IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人 東洋大学の特許一覧

特開2024-28092二重給電型回転電機および二重給電型電磁共振回転電機
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024028092
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】二重給電型回転電機および二重給電型電磁共振回転電機
(51)【国際特許分類】
   H02P 23/07 20160101AFI20240222BHJP
   H02P 27/06 20060101ALI20240222BHJP
   H02K 19/10 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
H02P23/07
H02P27/06
H02K19/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028705
(22)【出願日】2023-02-27
(31)【優先権主張番号】P 2022131283
(32)【優先日】2022-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】501061319
【氏名又は名称】学校法人 東洋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100167715
【弁理士】
【氏名又は名称】古岩 信嗣
(74)【代理人】
【氏名又は名称】古岩 信幸
(72)【発明者】
【氏名】堺 和人
【テーマコード(参考)】
5H505
5H619
【Fターム(参考)】
5H505AA16
5H505BB02
5H505DD03
5H505DD05
5H505DD10
5H505EE48
5H505HA05
5H505HA08
5H505HB01
5H505HB05
5H505JJ03
5H505LL24
5H619BB01
5H619BB06
5H619PP02
5H619PP12
(57)【要約】
【課題】 大幅な高出力と高効率と高力率が得られ、広範囲の可変速運転が可能になり、磁界共振結合によってさらなる重量当たりの出力を高めることが可能な二重給電型回転電機を提供する。
【解決手段】固定子コイル11に給電を行って固定子10側に1次の回転磁界を生じさせることが可能な駆動装置と、回転子コイル21に給電を行って回転子20側に2次の回転磁界を生じさせることが可能な駆動装置と、を備え、駆動装置による第1の周波数f1に対応して固定子コイル11を流れる1次電流による1次の回転磁界と、駆動装置による第2の周波数f2に対応した回転子コイル21を流れる2次電流による2次の回転磁界とが磁気的に結合し、1次の回転磁界の速度(回転数N1)と2次の回転磁界の速度(回転数N2)との和又は差に相当する回転速度(回転数NR)にて回転子20を回転させる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多相交流巻線からなる固定子巻線を有する固定子と、多相交流巻線からなる回転子巻線を有する回転子とを備え、前記固定子巻線と前記回転子巻線との各々に電源を接続することにより前記回転子を回転させ、又は、前記回転子の回転によって電力を発生させることが可能な二重給電型回転電機であって、
前記固定子巻線に第1の周波数による交流電流を通電させる給電を行って前記固定子側に1次の回転磁界を生じさせることが可能な固定子用給電手段と、
前記回転子巻線に第2の周波数による交流電流を通電させる給電を行って前記回転子側に2次の回転磁界を生じさせることが可能な回転子用給電手段と、を備え、
前記固定子用給電手段による第1の周波数に対応して前記固定子巻線を流れる1次電流による1次の回転磁界と、前記回転子用給電手段による第2の周波数に対応した前記回転子巻線を流れる2次電流による2次の回転磁界とが磁気的に結合し、
前記1次の回転磁界の速度と前記2次の回転磁界の速度との和又は差に相当する回転速度にて前記回転子が回転することを特徴とする二重給電型回転電機。
【請求項2】
前記1次の回転磁界と2次の回転磁界の位相差である1次の回転磁界の磁極と2次の回転磁界の磁極のなす角度を、第1の状態と、当該第1の状態とは別の第2の状態とに可変させる回転磁界の位相差の可変手段を備え、
前記第1の状態と、前記第2の状態として、前記回転子の回転数が変わらず、前記回転子の回転トルクが、正の値と、負の値との間で異なる状態を発生させることが可能に構成されていることを特徴とする請求項1に記載の二重給電型回転電機。
【請求項3】
前記固定子巻線における1次電流の位相に対して、前記回転子巻線における2次電流の位相の差を、第1の状態と、当該第1の状態とは別の第2の状態とに可変させる位相差可変手段を備え、
前記第1の状態と、前記第2の状態として、前記回転子の回転数が変わらず、前記回転子の回転トルクが、正の値と、負の値との間で異なる状態を発生させることが可能に構成されていることを特徴とする請求項1に記載の二重給電型回転電機。
【請求項4】
前記固定子用給電手段によって前記固定子巻線に入力される1次電流と、前記回転子用給電手段によって前記回転子巻線に入力される2次電流とを、同時に増加させた場合に、前記固定子と前記回転子の鉄心又は磁性部の磁束密度が所定の磁束密度以下となる範囲において、トルクが、前記1次電流の変化前後の比率と前記2次電流の変化前後の比率との積、又は当該積に近い値の出力として出力可能に構成されていることを特徴とする請求項3に記載の二重給電型回転電機。
【請求項5】
前記固定子は、前記固定子巻線が固定される鉄心か、または、前記固定子巻線が固定される非磁性材料で形成された構造体を固定子コアとして有し、
前記回転子は、前記回転子巻線が固定される鉄心か、または、前記回転子巻線が固定される非磁性材料で形成された構造体を回転子コアとして有し、
前記固定子用給電手段によって前記固定子巻線に入力される1次電流と、前記回転子用給電手段によって前記回転子巻線に入力される2次電流とを、同時に増加させた場合に、出力されるトルクが前記1次電流の比率と前記2次電流の比率との積として出力可能に構成されていることを特徴とする請求項3に記載の二重給電型回転電機。
【請求項6】
前記回転子巻線に対して前記回転子用給電手段により生成される交流電流を、各相に対してそれぞれ一対にして設けられた給電コイルを用いて非接触で給電する非接触給電手段を備え、
前記給電コイルには、所定の周波数で共振状態となるキャパシタが接続され、
静止側と回転側とにおける給電コイルとキャパシタとの組み合わせにより構成される電気回路が、設定した同一周波数で共振状態となって電力を伝送可能に構成されていることを特徴とする請求項3に記載の二重給電型回転電機。
【請求項7】
前記2次の回転磁界の方向は前記1次の回転磁界の方向とは逆にし、1次と2次の回転磁界の速度は向きが逆で大きさは同一で速さを変えることで回転子の速度を可変することを特徴とする請求項2に記載の二重給電型回転電機。
【請求項8】
前記2次の回転磁界の方向は前記1次の回転磁界の方向とは逆になるように多相交流の相順を変えて、1次と2次の周波数の大きさは同一のままで周波数を変えることで回転子の速度を可変することを特徴とする請求項2に記載の二重給電型回転電機。
【請求項9】
前記固定子用給電手段と前記回転子用給電手段とは、前記固定子巻線のアンペアターンと前記回転子巻線のアンペアターンの比率が約1となる給電を行って前記回転子を回転させる制御を実行することを特徴とする請求項3に記載の二重給電型回転電機。
【請求項10】
前記固定子用給電手段は、前記固定子巻線に多相交流電流を与え、
前記回転子用給電手段は、前記回転子巻線の各相のコイルに直流電流を与え、当該回転子巻線の各相のコイルに与える直流電流は、いずれかの瞬間の前記多相交流電流の各相の値とし、前記1次の回転磁界と同じ回転速度の同期速度で運転させることを特徴とする請求項3に記載の二重給電型回転電機。
【請求項11】
前記回転子巻線に与えられる直流電流を決定した基の前記多相交流電流のいずれかの瞬間の電流の位相と、前記固定子巻線に与えられる多相交流電流の位相の差を電流位相差とし、前記1次の回転磁界と同じ回転速度の同期速度で運転させることを特徴とする請求項10に記載の二重給電型回転電機。
【請求項12】
請求項1から11のいずれかに記載の二重給電型回転電機であって、
前記固定子は、前記固定子巻線に接続されて共振状態とすることが可能なキャパシタを有し、
前記回転子は、前記回転子巻線に接続されて共振状態とすることが可能なキャパシタを有し、
前記固定子用給電手段による前記第1の周波数にて前記固定子における前記固定子巻線と前記キャパシタとを含む電気回路が共振状態となり、
前記回転子用給電手段による前記第2の周波数にて前記回転子における前記回転子巻線と前記キャパシタとを含む電気回路が共振状態となり、
前記固定子側にて共振状態とされて前記固定子巻線を流れる1次電流による1次の回転磁界と、前記回転子側にて共振状態とされて前記回転子巻線を流れる2次電流による2次の回転磁界とが磁気的に結合して前記回転子が回転することを特徴とする二重給電型電磁共振回転電機。
【請求項13】
前記固定子巻線と、前記回転子巻線との少なくとも一方は、複数組の多相巻線を用いて構成され、
前記固定子用給電手段と前記回転子用給電手段との少なくとも一方は、前記複数組の多相巻線を構成する各組に対応して接続される複数組の多相インバータにより構成され、
前記複数組の多相インバータの出力電流の位相を独立して個別に制御可能であって、前記固定子の電磁界共振と前記回転子の電磁界共振とが共振結合をした所定の共振状態に対して、当該所定の共振状態からずれた場合に、基準とする組の前記多相インバータの出力電流の位相に対して他の組の前記多相インバータの出力電流の位相をずらして、回転電機を前記所定の共振状態にすることを特徴とする請求項12に記載の二重給電型電磁共振回
転電機。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車、電気飛行機(空飛ぶ車・無人飛行機・電動航空機)、及び、鉄道の車両等、並びに、風力発電用の回転電機等に利用できる二重給電型回転電機および二重給電型電磁共振回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車では、小型高出力で高効率の永久磁石モータが主流であるが、永久磁石モータは軽負荷や高速回転で運転するときに効率が誘導機よりも悪化する課題がある。一方、誘導機は1次銅損以外に2次銅損を発生するために1次銅損のみの永久磁石モータに対して本質的に効率を越えることはできない。また、最近では巻線界磁の同期モータが駆動モータとして適用された電気自動車が市販された。巻線界磁同期機は界磁電流で磁束と電圧を調整できるので軽負荷時や高速回転時の効率が悪化することはないが、界磁巻線の銅損による効率の低下と、スリップリングの長期にわたる保守メンテナンスの必要と信頼性の低下及び高速化の困難性(強度と信頼性)の課題がある。
【0003】
航空機分野では、増加する航空輸送量に対して環境負荷の低減に向けてターボファンの口径の大型化などがなされてきたが、従来の技術では限界があり、電動化が求められている。電気飛行機の実現には、モータの軽量化・高出力化・高効率化が必要である。そこで、ワイヤレス電力伝送技術の磁界共振結合と誘導機の技術を基とし、鉄心が無くても駆動可能な磁界共振結合モータ(Magnetic Resonance Coupling
Motor、以下においては「MRCM」ともいう)の研究が進んでいる。
【0004】
そのような中で、本願発明者らは特許第6837764号にて電磁共振回転電機の基本特許を取得している。この特許技術は、複数のコイルを接続した巻線とキャパシタとを有する固定子と、複数のコイルを接続した巻線とキャパシタとを有する回転子とから構成され、固定子巻線は多相交流通電で回転磁界を発生させるコイル配置とし、複数の固定子のキャパシタンスは固定子が電磁気的に共振状態とする電気容量とし、回転子のキャパシタンスは回転時に回転磁界によって誘導された電流の周波数であるすべり周波数で電磁気的に共振状態にする電気容量とする磁界共振結合方式の回転電機である(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。
【0005】
また、従来の技術として、風力発電機や可変速揚水発電機のシステムとして、2次電流として回転子へ電力を供給可能とし、この2次電流を可変するようにして電力系統に電力を供給する交流励磁の誘導発電機(二重給電の誘導電動機)がある。このシステムでは、発電機の出力が変化した場合も一定の周波数で動作させることが要求される同期発電機が適用されている。誘導機は同期機と比較して安価であるが、出力によってすべりが変化して出力電力の周波数が変動する問題がある。そこで、巻線形誘導機を用いて、回転子の3相巻線の端子はスリップリングを介して静止側の外部の周波数変換装置に接続される構成とした交流励磁する巻線形誘導発電機システムが適用されている。この場合、固定子巻線の1次側からは回転子の速度が変化しても一定の周波数の電力を発生できる。また、超同期速度運転としてすべりsがs=-1の技術が開示され、1次側の入力と2次側の入力とにより出力電力が2倍になることが示されている。しかし、回転速度が2倍になったことで出力電力が2倍になっており、トルクは2倍になっていない。つまり、回転速度を変化させずにトルクを大きくする技術は開示されてなく、本質的な出力性能を評価できるトルクの大幅な増加は得られていない(例えば、非特許文献2~4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6837764号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】瀧嶋健太・堺和人、「磁界共振を用いた超軽量モータの可変速特性とキャパシタンスによる影響」2019年電気学会論文誌D(産業応用部門誌)Vol.140、No.4、p.303-313
