(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024028170
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】鉄骨工場建屋のコンクリート基礎におけるアンカーボルト追加による柱脚部の耐震補強方法
(51)【国際特許分類】
E02D 27/00 20060101AFI20240222BHJP
E02D 27/34 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
E02D27/00 D
E02D27/34 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023129643
(22)【出願日】2023-08-08
(31)【優先権主張番号】P 2022130140
(32)【優先日】2022-08-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】598101619
【氏名又は名称】今井 克彦
(71)【出願人】
【識別番号】503117841
【氏名又は名称】株式会社森林経済工学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100084593
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 勝俊
(72)【発明者】
【氏名】今井 克彦
(72)【発明者】
【氏名】宮原 浩維
【テーマコード(参考)】
2D046
【Fターム(参考)】
2D046AA14
2D046AA17
2D046DA11
(57)【要約】
【課題】柱脚の固定度を有効に上げることが可能な耐震補強法を提供する。
【解決手段】ベースプレート下面の裏込めモルタルをはつりとり、最上段の帯筋が目視できるように露出させ、コアドリルにより穿孔する第一工程、穴底にエポキシ樹脂を注入する第二工程、円盤状のアンカープレートとナットを共締めしたアンボンドPC鋼棒2の先端が穴の底に当たるまで挿入し、エポキシ樹脂がコアドリル穴と円盤状アンカープレートの隙間を通ってアンカープレート上面に溢流させる第三工程、エポキシ樹脂12が硬化する前にセメントミルクを注入し、アンボンドPC鋼棒上部を芯出し仮固定する第四工程、ベースプレート延長部を溶接した後、補強リブを溶接する第五工程、はつり取った部分に無収縮モルタルを打設し、硬化後、角ワッシャーをセットしてナット18を掛け、回転角法により張力導入する第六工程、を経てアンボンドPC鋼棒を設置する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設の鉄骨工場建屋の柱脚部におけるコンクリート基礎でのアンカーボルト固定の向上を企図する耐震補強法において、
前記コンクリート基礎の上面に設置されているベースプレートの補強リブの全部又は一部を切除し、該ベースプレートの下面の裏込めモルタルをベースプレート端縁部位ではつりとり、さらにコンクリート基礎立ち上り部もはつりとって最上段の帯筋が目視できるように露出させ、その後に、コアドリルにより穿孔する第一工程、
該コアドリル穴の底部にエポキシ樹脂を注入する第二工程、
定着板としての円盤状アンカープレートと共締め用ナットを先端側に螺着させたアンボンドPC鋼棒をその先端が前記コアドリル穴の底に当たるまで挿入し、エポキシ樹脂を前記コアドリル穴壁と円盤状アンカープレートの隙間を通ってアンカープレート上面にオーバーフローさせる第三工程、
前記エポキシ樹脂が硬化する前に上記ベースプレート端縁部位には及ばないように、前記コアドリル穴及び前記コンクリート基礎立ち上り部のはつり取り部にセメントミルクを注入し、前記アンボンドPC鋼棒上部を芯出し仮固定する第四工程、
前記ベースプレートにプレート拡大板を溶接した後、前記切除した補強リブに代わる代替補強リブ15を溶接する第五工程、
