(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024028051
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】エネルギー消費量推定装置、モデル生成装置、プログラム及びモデルの生成方法
(51)【国際特許分類】
G06N 99/00 20190101AFI20240222BHJP
【FI】
G06N99/00 180
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022131382
(22)【出願日】2022-08-19
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100180655
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 悟
(57)【要約】
【課題】高精度に車両のエネルギー消費量を推定することが可能なエネルギー消費量推定装置、モデル生成装置、プログラム及びモデルの生成方法が提供される。
【解決手段】エネルギー消費量推定装置(10)は、車両(20)のエネルギー消費量推定装置であって、説明変数から目的変数を得るためのモデルを生成するモデル生成部(131)を備え、モデルは、目的変数として車両のエネルギー消費量を含み、説明変数として車両の走行情報、車両の荷重情報及び車両のタイヤ情報を含む、重回帰モデルであり、モデル生成部は、説明変数に対する目的変数が示された車両の実績データを用いて、車両のタイヤ情報に関連付けられた第1係数を算出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のエネルギー消費量推定装置であって、
説明変数から目的変数を得るためのモデルを生成するモデル生成部を備え、
前記モデルは、前記目的変数として前記車両のエネルギー消費量を含み、前記説明変数として前記車両の走行情報、前記車両の荷重情報及び前記車両のタイヤ情報を含む、重回帰モデルであり、
前記モデル生成部は、前記説明変数に対する前記目的変数が示された前記車両の実績データを用いて、前記車両のタイヤ情報に関連付けられた第1係数を算出する、エネルギー消費量推定装置。
【請求項2】
前記第1係数は、動的負荷半径に関連付けられる、請求項1に記載のエネルギー消費量推定装置。
【請求項3】
前記モデル生成部は、勾配抵抗及び転がり抵抗の少なくとも1つに関連付けられた第2係数を算出する、請求項1又は2に記載のエネルギー消費量推定装置。
【請求項4】
前記モデルは、前記説明変数として前記車両の車両情報をさらに含む、請求項1又は2に記載のエネルギー消費量推定装置。
【請求項5】
生成された前記モデルを用いて、前記車両のエネルギー消費量を推定するエネルギー消費量推定部を備える、請求項1又は2に記載のエネルギー消費量推定装置。
【請求項6】
前記エネルギー消費量推定部は、転がり抵抗、空気抵抗、勾配抵抗、加速抵抗及び運動エネルギーの少なくとも1つによって消費される、前記車両のエネルギー消費量を推定する、請求項5に記載のエネルギー消費量推定装置。
【請求項7】
車両のエネルギー消費量推定のためのモデルを生成するモデル生成装置であって、
説明変数から目的変数を得るためのモデルを生成するモデル生成部を備え、
前記モデルは、前記目的変数として前記車両のエネルギー消費量を含み、前記説明変数として前記車両の走行情報、前記車両の荷重情報及び少なくとも動的負荷半径を有する前記車両のタイヤ情報を含む、機械学習モデルであり、
前記モデル生成部は、前記説明変数に対する前記目的変数が示された前記車両の実績データを用いて、機械学習によって前記モデルを生成する、モデル生成装置。
【請求項8】
コンピュータに、車両のエネルギー消費量推定のためのモデルを生成させるプログラムであって、
前記モデルは、目的変数として前記車両のエネルギー消費量を含み、説明変数として前記車両の走行情報、前記車両の荷重情報及び少なくとも動的負荷半径を有する前記車両のタイヤ情報を含む、機械学習モデルであり、
前記コンピュータに、
前記説明変数に対する前記目的変数が示された前記車両の実績データを取得することと、
前記実績データを用いた機械学習を行うことと、を実行させる、プログラム。
【請求項9】
コンピュータが実行する、車両のエネルギー消費量推定のためのモデルの生成方法であって、
前記モデルは、目的変数として前記車両のエネルギー消費量を含み、説明変数として前記車両の走行情報、前記車両の荷重情報及び少なくとも動的負荷半径を有する前記車両のタイヤ情報を含む、機械学習モデルであり、
前記説明変数に対する前記目的変数が示された前記車両の実績データを取得することと、
