の着色を好適に防止し、かつ、PHAの分子量の安定性を好適に確保するとの観点から、前記水性溶媒のpHを、5以下に調整することが好ましく、4以下に調整することがより好ましい。また、前記水性溶媒のpHが小さ過ぎる場合、前記PHA粉体を、後述の工程(b)にて使用する二軸押出機に投入するために使用する容器および導管等、並びに、当該二軸押出機が破損するおそれがある。前述の破損を好適に防止するとの観点から、前記水性溶媒のpHを、2以上に調整することが好ましく、3以上に調整することがより好ましい。
【0037】
<PHA湿潤粉体の調製>
工程(a)において、PHA湿潤粉体を調製する方法は特に限定されず、例えば、前述の方法により調製されたPHA水性懸濁液に対して、当該PHA水性懸濁液に含まれる水性溶媒の一部を除去する操作を行う方法を挙げることができる。ここで、前記PHA水性懸濁液は、少なくともPHAを含む水性懸濁液である。前記PHA水性懸濁液中において、PHAが水性媒体中に分散した状態で存在している。
【0038】
前記PHA水性懸濁液に含まれる水性溶媒の一部を除去する操作は、特に限定されず、公知の方法を採用することができる。前記PHA水性懸濁液に含まれる水性溶媒の一部を除去する操作としては、例えば、前記PHA水性懸濁液をろ過する操作、前記PHA水性懸濁液を遠心分離した後、上清を取り除く操作等を挙げることができる。
【0039】
前記ろ過方法としては、例えば、デッドエンドろ過が挙げられ、例えば、吸引ろ過、加圧ろ過、遠心ろ過、重力式ろ過等であり得る。中でも、機器の大きさの観点から、好ましくは、吸引ろ過、加圧ろ過、遠心ろ過が用いられる。更に、構造の容易さから、より好ましくは、吸引ろ過、加圧ろ過が用いられる。
【0040】
工程(a)において、調製されるPHA湿潤粉体において、当該PHA湿潤粉体全体の重量100重量%に対する前記水性溶媒の含有量を10~25重量%に制御する。前記水性溶媒の含有量を10重量%以上に制御することにより、後述の工程(b)にて乾燥された後のPHA湿潤粉体中に前記水性溶媒が特定量残存する。前記残存した特定量の水性溶媒がバインダとして機能することにより、工程(b)において、乾燥された後のPHA湿潤粉体同士が好適に凝集し、好適な強度を備えるPHA造粒体を製造することができる。
【0041】
乾燥された後のPHA湿潤粉体同士がより好適に凝集し、より好適な強度を備えるPHA造粒体を製造できるとの観点から、工程(a)において、前記水性溶媒の含有量を、12重量%以上に制御することが好ましく、14重量%以上に制御することがより好ましい。前記水性溶媒の含有量を25重量%以下に制御することにより、後述の工程(b)にてPHA湿潤粉体の乾燥の為に加えられる熱量が少なくなる。よって、前記加えられる熱量によるPHAの構造の一部の崩壊を防止し、後述の工程(b)にて得られるPHA造粒体の強度の低下を抑制することができる。前記PHA造粒体の強度の低下を好適に抑制するとの観点から、工程(a)において、前記水性溶媒の含有量を、24重量%以下に制御することが好ましく、22重量%以下に制御することがより好ましい。
【0042】
なお、従来から、水等の水性溶媒の含有量が、PHA湿潤粉体全体の重量に対して、例えば1重量%以下と極めて少ないPHA湿潤粉体を、二軸押出機を用いて溶融混練することによって、PHAの成形体を調製する方法が知られている。しかしながら、前述の従来の方法においては、極めて少ない水分量の粉体を準備しなければならないこと、溶融混練によって得られたPHAの成形体は分子量が低下してしまうこと、などの課題があった。一方、本製造方法によれば、前述のとおり、前記PHA湿潤粉体同士を好適に凝集させることができる。その結果、分子量低下が抑えられた、取り扱い性により優れるPHA造粒体を製造することができる。
【0043】
(工程(b))