【非特許文献2】広・岩城・平輪、「誘導電動機の二次励磁制御」、日立評論、47巻、11号、昭和40年11月
【非特許文献3】飯塚、「大形化・高度化に対応する発電機・モータ」、風力エネルギー、Vol.l34、No4、2010年
【非特許文献4】森淳二・他、「水力発電機器製造120年の歴史と今後の展望」東芝レビュー、Vol.69、No.2、2014年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
誘導機や電磁共振回転電機においては、更なる高出力化が望まれているものの、以下のような問題点があった。
【0009】
例えば、かご形と巻線形誘導機、電磁共振回転電機のトルクや出力は2次電流と励磁磁束により発生する。したがって、高出力化するためには同一条件下で鎖交磁束と2次電流を高めることができればよい。しかし、「すべり」の大きさによって回転子に誘導される2次電流の大きさは決められるため、2次電流を増大させてトルクや出力を高めることは最適化設計だけでは限界があり、現状技術レベルの誘導現象を利用した回転電機に対して大幅な出力増加や高効率化が難しいという問題点があった。
【0010】
2次電流を可変する誘導機システムとしては、前記に述べた二重給電の誘導電動機があり、この種の誘導機では、回転子の回転数が変動しても1次側の固定子巻線から一定の周波数の電力が出力され、2次側の回転子巻線から同一の一定の周波数の電力が入出力される。しかし、トルクを、従来の誘導機と比較して高くすることには至っておらず、また、回転子の速度が変化できる可変速範囲はすべりの範囲であり、しかもその可変速範囲も数10%程度で狭いため、電気自動車の駆動等といった広範囲の可変速運転は困難である。また、交流励磁であり高出力化の効果はない。
【0011】
また、電磁共振回転電機は、固定子と回転子の両方で同時に共振状態にすることで鉄心無しに高出力で高効率が得られる。しかし、回転速度を変化させた場合には、回転子内の回転磁界と2次電流の周波数も変化するので、共振状態にするために回転子内のキャパシタンスの値を可変する必要がある。このため、共振状態から外れることもあって、これにより出力が低下する場合があるという問題点があった。また、キャパシタンスの温度特性変化によっても共振点からずれて出力が低下する場合があるという問題点があった。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされており、モータ動作と発電動作が可能であり、高出力と高効率と高力率が得られ、広範囲の可変速運転が可能になる二重給電型回転電機を提供することを目的とし、さらに磁界共振結合によって重量当たりの高出力化を好適に実現可能な二重給電型電磁共振回転電機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の二重給電型回転電機は、多相交流巻線からなる固定子巻線を有する固定子と、多相交流巻線からなる回転子巻線を有する回転子とを備え、前記固定子巻線と前記回転子巻線との各々に電源を接続することにより前記回
転子を回転させ、又は、前記回転子の回転によって電力を発生させることが可能な二重給電型回転電機であって、前記固定子巻線に第1の周波数による交流電流を通電させる給電を行って前記固定子側に1次の回転磁界を生じさせることが可能な固定子用給電手段と、前記回転子巻線に第2の周波数による交流電流を通電させる給電を行って前記回転子側に2次の回転磁界を生じさせることが可能な回転子用給電手段と、を備え、前記固定子用給電手段による第1の周波数に対応して前記固定子巻線を流れる1次電流による1次の回転磁界と、前記回転子用給電手段による第2の周波数に対応した前記回転子巻線を流れる2次電流による2次の回転磁界とが磁気的に結合し、前記1次の回転磁界の速度と前記2次の回転磁界の速度との和又は差に相当する回転速度にて前記回転子が回転することを特徴とする。なお、誘導機と同様、固定子側を1次、回転子側を2次とも称す。
【0014】
この請求項1に記載の二重給電型回転電機によれば、固定子と回転子とのそれぞれに給電を行う型式(二重給電型、両側給電型など、以下、二重給電型と称す)の回転電機を提供することができる。すなわち、従来のように、回転子の2次電流を1次側の固定子から電磁誘導で供給する型式(以下、誘導型ともいう)の回転電機とは異なり、直接的に多相交流電源から回転子巻線に多相交流を給電して回転子内に回転子の回転磁界を形成することができる。よって、固定子側からの給電だけではなく、回転子側からも回転子用給電手段によって任意の給電を加えることができ、固定子と回転子の両方から交流の電気エネルギーを入力し、また出力することによって誘導型の回転電機より出力を大幅に向上し易くすることができる。
【0015】
請求項2に記載の二重給電型回転電機は、請求項1に記載の二重給電型回転電機であって、前記1次の回転磁界と2次の回転磁界の位相差である1次の回転磁界の磁極と2次の回転磁界の磁極のなす角度を、第1の状態と、当該第1の状態とは別の第2の状態とに可変させる回転磁界の位相差の可変手段を備え、前記第1の状態と、前記第2の状態として、前記回転子の回転数が変わらず、前記回転子の回転トルクが、正の値と、負の値との間で異なる状態を発生させることが可能に構成されていることを特徴とする。
【0016】
請求項3に記載の二重給電型回転電機は、請求項1に記載の二重給電型回転電機であって、前記固定子巻線における1次電流の位相に対しての、前記回転子巻線における2次電流の位相の差を、第1の状態と、当該第1の状態とは別の第2の状態とに可変させる位相差可変手段を備え、前記第1の状態と、前記第2の状態として、前記回転子の回転数が変わらず、前記回転子の回転トルクが、正の値と、負の値との間で異なる状態を発生させることが可能に構成されていることを特徴とする。
【0017】
請求項4に記載の二重給電型回転電機は、請求項3に記載の二重給電型回転電機であって、前記固定子用給電手段によって前記固定子巻線に入力される1次電流と、前記回転子用給電手段によって前記回転子巻線に入力される2次電流とを、同時に増加させた場合に、前記固定子と前記回転子の鉄心又は磁性部の磁束密度が所定の磁束密度以下となる範囲において、トルクが、前記1次電流の変化前後の比率と前記2次電流の変化前後の比率との積、又は当該積に近い値の出力として出力可能に構成されていることを特徴とする。
なお、請求項4に記載の「鉄心又は磁性部」は、磁性材料により構成された鉄心又は磁性部であってもよく、また、「所定の磁束密度以下となる範囲」は、高い磁束密度を除いた低・中磁束密度の範囲としてもよいし、磁束密度Bと磁界Hとの関係においてB-H磁気特性曲線に沿った動作点として線形にて動作するか、線形に近い形で動作する範囲内における磁束密度以下としてもよい。
【0018】
請求項5に記載の二重給電型回転電機は、請求項3に記載の二重給電型回転電機であって、前記固定子は、前記固定子巻線が固定される鉄心か、または、前記固定子巻線が固定される非磁性材料で形成された構造体を固定子コアとして有し、前記回転子は、前記回転
子巻線が固定される鉄心か、または、前記回転子巻線が固定される非磁性材料で形成された構造体を回転子コアとして有し、前記固定子用給電手段によって前記固定子巻線に入力される1次電流と、前記回転子用給電手段によって前記回転子巻線に入力される2次電流とを、同時に増加させた場合に、出力されるトルクが前記1次電流の比率と前記2次電流の比率との積として出力可能に構成されていることを特徴とする。
【0019】
請求項6に記載の二重給電型回転電機は、請求項3に記載の二重給電型回転電機であって、前記回転子巻線に対して前記回転子用給電手段により生成される交流電流を、各相に対してそれぞれ一対にして設けられた給電コイルを用いて非接触で給電する非接触給電手段を備え、前記給電コイルには、所定の周波数で共振状態となるキャパシタが接続され、静止側と回転側とにおける給電コイルとキャパシタとの組み合わせにより構成される電気回路が、設定した同一周波数で共振状態となって電力を伝送可能に構成されていることを特徴とする。
【0020】
請求項7に記載の二重給電型回転電機は、請求項2に記載の二重給電型回転電機であって、前記2次の回転磁界の方向は前記1次の回転磁界の方向とは逆にし、1次と2次の回転磁界の速度は向きが逆で大きさは同一で速さを変えることで回転子の速度を可変することを特徴とする。
【0021】
請求項8に記載の二重給電型回転電機は、請求項2に記載の二重給電型回転電機であって、前記2次の回転磁界の方向は前記1次の回転磁界の方向とは逆になるように多相交流の相順を変えて、1次と2次の周波数の大きさは同一のままで周波数を変えることで回転子の速度を可変することを特徴とする。
【0022】
請求項9に記載の二重給電型回転電機は、請求項3に記載の二重給電型回転電機であって、前記固定子用給電手段と前記回転子用給電手段とは、前記固定子巻線のアンペアターンと前記回転子巻線のアンペアターンの比率が約1となる給電を行って前記回転子を回転させる制御を実行することを特徴とする。なお、アンペアターンは、コイルの巻回数とコイルに流れる電気の量(アンペア数)との積で表される値であり、固定子巻線のアンペアターンと回転子巻線のアンペアターンの比率は、0.7から1.5の範囲内とすることがよく、0.9から1.2の範囲内とすることが好ましい。
【0023】
請求項10に記載の二重給電型回転電機は、請求項3に記載の二重給電型回転電機であって、前記固定子用給電手段は、前記固定子巻線に多相交流電流を与え、前記回転子用給電手段は、前記回転子巻線の各相のコイルに直流電流を与え、当該回転子巻線の各相のコイルに与える直流電流は、いずれかの瞬間の前記多相交流電流の各相の値とし、前記1次の回転磁界と同じ回転速度の同期速度で運転させることを特徴とする。
【0024】
この請求項10に記載の二重給電型回転電機によれば、瞬時的に交流励磁の同期機の状態とすることができ、1次側の回転磁界と同じ回転速度の同期速度(すべりsがs=0)で、二重給電型回転電機を運転することができる。
【0025】
請求項11に記載の二重給電型回転電機は、請求項10に記載の二重給電型回転電機であって、前記回転子巻線に与えられる直流電流を決定した基の前記多相交流電流のいずれかの瞬間の電流の位相と、前記固定子巻線に与えられる多相交流電流の位相の差を電流位相差とし、前記1次の回転磁界と同じ回転速度の同期速度で運転させることを特徴とする。
【0026】
この請求項11に記載の二重給電型回転電機によれば、電流位相差を変化させることでモータ運転と発電機運転が可能になり、また、トルクの大きさと力率を可変できる。なお
、固定子巻線に対しては、回転子巻線に与える多相交流電流の瞬時値と同じ値の直流電流を供給し、回転子巻線に前記と同様な多相交流電流を供給することで同期機として運転しても、前記と同様に回転子巻線に与えられる2次電流の等価な瞬時の位相に対する2次電流の位相差を変化させることでモータ運転と発電機運転をすることもできる。
【0027】
請求項12に記載の二重給電型電磁共振回転電機は、請求項1から11のいずれかに記載の二重給電型回転電機であって、前記固定子は、前記固定子巻線に接続されて共振状態とすることが可能なキャパシタを有し、前記回転子は、前記回転子巻線に接続されて共振状態とすることが可能なキャパシタを有し、前記固定子用給電手段による前記第1の周波数にて前記固定子における前記固定子巻線と前記キャパシタとを含む電気回路が共振状態となり、前記回転子用給電手段による前記第2の周波数にて前記回転子における前記回転子巻線と前記キャパシタとを含む電気回路が共振状態となり、前記固定子側にて共振状態とされて前記固定子巻線を流れる1次電流による1次の回転磁界と、前記回転子側にて共振状態とされて前記回転子巻線を流れる2次電流による2次の回転磁界とが磁気的に結合して前記回転子が回転することを特徴とする。
【0028】
この請求項12に記載の二重給電型電磁共振回転電機によれば、固定子と回転子とのそれぞれに給電を行う型式の二重給電型回転電機として電磁共振回転電機を構成することができ、固定子の回転磁界と、回転子の回転磁界とを磁気的に結合して回転子を回転させることができる。このため、固定子の電磁界共振と、回転子の電磁界共振とを共振結合させて回転子を回転させるモータとして使用することができ、また、回転子の回転によって電力を発生させることが可能な発電機として使用することもできる。
【0029】
また、従来のように、回転子の2次電流を1次側の固定子から電磁誘導で供給する型式の誘導型の回転電機とは異なり、直接的に多相交流電源から回転子巻線に多相交流を給電して回転子内に回転子の回転磁界を形成することができる。よって、固定子側からの給電だけではなく、回転子側からも回転子用給電手段によって任意の給電を加えることができ、固定子と回転子の両方から交流の電気エネルギーを入力し、また出力することによって誘導型の回転電機より出力を大幅に向上し易くすることができる。
【0030】
また、回転子に給電する多相交流電流の周波数で共振するキャパシタ(キャパシタンス)が、各相の回転子巻線と回転子用給電手段との間に接続されるので、回転子が回転している状況において電磁気的に共振状態で磁気結合することができる。また、キャパシタの特性変化に対しては回転子用給電手段の周波数をずらして調整することで共振点での動作を維持できる。
【0031】
なお、固定子側と回転子側との多相に対応したキャパシタは、固定子用給電手段及び回転子用給電手段の出力の各周波数(第1の周波数及び第2の周波数)と、各回転磁界を形成する固定子巻線及び回転子巻線のインダクタンスによって共振する容量とすることとしてもよい。固定子と回転子において交流電流と交流の回転磁界を作用させるので、両方において同時に磁気結合して共振状態にできる。また、回転子側のキャパシタは回転子の一部としても設けてもよいし、回転子の外の静止した部位に設けてもよい。
【0032】
ここで、「電磁界共振」は、コイルとキャパシタとを利用した2つ以上の電気回路(ここでは、固定子と回転子の電気回路)において共振周波数で電流が流れて共振(回路共振)した状態とし、さらにこれらの電気回路上の共振状態でコイルとキャパシタンスから構成される固定子と回転子の2つの磁気回路が磁気結合したものと考えてよい。特に回転電機では、回転子が回転するので2つの電気回路と磁気回路からなる複合回路が時間とともに相対的に回転移動した状態で電気的に共振して磁気結合する。したがって、「共振結合」は、回転子と固定子との双方が異なる周波数で同時に共振(回路共振)した状態となっ