前記実績データを用いた機械学習を行うことと、を含む、モデルの生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エネルギー消費量推定装置、モデル生成装置、プログラム及びモデルの生成方法に関する。本開示は、特に車両のエネルギー消費量を推定するためのエネルギー消費量推定装置、モデル生成装置、プログラム及びモデルの生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の燃料消費量などのエネルギー消費量を推定する技術が提案されている。例えば、特許文献1は、車両から運転履歴に伴う燃料消費量及び走行距離を取得する他に、運転者個人の運転状況パターン毎の燃料消費量の傾向に基づいて、走行予定経路の燃料消費量を推定するシステムを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、車両の燃料消費量などのエネルギー消費量は、走行状況及び装備などの様々な因子によって変化する。特許文献1などの従来技術は、走行予定経路の情報から燃料消費量を推定するが、例えば車両の装備変更などによる燃料消費量の変化を推定することができなかった。そのため、車両のエネルギー消費量について、さらなる推定精度の向上が求められている。
【0005】
かかる事情に鑑みてなされた本開示の目的は、高精度に車両のエネルギー消費量を推定することが可能なエネルギー消費量推定装置、モデル生成装置、プログラム及びモデルの生成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本開示の一実施形態に係るエネルギー消費量推定装置は、車両のエネルギー消費量推定装置であって、説明変数から目的変数を得るためのモデルを生成するモデル生成部を備え、前記モデルは、前記目的変数として前記車両のエネルギー消費量を含み、前記説明変数として前記車両の走行情報、前記車両の荷重情報及び前記車両のタイヤ情報を含む、重回帰モデルであり、前記モデル生成部は、前記説明変数に対する前記目的変数が示された前記車両の実績データを用いて、前記車両のタイヤ情報に関連付けられた第1係数を算出する。
この構成により、高精度に車両のエネルギー消費量を推定することが可能になる。
【0007】
(2)本開示の一実施形態として、(1)において、前記第1係数は、動的負荷半径に関連付けられる。
この構成により、動的負荷半径に基づいて運動エネルギー及び車両の走行抵抗を正確に推定することができ、さらに高精度に車両のエネルギー消費量を推定することが可能になる。
【0008】
(3)本開示の一実施形態として、(1)又は(2)において、前記モデル生成部は、勾配抵抗及び転がり抵抗の少なくとも1つに関連付けられた第2係数を算出する。
この構成により、勾配抵抗及び転がり抵抗の少なくとも1つに基づいて運動エネルギー及び車両の走行抵抗を正確に推定することができ、さらに高精度に車両のエネルギー消費量を推定することが可能になる。
【0009】
(4)本開示の一実施形態として、(1)から(3)のいずれかにおいて、前記モデルは、前記説明変数として前記車両の車両情報をさらに含む。
この構成により、車両による空気抵抗の違い等を考慮することが可能になり、さらに高精度に車両のエネルギー消費量を推定することが可能になる。
【0010】
(5)本開示の一実施形態として、(1)から(4)のいずれかにおいて、生成された前記モデルを用いて、前記車両のエネルギー消費量を推定するエネルギー消費量推定部を備える。
この構成により、高精度に車両のエネルギー消費量の推定ができる。
【0011】
(6)本開示の一実施形態として、(5)において、前記エネルギー消費量推定部は、転がり抵抗、空気抵抗、勾配抵抗、加速抵抗及び運動エネルギーの少なくとも1つによって消費される、前記車両のエネルギー消費量を推定する。
この構成により、一部の要因によるエネルギー消費量の高精度な推定ができる。
【0012】
(7)本開示の一実施形態に係るモデル生成装置は、車両のエネルギー消費量推定のためのモデルを生成するモデル生成装置であって、説明変数から目的変数を得るためのモデルを生成するモデル生成部を備え、前記モデルは、前記目的変数として前記車両のエネルギー消費量を含み、前記説明変数として前記車両の走行情報、前記車両の荷重情報及び少なくとも動的負荷半径を有する前記車両のタイヤ情報を含む、機械学習モデルであり、前記モデル生成部は、前記説明変数に対する前記目的変数が示された前記車両の実績データを用いて、機械学習によって前記モデルを生成する。
この構成により、高精度に車両のエネルギー消費量を推定することが可能なモデルを生成できる。
【0013】
