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特開2024-28119自動車車体の振動特性試験方法及び装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024028119
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】自動車車体の振動特性試験方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/007 20060101AFI20240222BHJP
   G01M 7/02 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
G01M17/007 Z
G01M7/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092034
(22)【出願日】2023-06-05
(31)【優先権主張番号】P 2022129828
(32)【優先日】2022-08-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】片桐 知克
(57)【要約】
【課題】自動車車体における複数の部位に振動を入力して実車両の路面状態や走行条件を模擬し、該自動車車体の振動特性を求める自動車車体の振動特性試験方法及び装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る自動車車体の振動特性試験方法は、自動車車体100に振動を入力し、自動車車体100の振動特性を求めるものであって、エアマウント211により支持された自動車車体100に複数の振動入力部位111を設定し、設定した複数の振動入力部位111のそれぞれに振動を入力して自動車車体100を加振する加振工程S1と、加振された自動車車体100の振動特性に関するデータを計測する振動計測工程S3と、を含み、加振工程S1において、自動車車体100における一部の振動入力部位111に入力する振動の入力波は、他の振動入力部位111に入力する振動の入力波より遅延させたものとすることを特徴とするものである。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車車体に振動を入力し、該自動車車体の振動特性を求める自動車車体の振動特性試験方法であって、
エアクッションにより支持された前記自動車車体に複数の振動入力部位を設定し、該設定した複数の振動入力部位のそれぞれに振動を入力して前記自動車車体を加振する加振工程と、
該加振工程において加振された前記自動車車体の振動特性に関するデータを計測する振動計測工程と、を含み、
前記加振工程において、前記自動車車体における一部の前記振動入力部位に入力する振動の入力波は、他の前記振動入力部位に入力する振動の入力波より遅延させたものとすることを特徴とする自動車車体の振動特性試験方法。
【請求項2】
前記加振工程は、
前記自動車車体の後方の右側と左側に前記振動入力部位を設定し、
前記各振動入力部位に入力する振動の入力波の基準とするサイン波又はランダム波の基準信号を複数生成し、
該生成した複数の基準信号のうち一部の基準信号を遅延させた遅延信号を生成し、
前記自動車車体の後方の左側又は右側のいずれか一方の前記振動入力部位には、前記基準信号を入力波とする振動を入力し、
前記自動車車体の後方の左側又は右側の他方の前記振動入力部位には、前記遅延信号を入力波とする振動を入力とすることを特徴とする請求項1記載の自動車車体の振動特性試験方法。
【請求項3】
前記加振工程は、
前記自動車車体の前方と後方に前記振動入力部位を設定し、
前記各振動入力部位に入力する振動の入力波の基準とするサイン波又はランダム波の基準信号を複数生成し、
該生成した複数の基準信号のうち一部の基準信号を遅延させた遅延信号を生成し、
前記自動車車体の前方の前記振動入力部位には、前記基準信号を入力波とする振動を入力し、
前記自動車車体の後方の前記振動入力部位には、前記遅延信号を入力波とする振動を入力することを特徴とする請求項1記載の自動車車体の振動特性試験方法。
【請求項4】
前記振動計測工程は、前記振動特性に関するデータとして、前記自動車車体に加速度計を設置して前記自動車車体に発生した振動加速度を計測する、及び/又は、前記自動車車体の内部にマイクロフォンを設置して前記自動車車体から発生する騒音の音圧を計測する、ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の自動車車体の振動特性試験方法。
【請求項5】
自動車車体に振動を入力し、該自動車車体の振動特性を求める自動車車体の振動特性試験装置であって、
エアクッションにより支持された前記自動車車体に設定された複数の振動入力部位のそれぞれに振動を入力し、前記自動車車体を加振する加振装置と、
該加振装置により加振した前記自動車車体の振動特性に関するデータを計測する振動計測装置と、を備え、
前記加振装置は、
前記自動車車体における複数の前記振動入力部位に所定の入力波の振動を入力して加振する複数の加振器と、
前記各振動入力部位に入力する振動の入力波の基準となる基準信号を複数生成する信号生成装置と、
該生成した複数の基準信号のうち一部の基準信号を遅延させて遅延信号を生成する遅延処理装置と、
前記生成した基準信号又は遅延信号により前記複数の加振器をそれぞれ駆動制御する複数の加振器制御装置と、を備え、
前記振動計測装置は、
前記自動車車体に設置されて該自動車車体に発生する振動加速度を計測する加速度計、及び/又は、前記自動車車体の内部に設置されて該自動車車体から発生する騒音に関するデータを計測するマイクロフォンと、
前記自動車車体に入力する振動により前記自動車車体を加振する加振力と入力加速度を計測する加振力・入力加速度計と、
前記加速度計により計測される振動加速度及び/又は前記マイクロフォンにより計測される騒音の音圧と、前記加振力・入力加速度計により計測される加振力及び入力加速度と、を取得するデータロガーと、を備えたことを特徴とする自動車車体の振動特性試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車車体に発生する振動や騒音に関する振動特性を求める自動車車体の振動特性試験方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の走行時に自動車車体に発生して乗員が感じる振動や車室内騒音の計測は、完成車の実車走行試験や、完成車を加振台に設置して車輪に振動を入力する台上試験(例えば、特許文献1参照)等、完成車の状態で行われるのが大半である。これに対し、自動車の車体構造を設計する段階において、自動車車体に発生する振動や騒音といった振動特性に対する車体構造や車体部品に適用する材料の影響を評価する試験はあまり行われていない。
【0003】
また、自動車車体の車体フロアを固定した状態である1点に振動を入力して加振し、当該自動車車体の各部位に生じる振動特性を求める試験も行われている。しかしながら、この試験では、自動車車体における振動を入力する部位(以下、「振動入力部位」という)の付近における局所弾性変形を考慮すると振動入力部位に大きな加振力を与えることができない。そのため、加振力不足により振動入力部位から離れた部位に励起される振動レベルは小さくなる傾向にある。
【0004】
