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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002817
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】ロータリ圧縮機及び冷凍サイクル装置
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/32 20060101AFI20231228BHJP
   F04C 29/12 20060101ALI20231228BHJP
   F04C 28/28 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
F04C18/32
F04C29/12 A
F04C28/28 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022102249
(22)【出願日】2022-06-24
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】木村 僚汰
【テーマコード(参考)】
3H129
【Fターム(参考)】
3H129AA01
3H129AA13
3H129AA32
3H129AB03
3H129BB42
3H129BB48
3H129CC05
3H129CC25
(57)【要約】
【課題】高圧室における過大な圧力上昇を抑制できるロータリ圧縮機を提供する。
【解決手段】ロータリ圧縮機は、一体化されたピストン72及びブレード74を有する揺動部材70と、ピストンが旋回するピストン空間及びブレードが出入りするブレード空間が形成されているシリンダと、吐出ポート53の形成されているフロントヘッドと、を備える。揺動部材には、連通路78が形成されている。連通路は、ピストンが上死点にある時を0度とするクランク角が所定角度以上となる際に、ブレードの第2端部74bの周囲の第1空間64bと、吐出ポートの内部空間とを連通させる。ブレードの第2端部は、ブレードのピストンの外周面72aと接続される第1端部74aとは反対側の、ピストンの外周面に対する遠位側の端部である。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状のピストン(72)と、前記ピストンの外周面(72a)から延びるブレード(74)とが一体化された揺動部材(70)と、
前記ピストンが旋回するピストン空間(62)と、前記ピストン空間と連通し、前記ブレードが出入りするブレード空間(64)と、が形成されている、両端が開口したシリンダ(60)と、
前記シリンダの両端の開口を塞ぐ第1部材(54)及び第2部材(52)と、
を備え、
前記第2部材には、前記ピストン、前記シリンダ、前記第1部材、及び前記第2部材により形成される圧縮室(C1)で圧縮された冷媒が吐出される吐出ポート(53)が形成され、
前記揺動部材には、前記ピストンが上死点にある時を0度とするクランク角が所定角度(α)以上となる際に、前記ブレードの前記ピストンの前記外周面と接続される第1端部(74a)とは反対側の、前記ピストンの前記外周面に対する遠位側の前記ブレードの第2端部(74b)の周囲の第1空間(64b)と、前記吐出ポートの内部空間(Si)と、を連通させる連通路(78,78a,78b,78c)が形成されている、
ロータリ圧縮機(100)。
【請求項2】
前記所定角度は、前記圧縮室において急激な圧力上昇が生じる角度である、
請求項1に記載のロータリ圧縮機。
【請求項3】
前記所定角度は、270度以上の角度である、
請求項1又は2に記載のロータリ圧縮機。
【請求項4】
前記クランク角が、180度と前記所定角度との間の角度である間は、前記第1空間と前記吐出ポートの内部空間とは非連通である、
請求項1又は2に記載のロータリ圧縮機。
【請求項5】
前記連通路は、前記揺動部材の、前記第2部材との摺動面(76)に形成されている溝である、
請求項1又は2に記載のロータリ圧縮機。
【請求項6】
前記連通路(78,78b,78c)は、少なくとも前記ブレードに形成される、
請求項5に記載のロータリ圧縮機。
【請求項7】
前記連通路(78,78c)は、前記ブレード及び前記ピストンにわたって形成される、
請求項6に記載のロータリ圧縮機。
【請求項8】
前記連通路(78a)は、前記揺動部材の内部に形成され、第1開口(79a)から第2開口(79b)まで延びる通路(79)を含み、前記クランク角が前記所定角度以上となる際に、前記第1開口は前記吐出ポートの内部空間と連通し、前記第2開口は前記第1空間と連通する、
請求項1又は2に記載のロータリ圧縮機。
【請求項9】
前記第1空間は、前記ブレードの前記第2端部が出入りする空間である、
請求項1又は2に記載のロータリ圧縮機。
【請求項10】
請求項1又は2に記載のロータリ圧縮機(100)と、凝縮器(300,400)と、蒸発器(400,300)と、膨張機構(500)と、を有する冷媒回路(600)を備える、
冷凍サイクル装置(1000)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ロータリ圧縮機、及び、ロータリ圧縮機を備える冷凍サイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(特開2004-293558号公報)のように、一般に、ロータリ圧縮機では、潤滑のため、シリンダのピストンが旋回する空間(ピストン空間)に冷凍機油が供給される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
冷凍機油は、圧縮されないため(非圧縮性であるため)、圧縮室において、冷凍機油が過度に存在する状況で冷媒の圧縮が進むと、吐出ポートと連通する圧縮室(高圧室)で圧力が過度に上昇し、圧縮機効率が低下するおそれがある。
【0004】
特許文献1(特開2004-293558号公報)のロータリ圧縮機では、シリンダのブッシュを支持する部分に切り欠きを設けているため、切り欠きに冷凍機油が流入させることで、圧縮室における圧力の過度な上昇を抑制できる可能性がある。しかし、このようなシリンダに切り欠きを設ける構造では、ブッシュを支えるシリンダの強度が低下するおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1観点のロータリ圧縮機は、揺動部材と、シリンダと、第1部材及び第2部材と、を備える。揺動部材は、環状のピストンと、ピストンの外周面から延びるブレードと、を有する。ピストンとブレードとは、一体化されている。シリンダは、両端が開口している。シリンダには、ピストン空間と、ブレード空間と、が形成されている。ピストン空間では、ピストンが旋回する。ブレード空間は、ピストン空間と連通し、ブレードが出入りする。第1部材及び第2部材は、シリンダの両端の開口を塞ぐ。第2部材には、吐出ポートが形成される。ピストン、シリンダ、第1部材、及び第2部材により形成される圧縮室で圧縮された冷媒は、吐出ポートから吐出される。揺動部材には、連通路が形成されている。連通路は、ピストンが上死点にある時を0度とするクランク角が所定角度以上となる際に、ブレードの第2端部の周囲の第1空間と、吐出ポートの内部空間と、を連通させる。ブレードの第2端部は、ブレードのピストンの外周面と接続される第1端部とは反対側の、ピストンの外周面に対する遠位側の端部である。
【0006】
第1観点のロータリ圧縮機では、クランク角が所定角度以上となり、圧縮室(高圧室)で冷凍機油の液圧縮が起こり、圧縮室において過大な圧力上昇が生じ得る状況で、圧縮室内の冷凍機油を吐出ポートを介して第1空間へと排出し、圧縮室における過大な圧力上昇を抑制できる。
【0007】
また、第1観点のロータリ圧縮機では、シリンダのブッシュの支持部分に切り欠きを設ける場合に比べ、ブッシュを支えるシリンダの強度低下を抑制できる。
【0008】
