(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002804
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】波形鋼板ウェブ橋における波形鋼板ウェブと下床版との接合構造
(51)【国際特許分類】
E01D 1/00 20060101AFI20231228BHJP
E01D 2/04 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
E01D1/00 F
E01D1/00 H
E01D2/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022102226
(22)【出願日】2022-06-24
(71)【出願人】
【識別番号】000174943
【氏名又は名称】三井住友建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中積 健一
(72)【発明者】
【氏名】中島 大樹
(72)【発明者】
【氏名】下田 瑞斗
【テーマコード(参考)】
2D059
【Fターム(参考)】
2D059AA11
2D059GG55
(57)【要約】
【課題】波形鋼板ウェブ橋における波形鋼板ウェブとプレキャスト下床版部材を含む下床版との好適な接合構造を提供する。
【解決手段】波形鋼板ウェブ5と下床版6との接合構造18は、波形鋼板ウェブ5の下フランジ6と、下フランジ6に載置されたプレキャスト下床版部材11と、下フランジ6の上面に固定された平鋼板部21bと、波形鋼板ウェブ5の波形鋼板部8から突出する第1鉄筋と、プレキャスト下床版部材11から突出する第2鉄筋23と、第2鉄筋23よりも上方に配置されてプレキャスト下床版部材11から突出する第3鉄筋23,24と、平鋼板部21b及びこれらの鉄筋を埋設する場所打ちコンクリート部12とを備える。第2鉄筋23は、橋軸方向から見て少なくとも部分的に平鋼板部21bに重なるループ部23bを含む。第1鉄筋と第3鉄筋24は、重ね継手を形成する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋軸方向に延在して橋幅方向に互いに離間した波形鋼板部を有する複数の波形鋼板ウェブと、前記波形鋼板ウェブの下端部に連結した下床版と、前記波形鋼板ウェブの上端部に連結した上床版とを備える波形鋼板ウェブ橋における、前記波形鋼板ウェブと前記下床版との接合構造であって、
前記波形鋼板ウェブの一部を構成し、前記波形鋼板部の下端部に連結した下フランジと、
前記下床版の一部を構成し、前記橋幅方向の両端部が、互いに隣り合う2つの前記波形鋼板ウェブの前記下フランジに載置されたプレキャスト下床版部材と、
互いに前記橋軸方向に離間し、前記橋軸方向に直交するように、前記下フランジの上面に固定された、複数の平鋼板部と、
互いに前記橋軸方向に離間し、前記平鋼板部よりも上方に位置し、前記波形鋼板部から前記プレキャスト下床版部材に向かって突出した複数の第1鉄筋と、
互いに前記橋軸方向に離間し、前記プレキャスト下床版部材における前記橋幅方向のコンクリート側面から突出し、前記橋軸方向から見て前記平鋼板部に少なくとも部分的に重なるフック部を有する複数の第2鉄筋と、
互いに前記橋軸方向に離間し、前記第2鉄筋よりも上方に位置し、前記コンクリート側面から前記波形鋼板部に向かって突出し、前記第1鉄筋と重ね継手を形成する複数の第3鉄筋と、
前記平鋼板部及び前記第1~第3鉄筋を埋設するように、前記下フランジ上の前記プレキャスト下床版部材の前記橋幅方向の端部と前記波形鋼板部との間に打設された場所打ちコンクリート部と
を備える、接合構造。
【請求項2】
前記第1及び第3鉄筋は、拡径された突出端部を含む、請求項1に記載の接合構造。
【請求項3】
前記プレキャスト下床版部材の前記コンクリート側面は、前記第2鉄筋が突出する下部側面と、前記第3鉄筋が突出し、前記下部側面よりも前記橋幅方向に凹んだ上部側面とを含む、請求項1又は2に記載の接合構造。
【請求項4】
前記第1~第3鉄筋は、少なくとも部分的に前記場所打ちコンクリート部に埋設される継手部を含む、請求項1に記載の接合構造。
【請求項5】
橋軸方向に延在して前記場所打ちコンクリート部に埋設される第4鉄筋を更に備え、
前記平鋼板部は、前記第4鉄筋が挿通された貫通孔を有し、