そして、加振力が不足している状態で得られた自動車車体の振動レベルを使用して自動車車体全体の振動モード解析を行うと、振動モード解析により推定される自動車車体の変形状態に偏りを生じる恐れがある。このような偏りを解消するために、自動車車体における振動入力部位を複数箇所に変更しながら繰り返し試験を行い、複数の振動入力部位について取得した振動データを平均化して真の固有振動モードを求めることも行われている。
【0005】
しかしながら、完成車の実車走行時に路面から自動車車体に入力する振動は、タイヤやサスペンション類と自動車車体とを結合する部位に入力するものである。これに対し、自動車車体のある1点に振動を入力して加振することにより得られる振動モード解析は、あくまでも車体構造の特に低次の固有振動モードを特定する手段であるため、完成車の走行時に発生する振動現象を再現しているとは言い難い。
【0006】
また、完成車の走行時に発生するロードノイズやこもり音は、タイヤから入力する振動、ボディ骨格部品の振動、及びこれらの振動が車体骨格部品を経由して伝達したパネル系部品の振動を発生源とする、車室内における可聴域(20Hz~2.0kHz)の騒音である。車室内の20Hz~2.0kHzの騒音レベルを評価するためには、完成車の走行時に近い振動状況における車体構造の振動特性を評価することが重要である。
【0007】
特許文献2には、完成車状態の自動車車両を使用した台上試験により走行時に路面から入力する振動を模擬した操縦安定性評価技術が開示されている。当該技術は、連続的な車線変更やスラローム走行等の周期的な操舵(ステアリング操作)で四輪のサスペンション上に懸架された車体の回転運動、ローリング(前後軸回り)、ピッチ(左右軸回り)、ヨー(上下軸回り)を模擬し、主としてタイヤやサスペンション性能を評価するための試験方法である。完成車状態の自動車車両を加振する複数の加振機にタイヤをそれぞれ載置し、複数の加振機を個別に制御する加振コントローラにより、左右前後のタイヤへ入力する加振波形(サイン波)を半周期ずつずらして加振して操縦安定性能を評価する。運転走行時の操舵は、安全性や乗り心地の観点からゆっくりとした操作を行うが、スラローム走行や緊急回避レーンチェンジ等での操舵は最も速い操作となり、周期で表現した場合1.0Hz相当程度である。このため、特許文献2の操縦安定性評価技術では、車室内騒音の周波数域(20Hz~2.0kHz)における車体構造の振動特性を評価することは想定していない。そして、特許文献2の加振方法では、タイヤやサスペンションを介して車体構造(ホワイトボディ)を加振することになるので、20Hz以上の可聴域周波数帯の評価を行う際には、振動減衰が大きく、観測対象の振動応答は小さくなり、評価手法として不適であった。
【0008】
したがって、自動車車体に振動を入力して車体構造や車体部品に適用する材料による振動や騒音の違いを評価するためには、自動車車体における複数の振動入力部位に振動を同時に入力し、完成車の走行時における振動現象を再現する試験を行うことが相応しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000-88697号公報
【特許文献2】特開2011-247262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
通常、自動車車体の振動や車室内騒音の評価は、完成車の走行試験による官能評価又は音響計測が主体となっており、車体構造単独状態、いわゆるホワイトボディで振動特性の評価を行う事例は少なかった。
そこで、車体構造を設計する段階において自動車車体に発生する振動や車室内騒音等の振動特性を知るためには、完成車に近い解析モデルを作成した上でCAE(Computer Aided Engineering)解析による予測が必要である。そして、このようなCAE解析により、車体構造や車体部品に用いられる材料の変更により自動車車体の振動特性がいかに変化するかを評価することが可能となる。
【0011】
CAE解析による自動車車体の振動特性の予測値を担保し、その精度を確保するためには、完成車の走行試験あるいは台上試験により完成車の振動特性に関する計測データが必須である。しかしながら、そのような計測データを得ることは多大な時間やコストを要するものであった。
これに対し、車体構造のホワイトボディによる振動特性試験が可能であれば、CAE解析に用いる解析モデルの作成やCAE解析に要する時間を大幅に削減することが可能であり、車体構造の設計段階において自動車車体の振動特性を求めることが容易となる。
【0012】
このような自動車車体の振動特性を求めるための試験においては、完成車の走行時に自動車車体に発生する振動状態をいかに再現できるかが鍵となる。しかしながら、このような自動車車体を用いた振動特性試験を行うためには、以下の2つの課題があった。
【0013】
第1の課題は、足回り等の周辺部品による自動車車体の拘束条件の再現である。この課題については、エアクッション(空気ばね)を活用して自動車車体を支持することで解決されている。
【0014】
また、第2の課題は、自動車車体に振動や騒音を励起する加振方式である。この課題については、実車走行試験による振動特性の計測データに基づいて、自動車車体に入力する振動の入力波(振動の波形や周波数等)を再現する手法がある。しかし、この手法は、いくつかの規定された路面状態で取得された波形の振動を入力して自動車車体を加振する試験に限定されていた。そのため、無数に異なる路面状態や振動入力部位、さらには車両の走行条件(走行速度等)をパラメトリックに変化させて自動車車体を加振する試験は行われていなかった。
したがって、自動車車体を加振して自動車車体の振動特性を求める試験において、自動車車体の振動入力部位や入力する振動の入力波を適切に変更することができ、実車走行時における様々な路面状態や車両の走行条件を再現することが望まれていた。
【0015】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、実車走行時の路面状態や車両の走行条件を適切に再現して自動車車体の振動特性を求めることができる自動車車体の振動特性試験方法及び装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
(1)本発明に係る自動車車体の振動特性試験方法は、自動車車体に振動を入力し、該自動車車体の振動特性を求めるものであって、
エアクッションにより支持された前記自動車車体に複数の振動入力部位を設定し、該設定した複数の振動入力部位のそれぞれに振動を入力して前記自動車車体を加振する加振工程と、
該加振工程において加振された前記自動車車体の振動特性に関するデータを計測する振動計測工程と、を含み、
前記加振工程において、前記自動車車体における一部の前記振動入力部位に入力する振動の入力波は、他の前記振動入力部位に入力する振動の入力波より遅延させたものとすることを特徴とするものである。
【0017】
(2)上記(1)に記載のものにおいて、
前記加振工程は、
前記自動車車体の後方の右側と左側に前記振動入力部位を設定し、
前記各振動入力部位に入力する振動の入力波の基準とするサイン波又はランダム波の基準信号を複数生成し、
該生成した複数の基準信号のうち一部の基準信号を遅延させた遅延信号を生成し、
前記自動車車体の後方の左側又は右側のいずれか一方の前記振動入力部位には、前記基準信号を入力波とする振動を入力し、