本製造方法における工程(b)では、前記工程(a)で調製したPHA湿潤粉体を、二軸押出機の設定温度60~110℃で加熱して、造粒する。言い換えると、工程(b)においては、前記PHA湿潤粉体におけるPHAが造粒される。すなわち、工程(b)において、二軸押出機に前記PHA湿潤粉体を投入し、特定の温度で加熱しながら、二軸押出機中を移動させることにより、PHA造粒体を得ることができる。このとき、加圧蒸気を二軸押出機内に直接投入して、前記PHA湿潤粉体を加熱し、PHAを造粒させてもよい。ここで、「PHAを造粒する」とは、前記PHA湿潤粉体同士を凝集させ、前記PHA湿潤粉体の凝集体(PHA凝集体)である、PHA造粒体を得ることを意味する。かかる工程で得られるPHA造粒体は、塊状のPHAであり、噴霧乾燥工程により得られる粉末状のPHAと比べて、粒径が大きく、取扱いが容易である。また、前記PHA造粒体は、特許文献2に記載の方法にて製造されるPHA凝集体と比較して、強度がより高く、取り扱い性に優れる。
【0044】
工程(b)における加熱方法は、特に限定されることなく、例えば、二軸押出機が電気ヒーター、蒸気ヒーター、オイルヒーター等のヒーターを備えており、当該ヒーターを用いて行うことができるし、二軸押出機内に加圧蒸気を直接投入して行うこともできる。また、加熱時間も特に限定されることなく、当業者により適宜設定可能である。
【0045】
本発明の一実施形態において、工程(b)における二軸押出機の設定温度は、60~110℃である。前記二軸押出機の設定温度は、例えば、当該二軸押出機が前記ヒーターを備えており、当該ヒーターにより、当該二軸押出機に導入されたPHA湿潤粉体を加熱する場合には、当該ヒーターの設定温度である。また、前記二軸押出機の設定温度は、例えば、当該二軸押出機内に加圧蒸気を直接投入して前記PHA湿潤粉体を加熱する場合には、当該加圧蒸気の温度である。
【0046】
前記二軸押出機の設定温度が60℃以上であることにより、前記PHA湿潤粉体に含まれる水性溶媒を十分に揮発することができる。一方、前記水性溶媒の揮発が不十分である場合には、当該PHA湿潤粉体が、流動することにより、凝集し難くなり、その結果、PHAの造粒が不十分となり、前記PHA造粒体が得られない。前述のPHAの造粒を十分に好進行させ、前記PHA造粒体を好適に得るとの観点から、前記二軸押出機の設定温度は、65℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがより好まく、75℃以上であることがさらに好ましい。
【0047】
前記二軸押出機の設定温度が110℃以下であることにより、乾燥させたPHA湿潤粉体において、バインダとして機能する残存する水性溶媒の量を好適な範囲に制御することができる。その結果、前記PHA湿潤粉体同士を好適に凝集させ、強度が高く、取り扱い性に優れるPHA造粒体を得ることができる。前記PHA湿潤粉体同士を好適に凝集させるとの観点から、前記二軸押出機の設定温度は、105℃以下であることが好ましく、100℃以下であることがより好ましく、95℃以下であることがさらに好ましい。
【0048】
前記二軸押出機の設定温度が高温である場合、前記PHA造粒体において、PHAの分解による分子量、例えば、平均重量分子量が低下するおそれがある。前記PHAの分子量の低下を防止するとの観点からは、前記二軸押出機の設定温度は、95℃以下であることが好ましく、90℃以下であることがより好ましい。
【0049】
工程(b)において、以下の式(1)で示される分子量保持率(%)が80%以上であることが好ましく、82%以上であることがより好ましく、84%以上であることがさらに好ましい。また、以下の式(1)で示される分子量保持率(%)の上限値は高いほどよく、特に限定されないが、100%以下であり、99.5%以下であることが好ましい。
式(1):分子量保持率(%)=(前記工程(b)にて造粒したポリヒドロキシアルカン酸の重量平均分子量/前記工程(b)に供されたポリヒドロキシアルカン酸湿潤粉体におけるポリヒドロキシアルカン酸の重量平均分子量)×100