前記第2鉄筋の前記フック部は、前記第4鉄筋と前記波形鋼板部との間を通る部分を含む、請求項1に記載の接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波形鋼板ウェブと、波形鋼板ウェブの下端部に連結したコンクリート造の下床版と、波形鋼板ウェブの上端部に連結したコンクリート造の上床版とを備える波形鋼板ウェブ橋における、波形鋼板ウェブと下床版との接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
波形鋼板ウェブ橋は、コンクリート箱桁橋のウェブを波形鋼板に置き換えたものに相当する。波形鋼板ウェブ橋は、コンクリート箱桁橋に比べて、自重の軽減、スパンの長大化、及び施工の省力化が可能な構造を有する。急峻な地形に波形鋼板ウェブ橋を架設する場合等は、地面に直接支持された支保工の組立は安全性及び施工性が懸念されるため、張出し架設工法が採用されることが多い。
【0003】
例えば、特許文献1及び2には、1ブロックの波形鋼板ウェブを張り出して取り付け、吊り支保工を用いて下床版を施工し、波形鋼板ウェブの上端部にプレキャストコンクリート部材であるリブ及び型枠板を取り付け、型枠板上にコンクリートを打設し、型枠板と打設したコンクリートを一体化して上床版とすることが記載されている。また、特許文献3には、移動台車を用い、1ブロックの波形鋼板ウェブを張り出して取り付け、波形鋼板ウェブの下端部にプレキャストコンクリート部材である型枠板を取り付け、型枠板上にコンクリートを打設し、型枠板と打設したコンクリートを一体化して下床版とすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-116059号公報
【特許文献2】特開2004-116060号公報
【特許文献3】特開2006-118314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1~3に記載の架設方法において、下床版及び上床版の少なくとも本体部分は、工事現場でレディーミクストコンクリートを打設することによって形成される。山間部に高速道路を建設する場合のように、近接区域に複数のコンクリート橋が施工される場合、レディーミクストコンクリートの需要量が、その区域のレディーミクストコンクリート工場の生産能力を超えるおそれがある。現場練りコンクリートは、大量生産に向かず、生産するために大きな労力が必要なため、現場練りコンクリートでレディーミクストコンクリートの不足を補うことは困難である。
【0006】
そこで、場所打ちコンクリートを減らすため、下床版の主要部にプレキャストコンクリート部材を使用することが考えられるが、プレキャストコンクリート部材と波形鋼板ウェブとをどのように接合するかが問題となる。
【0007】
本発明は、以上の背景に鑑み、波形鋼板ウェブ橋における波形鋼板ウェブとプレキャスト下床版部材を含む下床版との好適な接合構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明のある態様は、 橋軸方向に延在して橋幅方向に互いに離間した波形鋼板部(8)を有する複数の波形鋼板ウェブ(5)と、前記波形鋼板ウェブの下端部に連結した下床版(6)と、前記波形鋼板ウェブの上端部に連結した上床版(7)とを備える波形鋼板ウェブ橋(1)における、前記波形鋼板ウェブと前記下床版との接合構造(18)であって、前記波形鋼板ウェブの一部を構成し、前記波形鋼板部の下端部に連結した下フランジ(9)と、前記下床版の一部を構成し、前記橋幅方向の両端部が、互いに隣り合う2つの前記波形鋼板ウェブの前記下フランジに載置されたプレキャスト下床版部材(11)と、互いに前記橋軸方向に離間し、前記橋軸方向に直交するように、前記下フランジの上面に固定された、複数の平鋼板部(21b)と、互いに前記橋軸方向に離間し、前記平鋼板部よりも上方に位置し、前記波形鋼板部から前記プレキャスト下床版部材に向かって突出した複数の第1鉄筋(22)と、互いに前記橋軸方向に離間し、前記プレキャスト下床版部材における前記橋幅方向のコンクリート側面から突出し、前記橋軸方向から見て前記平鋼板部に少なくとも部分的に重なるフック部(23b)を有する複数の第2鉄筋(23)と、互いに前記橋軸方向に離間し、前記第2鉄筋よりも上方に位置し、前記コンクリート側面から前記波形鋼板部に向かって突出し、前記第1鉄筋と重ね継手を形成する複数の第3鉄筋(24)と、前記平鋼板部及び前記第1~第3鉄筋を埋設するように、前記下フランジ上の前記プレキャスト下床版部材の前記橋幅方向の端部と前記波形鋼板部との間に打設された場所打ちコンクリート部(12)とを備える。