前記自動車車体の後方の左側又は右側の他方の前記振動入力部位には、前記遅延信号を入力波とする振動を入力とすることを特徴とするものである。
【0018】
(3)上記(1)に記載のものにおいて、
前記加振工程は、
前記自動車車体の前方と後方に前記振動入力部位を設定し、
前記各振動入力部位に入力する振動の入力波の基準とするサイン波又はランダム波の基準信号を複数生成し、
該生成した複数の基準信号のうち一部の基準信号を遅延させた遅延信号を生成し、
前記自動車車体の前方の前記振動入力部位には、前記基準信号を入力波とする振動を入力し、
前記自動車車体の後方の前記振動入力部位には、前記遅延信号を入力波とする振動を入力することを特徴とするものである。
【0019】
(4)上記(1)乃至(3)のいずれかに記載のものにおいて、
前記振動計測工程は、前記振動特性に関するデータとして、前記自動車車体に加速度計を設置して前記自動車車体に発生した振動加速度を計測する、及び/又は、前記自動車車体の内部にマイクロフォンを設置して前記自動車車体から発生する騒音の音圧を計測する、ことを特徴とするものである。
【0020】
(5)本発明に係る自動車車体の振動特性試験装置は、自動車車体に振動を入力し、該自動車車体の振動特性を求めるものであって、
エアクッションにより支持された前記自動車車体に設定された複数の振動入力部位のそれぞれに振動を入力し、前記自動車車体を加振する加振装置と、
該加振装置により加振した前記自動車車体の振動特性に関するデータを計測する振動計測装置と、を備え、
前記加振装置は、
前記自動車車体における複数の前記振動入力部位に所定の入力波の振動を入力して加振する複数の加振器と、
前記各振動入力部位に入力する振動の入力波の基準となる基準信号を複数生成する信号生成装置と、
該生成した複数の基準信号のうち一部の基準信号を遅延させて遅延信号を生成する遅延処理装置と、
前記生成した基準信号又は遅延信号により前記複数の加振器をそれぞれ駆動制御する複数の加振器制御装置と、を備え、
前記振動計測装置は、
前記自動車車体に設置されて該自動車車体に発生する振動加速度を計測する加速度計、及び/又は、前記自動車車体の内部に設置されて該自動車車体から発生する騒音に関するデータを計測するマイクロフォンと、
前記自動車車体に入力する振動により前記自動車車体を加振する加振力と入力加速度を計測する加振力・入力加速度計と、
前記加速度計により計測される振動加速度及び/又は前記マイクロフォンにより計測される騒音の音圧と、前記加振力・入力加速度計により計測される加振力及び入力加速度と、を取得するデータロガーと、を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、実車走行時の路面状態や車両の走行条件において自動車車体に励起する振動状態を再現し、該自動車車体に発生する振動や騒音といった振動特性を求めることができる。これにより、自動車車体の設計段階において、車体構造や材料の変更に伴う自動車車体の振動特性の変化を求めることが可能となる。
また、実車走行時の路面状態や走行条件(走行速度等)を模擬する振動入力条件をパラメトリックに変更することができるため、CAE解析に用いる解析モデル化も容易となる。
さらに、自動車車体における複数の振動入力部位のそれぞれに入力する振動の入力波やその遅延時間を規定することが容易であるため、振動特性試験において自動車車体に入力する振動に関する振動入力条件の規格化や再現性も良好である。
【0022】
また、本発明は、ボディ懸架部位・サスペンション結合周辺部位のボディ骨格を直接加振することにより、加振器出力や加振力は小さくすることが可能で、効率的な振動試験ができる。特に、計測される信号応答は小さいにもかかわらず、官能評価において差異が発生しやすい、可聴域となる20Hz~2.0kHzの騒音レベル及びボディ骨格の振動特性の的確な評価が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施の形態に係る自動車車体の振動特性試験方法の処理の流れを説明するフロー図である。
図2】本発明の実施の形態に係る自動車車体に振動特性試験方法及び装置において、自動車車体に振動を入力する複数の振動入力部位の第1の態様を説明する図である。
図3】本発明の実施の形態に係る自動車車体に振動特性試験方法及び装置において、自動車車体における複数の振動入力部位の第2の態様を説明する図である。
図4】本発明の実施の形態に係る自動車車体の振動特性試験装置の構成を説明するブロック図である。
図5】本発明の実施の形態に係る自動車車体の振動特性試験装置において、自動車車体に振動を入力する加振器の設置状態の一例を示す図である。
図6】本発明の実施の形態に係る自動車車体の振動特性試験装置において、自動車車体に振動を入力して加振する態様の具体例を示す図である((a)第1の態様、(b)第2の態様)。
図7】本発明の実施の形態に係る自動車車体の振動特性試験装置の他の構成を説明するブロック図である(その1)。
図8】本発明の実施の形態に係る自動車車体の振動特性試験装置の他の構成を説明するブロック図である(その2)。
図9】実施例1において、自動車車体の前方と後方の振動入力部位にランダム波の振動を入力したときに自動車車体に発生した振動の周波数応答スペクトルを示すグラフである((a)遅延時間125ms、(b)遅延時間90ms)。
図10】実施例1において、自動車車体の後方の右側と左側それぞれの振動入力部位にサイン波の振動を入力して自動車車体に発生する振動加速度を計測する部位を示す図である((a)側面図、(b)上面図)。
図11】実施例1において、自動車車体の後方の右側と左側の振動入力部位に位相差0°、90°及び180°の遅延処理を与えて振動を入力したときに各部位に発生した振動加速度のピーク振幅比率を示すグラフである。
図12】実施例2において、自動車車体の前方と後方それぞれの振動入力部位にサイン波の振動を入力して自動車車体に発生する振動加速度を計測する部位を示す図である((a)側面図、(b)上面図)。
図13】実施例2において、自動車車体の前方と後方の振動入力部位にランダム波の振動を入力したときに自動車車体に発生した振動の周波数応答スペクトルを示すグラフである((a)20~100Hz 低周波数帯域、(b)100~400Hz 中周波数帯域)。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<自動車車体>
本発明において振動特性試験の対象とする自動車車体は、シャシー、足回り部品、駆動系部品、内装部品等を含まない、いわゆる車体骨格(ホワイトボディー)である。以下に記載する本発明の実施の形態においては、一例として図2に示す自動車車体100を対象とする。自動車車体100は、フロントサイドメンバー101、リアサイドメンバー103、バンパーレインフォース105及びリアフロアクロスメンバー107等の車体骨格部品や、車体フロア109等のパネル部品、等を有してなる。
【0025】
そして、自動車車体100は、図2に示すように、自動車車体100の車体フロア109が、床面201上に設置された4つのエアクッション211に載荷されて支持されている。そのため、自動車車体100に振動を入力すると、エアクッション211に支持されている車体フロア109は拘束されずに自動車車体100が加振される。
【0026】
もっとも、本発明は、自動車車体100を支持する部位や支持方法をこれに限定するものではなく、評価対象とする振動特性に応じて自動車車体100を支持する部位や支持方法を適宜選択すればよい。