「前記工程(b)にて造粒したポリヒドロキシアルカン酸の重量平均分子量」とは、前記工程(b)にて得られたPHA造粒体を対象として測定されたPHAの重量平均分子量を意味する。「前記工程(b)に供されたポリヒドロキシアルカン酸湿潤粉体におけるポリヒドロキシアルカン酸の重量平均分子量」とは、前記工程(b)に供されたPHA湿潤粉体、すなわち、前記工程(a)にて調製されたPHA湿潤粉体を対象として測定されたPHAの重量平均分子量を意味する。ここで、PHAの重量平均分子量の測定方法としては、公知の測定方法を採用することができ、特に限定されない。前記PHAの重量平均分子量の測定方法は、例えば、本願実施例に記載の測定方法であり得る。
【0050】
工程(b)において、二軸押出機のスクリューの回転数(「軸回転速度」とも称する。)は、特に限定されないが、例えば、20~1000rpmであり、好ましくは、25~800rpmであり、より好ましくは、28~700rpmである。二軸押出機のスクリューの回転数が20rpm以上であると、前記PHA湿潤粉体の軸付着を抑制することができる。二軸押出機のスクリューの回転数が1000rpm以下であると、前記PHA湿潤粉体同士を効果的に凝集させることができる。
【0051】
本発明の一実施形態において、工程(b)における二軸押出機中の圧力は、特に限定されないが、例えば、0.01~0.5Mpaであり、好ましくは、0.05~0.5Mpaであり、より好ましくは、0.08~0.5Mpaである。
【0052】
本発明の一実施形態において、二軸押出機のスクリューの構成は、当該スクリューの少なくとも一部が混練作用を有するスクリューであることが好ましい。前記混練作用を有するスクリューにより、前記PHA湿潤粉体が、加熱されながら混練されることによって、当該PHA湿潤粉体同士が好適に凝集し、前記PHAは好適に造粒され、その結果、前記PHA造粒体が好適に得られる。前記混練作用を有するスクリューとしては、例えば、ニーディングスクリューを挙げることができる。前記二軸押出機におけるスクリューの数および前記混練作用を有するスクリューの数は特に限定されない。
【0053】
また、前記二軸押出機のスクリューの構成として、最後尾の混練作用を有するスクリューの後に、ミキシングスクリューを備えることが好ましい。ここで、二軸押出機の内部にて、前記PHA湿潤粉体が輸送される方向を「後」と規定する。前記「最後尾の混練作用を有するスクリュー」とは、二軸押出機が一個の混練作用を有するスクリューを備える場合には、その混練作用を有するスクリューを意味し、二軸押出機が複数の混練作用を有するスクリューを備える場合には、当該複数の混練作用を有するスクリューのうちの最も後ろに位置する混練作用を有するスクリューを意味する。最後尾の混練作用を有するスクリューの後に、ミキシングスクリューを備えることによって、得られるPHA造粒体の形状を調整することができる。具体的には、得られるPHA造粒体が細長くなり、いびつな形状となることを防止し、その結果、球形に近く、かつ、嵩密度がより高いPHA造粒体を得ることができる。
【0054】
本発明の一実施形態において、所望のPHA造粒体を得るために、工程(b)において、前記二軸押出機の設定温度、二軸押出機のスクリューの回転数、ミキシングスクリューの有無、二軸押出機中の圧力等の条件を適宜組み合わせることができる。
【0055】
また、本製造方法において使用される二軸押出機は、PHA水性懸濁液からPHA造粒体が得られるものであれば特に限定されないが、設定温度、スクリューの回転数、圧力等を、所望の範囲に調整できる二軸押出機であることが好ましい。本製造方法において使用される市販の二軸押出機としては、特に限定されないが、例えば、実施例で使用した株式会社テクノベル製のKZW25TW―45MG―NH、並びに、スエヒロEPM社製のEA-20、栗本鐵工所製のS2KRCニーダおよび日本製鋼所製のTEX60α等が挙げられる。
【0056】
(工程(c))
本製造方法は、下記の工程(c)をさらに含み得る。
・工程(c):工程(b)で得られた造粒したポリヒドロキシアルカン酸を乾燥させる工程。
【0057】
前記工程(c)において、前記工程(b)で得られた造粒したポリヒドロキシアルカン酸、すなわちPHA造粒体に残存する水性溶媒の量をさらに少なくすることができる。その結果、前記PHA造粒体の取り扱い性をより向上させることができる。
【0058】
