(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024028147
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】生体状態測定装置、生体状態測定方法、プログラム及び生体状態測定システム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/11 20060101AFI20240222BHJP
A61B 5/0245 20060101ALI20240222BHJP
A61B 5/00 20060101ALI20240222BHJP
A61B 5/08 20060101ALI20240222BHJP
G01S 13/34 20060101ALN20240222BHJP
【FI】
A61B5/11 110
A61B5/0245 Z
A61B5/00 G
A61B5/08
G01S13/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023122748
(22)【出願日】2023-07-27
(62)【分割の表示】P 2023524113の分割
【原出願日】2023-02-20
(31)【優先権主張番号】P 2022130000
(32)【優先日】2022-08-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】505000480
【氏名又は名称】フィンガルリンク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004222
【氏名又は名称】弁理士法人創光国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【弁理士】
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【弁理士】
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(72)【発明者】
【氏名】田村 泰弘
【テーマコード(参考)】
4C017
4C038
4C117
5J070
【Fターム(参考)】
4C017AA02
4C017AA10
4C017AA14
4C017AC40
4C017BB12
4C017BC02
4C017BC11
4C017BC16
4C038VA04
4C038VB33
4C038VC20
4C117XA07
4C117XB01
4C117XD24
4C117XE41
4C117XJ13
5J070AB18
5J070AB24
5J070AC02
5J070AC06
5J070AE09
5J070AH35
5J070AK15
(57)【要約】 (修正有)
【課題】反射信号を用いて生体状態を測定するための演算量を減少させる。
【解決手段】生体状態測定装置1は、所定のフレーム時間ごとに送信されたミリ波帯以上の周波数帯のチャープ信号が被測定者Uにおいて反射して生じる反射信号を取得する信号取得部153と反射信号をフレーム時間ごとに周波数領域の複素信号に変換する信号変換部154と、複素信号に含まれる複数の周波数成分のうち、相対的に強度が大きい周波数成分に対応する周波数を選択する周波数選択部155と、フレーム時間よりも長い周波数固定期間にわたって、周波数選択部155が選択した周波数に対応する周波数成分の位相の変化に基づいて、被測定者Uの生体状態を特定する測定部156と、を有する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のフレーム時間ごとに送信されたミリ波帯以上の周波数帯のチャープ信号が被測定者において反射して生じる反射信号を取得する信号取得部と
前記反射信号を前記フレーム時間ごとに周波数領域の複素信号に変換する信号変換部と、
前記複素信号に含まれる複数の周波数成分のうち、相対的に強度が大きい周波数成分に対応する周波数を選択する周波数選択部と、
前記フレーム時間よりも長い周波数固定期間にわたって、前記周波数選択部が選択した周波数に対応する前記周波数成分の位相の変化に基づいて、前記被測定者の生体状態を特定する測定部と、
を有する生体状態測定装置。
【請求項2】
前記測定部は、前記周波数固定期間にわたって前記周波数成分の位相を時系列に並べることにより位相信号を生成し、前記位相信号における前記生体状態に対応する周期範囲又は周波数範囲に含まれる周波数成分に基づいて前記生体状態を特定する、
請求項1に記載の生体状態測定装置。
【請求項3】
前記測定部は、前記位相信号におけるピークの時間間隔が、特定するべき前記生体状態の周期として想定される範囲に含まれている場合、前記時間間隔を当該生体状態の周期であると特定する、
請求項2に記載の生体状態測定装置。
【請求項4】
前記測定部は、前記位相信号を周波数領域に変換し、呼吸周波数帯域に含まれる複数の周波数成分のうち第1強度以上の周波数成分の周波数を呼吸周波数として特定し、心拍周波数帯域に含まれる複数の周波数成分のうち第2強度以上の周波数成分の周波数を心拍周波数として特定する、
請求項2に記載の生体状態測定装置。
【請求項5】
前記測定部は、前記周波数固定期間にわたる前記位相信号に基づいて心拍数を特定し、前記周波数固定期間の1.5倍以上2.5倍以下にわたる前記位相信号に基づいて呼吸数を特定する、
請求項2に記載の生体状態測定装置。
【請求項6】
前記周波数固定期間が5秒以上10秒未満である、
請求項5に記載の生体状態測定装置。
【請求項7】
前記測定部は、前記周波数選択部が選択する周波数を切り替えたタイミングにおける前記位相信号の不連続性を減少させるように前記位相信号を補正する、
請求項2に記載の生体状態測定装置。
【請求項8】
前記周波数選択部は、前記周波数固定期間ごとに相対的に強度が大きい周波数成分に対応する周波数を選択する、
請求項1に記載の生体状態測定装置。
【請求項9】
前記周波数選択部は、前記複数の周波数成分のうち最も強度が大きい周波数成分に対応する周波数を選択する、
請求項1に記載の生体状態測定装置。
【請求項10】
前記信号取得部は、複数の前記被測定者において反射して生じる前記反射信号を取得し、
前記周波数選択部は、前記複数の周波数成分のうち、前記被測定者の人数に対応する数の周波数成分に対応する周波数を選択する、
請求項1に記載の生体状態測定装置。
【請求項11】
前記周波数選択部が選択した周波数成分に対応する周波数を記憶する記憶部をさらに有し、
前記測定部は、前記記憶部に記憶された周波数に対応する前記周波数成分の位相の変化に基づいて、前記被測定者の生体状態を特定する、
請求項1に記載の生体状態測定装置。
【請求項12】
コンピュータが実行する、
所定のフレーム時間ごとに送信されたミリ波帯以上の周波数帯のチャープ信号が被測定者において反射して生じる反射信号を取得するステップと
前記反射信号を前記フレーム時間ごとに周波数領域の複素信号に変換する信号変換部と、
前記複素信号に含まれる複数の周波数成分のうち、相対的に強度が大きい周波数成分に対応する周波数を選択するステップと、
前記フレーム時間よりも長い周波数固定期間にわたって、選択した周波数に対応する前記周波数成分の位相の変化に基づいて、前記被測定者の生体状態を特定するステップと、
を有する生体状態測定方法。
【請求項13】
コンピュータに、
所定のフレーム時間ごとに送信されたミリ波帯以上の周波数帯のチャープ信号が被測定者において反射して生じる反射信号を取得するステップと
前記反射信号を前記フレーム時間ごとに周波数領域の複素信号に変換する信号変換部と、
前記複素信号に含まれる複数の周波数成分のうち、相対的に強度が大きい周波数成分に対応する周波数を選択するステップと、
前記フレーム時間よりも長い周波数固定期間にわたって、選択した周波数に対応する前記周波数成分の位相の変化に基づいて、前記被測定者の生体状態を特定するステップと、
を実行させるためのプログラム。
【請求項14】
