(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024028131
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】アルミニウム合金箔
(51)【国際特許分類】
C22C 21/00 20060101AFI20240222BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20240222BHJP
C22F 1/04 20060101ALN20240222BHJP
【FI】
C22C21/00 M
C22F1/00 604
C22F1/00 622
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 683
C22F1/00 694B
C22F1/00 685Z
C22F1/00 694A
C22F1/00 686A
C22F1/00 630K
C22F1/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023106663
(22)【出願日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】P 2022131074
(32)【優先日】2022-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】522160125
【氏名又は名称】MAアルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091926
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 幸喜
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 貴史
(72)【発明者】
【氏名】捫垣 俊哉
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 昌也
(57)【要約】
【課題】成形性に優れたアルミニウム合金箔を提供する。
【解決手段】アルミニウム合金箔は、Fe:0.8質量%以上1.8質量%以下、Si:0.01質量%以上0.15質量%以下、Cu:0.001質量%以上0.05質量%以下を含有し、不可避不純物中のMn:0.01質量%以下に規制し、残部がAlおよびその他の不可避不純物からなる組成を有し、平均KAM値が0.50°以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe:0.8質量%以上1.8質量%以下、Si:0.01質量%以上0.15質量%以下、Cu:0.001質量%以上0.05質量%以下を含有し、不可避不純物中のMn:0.01質量%以下に規制し、残部がAlおよびその他の不可避不純物からなる組成を有し、平均KAM値が0.50°以下であるアルミニウム合金箔。
【請求項2】
方位差15°以上の大角粒界で囲まれた結晶粒径の平均結晶粒径が5μm以上15μm以下であり、前記結晶粒径における最大結晶粒径/平均結晶粒径≦3.0である請求項1に記載のアルミニウム合金箔。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、成形性に優れるアルミニウム合金箔に関する。
【背景技術】
【0002】
食品やリチウムイオン二次電池等の電池用の包材に用いられるアルミニウム箔は、プレス成型等により大きな変形が加えられる。その為従来伸びが大きい材料が求められており、1N30等の1000系合金や8079、8021等の8000系合金の軟質箔が使用されている。伸びについては、アルミニウム合金箔を一方向に変形させるわけではなく、いわゆる張出成形が行われることが多いため、一般的に材料の伸び値として用いられる圧延方向に対して平行な方向だけでなく、45°や90°といった各方向の伸びも高いことが求められている。また最近では電池包材分野を初めとして包材厚みの薄肉化が進んでいる。
【0003】
例えば、特許文献1では、平均結晶粒径が20μm以下で、円相当径1.0~5.0μmの金属間化合物の数密度を所定の量以上とすることで、金属間化合物を再結晶時の核生成サイトとして機能させ、最終焼鈍後の結晶粒径を微細にしている。
特許文献2では、電子後方散乱解析像法(EBSP)による結晶方位解析で5°以上の方位差を有する境界を結晶粒界と規定し、該結晶粒界に含まれる結晶粒について、結晶粒の平均値Dを12μm以下、かつ、20μmを超える結晶粒径を有する結晶粒の面積率を30%以下としたアルミニウム合金箔が提案されている。