【0009】
この態様によれば、平鋼板部と第2鉄筋とが部分的に橋軸方向に重なるように配置されるため橋軸方向に向かうせん断力に抵抗でき、第1及び第3鉄筋による重ね継手によって橋幅方向の力に抵抗でき、好適な接合構造が得られる。
【0010】
上記の態様において、前記第1及び第3鉄筋(22,24)は、拡径された突出端部(22d,24b)を含んでも良い。
【0011】
この態様によれば、突出端部によって、前記第1及び第3鉄筋の定着長及び重ね継手の長さを短くでき、場所打ちコンクリート部を小さくできる。
【0012】
上記の態様において、前記プレキャスト下床版部材(11)の前記コンクリート側面は、前記第2鉄筋(23)が突出する下部側面(11d)と、前記第3鉄筋(24)が突出し、前記下部側面よりも前記橋幅方向に凹んだ上部側面(11e)とを含んでも良い。
【0013】
この態様によれば、場所打ちコンクリート部の橋幅方向の長さにおいて、下部の長さを過大にすることなく、上部に必要な長さを確保でき、場所打ちコンクリートの使用量を削減できる。
【0014】
上記の態様において、前記第1~第3鉄筋(22,23,24)は、少なくとも部分的に前記場所打ちコンクリート部(12)に埋設される継手部(22b,23a,24a)を含んでも良い。
【0015】
この態様によれば、下フランジにプレキャスト下床版部材を載置した後に、第1~第3鉄筋を継ぐことができるため、第1~第3鉄筋は、下フランジにプレキャスト下床版部材を載置する作業を阻害しない。
【0016】
上記の態様において、橋軸方向に延在して前記場所打ちコンクリート部(12)に埋設される第4鉄筋(25)を更に備え、前記平鋼板部(21b)は、前記第4鉄筋が挿通された貫通孔(21c)を有し、前記第2鉄筋(23)の前記フック部(23b)は、前記第4鉄筋と前記波形鋼板部(8)との間を通る部分を含んでも良い。
【0017】
この態様によれば、第2及び第4鉄筋が、橋幅方向における波形鋼板ウェブとプレキャスト下床版部材とが互いに離れる方向の力に抵抗するため、両者の接合がより強固になる。
【発明の効果】
【0018】
以上の態様によれば、波形鋼板ウェブ橋における波形鋼板ウェブとプレキャスト下床版部材を含む下床版との好適な接合構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施形態に係る波形鋼板ウェブ橋の橋軸方向に直交する断面を示す図
【
図2】実施形態に係る波形鋼板ウェブ橋の架設工程を示す説明図
【
図3】実施形態に係る波形鋼板ウェブ橋の架設工程を示す斜視図
【
図4】実施形態に係る波形鋼板ウェブ橋における波形鋼板ウェブと下床版との接合部の水平断面を示す図
【
図5】実施形態に係る波形鋼板ウェブ橋の波形鋼板ウェブの下部の橋軸方向に直交する断面を示す図
【
図6】実施形態に係る波形鋼板ウェブ橋における波形鋼板ウェブと下床版との接合部の橋軸方向に直交する断面を示す図
【
図7】実施形態に係る波形鋼板ウェブ橋の施工途中における下床版の平面図
【
図8】実施形態に係る波形鋼板ウェブ橋の架設緊張材の延長方法を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、実施形態に係る波形鋼板ウェブ橋1を説明する。
図1及び
図2に示すように、波形鋼板ウェブ橋1は、複数の下部工躯体2と、複数の下部工躯体2間に架け渡された箱桁3と、箱桁3の橋幅方向の両端部に固定された壁高欄4とを備える。
【0021】
図2において、下部工躯体2は支点記号で示されており、
図2の紙面の右端に示される下部工躯体2は橋台であり、
図2の紙面の中央及び左端に示される下部工躯体2が橋脚であり、これよりも左方に他の橋脚及び橋台が存在するがその図示は省略されている。
【0022】
図1に示すように、箱桁3は、橋軸方向に延在して橋幅方向に互いに離間した2つの波形鋼板ウェブ5と、2つの波形鋼板ウェブ5の下端部に連結した下床版6と、2つの波形鋼板ウェブ5の上端部に連結した上床版7とを備える。本実施形態に係る波形鋼板ウェブ橋1は、上床版7上に舗装部20(
図3(F)参照)が設けられる道路橋であり、箱桁3は、路面と同様に、雨水を排水するための縦断勾配及び横断勾配を有する。なお、
図1では、下床版6及び上床版7に含まれる鉄筋及び緊張材等の図示を省略している。
【0023】
