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  • 特開-高セレン牛乳の生産方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002813
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】高セレン牛乳の生産方法
(51)【国際特許分類】
   A23K 50/10 20160101AFI20231228BHJP
   A23K 10/20 20160101ALI20231228BHJP
【FI】
A23K50/10
A23K10/20
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022102243
(22)【出願日】2022-06-24
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】522220337
【氏名又は名称】禾香實業有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100143720
【弁理士】
【氏名又は名称】米田 耕一郎
(72)【発明者】
【氏名】鄭長義
【テーマコード(参考)】
2B005
2B150
【Fターム(参考)】
2B005BA03
2B150AA02
2B150AB07
2B150CJ04
2B150DD01
(57)【要約】
【課題】生乳の風味が高まり、高品質な牛乳の基準を満たし、生乳の品質を大幅に高めることができる、高セレン牛乳の生産方法を提供する。
【解決手段】高セレン牛乳の生産方法は、乳牛飼料の濃厚飼料中にアメリカミズアブ(black soldier fly)の幼虫粉を添加する。前記乳牛飼料の濃厚飼料中に添加するアメリカミズアブ幼虫粉に含まれるセレン量は0.18ppmである。前記乳牛飼料の濃厚飼料中には、10%のアメリカミズアブ幼虫粉(0.18ppmのセレンを含む)が添加され、1日当たり10キロの濃厚飼料を与える。生産される生乳には、101.2ppbのセレン元素が含まれる。生乳中のセレン含量は5.11倍まで高め得る。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳牛飼料の濃厚飼料中にアメリカミズアブ(black soldier fly)の幼虫粉を添加することを特徴とする、高セレン牛乳の生産方法。
【請求項2】
前記乳牛飼料の濃厚飼料中に添加するアメリカミズアブ幼虫粉に含まれるセレン量は0.18ppmであることを特徴とする請求項1に記載の高セレン牛乳の生産方法。
【請求項3】
前記乳牛飼料の濃厚飼料中には、10%のアメリカミズアブ幼虫粉(0.18ppmのセレンを含む)が添加され、1日当たり10キロの濃厚飼料を与え、
生産される生乳には、101.2ppbのセレン元素が含まれ、生乳中のセレン含量は5.11倍まで高め得ることを特徴とする請求項1に記載の高セレン牛乳の生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高セレン(Selenium)牛乳の生産方法に関し、特に、循環型経済(サーキュラーエコノミー)を利用して生産したアメリカミズアブ(black soldier fly)の幼虫を乳牛飼料の濃厚飼料に添加し、泌乳中のセレン元素(Se)の含量を増やすとともに、泌乳される生乳の生産量及び品質が高まり、飼育者(酪農)の収益を高めることができる上、飲用する者に必要な栄養素を供給し、循環型経済の手段により産業経済の価値を高め、環境汚染を減らすことができる一石二鳥のダブル効果が得られるため意義が大きい、高セレン牛乳の生産方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セレン(Se)には、以下(1)~(4)の効果があることが医学リポートにより報告されている。
(1)DNAとRNAの合成を促進することができる。
(2)グルタチオンペルオキシダーゼ(glutathione peroxidase)が体内の細胞油脂を酸化させて解毒及び酸化防止作用を得て、人体の免疫力を高めることができる。
(3)濾過性病毒の蔓延を抑制することができる。
(4)がん予防及びがん治療の作用があることが実証されている。米国アリゾナ大学のクラーク博士の実験結果によると、69%の前立腺、64%の大腸がん、39%の肺がんを減らすことができるとともに、ガンによる死亡率を半分に減らし、米国FDA(1997)は、成人が毎日、安全かつ十分な摂取量として50~200μgのセレンを摂取することを薦めている。
【0003】
Aspila(1991)及びHemkem etal(1998)が指摘しているように、乳牛に0.7ppm無機セレン又は0.1ppm有機セレンを与えなければ牛乳中のセレン濃度を生理的必要量である20μg/リットルにすることはできなかったが、従来技術では乳牛飼料に添加するセレンの含量が少なめであり(無機セレンは約0.1ppm)、その必要量が達成できず、国民一人当たり平均250mlの牛乳を摂取すると仮定して計算すると、牛乳だけから得られるセレン含量は僅か5.0μgのみであり、牛乳中のセレン含量を増加させ、牛乳の価値を高め飲用者の健康を向上させることができる。