【0027】
以下、自動車車体100を振動特性試験の対象とする場合について、本発明に係る自動車車体の振動特性試験方法及び装置(以下、それぞれ、「振動特性試験方法」及び「振動特性試験装置」という)について説明する。
【0028】
<振動特性試験方法>
本実施の形態に係る振動特性試験方法は、図2に示すように、自動車車体100に振動を入力し、自動車車体100の振動特性を求めるものである。
そして、本実施の形態に係る振動特性試験方法は、図1に示すように、加振工程S1と、振動計測工程S3と、を含むものである。
【0029】
≪加振工程≫
加振工程S1は、図2に一例として示すように、床面201に設置されたエアクッション211により車体フロア109を支持された自動車車体100に複数の振動入力部位111(111a、111b)を設定する。そして、加振工程S1は、設定した複数の振動入力部位111のそれぞれに振動を入力して自動車車体100を加振する。
【0030】
さらに、加振工程S1において、複数の振動入力部位111のうち一部の振動入力部位111(例えば、111b)に入力する振動の入力波を、他の振動入力部位111(例えば、111a)に入力する振動の入力波よりも遅延させたものとする。
【0031】
≪振動計測工程≫
振動計測工程S3は、加振工程S1において加振された自動車車体100の振動特性に関するデータを計測する工程である。
【0032】
本実施の形態において、振動計測工程S3は、自動車車体100に加速度計を設置し、自動車車体100の振動特性に関するデータとして、自動車車体100に発生する振動加速度を計測する。
【0033】
次に、本実施の形態に係る振動特性試験方法の加振工程S1において、自動車車体100に設定する複数の振動入力部位111と、各振動入力部位に入力する振動の入力波について説明する。
【0034】
実車走行時に自動車車体100に発生する振動は、完全にランダムな波形の振動が四輪に独立して入力する場合よりも、例えば、路面の周期的な溝やタイヤ表面の周期的なサイプパターンにより励起される波形の振動が入力する場合の方が強調される傾向にある。さらに、路面から入力する振動と同じ周波数の共振点が自動車車体100に存在する場合、自動車車体100に励起される振動や車室内の騒音が大きくなる恐れがある。
【0035】
そこで、実車走行時に自動車車体100に入力する振動を模擬するために、加振工程S1において、(a)複数の振動入力部位111と、(b)各振動入力部位111に入力する振動、を以下のように設定する。
【0036】
(a)振動入力部位の設定
自動車車体100に設定する複数の振動入力部位111に関しては、前述した図2に例示する第1の態様と、図3に例示する第2の態様、がある。
【0037】
第1の態様は、図2に示すように、自動車車体100の後方の右側と左側のそれぞれに振動入力部位111a、111bを設定するものである。これは、車両前方にエンジンやトランスミッションといった駆動系の車体部品が配置されたフロントエンジン・フロントドライブ車(FF車)でのオフロード走行や石畳路面のようなラフロード走行を想定したものである。
【0038】
オフロードや石畳路面のようなラフロード走行においては、左右のタイヤから入力する振動は位相が大きくずれているとみなすことができる。FF車の場合、車両の前方(フロント)に重量物が懸架されていることから、車両の前方側の振動は抑制されるのに対し、重量配分の少ない車両の後方(リア)は振動しやすい状態にあり、車両の前方と比較して振動の振幅(変位)が大きくなる傾向にある。そのため、ラフロード走行においては、重量のある車両前方の変位が少なく、車両後方が相対的に大きく変位することで、自動車車体においては捩じれる方向で変形するモードの寄与が大きくなる。
第1の態様では、FF車の後方を中心に振動する振動状態を再現するために、加振工程S1において、自動車車体100の後方の右側と左側のそれぞれに振動入力部位111aと振動入力部位111bを設定する。そして、左側の振動入力部位111bに入力する振動の入力波の位相を、右側の振動入力部位111aに入力する振動の入力波の位相よりも遅らせたものとして、振動入力部位111a、111bのそれぞれに振動を入力し、自動車車体100を加振する。
【0039】
第2の態様は、図3に示すように、自動車車体100の前方と後方のそれぞれに振動入力部位111c、111dを設定するものである。これは、路面に存在する凹凸により、前後のタイヤから同じ波形の振動が車両に入力する場合を想定したものである。
【0040】
実車走行時において、路面の凹凸により車両の前後に入力する振動の波形は同一であるが、前方と後方に入力する振動にはわずかな時間差がある。そのため、第2の態様では、車両の前方と後方に時間差を伴って同じ波形の振動が入力する振動状態を再現するために、加振工程S1において、自動車車体100の前方と後方のそれぞれに振動入力部位111cと振動入力部位111dを設定する。そして、自動車車体100の後方の振動入力部位111dに入力する振動の入力波の位相を、前方の振動入力部位111cに入力する振動の入力波の位相よりも遅らせて、振動入力部位111c、111dのそれぞれに振動を入力し、自動車車体100を加振する。
【0041】
(b)加振方法
自動車車体100の各振動入力部位111に振動を入力して加振する方法として、(b-i)所定の周波数のサイン波の振動を一定時間入力して定常振動を励起する方法と、(b-ii)ランダム波の振動を一定時間連続的に入力して加振する方法、を適用できる。
【0042】
(b-i)所定周波数のサイン波の振動入力による加振
サイン波の振動入力による加振は、実車走行時に排水溝の様な路面上の周期的な構造により自動車車体に入力する振動を想定した試験や、CAE解析や実車走行時に卓越した振動や騒音発生が認められる所定の周波数に関する振動特性を求める試験に有効である。特に、サイン波の振動入力による加振は、自動車車体に発生する振動の固有振動ピークが明瞭である概ね200Hz以下の周波数帯域において有用である。
【0043】
図3に示すように自動車車体100の前方と後方に振動入力部位111c及び振動入力部位111dを設定し、各振動入力部位111c、111dにサイン波の振動を入力する方法を説明する。
【0044】
まず、各振動入力部位111c、111dに入力する振動の入力波の基準として、所定の周波数のサイン波の基準信号を生成する。
そして、自動車車体100の前方の振動入力部位111cに入力する振動の入力波は、基準信号とする。一方、自動車車体100の後方の振動入力部位111dに入力する振動の入力波は、基準信号を遅延させた遅延信号とする。
【0045】
基準信号がサイン波の場合、遅延信号は、基準信号に対して0°~180°の位相差を与えて遅延させることにより生成することができる。自動車車体100の前方と後方に振動入力部位111c、111dに入力する振動の入力波の位相差を0°~180°の間で設定することにより、自動車車体100に様々な振動モードを再現することができる。
なお、サイン波の基準信号に位相差を与えて遅延させるとは、位相差に相当する遅延時間を与えて基準信号を遅延させることと同義である。そのため、基準信号に対して所定の遅延時間を与えて遅延させることにより遅延信号を生成してもよい。
【0046】
次に、図2に示すように自動車車体100の後方の右側と左側にそれぞれ振動入力部位111a及び振動入力部位111bを設定し、各振動入力部位111a、111bにサイン波の振動を入力する方法を説明する。