て出現する2つの磁界(回転磁界)が密に磁気結合し、2つ以上の電気回路と磁気回路が共振結合された状態となり、共振結合していない場合と比べて力率と効率が向上した状態(磁界共振現象を利用した状態)であればよい。
【0033】
請求項13に記載の二重給電型電磁共振回転電機は、請求項12に記載の電磁共振回転電機であって、前記固定子巻線と、前記回転子巻線との少なくとも一方は、複数組の多相巻線を用いて構成され、前記固定子用給電手段と前記回転子用給電手段との少なくとも一方は、前記複数組の多相巻線を構成する各組に対応して接続される複数組の多相インバータにより構成され、前記複数組の多相インバータの出力電流の位相を独立して個別に制御可能であって、前記固定子の電磁界共振と前記回転子の電磁界共振とが共振結合をした所定の共振状態に対して、当該所定の共振状態からずれた場合に、基準とする組の前記多相インバータの出力電流の位相に対して他の組の前記多相インバータの出力電流の位相をずらして、回転電機を前記所定の共振状態にすることを特徴とする。
【0034】
なお、請求項13に記載の「所定の共振状態」は、回転子と固定子との双方が共振(回路共振)することで出現する2つの磁界(回転磁界)の組合せが共振結合され、共振結合しない場合と比べて効率が向上した状態(共振状態)のうちの、一部の共振状態(例えば、効率の向上が最大(極大)の共振状態を含む一部の共振状態)であってもよいし、効率が向上した全範囲の共振状態であってもよい。「所定の共振状態からずれた場合」としては、所定の共振状態を、共振状態のうちの一部の共振状態とした場合には、共振状態ではあるものの当該一部の共振状態からずれた状態と、共振結合していない状態との双方が該当し、所定の共振状態を、効率が向上した全範囲の共振状態とした場合には、共振状態からずれて共振結合していない状態が該当する。
【発明の効果】
【0035】
本発明の二重給電型回転電機によれば、固定子用給電手段から固定子巻線に電力を給電でき、回転子用給電手段から回転子巻線に電力を給電することができ、1次電流と2次電流を任意に制御することができる。このため、固定子と回転子の両方から交流の入力が可能になるので、高出力と高効率と高力率の回転電機とすることができる。また、1次と2次の電流位相差によって発生トルクを可変して制御できるので、1次の固定子巻線と2次の回転子巻線に供給する両方の電圧や電流の周波数を可変することで、低速から高速までの広範囲にわたる可変速運転が可能になる。
【0036】
また、本発明の二重給電型電磁共振回転電機によれば、回転子用給電手段の周波数を制御することにより共振状態を維持し易くすることができる。また、磁界共振結合を利用可能な高い周波数によって固定子巻線と回転子巻線との通電を制御することにより、低速から高速までの広範囲にわたる可変速運転が可能となり、磁界共振結合によって重量当たりの高出力化を好適に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明の第1の実施の形態としての二重給電型回転電機の説明図。
図2】固定子(ステータ)と回転子(ロータ)の回転磁界の速度と、回転子の回転速度との関係を示す説明図。
図3】固定子(ステータ)と回転子(ロータ)の回路図。
図4】固定子(ステータ)と回転子(ロータ)の電流制御の説明図。
図5】回転子(ロータ)における非接触給電の説明図。
図6】固定子(ステータ)と回転子(ロータ)の電流制御の説明図。
図7】第1の実施の形態の変形例としての二重給電型電磁共振回転電機の説明図。
図8】固定子(ステータ)と回転子(ロータ)の回路図と電流制御の説明図。
図9】第2の実施の形態としての二重給電型回転電機の説明図。
図10】二重給電型回転電機の回転磁界の制御パターンの説明図。
図11】電流位相差と1次電圧及び2次電圧の関係を示す説明図。
図12】電流位相差と1次力率及び2次力率の関係を示す説明図。
図13】すべりと電流位相差と1次有効電力及び2次有効電力の関係を示す説明図。
図14】すべりと電流位相差と1次有効電力及び2次有効電力の関係を示す説明図。
図15】すべりと電流位相差と1次有効電力及び2次有効電力の関係を示す説明図。
図16】1次周波数を一定の条件とした場合のすべりに対する1次有効電力と2次有効電力の関係を示す説明図。
図17】すべりと電流位相差と1次力率、2次力率及びトルクの関係を示す説明図。
図18】アンペアターン比と電流位相差と1次力率、2次力率及びトルクの関係を示す説明図。
図19】本発明の二重給電型回転電機の解析モデルのモータ諸元と解析条件と解析結果を示した表。
図20】第1の解析条件における2次電流位相を変化させた場合のトルク特性図。
図21】第1の解析条件における2次電流位相に対する磁性部の平均磁束密度。
図22】第1の解析条件におけるトルクが正・負の最大と零の場合の磁束密度分布図。
図23】第2の解析条件における2次電流位相を変化させた場合のトルク特性図。
図24】第2の解析条件における2次電流位相に対する磁性部の平均磁束密度。
図25】第2の解析条件におけるトルクが正・負の最大と零の場合の磁束密度分布図。
図26】第3の解析条件における2次電流位相を変化させた場合のトルク特性図。
図27】第3の解析条件における2次電流位相に対する磁性部の平均磁束密度。
図28】第3の解析条件におけるトルクが正・負の最大と零の場合の磁束密度分布図。
図29】第4の解析条件における2次電流位相を変化させた場合のトルク特性図。
図30】第4の解析条件における2次電流位相に対する磁性部の平均磁束密度。
図31】第4の解析条件におけるトルクが正・負の最大と零の場合の磁束密度分布図。
図32】特性解析2の解析モデルのモータ諸元と解析条件を示した表。
図33】特性解析2における電流位相を変化させた時のトルク特性図。
図34】特性解析2における電流位相を変化させた時の1次側の線間電圧特性図。
図35】特性解析2における電流位相を変化させた時の2次側の線間電圧特性図。
図36】第3の実施の形態としてのダブルステータ・シングルロータ型の回転電機の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて詳説する。
【0039】
本発明の二重給電型回転電機及び二重給電型電磁共振結合回転電機は、固定子のコイルと回転子のコイルとに交流電流を通電させることが可能な二重給電型の回転電機であって、固定子側と回転子側とに各々回転磁界を生じさせ、それら回転磁界を磁気的に結合させて、モータ動作では力を発生し、発電機動作では電力を発生させる電磁共振エネルギー変換機器として利用可能な機器である。以下においては、二重給電型回転電機をモータ動作として利用した二重給電型モータ(Doubly Fed Motor、以下においては「DFM」ともいう)と、DFMに磁界共振結合の技術を適用した二重給電型のMRCMとを用いて説明する。
【0040】
[アキシャルギャップ型の二重給電型回転電機]
まず、図1及び図2を参照して、第1の実施の形態としてのアキシャルギャップ型の二重給電型モータ(DFM1)について説明する。図1は、アキシャルギャップ型のDFM1を表した図である。
【0041】
DFM1は、多相交流巻線からなる固定子巻線としてのコイル11を有する固定子10
と、多相交流巻線からなる回転子巻線としてのコイル21を有する回転子20とを備え、コイル11とコイル21との各々に電源を接続することにより回転子20を回転させ、また、回転子20の回転によって電力を発生させることが可能な二重給電型回転電機として利用可能な回転電機である。
【0042】
図1に示すように、ステータとしての固定子10のコイル11には、駆動電源周波数(第1の周波数f1)による交流電流を通電させる給電を行う。また、ロータとしての回転子20のコイル21には、駆動電源周波数(第2の周波数f2)による交流電流を通電させる給電を行う。
【0043】
固定子10側のコイル(固定子コイル11)は、3相のコイルを固定子コア12内に極数P(例えば、1)ができるように円周方向に配置されて3相巻線を形成する。この固定子10の3相巻線は、第1の1次側3相インバータの3相の出力端子に接続され、インバータと固定子10の3相巻線間で電力の入力と出力を行う。固定子コア12は、磁性材料により形成される鉄心で構成してもよいし、非磁性材料で形成される構造体により構成してもよい。なお、3相に限らず2相または4相以上の多相の巻線により固定子コイル11を構成してもよく、この場合、巻線の相数に対応した電力の入力と出力とが可能なインバータを接続すればよい。
【0044】
固定子コイル11で形成した3相巻線に駆動電源周波数(第1の周波数f1)の3相交流電流(1次電流)を通電すると、固定子10には回転磁界(1次の回転磁界)が形成され、その回転速度(回転数N1)は、第1の周波数f1に対応した回転速度となる。具体的には、1次の回転磁界の回転速度(回転数N1)は、第1の周波数f1に「60/(極数P/2)」を乗じた大きさとなる。
【0045】
回転子20側のコイル(回転子コイル21)は、固定子10と同様、3相のコイルを回転子コア22内に固定子10と同一の極数P(例えば、1)ができるように円周方向に配置されて3相巻線を形成する。この回転子20の3相巻線は、第2の2次側3相インバータの3相の出力端子に接続され、インバータと回転子20の3相巻線間で電力の入力と出力を行う。
【0046】
回転子コイル21で形成した3相巻線に駆動電源周波数(第2の周波数f2)の3相交流電流(2次電流)を通電すると、回転子20には回転磁界(2次の回転磁界)が形成され、その回転速度(回転数N2)は、第2の周波数f2に対応した回転速度となる。具体的には、2次の回転磁界の回転速度(回転数N2)は、第2の周波数f2に「60/(極数P/2)」を乗じた大きさとなる。
【0047】
回転子の回転速度(回転数NR)は、固定子10側の1次の回転磁界の回転速度(回転数N1)と、回転子20側の2次の回転磁界の回転速度(回転数N2)とによって定められる。固定子10の回転磁界の磁極は、回転子20の磁極を吸引し、回転子20の回転磁界が同期するようにして回転する。この磁気吸引力と反発力とによって、DFM1は、同期電動機として動作すると考えることができる。
【0048】
ここで、図2を参照して、回転子20の回転速度(回転数NR)について説明する。
【0049】
図2(a)は、固定子コイル11を流れる1次電流による1次の回転磁界と、回転子コイル21を流れる2次電流による2次の回転磁界とが、いずれも回転子20の回転方向と同一方向に制御される場合を示している。この場合、回転子20の回転速度(回転数NR)は、固定子10側の回転磁界の回転速度(回転数N1)と、回転子20側の回転磁界の回転速度(回転数N2)との差(すなわち、N1-N2)によって表すことができる。す
なわち、(NR=N1-N2)で回転している回転子20上で回転数N2の回転速度の2次の回転磁界は、回転数N1の回転速度の固定子10の1次の回転磁界と磁気的に結合し同期して駆動する。
【0050】
図2(b)は、固定子コイル11の回転磁界が回転子20の回転方向と同一方向に制御され、回転子コイル21の回転磁界が回転子20の回転方向と逆方向に制御される場合を示している。この場合、回転子20の回転速度(回転数NR)は、固定子10側の回転磁界の回転速度(回転数N1)と、回転子20側の回転磁界の回転速度(回転数N2)との和(すなわち、N1-(-N2)=N1+N2)によって表すことができる。
【0051】
すなわち、二重給電型のDFM1によれば、回転子コイル21に電力を給電することができ、2次電流を任意に制御することができる。このため、固定子10と回転子20の両方から交流の入力が可能になるので、高出力と高効率と高力率の回転電機とすることができる。また、回転子20は、固定子10側の回転磁界の速度(回転数N1)と、回転子20側の回転磁界の速度(回転数N2)との和又は差に相当する回転速度(回転数NR)にて回転させることができるので、1次の固定子コイル11と2次の回転子コイル21に供給する両方の電圧や電流の周波数を可変することで、低速から高速までの広範囲にわたる可変速運転が可能になる。
【0052】
次に、図3を参照して、DFM1の動作を制御する回転電機駆動装置としての駆動装置DR1,DR2と周波数調整部Cについて説明する。図3(a)は、DFM1を構成するステータとしての固定子10とロータとしての回転子20の回路図であり、二重給電型三相交流同期モータとしてDFM1を構成した場合を示している。なお、図3(a)には、DFM1の構成の一部として駆動装置DR1,DR2と周波数調整部Cとが含まれる構成としているが、DFM1の構成に駆動装置DR1,DR2と周波数調整部Cとが含まれないようにしてもよい。
【0053】
駆動装置DR1,DR2は、DFM1を制御する装置であり、各駆動装置DR1,DR2は多相のインバータを有して構成され、第1の1次側と第2の2次側の2つのインバータを制御して固定子コイル11と回転子コイル21とにそれぞれ1次の回転磁界と2次の回転磁界を作るための電流を流すことと、固定子コイル11と回転子コイル21とに流れる電流の位相を制御することとを実行する。また、駆動装置DR1,DR2は、回転子20の回転速度の制御として、固定子コイル11への通電による1次の回転磁界の速度の制御と、回転子コイル21への通電による2次の回転磁界の速度と回転磁界の回転方向との制御とを行う。なお、固定子コイル11と回転子コイル21とに流れる電流の位相の制御は、1次の回転磁界と2次の回転磁界の位相差である1次の回転磁界の磁極と2次の回転磁界の磁極のなす角度を調整するために実行してもよい。
【0054】
駆動装置DR1,DR2には、図3(a)に示すように、駆動装置DR1,DR2による電流の出力を制御する位相差可変手段としての周波数調整部Cが接続されている。周波数調整部Cによって駆動装置DR1,DR2が制御されることにより、固定子コイル11と回転子コイル21とに流れる電流の位相差、1次と2次の回転磁界の速度を制御するための1次と2次の電流の周波数、回転子コイル21における回転磁界の回転方向等が変えられるための3相の相順等が制御される。周波数調整部Cは、電子部品を組み合わせたハード回路により構成してもよいし、コンピュータを利用したソフトウェア制御を含めて構成してもよい。
