IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 田辺三菱製薬株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社ファーマフーズの特許一覧

<>
  • 特開-新規抗PAD4抗体を含む医薬組成物 図1
  • 特開-新規抗PAD4抗体を含む医薬組成物 図2
  • 特開-新規抗PAD4抗体を含む医薬組成物 図3
  • 特開-新規抗PAD4抗体を含む医薬組成物 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024028198
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】新規抗PAD4抗体を含む医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20240222BHJP
   C07K 16/40 20060101ALI20240222BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240222BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240222BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20240222BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20240222BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20240222BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20240222BHJP
   A61K 39/39 20060101ALI20240222BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20240222BHJP
【FI】
A61K39/395 D
C07K16/40 ZNA
A61P43/00 111
A61P29/00 101
A61P19/02
A61P13/12
A61P37/06
A61P37/02
A61K39/395 U
A61K39/395 P
A61K39/39
C12N15/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】24
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023132452
(22)【出願日】2023-08-16
(31)【優先権主張番号】P 2022129788
(32)【優先日】2022-08-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002956
【氏名又は名称】田辺三菱製薬株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】500101243
【氏名又は名称】株式会社ファーマフーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮本 優也
(72)【発明者】
【氏名】和田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】井村 雄一
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 憲二
(72)【発明者】
【氏名】坂田 知子
(72)【発明者】
【氏名】重光 隆成
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA13
4C085AA14
4C085AA16
4C085BB33
4C085BB34
4C085BB35
4C085BB36
4C085BB37
4C085CC22
4C085CC23
4C085DD62
4C085EE01
4C085EE06
4C085FF20
4C085GG01
4C085GG02
4C085GG03
4C085GG04
4C085GG05
4C085GG06
4C085GG08
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA75
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】優れた特性を有する抗PAD4抗体又はその抗体断片を含む医薬組成物を提供すること。
【解決手段】HCDR1が配列番号1のアミノ酸配列を含み、HCDR2が配列番号2のアミノ酸配列を含み、HCDR3が配列番号3のアミノ酸配列を含み、LCDR1が配列番号4のアミノ酸配列を含み、LCDR2が配列番号5のアミノ酸配列を含み、LCDR3が配列番号6のアミノ酸配列を含む、抗PAD4抗体又はその抗体断片、を含む医薬組成物、を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
HCDR1が配列番号1のアミノ酸配列を含み、HCDR2が配列番号2のアミノ酸配列を含み、HCDR3が配列番号3のアミノ酸配列を含み、LCDR1が配列番号4のアミノ酸配列を含み、LCDR2が配列番号5のアミノ酸配列を含み、LCDR3が配列番号6のアミノ酸配列を含む、抗PAD4抗体又はその抗体断片、を含む、医薬組成物。
【請求項2】
前記抗PAD4抗体又はその抗体断片は、HCDR1が配列番号1のアミノ酸配列を含み、HCDR2が配列番号7~10のいずれかのアミノ酸配列を含み、HCDR3が配列番号11又は12の
アミノ酸配列を含み、LCDR1が配列番号4のアミノ酸配列を含み、LCDR2が配列番号5のアミノ酸配列を含み、LCDR3が配列番号13~15のいずれかのアミノ酸配列を含む、請求
項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記抗PAD4抗体又はその抗体断片は、
a-1)HCDR1が配列番号1のアミノ酸配列を含み、HCDR2が配列番号7のアミノ酸配列を含み、HCDR3が配列番号11のアミノ酸配列を含み、LCDR1が配列番号4のアミノ酸配列を含み、LCDR2が配列番号5のアミノ酸配列を含み、LCDR3が配列番号13のアミノ酸配列を含む、抗PAD4抗体又はその抗体断片、
b-1)HCDR1が配列番号1のアミノ酸配列を含み、HCDR2が配列番号8のアミノ酸配列を含み、HCDR3が配列番号11のアミノ酸配列を含み、LCDR1が配列番号4のアミノ酸配列を含み、LCDR2が配列番号5のアミノ酸配列を含み、LCDR3が配列番号13のアミノ酸配列を含む、抗PAD4抗体又はその抗体断片、
c-1)HCDR1が配列番号1のアミノ酸配列を含み、HCDR2が配列番号9のアミノ酸配列を含み、HCDR3が配列番号12のアミノ酸配列を含み、LCDR1が配列番号4のアミノ酸配列を含み、LCDR2が配列番号5のアミノ酸配列を含み、LCDR3が配列番号14のアミノ酸配列を含む、抗PAD4抗体又はその抗体断片、及び
d-1)HCDR1が配列番号1のアミノ酸配列を含み、HCDR2が配列番号10のアミノ酸配列を含み、HCDR3が配列番号11のアミノ酸配列を含み、LCDR1が配列番号4のアミノ酸配列を含み、LCDR2が配列番号5のアミノ酸配列を含み、LCDR3が配列番号15のアミノ酸配列を含む、抗PAD4抗体又はその抗体断片、
から選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記抗PAD4抗体又はその抗体断片は、
a-2)HCDR1が配列番号1のアミノ酸配列からなり、HCDR2が配列番号7のアミノ酸配列からなり、HCDR3が配列番号11のアミノ酸配列からなり、LCDR1が配列番号4のアミノ酸配列からなり、LCDR2が配列番号5のアミノ酸配列からなり、LCDR3が配列番号13のアミノ酸配列からなる、抗PAD4抗体又はその抗体断片、
b-2)HCDR1が配列番号1のアミノ酸配列からなり、HCDR2が配列番号8のアミノ酸配列からなり、HCDR3が配列番号11のアミノ酸配列からなり、LCDR1が配列番号4のアミノ酸配列からなり、LCDR2が配列番号5のアミノ酸配列からなり、LCDR3が配列番号13のアミノ酸配列からなる、抗PAD4抗体又はその抗体断片、
c-2)HCDR1が配列番号1のアミノ酸配列からなり、HCDR2が配列番号9のアミノ酸配列からなり、HCDR3が配列番号12のアミノ酸配列からなり、LCDR1が配列番号4のアミノ酸配列からなり、LCDR2が配列番号5のアミノ酸配列からなり、LCDR3が配列番号14のアミノ酸配列からなる、抗PAD4抗体又はその抗体断片、及び
d-2)HCDR1が配列番号1のアミノ酸配列からなり、HCDR2が配列番号10のアミノ酸配列からなり、HCDR3が配列番号11のアミノ酸配列からなり、LCDR1が配列番号4のアミノ酸配列からなり、LCDR2が配列番号5のアミノ酸配列からなり、LCDR3が配列番号15のアミノ酸配列からなる、抗PAD4抗体又はその抗体断片、
から選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
a-3)重鎖可変領域が配列番号16のアミノ酸番号1~120のアミノ酸配列を含み、軽鎖可変領域が配列番号17のアミノ酸番号1~105のアミノ酸配列を含む、抗PAD4抗体又はその抗体断片、
b-3)重鎖可変領域が配列番号18のアミノ酸番号1~120のアミノ酸配列を含み、軽鎖可変領域が配列番号19のアミノ酸番号1~105のアミノ酸配列を含む、抗PAD4抗体又はその抗体断片、
c-3)重鎖可変領域が配列番号20のアミノ酸番号1~120のアミノ酸配列を含み、軽鎖可変領域が配列番号21のアミノ酸番号1~105のアミノ酸配列を含む、抗PAD4抗体又はその抗体断片、及び
d-3)重鎖可変領域が配列番号22のアミノ酸番号1~120のアミノ酸配列を含み、軽鎖可変領域が配列番号23のアミノ酸番号1~105のアミノ酸配列を含む、抗PAD4抗体又はその抗体断片、
から選択される、抗PAD4抗体又はその抗体断片、を含む、医薬組成物。
【請求項6】
前記抗PAD4抗体又はその抗体断片は、
a-4)重鎖可変領域が配列番号16のアミノ酸番号1~120のアミノ酸配列からなり、軽鎖可変領域が配列番号17のアミノ酸番号1~105のアミノ酸配列からなる、抗PAD4抗体又はその抗体断片、
b-4)重鎖可変領域が配列番号18のアミノ酸番号1~120のアミノ酸配列からなり、軽鎖可変領域が配列番号19のアミノ酸番号1~105のアミノ酸配列からなる、抗PAD4抗体又はその抗体断片、
c-4)重鎖可変領域が配列番号20のアミノ酸番号1~120のアミノ酸配列からなり、軽鎖可変領域が配列番号21のアミノ酸番号1~105のアミノ酸配列からなる、抗PAD4抗体又はその抗体断片、及び
d-4)重鎖可変領域が配列番号22のアミノ酸番号1~120のアミノ酸配列からなり、軽鎖可変領域が配列番号23のアミノ酸番号1~105のアミノ酸配列からなる、抗PAD4抗体又はその抗体断片、
から選択される、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記抗PAD4抗体又はその抗体断片は、
a-5)重鎖が配列番号16のアミノ酸配列からなり、軽鎖が配列番号17のアミノ酸配列からなる、抗PAD4抗体又はその抗体断片、
b-5)重鎖が配列番号18のアミノ酸配列からなり、軽鎖が配列番号19のアミノ酸配列からなる、抗PAD4抗体又はその抗体断片、
c-5)重鎖が配列番号20のアミノ酸配列からなり、軽鎖が配列番号21のアミノ酸配列からなる、抗PAD4抗体又はその抗体断片、及び
d-5)重鎖が配列番号22のアミノ酸配列からなり、軽鎖が配列番号23のアミノ酸配列からなる、抗PAD4抗体又はその抗体断片、
から選択される、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記抗PAD4抗体又はその抗体断片の重鎖の84番目のアミノ酸に相当するアミノ酸が、セリンである、請求項1~7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記抗PAD4抗体又はその抗体断片は、PAD4に対するKD値が100pM以下である、請求項1
~7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか一項に記載の医薬組成物であって、
該抗PAD4抗体又はその抗体断片は、40℃で1カ月間保存したとき、該保存前の抗PAD4抗
体又はその抗体断片が有するPAD4結合量に比して、90%以上の結合量を有するものである
、医薬組成物。
【請求項11】
e-1)HCDR1が配列番号1のアミノ酸配列を含み、HCDR2が配列番号24のアミノ酸配列を含み、HCDR3が配列番号11のアミノ酸配列を含み、LCDR1が配列番号4のアミノ酸配列を含み、LCDR2が配列番号5のアミノ酸配列を含み、LCDR3が配列番号25のアミノ酸配列を含む、抗PAD4抗体又はその抗体断片であって、
重鎖の84番目のアミノ酸に相当するアミノ酸がセリンである、抗PAD4抗体又はその抗体断片を含む医薬組成物。
【請求項12】
前記抗PAD4抗体又はその抗体断片は、
e-2)HCDR1が配列番号1のアミノ酸配列からなり、HCDR2が配列番号24のアミノ酸配列からなり、HCDR3が配列番号11のアミノ酸配列からなり、LCDR1が配列番号4のアミノ酸配列からなり、LCDR2が配列番号5のアミノ酸配列からなり、LCDR3が配列番号25のアミノ酸配列からなる、抗PAD4抗体又はその抗体断片であって、
重鎖の84番目のアミノ酸に相当するアミノ酸がセリンである、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
e-3)重鎖可変領域が配列番号28のアミノ酸番号1~120のアミノ酸配列を含み、軽鎖可変領域が配列番号27のアミノ酸番号1~105のアミノ酸配列を含む、抗PAD4抗体又はその抗体断片、を含む医薬組成物。
【請求項14】
前記抗PAD4抗体又はその抗体断片は、
e-4)重鎖可変領域が配列番号28のアミノ酸番号1~120のアミノ酸配列からなり、軽鎖可変領域が配列番号27のアミノ酸番号1~105のアミノ酸配列からなる、
請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記抗PAD4抗体又はその抗体断片は、
e-5)重鎖が配列番号28からなり、軽鎖が配列番号27からなる、
請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項16】
請求項11に記載の医薬組成物であって、前記抗PAD4抗体又はその抗体断片は、生成時に生じる切断が総生成量の3%未満である、医薬組成物。
【請求項17】
前記抗体が、中和抗体である、請求項1~7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記抗体が、配列番号29で表されるPAD4の結合抗体である、請求項1~7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項19】
関節リウマチ若しくは関節炎、全身性エリテマトーデス、ループス腎炎、又は移植片対宿主病の予防剤又は治療剤である、請求項1~7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項20】
タンパク質におけるシトルリン化の抑制剤である、請求項1~7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項21】
細胞におけるネトーシスの抑制剤である、請求項1~7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項22】
関節リウマチ若しくは関節炎、全身性エリテマトーデス、ループス腎炎、又は移植片対宿主病の予防剤又は治療剤である、請求項11~15のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項23】
タンパク質におけるシトルリン化の抑制剤である、請求項11~15のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項24】
細胞におけるネトーシスの抑制剤である、請求項11~15のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規抗PAD4抗体を含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
PAD4(Peptidylarginine deiminase 4)は、タンパク質中のアルギニンのシトルリン化に関与する酵素として知られている。このシトルリン化は、タンパク質を構成するアミノ酸の中で最も塩基性の強いアルギニンが中性のシトルリンに変換される反応であるため、タンパク質の構造と反応にとって重要である。
【0003】
シトルリン化は、関節リウマチ(RA)への関連性が報告されている。例えば、RAではビメンチン,コラーゲンおよびフィブリンなどが滑膜に抗原として存在していることから、これらに対する抗体である抗環状シトルリン化ペプチド抗体(抗CCP抗体)検出キットがRAの診断薬として販売されている。
【0004】
PAD4とRAに関する報告もいくつか存在する。例えば、非特許文献1には、RAの発症とPAD4遺伝子の一塩基多型との間に相関があることが報告されている。また、非特許文献2には、RAを診断するために抗PAD4抗体を使用したことが報告されている。また、特許文献1には、4種類の抗PAD4抗体の混合物をマウスに投与することによって、RAを抑制する試みが記載されている(特許文献1の実施例2参照)。さらに、特許文献2には、PAD4への親和性、及びシトルリン化活性阻害能により優れた抗PAD4抗体が記載されている。
【0005】
PAD4と全身性エリテマトーデス(SLE)に関する報告としてはPAD4ノックアウトマウス
を用いたSLEモデル(イミキモッド誘発モデル)において野生株に比べ腎炎が抑制された
報告や低分子PAD阻害剤(Cl-AmidineおよびBB-Cl-Amidine)投与により、SLEモデル(MRL/lprモデル)マウスの腎炎が抑制された報告がある(非特許文献3、4、5)。また、PAD4をノックアウトしたMRL/lprマウスでSLE様症状が野生株と同様に発症したとする報告や低分子阻害薬(Cl-Amidine)を腎炎モデル(抗GBM抗体誘発モデルおよびSLE患者血清移入マウス)に投与しても腎炎の発症抑制が出来なかったという報告がある(非特許文献6)。
【0006】
このような疾患とPAD4との関連から、結合親和性や安定性等にさらに優れた抗PAD4抗体が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO/2012/026309
【特許文献2】WO/2016/143753
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】"Functional haplotypes of PADI4, encoding citrullinating enzyme peptidylarginine deiminase 4, are associated with rheumatoid arthritis.", Suzuki et al., Nat Genet. 2003 Aug;34(4):395-402.
【非特許文献2】"Two novel sandwich ELISAs identify PAD4 levels and PAD4 autoantibodies in patients with rheumatoid arthritis.", Ishigami et al., Mod Rheumatol. 2013 Jul;23(4):794-803.
【非特許文献3】"Peptidylarginine deiminases 2 and 4 modulate innate and adaptive immune responses in TLR-7-dependent lupus", Yudong et al., JCI Insight. 2018 Dec 6;3(23): e124729.
【非特許文献4】"Peptidylarginine Deiminase 4 Promotes the Renal Infiltration of Neutrophils and Exacerbates the TLR7 Agonist-Induced Lupus Mice", Hanata et al., Front Immunol. 2020 Jun 23;11:1095.
【非特許文献5】"Peptidylarginine deiminase inhibition disrupts NET formation and protects against kidney, skin and vascular disease in lupus-prone MRL/lpr mice", Knight et al., Ann Rheum Dis. 2015 Dec;74(12):2199-2206.