【0047】
まず、各振動入力部位111a、111bに入力する振動の入力波の基準として、所定の周波数のサイン波の基準信号を生成する。
そして、自動車車体100の後方の右側の振動入力部位111aに入力する振動の入力波を、基準信号とする。一方、自動車車体100の後方の左側の振動入力部位111bに入力する振動の入力波は、基準信号を遅延させた遅延信号とする。
【0048】
加振工程S1において自動車車体100に完全なねじりモードの変形を再現するには、振動入力部位111aと振動入力部位111bに入力する振動の入力波をサイン波とし、入力波の位相差を180°として位相を反転させればよい。
【0049】
もっとも、実車走行時の振動入力では、ねじりに加えて上下曲げあるいは左右曲げが複合した振動モードが励起されることが多いと想定される。このような様々な振動モードを自動車車体100に再現するためには、加振工程S1において振動の入力波をサイン波とし、振動入力部位111aと振動入力部位111bに入力する振動の入力波の位相差を0°~180°の間で設定すればよい。
【0050】
(b-ii)ランダム波の振動入力による加振
ランダム波の振動入力による加振は、主として凹凸の少ない舗装路面を想定した試験や、走行速度も比較的高い領域で自動車車体に入力する振動を模擬する試験において有効である。そして、ランダム波の振動入力は、自動車車体100に発生した振動について広域の周波数帯域をまとめて計測することが可能であり、特に、多数の固有振動ピークが現れて分離が難しい200Hzを超える高周波帯域の振動特性を求める場合に効果的である。
【0051】
ただし、ランダム波の振動入力により自動車車体100を加振した場合、ランダム波の入力波に対して個別の周波数ごとに位相を制御したり調節することは困難である。
そのため、例えば図3に示すように、自動車車体100の前方と後方のそれぞれに振動入力部位111c、111dを設定した場合、前方の振動入力部位111cに入力する振動の入力波はランダム波の基準信号とする。そして、後方の振動入力部位111dの入力する振動の入力波は基準信号に所定の遅延時間を与えて遅延させた遅延信号とする。
【0052】
すなわち、振動の入力波をランダム波とする場合、関数発生器等の同一の信号生成装置(発振源)により生成した基準信号を前方の振動入力部位111cに入力する振動の入力波とする。さらに、基準信号を遅延処理した遅延信号を後方の振動入力部位111dに入力する振動の入力波とする。
【0053】
これにより、自動車車体100の前後ともに同一の波形のランダム波及び周波数成分で自動車車体100を加振し、実車走行時の自動車車体に入力するランダム波の振動を模擬することができる。なお、遅延信号を生成するために与える遅延時間は、実車の車速と前後輪間の距離(前後車軸間距離)から決定すればよい。
【0054】
以上、本実施の形態に係る自動車車体の振動特性試験方法によれば、実車走行時の路面状態や車両の走行条件において自動車車体100に励起する振動状態を再現し、自動車車体100に発生する振動や騒音といった振動特性を求めることができる。これにより、自動車車体100の設計段階において、車体構造や材料の変更に伴う自動車車体100の振動特性の変化を求めることが可能となる。
【0055】
また、本実施の形態に係る自動車車体の振動特性試験方法においては、複数の振動入力部位111に入力する振動の入力波(入力波形、周波数及び振幅)や、各振動入力部位に入力する振動の入力波の遅延時間を適宜変更することができる。これにより、実車走行時の路面状態や走行条件(走行速度等)を模擬する振動入力条件をパラメトリックに変更することができるため、CAE解析に用いる解析モデル化も容易となる。
【0056】
さらに、自動車車体における複数の振動入力部位のそれぞれに入力する振動の入力波やその遅延時間を規定することが容易であるため、振動特性試験において自動車車体に入力する振動に関する振動入力条件の規格化や再現性も良好である。
【0057】
<振動特性試験装置>
本実施の形態に係る振動特性試験方法は、図4に一例として示すような振動特性試験装置1を用いて実施することができる。以下、図2に示す自動車車体100を対象として振動特性試験を行う場合について、振動特性試験装置1の構成を説明する。
【0058】
本実施の形態に係る振動特性試験装置1は、上記の本実施の形態に係る振動特性試験方法を実施するためのものであり、図4に示すように、加振装置10と、振動計測装置20と、を備える。
【0059】
≪加振装置≫
加振装置10は、図2に示すように、エアクッション211により車体フロア109が支持された自動車車体100における複数の振動入力部位111(111a、111b)に振動を入力して自動車車体100を加振するものである。そして、加振装置10は、図4に示すように、複数の加振器11(11a、11b)と、関数発生器13と、遅延処理装置15と、複数の加振器制御装置17(17a、17b)と、を有する。
【0060】
(加振器)
加振器11は、自動車車体100に複数の振動入力部位111のそれぞれに所定の入力波(振動の入力波形及び周波数)の振動を入力して加振するものである。
【0061】
本実施の形態においては、自動車車体100の後方の右側の振動入力部位111aと左側の振動入力部位111b(図2参照)のそれぞれに振動を入力する加振器11aと加振器11b(図4参照)と、が設けられている。
【0062】
さらに、各加振器11は、一例として図5に示すように、防振ゴム203を介して床面201に設置されている。また、各加振器11は、鋼製の加振棒19を介して、自動車車体100のアンダーフレームの一部であるリアサイドメンバー103に接着された取付ブラケット103aに接続されている。これにより、加振器11が駆動することで、加振棒19を介して自動車車体100のリアサイドメンバー103に設定した振動入力部位111に振動が入力し、自動車車体100を加振する。
【0063】
加振器11としては動電式加振器を例示することができるが、本発明は、これに限定するものではない。
【0064】
(関数発生器)
関数発生器13は、自動車車体100の各振動入力部位111に入力する振動の入力波の基準となる複数の基準信号を生成する信号生成装置13aとして機能するものである。
関数発生器13は、基準信号の波形と周波数を適宜設定することができるものとし、基準信号の波形としてサイン波又はランダム波を選択できるものとする。
【0065】
本実施の形態において、関数発生器13は、図4に示すように、自動車車体100の後方の右側の振動入力部位111aと左側の振動入力部位111b(図2参照)のそれぞれに入力する振動の入力波の基準となる2つの基準信号PA及びPBを生成する。なお、以下の説明において、2つの基準信号PA及びPBを合わせて基準信号Pともいう。
【0066】
(遅延処理装置)
遅延処理装置15は、信号生成装置13aにより生成した基準信号のうち一部の基準信号を遅延させた遅延信号を生成するものである。
本実施の形態において、遅延処理装置15は、関数発生器13に組み込まれているものとする。そして、遅延処理装置15は、図4に示すように、関数発生器13における信号生成装置13aが生成した2つの基準信号PA及びPBのうち1つの基準信号PBを遅延させて遅延信号QBを生成する。
【0067】
(加振器制御装置)
加振器制御装置17は、信号生成装置13aにより生成した基準信号又は遅延処理装置15により生成した遅延信号により複数の加振器11をそれぞれ駆動制御するものである。