第2観点のロータリ圧縮機は、第1観点のロータリ圧縮機であって、前記の所定角度は、圧縮室において急激な圧力上昇が生じる角度である。
【0009】
第2観点のロータリ圧縮機では、圧縮室(高圧室)に過剰量の冷凍機が存在するとすれば急激な圧力上昇が生じやすくなるタイミングで、圧縮室を第1空間と連通させることで、圧縮室における過大な圧力上昇の原因となる圧縮室内の冷凍機油を第1空間に排出できる。
【0010】
第3観点のロータリ圧縮機は、第1観点又は第2観点のロータリ圧縮機であって、前記の所定角度は、270度以上の角度である。
【0011】
第3観点のロータリ圧縮機では、圧縮室(高圧室)における過大な圧力上昇が生じやすくなるタイミングで、圧縮室を第1空間と連通させることで、圧縮室における過大な圧力上昇の原因となる圧縮室内の冷凍機油を第1空間へと排出できる。
【0012】
第4観点のロータリ圧縮機は、第1観点から第3観点のいずれかのロータリ圧縮機であって、クランク角が、180度と所定角度との間の角度である間は、第1空間と吐出ポートの内部空間とは非連通である。
【0013】
第4観点のロータリ圧縮機では、圧縮室(高圧室)における過大な圧力上昇が起こり得るタイミングまでは、第1空間と吐出ポートの内部空間とが連通しない。そのため、第3観点のロータリ圧縮機では、第1空間と吐出ポートの内部空間との連通に伴う死容積の増加による効率低下を抑制できる。
【0014】
第5観点のロータリ圧縮機は、第1観点から第4観点のいずれかのロータリ圧縮機であって、連通路は、揺動部材の、第2部材との摺動面に形成されている溝である。
【0015】
第5観点のロータリ圧縮機では、容易な加工で連通路を形成できる。
【0016】
第6観点のロータリ圧縮機は、第5観点のロータリ圧縮機であって、連通路は、少なくともブレードに形成される。
【0017】
第7観点のロータリ圧縮機は、第6観点のロータリ圧縮機であって、連通路は、ブレード及びピストンにわたって形成される。
【0018】
第8観点のロータリ圧縮機は、第1観点から第4観点のいずれかのロータリ圧縮機であって、連通路は、揺動部材の内部に形成され、第1開口から第2開口まで延びる通路を含む。クランク角が所定角度以上となる際に、第1開口は吐出ポートの内部空間と連通し、第2開口は第1空間と連通する。
【0019】
第8観点のロータリ圧縮機では、揺動部材の摺動面に連通路としての溝を形成するのではなく、揺動部材の内部に通路が形成されている。そのため、揺動部材と第2部材との間のシール性の低下が抑制されやすい。
【0020】
第9観点のロータリ圧縮機は、第1観点から第8観点のいずれかのロータリ圧縮機であって、第1空間は、ブレードの第2端部が出入りする空間である。
【0021】
第10観点の冷凍サイクル装置は、第1観点から第9観点のいずれかのロータリ圧縮機と、凝縮器と、蒸発器と、膨張機構と、を有する冷媒回路を備える。
【0022】
第10観点の冷凍サイクル装置では、ロータリ圧縮機の圧縮室(高圧室)における圧力の過度な上昇を抑制して、効率のよい冷凍サイクル装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】冷凍サイクル装置の一実施形態に係る空気調和装置の概略構成図である。
図2】一実施形態に係るロータリ圧縮機の概略縦断面図である。
図3図2のIII-III矢視の、ロータリ圧縮機の圧縮機構の概略断面図である。
図4図2のロータリ圧縮機の圧縮工程を説明するための図であり、クランク角が0°の時の揺動部材の状態を描画した断面図である。
図5図2のロータリ圧縮機の圧縮工程を説明するための図であり、クランク角が90°の時の揺動部材の状態を描画した断面図である。
図6図2のロータリ圧縮機の圧縮工程を説明するための図であり、クランク角が180°の時の揺動部材の状態を描画した断面図である。
図7図2のロータリ圧縮機の圧縮工程を説明するための図であり、クランク角が270°の時の揺動部材の状態を描画した断面図である。
図8】吐出ポートの内部空間と第1空間とが、第1の例の連通路により連通し始めたタイミングの圧縮機構の要部を描画した図である。
図9】クランク角が0°(360°)の時の圧縮機構の要部を描画した図であり、クランク角が0°の時の、吐出ポートの内部空間と第1空間との第1の例の連通路による連通状態を説明するための図である。
図10】クランク角が180°の時の、揺動部材に第1の例の連通路が形成されている圧縮機構の要部を描画した図であり、吐出ポートの内部空間と第1空間とは非連通である。
図11図8のXI-XI矢視の部分拡大概略断面図である。
図12図10のXII-XII矢視の部分拡大概略断面図である。
図13】吐出ポートの内部空間と第1空間とが、第2の例の連通路により連通し始めたタイミングの圧縮機構の要部を描画した図である。
図14】クランク角が0°(360°)の時の圧縮機構の要部を描画した図であり、クランク角が0°の時の、吐出ポートの内部空間と第1空間との第2の例の連通路による連通状態を説明するための図である。
図15】クランク角が180°の時の、揺動部材に第2の例の連通路が形成されている圧縮機構の要部を描画した図であり、吐出ポートの内部空間と第1空間とは非連通である。
図16】変形例Cの揺動部材の概略平面図である。
図17】変形例Dの揺動部材の概略平面図である。
図18】クランク角と高圧室の圧力との関係を示す概念図であり、実線は通常時の高圧室の圧力を、破線は液圧縮時の(高圧室に過剰に冷凍機油が存在する場合の)高圧室の圧力をそれぞれ示している。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本開示のロータリ圧縮機及び、本開示のロータリ圧縮機を備える冷凍サイクル装置の一実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0025】
以下では、ロータリ圧縮機における位置や向きを説明するため、「上」、「下」等の表現を用いる場合がある。これらの表現は、説明の便宜上用いるものであって、本開示の内容を限定するものではない。
【0026】
また、以下では、「平行」、「直交」、「水平」、「垂直」、「同一」等の表現を用いる場合があるが、これらの表現は、厳密な意味で「平行」、「直交」、「水平」、「垂直」、「同一」である場合に限定されない。「平行」、「直交」、「水平」、「垂直」、「同一」等の表現は、実質的に「平行」、「直交」、「水平」、「垂直」、「同一」である場合を含む意味で用いられる。
【0027】
(1)冷凍サイクル装置の構成
一実施形態に係る、ロータリ圧縮機100を備えた空気調和装置1000について、図1を参照しながら説明する。図1は、冷凍サイクル装置の一実施形態に係る空気調和装置1000の概略構成図である。
【0028】
冷凍サイクル装置は、蒸気圧縮式冷凍サイクルを利用して、温度調整対象を冷却したり、加熱したりする装置である。冷凍サイクル装置の一例に係る空気調和装置1000は、温度調整対象としての空調対象空間の空気を冷却したり加熱したりする。ここでは、冷凍サイクル装置が空気調和装置1000である場合を例に、冷凍サイクル装置を説明する。ただし、本開示の冷凍サイクル装置の種類は、空気調和装置に限定されるものではなく、給湯装置、床暖房装置、冷蔵装置等であってもよい。
【0029】
空気調和装置1000は、図1のように、主として冷媒回路600を備える。冷媒回路600は、図1のように、ロータリ圧縮機100、流路切換機構200、熱源熱交換器300、利用熱交換器400、及び膨張機構500を有する。冷媒回路600では、ロータリ圧縮機100と、流路切換機構200と、熱源熱交換器300と、利用熱交換器400と、膨張機構500と、が、冷媒配管により接続されている。
【0030】
ロータリ圧縮機100は、冷凍サイクルにおける低圧(以後、単に低圧と呼ぶ場合がある)のガス冷媒を吸入して圧縮し、冷凍サイクルにおける高圧のガス冷媒(以後、単に高圧と呼ぶ場合がある)として吐出する装置である。ロータリ圧縮機100についての詳細は後述する。
【0031】
