(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024028050
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】磁気記録媒体およびカートリッジ
(51)【国際特許分類】
G11B 5/70 20060101AFI20240222BHJP
G11B 5/78 20060101ALI20240222BHJP
G11B 5/73 20060101ALI20240222BHJP
G11B 21/10 20060101ALI20240222BHJP
G11B 5/714 20060101ALI20240222BHJP
G11B 5/738 20060101ALI20240222BHJP
G11B 5/735 20060101ALI20240222BHJP
G11B 5/706 20060101ALI20240222BHJP
G11B 23/037 20060101ALI20240222BHJP
G11B 5/09 20060101ALI20240222BHJP
G11B 5/84 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
G11B5/70
G11B5/78
G11B5/73
G11B21/10 B
G11B5/714
G11B5/738
G11B5/735
G11B5/706
G11B23/037
G11B5/09 331
G11B5/84 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022131380
(22)【出願日】2022-08-19
(71)【出願人】
【識別番号】000002185
【氏名又は名称】ソニーグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003236
【氏名又は名称】弁理士法人杉浦特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100123973
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 拓真
(74)【代理人】
【識別番号】100082762
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 正知
(74)【代理人】
【識別番号】100160440
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】山鹿 実
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 徹
【テーマコード(参考)】
5D006
5D112
【Fターム(参考)】
5D006BA06
5D006BA08
5D006BA19
5D006CA05
5D006CB01
5D006CC03
5D006EA01
5D112JJ02
5D112JJ04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】湿度変化に対する寸法安定性に優れる磁気記録媒体及びそれを備えるカートリッジを提供する。
【解決手段】テープ状の磁気記録媒体MTは、基体41と磁性層43とを備える。基体は、ポリエステル系樹脂を含む。磁気記録媒体の平均厚みが、5.30μm以下である。温度32℃、湿度20%RHの環境にて測定された平均クリープ傾きA
1と、温度32℃、湿度80%RHの環境にて測定された平均クリープ傾きA
2の比(A
2/A
1)が、1.440以下である。温度32℃、湿度20%RHの環境にて測定された平均Tanδ
1と、温度32℃、湿度80%RHの環境にて測定された平均Tanδ
2の比(平均Tanδ
2/平均Tanδ
1)が、1.2000以下である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
テープ状の磁気記録媒体であって、
基体と磁性層とを備え、
前記基体は、ポリエステル系樹脂を含み、
前記磁気記録媒体の平均厚みが、5.30μm以下であり、
温度32℃、湿度20%RHの環境にて測定された平均クリープ傾きA1と、温度32℃、湿度80%RHの環境にて測定された平均クリープ傾きA2の比(A2/A1)が、1.440以下であり、
温度32℃、湿度20%RHの環境にて測定された平均Tanδ1と、温度32℃、湿度80%RHの環境にて測定された平均Tanδ2の比(平均Tanδ2/平均Tanδ1)が、1.2000以下である、
磁気記録媒体。
【請求項2】
前記磁性層は、サーボパターンを有し、
前記サーボパターンは、複数の第1磁化領域と、複数の第2磁化領域とを含み、
前記複数の第1磁化領域と前記複数の第2磁化領域とは、前記磁気記録媒体の幅方向に平行な軸に対して非対称である、
請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
前記軸に対する前記第1磁化領域の傾斜角度と、前記軸に対する前記第2磁化領域の傾斜角度とが異なり、
前記第1磁化領域の傾斜角度および前記第2磁化領域の傾斜角度のうち、大きい方の傾斜角度は、18°以上28°以下である、
請求項2に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
前記磁性層は、磁性粒子を含み、
前記磁性粒子の平均粒子体積は、1500nm3以下である、
請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
前記平均クリープ傾きA1は、前記磁気記録媒体から取り出された複数の第1のサンプルのクリープ傾きの平均値であり、前記各第1のサンプルのクリープ傾きは、温度32℃、湿度20%RHの環境にて前記第1のサンプルにクリープ試験を行い、横軸を時間、縦軸をひずみとするグラフを取得し、該グラフの横軸を対数表示に変更し、変更後のグラフ中のデータを対数近似し近似直線の傾きを求めることにより得られ、
前記平均クリープ傾きA2は、前記磁気記録媒体から取り出された複数の第2のサンプルのクリープ傾きの平均値であり、前記各第2のサンプルのクリープ傾きは、温度32℃、湿度80%RHの環境にて前記第2のサンプルにクリープ試験を行い、横軸を時間、縦軸をひずみとするグラフを取得し、該グラフの横軸を対数表示に変更し、変更後のグラフ中のデータを対数近似し近似直線の傾きを求めることにより得られる、
請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
前記比(A2/A1)が、1.300以下であり、
前記比(平均Tanδ2/平均Tanδ1)が、1.1800以下である、
請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項7】
湿度80%RHの環境の温度変化に対する前記磁気記録媒体の平均幅変化量が、160nm/℃以下である、
請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項8】
温度32℃、湿度55%RHの環境における10年間のクリープ変形量が、66nm以下である、
請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項9】
前記磁性層は、800nm以下のデータトラック幅、および46nm以下のビット長で信号を記録可能に構成されている、
請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項10】
下地層をさらに備え、
前記下地層の平均厚みは、900nm以下である、
請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項11】
前記磁性層の平均厚みが、80nm以下である、
請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項12】
前記基体の平均厚みは、4.40μm以下である、
請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項13】
バック層をさらに備え、
前記バック層の平均厚みは、0.60μm以下である、
請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項14】
前記磁性層は、磁性粒子を含み、
前記磁性粒子は、六方晶フェライト、ε酸化鉄またはCo含有スピネルフェライトを含む、
請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項15】
請求項1に記載された磁気記録媒体を備える、
カートリッジ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、磁気記録媒体およびそれを備えるカートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
テープ状の磁気記録媒体は、データセンターをはじめとしてアーカイブ用途で広く使用されている。近年、カートリッジを高容量化するために、磁気記録媒体の厚みを薄くすることが望まれている。例えば特許文献1では、平均厚みは5.3μm以下である磁気記録媒体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、磁気記録媒体の厚みが薄くなると、高湿度環境下の温度変化に対する寸法安定性を維持することが困難となる虞がある。
【0005】
本開示の目的は、高湿度環境下の温度変化に対する寸法安定性に優れる磁気記録媒体およびそれを備えるカートリッジを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決するために、本開示に係る磁気記録媒体は、
テープ状の磁気記録媒体であって、
基体と磁性層とを備え、
基体は、ポリエステル系樹脂を含み、
磁気記録媒体の平均厚みが、5.30μm以下であり、
温度32℃、湿度20%RHの環境にて測定された平均クリープ傾きA1と、温度32℃、湿度80%RHの環境にて測定された平均クリープ傾きA2の比(A2/A1)が、1.440以下であり、
温度32℃、湿度20%RHの環境にて測定された平均Tanδ1と、温度32℃、湿度80%RHの環境にて測定された平均Tanδ2の比(平均Tanδ2/平均Tanδ1)が、1.2000以下である。
【0007】
本開示に係るカートリッジは、本開示に係る磁気記録媒体を備える。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係るカートリッジの構成の一例を示す分解斜視図である。
【
図2】
図2は、カートリッジメモリの構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、磁気テープの構成の一例を示す断面図である。
【
図4】
図4は、データバンドおよびサーボバンドのレイアウトの一例を示す概略図である。
【
図5】
図5は、データバンドの構成の一例を示す拡大図である。
【
図6】
図6は、サーボバンドの構成の一例を示す拡大図である。
【
図7】
図7は、粒子の形状の一例を示す斜視図である。
【
図8】
図8は、磁性層の断面TEM像の第1の例を示す図である。
【
図9】
図9は、磁性層の断面TEM像の第2の例を示す図である。
【
図10】
図10Aは、クリープ試験の荷重および当該荷重により得られるクリープ曲線の一例を示すグラフである。
図10Bは、
図10Aのクリープ曲線を拡大して示すグラフである。
図10Cは、
図10Bの横軸(時間軸)を対数表示に変更したグラフである。
【
図12】
図12は、エージング時間と平均サーボバンド間隔の関係のイメージの一例を示すグラフである。
【
図13】
図13は、本開示の一実施形態の変形例に係るカートリッジの構成の一例を示す分解斜視図である。
【
図14】
図14は、平均クリープ傾き比と平均tanδ比の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示の実施形態について以下の順序で説明する。
1 カートリッジの構成
2 カートリッジメモリの構成
3 磁気テープの構成
4 磁気テープの製造方法
5 作用効果
6 変形例
【0010】
本明細書において、測定方法の説明に関して測定環境が特に記載のない場合、測定は25℃±2℃、50%RH±5%RHの環境下にて行われるものとする。
【0011】
[1 カートリッジの構成]
図1は、カートリッジ10の構成の一例を示す分解斜視図である。カートリッジ10は、1リールタイプのカートリッジであり、下シェル12Aと上シェル12Bとで構成されるカートリッジケース12の内部に、テープ状の磁気記録媒体(以下「磁気テープ」という。)MTが巻かれた1つのリール13と、リール13の回転をロックするためのリールロック14およびリールスプリング15と、リール13のロック状態を解除するためのスパイダ16と、下シェル12Aと上シェル12Bに跨ってカートリッジケース12に設けられたテープ引出口12Cを開閉するスライドドア17と、スライドドア17をテープ引出口12Cの閉位置に付勢するドアスプリング18と、誤消去を防止するためのライトプロテクト19と、カートリッジメモリ11とを備える。磁気テープMTを巻くためのリール13は、中心部に開口を有する略円盤状であって、プラスチック等の硬質の材料からなるリールハブ13Aとフランジ13Bとにより構成される。磁気テープMTの外周側の端部には、リーダーテープLTが接続されている。リーダーテープLTの先端には、リーダーピン20が設けられている。
【0012】
カートリッジ10は、LTO(Linear Tape-Open)規格に準拠した磁気テープカートリッジであってもよいし、LTO規格とは別の規格に準拠した磁気テープカートリッジであってもよい。
【0013】
カートリッジメモリ11は、カートリッジ10の1つの角部の近傍に設けられている。カートリッジ10が記録再生装置にロードされた状態において、カートリッジメモリ11は、記録再生装置のリーダライタと対向するようになっている。カートリッジメモリ11は、LTO規格に準拠した無線通信規格で記録再生装置、具体的にはリーダライタと通信を行う。
【0014】
[2 カートリッジメモリの構成]
図2は、カートリッジメモリ11の構成の一例を示すブロック図である。カートリッジメモリ11は、規定の通信規格でリーダライタと通信を行うアンテナコイル(通信部)31と、アンテナコイル31により受信した電波から、誘導起電力を用いて発電、整流して電源を生成する整流・電源回路32と、アンテナコイル31により受信した電波から、同じく誘導起電力を用いてクロックを生成するクロック回路33と、アンテナコイル31により受信した電波の検波およびアンテナコイル31により送信する信号の変調を行う検波・変調回路34と、検波・変調回路34から抽出されるデジタル信号から、コマンドおよびデータを判別し、これを処理するための論理回路等で構成されるコントローラ(制御部)35と、情報を記憶するメモリ(記憶部)36とを備える。また、カートリッジメモリ11は、アンテナコイル31に対して並列に接続されたキャパシタ37を備え、アンテナコイル31とキャパシタ37により共振回路が構成される。
【0015】
メモリ36は、カートリッジ10に関連する情報等を記憶する。メモリ36は、不揮発性メモリ(Non Volatile Memory:NVM)である。メモリ36の記憶容量は、好ましくは約32KB以上である。
【0016】
メモリ36は、第1の記憶領域36Aと第2の記憶領域36Bとを有してもよい。第1の記憶領域36Aは、例えば、規定世代以前の磁気テープ規格(例えばLTO8以前のLTO規格)のカートリッジメモリの記憶領域に対応し、規定世代以前の磁気テープ規格に準拠した情報を記憶するための領域である。規定世代以前の磁気テープ規格に準拠した情報は、例えば製造情報(例えばカートリッジ10の固有番号等)、使用履歴(例えばテープ引出回数(Thread Count))等である。
【0017】
第2の記憶領域36Bは、規定世代以前の磁気テープ規格(例えばLTO8以前のLTO規格)のカートリッジメモリの記憶領域に対する拡張記憶領域に相当する。第2の記憶領域36Bは、付加情報を記憶するための領域である。ここで、付加情報は、例えば、規定世代以前の磁気テープ規格(例えばLTO8以前のLTO規格)で規定されていない、カートリッジ10に関連する情報を意味する。付加情報は、例えば、テンション調整情報、管理台帳データ、Index情報、およびサムネイル情報等からなる群より選ばれた少なくとも1種の情報を含むが、これらのデータに限定されるものではない。テンション調整情報は、磁気テープMTの長手方向にかかるテンションを調整するための情報である。テンション調整情報は、例えば、サーボバンド間の幅を磁気テープMTの長手方向に間欠的に測定して得られる情報、ドライブのテンション情報、およびドライブの温度と湿度の情報等からなる群より選ばれた少なくとも1種の情報を含む。これらの情報は、カートリッジ10の使用状況に関する情報等と連携して管理されることもある。テンション調整情報は、磁気テープMTに対するデータ記録時、もしくはデータ記録前に取得されることが好ましい。ドライブのテンション情報とは、磁気テープMTの長手方向にかかるテンションの情報を意味する。
【0018】
管理台帳データは、磁気テープMTに記録されているデータファイルの容量、作成日、編集日および保管場所等からなる群より選ばれた少なくとも1種を含むデータである。Index情報は、データファイルの内容を検索するためのメタデータなどである。サムネイル情報は、磁気テープMTに記憶された動画または静止画のサムネイルである。
【0019】
メモリ36は、複数のバンクを有していてもよい。この場合、複数のバンクうちの一部のバンクにより第1の記憶領域36Aが構成され、残りのバンクにより第2の記憶領域36Bが構成されてもよい。
【0020】
アンテナコイル31は、電磁誘導により誘起電圧を誘起する。コントローラ35は、アンテナコイル31を介して、規定の通信規格で記録再生装置と通信を行う。具体的には例えば、相互認証、コマンドの送受信またはデータのやり取り等を行う。
【0021】
コントローラ35は、アンテナコイル31を介して記録再生装置から受信した情報をメモリ36に記憶する。例えば、アンテナコイル31を介して記録再生装置から受信したテンション調整情報をメモリ36の第2の記憶領域36Bに記憶する。コントローラ35は、記録再生装置の要求に応じて、メモリ36から情報を読み出し、アンテナコイル31を介して記録再生装置に送信する。例えば、記録再生装置の要求に応じて、メモリ36の第2の記憶領域36Bからテンション調整情報を読み出し、アンテナコイル31を介して記録再生装置に送信する。
【0022】
[3 磁気テープの構成]
図3は、磁気テープMTの構成の一例を示す断面図である。磁気テープMTは、長尺状の基体41と、基体41の一方の主面(第1の主面)上に設けられた下地層42と、下地層42上に設けられた磁性層43と、基体41の他方の主面(第2の主面)上に設けられたバック層44とを備える。なお、下地層42およびバック層44は、必要に応じて備えられるものであり、無くてもよい。磁気テープMTは、垂直記録型の磁気記録媒体であってもよいし、長手記録型の磁気記録媒体であってもよい。磁気テープMTは、走行性の向上の観点から、潤滑剤を含むことが好ましい。潤滑剤は、下地層42および磁性層43のうちの少なくとも1層に含まれていてもよい。
【0023】
磁気テープMTはLTO規格に準拠するものであってもよいし、LTO規格とは別の規格に準拠するものであってもよい。磁気テープMTの幅は、1/2インチであってもよいし、1/2インチよりも広くてもよい。磁気テープMTがLTO規格に準拠するものである場合には、磁気テープMTの幅は、1/2インチである。磁気テープMTは、走行時に磁気テープMTの長手方向に加わるテンションを記録再生装置(ドライブ)により調整することで、磁気テープMTの幅を一定またはほぼ一定に保つことが可能な構成を有していてもよい。
【0024】
磁気テープMTは長尺状を有し、記録再生の際には長手方向に走行される。磁気テープMTは、記録用ヘッドとしてリング型ヘッドを備える記録再生装置で用いられることが好ましい。磁気テープMTは、1200nm以下または1000nm以下のデータトラック幅でデータを記録可能に構成された記録再生装置に用いられることが好ましい。
【0025】
磁気テープMTは、TMR素子を用いた再生ヘッドにより再生されることが好ましい。TMRを用いた再生ヘッドにより再生される信号は、データバンドDB(
図4参照)に記録されたデータであってもよいし、サーボバンドSB(
図4参照)に記録されたサーボパターン(サーボ信号)であってもよい。
【0026】
(基体)