前記工程(c)における乾燥方法は、特に限定されず、例えば、バンド乾燥機、コンベヤ乾燥機、ロータリー乾燥機等を用いる乾燥方法を挙げることができる。
【0059】
前述の通り、本製造方法により、PHA造粒体を得ることができる。ここで、PHA造粒体が得られたことは、以下の式(2)で示される値を指標として示すことができる:
式(2):本製造方法で得られたPHA造粒体の体積メジアン径/PHA1次粒子の体積メジアン径
なお、本明細書において、「PHA1次粒子」とは、工程(a)にて調製されたPHA湿潤粉体を構成するPHAの粒子を意味する。また、「PHA造粒体の体積メジアン径」は、「PHA造粒体の平均粒径」と称することもできる。さらに、「PHA1次粒子の体積メジアン径」は、「PHA1次粒子径」と称することもできる。
【0060】
本発明の一実施形態において、前記式(2)で示される値は、例えば、50~20000であり、好ましくは、100~15000であり、より好ましくは、150~10000である。
【0061】
前記「PHA造粒体の体積メジアン径」は、例えば、以下の方法により測定される。
・イオン交換水20mlに、分散剤として界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウム0.05gを加えて、界面活性剤水溶液を得る。その後、前記界面活性剤水溶液に、測定対象のPHA造粒体の群0.2gを加え、前記PHA造粒体の群を前記界面活性剤水溶液中に分散させ、測定用の分散液を得る。調製した測定用の分散液を、HORIBA社製のレーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置LA-950に導入し、前記「PHA造粒体の体積メジアン径」の測定を行う。
【0062】
また、前記「PHA1次粒子の体積メジアン径」は、例えば、HORIBA社製のレーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置LA-950を用いて測定される。
【0063】
〔3.PHA造粒体〕
本発明の一実施形態に係るPHA造粒体(以下、「本PHA造粒体」と称する。)は、固形分100重量%に対して97重量%以上のPHAを含み、かつ、JIS K 6253で示される強度が20以上である。本PHA造粒体は、本製造方法により製造されるため、簡便な操作で得られ、かつ、強度が高く、取り扱い性に優れるという利点を有する。なお、「固形分100重量%に対して97重量%以上のPHAを含み」とは、換言すれば、本PHA造粒体に含まれる全成分(PHA、水性溶媒、および不純物)から、水性溶媒を除いた固形分、すなわち、PHAおよび不純物の合計量に対して、97重量%以上のPHAを含むことを意味する。
【0064】
本PHA造粒体は、前述の特徴的な製造方法により製造され得るため、PHA粉末を含むペレットに比して、固着剤等が不要であることから、PHA造粒体中に高い含有量でPHAを含むことができる。
【0065】
本PHA造粒体中のPHA含有量は、当該PHA造粒体の固形分100重量%に対して、97重量%以上であればよく、特に限定されないが、加工性への影響の観点から、98重量%以上が好ましく、99重量%以上がより好ましく、99.5重量%以上がさらに好ましい。また、本PHA造粒体中のPHA含有量の上限値は、特に限定されないが、例えば、100重量%以下である。本PHA造粒体中のPHA含有量は、高速液体クロマトグラフィーにより測定される。
【0066】
また、本PHA造粒体は、前述の特徴的な製造方法により製造され得るため、PHA粉末を含むペレットに比して、サイズの大きなPHA造粒体を得ることができる。
【0067】
本PHA造粒体の体積メジアン径(サイズ)は、300μm以上であればよく、特に限定されないが、流動性の観点から、350μm以上が好ましく、380μm以上がより好ましく、400μm以上がさらに好ましい。また、本PHA造粒体の体積メジアン径の上限値は、特に限定されないが、例えば、5mm以下である。本PHA造粒体の体積メジアン径は、前述の方法により測定される。また、本PHA造粒体の形状は、特に限定されず、粒状、球状、不定形状、矩形(多角形状)、円柱状等、種々の形状であり得る。