流路切換機構200は、冷媒回路600の状態を、冷房状態と、暖房状態と、の間で切り換える機構である。限定するものではないが、流路切換機構200は、四路切換弁である。冷媒回路600が冷房状態にある時、冷媒は、ロータリ圧縮機100、流路切換機構200、熱源熱交換器300、膨張機構500、利用熱交換器400、流路切換機構200、ロータリ圧縮機100の順に冷媒回路600を流れる(図1の流路切換機構200内の実線参照)。冷媒回路600が暖房状態にある時、冷媒は、ロータリ圧縮機100、流路切換機構200、利用熱交換器400、膨張機構500、熱源熱交換器300、流路切換機構200、ロータリ圧縮機100の順に冷媒回路600を流れる(図1の流路切換機構200内の破線参照)。
【0032】
熱源熱交換器300は、熱源となる媒体(例えば水や空気)と冷媒との間で熱交換を行わせる熱交換器である。
【0033】
利用熱交換器400は、温度調整対象(ここでは、空調対象空間の空気)と冷媒との間で熱交換を行わせる熱交換器である。
【0034】
膨張機構500は、膨張機構500を通過する高圧の冷媒(主に液体の冷媒)を減圧し、低圧の冷媒(液体と気体とからなる二相の冷媒)にする。膨張機構500は、例えば電子膨張弁や、感温筒を有する温度自動膨張弁や、キャピラリチューブである。
【0035】
空気調和装置1000の行う冷房運転と暖房運転とについて説明する。
【0036】
空気調和装置1000が冷房運転を行う場合、ロータリ圧縮機100は、低圧のガス冷媒を吸入して加圧し、高圧のガス冷媒として吐出する。ロータリ圧縮機100が吐出する高圧のガス冷媒は、流路切換機構200を通過して、凝縮器(放熱器)として機能する熱源熱交換器300に供給される。熱源熱交換器300は、熱源となる媒体と高圧のガス冷媒とを熱交換させて、高圧のガス冷媒を凝縮させ、高圧の液冷媒にする。熱源熱交換器300から流出する高圧の液冷媒は、膨張機構500を通過して低圧の気液二相冷媒となり、蒸発器(吸熱器)として機能する利用熱交換器400に供給される。利用熱交換器400は、空調対象空間の空気と低圧の気液二相冷媒とを熱交換させて、気液二相冷媒に含まれる液冷媒を蒸発させ、低圧のガス冷媒にする。この際、空調対象空間の空気は、冷媒により冷却される。利用熱交換器400から流出する低圧のガス冷媒は、流路切換機構200を通過し、ロータリ圧縮機100に再び吸入される。
【0037】
空気調和装置1000が暖房運転を行う場合、ロータリ圧縮機100は、低圧のガス冷媒を吸入して加圧し、高圧のガス冷媒として吐出する。ロータリ圧縮機100が吐出する高圧のガス冷媒は、流路切換機構200を通過して、凝縮器(放熱器)として機能する利用熱交換器400に供給される。利用熱交換器400は、空調対象空間の空気と高圧のガス冷媒とを熱交換させて、高圧のガス冷媒を凝縮させ、高圧の液冷媒にする。この際、空調対象空間の空気は、冷媒により加熱される。利用熱交換器400から流出する高圧の液冷媒は、膨張機構500を通過して低圧の気液二相冷媒となり、蒸発器(吸熱器)として機能する熱源熱交換器300に供給される。熱源熱交換器300は、熱源となる媒体と低圧の気液二相冷媒とを熱交換させて、気液二相冷媒に含まれる液冷媒を蒸発させ、低圧のガス冷媒にする。熱源熱交換器300から流出する低圧のガス冷媒は、流路切換機構200を通過し、ロータリ圧縮機100に再び吸入される。
【0038】
なお、ここでは、冷凍サイクル装置の一例としての空気調和装置1000が、冷房運転と暖房運転とを実行する装置である場合を例に説明したが、空気調和装置1000は、冷房運転と暖房運転との一方だけを行う装置であってもよい。この場合、空気調和装置1000は、流路切換機構200を有していなくてもよい。
【0039】
(2)ロータリ圧縮機の全体構成
ロータリ圧縮機100の全体構成について、図2及び図3を参照しながら説明する。図2は、ロータリ圧縮機100の概略縦断面図である。図3は、ロータリ圧縮機100の圧縮機構50の、図2のIII-III矢視の概略断面図である。
【0040】
ロータリ圧縮機100は、空気調和装置1000の冷媒回路600から低圧の冷媒を吸入して圧縮し、高圧になった冷媒を冷媒回路600に吐出する機器である。ロータリ圧縮機100では、冷媒として例えばR32が使用される。ただし、冷媒の種類は、R32に限定されるものではなく、例えば、R32以外のハイドロフルオロカーボン系の冷媒や、ハイドロフルオロオレフィン系の冷媒や、CO2等であってもよい。
【0041】
ロータリ圧縮機100は、ケーシング20と、モータ30と、クランク軸40と、圧縮機構50と、を主に有する。ケーシング20には、モータ30と、クランク軸40と、圧縮機構50と、が収容されている。ケーシング20内には、モータ30がケーシング20の上下方向における中央部付近に配置されており、モータ30の下方に圧縮機構50が配置されている。
【0042】
圧縮機構50は、後述するシリンダ60、フロントヘッド52、リアヘッド54、揺動部材70、及びブッシュ80を主に有する(図2及び図3参照)。
【0043】
(3)ロータリ圧縮機の詳細構成
(3-1)ケーシング
ケーシング20は、上下の端部が閉じられた、縦型円筒状の容器である。
【0044】
ケーシング20は、円筒部材22と、碗状の、上蓋24a及び下蓋24bと、を主に有する(図2参照)。円筒部材22は、上下が開口した円筒状の部材である。上蓋24aは、円筒部材22の上端に設けられ、円筒部材22の上側の開口端を閉じる。下蓋24bは、円筒部材22の下端に設けられ、円筒部材22の下側の開口端を閉じる。円筒部材22と、上蓋24a及び下蓋24bとは、気密を保つように溶接により固定されている。
【0045】
円筒部材22の下部には、吸入管26が設けられている(図2参照)。吸入管26は、圧縮機構50と、空気調和装置1000の冷媒回路600の配管と、を連通させる。冷媒回路600における低圧の冷媒は、冷媒回路600から、吸入管26を介して、圧縮機構50内に(具体的には、後述する圧縮機構50の圧縮室C1の低圧室C1aに)供給される。
【0046】
上蓋24aには、吐出管28が設けられている(図2参照)。吐出管28は、ケーシング20内の高圧空間S1と、冷媒回路600の配管と、を連通させる。ケーシング20内の高圧空間S1は、圧縮機構50により圧縮された高圧の冷媒が吐出される空間である。圧縮機構50により圧縮された高圧の冷媒は、高圧空間S1及び吐出管28を介して、冷媒回路600に吐出される。
【0047】
ケーシング20の下部には、油溜空間25が形成される(図2参照)。油溜空間25には、圧縮機構50等を潤滑するための冷凍機油が貯留される。
【0048】
(3-2)モータ
モータ30は、圧縮機構50を駆動する。
【0049】
モータ30は、図2に示すように、ケーシング20の上下方向における中央部に収容されている。モータ30は、圧縮機構50の上方に配置される。
【0050】
モータ30は、主として、ステータ32と、ロータ34とを有する。
【0051】
ステータ32は、筒状に形成されている。ステータ32は、その外周面が、円筒部材22の内面とスポット溶接により固定されている。ただし、ステータ32と円筒部材22との固定方法は例示であって、これに限定されるものではない。
【0052】
ロータ34は、円筒状の部材である。ロータ34は、環状に形成されたステータ32の内側に、ステータ32とわずかな隙間を隔てて配置される。ロータ34の中空部には、クランク軸40が挿嵌されている。ロータ34は、ステータ32に巻き付けられた巻線36に電流が流されることで発生する回転磁界により回転する。ロータ34が回転すると、クランク軸40が回転し、クランク軸40を介して、モータ30から圧縮機構50に駆動力が付与される。
【0053】
(3-3)クランク軸
クランク軸40は、上下方向に延び、圧縮機構50とモータ30のロータ34とを連結する(図2参照)。
【0054】