上記ベースプレート端縁部位のはつり取り部に無収縮モルタルを打設し、該モルタル硬化後、前記アンボンドPC鋼棒の基端側に角ワッシャーをセットして本締め用ナットを掛け、回転角法により張力導入する第六工程、を経るPC鋼棒設置手順を特徴とする鉄骨工場建屋のコンクリート基礎におけるアンカーボルト追加による柱脚部の耐震補強方法。
【請求項2】
既設の鉄骨工場建屋の柱脚部におけるコンクリート基礎でのアンカーボルト固定の向上を企図する耐震補強法において、
該コンクリートの基礎立ち上がり幅が小さい場合には、ベースプレートの補強リブの全部又は一部を切除し、コンクリート基礎立ち上り部近傍の床をはつり取り、さらには、この床はつり取り部下方の部位もはつり取ってフーチングハツリ取り部を形成させ、フーチング天端を平坦に削り取り、この状態でコアドリルによりフーチングを穿孔し、そのコアドリル穴の底にエポキシ樹脂を注入し、
定着板としての円盤状のアンカープレートと共締め用ナットを先端側に螺着させたアンボンドPC鋼棒を、その先端が前記コアドリル穴の底に当たるまで挿入し、エポキシ樹脂を前記コアドリル穴壁と円盤状アンカープレートの隙間を通ってアンカープレート上面にオーバーフローさせ、
前記エポキシ樹脂が硬化する前にセメントミルクを前記コアドリル穴に注入し、前記アンボンドPC鋼棒上部を芯出し仮固定した後に、該アンボンドPC鋼棒の中胴部位を外囲した厚肉鋼管が前記フーチングハツリ取り部にセットされ、前記ベースプレート下面の裏込めモルタルをベースプレート端縁部位ではつりとり、裏当て金をセットしてベースプレートにプレート拡大板を溶接するとともに前記切除した補強リブに代わる代替補強リブを取り付け、次に立ち上がり拡幅部のコンクリート打設と床の復旧を行い、最後に前記アンボンドPC鋼棒の基端側に角ワッシャーをセットして本締めナットを掛け、回転角法により張力導入することを特徴とする鉄骨工場建屋のコンクリート基礎におけるアンカーボルト追加による柱脚部の耐震補強方法。
【請求項3】
既設の鉄骨工場建屋の柱脚部におけるコンクリート基礎でのアンカーボルト固定の向上を企図する耐震補強法において、
根巻き高さを大きくして剛性を確保する場合には、コンクリート基礎立ち上り部近傍の床をはつり取った後、フーチング天端を平坦に削り取り、この状態でコアドリルによりフーチングを穿孔し、そのコアドリル穴底にエポキシ樹脂を注入し
定着板としての円盤状のアンカープレートと共締め用ナットを先端側に共締めしたアンボンドPC鋼棒をその先端が前記コアドリル穴の底に当たるまで挿入し、エポキシ樹脂を前記コアドリル穴壁と円盤状アンカープレートの隙間を通ってアンカープレート上面にオーバーフローさせ、
エポキシ樹脂が硬化する前に前記コアドリル穴にセメントミルクを注入し、PC鋼棒定着用ブラケットを前記鉄骨柱に取り付け、このPC鋼棒定着用ブラケットに前記アンボンドPC鋼棒上部を芯出し仮固定した後に、該アンボンドPC鋼棒の基端側に角ワッシャーをセットして本締め用ナットをかけ、回転角法により張力導入し、最後に帯筋をセットしコンクリートを打設することを特徴とする鉄骨工場建屋のコンクリート基礎におけるアンカーボルト追加による柱脚部の耐震補強方法。
【請求項4】
既設の鉄骨工場建屋の柱脚部におけるコンクリート基礎でのアンカーボルト固定の向上を企図する耐震補強法において、
アンカーボルトが柱フランジの外側にあるいわゆる半剛接合の場合には、既設アンカーボルトの横並びにコアドリルによりコアドリル穴を穿孔し、このコアドリル穴の底にエポキシ樹脂を注入し、