【0068】
本PHA造粒体のJIS K 6253で示される強度は、20以上であればよく、21以上であることが好ましく、22以上であることがより好ましく、23以上であることがさらに好ましい。本PHA造粒体は、前記強度が20以上であることにより、取り扱い性に優れる。前記強度の上限値は、特に限定されない。前記強度の測定方法としては、例えば、市販のJIS K 6253に準拠したデュロメータ―を用いて測定することができる。
【0069】
また、本PHA造粒体は、本発明の効果を奏する限り、本製造方法の過程で生じた、または除去されなかった種々の成分を含んでいてもよい。
【0070】
なお、本実施形態において、特に言及しなかったものについては、前記〔2.PHAの製造方法〕に記載の内容が援用される。
【0071】
本PHA造粒体は、紙、フィルム、シート、チューブ、板、棒、容器(例えば、ボトル容器等)、袋、部品等、種々の用途に利用できる。
【0072】
本発明は前述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0073】
すなわち、本発明の一実施形態は、以下である。
<1>(a)pHが7以下である水性溶媒を、ポリヒドロキシアルカン酸湿潤粉体全体の重量100重量%に対して10~25重量%含んだポリヒドロキシアルカン酸湿潤粉体を調製する工程、および
(b)前記工程(a)で調製したポリヒドロキシアルカン酸湿潤粉体を、二軸押出機中で設定温度60~110℃にて加熱して、造粒する工程、を含む、ポリヒドロキシアルカン酸の製造方法。
<2>以下の式(1)で示される分子量保持率(%)が、80~100%である、<1>に記載のポリヒドロキシアルカン酸の製造方法。
式(1):分子量保持率(%)=(前記工程(b)にて造粒したポリヒドロキシアルカン酸の重量平均分子量/前記工程(b)に供されたポリヒドロキシアルカン酸湿潤粉体におけるポリヒドロキシアルカン酸の重量平均分子量)×100
<3>前記工程(b)において、二軸押出機中で設定温度が、60~95℃である、<1>または<2>に記載のポリヒドロキシアルカン酸の製造方法。
<4>前記二軸押出機のスクリューの少なくとも一部が、混練作用を有するスクリューである、<1>~<3>の何れかに記載のポリヒドロキシアルカン酸の製造方法。
<5>工程(b)で得られた造粒したポリヒドロキシアルカン酸を乾燥させる工程(c)をさらに含む、<1>~<4>の何れかに記載のポリヒドロキシアルカン酸の製造方法。
<6>固形分100重量%に対して97重量%以上のポリヒドロキシアルカン酸を含み、かつ、JIS K 6253で示される強度が20以上である、ポリヒドロキシアルカン酸造粒体。
【実施例0074】
以下、本発明を実施例に基づいてより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例において、「PHA」としては「P3HB3HH」を用いており、「PHA」を「P3HB3HH」と読み替えることができる。
【0075】
〔測定方法〕
実施例および比較例における測定を、以下の方法で行った。
【0076】
(水性溶媒の含有率)
後述のろ過により得られたPHAろ過ケーキに含まれる水性溶媒の含有率を、加熱乾燥式水分計ML-50(株式会社A&D製)を用いて測定した。具体的には、前記PHAろ過ケーキを105℃で加熱し、重量変化速度が0.05重量%(W.B.)/分を下回るまで加熱した。その際の加熱前後の重量変化量(g)を、前記PHAろ過ケーキに含まれる水性溶媒の重量(g)とした。得られた水性溶媒の重量(g)および加熱前の前記PHAろ過ケーキの重量(g)を用いて、以下の式(3)に基づき、前記PHAろ過ケーキに含まれる水性溶媒の含有率を割り出した。
式(3):PHAろ過ケーキに含まれる水性溶媒の含有率(重量%)={水性溶媒の重量(g)/加熱前のPHAろ過ケーキの重量(g)}×100