特許文献3では、所定の組成において、引張強さと加工硬化指数を規定した成形用アルミニウム合金軟質箔が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2014/021170号公報
【特許文献2】国際公開第2014/034240号公報
【特許文献3】特開2018-115376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来技術では箔の成形性が十分ではなく、より優れた成形性を有するアルミニウム合金箔が望まれている。
本願発明は、記課題を背景としてなされたものであり、成形性が良好で高い伸び特性を有するアルミニウム合金箔を提供することを目的の1つとしている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のアルミニウム合金箔のうち、第1の形態は、Fe:0.8質量%以上1.8質量%以下、Si:0.01質量%以上0.15質量%以下、Cu:0.001質量%以上0.05質量%以下を含有し、不可避不純物中のMn:0.01質量%以下に規制し、残部がAlおよびその他の不可避不純物からなる組成を有し、平均KAM値が0.50°以下である。
【0007】
他の形態のアルミニウム合金箔の発明は、前記形態の発明において、方位差15°以上の大角粒界で囲まれた結晶粒径の平均結晶粒径が5μm以上15μm以下であり、前記結晶粒径における最大結晶粒径/平均結晶粒径≦3.0である。
【0008】
以下、本発明で規定する内容について説明する。
・Fe:0.8質量%以上1.8質量%以下
Feは、鋳造時にAl-Fe系金属間化合物として晶出し、サイズが大きい場合は焼鈍時に再結晶のサイトとなって再結晶粒を微細化する効果がある。0.8質量%未満では粗大な金属間化合物の分布密度が低くなりその微細化の効果が低く、最終的な結晶粒径分布も不均一となる。1.8質量%超では結晶粒微細化の効果が飽和もしくは低下し、さらに鋳造時に生成されるAl-Fe系化合物のサイズが非常に大きくなり、箔の伸びと圧延性が低下する。特に好ましい範囲は、下限が1.0質量%以上、上限が1.6質量%以下である。
【0009】
・Si:0.01質量%以上0.15質量%以下
SiはFeと共に金属間化合物を形成するが、添加量が多い場合には化合物のサイズの粗大化、及び分布密度の低下を招く。0.15%を超えると粗大な晶出物による圧延性、伸び特性の低下、さらには最終焼鈍後の再結晶粒サイズ分布の均一性が低下する懸念がある。これらの理由からSiは低い方が好ましいが0.01%未満となると高純度の地金を使用する必要があり、製造コストが大幅に増加する。以上の理由でSiは0.01%以上0.10%以下とするのが好ましい
【0010】
・Cu:0.001質量%以上0.05質量%以下
Cuはアルミニウム箔の強度を増加させ、伸びを低下させる元素である。またAl-Fe系合金で報告されている冷間圧延中の過度な加工軟化を抑制する効果があり、微細で均一な結晶粒組織を形成する事にも寄与する元素でもある。0.001%未満の場合、添加による硬軟化抑制の効果が乏しく、結晶粒の粗大化による成形性化を招く。0.05%を超えると伸びが明瞭に低下し、平均KAM値も増加する。好ましくは下限が0.005%以上であり、上限が0.01%以下である。
【0011】
・Mn:0.01質量%以下
Mnは不可避不純物として含有することができるが、Mnを含有する場合、アルミニウム母相中に固溶する、あるいは非常に微細な化合物を形成し、アルミニウムの再結晶を抑制する働きがある。微量であればCuと同様に加工軟化の抑制が期待できるが、含有量が多いと中間焼鈍、及び最終焼鈍時の再結晶を遅延させ、微細で均一な結晶粒及び低い平均KAM値を得る事が困難となる。その為0.01%以下に規制する。より好ましくは0.005%以下である。
【0012】
その他不純物
本発明のアルミニウム合金箔には、その他の不可避不純物として、Mg、Cr、Niなどが含むものであってもよい。これらの不可避不純物は、それぞれ0.05%質量以下とするのが望ましい。
【0013】
・平均KAM値(Kernel Average Misorientation)0.50°以下
KAMはSEM-EBSD(electron backscattering diffraction)法にて試料の結晶方位解析を実施し、
図1に示す基準となる測定点に隣接する測定点(Hexagnalパターン)との方位差Δθの平均値が下記式で計算される。
【0014】
【0015】
KAM値は試料中に蓄積されるひずみと相関する事が知られており、主には塑性ひずみの定量化等で用いられることが多い。