生体状態測定装置と、前記生体状態測定装置と通信可能な外部装置と、を備え、
前記生体状態測定装置は、所定のフレーム時間ごとに送信されたミリ波帯以上の周波数帯のチャープ信号が被測定者において反射して生じる反射信号を取得する信号取得部を有し、
前記生体状態測定装置又は前記外部装置は、
前記反射信号を前記フレーム時間ごとに周波数領域の複素信号に変換する信号変換部と、
前記複素信号に含まれる複数の周波数成分のうち、相対的に強度が大きい周波数成分に対応する周波数を選択する周波数選択部と、
前記フレーム時間よりも長い周波数固定期間にわたって、前記周波数選択部が選択した周波数に対応する前記周波数成分の位相の変化に基づいて、前記被測定者の生体状態を特定する測定部と、
を有する、
生体状態測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人の生体状態を測定するための生体状態測定装置、生体状態測定方法、プログラム及び生体状態測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ミリ波信号を送信し、送信したミリ波信号が人体で反射して生じた反射波信号を解析することにより、心拍を測定する方法が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
送信したミリ波信号は、空間内のさまざまな物体で反射して、それぞれ異なる反射信号が発生する。これらの多数の反射信号を解析すると、心拍や呼吸等の生体状態を測定するために必要な演算量が膨大になってしまうという問題が生じていた。
【0005】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、反射信号を用いて生体状態を測定するための演算量を減少させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様の生体状態測定装置は、所定のフレーム時間ごとに送信されたミリ波帯以上の周波数帯のチャープ信号が被測定者において反射して生じる反射信号を取得する信号取得部と前記反射信号を前記フレーム時間ごとに周波数領域の複素信号に変換する信号変換部と、前記複素信号に含まれる複数の周波数成分のうち、相対的に強度が大きい周波数成分に対応する周波数を選択する周波数選択部と、前記フレーム時間よりも長い周波数固定期間にわたって、前記周波数選択部が選択した周波数に対応する前記周波数成分の位相の変化に基づいて、前記被測定者の生体状態を特定する測定部と、を有する。
【0007】
前記測定部は、前記周波数固定期間にわたって前記周波数成分の位相を時系列に並べることにより位相信号を生成し、前記位相信号における前記生体状態に対応する周期範囲又は周波数範囲に含まれる周波数成分に基づいて前記生体状態を特定してもよい。
【0008】
前記測定部は、前記位相信号におけるピークの時間間隔が、特定するべき前記生体状態の周期として想定される範囲に含まれている場合、前記時間間隔を当該生体状態の周期であると特定してもよい。
【0009】
前記測定部は、前記位相信号を周波数領域に変換し、呼吸周波数帯域に含まれる複数の周波数成分のうち第1強度以上の周波数成分の周波数を呼吸周波数として特定し、心拍周波数帯域に含まれる複数の周波数成分のうち第2強度以上の周波数成分の周波数を心拍周波数として特定してもよい。
【0010】
前記測定部は、前記周波数固定期間にわたる前記位相信号に基づいて心拍数を特定し、前記周波数固定期間の1.5倍以上2.5倍以下にわたる前記位相信号に基づいて呼吸数を特定してもよい。前記周波数固定期間は、例えば5秒以上10秒未満である。
【0011】
前記測定部は、前記周波数選択部が選択する周波数を切り替えたタイミングにおける前記位相信号の不連続性を減少させるように前記位相信号を補正してもよい。
【0012】
前記周波数選択部は、前記周波数固定期間ごとに相対的に強度が大きい周波数成分に対応する周波数を選択してもよい。前記周波数選択部は、例えば、前記複数の周波数成分のうち最も強度が大きい周波数成分に対応する周波数を選択する。
【0013】
前記信号取得部は、複数の前記被測定者において反射して生じる前記反射信号を取得し、前記周波数選択部は、前記複数の周波数成分のうち、前記被測定者の人数に対応する数の周波数成分に対応する周波数を選択してもよい。
【0014】
前記生体状態測定装置は、前記周波数選択部が選択した周波数成分に対応する周波数を記憶する記憶部をさらに有し、前記測定部は、前記記憶部に記憶された周波数に対応する前記周波数成分の位相の変化に基づいて、前記被測定者の生体状態を特定してもよい。
【0015】
本発明の第2の態様の生体状態測定方法は、コンピュータが実行する、所定のフレーム時間ごとに送信されたミリ波帯以上の周波数帯のチャープ信号が被測定者において反射して生じる反射信号を取得するステップと前記反射信号を前記フレーム時間ごとに周波数領域の複素信号に変換する信号変換部と、前記複素信号に含まれる複数の周波数成分のうち、相対的に強度が大きい周波数成分に対応する周波数を選択するステップと、前記フレーム時間よりも長い周波数固定期間にわたって、選択した周波数に対応する前記周波数成分の位相の変化に基づいて、前記被測定者の生体状態を特定するステップと、を有する。
【0016】
本発明の第3の態様のプログラムは、コンピュータに、所定のフレーム時間ごとに送信されたミリ波帯以上の周波数帯のチャープ信号が被測定者において反射して生じる反射信号を取得するステップと前記反射信号を前記フレーム時間ごとに周波数領域の複素信号に変換する信号変換部と、前記複素信号に含まれる複数の周波数成分のうち、相対的に強度が大きい周波数成分に対応する周波数を選択するステップと、前記フレーム時間よりも長い周波数固定期間にわたって、選択した周波数に対応する前記周波数成分の位相の変化に基づいて、前記被測定者の生体状態を特定するステップと、を実行させる。
【0017】
本発明の第4の態様の生体状態測定システムは、生体状態測定装置と、前記生体状態測定装置と通信可能な外部装置と、を備え、前記生体状態測定装置は、所定のフレーム時間ごとに送信されたミリ波帯以上の周波数帯のチャープ信号が被測定者において反射して生じる反射信号を取得する信号取得部を有し、前記生体状態測定装置又は前記外部装置は、前記反射信号を前記フレーム時間ごとに周波数領域の複素信号に変換する信号変換部と、前記複素信号に含まれる複数の周波数成分のうち、相対的に強度が大きい周波数成分に対応する周波数を選択する周波数選択部と、前記フレーム時間よりも長い周波数固定期間にわたって、前記周波数選択部が選択した周波数に対応する前記周波数成分の位相の変化に基づいて、前記被測定者の生体状態を特定する測定部と、を有する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、反射信号を用いて生体状態を測定するための演算量を減少させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】生体状態測定システムS1の概要を示す図である。
【
図2】情報端末2に表示される測定結果を示す画面の一例を示す図である。
【
図3】情報端末2に表示される測定結果を示す画面の他の例を示す図である。
【
図5】送信部11の送信範囲及び受信部12の受信範囲について説明するための図である。
【
図7】測定部156の動作について説明するための図である。
【
図8】測定部156の動作を説明するための図である。
【
図9】測定部156が被測定者Uの生体状態をトラッキングする処理について説明するための図である。
【
図10】生体状態測定装置1における処理の流れの概要を示すフローチャートである。
【
図11】生体状態測定装置1における反射信号を解析する処理の詳細を示すフローチャートである。
【
図12】変形例に係る生体状態測定システムS2の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[生体状態測定システムS1の概要]