クランク軸40は、図2に示すように、その上部がモータ30のロータ34と連結されている。また、クランク軸40は、図2に示すように、モータ30の下方で、圧縮機構50と連結されている。具体的には、クランク軸40は、クランク軸40の軸心Oに対して偏心している偏心部42を有する。偏心部42は、後述する圧縮機構50の揺動部材70のピストン72と連結されている(図2参照)。より具体的には、偏心部42は、モータ30の力を伝達可能な状態で、円筒状のピストン72の内部に嵌っている。
【0055】
クランク軸40は、後述する圧縮機構50の、フロントヘッド52の上部軸受部52a及びリアヘッド54の下部軸受部54aによって、回転自在に支持されている。
【0056】
クランク軸40は、モータ30が駆動されると、軸心O周りに回転する。軸心Oに対して偏心している偏心部42は、軸心Oに対して偏心回転し、圧縮機構50のピストン72を公転させる。
【0057】
クランク軸40の下端部には、油溜空間25の冷凍機油を汲み上げるための油ポンプ44が固定されている。クランク軸40の内部には、油ポンプ44によって汲み上げられた冷凍機油が流れる給油通路46が形成されている(図2参照)。給油通路46は、クランク軸40に沿って上下方向に延びる主給油通路46aを有する(図2参照)。また、給油通路46は、主給油通路46aからクランク軸40の径方向外方へ延びる複数の副給油通路(図示せず)を有する。副給油通路は、上部軸受部52aの下端付近、下部軸受部54aの上端付近、及び偏心部42においてクランク軸40の側面に開口し、複数の給油口46bを形成する(図2参照)。油溜空間25から油ポンプ44によって汲み上げられた冷凍機油は、主給油通路46a及び副給油経路を通過して、給油口46bから、クランク軸40と上部軸受部52a及び下部軸受部54aとの摺動部や、圧縮機構50の摺動部に供給される。
【0058】
(3-4)圧縮機構
圧縮機構50は、吸入管26を介して吸入する冷媒を圧縮する機構である。
【0059】
圧縮機構50は、シリンダ60、フロントヘッド52、リアヘッド54、揺動部材70、及びブッシュ80、を主に有する(図2及び図3参照)。揺動部材70は、環状のピストン72と、ブレード74と、を含む。ピストン72及びブレード74は、一体に形成されている。ブレード74は、ピストン72の外周面72aから、環状のピストン72の径方向に延びる。
【0060】
(3-4-1)シリンダ
シリンダ60は、その内部を揺動部材70のピストン72が旋回する部材である。
【0061】
シリンダ60の中央部には、円形状のシリンダ孔61が形成されており、両端が開口している。言い換えれば、シリンダ60の中央部には、シリンダ60を貫通するように、シリンダ孔61が形成されている。シリンダ60のシリンダ孔61は、シリンダ60に形成されるピストン空間62の側方を囲む。クランク軸40の軸方向視において、シリンダ60のシリンダ孔61の内周面は、ピストン空間62の境界を規定する。ピストン空間62には、揺動部材70のピストン72が収容される。ピストン72は、ピストン空間62を旋回する。シリンダ60は、両端の開口が上方及び下方に配置されるように、ケーシング20の内部に配置される。
【0062】
シリンダ60のシリンダ孔61の中心から見て、シリンダ孔61の外周側には、ブッシュ孔63aが形成されている(図3参照)。ブッシュ孔63aは、シリンダ孔61と隣接して配置され、ブッシュ空間64aを形成する。クランク軸40の軸方向視において、ブッシュ孔63aの内周面は、ブッシュ空間64aの境界の少なくとも一部を規定する。また、シリンダ孔61の中心から見て、ブッシュ孔63aの外周側には、第1孔63bが形成されている(図3参照)。第1孔63bは、ブッシュ孔63aと隣接して配置され、第1空間64bを形成する。クランク軸40の軸方向視において、第1孔63bの内周面は、第1空間64bの境界の少なくとも一部を規定する。
【0063】
ブッシュ空間64aには、ブッシュ80が配置される。ブッシュ孔63aは、ブッシュ空間64aに配置されるブッシュ80を揺動可能に保持する。
【0064】
ブッシュ空間64a及び第1空間64bは、ブレード空間64として機能する。ブレード空間64は、ピストン空間62と連通する空間である。後述するように、揺動部材70が揺動し、ピストン72がピストン空間62内で公転する時に、ブレード空間64には、ブッシュ空間64aに配置されるブッシュ80により揺動可能に支持される揺動部材70のブレード74が出入りする。
【0065】
また、シリンダ60には、クランク軸40の軸方向と交差する方向に、シリンダ60の外周面からシリンダ孔61まで延びる吸入通路66が形成されている(図3参照)。吸入通路66は、ピストン空間62と連通する。吸入通路66には、吸入管26の先端部が挿入される。冷媒回路600における低圧の冷媒は、吸入管26及び吸入通路66を介して、ピストン空間62(特には、ピストン空間62内に形成される後述の低圧室C1a)へと導かれる。
【0066】
(3-4-2)フロントヘッド
フロントヘッド52は、第2部材の一例である。フロントヘッド52は、図2に示すように、シリンダ60の上方に配置される。
【0067】
フロントヘッド52は、シリンダ60の一方の(上方の)開口を塞ぐ。具体的には、フロントヘッド52は、シリンダ60のシリンダ孔61、ブッシュ孔63a、第1孔63bの上方の開口を塞ぐ。フロントヘッド52は、圧縮室C1の天面を形成する。圧縮室C1は、シリンダ60のシリンダ孔61の内周面と、ピストン空間62に配置されるピストン72の外周面72aと、フロントヘッド52と、リアヘッド54と、に囲まれて形成される空間である。
【0068】
フロントヘッド52には、フロントヘッド52を上下方向に貫通して延び、圧縮室C1と連通する吐出ポート53が形成されている。圧縮室C1で圧縮された冷媒は、吐出ポート53から吐出される。吐出ポート53は、図3に二点鎖線で描画される位置に形成されている。
【0069】
なお、以下の説明では、圧縮室C1のうち、吐出ポート53の配置される側の空間(言い換えれば、吐出ポート53と連通する空間)を高圧室C1bと呼ぶ。また、圧縮室C1のうち、吐出ポート53の配置されない側の空間(言い換えれば、吐出ポート53とは連通しない空間)を低圧室C1aと呼ぶ。吸入通路66から圧縮室C1に導かれる冷媒は、まず低圧室C1aに流入する。その後、冷媒は、ピストン72の回転に伴って高圧室C1bに流入する。低圧室C1a及び高圧室C1bについては、後程、更に詳しく説明する。
【0070】
フロントヘッド52には、吐出ポート53の上方に吐出弁58(図11参照)が設けられている。吐出弁58は、高圧室C1bの圧力が後述するマフラ空間S2の圧力より高くなると圧力差により開き、吐出ポート53からマフラ空間S2へと冷媒を吐出させる。
【0071】
フロントヘッド52の上面には、マフラ56が取り付けられている。マフラ56は、フロントヘッド52の上方にマフラ空間S2を形成する。吐出ポート53は、マフラ空間S2と連通している。圧縮室C1で圧縮された冷媒は、吐出ポート53を介してマフラ空間S2に流入する。マフラ56には、マフラ空間S2とマフラ56の周囲の高圧空間S1とを連通するマフラ吐出孔(図示省略)が形成されている。圧縮室C1で圧縮された冷媒(高圧室C1bの高圧の冷媒)は、吐出ポート53及びマフラ空間S2を介して、高圧空間S1に流入する。
【0072】
フロントヘッド52は、圧縮室C1の天面を形成するとともに、クランク軸40を軸支する軸受としても機能する。具体的には、フロントヘッド52の上部には、クランク軸40が挿通される、円筒状の上部軸受部52aが形成されている。上部軸受部52aは、クランク軸40を回転自在に支持する。
【0073】
(3-4-3)リアヘッド
リアヘッド54は、第1部材の一例である。リアヘッド54は、図2に示すように、シリンダ60の下方に配置される。
【0074】
リアヘッド54は、シリンダ60の一方の(下方の)開口を塞ぐ。具体的には、リアヘッド54は、シリンダ60のシリンダ孔61、ブッシュ孔63a、第1孔63bの下方の開口を塞ぐ。リアヘッド54は、圧縮室C1の底面を形成する。
【0075】