基体41は、下地層42および磁性層43を支持する非磁性支持体である。基体41は、長尺のフィルム状を有する。基体41の平均厚みの上限値は、好ましくは4.40μm以下、より好ましくは4.20μm以下、さらにより好ましくは4.00μm以下、特に好ましくは3.80μm以下、最も好ましくは3.40μm以下である。基体41の平均厚みの上限値が4.40μm以下であると、1データカートリッジ内に記録できる記録容量を一般的な磁気テープよりも高めることができる。基体41の平均厚みの下限値は、好ましくは3.00μm以上、より好ましくは3.20μm以上である。基体41の平均厚みの下限値が3.00μm以上であると、基体41の強度低下を抑制することができる。
【0027】
基体41の平均厚みは以下のようにして求められる。まず、カートリッジ10に収容された磁気テープMTを巻き出し、磁気テープMTの外周側の一端から長手方向に30mから40mの位置で磁気テープMTを250mmの長さに切り出し、サンプルを作製する。本明細書において、“磁気テープMTの外周側の一端から長手方向”という場合の“長手方向”とは、磁気テープMTの外周側の一端から内周側の他端に向かう方向を意味する。
【0028】
続いて、サンプルの基体41以外の層(すなわち下地層42、磁性層43およびバック層44)をMEK(メチルエチルケトン)または希塩酸等の溶剤で除去する。次に、測定装置としてMitutoyo社製レーザーホロゲージ(LGH-110C)を用いて、サンプル(基体41)の厚みを5点の位置で測定し、それらの測定値を単純に平均(算術平均)して、基体41の平均厚みを算出する。なお、上記5点の測定位置は、磁気テープMTの長手方向においてそれぞれ異なる位置となるように、サンプルから無作為に選ばれるものとする。
【0029】
基体41は、例えば、ポリエステル系樹脂を主成分として含む。ポリエステル系樹脂は、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PBN(ポリブチレンナフタレート)、PCT(ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)、PEB(ポリエチレン-p(オキシベンゾエート)、およびポリエチレンビスフェノキシカルボキシレートからなる群より選ばれた少なくとも1種を含む。基体41が2種以上のポリエステル系樹脂を含む場合、それらの2種以上のポリエステル系樹脂は混合されていてもよいし、共重合されていてもよいし、または積層されていてもよい。ポリエステル系樹脂の末端および側鎖の少なくとも一方が変性されていてもよい。基体41は、ポリエステル系樹脂に加えて、後述のポリエステル系樹脂以外の樹脂を含んでもよい。
【0030】
本明細書内において、「主成分」とは、基体41を構成する成分のうち最も含有割合が高い成分であることを意味する。例えば、基体41の主成分がポリエステル系樹脂である場合、基体41中のポリエステル系樹脂の含有割合は、例えば、基体41の質量に対して50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、若しくは98質量%以上であってもよいし、または、基体41がポリエステル系樹脂のみから構成されていてもよい。
【0031】
基体41にポリエステル系樹脂が含まれていることは、例えば、次のようにして確認される。まず、基体41の平均厚みの測定方法と同様に、磁気テープMTを準備し、それを250mmの長さに切り出し、サンプルを作製した後、サンプルの基体41以外の層を除去する。次に、赤外吸収分光法(Infrared Absorption Spectrometry:IR)によりサンプル(基体41)のIRスペクトルを取得する。このIRスペクトルに基づき、基体41にポリエステル系樹脂が含まれていることを確認することができる。
【0032】
基体41は、ポリエステル系樹脂を含むことが好ましい。基体41がポリエステル系樹脂を含むことで、基体41の長手方向のヤング率を、好ましくは2.5GPa以上7.8GPa以下、より好ましくは3.0GPa以上7.0GPa以下に低減することができる。したがって、走行時における磁気テープMTの長手方向のテンションを記録再生装置により調整することで、磁気テープMTの幅を一定またはほぼ一定に保つことができる。基体41の長手方向のヤング率の測定方法については後述する。
【0033】
基体41は、ポリエステル系樹脂以外の樹脂を含んでいてもよい。この場合、ポリエステル系樹脂以外の樹脂が基体41の構成材料の主成分であってもよい。ポリエステル系樹脂以外の樹脂が基体41の構成材料の主成分である場合、基体41中のポリエステル系樹脂以外の樹脂の含有割合は、例えば、基体41の質量に対して50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、若しくは98質量%以上であってもよいし、または、基体41がポリエステル系樹脂以外の樹脂のみから構成されていてもよい。ポリエステル系樹脂以外の樹脂は、例えば、ポリオレフィン系樹脂、セルロース誘導体、ビニル系樹脂、およびその他の高分子樹脂からなる群より選ばれた少なくとも1種を含む。基体41が、これらの樹脂のうちの2種以上を含む場合、それらの2種以上の材料は混合されていてもよいし、共重合されていてもよいし、または積層されていてもよい。
【0034】
ポリオレフィン系樹脂は、例えば、PE(ポリエチレン)およびPP(ポリプロピレン)からなる群より選ばれた少なくとも1種を含む。セルロース誘導体は、例えば、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、CAB(セルロースアセテートブチレート)、およびCAP(セルロースアセテートプロピオネート)からなる群より選ばれた少なくとも1種を含む。ビニル系樹脂は、例えば、PVC(ポリ塩化ビニル)およびPVDC(ポリ塩化ビニリデン)からなる群より選ばれた少なくとも1種を含む。
【0035】
その他の高分子樹脂は、例えば、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PA(ポリアミド、ナイロン)、芳香族PA(芳香族ポリアミド、アラミド)、PI(ポリイミド)、芳香族PI(芳香族ポリイミド)、PAI(ポリアミドイミド)、芳香族PAI(芳香族ポリアミドイミド)、PBO(ポリベンゾオキサゾール、例えばザイロン(登録商標))、ポリエーテル、PEK(ポリエーテルケトン)、ポリエーテルエステル、PES(ポリエーテルサルフォン)、PEI(ポリエーテルイミド)、PSF(ポリスルフォン)、PPS(ポリフェニレンスルフィド)、PC(ポリカーボネート)、PAR(ポリアリレート)、およびPU(ポリウレタン)からなる群より選ばれた少なくとも1種を含む。具体的には例えば、基体41が、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PA(ポリアミド、ナイロン)、芳香族PA(芳香族ポリアミド、アラミド)、PI(ポリイミド)、芳香族PI(芳香族ポリイミド)、PAI(ポリアミドイミド)、芳香族PAI(芳香族ポリアミドイミド)、PBO(ポリベンゾオキサゾール、例えばザイロン(登録商標))、ポリエーテル、PEK(ポリエーテルケトン)、ポリエーテルエステル、PES(ポリエーテルサルフォン)、PEI(ポリエーテルイミド)、PSF(ポリスルフォン)、PPS(ポリフェニレンスルフィド)、PC(ポリカーボネート)、PAR(ポリアリレート)、またはPU(ポリウレタン)を主成分として含んでもよい。
【0036】
基体41は、長手方向および幅方向に二軸延伸されていてもよい。基体41に含まれる高分子樹脂は、基体41の幅方向に対して斜め方向に配向されていることが好ましい。
【0037】
(磁性層)
磁性層43は、信号を磁化パターンにより記録することが可能に構成されている。磁性層43は、垂直記録型の記録層であってもよいし、長手記録型の記録層であってもよい。磁性層43は、例えば、磁性粒子および結着剤を含む。磁性層43が、必要に応じて、導電粒子、研磨粒子、潤滑剤、硬化剤、防錆剤および非磁性補強粒子等からなる群より選ばれた少なくとも1種の添加剤をさらに含んでいてもよい。磁性層43は、複数の突起を磁性面に有していてもよい。複数の突起は、例えば、磁性面から突出した導電粒子および研磨粒子等により形成されている。
【0038】
磁性層43は、
図4に示すように、複数のサーボバンドSBと複数のデータバンドDBとを予め有していてもよい。複数のサーボバンドSBは、磁気テープMTの幅方向に等間隔で設けられている。隣り合うサーボバンドSBの間には、データバンドDBが設けられている。サーボバンドSBは、データの記録または再生時にヘッドユニット(磁気ヘッド)56(具体的にはサーボリードヘッド56A、56B)をガイドするためのものである。サーボバンドSBには、ヘッドユニット56のトラッキング制御をするためのサーボパターン(サーボ信号)が予め書き込まれている。データバンドDBには、ユーザデータが記録される。
【0039】
後述の非対称のサーボストライプ113(
図6参照)を読み取るために、ヘッドユニット56は、
図4に示すように、データの記録および再生時において、磁気テープMTの幅方向に平行な軸Axに対して斜めに維持可能に構成されていてもよい。あるいは、ヘッドユニット56が、データの記録および再生時において、磁気テープMTの蛇行または変形に追従して、上記軸Axに対して斜めになるように構成されていてもよい。磁気テープMTの幅方向に平行な軸Axを基準とするヘッドユニット56の傾斜角度は、好ましくは3°以上18°以下、より好ましくは5°以上15°以下である。
【0040】
磁性面(磁性層43の表面)の面積Sに対する複数のサーボバンドSBの総面積SSBの割合RS(=(SSB/S)×100)の上限値は、高記録容量を確保する観点から、好ましくは4.0%以下、より好ましくは3.5%以下、さらにより好ましくは3.0%以下である。一方、磁性面の面積Sに対する複数のサーボバンドSBの総面積SSBの割合RSの下限値は、5以上のサーボバンドSBを確保する観点から、好ましくは1.0%以上である。
【0041】
磁性面全体の面積Sに対する複数のサーボバンドSBの総面積SSBの比率RSは、以下のようにして求められる。磁気テープMTを、フェリコロイド現像液(株式会社シグマハイケミカル製、シグマーカーQ)を用いて現像し、その後、現像した磁気テープMTを光学顕微鏡で観察し、サーボバンド幅WSBおよびサーボバンドSBの本数を測定する。次に、以下の式から割合RSを求める。
割合RS[%]=(((サーボバンド幅WSB)×(サーボバンドSBの本数))/(磁気テープMTの幅))×100
【0042】
サーボバンドSBの本数は、例えば、5+4n(但し、nは0以上の整数である。)以上である。サーボバンドSBの本数は、好ましくは5以上、より好ましくは9以上である。サーボバンドSBの本数が5以上であると、磁気テープMTの幅方向の寸法変化によるサーボ信号への影響を抑制し、よりオフトラックが少ない安定した記録再生特性を確保できる。サーボバンドSBの本数の上限値は特に限定されるものではないが、例えば33以下である。
【0043】
サーボバンドSBの本数は、上記の比率RSの算出方法と同様にして求められる。
【0044】
サーボバンド幅WSBの上限値は、高記録容量を確保する観点から、好ましくは95μm以下、より好ましくは65μm以下、さらにより好ましくは50μm以下である。サーボバンド幅WSBの下限値は、好ましくは10μm以上である。10μm未満のサーボバンド幅WSBのサーボ信号を読み取り可能な磁気ヘッドは製造が困難である。
【0045】
サーボバンド幅WSBの幅は、上記の比率RSの算出方法と同様にして求められる。
【0046】
磁性層43は、
図5に示すように、データバンドDBに複数のデータトラックTkを形成可能に構成されている。データトラック幅Wの上限値は、トラック記録密度を向上し、高記録容量を確保する観点から、好ましくは1200nm以下、1000nm以下または800nm以下、特に好ましくは600nm以下ある。データトラック幅Wの下限値は、磁性粒子サイズを考慮すると、好ましくは20nm以上である。
【0047】
データトラック幅Wは以下のようにして求められる。まず、データが磁気テープMTの全面に記録されたカートリッジ10を準備し、このカートリッジ10から磁気テープMTを巻き出し、磁気テープMTの外周側の一端から長手方向に30mから40mの位置で磁気テープMTを250mmの長さに切り出しサンプルを作製する。続いて、サンプルの磁性層43のデータバンドDB部分のデータ記録パターンを磁気力顕微鏡(Magnetic Force Microscope:MFM)を用いて観察し、MFM像を得る。MFMとしてはDigital Instruments社製Dimension3100とその解析ソフトが用いられる。当該MFM像の測定領域は10μm×10μmとし、当該10μm×10μmの測定領域は512×512(=262,144)個の測定点に分割される。場所の異なる3つの10μm×10μm測定領域についてMFMによる測定が行われ、すなわち3つのMFM像が得られる。得られた3つのMFM像それぞれでトラック幅を10ヶ所測定し、合計で30ヶ所の測定値を取得し、30ヶ所の測定値の平均値(単純平均である)を算出する。当該平均値が、データトラック幅Wである。トラック幅の測定には、Dimension3100に付属の解析ソフトが用いられる。なお、上記MFMの測定条件は掃引速度:1Hz、使用チップ:MFMR-20、リフトハイト:20nm、補正:Flatten order 3である。
【0048】
磁性層43は、高記録容量を確保する観点から、磁化反転間距離の最小値Lminが好ましくは47nm以下、より好ましくは44nm以下、さらにより好ましくは42nm以下、特に好ましくは40nm以下となるように、データを記録可能に構成されている。磁化反転間距離の最小値Lminの下限値は、磁性粒子サイズを考慮すると、好ましくは20nm以上である。
【0049】
磁化反転間距離の最小値Lminは以下のようにして求められる。まず、データトラック幅Wの測定方法と同様にして、サンプルを作製する。続いて、サンプルの磁性層43のデータバンドDB部分のデータ記録パターンを磁気力顕微鏡(Magnetic Force Microscope:MFM)を用いて観察し、MFM像を得る。MFMとしてはDigital Instruments社製Dimension3100とその解析ソフトが用いられる。当該MFM像の測定領域は2μm×2μmとし、当該2μm×2μmの測定領域は512×512(=262,144)個の測定点に分割される。場所の異なる3つの2μm×2μm測定領域についてMFMによる測定が行われ、すなわち3つのMFM像が得られる。得られたMFM像の記録パターンの二次元の凹凸チャートからビット間距離を50個測定する。当該ビット間距離の測定は、Dimension3100に付属の解析ソフトを用いて行われる。測定された50個のビット間距離のおよそ最大公約数となる値を磁化反転間距離の最小値Lminとする。なお、測定条件は掃引速度:1Hz、使用チップ:MFMR-20、リフトハイト:20nm、補正:Flatten order 3である。
【0050】
データバンドDBに記録される信号のビット長Lbitは、磁気テープMTの記録密度の向上の観点から、好ましくは46nm以下、より好ましくは44nm以下、さらにより好ましくは42nm以下、特に好ましくは40nm以下である。
【0051】
データバンドDBに記録される信号のビット長Lbitは、磁化反転間距離の最小値Lminの測定方法と同様にして求められる。
【0052】
データバンドDBに記録される信号のビット面積は、磁気テープMTの記録密度の向上の観点から、好ましくは53000nm2以下、より好ましくは45000nm2以下、さらに好ましくは37000nm2以下、特に好ましくは30000nm2以下である。
【0053】
データバンドDBに記録される信号のビット面積は以下のようにして求められる。まず、データトラック幅Wの測定方法と同様にして、3つのMFM像を得る。次に、データトラック幅Wの測定方法およびビット長Lbitの測定方法と同様にして、データトラック幅Wおよびビット長Lbitを求める。次に、データトラック幅Wおよびビット長Lbitを用いて、データバンドDBに記録される信号のビット面積(W×Lbit)を求める。
【0054】
サーボパターンは、磁化領域であって、磁気テープ製造時にサーボライトヘッドにより磁性層43の特定の領域を特定方向に磁化することによって形成される。サーボバンドSBのうち、サーボパターンが形成されていない領域(以下「非パターン領域」という。)は、磁性層43が磁化された磁化領域であってもよいし、磁性層43が磁化されていない非磁化領域であってもよい。非パターン領域が磁化領域である場合、サーボパターン形成領域と非パターン領域とは、異なる方向(例えば逆方向)に磁化されている。
【0055】
LTO規格では、サーボバンドSBには、
図6に示すように、磁気テープMTの幅方向に平行な軸Axに対して傾斜した複数のサーボストライプ(線状の磁化領域)113からなるサーボパターンが形成されている。
【0056】
サーボバンドSBは、複数のサーボフレーム110を含んでいる。各サーボフレーム110は、18本のサーボストライプ113から構成されている。具体的には、各サーボフレーム110は、サーボサブフレーム1(111)およびサーボサブフレーム2(112)から構成される。
【0057】
サーボサブフレーム1(111)は、Aバースト111AおよびBバースト111Bから構成される。Bバースト111Bは、Aバースト111Aに隣接して配置されている。Aバースト111Aは、磁気テープMTの幅方向に平行な軸Axに対して所定角度θ
1で傾斜し規定間隔隔てて形成された5本のサーボストライプ113を備えている。
図6中では、これらの5本のサーボストライプ113に磁気テープMTのEOT(End Of Tape)からBOT(Beginning Of Tape)に向って符号A
1、A
2、A
3、A
4、A
5を付して示している。
【0058】
Bバースト111Bは、磁気テープMTの幅方向に平行な軸Axに対して所定角度θ
2で傾斜し規定間隔隔てて形成された5本のサーボストライプ113を備えている。
図6中では、これらの5本のサーボストライプ113に磁気テープMTのEOTからBOTに向って符号B
1、B
2、B
3、B
4、B
5を付して示している。
【0059】
Bバースト111Bのサーボストライプ113は、Aバースト111Aのサーボストライプ113とは逆向きに傾斜している。Aバースト111Aのサーボストライプ113とBバースト111Bのサーボストライプ113とは、磁気テープMTの幅方向に平行な軸Axに対して非対称性を有している。すなわち、Aバースト111Aのサーボストライプ113とBバースト111Bのサーボストライプ113は略ハの字状に配置されている。Aバースト111Aのサーボストライプ113とBバースト111Bのサーボストライプ113とが軸Axに対して非対称性を有することで、ヘッドユニット56が軸Axに対して斜めに傾いたときに、Aバースト111Aのサーボストライプ113とBバースト111Bのサーボストライプ113とがヘッドユニット56の摺動面の中心軸に対して略対称になる状態が存在する。この状態を基準にしてヘッドユニット56の傾きを変えることで、磁気テープMTの幅方向におけるサーボリードヘッド56A、56B間の距離を調整することが可能になる。したがって、磁気テープMTの幅が広がった場合と磁気テープMTの幅が縮んだ場合の両方の場合において、サーボリードヘッド56A、56BをそれぞれサーボバンドSBの規定位置に対向させることができる。なお、ヘッドユニット56の摺動面の中心軸とは、ヘッドユニット56の摺動面において、複数のサーボリードヘッド56A、56Bの中心を通る軸を意味する。
【0060】
Aバースト111Aのサーボストライプ113の傾斜角度である所定角度θ
1と、Bバースト111Bのサーボストライプ113の傾斜角度である所定角度θ
2とは異なっている。より具体的には、Aバースト111Aのサーボストライプ113の所定角度θ
1が、Bバースト111Bのサーボストライプ113の所定角度θ
2に比べて大きくてもよいし、Bバースト111Bのサーボストライプ113の所定角度θ
2が、Aバースト111Aのサーボストライプ113の所定角度θ
1に比べて大きくてもよい。すなわち、Aバースト111Aのサーボストライプ113の傾斜が、Bバースト111Bのサーボストライプ113の傾斜に比べて大きくてもよいし、Bバースト111Bのサーボストライプ113の傾斜が、Aバースト111Aのサーボストライプ113の傾斜に比べて大きくてもよい。なお、
図6では、Aバースト111Aのサーボストライプ113の所定角度θ
1が、Bバースト111Bのサーボストライプ113の所定角度θ
2に比べて大きい例が示されている。以下では、Aバースト111Aのサーボストライプ113の所定角度θ
1が、Bバースト111Bのサーボストライプ113の所定角度θ