本実施の形態では、図4に示すように、加振器制御装置17aは信号生成装置13aにより生成した基準信号PAにより加振器11aを駆動制御し、加振器制御装置17bは遅延処理装置15により生成した遅延信号QBにより加振器11bを駆動制御する。
なお、加振器11として動電式加振器を用いる場合、加振器制御装置17は、基準信号又は遅延信号に基づいて動電式加振器に投入する電力の投入電力パターンを生成する。
【0068】
加振装置10により自動車車体100を加振する態様としては、本実施の形態に係る振動特性試験方法において振動入力部位の設定について説明したように(図2図3参照)、図6に示す2つの態様がある。
【0069】
第1の態様は、図6(a)に示すように、自動車車体100の後方の右側と左側のそれぞれに設定した振動入力部位111a及び111bに振動を入力して加振するものである。この第1の態様は、前述したように、FF車の後方を中心に振動が入力する振動状態を想定したものである(図2参照)。
【0070】
第1の態様においては、関数発生器13により生成した基準信号Pを加振器制御装置17aに入力して加振器11aを駆動制御し、自動車車体100の後方右側に設定した振動入力部位111aに振動を入力する。さらに、関数発生器13により生成した遅延信号Qを加振器制御装置17bに入力して加振器11bを駆動制御し、自動車車体100の後方左側に設定した振動入力部位111bに振動を入力する。
ここで、基準信号Pはサイン波とし、遅延信号は、関数発生器13において基準信号Pに位相差180°を与えて遅延させたものとする。
【0071】
第2の態様は、図6(b)に示すように、自動車車体100の前方と後方のそれぞれに設定した振動入力部位111c、111dに振動を入力するものである。第2の態様は、前述したように、路面に存在する凹凸により前後のタイヤから同じ波形の振動が車両に入力する振動状態を想定したものである(図3参照)。
【0072】
第2の態様においては、まず、関数発生器13により基準信号Pと、基準信号Pを遅延させた遅延信号Qと、を生成する。ここで、基準信号Pはサイン波とし、遅延信号は基準信号Pに位相差45°(位相角-45°に相当)を与える遅延処理により遅延させたものとする。
【0073】
そして、生成した基準信号Pを加振器制御装置17aに入力して加振器11aを駆動制御し、自動車車体100の前方に設定した振動入力部位111cに振動を入力する。一方、生成した遅延信号Qを加振器制御装置17bに入力して加振器11bを駆動制御し、自動車車体100の後方に設定した振動入力部位111dに振動を入力する。
【0074】
なお、上記の2つの態様は、関数発生器13によりサイン波の基準信号を2つ生成し、一方の基準信号Pに位相差(45°又は180°)を与えて遅延させることで遅延信号Qを生成する場合についてのものであった。もっとも、本発明に係る加振装置は、ランダム波の基準信号を複数生成し、生成した基準信号の一部に遅延時間を与える遅延処理を行い、基準信号よりも遅延させた遅延信号を生成するものであってもよい。
【0075】
≪振動計測装置≫
振動計測装置20は、図4に示すように、加振装置10により加振した自動車車体100の振動特性に関するデータを計測するものであり、加速度計21と、加振力・入力加速度計23と、データロガー25と、を有する。また、本実施の形態において、振動計測装置20は、データ処理装置27をさらに有する。
【0076】
(加速度計)
加速度計21は、自動車車体100の振動特性に関するデータとして、自動車車体100に設置されて自動車車体100に発生する振動加速度を計測するものである。
加速度計21は、自動車車体100における複数の部位に設置してもよい。
【0077】
(加振力・入力加速度計)
加振力・入力加速度計23は、加振装置10の加振器11を用いて自動車車体100に入力する振動により自動車車体100を加振する加振力と入力加速度を計測するものである。
本実施の形態において、加振力・入力加速度計23は、図5に示すように、加振棒19と取付ブラケット103aとの間に設置する。
【0078】
(データロガー)
データロガー25は、加速度計21により計測される自動車車体100の振動加速度と、加振力・入力加速度計23により計測される自動車車体100に入力する振動の加振力及び入力加速度と、を取得する。
本実施の形態において、データロガー25は、加速度計21により計測される振動加速度の時刻歴データと、加振力・入力加速度計により計測される振動の加振力及び入力加速度の時刻歴データと、を同期して取得する。
【0079】
(データ処理装置)
データ処理装置27は、振動計測装置20により取得した自動車車体100の振動加速度の時刻歴データと振動の加振力及び入力加速度の時刻歴データとを処理し、自動車車体100の振動特性を求めるものである。
データ処理装置27は、コンピュータ(PC等)のCPU(中央演算処理装置)によって構成されたものであってもよい。この場合、上記の各部は、コンピュータのCPUが所定のプログラムを実行することによって機能する。
【0080】
以上、本実施の形態に係る自動車車体の振動特性試験装置によれば、前述した本実施の形態に係る自動車車体の振動特性試験方法を実施することができる。これにより、実車走行時の路面状態や車両の走行条件において自動車車体に励起する振動状態を再現し、該自動車車体に発生する振動や騒音といった振動特性を求めることができる。その上、自動車車体の設計段階において、車体構造や材料の変更に伴う自動車車体の振動特性の変化を求めることが可能となる。
【0081】
また、本実施の形態に係る自動車車体の振動特性試験装置においては、複数の振動入力部位に入力する振動の入力波(入力波形、周波数及び振幅)や、各振動入力部位に入力する振動の入力波の遅延時間を適宜変更することができる。これにより、実車走行時の路面状態や走行条件(走行速度等)を模擬する振動入力条件をパラメトリックに変更することができる。
【0082】
さらに、本実施の形態に係る振動特性試験装置においては、加振装置10を用いて自動車車体100に入力する振動の入力波や遅延時間を容易に規定することができるため、振動入力条件の規格化や再現性が良好な振動特性試験を行うことができる。
【0083】
上記の説明は、自動車車体100の振動特性として、自動車車体100に設置した加速度計により振動加速度を計測する場合についてのものであった。もっとも、本発明は、自動車車体100の内部にマイクロフォンを設置し、自動車車体100から発生する騒音に関するデータを計測するものであってもよい。
この場合、マイクロフォンにより騒音の音圧を計測し、音圧の時刻歴データをデータロガー25に取得すればよい。そして、データ処理装置27により音圧の時刻歴データを処理することにより、自動車車体100の振動特性として騒音レベルを求めることができる。
【0084】
また、上記の振動特性試験装置1において、遅延処理装置15は、関数発生器13に組み込まれたものであったが、例えば、図7に示す振動特性試験装置3のように、関数発生器31とは別に設けられているものであってもよい。
【0085】
この場合、図7に例示するように、関数発生器31により2つの基準信号PA及びPBを生成し、そのうちの1つの基準信号PBを遅延処理装置15により遅延処理して遅延信号QBを生成するものであればよい。
あるいは、本発明に係る振動特性試験装置は、遅延信号により加振器を制御する加振器制御装置に遅延処理装置が組み込まれているものであってもよい(図示なし)。