定着板としての円盤状のアンカープレートと共締め用ナットを先端側に共締めしたアンボンドPC鋼棒が、その先端が前記コアドリル穴の底に当たるまで挿入し、エポキシ樹脂を前記コアドリル穴壁と円盤状アンカープレートの隙間を通ってアンカープレート上面にオーバーフローさせ、エポキシ樹脂が硬化する前に前記コアドリル穴にセメントミルクを注入し、アンボンドPC鋼棒上部を芯出し仮固定した後に、該アンボンドPC鋼棒の基端側に角ワッシャーをセットして本締め用ナットを掛け、回転角法により張力導入することを特徴とする鉄骨工場建屋のコンクリート基礎におけるアンカーボルト追加による柱脚部の耐震補強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉄骨工場建屋のコンクリート基礎におけるアンカーボルト追加による柱脚部の耐震補強方法に係り、詳しくは、耐震補強時に柱脚の固定度を有効に上げることができる耐震補強法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄骨工場等のアンカーボルトは、柱断面内に設置され固定度(回転拘束)の小さいピン柱脚として設計されることが多い。耐震補強時に柱脚の固定度を上げることができれば極めて有効であるものの基礎を掘削するなどの大掛かりな基礎補強が課せられ、多大の時間と労力や費用を必要とする。
【0003】
鉄骨工場建屋の柱脚部におけるコンクリート基礎の耐震補強方法の一つとして特許文献1に記載されたものがある。これは本願と同じ発明者によるものであるが、アンカーボルトを追加しようする本発明とは別異のものとなっている。
【0004】
たとえば
図14に示す従前例にあるように、柱脚部は柱直下のコンクリート基礎上のベースプレート10を介して固定される。コンクリート基礎もベースプレートも軽めの重量を支え、さして大きくもないイナーシャに基因するモーメントに耐える程度の剛強さにとどめられる。鉄骨柱8は通常H形鋼であるが、鋼製のベースプレートにH形鋼のウエブおよびフランジの下端縁が溶接され、図示しない補強リブも溶接される。そして、ベースプレートをコンクリート基礎に固定するアンカーボルト7は
図2(a)の補強後の平面図および
図2(b)の補強前の平面図に示すように、H形鋼のウエブとフランジで囲まれたエリアでコンクリート基礎の主筋や帯筋と干渉しない位置に適数本立てられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、アンカーボルトが既存柱のウエブおよびフランジによる囲繞空間内に配置されると、曲げモーメント抵抗の無いピン接合柱脚とみなされることは上で触れたとおりである。このタイプの柱脚部の固定度あげることができるなら、集合住宅やオフィスビルなどとは違い、上階が軽量な工場建物では耐震強度改善に多大の効果が発揮されるはずである。本発明はこの点の事情に鑑みなされたもので、その目的は、鉄骨工場建屋のコンクリート基礎におけるアンカーボルト追加による柱脚部の耐震補強方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、既設の鉄骨工場建屋の柱脚部におけるコンクリート基礎でのアンカーボルト固定の向上を企図する耐震補強法に適用される。その特徴とするところは、
図5を参照して、コンクリート基礎1の上面に設置されているベースプレートの補強リブの全部又は一部を切除し、このベースプレート10の下面の裏込めモルタル10aをそのベースプレート端縁部位ではつりとり、さらにコンクリート基礎立ち上り部1もはつりとって最上段の帯筋4Bが目視できるように露出させ。その後に、コアドリル1Aをその帯筋に当たらないように方向付けしてコンクリート基礎立ち上り部にコアドリル穴1aを穿孔する第一工程、
そのコアドリル穴の底部にエポキシ樹脂12を注入する第二工程、
定着板としての円盤状アンカープレート5Aと共締め用ナット5Bを先端側に螺着させたアンボンドPC鋼棒2をその先端がコアドリル穴1aの底に当たるまで挿入し、エポキシ樹脂12をコアドリル穴壁1aと円盤状アンカープレート5Aの隙間23(
図4(a)を参照)を通ってアンカープレート上面にオーバーフローさせる第三工程、
エポキシ樹脂12が硬化する前に上記ベースプレート端縁部位には及ばないように、前記コアドリル穴及び前記コンクリート基礎立ち上り部のはつり取り部にセメントミルク6を注入し、アンボンドPC鋼棒2の上部を芯出し仮固定する第四工程(
図8を参照)、 ベースプレートにプレート拡大板9を溶接した後、前記切除した補強リブに代わる代替補強リブ15を溶接する第五工程、