図1は、生体状態測定システムS1の概要を示す図である。生体状態測定システムS1は、人の生体状態を測定するためのシステムである。生体状態は、心拍数若しくは呼吸数、又は人の身体の部位の動きである。生体状態は、例えば単位時間あたりの心拍数、呼吸数又は動きの変化数により表される。
【0021】
生体状態測定システムS1は、生体状態測定装置1及び情報端末2を備える。生体状態測定装置1は、生体状態測定装置1が発する電波が届く範囲内にいる人(
図1における被測定者U)の生体状態を測定することができる。情報端末2は、生体状態測定装置1が測定した結果を表示したり、生体状態測定装置1を制御したりするための端末であり、例えばコンピュータ、タブレット又はスマートフォンである。
【0022】
生体状態測定装置1は、複数の方向にミリ波帯以上の周波数の電波を送信信号として送信し、送信した電波が周辺の物体で反射して生じた反射信号を受信する。生体状態測定装置1は、送信信号を送信してから反射信号を受信するまでの伝搬時間により、送信信号を反射した物体までの距離を特定する。人の身体には、電波が反射しやすい組織と反射しにくい組織とがあり、生体状態測定装置1は、電波が反射しやすい組織までの距離を特定することで、当該組織の動きを特定することができる。生体状態測定装置1は、例えば心臓の動きを特定することにより心拍数を測定し、胸膜の動きを特定することにより呼吸数を測定する。
【0023】
送信信号は、例えば60GHz帯の信号である。60GHzの信号の波長は5mmなので、送信信号が反射する物体の位置の5mmの変化は、位相2πの変化に相当する。生体状態測定装置1は、反射信号の位相の変化を特定することで、心臓や肺等の部位の5mm以下の微小な変化を検出することができる。
【0024】
生体状態測定装置1は、時間の経過とともに周波数が変化するチャープ信号を送信信号として送信する。生体状態測定装置1がチャープ信号を送信する場合、生体状態測定装置1は、反射信号をフーリエ変換することにより周波数領域に変換し、反射信号に含まれている周波数を特定することで、当該周波数の信号を送信してから受信するまでの伝搬時間を高い精度で測定することができる。
【0025】
ところで、チャープ信号は、時間の経過とともに周波数が変化する信号である。したがって、チャープ信号が物体に反射した後の反射信号には、チャープ信号に含まれる周波数帯域に含まれる多数の周波数の信号が含まれる。この反射信号を周波数領域に変換した後に解析する場合に、幅広い周波数帯域の全ての信号を解析すると、解析のための演算量が膨大になってしまう。
【0026】
本願の発明者は、反射信号に含まれる各周波数成分の強度(すなわち振幅又は電力)が周波数によって異なり、被測定者Uの位置によって、強度が大きい周波数が異なることを見出した。この原理に基づいて、生体状態測定装置1は、反射信号に含まれる複数の周波数成分のうち、相対的に強度が大きい周波数成分に対応する周波数を選択し、所定の周波数固定期間にわたって、選択した周波数に対応する周波数成分の位相の変化に基づいて、被測定者Uの生体状態を特定する。周波数固定期間の詳細については後述するが、周波数固定期間は、生体状態測定装置1が実行するFFT(Fast Fourier Transform)処理のフレーム時間よりも長い時間として予め設定された時間であり、例えば5秒以上10秒未満である。
【0027】
生体状態測定装置1がこのように構成されていることで、演算量を大幅に減少させるとともに解析の精度を向上させることができる。また、解析する対象となる周波数を定期的に選択し直すので、被測定者Uの位置が変化しても、解析の精度を高い状態で維持することができる。
【0028】
[測定結果の表示画面]
図2は、情報端末2に表示される測定結果を示す画面の一例を示す図である。
図2に示す画面には、測定結果表示領域R1と操作領域R2とが含まれている。
【0029】
領域R1の最上部には、生体状態測定装置1から最も近くにいる被測定者Uである被測定者U1までの距離、被測定者U1の呼吸数及び心拍数が示されている。また、被測定者U1の呼吸波形と心拍波形も示されている。呼吸波形と心拍波形の下には、複数の他の被測定者Uに関連付けて、それぞれの被測定者Uまでの距離、被測定者Uの呼吸数及び心拍数が示されている。さらに領域R1には、被測定者Uまでの距離と、受信した反射信号の強度との関係を示す図も示されている。
【0030】
領域R2には、測定の開始、中断、終了をするための操作を受け付けるための操作用ボタンの画像が表示されている。領域R2における「更新」ボタンは、領域R1に表示されている測定結果を最新の測定結果に更新するためのボタンである。
【0031】
図3は、情報端末2に表示される測定結果を示す画面の他の例を示す図である。
図3は、生体状態を測定した複数の被測定者Uの位置を示す図である。
図3における黒い四角形は生体状態測定装置1の位置を示しており、他の白い図形は、送信信号を反射した複数の被測定者Uの位置を示している。生体状態測定装置1は、
図3に示す画像を
図2に示す画面に含めてもよく、
図2に示す画面において所定の操作が行われた場合に
図3に示す画像を情報端末2に表示させてもよい。
【0032】
[生体状態測定装置1の構成]
図4は、生体状態測定装置1の構成を示す図である。生体状態測定装置1は、送信部11と、受信部12と、外部接続部13と、記憶部14と、制御部15と、を有する。制御部15は、操作受付部151と、電波制御部152と、信号取得部153と、信号変換部154と、周波数選択部155と、測定部156と、を有する。
【0033】
送信部11は、電波制御部152の制御により、所定の時間間隔でミリ波帯以上の周波数帯の送信信号を送信する。送信部11は、例えば12.5ミリ秒の周期でチャープ信号を送信する。送信部11は、チャープ信号を生成する信号生成回路と、送信信号を電波として送信するためのアンテナと、を有する。一例として、生体状態測定装置1は、それぞれ異なるタイミングで異なる範囲に送信信号を送信する複数の送信部11を有していてもよい。
【0034】
送信部11は、予め設定された生体状態が変化する周期の最小値の半分未満の時間間隔で送信信号を送信する。例えば心拍数の最大値が150回/分であると想定される場合、心拍数の変動周期の最小値は0.4秒である。そこで、送信部11は、0.2秒未満の時間間隔で送信信号を送信する。一例として、本実施の形態に係る送信部11は、12.5ミリ秒周期(80Hzに相当)で送信信号を送信する。送信部11がこのような時間間隔で送信信号を送信することで、生体状態測定装置1は、当該時間間隔で受信部12が受信した反射信号に基づいて、被測定者Uの身体の部位の変化状態を特定することが可能になる。
【0035】
送信部11が送信する送信信号の長さは任意であるが、送信信号を送信する時間間隔よりも十分に短いことが望ましく、例えば2ミリ秒以内である。生体状態測定装置1が複数の送信部11を有する場合、送信部11が送信する送信信号の長さは、送信部11の数に基づいて定められる。具体的には、送信信号の長さは、送信信号を送信する時間間隔を送信部11の数で除算した時間未満である。送信信号の長さがこのように設定されていることで、複数の送信部11が、異なるタイミングで送信信号を送信することができる。
【0036】
受信部12は、送信信号が複数の被測定者Uにおいて反射して生じる複数の反射信号を受信する。一例として、受信部12は、それぞれ異なる範囲から到来する反射信号を受信する複数の受信部12を有する。受信部12は、受信した反射信号を測定部156に入力する。
【0037】
図5は、送信部11の送信範囲及び受信部12の受信範囲について説明するための図である。
図5(a)は、生体状態測定装置1が送信部11A、送信部11B及び送信部11Cを有している場合における、それぞれの送信部11が送信信号を送信する範囲と複数の被測定者Uの位置とを模式的に示している。
図5(b)は、生体状態測定装置1が受信部12A、受信部12B及び受信部12Cを有する場合における、それぞれの受信部12が反射信号を受信する範囲と複数の被測定者Uの位置とを模式的に示している。