なお、後述の実施例および比較例において、前記PHAろ過ケーキは、破砕されてPHA湿潤粉体となるが、当該破砕の前後で水性溶媒の含有率は変化しない。よって、前記PHAろ過ケーキにおける水性溶媒の含有率は、実施例および比較例におけるPHA湿潤粉体における、当該PHA湿潤粉体全体の重量100重量%に対する水性溶媒の含有率である。
【0077】
(分子量保持率)
後述の実施例および比較例にて調製されたろ過後の粉体(後述のろ過ケーキ)の一部を取得し、乾燥器にて60℃で10時間以上乾燥させ、乾燥体(PHA粉体)を得た。得られたPHA粉体10mgを、クロロホルム10mLに溶解させた後、不溶物を濾過により除き、濾液を得た。得られた濾液を対象として、「Shodex K805L(300x8mm、2本連結)」(昭和電工社製)を装着した島津製作所製GPCシステムを用い、クロロホルムを移動相として、当該濾液に含まれるPHAの重量平均分子量を測定した。前述の重量平均分子量の測定において、分子量標準サンプルには、昭和電工(株)製Shodex K-804(ポリスチレンゲル)を用いた。
【0078】
前記ろ過後の粉体の代わりに、後述の実施例および比較例にて製造されたPHA造粒体を使用したこと以外は、前述のPHAの重量平均分子量の測定方法と同一の方法にて、当該PHA造粒体におけるPHAの重量平均分子量を測定した。測定された前記PHA造粒体におけるPHAの重量平均分子量を、「工程(b)にて造粒したPHAの重量平均分子量」とする。
【0079】
測定された「工程(b)に供されたPHA湿潤粉体におけるPHAの重量平均分子量」および「工程(b)にて造粒したPHAの重量平均分子量」を用いて、以下の式(1)に基づき、分子量保持率(%)を算出した。
式(1):分子量保持率(%)=(前記工程(b)にて造粒したポリヒドロキシアルカン酸の重量平均分子量/前記工程(b)に供されたポリヒドロキシアルカン酸湿潤粉体におけるポリヒドロキシアルカン酸の重量平均分子量)×100
(嵩密度)
後述の実施例および比較例にて製造されたPHA造粒体から、110~120mLの範囲内の体積のPHA造粒体を量り取った。量り取ったPHA造粒体の正確な体積と、その重量を、JIS K 7365に規定される嵩比重測定装置を使用し、JIS K 7365に規定される条件下にて、測定した。測定されたPHA造粒体の正確な体積と重量とを用いて、当該PHA造粒体の嵩密度を測定した。
【0080】
(JIS K6253で示される強度)
後述の実施例および比較例にて製造されたPHA造粒体を対象として、JIS K 6253に準拠したデュロメータ―(テクロック社製)を用いて、当該PHA造粒体におけるJIS K6253で示される強度を測定した。前記JIS K6253で示される強度の測定は、5個のPHA造粒体それぞれに対して実施した。得られた5つのJIS K6253で示される強度の値の平均値を算出した。算出された平均値を前記PHA造粒体における「JIS K6253で示される強度」とした。
【0081】
〔実施例1〕
(菌体培養液の調製)
国際公開第WO2019/142717号に記載のラルストニア・ユートロファを、同文献の段落〔0041〕~〔0048〕に記載の方法で培養し、PHAを含有する菌体を含む菌体培養液を得た。なお、ラルストニア・ユートロファは、現在では、カプリアビダス・ネカトールに分類されている。PHAの繰り返し単位の組成比(3HB単位/3HH単位の組成比)は95/5~93/7(mol/mol)であった。
【0082】
(不活化)
前述の方法で得られた菌体培養液を、内温60~70℃で7時間加熱および攪拌処理することにより滅菌処理を行い、不活化培養液を得た。
【0083】
(分子量調整)
前述の方法で得られた不活化培養液に30%水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを9.0±0.5に調節すると共に、当該不活化培養液の内温を65~75℃に調節した。前記不活化培養液中でPHAを加水分解させることにより当該PHAの分子量を調整し、分子量調整培養液を得た。
【0084】
(酵素処理)