【0086】
なお、本発明において、加振器制御装置に入力する基準信号とは、自動車車体に設定した複数の振動入力部位のそれぞれに入力する振動の入力波のうち基準となるものをいう。図8に例示する振動特性試験装置5は、信号生成装置13aにより生成した基準信号PAとPBのそれぞれについて遅延処理装置15a及び15bにより遅延信号QAとQBを生成するものである。このような振動特性試験装置5において、遅延信号QAよりも遅延信号QBの方が遅延している場合、遅延信号QAを基準信号とみなす。
【実施例0087】
本発明の作用効果を検証するための試験を行ったので、以下、これについて説明する。
【0088】
本実施例1では、図2及び図3に示すように、床面201に設置した4つのエアクッション211に自動車車体100を載荷する。そして、前述した本発明の実施の形態に係る振動特性試験装置1を用いて自動車車体100における複数の振動入力部位111に振動を入力して加振し、自動車車体100の振動特性を求めた。
【0089】
試験対象とした自動車車体100は、市販の小型自動車(長さ4.0m、幅1.7m、車両重量1.0ton、前後車軸間距離2.5m)を分解し、駆動系・内装・機能部品・電装部品等の車体部品以外の部品を除去したものとした。
【0090】
自動車車体100は、図2及び図3に示すように、振動特性試験装置1の加振装置10により加振した。加振装置10は、加振器11と、関数発生器13と、加振器制御装置17と、を有する。
【0091】
関数発生器13は、基準信号を生成する信号生成装置13aと、基準信号を遅延させて遅延信号を生成する遅延処理装置15と、して機能する。そして、関数発生器13で生成した基準信号又は遅延信号を加振器制御装置17に入力して加振器11を駆動制御し、自動車車体100に振動を入力した。加振器11と自動車車体100は鋼製の加振棒19で接続され、自動車車体100における加振棒19の取付部位となる振動入力部位111と加振棒19との間に加振力・入力加速度計23を設置した。前述した図5に、加振棒19と自動車車体100との接続状態の一例を示す。
【0092】
自動車車体100には、振動加速度を計測する加速度計を設置した。加速度計には圧電式の小型タイプを使用し、接着剤で自動車車体100の各部位に接着した。
【0093】
加速度計による振動加速度の検出信号をサンプリング周波数2.0kHzで多チャンネルのデータロガー25に同時に収録し、振動加速度の時刻歴データを取得した。
そして、取得した振動加速度の時刻歴データは、データ処理装置27においてフーリエ変換により周波数応答スペクトルに変換し、固有振動ピークの周波数及び振幅強度を求めた。
【0094】
本実施例1では、自動車車体100に設定した複数の振動入力部位111に対して、ランダム波の振動を入力した場合と、サイン波の振動を入力した場合と、のそれぞれについて振動特性試験を行った。
【0095】
<ランダム波の入力波による加振(その1)>
自動車車体100の車体フロア109の前方における2か所のエンジンフレーム取付点を振動入力部位111cとして設定し、後方における2か所のトーションビーム取付点を振動入力部位111dとして設定した(図3参照)。そして、前方2か所の振動入力部位111cと、後方2か所の111dと、のそれぞれに対して加振器11によりランダム波の振動を一定時間連続的に入力し、自動車車体100を加振した。
【0096】
前方2か所と後方2か所の加振器11に入力する振動の入力波は、それぞれ同位相の同一波形とした。ここで、前方2箇所の振動入力部位111cに振動を入力する加振器11aは、関数発生器13内の信号生成装置13a(図4参照)により生成した基準信号Pを加振器制御装置17aに入力して駆動制御した。一方、後方2箇所の振動入力部位111dに振動を入力する加振器11bは、関数発生器13内の遅延処理装置15(図4参照)により基準信号Pを遅延処理して生成した遅延信号Qを加振器制御装置17bに入力して駆動制御した(図6(b))。
【0097】
遅延信号Qは、実車走行時での走行速度72km/h及び100km/hを想定し、遅延時間125ms及び90msとして基準信号Pを遅延処理して生成した。
【0098】
振動特性試験は10分間継続して加振して、自動車車体100のルーフサイドレールMID(図10中のA7の部位)に設置した加速度計21により計測される振動加速度を計測し、振動加速度の時刻歴データを取得した。そして、取得した振動加速度の時刻歴データをフーリエ変換し、自動車車体100のルーフサイドレールMIDに発生した振動加速度の周波数応答スペクトルを得た。
【0099】
図9に、遅延信号Qの遅延時間を125ms及び90msとした場合において自動車車体100のルーフサイドレールMIDに発生した振動加速度の周波数応答スペクトルの結果を示す。
遅延時間125ms(走行速度72km/h)の場合、図9(a)に示すように、前方の振動入力部位111cに入力する振動加速度を基準とした伝達率(加速度振幅の比)は80Hzと160Hz付近のピーク値が増加し、100Hz付近のピーク値が減少した。
【0100】
これに対し、遅延時間90ms(走行速度100km/h相当)の場合、図9(b)に示すように、100Hzと165Hz付近の伝達率のピーク値が増加し、50Hzと128Hz付近のピーク値が減少した。
【0101】
以上より、実車走行試験での走行速度の違いを再現した振動特性試験において、自動車車体100に発生する振動が異なる状況を再現し、走行速度に対する振動特性の違いを取得できることが示された。
【0102】
<サイン波の入力波による加振>
自動車車体100の後方における右側と左側の2か所のトーションビーム取付点をそれぞれ振動入力部位111a及び111bとして設定した(図2参照)。そして、振動入力部位111aと111bのそれぞれに加振器11により所定の周波数のサイン波の振動を一定時間入力して定常振動を励起する方法により、自動車車体100を加振した。
【0103】
右側(運転席側)の振動入力部位111aに入力する振動の入力波は、関数発生器13により生成した基準信号Pとした。一方、左側(助手席側)の振動入力部位111bに入力する振動の入力波は、関数発生器13内部の遅延処理装置15により基準信号に位相差を与えて遅延させた遅延信号Qとした。
基準信号と遅延信号の波形はいずれもサイン波とし、その周波数(加振周波数)は、ランダム波の入力波により自動車車体100を加振したときに得られた周波数応答スペクトルで共振ピークとして観測された周波数(40Hz、48Hz又は103Hz)とした。
【0104】
自動車車体100には、振動加速度を計測する加速度計21を図10に示すA1~A6の各計測部位に設置した。ここで、A1はリアルーフヘッダにおける車体左右方向の右端部、A2はリアフロアにおける車体後方右側部、A3はフロントルーフヘッダの車体左右方向中央部、である。さらに、A4は右側のフロントサイドメンバーの前端部、A5はリアフロアクロスの車体左右方向中央部、A6は右側のセンターピラーの車体上下方向中央部、である。
【0105】
1回の試験は100秒間継続して同一の周波数のサイン波で加振して、自動車車体100A1~A6に設置した加速度計21により振動加速度を計測し、その時刻歴データをデータロガーに取得した。そして、A1~A6の各部位について取得した振動加速度の時刻歴データをフーリエ変換することにより周波数応答スペクトルを求め、ピーク振幅の平均値を算出した。
【0106】