(8)本開示の一実施形態に係るプログラムは、コンピュータに、車両のエネルギー消費量推定のためのモデルを生成させるプログラムであって、前記モデルは、目的変数として前記車両のエネルギー消費量を含み、説明変数として前記車両の走行情報、前記車両の荷重情報及び少なくとも動的負荷半径を有する前記車両のタイヤ情報を含む、機械学習モデルであり、前記コンピュータに、前記説明変数に対する前記目的変数が示された前記車両の実績データを取得することと、前記実績データを用いた機械学習を行うことと、を実行させる。
この構成により、高精度に車両のエネルギー消費量を推定することが可能なモデルを生成できる。
【0014】
(9)本開示の一実施形態に係るモデルの生成方法は、コンピュータが実行する、車両のエネルギー消費量推定のためのモデルの生成方法であって、前記モデルは、目的変数として前記車両のエネルギー消費量を含み、説明変数として前記車両の走行情報、前記車両の荷重情報及び少なくとも動的負荷半径を有する前記車両のタイヤ情報を含む、機械学習モデルであり、前記説明変数に対する前記目的変数が示された前記車両の実績データを取得することと、前記実績データを用いた機械学習を行うことと、を含む。
この構成により、高精度に車両のエネルギー消費量を推定することが可能なモデルを生成できる。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、高精度に車両のエネルギー消費量を推定することが可能なエネルギー消費量推定装置、モデル生成装置、プログラム及びモデルの生成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係るエネルギー消費量推定装置を含むエネルギー消費量推定システムの構成例を示す図である。
【
図2】
図2は、
図1のエネルギー消費量推定システムの構成例を示す別の図である。
【
図3】
図3は、本開示の一実施形態に係るエネルギー消費量推定方法の例を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、
図3のモデル生成工程の詳細を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、
図3のエネルギー消費量推定工程の詳細を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本開示の一実施形態に係るエネルギー消費量推定装置、モデル生成装置、プログラム及びモデルの生成方法が説明される。各図中、同一又は相当する部分には、同一符号が付されている。本実施形態の説明において、同一又は相当する部分については、説明を適宜省略又は簡略化する。
【0018】
図1及び
図2は、本実施形態に係るエネルギー消費量推定装置10を含むエネルギー消費量推定システムの構成例を示す図である。
図1はエネルギー消費量推定装置10の内部構成例を含むブロック図である。
図2はエネルギー消費量推定システムの全体構成を示す。
【0019】
エネルギー消費量推定装置10は、車両20のエネルギー消費量推定のための装置である。本実施形態において、エネルギー消費量推定装置10は、モデルを生成し、生成したモデルを用いて車両20のエネルギー消費量を推定する。ここで、エネルギー消費量推定装置10は、モデルを生成する機能のみを備えてよいし、車両20のエネルギー消費量を推定する機能のみを備えてよい。また、エネルギー消費量推定装置10のモデルを生成する機能部分を1つの装置のように扱って、モデル生成装置と称することがある。エネルギー消費量は、車両20が走行のために消費するエネルギーの量であって、客観的に比較可能なように、一定の基準当たりで示されるものをいう。エネルギー消費量は、例えば車両20がガソリンを用いるものであれば、燃料消費量であってよい。本実施形態において、エネルギー消費量は燃料消費量であるとして説明するが、これに限定されない。例えばエネルギー消費量は、車両20が電気自動車であれば、消費電力量であってよい。また、例えばエネルギー消費量は、車両20が水素を用いるものであれば、水素の使用量であってよい。
【0020】
エネルギー消費量推定装置10は、通信部11と、記憶部12と、制御部13と、を備える。制御部13は、モデル生成部131と、エネルギー消費量推定部132と、を備える。エネルギー消費量推定装置10は、ハードウェア構成として、例えばコンピュータであってよい。エネルギー消費量推定装置10の構成要素の詳細については後述する。
【0021】
エネルギー消費量推定装置10は、ネットワーク40で接続される運行管理装置60とともに、エネルギー消費量推定システムを構成してよい。ネットワーク40は、例えばインターネットであるが、LAN(Local Area Network)などであってよい。
【0022】