上記ベースプレート端縁部位のはつり取り部に無収縮モルタル16を打設し(
図10を参照)、モルタル硬化後、アンボンドPC鋼棒2の基端側に角ワッシャー17をセットして本締め用ナット18を掛け、回転角法により張力導入する第六工程、を経ることである。
【0008】
コンクリートの基礎立ち上がり幅が小さい場合には、
図11を参照して、ベースプレートの補強リブの全部又は一部を切除し、コンクリート基礎立ち上り部1の近傍の床をはつり取り、さらには、その床はつり取り部下方の部位もはつり取ってフーチングハツリ取り部1Cを形成させ、フーチング天端を平坦に削り取り、この状態でコアドリル1Aにより穿孔し、このコアドリル穴1aの底にポキシ樹脂12を注入し、
定着板としての円盤状のアンカープレート5Aと共締め用ナット5Bを先端側に螺着させたアンボンドPC鋼棒2を、その先端がコアドリル穴1aの底に当たるまで挿入し、エポキシ樹脂12をコアドリル穴壁1aと円盤状アンカープレート5Aの隙間を通ってアンカープレート上面にオーバーフローさせ、
エポキシ樹脂12が硬化する前にコアドリル穴にセメントミルク6を注入し(
図8を参照)、アンボンドPC鋼棒2の上部を芯出し仮固定した後に、
このアンボンドPC鋼棒2の中胴部位を外囲した厚肉シームレス鋼管21(
図11を参照)がフーチングハツリ取り部1Cにセットされ、ベースプレート10の下面の裏込めモルタル10aをベースプレート端縁部位ではつりとり、裏当て金22をセットしてベースプレートにプレート拡大板9を溶接(符号31を参照)するとともに前記切除した補強リブに代わる代替補強リブ15を取り付け、次に立ち上がり拡幅部のコンクリート打設と床の復旧を行い、最後にアンボンドPC鋼棒2の基端側に角ワッシャー17(
図10を参照)をセットして本締めナット18を掛け、回転角法により張力導入することである。
【0009】
根巻き高さを大きくして剛性を確保する場合には、
図12を参照して、コンクリート基礎立ち上り部1の近傍の床をはつり取った後、フーチング天端を平坦に削り取り、この状態でコアドリル1Aによりフーチング19を穿孔し、このコアドリル穴1aの底にエポキシ樹脂12を注入し(
図6を参照)、
定着板としての円盤状のアンカープレート5Aと共締め用ナット5Bを先端側に共締めしたアンボンドPC鋼棒2をその先端がコアドリル穴1aの底に当たるまで挿入し、エポキシ樹脂12をコアドリル穴壁1aと円盤状アンカープレート5Aの隙間を通ってアンカープレート上面にオーバーフローさせ、
エポキシ樹脂12が硬化する前にコアドリル穴にセメントミルク6(
図9を参照)を注入し、PC鋼棒定着用ブラケット25を鉄骨柱8に取り付け、このPC鋼棒定着用ブラケット25にアンボンドPC鋼棒2の上部を芯出し仮固定した後に、アンボンドPC鋼棒2の基端側に角ワッシャー17をセットして本締めナット18を掛け、回転角法により張力導入し、最後に帯筋をセットしコンクリートを打設することである(
図12を参照)。
【0010】
アンカーボルトが柱フランジの外側にあるいわゆる半剛接合の場合には、
図13を参照して、既設アンカーボルト7の横並びにコアドリル1Aによりコアドリル穴1aを穿孔し、このコアドリル穴の底にエポキシ樹脂12を注入し、
定着板としての円盤状のアンカープレート5Aと共締め用ナット5Bを先端側に共締めしたアンボンドPC鋼棒2が、その先端をコアドリル穴1aの底に当たるまで挿入し、エポキシ樹脂12をコアドリル穴壁1aと円盤状アンカープレート5Aの隙間を通ってアンカープレート上面にオーバーフローさせ、エポキシ樹脂12が硬化する前にコアドリル穴1にセメントミルク6を注入し、アンボンドPC鋼棒2の上部を芯出し仮固定した後に、このアンボンドPC鋼棒の基端側に角ワッシャー17をセットして本締めナット18を掛け、回転角法により張力導入することである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の固定法によれば、PC鋼棒は、柱外側に設置するので既設アンカーボルトに比べ大きな固定度と大きな耐力が得られる。PC鋼棒には適切な初張力が導入されているから柱脚部に作用する曲げモーメントにより引張力が生じても導入予張力が解除されるまではベースプレートは変形しなく、大きな固定度が得られる。また、PC鋼棒はアンカーボルトに比べ3~4倍の弾性範囲を有しており、弾性伸び代が大きく張力管理が容易である。