【0055】
固定子10は、固定子コイル11として、3相のそれぞれに対応した各組の固定子コイル11U,11V,11Wを備えている。固定子コイル11U,11V,11Wは、図1に示すように、回転子20が回動する回動中心軸RCの周りに、一定の間隔を隔てて設置
され、駆動装置DR1は、3相の固定子コイル11U,11V,11Wに流れる電流の位相と第1の周波数f1を制御する。これにより、回転子20の回動中心軸RCの周りには、第1の周波数f1と位相に対応した回転数N1の回転磁界が生じる。
【0056】
回転子20は、固定子10と同様、回転子コイル21として、3相の回転子コイル21U,21V,21Wを備えている。駆動装置DR2は、3相の回転子コイル21U,21V,21Wに流れる電流の位相と第2の周波数f2を制御する。これにより、回転子20の回動中心軸RCの周りには、第2の周波数f2と位相に対応した回転数N2の回転磁界が生じる。
【0057】
回転子20を回転させる場合、駆動装置DR1は、1次の固定子コイル11のU相、V相、W相の各コイルにU、V,W相の3相交流電流が通電されるようにインバータの出力電流を制御する。これにより、固定子コイル11に電流が通電し、回動中心軸RCの周りに、第1の周波数f1に対応した回転数N1の回転磁界が生じる。
【0058】
駆動装置DR2からの出力電流は、回転子20を回転させる速度によって、異なる回路構成によって固定子コイル11へ入力される。回転子20の回転速度を回転数N1より低速とする場合には、駆動装置DR2の出力電流は、図3(a)に示す回路構成によって、回転子コイル21のU相、V相、W相の各コイルにU,V,W相の3相電流が通電されるように第1の1次側3相インバータの出力電流が制御される。これにより、回転子コイル21には、固定子コイル11と同一方向の回転磁界を生じさせるように電流が通電し、回転数N1と回転数N2の差の回転速度(N1-N2)の低速で回転子20が回転する(図2(a)参照)。
【0059】
一方、回転子20の回転速度を回転数N1より高速とする場合には、回転数N1より低速とした場合と比較して、駆動装置DR2からの出力電流が、図3(b)に示すように、2つの相を入れ替えられる(例えば、U相とV相との間で切り替えられる)。この出力の切り替えは、スイッチング回路Fを周波数調整部Cが制御することで行うか、駆動装置DR2の第2の2次側3相インバータにおいてパワー素子のスイッチングのタイミングを制御して2つの相を入れ替えた出力電流にすればよい。図3(b)には、駆動装置DR2から出力される電線が交差し、最上段のU相から出力された電流が回転子コイル21のV相へ入力され、中段のV相から出力された電流が回転子コイル21のU相へ入力される回路へ切り替えられた場合を示している。
【0060】
これにより、駆動装置DR2からの出力電流は、回転子コイル21のV相、U相、W相にU相、V相、W相の電流が通電されるようにインバータの出力電流が制御されることとなる。回転子コイル21には、固定子コイル11とは逆方向の回転磁界を生じさせるようにして電流が通電する。この逆方向の通電制御により、回転数N1に回転数N2を加えた回転速度(N1-(-N2)=N1+N2)の高速で回転子20を回転させることができる(図2(b)参照)。
【0061】
ここで、図4を主に参照して、固定子コイル11を流れる1次電流と、回転子コイル21を流れる2次電流の位相差の制御について説明する。DFM1においては、1次電流と2次電流の位相差を変化させる制御を含むことにより、回転電機のトルクを負の値から正の値まで可変することを特徴としている。さらに、この位相差を維持して1次電流の周波数と2次電流の周波数を同じ比率で倍数倍すれば、回転子20の回転速度を倍数倍にできて、可変速運転が容易にできる。例えば、1次電流の周波数(第1の周波数f1)と2次電流の周波数(第2の周波数f2)をn倍すれば、回転子の回転速度はn倍にできる。
【0062】
例として、図2(b)と図3(b)で1次と2次の周波数が同じ場合の1次と2次の電
流波形を図4(a)に示している。固定子10と回転子20とを流れる電流は、U相、V相、W相の順に出力電流が最大となるようにインバータの出力電流を制御する。また、1次巻線としての固定子コイル11の電流の位相と、2次巻線としての回転子コイル21の電流の位相とは、任意の位相差A1とになるように、各コイルに接続された1次と2次のインバータ電源としての駆動装置DR1,DR2の動作を制御する。
【0063】
この1次と2次の電流の位相差A1を変化させると、回転電機のトルクは、正の値と、負の値との間で変化する。具体的には、図4(b)に示すように、0°から120°の範囲内に位相差A1を設定するか、300°より大きな角度に位相差A1を設定すると、回転電機のトルクは正の値をとる。この範囲での位相差の制御により、DFM1は、モータとして使用することができる。なお、360°の位相差は、0°と一致することとなり、図4(b)には、30°毎の位相差とトルクの変化との関係を示している。
【0064】
一方、120°から300°の範囲内に位相差A1を設定すると、回転電機のトルクは負の値をとる。この負の値をとる範囲での位相差の制御により、DFM1は、発電機として使用することができる。
【0065】
このように、DFM1におけるトルクの大きさは1次と2次のインバータから出力される1次と2次の電流位相の差で可変できる。1次と2次の回転磁界が同期して磁気結合した状態で一定のトルクを発生しながら回転子は回転し、このとき、1次と2次の電流に位相差があることは、1次と2次の回転磁界が磁気結合を維持して空間的に周方向にねじれた状態になるのでねじれ角が大きくなると周方向の接線力であるトルクが増加することになる。よって、1次と2次のインバータの周波数の比率を一定とし、1次と2次のインバータの周波数を同時に変化させることで、DFM1は広い範囲で回転速度を可変できる。また、1次と2次の周波数の比率を変えることですべりを変えた運転を実施することもできる。
【0066】
そして、本発明の二重給電型モータ(DFM1)を、固定子コア12と回転子コア22が磁性材料の鉄心ではなく、非磁性材料(例えば、強化繊維樹脂など)の構造体で構成したコアレスモータとした場合は、1次の回転磁界と2次の回転磁界とは、弱い磁気結合となるが、誘導性インピーダンスはかなり小さくなる。このため、周波数(回転速度)で大きく変化するインピーダンスによる電圧降下の影響が緩和され、インバータの周波数を、1次と2次とで同じ比率で変化させることで可変速できる範囲が広くできる。トルクや出力に関しても鉄心が無く磁気飽和の影響が全く無いので、1次電流の比率と2次電流の比率との積に比例してトルクは増加する。したがって、固定子10と回転子20の両方から電力を供給できるので従来の回転電機と比較して重量当たりの出力が飛躍的に高くすることが可能になる。また、1次と2次の電流位相差によってトルク制御が容易にでき、1次と2次の周波数を同倍率で可変することで、速度制御が容易にでき、回転子の回転速度は広い範囲で可変速運転できる
【0067】
また、位相差によって発生できるトルクが決定されるので、2次巻線(回転子コイル21)には従来誘導機の2次電流の周波数よりも高い周波数の2次電流を供給して1次巻線(固定子コイル11)の周波数と回転子20のすべりを変化させることで比較的低速で高いトルクでも駆動することが可能になる。これは、従来の誘導機において、すべりが大きくなるとすべり周波数におけるリアクタンス成分の割合が大きくなり、2次の力率が悪化してトルクや出力は低下するといった問題も改善できる。なお、トルク(出力)の大きさと位相差との関係については、図20以降の解析結果を参照して、後述する。
【0068】
なお、トルクや出力に関して、固定子コア12と回転子コア22に鉄心を用いたり、又は、固定子10や回転子20に磁性材料により構成する磁性部が設けられる場合には、高
い磁束密度を除いた低・中磁束密度の範囲にて、回転電機の運転を行うことが好ましい。磁束密度Bと磁界Hとの関係において、B-H磁気特性曲線に沿った動作点にて動作することが知られ、高い磁束密度においては、B-H磁気特性曲線において非線形性が強くなり、さらには磁気飽和状態になるため、これらの範囲を除いて回転電機を運転することが好ましい。これにより、回転電機のトルクは、1次電流の変化前後の比率と2次電流の変化前後の比率との積、又は当該積に近い値の出力として出力することができる。
【0069】
次に、図5を主に参照して、回転子コイル21への電力の供給に関する構成について説明する。回転子コイル21への電力の供給は、静止側(回転電機の外部)から回転子20に電力を供給するための回転コネクタとしてスリップリングを適用することができる。スリップリングは、静止側の駆動装置DR2の電線につながったブラシと、回転子20側の回転子コイル21に接続したスリップリングが接触して電力や電気信号を送信可能な機器である。しかし、大電力の入出力になると大電流と高電圧の送電を可能にするためスリップリングが大型化し、また、スリップリングとブラシ間の放電や摩耗に対するメンテナンスが問題になる。
【0070】
そこで、DFM1には、図3(a)に矢印を付して示した箇所に、静止側の駆動装置DR2と回転子20側の回転子コイル21の間を、非接触で電力を伝送させる非接触給電手段としてのロータリートランス40が設けられている。ロータリートランス40は、回転子コイル21に対して駆動装置DR2により生成される交流電流を、各相に対してそれぞれ一対にして設けられた給電コイルを用いて非接触で給電する。
【0071】
図5(a)には、ロータリートランス40を含めた固定子10と回転子20との給電に関する回路構成を示している。なお、図5(a)には、3相に対応した回路のうち1相のみを例示し、他を省略している。また、図5(a)には、固定子10側の回路にキャパシタ13が設けられることで、二重給電型電磁共振回転電機として利用可能な回路構成を例示している。また、図5(b)には、ロータリートランス40の構造的な構成を、側面図と、回動中心軸RCに沿った方向視図とにより示し、側面図では静止側のリング状コイル42を断面視している。
【0072】
ロータリートランス40は、図5(b)に示すように、回転子20側の3相の回転子コイル21に接続される3つのリング状コイル41(41U,41V,41W)と、静止側の3相巻線の各相に対応した3つのリング状コイル42(42U,42V,42W)とが回動中心軸RCを中心として軸方向に並べられて構成されている。静止側の3つのリング状コイル42の内側には、エアギャップとしてのギャップ部44を介して回転子20側の3つのリング状コイル41が配置される。なお、いずれのリング状コイル41,42にも、鉄心が設けられていないことが好ましい。
【0073】
ロータリートランス40は、図5(a)に示すように、静止側のリング状コイル42にキャパシタ(静止側キャパシタ43)が接続されて構成され、回転子20側のリング状コイル41にも、キャパシタ23が接続されて構成される。静止側のリング状コイル42と静止側キャパシタ43とは設定した周波数で共振状態となり、回転子20側のリング状コイル41とキャパシタ23とは、静止側にて設定した周波数と同一の周波数で共振状態になる容量が設定される。これにより、磁界共振結合を利用した電力伝送を行うことができ、高効率と高力率で大電力を伝送できる。また、スリップリングのような放電や摩耗に対してのメンテナンスも不要となる。
【0074】
また、DFM1の1次巻線(固定子コイル11)と、磁界共振結合のロータリートランスを介した2次巻線(回転子コイル21)との両方から比較的大電力を入力することができる。このため、固定子10の1次と回転子20の2次の両方から大容量の電気エネルギ
ーを入力して大容量の機械エネルギーに、変換効率を高めた状態で変換できる。
【0075】
次に、本発明の二重給電型のDFM1における性能を向上するための好適な制御について、図6を参照して、説明する。図6は、固定子10と回転子20の制御の説明図であり、図6(a)は、固定子コイル11のアンペアターンと回転子コイル21のアンペアターンの比率であるアンペアターン比と、力率との特性を示した図である。
【0076】
固定子巻線としての固定子コイル11のアンペアターンと、回転子巻線としての回転子コイル21のアンペアターンの比率については、約1になるように、駆動装置DR1,DR2からの給電を行って回転子20を回転させる制御を実行することが好ましい。アンペアターンは、コイルの巻回数とコイルに流れる電気の量(アンペア数)との積で表される値である。
【0077】
図6(a)には、1次と2次の電流密度の積を一定にし、1次の電流密度を変化させて、アンペアターン比を変えたときの1次と2次の力率の特性変化を示している。1次と2次の電流密度の積は、25A/mm(アンペア/平方ミリメートル)とした。図6(a)に示すように、1次と2次のアンペアターン比は、1.0のときに1次と2次の力率が最高になり、1.0からずれると1次と2次のいずれかの力率が大きく低下することで力率が低下する。このため、アンペアターン比は、1.0に近づけることが好適であり、例えば、0.7から1.5の範囲内とすることがよく、0.9から1.2の範囲内とすることが好ましい。これによって、回転電機内の磁束密度を最小状態に近づけることができ、鉄損が最小に近づき、力率は高くなるので銅損も低減する。
【0078】
また、駆動装置DR1,DR2からの給電として、固定子10における3相の1次巻線(固定子コイル11)には駆動装置DR1の第1の3相インバータから3相の交流電流を与え、回転子20における3相の2次巻線の各相のコイル(回転子コイル21)には、それぞれ直流電流を与える制御を含めてもよい。図6(b)には、固定子コイル11に3相(U相、V相、W相)の交流電流を与え、回転子コイル21に流す直流電流としては、任意の瞬間の3相交流の各相の値(3相交流の瞬時値)としてP1からP4の瞬間を例示し、また、回転子コイル21にP1における直流電流を流す場合を点線で例示している。