2に比べて大きい場合について説明する。
【0061】
サーボサブフレーム2(112)は、Cバースト112CおよびDバースト112Dから構成される。Dバースト112Dは、Cバースト112Cに隣接して配置されている。Cバースト112Cは、磁気テープMTの幅方向に平行な軸Axに対して所定角度θ
1で傾斜し規定間隔隔てて形成された4本のサーボストライプ113を備えている。
図6中では、これらの4本のサーボストライプ113に磁気テープMTのEOTからBOTに向って符号C
1、C
2、C
3、C
4を付して示している。
【0062】
Dバースト112Dは、磁気テープMTの幅方向に平行な軸Axに対して所定角度θ
2で傾斜し規定間隔隔てて形成された4本のサーボストライプ113を備えている。
図6中では、これらの4本のサーボストライプ113に磁気テープMTのEOTからBOTに向って符号D
1、D
2、D
3、D
4を付して示している。
【0063】
Dバースト112Dのサーボストライプ113は、Cバースト112Cのサーボストライプ113とは逆向きに傾斜している。Cバースト112Cのサーボストライプ113とDバースト112Dのサーボストライプ113とは、磁気テープMTの幅方向に平行な軸Axに対して非対称性を有している。すなわち、Cバースト112Cのサーボストライプ113とDバースト112Dのサーボストライプ113は略ハの字状に配置されている。Cバースト112Cのサーボストライプ113とDバースト112Dのサーボストライプ113とが軸Axに対して非対称性を有することで、ヘッドユニット56が軸Axに対して斜めに傾いたときに、Cバースト112Cのサーボストライプ113とDバースト112Dのサーボストライプ113とがヘッドユニット56の中心軸に対して略対称になる状態が存在する。この状態を基準にしてヘッドユニット56の傾きを変えることで、サーボ間距離を調整することが可能になる。
【0064】
Cバースト112Cのサーボストライプ113の傾斜角度である所定角度θ
1と、Dバースト112Dのサーボストライプ113の傾斜角度である所定角度θ
2とは異なっている。より具体的には、Cバースト112Cのサーボストライプ113の所定角度θ
1が、Dバースト112Dのサーボストライプ113の所定角度θ
2に比べて大きくてもよいし、Dバースト112Dのサーボストライプ113の所定角度θ
2が、Cバースト112Cのサーボストライプ113の所定角度θ
1に比べて大きくてもよい。すなわち、Cバースト112Cのサーボストライプ113の傾斜が、Dバースト112Dのサーボストライプ113の傾斜に比べて大きくてもよいし、Dバースト112Dのサーボストライプ113の傾斜が、Cバースト112Cのサーボストライプ113の傾斜に比べて大きくてもよい。なお、
図6では、Cバースト112Cのサーボストライプ113の所定角度θ
1が、Dバースト112Dのサーボストライプ113の所定角度θ
2に比べて大きい例が示されている。以下では、Cバースト112Cのサーボストライプ113の所定角度θ
1が、Dバースト112Dのサーボストライプ113の所定角度θ
2に比べて大きい場合について説明する。
【0065】
Aバースト111AおよびCバースト112Cにおけるサーボストライプ113の上記所定角度θ1は、好ましくは18°以上28°以下、より好ましくは18°以上26°以下である。Bバースト111BおよびDバースト112Dにおけるサーボストライプ113の上記所定角度θ2は、好ましくは-4°以上6°以下、より好ましくは-2°以上6°以下である。Aバースト111AおよびCバースト112Cにおけるサーボストライプ113は、第1磁化領域の一例である。Bバースト111BおよびDバースト112Dにおけるサーボストライプ113は、第2磁化領域の一例である。
【0066】
サーボバンドSBをヘッドユニット56で読み取りことにより、テープ速度およびヘッドユニット56の縦方向の位置を取得するための情報が得られる。テープ速度は、4つのタイミング信号(A1-C1、A2-C2、A3-C3、A4-C4)間の時間から計算される。ヘッド位置は、前述の4つのタイミング信号間の時間および別の4つのタイミング信号(A1-B1、A2-B2、A3-B3、A4-B4)間の時間から計算される。サーボパターンは、平行な2本の線を含む形状でもよい。
【0067】
図6に示すように、サーボパターン(すなわち複数のサーボストライプ113)は、磁気テープMTの長手方向に向って直線的に配列されていることが好ましい。すなわち、サーボバンドSBは、磁気テープMTの長手方向に直線状を有していることが好ましい。
【0068】
磁性層43の平均厚みt1の上限値は、好ましくは80nm以下、より好ましくは65nm以下、さらにより好ましくは55nm以下である。磁性層43の平均厚みt1の上限値が80nm以下であると、記録ヘッドとしてはリング型ヘッドを用いた場合に、反磁界の影響を軽減できるため、さらに優れた電磁変換特性を得ることができる。
【0069】
磁性層43の平均厚みt1の下限値は、好ましくは35nm以上である。磁性層43の平均厚みt1の下限値が35nm以上であると、再生ヘッドとしてはMR型ヘッドを用いた場合に、出力を確保できるため、さらに優れた電磁変換特性を得ることができる。
【0070】
磁性層43の平均厚みt1は、以下のようにして求められる。まず、カートリッジ10に収容された磁気テープMTを巻き出し、磁気テープMTの外周側の一端から長手方向に10mから20mの位置、30mから40mの位置、50mから60mの位置のそれぞれから磁気テープMTを250mmの長さに切り出し3つのサンプルを作製する。続いて、各サンプルをFIB法等により加工して薄片化を行う。FIB法を使用する場合には、後述の断面のTEM像を観察する前処理として、保護膜としてカーボン層およびタングステン層を形成する。当該カーボン層は蒸着法により磁気テープMTの磁性層43側の表面およびバック層44側の表面に形成され、そして、当該タングステン層は蒸着法またはスパッタリング法により磁性層43側の表面にさらに形成される。当該薄片化は磁気テープMTの長手方向に沿って行われる。すなわち、当該薄片化によって、磁気テープMTの長手方向および厚み方向の両方に平行な断面が形成される。
【0071】
得られた各薄片化サンプルの上記断面を、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)により、下記の条件で観察し、各薄片化サンプルのTEM像を得る。なお、装置の種類に応じて、倍率および加速電圧は適宜調整されてよい。
装置:TEM(日立製作所製H9000NAR)
加速電圧:300kV
倍率:100,000倍
【0072】
次に、得られた各薄片化サンプルのTEM像を用い、各薄片化サンプルの10点の位置で磁性層43の厚みを測定する。なお、各薄片化サンプルの10点の測定位置は、磁気テープMTの長手方向においてそれぞれ異なる位置となるように、サンプルから無作為に選ばれる。得られた各薄片化サンプルの測定値(合計で30点の磁性層43の厚み)を単純に平均(算術平均)して得られた平均値を磁性層43の平均厚みt1[nm]とする。
【0073】
(磁性粒子)
磁性粒子は、例えば、六方晶フェライトを含む粒子(以下「六方晶フェライト粒子」という。)、イプシロン型酸化鉄(ε酸化鉄)を含む粒子(以下「ε酸化鉄粒子」という。)またはCo含有スピネルフェライトを含む粒子(以下「コバルトフェライト粒子」という。)である。磁性粒子は、磁気テープMTの垂直方向に優先的に結晶配向していることが好ましい。本明細書において、磁気テープMTの垂直方向(厚み方向)とは、平面状態にある磁気テープMTの厚み方向を意味する。
【0074】
(六方晶フェライト粒子)
六方晶フェライト粒子は、例えば、六角板状等の板状または六角柱状等の柱状(但し、厚さまたは高さが板面または底面の長径より小さい。)を有する。本明細書において、六角板状は、ほぼ六角板状を含むものとする。六方晶フェライトは、好ましくはBa、Sr、PbおよびCaからなる群より選ばれた少なくとも1種、より好ましくはBaおよびSrからなる群より選ばれた少なくとも1種を含む。六方晶フェライトは、具体的には例えばバリウムフェライトまたはストロンチウムフェライトであってもよい。バリウムフェライトは、Ba以外にSr、PbおよびCaからなる群より選ばれた少なくとも1種をさらに含んでいてもよい。ストロンチウムフェライトは、Sr以外にBa、PbおよびCaからなる群より選ばれた少なくとも1種をさらに含んでいてもよい。
【0075】
より具体的には、六方晶フェライトは、一般式MFe12O19で表される平均組成を有する。但し、Mは、例えばBa、Sr、PbおよびCaからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属、好ましくはBaおよびSrからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属である。Mが、Baと、Sr、PbおよびCaからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属との組み合わせであってもよい。また、Mが、Srと、Ba、PbおよびCaからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属との組み合わせであってもよい。上記一般式においてFeの一部が他の金属元素で置換されていてもよい。
【0076】
磁性粒子が六方晶フェライト粒子である場合、磁性粒子の平均粒子サイズは、好ましくは13nm以上20nm以下、より好ましくは13nm以上19nm以下、さらにより好ましくは13nm以上18nm以下、特に好ましくは14nm以上17nm以下、最も好ましくは14nm以上16nm以下である。磁性粒子の平均粒子サイズが20nm以下であると、高記録密度の磁気テープMTにおいて、さらに優れた電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。一方、磁性粒子の平均粒子サイズが13nm以上であると、磁性粒子の分散性がより向上し、さらに優れた電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。
【0077】
磁性粒子が六方晶フェライト粒子である場合、磁性粒子の平均アスペクト比が、好ましくは1.0以上3.0以下、より好ましくは1.5以上2.8以下、さらにより好ましくは1.8以上2.7以下である。磁性粒子の平均アスペクト比が1.0以上3.0以下の範囲内であると、磁性粒子の凝集を抑制することができる。また、磁性層43の形成工程において磁性粒子を垂直配向させる際に、磁性粒子に加わる抵抗を抑制することができる。したがって、磁性粒子の垂直配向性を向上することができる。
【0078】
磁性粒子が六方晶フェライト粒子である場合、磁性粒子の平均粒子サイズおよび平均アスペクト比は以下のようにして求められる。まず、カートリッジ10に収容された磁気テープMTを巻き出し、磁気テープMTの外周側の一端から長手方向に30mから40mの位置で磁気テープMTを切り出す。続いて、測定対象となる磁気テープMTをFIB法等により加工して薄片化を行う。FIB法を使用する場合には、後述の断面のTEM像を観察する前処理として、保護膜としてカーボン層およびタングステン層を形成する。当該カーボン層は蒸着法により磁気テープMTの磁性層43側の表面およびバック層44側の表面に形成され、そして、当該タングステン層は蒸着法またはスパッタリング法により磁性層43側の表面にさらに形成される。当該薄片化は磁気テープMTの長さ方向(長手方向)に沿って行われる。すなわち、当該薄片化によって、磁気テープMTの長手方向および厚み方向の両方に平行な断面が形成される。
【0079】
得られた薄片サンプルの上記断面を、透過電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製 H-9500)を用いて、加速電圧:200kV、総合倍率500,000倍で磁性層43の厚み方向に対して磁性層43全体が含まれるように断面観察を行い、TEM像を撮影する。TEM像は、下記で示す板径DBおよび板厚DA(
図7参照)を測定できる粒子を50個抽出できる枚数準備する。
【0080】
本明細書では、六方晶フェライトの粒子のサイズ(以下、「粒子サイズ」という。)は、上記のTEM像において観察される粒子の形状が、
図7に示すように、板状または柱状(但し、厚さまたは高さが板面または底面の長径より小さい。)である場合には、その板面または底面の長径を板径DBの値とする。上記のTEM像において観察される粒子の厚さまたは高さを板厚DAの値とする。TEM像において観察される一粒子内にて粒子の厚さまたは高さが一定でない場合には、最大の粒子の厚さまたは高さを板厚DAとする。
【0081】
次に、撮影したTEM像から抽出する50個の粒子を、下記の基準に基づき選び出す。粒子の一部がTEM像の視野の外にはみだしている粒子は測定せず、輪郭がはっきりしており、孤立して存在している粒子を測定する。粒子同士に重なりがある場合は、両者の境界が明瞭で、粒子全体の形状も判断可能な粒子は、それぞれの粒子を単独粒子として測定するが、境界がはっきりせず、粒子の全形も判らない粒子は、粒子の形状が判断できないものとして測定しない。
【0082】
図8、
図9にそれぞれ、TEM像の第1の例、第2の例を示す。
図8、
図9において、例えば矢印aおよびdで示される粒子が、その粒子の板厚(その粒子の厚さまたは高さ)DAを明らかに確認できるので、選択される。選択された50個の粒子それぞれの板厚DAを測定する。このようにして求めた板厚DAを単純に平均(算術平均)して平均板厚DA
aveを求める。平均板厚DA
aveが平均粒子板厚である。続いて、各磁性粒子の板径DBを測定する。粒子の板径DBを測定するために、撮影したTEM像から、粒子の板径DBを明らかに確認できる粒子を50個選び出す。例えば、
図8、
図9において、例えば矢印bおよびcで示される粒子が、その板径DBを明らかに確認できるので、選択される。選択された50個の粒子それぞれの板径DBを測定する。このようにして求めた板径DBを単純平均(算術平均)して平均板径DB
aveを求める。平均板径DB
aveが、平均粒子サイズである。そして、平均板厚DA
aveおよび平均板径DB
aveから粒子の平均アスペクト比(DB
ave/DA
ave)を求める。
【0083】
磁性粒子が六方晶フェライト粒子である場合、磁性粒子の平均粒子体積は、好ましくは500nm3以上2500nm3以下、より好ましくは500nm3以上1500nm3以下、さらに好ましくは500nm3以上1400nm3以下、特に好ましくは600nm3以上1200nm3以下、最も好ましくは600nm3以上1000nm3以下である。磁性粒子の平均粒子体積が2500nm3以下であると、磁性粒子の平均粒子サイズを22nm以下とする場合と同様の効果が得られる。一方、磁性粒子の平均粒子体積が500nm3以上であると、磁性粒子の平均粒子サイズを13nm以上とする場合と同様の効果が得られる。
【0084】
磁性粒子の平均粒子体積は以下のようにして求められる。まず、上記の磁性粒子の平均粒子サイズの算出方法に関して述べた通り、平均板厚DA
aveおよび平均板径DB
aveを求める。次に、以下の式により、磁性粒子の平均体積Vを求める。
【数1】
【0085】
(ε酸化鉄粒子)
ε酸化鉄粒子は、微粒子でも高保磁力を得ることができる硬磁性粒子である。ε酸化鉄粒子は、球状を有しているか、または立方体状を有している。本明細書において、球状は、ほぼ球状を含むものとする。また、立方体状には、ほぼ立方体状を含むものとする。ε酸化鉄粒子が上記のような形状を有しているため、磁性粒子としてε酸化鉄粒子を用いた場合、磁性粒子として六角板状のバリウムフェライト粒子を用いた場合に比べて、磁気テープMTの厚み方向における粒子同士の接触面積を低減し、粒子同士の凝集を抑制することができる。したがって、磁性粒子の分散性を高め、さらに優れた電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。
【0086】
ε酸化鉄粒子は、複合粒子の構造を有していてもよい。より具体的には、ε酸化鉄粒子は、ε酸化鉄部と、軟磁性を有する部分もしくは、ε酸化鉄より飽和磁化量σsが高く、保磁力Hcが小さい磁性を有する部分(以下「軟磁性を有する部分等」という。)とを備える。
【0087】
ε酸化鉄部は、ε酸化鉄を含む。ε酸化鉄部に含まれるε酸化鉄は、ε-Fe2O3結晶を主相とするものが好ましく、単相のε-Fe2O3からなるものがより好ましい。
【0088】
軟磁性を有する部分等は、少なくともε酸化鉄部と一部で接している。具体的には、軟磁性を有する部分等は、ε酸化鉄部を部分的に覆っていてもよいし、ε酸化鉄部の周囲全体を覆っていてもよい。
【0089】
軟磁性を有する部分(ε酸化鉄より飽和磁化量σsが高く、保磁力Hcが小さい磁性を有する部分)は、例えば、α-Fe、Ni-Fe合金またはFe-Si-Al合金等の軟磁性体を含む。α-Feは、ε酸化鉄部に含まれるε酸化鉄を還元することにより得られるものであってもよい。
【0090】
また、軟磁性を有する部分は、例えば、Fe3O4、γ-Fe2O3、またはスピネルフェライト等を含んでいてもよい。
【0091】
ε酸化鉄粒子が、上記のように軟磁性を有する部分等を備えることで、熱安定性を確保するためにε酸化鉄部単体の保磁力Hcを大きな値に保ちつつ、ε酸化鉄粒子(複合粒子)全体としての保磁力Hcを記録に適した保磁力Hcに調整できる。
【0092】
ε酸化鉄粒子が、上記複合粒子の構造に代えて添加剤を含んでいてもよいし、上記複合粒子の構造を有すると共に添加剤を含んでいてもよい。この場合、ε酸化鉄粒子のFeの一部が添加剤で置換される。ε酸化鉄粒子が添加剤を含むことによっても、ε酸化鉄粒子全体としての保磁力Hcを記録に適した保磁力Hcに調整できるため、記録容易性を向上することができる。添加剤は、鉄以外の金属元素、好ましくは3価の金属元素、より好ましくはAl、GaおよびInからなる群より選ばれた少なくとも1種、さらにより好ましくはAlおよびGaからなる群より選ばれた少なくとも1種である。
【0093】
具体的には、添加剤を含むε酸化鉄は、ε-Fe2-xMxO3結晶(但し、Mは鉄以外の金属元素、好ましくは3価の金属元素、より好ましくはAl、GaおよびInからなる群より選ばれた少なくとも1種、さらにより好ましくはAlおよびGaからなる群より選ばれた少なくとも1種である。xは、例えば0<x<1である。)である。
【0094】
磁性粒子がε酸化鉄粒子である場合、磁性粒子の平均粒子サイズは、好ましくは10nm以上20nm以下、より好ましくは10nm以上18nm以下、さらにより好ましくは10nm以上16nm以下、特に好ましくは10nm以上15nm以下、最も好ましくは10nm以上14nm以下である。磁気テープMTでは、記録波長の1/2のサイズの領域が実際の磁化領域となる。このため、磁性粒子の平均粒子サイズを最短記録波長の半分以下に設定することで、さらに優れた電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。したがって、磁性粒子の平均粒子サイズが20nm以下であると、高記録密度の磁気テープMT(例えば40nm以下の最短記録波長で信号を記録可能に構成された磁気テープMT)において、さらに優れた電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。一方、磁性粒子の平均粒子サイズが10nm以上であると、磁性粒子の分散性がより向上し、さらに優れた電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。
【0095】
磁性粒子がε酸化鉄粒子である場合、磁性粒子の平均アスペクト比が、好ましくは1.0以上3.0以下、より好ましくは1.0以上2.5以下、さらにより好ましくは1.0以上2.1以下、特に好ましくは1.0以上1.8以下である。磁性粒子の平均アスペクト比が1.0以上3.0以下の範囲内であると、磁性粒子の凝集を抑制することができる。また、磁性層43の形成工程において磁性粒子を垂直配向させる際に、磁性粒子に加わる抵抗を抑制することができる。したがって、磁性粒子の垂直配向性を向上することができる。
【0096】
磁性粒子がε酸化鉄粒子である場合、磁性粒子の平均粒子サイズおよび平均アスペクト比は、以下のようにして求められる。まず、カートリッジ10に収容された磁気テープMTを巻き出し、磁気テープMTの外周側の一端から長手方向に30mから40mの位置で磁気テープMTを切り出す。続いて、測定対象となる磁気テープMTをFIB(Focused Ion Beam)法等により加工して薄片化を行う。FIB法を使用する場合には、後述の断面のTEM像を観察する前処理として、保護層としてカーボン層およびタングステン層を形成する。当該カーボン層は蒸着法により磁気テープMTの磁性層43側の表面およびバック層44側の表面に形成され、そして、当該タングステン層は蒸着法またはスパッタリング法により磁性層43側の表面にさらに形成される。薄片化は磁気テープMTの長さ方向(長手方向)に沿うかたちで行って行われる。すなわち、当該薄片化によって、磁気テープMTの長手方向および厚み方向の両方に平行な断面が形成される。