【0038】
図5に示す例において、それぞれの送信部11の送信範囲は±60度(120度)の扇形状であり、それぞれの受信部12の受信範囲は±60度(120度)の扇形状である。
図5には示していないが、送信部11は、上下方向の所定の範囲に送信信号を送信し、受信部12は、上下方向の所定の範囲から到来する反射信号を受信する。所定の範囲は、例えば水平方向に対して±15度(30度)の範囲である。
【0039】
図5に示すように、送信部11の送信範囲と受信部12の受信範囲とは、完全には一致していないことが望ましい。生体状態測定装置1は、送信信号を送信した送信部11の送信範囲と、当該送信信号に基づく反射信号を受信した受信部12の受信範囲とが重なる範囲に被測定者Uが存在することを特定できる。したがって、送信範囲と受信範囲が完全に一致していない場合、送信範囲と受信範囲とが重なる範囲の数が増えるので、生体状態測定装置1が被測定者Uの位置を特定する分解能が大きくなる。
【0040】
外部接続部13は、情報端末2との間でデータを送受信するための通信インターフェースを有する。外部接続部13は、例えばUSBインターフェースを有する。外部接続部13は、情報端末2において入力された操作データを受信し、受信したデータを操作受付部151に入力する。また、外部接続部13は、出力部155が出力する測定結果を示すデータを情報端末2に送信する。
【0041】
記憶部14は、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等の記憶媒体を有する。記憶部14は、制御部15が実行するプログラムを記憶する。また、記憶部14は、受信部12が受信した反射信号、及び制御部15が反射信号を解析することにより生成した測定結果を記憶する。
【0042】
さらに、記憶部14は、測定部156が反射信号を解析する際に使用する周波数成分に対応する周波数として周波数選択部155が選択した周波数を記憶する。記憶部14が記憶するこの周波数は所定の周期(例えば周波数固定期間)ごとに更新される。
【0043】
制御部15は、例えばCPU(Central Processing Unit)を有する。制御部15は、記憶部14に記憶されたプログラムを実行することにより、操作受付部151、電波制御部152、信号取得部153、信号変換部154、周波数選択部155及び測定部156として機能する。
【0044】
操作受付部151は、外部接続部13を介して情報端末2から入力された操作データを受信することにより、ユーザによる操作を受け付ける。操作受付部151は、例えば
図2に示した領域R2において入力された測定を開始する操作、測定を中断する操作、測定を終了する操作、又は測定結果を更新する操作を受け付ける。
【0045】
また、操作受付部151は、測定部156が生体状態を特定する対象となる範囲(以下、「特定対象範囲」という場合がある)を設定する操作を受け付けてもよい。操作受付部151は、例えば、生体状態を特定する対象となる被測定者Uまでの距離の範囲の設定を受け付ける。操作受付部151は、生体状態測定装置1の所定の側(例えば正面方向)を基準とする0度から360度までの範囲から生体状態を特定する対象となる範囲の設定を受け付けてもよい。
【0046】
一例として、操作受付部151は、「0度から90度」、「270度から90度」といった角度を示す数値の設定を受け付ける。操作受付部151は、外部接続部13を介して、
図3に示すような円形の画像を情報端末2に表示させ、生体状態を特定する対象となる範囲を囲む操作を受け付けることにより、生体状態を特定する対象となる範囲の設定を受け付けてもよい。
【0047】
電波制御部152は、送信部11及び受信部12を制御する。電波制御部152は、例えば送信部11に送信信号を送信させるタイミングを制御する。また、電波制御部152は、送信部11が送信信号を送信する範囲及び受信部12が反射信号を受信する範囲を制御する。
【0048】
一例として、電波制御部152は、複数の送信部11のうち、操作受付部151が受け付けた特定対象範囲に対応する一以上の送信部11に送信信号を送信させるように複数の送信部11を制御する。また、電波制御部152は、複数の受信部12のうち、操作受付部151が受け付けた特定対象範囲に対応する一以上の受信部12に反射信号を受信させるように複数の受信部12を制御する。このように、電波制御部152が、特定対象範囲に対応する送信部11に送信信号を送信させ、特定対象範囲に対応する受信部12に反射信号を受信させることで、被測定者Uがいない範囲から到来する不要な反射信号の影響を受けにくくなるので、測定精度が向上する。
【0049】
電波制御部152は、測定部156が被測定者Uの位置を特定した後に、被測定者Uの位置に対応する範囲に対応する送信部11に送信信号を送信させ、全ての範囲に対応する送信部11に送信信号を定期的に送信させてもよい。電波制御部152がこのように動作することで、被測定者U以外の物体で送信信号が反射して生じる反射信号が減るので、制御部15が反射信号を解析する際の負荷を軽減することができる。
【0050】
測定部156は、受信部12が受信した反射信号をデジタル信号処理することにより、生体状態測定装置1から被測定者Uまでの距離、及び生体状態測定装置1に対する被測定者Uの方向を特定するために、送信部11が送信信号を送信してから受信部12が複数の反射信号を受信するまでの複数の伝搬時間を測定する。生体状態測定装置1が複数の受信部12を有する場合、測定部156は、送信部11が送信信号を送信してから複数の受信部12が反射信号を受信するまでの伝搬時間を受信部12ごとに測定する。
【0051】
測定部156は、送信信号に含まれるチャープ信号の周波数の変化量、又は送信信号の位相の変化量を伝搬時間の変化量として測定してもよい。チャープ信号の周波数の変化量又は送信信号の位相の変化量は、伝搬時間の変化量と等価であるので、測定部156がチャープ信号の周波数の変化量又は送信信号の位相の変化量を測定した場合にも、伝搬時間の変化量を測定したものとみなすことができる。
【0052】
生体状態測定装置1が複数の送信部11を有する場合、測定部156は、複数の送信部11それぞれが送信信号を送信してから受信部12が反射信号を受信するまでの伝搬時間を送信部11ごとに測定する。測定部156は、測定した伝搬時間を示す伝搬時間データを、それぞれの送信部11に関連付けて記憶部14に記憶させる。生体状態測定装置1が複数の受信部12を有する場合、測定部156は、送信部11が送信信号を送信してから複数の受信部12が反射信号を受信するまでの伝搬時間を受信部12ごとに測定する。測定部156は、測定した伝搬時間を示す伝搬時間データを、それぞれの受信部12に関連付けて記憶部14に記憶させる。
【0053】
生体状態測定装置1が複数の送信部11及び複数の受信部12を有する場合、測定部156は、複数の送信部11それぞれが送信信号を送信してから複数の受信部12が反射信号を受信するまでの伝搬時間を送信部11及び受信部12の組み合わせごとに測定する。測定部156は、測定した伝搬時間を示す伝搬時間データを、送信部11及び受信部12の組み合わせに関連付けて記憶部14に記憶させる。
【0054】
信号取得部153は、所定のフレーム時間ごとに送信されたミリ波帯以上の周波数帯の送信信号(すなわちチャープ信号)が被測定者Uにおいて反射して生じる反射信号を取得する。フレーム時間は、信号変換部154が反射信号を周波数領域の信号に変換するFFTを実行する周期に対応する時間である。信号変換部154は、複数の被測定者において反射して生じる複数の反射信号を取得してもよい。信号変換部154は、取得した反射信号を信号変換部154に入力する。
【0055】
信号変換部154は、反射信号をフレーム時間ごとに周波数領域の複素信号に変換する。一例として、送信信号は直交変調データであり、信号変換部154は、受信した直交変調データ内のIデータとQデータを所定のサンプリング時間ごとにサンプリングして、サンプリング値をFFT演算することにより、反射信号を複素信号に変換する。複素信号のベクトルは、反射信号の強度と位相に対応する。