【0079】
回転子コイル21に流す直流電流を、図6(b)に示すP1からP4のいずれかの瞬間の3相交流の各相の値(3相交流の瞬時値)とすることで、瞬間的に3相交流励磁の同期機と同じ状態にすることができる。そして、回転子20の回転速度は固定子10側の1次の回転磁界と同じ回転速度の同期速度(すべりsがs=0)で、DFM1を運転することができる。
【0080】
また、駆動装置DR1,DR2からの給電として、回転子コイル21に与えられる直流電流を決定した基の3相の交流電流のいずれかの瞬間の電流の位相と、固定子コイル11に与えられる3相の交流電流の位相の差を電流位相差とし、1次の回転磁界と同じ回転速度の同期速度で運転させる制御を含め、この電流位相差を変化させる制御を行ってもよい。これによっても、上記したように電流位相差を変化させてトルクを変化させることができ(図4(b)参照)、モータ運転と発電機運転が可能になる。
【0081】
具体的な制御について、図6(b)に示すように、1次と2次の電流位相差を0°にしたい場合は、P1のU相、V相、W相の各値(U相=0A、V相=-0.866A、W相=0.866A)を直流電流の値として2次の各相の巻線に流す。電流位相差を30°にしたい場合は、P2のU相、V相、W相の各値(U相=0.5A、V相=-1A、W相=-0.5A)を直流電流の値として2次の各相の巻線に流す。電流位相差を60°にしたい場合は、P3のU相、V相、W相の各値(U相=0.866A、V相=-0.866A
、W相=0A)を直流電流の値として2次の各相の巻線に流す。電流位相差を90°にしたい場合は、P4のU相、V相、W相の各値(U相=1A、V相=-0.5A、W相=-0.5A)を直流電流の値として2次の各相の巻線に流す。他の電流位相差の場合にも、同様にして、U相、V相、W相の各値を2次の各相の巻線に流すことができる。これにより、電流位相差の角度でねじれた状態を維持して、1次の極の回転磁界と2次の極の磁界(直流なので静止磁界だが回転子20が1次の回転磁界の速度と同じ速度で回転するので、磁気的に結合する)が磁気的に結合して同期して回転し続ける。なお、図6(b)には、4極の場合を例示している。
【0082】
このように、固定子コイル11には多相交流電流を流し、回転子コイル21には直流電流を流しても、電流位相差に対応するように直流電流の値を異ならせることで、モータ運転と発電機運転が可能になり、トルクの大きさと力率を可変できる。なお、上記した電流制御とは逆に、固定子コイル11に対しては、回転子コイル21に与える3相の交流電流の瞬時値と同じ値の直流電流を供給し、回転子コイル21には、3相の交流電流を供給することで同期機として運転しても、上記した場合と同様に回転子コイル21に与えられる2次電流の等価な瞬時の位相に対する2次電流の位相差を変化させることでモータ運転と発電機運転をすることもできる。
【0083】
次に、図7及び図8を主に参照して、二重給電型の磁界共振結合モータ(MRCM2)について説明する。MRCM2は、上記した磁界共振結合を利用しない二重給電型モータ(DCM1)に対して磁界共振結合を応用した回転電機であり、以下において、DCM1と異なる構成について説明し、共通する部分についての説明は省略する。図7は、アキシャルギャップ型のMRCM2を表した図であり、図8は、MRCM2を構成する固定子10と回転子20の回路図と電流制御の説明図である。
【0084】
従来の誘導型のMRCMでは、送電側(固定子側)の回路に交流電流を供給し、受電側(回転子側)の回路は、ワイヤレス電力伝送によって、すべり周波数で電流が流れ、この電流により回路が共振するように設定されていた。これに対して、二重給電型のMRCM2は、固定子10側の回路と、回転子20側の回路のいずれも共振状態となるように交流電流を供給し、固定子10側の電磁界共振と、回転子20側の電磁界共振とを共振結合させて回転子20を回転させることを可能とした技術である。
【0085】
MRCM2は、図7に示すように、ステータとしての固定子10のコイル11には、駆動電源周波数(第1の周波数f1)で共振するキャパシタ13を接続し、ロータとしての回転子20のコイル21には駆動電源周波数(第2の周波数f2)で共振するキャパシタ23を接続して構成される。MRCM2によれば、回転子20は、固定子10側の回転磁界の速度(回転数N1)と、回転子20側の回転磁界の速度(回転数N2)との和又は差に相当する回転速度(回転数NR)にて回転させることができる。このため、磁界共振結合の効果を高めることができるような高い周波数においても固定子コイル11と回転子コイル21との通電を制御でき、そして極めて低速から高速までの広範囲にわたる可変速運転が可能となり、磁界共振結合によって重量当たりの高出力化を好適に実現することができる。
【0086】
次に、MRCM2の具体的な構成について更に説明する。固定子10は、図7に示すように、固定子巻線としてのコイル(固定子コイル11)と、キャパシタ(固定子キャパシタ13)と、構造体(固定子コア12)と、磁性部(固定子磁性部14)とを有している。固定子コア12は、薄い円柱状に形成され、固定子コア12に対して、固定子コイル11と、固定子キャパシタ13と、固定子磁性部14とが設けられる。固定子コア12には、回転子20が位置するギャップ部30に近い側に固定子コイル11が設けられ、固定子コイル11よりもギャップ部30から離れた部分に固定子磁性部14が設けられる。固定
子コア12は、合成樹脂や強化繊維樹脂(FRP:Fiber-reinforced plastic)などの非磁性材料により形成される。
【0087】
回転子20は、固定子10に対してギャップ部30を介して対向するように配置され、回転子巻線としてのコイル(回転子コイル21)と、キャパシタ(回転子キャパシタ23)と、構造体(回転子コア22)と、磁性部(回転子磁性部24)とを有している。回転子コア22は、非磁性材料によって固定子コア12と略同一の大きさの円柱状に形成される。回転子コア22には、回転子コイル21と、回転子キャパシタ23と、回転子磁性部24とが設けられる。回転子コア22には、回転子20が位置するギャップ部30に近い側に回転子コイル21が設けられ、回転子コイル21よりもギャップ部30から離れた部分に回転子磁性部24が設けられる。この回転子20は、固定子10に対して、固定子コア12と回転子コア22が円柱状の外形の中心軸が同一中心軸上に位置するように配置され、固定子10に対して回動可能に、筐体(図示せず)に支持される。
【0088】
固定子キャパシタ13は、回転子20の回転速度に対応して変化する駆動電源周波数(第1の周波数f1)で共振させることが可能なように、キャパシタンスを変化させることができる可変キャパシタにより構成される。なお、固定子キャパシタ13は、キャパシタンスが一定のキャパシタを用いてもよく、この場合でも、回転子20側の第2の周波数f2を変化させて回転子20の回転速度を変化させることができる。
【0089】
回転子キャパシタ23は、固定子キャパシタ13と同様、キャパシタンスを変化させることができる可変キャパシタにより構成される。なお、回転子キャパシタ23についても、キャパシタンスが一定のキャパシタを用いてもよい。
【0090】
固定子コイル11と、回転子コイル21は、例えば、銅線を用いて構成され、MRCM2の相数と極数とに対応して固定子コア12と回転子コア22において多数の箇所に配置される。なお、図7に示すMRCM2としては、固定子コイル11と、回転子コイル21の配置数を簡略化して、3つのみを図示している。
【0091】
磁性部14,24は、薄い厚みの円盤状に形成された金属板によって構成される。磁性部14,24には、例えば、ケイ素を添加した電磁鋼板(ケイ素鋼)を用いることができる。この場合、薄い帯状の電磁鋼板を巻いて円盤状に形成してもよい。なお、磁性部14,24は、必ずしも電磁鋼板を用いて構成する必要はなく、他の磁性材料を用いることができ、軟磁性材料を用いてもよい。例えば、ケイ素鋼以外に、Fe-Co-V合金(パーメンジュール)、パーマロイ、アモルファス合金、ナノ結晶軟磁性材料等を用いることが好ましい。また、磁性部14,24は、必ずしも金属板により構成する必要はなく、磁性粉を配合した板状の部品によって構成してもよいし、湾曲させることが可能なフェライト焼結体のシートを用いるなど、他の磁性材料を用いて構成してもよい。
【0092】
固定子磁性部14は、固定子コイル11を基準とした場合に、ギャップ部30の反対側に配置されている。また、回転子磁性部24も、回転子コイル21を基準とした場合に、ギャップ部30の反対側に配置されている。この位置に、一定の範囲内の大きさで磁性部を設けることによって、巻線インダクタンスの変動を僅かにしつつ、漏れ磁束を抑制し、磁界共振結合による出力向上を図ることができる。
【0093】
ここで、MRCM2において磁界共振現象を利用する場合、回転子20の回転中には、固定子10と回転子20とのいずれも高い共振周波数で共振させる必要がある。この場合に、鉄心などの磁性体がなければ、固定子10と回転子20とを共振周波数で共振させ、磁界共振現象を利用することで出力を高めることが可能である。しかし、鉄心などの磁性体を設けて更に高い出力を得ようとしても、鉄心の磁気特性の非線形性や磁気飽和によっ
て磁気抵抗が大きく変化し、巻線のインダクタンスが大きく変動して共振周波数が変動して磁界共振現象を利用できなくなってしまうという問題が生じていた。
【0094】
これに対して、本実施形態のMRCM2では、ギャップ部30を間に介在させて固定子コイル11と回転子コイル21とが設けられる範囲には、磁性材料を配置せず、その範囲から外れた位置に、磁性材料を用いた固定子磁性部14と回転子磁性部24とが配置されている。これにより、巻線のインダクタンスの変動を僅かにできると同時にコイル部外周からの漏れ磁束を抑制して有効な磁束を高めることで出力密度を大幅に高めることが可能になる。
【0095】
なお、磁性部14,24は、必ずしも固定子10と回転子20との両方に設ける必要はなく、片方のみに設けてもよいし、両方とも省略してもよい。また、固定子磁性部14や回転子磁性部24は、必ずしも一体的に設ける必要はなく、複数の部品を組み合わせて、例えば、複数の部品を一平面上に並べて磁性部14,24となるように構成してもよく、複数の部品を組み合わせる場合には部品間に隙間が設けられるように構成してもよい。
【0096】
また、MRCM2に対して、磁性部14,24のいずれか又は両方に重なるように、導電性を有する非磁性材料により構成される非磁性導電部を設けてもよい。すなわち、磁性部14,24の少なくともいずれかに対してギャップ部30から離れた側に重なるようにして、非磁性導電部が配置される構成としてもよい。非磁性導電部は、高周波域において表皮効果が高められるので、より高い周波数を含む広範囲の周波数域において磁性部14,24から漏れた磁束を減衰させて、磁界共振現象を用いたMRCM2の性能向上を図ることができる。なお、非磁性導電部は、磁性部14,24と略同一の外径サイズとしてもよいし、磁性部14,24とは異なる外径サイズとしてもよい。例えば、磁性部14,24に重なる外側又は内側部分を一部分として固定子10と回転子20とを覆うように構成した筐体を、アルミニウムや銅等により形成して非磁性導電部を構成してもよく、この場合には、筐体の外側または内側に磁性部14,24を固定してもよい。また、導電性を有しない材料により筐体を構成し、筐体とは別に非磁性導電部を設けてもよい。
【0097】
MRCM2においては、図8(a)に示すように、固定子10は、固定子コイル11として、3相のそれぞれに対応した各組の固定子コイル11U,11V,11Wを備え、各固定子コイル11U,11V,11Wに対して固定子キャパシタ13U,13V,13Wが接続されている。また、回転子20は、固定子10と同様、回転子コイル21として、3相の回転子コイル21U,21V,21Wを備え、各回転子コイル21U,21V,21Wに対して回転子キャパシタ23U,23V,23Wが接続されている。
【0098】
ここで、MRCM2においても、DFM1と同様、図3(a)に示すように、駆動装置DR1,DR2による電流の出力を制御する位相差可変手段としての周波数調整部Cが接続される。周波数調整部Cによって駆動装置DR1,DR2が制御されることにより、固定子コイル11と回転子コイル21とに流れる電流の位相差、回転磁界の速度、回転子コイル21における回転磁界の回転方向等が制御される。この駆動装置DR1による固定子コイル11への通電制御と、駆動装置DR2による回転子コイル21への通電制御とによって、固定子10においては、第1の周波数f1で固定子10側の電気回路が共振(電磁界共振)し、回転子20においては、第2の周波数f2で回転子20側の電気回路が共振(電磁界共振)する。この結果、固定子10側の回転磁界と回転子20側の回転磁界とが電磁気的に共振結合した状態とすることができる。この固定子10側の電気エネルギーと回転子20側の電気エネルギーとは機械エネルギーに変換することができ、回転電機の出力とすることができる。
【0099】
また、MRCM2においても、DFM1と同様、図4(a)及び図4(b)に示すよう
に、位相差によって発生できるトルクを決定することができ、2次巻線(回転子コイル21)には従来誘導機の2次電流の周波数よりも高い周波数の2次電流を供給して1次巻線(固定子コイル11)の周波数と回転子20のすべりを変化させることで比較的低速で駆動することが可能になる。これによってMRCM2の回転速度が低い運転領域でも1次と2次の駆動周波数は高くできるので共振周波数も高くなり、少ない容量のキャパシタンスにすることができる。特に、磁界共振結合を利用することによって共振状態にするので、リアクタンス成分はほぼゼロになり、低速回転でも力率はほぼ1程度まで高くでき、2次巻線に供給する電圧が無駄に高くならずに、2次側入力電力を有効にトルクに変換できる。したがって、低速回転においても高トルク、高出力が得られる。この結果、従来の誘導型のMRCM2において、低速で回転する場合はすべり周波数は低くなるので2次側のキャパシタンスの容量は大きくなる問題は生じない。なお、トルク(出力)の大きさと位相差との関係については、図20以降を参照して後述する。