【非特許文献6】"Lupus and proliferative nephritis are PAD4 independent in murine models", Gordon et al., JCI Insight. 2017 May 18;2(10):e92926.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、優れた特性を有する抗PAD4抗体を提供すること、又は優れたRA若しくは、関節炎、全身性エリテマトーデス、ループス腎炎、又は移植片対宿主病等の予防又は治療方法を提供すること等を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、特定の相補性決定領域(CDR)配列を有する抗PAD4抗体が、優れた結合特性、保存安定性を有することを
見出した。さらに、特定のフレームワーク領域(FR)配列を有する抗PAD4抗体が、優れた化学的安定性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の要旨は、以下に関する。
【0011】
[1] HCDR1が配列番号1のアミノ酸配列を含み、HCDR2が配列番号2のアミノ酸配列を含み、HCDR3が配列番号3のアミノ酸配列を含み、LCDR1が配列番号4のアミノ酸配列を含み、LCDR2が配列番号5のアミノ酸配列を含み、LCDR3が配列番号6のアミノ酸配列を含む、抗PAD4抗体又はその抗体断片、を含む医薬組成物。
[2] 前記抗PAD4抗体又はその抗体断片は、HCDR1が配列番号1のアミノ酸配列を含み
、HCDR2が配列番号7~10のいずれかのアミノ酸配列を含み、HCDR3が配列番号11又は12のアミノ酸配列を含み、LCDR1が配列番号4のアミノ酸配列を含み、LCDR2が配列番号5のアミノ酸配列を含み、LCDR3が配列番号13~15のいずれかのアミノ酸配列を含む
、[1]に記載の医薬組成物。
[3] 前記抗PAD4抗体又はその抗体断片は、
a-1)HCDR1が配列番号1のアミノ酸配列を含み、HCDR2が配列番号7のアミノ酸配列を含み、HCDR3が配列番号11のアミノ酸配列を含み、LCDR1が配列番号4のアミノ酸配列を含み、LCDR2が配列番号5のアミノ酸配列を含み、LCDR3が配列番号13のアミノ酸配列を含む、抗PAD4抗体又はその抗体断片、
b-1)HCDR1が配列番号1のアミノ酸配列を含み、HCDR2が配列番号8のアミノ酸配列を含み、HCDR3が配列番号11のアミノ酸配列を含み、LCDR1が配列番号4のアミノ酸配列を含み、LCDR2が配列番号5のアミノ酸配列を含み、LCDR3が配列番号13のアミノ酸配列を含む、抗PAD4抗体又はその抗体断片、
c-1)HCDR1が配列番号1のアミノ酸配列を含み、HCDR2が配列番号9のアミノ酸配列を含み、HCDR3が配列番号12のアミノ酸配列を含み、LCDR1が配列番号4のアミノ酸配列を含み、LCDR2が配列番号5のアミノ酸配列を含み、LCDR3が配列番号14のアミノ酸配列を含む、抗PAD4抗体又はその抗体断片、及び
d-1)HCDR1が配列番号1のアミノ酸配列を含み、HCDR2が配列番号10のアミノ酸配列を含み、HCDR3が配列番号11のアミノ酸配列を含み、LCDR1が配列番号4のアミノ酸配列を含み、LCDR2が配列番号5のアミノ酸配列を含み、LCDR3が配列番号15のアミノ酸配列を含む、抗PAD4抗体又はその抗体断片、
から選択される、[1]又は[2]に記載の医薬組成物。
[4] 前記抗PAD4抗体又はその抗体断片は、
a-2)HCDR1が配列番号1のアミノ酸配列からなり、HCDR2が配列番号7のアミノ酸配列からなり、HCDR3が配列番号11のアミノ酸配列からなり、LCDR1が配列番号4のアミノ酸配列からなり、LCDR2が配列番号5のアミノ酸配列からなり、LCDR3が配列番号13のアミノ酸配列からなる、抗PAD4抗体又はその抗体断片、
b-2)HCDR1が配列番号1のアミノ酸配列からなり、HCDR2が配列番号8のアミノ酸配列からなり、HCDR3が配列番号11のアミノ酸配列からなり、LCDR1が配列番号4のアミノ酸配列からなり、LCDR2が配列番号5のアミノ酸配列からなり、LCDR3が配列番号13のアミノ酸配列からなる、抗PAD4抗体又はその抗体断片、
c-2)HCDR1が配列番号1のアミノ酸配列からなり、HCDR2が配列番号9のアミノ酸配列からなり、HCDR3が配列番号12のアミノ酸配列からなり、LCDR1が配列番号4のアミノ酸配列からなり、LCDR2が配列番号5のアミノ酸配列からなり、LCDR3が配列番号14のアミノ酸配列からなる、抗PAD4抗体又はその抗体断片、及び
d-2)HCDR1が配列番号1のアミノ酸配列からなり、HCDR2が配列番号10のアミノ酸配列からなり、HCDR3が配列番号11のアミノ酸配列からなり、LCDR1が配列番号4のアミノ酸配列からなり、LCDR2が配列番号5のアミノ酸配列からなり、LCDR3が配列番号15のアミノ酸配列からなる、抗PAD4抗体又はその抗体断片、
から選択される、[1]~[3]のいずれかに記載の医薬組成物。
[5] a-3)重鎖可変領域が配列番号16のアミノ酸番号1~120のアミノ酸配列を含み、軽鎖可変領域が配列番号17のアミノ酸番号1~105のアミノ酸配列を含む、抗PAD4抗体又はその抗体断片、
b-3)重鎖可変領域が配列番号18のアミノ酸番号1~120のアミノ酸配列を含み、軽鎖可変領域が配列番号19のアミノ酸番号1~105のアミノ酸配列を含む、抗PAD4抗体又はその抗体断片、
c-3)重鎖可変領域が配列番号20のアミノ酸番号1~120のアミノ酸配列を含み、軽鎖可変領域が配列番号21のアミノ酸番号1~105のアミノ酸配列を含む、抗PAD4抗体又はその抗体断片、及び
d-3)重鎖可変領域が配列番号22のアミノ酸番号1~120のアミノ酸配列を含み、軽鎖可変領域が配列番号23のアミノ酸番号1~105のアミノ酸配列を含む、抗PAD4抗体又はその抗体断片、
から選択される、抗PAD4抗体又はその抗体断片、を含む医薬組成物。
[6] 前記抗PAD4抗体又はその抗体断片は、
a-4)重鎖可変領域が配列番号16のアミノ酸番号1~120のアミノ酸配列からなり、軽鎖可変領域が配列番号17のアミノ酸番号1~105のアミノ酸配列からなる、抗PAD4抗体又はその抗体断片、
b-4)重鎖可変領域が配列番号18のアミノ酸番号1~120のアミノ酸配列からなり、軽鎖可変領域が配列番号19のアミノ酸番号1~105のアミノ酸配列からなる、抗PAD4抗体又はその抗体断片、
c-4)重鎖可変領域が配列番号20のアミノ酸番号1~120のアミノ酸配列からなり、軽鎖可変領域が配列番号21のアミノ酸番号1~105のアミノ酸配列からなる、抗PAD4抗体又はその抗体断片、及び
d-4)重鎖可変領域が配列番号22のアミノ酸番号1~120のアミノ酸配列からなり、軽鎖可変領域が配列番号23のアミノ酸番号1~105のアミノ酸配列からなる、抗PAD4抗体又はその抗体断片、
から選択される、[5]に記載の医薬組成物。
[7] 前記抗PAD4抗体又はその抗体断片は、
a-5)重鎖が配列番号16のアミノ酸配列からなり、軽鎖が配列番号17のアミノ酸配列からなる、抗PAD4抗体又はその抗体断片、
b-5)重鎖が配列番号18のアミノ酸配列からなり、軽鎖が配列番号19のアミノ酸配列からなる、抗PAD4抗体又はその抗体断片、
c-5)重鎖が配列番号20のアミノ酸配列からなり、軽鎖が配列番号21のアミノ酸配列からなる、抗PAD4抗体又はその抗体断片、及び
d-5)重鎖が配列番号22のアミノ酸配列からなり、軽鎖が配列番号23のアミノ酸配列からなる、抗PAD4抗体又はその抗体断片、
から選択される、[5]又は[6]に記載の医薬組成物。
[8] 前記抗PAD4抗体又はその抗体断片の重鎖の84番目のアミノ酸に相当するアミノ酸が、セリンである、[1]~[7]のいずれかに記載の医薬組成物。
[9] 前記抗PAD4抗体又はその抗体断片は、PAD4に対するKD値が100pM以下である、[
1]~[8]のいずれかに記載の医薬組成物。
[10] [1]~[9]のいずれかに記載の医薬組成物であって、
該抗PAD4抗体又はその抗体断片は、40℃で1カ月間保存したとき、該保存前の抗PAD4抗
体又はその抗体断片が有するPAD4結合量に比して、90%以上の結合量を有するものである、
医薬組成物。
【0012】
[11] e-1)HCDR1が配列番号1のアミノ酸配列を含み、HCDR2が配列番号24のアミノ酸配列を含み、HCDR3が配列番号11のアミノ酸配列を含み、LCDR1が配列番号4のアミノ酸配列を含み、LCDR2が配列番号5のアミノ酸配列を含み、LCDR3が配列番号25のアミノ酸配列を含む、抗PAD4抗体又はその抗体断片であって、
重鎖の84番目のアミノ酸に相当するアミノ酸が、セリンである、抗PAD4抗体又はその抗体断片、を含む医薬組成物。
[12] 前記抗PAD4抗体又はその抗体断片は、
e-2)HCDR1が配列番号1のアミノ酸配列からなり、HCDR2が配列番号24のアミノ酸配列からなり、HCDR3が配列番号11のアミノ酸配列からなり、LCDR1が配列番号4のアミノ酸配列からなり、LCDR2が配列番号5のアミノ酸配列からなり、LCDR3が配列番号25のアミノ酸配列からなる、抗PAD4抗体又はその抗体断片であって、
重鎖の84番目のアミノ酸に相当するアミノ酸が、セリンである、[11]に記載の医薬組成物。
[13] e-3)重鎖可変領域が配列番号28のアミノ酸番号1~120のアミノ酸配列を含み、軽鎖可変領域が配列番号27のアミノ酸番号1~105のアミノ酸配列を含む、抗PAD4抗体又はその抗体断片、を含む医薬組成物。
[14] 前記抗PAD4抗体又はその抗体断片は、
e-4)重鎖可変領域が配列番号28のアミノ酸番号1~120のアミノ酸配列からなり、軽鎖可変領域が配列番号27のアミノ酸番号1~105のアミノ酸配列からなる、
[13]に記載の医薬組成物。
[15] 前記抗PAD4抗体又はその抗体断片は、
e-5)重鎖が配列番号28からなり、軽鎖が配列番号27からなる、
[13]又は[14]に記載の医薬組成物。
[16] [11]~[15]のいずれかに記載の医薬組成物あって、前記抗PAD4抗体又はその抗体断片では、生成時に生じる切断が総生成量の3%未満である、医薬組成物。
[17] 前記抗体が、中和抗体である、[1]~[16]のいずれかに記載の医薬組成物。
[18] 前記抗体が、配列番号29で表されるPAD4の結合抗体である、[1]~[17]のいずれかに記載の医薬組成物。
【0013】
[19] 関節リウマチ若しくは関節炎、全身性エリテマトーデス、ループス腎炎、又は移植片対宿主病の予防剤又は治療剤である、[1]~[18]のいずれかに記載の医薬組成物。
[20] タンパク質におけるシトルリン化の抑制剤である、[1]~[18]のいずれかに記載の医薬組成物。
[21] 細胞におけるネトーシスの抑制剤である、[1]~[18]のいずれかに記載の医薬組成物。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、優れた特性を有する抗PAD4抗体、及び優れたRA若しくは関節炎、全身性エリテマトーデス、ループス腎炎、又は移植片対宿主病の予防又は治療方法等が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、CAIAモデルマウスの作製方法、及び本発明の抗PAD4抗体によるCAIAモデルにおける関節炎への効果を示す図である。
図2図2は、本発明の抗PAD4抗体によるCIAモデルにおける関節炎への効果を示す図である。
図3図3は、本発明の抗PAD4抗体によるcGvHDモデルにおける尿タンパクへの効果を示す図である。
図4図4は、本発明の抗PAD4抗体によるcGvHDモデルにおける発症率への効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の理解を容易にするため、以下に本発明に用いられる用語を説明する。
【0017】
[中和]
本発明において「中和」とは目的の標的に結合し、かつ、その標的のいずれかの機能を阻害することができる作用のことをいう。すなわち、「PAD4の活性を中和する」とは、抗PAD4抗体がPAD4に結合することにより、PAD4の活性を阻害することをいう。PAD4の活性は、当分野において知られたいくつかのin vitro又はin vivo分析の1つ又はそれ以上によって評価することができる。PAD4の活性は、例えば、タンパク質中のアルギニンのシトルリン化活性であり、抗PAD4抗体の中和活性は、本明細書に記載のシトルリン化阻害試験により評価することができる。
【0018】
[単離された]
単離された抗PAD4抗体等の「単離された」とは、同定され、かつ、分離された、及び/又は、自然状態での成分から回収された、という意味である。自然状態での不純物は、その抗体の診断的又は治療的使用を妨害し得る物質であり、酵素、ホルモン及びその他のタンパク質性の又は非タンパク質性の溶質が挙げられる。一般的に、抗PAD4抗体を単離するには、少なくとも1つの精製工程によって精製すればよく、少なくとも1つの精製工程により精製された抗PAD4抗体を「単離された抗PAD4抗体」ということができる。
【0019】
[ヒト抗体]
ヒト抗体とは、軽鎖、重鎖ともにヒト免疫グロブリン由来の抗体をいう。ヒト抗体は、重鎖の定常領域の違いにより、γ鎖の重鎖を有するIgG(IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4を含む)、μ鎖の重鎖を有するIgM、α鎖の重鎖を有するIgA(IgA1,IgA2を含む)、δ鎖の重鎖を有するIgD、又はε鎖の重鎖を有するIgEを含む。また原則として軽鎖は、κ鎖とλ鎖のどちらか一方を含む。
【0020】
[ヒト化抗体]
ヒト化抗体は、非ヒト動物由来抗体の相補性決定領域と、ヒト抗体由来のフレームワーク領域とからなる可変領域、及びヒト抗体由来の定常領域からなる抗体をいう。
【0021】
[キメラ抗体]
キメラ抗体とは、軽鎖、重鎖、又はその両方が、非ヒト由来の可変領域と、ヒト由来の定常領域からなる抗体をいう。
【0022】
[抗PAD4抗体]
本発明において抗PAD4抗体は、PAD4に結合する免疫グロブリン分子又はその改変分子のことをいう。改変分子には、マルチスペシフィック抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、機能改変抗体、及びコンジュゲート抗体を含むものとする。
【0023】
[マルチスペシフィック抗体]
マルチスペシフィック抗体とは、2つ以上の異なる抗原特異性を有する2つ以上の独立した抗原認識部位を持ち合わせた非対称の抗体であり、2つの抗原特異性を有するバイスペシフィック抗体、3つの抗原特異性を有するトリスペシフィック抗体等が挙げられる。
【0024】
[機能改変抗体]
本発明において機能改変抗体とは、抗体配列、糖鎖等を改変することにより、抗体の有する抗原結合機能以外の機能、例えば細胞殺傷機能、補体活性化機能や血中半減期延長機能を改変した抗体をいう。
【0025】
[コンジュゲート抗体]
本発明においてコンジュゲート抗体とは、抗体にポリエチレングリコール(PEG)等の非ペプチド性ポリマー、放射性物質、毒素、低分子化合物、サイトカイン、成長因子、アルブミン、酵素等の抗体以外の機能分子を化学的又は遺伝子工学的に結合した抗体をいう。
【0026】
[抗体断片]
本発明において抗体断片とは、特に断らない限り、抗原結合断片を意味する。抗体断片を抗原結合分子と呼ぶこともできる。抗原結合断片とは、抗体の一部分を含むタンパク質であり、抗原に結合できるものをいう。抗原結合断片の例としては、F(ab')2、Fab'、Fab、Fv(variable fragment of antibody)、ジスルフィド結合Fv、一本鎖抗体(scFv)、及びこれらの重合体等が挙げられる。さらに、抗原結合断片は、ポリエチレングリコール(PEG)等の非ペプチド性ポリマー、放射性物質、毒素、低分子化合物、サイトカイン、成長因子(TGF-β、NGF、Neurotrophin等)、アルブミン、酵素、他の抗体等の本発明の抗PAD4抗体以外の機能分子を化学的又は遺伝子工学的に結合しているコンジュゲート抗原結合断片を含むものとする。
【0027】
[相補性決定領域]
相補性決定領域(CDR)とは免疫グロブリン分子の可変領域のうち、抗原結合部位を形成する領域をいい、超可変領域とも呼ばれ、免疫グロブリン分子ごとに特にアミノ酸配列の変化が大きい部分をいう。CDRには軽鎖及び重鎖それぞれに3つのCDR(LCDR1、LCDR2、LCDR3、及びHCDR1、HCDR2、HCDR3)がある。本発明では、免疫グロブリン分子のCDRはカバット(Kabat)の番号付けシステム(Ka
batら、1987、Sequences of Proteins of Immunological Interest、US Department of Health an
d Human Services、NIH、USA)に従って決定される。
【0028】
[アミノ酸配列のパーセント(%)同一性]
可変領域等の、同定した参照ポリペプチド配列に関する「パーセント(%)同一性」とは、配列を整列させ、最大の%同一性を得るために必要ならば間隙を導入し、如何なる保存的置換も配列同一性の一部と考えないとした後の、特定の参照ポリペプチド配列のアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基のパーセントとして定義される。%同一性を測定する目的のためのアラインメントは、当業者の技量の範囲にある種々の方法、例えばBLAST、BLAST-2、ALIGN、又はMegalign(DNASTAR)ソフトウエアのような公に入手可能なコンピュータソフトウエアを使用することにより達成可能である。当業者であれば、比較される配列の完全長に対して最大のアラインメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、配列をアラインメントするための適切なパラメータを決定することができる。しかし、ここでの目的のためには、%同一性値は、ペアワイズアラインメントにおいて、配列比較コンピュータプログラムBLASTを使用することによって得られる。