【0012】
基礎立ち上がり幅の小さい場合では、厚肉鋼管の断面積が大きいこと及びヤング係数がコンクリートの約10倍あるので、ここにコンクリート換算で大きな断面があるのと同等になる。曲げモーメントが作用した場合、根巻き拡幅部に作用する圧縮力を効果的にフーチングに伝達することができる。
【0013】
根巻き高さを大きくして剛性を確保する場合では、根巻き高さが大きくなるので、柱脚部での曲げ剛性を大きくしておくことができる。
【0014】
半剛接合柱脚の場合のタイプ柱脚は、もともとそれなりの曲げ剛性を有しているが、さらにアンボンドPC鋼棒を追加して剛性を上げることができる。PC鋼棒は、原則的にアンカーボルトと同じ並びに設置することになるので、溶接により幅拡張ベースプレートを設置することになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る鉄骨工場建屋のコンクリート基礎におけるアンカーボルト追加による柱脚部の耐震補強方法の補強後立面図。
【
図2】(a)は補強後平面図、(b)は補強前平面図。
【
図5】工事手順の第1工程を示すPC鋼棒設置の手順1の工程図。
【
図11】基礎立ち上がり幅の小さい場合の補強構図。
【
図12】根巻き高さを大きくして剛性を確保する場合の補強構図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、
図1にあるごとく、コンクリート基礎立ち上り部1に穿ったコアドリル穴1aにアンボンドPC鋼棒2を挿入し、これにプレストレスを導入して柱脚部3の固定度を上げ、工事前の柱脚部の
図14から
図1のようにするまでの
図3に示した一連の工事手順である。
その概略は次の通りである。基礎立ち上り部1の天端から
図1の主筋4Aをフープする帯筋のうち一番上の帯筋4Bを傷つけないように、必要ならやや斜めにしたコアドリル1A(
図5を参照)の導入用ガイド浅孔を穿ち(図示せず)、更なる穿孔を続けて必要深さのコアドリル穴1aを形成した後、
図4に示す円盤状のアンカープレート5Aとナット5Bとを装備したアンボンドPC鋼棒2を挿入する(
図6を参照)。これに先がけ、コアドリル穴1aの底1bには、高粘度エポキシ樹脂12が注入される(注入された状態は
図4に示す)。その後、高強度セメントミルク6(
図4を参照)がコアドリル穴1a一杯になるまで(
図8を参照)充填される(ちなみに、既設アンカーボルト7は、
図2(b)に示す鉄骨柱8の内側に設置されるのに対し、アンボンドPC鋼棒2は、
図2(a)に示すように柱8の外側の後述するベースプレートのプレート拡大部9に設置されるので、既設アンカーボルト7に比べ大きな固定度と大きな耐力が得られる。アンボンドPC鋼棒2には適切な予張力が導入されるので柱脚部に作用する曲げモーメントにより大きな引張力が生じても導入予張力が解除されるまではベースプレート10(
図1も参照)は変形しないので大きな固定度が得られる。また、アンボンドPC鋼棒2は既設アンカーボルト7に比べ3~4倍の弾性範囲を有しているので弾性伸び代が大きくなる。よって、張力管理は容易となる。なお、
図2(a)の補強後の図には右側に位置させる予定のアンボンドPC鋼棒2の後述する回転角法に供される角ワッシャー17は描かれているが、左側に位置させる予定の角ワッシャーは描かれていない。
【0017】
以下に、本発明に係る鉄骨工場建屋のコンクリート基礎におけるアンカーボルト追加による柱脚部の耐震補強方法を、その実施の形態を表した図面に基づいて詳細に説明する。この発明は、
図14にある柱脚部3の固定構造を
図1の固定構造に改修しようとするものである。
その詳細は以下の通りである。コンクリート基礎の立ち上り部1(