また、助手席側の振動入力部位111bに入力する振動の入力波は、運転席側の振動入力部位111aに入力する振動の入力波に対して0°~180°の範囲で位相差を与えることにより遅延させ、A1~A6の各部位の振動特性を比較した。
【0107】
図11に、位相差0°(位相差なし、同期)、90°、180°で加振した際に求められたピーク振幅強度を示す。ここで、図11に示すピーク振幅強度は、卓越したピークを観測した位相差において得られた振幅強度を1.0とした場合の比率で示したものである。これは、振幅強度に対する車体部品や位置の違いを排除し、振動入力部位に入力する振動の入力波の位相差の違いに着目するためである。
【0108】
図11に示すように、加振周波数40Hzでは、計測部位A1とA2におけるピーク振幅強度は位相差180°で最大振幅であった。これに対し、計測部位A3におけるピーク振幅強度は位相差による影響は小さかった。また、加振周波数48Hzでは、計測部位A4とA5におけるピーク振幅強度は位相差なし(0°)で最大値であり、位相差が増加するにつれてピーク振幅強度は低下した。さらに、加振周波数103Hzでは、計測部位A6におけるピーク振幅強度は位相差90°で最大値を記録した。
【0109】
以上より、自動車車体100のラフ路面走行時を再現した左右後輪から伝達する低周波帯域の周期的な振動入力の影響に対する振動特性を、ホワイトボディである自動車車体を用いた振動特性試験により取得できることが示された。
【実施例0110】
<ランダム波の入力波による加振(その2)>
本実施例2では、凹凸の少ない舗装路面(走行路面)に、自動車車体100の前後の車軸間距離よりも短い間隔で存在する周期的な路面凹凸(例えば、段差舗装、ランブルストリップス等)を想定した振動特性試験を行った。当該振動特性試験では、自動車車体100の車体フロア109に前方2か所の振動入力部位111cと後方2か所の振動入力部位111dを設定した(図3参照)。そして、振動入力部位111cと振動入力部位111dのそれぞれに対して加振器11によりランダム波の振動(舗装路面から入力する振動に相当)を一定時間連続的に入力し、自動車車体100を加振した。
【0111】
前方2か所の振動入力部位111cと後方2か所の振動入力部位111dに入力する振動の入力波は、それぞれ同位相の同一波形とした。ここで、前方2箇所の振動入力部位111cに振動を入力する加振器11aは、基準信号Pを加振器制御装置17aに入力して駆動制御した。一方、後方2箇所の振動入力部位111dに振動を入力する加振器11bは、遅延信号Qを加振器制御装置17bに入力して駆動制御した(図6(b))。
【0112】
車軸間距離と周期的な路面凹凸の間隔が等しい場合、タイヤからボディに入力するランダム波の振動は、自動車車体100の前方と後方で同じタイミング(位相同期)で入力する場合に相当する。これに対し、車軸間距離よりも周期的な路面凹凸の間隔の方が短い場合、自動車車体100の前方よりも後方の入力タイミングが走行速度に応じて遅延時間が生じるものとして、遅延信号Qの遅延時間を決定した。
【0113】
本実施例2では、自動車車体100の車軸間距離(2500m)、実車走行時での走行速度100km/h、周期的な路面凹凸の間隔を1860mm、2180mm、2330mmを想定し、遅延信号Qの遅延時間をそれぞれ23.0ms、11.5ms、6.1msと決定した。そして、これらの遅延時間に従って基準信号Pを遅延処理して遅延信号Qを生成した。
【0114】
自動車車体100には、振動加速度を計測する加速度計21を図12に示すA3、A8~A10の各計測部位に設置した。ここで、A3はフロントルーフヘッダの車体左右方向中央部、A8はルーフクロスにおける車体左右方向中央部である。さらに、A9はバックパネルの車体左右方向中央部、A10はサイドシルインナにおける車体前後方向中央部である。
【0115】
振動特性試験は10分間継続して同一波形のランダム波で加振して、自動車車体100のA3、A8~A10に設置した加速度計21により計測される振動加速度を計測し、振動加速度の時刻歴データを取得した。そして、取得した振動加速度の時刻歴データをフーリエ変換することにより、A3、A8~A10に発生した振動加速度の周波数応答スペクトルを得た。
【0116】
図13に、(i)A3、(ii)A8、(iii)A9及び(iv)A10に発生した振動加速度の周波数応答スペクトルのグラフを示す。図13において、横軸は振動加速度の周波数(Hz)、縦軸は振動加速度の伝達率((m/s2)/(m/s2))である。また、図13(a)は周波数帯域20~100Hz、図13(b)は周波数帯域100~400Hzにおける周波数応答スペクトルの結果である。ここで、図13(a)の周波数帯域20~100Hzは、可聴域周波数帯の中でも低周波数帯域とされる領域である。これに対し、図13(b)の周波数帯域100~400Hzは、図13(a)の周波数帯域と比較して人間の聴覚感度が高く、車室内騒音が問題となってくる周波数帯域である。
【0117】
周波数帯域20~100Hzの場合、図13(a)に示すように、自動車車体100の後方の振動入力部位111dに入力する振動の遅延信号Qを遅延時間6.1ms~23.0msの間で変更すると、周波数応答スペクトル分布が変化し、伝達率の最も高い周波数(ピーク周波数)が変化することが分かる。例えば、図13(a)(i)に示すA3に発生した振動加速度の周波数応答スペクトルにおいて、遅延時間6.1ms、11.5ms、23.0msのそれぞれのピーク周波数は69Hz、47Hz、41Hzと変化している。
【0118】
これに対し、周波数帯域100~400Hzの場合、図13(b)に示すように、周波数帯域20~100Hzのような周波数応答スペクトル分布の変化は見られないが、遅延時間によっては特定周波数の伝達率が大きくなる現象が見られた。例えば、図13(b)(iv)のA10に発生した振動加速度の周波数応答スペクトルにおいて、遅延時間6.1msに比べて11.5ms、23.0msとしたときの240~290Hz及び310Hzにおける伝達率が増大している。
【0119】
以上のように、自動車車体100の後方への遅延信号Qの遅延時間を変えることで、周波数応答スペクトルも大きく変化することがわかる。この結果から、本発明によれば、運転者が感じる振動・騒音状況が、周期的な路面凹凸の間隔により異なる状況を再現・評価できることが示された。
【符号の説明】
【0120】
1 振動特性試験装置
3 振動特性試験装置
5 振動特性試験装置
10 加振装置
11 加振器
11a 加振器
11b 加振器
13 関数発生器
13a 信号生成装置
15 遅延処理装置
15a 遅延処理装置
15b 遅延処理装置
17 加振器制御装置
17a 加振器制御装置
17b 加振器制御装置
19 加振棒
20 振動計測装置
21 加速度計
23 加振力・入力加速度計
25 データロガー
27 データ処理装置
30 加振装置
31 関数発生器
40 加振装置
41 関数発生器
100 自動車車体
101 フロントサイドメンバー
103 リアサイドメンバー
103a 取付ブラケット
105 バンパーレインフォース
107 リアフロアクロスメンバー
109 車体フロア
111 振動入力部位
111a 振動入力部位
111b 振動入力部位
111c 振動入力部位
111d 振動入力部位
201 床面
203 防振ゴム
211 エアクッション
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13