KAM値算出の為に必要なパラメーターは2つあり、“Nearest Neighbor”と“Maximum misorientation”である。Nearest Neighborは基準となる測定点と方位差を算出する測定との隣接条件であるが、本発明では測定同士が間を空けず隣接している事を示す1stを用いた。Maximum misorientationはKAM値算出に用いる測定点間の方位差の上限を規定するものであり、本発明では解析に使用したソフト(TSL社製)の規定値である5°を用いた。そして解析に用いた領域内のKAM値の平均値を平均KAM値と言う。
今回発明者はこの平均KAM値とアルミニウム箔の成形性に一定の相関性がある事を見出した。平均KAM値を低くする事で箔の成形性の向上が期待される。詳細なメカニズムは明らかではないが、KAM値の違いによって成形時の箔の塑性変形の挙動に差が生じている可能性を推測している。本発明では、平均KAM値を0.50°以下に規定する。平均KAM値が0.50°を超えていると、箔の成形性に対する向上効果が十分に得られない。
【0016】
・方位差15°以上の結晶粒の平均結晶粒径が5μm以上15μm以下
軟質アルミニウム箔は結晶粒が微細になる事で変形した際の箔表面の肌荒れを抑制することができ、高い伸びとそれに伴う高い成形性が期待できる。伸びが増加し、それに伴い成形性の向上も期待できる。尚、この結晶粒径の影響は箔の厚みが薄い程大きくなる。この場合の結晶粒は方位差15°以上の大角粒界で規定される必要がある。方位差15°未満の亜結晶粒界(小角粒界)で囲まれる結晶粒は、隣接する結晶粒との方位差が小さい為、微細であっても、箔表面の肌荒れを抑制する効果は小さい。したがって、本発明では小傾角粒界の影響を除いた方位差15°以上の大角粒界で囲まれる結晶粒の粒度で規定する。
高成形性を実現するには大角粒界で囲まれた結晶粒における平均結晶粒径が15μm以下であることが望ましい。平均結晶粒径が15μmを超えると、成形性の向上に対する効果が十分に得られない。また平均結晶粒が5μm未満の場合には、結晶粒微細化による強度増加が顕著になり成形性低下の懸念がある。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、成形性優れたアルミニウム合金箔を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明のKAM値算出を説明する模式図である。
【
図2】本発明の実施例における限界成形高さ試験で用いる角型ポンチの平面形状を 示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態のアルミニウム合金箔の製造方法について説明する。
Fe:0.8質量%以上1.8質量%以下、Si:0.01質量%以上0.15質量%以下、Cu:0.001質量%以上0.05質量%以下を含有し、不可避不純物中のMn:0.01質量%以下に規制し、残部がAlおよびその他の不可避不純物からなる組成に調製してアルミニウム合金鋳塊を製造した。鋳塊の製造方法は特に限定されず、半連続鋳造などの常法により行うことが可能である。
【0020】
・鋳造:スラブ厚さ:600mm以上750mm以下
鋳塊を得るための鋳造は常法により行うことができるが、スラブ厚さを所定の厚さとするのが望ましい。スラブ厚さは、鋳造時の冷却速度に影響し、鋳造時に生成する晶出物や結晶粒のサイズ, 分布に影響する。また、スラブ厚みが異なると最終箔までの圧延率も変化する。鋳造後における結晶粒の微細均一化は、最終焼鈍後の箔の微細均一化に寄与すると考える。また、スラブ厚み変量による圧延率の変化は最終箔における再結晶粒組織形成にも大きな影響を及ぼし、我々の調査研究において平均KAM値にも寄与する事が確認された。このため、スラブ厚さは600mm以上とするのが望ましい。但し、スラブ厚さが750mmを超えると、鋳造時の冷却速度が低下し、鋳造時に生成する晶出物や結晶粒径の粗大化を引き起こし、成形性が大幅に低下する懸念がある。
得られた鋳塊に対しては、480~550℃で8時間以上保持する均質化処理を行う。
【0021】
・「均質化処理:480~550℃ で8時間以上保持」
ここでの均質化処理は鋳塊内のミクロ偏析の解消と金属間化合物の分布状態を調整することを目的としており、最終的にKAM値が低く且つ微細な結晶粒組織を得る為に非常に重要な処理である。均質化処理において、480℃未満の温度では鋳塊内のミクロ偏析を解消することは出来ても、Feの析出が不十分となり、Feの固溶量が高くなり、且つ再結晶の核生成サイトとなる粒径1μm以上3μm未満の粗大な金属間化合物の密度が低下する為、結晶粒径が粗大になりまたKAM値も高くなる傾向が確認された。550℃を超えるとこれら金属間化合物の密度が低下し、結晶粒は粗大化する傾向となる。均質化処理において、金属間化合物を高密度に析出させるには長時間の熱処理が必要であり、最低8時間以上は確保する必要がある。均質化処理時間が8時間未満では析出が十分でなく、微細な金属間化合物の密度が低下してしまう。