図1を参照)に穿ったコアドリル穴1aにアンボンドPC鋼棒(un-bond prestressed concrete steel bar)2を挿入し、これにプレストレスを導入して柱脚の固定度を上げることを目的とした補強法であり、全ステップ一覧は
図3に示される。ちなみに、PC鋼棒は表面に特殊アスファルト系ポリマーが被覆され、その外周をさらにポリエチレンシース等で保護されたPC鋼棒で、例えばコンクリートに埋設された状態でもコンクリートに拘束されず、軸力が作用すれば伸縮可能であり、予張力を掛けておくこともできるものである。その基礎立ち上り部1(
図1を参照)の天端から帯筋4Bを傷つけないようにコアドリル1A(
図5を参照)により、やや傾斜をつけてもしくは傾むけずして穿孔し、その向きを保ったまま必要深さのコアドリル穴1aを形成した後、
図4に示す高粘度エポキシ樹脂12がパイプ14A(
図3のステップ2を参照)を介して穴底部に注入され、円盤状のアンカープレート5Aとナット5Bを装着したアンボンドPC鋼棒2が挿入される。
【0018】
補強後図の平面図である
図2(a)のように、アンボンドPC鋼棒2は、鉄骨柱8の外側に設置されるので、上で触れたが、既設アンカーボルト7に比べ大きな固定度と大きな耐力が得られる。アンボンドPC鋼棒2には適切な初(期)張力が導入されているので、柱脚部に作用する曲げモーメントにより引張力が生じても導入予張力が消失するまではベースプレート10は変形しなく大きな固定度が得られる。また、アンボンドPC鋼棒は異形鉄筋のアンカーボルト7に比べ3~4倍の弾性範囲を有しているので弾性伸び代が大きく張力管理が容易である利点がある。
【0019】
ここで、アンボンドPC鋼棒2について予め触れておく。
図4を参照して、アンボンドPC鋼棒2の先端部には円盤状アンカープレート5Aとナット5Bが装備される。アンカープレート5Aには雌ネジが切ってあり、ナット5Bと共締めすることにより位置が固定される。アンカープレート5Aは、コアドリル穴1aの径より2mm小さくしている。コアドリル穴の底にはエポキシ樹脂12が必要量注入されており、アンボンドPC鋼棒が穴底まで挿入されると円盤状アンカープレート5Aと穴壁との隙間23を通って樹脂がオーバーフローして滞留する。樹脂12の硬化後は、ナット5Bの回転が完全に拘束され、したがって、張力導入時の後述する本締め用のナット18(
図10を参照)のトルクが作用しても共回りすることはない(以下、この滞留部をアンボンドPC鋼棒定着部26という)。
【0020】
上記のエポキシ樹脂12を注入し、その硬化前にコアドリル穴1aに高強度セメントミルク6をパイプ14B(
図3のステップ4を参照)を介して注入する。セメントミルクが硬化した後アンボンドPC鋼棒2に引張力が作用するとアンカープレート5Aの上面に引張力に等しい支圧力が発生し、硬化したセメントミルク6を介した付着によりコアドリル穴1aの内面に伝達される。穴の内部表面積はアンボンドPC鋼棒2の引張力に対して十分な面積を確保しているので、引張力が安全にコンクリート基礎(フーチング)に伝達される。
【0021】
以下、具体的に、アンボンドPC鋼棒の設置手順を述べる。
図5を参照して、まず、第1工程では、既設ベースプレート10の下面の裏込めモルタル10aをベースプレート端縁から10mm程度以上入ったところまではつりとり(符号33を付した箇所)、次に基礎立ち上り部1をはつり(符号34を付した箇所)最上段の帯筋4Bが目視できるように露出させる。ベースプレート10の上方で鉄骨柱8のフランジから一定の距離にドリル支持ツールの嵩張り等を考慮してドリルの芯を合わせる。コアドリル1Aを適当に傾斜させるなどして方向づけして最上段の帯筋4Bに当たらないようにセットする。この状態で必要深さまで穿孔する。最上段の帯筋4Bを避けさえしておけば、穿孔を続けてもその下方の他の帯筋を傷つけることはないからである。なお、コンクリート基礎の上面に設置されているベースプレート10の補強リブ11(
図1を参照)の全部又は一部を事前に切除しておく。13は床コンクリートである。