リアヘッド54は、圧縮室C1の底面を形成すると共に、クランク軸40を軸支する軸受としても機能する。具体的には、リアヘッド54の上部には、クランク軸40が挿通される、円筒状の下部軸受部54aが形成されている。下部軸受部54aは、クランク軸40を回転自在に支持する。
【0076】
(3-4-4)揺動部材
図2図3に加え、図4図7を更に参照しながら揺動部材70について説明する。図4図7は、ロータリ圧縮機100の圧縮工程を説明するための図である。図4図7のそれぞれは、クランク角が、0°、90°、180°、270°の時の揺動部材70の状態を描画した断面図である。
【0077】
揺動部材70は、ピストン72とブレード74とが一体化された部材である。揺動部材70は、クランク軸40が回転により揺動する。
【0078】
ピストン72は、クランク軸40の軸方向視において、環状に形成されている部材である。ピストン72の内部には、クランク軸40の偏心部42が嵌め込まれている(図2参照)。
【0079】
ピストン72、シリンダ60、フロントヘッド52、及びリアヘッド54と共に、圧縮室C1を形成する。圧縮室C1は、ピストン72の外周面72aと、シリンダ60のシリンダ孔61の内周面と、フロントヘッド52の下面52bと、リアヘッド54の上面と、により囲まれた空間である。クランク軸40が回転すると、ピストン72は、シリンダ孔61の内周面に沿って偏心回転運動を行い(シリンダ孔61の内周面に沿って公転し)、シリンダ60の吸入通路66を介して圧縮室C1に吸入される冷媒を圧縮する。
【0080】
ブレード74は、ピストン72と一体に形成された板状の部材である。ブレード74は、ピストン72の自転を規制する機能を有する。ブレード74は、環状のピストン72の外周面72aと接続される第1端部74aから、第2端部74bへと、環状のピストン72の径方向外側に延びる。ブレード74の第2端部74bは、第1端部74aとは反対側の、ピストン72の外周面72aに対する遠位側の端部である。ブレード74は、シリンダ60に形成されるブッシュ空間64aに配置された1対のブッシュ80により挟み込まれ、ブッシュ80により揺動可能に支持される。
【0081】
ブレード74は、圧縮室C1を、低圧室C1aと高圧室C1bとに区画する。低圧室C1aは、圧縮室C1のうち、ブレード74よりも吸入通路66側に配置される空間である。言い換えれば、低圧室C1aは、圧縮室C1のうち、吸入通路66と連通する空間である。高圧室C1bは、圧縮室C1のうち、ブレード74よりもフロントヘッド52に形成されている吐出ポート53側に配置される空間である。言い換えれば、高圧室C1bは、圧縮室C1のうち、吐出ポート53と連通する空間である。
【0082】
クランク軸40が回転し、揺動部材70が揺動すると、ブッシュ80により支持されるブレード74も揺動し、ピストン72の公転に応じて、ブレード74はブレード空間64を出入りする。ブレード74の第2端部74bは、クランク軸40が360°回転する間に、少なくとも一時的に第1孔63b内に配置される。言い換えれば、ブレード74の第2端部74bは、クランク軸40が360°回転する間に、少なくとも一時的に第1空間64bに配置される。特に、後程説明するクランク角が、後述の所定角度α°以上360°以下である間は、ブレード74の第2端部74bは第1孔63b内に配置される。
【0083】
揺動部材70は、摺動面76を有する。摺動面76は、シリンダ60のシリンダ孔61の一方の開口を塞ぐフロントヘッド52と対向し、フロントヘッド52と摺動する摺動面である。
【0084】
揺動部材70には、連通路が形成されている。連通路は、クランク角が所定角度範囲にある時に、第1空間64bと、吐出ポート53の内部空間Siと、を連通させる通路である。第1空間64bは、ブレード74のピストン72の外周面72aと接続される第1端部74aとは反対側の、ピストン72の外周面72aに対する遠位側のブレード74の第2端部74bの周囲の空間である。
【0085】
なお、クランク角とは、クランク軸40の回転角度を意味する。ここでは、図4のようにピストン72が上死点にある時のクランク角を0°と定義する。クランク軸40が回転していくと(クランク角が大きくなっていくと)、ピストン72は、図5に描画される位置を経て、図6のように下死点に至る。ピストン72が下死点にある時のクランク角は180°である。クランク軸40が更に回転していくと(クランク角が更に大きくなっていくと)、ピストン72は、図7の状態を経て、再び図4の状態に戻る。
【0086】
揺動部材70に形成される連通路については後述する。
【0087】
(3-4-5)ブッシュ
圧縮機構50は、1対のブッシュ80を有する(図3参照)。ブッシュ80は、ブレード74を挟んで揺動可能に支持する部材である。
【0088】
ブッシュ80は、ブレード空間64のブッシュ孔63aに配置される。各ブッシュ80は、半円筒形状(円柱を軸方向に沿って概ね2つに分割した形状)の部材である。1対のブッシュ80は、その間でブレード74を挟み、ブレード74を揺動可能に支持する。
【0089】
(4)ロータリ圧縮機の動作
ロータリ圧縮機100の運転動作について説明する。
【0090】
ロータリ圧縮機100では、モータ30が運転され、ロータ34が回転すると、クランク軸40が回転し偏心部42が偏心回転する。その結果、偏心部42が内部に嵌め込まれたピストン72がシリンダ60のシリンダ孔61に沿って公転する。ピストン72の自転は、ピストン72と一体に形成されたブレード74によって規制される。
【0091】
公転するピストン72の動きにより、以下のように、冷媒が、ロータリ圧縮機100の外部から吸入され、圧縮される。
【0092】
まず、吸入行程について説明する。ピストン72が上死点にある図5の状態から回転すると、吸入通路66から、低圧室C1aへの冷媒の吸入が開始される。クランク軸40の回転角が大きくなると、次第に、低圧室C1aの容積が増大し(図5図7参照)、低圧室C1aへ吸入される冷媒量が増加する。
【0093】
その後、吐出行程へと移行する。具体的には、低圧室C1aにおける冷媒の吸入が開始され、ピストン72が上死点まで回転すると、低圧室C1aにおける冷媒の閉じ込みが完了し、吸入通路66に連通していた低圧室C1aが、フロントヘッド52に形成された吐出ポート53と連通する高圧室C1bとなる。高圧室C1bの冷媒の圧力は、ピストン72が回転し、高圧室C1bの体積減少に伴って上昇する。高圧室C1bの圧力とマフラ空間S2との圧力が所定の圧力関係になると、吐出ポート53に設けられた図示しない吐出弁が開き、高圧室C1bの冷媒は、マフラ空間S2に吐出される。マフラ空間S2に吐出された冷媒は、マフラ56に形成されている図示しない吐出通路を介して高圧空間S1に吐出され、最終的に、吐出管28を介してロータリ圧縮機100の外部へと吐出される。
【0094】
(5)連通路
揺動部材70に形成される連通路の例について説明する。
【0095】
<第1の例>
揺動部材70に形成される連通路の第1のである連通路78について、図8図12を更に参照しながら説明する。図8は、吐出ポート53の内部空間Siと第1空間64bとが、連通路78により連通し始めたタイミングの圧縮機構50の要部を描画した図である。図9は、クランク角が0°(360°)の時の圧縮機構50の要部を描画した図であり、クランク角が0°の時の、吐出ポート53の内部空間Siと第1空間64bとの連通路78による連通状態を説明するための図である。図10は、クランク角が180°の時の、揺動部材70に連通路78が形成されている圧縮機構50の要部を描画した図である。図10に描画した状態では、吐出ポート53の内部空間Siと第1空間64bとは非連通である。図11は、図8のXI-XI矢視の部分拡大概略断面図である。図12は、図10のXII-XII矢視の部分拡大概略断面図である。
【0096】