【0022】
均質化処理後、熱間圧延を行い、圧延仕上がり温度を240℃以上280℃未満に設定する。
・「熱間圧延の圧延仕上がり温度:240℃以上280℃ 未満」
熱間圧延においては仕上がり温度を280℃未満とし、再結晶を抑制することが望ましい。熱間圧延仕上がり温度を280℃未満とすることで、熱間圧延板は均一なファイバー組織となる。このように熱間圧延後の再結晶を抑制することで、その後の中間焼鈍板厚までに蓄積されるひずみ量が大きくなり、中間焼鈍時に微細な再結晶粒組織を得ることが出来る。このことは最終的な結晶粒の微細にも繋がる。280℃を超えると熱間圧延板の一部で再結晶を生じ、ファイバー組織と再結晶粒組織が混在することになり、中間焼鈍時の再結晶粒径が不均一化し、それはそのまま最終的な結晶粒径の不均一化に繋がる。240℃未満で仕上げるには熱間圧延中の温度も極めて低温となる為、板のサイドにクラックが発生し生産性が大幅に低下する懸念がある。
【0023】
熱間圧延後、冷間圧延を行い、冷間圧延の途中で中間焼鈍を行う。なお、中間焼鈍では、温度を300℃~400℃とする。中間焼鈍の時間はバッチ式であれば3時間以上が好ましい。3時間未満では焼鈍温度が低温の場合に材料の軟化が不十分になる可能性がある。また長時間焼鈍は経済的に好ましくない為、焼鈍時間の上限については20時間未満が好ましい。
中間焼鈍以降の冷間圧延は最終冷間圧延に相当し、その際の最終冷間圧延率を95%以上とする。箔の厚さは特に限定されないが、例えば10μm~80μmとすることができる。最終焼鈍はバッチ式相当で250~350℃で5時間以上の条件で行う。
【0024】
本実施形態のアルミニウム合金箔は優れた伸び特性を有しており、圧延方向に対して0°方向における伸びが25%以上を有するのが望ましい。
【0025】
また、後方散乱電子回折(EBSD)による単位面積あたりの結晶方位解析では、方位差が15°以上の粒界である大傾角粒界に囲まれた結晶粒の平均粒径が5μm以上15μm以下であり、前記結晶粒について、最大粒径/平均粒径≦3.0となっており、結晶粒が微細で粗大粒の生成も抑制されている。このため、アルミニウム合金箔では優れた成形性が得られる。
さらに、得られたアルミニウム合金箔では、平均KAM値が0.50°以下になっており、さらに優れた成形性を得ることが可能になる。
【0026】
得られたアルミニウム合金箔では、最大結晶粒径/平均結晶粒径≦3.0であるのが望ましい。
前記平均結晶粒が小さくとも、一部粗大な結晶粒が存在し結晶粒径分布が不均一である場合には成形時に変形の局在化を生じ伸びの低下、ひいては成形性低下の懸念がある。前記結晶粒径において、最大結晶粒径/平均結晶粒径を3.0以下とすることで高い成形性が期待できる。
【0027】
また、アルミニウム合金箔においては、以下の特性を満たしているのが望ましい。
・引張強さ140MPa以下
引張強さが140MPaを超えると箔が高く、成形性が低下する懸念がある。
・耐力80MPa以下
耐力80MPaを超えると箔が硬い為、成形性が低下する懸念があるので、耐力は80MPa以下が望ましい。
・伸びが25%以上
伸びが25%以上であれば高い成形性が期待できる。
【0028】
得られたアルミニウム合金箔は、プレス成形等によって変形を行うことができ、食品やリチウムイオン電池の包材などとして好適に用いることができる。なお、本発明としては、アルミニウム合金箔の用途が上記に限定されるものではなく、適宜の用途に利用することができる。
【実施例0029】
表1に示す組成(残部がAlおよびその他の不純物)を有するアルミニウム合金の鋳塊を半連続鋳造法により作製した。その後、得られた鋳塊に対して、表1に示す製造条件(均質化処理の条件、熱間圧延の仕上がり温度、中間焼鈍時の板厚、中間焼鈍条件、最終冷間圧延率)により、均質化処理、熱間圧延、冷間圧延、中間焼鈍、再度の冷間圧延を行った後、320℃×15時間のバッチ式最終焼鈍を施し、アルミニウム合金箔を製造した。箔の厚さは40μmとした。
【0030】
【0031】
得られたアルミニウム合金箔に対して、以下の測定および評価を行い、その結果を表2に示した。
・引張強度、耐力、伸び
いずれも引張試験にて測定した。引張試験は、JIS Z2241に準拠し、圧延方向に平行な方向の伸びを測定できるように、JIS5号試験片を試料から採取し、万能引張試験機(島津製作所社製 AGS-X 10kN)で引張り速度2mm/minにて試験を行った。伸び率の算出について以下の通りである。まず試験前に試験片長手中央に試験片垂直方向に2本の線を標点距離である50mm間隔でマークする。試験後にアルミニウム合金箔の破断面をつき合わせてマーク間距離を測定し、そこから標点距離(50mm)を引いた伸び量(mm)を、標点間距離(50mm)で除して伸び率(%)を求めた。