【0022】
図6の如く、第2工程として、コアドリル穴1aの底部に必要量の高粘度エポキシ樹脂12を供給するため穴底に注入パイプ14Aを立て注入する。
【0023】
図7に示すように、第3工程においては、円盤状アンカープレート(定着板)5Aとナット5Bとを共締めしたアンボンドPC鋼棒2をコアドリル穴1aの底に当たるまで挿入する。若干の樹脂が円盤状アンカープレート5Aの周囲の隙間を通ってアンカープレート直上を覆う程度に滲み出させる。
【0024】
第4工程では、
図8のごとく、アンボンドPC鋼棒2のネジ先端が穴底に当たるまで押し込み、エポキシ樹脂12が硬化する前にベースプレート端縁部位33(
図6を参照)には及ばないように、コアドリル穴1a及びコンクリート基礎立ち上り部のはつり取り部34に注入パイプ14B(
図3のステップ4も参照)を用いて基礎天端までセメントミルク6(
図8を参照)を注入し、その充填後にアンボンドPC鋼棒上部を芯出して仮固定する(図示せず)。
【0025】
図9(a)にあるように、第5工程に至ると、グラウト材(セメントミルク)6の充填翌日以降に、アンボンドPC鋼棒2の設置や代替補強リブ15の設置に必要な部材であるベースプレートにプレート延長板9A、拡幅板9Bである拡大部9を溶接(溶接部20を参照)した後、第1工程で切除した補強リブに代わる代替補強リブ15を溶接する。なお、
図9(b)中の破線は天端縁線を表わし、実線破断線はハツリ範囲を表している。
【0026】
図10に示すごとく第6工程ではベースプレーと端縁部位のはつり取り部33に型枠28を設置して無収縮モルタル16を打設する。モルタル硬化後、アンボンドPC鋼棒2の上端に刻設されたねじ部に角ワッシャー17をセットして本締め用ナット18を掛け、ワッシャー17を介してベースプレート拡大部9で反力をとりながら、回転角法により予張力を導入する。この回転角法は、このケースで言えば、アンボンドPC鋼棒2のねじがナット18と噛み合い始める点、すなわち、スナグ点からの回転角により締め付け管理をする方法であり、ネジ送りにより張力を導入する方法であって、特にアンボンドPC鋼棒はネジピッチが小さいがためナットの螺進量も小さく正確な張力が導入される。
【0027】
以上の第1工程ないし第6工程を経たアンボンドPC鋼棒2の設置手順により、耐震補強時に柱脚の固定度を有効に上げておくことができる。以上述べたこれらの工程を経た固定法によれば、アンボンドPC鋼棒は図示のように柱外側に設置されるので、既設アンカーボルト7に比べて大きな固定度と大きな耐力が得られる。アンボンドPC鋼棒には適切な予張力が導入されているので柱脚部に作用する曲げモーメントにより引張力が生じても導入予張力が消失するまではベースプレートは変形しなく、大きな固定度が得られる。また、アンボンドPC鋼棒はアンカーボルトに比べ3~4倍の弾性範囲を有しており、弾性伸び代が大きく張力管理が容易である。
【0028】
ところで、コンクリート基礎立ち上り幅の小さい場合について触れる。まず、ベースプレートの補強リブの全部又は一部を切除し
図11にあるように、基礎立ち上り部1の近傍の床をはつり取り(図中符号1Bのハツリ取り部)、さらには、床はつり取り部下方の部位もはつり取ってフーチングハツリ取り部1Cを形成させ、この後、フーチング天端を平坦に削り取る。この状態でコアドリル1A(
図5を参照)によりフーチング19を穿孔し、前記のアンボンドPC鋼棒定着部26を形成し、アンボンドPC鋼棒2を
図6、
図7,
図8を経てコアドリル穴1aに挿入する。すなわち、コアドリル穴1aの底に必要量の高粘度エポキシ樹脂12を供給するため穴底に注入パイプ14Aを立て注入し(
図6を参照)、円盤状アンカープレート(定着板)とナットとを共締めしたアンボンドPC鋼棒2をコアドリル穴1aの底に当たるまでコアドリル穴1aに挿入する。樹脂12が円盤状アンカープレートの周囲の隙間23(
図4を参照)を通ってアンカープレート直上を覆う程度に押し上げられる。アンボンドPC鋼棒2のネジ先端が穴底に当たるまで押し込み、エポキシ樹脂12が硬化する前に注入パイプ14B(