前記分子量調整培養液に10%硫酸を添加してpHを6.5±0.2に調整した。この分子量調整培養液の含水率は80重量%であった。pHを調整した後の分子量調整培養液に対して、細胞壁中の糖鎖(ペプチドグリカン)を分解する酵素であるリゾチーム(富士フイルム和光純薬(株)社製)を、当該リゾチームの液中濃度が100ppmとなるように添加した。続いて、前記リゾチーム添加後の分子量調整培養液を、内温50℃の条件下にて2時間保持した。その後、前記2時間保持した後の分子量調整培養液に対して、タンパク質分解酵素であるアルカラーゼ2.5L(Novozyme社製)を、当該アルカラーゼの液中濃度が300ppmとなるように添加し、次いで、内温50℃の条件下にて、30%水酸化ナトリウムを添加して、pH8.5±0.3に調整しながら2時間保持する操作を行い、酵素処理液を得た。
【0085】
(アルカリ処理)
前記酵素処理液に対して、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS、花王製)を、当該ドデシル硫酸ナトリウムの濃度が0.3~1.0重量%となるように添加した。その後、内温40度の条件下にて、前記ドデシル硫酸ナトリウムを添加後の酵素処理液を、そのpHが11.0±0.2になるように30%水酸化ナトリウムを用いて調整しながら、1時間保持して、PHA水性懸濁液を得た。次いで、前記PHA水性懸濁液を、遠心分離(4000G、10分間)した後、上清を除去することにより、2倍濃縮した。前記2倍濃縮した後のPHA水性懸濁液に対して、除去した上清と同量の水酸化ナトリウム水溶液(pH11.0±0.1)を添加して遠心分離(4500rpm、10分間)し、上清を除去する操作を3回繰り返した。前記操作を3回繰り返して得られたPHA水性懸濁液の含水率は57.8重量%であり、残タンパク質濃度は1013ppm、pHは11±0.1であった。
【0086】
(pH調整)
前記操作を3回繰り返して得られたPHA水性懸濁液を内温70℃の条件下で保持した。次いで、前記内温70℃の条件下で保持したPHA水性懸濁液に対して、10%硫酸を添加してpHを4.0に調整し、3時間以上保持する操作を実施し、pH調整後のPHA水性懸濁液を得た。前記pH調整後のPHA水性懸濁液の液密度は1.03g/mLであった。
【0087】
(ろ過)
前記pH調整後のPHA水性懸濁液を63℃のウォーターバスに入れ、液温が60℃になるように加温し、フィルタープレス機(日立造船製)を用いてろ過を行った。ろ布は通気度0.3cm3/cm2/minのろ布(PJ3、日立造船製)を使用した。ろ過後の1次圧搾を圧力0.4Mpaで実施し、その後イオン交換水を通水した。pHが5.3となったら通水を止め、2次圧搾を圧力0.7Mpaで実施した。その後、エアーブロー圧力を0.3Mpaに調整してエアーブローを実施し、ろ過ケーキを得た。得られたろ過ケーキに含まれる水性溶媒の含有率(W.B.)は、17.8重量%であった。前記ろ過ケーキの一部を取り、前述の方法にて、ろ過ケーキのPHAの重量平均分子量を測定した。その結果、ろ過ケーキのPHAの重量平均分子量は、60.0万であった。
【0088】
(造粒)
【0089】
前記ろ過により取得したろ過ケーキのうち、PHAの重量平均分子量の測定に供さなかった残りのろ過ケーキを破砕して、PHA湿潤粉体を得た。その後、前記PHA湿潤粉体を、二軸押出機KZW25TW―45MG―NH(株式会社テクノベル製)に投入して造粒を行った。前記二軸押出機の構成の概略図を
図1に示す。前記二軸押出機において、ホッパー1、アジテーター2およびフィードスクリュー3から構成される投入部がC1区画と連結しており、当該投入部を介して、スクリュー部に前記PHA湿潤粉体が投入された。また、C6区画およびC7区画のそれぞれに、ベント4を備える。前記二軸押出機におけるC2-C6区間(本体)のうち、C5区間およびC6区間の一部の2カ所のスクリューをニーディングスクリューとした。それ以外のスクリューは、前記PHA湿潤粉体を輸送するためのスクリューであった。吐出量は10kg/hで押出機のスクリュー回転速度は300rpmとし、C2―C6区間(本体)の温度(設定温度)を80℃にした。前述の条件下にて、前記PHA湿潤粉体を加熱して、PHAを造粒し、PHA造粒体を製造した。得られたPHA造粒体における水性溶媒の含有率は15.7重量%、嵩密度は0.27g/cm