【0032】
・方位差15°以上の結晶粒の平均粒径
前処理としてアルミニウム箔表面を電解研磨にて鏡面加工した。電解研磨には過塩素酸:エタノール=1:4(体積比)の溶液を用いて、電圧20Vで5秒処理を実施した。
箔表面を電解研磨した後、SEM(Scanning Electron Microscope)-EBSDにて結晶方位解析を行い、結晶粒間の方位差が15°以上の結晶粒界をHAGBs(大角粒界)と規定し、HAGBsで囲まれた結晶粒の大きさを測定した。倍率×1000で視野サイズ45×90μmを3視野測定し、平均結晶粒径、及び最大粒径/平均粒径を算出した。一つ一つの結晶粒径は円相当径にて算出し、平均結晶粒径の算出にはEBSDのArea法(Average by Area Fraction Method)を用いた。
EBSDの測定条件、解析条件は以下の通りである。
(測定条件)
観察倍率:1000倍
加速電圧:15kV
試料傾斜角度:70°
Step Size:0.5μm
(解析条件)
解析ソフト:TSL Solutions社のOIM Analysis(Ver.8.0)
面積:1000倍で測定した画像を連結させて合計面積50000μm2以上
CI値(Confidence Index):0.1以下を排除
Minimum Grain Size[points]:2
Anti Grains:2
結晶粒径の測定条件については以下の通り設定した。
Grain Tolerance Angle:15°
Minimum Grain Size[points]:2 Anti Grains:2
Minimum Confidence Index:0.1
Multiple rows required:全てOFF
Apply partition before calculation:OFF
Include grains at edges of scan in statistics:OFF
【0033】
上記の条件にて測定領域内における結晶粒をArea法(Average by Area Fraction Method)にて算出を行った。Area法は測定領域を結晶粒の個数で割ることで算出された面積を円に仮定した時の直径である。
詳細には、方位差15°以上の粒界で囲まれた結晶粒を特定した。ここで、結晶粒の輪郭が観察視野の枠に交差する結晶粒は除外した(Edge grain excluded in analysis)。1つの結晶粒内の測定点の数(ポイント数)から結晶粒の面積を算出した。観察視野内において1つの結晶粒が占有する面積率(area fraction)とその結晶粒の面積とを掛け合わせた値を算出した。観察された全ての結晶粒の面積率とその面積とを掛け合わせた値の合計を結晶粒の平均面積として算出した(Area法)。結晶粒の平均面積と同じ面積を有する円の直径(円相当径:equivalent circular area diameter)を平均結晶粒径として算出した。
【0034】
・平均KAM値
上述のSEM―EBSDで得られた結晶方位データを基にOIM Analysis(商標)にてKAM値を算出した。KAM値の解析条件におけるNearest Neighborは1st、Maximum misorientationは5°に設定した。各試料について45×90μmを3視野でKAM値を測定し、その平均値を平均KAM値として算出した。
KAMの解析手法は以下に示す通りである。
Chart Propertiesのtype:Kernel Average Misorientationを選択。Editにて以下を設定して解析を実施した。
Nearest neighbor:1st
Maximum misorientation:5
Perimeter only
Set 0-point kernels to maximum misorientation:OFF
Range: Minimum:0 Maximum:5
算出されたAverage(Number)を本願における平均KAM値とする。
【0035】
・限界成型高さ
成型高さは角筒成形試験にて評価した。試験は万能薄板成形試験器(ERICHSEN社製 モデル142/20)にて行い、厚さ40μmのアルミ箔を
図2に示す形状を有する角型ポンチ(一辺の長さL=37mm、角部の面取り径R=4.5mm)を用いて行った。試験条件として、シワ抑え力は10kN、ポンチの上昇速度(成形速度)の目盛は1とし、そして箔の片面(ポンチが当たる面)に鉱物油を潤滑剤として塗布した。箔に対し装置の下部から上昇するポンチが当たり、箔が成形されるが、3回連続成形した際に割れやピンホールがなく成形できた最大のポンチの上昇高さをその材料の限界成型高さ(mm)と規定した。ポンチの高さは0.5mm間隔で変化させた。
【0036】