【0097】
得られた薄片サンプルの上記断面を、透過電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製 H-9500)を用いて、加速電圧:200kV、総合倍率500,000倍で磁性層43の厚み方向に対して磁性層43全体が含まれるように断面観察を行い、TEM像を撮影する。次に、撮影したTEM像から、粒子の形状を明らかに確認することができる50個の粒子を選び出し、各粒子の長軸長DLと短軸長DSを測定する。ここで、長軸長DLとは、各粒子の輪郭に接するように、あらゆる角度から引いた2本の平行線間の距離のうち最大のもの(いわゆる最大フェレ径)を意味する。一方、短軸長DSとは、粒子の長軸(DL)と直交する方向における粒子の長さのうち最大のものを意味する。続いて、測定した50個の粒子の長軸長DLを単純に平均(算術平均)して平均長軸長DLaveを求める。このようにして求めた平均長軸長DLaveを磁性粒子の平均粒子サイズとする。また、測定した50個の粒子の短軸長DSを単純に平均(算術平均)して平均短軸長DSaveを求める。そして、平均長軸長DLaveおよび平均短軸長DSaveから粒子の平均アスペクト比(DLave/DSave)を求める。
【0098】
磁性粒子がε酸化鉄粒子である場合、磁性粒子の平均粒子体積は、好ましくは500nm3以上4000nm3以下、より好ましくは500nm3以上3000nm3以下、さらにより好ましくは500nm3以上2000nm3以下、特に好ましくは600nm3以上1600nm3以下、最も好ましくは600nm3以上1300nm3以下である。一般的に磁気テープMTのノイズは粒子個数の平方根に反比例(すなわち粒子体積の平方根に比例)するため、粒子体積をより小さくすることで、さらに優れた電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。したがって、磁性粒子の平均粒子体積が4000nm3以下であると、磁性粒子の平均粒子サイズを20nm以下とする場合と同様に、さらに優れた電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。一方、磁性粒子の平均粒子体積が500nm3以上であると、磁性粒子の平均粒子サイズを10nm以上とする場合と同様の効果が得られる。
【0099】
ε酸化鉄粒子が球状を有している場合には、磁性粒子の平均粒子体積は以下のようにして求められる。まず、上記の磁性粒子の平均粒子サイズの算出方法と同様にして、平均長軸長DLaveを求める。次に、以下の式により、磁性粒子の平均体積Vを求める。
V=(π/6)×DLave
3
【0100】
ε酸化鉄粒子が立方体状を有している場合、磁性粒子の平均体積は以下のようにして求められる。まず、カートリッジ10に収容された磁気テープMTを巻き出し、磁気テープMTの外周側の一端から長手方向に30mから40mの位置で磁気テープMTを切り出す。続いて、切り出された磁気テープMTをFIB(Focused Ion Beam)法等により加工して薄片化を行う。FIB法を使用する場合には、後述の断面のTEM像を観察する前処理として、保護膜としてカーボン膜およびタングステン薄膜を形成する。当該カーボン膜は蒸着法により磁気テープMTの磁性層43側の表面およびバック層44側の表面に形成され、そして、当該タングステン薄膜は蒸着法またはスパッタリング法により磁性層43側の表面にさらに形成される。当該薄片化は磁気テープMTの長さ方向(長手方向)に沿って行われる。すなわち、当該薄片化によって、磁気テープMTの長手方向および厚み方向の両方に平行な断面が形成される。
【0101】
得られた薄片サンプルを透過電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製 H-9500)を用いて、加速電圧:200kV、総合倍率500,000倍で磁性層43の厚み方向に対して磁性層43全体が含まれるように断面観察を行い、TEM像を得る。なお、装置の種類に応じて、倍率および加速電圧は適宜調整されてよい。次に、撮影したTEM像から粒子の形状が明らかである50個の粒子を選び出し、各粒子の辺の長さDCを測定する。続いて、測定した50個の粒子の辺の長さDCを単純に平均(算術平均)して平均辺長DCaveを求める。次に、平均辺長DCaveを用いて以下の式から磁性粒子の平均体積Vave(粒子体積)を求める。
Vave=DCave
3
【0102】
(コバルトフェライト粒子)
コバルトフェライト粒子は、一軸結晶異方性を有することが好ましい。コバルトフェライト粒子が一軸結晶異方性を有することで、磁性粒子を磁気テープMTの垂直方向に優先的に結晶配向させることができる。コバルトフェライト粒子は、例えば、立方体状を有している。本明細書において、立方体状は、ほぼ立方体状を含むものとする。Co含有スピネルフェライトが、Co以外にNi、Mn、Al、CuおよびZnからなる群より選ばれた少なくとも1種をさらに含んでいてもよい。
【0103】
Co含有スピネルフェライトは、例えば以下の式で表される平均組成を有する。
CoxMyFe2OZ
(但し、式中、Mは、例えば、Ni、Mn、Al、CuおよびZnからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属である。xは、0.4≦x≦1.0の範囲内の値である。yは、0≦y≦0.3の範囲内の値である。但し、x、yは(x+y)≦1.0の関係を満たす。zは3≦z≦4の範囲内の値である。Feの一部が他の金属元素で置換されていてもよい。)
【0104】
磁性粒子がコバルトフェライト粒子である場合、磁性粒子の平均粒子サイズは、好ましくは8nm以上16nm以下、より好ましくは8nm以上13nm以下、さらにより好ましくは8nm以上10nm以下である。磁性粒子の平均粒子サイズが16nm以下であると、高記録密度の磁気テープMTにおいて、さらに優れた電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。一方、磁性粒子の平均粒子サイズが8nm以上であると、磁性粒子の分散性がより向上し、さらに優れた電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。磁性粒子の平均粒子サイズの算出方法は、磁性粒子がε酸化鉄粒子である場合における磁性粒子の平均粒子サイズの算出方法と同様である。
【0105】
磁性粒子がコバルトフェライト粒子である場合、磁性粒子の平均アスペクト比が、好ましくは1.0以上3.0以下、より好ましくは1.0以上2.5以下、さらにより好ましくは1.0以上2.0以下である。磁性粒子の平均アスペクト比が1.0以上3.0以下の範囲内であると、磁性粒子の凝集を抑制することができる。また、磁性層43の形成工程において磁性粒子を垂直配向させる際に、磁性粒子に加わる抵抗を抑制することができる。したがって、磁性粒子の垂直配向性を向上することができる。磁性粒子の平均アスペクト比の算出方法は、磁性粒子がε酸化鉄粒子粉である場合における磁性粒子の平均アスペクト比の算出方法と同様である。
【0106】
磁性粒子がコバルトフェライト粒子粉である場合、磁性粒子の平均粒子体積は、好ましくは500nm3以上4000nm3以下、より好ましくは600nm3以上2000nm3以下、さらにより好ましくは600nm3以上1000nm3以下である。磁性粒子の平均粒子体積が4000nm3以下であると、磁性粒子の平均粒子サイズを16nm以下とする場合と同様の効果が得られる。一方、磁性粒子の平均粒子体積が500nm3以上であると、磁性粒子の平均粒子サイズを8nm以上とする場合と同様の効果が得られる。磁性分の平均粒子体積の算出方法は、ε酸化鉄粒子が立方体状を有している場合の平均粒子体積の算出方法と同様である。
【0107】
(結着剤)
結着剤は、例えば、熱可塑性樹脂を含む。結着剤は、熱硬化性樹脂または反応型樹脂等をさらに含んでいてもよい。
【0108】
熱可塑性樹脂は、塩素原子を含む第1熱可塑性樹脂(第1結着剤)と、窒素原子を含む第2熱可塑性樹脂(第2結着剤)とを含む。より具体的には、熱可塑性樹脂は、塩化ビニル系樹脂とウレタン系樹脂とを含む。本明細書において、塩化ビニル系樹脂とは、塩化ビニルに由来する構造単位を含む重合体を意味する。より具体的には例えば、塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニルの単独重合体、塩化ビニルとこれに共重合可能なコモノマーとの重合体、およびこれらの重合体の混合物のことを意味する。
【0109】
塩化ビニル系樹脂は、例えば、塩化ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル-アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル-塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体およびメタクリル酸エステル-塩化ビニル共重合体からなる群より選ばれた少なくとも1種を含む。
【0110】
ウレタン系樹脂とは、樹脂を構成する分子鎖の少なくとも一部にウレタン結合を含む樹脂を意味し、ウレタン樹脂であってもよく、分子鎖の一部にウレタン結合を含む共重合体であってもよい。ウレタン系樹脂は、例えば、ポリイソシアネートと、ポリオールとを反応させて得られるものであってもよい。あるいは、ウレタン系樹脂は、例えば、ポリエステルと、ポリオールとを反応させて得られるものであってもよい。本明細書において、ウレタン系樹脂には、硬化剤との反応により得られたものも含まれる。
【0111】
ポリイソシアネートは、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、1,5-ペンタメチレンジイソシアネート(PDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)およびイソホロンジイソシアネート(IPDI)等からなる群より選ばれた少なくとも1種を含む。本明細書において、ポリイソシアネートとは、分子内にイソシアネート基を2個以上有する化合物を意味する。ポリイソシアネートは、硬化剤に含まれるポリイソシアネートであってもよい。
【0112】
ポリオールとしては、OH基を2個以上有するポリオールであれば、任意の適切なポリオールを採用し得る。ポリオールは、例えば、OH基を2個有するポリオール(ジオール)、OH基を3個有するポリオール(トリオール)、OH基を4個有するポリオール(テトラオール)、OH基を5個有するポリオール(ペンタオール)、およびOH基を6個有するポリオール(ヘキサオール)等からなる群より選ばれた少なくとも1種を含む。ポリオールは、具体的には例えば、ポリエステル系ポリオール、ポリエーテル系ポリオール、ポリカーボネート系ポリオール、ポリエステルアミド系ポリオール、およびアクリレート系ポリオール等からなる群より選ばれた少なくとも1種を含む。
【0113】
ポリエステルは、例えば、フタル酸系ポリエステルおよび脂肪族系ポリエステルからなる群より選ばれた少なくとも1種を含む。
【0114】
熱可塑性樹脂が、塩化ビニル系樹脂およびウレタン系樹脂以外の熱可塑性樹脂をさらに含んでいてもよい。このような熱可塑性樹脂は、例えば、酢酸ビニル、アクリル酸エステル-アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル-アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル-塩化ビニリデン共重合体、メタクリル酸エステル-塩化ビニリデン共重合体、メタクリル酸エステル-エチレン共重合体、ポリフッ化ビニル、塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、ポリアミド樹脂、ポリビニルブチラール、セルロース誘導体(セルロースアセテートブチレート、セルロースダイアセテート、セルローストリアセテート、セルロースプロピオネート、ニトロセルロース)、スチレンブタジエン共重合体、ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、および合成ゴム等からなる群より選ばれた少なくとも1種を含む。
【0115】
熱硬化性樹脂は、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン硬化型樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミン樹脂および尿素ホルムアルデヒド樹脂等からなる群より選ばれた少なくとも1種を含む。
【0116】
上記の全ての結着剤には、磁性粒子の分散性を向上させる目的で、-SO3M、-OSO3M、-COOM、P=O(OM)2(但し、式中Mは水素原子またはリチウム、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属を表す)や、-NR1R2、-NR1R2R3+X-で表される末端基を有する側鎖型アミン、>NR1R2+X-で表される主鎖型アミン(但し、式中R1、R2、R3は水素原子または炭化水素基を表し、X-はフッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン元素イオン、無機イオンまたは有機イオンを表す。)、さらに-OH、-SH、-CN、エポキシ基等の極性官能基が導入されていてもよい。これら極性官能基の結着剤への導入量は、10-1以上10-8モル/g以下であるのが好ましく、10-2以上10-6モル/g以下であるのがより好ましい。
【0117】
(導電粒子)
磁性層43に含まれる導電粒子のうちの一部の粒子は、磁性面から突出し、複数の突起を形成していてもよい。複数の突起が導電粒子により形成されることで、磁性面の電気抵抗を低減し、磁性面の帯電を抑えることができる。また、磁気テープMTの走行時においてヘッドユニット56と磁性面との間の動摩擦を低減することができる。
【0118】
導電粒子は、帯電防止剤であり、かつ、固体潤滑剤であることが好ましい。導電粒子は、カーボンを含む粒子であることが好ましい。カーボンを含む粒子としては、例えば、カーボン粒子、およびハイブリッド粒子からなる群より選ばれた少なくとも1種を用いることができ、カーボン粒子を用いることが好ましい。導電粒子の平均1次粒子サイズが、好ましくは100nm以下である。導電粒子の平均1次粒子サイズが100nm以下であると、導電粒子が粒度分布の大きい粒子(例えばカーボンブラック等)である場合にも、磁性層43の厚みに対して過度に大きい粒子の含有が抑制される。
【0119】
カーボン粒子としては、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブおよびグラフェンからなる群より選ばれる1種以上を用いることができ、これらのカーボン粒子のうちでもカーボンブラックを用いることが好ましい。カーボンブラックとしては、例えば、東海カーボン社製のシーストTA、旭カーボン社の旭#15、#15HS等を用いることができる。
【0120】
ハイブリッド粒子は、カーボンとカーボン以外の材料とを含む。カーボン以外の材料は、例えば、有機材料または無機材料である。ハイブリッド粒子は、無機粒子表面にカーボンが付着されたハイブリッド粒子であってもよい。具体的には例えば、シリカ粒子表面にカーボンが付着されたハイブリッドカーボンであってもよい。
【0121】
(研磨粒子)
磁性層43に含まれる研磨粒子のうちの一部の粒子は、磁性面から突出し、複数の突起を形成していてもよい。ヘッドユニット56と磁気テープMTの摺動時に、研磨粒子により形成された突起は、ヘッドユニット56と接触することが可能である。
【0122】
研磨粒子のモース硬度の下限値は、ヘッドユニット56との接触による変形を抑制する観点から、好ましくは7.0以上、より好ましくは7.5以上、さらにより好ましくは8.0以上、特に好ましくは8.5以上である。研磨粒子のモース硬度の上限値は、ヘッドユニット56の摩耗を抑制する観点から、好ましくは9.5以下である。
【0123】
研磨粒子は、無機粒子であることが好ましい。無機粒子としては、例えば、α化率90%以上のα-アルミナ、β-アルミナ、γ-アルミナ、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、α-酸化鉄、コランダム、窒化珪素、チタンカ-バイト、酸化チタン、二酸化珪素、酸化スズ、酸化マグネシウム、酸化タングステン、酸化ジルコニウム、窒化ホウ素、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、2硫化モリブデン、磁性酸化鉄の原料を脱水、アニール処理した針状α酸化鉄、必要によりそれらをアルミおよび/またはシリカで表面処理したもの、ダイヤモンド粉末等が挙げられる。無機粒子としては、α-アルミナ、β-アルミナ、γ-アルミナ等のアルミナ粒子、炭化ケイ素を用いることが好ましい。研磨粒子は、針状、球状、サイコロ状等のいずれの形状でもよいが、形状の一部に角を有するものが、高いアブラシビティを有するので好ましい。
【0124】
(潤滑剤)
潤滑剤は、例えば脂肪酸および脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも1種、好ましくは脂肪酸および脂肪酸エステルの両方を含む。磁性層43が潤滑剤を含むことが、特には磁性層43が脂肪酸および脂肪酸エステルの両方を含むことが、磁気テープMTの走行安定性の向上に貢献する。より特には、磁性層43が潤滑剤を含み且つ細孔を有することによって、良好な走行安定性が達成される。当該走行安定性の向上は、磁気テープMTの磁性層43側表面の動摩擦係数が上記潤滑剤により、磁気テープMTの走行に適した値へ調整されるためと考えられる。
【0125】
脂肪酸は、好ましくは下記の一般式(1)または(2)により示される化合物であってよい。例えば、脂肪酸として下記の一般式(1)により示される化合物および一般式(2)により示される化合物の一方が含まれていてよく、または両方が含まれていてもよい。
【0126】
また、脂肪酸エステルは、好ましくは下記一般式(3)、(4)または(5)により示される化合物であってよい。例えば、脂肪酸エステルとして下記の一般式(3)により示される化合物、一般式(4)により示される化合物および一般式(5)により示される化合物のうちの1種、2種または3種が含まれていてもよい。
【0127】
潤滑剤が、一般式(1)に示される化合物および一般式(2)に示される化合物のいずれか一方若しくは両方と、一般式(3)に示される化合物、一般式(4)に示される化合物および一般式(5)により示される化合物のうちの1種、2種または3種と、を含むことによって、磁気テープMTの繰り返しの記録または再生による動摩擦係数の増加を抑制することができる。
【0128】
CH3(CH2)kCOOH ・・・(1)
(但し、一般式(1)において、kは14以上22以下の範囲、より好ましくは14以上18以下の範囲から選ばれる整数である。)
【0129】
CH3(CH2)nCH=CH(CH2)mCOOH ・・・(2)
(但し、一般式(2)において、nとmとの和は12以上20以下の範囲、より好ましくは14以上18以下の範囲から選ばれる整数である。)
【0130】
CH3(CH2)pCOO(CH2)qCH3 ・・・(3)
(但し、一般式(3)において、pは14以上22以下、より好ましくは14以上18以下の範囲から選ばれる整数であり、且つ、qは2以上5以下の範囲、より好ましくは2以上4以下の範囲から選ばれる整数である。)
【0131】
CH3(CH2)rCOO-(CH2)sCH(CH3)2 ・・・(4)
(但し、一般式(4)において、rは14以上22以下の範囲から選ばれる整数であり、sは1以上3以下の範囲から選ばれる整数である。)
【0132】
CH3(CH2)tCOO-(CH)(CH3)CH2(CH3)u ・・・(5)
(但し、一般式(5)において、tは14以上22以下の範囲から選ばれる整数であり、uは1以上3以下の範囲から選ばれる整数である。)
【0133】
(帯電防止剤)
帯電防止剤は、カーボン粒子を含む。帯電防止剤が、天然界面活性剤、ノニオン性界面活性剤およびカチオン性界面活性剤等からなる群より選ばれた少なくとも1種をさらに含んでいてもよい。カーボン粒子は、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブおよびグラフェンからなる群より選ばれた少なくとも1種を含む。
【0134】
(硬化剤)