各々の波形鋼板ウェブ5は、波形鋼板部8と、波形鋼板部8の下端部に連結した下フランジ9と、波形鋼板部8の上端部に連結した上フランジ10とを含む。波形鋼板部8は、橋軸方向に向かうにつれて橋幅方向の内方及び外方に波打つように形成された鋼板によって形成される。下フランジ9及び上フランジ10は、上下方向に略直交する平板状の鋼板であって、波形鋼板部8の下端及び上端に溶接等によって固定され、波形鋼板部8よりも橋幅方向の内方及び外方に張り出している。下フランジ9の橋幅方向の内方への突出長は、上フランジ10の橋幅方向の内方への突出長よりも長い。
【0024】
下床版6は、橋幅方向の両端部において下フランジ9に載置されて、橋軸方向に分割された複数のプレキャスト下床版部材11と、下フランジ9上面、波形鋼板部8の橋幅方向の内面及びプレキャスト下床版部材11の橋幅方向の側面によって画成された凹部にレディーミクストコンクリートを打設することによって形成された場所打ちコンクリート部12とを含む。プレキャスト下床版部材11は、平板形状のプレキャストコンクリート部材であり、橋幅方向に延在する鉄筋である下部横筋11a及び上部横筋11b(
図6参照)と、橋軸方向に延在する鉄筋である縦筋(図示せず)と、これらの鉄筋を埋設するコンクリート部11c(
図6参照)を含む。上部横筋11bは、下部横筋11aと上下に整合するように、下部横筋11aの上方に配置される。プレキャスト下床版部材11を上方から落とし込んで下フランジ9に載置できるように、プレキャスト下床版部材11の橋幅方向の長さは、2つの上フランジ10の互いに対向する側縁部間の距離よりも短く、2つの下フランジ9の互いに対向する側縁部間の距離よりも長い。以下、語頭に「プレキャスト」と記した用語は、プレキャストコンクリート部材であることを意味する。
【0025】
上床版7は、2つの波形鋼板ウェブ5の上フランジ10に載置され、橋幅方向に延在し、橋軸方向に互いに離間して配置された複数のプレキャストリブ13と、プレキャストリブ13間に架け渡されて、橋軸方向に延在する複数のプレキャスト型枠板14と、上フランジ10上及びプレキャスト型枠板14上にレディーミクストコンクリートを打設することによって形成された上床版本体15とを含む。
【0026】
各々のプレキャストリブ13は、橋軸方向に直交する平板形状の部材である。プレキャストリブ13の橋幅方向の両端部は、波形鋼板ウェブ5よりも橋幅方向の外方に位置し、平面視で、上床版7の両端部に整合する。
【0027】
各々のプレキャスト型枠板14は、その主面がプレキャストリブ13の上縁に載置される平板形状の部材である。複数のプレキャスト型枠板14は、上フランジ10の直上の部分には配置されず、上フランジ10の直上部分以外のプレキャストリブ13の上縁に、橋幅方向に互いに隙間なく隣接して配置される。
【0028】
上床版本体15を構成するコンクリートは、橋軸方向及び橋幅方向に延在する鉄筋及び緊張材(図示せず)と、上フランジ10から上方に突出する頭付きスタッド(図示せず)とを埋設する。
【0029】
次に、波形鋼板ウェブ橋1の架設方法について説明する。なお、下床版6及び上床版7は、ブロック毎に張り出すように施工されるところ、
図3は、その1つのブロックを示している。
【0030】
まず、作業員は、
図2(A)に示すように、下部工躯体2上に柱頭部16を施工する。柱頭部16は、箱桁3の一部である。
【0031】
次に、作業員は、
図2(B)及び
図3(A)に示すように、互いに隣り合う柱頭部16間に波形鋼板ウェブ5を架け渡す。波形鋼板ウェブ5は、クレーン(図示せず)によって架設されも良く、張出架設工法や押出架設工法によって架設されても良い。波形鋼板ウェブ5は、少なくとも各径間毎に、下床版6及び上床版7の施工に先立って、その径間の全体に架設される。波形鋼板ウェブ5は、波形鋼板ウェブ橋1の全体として、下床版6及び上床版7の施工に先立って架設されても良い。
【0032】
次に、作業員は、
図2(B)に示すように、波形鋼板ウェブ5の上フランジ10に橋軸方向に移動可能に支持されて、下フランジ9よりも下方に位置する作業台17aを含む移動足場17を設置する。移動足場17は、主として、
図4~
図6に示す、波形鋼板ウェブ5と下床版6との接合構造18を構築するための足場として使用される。図示する例では、
図2の図面中央の柱頭部16から、左右の柱頭部16に向かって1ブロックずつ張り出すように下床版6及び上床版7を施工していくが、互いに隣り合う柱頭部16の双方から互いに向かって、下床版6及び上床版7を施工しても良い。