第1の例の連通路78は、揺動部材70の、フロントヘッド52との摺動面76に、下方に(リアヘッド54側に)凹むように形成されている溝である。連通路78としての溝は、図8図10のように1つであってもよいし、複数であってもよい。連通路78は、ブレード74及びピストン72にわたって形成される。揺動部材70の摺動面76は、フロントヘッド52と摺動する。言い換えれば、摺動面76とフロントヘッド52の下面52bとの間にはほぼ隙間は無く(微小な隙間しかなく)、流体は摺動面76とフロントヘッド52の下面52bとの間を実質的には流れない。一方、連通路78とフロントヘッド52の下面52bとの間には隙間が存在しているため、連通路78には、冷凍機油等の流体が流れることが可能である。
【0097】
連通路78は、例えば、図8図10に示されているように略L字形状に形成されている。しかしながら、連通路78の形状は、図8図10に描画されている形状に限定されるものではなく、例えば直線形状や、略J字形状に形成されてもよい。連通路78は、図8図10に示されているように、ブレード74の第2端部74bから、ピストン72に向かってブレード74の第1端部74a付近まで延びる。連通路78の形成される位置を限定するものではないが、連通路78は、例えば、摺動面76の、ブレード74の延びる方向(第1端部74aと第2端部74bとを結ぶ方向)と直交する方向における中央部を、ブレード74の延びる方向に沿って延びる(図8図10参照)。さらに、ブレード74の第2端部74bから第1端部74a付近まで延びた連通路78は、ピストン72を、平面視において高圧室C1b側に、第1端78tまで延びる。連通路78は、ピストン72の外縁部(外周面72aとの境界部)までは延びていない。第1端78tは、環状のピストン72の外縁部より内側に配置されている。連通路78は、ブレード74の第2端部74bでは、ブレード空間64に開口しており、ブレード空間64の第1空間64bと連通している。
【0098】
クランク角が後述の所定角度範囲に無い時には、連通路78の全体がフロントヘッド52の下面52bに対向している(図10参照)。この時には、連通路78は、連通路78は外縁部まで延びていないため、図12のように、圧縮室C1(高圧室C1b)とは連通しない。
【0099】
一方、クランク角が後述の所定角度範囲にある時には、連通路78の一部(例えば、具体的には、連通路78の第1端78t付近)が、フロントヘッド52に形成されている吐出ポート53の少なくとも一部と対向する(図8及び図9参照)。言い換えれば、クランク角が後述の所定角度範囲にある時には、連通路78は、フロントヘッド52に形成されている吐出ポート53の内部空間Siと連通する。内部空間Siは、吐出ポート53の内周面により側方を囲まれる空間である。クランク角が後述の所定角度範囲にある時には、連通路78は第1空間64bと連通するので、連通路78は、第1空間64bと吐出ポート53の内部空間Siとを連通させる。また、吐出ポート53の内部空間Siは、圧縮室C1(高圧室C1b)と連通する空間であるので、クランク角が後述の所定角度範囲にある時には、連通路78は、第1空間64bと圧縮室C1(高圧室C1b)とを連通させる(図11参照)。
【0100】
連通路78の機能について説明する。
【0101】
連通路78は、高圧室C1bに存在する過剰な冷凍機油を、高圧室C1bの外部に排出するための油の流路である。
【0102】
具体的には、連通路78は、クランク角が所定の角度範囲にある際に吐出ポート53の内部空間Siと対向し(連通路78の一部が、吐出ポート53の内部空間Siの一部と対向し)、ブレード74の第2端部74bの周囲の第1空間64b(ブレード空間64の第1空間64b)と、吐出ポート53の内部空間Siと、を連通させる(図8及び図9参照)。その結果、クランク角が所定の角度範囲にある際には、第1空間64bと高圧室C1bとは、吐出ポート53の内部空間Siと連通路78とを介して連通する(図8図9及び図11参照)。このように連通路78が第1空間64bと吐出ポート53の内部空間Siとを連通させる結果、高圧室C1bに存在する過剰な冷凍機油を、高圧室C1bと第1空間64bとの圧力差等を利用して、第1空間64bに排出できる。第1空間64bに排出された冷凍機油は、最終的には、ケーシング20の下部の油溜空間25に排出される。
【0103】
揺動部材70に連通路78を設ける理由を説明する。
【0104】
高圧室C1bに過剰に冷凍機油が存在しない場合(この状態を通常時と呼ぶ)、圧縮室C1の圧力(高圧室C1bの圧力)は、図18に実線で示すように、クランク角が0°から大きくなるに連れて上昇し、180°を少し超える頃に最大となって、その後は、クランク角が0°(360°)になるまでほとんど変化しない。
【0105】
これに対し、高圧室C1bに過剰な冷凍機油が存在する場合(液圧縮を起こす状態にある時)の、圧縮室C1の圧力(高圧室C1bの圧力)の変化は、クランク角がある角度になるまでは、通常時とほぼ同様である。しかし、本願開示者は、高圧室C1bに過剰な冷凍機油が存在する場合、高圧室C1bの圧力が、クランク角がある角度を超えた後に、図18に破線で示すように急上昇することを見出した。このような高圧室C1bの圧力上昇は、ロータリ圧縮機100の効率を低下させるおそれがある。また、高圧室C1bの過度な圧力上昇は、ロータリ圧縮機100の損傷につながるおそれもある。
【0106】
なお、液圧縮を抑制する手段としては、シリンダのブッシュを支持する部分に切り欠きを設け、切り欠きに冷凍機油を流入させるという手段が考えられる。しかし、このようなシリンダに切り欠きを設ける構造で液圧縮による圧縮室の圧力上昇を抑制しようとすれば、比較的大きな切り欠きが必要となる。その結果、シリンダに切り欠きを設ける構造では、ブッシュを支えるシリンダの強度が低下するおそれがある。また、シリンダに切り欠きを設ける構造では、死容積の増加によりロータリ圧縮機の効率が低下するおそれがある。
【0107】
これに対し、本願開示のロータリ圧縮機100では、高圧室C1bで液圧縮が発生する前に、高圧室C1bに存在する過剰な冷凍機油を、吐出ポート53の内部空間Si及び連通路78を介して高圧室C1bの外部に排出できる。そのため、シリンダ60に切り欠きを設ける場合とは異なり、死容積の増大は抑制しつつ、高圧室C1bでの液圧縮の発生を抑制できる。
【0108】
本実施形態の連通路78は、クランク角が所定角度α°以上となると内部空間Siと第1空間64bとを連通させ始め(図8参照)、その後、例えば、クランク角が360°になるまで内部空間Siと第1空間64bとを連通させ続ける(図9参照)。言い換えれば、連通路78が内部空間Siと第1空間64bとを連通させるクランク角の所定角度範囲は、例えば、所定角度α°と360°との間の範囲である。
【0109】
ただし、連通路78が内部空間Siと第1空間64bとを連通させるクランク角の所定角度範囲は、所定角度α°と360°との間に限定されるものではない。例えば、連通路78が内部空間Siと第1空間64bとを連通させるクランク角の所定角度範囲は、所定角度α°と、360°より小さい角度β°(α°<β°<360°)との間の範囲であってもよい。なお、連通路78が内部空間Siと第1空間64bとを連通させるクランク角の所定角度範囲の大きさ(例えば、連通路78が、クランク角がα°とβ°との間、内部空間Siと第1空間64bとを連通させるとすれば、β°-α°の値)は、10°以上であることが好ましい。より好ましくは、連通路78が内部空間Siと第1空間64bとを連通させるクランク角の所定角度範囲の大きさは、20°以上である。さらに好ましくは、連通路78が内部空間Siと第1空間64bとを連通させるクランク角の所定角度範囲の大きさは、30°以上である。所定角度範囲を10°以上、より好ましくは20°以上、さらに好ましくは30°以上とすることで、高圧室C1bの冷凍機油が第1空間64bに排出されやすい。一方で、連通路78が内部空間Siと第1空間64bとを連通させるクランク角の所定角度範囲の大きさは、180°より小さく、好ましくは120°以下であり、さらに好ましくは90°以下である。連通路78が内部空間Siと第1空間64bとを連通させるクランク角の所定角度範囲の大きさを大きくし過ぎないことで、第1空間と吐出ポートの内部空間との連通に伴う死容積の増加による効率低下を抑制できる。