硬化剤は、例えば、ポリイソシアネート等を含む。ポリイソシアネートは、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、1,5-ペンタメチレンジイソシアネート(PDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)またはイソホロンジイソシアネート(IPDI)等をイソシアネート源として含むものであってもよい。ポリイソシアネートは、TMPアダクト構造、イソシアヌレート構造、ビウレット構造またはアロファネート構造等を有していてもよい。
【0135】
ポリイソシアネートは、具体的には例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)と活性水素化合物との付加体等の芳香族ポリイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)と活性水素化合物との付加体等の脂肪族ポリイソシアネート等を含む。これらポリイソシアネートの重量平均分子量は、100以上3000以下の範囲であることが望ましい。
【0136】
(防錆剤)
防錆剤としては、例えばフェノール類、ナフトール類、キノン類、窒素原子を含む複素環化合物、酸素原子を含む複素環化合物、硫黄原子を含む複素環化合物等が挙げられる。
【0137】
(非磁性補強粒子)
非磁性補強粒子として、例えば、酸化アルミニウム(α、βまたはγアルミナ)、酸化クロム、酸化珪素、ダイヤモンド、ガーネット、エメリー、窒化ホウ素、チタンカーバイト、炭化珪素、炭化チタン、酸化チタン(ルチル型またはアナターゼ型の酸化チタン)等が挙げられる。
【0138】
(下地層)
下地層42は、基体41の表面の凹凸形状を緩和し、磁性面の凹凸形状を調整するためのものである。下地層42は、非磁性粒子、結着剤および潤滑剤を含む非磁性層である。下地層42は、磁性面に潤滑剤を供給する。下地層42が、必要に応じて、帯電防止剤、硬化剤および防錆剤等からなる群より選ばれた少なくとも1種の添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0139】
下地層42の平均厚みt2は、好ましくは300nm以上1200nm以下、より好ましくは300nm以上900nm以下、300nm以上600nm以下である。なお、下地層42の平均厚みt2は、磁性層43の平均厚みt1と同様にして求められる。但し、TEM像の倍率は、下地層42の厚みに応じて適宜調整される。下地層42の平均厚みt2が1200nm以下であると、外力による磁気テープMTの伸縮性がさらに高くなるため、テンション調整による磁気テープMTの幅の調整がさらに容易となる。
【0140】
下地層42は、複数の孔部を有していることが好ましい。これらの複数の孔部に潤滑剤が蓄えられることで、繰り返し記録または再生を行った後にも(すなわちヘッドユニット56を磁気テープMTの表面に接触させて繰り返し走行を行った後にも)、磁性面とヘッドユニット56の間に対する潤滑剤の供給量の低下をさらに抑制することができる。したがって、動摩擦係数の増加をさらに抑制することができる。すなわち、さらに優れた走行安定性を得ることができる。
【0141】
(非磁性粒子)
非磁性粒子は、例えば無機粒子および有機粒子の少なくとも1種を含む。また、非磁性粒子は、カーボンブラック等の炭素粒子であってもよい。なお、1種の非磁性粒子を単独で用いてもよいし、2種以上の非磁性粒子を組み合わせて用いてもよい。無機粒子は、例えば、金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物または金属硫化物等を含む。非磁性粒子の形状としては、例えば、針状、球状、立方体状、板状等の各種形状が挙げられるが、これらの形状に限定されるものではない。
【0142】
(結着剤、潤滑剤)
結着剤および潤滑剤は、上記の磁性層43と同様である。
【0143】
(添加剤)
帯電防止剤、硬化剤および防錆剤はそれぞれ、上記の磁性層43と同様である。
【0144】
(バック層)
バック層44は、結着剤および非磁性粒子を含む。バック層44が、必要に応じて潤滑剤、硬化剤および帯電防止剤等からなる群より選ばれた少なくとも1種の添加剤をさらに含んでいてもよい。結着剤および非磁性粒子は、上記の下地層42と同様である。硬化剤および帯電防止剤は、上記の磁性層43と同様である。
【0145】
非磁性粒子の平均粒子サイズは、好ましくは10nm以上150nm以下、より好ましくは15nm以上110nm以下である。非磁性粒子の平均粒子サイズは、上記の磁性粒子の平均粒子サイズと同様にして求められる。非磁性粒子が、2以上の粒度分布を有する非磁性粒子を含んでいてもよい。
【0146】
バック層44の平均厚みの上限値は、好ましくは0.60μm以下である。バック層44の平均厚みの上限値が0.60μm以下であると、磁気テープMTの平均厚みが5.30μm以下である場合でも、下地層42や基体41の厚みを厚く保つことができるので、磁気テープMTの記録再生装置内での走行安定性を保つことができる。バック層44の平均厚みの下限値は特に限定されるものではないが、例えば0.20μm以上である。
【0147】
バック層44の平均厚みtbは以下のようにして求められる。まず、磁気テープMTの平均厚みtTを測定する。平均厚みtTの測定方法は、以下の「磁気テープの平均厚み」に記載されている通りである。続いて、カートリッジ10に収容された磁気テープMTを巻き出し、磁気テープMTの外周側の一端から長手方向に30mから40mの位置で磁気テープMTを250mmの長さに切り出しサンプルを作製する。次に、サンプルのバック層44をMEK(メチルエチルケトン)または希塩酸等の溶剤で除去する。次に、Mitutoyo社製レーザーホロゲージ(LGH-110C)を用いて、サンプルの厚みを5点の位置で測定し、それらの測定値を単純に平均(算術平均)して、平均値tB[μm]を算出する。その後、以下の式よりバック層44の平均厚みtb[μm]を求める。なお、上記5点の測定位置は、磁気テープMTの長手方向においてそれぞれ異なる位置となるように、サンプルから無作為に選ばれるものとする。
tb[μm]=tT[μm]-tB[μm]
【0148】
(磁気テープの平均厚み)
磁気テープMTの平均厚み(平均全厚)tTの上限値が、好ましくは5.30μm以下、より好ましくは5.10μm以下、さらにより好ましくは4.90μm以下、特に好ましくは4.70μm以下である。磁気テープMTの平均厚みtTが5.30μm以下であると、1データカートリッジ内に記録できる記録容量を一般的な磁気テープよりも高めることができる。磁気テープMTの平均厚みtTの下限値は特に限定されるものではないが、例えば3.50μm以上である。
【0149】
磁気テープMTの平均厚みtTは以下のようにして求められる。まず、カートリッジ10に収容された磁気テープMTを巻き出し、磁気テープMTの外周側の一端から長手方向に30mから40mの位置で磁気テープMTを250mmの長さに切り出し、サンプルを作製する。次に、測定装置としてMitutoyo社製レーザーホロゲージ(LGH-110C)を用いて、サンプルの厚みを5点の位置で測定し、それらの測定値を単純に平均(算術平均)して、平均厚みtT[μm]を算出する。なお、上記5点の測定位置は、磁気テープMTの長手方向においてそれぞれ異なる位置となるように、サンプルから無作為に選ばれるものとする。
【0150】
(保磁力Hc2)
磁気テープMTの長手方向における磁性層43の保磁力Hc2の上限値が、好ましくは2000Oe以下、より好ましくは1900Oe以下、さらにより好ましくは1800Oe以下である。磁気テープMTの長手方向における磁性層43の保磁力Hc2が2000Oe以下であると、高記録密度であっても十分な電磁変換特性を有することができる。
【0151】
磁気テープMTの長手方向に測定した磁性層43の保磁力Hc2の下限値が、好ましくは1000Oe以上である。磁気テープMTの長手方向に測定した磁性層43の保磁力Hc2が1000Oe以上であると、記録ヘッドからの漏れ磁束による減磁を抑制することができる。
【0152】
上記の保磁力Hc2は以下のようにして求められる。まず、カートリッジ10に収容された磁気テープMTを巻き出し、磁気テープMTの外周側の一端から長手方向に30mから40の位置で磁気テープMTを切り出し、磁気テープMTの長手方向の向きが同じになるように、両面テープで3枚重ね合わされた後、φ6.39mmのパンチで打ち抜かれて、測定サンプルが作製される。この際に、磁気テープMTの長手方向(走行方向)が認識できるように、磁性を持たない任意のインクでマーキングを行う。そして、振動試料型磁力計(Vibrating Sample Magnetometer:VSM)を用いて磁気テープMTの長手方向(走行方向)に対応する測定サンプル(磁気テープMT全体)のM-Hループが測定される。次に、上記で切り出した磁気テープMTの塗膜(下地層42、磁性層43およびバック層44等)を、アセトンまたはエタノール等を用いて払拭し、基体41のみを残す。そして、得られた基体41が両面テープで3枚重ね合わされた後、φ6.39mmのパンチで打ち抜かれて、バックグラウンド補正用のサンプル(以下、単に「補正用サンプル」)が作製される。その後、VSMを用いて基体41の長手方向(磁気テープMTの長手方向)に対応する補正用サンプル(基体41)のM-Hループが測定される。
【0153】
測定サンプル(磁気テープMTの全体)のM-Hループ、補正用サンプル(基体41)のM-Hループの測定においては、東英工業社製の高感度振動試料型磁力計「VSM-P7-15型」が用いられる。測定条件は、測定モード:フルループ、最大磁界:15kOe、磁界ステップ:40bit、Time constant of Locking amp:0.3sec、Waiting time:1sec、MH平均数:20とされる。
【0154】
測定サンプル(磁気テープMTの全体)のM-Hループおよび補正用サンプル(基体41)のM-Hループが得られた後、測定サンプル(磁気テープMTの全体)のM-Hループから補正用サンプル(基体41)のM-Hループが差し引かれることで、バックグラウンド補正が行われ、バックグラウンド補正後のM-Hループが得られる。このバックグラウンド補正の計算には、「VSM-P7-15型」に付属されている測定・解析プログラムが用いられる。得られたバックグラウンド補正後のM-Hループから保磁力Hc2が求められる。なお、この計算には、「VSM-P7-15型」に付属されている測定・解析プログラムが用いられる。なお、上記のM-Hループの測定はいずれも、25℃±2℃、50%RH±5%RHにて行われるものとする。また、M-Hループを磁気テープMTの長手方向に測定する際の“反磁界補正”は行わないものとする。
【0155】
(角形比)
磁気テープMTの垂直方向における磁性層43の角形比S1が、好ましくは62%以上、より好ましくは65%以上、さらにより好ましくは68%以上、特に好ましくは72%以上、最も好ましくは75%以上である。角形比S1が62%以上であると、磁性粒子の垂直配向性が十分に高くなるため、さらに優れた電磁変換特性を得ることができる。
【0156】
磁気テープMTの垂直方向における角形比S1は以下のようにして求められる。まず、カートリッジ10に収容された磁気テープMTを巻き出し、磁気テープMTの外周側の一端から長手方向に30mから40mの位置で磁気テープMTを切り出し、磁気テープMTの長手方向の向きが同じになるように、両面テープで3枚重ね合わされた後、φ6.39mmのパンチで打ち抜かれて、測定サンプルが作製される。この際に、磁気テープMTの長手方向(走行方向)が認識できるように、磁性を持たない任意のインクでマーキングを行う。そして、振動試料型磁力計(Vibrating Sample Magnetometer:VSM)を用いて磁気テープMTの垂直方向(磁気テープMTの垂直方向)に対応する測定サンプル(磁気テープMT全体)のM-Hループが測定される。次に、上記で切り出した磁気テープMTの塗膜(下地層42、磁性層43およびバック層44等)を、アセトンまたはエタノール等を用いて払拭し、基体41のみを残す。そして、得られた基体41が両面テープで3枚重ね合わされた後、φ6.39mmのパンチで打ち抜かれて、バックグラウンド補正用のサンプル(以下、単に「補正用サンプル」)が作製される。その後、VSMを用いて基体41の垂直方向(磁気テープMTの垂直方向)に対応する補正用サンプル(基体41)のM-Hループが測定される。
【0157】
測定サンプル(磁気テープMTの全体)のM-Hループ、補正用サンプル(基体41)のM-Hループの測定においては、東英工業社製の高感度振動試料型磁力計「VSM-P7-15型」が用いられる。測定条件は、測定モード:フルループ、最大磁界:15kOe、磁界ステップ:40bit、Time constant of Locking amp:0.3sec、Waiting time:1sec、MH平均数:20とされる。
【0158】
測定サンプル(磁気テープMTの全体)のM-Hループおよび補正用サンプル(基体41)のM-Hループが得られた後、測定サンプル(磁気テープMTの全体)のM-Hループから補正用サンプル(基体41)のM-Hループが差し引かれることで、バックグラウンド補正が行われ、バックグラウンド補正後のM-Hループが得られる。このバックグラウンド補正の計算には、「VSM-P7-15型」に付属されている測定・解析プログラムが用いられる。
【0159】
得られたバックグラウンド補正後のM-Hループの飽和磁化Ms(emu)および残留磁化Mr(emu)が以下の式に代入されて、角形比S1(%)が計算される。なお、上記のM-Hループの測定はいずれも、25℃±2℃、50%RH±5%RHにて行われるものとする。また、M-Hループを磁気テープMTの垂直方向に測定する際の“反磁界補正”は行わないものとする。なお、この計算には、「VSM-P7-15型」に付属されている測定・解析プログラムが用いられる。
角形比S1(%)=(Mr/Ms)×100
【0160】
磁気テープMTの長手方向(走行方向)における磁性層43の角形比S2が、好ましくは35%以下、より好ましくは30%以下、さらにより好ましくは25%以下、特に好ましくは20%以下、最も好ましくは15%以下である。角形比S2が35%以下であると、磁性粒子の垂直配向性が十分に高くなるため、さらに優れた電磁変換特性を得ることができる。なお、磁気テープMTの垂直方向における磁性層43の角形比S1、および磁気テープMTの長手方向(走行方向)における磁性層43の角形比S2のうちの一方が、上記の好ましい範囲内にあり、他方が、上記の好ましい範囲から外れていてもよい。あるいは、磁気テープMTの垂直方向における磁性層43の角形比S1、および磁気テープMTの長手方向(走行方向)における磁性層43の角形比S2の両方が、上記の好ましい範囲内にあってもよい。
【0161】
磁気テープMTの長手方向における角形比S2は、M-Hループを磁気テープMTおよび基体41の長手方向(走行方向)に測定すること以外は角形比S1と同様にして求められる。
【0162】
(比Hc2/Hc1)
磁気テープMTの垂直方向における磁性層43の保磁力Hc1と、磁気テープMTの長手方向における磁性層43の保磁力Hc2の比Hc2/Hc1が、好ましくはHc2/Hc1≦0.8、より好ましくはHc2/Hc1≦0.75、さらにより好ましくはHc2/Hc1≦0.7、特に好ましくはHc2/Hc1≦0.65、最も好ましくはHc2/Hc1≦0.6の関係を満たす。保磁力Hc1、Hc2がHc2/Hc1≦0.8の関係を満たすことで、磁性粒子の垂直配向度を高めることができる。したがって、磁化遷移幅を低減し、かつ信号再生時に高出力の信号を得ることができるので、さらに優れた電磁変換特性を得ることができる。なお、上記のように、Hc2が小さいと、記録ヘッドからの垂直方向の磁界により感度良く磁化が反応するため、良好な記録パターンを形成することができる。
【0163】
比Hc2/Hc1がHc2/Hc1≦0.8である場合、磁性層43の平均厚みt1が90nm以下であることが特に有効である。磁性層43の平均厚みt1が90nmを超えると、記録ヘッドとしてリング型ヘッドを用いた場合に、磁性層43の下部領域(下地層42側の領域)が磁気テープMTの長手方向に磁化されてしまい、磁性層43を厚み方向に均一に磁化することができなくなる虞がある。したがって、比Hc2/Hc1をHc2/Hc1≦0.8としても(すなわち、磁性粒子の垂直配向度を高めても)、さらに優れた電磁変換特性を得られなくなる虞がある。
【0164】
Hc2/Hc1の下限値は特に限定されるものではないが、例えば0.5≦Hc2/Hc1である。なお、Hc2/Hc1は磁性粒子の垂直配向度を表しており、Hc2/Hc1が小さいほど磁性粒子の垂直配向度が高くなる。
【0165】
磁気テープMTの長手方向における磁性層43の保磁力Hc2の算出方法は、上記の通りである。磁気テープMTの垂直方向における磁性層43の保磁力Hc1は、M-Hループを磁気テープMTおよび基体41の垂直方向(厚み方向)に測定すること以外は磁気テープMTの長手方向における磁性層43の保磁力Hc2と同様にして求められる。
【0166】
(活性化体積Vact)
活性化体積Vactが、好ましくは8000nm3以下、より好ましくは6000nm3以下、さらにより好ましくは5000nm3以下、特に好ましくは4000nm3以下、最も好ましくは3000nm3以下である。活性化体積Vactが8000nm3以下であると、磁性粒子の分散状態が良好になるため、ビット反転領域を急峻にすることができ、記録ヘッドからの漏れ磁界により、隣接するトラックに記録された磁化信号が劣化することを抑制できる。したがって、さらに優れた電磁変換特性が得られなくなる虞がある。
【0167】
上記の活性化体積Vactは、Street&Woolleyにより導出された下記の式により求められる。
Vact(nm3)=kB×T×Χirr/(μ0×Ms×S)
(但し、kB:ボルツマン定数(1.38×10-23J/K)、T:温度(K)、Χirr:非可逆磁化率、μ0:真空の透磁率、S:磁気粘性係数、Ms:飽和磁化(emu/cm3))
【0168】
上記式に代入される非可逆磁化率Χirr、飽和磁化Msおよび磁気粘性係数Sは、VSMを用いて以下のようにして求められる。なお、VSMによる測定方向は、磁気テープMTの垂直方向(厚み方向)とする。また、VSMによる測定は、長尺状の磁気テープMTから切り出された測定サンプルに対して25℃±2℃、50%RH±5%RHにて行われるものとする。また、M-Hループを磁気テープMTの垂直方向(厚み方向)に測定する際の“反磁界補正”は行わないものとする。
【0169】
(非可逆磁化率Χirr)
非可逆磁化率Χirrは、残留磁化曲線(DCD曲線)の傾きにおいて、残留保磁力Hr付近における傾きと定義される。まず、磁気テープMT全体に-1193kA/m(15kOe)の磁界を印加し、磁界をゼロに戻し残留磁化状態とする。その後、反対方向に約15.9kA/m(200Oe)の磁界を印加し再びゼロに戻し残留磁化量を測定する。その後も同様に、先ほどの印加磁界よりもさらに15.9kA/m大きい磁界を印加しゼロに戻す測定を繰り返し行い、印加磁界に対して残留磁化量をプロットしDCD曲線を測定する。得られたDCD曲線から、磁化量ゼロとなる点を残留保磁力Hrとし、さらにDCD曲線を微分し、各磁界におけるDCD曲線の傾きを求める。このDCD曲線の傾きにおいて、残留保磁力Hr付近の傾きがΧirrとなる。
【0170】
(飽和磁化Ms)
まず、上記の角形比S1の測定方法と同様にして、バックグラウンド補正後のM-Hループを得る。次に、得られたM-Hループの飽和磁化Ms(emu)の値と、測定サンプル中の磁性層43の体積(cm3)から、Ms(emu/cm3)を算出する。なお、磁性層43の体積は測定サンプルの面積に磁性層43の平均厚みt1を乗ずることにより求められる。磁性層43の体積の算出に必要な磁性層43の平均厚みt1の算出方法は、上記の通りである。
【0171】
(磁気粘性係数S)
まず、磁気テープMT(測定サンプル)全体に-1193kA/m(15kOe)の磁界を印加し、磁界をゼロに戻し残留磁化状態とする。その後、反対方向に、DCD曲線より得られた残留保磁力Hrの値と同等の磁界を印加する。磁界を印加した状態で1000秒間、磁化量を一定の時間間隔で継続的に測定する。このようにして得られた、時間tと磁化量M(t)の関係を以下の式に照らし合わせて、磁気粘性係数Sを算出する。
M(t)=M0+S×ln(t)
(但し、M(t):時間tの磁化量、M0:初期の磁化量、S:磁気粘性係数、ln(t):時間の自然対数)
【0172】
(バック面の表面粗度Rb)
バック面の表面粗度(バック層44の表面粗度)Rbが、Rb≦6.0[nm]であることが好ましい。バック面の表面粗度Rbが上記範囲であると、さらに優れた電磁変換特性を得ることができる。
【0173】