【0033】
次に、作業員は、
図3(B)に示すように、クレーン(図示せず)を用いて上から落とし込むように、プレキャスト下床版部材11を下フランジ9に載置し、移動足場17を利用して、
図4~
図6に示す接合構造18を構築する。接合構造18の構造及び施工方法については、後述する。
【0034】
そのブロックの接合構造18の施工後、作業員は、
図2(C)に示すように、移動足場17を1つのブロックの分だけ柱頭部16から張り出す向きに移動させ、上記と同様に新たなブロックの下床版6の施工を行うとともに、
図3(C)~
図3(E)に示すように、その1つ前のブロックであって下床版6が施工済みの部分の上方の上床版7を施工する。
【0035】
各ブロックにおける上床版7の施工では、作業員は、まず、
図3(C)に示すように、クレーン(図示せず)を用いて、2つの波形鋼板ウェブ間に架け渡すように、複数のプレキャストリブ13を2つの上フランジ10上に載置する。ここで、複数のプレキャストリブ13は、互いに橋軸方向に離間し、その主面が橋軸方向に直交するように配置される。次に、作業員は、
図3(D)に示すように、クレーン(図示せず)を用いて、これらのプレキャストリブ13上に複数のプレキャスト型枠板14を載置し、複数のプレキャスト型枠板14上に、鉄筋、橋幅方向に延在する緊張材、及び橋軸方向に延在する緊張材を挿通するためのシース(図示せず)を配置し、上フランジ10の橋幅方向の端部とその直上に位置するプレキャスト型枠板14の端部とを連結する型枠19を設置する。次に、作業員は、
図3(E)に示すように、上フランジ10及びプレキャスト型枠板14の上にコンクリートを打設して上床版本体15を形成し、橋幅方向に延在する緊張材を緊張する。張り出した上床版7の自重によるたわみを抑制するために、橋軸方向に延在する仮設の緊張材(図示せず)を外ケーブル方式で配置して、張り出した上床版7にプレストレスを与えても良い。なお、型枠19として、プレキャスト型枠板14を用いても良い。
【0036】
以下、作業員は、
図2(D)に示すように、1ブロックずつ下床版6の施工を張り出すように行うとともに、その1つ前のブロックの上床版7の施工を行うことを繰り返す。下床版6及び上床版7が隣接する柱頭部16(
図2の紙面左右の柱頭部16)まで到達したら、張り出すように構築された下床版6及び上床版7と柱頭部16との閉合を行う。閉合に使用する間詰コンクリートは、低発熱・低収縮のコンクリートであることが好ましい。
【0037】
その後、作業員は、
図3(F)に示すように、上床版7の橋幅方向の両端部に壁高欄4を設置し、上床版7上に舗装部20を施工する。なお、壁高欄4は、上床版7の全体の完成後に設置されることに代えて、各ブロックの上床版7の施工が終わる度にそのブロックに設置されても良い。上床版7の施工は、1ブロックずつ行うことに代えて、施工済みの下床版6の上方に位置する複数のブロックをまとめて行っても良い。
【0038】
図4~
図6を参照して、接合構造18について説明する。接合構造18は、下フランジ9、プレキャスト下床版部材11及び場所打ちコンクリート部12に加えて、下フランジ9の上面に固定されたアングルジベル21と、アングルジベル21よりも上方に位置し、波形鋼板部8からプレキャスト下床版部材11に向かって突出した複数の第1鉄筋22と、プレキャスト下床版部材11における橋幅方向のコンクリート側面から突出し、フック部23bを有する複数の第2鉄筋23と、第2鉄筋23よりも上方に位置し、プレキャスト下床版部材11における橋幅方向のコンクリート側面から波形鋼板部8に向かって突出する複数の第3鉄筋24と、橋軸方向に延在する第4鉄筋25と、モルタルによって下フランジ9及びプレキャスト下床版部材11の間に形成された不陸調整部26とを含む。アングルジベル21及び第1~第4鉄筋22,23,24,25は、場所打ちコンクリート部12に埋設される。
【0039】
図5及び
図6に示すように、アングルジベル21は、下フランジ9における橋幅方向の内方に突出する部分の上面に、互いに橋軸方向に離間するように複数配置される。各々のアングルジベル21は、矩形の平板を90°折り曲げた鋼材であり、表面が下フランジ9の上面に当接するように溶接等により固定された底板部21aと、橋軸方向に直交するように配置された平鋼板部21bとを含む。平鋼板部21bは、橋軸方向に貫通する貫通孔21cを有する。各々の平鋼板部21bに設けられた貫通孔21cは橋軸方向に整合しており、第4鉄筋25が貫通孔21cに挿通されている。