運行管理装置60は、車両20の運行を管理する装置である。運行管理装置60は、例えばエネルギー消費量推定装置10とは別のコンピュータで構成される。車両20は、特定の用途のものに限定されるものでなく、例えば乗用車、タクシー、トラック等であり得るが、本実施形態においてバスであるとして説明される。つまり、本実施形態において、運行管理装置60は、公共交通機関であるバスとしての車両20を管理する装置である。運行管理装置60は、車両20の走行状態、荷重の状態、さらに装着しているタイヤ30の情報などを管理する。運行管理装置60は、車両20が装着するタイヤ30の情報として、タイヤ30の種類、サイズ、動的負荷半径及び転がり抵抗などを管理してよい。動的負荷半径は、車両20の実際の移動量からみたタイヤ30の有効半径である。運行管理装置60は、車両情報として、車両20の種類、種類に応じた前方投影面積などを管理してよい。また、運行管理装置60は、車両20の重量などのデータ、車両20の走行ルート(路線)の地図情報などを管理してよい。運行管理装置60は、車両20の運行に関する情報をデータベースとして蓄積して、アクセス可能な記憶装置に記憶してよい。また、運行管理装置60は、エネルギー消費量推定装置10が車両20のエネルギー消費量を推定できるように、データベースの情報をエネルギー消費量推定装置10に提供する。
【0023】
本実施形態において、バスである車両20は、検出装置70及び通信装置80を備える。検出装置70は、車両20の走行状態を示す情報である車両運行情報を検出して通信装置80に出力する。検出装置70は、例えば加速度センサを含み、車両運行情報として車両20の加速度の情報を出力してよい。検出装置70は、例えば速度センサを含み、車両運行情報として車両20の速度の情報を出力してよい。検出装置70は、例えばGPS(Global Positioning System)機能を有する装置を含み、車両運行情報として車両20の位置情報又は移動距離を出力してよい。また、本実施形態において、検出装置70は、運賃を支払うためのICカードのリーダを含み、車両運行情報として車両20の乗降人数を出力する。
【0024】
通信装置80は、車両運行情報を運行管理装置60に出力する車載装置である。通信装置80は例えば無線通信モジュールで構成されてよいし、例えばデジタルタコグラフであってよいが、特定の装置に限定されない。本実施形態において、通信装置80は、ネットワーク40を介して、運行管理装置60と通信可能であるように構成される。運行管理装置60に出力された車両運行情報は、実績データとして運行管理装置60のデータベースに蓄積される。
【0025】
ここで、実績データ(通信装置80を介して運行管理装置60に出力された車両運行情報)は、運行管理装置60によって車両20の実際の燃料消費量と関連付けられてデータベースに蓄積される。車両20の実際の燃料消費量は、例えば車両20の給油の情報に基づいて運行管理装置60が計算してよい。また、実績データは運行管理装置60によってタイヤ30の種類又は車両20の種類と関連付けられてデータベースに蓄積されてよい。
【0026】
以下、エネルギー消費量推定装置10の構成要素の詳細が説明される。通信部11は、ネットワーク40に接続する1つ以上の通信モジュールを含んで構成される。通信部11は、例えば4G(4th Generation)、5G(5th Generation)などの移動体通信規格に対応する通信モジュールを含んでよい。通信部11は、例えば有線のLAN規格(一例として1000BASE-T)に対応する通信モジュールを含んでよい。通信部11は、例えば無線のLAN規格(一例としてIEEE802.11)に対応する通信モジュールを含んでよい。
【0027】
記憶部12は、1つ以上のメモリである。メモリは、例えば半導体メモリ、磁気メモリ、又は光メモリ等であるが、これらに限られず任意のメモリとすることができる。記憶部12は、例えばエネルギー消費量推定装置10に内蔵されるが、任意のインターフェースを介してエネルギー消費量推定装置10によって外部からアクセスされる構成も可能である。
【0028】
記憶部12は、制御部13が実行する各種の算出において使用される各種のデータを記憶する。また、記憶部12は、制御部13が実行する各種の算出の結果及び中間データを記憶してよい。本実施形態において、記憶部12は、生成されたモデルを記憶する。
【0029】
制御部13は、1つ以上のプロセッサである。プロセッサは、例えば汎用のプロセッサ、又は特定の処理に特化した専用プロセッサであるが、これらに限られず任意のプロセッサとすることができる。制御部13は、エネルギー消費量推定装置10の全体の動作を制御する。
【0030】