【0004】
国内で飼育されている家畜からは、毎日約5000トン以上の排泄物及び約2000トンの残飯が発生しているが、政府はアフリカ豚熱の侵入を防ぐために、養豚に利用することを禁止している。そのため、発酵させて堆肥したもののみ利用しているが、その製造工程には長い時間がかかり、環境・空気を汚染してしまうという問題が発生した。また、豆腐工場から出る残渣(豆渣)は、乳牛を飼育するのに直接用いることができるが、運送途中又は乳牛の飼育場が汚染されてしまうという問題点があったため、上述した鶏糞、残飯及び豆渣によりアメリカミズアブ(black soldier fly)を養殖し、動物性タンパク飼料源(魚粉及び大豆粉に代替する)に変え、「循環型経済」を形成することが現在の所、最も適切な循環型経済産業の傾向となっている。
【0005】
アメリカミズアブ(black soldier fly)の幼虫は、生存能力が強い新しい飼料用虫である。卵期(3~4日間)に孵化した後、4~8日目の期間に幼虫となった後(生存期間約18日間)、蛹→羽化→成虫(生存期間7日間)して産卵する。幼虫は蛆虫の食物(家畜の糞便、残飯及び豆渣)を奪うことができるため、幼虫が含む粗タンパク質は42.6%(天然のアンチペプトンを含む)、粗脂肪27.51%、熱エネルギー5.604kcalに達し、セレン元素の含量も0.18ppmに達する(詳細は以下で説明する)。
【0006】
アメリカミズアブ幼虫栄養分析値
水分 4.90%
粗タンパク質 42.60%
粗脂肪 27.51%
粗灰分 11.46%
熱エネルギー 5604kcal/kg
【0007】
アメリカミズアブ幼虫アミノ酸組成(1)
アスパラギン酸ASP 3.73%
トレオニンTHR 1.68%
セリンSER 1.74%
グルタミン酸GLU 4.17%
プロリンPRO 2.18%
グリシンGLY 2.19%
アラニンALA 3.00%
シスチンCYS 0.25%
【0008】
アメリカミズアブ幼虫アミノ酸組成(2)
バリンVAL 2.29%
メチオニンMET 0.59%
イソロイシンILE 1.35%
ロイシンLEU 2.92%
チロシンTYR 2.47%
フェニルアラニンPHE 1.83%
リシンLYS 2.47%
ヒスチジンHIS 0.96%
アルギニンARG 1.79%
【0009】
アメリカミズアブ幼虫脂肪酸組成(1)
カプリル酸Caprylic Acid 未検出
ペラルゴン酸Pelargonic Acid 0.37%
ラウリン酸Lauric Acid 9.63%
トリデカノン酸Tridecanoic Acid 未検出
ミリスチン酸Myristic Acid 2.02%
ミリストレイン酸Myristoleic Acid 0.02%
ペンタデカン酸Pentadecanoic Acid 0.07%
パルミチン酸Palmitic Acid 4.15%
【0010】
アメリカミズアブ幼虫脂肪酸組成(2)
パルミトレイン酸Palmitoleic Acid 0.56%
マルガリン酸Margaric Acid 0.09%
ステアリン酸Stearoc Acid 1.11%
オレイン酸Oleic Acid 3.52%
反式C18:1t 0.14%
反式C18:2t 0.02%
リノール酸Linoleic Acid 3.45%
α-リノレン酸α-Linoleic Acid 0.32%
【0011】
アメリカミズアブ幼虫鉱物質分析値
ナトリウム 0.20%
カリウム 1.28%
カルシウム 2.63%
リン 0.91%
マグネシウム 0.41%
銅 14.75ppm
亜鉛 138.58ppm
鉄 644.38ppm
マンガン 275.17ppm
セレン 0.18ppm
【0012】
農薬残留検出値比較
多重農薬 総計310種 309種は検査定量極限より低い
鶏糞(カルバリル) 0.30ppm
残飯物(カルバリル) 0.15ppm
豆腐渣(カルバリル) 0.01ppm
アメリカミズアブ幼虫(カルバリル) 0ppm
【0013】
本発明者は、民国88年(西暦1999年)8月24日に「セレンを含む牛(羊)乳の生産方法(台湾特許出願番号第088114467号)」(特許文献1)を出願し、民国92年(西暦2003年)12月に特許権を得て(特許証書番号:第192467号)、それは生乳中のセレン含量を約4倍に増やしたが(78.7ppb)、既に民国108年(西暦2019年)にその特許権の期間は満了している。中華民国109年8月18日に出願した「高セレン牛乳生産の新しい方法」(台湾特許出願番号第109128009号)(特許文献2)は、未だ特許権が付与されていないが、本発明者は再び循環型経済により生産したアメリカミズアブ幼虫粉を乳牛飼料の原料として用い、その試験結果が際立っている重大な発見をした。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】台湾特許出願番号第088114467号
【特許文献2】台湾特許出願番号第109128009号
【発明を実施するための形態】
【0015】