【0056】
信号変換部154は、1フレーム時間ごとに256回サンプリングすることで、Iデータに対応する512バイトのデジタルデータとQデータに対応する512バイトのデジタルデータを生成する。フレーム時間が12.5ミリ秒である場合、信号変換部154は、1秒間で80フレームを複素信号に変換し、512×2×80バイト=80KBのデータを生成する。
【0057】
周波数選択部155は、複素信号に含まれる複数の周波数成分のうち、相対的に強度(すなわち振幅又は電力)が大きい周波数成分に対応する周波数を選択する。周波数選択部155は、例えば、複数の周波数成分のうち最も強度が大きい周波数成分に対応する周波数を選択する。具体的には、周波数選択部155は、あるフレームにおいて信号変換部154が生成した複数の周波数に対応する複数の複素信号のうち最も強度が大きい複素信号に対応する周波数を選択し、選択した周波数を記憶部14に記憶させる。
【0058】
このように記憶部14に記憶された周波数は、周波数固定期間にわたって記憶部14に保持される。すなわち、周波数選択部155は、周波数固定期間ごとに相対的に強度が大きい周波数成分に対応する周波数を選択する。
【0059】
図6は、周波数固定期間の一例を示す図である。
図6の横軸は時間であり、縦軸は生体状態の変化量を示している。周波数固定期間は、例えば、測定する対象となる生体状態が変動する周期よりも長いことが、信号の連続性を確保するために望ましく、例えば5秒以上である。また、被測定者Uの位置が変化した場合に、変化後の位置に適した周波数を使用することが望ましいので、周波数固定期間は例えば10秒未満である。すなわち、周波数固定期間は5秒以上10秒未満が望ましく、一例として、
図6に示すように、512フレームに相当する6.4秒である。
【0060】
周波数選択部155は、複数の周波数成分のうち強度が大きい方から所定の数の周波数成分に対応する複数の周波数を選択してもよい。所定の数は、操作受付部151を介して設定されて記憶部14に記憶されており、例えば4である。周波数選択部155が複数の周波数を選択することで、選択した周波数の一部にノイズが重畳されて信頼性が低下したとしても、測定部156が他の周波数を使用することで、生体状態の特定精度を維持することができる。
【0061】
周波数選択部155は、複数の周波数成分のうち、被測定者Uの人数に対応する数の周波数成分に対応する周波数を選択してもよい。周波数選択部155は、例えば、一人の被測定者Uに対して選択する周波数の数に、操作受付部151を介して設定された人数を乗算した数の周波数を選択する。詳細については後述するが、周波数選択部155がこのように動作することで、複数の被測定者Uが異なる位置に存在する場合に、測定部156は、それぞれの被測定者Uに適した周波数の成分を解析することで、それぞれの被測定者Uの生体状態を高い精度で特定することができる。
【0062】
測定部156は、反射信号を解析することにより、生体状態測定装置1と被測定者Uとの間の距離、生体状態測定装置1に対する被測定者Uの方向、及び被測定者Uの移動速度の3つの要素を特定することにより、被測定者Uの生体状態を特定する。測定部156は、フレーム時間よりも長い周波数固定期間にわたって、周波数選択部155が選択した周波数に対応する周波数成分の位相の変化に基づいて、被測定者Uの生体状態を特定する。以下、測定部156の動作を詳細に説明する。
【0063】
測定部156は、送信部11が送信信号を送信してから受信部12が反射信号を受信するまでの伝搬時間に基づいて、生体状態測定装置1と被測定者Uとの間の距離を特定する。測定部156は、送信信号を送信した送信部11と反射信号を受信した受信部12との組み合わせにより被測定者Uの方向を特定する。測定部156は、伝搬時間の変化の周期に基づいて、被測定者Uの部位の動きの周期を特定する。
【0064】
また、測定部156は、伝搬時間の変化量と被測定者Uの方向の変化量とに基づいて被測定者Uの移動速度を特定する。測定部156は、一定の時間間隔で送信されたチャープ信号に基づく反射信号の位相の変化の大きさに基づいて角周波数を算出することにより、被測定者Uの移動速度を特定することもできる。
【0065】
測定部156が反射信号に基づいて伝搬時間を特定する方法は任意であるが、測定部156は、周波数領域において、反射信号を構成するチャープ信号に含まれている複数の周波数の成分のうち、周波数選択部155が選択した周波数の成分を特定し、送信部11が当該周波数の成分を送信した時刻と、反射信号に含まれている当該周波数の成分を受信部12が受信した時刻との差分を伝搬時間として特定する。測定精度を向上させるために、測定部156は、周波数選択部155が選択した複数の周波数に対応する複数の周波数成分に対して伝搬時間を特定し、特定した複数の伝搬時間の統計値(例えば平均値又は中央値)を算出することにより伝搬時間を測定してもよい。
【0066】
図7は、測定部156の動作について説明するための図である。
図7における白い長方形は、送信部11が送信した送信信号を示しており、黒い長方形は、受信部12が受信した反射信号を示している。
図7に示す例においては、送信部11A、送信部11B及び送信部11Cが、時刻T1、T2、T3において送信信号を順次送信し、続いて送信部11A、送信部11B及び送信部11Cが、時刻T4、T5、T6において送信信号を順次送信している。
【0067】
図7に示すように、送信部11が送信信号を送信する周期は、(送信信号の時間長+反射信号を受信する可能性がある時間)×(送信部11の数)よりも長い時間に設定されている。送信信号を送信する周期がこのように定められていることで、複数の送信部11が送信した送信信号に対する反射信号が同時に生体状態測定装置1に到達することを防げる。
【0068】
測定部156は、送信部11A、送信部11B及び送信部11Cのそれぞれが送信信号を送信してから反射信号を受信するまでの時間を測定する。
図7に示す例の場合、測定部156は、送信部11Aが時刻T1に送信信号を送信してからD1の時間が経過した後に受信部12Aが反射信号を受信したことを測定する。当該反射信号は、
図5に示す例において、送信部11Aが送信した送信信号が被測定者U1で反射して生じた反射信号である。
【0069】
また、測定部156は、送信部11Aが送信信号を送信してからD2の時間が経過した後にも受信部12Aが反射信号を受信したことを測定する。当該反射信号は、
図5に示す例において、送信部11Aが送信した送信信号が被測定者U1と異なる被測定者Uである被測定者U2で反射して生じた反射信号である。さらに、測定部156は、送信部11Aが送信信号を送信してからD3の時間が経過した後にも受信部12Cが反射信号を受信したことを測定する。当該反射信号は、
図5に示す例において、送信部11Aが送信した送信信号が被測定者U3で反射して生じた反射信号である。
【0070】
同様に、測定部156は、送信部11Bが送信信号を送信してからD4の時間が経過した後に受信部12Aが反射信号を受信したことを測定する。当該反射信号は、
図5に示す例において、送信部11Bが送信した送信信号が被測定者U4で反射して生じた反射信号である。
【0071】
測定部156は、時刻T4以降においても同様の処理を繰り返す。
図7に示すように、送信部11が送信信号を送信してから受信部12が反射信号を受信するまでの伝搬時間は、D1~D4と異なるD1’~D4’に変化している。これは、被測定者U1~被測定者U4において送信信号を反射した部位が動いたことにより、当該部位と生体状態測定装置1との距離が変化したことに起因する。
【0072】
測定部156は、受信部12が受信した反射信号の強度の大きさをさらに測定し、測定した反射信号の強度の大きさを、伝搬時間とともに記憶部14に記憶させてもよい。生体状態測定装置1と被測定者Uとの距離によって信号の減衰量が異なるので、