図3のステップ4を参照)を用いて基礎天端までセメントミルク6をコアドリル穴1aに注入し、その充填後にアンボンドPC鋼棒上部を芯出して仮固定する。
【0029】
その後、アンボンドPC鋼棒の中胴部位を外囲した厚肉シームレス鋼管21が前記フーチングハツリ取り部1Cにセットされ、ベースプレート下面の裏込めモルタルをベースプレート端縁から10mm程度以上入ったところまではつりとり、裏当て金22(
図11中の右上部の部分取り出し図を参照)をセットしてベースプレートにプレート延長板9A、プレート拡幅板9Bを溶接するとともに前記切除した補強リブに代わる代替補強リブ15を取り付ける。次に立ち上り部1のコンクリート打設と床の復旧をする。最後にアンボンドPC鋼棒の基端側に角ワッシャー17をセットしてナット18を掛け(
図10を参照)、ワッシャー17を介してベースプレートのプレート拡大部9で反力をとりながら、回転角法により張力導入する。厚肉シームレス鋼管21の導入で、その部分の弾性範囲拡大・圧縮耐圧の強大化が図られ、フーチング機能の著しい改質も達成される。
【0030】
基礎立ち上がり幅の小さいこの場合、厚肉鋼管の断面積が大きいこと及びヤング係数がコンクリートの約10倍あるので、ここにコンクリート換算で大きな断面があるのと同等になる。曲げモーメントが作用した場合、根巻き拡幅部30に作用する圧縮力を効果的にフーチングに伝達することができる。
【0031】
更に、根巻き高さを大きくして剛性を確保する場合は、
図12に示す以下のごとく施工される。前記したアンボンドPC鋼棒定着部26を形成し、アンボンドPC鋼棒2を上述の
図6、
図7,
図8を経てコアドリル穴1aに挿入する。その後、鉄骨柱8のフランジ外面部に固定したアンボンドPC鋼棒定着用ブラケット25に、床コンクリ―ト13より上方に大きく出たPCの鋼棒2の姿勢を保持するとともに、角ワッシャー17をセットしてナット18を掛け、ブラケット25を介した鉄骨柱8で反力をとりながら回転角法により予張力を導入する。最後に根巻き部帯筋4Cをセットし、図示しない型枠を配してコンクリートを打設する。根巻きは意図的に高くされているから、柱脚部での曲げ剛性が大きく耐震補強性の飛躍的な向上が図られる。
【0032】
半剛接合柱脚の場合は、
図13に示す。アンカーボルト7が鉄骨柱8フランジの外側にあるいわゆる半剛接合の場合は、アンカーボルト7の同じ幅方向の横並びにアンボンドPC鋼棒2を設置する。アンボンドPC鋼棒2を
図6,
図7、
図8に準じてコアドリル穴1aに挿入する。このタイプ柱脚は、もともとそれなりの曲げ剛性を有しているが、アンボンドPC鋼棒2を追加して剛性を上げることができる。アンボンドPC鋼棒は原則的に既設アンカーボルト7と同じ並びに設置することになる(
図13(b)を参照)ので、溶接により幅拡張のベースプレート9Cを設置しておく。
【符号の説明】
【0033】
1:コンクリート基礎立ち上り部、1A:コアドリル、1a:コアドリル穴、1B:床ハツリ取り部、1C:フーチングハツリ取り部、2:アンボンドPC鋼棒、3:柱脚部、4:鉄筋、4A:主筋、4B:帯筋、4C:根巻き部帯筋、5A:円盤状のアンカープレート(定着板)、5B:ナット、6:高強度セメントミルク、7:既設アンカーボルト、8:鉄骨柱、9:プレート拡大部、9A:プレート延長板、9B:プレート拡幅板、9C:幅拡張のベースプレート、10:ベースプレート、10a:裏込めモルタル、11:補強リブ、12:高粘度エポキシ樹脂、13:床コンクリート、14A,14B:注入パイプ、15:代替補強リブ、16:無収縮モルタル、17:角ワッシャー、18:本締め用ナット、19:フーチング、20:溶接部、21:厚肉鋼管(厚肉シームレス鋼管)、22:裏当て金、23:隙間、25:アンボンドPC鋼棒定着用ブラケット、26:PC鋼棒定着部、28:型枠、30:根巻き拡幅部、31:溶接部。33:ベースプレート端縁部位、34:コンクリート基礎立ち上り部のはつり取り部。