アミノ酸配列比較にBLASTが用いられる状況では、与えられたアミノ酸配列Aの、与えられたアミノ酸配列Bとの%同一性は次のように計算される:
分率X/Yの100倍
ここで、Xは配列アラインメントプログラムBLASTのA及びBのプログラムアラインメントによって同一であると一致したスコアのアミノ酸残基の数であり、YはBの全アミノ酸残基数である。アミノ酸配列Aの長さがアミノ酸配列Bの長さと異なる場合、AのBに対する%同一性は、BのAに対する%同一性とは異なることは理解されるであろう。特に断らない限りは、ここでの全ての%同一性値は、直ぐ上のパラグラフに示したようにBLASTコンピュータプログラムを用いて得られる。
【0029】
[競合する]
本発明において、本発明の抗PAD4抗体と「競合する」とは、本明細書に記載された表面プラズモン共鳴(SPR)法によって測定した場合に、該抗PAD4抗体又はその抗原結合断片の
存在により、有意差をもって本発明の抗PAD4抗体とPAD4との結合が低下することをいう。
【0030】
以下、本発明を詳細に説明する。
<PAD4>
PAD4は、一般的に、タンパク質中のアルギニンのシトルリン化に関与する酵素として知られている。また、PAD4は、細胞のネトーシスに関与する酵素としても知られている。PAD4のアミノ酸配列等の詳細は、NCBI(National Center for Biotechnology Information)、又はHGNC(HUGO Gene Nomenclature Committee)等のWEBサイトから見ることができる。NCBIに記載されているPAD4のアクセッションナンバーは、例えば、NP_036519.2である。PAD4のアミノ酸配列は、例えば、配列番号29である。PAD4は、PAD4活性を有していれば、その生物由来は限定されない。
【0031】
<抗PAD4抗体>
本発明の一実施形態は、新規の抗PAD4抗体である。この抗体は、従来の抗PAD4抗体に対し、より優れた結合特性、保存安定性や化学的安定性を有する抗PAD4抗体である。保存安定性及び化学的安定性についてはそれぞれ後述するが、これらをまとめて安定性と呼ぶことがある。
この抗体を用いれば、例えば、RA若しくは関節炎、全身性エリテマトーデス、ループス腎炎、又は移植片対宿主病の予防又は治療を行うことができる。この予防又は治療方法は、抗体を使用するため副作用が小さく、安全性の観点から優れている。
また、本発明の一実施形態に係る抗PAD4抗体は、PAD4によるタンパク質のシトルリン化活性を抑制する抗体であってもよい。
また、本発明の一実施形態に係る抗PAD4抗体は、細胞におけるネトーシスを抑制する抗体であってもよい。
【0032】
本発明の一実施形態に係る抗PAD4抗体はPAD4との結合性に優れている。本発明の抗PAD4抗体がPAD4に結合するとは、PAD4特異的な結合を意味するが、PAD4(好ましくはヒトPAD4)に対する解離定数(KD)が低いものがさらに好ましく、上限値として例えば100pM以下、より好ましくは90pM以下、さらにより好ましくは80pM以下であり、下限値としては特に限定されないが、例えば20pM以上、より好ましくは30p以上、より好ましくは40pM以上であり得る。解離定数(KD)は、例えば、本明細書に記載の表面プラズモン共鳴(SPR)法により測定された値である。
【0033】
本発明の一実施形態に係る抗PAD4抗体は、PAD4の抗PAD4抗体活性を中和する。抗PAD4抗体の中和活性は、例えば、後述の実施例に示される、シトルリン化阻害試験によって評価できる。抗PAD4抗体を添加することで、PAD4によるシトルリン化が阻害される。本発明の抗PAD4抗体はPAD4によるシトルリン化活性を50%以上、より好ましくは80%以上、最も好ましくは90%以上中和することができる。
【0034】
本発明の一実施形態に係る抗PAD4抗体は保存(保管)安定性に優れている。保存安定性は一定期間保存後のPAD4との結合の低下により評価することができ、抗PAD4抗体のPAD4結合量は、具体的には、実施例5に記載の表面フラズモン共鳴装置を用いた抗原結合活性測定により測定することができる。本発明の一実施形態に係る抗PAD4抗体は、例えば、40℃で1カ月間保存したとき、該保存前の抗PAD4抗体又はその抗体断片が有するPAD4結合量に
比して、90%、93%、94%、95%、96%、97%以上のPAD4結合量を有し得る。
【0035】
本発明の抗PAD4抗体がPAD4に結合する際の結合部位は特に限定されないが、例えば、PAD4(例えば、配列番号29)の345、347、及び348位を含むエピトープに結合することが好ましい。
【0036】
本発明の抗PAD4抗体は、PAD4又はその部分断片を抗原として、該抗原をマウス等の哺乳動物やニワトリなどに免疫し、ハイブリドーマを作製して得られるモノクローナル抗体、遺伝子組換え技術を用いて製造されるキメラ抗体及びヒト化抗体、並びにヒト抗体産生トランスジェニック動物等を用いて製造されるヒト抗体等が含まれる。また、上記で得られた抗体を親和性成熟して得られた抗体も含む。例えば、親抗体は後述のG8を使用することができる。本発明の抗PAD4抗体又はその抗体断片を医薬としてヒトに投与する場合は、副作用の観点から、ヒト化抗体もしくはヒト抗体又はそれらの抗体断片が望ましい。
【0037】
抗原はそのまま免疫に使用してもよいし、キャリアタンパク質との複合体として用いてもよい。抗原とキャリアタンパク質の複合体の調製にはグルタルアルデヒド、カルボジイミド、マレイミド活性エステル等の縮合剤を用いることができる。キャリアタンパク質は牛血清アルブミン、サイログロブリン、ヘモシアニン、KLH等が例示される。
【0038】
免疫される動物としては、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ブタ、ヤギ、ウマあるいはウシなどの哺乳動物やニワトリが挙げられ、接種方法は皮下、筋肉あるいは腹腔内の投与が挙げられる。投与に際しては完全フロイントアジュバンドや不完全フロイントアジュバンドと混和して投与してもよく、投与は通常2~5週毎に1回ずつ行われる。免疫された動物の脾臓あるいはリンパ節から得られた抗体産生細胞は骨髄腫細胞と細胞融合させ、ハイブリドーマとして単離される。骨髄腫細胞としては動物由来、例えばマウス、ラット、ヒト、ニワトリ等由来のものが使用される。
【0039】
<モノクローナル抗体>
モノクローナル抗体は、具体的には下記のようにして取得することができる。即ち、前述のような抗原を免疫原とし、該免疫原を、必要に応じてフロイントアジュバント(Freund's Adjuvant)とともに、上記のような動物の皮下、筋肉内、静脈内、フッドパッド内あるいは腹腔内に1~数回注射するかあるいは移植することにより免疫感作を施す。通常、初回免疫から約1~14日毎に1~4回免疫を行って、最終免疫より約1~5日後に免疫感作された該動物から抗体産生細胞が取得される。
【0040】
モノクローナル抗体は、当業者に周知方法を用いて得ることができる(例えば、『Current Protocols in Molecular Biology』(John Wiley & Sons(1987))、Antibodies:A Laboratory Manual, Ed.Harlow and David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory(1988))。
【0041】
モノクローナル抗体を分泌する「ハイブリドーマ」の調製は、ケーラー及びミルシュタインらの方法(ネイチャー(Nature) , 256,495, 1975)及びそれに準じる修飾方法に従って行うことができる。即ち、免疫感作された動物から取得される脾臓等に含まれる抗体産生細胞と、動物、好ましくはマウス、ラット、ニワトリ又はヒト由来の自己抗体産生能のないミエローマ細胞を細胞融合させることにより調製される。
【0042】
細胞融合に用いられるミエローマ細胞としては、例えばマウス由来ミエローマP3/X63-AG8.653(653)、P3/NSI/1-Ag4-1(NS-1)、P3/X63-Ag8.U1(P3U1)、SP2/0-Ag14(Sp2/O、Sp2)、PAI、F0あるいはBW5147、ラット由来ミエローマ210RCY3-Ag.2.3.、ヒト由来ミエローマU-266AR1、GM1500-6TG-A1-2、UC729-6、CEM-AGR、D1R11あるいはCEM-T15等を使用することができる。
【0043】
融合促進剤としてはポリエチレングリコール等が挙げられ、通常には、20~50%程度の濃度のポリエチレングリコール(平均分子量1000~4000)を用いて20~40℃、好ましくは30~37℃の温度下、抗体産生細胞数と骨髄腫細胞数の比は通常1:1~10:1程度、約1~10分間程度反応させることにより細胞融合を実施することができる。
【0044】
モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマクローンのスクリーニングは、ハイブリドーマを、例えばマイクロタイタープレート中で培養し、ウェルの培養上清の免疫抗原に対する反応性をELISA等の免疫化学的方法によって測定することにより行うことができる。
【0045】
目的の抗体を産生するハイブリドーマを含むウェルから更に、限界希釈法によってクローニングを行い、クローンを得ることができる。ハイブリドーマの選別、育種は、通常、HAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン)を添加して、10~20%牛胎児血清を含む動物細胞用培地で行われる。
【0046】
ハイブリドーマからのモノクローナル抗体の製造は、ハイブリドーマをインビトロで培養するか、又はマウス、ラット、ニワトリ等の動物の腹水中等でのインビボで増殖させ、得られた培養上清、又は動物の腹水から単離することにより行うことができる。
【0047】
インビトロで培養する場合には、培養する細胞種の特性及び培養方法等の種々条件に合わせて、ハイブリドーマを増殖、維持及び保存させ、培養上清中にモノクローナル抗体を産生させるのに適した栄養培地を用いることが可能である。
【0048】
基本培地としては、例えば、Ham’F12培地、MCDB153培地あるいは低カルシウムMEM培地等の低カルシウム培地及びMCDB104培地、MEM培地、D-MEM培地、RPMI1640培地、ASF104培地あるいはRD培地等の高カルシウム培地等が挙げられ、該基本培地は、目的に応じて、例えば血清、ホルモン、サイトカイン及び/又は種々の無機あるいは有機物質等を含有させることができる。
【0049】
モノクローナル抗体の単離、精製は、上述の培養上清あるいは腹水を、飽和硫酸アンモニウム、ユーグロブリン沈澱法、カプロイン酸法、カプリル酸法、イオン交換クロマトグ
ラフィー(DEAE又はDE52等)、抗イムノグロブリンカラムあるいはプロテインAカラム等のアフィニティカラムクロマトグラフィーに供すること等により行うことができる。具体的には、モノクローナル抗体の精製は免疫グロブリンの精製法として既知の方法を用いればよく、たとえば、硫安分画法、PEG分画法、エタノール分画法、陰イオン交換体の利用、さらにPAD4を用いるアフィニティークロマトグラフィー等の手段により容易に達成することができる。
【0050】
モノクローナル抗体はファージディスプレイ法により取得することもできる。ファージディスプレイ法では、任意のファージ抗体ライブラリより選別したファージを、目的の免疫原を用いてスクリーニングを行い、免疫原に対する所望の結合性を有するファージを選択する。次に、ファージ内に含まれる抗体対応配列を単離又は配列決定し、単離された配列又は決定された配列情報に基づき、抗体又は抗原結合ドメインをコードする核酸分子を含む発現ベクターを構築する。そしてかかる発現ベクターをトランスフェクションされた細胞株を培養することにより、モノクローナル抗体を産生させることができる。ファージ抗体ライブラリとして、ヒト抗体ライブラリを用いることにより、所望の結合性を有するヒト抗体を生成することができる。
【0051】
本発明の抗PAD4抗体の好ましい態様としてキメラ抗体が挙げられる。「キメラ抗体」としては、可変領域が、非ヒト動物(マウス、ラット、ハムスター、ニワトリ等)のイムノグロブリン由来の可変領域であり、定常領域がヒトイムノグロブリン由来の定常領域である、キメラ抗体が例示される。例えば、抗原をマウスに免疫し、そのマウスモノクローナル抗体の遺伝子から抗原と結合する可変領域を切り出し、ヒト骨髄由来の抗体定常領域と結合して作製することができる。ヒトイムノグロブリン由来の定常領域は、IgG(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)、IgM、IgA(IgA1、IgA2)、IgD及びIgE等のアイソタイプにより各々固有のアミノ酸配列を有するが、本発明における組換キメラ抗体の定常領域はいずれのアイソタイプに属するヒトイムノグログリンの定常領域であってもよい。好ましくは、ヒトIgGの定常領域である。このように作製したキメラ抗体の遺伝子を用いて発現ベクターを作製することができる。該発現ベクターで宿主細胞を形質転換することによりキメラ抗体産生形質転換細胞を得、該形質転換細胞を培養することにより培養上清中から目的のキメラ化抗体を得る。
【0052】
本発明の抗PAD4抗体の別の好ましい態様としてヒト化抗体が挙げられる。本発明における「ヒト化抗体」は、マウス等の非ヒト動物抗体の抗原結合部位(CDR;相補性決定領域)のDNA配列だけをヒト抗体遺伝子に移植(CDRグラフティング)した抗体である。例えば、特表平4-506458号公報及び特許2912618号明細書等に記載の方法を参照して作製することができる。具体的には、そのCDRの一部又は全部が非ヒト動物(マウス、ラット、ハムスター、ニワトリ等)のモノクローナル抗体に由来するCDRであり、その可変領域のフレームワーク領域がヒトイムノグロブリン由来の可変領域のフレームワーク領域であり、かつその定常領域がヒトイムノグロブリン由来の定常領域であることを特徴とするヒト化抗体を意味する。
【0053】
本発明におけるヒト化抗体は、例えば以下のようにして製造することができる。しかしながら、そのような製造方法に限定されるものでないことは言うまでもない。
【0054】
抗体をヒト化する方法には、当該技術分野で既知の種々の手法を使用することができ(
例えば、Almagro et al., FRont Biosci. 2008 Jan 1;13:1619-1633.)、具体的には、例
えば、CDRグラフティング(Ozaki et al., Blood. 1999 Jun 1;93(11):3922-3930.)、Re-surfacing (roguska et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 1994 Feb 1;91(3):969-973.)、又はFRシャッフル(Damschroder et al., Mol Immunol. 2007 Apr;44(11):3049-3060. Epub 2007 Jan 22.)などが挙げられる。抗原結合を改変又は改善するために、ヒトFR領域のアミノ酸残基を、CDRドナー抗体からの対応する残基と置換してもよい。このFR置換は、当該技術分野で周知の方法によって実施可能である(Riechmann et al., Nature. 1988 Mar 24;332(6162):323-327.)。例えば、CDRとFR残基の相互作用のモデリングによって抗原結合に重要なFR残基を同定してもよい。又は、配列比較によって、特定の位置で異常なFR残基を同定してもよい。なお、Nishibori et al., Mol Immunol. 2006 Feb;43(6): 634-42に記載の方法でヒト化してもよい。
【0055】
単離したマウス重鎖CDR部分のDNAを移植したヒト重鎖遺伝子を発現可能なように適当な発現ベクターに導入し、同様にマウス軽鎖CDR部分のDNAを移植したヒト軽鎖遺伝子を発現可能なように適当なもう1つの発現ベクターに導入する。又は、マウスのCDRを移植したヒトの重鎖及び軽鎖遺伝子を同一の発現ベクターに発現可能なように導入することもできる。このようにして作製された発現ベクターで宿主細胞を形質転換することによりヒト化抗体産生形質転換細胞を得、該形質転換細胞を培養することにより培養上清中から目的のヒト化抗体を得る。
【0056】
本発明の抗PAD4抗体の別の好ましい態様としてヒト抗体が挙げられる。ヒト抗体とは、イムノグロブリンを構成する重鎖の可変領域及び重鎖の定常領域並びに軽鎖の可変領域及び軽鎖の定常領域を含むすべての領域がヒトイムノグロブリンをコードする遺伝子に由来するイムノグロブリンとなっている抗体であって、ヒト抗体遺伝子をマウスに導入して作製することができる。具体的には、例えば、少なくともヒトイムノグロブリン遺伝子をマウスやニワトリ等のヒト以外の動物の遺伝子座中に組込むことにより作製されたトランスジェニック動物を、抗原で免疫感作することにより、前述したモノクローナル抗体の作製法と同様にして製造することができる。
【0057】
例えば、ヒト抗体を産生するトランスジェニックマウスは、Nature Genetics, Vol.7, p.13-21, 1994;Nature Genetics, Vol.15, p.146-156, 1997;特表平4-504365号公報;