【0040】
図4及び
図5に示すように、第1鉄筋22は、波形鋼板部8に溶接等により固定された基部22aと、基部22aの先端に継手部22bを介して継ぎ足された継ぎ足し部22cとを含む。継手部22bは、例えばエンクローズ溶接により形成される。波形鋼板部8からプレキャスト下床版部材11に向かって突出した第1鉄筋22は、拡径された突出端部22dを含み、突出端部22dは、継ぎ足し部22cの継手部22bとは反対側の端部である。継手部22bの橋幅方向の位置は、プレキャスト下床版部材11を上方から落とし込めるように、プレキャスト下床版部材11の橋幅方向の側面よりも波形鋼板部8側である。第1鉄筋22は、平面視で、アングルジベル21の平鋼板部21bに重なるように配置されても良く、平鋼板部21bに対して橋軸方向にずれて配置されても良い。
【0041】
図6に示すように、第2鉄筋23は、プレキャスト下床版部材11の下部横筋11aに継手部23aによって継がれる。継手部23aは、例えば、めねじ加工されたスリーブに、おねじ加工された下部横筋11a及び第2鉄筋23を螺合させる機械式継手であっても良く、この場合、スリーブの少なくとも一部は、プレキャスト下床版部材11のコンクリート部11cの橋幅方向の側面に露出するように埋設されている。第2鉄筋23は、上方に向かって折れ曲がった形状を有するフック部23bを含む。フック部23bの折曲げ角度は180°であることが好ましいが、135°又は90°でも良い。フック部23bは、第4鉄筋25と波形鋼板部8との間を通る部分を含む。第2鉄筋23は、アングルジベル21の平鋼板部21bに対して橋軸方向にずれた位置に配置され、フック部23bは、橋軸方向から見て、少なくとも部分的にアングルジベル21の平鋼板部21bに重なる。
【0042】
図5及び
図6に示すように、第3鉄筋24は、プレキャスト下床版部材11の上部横筋11bに継手部24aによって継がれる。継手部24aは、例えば、第2鉄筋23の継手部23aと同様の機械式継手である。プレキャスト下床版部材11から波形鋼板部8に向かって突出した第3鉄筋24は、拡径された突出端部24bを含む。第3鉄筋24は、第2鉄筋23に上下に整合するように配置されることが好ましい。第3鉄筋24が配置される高さは、第1鉄筋22が配置される高さと略一致しており、第3鉄筋24は第1鉄筋22と重ね継手を形成する。第1鉄筋22の継ぎ足し部22cを基部22aに継ぐ作業、及び第3鉄筋24を上部横筋11bに継ぐ作業を容易に行えるように、第3鉄筋24は、第1鉄筋22とあき重ね継手を形成するように第1鉄筋22に対して橋軸方向にずれて配置されることが好ましい。
【0043】
プレキャスト下床版部材11のコンクリート部11cの橋幅方向の側面は、第2鉄筋23が突出している下部側面11dと、第3鉄筋24が突出し、下部側面11dよりも橋幅方向に凹んだ上部側面11eとを含む。
【0044】
図4~
図6を参照して、接合構造18の施工方法について説明する。作業員は、第1鉄筋22の基部22aが波形鋼板部8に固定された状態で、波形鋼板ウェブ5を柱頭部16間に架け渡す(
図2(B)参照)。作業員は、下フランジ9の橋幅方向の内方の端部上に不陸調整部26を形成するためのモルタルを打設する。作業員は、クレーン等(図示せず)を用いて、プレキャスト下床版部材11を上方から落とし込み、下フランジ9に不陸調整部26を介してプレキャスト下床版部材11の橋幅方向の両端部を載置する。作業員は、第1鉄筋22の継ぎ足し部22cを基部22aに継ぎ、第2鉄筋23をプレキャスト下床版部材11の下部横筋11aに継ぎ、第3鉄筋24をプレキャスト下床版部材11の上部横筋11bに継ぎ、第4鉄筋25を平鋼板部21bの貫通孔21cに挿通する。次に、作業員は、アングルジベル21及び第1~第4鉄筋22,23,24,25を埋設するように、下フランジ9上の、プレキャスト下床版部材11の橋幅方向の側面と波形鋼板部8との間にレディーミクストコンクリートを打設して場所打ちコンクリート部12を形成する。
【0045】
図7に示すように、下床版6は、橋軸方向に延在して完成後に緊張した状態が保たれる複数の本設緊張材27と、橋軸方向に延在し、施工途中において緊張され、完成後に撤去される複数の仮設緊張材28とを含む。仮設緊張材28は、施工途中の段階において、張り出した下床版6の自重によるたわみを抑制するために緊張されて、張り出した下床版6にプレストレスを与える。仮設緊張材28は、一端部において、柱頭部16(