ここで、エネルギー消費量推定装置10は、以下のようなソフトウェア構成を有してよい。エネルギー消費量推定装置10の動作の制御に用いられる1つ以上のプログラムが記憶部12に記憶される。記憶部12に記憶されたプログラムは、制御部13のプロセッサによって読み込まれると、制御部13をモデル生成部131及びエネルギー消費量推定部132として機能させる。
【0031】
モデル生成部131は、車両20のエネルギー消費量(本実施形態において燃料消費量)を推定するために用いられるモデルを生成する。モデルは、説明変数から目的変数を得るように構成されていれば、特定のものに限定されない。本実施形態において、モデルは、複数の説明変数に係数を有する重回帰モデル(重回帰式)である。目的変数は車両20の燃料消費量である。また、説明変数は車両20の走行情報、車両20の荷重情報及び車両20のタイヤ情報を含む。上記のように、運行管理装置60のデータベースに蓄積された実績データは、車両20の実際の燃料消費量と関連付けられている。つまり、実績データは、車両20の走行情報、荷重情報及びタイヤ情報に対する燃料消費量を示すものである。モデル生成部131は、車両20の実績データを用いて、係数を決定することによってモデルを生成する。ここで、説明変数は車両20の車両情報をさらに含んでよい。
【0032】
ここで、車両20の走行情報は、実績データにおける車両20の加速度及び速度の少なくとも1つを含んでよい。また、車両20の走行情報は、車両20の位置情報を含んでよい。位置情報に基づいて、車両20の移動距離などが計算され得る。また、位置情報及び運行管理装置60によって管理される地図情報に基づいて、車両20の走行する場所の勾配又は高度が計算され得る。
【0033】
また、車両20の荷重情報は、運行管理装置60によって管理される車両20の重量の情報を含んでよい。本実施形態において、車両20の荷重情報は、車両20の乗降人数を考慮して定められる。車両20の荷重が、車両20自体の重量だけで固定的に定められるのでなく、乗降人数に基づく変動が考慮されることによって、正確に車両20の重量が算出される。
【0034】
また、車両20のタイヤ情報は、タイヤ30の種類及び動的負荷半径を少なくとも含む。車両20のタイヤ情報は、さらに転がり抵抗、サイズなどを含んでよい。動的負荷半径と車両20の運動エネルギーとの関係については後述する。
【0035】
また、車両20の車両情報は、車両20の種類及び前方投影面積を少なくとも含む。前方投影面積は、車両20を正面から見た場合の断面面積であって、これに空気抵抗係数を乗じることによって空気抵抗値が得られる。前方投影面積は、車両20の種類(車種、車格など)によって異なっている。ここで、モデルが説明変数として車両情報を含む場合に、車両20による空気抵抗の違い等を考慮することが可能になり、さらに高精度に車両20のエネルギー消費量を推定することが可能になる。
【0036】
ここで、モデル生成部131は、モデル生成に用いる実績データを、例えば車両20の種類などで分類してよい。モデル生成部131は、分類された実績データのそれぞれを用いて、複数のモデルを生成してよい。また、本実施形態のように車両20がバスである場合に、モデル生成部131は、モデル生成に用いる実績データを運行系統で分類してよい。例えば実績データが運行系統である系統X、系統Y又は系統Zで分類された場合に、系統Xを走行する車両20に対応するモデルと、系統Yを走行する車両20に対応するモデルと、系統Zを走行する車両20に対応するモデルと、が生成されてよい。モデル生成部131は、生成したモデルを記憶部12に記憶させてよい。
【0037】
エネルギー消費量推定部132は、モデル生成部131によって生成されたモデルを用いて、車両20のエネルギー消費量(本実施形態において燃料消費量)を推定する。エネルギー消費量推定部132は、通信部11を介してエネルギー消費量推定装置10の外部から推定実行の指示及び推定の条件(入力データ)を受け取った場合に、燃料消費量の推定を実行してよい。モデル生成部131によって複数のモデルが生成された場合に、エネルギー消費量推定部132は、入力データに応じてモデルを選択してよい。例えば、入力データが特定の車種である車両20を指定する内容である場合に、エネルギー消費量推定部132は、特定の車種に対応するモデルを選択して、エネルギー消費量を推定(計算)してよい。
【0038】
ここで、モデル生成部131は、上記のように、複数の説明変数に係数を有する重回帰モデルを生成する。本実施形態において、モデル生成部131は、車両20の実績データを用いて、車両20のタイヤ情報に関連付けられた第1係数を算出し、勾配抵抗及び転がり抵抗の少なくとも1つに関連付けられた第2係数を算出する。つまり、モデル生成部131は、重回帰モデルの第1係数と第2係数を決定することによって、車両20のエネルギー消費量の推定に用いられるモデルを生成する。第1係数と第2係数に関連して、以下に、本実施形態における燃料消費量推定の考え方が説明される。