バック面の表面粗度R
bは以下のようにして求められる。まず、カートリッジ10に収容された磁気テープMTを巻き出し、磁気テープMTの外周側の一端から長手方向に30mから40mの位置で磁気テープMTを100mmの長さに切り出し、サンプルを作製する。次に、サンプルの被測定面(磁性層側の表面)が上になるようにスライドグラスに乗せ、サンプルの端部をメンディングテープで固定する。測定装置としてVertScan(対物レンズ20倍)を用いて表面形状を測定し、ISO 25178の規格に基づいて以下の式からバック面の表面粗度R
bを求める。
測定条件は以下のとおりである。
装置:光干渉を用いた非接触粗度計
(株式会社菱化システム製 非接触表面・層断面形状計測システム VertScan R5500GL-M100-AC)
対物レンズ:20倍
測定領域:640×480ピクセル(視野:約237μm×178μm視野)
測定モード:phase
波長フィルター:520nm
CCD:1/3インチ
ノイズ除去フィルター:スムージング3×3
面補正:2次多項式近似面にて補正
測定ソフトウエア:VS-Measure Version5.5.2
解析ソフトウエア:VS-viewer Version5.5.5
【数2】
上記のようにして、磁気テープMTの長手方向に5点の位置にて面粗度を測定したのち、各位置で得られた表面プロファイルから自動計算されたそれぞれの算術平均粗さS
a(nm)の平均値をバック面の表面粗度R
b(nm)とする。
【0174】
(磁気テープの長手方向のヤング率)
磁気テープMTの長手方向のヤング率の上限値は、好ましくは9.0GPa以下、より好ましくは8.0GPa以下、さらにより好ましくは7.5GPa以下、特に好ましくは7.1GPa以下である。磁気テープMTの長手方向のヤング率が9.0GPa以下であると、外力による磁気テープMTの伸縮性がさらに高くなるため、テンション調整による磁気テープMTの幅の調整がさらに容易となる。したがって、オフトラックをさらに適切に抑制することができ、磁気テープMTに記録されたデータをさらに正確に再生することが可能となる。磁気テープMTの長手方向のヤング率の下限値は、好ましくは3.0GPa以上、より好ましくは4.0GPa以上である。磁気テープMTの長手方向のヤング率の下限値が3.0GPa以上であると、走行安定性の低下を抑制することができる。
【0175】
磁気テープMTの長手方向のヤング率は、外力による磁気テープMTの長手方向における伸縮のし難さを示す値であり、この値が大きいほど外力により磁気テープMTは長手方向に伸縮し難く、この値が小さいほど外力により磁気テープMTは長手方向に伸縮しやすい。
【0176】
なお、磁気テープMTの長手方向のヤング率は、磁気テープMTの長手方向に関する値であるが、磁気テープMTの幅方向の伸縮のし難さとも相関がある。つまり、この値が大きいほど磁気テープMTは外力により幅方向に伸縮し難く、この値が小さいほど磁気テープMTは外力により幅方向に伸縮しやすい。したがって、テンション調整の観点から、磁気テープMTの長手方向のヤング率は、上記のように小さく、9.0GPa以下であることが有利である。
【0177】
ヤング率の測定には引っ張り試験機(島津製作所製、AG-100D)を用いる。テープ長手方向のヤング率を測定したい場合は、カートリッジ10に収容された磁気テープMTを巻き出し、磁気テープMTの外周側の一端から長手方向に30mから40mの位置で磁気テープMTを180mmの長さに切り出し測定サンプルを準備する。上記引っ張り試験機にテープの幅(1/2インチ)を固定できる冶具を取り付け、テープ幅の上下を固定する。距離(チャック間のテープの長さ)は100mmにする。テープサンプルをチャック後、サンプルを引っ張る方向に応力を徐々にかけていく。引っ張り速度は0.1mm/minとする。この時の応力の変化と伸び量から、以下の式を用いてヤング率を計算する。
E(N/m2)=((ΔN/S)/(Δx/L))×106
ΔN:応力の変化(N)
S:試験片の断面積(mm2)
Δx:伸び量(mm)
L:つかみ治具間距離(mm)
上記測定サンプル10Sの断面積Sは、引張動作前の断面積であり、測定サンプル10Sの幅(1/2インチ)と測定サンプル10Sの厚さとの積で求められる。測定を行う際の引張応力の範囲は、磁気テープMTの厚み等に応じて線形領域の引張応力の範囲を設定する。ここでは、応力の範囲としては0.2Nから0.7Nとし、この時の応力変化(ΔN)と伸び量(Δx)を計算に使用する。なお、上記のヤング率の測定は、25℃±2℃、50%RH±5%RHにて行われるものとする。
【0178】
(基体の長手方向のヤング率)
基体41の長手方向のヤング率は、好ましくは7.8GPa以下、より好ましくは7.0GPa以下、さらにより好ましくは6.6GPa以下、特に好ましくは6.4GPa以下である。基体41の長手方向のヤング率が7.8GPa以下であると、外力による磁気テープMTの伸縮性がさらに高くなるため、テンション調整による磁気テープMTの幅の調整がさらに容易となる。したがって、オフトラックをさらに適切に抑制することができ、磁気テープMTに記録されたデータをさらに正確に再生することが可能となる。基体41の長手方向のヤング率の下限値は、好ましくは2.5GPa以上、より好ましくは3.0GPa以上である。基体41の長手方向のヤング率の下限値が2.5GPa以上であると、走行安定性の低下を抑制することができる。
【0179】
上記の基体41の長手方向のヤング率は、次のようにして求められる。まず、カートリッジ10に収容された磁気テープMTを巻き出し、磁気テープMTの外周側の一端から長手方向に30mから40mの位置で磁気テープMTを180mmの長さに切り出す。続いて、切り出した磁気テープMTから下地層42、磁性層43およびバック層44を除去し、基体41を得る。この基体41を用いて、上記の磁気テープMTの長手方向のヤング率と同様の手順で基体41の長手方向のヤング率を求める。
【0180】
基体41の厚さは、磁気テープMTの全体の厚さの半分以上を占めている。したがって、基体41の長手方向のヤング率は、外力による磁気テープMTの伸縮し難さと相関があり、この値が大きいほど磁気テープMTは外力により幅方向に伸縮し難く、この値が小さいほど磁気テープMTは外力により幅方向に伸縮しやすい。
【0181】
なお、基体41の長手方向のヤング率は、磁気テープMTの長手方向に関する値であるが、磁気テープMTの幅方向の伸縮のし難さとも相関がある。つまり、この値が大きいほど磁気テープMTは外力により幅方向に伸縮し難く、この値が小さいほど磁気テープMTは外力により幅方向に伸縮しやすい。したがって、テンション調整の観点から、基体41の長手方向のヤング率は、上記のように小さく、7.8GPa以下であることが有利である。
【0182】
(平均クリープ傾き比(A2/A1))
温度32℃、湿度20%RHの環境にて測定された平均クリープ傾きA1と、温度32℃、湿度80%RHの環境にて測定された平均クリープ傾きA2の平均クリープ傾き比(A2/A1)が、1.440以下、好ましくは1.400以下、より好ましくは1.300以下である。平均クリープ傾き比(A2/A1)が1.440を超えると、基体41が水分を吸収し易く、クリープ傾きの湿度依存性が大きくなる。したがって、湿度変化に対して磁気テープMTの寸法安定性が低下する。また、湿度80%RHの環境の温度変化に対する磁気テープMTの寸法安定性が低下する。なお、湿度20%RH、湿度80%RHはそれぞれ、一般的なストレージテープシステムにおける保証環境の湿度の最小値、最大値に対応している。
【0183】
平均クリープ傾きA
1は、磁気テープMTから取り出された複数の第1のサンプルのクリープ傾きの平均値である。各第1のサンプルのクリープ傾きは、温度32℃、湿度20%RHの環境にて第1のサンプルにクリープ試験を行い、横軸を時間、縦軸をひずみとするグラフ(
図10A、
図10B参照)を取得し、当該グラフの横軸を対数表示に変更(
図10B、
図10C参照)し、変更後のグラフ中のデータを対数近似し近似直線の傾き(
図10C参照)を求めることにより得られる。
【0184】
平均クリープ傾きA
2は、磁気テープMTから取り出された複数の第2のサンプルのクリープ傾きの平均値である。各第2のサンプルのクリープ傾きは、温度32℃、湿度80%RHの環境にて第2のサンプルにクリープ試験を行い、横軸を時間、縦軸をひずみとするグラフ(
図10A、
図10B参照)を取得し、当該グラフの横軸を対数表示に変更(
図10B、
図10C参照)し、変更後のグラフ中のデータを対数近似し近似直線の傾き(
図10C参照)を求めることにより得られる。
【0185】
平均クリープ傾き比(A2/A1)は、具体的には、以下のようにして測定される。
【0186】
(サンプル作製)
まず、カートリッジ10に収容された1/2インチ(12.65mm)幅の磁気テープMTを巻き出し、磁気テープMTの外周側の一端から長手方向に10mから20mの位置、30mから40mの位置、50mから60mの位置のそれぞれから、打ち抜き機により磁気テープMTを打ち抜く。これにより、テープ幅方向の幅4mmおよびテープ長手方向の長さ10mmを有する3つの矩形状サンプルを取得する。次に、以下のようにして、これらの3つのサンプルにクリープ試験を行う。
【0187】
(温度32℃、湿度20%RHの環境におけるクリープ試験)
まず、サンプルの長手方向の両端を動的粘弾性測定装置(RSAII、TAインスツルメンツ社製)の測定部にクランプする。続いて、測定チャンバ内の温度および湿度をコントロールし、測定チャンバ内の温度および湿度が安定するまで少なくとも60分以上ほどサンプルを放置する。そして、サンプルの寸法が安定していることを確認したのち、クリープ試験を行う。
【0188】
クリープ試験の測定条件は、以下のとおりである。
・測定サンプルサイズ:4mm×10mm
・Sampling:1s/point
・制御
温度制御PID:P=10,I=125,D=1
SS制御PID:P=0.5,I=30,D=10
ホールド温度制御PID:P=9,I=250,D=1
SS制御:F組み立て
・SSプログラム(荷重)
【表1】
初期:0.02N/4mm(0.06N/12.65mm相当)
最大荷重:0.19569N/4mm(0.6N/12.65mm相当)
加速度:19.613mN/min
・温度、湿度コントロール
温度:32℃
湿度:20%RH
バブリング温度:6.24℃
なお、バブリング温度は、測定環境の温湿度を調整するための目安となる設定値であり、上記設定の場合には、6.24℃に設定することで、測定環境の温湿度がおおよそ整うので、その後微調整を行い実際の測定環境に合わせることになる。
【0189】
(温度32℃、湿度80%RHの環境におけるクリープ試験)
次に、測定チャンバ内の温度および湿度を以下のようにコントロールし、温度と湿度が安定するまで少なくとも60分以上ほどサンプルを放置する。そして、サンプルの寸法が安定していることを確認したのち、クリープ試験を行う。
・温度、湿度コントロール
温度:32℃
湿度:80%RH
バブリング温度:28.11℃
なお、本クリープ試験の測定条件は、上記の温度、湿度コントロール以外の条件に関しては、温度32℃、湿度20%RHの環境におけるクリープ試験と同様である。
また、バブリング温度は、上記のように、測定環境の温湿度を調整するための目安となる設定値であり、28.11℃に設定することで、測定環境の温湿度がおおよそ整うので、その後微調整を行い実際の測定環境に合わせることになる。
【0190】
(平均クリープ傾き比(A
2/A
1)の算出)
次に、温度32℃、湿度20%RHの環境における上記クリープ試験、温度32℃、湿度80%RHの環境における上記クリープ試験それぞれにより、横軸を時間、縦軸をひずみとするグラフが取得される(
図10A、
図10B参照)。取得されたグラフ(
図10A参照)において、一定の応力(荷重)がかかった状態で徐々に伸びが生じている部分(グラフの盛り上がり部分)をクリープ曲線という。
図10A、
図10Bにおいて、A点は荷重が設定値(最大荷重)に到達した位置を示し、B点は設定荷重(最大荷重)の負荷を停止した位置を示す。なお、
図10Bの横軸は、
図10AのA点を基準(0[sec])とする時間で表されている。
【0191】
次に、温度32℃、湿度20%RHにおける上記クリープ試験により取得されたグラフの横軸(時間軸)を対数表示に変更し、変更後のグラフから対数近似により近似直線を求め、当該近似直線の傾きを「クリープ傾きa
1」とする(
図10B、
図10C参照)。近似直線の算出には、Microsoft(登録商標)のExcel(登録商標)の「近似曲線の追加」機能が使用される。なお、上記のMicrosoft(登録商標)のExcel(登録商標)のバージョンは、Microsoft(登録商標) Excel(登録商標) for Microsoft 365 MSOである。また、近似直線の算出には、A点-B点の間のデータが使用される。同様に、温度32℃、湿度80%RHにおける上記クリープ試験により取得されたグラフの横軸(時間軸)を対数表示に変更し、変更後のグラフ中のデータを対数近似することにより近似直線を求め、当該近似直線の傾きを「クリープ傾きa
2」とする。
【0192】
次に、3つのサンプルから求められた合計で3つのクリープ傾きa1を単純に平均(算術平均)し、平均クリープ傾きA1を算出する。同様に、3つのサンプルから求められた合計で3つのクリープ傾きa2を単純に平均(算術平均)し、平均クリープ傾きA2を算出する。次に、平均クリープ傾きA1に対する平均クリープ傾きA2の比(A2/A1)を求め、これを平均クリープ傾き比(A2/A1)とする。
【0193】
(平均Tanδ比(平均Tanδ2/平均Tanδ1))
温度32℃、湿度20%RHの環境にて測定された平均Tanδ1と、温度32℃、湿度80%RHの環境にて測定された平均Tanδ2の平均Tanδ比(平均Tanδ2/平均Tanδ1)が、1.2000以下、好ましくは1.1900以下、より好ましくは1.1800以下である。平均Tanδ比(平均Tanδ2/平均Tanδ1)が1.2000を超えると、磁気テープMTのTanδの湿度依存が大きくなる。このため、湿度変化に対して磁気テープMTの弾性が失われていくか、もしくは磁気テープMTの粘性が増していくことになる。すなわち、磁気テープMTの粘弾性変化を招くことになる。したがって、湿度変化に対して磁気テープMTの寸法安定性が低下する。また、湿度80%RHの環境の温度変化に対する磁気テープMTの寸法安定性が低下する。
【0194】
平均Tanδ比(平均Tanδ2/平均Tanδ1)は、以下のようにして測定される。
【0195】
(サンプル作製)
まず、平均クリープ傾き比(A2/A1)の測定方法と同様にして、3つの矩形状サンプルを取得する。次に、以下のようにして、これらの3つのサンプルに対して、貯蔵弾性率E’および損失弾性率E’’の測定を行う。
【0196】
(温度32℃、湿度20%RHの環境における貯蔵弾性率E’および損失弾性率E’’の測定)
まず、サンプルの長手方向の両端を動的粘弾性測定装置(RSAII、TAインスツルメンツ社製)の測定部にクランプする。続いて、測定チャンバ内の温度および湿度をコントロールし、測定チャンバ内の温度および湿度が安定するまで少なくとも60分以上ほどサンプルを放置する。そして、サンプルの寸法が安定していることを確認したのち、貯蔵弾性率E’および損失弾性率E’’を測定する。
【0197】
貯蔵弾性率E’および損失弾性率E’’の測定条件は、以下のとおりである。
・測定サンプルサイズ:4mm×10mm
・Sampling:1s/point
・制御
温度制御PID:P=10,I=125,D=1
SS制御PID:P=0.5,I=30,D=10
ホールド温度制御PID:P=9,I=250,D=1
SS制御:F組サイン制御
・SSプログラム(荷重)
オフセット:110mN
振幅:50mN
周波数:0.01Hz
ホールド:0min
測定時間:10min
・温度、湿度コントロール
温度:32℃
湿度:20%RH
バブリング温度:6.24℃
なお、バブリング温度は、測定環境の温湿度を調整するための目安となる設定値であり、上記設定の場合には、6.24℃に設定することで、測定環境の温湿度がおおよそ整うので、その後微調整を行い実際の測定環境に合わせることになる。
【0198】
(温度32℃、湿度80%RHの環境における貯蔵弾性率E’および損失弾性率E’’の測定)
次に、測定チャンバ内の温度および湿度を以下のようにコントロールし、温度と湿度が安定するまで少なくとも60分以上ほどサンプルを放置する。そして、サンプルの寸法が安定していることを確認したのち、貯蔵弾性率E’および損失弾性率E’’を測定する。
・温度、湿度コントロール
温度:32℃
湿度:80%RH
バブリング温度:28.11℃
なお、温度32℃、湿度80%RHの環境における貯蔵弾性率E’および損失弾性率E’’の測定条件は、上記の温度、湿度コントロール以外の条件に関しては、温度32℃、湿度20%RHの環境における貯蔵弾性率E’および損失弾性率E’’の測定条件と同様である。
また、バブリング温度は、上記のように、測定環境の温湿度を調整するための目安となる設定値であり、28.11℃に設定することで、測定環境の温湿度がおおよそ整うので、その後微調整を行い実際の測定環境に合わせることになる。
【0199】
(平均Tanδ比(平均Tanδ2/平均Tanδ1)の算出)
以下の説明では、上記3つのサンプルのうち、長手方向に10mから20mの位置から取り出されたサンプルを「サンプル1」、長手方向に30mから40mの位置から取り出されたサンプルを「サンプル2」、長手方向に50mから60mの位置から取り出されたサンプルを「サンプル3」という。
【0200】
次に、温度32℃、湿度20%RHにて測定されたサンプル1の貯蔵弾性率E’および損失弾性率E’’を用いて、サンプル1のTanδ1(=E’’/E’)を算出する。続いて、温度32℃、湿度80%RHにて測定されたサンプル1の貯蔵弾性率E’および損失弾性率E’’を用いて、サンプル1のTanδ2(=E’’/E’)を算出する。次に、サンプル1のTanδ1、Tanδ2の算出手順と同様にして、サンプル2のTanδ1、Tanδ2、およびサンプル3のTanδ1、Tanδ2算出する。
【0201】
次に、サンプル1~3のTanδ1を単純に平均(算術平均)し、平均Tanδ1を算出する。同様に、サンプル1~3のTanδ2を単純に平均(算術平均)し、平均Tanδ2を算出する。次に、平均Tanδ1に対する平均Tanδ2の比(平均Tanδ2/平均Tanδ1)を求める。
【0202】
(湿度80%RHの環境の温度変化に対する磁気テープMTの平均幅変化量ΔW)
湿度80%RHの環境の温度変化に対する磁気テープMTの平均幅変化量ΔWは、好ましくは160nm/℃以下、より好ましくは150nm/℃以下、さらにより好ましくは140nm/℃以下、特に好ましくは130nm/℃以下または120nm/℃以下である。平均幅変化量ΔWが160nm/℃以下であると、トラック密度が高くても、違う温度環境で記録された信号の再生を十分に保証することができる。この理由は具体的には以下のとおりである。湿度80%RHの環境の温度変化に対する磁気テープMTの平均幅変化量ΔWが160nm/℃以下である場合、記録再生ヘッドの温度変化89nm/℃を加味すると、テープドライブ内での実質的なテープ幅変化量は71nm/℃以下である。一般的なストレージテープシステムにおいて、湿度80%RHの環境で保証すべき温度範囲は20℃程度であるため、最大変化量は1420nm(20[℃]×71[nm/℃])となる。本発明者らの知見によれば、1/2インチ(12.65mm)幅の磁気テープMTにおいて最大変化量が1420nm以下であれば、トラック密度が高くても、違う温度環境で記録された信号の再生を一般的なドライブにて十分に保証することができる。
【0203】
図11は、湿度80%RHの環境の温度変化に対する磁気テープMTの平均幅変化量ΔWの測定に用いられる測定装置210の外観を表す概略模式図である。測定装置210は、台座211と、支持柱212と、発光器213、受光器214、支持板215と、5本の支持部材216A~216Eと、固定部217とを備える。
【0204】
台座211は、矩形の板状を有する。台座211の中央には、受光器214が設けられている。支持柱212は、台座211の中心から一方の長辺側にずれた位置に、受光器214に隣接して立てられている。台座211の一方の短辺側には、固定部217が設けられている。
【0205】
支持柱212の先端部には、発光器213が支持されている。発光器213と受光器214とは対向する。測定時には、対向する発光器213と受光器214の間に、支持部材216A~216Eに支持されたサンプル10Sが配置される。発光器213および受光器214は、図示しないPC(パーソナルコンピュータ)に接続され、このPCの制御に基づき、支持部材216A~216Eに支持されたサンプル10Sの幅を測定し、測定結果をPCに出力する。