【0100】
また、MRCM2においても、DFM1と同様、図5に示す回路構成を適用することで、磁界共振結合を利用して大電力を回転子コイル21に供給でき、MRCM2の1次巻線(固定子コイル11)と、磁界共振結合のロータリートランスを介した2次巻線(回転子コイル21)との両方から大電力を入力することができる。また、磁界共振結合を利用したロータリートランス40と、MRCM2のエネルギー変換部を構成する2次巻線(回転子コイル21)とが接続されているので、2次の3相巻線(回転子コイル21)と回転子20側の3相のリング状コイル41は一つの回路としてキャパシタ23を共用することができる。
【0101】
次に、MRCM2においてキャパシタ13,23の温度特性によりキャパシタンスが変化し、共振結合をした状態からずれた場合に、駆動装置DR1,DR2の制御によって共振結合をした状態に戻すことを可能とする構成について、図3及び図8(b)を主に参照し、固定子10と駆動装置DR1とを例示して説明する。
【0102】
MRCM2において、固定子コイル11U,11V,11Wは、複数組の多相巻線を用いて構成し、例えば、2組の3相巻線を用いて構成する。以下において、固定子コイル11U,11V,11Wのうち、一方の組(a組)は、固定子コイル11a-U,11a-V,11a-Wと表記し、他方の組(b組)は、固定子コイル11b-U,11b-V,11b-Wと表記する。ここでは、毎極毎相のコイル数を2にして、3相×8極×2組=48個のコイルを用いる場合を例示する。なお、毎極毎相のコイル数は、3以上でもよいし、また、24(3相×8極)個のコイル数のままで4極分をa組とb組として構成してもよい。
【0103】
駆動装置DR1は、固定子10側のコイルを構成する2組の3相の固定子コイル11a-U,11a-V,11a-Wと固定子コイル11b-U,11b-V,11b-Wに対し、a組とb組に対応して別々に接続される2組の3相インバータを備えている。駆動装置DR1は、a組とb組のインバータの出力電流の位相を独立して個別に制御可能に構成される。
【0104】
固定子10の電磁界共振と回転子20の電磁界共振とが共振結合をした状態に対し、この電磁界共振が共振結合をした状態からずれた場合には、駆動装置DR1から固定子10への出力電流の制御が変更される。周波数調整部Cには、図3に示すように、回転子20の出力を検出するセンサSが接続され、このセンサSからの検出結果に基づいて、周波数調整部Cは、回転子20の出力が設定した閾値以下となっているか否かを定期的に判定する。
【0105】
MRCM2においては、固定子10と回転子20との少なくともいずれかの電磁界共振
が弱まったり、電磁界共振がしない状態になると、電磁界共振が共振結合をした状態からずれて出力が低下してしまう。例えば、固定子キャパシタ13は、第1の周波数f1に対応したキャパシタンスに設定されているが、キャパシタの温度変化によりキャパシタンスが変動すると、電磁界共振が共振結合をした状態からずれてしまう。
【0106】
周波数調整部Cは、電磁界共振が共振結合をした状態からずれたことをセンサSの検出結果を用いて検出し、この場合には、インバータの出力電流の位相を、通常の位相の制御とは異ならせて、駆動装置DR1の出力電流の制御を行う。具体的には、駆動装置DR1には、図8(b)に示すように、基準とするa組の3相の固定子コイル11a(例えば、固定子コイル11a-U,11a-V,11a-W)に接続されるインバータの出力電流の位相に対して、他のb組の固定子コイル11b(例えば、固定子コイル11b-U,11b-V,11b-W)に接続されるインバータの出力電流の位相を、通常の位相(例えば、0°、120°、240°)とはずらした位相(例えば、0°+A2、120°+A2、240+A2)にした出力電流の制御(以下、位相変動制御ともいう)を行う。これにより、巻線インダクタンスを変化させることができるので、温度変化でキャパシタンス値が変動して電磁界共振が共振結合をした状態からずれた状態であっても、b組の3相インバータの電流の位相を制御することで元の共振結合した状態に戻すことができる。
【0107】
また、電磁界共振が共振結合をした状態であっても、強く共振結合をして出力が高められた状態と、共振結合をしているものの共振結合が弱くて出力が低下した状態とが生じる場合もある。この状況でも、駆動装置DR1の出力電流の制御によって、インバータの出力電流の位相を、通常の位相とはずらした位相変動制御を行うことで、強く共振結合をした所定の結合状態へ状態を復帰させることができる。また、キャパシタの温度変化以外の理由によって、電磁界共振が共振結合をした状態からずれた場合であっても、位相変動制御を行うことにより、強く共振結合をした所定の結合状態へ状態を復帰させることができる。
【0108】
なお、複数組のコイルに対して位相差を異ならせる構成及び制御は、固定子10に限らず、これに代えて、または、これに加えて回転子20に対して適用してもよい。また、固定子キャパシタ13と、回転子キャパシタ23は、必ずしも電気部品により構成する必要はなく、固定子コア12や回転子コア22の一部を利用してキャパシタを構成してもよい。例えば、固定子コア12(又は回転子コア22)のうち固定子コイル11よりギャップ部30から離れた部分を、回動中心軸RCの軸方向に、3つ以上の分割体が配置されるように分割し、それら分割体の間に導電性の金属板(電極板)を挟み込むことで、固定子コア12を誘電体として動作させるキャパシタとしてもよい。3つ以上とすることにより、3つの組の固定子コイル11U,11V,11Wの各々に対応したキャパシタとすることができる。また、他の分割方法として、固定子コア12や回転子コア22を円周方向に3分割して扇形としてもよく、各扇形間に導電性の金属板を設けてもよい。
【0109】
[ラジアルギャップ型の二重給電型回転電機]
次に、図9を参照して、第2の実施の形態としてのラジアルギャップ型の二重給電型回転電機について、二重給電型モータ(DFM101)と二重給電型の磁界共振結合モータ(MRCM102)とを用いて説明する。図9は、ラジアルギャップ型のMRCM102を表した図である。なお、図9においては、磁界共振結合を利用したMRCM102の説明図にしているが、DFM101に対しても同様の構造とすることができる。なお、DFM101及びMRCM102には、上記した第1の実施の形態におけるDFM1及びMRCM2において説明した構成に対応する各構成に対して同一の名称を付し、付番としてはDFM1及びMRCM2の構成(例えば、固定子10)に対して「100」を加えた数の付番(例えば、固定子110)を付し、共通する内容についての説明を省略し、異なる部分のみについて説明をする。また、固定子110と回転子120に対しては、磁性部11
4,124としての環状の磁性リング(DFM101の場合はバックヨークになる)を設けた場合を例示しており、磁性部14,24の配置部分にのみハッチングを付して他の部材のハッチングを省略し、また、キャパシタ113,123の図示は省略している。また、固定子110に対して回転子120を回動可能とする構造については、周知のラジアルギャップ型の二重給電回転電機の構造を採用することができ、具体的な構造の説明及び図示は省略する。
【0110】
固定子110と回転子120は、いずれも薄い円筒状に形成され、固定子110が外周側に位置し、回転子120が固定子110の内周側に位置するように配置されている。また、固定子110と回転子120とは、ギャップ部130としての一定の隙間が、回動中心軸RCを中心とした周方向に連続して形成されるようにして配置されている。
【0111】
固定子110には、ギャップ部130に対して外周側に固定子コイル111が設けられ、固定子コイル111よりもギャップ部130から離れた外周側(すなわち、固定子コイル111を基準としてギャップ部130とは反対の側)に固定子磁性部114が設けられる。回転子120には、ギャップ部130に対して内周側に回転子コイル121が設けられ、回転子コイル121よりもギャップ部130から離れた内周側に回転子磁性部124が設けられる。なお、固定子磁性部114と回転子磁性部124は、必ずしも設ける必要はなく、省略してもよい。
【0112】
固定子コイル111は、図7における回動中心軸RCを中心とする周方向(反時計回り方向)に、3相を構成する3種類のコイル111U,111W,111Vが順に位置するように配置され、回転子コイル121も、周方向(反時計回り方向)に、3相を構成する3種類のコイル121U,121W,121Vが順に位置するように配置される。また、3種類のコイル111U,111W,111Vは、回動中心軸RCに沿った方向において正方向(図7の紙面垂直方向奥側)と、逆方向(図7の紙面垂直方向手前側)に電流が流れるように折り返してスロット内に配置され、その電流の流れる方向を「+」と「-」の記号を付して、図7に示している。なお、図7には、固定子110と、回転子120とにおいて、隣り合う2つのスロット内に同一種類のコイルが位置する場合について例示しているが、これに限らず、隣り合うスロットには異なる種類のコイルが配置される構成としてもよい。
【0113】
[二重給電型回転電機の回転制御]
次に、図10から図18を参照して、二重給電型回転電機の回転制御について更に説明する。なお、以下の各制御の説明においては、二重給電型モータ(DFM1)の構成(固定子10や回転子20等)を用いて説明するが、他のモータMRCM2,DFM101,MRCM102に、以下に記載する各制御を適用してもよい。
【0114】
まず、図10を参照して、回転子20の回転方向と回転速度を制御するための1次と2次の回転磁界の制御パターンを説明する。図10は、固定子コイル11を流れる1次電流による1次の回転磁界と、回転子コイル21を流れる2次電流による2次の回転磁界の方向と速度(回転数)が異なる複数の制御パターンを示している。以下に説明するいずれの制御パターンも、駆動装置DR1,DR2の動作を制御して固定子コイル11と回転子コイル21への給電を制御することで実現できる。
【0115】
図10(a1)から図10(a5)は、回転速度ωで回転子20を回転させる場合における1次と2次の回転磁界の制御パターンを示している。制御パターンは、1次と2次の回転磁界の方向と速度を異ならせた5つの制御パターンに区分することができ、以下、順に説明する。なお、図10以降においては、回転磁界の速度について、回転子20の回転方向(図10の反時計回り方向)を正方向とし、正方向の回転磁界の速度は正の値をと
り、逆方向(図10の時計回り方向)の回転磁界の速度は負の値をとるものとして説明する。
【0116】
図10(a1)は、1次の回転磁界の方向が2次の回転磁界と同一の正方向に制御され、1次の回転磁界の速度ωが2次の回転磁界の速度ωより大きな正の値をとる第1の制御パターンを示している。なお、第1の制御パターンでも、以下に説明する別の制御パターンでも、回転子20の回転速度ωは、回転磁界の速度ωと速度ωとの差(すなわち、ω-ω)によって表すことができる。
【0117】
図10(a2)は、1次の回転磁界の速度ωが0より大きな正の値をとり、2次の回転磁界の速度ωが0の第2の制御パターンを示している。第2の制御パターンは、同期機として運転するものであり、固定子コイル11に3相(U相、V相、W相)の交流電流を与え、回転子コイル21に3相交流の瞬時値を流す制御により回転子20を回転させることができる。
【0118】
図10(a3)は、2次の回転磁界が1次の回転磁界とは反対の逆方向に制御され、1次の回転磁界の速度ωが正の値をとり、2次の回転磁界の速度ωが負の値をとる第3の制御パターンを示している。第3の制御パターンでは、1次の回転磁界の速度ωと2次の回転磁界の速度ωを、いずれも低く抑えながら、高速運転を実現できる。なお、図10(b)は、第3の制御パターンのうち、1次の回転磁界の速度ωと、2次の回転磁界の速度ωの絶対値が同一となるようにした制御パターン(すべりs=-1)を示し、この場合、1次と2次の駆動電圧を低く抑えながら、効率の良い運転(例えば、高速運転)を実現できる。
【0119】
図10(a4)は、1次の回転磁界の速度ωが0、2次の回転磁界の速度ωが0より小さい負の値をとる制御パターンを示している。この制御パターンでは、図10(a2)で示した同期機としての運転と同様の運転をすることができ、固定子コイル11に3相交流の瞬時値を流し、回転子コイル21に3相(U相、V相、W相)の交流電流を与える制御で実現できる。
【0120】
図10(a5)は、1次の回転磁界と2次の回転磁界とが、いずれも回転子20の回転方向とは逆の方向に制御され、1次の回転磁界の速度ωと2次の回転磁界の速度ωのいずれも負の値をとり、絶対値としては、2次の回転磁界の速度ωが、1次の回転磁界の速度ωより大きな値をとる第5の制御パターンを示している。このように1次と2次の回転磁界を回転子20の回転方向とは逆に制御する運転も含めることで、2次側の第2の周波数f2を一定としながら、1次側の第1の周波数f1を正の値から負の値まで可変させて、低速から高速までの広範囲の可変速運転を実現できる。また、2次側のキャパシタンス値を一定値にすることができるので、磁界共振結合の為に固定のキャパシタを利用することができる。なお、この第5の制御パターンを用いた二重給電型回転電機の特性解析について、図32以降を参照して後述する。
【0121】
図10(c1)~図10(c3)は、回転子20の回転が停止した状態(回転速度ω=0)とした場合における1次の回転磁界と2次の回転磁界の制御パターンを示している。図10(c1)は、1次の回転磁界の速度ωと2次の回転磁界の速度ωとが共に0とされる制御パターンを示している。この場合、同期機として運転した場合と同様、固定子コイル11と、回転子コイル21に3相交流の瞬時値を流す制御をして回転子20の回転が停止した状態とすることができる。
【0122】
図10(c2)は、1次の回転磁界と2次の回転磁界とが同一の正方向で、1次の回転磁界の速度ωと、2次の回転磁界の速度ωが同一の値をとる制御パターンを示し、図
10(c3)は、図10(c2)とは逆方向の制御パターンを示している。これら2つの制御パターンとする場合には、固定子コイル11と回転子コイル21に3相の交流電流を与えながら回転子20の回転が停止した状態とすることができる。