【0039】
車両20では、燃料が生み出すエネルギーをタイヤ30の回転運動に変えている。燃料が生み出すエネルギーは車両20の運動エネルギーをエネルギー変換効率で割った値で求められる。したがって、車両20のエネルギー消費量(本実施形態において燃料消費量)は、車両20の運動エネルギーを正確に求めることによって、高精度に推定することが可能である。車両20の運動エネルギーE[J]は以下の式で計算される。
【0040】
【0041】
ここで、Mは車両20の重量[kg]である。aは車両20の加速度[m/s2]である。Lは車両20の移動距離[m]である。Rは車両20の走行抵抗[N]である。走行抵抗は、一般に、Rr、Ra、Rg及びRacに分解できる。Rrは転がり抵抗[N]である。Raは空気抵抗[N]である。Rgは勾配抵抗[N]である。Racは加速抵抗[N]である。Rr、Ra、Rg及びRacは以下の式で計算される。
【0042】
【0043】
ここで、gは重力加速度[m/s2]である。RRCは転がり抵抗係数[-]である。ρは空気密度[N・s2/m4]である。Cdは空気抵抗係数[-]である。Aは車両20の前方投影面積[m2]である。Vは車両20の速度[m/s]である。θは車両20が走行する道路の勾配角度[°]である。Mrは車両20の回転部相当重量[kg]である。
【0044】
ここで、運動エネルギーEの計算において、車両20の重量(M)は、データベースに蓄積される車両20の荷重情報から得られる。車両20の加速度(a)、移動距離(L)及び速度(V)は、データベースに蓄積される車両20の走行情報から得られる。勾配角度(θ)は、データベースに蓄積される車両20の走行情報に基づいて取得可能である。転がり抵抗係数(RRC)は、データベースに蓄積される車両20のタイヤ情報に基づいて取得可能である。車両20の前方投影面積(A)は、バスの一般的なサイズ(一例として7[m2])が使用されてよいし、データベースに車両20の車両情報が蓄積されている場合に車両情報から得られてよい。重力加速度(g)、空気密度(ρ)及び空気抵抗係数(Cd)は、定数が用いられてよい。しかし、車両20の回転部相当重量(Mr)は測定値として得ることができない。また、車両20の回転部相当重量を計算する場合には、変速機の変速比などの車両20の内部機械構造に関する値が必要になる。車両20の内部機械構造に関する値は一般に公開されていない。そのため、運動エネルギーEの計算式に従って、正確に運動エネルギーEを求めることは困難である。ただし、車両20の回転部相当重量は、タイヤ30の動的負荷半径[m]をrとする場合に、(1/r2)に応じて変化することが知られている。
【0045】
本実施形態では、運動エネルギーEにおける回転部相当重量に関する部分について、説明変数を動的負荷半径とする項(第1項)とする重回帰モデルを採用する。また、運動エネルギーEにおける他の部分については、説明変数を勾配抵抗及び転がり抵抗の少なくとも1つとする項(第2項)とする。第1項の係数が第1係数であり、第2項の係数が第2係数である。ここで、第2項に相当する部分については、上記のように測定値を得ることができるが、一般に測定値に誤差が含まれることがある。例えば勾配抵抗は勾配角度が誤差を含むことがある。また、転がり抵抗は理論値で与えられることがあり、実際の値と差が生じることがある。そのため、回転部相当重量以外の部分についても重回帰モデルの第2項として解析し、重回帰係数によって補正が行われるようにする。本実施形態で用いられる重回帰式は例えば以下のように示される。yは車両20のエネルギー消費量である。a1、a2はそれぞれ第1係数、第2係数である。
【0046】
【0047】
図3は、本実施形態に係るエネルギー消費量推定装置10が実行するエネルギー消費量推定方法の例を示すフローチャートである。モデル生成部131は、車両20の燃料消費量を推定するためのモデルを生成するモデル生成工程(ステップS1)を実行する。また、エネルギー消費量推定部132は、生成されたモデルを用いて、車両20の燃料消費量を推定するエネルギー消費量推定工程(ステップS2)を実行する。エネルギー消費量推定工程は、モデル生成工程と連続して実行されてよいが、モデル生成工程の後に一定の時間が経過してから実行されてよい。
【0048】
図4は、