【0110】
連通路78が内部空間Siと第1空間64bとを連通させる所定角度α°は、高圧室C1bに冷凍機油が過剰に存在すると想定した時に、圧縮室において急激な圧力上昇が生じる角度である。
【0111】
なお、高圧室C1bに過剰な冷凍機油が存在する場合に、急激な圧力上昇が生じる角度は、圧縮機の設計や、運転条件により変化する。そこで、所定角度α°は、例えば、設計しようとするロータリ圧縮機(ただし、連通路78は設けていないロータリ圧縮機)を、想定され得る油圧縮が起こり得る運転条件(実際に運転される可能性のある、高循環量・高回転数条件)で運転し、実際に高圧室C1bの圧力を測定し、その結果、通常時に比べ、圧力の上昇開始が見られるクランク角(例えば、図18の例であれば、"A"で示すクランク角)を所定角度α°と決定する。
【0112】
なお、このような所定角度α°の決定方法は一例に過ぎない。例えば、所定角度α°は、ある程度の余裕を見て、圧力の上昇開始が見られるクランク角(図18の例であれば"A"で示すクランク角)よりも若干小さな角度とされてもよい。また、例えば、所定角度α°は、圧力の上昇開始が見られるクランク角(図18の例であれば"A"で示すクランク角)ではなく、圧力の急上昇が見られるクランク角(図18の例であれば"B"で示すクランク角より大きなクランク角)を、所定角度α°としてもよい。また、所定角度α°は実際にロータリ圧縮機を運転した上で決定されるものでは無くてもよく、ロータリ圧縮機の設計条件や運転条件を指定して行われる、コンピュータ上でのシミュレーション結果に基づいて決定されてもよい。
【0113】
なお、所定角度α°は、180°より大きな角度であり、好ましくは270°よりも大きな角度である。
【0114】
なお、内部空間Siと第1空間64bとは、クランク角が180°(ピストン72が下死点に配置されるクランク角)を超えて所定角度α°になるまでは、非連通であることが好ましい(連通路78が内部空間Siと第1空間64bとを連通しないことが好ましい)。例えば、本実施形態のロータリ圧縮機100では、クランク角が180°である時には、図10のように、内部空間Siと第1空間64bとは非連通状態にある。このように構成することで、高圧室C1bにおける過大な圧力上昇が起こり得るタイミングまでは、高圧室C1bと第1空間64bとを非連通とできる。その結果、不要なタイミングで高圧室C1bと第1空間64bとが連通してしまい、死容積の増加によってロータリ圧縮機100の効率が低下する事態を抑制できる。
【0115】
<第2の例>
揺動部材70に形成される連通路の第2の例の連通路78aについて、図13図15を参照しながら説明する。図13は、吐出ポート53の内部空間Siと第1空間64bとが、連通路78aにより連通し始めたタイミングの圧縮機構50の要部を描画した図である。図14は、クランク角が0°(360°)の時の圧縮機構50の要部を描画した図であり、クランク角が0°の時の、吐出ポート53の内部空間Siと第1空間64bとの連通路78aによる連通状態を説明するための図である。図15は、クランク角が180°の時の、揺動部材70に連通路78aが形成されている圧縮機構50の要部を描画した図である。図15に描画した状態では、吐出ポート53の内部空間Siと第1空間64bとは非連通である。
【0116】
連通路78aも、クランク角が前記の所定角度範囲にある際に、吐出ポート53の内部空間Siと、ブレード74の第2端部74bの周囲の第1空間64bと、を連通させる。連通路78aが内部空間Siと第1空間64bとを連通させる所定角度範囲は、第1の例の連通路78が内部空間Siと第1空間64bとを連通させる所定角度範囲と同様であるので、所定角度範囲についての説明は省略する。また、連通路78aの機能も、連通路78の機能と同様であるので、連通路78aの機能についての説明も省略する。
【0117】
連通路78aは、揺動部材70の内部に形成されている通路79を含む。なお、連通路78a(通路79)は、揺動部材70の内部に形成されるので、揺動部材70の摺動面76に連通路78を形成する場合に比べれば、その加工に手間が掛かるおそれがある。しかし一方で、第2の連通路78aを揺動部材70に形成する場合には、揺動部材70の摺動面76に溝を形成しないので、シール性が求められる揺動部材70とフロントヘッド52との間のシール性の低下が、抑制されやすい。
【0118】
連通路78aの通路79は、第1開口79aと、第2開口79bと、の間を延びる。
【0119】
第1開口79aは、揺動部材70の摺動面76に形成されている穴であり、通路79は第1開口79aから揺動部材70の内部に延びる。第1開口79aは、クランク軸40の軸方向に沿って見た時に、ピストン72の外縁部及びブレード74の外縁部から外れた位置(ピストン72の外縁部及びブレード74の外縁部には掛からない位置)に形成される(図13参照)。第2開口79bは、揺動部材70のブレード74の第2端部74bの端面(クランク軸40の軸方向に水平に延びる面)に形成されている穴である。第2開口79bは、少なくともクランク角が前記の所定角度範囲にある時に、第1空間64bと連通している
構造を限定するものではないが、通路79は、第2開口79bから環状のピストン72の中心に向かって直線的に延びる。例えば、通路79は、第2開口79bから環状のピストン72の中心に向かって、ブレード74の、クランク軸40の軸方向における中央部を直線状に延びる。その後、通路79は、ブレード74とピストン72との境界付近で向きを変えて高圧室C1bに向かって直線状に延び、その後、摺動面76に向かって直線状に延びる。
【0120】
第1開口79aは、クランク角が前記の所定角度範囲に無い時には、第1開口79aの全体がフロントヘッド52の下面52bに対向している。言い換えれば、クランク角が前記の所定角度範囲に無い時には、第1開口79aの全体が、フロントヘッド52の吐出ポート53と対向せず、吐出ポート53の内部空間Siとは連通しない。第1開口79aは、ピストン72の外縁部及びブレード74の外縁部から外れた位置に形成されているため、第1開口79aの全体がフロントヘッド52の下面52bに対向している時には、第1開口79aは圧縮室C1(高圧室C1b)とは連通しない。
【0121】
一方、第1開口79aは、クランク角が前記の所定角度範囲にある時には、第1開口79aの少なくとも一部が、フロントヘッド52に形成されている吐出ポート53の少なくとも一部と対向する。言い換えれば、クランク角が前記の所定角度範囲にある時には、第1開口79aの少なくとも一部が、フロントヘッド52に形成されている吐出ポート53の内部空間Siと連通する。また、クランク角が前記の所定角度範囲にある時には、連通路78aの第2開口79bは第1空間64bと連通しているので、連通路78aは、第1空間64bと、吐出ポート53の内部空間Siとを連通させる。また、吐出ポート53の内部空間Siは、圧縮室C1(高圧室C1b)と連通しているため、クランク角が前記の所定角度範囲にある時には、連通路78aは、第1空間64bと、圧縮室C1(高圧室C1b)とを連通させる。
【0122】
(6)特徴
(6-1)
上記実施形態のロータリ圧縮機100は、揺動部材70と、シリンダ60と、第1部材の一例としてのリアヘッド54及び第2部材の一例としてのフロントヘッド52と、を備える。揺動部材70は、環状のピストン72と、ピストン72の外周面72aから延びるブレード74と、を有する。ピストン72とブレード74とは、一体化されている。シリンダ60は、両端が開口している。シリンダ60には、ピストン空間62と、ブレード空間64と、が形成されている。ピストン空間62では、ピストン72が旋回する。ブレード空間64は、ピストン空間62と連通し、ブレード74が出入りする。リアヘッド54及びフロントヘッド52は、シリンダ60の両端の開口を塞ぐ。フロントヘッド52には、吐出ポート53が形成される。ピストン72、シリンダ60、リアヘッド54、及びフロントヘッド52により形成される圧縮室C1で圧縮された冷媒は、吐出ポート53から吐出される。揺動部材70には、第1の例の連通路78、又は、第2の例の連通路78aが形成されている。連通路78,78aは、ピストン72が上死点にある時を0度とするクランク角が所定角度以上となる際に、ブレード74の第2端部74bの周囲の第1空間64bと吐出ポート53の内部空間Siとを連通させる。ブレード74の第2端部74bは、ブレード74のピストン72の外周面72aと接続される第1端部74aとは反対側の、ピストン72の外周面72aに対する遠位側の端部である。