図2参照)に定着されており、他端部において、新たなブロックの下床版6の施工が終わる度に、新たなブロックの下床版6にもプレストレスを与えるために延長される。新たに設置されたブロックのプレキャスト下床版部材11における、既設ブロックに対向する橋軸方向の端部には、仮設緊張材28が通過する平面視で矩形の2つの切り欠き部29が形成されている。なお、切り欠き部29は、既設ブロックのプレキャスト下床版部材11における、新たなブロックに対向する橋軸方向の端部に設けられても良い。切り欠き部29は、仮設緊張材28の延長作業を行うために利用され、仮設緊張材28の延長後には、切り欠き部29にレディーミクストコンクリートが打設されて、後埋めコンクリート部30が形成される。仮設緊張材28の延長は、1本ずつ、他の延長前又は延長後の仮設緊張材28が緊張された状態で行われる。仮設緊張材28は、PC鋼棒であることが好ましい。
【0046】
図8を参照して、仮設緊張材28の延長方法について説明する。
図8を用いた説明において、新たな延長前の状態で仮設緊張材28によってプレストレスを与えられていたプレキャスト下床版部材11の内、張り出し方向の端部に位置するプレキャスト下床版部材11を既設ブロックB(n)と記載し、新たに設置されたプレキャスト下床版部材11を新設ブロックB(n+1)と記す。ここで、nは1以上の整数であり、
図8(A)に示す状態では、B(1)からB(n)までのブロックに仮設緊張材28によってプレストレスが与えられている。また、
図8(B)~
図8(F)においては、その各々よりも上に記載した図から、変化のない部材は、符号を省略している。
【0047】
図8(A)に示すように、既設ブロックB(n)の橋軸方向における張り出す向きの端部には、仮設緊張材28の既設部28aに螺合したナット31と、既設ブロックB(n)及びナット31に挟持された支圧板32とを含む定着具33によって、仮設緊張材28の既設部28aが緊張された状態で定着されている。仮設緊張材28の既設部28a及びその延長部28bは、プレキャスト下床版部材11に埋設されたシース34内に挿通されている。仮設緊張材28は、アンボンド型である。新設ブロックB(n+1)のシース34における既設ブロックB(n)に対向する側には、第1カプラーシース35が設けられている。第1カプラーシース35は、新設ブロックB(n+1)に固定された固定部35aと、固定部35a内に部分的に受容され、固定部35aから露出するように固定部35aに対してスライド可能な中子部35bとを含む。
【0048】
作業員は、
図8(B)に示すように、仮設緊張材28の緊張を解放後、定着具33を仮設緊張材28の既設部28aから取り外す。
【0049】
次に、作業員は、
図8(C)に示すように、既設ブロックB(n)のシース34に、第1カプラーシース35の中子部35bに連結可能な第2カプラーシース36を取り付ける。
【0050】
次に、作業員は、
図8(D)に示すように、機械式継手37を用いて、仮設緊張材28の既設部28aに、延長部28bを接続する。
【0051】
次に、作業員は、
図8(E)に示すように、中子部35bをスライド移動させて第2カプラーシース36に接続し、既設部28a及び延長部28bが一体となった仮設緊張材28を緊張し、新設ブロックB(n+1)における橋軸方向の張り出す向きの端面に定着具33(
図8(A)参照)を用いて仮設緊張材28を定着し、柱頭部16(
図2参照)から新設ブロックB(n+1)までにプレストレスを与える。中子部35bにおける第2カプラーシース36への接合部と、中子部35bが第2カプラーシース36に接続した状態における固定部35aと中子部35bとの間とには、シール性を高めるため水膨張不織布38が配置されることが好ましい。
【0052】
全ての仮設緊張材28の延長し、延長した仮設緊張材28を緊張した後に、作業員は、
図8(F)に示すように切り欠き部29にレディーミクストコンクリートを打設して後埋めコンクリート部30を形成する。
【0053】
上記実施形態の作用効果について説明する。
【0054】
図1及び
図2に示すように、下床版6及び上床版7の施工において、波形鋼板ウェブ5を下床版6及び上床版7を施工するための支保工として利用できるため、地面に支持された支保工が不要となる。
【0055】
プレキャスト下床版部材11の橋幅方向の両端部が、柱頭部16間に架け渡された波形鋼板ウェブ5の下フランジ9に支持されるため、移動足場17は、特許文献1及び2に記載の吊り支保工と違って下床版6を支持する必要がないため、比較的簡素な構造とすることができる。