図3のモデル生成工程の詳細を示すフローチャートである。モデル生成部131は、運行管理装置60のデータベースに蓄積された実績データを取得する(ステップS11)。モデル生成部131は、取得した実績データを分類する(ステップS12)。本実施形態において、モデル生成部131は、少なくとも車両20の種類に応じて実績データを分類する。例えば車種が同一である場合(同じ車種のバスが使用される場合)に、ステップS12が省略されてよい。そして、モデル生成部131はモデルを生成する(ステップS13)。本実施形態において、モデル生成部131は、重回帰モデルの係数を決定することによってモデルを生成する。上記のように、本実施形態において、第1係数が動的負荷半径に関連付けられる。このことによって、計算式から得ることが難しい回転部相当重量に関する加速抵抗についても、動的負荷半径に基づいて正確に推定することができ、さらに高精度に車両20のエネルギー消費量を推定することが可能になる。また、第2係数が勾配抵抗及び転がり抵抗の少なくとも1つに関連付けられる。このことによって、関連付けられていない抵抗及び測定値の誤差などについても補正可能になり、運動エネルギーを正確に推定することができ、さらに高精度に車両20のエネルギー消費量を推定することが可能になる。また、決定された係数に基づいて、それぞれの説明変数の燃料消費量に対する寄与率を求めることができる。例えば上記の第2項は様々な種類の抵抗を含むが、第2係数の決定の過程において、第2係数に関連付けた転がり抵抗、空気抵抗、勾配抵抗などのそれぞれの運動エネルギーへの寄与率が計算される。そのため、それぞれの寄与率に基づいて、特定の抵抗とエネルギー消費量との関係を把握可能である。
【0049】
図5は、
図3のエネルギー消費量推定工程の詳細を示すフローチャートである。エネルギー消費量推定部132は、エネルギー消費量推定装置10の外部から推定実行の指示を受け取ると、入力データを取得し(ステップS21)、記憶部12からモデルを取得する(ステップS22)。入力データは、上記のように推定の条件を示すデータである。エネルギー消費量推定部132は、複数のモデルが生成されている場合に、入力データに基づいて推定に用いるモデルを選択してよい。そして、エネルギー消費量推定部132は、モデルを用いて燃料消費量を推定し、推定結果を出力する(ステップS23)。エネルギー消費量推定部132は、上記のように回転部相当重量に関する運動エネルギーを考慮して、測定値の誤差なども補正したモデルを用いて、高精度に車両20のエネルギー消費量を推定できる。
【0050】
ここで、エネルギー消費量推定部132は、転がり抵抗、空気抵抗、勾配抵抗、加速抵抗及び運動エネルギーの少なくとも1つによって消費される、車両20のエネルギー消費量を推定することができる。上記のように、第1係数、第2係数の決定の過程において特定の抵抗とエネルギー消費量との関係が把握されるため、エネルギー消費量推定部132は、特定の抵抗が寄与する分の車両20のエネルギー消費量を推定することができる。つまり、一部の要因によるエネルギー消費量を高精度に推定することができる。
【0051】
例えば入力データが、車両20が装着していた種類Aのタイヤ30を、種類Bのタイヤ30に変更した場合の燃料消費量の推定を要求するものである場合に、エネルギー消費量推定部132は、以下のように推定を行うことができる。エネルギー消費量推定部132は、種類Aのタイヤ30を装着する車両20のエネルギー消費量を推定した後に、種類Aと種類Bのタイヤ30の転がり抵抗の違い(例えば比)を計算する。エネルギー消費量推定部132は、転がり抵抗の全体の運動エネルギーへの寄与率を例えば第2係数に基づいて特定する。そして、エネルギー消費量推定部132は、推定したエネルギー消費量を、転がり抵抗の違い及び寄与率に基づいて調整する。推定結果は、ネットワーク40を介して送信されて、燃料消費量推定を要求した者(例えばバスの運行管理者)が見ることができるディスプレイに表示されてよい。例えば、種類Aのタイヤ30と種類Bのタイヤ30の複数の燃料消費量計算の結果が対比されるように示されてよい。ここで、入力データが指定する条件はタイヤ30の種類に限定されず、例えば車両20の種類などであってよい。例えば車両20の種類が異なる場合に、エネルギー消費量推定部132は、空気抵抗及び加速抵抗の違いを計算して、エネルギー消費量を調整してよい。また、坂道での燃料消費量変化の推定が要求された場合に、エネルギー消費量推定部132は、勾配抵抗の違いを計算して、エネルギー消費量を調整してよい。
【0052】
以上のように、本実施形態に係るエネルギー消費量推定装置10、モデル生成装置、プログラム及びモデルの生成方法は、上記の構成及び工程によって、高精度に車両20のエネルギー消費量を推定することを可能にする。
【0053】