3であった。得られたPHA造粒体を
図2に示す。前記PHA造粒体におけるPHAは、その分子量が、54.4万であり、分子量保持率(%)は90.6%であった。前記PHA造粒体を対象としてデュロメータ―による硬さ測定を行った結果、当該PHA造粒体のJIS K 6253で示される強度は27.4であった。
【0090】
〔実施例2〕
二軸押出機の本体温度、すなわち
図1におけるC2-C6区間の温度を100℃とした以外は実施例1と同様の処理を行った。得られたPHA造粒体における水性溶媒の含有率は1.0%、嵩密度が0.26g/cm
3であり、溶融したおよそ1cmのPHA造粒体を得た。得られたPHA造粒体を
図3に示す。前記PHA造粒体におけるPHAは、その分子量が、51.0万であり、分子量保持率(%)は85.0%であった。前記PHA造粒体を対象としてデュロメータ―による硬さ測定を行った結果、当該PHA造粒体のJIS K 6253で示される強度は28.2であった。
【0091】
〔比較例1〕
二軸押出機の本体温度、すなわち
図1におけるC2-C6区間の温度を50℃とした以外は実施例1と同様の処理を行った。その結果、PHA造粒体を得ることはできなかった。
【0092】
〔実施例3〕
【0093】
実施例1と同一の方法にて、PHA湿潤粉体を得、当該PHA湿潤粉体を、二軸押出機KZW15TW―45MG(株式会社テクノベル製)に導入して造粒を行い、PHA造粒体を得た。前記二軸押出機KZW15TW―45MGの構造は、
図1におけるC6区間のニーディングスクリュー直後のスクリューを、ミキシングスクリューとした以外は、実施例1にて使用した二軸押出機と同一であった。前記造粒の条件は、吐出量は4kg/hで押出機のスクリュー回転速度は400rpmとし、本体温度、すなわち
図1に記載のC2―C6区間に相当する区間の温度を90℃との条件であった。得られたPHA造粒体の含水率は15.9%、嵩密度は0.38g/cm
3、粒子径(D(50))は1640μmであった。得られたPHA造粒体を
図4に示す。前記PHA造粒体におけるPHAは、その分子量が59.6万であり、分子量保持率(%)は99.3%であった。前記PHA造粒体を対象としてデュロメータ―による硬さ測定を行った結果、当該PHA造粒体のJIS K 6253で示される強度は、26.8であった。
【0094】
〔比較例2〕
WO2021/176941の実施例1と同じ手法でPHA凝集体、すなわちPHA造粒体を得た。具体的には、水性溶媒の含有率が46.5重量%であるPHA水性懸濁液を、設定温度150℃の条件にて、二軸押出機に導入して造粒を行い、PHA造粒体を得た。得られたPHA造粒体を対象としてデュロメータ―による硬さ測定を行った結果、当該PHA造粒体のJIS K 6253で示される強度は測定下限値以下であった。すなわち、得られたPHA造粒体の強度は測定できないほど弱かった。
【0095】
〔まとめ〕
実施例1~3と、比較例1、2との比較から、水性溶媒の含有率が特定の範囲(10~25重量%)であるPHA湿潤粉体を、設定温度60~110℃の二軸押出機中にて加熱することによって、強度が高く、取り扱い性が良好な硬いPHA造粒体を、簡便に製造することができることが分かった。
【0096】
また、実施例1と、実施例2との間の分子量保持率(%)の比較から、PHA湿潤粉体を二軸押出機中にて加熱して造粒するにあたって、当該二軸押出機の設定温度を、100℃未満、具体的には、60~95℃の範囲に制御することによって、製造されるPHA造粒体におけるPHAの分子量の低下を抑制することができ、樹脂物性を保つことができることが分かった。
本製造方法は、簡便な操作で、かつ、強度が高く、取り扱い性に優れるPHAを製造することができることから、PHAの製造において有利に使用できる。また、本製造方法により得られたPHA造粒体等は、農業、漁業、林業、園芸、医学、衛生品、衣料、非衣料、包装、自動車、建材、その他の分野に好適に利用することができる。