特表平7-509137号公報;国際公開第94/25585号パンフレット;Nature, Vol.368,
p.856-859, 1994;及び特表平6-500233号公報等に記載の方法に従って作製することができる。より具体的には、HuMab(登録商標)マウス(Medarex, Princeton NJ)
、KMTMマウス (Kirin Pharma Company, Japan)、KM(FCγRIIb-KO)マウス
等が挙げられる。
【0058】
本発明のモノクローナル抗体として具体的には、
a)HCDR1が配列番号1のアミノ酸配列からなり、HCDR2が配列番号7のアミノ酸配列からなり、HCDR3が配列番号11のアミノ酸配列からなり、LCDR1が配列番号4のアミノ酸配列からなり、LCDR2が配列番号5のアミノ酸配列からなり、LCDR3が配列番号13のアミノ酸配列からなる、抗PAD4抗体、
b)HCDR1が配列番号1のアミノ酸配列からなり、HCDR2が配列番号8のアミノ酸配列からなり、HCDR3が配列番号11のアミノ酸配列からなり、LCDR1が配列番号4のアミノ酸配列からなり、LCDR2が配列番号5のアミノ酸配列からなり、LCDR3が配列番号13のアミノ酸配列からなる、抗PAD4抗体、
c)HCDR1が配列番号1のアミノ酸配列からなり、HCDR2が配列番号9のアミノ酸配列からなり、HCDR3が配列番号12のアミノ酸配列からなり、LCDR1が配列番号4のアミノ酸配列からなり、LCDR2が配列番号5のアミノ酸配列からなり、LCDR3が配列番号14のアミノ酸配列からなる、抗PAD4抗体、
d)HCDR1が配列番号1のアミノ酸配列からなり、HCDR2が配列番号10のアミノ酸配列からなり、HCDR3が配列番号11のアミノ酸配列からなり、LCDR1が配列番号4のアミノ酸配列からなり、LCDR2が配列番号5のアミノ酸配列からなり、LCDR3が配列番号15のアミノ酸配列からなる、抗PAD4抗体、及び
e)HCDR1が配列番号1のアミノ酸配列からなり、HCDR2が配列番号24のアミノ酸配列から
なり、HCDR3が配列番号11のアミノ酸配列からなり、LCDR1が配列番号4のアミノ酸配列からなり、LCDR2が配列番号5のアミノ酸配列からなり、LCDR3が配列番号25のアミノ酸配列からなる、抗PAD4抗体であって、重鎖の84番目のアミノ酸に相当するアミノ酸がセリンである抗PAD4抗体、
等が挙げられる。
上記a)~d)に記載の抗体はPAD4に対する結合親和性が著しく向上したものであり、また、上記a)~d)に記載の抗体はPAD4に対する結合活性の保存安定性が向上したものであり、上記e)に記載の抗体は切断が抑制され、化学的安定性が著しく向上したものであり
、上記a)~d)に記載の抗体は上記e)に記載の抗体と同等の、高い化学的安定性を有するものである。
【0059】
なお上記a)~e)に記載のアミノ酸配列は、後述の実施例に記載の2-1-47、3-1-39、3-2-37、4-2-25、及びG8ssの抗体が有する各CDRのアミノ酸配列に対応している。
即ち、2-1-47の重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、及び3のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号1、配列番号7、配列番号11、配列番号4、配列番号5、及び配列番号13で示されるアミノ酸配列である。
3-1-39の重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、及び3のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号1、配列番号8、配列番号11、配列番号4、配列番号5、及び配列番号13で示されるアミノ酸配列である。
3-2-37の重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、及び3のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号1、配列番号9、配列番号12、配列番号4、配列番号5、及び配列番号14で示されるアミノ酸配列である。
4-2-25の重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、及び3のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号1、配列番号10、配列番号11、配列番号4、配列番号5、及び配列番号15で示されるアミノ酸配列である。
G8ssの重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、及び3のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号1、配列番号24、配列番号11、配列番号4、配列番号5、及び配列番号25で示されるアミノ酸配列である。
【0060】
上記a)の抗PAD4抗体は、PAD4との結合能(好ましくは、PAD4に対するKD値が100pM以下、より好ましくは90pM以下、さらにより好ましくは80pM以下)を有し、PAD4のシトルリン化活性を中和するという特性が維持する限り、重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、及び3のアミノ酸配列として、それぞれ配列番号1、配列番号7、配列番号11、配列番号4、配列番号5、及び配列番号13で示されるアミノ酸配列を含むものであってもよい。
上記b)の抗PAD4抗体は、PAD4との結合能(好ましくは、PAD4に対するKD値が100pM以下、より好ましくは90pM以下、さらにより好ましくは80pM以下)を有し、PAD4のシトルリン化活性を中和するという特性が維持する限り、重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、及び3のアミノ酸配列として、それぞれ配列番号1、配列番号8、配列番号11、配列番号4、配列番号5、及び配列番号13で示されるアミノ酸配列を含むものであってもよい。
上記c)の抗PAD4抗体は、PAD4との結合能(好ましくは、PAD4に対するKD値が100pM以下、より好ましくは90pM以下、さらにより好ましくは80pM以下)を有し、PAD4のシトルリン化活性を中和するという特性が維持する限り、重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、及び3のアミノ酸配列として、それぞれ配列番号1、配列番号9、配列番号12、配列番号4、配列番号5、及び配列番号14で示されるアミノ酸配列を含むものであってもよい。
上記d)の抗PAD4抗体は、PAD4との結合能(好ましくは、PAD4に対するKD値が100pM以下、より好ましくは90pM以下、さらにより好ましくは80pM以下)を有し、PAD4のシトルリン化活性を中和するという特性が維持する限り、重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、
2、及び3のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号1、配列番号10、配列番号11、配列番号4、配列番号5、及び配列番号15で示されるアミノ酸配列を含むものであってもよい。
上記e)の抗PAD4抗体は、PAD4との結合能(好ましくは、PAD4に対するKD値が100pM以下、より好ましくは90pM以下、さらにより好ましくは80pM以下)を有し、PAD4のシトルリン化活性を中和するという特性が維持する限り、重鎖CDR1、2、3、軽鎖CDR1、2、及び3のアミノ酸配列として、それぞれ配列番号1、配列番号24、配列番号11、配列番号4、配列番号5、及び配列番号25で示されるアミノ酸配列を含むものであってもよい。
【0061】
本発明の一実施形態に係る抗PAD4抗体は、PAD4との結合能(好ましくは、PAD4に対するKD値が100pM以下、より好ましくは90pM以下、さらにより好ましくは80pM以下)を有し、PAD4のシトルリン化活性を中和するという特性が維持する限り、重鎖CDR1が配列番号1で示されるアミノ酸配列を含むものであってもよく、重鎖CDR2が配列番号2で示されるアミノ酸配列を含むものであってもよく、重鎖CDR3が配列番号3で示されるアミノ酸配列を含むものであってもよく、軽鎖CDR1が配列番号4で示されるアミノ酸配列を含むものであってもよく、軽鎖CDR2が配列番号5で示されるアミノ酸配列を含むものであってもよく、軽鎖CDR3が配列番号6で示されるアミノ酸配列を含むものであってもよい。
なお、配列番号2で示されるアミノ酸配列においては、11位のアミノ酸がTyr、ThrまたはIleであり、12位のアミノ酸がGly、SerまたはProであり、13位のアミノ酸がThr、Val、TyrまたはProであり、14位のアミノ酸がProまたはAsnであり、15位のアミノ酸がTyr、Ala、GlnまたはLeuであり、17位のアミノ酸がGly、ThrまたはSerであり、各位置でのアミノ酸が上記のアミノ酸から選ばれる任意の組み合わせであるアミノ酸配列を含む。
なお、配列番号3で示されるアミノ酸配列においては、1位のアミノ酸がAlaまたはGlyであり、具体的には配列番号11および12のアミノ酸配列を含む。
なお、配列番号6で示されるアミノ酸配列においては、4位のアミノ酸がThr、LeuまたはTyrであり、具体的には配列番号13、14および15のアミノ酸配列を含む。
【0062】
本発明の一実施形態に係る抗PAD4抗体は、PAD4との結合能(好ましくは、PAD4に対するKD値が100pM以下、より好ましくは90pM以下、さらにより好ましくは80pM以下)を有し、PAD4のシトルリン化活性を中和するという特性が維持する限り、重鎖CDR1が配列番号1で示されるアミノ酸配列を含むものであってもよく、重鎖CDR2が配列番号7~10のいずれかで示されるアミノ酸配列を含むものであってもよく、重鎖CDR3が配列番号11又は12で示されるアミノ酸配列を含むものであってもよく、軽鎖CDR1が配列番号4で示されるアミノ酸配列を含むものであってもよく、軽鎖CDR2が配列番号5で示されるアミノ酸配列を含むものであってもよく、軽鎖CDR3が配列番号13~15のいずれかで示されるアミノ酸配列を含むものであってもよい。
【0063】
なお、PAD4との結合能(好ましくは、PAD4に対するKD値が100pM以下、より好ましくは90pM以下、さらにより好ましくは80pM以下)を有し、PAD4のシトルリン化活性を中和するという本発明の抗PAD4抗体の特性が維持される限り、これらのCDRの1つ以
上において、1~数個のアミノ酸が置換されてもよい。ここで、1~数個とは、例えば、1個、2個、又は3個である。なお、該アミノ酸置換は本発明の特性を維持するために保存的置換であることが好ましい。ここで「保存的置換」とは、ペプチドの活性を実質的に改変しないように、アミノ酸残基を、別の化学的に類似したアミノ酸残基で置換えることを意味する。例えば、ある疎水性残基を別の疎水性残基によって置換する場合、ある極性残基を同じ電荷を有する別の極性残基によって置換する場合等が挙げられる。このような置換を行うことができる機能的に類似のアミノ酸の例として、非極性(疎水性)アミノ酸
としては、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、プロリン、トリプトファン、フェニルアラニン、メチオニン等が挙げられる。極性(中性)アミノ酸としては、グリシン、セリン、スレオニン、チロシン、グルタミン、アスパラギン、システイン等が挙げられる。陽電荷をもつ(塩基性)アミノ酸としては、アルギニン、ヒスチジン、リジン等が挙げられる。また、負電荷をもつ(酸性)アミノ酸としては、アスパラギン酸、グルタミン酸等が挙げられる。抗体の特性が維持されるとは、これらの特性がCDRのアミノ酸配列改変前と比較して同程度、例えば、80%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上に維持されることをいう。なお、維持は向上も含む。
【0064】
CDR以外の領域は抗体としての構造を維持し、機能を発揮できる配列であれば特に制限
されず、マウス由来の配列、ヒト由来の配列、他の哺乳動物由来の配列、ニワトリ由来の配列、それらのキメラ配列、人工配列のいずれであってもよい。定常領域を含む場合においては、重鎖及び軽鎖の定常領域のアミノ酸配列は、Nucleic Acids Research vol.14, p1779, 1986、The Journal of Biological Chemistry vol.257, p1516, 1982 及びCell vol.22, p197, 1980 に記載のものが例示される。
【0065】
CDR以外の領域を改変としたものとして、本発明の好ましい一実施形態としては、抗体
の重鎖(例えば、配列番号26)の84番目のアミノ酸に相当するアミノ酸(通常、アスパラギン)が、セリンである抗体が挙げられる。ここで「相当するアミノ酸」とは、目的アミノ酸配列を配列番号26とアラインメントしたときに、配列番号26の84番目のアミノ酸であるアスパラギンの位置に存在するアミノ酸(通常、アスパラギン)をいう。このような本発明の一実施形態の抗PAD4抗体は、抗体の化学的安定性、具体的には、生成時に生じる切断の抑制に優れている。切断の抑制は、ペプチドマッピングによる重鎖の84番目のアスパラギン残基と85番目のセリン残基の間で切断される抗体量の低下により評価することができ、具体的には、例えば、実施例1に記載された方法で切断ペプチドの量を測定することで評価することができる。本発明の一実施形態にかかる生成時に生じる切断の抑制に優れた抗PAD4抗体は、例えば、4℃で2週間保存したとき、切断された抗体が該保存前の抗体に比して、3%、2%、1%以下であり得る。
【0066】
さらに、CDR以外をヒト由来としたヒト化抗体も例示される。このようなヒト化抗体と
しては、
a)重鎖可変領域及び軽鎖可変領域が、それぞれ配列番号16のアミノ酸番号1~120のアミノ酸配列及び配列番号17のアミノ酸番号1~105のアミノ酸配列からなる、又は同アミノ酸配列を含む抗PAD4抗体、
b)重鎖可変領域及び軽鎖可変領域が、それぞれ配列番号18のアミノ酸番号1~120のアミノ酸配列及び配列番号19のアミノ酸番号1~105のアミノ酸配列からなる、又は同アミノ酸配列を含む抗PAD4抗体、
c)重鎖可変領域及び軽鎖可変領域が、それぞれ配列番号20のアミノ酸番号1~120のアミノ酸配列及び配列番号21のアミノ酸番号1~105のアミノ酸配列からなる、又は同アミノ酸配列を含む抗PAD4抗体、
d)重鎖可変領域及び軽鎖可変領域が、それぞれ配列番号22のアミノ酸番号1~120のアミノ酸配列及び配列番号23のアミノ酸番号1~105のアミノ酸配列からなる、又は同アミノ酸配列を含む抗PAD4抗体、及び
e)重鎖可変領域及び軽鎖可変領域が、それぞれ配列番号26のアミノ酸番号1~120のアミノ酸配列及び配列番号27のアミノ酸番号1~105のアミノ酸配列からなる、又は同アミノ酸配列を含む抗PAD4抗体、
からなる群から選ばれる1種以上の抗体が例示される。
【0067】
または、本発明の一実施形態に係る抗PAD4抗体は、
a)重鎖及び軽鎖が、それぞれ配列番号16及び17で示されるアミノ酸配列からなる、又
は同アミノ酸配列を含む抗PAD4抗体、
b)重鎖及び軽鎖が、それぞれ配列番号18及び19で示されるアミノ酸配列からなる、又は同アミノ酸配列を含む抗PAD4抗体、
c)重鎖及び軽鎖が、それぞれ配列番号20及び21で示されるアミノ酸配列からなる、又は同アミノ酸配列を含む抗PAD4抗体、
d)重鎖及び軽鎖が、それぞれ配列番号22及び23で示されるアミノ酸配列からなる、又は同アミノ酸配列を含む抗PAD4抗体、及び
e)重鎖及び軽鎖が、それぞれ配列番号26及び27で示されるアミノ酸配列からなる、又は同アミノ酸配列を含む抗PAD4抗体、
からなる群から選ばれる1種以上の抗体であってもよい。
【0068】
なお、ヒト化抗体のアミノ酸配列の重鎖可変領域及び/又は軽鎖可変領域においては、PAD4との結合能(好ましくは、PAD4に対するKD値が100pM以下、より好ましくは90pM以下、さらにより好ましくは80pM以下)を有し、PAD4のシトルリン化活性を中和するという特性が維持される限り、1又は数個のアミノ酸(1~20個、1~10個又は1~5個)の置換、欠失、付加又は挿入があってもよい。このような置換、欠失、付加はCDRに導入されてもよいが、CDR以外の領域に導入されることが好ましい。また、該アミノ酸置換は本発明の特性を維持するために保存的置換であることが好ましい。
【0069】
前記の重鎖可変領域及び/又は軽鎖可変領域において置換、欠失等が含まれた本発明の抗PAD4抗体のアミノ酸配列は、重鎖可変領域が、配列番号16のアミノ酸番号1~120のアミノ酸配列、配列番号18のアミノ酸番号1~120のアミノ酸配列、配列番号20のアミノ酸番号1~120のアミノ酸配列、配列番号22のアミノ酸番号1~120のアミノ酸配列又は配列番号26のアミノ酸番号1~120のアミノ酸配列と90%以上(より好ましくは95%、96%、97%、98%、99%以上、)の同一性を有するアミノ酸配列であり得、軽鎖可変領域が、配列番号17のアミノ酸番号1~105のアミノ酸配列、配列番号19のアミノ酸番号1~105のアミノ酸配列、配列番号21のアミノ酸番号1~105のアミノ酸配列、配列番号23のアミノ酸番号1~105のアミノ酸配列又は配列番号27のアミノ酸番号1~105のアミノ酸配列と90%以上(より好ましくは95%、96%、97%、98%、99%以上)の同一性を有するアミノ酸配列であり得る。
【0070】