本開示の実施形態について、諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形又は修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形又は修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成部又は各ステップなどに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部又はステップなどを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。本開示に係る実施形態は装置が備えるプロセッサにより実行されるプログラムを記録した記憶媒体としても実現し得るものである。本開示の範囲にはこれらも包含されるものと理解されたい。
【0054】
例えば
図1及び
図2に示されるエネルギー消費量推定装置10及びエネルギー消費量推定システムの構成は一例であって、
図1及び
図2の構成に限定されるものでない。例えばエネルギー消費量推定システムは、エネルギー消費量推定装置10と運行管理装置60とが一体化された構成であってよい。この場合に、エネルギー消費量推定装置10が運行管理装置60の機能も実行し、エネルギー消費量推定装置10が単体でエネルギー消費量推定システムとして機能してよい。また、例えばエネルギー消費量推定システムが運行管理装置60を備える場合に、運行管理装置60は1つでなく複数のコンピュータで構成されてよい。例えば運行管理装置60は、車両20の位置情報を管理する1つのコンピュータと、車両20の乗降人数の情報を管理する別のコンピュータと、を少なくとも含む、相互に通信可能な複数のコンピュータで構成されてよい。
【0055】
モデル生成部131と、エネルギー消費量推定部132と、が異なるコンピュータに含まれる構成であってよい。例えば、モデル生成部131は、エネルギー消費量推定装置10と通信可能であって、記憶部12にもアクセス可能な別のコンピュータに含まれてよい。この場合に、エネルギー消費量推定装置10は、別のコンピュータで生成されて記憶部12に記憶されたモデルを用いて、車両20のエネルギー消費量を推定してよい。モデルは上記と同様に生成されてよい。つまり、別のコンピュータが、車両20の実績データを取得し、実績データを用いてモデルを生成してよい。
【0056】
また、上記の実施形態において、重回帰モデルが用いられたが、機械学習モデルが用いられてよい。つまり、モデルは、目的変数として車両20のエネルギー消費量を含み、説明変数として車両20の走行情報、車両20の荷重情報及び車両20のタイヤ情報を含む、機械学習モデルであってよい。車両20のタイヤ情報は少なくとも動的負荷半径を有する。機械学習の手法は、限定されないが、例えばニューラルネットワークなどであってよい。この場合に、モデル生成部131は、車両20の実績データを取得して、実績データを用いた機械学習を行ってモデルを生成する。例えばモデル生成部131による分類処理などによって、適切な実績データを用いて機械学習が実行されることによって、高精度に車両20のエネルギー消費量を推定することが可能なモデルが生成される。また、そのモデルを用いて高精度な推定が可能になる。ここで、機械学習モデルが用いられる場合においても、モデル生成部131と、エネルギー消費量推定部132と、が異なるコンピュータに含まれる構成であってよい。つまり、別のコンピュータが機械学習モデルを生成し、エネルギー消費量推定装置10が別のコンピュータで生成されて記憶部12に記憶されたモデルを用いて、車両20のエネルギー消費量を推定してよい。
【0057】
また、検出装置70及び通信装置80は、車両20に搭載される装置であるとして説明したが、このような形態に限定されない。例えば検出装置70及び通信装置80は、車両20の搭乗者が有する携帯端末(一例としてスマートフォン)のアプリケーションで実現されてよい。携帯端末のアプリケーションが、携帯端末が備える各種のセンサと通信モジュールを制御して、実績データとしてデータベースに蓄積されるように、車両運行情報を出力してよい。また、車両運行情報の一部が携帯端末によって検出及び出力されて、残りの車両運行情報が、携帯端末と異なる検出装置70及び通信装置80によって検出及び出力されてよい。この場合に、携帯端末のアプリケーションによって、車両20の加速度、速度、位置情報、走行する場所の勾配、移動距離及び乗降人数などが検出及び出力されてよい。ここで、検出装置70及び通信装置80が車両20の搭乗者が有する携帯端末のアプリケーションで実現される場合にも、エネルギー消費量推定装置10と運行管理装置60とが一体化された構成であってよい。つまり、エネルギー消費量推定装置10が携帯端末からの車両運行情報を受け取って、データベースで管理する構成であってよい。
【符号の説明】
【0058】
10 エネルギー消費量推定装置
11 通信部
12 記憶部
13 制御部
20 車両
30 タイヤ
40 ネットワーク
60 運行管理装置
70 検出装置
80 通信装置
131 モデル生成部
132 エネルギー消費量推定部