図7に示すように、伝搬時間が長いほど反射信号の強度が小さくなると考えられる。測定部156は、伝搬時間が長い反射信号の強度が、伝搬時間が短い反射信号の強度よりも大きい場合、反射信号にノイズが含まれている可能性があると判定して、当該反射信号の伝搬時間を記憶部14に記憶させないようにしてもよい。
【0073】
測定部156は、測定した伝搬時間に基づいて、複数の被測定者Uそれぞれの生体状態を特定する。生体状態測定装置1が複数の送信部11を有する場合、測定部156は、複数の送信部11が送信信号を送信する範囲にいる複数の被測定者Uの生体状態を特定する。生体状態測定装置1が複数の受信部12を有する場合、測定部156は、複数の受信部12が反射信号を受信する範囲にいる複数の被測定者Uの生体状態を特定する。
【0074】
測定部156は、記憶部14に記憶された周波数に対応する周波数成分の位相の変化に基づいて、被測定者Uの生体状態を特定する。測定部156は、まず、周波数固定期間にわたって、周波数選択部155が選択した周波数に対応する周波数成分の位相を示す位相データを時系列に並べることにより位相信号を生成する。そして、測定部156は、生成した位相信号における生体状態に対応する周期範囲又は周波数範囲に含まれる周波数成分に基づいて生体状態を特定する。
【0075】
測定部156は、例えば、位相信号におけるピークの時間間隔を特定することにより、呼吸数及び心拍数を特定する。測定部156は、ピークの時間間隔が、特定するべき生体状態の周期として想定される範囲に含まれている場合、特定した時間間隔を当該生体状態の周期であると特定する。測定部156は、呼吸の周期として想定される範囲に含まれるピークの時間間隔に基づいて単位時間あたりの呼吸数を特定する。同様に、測定部156は、心拍の周期として想定される範囲に含まれるピークの時間間隔に基づいて単位時間あたりの心拍数を特定する。呼吸の周期として想定される範囲は、例えば3秒以上6秒以下であり、心拍の周期として想定される範囲は、例えば0.5秒以上1秒以下である。
【0076】
測定部156は、周波数選択部155が選択した周波数に対応する周波数成分の位相を時系列に並べることにより生成した信号をFFT処理によって周波数領域に変換し、帯域フィルタにより、呼吸周波数帯域に含まれる周波数成分と、心拍周波数帯域に含まれる周波数成分とに分離してもよい。呼吸周波数帯域は、呼吸の周波数(すなわち周期の逆数)として想定される範囲に対応しており、例えば0.167Hz以上0.333Hz以下(1分間の呼吸数が10回以上20回以下に対応)である。心拍周波数帯域は、心拍の周波数(すなわち周期の逆数)として想定される範囲に対応しており、例えば1Hz以上2Hz以下(1分間の心拍数が60回以上120回以下)である。これらの値は、例えば操作受付部151が設定を受け付けて、記憶部14に記憶されていている。
【0077】
測定部156は、呼吸周波数帯域に含まれる複数の周波数成分のうち強度が第1強度以上の周波数成分(例えば強度が最大の周波数成分)の周波数を呼吸周波数として特定する。同様に、測定部156は、心拍周波数帯域に含まれる複数の周波数成分のうち第2強度以上の周波数成分(例えば強度が最大の周波数成分)の周波数を心拍周波数として特定する。測定部156がこのように動作することで、呼吸及び心拍の周波数を高い精度で特定することができる。
【0078】
なお、固定周波数期間ごとに周波数選択部155が選択した周波数が切り替わる場合、周波数の切り替えの前後で、時系列データが不連続に変化する場合がある。このような場合、測定部156は、周波数切り替えのタイミングにおける時系列の位相データに基づく位相信号の不連続性を減少させるように位相信号を補正してもよい。測定部156は、例えば、周波数切り替え前の時系列の位相データの末尾から所定の範囲内の位相データの値と、周波数切り替え後の時系列の位相データの先頭から所定の範囲の位相データの値を補正し、位相信号が連続的に変化するようにする。
【0079】
心臓で反射した信号の強度は小さいので、測定部156は、心拍周波数帯域に含まれる周波数成分を増幅してもよい。測定部156は、呼吸周波数帯域と心拍周波数帯域とで異なる増幅率で反射信号を増幅させてもよい。
【0080】
測定部156は、周波数選択部155が選択した周波数に対応する周波数成分の位相を時系列に並べることにより生成した信号から一定時間分のサンプル(M個のサンプル)を切り出して、複数のサンプルをマッチング処理することにより、当該信号の周期を特定することにより生体状態を特定してもよい。マッチング処理において、測定部156は、例えば、所定のサンプリング時間だけずれた複数のサンプルの差分二乗和を評価値とし、評価値が最小になる場合のずれ量を当該信号の周期として特定する。
【0081】
測定部156は、周波数固定期間にわたる位相信号に基づいて心拍数を特定し、周波数固定期間の1.5倍以上2.5倍以下にわたる位相信号に基づいて呼吸数を特定する。周波数固定期間が例えば5秒以上10秒以下に設定されている場合、測定部156がこのように動作することで、心拍及び呼吸の複数の周期にわたる位相信号に基づいて心拍数及び呼吸数を測定できるので、測定精度を高めることができる。
【0082】
生体状態測定装置1が複数の送信部11及び複数の受信部12を有する場合、測定部156は、送信部11及び受信部12の組み合わせごとに測定した伝搬時間に基づいて、複数の送信部11が送信信号を送信する範囲と複数の受信部12が反射信号を受信する範囲との組み合わせにより定まる複数の範囲それぞれにいる複数の被測定者Uの生体状態を特定する。生体状態測定装置1がこのように構成されていることで、生体状態測定装置1から等距離に複数の被測定者Uがいる場合であっても、生体状態測定装置1は、それぞれの被測定者Uの生体状態を特定することができる。
【0083】
複数の被測定者Uの生体状態を特定するために、測定部156は、まず、測定した伝搬時間の変化に基づいて、生体状態測定装置1と複数の被測定者Uそれぞれにおいて送信信号を反射した部位との距離の変化を特定することにより、心臓の動きを示す波形又は胸膜の動きを示す波形等を作成する。測定部156は、これらの波形の周期を特定することにより、単位時間あたりの心拍数又は呼吸数等の生体状態を特定する。
【0084】
図7に示すように、複数の被測定者Uにおいて送信信号が反射した場合、受信部12は、一つの送信信号に基づく反射信号を複数受信する。測定部156は、複数の被測定者Uそれぞれに対応する伝搬時間を特定するために、以下のように処理する。
【0085】
まず、測定部156は、測定した複数の伝搬時間を示す伝搬時間データを、第1閾値以下の時間範囲で変動する伝搬時間を示す複数の伝搬時間データにより構成される複数の時系列データに分類し、複数の時系列データそれぞれが示す伝搬時間の時間間隔ごとの変化に基づいて、複数の被測定者Uそれぞれの生体状態を特定する。第1閾値は、一人の被測定者Uの臓器の動きに起因する伝搬時間の変化量の最大値よりも大きく、かつ他の被測定者Uからの反射信号との伝搬時間の差として想定される最小値よりも小さい値である。測定部156は、特定した生体状態を被測定者Uに関連付けて記憶部14に記憶させる。
【0086】
被測定者Uの臓器の動きに起因する伝搬時間の変化量の最大値は、被測定者Uが静止している状態において臓器の位置が変位する量として想定される最大の量(例えば5cm)に対応し、他の被測定者Uからの反射信号との伝搬時間の差は、例えば50cmの距離の差に対応する。すなわち、第1閾値は、電波が5cm以上50cm未満のいずれかの距離を伝搬するために要する時間である。
【0087】
図7は、時刻T1からの遅延時間がD1の反射信号と、時刻T1に対して所定の時間間隔後の時刻T4からの遅延時間がD1’の反射信号との伝搬時間の差が第1閾値未満である場合を示している。測定部156は、これらの反射信号が、同一の被測定者Uに対応する反射信号であると判定する。また、