本発明の抗PAD4抗体はまた、PAD4との結合能(好ましくは、PAD4に対するKD値が100pM以下、より好ましくは90pM以下、さらにより好ましくは80pM以下)を有し、PAD4のシトルリン化活性を中和するという特性が維持される限り、重鎖が配列表の配列番号16,18,20,22,26と90%以上(より好ましくは95%、96%、97%、98%、99%以上、)の同一性を有するアミノ酸配列であり得、軽鎖が配列表の配列番号17,19,21,23,27と90%以上(より好ましくは95%、96%、97%、98%、99%以上)の同一性を有するアミノ酸配列を有する抗PAD4抗体であり得る。
【0071】
本発明の抗PAD4抗体には、上記特定のアミノ酸配列からなるCDR、又は上記特定のアミノ酸配列からなる可変領域を有するマルチスペシフィック抗体、機能改変抗体、コンジュゲート抗体が含まれる。
【0072】
本発明の抗PAD4抗体は、それ自体にPAD4以外の別の抗原結合特異性を有する抗体を遺伝子工学的な手法により結合することにより、バイスペシフィック抗体等のマルチスペシフィック抗体を作製することができる。該遺伝子工学的な手法はこの分野において既に確立されている。例えば、可変領域を直列に連結したDVD-Ig(Wuら、Nature Biotechnology 25(11), 1290(2007))や、抗体のFc領域を改変することにより、異なった抗原に結合する2種類の抗体の重鎖が組み合わされるART-Igの技術(Kitazawaら、Nature Medicine 18(10), 1570(2012))を利用すれば所望のバイスペシフィック抗体が取得できる。
【0073】
本発明の抗PAD4抗体の改変分子として機能改変抗体が挙げられる。機能改変抗体は、抗体配列、糖鎖等を改変することにより、細胞殺傷機能や補体活性化機能、血中半減期延長機能等の機能を改変した抗体を意味する(設楽研也、藥學雜誌、2009、Vol.129(1), p3;石井明子ら、日本薬理學雜誌、2010、Vol.136(5), p280;橋口周平ら、生化学、2010、Vol.82(8),p710)。
【0074】
抗PAD4抗体の機能改変抗体は、以下のような方法で調製される。例えば、本発明抗PAD4抗体を、宿主細胞としてα1,6―フコース転移酵素(FUT8)遺伝子を破壊したCHO細胞を用いて製造すると、糖鎖のフコース含量が低下して細胞殺傷機能が高まった抗体が得られ、FUT8遺伝子を導入したCHO細胞を宿主細胞として製造すると、細胞殺傷機能が低い抗体が得られる(国際公開第2005/035586号、国際公開第2002/31140号、国際公開第00/61739号)。また、Fc領域のアミノ酸残基を改変することで補体活性化機能を調節することができる(米国特許第6737056号、米国特許第7297775号、米国特許第7317091号)。さらに、Fc受容体の1つであるFcRnへの結合を高めたFc領域の変異体を使用することにより、血中半減期の延長を図ることができる(橋口周平ら、生化学、2010、Vol.82(8), p710)。これら
の機能改変抗体は、遺伝子工学的に製造することができる。
【0075】
本発明の抗PAD4抗体の改変分子としてコンジュゲート抗体が挙げられる。コンジュゲート抗体としては、抗PAD4抗体にポリエチレングリコール(PEG)等の非ペプチド性ポリマー、放射性物質、毒素、低分子化合物、サイトカイン、成長因子、アルブミン、酵素、他の抗体等の本発明の抗PAD4抗体以外の機能分子を化学的又は遺伝子工学的に結合したコンジュゲート抗体があげられる。
【0076】
機能分子としてPEGを結合する場合、通常用いられるものであればよく、、直鎖型でもよく、ブランチ型のものでもよい。PEGは、例えばNHS活性基を用いることにより、抗体のアミノ基等に結合することができる。
【0077】
機能分子として放射性物質を用いる場合、131I、125I、90Y、64Cu、99Tc、77Lu又は211At等が用いられる。放射性物質は、ク口ラミンT法等によって抗体に直接結
合させることができる。
【0078】
機能分子として、酵素を用いる場合、ルシフェラーゼ(例えば、ホタルルシフェラーゼ及び細菌ルシフェラーゼ;米国特許第4737456号)、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、ウレアーゼ、ペルオキシダーゼ(例えば、西洋わさびペルオキシダーゼ(HRPO))、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、リゾチーム、サッカライドオキシダーゼ(例えば、グルコースオキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼ、及びグルコース-6-ホスフェートデヒドロゲナーゼ)、複素環式オキシダーゼ(例えば、ウリカーゼ及びキサンチンオキシダーゼ等)、ラクトペルオキシダーゼ、マイクロペルオキシダーゼ等が用いられる。
【0079】
毒素、低分子化合物又は酵素を化学的に結合する時に使用するリンカーとしては、二価ラジカル(例えば、アルキレン、アリーレン、ヘテロアリーレン)、-(CR2)nO(
CR2)n-(Rは任意の置換基、nは正の整数)で表されるリンカーやアルコキシの反
復単位(例えば、ポリエチレンオキシ、PEG、ポリメチレンオキシ等)及びアルキルアミノ(例えば、ポリエチレンアミノ、JeffamineTM)、並びに、二酸エステル
及びアミド(スクシネート、スクシンアミド、ジグリコレート、マロネート及びカプロアミド等が挙げられる)が挙げられる。機能分子を結合させる化学的修飾方法はこの分野において既に確立されている (D.J.King., Applications and Engineering of Monoclonal antibodies., 1998 T.J. International Ltd, Monoclonal Antibody-Based Therapy of Cancer., 1998 Marcel Dekker Inc; Chari et al., Cancer Res., 1992 Vol152:127; Liu et al., Proc Natl Acad Sci USA., 1996 Vol 93:8681)。
【0080】
本発明における抗体の「抗原結合断片」とは、前述のような抗体の、抗原結合性を有する一部分の領域を意味し、具体的にはF(ab')2 、Fab'、Fab 、Fv(variable fragment of antibody)、ジスルフィド結合Fv、一本鎖抗体(scFv)、及びこれらの重合体
等が挙げられ、さらに、抗原結合断片にはポリエチレングリコール(PEG)等の非ペプチド性ポリマー、放射性物質、毒素、低分子化合物、サイトカイン、成長因子(TGF-β、NGF、Neurotrophin等)、アルブミン、酵素、他の抗体等の本発明の抗PAD4抗体
以外の機能分子を化学的又は遺伝子工学的に結合しているコンジュゲート抗原結合断片が含まれる。
【0081】
ここで、「F(ab')2」及び「Fab」とは、イムノグロブリンを、蛋白分解酵素であるペプシンあるいはパパイン等で処理することにより製造され、ヒンジ領域中の2本の重鎖間に存在するジスルフィド結合の前後で消化されて生成される抗体フラグメントを意味する。例えば、IgGをパパインで処理すると、ヒンジ領域中の2本の重鎖間に存在するジスルフィド結合の上流で切断されてVL(軽鎖可変領域)とCL(軽鎖定常領域)からなる軽鎖、及びVH(重鎖可変領域)とCHγ1(重鎖定常領域中のγ1領域)とからなる重鎖フラグメントがC末端領域でジスルフィド結合により結合した相同な2つの抗体フラグメントを製造することができる。これら2つの相同な抗体フラグメントを各々Fabという。ま
たIgGをペプシンで処理すると、ヒンジ領域中の2本の重鎖間に存在するジスルフィド結合の下流で切断されて前記2つのFabがヒンジ領域でつながったものよりやや大きい抗
体フラグメントを製造することができる。この抗体フラグメントをF(ab')2という。
【0082】
本発明の抗PAD4抗体の抗原結合断片の改変分子としてコンジュゲート抗原結合断片が挙げられる。コンジュゲート抗原結合断片としては、抗PAD4抗体の抗原結合性を有する一部分の領域にポリエチレングリコール(PEG)等の非ペプチド性ポリマー、放射性物質、毒素、低分子化合物、サイトカイン、成長因子、アルブミン、酵素、他の抗体等の本発明の抗PAD4抗体以外の機能分子を化学的又は遺伝子工学的に結合したコンジュゲート抗原結合断片があげられる。
【0083】
機能分子としてPEGを結合する場合、通常用いられるものであればよく、直鎖型でもよく、ブランチ型のものでもよい。PEGは、例えばNHS活性基を用いることにより、抗PAD4抗体のアミノ基等に結合することができる。
【0084】
機能分子として放射性物質を用いる場合、131I、125I、90Y、64Cu、99Tc、77Lu又は211At等が用いられる。放射性物質は、ク口ラミンT法等によって抗PAD4抗体の
抗原結合性を有する一部分の領域に直接結合させることができる。
【0085】
機能分子として、酵素を用いる場合、ルシフェラーゼ(例えば、ホタルルシフェラーゼ及び細菌ルシフェラーゼ;米国特許第4737456号)、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、ウレアーゼ、ペルオキシダーゼ(例えば、西洋わさびペルオキシダーゼ(HRPO))、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、リゾチーム、サッカライドオキシダーゼ(例えば、グルコースオキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼ、及びグルコース-6-ホスフェートデヒドロゲナーゼ)、複素環式オキシダーゼ(例えば、ウリカーゼ及びキサンチンオキシダーゼ等)、ラクトペルオキシダーゼ、マイクロペルオキシダーゼ等が用いられる。
【0086】
毒素、低分子化合物又は酵素を化学的に結合する時に使用するリンカーとしては、二価ラジカル(例えば、アルキレン、アリーレン、ヘテロアリーレン)、-(CR2)nO(
CR2)n-(Rは任意の置換基、nは正の整数)で表されるリンカーやアルコキシの反
復単位(例えば、ポリエチレンオキシ、PEG、ポリメチレンオキシ等)及びアルキルアミノ(例えば、ポリエチレンアミノ、JeffamineTM)、並びに、二酸エステル及びアミド(スクシネート、スクシンアミド、ジグリコレート、マロネート及びカプロアミド等が挙げられる)が挙げられる。機能分子を結合させる化学的修飾方法はこの分野において既に確立されている (D.J.King., Applications and Engineering of Monoclonal antibodies., 1998 T.J. International Ltd, Monoclonal Antibody-Based Therapy of Cancer., 1998 Marcel Dekker Inc; Chari et al., Cancer Res., 1992 Vol152:127; Liu et al., Proc Natl Acad Sci USA., 1996 Vol 93:8681)。
【0087】
本発明の、特定のアミノ酸配列を有するCDR又は可変領域を含む抗PAD4抗体は、血中半減期を長く維持したいとから該定常領域がヒトIgG(IgG1,IgG2、IgG3、IgG4)の定常領域であることが好ましい。
【0088】
本発明の抗PAD4抗体およびその抗原結合断片には、PAD4との結合能(好ましくは、PAD4に対するKD値が100pM以下、より好ましくは90pM以下、さらにより好ましくは80pM以下)を有し、PAD4のシトルリン化活性を中和するという特性が維持される限り、上記のような特定のCDRのアミノ酸配列を有する抗体と、PAD4との結合において競合する抗PAD4抗体、及びその抗原結合断片も含まれる。上記のような特定のCDRのアミノ酸配列を有する抗体とPAD4との結合において競合する抗体としては、PAD4の345、347、及び348位を含む領域にエピトープを有する抗体が例示される。ただし、G8抗体は含まれない。
該抗体は、上記のようなCDR配列を有する抗体とPAD4との結合系において、共存させる
ことにより、取得(スクリーニング)したり、評価したりすることができる。例えば、国際公開第2016/175236号記載の表面プラズモン共鳴(SPR)法によりスクリーニングすることにより取得できる。
【0089】
上記の特定のCDRのアミノ酸配列を含む抗PAD4抗体に対し、PAD4との結合が競合する、抗PAD4抗体は、マウス抗体、ヒト抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、ヤギ抗体、ラクダ抗体等、任意の動物由来の抗体であってもよいし、これらの抗体の組み合わせであるキメラ抗体やヒト化抗体であってもよいが、キメラ抗体、ヒト化抗体、又はヒト抗体であることが好ましい。
【0090】
本発明における抗PAD4抗体又はその抗体断片は、例えば、本発明の抗PAD4抗体又はその抗体断片をコードする下記の核酸分子を含む組換えベクターを含む形質転換体(宿主)細胞を用いて製造することができる。
【0091】
<核酸分子>
本発明の一実施形態は、本発明の抗PAD4抗体またはその抗体断片をコードするポリヌクレオチドである核酸分子である。上述したCDR、可変領域、または全長のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする核酸分子であれば特に制限されないが、例として、
a)重鎖可変領域及び軽鎖可変領域である、配列番号16のアミノ酸番号1~120のアミノ酸配列及び配列番号17のアミノ酸番号1~105のアミノ酸配列、
b)重鎖可変領域及び軽鎖可変領域である、配列番号18のアミノ酸番号1~120のアミノ酸配列及び配列番号19のアミノ酸番号1~105のアミノ酸配列、
c)重鎖可変領域及び軽鎖可変領域である、配列番号20のアミノ酸番号1~120のアミノ酸配列及び配列番号21のアミノ酸番号1~105のアミノ酸配列、
d)重鎖可変領域及び軽鎖可変領域である、配列番号22のアミノ酸番号1~120のアミノ酸配列及び配列番号23のアミノ酸番号1~105のアミノ酸配列、及び
e)重鎖可変領域及び軽鎖可変領域である、配列番号28のアミノ酸番号1~120のアミノ酸配列及び配列番号27のアミノ酸番号1~105のアミノ酸配列をそれぞれコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。
【0092】
本発明の核酸分子の他の例として、
a)重鎖及び軽鎖である、配列番号16及び17で示されるアミノ酸配列、
b)重鎖及び軽鎖である、配列番号18及び19で示されるアミノ酸配列、
c)重鎖及び軽鎖である、配列番号20及び21で示されるアミノ酸配列、
d)重鎖及び軽鎖である、配列番号22及び23で示されるアミノ酸配列、及び
e)重鎖及び軽鎖である、配列番号28及び27で示されるアミノ酸配列をそれぞれコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。
【0093】
本発明の核酸分子の他の例として、
抗PAD4抗体の重鎖全長である、配列番号32で示される塩基配列、および抗PAD4抗体の軽鎖全長である、配列番号33で示される塩基配列を含むポリヌクレオチド、
抗PAD4抗体の重鎖全長である、配列番号34で示される塩基配列、および抗PAD4抗体の軽鎖全長である、配列番号35で示される塩基配列を含むポリヌクレオチド、
抗PAD4抗体の重鎖全長である、配列番号36で示される塩基配列、および抗PAD4抗体の軽鎖全長である、配列番号37で示される塩基配列を含むポリヌクレオチド、
抗PAD4抗体の重鎖全長である、配列番号38で示される塩基配列、および抗PAD4抗体の軽鎖全長である、配列番号39で示される塩基配列を含むポリヌクレオチド、
抗PAD4抗体の重鎖全長である、配列番号40で示される塩基配列、および抗PAD4抗体の軽鎖全長である、配列番号31で示される塩基配列を含むポリヌクレオチド、
が挙げられる。
【0094】
なお、本発明の核酸分子は、PAD4 との結合能を有し、PAD4のシトルリン化活性を中和
するモノクローナル抗体をコードする限り、重鎖可変領域又は軽鎖可変領域の塩基配列の相補鎖DNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドを含むも
のであってもよい。ここで、ストリンジェントな条件としては、例えば、サザンハイブリダイゼーションの後、68℃、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度で洗浄を行う条件が挙げられる。
【0095】
本発明の核酸分子は、重鎖と軽鎖の定常領域と可変領域の全てをコードするものであってもよいが、重鎖と軽鎖の可変領域のみをコードするものであってもよい。定常領域と可変領域の全てをコードする場合における重鎖及び軽鎖の定常領域の塩基配列は、Nucleic Acids Research vol.14, p1779, 1986、The Journal of Biological Chemistry vol.257,
p1516, 1982 及びCell vol.22, p197, 1980 に記載のものが好ましい。
【0096】
国際公開第2016/143753号に記載されたヒト化抗PAD4抗体G8の重鎖および軽鎖の全長を
コードする塩基配列を配列番号30および31に示す。例えば、この塩基配列を改変することで本発明の抗PAD4抗体またはその抗体断片をコードする核酸分子を得ることが可能である。
【0097】