上述した特許文献の新規性及び進歩性を突破するために、本発明者は鋭意研究を重ねた結果、高セレン牛乳の生産方法の本発明を完成した。本発明は、乳牛飼料の濃厚飼料中に10%のアメリカミズアブ幼虫を含み、本実施例の濃厚飼料を乳牛に与える量は、乳牛の生乳生産量の多寡に応じて調整する。例えば、乳牛1頭の1日の生乳生産量2.5kg当り、1kgの濃厚飼料を与えることを基準とする。例えば、乳牛の毎日の泌乳量が25kgの場合、乳牛一頭当たり一日10kg(アメリカミズアブ幼虫粉1kgを含む)の濃厚飼料を与えることを基準とする。
【0016】
本発明の乳牛飼料の濃厚飼料組成には、コーン、大豆粕、アメリカミズアブ幼虫、小麦ふすま、植物油、糖蜜、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、塩及びプレミックスが含まれ、その栄養成分の計算値は、粗タンパク質17.2%、カルシウム1%、リン0.5%、セレン0.18ppmであり、可消化エネルギーが78%であり、正味エネルギーが1.86(Mcal/kg)である(表1を参照する)。
【0017】
【表1】
【0018】
乳牛飼料の粗飼料は、コーン貯溜(Corn storage)60%及びバニューダ干し草(Bermuda hay)40%の組合せからなり、体重の5%を飼料として与える。即ち、1日当たり一頭につき30kgを与える。
【0019】
本発明では16頭をサンプルとし、生乳生産量は皆略同じであり、乳房炎、蹄病などの症状が無い健康な泌乳牛を2つのエリアに分けて各エリアに8頭ずつ入れ、それぞれに本発明の濃厚飼料及び市販の濃厚飼料と、同じ粗飼料とをそれぞれ食べさせる。その生乳生産量及び乳中に含まれるセレン含量及び乳成分を毎月定期的に調べ、6か月経過した後に統計・分析を行う。
【0020】
本発明が示すように、乳牛飼料の濃厚飼料中には、10%のアメリカミズアブ幼虫粉が含まれ、その泌乳の生乳中に含まれるセレン量は101.2±11.5(ppb)であり、対照群の19.8±9.8(ppb)の5倍である上、その毎日の泌乳量が17.1%増えるため、飼育者の収益を高めることができる(表2を参照する)。
【0021】
【表2】
【0022】
本発明が示すように、乳牛飼料の濃厚飼料中には10%のアメリカミズアブ幼虫粉が含まれ、乳中の乳糖含量を4.9%引き上げることができるため口当たりが良く、粗脂肪含量を8.3%引き上げることができるため生乳の風味を良くして飲用者の好みに合わせることができる(表3を参照する)。
【0023】
【表3】
【0024】
本発明が示すように、乳牛の泌乳成分に含まれるセレン量が101.2ppbに達し、国民が毎日250mlの生乳を摂取するとして計算すると、生乳から摂取されるセレン量が1日当たり25.3μgであり、米国FDAが推奨する少なくとも50μgの半分以上となるため、国民の健康にとって有益である。
【0025】
(実施形態)
図1を参照する。図1は、本発明の一実施形態に係る高セレン牛乳の生産方法を示す流れ図である。この方法の特徴としては、泌乳期の乳牛の濃厚飼料(表1を参照する)中に、10%のアメリカミズアブの幼虫粉を含み、均一に混合された飼料を乳牛に与えるが、これは本発明を限定するものではなく、与える飼料は乳牛の泌乳量に基づいて決定し、2.5kgの生乳生産には1kgの濃厚飼料を与えることを基準とする。例えば、1日当たりの生乳生産量が25kgの場合、1頭当たり1日に10kgの濃厚飼料(これにはアメリカミズアブ幼虫粉1kgを含む)を与える必要がある。
【0026】
本発明の結果を以下(1)~(3)に示す。
(1)生乳に含まれるセレン含量は101.2±11.5ppbであり、これは対照群19.8±9.8ppbの5倍であり、その生乳生産量は17.1%増加した(表2を参照する)。
(2)生乳中の乳糖(Lactose)含量を4.9%増やすと、生乳の口当たりを高めることができる(表3を参照する)。
(3)生乳中の脂肪が8.3%増え、タンパク質が3.1%増えるため、生乳の風味が高まり、高品質な牛乳の基準を満たし、生乳の品質を大幅に高めることができる(P<0.05)(表3を参照する)。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の一実施形態に係る高セレン牛乳の生産方法を示す流れ図である。
図1
【手続補正書】
【提出日】2023-07-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳牛飼料の濃厚飼料中にアメリカミズアブ(black soldier fly)の幼虫粉を添加し、
前記乳牛飼料の濃厚飼料中には、10%のアメリカミズアブ幼虫粉(0.18ppmのセレンを含む)が添加され、1日当たり10キロの濃厚飼料を与え、
生産される生乳には、101.2ppbのセレン元素が含まれ、生乳中のセレン含量は5.11倍まで高め得る
ことを特徴とする高セレン牛乳の生産方法。
【請求項2】
請求項1に記載の高セレン牛乳の生産方法において、
前記乳牛飼料の濃厚飼料中に添加するアメリカミズアブ幼虫粉に含まれるセレン量は0.18ppmである
ことを特徴とする高セレン牛乳の生産方法。