【0206】
発光器213および受光器214には、キーエンス社製のデジタル寸法測定器LS-7000が組み込まれている。発光器213は、支持部材216A~216Eに支持されたサンプル10Sの幅方向に平行な線状の光をサンプル10Sに照射する。受光器214は、サンプル10Sに遮断されなかった光量を計測することにより、サンプル10Sの幅を測定する。
【0207】
支持柱212のおよそ半分の高さ位置には、細長い矩形状の支持板215が固定されている。支持板215は、この支持板215の長辺が台座211の主面と平行となるように支持されている。支持板215の一方の主面には、5本の支持部材216A~216Eが支持されている。支持部材216A~216Eは、円柱の棒状を有し、サンプル10S(磁気テープMT)のバック面を支持する。5本の支持部材216A~216E(特にその表面)はいずれもステンレス鋼SUS304により構成され、その表面粗さRz(最大高さ)は0.15μm以上0.3μm以下である。
【0208】
ここで、5本の支持部材216A~216Eの配置を、
図11を参照しながら説明する。
図11に示したように、サンプル10Sは、5本の支持部材216A~216Eに乗せられている。5本の支持部材216A~216Eの各々の直径は、いずれも例えば7mmである。支持部材216Aと支持部材216Bとの距離d1(特にはこれら支持部材の中心軸の間の距離)は20mmである。支持部材216Bと支持部材216Cとの距離d2は30mmである。支持部材216Cと支持部材216Dとの距離d3は30mmである。支持部材216Dと支持部材216Eとの距離d4は20mmである。
【0209】
また、サンプル10Sのうち支持部材216B、支持部材216C、および支持部材216Dの間に乗っている部分が、重力方向に対して略垂直な平面を形成するように、これら3つの支持部材216B~216Dは配置されている。また、サンプル10Sが、支持部材216Aと支持部材216Bとの間では、上記略垂直の平面に対してθ1=30°の角度を形成するように、支持部材216Aおよび支持部材216Bは配置されている。さらに、サンプル10Sが、支持部材216Dと支持部材216Eとの間では、上記の略垂直な平面に対してθ2=30°の角度を形成するように、支持部材216Dおよび支持部材216Eは配置されている。また、5本の支持部材216A~216Eのうち、支持部材216Cは回転しないように固定されているが、その他の4本の支持部材216A、216B、216D、216Eは、それぞれ全て回転可能である。
【0210】
支持部材216A~216Eのうち、発光器213および受光器214の間に位置し、かつ、固定部217と荷重をかける部分とのほぼ中心に位置する支持部材216Cにはスリット216Sが設けられている。スリット216Sを介して発光器213から受光器214に光Lが照射されるようになっている。スリット216Sのスリット幅は1mmであり、光Lは、スリット216Sの枠に遮られることなく、当該スリット216Sを通り抜けられる。
【0211】
湿度80%RHの環境の温度変化に対する磁気テープMTの平均幅変化量ΔWは、上記の測定装置210を用いて以下のようにして測定される。まず、カートリッジ10に収容された1/2インチ(12.65mm)幅の磁気テープMTを巻き出し、磁気テープMTの外周側の一端から長手方向に10mから20mの範囲、30mから40mの範囲、50mから60mの範囲それぞれから磁気テープMTを250mmの長さに切り出し、3つのサンプル10Sを取得する。
【0212】
次に、以下のようにして、上記の3つのサンプルそれぞれに関して、湿度80%RHの環境の温度変化に対する磁気テープMTの幅変化量を測定する。
【0213】
サンプル10Sを測定装置210にセットする。具体的には、長尺状のサンプル10Sの一端を固定部217により固定する。次に、サンプル10Sを、5本の支持部材216A~216Eに載せる。この際、サンプル10Sのバック面が5本の支持部材216A~216Eに接するようにする。
【0214】
次に、チャンバ内に測定装置210を収容したのち、サンプル10Sの他端に、0.2Nの荷重をかけるための重り218を取り付ける。その後、チャンバ内の温度および湿度をコントロールし、チャンバ内を第1環境(温度10℃、湿度20%RH)に設定した後、チャンバ内の環境が安定するまで待つ。チャンバ内の環境が安定したら、デジタル寸法測定器を使用して、第1環境内においてサンプル10Sの幅を3時間測定し、当該測定の最後の10分間のデータを上記第1環境でのサンプル10Sの幅とする。
【0215】
次に、チャンバ内の温度および湿度をコントロールし、チャンバ内を第2環境(温度10℃、湿度80%RH)に設定した後、チャンバ内の環境が安定するまで待つ。チャンバ内の環境が安定したら、第1環境におけるサンプル10Sの幅の測定と同様にして、第2環境におけるサンプル10Sの幅を測定する。
【0216】
次に、チャンバ内の温度および湿度をコントロールし、チャンバ内を第3環境(温度29℃、湿度80%RH)に設定した後、チャンバ内の環境が安定するまで待つ。チャンバ内の環境が安定したら、第1環境におけるサンプル10Sの幅の測定と同様にして、第3環境におけるサンプル10Sの幅を測定する。
【0217】
上記第1環境から第3環境のうち、第2環境(温度10℃、湿度80%RH)および第3環境(温度29℃、湿度80%RH)にて測定されたサンプル10Sの幅を用いて、湿度80%RHの環境の温度変化に対する磁気テープMTの幅変化量Δw[nm/℃]を算出する。具体的には、以下の式により、湿度80%RHの環境の温度変化に対する磁気テープMTの幅変化量Δw[nm/℃]を算出する。
幅変化量Δw[nm/℃]=(w3-w2)(29℃-10℃)
但し、w2は、第2環境(温度10℃、湿度80%RH)における磁気テープMTの幅を表し、w3は、第3環境(温度29℃、湿度80%RH)における磁気テープMTの幅を表す。
【0218】
次に、上記のようにして測定された3つのサンプル10Sの幅変化量Δwを単純に平均(算術平均)することにより平均値を求め、これを湿度80%RHの環境の温度変化に対する磁気テープMTの平均幅変化量ΔWとする。
【0219】
上記の測定方法の説明では、第1環境から第3環境の3環境でサンプル10Sの幅を測定する方法について説明した。しかしながら、第1環境でのサンプル10Sの幅の測定を省略しても、磁気テープMTの幅変化量Δwの測定に影響がない場合には、すなわち、第2環境および第3環境でのサンプル10Sの幅の測定に影響がない場合には、第2環境および第3環境の2環境のみでサンプル10Sの幅を測定してもよい。
【0220】
(10年間のクリープ変形量ΔD)
温度32℃、湿度55%RHの環境における10年間のクリープ変形量ΔDは、好ましくは66nm以下、より好ましくは60nm以下、さらにより好ましくは50nm以下、特に好ましくは40nm以下である。クリープ変形量ΔDが66nm以下(磁気テープ幅換算で300nm以下)であれば、一般的なストレージテープシステムにおいて、10年経過後でも磁気テープMTの信号再生を保証することができる。ここで、期間を10年間に規定しているのは、一般的にカートリッジに対して少なくとも10年間の保証期間が望まれるためである。
【0221】
温度32℃、湿度55%RHの環境における10年間のクリープ変形量ΔDとは、温度32℃、湿度55%RHの環境で10年間走行させたときに推定されるクリープ変形量を表す。クリープ変形量ΔDは、以下のようにして測定される。
【0222】
まず、1/2インチ(12.65mm)幅の磁気テープMTが収容されたLTOカートリッジと、当該LTOカートリッジを使用可能なLTOドライブとを準備する。次に、カートリッジとドライブを温度32℃、湿度55%RHの環境に熱的に安定するまで少なくとも24時間保持する。以下の工程のいずれも、温度32℃、湿度55%RHの環境にて行われる。次に、カートリッジをドライブにロードし、走行速度5m/sec、テープ張力0.4Nで磁気テープMTの全長を1往復し、ドライブからアンロードする。アンロード後のカートリッジを30分間放置した後、再びカートリッジをドライブにロードし、走行速度5m/sec、テープ張力0.4Nで磁気テープMTの全長を1往復走行し、アンロードする。この手順を160時間繰り返す。
【0223】
上記操作を160時間繰り返したら、カートリッジをドライブからアンロードして、カートリッジを4時間放置する。次に、カートリッジをドライブにロードし、走行速度5m/sec、テープ張力0.4NでBOT(Beginning Of Tape)からEOT(End Of Tape)まで磁気テープを走行し、サーボバンド間隔を測定する。測定後、カートリッジをドライブからアンロードし、カートリッジを4時間放置する。再びカートリッジをドライブにロードし、0.4Nの張力でBOTからEOTまで走行速度5m/secで磁気テープを走行し、サーボバンド間隔を測定する。この手順を340時間以上繰り返す。
【0224】
次に、1回目の走行により取得されたサーボバンド間隔データを用いて、1回目の走行における所定領域ごとの平均サーボバンド間隔を求める。ここで、所定領域とは、磁気テープの全長を長手方向に等間隔に80分割して得られる領域を表す。平均サーボバンド間隔は、所定領域内にて1300フレームのサーボバンド間隔を測定し、その測定値を単純に平均(算術平均)することにより求められる。続いて、2回目以降の走行により取得されたサーボバンド間隔データを用いて、1回目の走行における所定領域ごとの平均サーボバンド間隔と同様にして、2回目以降の走行における所定領域ごとのサーボバンド間隔の平均値を求める。
【0225】
次に、上記のように求められた平均サーボバンド間隔を縦軸とし、エージング時間を横軸(対数軸)とするグラフを描画し、各所定領域のデータを対数近似し、近似直線を求める。具体的には、以下の近似直線を求める。近似直線の算出には、Microsoft(登録商標)のExcel(登録商標)の「近似曲線の追加」機能が使用される。なお、上記のMicrosoft(登録商標)のExcel(登録商標)のバージョンは、Microsoft(登録商標) Excel(登録商標) for Microsoft 365 MSOである。
図12は、平均サーボバンド間隔を縦軸とし、エージング時間を横軸(対数軸)とするグラフのイメージを示す。
y=Aln(x)+B
上記式中、yは、平均サーボバンド間隔[μm]を表す。xは、時間[h]を表す。AとBは、係数を表す。lnは、自然対数を表す。
【0226】
次に、80個の所定領域ごとに係数Aを求め、合計で80個の係数Aを取得する。続いて、取得した80個の係数Aを平均し、係数Aの平均値Amを算出する。そして、係数Aの平均値Amを使用して、10時間のサーボバンド間隔D1(=Am×ln(10)+B)と、87,600時間(10年)のサーボバンド間隔D2(=Am×ln(87600)+B)とを計算する。次に、10時間のサーボバンド間隔D1と、87,600時間(10年)のサーボバンド間隔D2との差ΔD(=D2-D1)を算出し、10年間のクリープ変形量ΔDとする。
【0227】
[4 磁気テープの製造方法]
次に、上記の構成を有する磁気テープMTの製造方法の一例について説明する。
【0228】
(塗料の調製工程)
まず、非磁性粒子および結着剤等を溶剤に混練、分散させることにより、下地層形成用塗料を調製する。次に、磁性粒子および結着剤等を溶剤に混練、分散させることにより、磁性層形成用塗料を調製する。磁性層形成用塗料および下地層形成用塗料の調製には、例えば、以下の溶剤、分散装置および混練装置を用いることができる。
【0229】
上記の塗料調製に用いられる溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、乳酸エチル、エチレングリコールアセテート等のエステル系溶媒、ジエチレングリコールジメチルエーテル、2-エトキシエタノール、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、メチレンクロライド、エチレンクロライド、四塩化炭素、クロロホルム、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、適宜混合して用いてもよい。
【0230】
上記の塗料調製に用いられる混練装置としては、例えば、連続二軸混練機、多段階で希釈可能な連続二軸混練機、ニーダー、加圧ニーダー、ロールニーダー等の混練装置を用いることができるが、特にこれらの装置に限定されるものではない。また、上記の塗料調製に用いられる分散装置としては、例えば、ロールミル、ボールミル、横型サンドミル、縦型サンドミル、スパイクミル、ピンミル、タワーミル、パールミル(例えばアイリッヒ社製「DCPミル」等)、ホモジナイザー、超音波分散機等の分散装置を用いることができるが、特にこれらの装置に限定されるものではない。
【0231】
(塗布工程)
次に、下地層形成用塗料を基体41の一方の主面に塗布して乾燥させることにより、下地層42を形成する。続いて、この下地層42上に磁性層形成用塗料を塗布して乾燥させることにより、磁性層43を下地層42上に形成する。なお、乾燥の際に、例えばソレノイドコイルにより、磁性粒子を基体41の厚み方向に磁場配向させる。また、乾燥の際に、例えばソレノイドコイルにより、磁性粒子を基体41の走行方向(長手方向)に磁場配向させたのちに、基体41の厚み方向に磁場配向させるようにしてもよい。このように長手方向に磁性粒子を一旦配向させる処理を施すことで、磁性粒子の垂直配向度(すなわち角形比S1)をさらに向上することができる。磁性層43の形成後、基体41の他方の主面にバック層44を形成する。これにより、磁気テープMTが得られる。
【0232】
角形比S1、S2は、例えば、磁性層形成用塗料の塗膜に印加される磁場の強度、磁性層形成用塗料中における固形分の濃度、磁性層形成用塗料の塗膜の乾燥条件(乾燥温度および乾燥時間)を調整することにより所望の値に設定される。塗膜に印加される磁場の強度は、磁性粒子の保磁力の2倍以上3倍以下であることが好ましい。角形比S1をさらに高めるためには(すなわち角形比S2をさらに低めるためには)、磁性層形成用塗料中における磁性粒子の分散状態を向上させることが好ましい。また、角形比S1をさらに高めるためには、磁性粒子を磁場配向させるための配向装置に磁性層形成用塗料が入る前の段階で、磁性粒子を磁化させておくことも有効である。なお、上記の角形比S1、S2の調整方法は単独で使用されてもよいし、2以上組み合わされて使用されてもよい。
【0233】
(硬化工程)
次に、磁気テープMTをロール状に巻き取ったのち、この状態で磁気テープMTに加熱処理を行うことにより、下地層42および磁性層43を硬化させる。
【0234】
(カレンダー工程)
次に、得られた磁気テープMTにカレンダー処理を行い、磁性面を平滑化する。
【0235】
(消磁工程およびサーボパターンの書き込み工程)
次に、必用に応じて、磁気テープMTの消磁を行ったのち、磁気テープMTにサーボパターンを書き込んでもよい。
【0236】
(裁断工程およびひずみ緩和処理工程)
次に、磁気テープMTを所定の幅(例えば1/2インチ幅)に裁断し、巻き取りハブに巻き取る。次に、巻き取られた磁気テープMTを所定温度の環境に所定時間保持することにより、ひずみ緩和処理を行う。以上により、磁気テープMTが得られる。
【0237】
(平均クリープ傾き比および平均Tanδ比の調整方法)
平均クリープ傾き比(A2/A1)および平均Tanδ比(平均Tanδ2/平均Tanδ1)は、例えば、磁気テープMTの各層の厚みの調整、基体41の材料の種類の選択、およびひずみ緩和処理の条件の調整等により、所望の値に調整することが可能である。
【0238】
[5 作用効果]
以上説明したように、一実施形態に係る磁気テープMTでは、温度32℃、湿度20%RHの環境にて測定された平均クリープ傾きA1と、温度32℃、湿度80%RHの環境にて測定された平均クリープ傾きA2の平均クリープ傾き比(A2/A1)が、1.440以下であり、温度32℃、湿度20%RHの環境にて測定された平均Tanδ1と、温度32℃、湿度80%RHの環境にて測定された平均Tanδ2の平均Tanδ比(平均Tanδ2/平均Tanδ1)が、1.2000以下である。これにより、磁気テープMTの平均厚みが5.30μm以下である場合にも、環境変化(湿度変化)による磁気テープMTのクリープ変形および粘弾性変化を抑制することができる。したがって、環境変化(湿度変化)に対する寸法安定性に優れる磁気テープを実現することができる。また、湿度80%RHの環境の温度変化に対する寸法安定性に優れる磁気テープを実現することができる。
【0239】
[6 変形例]
上記の一実施形態では、磁気テープカートリッジが、1リールタイプのカートリッジ10である場合について説明したが、2リールタイプのカートリッジであってもよい。
【0240】
図13は、2リールタイプのカートリッジ321の構成の一例を示す分解斜視図である。カートリッジ321は、合成樹脂製の上ハーフ302と、上ハーフ302の上面に開口された窓部302aに嵌合されて固着される透明な窓部材323と、上ハーフ302の内側に固着されリール306、307の浮き上がりを防止するリールホルダー322と、上ハーフ302に対応する下ハーフ305と、上ハーフ302と下ハーフ305を組み合わせてできる空間に収納されるリール306、307と、リール306、307に巻かれた磁気テープMTと、上ハーフ302と下ハーフ305を組み合わせてできるフロント側開口部を閉蓋するフロントリッド309およびこのフロント側開口部に露出した磁気テープMTを保護するバックリッド309Aとを備える。
【0241】
リール306、307は、磁気テープMTを巻くためのものである。リール306は、磁気テープMTが巻かれる円筒状のハブ部306aを中央部に有する下フランジ306bと、下フランジ306bとほぼ同じ大きさの上フランジ306cと、ハブ部306aと上フランジ306cの間に挟み込まれたリールプレート311とを備える。リール307はリール306と同様の構成を有している。
【0242】
窓部材323には、リール306、307に対応した位置に、これらリールの浮き上がりを防止するリール保持手段であるリールホルダー322を組み付けるための取付孔323aが各々設けられている。磁気テープMTは、第1の実施形態における磁気テープMTと同様である。
【実施例0243】
以下、実施例により本開示を具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0244】
以下の実施例および比較例では、平均クリープ傾き比(A2/A1)および平均Tanδ比(平均Tanδ2/平均Tanδ1)は、磁気テープの各層の厚みの調整、ベースフィルム(基体)の材料の種類の選択、およびひずみ緩和処理の条件の調整により調整された。
【0245】
[実施例1]
(磁性層形成用塗料の調製工程)
磁性層形成用塗料を以下のようにして調製した。まず、下記配合の第1組成物をエクストルーダで混練した。次に、ディスパーを備えた攪拌タンクに、混練した第1組成物と、下記配合の第2組成物を加えて予備混合を行った。続いて、さらにダイノミル混合を行い、フィルター処理を行い、磁性層形成用塗料を調製した。
【0246】
(第1組成物)
バリウムフェライト(BaFe12O19)磁性粉(六角板状、平均アスペクト比2.9、平均粒子体積1400nm3):100.0質量部
塩化ビニル系樹脂(当該樹脂溶液の配合:塩化ビニル系樹脂30.0質量%、シクロヘキサノン溶液70.0質量%):35.0質量部
(重合度300、数平均分子量Mn=10000、極性基としてOSO3K=0.07mmol/g、2級OH=0.3mmol/gを含有する。)
ポリウレタン樹脂(樹脂溶液:ポリウレタン樹脂の配合量30.0質量%、シクロヘキサノンの配合量70.0質量%):10.0質量部
(ポリウレタン樹脂:数平均分子量Mn=25000、ガラス転移温度Tg=110℃)
酸化アルミニウム粉末:6.0質量部(α-Al2O3、平均粒径0.1μm)
【0247】
(第2組成物)
カーボンブラック:2.0質量部(東海カーボン社製、商品名:シーストS 算術平均粒子径70nm)
ポリウレタン樹脂(当該樹脂溶液の配合:ポリウレタン樹脂30.0質量%、シクロヘキサノン70.0質量%):5.0質量部
(ポリウレタン樹脂:数平均分子量Mn=25000、ガラス転移温度Tg=110℃)
n-ブチルステアレート:2.0質量部
メチルエチルケトン:121.0質量部
トルエン:121.0質量部
シクロヘキサノン:116.0質量部
【0248】
最後に、上記のようにして調製した磁性層形成用塗料に、硬化剤として、ポリイソシアネート(商品名:コロネートL、東ソー株式会社製):3.3質量部と、ステアリン酸:1.0質量部とを添加した。
【0249】
(下地層形成用塗料の調製工程)