また、本発明の核酸分子は、例えば、以下の方法によって得ることができる。まず、ハイブリドーマ等の細胞から、市販のRNA抽出キットを用いて全RNAを調製し、ランダムプライマー等を用い、逆転写酵素によりcDNAを合成する。次いで、既知のヒト抗体重鎖遺伝子、軽鎖遺伝子の可変領域において、それぞれ保存されている配列のオリゴヌクレオチドをプライマーに用いたPCR法によって、抗体をコードするcDNAを増幅させ
る。定常領域をコードする配列については、既知の配列をPCR法で増幅することによって得ることができる。DNAの塩基配列は、配列決定用プラスミドに組み込む等して、常法により決定することができる。
あるいは、可変領域又はその一部の配列を化学合成し、定常領域を含む配列に結合することによっても本発明のモノクローナル抗体をコードするDNAを得ることができる。
【0098】
本発明はまた、本発明の核酸分子を含む組換えベクター及び該組換えベクターを含む形質転換体(宿主細胞)を提供する。
組換えベクターとしては、大腸菌(Echerichia coli)のような原核細胞において発現
可能なベクター(例えば、pBR322、pUC119又はこれらの派生物)であってもよいが、真核細胞において発現可能なベクターが好ましく、哺乳動物由来の細胞において発現可能なベクターがより好ましい。哺乳動物由来の細胞において発現可能なベクターとしては、例えば、pcDNA3.1(Invitrogen社製)、pConPlus、pcDM8、pcDNA I/Amp、pcDNA3.1、pREP4のようなプラスミドベクター、pDON-AI DNA(宝バ
イオ社製)等のウイルスベクターを挙げることができる。重鎖コード配列と軽鎖コード配列を含む1つのベクターでもよいし、重鎖コード配列含むベクターと軽鎖コード配列を含むベクターの2つのベクターでもよい。
【0099】
本発明の組換えベクターを導入する形質転換体は、大腸菌、枯草菌のような原核細胞であってもよいが、真核細胞が好ましく、哺乳動物由来の細胞がより好ましい。哺乳動物由来の細胞としては、例えば、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、COS、ミ
エローマ、BHK、HeLa、Vero、293、NS0、Namalwa、YB2/0等を挙げることができる。
【0100】
明細書中に記載の方法又は公知の方法により得られる抗PAD4抗体やその抗原結合断片は、均一になるまで精製することができる。抗体等の分離、精製は通常のタンパク質で使用されている分離、精製方法を使用すればよい。例えばアフィニティークロマトグラフィー等のクロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、透析、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動等を適宜選択、組み合わせれば、抗体を分離、精製することができる(Antibodies:A Laboratory Manual. Ed Harlow and David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988)が、これらに限定されるものではない。アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、プロテインAカラム、プロテインGカラム、抗免疫グロブリン抗体結合カラム、抗原結合カラム等が挙げられる。例えばプロテインAカラムとして、Hyper D, POROS, Sepharose F. F.(Amersham Biosciences)等が挙げられる。
【0101】
<組成物>
本発明の一実施形態は、上記の本発明の実施形態に係る抗PAD4抗体又はその抗体断片を含む、組成物である。この組成物を用いれば、PAD4を効率的に検出できる。また、PAD4によるタンパク質のシトルリン化を効率的に抑制することができる。また、細胞におけるネトーシスを効率的に抑制することができる。また、RA若しくは関節炎、全身性エリテマトーデス、ループス腎炎、又は移植片対宿主病を予防又は治療することができる。この組成物が含有する成分は、本発明の実施形態に係る抗PAD4抗体又は抗体断片を含んでいれば、それ以外は特に限定されず、例えば、緩衝液を含んでいてもよい。この組成物に対して、後述の抑制剤及び医薬組成物に係る種々の実施形態(例えば、担体を含有可能なこと等)の1つ以上を適用してもよい。
【0102】
本発明の一実施形態は、上記の本発明の実施形態に係る抗PAD4抗体又はその抗体断片を含む、PAD4によるタンパク質のシトルリン化抑制剤である。この抑制剤を用いれば、PAD4
によるタンパク質のシトルリン化を効率的に抑制することができる。上記抑制剤によるシトルリン化活性の低下率は、20、30、40、60、80%以上であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。この低下率は、例えば、PBSを用いたときの低下率を0
%としたときの相対割合で表してもよい。本発明の一実施形態において「剤」は、例えば、研究又は治療に用いられる組成物を含む。上記抑制剤は、例えば、RA若しくは関節炎、全身性エリテマトーデス、ループス腎炎、又は移植片対宿主病の予防又は治療剤を含む。上記抑制剤は、例えば、in vitro又はin vivoで用いることができる。上記抑制剤は、上記の本発明の実施形態に係る組成物を含んでいてもよい。本発明の一実施形態は、上記の本発明の実施形態に係る抗PAD4抗体又はその抗体断片と、PAD4とを接触させる工程を含む、PAD4によるタンパク質のシトルリン化抑制方法である。本発明の一実施形態は、上記の本発明の実施形態に係る抗PAD4抗体又はその抗体断片を患者に投与する工程を含む、PAD4によるタンパク質のシトルリン化抑制方法である。上記抑制方法は、研究又は治療のために行われる抑制方法を含む。本発明の一実施形態は、PAD4によるタンパク質のシトルリン化抑制剤を生産するための、上記の本発明の実施形態に係る抗PAD4抗体又はその抗体断片の使用である。
【0103】
本発明の一実施形態は、上記の本発明の実施形態に係る抗PAD4抗体又はその抗体断片を含む、細胞におけるネトーシスの抑制剤である。この抑制剤を用いれば、PAD4による細胞におけるネトーシスを効率的に抑制することができる。上記抑制剤による細胞におけるネトーシス活性の低下率は、20、30、40、60、80%以上であってもよく、それらいずれか2
つの値の範囲内であってもよい。この低下率は、例えば、PBSを用いたときの低下率を0%としたときの相対割合で表してもよい。本発明の一実施形態において「剤」は、例えば、研究又は治療に用いられる組成物を含む。上記抑制剤は、例えば、RA若しくは関節炎、全身性エリテマトーデス、ループス腎炎、又は移植片対宿主病の予防又は治療剤を含む。上記抑制剤は、例えば、in vitro又はin vivoで用いることができる。上記抑制剤は、上記
の本発明の実施形態に係る組成物を含んでいてもよい。本発明の一実施形態は、上記の本発明の実施形態に係る抗PAD4抗体又はその抗体断片と、PAD4とを接触させる工程を含む、細胞におけるネトーシス抑制方法である。本発明の一実施形態は、上記の本発明の実施形態に係る抗PAD4抗体又はその抗体断片を患者に投与する工程を含む、細胞におけるネトーシス抑制方法である。上記抑制方法は、研究又は治療のために行われる抑制方法を含む。本発明の一実施形態は、細胞におけるネトーシス抑制剤を生産するための、上記の本発明の実施形態に係る抗PAD4抗体又はその抗体断片の使用である。
【0104】
本発明の一実施形態は、上記の本発明の実施形態に係る抗PAD4抗体又はその抗体断片を含む、医薬組成物である。この医薬組成物を用いれば、RA若しくは関節炎、全身性エリテマトーデス、ループス腎炎、又は移植片対宿主病を予防、治療、再発予防することができる。上記医薬組成物は、薬理学的に許容される1つ以上の担体を含んでいてもよい。上記
医薬組成物は、例えば、RA若しくは関節炎、全身性エリテマトーデス、ループス腎炎、又は移植片対宿主病の治療用医薬組成物、RA若しくは関節炎、全身性エリテマトーデス、ループス腎炎、又は移植片対宿主病の予防用医薬組成物を含む。上記医薬組成物は、上記の本発明の実施形態に係る組成物を含んでいてもよい。
本発明の一実施形態は、有効量の上記の本発明の実施形態に係る抗PAD4抗体又はその抗体断片(又は抗PAD4抗体又はその抗体断片を含む医薬組成物)を患者に投与する工程を含む、疾患の予防、治療又は再発予防方法である。上記疾患は、例えば、RA若しくは、関節炎、全身性エリテマトーデス、ループス腎炎、又は移植片対宿主病を含む。本発明の一実施形態は、RA若しくは関節炎、全身性エリテマトーデス、ループス腎炎、又は移植片対宿主病を予防、治療又は再発予防するための、上記の本発明の実施形態に係る抗PAD4抗体又はその抗体断片(又は抗PAD4抗体又はその抗体断片を含む医薬組成物)の使用である。
本発明の一実施形態は、RA若しくは関節炎、全身性エリテマトーデス、ループス腎炎、又は移植片対宿主病の予防剤、治療剤又は再発予防剤を生産するための、上記の本発明の
実施形態に係る抗PAD4抗体又はその抗体断片(又は抗PAD4抗体又はその抗体断片を含む医薬組成物)の使用である。
【0105】
本発明の一実施形態において「剤」は、有効成分と、薬理学的に許容される1つ以上の
担体とを含む医薬組成物であってもよい。本発明の一実施形態において「医薬組成物」は、例えば有効成分と上記担体とを混合し、製剤学の技術分野において知られる任意の方法により製造してもよい。また医薬組成物は、予防又は治療のために用いられる物であれば使用形態は限定されず、有効成分単独であってもよいし、有効成分と任意の成分との混合物であってもよい。
【0106】
医薬組成物のRAにおける治療又は/及び予防効果は、例えば、関節炎スコア、RAスコア、腫脹幅、画像診断、modified Total Sharpスコア、Disease Activity Score (DAS)、アメリカ・リウマチ協会(ACR)が作成したリウマチの活動性評価基準の達成率を表すACR20、ACR50、ACR70又は疾患マーカーにより評価してもよい。関節炎スコアで評価する場合、例えば、医薬組成物投与時の患者の関節炎スコアが、非投与時の関節炎スコアに比べて有意に減少した場合に、治療又は/及び予防効果があったと判断してもよい。又は、医薬組成物投与時の患者の関節炎スコアが、ネガティブコントロール物質投与時の患者の関節炎スコアに比べて、有意に減少した場合に、治療又は/及び予防効果があったと判断してもよい。上記減少は、例えば、10、9、8、7、6、5、4、3、2又は1点以下であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。または、医薬組成物投与時の患者の関節炎スコアのグラフ面積が、非投与時の関節炎スコアグラフ面積に比べて有意に減少した場合に、治療又は/及び予防効果があったと判断してもよい。又は、医薬組成物投与時の患者の関節炎スコアグラフ面積が、ネガティブコントロール物質投与時の患者の関節炎スコアグラフ面積に比べて、有意に減少した場合に、治療又は/及び予防効果があったと判断してもよい。上記減少は、例えば、100、90、80、70、60、50、40、30、20、10%以下であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。
【0107】
医薬組成物の全身性エリテマトーデス、ループス腎炎における治療又は/及び予防効果は、例えば、各臓器における障害、尿蛋白量、尿蛋白スコア、生存率、病理評価スコア、血中自己抗体産生量、血中補体第三および第四補体成分(C3およびC4)量または疾患マーカーにより評価してもよい。また、これらを点数化したSLE disease activity index (SLEDAI)、疾患活動性を1ヶ月前と比較する British Isles Lupus Assessment Group (BILAG) index、医師による患者の全般的な疾患活動性を評価するphysician's global assessment (PGA)、これらを総合的に評価するSLE responder index (SRI) 4等により評価してもよい。尿蛋白量で評価する場合、例えば、医薬組成物投与時の患者の尿中アルブミン量あるいはアルブミン/クレアチニン比が、非投与時に比べて有意に減少した場合に、治療又は/及び予防効果があったと判断してもよい。又は、医薬組成物投与時の患者の尿中アルブミン量あるいはアルブミン/クレアチニン比が、ネガティブコントロール物質投与時の患者の尿中アルブミン量あるいはアルブミン/クレアチニン比に比べて、有意に減少した場合に、治療又は/及び予防効果があったと判断してもよい。または、医薬組成物投与時の患者の尿中アルブミン量あるいはアルブミン/クレアチニン比のグラフ面積が、非投与時の尿中アルブミン量あるいはアルブミン/クレアチニン比グラフ面積に比べて有意に減少した場合に、治療又は/及び予防効果があったと判断してもよい。又は、医薬組成物投与時の患者の尿中アルブミン量あるいはアルブミン/クレアチニン比が、ネガティブコントロール物質投与時の患者の尿中アルブミン量あるいはアルブミン/クレアチニン比に比べて、有意に減少した場合に、治療又は/及び予防効果があったと判断してもよい。上記減少は、例えば、100、90、80、70、60、50、40、30、20、10%以下であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。
【0108】
医薬組成物の移植片対宿主病における治療又は/及び予防効果は、例えば、特徴的な臓
器所見の改善効果やステロイド減量効果などで評価する事ができる。皮膚病変では多型皮膚委縮や強皮症用硬化性病変の改善、肝病変に対しては、例えば、総ビルビリンやALP、AST、ALTの改善により評価できる。また、腎病変に対しては、例えば、尿蛋白量、尿中ア
ルブミン/クレアチニン比で評価してもよい。その場合の治療又は/及び予防効果の判定
は上記のSLEの場合と同様にすることができる。
【0109】
ここで、「患者」は、ヒト、又はヒトを除く哺乳動物(例えば、マウス、モルモット、ハムスター、ラット、ネズミ、ウサギ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、マーモセット、サル、又はチンパンジー等の1種以上)を含む。また患者は、RA若しくは
関節炎、全身性エリテマトーデス、ループス腎炎、又は移植片対宿主病を発症していると診断された患者であってもよい。また患者は、細胞におけるシトルリン化の抑制によって治療可能な疾患を発症していると診断された患者であってもよい。また患者は、細胞におけるネトーシスの抑制によって治療可能な疾患を発症していると診断された患者であってもよい。
【0110】
ここで、「治療」とは、哺乳動物、特にヒトの疾患の任意の治療を含み、疾患症状を阻害する、即ち、その進行を阻止又は疾病又は症状を消滅させること、及び疾患症状を軽減すること、即ち、疾病又は症状の後退、又は症状の進行の遅延を引き起こすことを含む。
【0111】
また、「予防」とは、哺乳動物、特にヒトにおいて、上記疾患の発症を防止することを含む。
【0112】
また、「再発予防」とは、哺乳動物、特にヒトにおいて、寛解、再発を繰り返す上記疾患の再発を防止することを含む。
【0113】
本発明の抗PAD4抗体又はその抗原結合断片、又は抗PAD4抗体又はその抗体断片を含む医薬組成物の投与形態は特に制限されず、経口投与、非経口投与(例えば静脈注射、筋肉注射、皮下投与、直腸投与、経皮投与、脳内投与、脊髄内投与、その他局所投与)のいずれかの投与経路でヒトを含む哺乳類に投与することができる。
【0114】
経口投与及び非経口投与のための剤型及びその調製方法は当業者に周知であり、本発明による抗体を、薬学的に許容される坦体等と配合することにより医薬組成物を製造することができる。
非経口投与のための剤型は、注射用製剤(例えば、点滴注射剤、静脈注射剤、筋肉注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤、脳内投与製剤、脊髄内投与製剤)、外用剤(例えば、軟膏剤、パップ剤、ローション剤)、坐剤吸入剤、眼剤、眼軟膏剤、点鼻剤、点耳剤、リポソーム剤等が挙げられる。特に、中枢神経組織に直接作用させたい場合は浸透圧ポンプの医療用マイクロポンプを利用して持続的に注入することもできるし、フィブリン糊等と混合し徐放製剤としたうえで患部組織に留置することもできる。
【0115】
例えば、注射用製剤は、通常、抗体を注射用蒸留水に溶解して調製するが、必要に応じて溶解補助剤、緩衝剤、pH調整剤、等張化剤、無痛化剤、保存剤、安定化剤等を添加することができる。また、用事調製用の凍結乾燥製剤とすることもできる。
【0116】
経口投与のための剤型は、固体又は液体の剤型、具体的には錠剤、被覆錠剤、丸剤、細粒剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤、注射剤、トローチ剤等が挙げられる。
【0117】
本発明の医薬組成物は、治療上有効な他の薬剤を更に含有していてもよく、また、必要に応じて、殺菌剤、消炎剤、ビタミン類、アミノ酸等の成分を配合することもできる。
【0118】
薬理学的に許容される担体としては、例えば固形製剤における賦形剤、滑沢剤、結合剤及び崩壊剤、あるいは液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤及び無痛化剤等が挙げられる。更に必要に応じ、通常の防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤、吸着剤、湿潤剤等の添加物を適宜、適量用いることもできる。
【0119】