【0123】
ここで、二重給電型回転電機(両側給電)の説明においては、理解の容易のために「すべり」を用いて1次と2次の回転磁界の速度比を表しているが,誘導機のような固定子における回転磁界の速度に対する回転子の速度差との比に相当する「すべり」とは異なるものである。両側給電における「すべり」は、(2次の回転磁界の速度ω)/(1次の回転磁界の速度ω)で表した数値であり、以下においても、「すべり」として記載するものは、両側給電における「すべり」を表すものとする。例えば、図10(a1)は「すべりs>0」、図10(a2)は「すべりs=0」、図10(a3)は「すべりs<0」、図10(b)は「すべりs=-1」、図10(c2)は「すべりs=1」の制御パターンを示している。
【0124】
次に、図11から図18を主に参照して、固定子コイル11を流れる1次電流と、回転子コイル21を流れる2次電流の電流位相差を可変することで二重給電型回転電機にて調整することのできる各種パラメータについて説明する。なお、以下に説明する各種制御は、1次と2次のインバータ電源としての駆動装置DR1,DR2の動作を制御することで実現できるものである。
【0125】
まず、電流位相差によって電圧を調整する制御について説明する。図11(a)及び図11(b)は、「すべりs=-1」における1次電圧と、2次電圧の解析値を例示し、1次と2次に基準電流(1pu)を流した場合と、1次と2次のいずれか又は両方に3倍の電流(3pu)を流した場合とを示している。図11(a)及び図11(b)において、電圧の値は、1次と2次とで異なる値となっているものの、電流位相差に対しての電圧の増減の傾向は1次と2次とで一致し、電流位相差が変化することにより最小値から最大値までの範囲で増減している。この電流位相差と電圧との関係を利用し、電流位相差を変化させる制御を行うことで、電圧が高い電流位相差での運転と、電圧が低下する範囲での運転とを切り替える制御を実現することができる。
【0126】
すなわち、駆動装置DR1,DR2の制御としては、電流位相差を可変することによって1次と2次の電圧の大きさを調整する制御を含めてもよい。例えば、回転電機の可変速運転時に高速回転域では回転電機の誘導電圧が上昇し、インバータ電圧の上限値と回転電機の電位差が小さくなって駆動電流が大幅に減少し、最終的に電流が流れなくなるといった問題が起こりうる。このような状況において、電圧が高い電流位相差での運転制御から電圧が低下する範囲での運転制御へと電流位相差を変化させる制御を行うことで、回転電機の1次と2次の誘導電圧を低減し、高速回転域までの運転を可能とすることができる。
【0127】
また、駆動装置DR1,DR2の制御として、電流位相差を可変することで、トルクを調整する制御を含めてもよい。電流位相差とトルクの関係としては、電流位相差が変化することにより正の値から負の値までの広範囲でトルクが増減する(図4(b)参照)。このため、例えば、1次電圧又は2次電圧(以下、「モータ電圧」ともいう。)が駆動電源の電圧上限に対して余裕のある場合は、最大のトルクを発生する電流位相差に設定する制御をして運転する。一方、駆動電源の電圧上限に対して、モータ電圧に余裕が無い、または電圧上限を超えるような高速回転域でモータ運転をする場合は、電流位相差を調整することで回転電機の発生電圧を低下させて運転する。これにより、駆動電源電圧であるインバータ出力電圧と回転電機の内部発生電圧との間に電位差を確保でき、トルクの発生に必要な電流を流して効率の良い運転を可能とすることができる。
【0128】
図12(a)及び図12(b)は、「すべりs=-1」における1次力率と、2次力率
の解析値を例示し、1次と2次に基準電流を給電した場合と、1次と2次のいずれか又は両方に3倍の電流を流した場合とを示している。すべりs=-1での運転では、力率は1次と2次とで同一の値をとる。また、電流位相差が変化することによって、1次と2次の力率が最小値から最大値までの間で増減する。このため、駆動装置DR1,DR2の制御として、電流位相差を可変することで力率を調整する制御を含めることができ、例えば、モータ電圧が上限以下となる範囲で力率の高い運転となる電流位相差を選択して制御することもできる。
【0129】
次に、「すべり」をパラメータとする制御について説明する。図13から図16は、電流位相差と、1次有効電力及び2次有効電力の関係を示した図であり、図13(a)及び図13(b)は「すべりs=-1」の場合、図14(a)及び図14(b)は「すべりs=-0.5」の場合、図15(a)及び図15(b)は「すべりs=+0.5」の場合、図16は他の実施例として世界で最も量産されているTesla(登録商標)社製の電気自動車用の誘導モータに本発明の両側給電の回転電機の技術を適用して試設計し、特性解析で得られた1次周波数を一定の条件とした場合のすべりに対する1次有効電力と2次有効電力の関係を示す。
【0130】
図13及び図14に示すように、すべりを0より小さな負の値に設定した状況では、1次有効電力と2次有効電力とは、いずれも電流位相差の各値において、正の値か、負の値かのいずれか一方の値をとる。また、電流位相差が変化することによって、1次と2次の有効電力は最小値から最大値までの間で増減する。このため、「すべりs=-1」の場合と、「すべりs=-0.5」の場合のいずれも、駆動装置DR1,DR2の制御として、電流位相差を可変することで有効電力を調整する制御を含めることができる。これにより、電流位相差を可変して、1次と2次とがいずれもモータ動作(正の値)か、発電動作(負の値)となるようにして回転電機を制御することができる。
【0131】
また、図13及び図14に示すように、すべりを0より小さな負の値に設定した状況での2次有効電力を比較すると、「すべりs=-1」の場合と比べて「すべりs=-0.5」の場合が半分の値になる。この「すべり」と「2次有効電力」の関係を利用することで、駆動装置DR1,DR2の制御として、「すべり」の値を可変するように制御して2次有効電力を調整する制御を含めることができる。
【0132】
また、図15に示すように、「すべり」の値を正の値(+0.5)とした場合には、1次と2次の有効電力の符号が逆転し、例えば、1次がモータ動作(正の値)の電流位相差において、2次は発電動作(負の値)となる。このため、「すべり」の値を正負の間で可変するように制御することで、1次と2次の電力比を、より広範囲で調整できる。さらに図16に示すように、量産の電気自動車用として試設計した本発明の両側給電モータにおいて磁界解析で得られた特性結果でも、すべりを制御することで1次と2次の電力の比率を調整できることが明らかである。
【0133】
すなわち、駆動装置DR1,DR2の制御として、「すべり」によって1次と2次の電力比を調整する制御を含めることができ、回転電機の運転状態に応じて「すべり」を変化させて最高効率になる電力比率にすることもできる。また、2次巻線(回転子コイル21)、または1次巻線(固定子コイル11)の温度の片方が高温になって絶縁物の耐熱を考慮する運転状態になった場合、「すべり」を変えて1次と2次の電力比を調整し、高負荷で高温状態に達したときには温度を下げて運転することもできる。例えば、冷却性が悪くなる2次巻線の温度が高温になった場合は、1次電力を増やして2次電力を下げるように「すべり」を変えてもよく、インバータの使用可能な能力の最大化を図ることができる。
【0134】
また、「すべり」を調整することで、インバータのパワーデバイス(パワー半導体)の
能力を引き出すことができる。これにより、多様なパワーデバイスの適用が可能となり、回転電機としての可変速範囲の拡大や大出力化が期待できる。パワーデバイスは低周波数のスイッチングでは大電流が可能で、高周波数では小電流の性能になる。二重給電型回転電機では、1次と2次の回転磁界の速度を変えることができるので、低周波の大電流(大出力)のパワーデバイスで構成されて大電流を出力できる低周波駆動のインバータと、高周波の小電流(小出力)のパワーデバイスで構成されて小電流を出力できる高周波駆動のインバータを両側給電の1次と2次の駆動装置DR1,DR2として適用することで、高速回転化と大出力化及び高効率化が容易になる。
【0135】
ここで、「すべり」は、「-1」より小さな値に設定することができ、「すべり」が負で1以上(-1.5)となる運転とすることもできる。例えば、回転子20が高温となったり、銅損が増大することによって、回転電機の出力に対して2次電流を下げたい場合がある。この場合、駆動装置DR1,DR2の制御として、「すべり」の値を可変するように制御し、例えば、「すべりs=-1」での運転から負のすべりで絶対値が1より大きな値とする制御を含めてもよく、2次の周波数を高くして負のすべりで絶対値が1より大きな値とし2次の電流を減少させる制御をすれば、出力を一定に維持して2次の銅損を減少させることができる。また、逆に、「すべりs=-1」での運転から負のすべりで絶対値が1より小さな値とする制御を含めてもよく、2次の鉄損が大きくなった場合において1次の周波数を高くしてかつ負のすべりの絶対値が1より小さな値にする制御を行えば、回転子の速度と出力を同一に維持したままで鉄損を低減させることができる。
【0136】
また、駆動装置DR1,DR2の制御として、「すべり」の値を可変するように制御することで、インバータの使用可能な能力の最大化を図ることもできる。インバータのパワーデバイスの容量において、パワーデバイスの電気的容量(出力)が大きいほどスイッチング周波数が下がる傾向にある。そこで、1次と2次に接続される2台の多相インバータにおいて、「すべり」を調整することによって、モータの出力と回転数を一定に維持したままで1次と2次の周波数を調整して、大電気容量のデバイスから構成されるインバータの出力周波数は低くして、小・中電気容量のパワーデバイスから構成されるインバータの出力周波数は高くして運転できる。
【0137】
また、耐電圧に関しても同様であり、耐電圧の大きさの差があるパワーデバイスを適用可能にできる。1次と2次に接続される2台の多相インバータにおいて、すべりを調整することによって、モータの出力と回転数を一定に維持したままで1次と2次の周波数を調整して、周波数に比例して電圧は高くなるので、耐電圧に高いデバイスから構成されるインバータの出力電圧は高くして、耐電圧の低いパワーデバイスから構成されるインバータの出力電圧を下げて運転できる。「すべり」は、「すべりs=-1」での運転に限らず、負で1以上(-1.5)とすることもできる。なお、回転子20の高温や銅損の増大によって出力に対して2次電流を下げたい場合は負のすべりで絶対値は1以上の値とすることが好ましい。逆に2次の鉄損が大きくなった場合に鉄損を低減させたい場合は、2次電流の周波数を下げるために負のすべりで絶対値は1より小さくすることが好ましい。
【0138】
次に、アンペアターン比をパラメータとする制御について説明する。1次と2次のアンペアターン比は、図6(a)に示すように、略1とすることが好ましく、これにより、1次と2次の力率が同時に良くなるので、電源の小形化や電圧電流制限下で出力向上を図ることができるし、1次と2次の電圧を同レベルの大きさにすることができるので、一般的な電圧源を利用する場合において有利になる。
【0139】
次に、駆動装置DR1,DR2を制御することによる好適な駆動方法について更に説明する。「すべり」は、「-1」又は「-1」近傍となるようにして駆動することが好適である。「すべりs=-1」の運転では、1次と2次の電力と周波数が同一になるので、1
次と2次のうち一方の多相巻線や多相インバータの電気的、機械的な負担が偏ることなく、同程度にできる。このことは、電気自動車用のモータに本発明を適用したときの特性解析結果である図16から確認できるように、「すべりs=-1」が最も効率が高いことが示されている。さらに、回転電機の運転周波数は一般の同期機や誘導機の1/2の周波数で駆動できるため、インバータを含めた回転電機システムとしての損失を低減でき、周波数の上限の制限があるインバータにおけるパワーデバイスやパルス幅変調制御(PWM制御)と駆動制御のマイコン処理速度に対してもより高い回転速度に対応できる。
【0140】
最大出力より小さい部分負荷における運転状態では、以下のパラメータを変動させる駆動方法とすることが好適である。パラメータとしては、「すべり」、「1次の回転磁界の速度」、及び、「2次の回転磁界の速度」の3つに、「1次と2次の回転磁界の位相差を作り出すための1次と2次の電流位相差」を加えた4つとし、任意の駆動状態において、最高効率、最高出力となるように各パラメータを調整する。例えば、回転電機の1次と2次側の2つの駆動装置DR1,DR2のインバータの出力電圧上限を越えるような高速回転領域では、出力電圧上限以内になるように、パラメータを調整する。ここで、パラメータは4つあるものの、「電流位相差」以外の3つは、2つのパラメータが決めれば残りの1つが自動的に定まる。運転状態で回転子20の回転速度が決まっていれば、1次の回転磁界の速度(方向及び速さ)を決めれば、すべりと、2次の回転磁界の速度も決まる。なお、1次と2次の入出力の電力比を優先して決める場合は、まず、電力比を決めることになる「すべり」を決め、そのすべり値の条件下で、最適な運転特性になるように1次と2次の回転磁界の速度を決めて各周波数を決めればよい。
【0141】
[二重給電型回転電機の特性解析1]
次に、ラジアルギャップ型の二重給電型モータ(DFM101)について、二重給電型の磁界共振結合モータ(MRCM102)への展開も想定して、具体的な大きさや材質等を好適に設定して特性解析1を実施した場合における、解析モデルのモータ諸元と、解析手法と、解析条件および結果について、図19以降を参照して説明する。図19(a)は、解析条件として設定したDFM101の諸元表であり、図19(b)は、4種類の解析条件と結果とを示した表である。
【0142】
[解析モデルの諸元]