図7は、時刻T1からの遅延時間がD1の反射信号と、時刻T4からの遅延時間がD2’の反射信号との伝搬時間の差が第1閾値以上であるという場合を示している。測定部156は、これらの反射信号が、それぞれ異なる被測定者Uに対応する反射信号であると判定する。
【0088】
図8は、測定部156の動作を説明するための図である。
図8の横軸は時刻であり、縦軸は各時刻において測定部156が測定した反射信号の伝搬時間である。伝搬時間の変動は、反射信号の位相の変動と等価である。
図8における黒丸は被測定者U1に対応する反射信号の伝搬時間であり、白丸は被測定者U2に対応する反射信号の伝搬時間である。黒丸で示す複数の伝搬時間の1周期内の変動幅はΔt1及び白丸で示す複数の伝搬時間の1周期内の変動幅はΔt2であり、これらは第1閾値未満である。一方、黒丸で示す伝搬時間と白丸で示す伝搬時間との差の最小値ΔTは、第1閾値以上である。
【0089】
被測定者U1に対応する反射信号の伝搬時間は、送信信号に含まれている第1周波数の成分が送信部11により送信されてから、受信部12が反射信号に含まれている第1周波数の成分を受信するまでの時間である。被測定者U2に対応する反射信号の伝搬時間は、送信信号に含まれている第2周波数の成分が送信部11により送信されてから、受信部12が反射信号に含まれている第2周波数の成分を受信するまでの時間である。
【0090】
測定部156は、複数の伝搬時間データを、黒丸で示す複数の伝搬時間に対応する第1時系列データと白丸で示す複数の伝搬時間に対応する第2時系列データとに分類する。そして、測定部156は、第1時系列データに基づいて被測定者U1の生体状態を特定し、第2時系列データに基づいて被測定者U2の生体状態を特定する。測定部156がこのように動作することで、一つの送信部11が送信した送信信号に基づく複数の反射信号を受信部12が受信した場合であっても、測定部156は、複数の被測定者Uそれぞれの生体状態を特定することができる。
【0091】
測定部156は、複数の被測定者Uの生体状態を特定した後に、伝搬時間の大きさに基づいて、移動する被測定者Uの生体状態をトラッキングしてもよい。測定部156は、伝搬時間が変動する周期内において第1閾値よりも大きな第2閾値以下の時間範囲で変動する伝搬時間を示す複数の伝搬時間データにより構成される時系列データを一人の被測定者Uの生体状態として特定し、特定した生体状態を被測定者Uに関連付けて記憶部14に記憶させる。第2閾値は、一人の被測定者Uの移動に起因する所定の時間内(例えば伝搬時間が変動する1周期内)の伝搬時間の変化量の最大値よりも大きく、かつ他の被測定者Uからの反射信号との伝搬時間の差よりも小さい値である。
【0092】
図9は、測定部156が被測定者Uの生体状態をトラッキングする処理について説明するための図である。
図8と同様に、
図9における黒丸は被測定者U1に対応する反射信号の伝搬時間であり、白丸は被測定者U2に対応する反射信号の伝搬時間である。
【0093】
図9においては、被測定者U1及び被測定者U2が移動しており、時間の経過とともに伝搬時間が変化している。具体的には、被測定者U1が時間の経過とともに生体状態測定装置1から離れる向きに移動しており、被測定者U2が時間の経過とともに生体状態測定装置1に近づく向きに移動している。測定部156は、複数の伝搬時間データのうち、伝搬時間の変動周期ごとに、変動範囲が第2閾値以下の伝搬時間を示す複数の伝搬時間データを選択することにより、黒色で示す被測定者U1に対応する第1時系列データと、白色で示す被測定者U2に対応する第2時系列データとを特定する。
【0094】
測定部156は、第1周波数の成分に基づいて第1時系列データを作成し、第2周波数の成分に基づいて第2時系列データを作成しているので、被測定者U1の位置と被測定者U2の位置とがほぼ同じになる時刻においても、第1時系列データと第2時系列データとを分離することができる。
【0095】
ただし、周波数選択部155が周波数を選択し直した結果、被測定者U1に対応する周波数が第1周波数から第2周波数に変更され、被測定者U2に対応する周波数が第2周波数から第1周波数に変更されてしまうという場合がある。このような場合、被測定者U1と被測定者U2の位置がほぼ同じになる時刻においては、測定部156は、前後の伝搬時間データを結合した場合の波形の特徴(例えば強度又は周期)に基づいて、それぞれの被測定者Uに対応する伝搬時間データを特定してもよい。具体的には、測定部156は、どの被測定者Uに対応するかが不明の伝搬時間データをいずれかの被測定者Uの伝搬時間データであると仮定して、当該伝搬時間データを含む周期の波形の特徴を特定する。特定した特徴が過去の周期の特徴と一致している場合、測定部156は仮定が正しいと判定し、一致していない場合、測定部156は仮定が誤っていると判定し、伝搬時間データが他の被測定者Uに対応することを特定する。
【0096】
測定部156は、被測定者Uの複数の部位それぞれに対応する生体状態を特定してもよい。測定部156は、例えば、被測定者Uの心臓の動き、頸動脈の動き、胸膜の動き又は頭の動き等のように複数の部位において送信信号が反射して生じた複数の反射信号に含まれるそれぞれ異なる周波数成分の伝搬時間に基づいて、部位を特定する。測定部156は、送信部11が送信した一つの送信信号が被測定者Uの複数の部位で反射して生じた複数の反射信号を、測定部156が測定した伝搬時間が含まれる範囲と周波数選択部155により選択された周波数との組み合わせに基づいて分類することにより、複数の部位に対応する複数の生体状態を特定する。測定部156がこのように動作することで、複数の部位それぞれの伝搬時間の差が小さい場合であっても、被測定者Uの複数の生体状態を特定することができる。
【0097】
測定部156は、複数の被測定者Uの位置を特定してもよい。具体的には、測定部156は、反射信号を受信した受信部12が反射信号を受信する範囲と、反射信号を生じさせる送信信号を送信した送信部11が送信信号を送信する範囲と、伝搬時間に対応する被測定者Uまでの距離と、に基づいて、反射信号を発した被測定者Uの位置を特定する。
【0098】
図5(a)に示した例においては、送信部11Aが送信した送信信号は被測定者U1、被測定者U2及び被測定者U3において反射し、送信部11Bが送信した送信信号は被測定者U4において反射する。そして、被測定者U1、被測定者U2及び被測定者U4で反射して生じた反射信号は受信部12Aにおいて受信され、被測定者U3において反射して生じた反射信号は受信部12Cにおいて受信される。
【0099】
測定部156は、送信部11Aが送信した送信信号に基づく反射信号を受信部12Aが受信した場合、当該送信信号を反射した被測定者U1及び被測定者U2が、送信部11Aの送信範囲と受信部12Aの受信範囲とが重なった領域にいることを特定する。また、送信部11Aが送信した送信信号に基づく反射信号を受信部12Cが受信した場合、測定部156は、当該送信信号を反射した被測定者U3が、送信部11Aの送信範囲と受信部12Cの受信範囲とが重なった領域にいることを特定する。
【0100】
測定部156は、さらに伝搬時間の大きさに基づいて生体状態測定装置1と被測定者Uとの距離を特定する。測定部156は、被測定者Uが存在する領域と生体状態測定装置1から被測定者Uまでの距離とに基づいて、生体状態測定装置1を基準とする複数の被測定者Uの位置を特定することができる。
【0101】
出力部155は、測定部156が特定した被測定者Uの位置を示す情報と、生体状態とを関連付けて出力する。具体的には、出力部155は、
図2に示した生体状態を示す画面及び
図3に示した被測定者Uの位置を示す画面を情報端末2に表示させたり、これらのデータをプリンタに出力したり、通信回線を介して外部装置に送信したりする。
【0102】
一例として、
図2に示したように、出力部155は、測定部156が特定した複数の被測定者Uに対応する複数の生体状態のうち、伝搬時間に基づいて生体状態測定装置1に最も近いことが特定された被測定者Uに対応する生体状態を他の被測定者Uに対応する生体状態よりも優先して出力する。例えば、出力部155は、生体状態測定装置1に近い被測定者Uから順番に生体状態を情報端末2に表示させたり、最も生体状態測定装置1に近い被測定者Uの生体状態のみを情報端末2に表示させたりする。出力部155がこのように動作することで、生体状態測定装置1が使用される室内に多くの人がいる場合に、生体状態を測定したい被測定者Uの生体状態をユーザが把握しやすくなる。