下地層形成用塗料を以下のようにして調製した。まず、下記配合の第3組成物をエクストルーダで混練した。次に、ディスパーを備えた攪拌タンクに、混練した第3組成物と、下記配合の第4組成物を加えて予備混合を行った。続いて、さらにダイノミル混合を行い、フィルター処理を行い、下地層形成用塗料を調製した。
【0250】
(第3組成物)
針状酸化鉄粉末:100.0質量部
(α-Fe2O3、平均長軸長0.11μm)
塩化ビニル系樹脂(当該樹脂溶液の配合:塩化ビニル系樹脂30.0質量%、シクロヘキサノン70.0質量%):46.0質量部
(重合度300、数平均分子量Mn=10000、極性基としてOSO3K=0.07mmol/g、2級OH=0.3mmol/gを含有する。)
酸化アルミニウム粉末:3.0質量部(α-Al2O3、平均粒径0.1μm)
【0251】
(第4組成物)
カーボンブラック:30.0質量部(旭カーボン社製、商品名:#80)
ポリウレタン樹脂(当該樹脂溶液の配合:ポリウレタン樹脂30.0質量%、シクロヘキサノン70.0質量%):40.0質量部
(ポリウレタン樹脂:数平均分子量Mn=25000、ガラス転移温度Tg=70℃)
n-ブチルステアレート:2.0質量部
メチルエチルケトン:108.2質量部
トルエン:108.2質量部
シクロヘキサノン:100.0質量部
【0252】
最後に、上記のようにして調製した下地層形成用塗料に、硬化剤として、ポリイソシアネート(商品名:コロネートL、東ソー株式会社製):1.5質量部と、ステアリン酸:1.5質量部とを添加した。
【0253】
(バック層形成用塗料の調製工程)
バック層形成用塗料を以下のようにして調製した。下記原料を、ディスパーを備えた攪拌タンクで混合を行い、フィルター処理を行うことで、バック層形成用塗料を調製した。
カーボンブラック(旭カーボン社製、商品名:#80):100.0質量部
ポリエステルポリウレタン:100.0質量部
(日本ポリウレタン社製、商品名:N-2304)
メチルエチルケトン:500.0質量部
トルエン:400.0質量部
シクロヘキサノン:100.0質量部
ポリイソシアネート(商品名:コロネートL、東ソー株式会社製):10.0質量部
【0254】
(塗布工程)
上記のようにして調製した磁性層形成用塗料および下地層形成用塗料を用いて、ベースフィルム(非磁性支持体)である、平均厚み4.00μm、長尺のポレエチレンナフタレートフィルム(以下「PENフィルム」という。)の一方の主面上に下地層および磁性層を以下のようにして形成した。まず、PENフィルムの一方の主面上に下地層形成用塗料を塗布、乾燥させることにより、ひずみ緩和処理後に平均厚みが830nmとなるように下地層を形成した。次に、下地層上に磁性層形成用塗料を塗布、乾燥させることにより、ひずみ緩和処理後に平均厚みが70nmとなるように磁性層を形成した。磁性層形成用塗料の乾燥の際に、ソレノイドコイルにより、磁性粒子をフィルムの厚み方向に磁場配向させた。これにより、磁気テープの垂直方向(厚み方向)における角形比S1を65%に設定し、磁気テープの長手方向における角形比S2を38%に設定した。続いて、PENフィルムの他方の主面上にバック層形成用塗料を塗布、乾燥させることにより、ひずみ緩和処理後に平均厚みが0.30μmとなるようにバック層を形成した。これにより、磁気テープが得られた。
【0255】
以下の説明において、下地層の平均厚み、磁性層の平均厚み、バック層の平均厚みはそれぞれ、ひずみ緩和処理後の下地層の平均厚み、ひずみ緩和処理後の磁性層の平均厚みおよびひずみ緩和処理後のバック層の平均厚みを表す。
【0256】
(硬化工程)
磁気テープをロール状に巻き取ったのち、この状態で磁気テープに70℃、48時間の加熱処理を行うことにより、下地層および磁性層を硬化させた。
【0257】
(カレンダー工程)
カレンダー処理を行い、磁性層の表面を平滑化した。この際、カレンダー処理の温度を温度100℃とし、かつ、カレンダー処理の圧力を200kg/cmとした。
【0258】
(裁断工程およびひずみ緩和処理工程)
上記のようにして得られた磁気テープを1/2インチ(12.65mm)幅に裁断し、巻き取りハブに巻き取った。以下では、この巻き取りハブに巻き取られた磁気テープをパンケーキという。次に、パンケーキを60℃の環境に24時間保持することにより、ひずみ緩和処理を行った。これにより、平均厚み5.20μmの磁気テープが得られた。
【0259】
[実施例2]
下地層の平均厚みを680nm、バック層の平均厚みを0.25μm、ベースフィルムを平均厚み4.20μmのPENフィルムとした。また、パンケーキを60℃の環境に40時間保持することにより、ひずみ緩和処理を行った。上記以外のことは実施例1と同様にして、平均厚み5.20μmの磁気テープを得た。
【0260】
[実施例3]
下地層の平均厚みを530nm、バック層の平均厚みを0.20μm、ベースフィルムを平均厚み4.40μmのPETフィルムとした。上記以外のことは実施例1と同様にして、平均厚み5.20μmの磁気テープを得た。
【0261】
[比較例1]
下地層の平均厚みを1130nm、バック層の平均厚みを0.40μm、ベースフィルムを平均厚み3.60μmのPENベースとした。上記以外のことは実施例1と同様にして、平均厚み5.20μmの磁気テープを得た。
【0262】
[比較例2]
下地層の平均厚みを680nm、バック層の平均厚みを0.25μm、ベースフィルムを平均厚み4.20μmのPETフィルムとした。上記以外のことは実施例1と同様にして、平均厚み5.20μmの磁気テープを得た。
【0263】
[評価]
上記のようにして得られた磁気テープに対して以下の評価を行った。
【0264】
[平均クリープ傾き比(A2/A1)]
上記の一実施形態にて説明した平均クリープ傾き比(A2/A1)の測定方法により、磁気テープの平均クリープ傾き比(A2/A1)を測定した。その結果を表2に示した。
【0265】
[平均Tanδ比(平均Tanδ2/平均Tanδ1)]
上記の一実施形態にて説明した平均Tanδ比(平均Tanδ2/平均Tanδ1)の測定方法により、磁気テープの平均Tanδ比(平均Tanδ2/平均Tanδ1)を測定した。その結果を表2に示した。
【0266】
[磁気テープの平均幅変化量ΔW]
上記の一実施形態にて説明した平均幅変化量ΔWの測定方法により、磁気テープの平均幅変化量ΔWを測定した。その結果を表2に示した。
【0267】
[10年間のクリープ変形量ΔD]
まず、サーボライタを用いてサーボ信号を磁気テープに書き込むことにより、5本のサーボバンドを形成した。サーボ信号の書き込みにより、各サーボバンドには、既知の間隔でハの字状の磁気パターン(サーボパターン)の列が形成された。次に、サーボ信号が書き込まれた磁気テープをカートリッジ(LTO規格に準拠したカートリッジ)に巻き取った。
【0268】
次に、上記の一実施形態にて説明した10年間のクリープ変形量ΔDの測定方法により、磁気テープの10年間のクリープ変形量ΔDを測定した。その結果を表2に示した。
【0269】
【0270】
平均クリープ傾き比(A
2/A
1)と平均tanδ比(平均Tanδ
2/平均Tanδ
1)の測定結果を
図14に示した。平均クリープ傾き比(A
2/A
1)が1.440以下であり、かつ、平均Tanδ比(平均Tanδ
2/平均Tanδ
1)が1.2000以下であると、湿度80%RHの環境の温度変化に対する磁気テープの平均幅変化量ΔWを160nm以下に抑制することができ、かつ、温度32℃、湿度55%RHの環境における10年間のクリープ変形量を66nm以下に抑制することができる(実施例1~3、比較例1)。
【0271】
平均クリープ傾き比(A2/A1)が1.440以下であっても、平均Tanδ比(平均Tanδ2/平均Tanδ1)が1.2000を超えると、温度32℃、湿度55%RHの環境における10年間のクリープ変形量を66nm以下に抑制することができるが、湿度80%RHの環境の温度変化に対する磁気テープの平均幅変化量ΔWを160nm以下に抑制することができなくなる(比較例2)。
【0272】
以上、本開示の実施形態および変形例について具体的に説明したが、本開示は、上記の実施形態および変形例に限定されるものではなく、本開示の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。例えば、上記の実施形態および変形例において挙げた構成、方法、工程、形状、材料および数値等はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる構成、方法、工程、形状、材料および数値等を用いてもよい。上記の実施形態および変形例の構成、方法、工程、形状、材料および数値等は、本開示の主旨を逸脱しない限り、互いに組み合わせることが可能である。
【0273】
上記の実施形態および変形例にて例示した化合物等の化学式は代表的なものであって、同じ化合物の一般名称であれば、記載された価数等に限定されない。上記の実施形態および変形例で段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値または下限値は、他の段階の数値範囲の上限値または下限値に置き換えてもよい。上記の実施形態および変形例で例示した材料は、特に断らない限り、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0274】
また、本開示は以下の構成を採用することもできる。
(1)
テープ状の磁気記録媒体であって、
基体と磁性層とを備え、
前記基体は、ポリエステル系樹脂を含み、
前記磁気記録媒体の平均厚みが、5.30μm以下であり、
温度32℃、湿度20%RHの環境にて測定された平均クリープ傾きA1と、温度32℃、湿度80%RHの環境にて測定された平均クリープ傾きA2の比(A2/A1)が、1.440以下であり、
温度32℃、湿度20%RHの環境にて測定された平均Tanδ1と、温度32℃、湿度80%RHの環境にて測定された平均Tanδ2の比(平均Tanδ2/平均Tanδ1)が、1.2000以下である、
磁気記録媒体。
(2)
前記磁性層は、サーボパターンを有し、
前記サーボパターンは、複数の第1磁化領域と、複数の第2磁化領域とを含み、
前記複数の第1磁化領域と前記複数の第2磁化領域とは、前記磁気記録媒体の幅方向に平行な軸に対して非対称である、
(1)に記載の磁気記録媒体。
(3)
前記軸に対する前記第1磁化領域の傾斜角度と、前記軸に対する前記第2磁化領域の傾斜角度とが異なり、
前記第1磁化領域の傾斜角度および前記第2磁化領域の傾斜角度のうち、大きい方の傾斜角度は、18°以上28°以下である、
(2)に記載の磁気記録媒体。
(4)
前記磁性層は、磁性粒子を含み、
前記磁性粒子の平均粒子体積は、1500nm3以下である、
(1)から(3)のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
(5)
前記平均クリープ傾きA1は、前記磁気記録媒体から取り出された複数の第1のサンプルのクリープ傾きの平均値であり、前記各第1のサンプルのクリープ傾きは、温度32℃、湿度20%RHの環境にて前記第1のサンプルにクリープ試験を行い、横軸を時間、縦軸をひずみとするグラフを取得し、該グラフの横軸を対数表示に変更し、変更後のグラフ中のデータを対数近似し近似直線の傾きを求めることにより得られ、
前記平均クリープ傾きA2は、前記磁気記録媒体から取り出された複数の第2のサンプルのクリープ傾きの平均値であり、前記各第2のサンプルのクリープ傾きは、温度32℃、湿度80%RHの環境にて前記第2のサンプルにクリープ試験を行い、横軸を時間、縦軸をひずみとするグラフを取得し、該グラフの横軸を対数表示に変更し、変更後のグラフ中のデータを対数近似し近似直線の傾きを求めることにより得られる、
(1)から(4)のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
(6)
前記比(A2/A1)が、1.300以下であり、
前記比(平均Tanδ2/平均Tanδ1)が、1.1800以下である、
(1)から(5)のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
(7)
湿度80%RHの環境の温度変化に対する前記磁気記録媒体の平均幅変化量が、160nm/℃以下である、
(1)から(6)のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
(8)
温度32℃、湿度55%RHの環境における10年間のクリープ変形量が、66nm以下である、
(1)から(7)のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
(9)
前記磁性層は、800nm以下のデータトラック幅、および46nm以下のビット長で信号を記録可能に構成されている、
(1)から(8)のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
(10)
下地層をさらに備え、
前記下地層の平均厚みは、900nm以下である、
(1)から(9)のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
(11)
前記磁性層の平均厚みが、80nm以下である、
(1)から(10)のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
(12)
前記基体の平均厚みは、4.40μm以下である、
(1)から(11)のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
(13)
バック層をさらに備え、
前記バック層の平均厚みは、0.60μm以下である、
(1)から(12)のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
(14)
前記磁性層は、磁性粒子を含み、
前記磁性粒子は、六方晶フェライト、ε酸化鉄またはCo含有スピネルフェライトを含む、
(1)から(13)のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
(15)
(1)から(14)のいずれか1項に記載された磁気記録媒体を備える、
カートリッジ。
基体41は、例えば、ポリエステル系樹脂を主成分として含む。ポリエステル系樹脂は、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PBN(ポリブチレンナフタレート)、PCT(ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)、PEB(ポリエチレン-p-オキシベンゾエート)、およびポリエチレンビスフェノキシカルボキシレートからなる群より選ばれた少なくとも1種を含む。基体41が2種以上のポリエステル系樹脂を含む場合、それらの2種以上のポリエステル系樹脂は混合されていてもよいし、共重合されていてもよいし、または積層されていてもよい。ポリエステル系樹脂の末端および側鎖の少なくとも一方が変性されていてもよい。基体41は、ポリエステル系樹脂に加えて、後述のポリエステル系樹脂以外の樹脂を含んでもよい。
磁性粒子がコバルトフェライト粒子である場合、磁性粒子の平均アスペクト比が、好ましくは1.0以上3.0以下、より好ましくは1.0以上2.5以下、さらにより好ましくは1.0以上2.0以下である。磁性粒子の平均アスペクト比が1.0以上3.0以下の範囲内であると、磁性粒子の凝集を抑制することができる。また、磁性層43の形成工程において磁性粒子を垂直配向させる際に、磁性粒子に加わる抵抗を抑制することができる。したがって、磁性粒子の垂直配向性を向上することができる。磁性粒子の平均アスペクト比の算出方法は、磁性粒子がε酸化鉄粒子である場合における磁性粒子の平均アスペクト比の算出方法と同様である。
上記の保磁力Hc2は以下のようにして求められる。まず、カートリッジ10に収容された磁気テープMTを巻き出し、磁気テープMTの外周側の一端から長手方向に30mから40mの位置で磁気テープMTを切り出し、磁気テープMTの長手方向の向きが同じになるように、両面テープで3枚重ね合わされた後、φ6.39mmのパンチで打ち抜かれて、測定サンプルが作製される。この際に、磁気テープMTの長手方向(走行方向)が認識できるように、磁性を持たない任意のインクでマーキングを行う。そして、振動試料型磁力計(Vibrating Sample Magnetometer:VSM)を用いて磁気テープMTの長手方向(走行方向)に対応する測定サンプル(磁気テープMT全体)のM-Hループが測定される。次に、上記で切り出した磁気テープMTの塗膜(下地層42、磁性層43およびバック層44等)を、アセトンまたはエタノール等を用いて払拭し、基体41のみを残す。そして、得られた基体41が両面テープで3枚重ね合わされた後、φ6.39mmのパンチで打ち抜かれて、バックグラウンド補正用のサンプル(以下、単に「補正用サンプル」)が作製される。その後、VSMを用いて基体41の長手方向(磁気テープMTの長手方向)に対応する補正用サンプル(基体41)のM-Hループが測定される。
磁気テープMTの垂直方向における角形比S1は以下のようにして求められる。まず、カートリッジ10に収容された磁気テープMTを巻き出し、磁気テープMTの外周側の一端から長手方向に30mから40mの位置で磁気テープMTを切り出し、磁気テープMTの長手方向の向きが同じになるように、両面テープで3枚重ね合わされた後、φ6.39mmのパンチで打ち抜かれて、測定サンプルが作製される。この際に、磁気テープMTの長手方向(走行方向)が認識できるように、磁性を持たない任意のインクでマーキングを行う。そして、振動試料型磁力計(Vibrating Sample Magnetometer:VSM)を用いて磁気テープMTの垂直方向(厚み方向)に対応する測定サンプル(磁気テープMT全体)のM-Hループが測定される。次に、上記で切り出した磁気テープMTの塗膜(下地層42、磁性層43およびバック層44等)を、アセトンまたはエタノール等を用いて払拭し、基体41のみを残す。そして、得られた基体41が両面テープで3枚重ね合わされた後、φ6.39mmのパンチで打ち抜かれて、バックグラウンド補正用のサンプル(以下、単に「補正用サンプル」)が作製される。その後、VSMを用いて基体41の垂直方向(磁気テープMTの垂直方向)に対応する補正用サンプル(基体41)のM-Hループが測定される。
ヤング率の測定には引っ張り試験機(島津製作所製、AG-100D)を用いる。テープ長手方向のヤング率を測定したい場合は、カートリッジ10に収容された磁気テープMTを巻き出し、磁気テープMTの外周側の一端から長手方向に30mから40mの位置で磁気テープMTを180mmの長さに切り出し測定サンプルを準備する。上記引っ張り試験機にテープの幅(1/2インチ)を固定できる冶具を取り付け、テープ幅の上下を固定する。距離(チャック間のテープの長さ)は100mmにする。テープサンプルをチャック後、サンプルを引っ張る方向に応力を徐々にかけていく。引っ張り速度は0.1mm/minとする。この時の応力の変化と伸び量から、以下の式を用いてヤング率を計算する。
E(N/m2)=((ΔN/S)/(Δx/L))×106
ΔN:応力の変化(N)
S:試験片の断面積(mm2)
Δx:伸び量(mm)
L:つかみ治具間距離(mm)
上記測定サンプルの断面積Sは、引張動作前の断面積であり、測定サンプルの幅(1/2インチ)と測定サンプルの厚さとの積で求められる。測定を行う際の引張応力の範囲は、磁気テープMTの厚み等に応じて線形領域の引張応力の範囲を設定する。ここでは、応力の範囲としては0.2Nから0.7Nとし、この時の応力変化(ΔN)と伸び量(Δx)を計算に使用する。なお、上記のヤング率の測定は、25℃±2℃、50%RH±5%RHにて行われるものとする。
また、サンプル10Sのうち支持部材216B、支持部材216C、および支持部材216Dの間に乗っている部分が、重力方向に対して略垂直な平面を形成するように、これら3つの支持部材216B~216Dは配置されている。また、サンプル10Sが、支持部材216Aと支持部材216Bとの間では、上記略垂直の平面に対してθ
1
=30°の角度を形成するように、支持部材216Aおよび支持部材216Bは配置されている。さらに、サンプル10Sが、支持部材216Dと支持部材216Eとの間では、上記の略垂直な平面に対してθ
2
=30°の角度を形成するように、支持部材216Dおよび支持部材216Eは配置されている。また、5本の支持部材216A~216Eのうち、支持部材216Cは回転しないように固定されているが、その他の4本の支持部材216A、216B、216D、216Eは、それぞれ全て回転可能である。
窓部材323には、リール306、307に対応した位置に、これらリールの浮き上がりを防止するリール保持手段であるリールホルダー322を組み付けるための取付孔323aが各々設けられている。磁気テープMTは、上記の一実施形態における磁気テープMTと同様である。