【0123】
ロータリ圧縮機100では、クランク角が所定角度以上となり、圧縮室C1(高圧室C1b)で冷凍機油の液圧縮が起こり、圧縮室C1において過大な圧力上昇が生じ得る状況で、圧縮室C1内の冷凍機油を吐出ポート53を介して第1空間64bへと排出し、圧縮室C1における過大な圧力上昇を抑制できる。
【0124】
このロータリ圧縮機100では、シリンダ60のブッシュ80の支持部分に切り欠きを設ける場合に比べ、ブッシュ80を支えるシリンダ60の強度低下を抑制できる。
【0125】
また、シリンダ60に切り欠きを設け、圧力上昇を十分に抑制しようとする場合には、切り欠きが大型化して死容積が増大しがちで、ロータリ圧縮機の性能に悪影響を与えるおそれがある。これに対し、このロータリ圧縮機100は、所定のタイミングで連通路78により吐出ポート53の内部空間Siと第1空間64bとを連通させて冷凍機油を第1空間64bへと排出する構造である。そのため、このロータリ圧縮機100では、死容積の増大を抑制しつつ、圧縮室C1における過大な圧力上昇を抑制できる。
【0126】
(6-2)
ロータリ圧縮機100では、所定角度α°は、圧縮室C1(高圧室C1b)において急激な圧力上昇が生じる角度である。
【0127】
ロータリ圧縮機100では、圧縮室C1(高圧室C1b)に過剰量の冷凍機が存在するとすれば急激な圧力上昇が生じやすくなるタイミングで、圧縮室C1を第1空間64bと連通させることで、過大な圧力上昇の原因となる圧縮室C1内の冷凍機油を第1空間64bに排出できる。
【0128】
(6-3)
ロータリ圧縮機100では、所定角度α°は、270度以上の角度である。
【0129】
ロータリ圧縮機100では、圧縮室C1(高圧室C1b)における過大な圧力上昇が生じやすくなるタイミングで、圧縮室C1を第1空間64bと連通させることで、圧縮室C1における過大な圧力上昇の原因となる圧縮室C1内の冷凍機油を第1空間64bへと排出できる。
【0130】
(6-4)
ロータリ圧縮機100では、クランク角が180度と所定角度α°との間の角度である間は、第1空間64bと吐出ポート53の内部空間Siとは非連通である。
【0131】
ロータリ圧縮機100では、圧縮室C1(高圧室C1b)における過大な圧力上昇が起こり得るタイミングまでは、第1空間64bと吐出ポート53の内部空間Siとが連通しない。そのため、このロータリ圧縮機100では、第1空間64bと吐出ポート53の内部空間Siとの連通に伴う死容積の増加による効率低下を抑制できる。
【0132】
(6-5)
ロータリ圧縮機100の第1の例に係る連通路78は、揺動部材70の、フロントヘッド52との摺動面76に形成されている溝である。
【0133】
第1の例に係る連通路78は、揺動部材70の表面に形成されるので、容易な加工で連通路78を形成できる。
【0134】
(6-6)
ロータリ圧縮機100の第2の例に係る連通路78aは、揺動部材70の内部に形成され、第1開口79aから第2開口79bまで延びる通路79を含む。クランク角が所定角度α°以上となる際に、第1開口79aは吐出ポート53の内部空間Siと連通し、第2開口79bは第1空間64bと連通する。
【0135】
第2の例の連通路78aは、揺動部材70の摺動面76ではなく、揺動部材70の内部に通路が形成されている。そのため、シール性が求められる揺動部材70とフロントヘッド52との間で、シール性の低下が抑制されやすい。
【0136】
(6-7)
空気調和装置1000は、ロータリ圧縮機100と、凝縮器又は蒸発器として機能する熱源熱交換器300と、蒸発器又は凝縮器として機能する利用熱交換器400と、膨張機構500と、を有する冷媒回路600を備える。
【0137】
空気調和装置1000では、ロータリ圧縮機100の圧縮室C1(高圧室C1b)における圧力の過度な上昇を抑制して、効率のよい空気調和装置を実現できる。
【0138】
(7)変形例
以下に、本実施形態の変形例を示す。なお、各変形例は、矛盾しない範囲で、他の変形例と適宜組み合わされてもよい。
【0139】
(7-1)変形例A
上記実施形態では、ロータリ圧縮機100は、図2に示すように、シリンダを1つだけ有する1段圧縮機である。ただし、本開示のロータリ圧縮機は、複数のシリンダを有する多段圧縮機でもよい。ロータリ圧縮機100が多段圧縮機である場合にも、上記の配置、構造及び機能の連通路を揺動部材に設けることで、圧縮室における液圧縮の発生を抑制できる。
【0140】
(7-2)変形例B
上記実施形態では、クランク軸40の軸方向が上下方向と一致する縦型のロータリ圧縮機を例に本開示のロータリ圧縮機を説明しているが、本開示のロータリ圧縮機は、縦型のロータリ圧縮機に限定されない。本開示のロータリ圧縮機は、クランク軸の軸方向が水平方向と一致する横型のロータリ圧縮機であってもよい。
【0141】
(7-3)変形例C
上記実施形態のロータリ圧縮機100では、連通路78,78aは、揺動部材70のブレード74及びピストン72にわたって形成されている。ただし、吐出ポート53の位置からみて、例えば図16のように揺動部材70の摺動面76のブレード74の部分に連通路78bを形成すれば、前述の所定角度範囲において第1空間64bと吐出ポート53の内部空間Siとを連通させることが可能であれば、ブレード74の部分にのみ連通路78bが形成されてもよい。なお、図示や詳細な説明は省略するが、揺動部材70の内部に連通路が形成される場合も同様である。
【0142】
(7-4)変形例D
上記実施形態のロータリ圧縮機100では、連通路78,78aは、揺動部材70のブレード74の第2端部74bまで延びる。ただし、クランク角が前述の所定角度範囲にある時に、吐出ポート53の内部空間Siと第1空間64bとを連通可能であれば、図17の、揺動部材70の摺動面76に形成される連通路78cのように、連通路78cは、ブレード74の第2端部74bまで延びず、ブレード74の第2端部74bより第1端部74a側で、第1空間64bと連通してもよい。図示や詳細な説明は省略するが、揺動部材70の内部に連通路が形成される場合も同様である。
【0143】
<付記>
以上、本開示の実施形態を説明したが、特許請求の範囲に記載された本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【産業上の利用可能性】
【0144】
本開示の内容は、ロータリ圧縮機に広く適用でき有用である。
【符号の説明】
【0145】
52 フロントヘッド(第2部材)
53 吐出ポート
54 リアヘッド(第1部材)
60 シリンダ
62 ピストン空間
64 ブレード空間
64b 第1空間
70 揺動部材
72 ピストン
72a 外周面
74 ブレード
74a 第1端部
74b 第2端部
76 摺動面
78,78a,78b,78c 連通路
79 通路
79a 第1開口
79b 第2開口
100 ロータリ圧縮機
300 熱源熱交換器(凝縮器、蒸発器)
400 利用熱交換器(蒸発器、凝縮器)
500 膨張機構
600 冷媒回路
1000 空気調和装置(冷凍サイクル装置)
C1 圧縮室
Si 内部空間
α 所定角度
【先行技術文献】
【特許文献】
【0146】
【特許文献1】特開2004-293558号公報
図1
図2
図3
図4
図5
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図10
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図18