本発明による抗体の投与量は、例えば、投与経路、疾患の種類、症状の程度、患者の年齢、性別、体重、疾患の重篤度、薬物動態及び毒物学的特徴等の薬理学的知見、薬物送達系の利用の有無、並びに他の薬物の組合せの一部として投与されるか、等様々な因子を元に、医師により決定されるが、通常、成人(体重60kg)あたり、経口投与では1~5000μg/日、好ましくは10~2000μg/日、さらに好ましくは50~2000μg/日を、注射投与では1~5000μg/日、好ましくは5~2000μg/日、さらに好ましくは50~2000μg/日を、1回又は数回に分けて投与することができる。全身への非経口投与では体重あたり10~100000μg/kg、より好ましくは100~50000μg/kg、さらに好ましくは500~20000μg/kgを1日、1週間、1月間に1回、又は1年間に1~7回の間隔で投与することができる。浸透圧ポンプ等を利用した局所投与では、通常、成人(体重60kg)あたり、10~100000μg/日、より好ましくは100~10000μg/日、さらに好ましくは500~5000μg/日の速度で持続注入することができる。
【実施例0120】
以下に実施例を挙げて本発明を、より具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を制限するものではない。
【0121】
<実施例1>抗PAD4抗体の化学的安定性確認
国際公開第2016/143753号に記載されたヒト化抗PAD4抗体G8のCDRを含む可変領域の化学的安定性を評価した。被験抗体G8の軽鎖及び重鎖のアミノ酸配列をコードするDNAをCMVプ口モータの下流に挿入することにより、lgGを発現する哺乳細胞用発現ベクターを構築し
た。軽鎖及び重鎖のDNA配列はそれぞれ、配列表の配列番号27、及び26を用いた。遺
伝子導入試薬ExpiFectamine CHO Transfection Kit (LifeTechnologies)を使用して、上記発現ベクターをExpiCHO(LifeTechnologies)に導入した。遺伝子導入後14日間培養し
た後に培養上清を取得した。オープンカラムを使用し、Protein A樹脂(GE Healthcare、MabSelect SuRe)を用いたアフィニティーク口マ卜グラフィにより培養上清からIgGを精
製した。Protein A樹脂に結合したIgGを6 Column VolumeのPBS(pH 7.2)により洗浄した。そしてpH 4.0のArg-Antibody Elution Buffer(Nacalai)で溶出し、すみやかに中和することでpHを中性付近にした。精製純度を高める目的で、AKTA prime plus(GE Healthcare)を使用し、Protein Aカラム精製後のIgGをCHT(ceramic hydroxyapatite Type II樹脂)(Bio-rad)にて精製した。CHTに結合したIgGをNaCI濃度のグラジエン卜で溶出し、目的のフラクションを回収後、PD-10(GE Healthcare)を使用したゲルろ過クロマトグラフィー法にてPBS(pH 7.4)に溶液置換した。被験抗体を約10 mg/mLの濃度に濃縮して、4℃あるいは37℃にて2週間保存した。
【0122】
被験抗体G8のCDRを含む可変領域の化学的安定性は液体クロマトグラフィー/質量分析
(LC-MS)を使用したペプチドマッピング分析によって評価した。被験抗体について塩酸
グアニジン(和光純薬)存在下において還元剤ジチオスレイトール(和光純薬)と37℃にて2時間反応させ還元処理を施した。アルキル化剤iodoacetamide(和光純薬)を加えて30分反応させることで、還元反応で生じたチオール基をアルキル化した。次に、反応液を脱塩カラムZeba Spin column(Thermo Fisher Scientific)を用いてバッファー交換を行い、2 mol/L urea(SIGMA)、0.1 mol/L NH4HCO3(和光純薬)、1 mmol/L CaCl2(和光純薬)、0.8 μg トリプシン(和光純薬)の条件で37℃にて一晩反応させた。得られた酵素消化物をLC-MS測定サンプルとした。
トリプシン消化により得られたペプチドを逆相クロマトグラフィー分離し、質量分析装置でMS及びMS/MSスペクトルを取得することでペプチドマッピング分析を実施した。
【0123】
LCは以下のパラメータで実施した
装置:ACQUITY UPLC(Waters)
移動相:A=0.1%ギ酸を含む超純水、B=0.1%ギ酸を含むアセトニトリル
分離方法:リニアグラジエント分離(60分間で%B=1から40)
流速:0.2 mL/min
カラム:ACQUITY UPLC Peptide BEH C18 column, 300 オングストローム, 1.7 μm, 2.1 x 150 mm (Waters)
カラムオーブンの温度:40°C
サンプル量:30 μL
検出波長:215 nm
【0124】
MS及びMS/MSは以下のパラメータで実施した。
装置:Synapt(Waters)
TOFモード:V mode
イオン化法:ESI Positive
MS測定範囲 :50-2000 Da
MS cone voltage :24 V
Scan time :0.4 s
MS/MS方式 :MSE
Trap CE voltage :Low energy 6V,High energy ramp 20-40 V
【0125】
得られた質量データをBiopharma Lynx Ver. 1.3.3(Waters)を用いて解析した。
【0126】
翻訳後修飾の割合は以下の方法にて算出した。まず、Biopharma Lynxを用いて被験抗体の配列と一致したペプチドを抽出し、MS/MSが取得できているペプチド(MS/MS b/y ion found ≧ 2)について解析を行った。検出されたすべてのペプチドのMS強度と翻訳後修飾
を含むペプチドのMS強度の割合から翻訳後修飾の割合を算出した。
【0127】
被験抗体G8の精製後4℃にて保存したサンプルと37℃にて2週間保存したサンプルについてのペプチドマッピングにより、重鎖のフレームワーク領域の84番目のアスパラギン残基と85番目のセリン残基の間で切断されたペプチドが同定された。精製後4℃にて保存した
サンプルにおいて、切断されたペプチドの割合は該当アミノ酸を含むペプチドのうち4.6%もあり、該当部位が潜在的に切断される可能性があることがわかった。また、被験抗体内の別のアスパラギン残基-セリン残基の間では切断は同定されておらず、84番目のアスパラギン残基と85番目のセリン残基の間に特異的であった。
【0128】
アスパラギン残基とセリン残基の間で切断されることから84番目のアスパラギン残基をセリン残基に置換したヒト化抗PAD4抗体G8ssを作成した。被験抗体G8ssの精製後4℃にて
保存したサンプルと40℃にて2週間保存したサンプルについてペプチドマッピングを行っ
た。その結果、どちらの保存条件においても84番目のセリン残基と85番目のセリン残基の間で切断されたペプチドは検出されなかった。以上より、ヒト化抗PAD4抗体においては、84番目がセリン残基の方がより化学的安定性が高いと考えられる。
被験抗体G8とG8ssのヒ卜PAD4タンパク質に対する結合親和性は表面プラズモン共鳴装置Biacore T200(GE Healthcare)を用いてHBS-EP+中での解離定数(KD)を測定することで決定した。Biotin Capture Kit(GE Healthcare)を用いてビオチン標識したヒ卜PAD4タ
ンパク質をセンサーチップに固定化した。HBS-EP+を用いて前記PAD4タンパク質を0.25 μ
g/mLに調製し、リガンド溶液とした。リガンド溶液をフローセルに流速10 μL/minにて30秒間添加し、その後の60秒間HBS-EP+を添加した。リガンド溶液を添加しないフローセル
をリファレンスセルとした。HBS-EP+を用いて被験抗体を数百pMから数nMに調製し、アナ
ライト溶液とした。また、ランニング緩衝液をブランク溶液とした。ブランク溶液あるいはアナライト溶液をsingle-cycle法を用いて流速30 μL/minにて180秒間添加し、解離時
間は1200秒間とした。ブランク溶液あるいはアナライト溶液を添加した際のリガンドを添加したフローセルのセンサーグラムからリファレンスセルのセンサーグラムを差し引き、さらにアナライト溶液を添加したセンサーグラムからブランク溶液を添加したセンサーグラムを差し引いたものを解析に用いた。Biacore T200 Evaluation software(GE Healthcare)を用いて、1:1結合モデルを用いて結合パラメータを算出した。被験抗体G8はヒトPAD4タンパク質に結合速度定数kon=7.70×106 (1/Ms)、解離速度定数koff=1.65×10-3 (1/s)、解離定数KD=214 pMの結合親和性で結合した。被験抗体G8ssはヒトPAD4タンパク質に結合速度定数kon=6.37×106(1/Ms)、解離速度定数koff=1.76×10-3 (1/s)、解離定数KD=276 pMの結合親和性で結合した。以上より、ヒト化抗PAD4抗体においては、84番目をセリン残基に置換してもヒトPAD4への結合親和性は変わらないことがわかった。
【0129】
<実施例2>相補性決定領域を改良するためのアミノ酸置換部位の決定
ヒト化抗ヒトPAD4抗体G8のヒトPAD4への親和性及び機能性向上を目的として、Fab(分
子形がFabであることを意味する、以下同様に表記する)ファージディスプレイによる相
補性決定領域の改良を行った。相補性決定領域の改良は2段階にて実施し、第一段階でヒトPAD4への親和性向上を狙える1アミノ酸置換を決定し、第二段階でこれらの1アミノ酸置換の複数の組合せを決定した(Fujino et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 2012 Vol. 428(3), p395)。親クローンG8の軽鎖及び重鎖可変領域を用いてFabファージディスプレイベクターを構築した。これを鋳型としたsite-directed mutagenesis PCR及びoverlap extension PCRによる多段階のPCR反応により、抗体の6つの相補性決定領域(LCDR1、LCDR2、LCDR3、HCDR1、HCDR2、HCDR3)を構成する全てのアミノ酸残基を1つずつ全20種類の天然アミノ酸に置換した、包括的1アミノ酸置換変異体ライブラリを構築した。Fabファージディスプレイ法(Fujino et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 2012 Vol. 428(3), p395)により、リコンビナントヒ卜PAD4タンパク質(ビオチン標識PAD4)をベイ卜として包括的1アミノ酸置換変異体ライブラリの濃縮を数ラウンド繰り返した。濃縮前(構築直後)のライブラリ及び濃縮後のライブラリに含まれる各クローンの軽鎖及び重鎖可変領域の塩基配列を次世代シーケンサ(Ion GeneStudio S5 System)を用いて解析した。まず、濃縮前後の各ライブラリから数百万リードの配列データを取得して、相補性決定領域における全ての1アミノ酸置換変異体の存在頻度を算出した。次に濃縮前のライブラリと濃縮後のライブラリにおける全ての1アミノ酸置換変異体の存在頻度の変化倍率(濃縮比)を算出し、ライブラリ濃縮による濃縮比の大きさを指標として、ヒ卜PAD4タンパク質に対する親和性を向上させるために有用と考えられる1アミノ酸置換を決定した。この時、抗体の物性に影響を与える可能性のある1アミノ酸置換体(リジンとアルギニン)のデータは除外した。最後にこれらの1アミノ酸置換の総数とアミノ酸配列上での分布状態を考慮し、第二段階で構築するカスタムライブラリでアミノ酸置換を導入する位置を決定した。
【0130】
親クローンG8では、LCDR2(配列表の配列番号5)の2番目のアスパラギン、LCDR3(配
列表の配列番号25)の4番目のアスパラギン酸、HCDR2(配列表の配列番号24)の11番目のチロシン、12番目のグリシン、13番目のアラニン、14番目のアラニン、15番目のバリン、17番目のグリシン、HCDR3(配列表の配列番号11)の1番目のアラニンにアミノ酸置換を導入することを決定した。
【0131】
<実施例3>相補性決定領域を改良したヒト化抗ヒトPAD4抗体の創製
まず、親和性向上を目的とした上記の有用アミノ酸置換を複数組合せることにより本格
的な相補性決定領域改良用カスタムライブラリを設計した。次にLCDR3とHCDR2にstopコドンを挿入した親クローンG8 Fabファージディスプレイのベクターを構築し、Fabファージ
ディスプレイベクターを鋳型としたクンケル法による部位特異的変異導入法(Fellouseet
al., J. Mol. Biol. 2007 Vol. 373, p924)を実施することで、相補性決定領域を上記
の設計に基づきランダム化した相補性決定領域改良用カスタムライブラリを構築した。ヒ卜PAD4タンパク質(His tag PAD4、GST-biotin-PAD4)をベイ卜として、Fabファージディスプレイによるライブラリ濃縮を数ラウンド繰り返した。PAD4はカルシウムイオンの有無で構造が変化する可能性があることから、塩化カルシウム存在下、及び非存在下でのセレクションを行い、濃縮検討を実施した。
【0132】
ベイ卜として使用した組換えタンパク質は以下のように調製した。ヒ卜PAD4(残基1か
ら残基663)はN末端側にGSTタグ-Aviタグを付加したものをpGEX-6P-1に挿入することで
発現ベクターを構築し、組換えタンパク質を調製した。発現ベクターを保有する大腸菌BL21(DE3)pLysS株をLB培地5 mLで前培養後、前培養液1 mLをLB培地50 mLに植菌し、37℃で対数増殖期(OD600=1.0)まで培養した後、100 μMのIPTGにより、18℃/200 rpmで約18時間発現培養した。回収した菌体を洗浄後、超音波破砕して溶菌し上清を回収した。上清に市販されているビオチンリガーゼ(Avidity、BirA)を4℃で約18時間反応させ、遠心分離により上清を回収した。上清中に含まれるGSTタグ-Aviタグ-ヒトPAD4はGS4B樹脂(GE Healthcare)を用いて精製し、PreScission Protease(GE Healthcare)を用いてGSTタグを切断し、AviタグーヒトPAD4を回収した。
【0133】
塩化カルシウム存在下、及び非存在下の条件で4~6ラウンド濃縮したFabライブラリに
含まれる各クローンをクローニングし、各条件からランダムに選択した384クローンの配
列を、シーケンサを用いて同定した。384クローンのFabをすべて全長抗体(ヒトIgG1/ヒ
トλ)に変換した発現用DNA断片化し、遺伝子導入試薬ExpiFectamine 293 Transfection Kits (LifeTechnologies)を使用して、上記DNAをExpi293(LifeTechnologies)に導入した。遺伝子導入後5日間培養した後に培養上清を取得した。Protein A樹脂(GE Healthcare、PreDictor MabSelect SuRe LX)を用いたアフィニティーク口マ卜グラフィにより培養上清から被験抗体(IgG)(分子形がIgGであることを意味する、以下同様に表記する)を精製した。精製後の被験抗体溶液は透析デバイス(Merck、D-Tube96 Dialyzer)を用いてPBS pH 7.4に溶液置換した。
【0134】
被験抗体について表面フラズモン共鳴(SPR)による抗原結合確認を行った。SPR実験には表面フラズモン共鳴装置Biacore T200(GE Healthcare)を用いてランニング緩衝液HBS-EP+(10 mM HEPES、150 mM NaCl、3 mM EDTA、0.05%(v/v) Surfactant P20、pH 7.4)中での被験抗体の抗原結合を確認した。Biotin Capture Kit(GE Healthcare)を用いてビオチン標識したヒ卜PAD4タンパク質をセンサーチップに固定化した。HBS-EP+を用いて前記PAD4タンパク質を4 μg/mLに調製し、リガンド溶液とした。リガンド溶液をフローセルに流速10 μL/minにて30秒間添加し、その後の60秒間HBS-EP+を添加した。リガンド溶液を添加しないフローセルをリファレンスセルとした。HBS-EP+を用いて被験抗体を10 nMに調製し、アナライト溶液とした。また、ランニング緩衝液をブランク溶液とした。ブランク溶液あるいはアナライト溶液を流速30 μL/minにて120秒間添加し、結合相のセンサーグラムを得た。次にランニング緩衝液を180秒間添加することで解離相のセンサーグラムを得た。ブランク溶液あるいはアナライト溶液を添加した際のリガンドを添加したフローセルのセンサーグラムからリファレンスセルのセンサーグラムを差し引き、さらにアナライト溶液を添加したセンサーグラムからブランク溶液を添加したセンサーグラムを差し引いたものを解析に用いた。Biacore T200 Evaluation software v3.1(GE Healthcare)を用いて、結合シグナル及び非特異吸吸着を確認した。
【0135】
相補性決定領域を改良したクローンの中からヒ卜PAD4タンパク質に対する親和性がG8と
比較して向上し、センサーチップへの非特異吸着が少ないクローン、及びG8を実施例4以
後の高次評価に進める5クローン(G8、Lib2(4R)-1-47、Lib1(6R)-1-39、Lib1(6R)-2-37、Lib2(5R)-2-25)として決定した。5クローンのCDR配列を表1に示す。5クローンのヒトPAD4に対する結合親和性を表2に示す。
被験抗体(G8、Lib2(4R)-1-47、Lib1(6R)-1-39、Lib1(6R)-2-37、Lib2(5R)-2-25)のヒトPAD4酵素阻害活性を評価した。被験抗体の終濃度が600、200、66.67、22.22、7.41、2.