固定子磁性部114と回転子磁性部124には、漏れ磁束を抑制可能な磁性材料として、2mmの厚さの鋼板を10枚積層して20mmの厚さとした電磁鋼板を使用し、具体的には、JFEスチールの10JNHF600を使用している。10JNHF600は、表裏面の表層部付近が6.5%のケイ素の組成であるのに対して、中心部の方が低いケイ素の組成をもつ傾斜高ケイ素鋼板である。傾斜高ケイ素鋼板は、鋼板の表層部と内部とが均一なケイ素の組成をもつ高ケイ素鋼板と比較して、高周波での低鉄損を発揮する。このため、DFM101に用いる磁性部14,24,114,124において、傾斜高ケイ素鋼板を用いることは好ましい。なお、必ずしも傾斜高ケイ素鋼板を用いて磁性部14,24,114,124を構成する必要はなく、表層部と内部とが均一なケイ素の組成をもつ高ケイ素鋼板を用いてもよい。
【0143】
固定子110の外径は235mmとし、回転子120の外径は176mmとし、スロット数を24とし、極数を4としている。有効長は150mmとし、ギャップ部130の長さ(隙間)は1mmとしている。固定子コイル111と回転子コイル121とに用いるコイルには、直径0.5mmの銅の素線を用い、固定子110では24本を束ね、回転子120では4本を束ね、それぞれ1ターンを構成している。ターン数は、固定子110では60ターン/相、回転子120では540ターン/相とし、巻き線抵抗は、固定子110では0.1503Ω/相、回転子120では7.919Ω/相としている。
【0144】
[解析手法]
解析には汎用有限要素法電磁界解析ソフトJMAGを使用した。固定子110における第1の周波数f1と、回転子120における第2の周波数f2は、いずれも3667Hzとし、回転子120の回転速度(回転数NR)は、220000rpm、固定子110の回転磁界の速度(回転数N1)は110,000rpm、回転子120の回転磁界の向きは、固定子110の回転磁界とは逆方向とし、回転子120の回転磁界の速度(回転数N2)は110,000rpmとした(図2(b)参照)。固定子110側の1次電流の位相に対しての回転子120側の位相差(以下、2次の電流位相ともいい、図4(a)の位相差A1に相当)は、0°から330°まで、30°刻みで変化させて、トルク特性を求めた。また、固定子110と回転子120の入力電力とトルクとの関係を把握するため、それぞれの入力の割合を、図19(b)に示すように、第1の解析条件から第4の解析条件までの4種類で変化させて特性解析を行った。
【0145】
[解析条件および結果]
第1の解析条件として、2つの電流源としての駆動装置DR1,DR2の電流値は、1次電流の電流密度「5A/mm」と、2次電流の電流密度「5A/mm」になる電流値とした。結果として、図20(a)及び図20(b)には、2次の電流位相「0°~180°」と、「210°~330°」におけるトルク特性を、それぞれ示す。また、図21には、2次電流の電流位相に対する磁性部114,124の平均磁束密度を示し、図22には、トルクが正の最大(電流位相:30°)、零(電流位相:120°,300°)、負の最大(電流位相:210°)のそれぞれにおける磁束密度分布を示す。
【0146】
図20に示すようにトルクは2次電流の電流位相によって、正の最大トルク+5.2Nm(位相:30°)、零のトルク0Nm(位相:120°,300°)、負の最大トルク-5.2Nm(位相:210°)と周期的に変化することが分かる。正と負の最大トルクは同一の大きさである。トルクは正と負の領域があることから、2次の電流位相によってモータ動作と、発電機動作の両方の動作が可能である。固定子110の1次の回転磁界と回転子120の2次の回転磁界が磁気結合(吸引力と反発力)し、2つの磁界が同期して駆動力が発生することが分かる。
【0147】
図21に示すように、磁性部114,124の平均磁束密度は、0°からトルクが零になる120°までは低下、その後増加し、トルクが再び零になる300°で最大の値となる。また、図22に示すように、磁束密度分布は、各位相における磁束密度の最大値が30°で0.25T、120°で0.068T、210°で0.24T、300°で0.33Tであった。これらの磁束密度の値は、二重給電型電磁共振回転電機を想定して、最大電流以内で出力が増減しても(負荷電流が増減することになる)インダクタンスがほぼ一定にできる設定になる。
【0148】
次に、1次と2次の入力をそれぞれ増加させた場合のトルク特性等について説明する。1次、2次電流とも電流密度が「5A/mm」のときの入力電流を「1PU」とし、1次電流と2次電流が1PUと3PUのときのトルク、磁性部114,124の平均磁束密度、磁束密度分布を図23図25に示し、同様に3PUと1PUのときを図26図28に示し、3PUと3PUのときを図29図31に示す。また、図19(b)には、入力電流を4つの解析条件で異ならせた場合の入力とトルクの関係を示す。トルクは1次電流または2次電流に比例して増加することが確認された。1次と2次のいずれか一方を3倍の3PUにするとトルクは3倍になり、1次と2次の両方を3倍の3PUにすると、それらの積に相当する9倍にトルクが増大した。すなわち、電流の増加に比例してトルクは倍増し、1次と2次とを増加すると、電流の増加比率を乗じた積に相当する大きさに、トルクは倍増した。この結果、トルクに回転数を乗じて得られる出力についても、電流の増加に比例することが確認できた。
【0149】
以上の解析から、固定子110と回転子120の両側から給電するDFM101のエネルギー変数における相互作用について、固定子110と回転子120の入力電流のいずれにも比例し、入力電流の比率の積として出力(トルク)を増加できることが確認できた。このとき、電流位相によって出力特性は変化するので、固定子110と回転子120との電流位相を制御することによって、DFM101は、モータ動作の状態と発電機動作の状態との2つの状態で動作を実行させることが可能である。
【0150】
[二重給電型回転電機の特性解析2]
次に、ラジアルギャップ型の二重給電型モータ(DFM101)について、特性解析2を実施した場合における、解析モデルのモータ諸元、解析条件および結果を、図32以降を参照して説明する。特性解析2においては、回転子120における第2の周波数f2は固定し、回転子120の回転速度(回転数NR)に応じて固定子110における第1の周波数f1と回転磁界の回転方向を変えたときの特性を解析した。今後、磁界共振結合の為にキャパシタ(例えば、共振コンデンサ)を挿入する際に、第2の周波数f2が一定であれば、2次側のキャパシタンス値を一定値にすることができる。
【0151】
図32(a)は、解析条件として設定したDFM101の諸元表であり、図32(b)は、3種類の解析条件を示した表である。なお、以下において、上記した特性解析1と異なる部分のみを説明し、特性解析1と共通する点については説明を省略する。
【0152】
[解析モデルの諸元]
固定子コイル111と回転子コイル121とに用いるコイルとしては、直径0.5mmの銅の素線を用い、固定子110では24本を束ね、回転子120では40本を束ね、それぞれ1ターンを構成している。ターン数は、固定子110では60ターン/相、回転子120では56ターン/相とし、アンペアターンは、固定子110では9,975、回転子120では9,973とした。
【0153】
[解析手法]
回転速度は、DFM101の強度解析結果から駆動を想定している回転速度の39,960rpmを上限に、29,970rpmと、9,990rpmとを含めた、3つの回転速度で解析を行った。各回転速度で1次のアンペアターン(AT)と2次のアンペアターン(AT)とが等しくなるように電流を設定し、1次電流と2次電流の位相差を0°から330°まで30°刻みで変化させて、電圧とトルク特性を求めた。
【0154】
[解析結果]
図33は、2次の電流の周波数が一定で電流位相差を変化させた時のトルク特性を示している。各回転数で正の最大トルクは+86.5Nm、負の最大トルクは-86.5Nmであり、回転数によらず同じ値である。1次電流と2次電流は回転数によらず一定とするため、最大トルクも一定となる。つまり、トルクに回転数を乗じて得られる機械出力は回転数に比例して増加していく。
【0155】
図34は、電流位相差を変化させた時の1次側の線間電圧特性を示している。各回転数での最大電圧は9,990rpm時に927V、29,970rpm時に927V、39,960rpm時に1854Vである。1次電圧は、1次電流の周波数(第1の周波数f1)を変化させているため、各回転数で変動し、1次電流の周波数の絶対値が等しい9,990rpmと29,970rpmの時には同じ値となり、2倍の周波数である39,960rpmは2倍の電圧となる。
【0156】
図35は、電流位相差を変化させた時の2次側の線間電圧特性を示している。各回転数
で最大電圧が変わらないことがわかる。全ての回転数で2次電流の周波数(第2の周波数f2)を一定とするため、2次電圧は回転数で変動しない。また、電流位相差に対するトルクと電圧の変化は、1次の回転磁界の回転方向によって異なり、29,970rpmと39,960rpmは同じ位相で変化する。
【0157】
以上の解析から、2次電流の周波数(第2の周波数f2)を一定とした運転特性について、電圧は周波数に比例して増加することが確認できた。このため、各回転速度で、1次電流の周波数(第1の周波数f1)が低くなるように、1次の回転磁界の回転方向を制御することで電圧を低くすることができる。また、最大トルクは1次と2次のアンペアターンで決まるものであって回転数によらず一定のトルクを得ることができることが確認できた。また、電流位相によって1次電圧と2電圧が変化するので、固定子110と回転子120との電流位相を制御することによって、DFM101は、駆動電流が大幅に減少するような誘導電圧とならないよう1次と2次の電圧の大きさを調整することができ、高速回転域までの運転が可能である。
【0158】
なお、本発明は、上記実施形態に限られるものでなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能であることは容易に推察できるものであり、例えば、以下に記載するように変形して実施してもよい。
【0159】
例えば、上記実施形態においては、固定子が1つのDFM1,101とMRCM2,102を例示して説明したが、2つの固定子が回転子の両側に位置するように構成されたダブルステータ・シングルロータ型のモータにより二重給電型モータ(DFM201)や二重給電型の磁界共振結合モータ(MRCM202)を構成してもよい。
【0160】
図36には、本発明を、ダブルステータ・シングルロータ型に適用したMRCM202を、第3の実施の形態として示している。MRCM202には、必ずしも磁性部214と非磁性導電部とを設けて構成する必要はないが、磁性部214に対してギャップ部230から遠い外側に重なるように非磁性導電部215を配置した場合を二点鎖線で示している。また、図36において、回転子コイルの図示は省略し、回転子220にシャフトが一体化された状態を示している。
【0161】
MRCM202には、2つの固定子210と、1つの回転子220とが設けられ、2つの固定子210と、1つの回転子220との間には、2つのギャップ部230が位置している。そして、2つの固定子210(固定子コア212)に対しては、固定子コイル211よりもギャップ部230から離れた部位に、それぞれ磁性部214が設けられる。
【0162】
MRCM202においては、図36に矢印で模式的に示すように、固定子210の外部に向かう磁束が磁性部214に集められ、磁性部214の部分で磁束が折り返してMRCM202の内側に流れる。このため、2つの固定子210を備えたMRCM202においても、出力密度を高めることができる。なお、アキシャルギャップ型、ラジアルギャップ型のいずれにおいても、2つの固定子と1つの回転子とを備えたMRCM202には、非磁性材料の固定子コア及び回転子コアに磁性部を設けることで出力向上を図ることができる。また、DFM201においては、固定子コア及び回転子コアとして鉄心を用いてもよく、この場合、磁性部214及び非磁性導電部215は省略してもよい。
【0163】
このMRCM202において、2つの固定子210に対して駆動装置DR1として共通の多相インバータから電力を供給してもよいが、2つの固定子210の各々に対してそれぞれ多相インバータを接続し、周波数調整部C(図8(a)参照)の制御により、それぞれの多相インバータからの出力電流の位相をずらした制御を行ってもよい。磁界共振状態から外れたときには、2つの1次側の多相インバータ間で位相をずらして2個の固定子2
10に電力を供給し(図8(b)参照)、これにより、元の共振状態に戻す制御を含めてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0164】
本発明の二重給電型回転電機及び二重給電型電磁共振回転電機によれば、電気自動車、電気飛行機(空飛ぶ車・無人飛行機・電動航空機)、及び、鉄道の車両等に搭載することによって高出力を図れ、また、風力発電用の回転電機として利用することによって高出力の発電機システムを得ることができる。
【符号の説明】
【0165】
1,101,201:二重給電型モータ(DFM,二重給電型回転電機)
2,102,202:二重給電型の磁界共振結合モータ(MRCM,二重給電型電磁共振回転電機)
10,110,210:固定子
11,11U,11V,11W,111,111U,111V,111W:固定子コイル(固定子巻線)
12,112,212:固定子コア
13,13U,13V,13W,113:固定子キャパシタ
14,114,214:固定子磁性部
215:非磁性導電部、
20,120,220:回転子
21,21U,21V,21W,121,121U,121V,121W:回転子コイル(回転子巻線)
22,122:回転子コア
23,23U,23V,23W,123:回転子キャパシタ
24,124:回転子磁性部
30,44,130,230:ギャップ部
40:ロータリートランス(非接触給電手段)
41,41U,41V,41W,42,42U,42V,42W:リング状コイル(給電コイル)
43:静止側キャパシタ
C:周波数調整部(位相差可変手段)
DR1:駆動装置(固定子用給電手段)
DR2:駆動装置(回転子用給電手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36