【0056】
波形鋼板ウェブ5が、プレキャスト下床版部材11を上方から落とし込んで下フランジ9に載置できる構造及び配置を有するため、下床版6の主要部にプレキャストコンクリート部材を使用でき、工事現場でのフレッシュコンクリートの使用量を削減できる。
【0057】
図4~
図6に示すように、アングルジベル21とフック部23bを有する第2鉄筋23との組み合わせによって、橋軸方向へのせん断力に抵抗するため、場所打ちコンクリート部12の下部の橋幅方向の幅を狭くできる。第1及び第3鉄筋22,24の重ね継手によって、橋幅方向の力に抵抗する。更に、第1及び第3鉄筋22,24が、拡径された突出端部22d,24bを有するため、第1及び第3鉄筋22,24の定着長を比較的短くすることや、重ね継手の長さを比較的短くすることができ、場所打ちコンクリート部12の上部の橋幅方向の幅を狭くできる。更に、プレキャスト下床版部材11の上部側面11eを下部側面11dよりも橋幅方向の内方に凹ませることにより、場所打ちコンクリート部12の橋幅方向の長さにおいて、下部の長さを過大にすることなく、上部に必要な長さを確保し、フレッシュコンクリートの使用量を削減できる。
【0058】
第1~第3鉄筋22,23,24が、プレキャスト下床版部材11を下フランジ9に載置した後に、継手部22b,23a,24aによって継がれるため、第1~第3鉄筋22,23,24は、プレキャスト下床版部材11を上方から落とし込んで下フランジ9に載置させる作業を阻害しない。
【0059】
第2鉄筋23のフック部23bが、アングルジベル21の貫通孔21cに挿通された第4鉄筋25と波形鋼板部8との間を通るため、プレキャスト下床版部材11と波形鋼板ウェブ5との接合が強固になる。フック部23bが180°の折り曲げ角度を有して、第4鉄筋25を巻き込むように配置された場合は、プレキャスト下床版部材11と波形鋼板ウェブ5との接合が更に強固になる。
【0060】
図7及び
図8に示すように、下床版6を張り出すように施工するにつれて、仮設緊張材28を延長するため、仮設緊張材28の既設部28aを利用して柱頭部16(
図2参照)から新たに設けられたプレキャスト下床版部材11までプレストレスを与えることができる。
【0061】
仮設緊張材28は、1本ずつ延長されるため、延長作業中もある程度のプレストレスを下床版6に与えることができる。
【0062】
プレキャスト下床版部材11に仮設緊張材28が通過する切り欠き部29が設けられているため、仮設緊張材28の延長作業を容易に行える。
【0063】
仮設緊張材28は、アンボンドでシース34に受容され、既設部28aと延長部28bとの接続部も第1及び第2カプラーシース35,36に覆われるため、仮設緊張材28にコンクリートが付着せず、緊張の解放、及び再緊張が容易に行える。第1カプラーシース35の中子部35bが水膨張不織布38を有することにより、後埋めコンクリート部30を形成するためレディーミクストコンクリートに対する第1及び第2カプラーシース35,36のシール性が高まり、仮設緊張材28にコンクリートが付着する可能性を更に低減できる。閉合後、仮設緊張材28が挿通されているシース34にグラウト(図示せず)が充填され、仮設緊張材28は、プレキャスト下床版部材11間において連続しているため、完成した波形鋼板ウェブ橋1の終局時のじん性を向上させる効果を有する。
【実施例0064】
上記実施形態の波形鋼板ウェブ5及び下床版6を備え、上床版7が設けられていない試験体を用いて試験を行った。試験台に下フランジ9を載置し、一方の波形鋼板ウェブ5の上端部をジャッキにより、橋幅方向に押し引きした。設計荷重時の首振りモーメントを再現したところ、場所打ちコンクリート部12と波形鋼板部8との接合面に肌隙は生じなかった。また、降伏モーメント荷重を載荷したところ、場所打ちコンクリート部12における想定していた断面にて、ひび割れが発生することを確認した。
【0065】
以上で具体的な実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態や変形例に限定されることなく、幅広く変形実施することができる。波形鋼板ウェブが3本以上あっても良く、この場合橋幅方向の中間部に位置する波形鋼板ウェブの下フランジには、橋幅方向の双方に、アングルジベル及び第1鉄筋が設けられてプレキャスト下床版部材が載置される。波形鋼板ウェブは、上方に向かうにつれて橋幅方向の外方に向かうように傾斜していても良い。