47、0.82、0.27、0.09 nMになるように、ヒトPAD4(終濃度10 nM)と1 mM DTT、150 mM NaClを含む50 mM HEPES 緩衝液(pH 7.6)を混合した。37℃で1時間インキュベーション
した後、攪拌しながらBAEE(ベンゾイルアルギニンエチルエステル)を加え、さらにCaCl2を加えてよく攪拌した(BAEEの終濃度は10 mM、カルシウムイオンの終濃度は10 mM)。
この溶液を37℃で3時間インキュベーションした後、シトルリン化されたBAEEのシトルリ
ン残基を2,3-ブタンジオンモノオキシムとチオセミカルバジドを含む混合液を用いて比色定量した。
被験抗体(G8、Lib2(4R)-1-47、Lib1(6R)-1-39、Lib1(6R)-2-37、Lib2(5R)-2-25)はヒトPAD4の酵素活性を阻害し、IC50はそれぞれ21.6、9.6、8.7、13.4、8.3 nMだった。
【0136】
【表1】
【0137】
【表2】
【0138】
5クローン、G8、Lib2(4R)-1-47、Lib1(6R)-1-39、Lib1(6R)-2-37、及びLib2(5R)-2-25
)について、84番目のアスパラギンをセリンに置換し、それぞれG8ss、2-1-47、3-1-39、3-2-37、及び4-2-25とした。被験抗体(G8ss、2-1-47、3-1-39、3-2-37、4-2-25)の軽鎖及び重鎖のアミノ酸配列をコードするDNAをCMVプ口モータの下流に挿入することにより、lgGを発現する哺乳細胞用発現ベクターを構築した。各クローンの軽鎖のDNA配列はそれぞれ、配列表の配列番号27、17、19、21及び23をコードするDNA配列を用い、重
鎖のDNA配列はそれぞれ、配列表の配列番号11、及び12をコードするDNA配列を用いた。遺伝子導入試薬ExpiFectamine CHO Transfection Kit (LifeTechnologies)を使用して、上記発現ベクターをExpiCHO(LifeTechnologies)に導入した。遺伝子導入後14日間培養した後に培養上清を取得した。AKTA pure 25M(GE Healthcare)を使用し、Protein A樹脂(JSR Life Sciences、Amsphere A3 column)を用いたアフィニティーク口マ卜グラ
フィにより培養上清からIgGを精製した。Protein A樹脂に結合したIgGを6 Column Volumeの100 mM炭酸ナトリウム緩衝液 (pH 11.0)により洗浄し、次に6 Column VolumeのPBS(pH 7.2)(3×)により洗浄した。そしてpH 3. 5のGly-HCl緩衝液で溶出し、すみやかに中和することでpHを中性付近にした。精製純度を高める目的でProtein Aカラム精製後のIgGをCHT(ceramic hydroxyapatite Type I樹脂)(Bio-rad)にて精製した。CHTに結合したIgGをNaCl濃度のグラジエン卜で溶出し、目的のフラクションを回収後、透析法を用いてPBS(pH 7.4)に溶液置換した。被験抗体(G8ss、2-1-47、3-1-39、3-2-37、4-2-25)の精製後4℃にて保存したサンプルについてペプチドマッピングを行った。その結果、84番目のセリン残基と85番目のセリン残基の間で切断されたペプチドは検出されなかった。
【0139】
<実施例4>ヒトPAD4タンパク質に対する結合親和性
被験抗体(G8ss、2-1-47、3-1-39、3-2-37、4-2-25)のヒ卜PAD4タンパク質に対する結合親和性は表面プラズモン共鳴装置Biacore T200(GE Healthcare)を用いてHBS-EP+中での解離定数(KD)を測定することで決定した。Biotin Capture Kit(GE Healthcare)を
用いてビオチン標識したヒ卜PAD4タンパク質をセンサーチップに固定化した。HBS-EP+を
用いて前記PAD4タンパク質を0.5 μg/mLに調製し、リガンド溶液とした。リガンド溶液をフローセルに流速10 μL/minにて30秒間添加し、その後の60秒間HBS-EP+を添加した。リ
ガンド溶液を添加しないフローセルをリファレンスセルとした。HBS-EP+を用いて被験抗
体を数百pMから数nMに調製し、アナライト溶液とした。また、ランニング緩衝液をブランク溶液とした。ブランク溶液あるいはアナライト溶液をsingle-cycle法を用いて流速30μL/minにて180秒間添加し、解離時間は1200秒間とした。ブランク溶液あるいはアナライト溶液を添加した際のリガンドを添加したフローセルのセンサーグラムからリファレンスセルのセンサーグラムを差し引き、さらにアナライト溶液を添加したセンサーグラムからブランク溶液を添加したセンサーグラムを差し引いたものを解析に用いた。Biacore T200 Evaluation software(GE Healthcare)を用いて、1:1結合モデルを用いて結合パラメータを算出した。算出した結合パラメータを表3に示した。表3に示すように、被験抗体G8ssはヒトPAD4タンパク質に結合速度定数kon=6.15×106 (1/Ms)、解離速度定数koff=1.22×10-3 (1/s)、解離定数KD=199 pMの結合親和性で結合した。相補性決定領域を改良した抗体2-1-47、3-1-39、3-2-37、4-2-25のヒ卜PAD4タンパク質に対する解離定数は、それぞれ31、48、73、20 pMであった。
【0140】
【表3】
【0141】
<実施例5>抗体の保存安定性の評価
抗体の保存安定性の指標の一つとして抗原結合活性の保持が含まれる。抗体によって保存安定性は大きく異なることは公知であり、例えば、DiCara et al., mAbs, 2018 Vol. 10(7), p1073に教示されているものでは、4℃あるいは40℃にて保存した抗体の抗原結合能を比較しているが、40℃にて保存した抗体の相対抗原結合活性は4℃にて保存した抗体の相対抗原結合活性の30%以下から100%にわたる。
被験抗体(G8ss、2-1-47、3-1-39、3-2-37、4-2-25)の保存安定性を評価するため、被験抗体を約10 mg/mLの濃度でクエン酸緩衝液(50 mM クエン酸、150 mM NaCl、pH 6.3)
に溶解して、4℃あるいは40℃にて4週間保存した。
保存後の抗原結合能の有無を調べるため、表面フラズモン共鳴装置Biacore T200(GE Healthcare)を用いた抗原結合活性測定を行った。凍結保存した被験抗体,4℃あるいは40℃にて4週間保存した被験抗体をランニング緩衝液HBS-EP+を用いて10 μg/mLに調製した。Series S Sensorchip Protein A(GE Healthcare)を用いてフローセル2に被験抗体溶液を流速10 μL/minにて60秒間添加し、センサーチップに固定化した。フローセル1はリファレンスセルとした。フローセル2の被験抗体添加終了後の55秒後の結合量をフローセル1の結合量から差し引きし、抗体結合量とした。次に、ヒ卜PAD4(Cayman Chemical company、Cat. 10500)をHBS-EP+を用いて50 nMに調製し、アナライト溶液とした。アナライト溶液を流速30 μL/minにて120秒間添加して結合相のセンサーグラムを得た。フローセル2のアナライト溶液添加終了の5秒前の結合量をフローセル1の結合量から差し引きし、抗原結合量とした。続いてランニング緩衝液を180秒間添加することで解離相のセンサーグラムを得た。測定は25℃にて行った。抗体結合量及び抗原結合量はデータ解析フログラム(GE Healthcare、Biacore T200 Evaluation Software v3.1)を用いて算出し、各条件での抗原結合量を抗体結合量で除算し相対抗原結合量とした。凍結保存した被験抗体の相対抗原結合量と4℃にて保存した被験抗体の相対抗原結合量は変わらなかった。4℃・4週間保存した各種被験抗体の相対抗原結合量と40℃・4週間保存した被験抗体の相対抗原結合量を比較し、抗原結合活性とした。
表4に示すように、G8ssでは40℃・4週間保存後の抗原結合活性は82.2%だった。2-1-47、3-1-39、3-2-37、4-2-25では、40℃・4週間保存後において、90%以上の抗原結合活性を保持していた。例えば、Pisupati et al., mAbs, 2017 Vol. 9(7), p1197に教示されているように、抗体医薬品レミケード(登録商標)では40℃にて1か月保管しても抗原結合活性は80%以上保持される。また、抗体の生物活性の安定性としては、抗体製剤調製時における抗体の生物活性と比較して、80%以上、好ましくは90%以上の生物活性を保持することが望ましい(例えば、国際公開公報WO2003/018056を参照)。以上より、被験抗体G8ss、2-1-47、3-1-39、3-2-37、4-2-25についており、良好な保存安定性が観察された。
【0142】
【表4】
【0143】
<実施例6>in vitroでのヒトPAD4の酵素阻害活性の評価
被験抗体(G8ss、3-2-37、3-1-39、4-2-25、2-1-47)のヒトPAD4酵素阻害活性を評価した。被験抗体の終濃度が600、200、66.67、22.22、7.41、2.47、0.82、0.27、0.09 nMに
なるように、ヒトPAD4(終濃度10 nM)と1 mM EDTA、1 mM DTT、150 mM NaClを含む50 mM
HEPES 緩衝液(pH 7.4)を混合した。37℃で1時間インキュベーションした後、攪拌しながらBAEE(ベンゾイルアルギニンエチルエステル)を加え、さらにCaCl2を加えてよく攪
拌した(BAEEの終濃度は10 mM、カルシウムイオンの終濃度は10 mM)。この溶液を37℃で3時間インキュベーションした後、シトルリン化されたBAEEのシトルリン残基を2,3-ブタ
ンジオンモノオキシムとチオセミカルバジドを含む混合液を用いて比色定量した。
被験抗体(G8ss、3-2-37、3-1-39、4-2-25、2-1-47)はヒトPAD4の酵素活性を阻害し、IC50はそれぞれ20.3、15.3、8.8、7.6、12.2 nMだった。
【0144】
<実施例7>CAIAモデル
抗コラーゲン抗体誘導関節炎(CAIA)モデルマウスを用いて、被験抗体G8ss、2-1-47、3-1-39、3-2-37、4-2-25の薬効評価を行った。CAIAモデルマウスは、関節リウマチ(RA)及び関節炎のモデルマウスである。CAIAモデルマウスの作製方法はマウス関節炎惹起用抗体カクテル(Chondrex Inc., Cat. 53040)のプロトコルに従った。実験条件の概要を図
1に示す。0日目に、9週齢の雌Balb/cマウス(6マウス/群)の尾静脈に、抗コラーゲン抗体混合液(1.5 mg)を静脈内投与した。3日目に、25 μg LPS(炎症を誘発する物質)を
腹膜内投与した。3日目のLPS投与4時間前に被験抗体、又は対照抗体(ヒトIgG1)を静脈
内投与(15 mg/kg)した。3-10日に、関節炎スコアを以下の(i)~(iii)に従い評価した。(i)評価部位を四肢の各指、甲、関節とした。(ii)関節炎スコアは表5に従って付けた。(iii)関節炎スコアは四肢の各指、甲、関節の合計値の平均で示した(最大値は16/マウス
)。関節炎スコアの評価結果を図1に示す。この結果からわかるように、すべての被験抗体は高いRA治療効果を有していた。
【0145】
【表5】
【0146】
<実施例8>CIAモデル
コラーゲン誘導関節炎(CIA)モデルマウスを用いて、被験抗体3-2-37の薬効評価を行
った。CIAモデルマウスは、5-7週齢の雌DBA/1マウスにウシタイプIIコラーゲンとフロイ
ントアジュバントを初日,および初回免疫から21日後の2回にわたって免疫することで作
製した。初回免疫から29日後、関節炎を発症したマウスに被験抗体を0.3 mg/kg、1 mg/kg、または3 mg/kgの用量で尾静脈内に投与した(各群9匹)。初回免疫から36日後、および43日後にも3-2-37を同量投与した。関節炎スコアを以下の(i)~(iii)に従い評価した。(i)評価部位を四肢の各指、甲、関節とした。(ii)関節炎スコアは表6に従って付けた。(iii)関節炎スコアは四肢の各指、甲、関節の合計値の平均で示した(最大値は16/マウス)。関節炎スコアの評価結果を図2に示す。この結果からわかるように、3-2-37は今回設定したいずれの用量でも試験後半で対照抗体投与群に対して関節炎スコア平均を有意に低下させた(Shirley-Williams の多重比較検定、*p<0.025, **p<0.005)。
【0147】
【表6】
【0148】
<実施例9>cGvHDモデル
慢性移植片対宿主病(cGvHD)モデルマウスを用いて、被験抗体3-2-37の薬効評価を行
った。cGvHDモデルマウスは、8週齢の雌B6D2F1マウスに8-9週齢の雌DBA/2マウスの脾細胞を移入することで作製した。このマウスはSLE患者で生じるループス腎炎様の腎障害をき
たす。脾細胞移入の前日、2週間後、4週間後、および6週間後に被験抗体を3 mg/kg、または30 mg/kgの用量で腹腔内に投与した(各群13匹)。脾細胞移入の2週間後から8週間後まで、週1回の頻度でマウスの下腹部を圧迫して採尿し、尿中のタンパク濃度とクレアチニ
ン濃度を測定した。脾細胞移入の8週間後の尿タンパク濃度を表7に従ってスコア付けし
た。尿タンパクスコアの評価結果を図3に示す。この結果からわかるように、被験抗体3-2-37の30 mg/kg投与群で対照抗体投与群に対して尿タンパクスコアの有意な減少が認められた(Shirley-Williams の多重比較検定、*p<0.025)。また、尿中のタンパク/クレアチニン比が3未満(Pro/Cre<3)を未発症個体と定義し、被験抗体3-2-37の30 mg/kg投与群と対照抗体投与群の未発症率を経時的にグラフ化した結果を図4に示す。被験抗体投与群の未発症期間の中央値は7週間だったのに対して対照抗体投与群の未発症期間の中央値は4週間であり,被験抗体投与群で有意な未発症期間の延長が認められた(LogRank検定、p<0.05)。
【0149】
【表7】
【0150】
<配列表の説明>
配列番号1 :抗PAD4抗体のHCDR1のアミノ酸配列
配列番号2 :抗PAD4抗体のHCDR2のアミノ酸配列(混合配列)
配列番号3 :抗PAD4抗体のHCDR3のアミノ酸配列(混合配列)
配列番号4 :抗PAD4抗体のLCDR1のアミノ酸配列
配列番号5 :抗PAD4抗体のLCDR2のアミノ酸配列
配列番号6 :抗PAD4抗体のLCDR3のアミノ酸配列(混合配列)
配列番号7 :抗PAD4抗体Lib2(4R)-1-47, 2-1-47のHCDR2のアミノ酸配列
配列番号8 :抗PAD4抗体Lib1(6R)-1-39, 3-1-39のHCDR2のアミノ酸配列
配列番号9 :抗PAD4抗体Lib1(6R)-2-37, 3-2-37のHCDR2のアミノ酸配列
配列番号10:抗PAD4抗体Lib2(5R)-2-25, 4-2-25のHCDR2のアミノ酸配列
配列番号11:抗PAD4抗体G8, G8ss, Lib2(4R)-1-47, 2-1-47, Lib1(6R)-1-39, 3-1-39, Lib2(5R)-2-25, 4-2-25のHCDR3のアミノ酸配列
配列番号12:抗PAD4抗体Lib1(6R)-2-37, 3-2-37のHCDR3のアミノ酸配列
配列番号13:抗PAD4抗体Lib2(4R)-1-47, 2-1-47, Lib1(6R)-1-39, 3-1-39のLCDR3の
アミノ酸配列
配列番号14:抗PAD4抗体Lib1(6R)-2-37, 3-2-37のLCDR3のアミノ酸配列
配列番号15:抗PAD4抗体Lib2(5R)-2-25, 4-2-25のLCDR3のアミノ酸配列
配列番号16:抗PAD4抗体2-1-47の重鎖全長のアミノ酸配列
配列番号17:抗PAD4抗体Lib2(4R)-1-47, 2-1-47の軽鎖全長のアミノ酸配列
配列番号18:抗PAD4抗体3-1-39の重鎖全長のアミノ酸配列
配列番号19:抗PAD4抗体Lib1(6R)-1-39, 3-1-39の軽鎖全長のアミノ酸配列
配列番号20:抗PAD4抗体3-2-37の重鎖全長のアミノ酸配列
配列番号21:抗PAD4抗体Lib1(6R)-2-37, 3-2-37の軽鎖全長のアミノ酸配列
配列番号22:抗PAD4抗体4-2-25の重鎖全長のアミノ酸配列
配列番号23:抗PAD4抗体Lib2(5R)-2-25, 4-2-25の軽鎖全長のアミノ酸配列
配列番号24:抗PAD4抗体G8, G8ssのHCDR2のアミノ酸配列
配列番号25:抗PAD4抗体G8, G8ssのLCDR3のアミノ酸配列
配列番号26:抗PAD4抗体G8の重鎖全長のアミノ酸配列
配列番号27:抗PAD4抗体G8, G8ssの軽鎖全長のアミノ酸配列
配列番号28:抗PAD4抗体G8ssの重鎖全長のアミノ酸配列
配列番号29:PAD4のアミノ酸配列
配列番号30:抗PAD4抗体G8の重鎖全長をコードする塩基配列
配列番号31:抗PAD4抗体G8, G8ssの軽鎖全長をコードする塩基配列
配列番号32:抗PAD4抗体2-1-47の重鎖全長をコードする塩基配列
配列番号33:抗PAD4抗体2-1-47の軽鎖全長をコードする塩基配列
配列番号34:抗PAD4抗体3-1-39の重鎖全長をコードする塩基配列
配列番号35:抗PAD4抗体3-1-39の軽鎖全長をコードする塩基配列
配列番号36:抗PAD4抗体3-2-37の重鎖全長をコードする塩基配列
配列番号37:抗PAD4抗体3-2-37の軽鎖全長をコードする塩基配列
配列番号38:抗PAD4抗体4-2-25の重鎖全長をコードする塩基配列
配列番号39:抗PAD4抗体4-2-25の軽鎖全長をコードする塩基配列
配列番号40:抗PAD4抗体G8ssの重鎖全長をコードする塩基配列
【産業上の利用可能性】
【0151】
本発明は、RA若しくは関節炎、全身性エリテマトーデス、ループス腎炎、又は移植片対宿主病の予防若しくは治療に有用であり、医薬品産業において高い利用価値を有する。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
2024028198000001.xml