【0103】
[生体状態測定装置1における処理の流れ]
図10は、生体状態測定装置1における処理の流れの概要を示すフローチャートである。
図10に示すフローチャートは、生体状態測定装置1のユーザが測定を開始する操作をした時点から開始している。
【0104】
電波制御部152は、時刻に基づいて、複数の送信部11から、送信信号を送信させる送信部11を選択する(S11)。
図7に示した例の場合、電波制御部152は、時刻T1においては送信部11Aを選択する。電波制御部152は、選択した送信部11に送信信号を送信させる(S12)。
【0105】
続いて、受信部12は送信信号に基づく反射信号を受信する(S13)。測定部156は、送信信号が送信されてから受信部12が反射信号を受信するまでに要した伝搬時間を算出する(S14)。測定部156は、送信信号を送信した送信部11と反射信号を受信した受信部12との組み合わせに関連付けて伝搬時間データを記憶部14に記憶させる(S15)。
【0106】
電波制御部152は、次の送信タイミング(例えば時刻T2)になったか否かを判定する(S16)。次の送信タイミングになっていないと電波制御部152が判定した場合(S16においてNO)、電波制御部152は送信部11に送信信号を送信させず、S13からS16までの処理が繰り返される。
【0107】
次の送信タイミングになっていると電波制御部152が判定した場合(S16においてYES)、測定部156は、送信部11が送信信号の送信を開始して所定の時間が経過し、生体状態を特定するタイミングになったか否かを判定する(S17)。所定の時間は、測定部156が生体状態を特定するために必要な数の伝搬時間データが記憶されるまでの時間である。所定の時間は、生体状態の1周期よりも長い周波数固定期間であり、例えば5秒以上である。
【0108】
所定の時間が経過していないと測定部156が判定した場合(S17においてNO)、電波制御部152は、次の送信部11を選択し(S11)、S11からS17までの処理が繰り返される。所定の時間が経過したと測定部156が判定した場合(S17においてYES)、測定部156は、記憶部14に記憶された伝搬時間データに基づいて生体状態を特定する(S18)。出力部155は、測定部156が特定した生体状態を出力する(S19)。生体状態測定装置1は、操作受付部151が終了操作を受け付けるまで(S20においてNO)、S11からS20までの処理を繰り返す。
【0109】
図11は、生体状態測定装置1における反射信号を解析する処理の詳細を示すフローチャートである。
図11に示すフローチャートは、受信部12が反射信号を受信した時点(
図10におけるS13)から開始している。
【0110】
受信部12が反射信号を受信すると、信号変換部154は、FFTにより反射信号を周波数領域に変換する(S21)。続いて、周波数選択部155は、解析する対象となる周波数成分の周波数を選択するタイミングであるか否かを判定する(S22)。すなわち、周波数選択部155は、前回周波数を選択し直してから、周波数固定期間が経過したか否かを判定する。
【0111】
周波数選択部155は、周波数を選択するタイミングであると判定した場合(S22においてYES)、複数の周波数成分の強度(すなわち振幅又は電力)の大きさに基づいて、所定の数の周波数を選択する(S23)。周波数選択部155は、選択した周波数を示すデータを記憶部14に記憶させる(S24)。
【0112】
続いて、測定部156は、選択された周波数の周波数成分の位相を特定する(S25)。測定部156は、特定した位相を時刻に関連付けて記憶部14に記憶させる(S26)。測定部156は、FFTの1つのフレーム期間が終了するまでの間(S27においてNOの間)、S25とS26の処理を繰り返す。
【0113】
フレーム期間が終了すると(S27においてYES)、測定部156は、生体状態を特定するために必要な所定時間が経過したか否かを判定する(S28)。測定部156は、所定時間が経過している場合(S28においてYES)、生体状態を特定する(S29)。測定部156は、所定時間が経過していない場合(S28においてNO)、S22に処理を戻す。所定時間は、生体状態の周期として想定される値の最大値の2倍以上であり、生体状態が呼吸数の場合、所定時間は例えば12秒以上(望ましくは60秒)であり、生体状態が心拍数の場合、所定時間は例えば2秒以上(望ましくは10秒)である。
【0114】
測定部156は、操作受付部151が終了の操作を受け付けたか否かを判定する(S30)。終了の操作が行われていない場合(S30においてNO)、測定部156はS22に処理を戻す。
【0115】
S22において、周波数選択部155は、周波数を選択するタイミングでないと判定した場合(S22においてNO)、S24において記憶部14に記憶された選択周波数を特定する(S31)。測定部156は、反射信号に含まれる当該周波数に対応する周波数成分を解析することにより、S25からS29までの処理を実行する。
【0116】
[変形例]
以上の説明においては、生体状態測定装置1が、複数の被測定者Uの生体状態を特定する場合を例示したが、上記の説明における生体状態測定装置1の制御部15の機能の一部が、他の情報処理装置(例えばクラウド上のコンピュータ)により実現されてもよい。すなわち、生体状態測定装置1と他の情報処理装置が連携して動作することにより、生体状態測定システムとして機能してもよい。
【0117】
図12は、変形例に係る生体状態測定システムS2の構成を示す図である。生体状態測定システムS2の生体状態測定装置1は、受信した反射信号を外部のサーバ3に順次送信する。この場合、外部のサーバ3は、信号取得部153、信号変換部154、周波数選択部155及び測定部156の少なくとも一部の機能を実行する。具体的には、外部のサーバ3は、複数の被測定者Uそれぞれの反射信号を分類し、伝搬時間に基づいて生体状態を特定し、特定した結果を任意の端末に送信する。
【0118】
生体状態測定装置1は、周波数選択部155が選択した周波数に対応する周波数成分のデータを外部のサーバ3に送信し、サーバ3が測定部156の処理を実行してもよい。また、生体状態測定装置1は、被測定者Uが存在することを検出した位置に対応する位置に対応する受信部12により受信した反射信号に含まれている周波数成分のデータのみをサーバ3に送信してもよい。このように構成されていることで、サーバ3に送信するデータの量を減らしたり、サーバ3における演算量を減らしたりすることができる。
【0119】
外部のサーバ3は、複数の生体状態測定装置1から反射信号を受信し、複数の生体状態測定装置1が受信した反射信号に対応する複数の被測定者Uの生体状態を特定してもよい。このような構成は、複数の部屋に多数の被測定者Uがいる場合に好適である。
【0120】
[生体状態測定装置1による効果]
以上説明したように、周波数選択部155は、周波数固定時間が経過するたびに、反射信号に含まれる複数の周波数それぞれに対応する複数の周波数成分の強度が相対的に大きい周波数を選択する。測定部156は、反射信号における、選択された周波数の周波数成分の位相の変動周期を特定することにより、演算量を抑制しつつ、被測定者Uの心拍数又は呼吸数等の生体状態を測定することができる。
【0121】
以上、実施の形態を用いて本発明を説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0122】
1 生体状態測定装置
2 情報端末
3 サーバ
11 送信部
12 受信部
13 外部接続部
14 記憶部
15 制御部
151 操作受付部
152 電波制御部
153 信号取得部
154 信号変換部
155 周波数選択部
156 測定部